米国のメキシコ湾岸向け原油パイプラインに関する …JPEC レポート 1...

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JPEC レポート 1 平成 25 12 4 米国のメキシコ湾岸向け原油パイプラインに関する最新状況 米国内陸部の原油生産増加に伴い、パイ プライン(以下、 PL)や鉄道等の輸送手段 への関心も高まっている。米国内で原油生 産量が急激に増加しているノースダコタ 州やテキサス州西部等は、製油所が集まる 沿岸部(メキシコ湾岸、太平洋岸、大西洋 岸)から離れているため、生産者側にとっ ても消費者側にとっても輸送インフラの 整備は重要である。本レポートでは最近の メキシコ湾岸向け原油 PL 関連動向を取り 上げる。 1. 最近の米国内の原油需給バランスと原油市況動向 1.1. STEO11 月の米国原油需給データ エネルギー情報局( EIA)は、毎月発表する短期見通し Short Term Energy Outlook STEO)の 11 月発表では、 2014 年も 2013 年同様に米国原油生産が前年比 100 バレル / 日(以下、 BD)の増加となり、原油輸入が減少する見通しを示している。 1:201214 年の米国原油生産・輸入・処理量見通し( 11 STEO データ抜粋) 2012年 2013年 2014年 6.50 7.49 8.49 アラスカ 0.53 0.51 0.47 メキシコ湾岸(連邦政府管轄) 1.27 1.25 1.35 米国本土(除くメキシコ湾岸) 4.71 5.73 6.67 8.46 7.51 6.54 15.00 15.18 15.22 原油生産量(単位:百万バレル/日) 原油輸入量(単位:百万バレル/日) 原油処理量(単位:百万バレル/日) 1 中、「米国本土」に含まれるのが、ノースダコタ州にあるバッケンシェールや テキサス州西部にあるイーグルフォードシェール、パーミアン盆地の開発による原油 生産増である。 EIA 2013 11 15 日付けレポート( Today in Energy )によれば、 バッケンシェールの原油生産量は 12 月に 100 BD に到達する見通しだ。 なお同じく EIA データによれば、原油輸入量に占めるカナダ産原油の数量は 2012 年で約 243 BD2013 年以降の月間輸入量は 250 BD を上回ることがしばしばで あり、カナダ産原油の米国向け輸入量も増加中である。 2013 年度 2 20 0 1. 最近の米国内の原油需給バランスと原油市況動向 1.1. STEO11 月の米国原油需給データ 1.2. WTI- ブレント市況格差の推移 2. メキシコ湾岸地域の輸送インフラに関する状況 2.1. クッシングとメキシコ湾岸を結ぶ PL の状況 2.2. テキサス州西部とメキシコ湾岸を結ぶ PL 計画の状況 2.3. ヒューストン・ポートアーサー地区の原油貯蔵設備と HO-HO PL 計画 2.4. 北部原油生産地域とクッシングを結ぶPL 計画の状況 3. まとめ 3.1. 米国原油需給・市況動向 3.2. 米国産原油処理に向けた米国石油精製企業の動向 3.3. 国際原油市場への影響

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JPEC レポート

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平成25年12月4日

米国のメキシコ湾岸向け原油パイプラインに関する最新状況

米国内陸部の原油生産増加に伴い、パイ

プライン(以下、PL)や鉄道等の輸送手段

への関心も高まっている。米国内で原油生

産量が急激に増加しているノースダコタ

州やテキサス州西部等は、製油所が集まる

沿岸部(メキシコ湾岸、太平洋岸、大西洋

岸)から離れているため、生産者側にとっ

ても消費者側にとっても輸送インフラの

整備は重要である。本レポートでは 近の

メキシコ湾岸向け原油PL 関連動向を取り

上げる。

1. 近の米国内の原油需給バランスと原油市況動向

1.1. STEO11月の米国原油需給データ

エネルギー情報局(EIA)は、毎月発表する短期見通しShort Term Energy Outlook

(STEO)の 11 月発表では、2014 年も 2013 年同様に米国原油生産が前年比 100 万

バレル/日(以下、BD)の増加となり、原油輸入が減少する見通しを示している。

表1:2012~14年の米国原油生産・輸入・処理量見通し(11月STEOデータ抜粋)

2012年 2013年 2014年6.50 7.49 8.49

アラスカ 0.53 0.51 0.47メキシコ湾岸(連邦政府管轄) 1.27 1.25 1.35米国本土(除くメキシコ湾岸) 4.71 5.73 6.67

8.46 7.51 6.5415.00 15.18 15.22

原油生産量(単位:百万バレル/日)

原油輸入量(単位:百万バレル/日)原油処理量(単位:百万バレル/日)

表 1 中、「米国本土」に含まれるのが、ノースダコタ州にあるバッケンシェールや

テキサス州西部にあるイーグルフォードシェール、パーミアン盆地の開発による原油

生産増である。EIAの2013年11月15日付けレポート(Today in Energy)によれば、

バッケンシェールの原油生産量は12月に100万BDに到達する見通しだ。

なお同じく EIA データによれば、原油輸入量に占めるカナダ産原油の数量は 2012

年で約243万BD、2013年以降の月間輸入量は250万BDを上回ることがしばしばで

あり、カナダ産原油の米国向け輸入量も増加中である。

JJJPPPEEECCC レレレポポポーーートトト 2013 年度 第第 2200 回回

1. 最近の米国内の原油需給バランスと原油市況動向 1.1. STEO11 月の米国原油需給データ 1.2. WTI-ブレント市況格差の推移

2. メキシコ湾岸地域の輸送インフラに関する状況 2.1. クッシングとメキシコ湾岸を結ぶ PL の状況 2.2. テキサス州西部とメキシコ湾岸を結ぶ PL 計画の状況

2.3. ヒューストン・ポートアーサー地区の原油貯蔵設備と

HO-HO PL 計画 2.4. 北部原油生産地域とクッシングを結ぶPL計画の状況

3. まとめ 3.1. 米国原油需給・市況動向 3.2. 米国産原油処理に向けた米国石油精製企業の動向 3.3. 国際原油市場への影響

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1.1. WTI-ブレント市況格差の推移

毎年7月にEIAが発表するRefining Capacity Reportによれば2013年1月1日時

点の1日当たりの米国原油処理能力は、前年比50万バレル増加しており、2012年の

米国製油所稼働の好調さを示している。主な要因には、米国原油指標のWTI原油価格

が2011年以降、国際原油指標価格であるブレント原油価格を大幅に下回って推移し、

原油調達コストが抑えられてきたことが挙げられる。

しかし、このWTI-ブレント市況格差は2013 年に入ると縮小し始め、特に2013 年

第2四半期以降、WTI値付けのベースとなるオクラホマ州クッシングの原油在庫(図

2)の急激な下落に連れ、同市況格差(図 1 の緑線)は大幅に縮小した。米国石油精

製業界各社が当該四半期決算において収益減少を発表した際、原油調達コスト増は主

な要因に挙げられた。

図1:2010年以降のWTI、ブレント市況推移(出所:EIAホームページ)

図2:クッシング週間在庫の推移(出所:EIAホームページ)

(青線が直近1年間の在庫。他の5本の線は直近5年間の在庫実績)

EIAは2013年上期に発生したWTI-ブレント格差縮小について、2013年8月5日

付けレポート(Today in Energy)で取り上げ、要因の一つとして米国内新規輸送イ

ンフラのサービス開始を挙げた(他は高い製油所稼働率、軽質原油輸入の減少)。

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なお、その後は図1・2からも明らかなようにクッシング在庫が増加し、WTI-ブレ

ント格差も再び拡大するなど、2013年以降の動きは激しくなっている。

以下では、米国内原油需給動向を通じて米国石油精製業の経営環境にも大きな影

響を与える輸送インフラに関し、メキシコ湾岸向け原油輸送PLに関する動向を中心

に 近の動向を記載する。

2. メキシコ湾岸地域の輸送インフラに関する状況

2.1. クッシングとメキシコ湾岸を結ぶPLの状況

WTI市況値付けのベースとなるクッシング原油在庫は、2012年3月から2013年7

月末にかけて4千万バレルを上回り、高いレベルで推移してきたが、 近はメキシコ

湾岸向けに払い出すPL 計画に進捗が見られ、図 2 の青線が示すとおり在庫レベルが

下がりつつある。

(丸数字の記載があるものは、以下の個別の説明で引用。テキサス州周辺 PL に関す

る地図は図4参照。)

図3:主要原油パイプライン地図(出所:JBC Energy)

表2 : 主なクッシング⇒メキシコ湾岸PL計画(各社HP等から抜粋)

企業 輸送能力 始点 終点 状況

①SeawayPL

Enterprise/Embridge

(最終的に)85万BD

クッシング フリーポート(テキサス州)

40万BDで稼働中。2014年中に45万BD増強し、85万BDとなる計画

②Gulf CoastProject

TransCanada 70万BD (同上)ネダーランド(テキサス州)

2013年中に稼働開始の見通し

③ TrunklineEmbridge/Energy Transfer

40万BD Patoka(イリノイ州)

セントジェームス(ルイジアナ州)

2015年後半以降に開通する計画

PL名

⑪Franagan South PL: Speardhead に並行 して建設される計画

③Trunkline PL PakotaからSt. Jamesに原

油 を 輸 送 。 ( シ ェ ル の

Capline とは別の計画)

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① シーウェイPL(図3の桃色線)

従来、メキシコ湾岸から中西部に原油を供給してきた既存PL の逆送が、2012 年

11月に開始された。当初輸送能力は15万BDだったが、2013年1月に終了した増

強工事により輸送能力は40万BDとなった。

オペレーション上の制約により輸送能力をフルに生かし切れていない状況が報道

されてきたが、EIAは、2013年10月30日付けThis Week In Petroleumにおいて、

クッシングに在庫された重質原油輸送に効果を発揮しており、ヒューストン(テキ

サス州)およびニューオーリンズ(ルイジアナ州)の重質原油輸入量減少に貢献し

ているとの分析を示した。

並行する新PL(輸送能力45万BD)が計画されており、2014年中頃にサービス

開始予定の計画である。

② ガルフコーストプロジェクト(図3の黄色点線)

トランスカナダが計画するキーストーンXLプロジェクトのうち、クッシングとヒ

ューストンを結ぶ部分のPL計画で、輸送能力は70万BD。2013年末までの操業開

始が、2013年10月に同社から発表された。

③ トランクラインプロジェクト

エナジー・トランスファー・パートナーズ社(ETP)が所有する天然ガスPLの逆

送計画で、同社とエンブリッジの折半出資によるプロジェクト。イリノイ州Patoka

のターミナルに貯蔵された原油をルイジアナ州セントジェームズに輸送する。(図3

で緑太線表示のCapline PLを概ね逆送するルート)

2013年11月初旬、顧客が集まらないことによる計画の延期と、2015年後半から

2016年早期にサービス開始を計画していることがETPから発表された。

2.2. テキサス州西部とメキシコ湾岸を結ぶPL計画の状況

原油生産が豊富なイーグルフォードシェール(テキサス州鉄道委員会発表による

2013 年 1-8 月の原油生産量は約 64 万BD、コンデンセート生産量は 18 万BD)、パ

ーミアン盆地(同、原油生産量は約92万BD)を擁するテキサス州西部からもメキシ

コ湾岸の製油所向けPL計画が複数存在する。

表3 主なテキサス州西部⇒メキシコ湾岸PL計画(各社HP等から抜粋) 企業名 輸送能力 始点(テキサス州) 終点 状況

④ Longhorn Magellan 22.5万BD

Crane ヒューストン(テキサス州)

稼働中、2014年中頃迄に5万BD増強予定

⑤ Bridge Tex Magellan /Occidental

30万BD Colorado City ヒューストン(テキサス州)

2014年中頃稼働開始予定

Permian ExpressPhase 1

15万BD Wichita Falls ネダーランド/ボーモント

(ポートアーサー近郊)9万BDで稼働中。2013年中に15万BD

Permian ExpressPhase 2

20万BD Midland, GardenCity, Colorado City

(メキシコ湾岸の他の PLと接続)

2014年第2四半期稼働開始予定

- West Texas Gulf 11万BD Colorado City ネダーランド他(ポートアーサー近郊)

稼働中

SunocoLogistics

PL名

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図4 テキサス州周辺パイプライン地図(出所:Wall Street Journalホームページ)

④ ロングホーンPL(図4の①)

マゼラン社が、安価なテキサス州西部産原油をヒューストン地区製油所向けに供

給するため2013年4月に既存PLを逆送させた。輸送開始後、輸送能力を上回る需

要が見込まれるため、55 百万ドルを投資し2014 年中頃迄に輸送能力を5 万BD 増

強する計画が発表された。

⑤ ブリッジテックスPL(図4の②)

2014 年第2 四半期までに操業開始予定。輸送能力30 万BD で、パーミアン盆地

産原油をヒューストン地域の製油所に供給するPL計画。

⑥ パーミアンエクスプレスPL(図4の④がフェーズ1、③がフェーズ2)

2 フェーズで進行中。第 1 フェーズは、ポートアーサー近郊のネダーランドに向

かう輸送能力 15 万BD のPL で、2013 年 6 月に 9 万BD の輸送能力でサービスを

開始し、2013年中にフル稼働となる計画。

第2フェーズは2014年第2四半期までに、更に20万バレル/日を輸送する計画で

あり、第1フェーズと合わせ35万バレル/日の輸送能力となる。

2.3. ヒューストン・ポートアーサー地区の原油貯蔵設備とHO-HOパイプライン計画

既述のとおり、メキシコ湾岸の製油所群の中央に位置するヒューストン・ポートア

ーサー地区には、クッシングを通じてノースダコタ州産原油やカナダ西部産原油を、

またテキサス州西部産原油を輸送するPL計画が着々と進行中である。

こうして PL による北米産原油の輸送量が増加し、同地区への原油集積量が増加す

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る中、同地区の原油貯蔵ターミナルの能力、更に同地区に輸送された原油を、更にメ

キシコ湾岸の東側にある製油所群に輸送するためのPL計画もある。

図5 メキシコ湾岸製油所地図(出所:MUSE STANCIL、2012年10月作成資料)

⑦ Oiltanking Partners(OTP)のヒューストン港貯蔵ターミナル

ヒューストン港では、OTPの原油ターミナルで貯蔵能力の増強計画が進行中であ

る。

図6 OTPヒューストンターミナル図(出所:OTPホームページ)

本ターミナルでは原油貯蔵能力を、2013年末までに+320万バレル、2014年末ま

でに+330 万バレル増強する計画で、2013 年末時点の貯蔵能力は 1,600 万バレル、

ヒューストン、 ポートアーサー

レイク チャールズ

セント ジェームズ

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2014年末時点には2,000万バレルとなる計画である。

図 6 のとおり、イーグルフォードシェール、パーミアン盆地、クッシングからヒ

ューストンに原油を輸送する複数の PL と接続している他、ヒューストン地区の 4

件の製油所(バレロ、ライオンデル、PRSI(Pasadena Refining System, Inc. ペト

ロブラス出資比率50%)、シェルのDeer Park、原油処理能力合計85万バレル/日)、

エクソンモービルのベイタウン製油所(原油処理能力56万バレル/日)、テキサスシ

ティの3件の製油所(BP、マラソン、バレロ、原油処理能力合計79万バレル/日)

に接続されている。

⑧ Sunoco Logistic Partners LP社(以下、スノコ)のネダーランドターミナル

スノコ社(2012年4月末にETPにより買収)は、ヒューストンの東方約90マイ

ル(約140km)のポートアーサー近郊にあるネダーランドにターミナル(貯蔵能力

は約22百万バレル)を所有している。

同ターミナルは、スノコが所有し、主にパーミアン盆地産原油を輸送するパーミ

アンエクスプレスPLフェーズ1やウェスト・テキサス・ガルフPLに接続されてい

る他、鉄道や船舶からの原油荷卸設備も所有している。

近隣のボーモントやポートアーサーにある製油所のうち、エクソンモービルのボ

ーモント製油所(原油処理能力36.5万BD)、バレロ(同31万BD)、トタルのポー

トアーサー製油所(同 17.4 万BD)、シェル・サウジアラムコ合弁のMotiva 製油所

(同60万BD)に接続している。

図7 : ポートアーサー近郊地図(出所:Googleマップに加筆)

Port Neches

ヒューストン

レイク

チャールズ

ニューオーリンズ

ネダーランド ターミナル

メキシコ湾

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⑨ ⑨シェルのHouma-to-Houston(Ho-Ho)PL逆送計画

同PLは、ルイジアナ州ネダーランドに隣接するPort Neches(位置については図

7参照)を経由してヒューストンに到達し、メキシコ湾で生産または輸入された原油

をヒューストンの製油所に供給するために使用されてきた。

しかし、既述のとおりヒューストンにはテキサス州西部やクッシング等から北米

産原油が大量に供給される見通しとなる中、シェルは同PLを逆送させ、メキシコ湾

岸の東側にある製油所向け原油供給のために使用することとした。

ヒューストンからPort Nechesまでの区間は(輸送能力25万BD)は既に開通し、

Port NechesからHoumaまでの区間(輸送能力36万BD)は2013年11月に開通

する計画で進められている。

図8 : メキシコ湾岸におけるシェルのPL地図(出所:同社ホームページ)

2.4. 北部原油生産地域とクッシングを結ぶPL計画の状況

クッシング原油在庫を払出すPL計画については、シーウェイPL増強やガルフコー

ストプロジェクトの完成により、今後1年以内に110万BDの輸送能力増強が見込ま

れる状況であることは、既に2.1項で触れたとおりである。

一方、ノースダコタ州や(10 月 15 日の同州鉱物資源局発表によれば、2013 年 8

月の生産量は、前年比3割増しの91万BD)やカナダ西部での原油生産も増加してお

り、こうした原油をクッシングへ輸送するPL計画も進行中である。

⑩ トランスカナダのキーストーンXL PL計画(図3の黄色破線)

カナダ・アルバータ州からネブラスカ州スティールシティに原油を輸送する同計

画(輸送能力 83 万 BD、内 10 万 BD はバッケンシェールオイル等の軽質原油を輸

送)は、2013年9月で同社が米国国務省に初めて申請してから丸5年が経過したが、

引続き膠着した状況が続いている。

当初問題になったネブラスカ州通過ルートについては、同州政府と同社の協議に

より策定された代替ルートが2013年1月に同州政府に承認され、現在は国務省によ

る環境影響評価が行われている。

2013年6月にオバマ大統領が行った演説では、本計画の実施によりGHG排出量

Capline PL イリノイ州Patoka に至る

Ho-Ho PL

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が総合的な観点から増加しないことが米国政府による本計画承認の条件とされてお

り、カナダオイルサンド開発を巡る GHG 排出の評価を巡り、賛成派・反対派が双

方の主張を続けている状況である。2013年11月、トランスカナダ社は同PL開通予

定を当初予定から後送りし、2016年とした。

⑪ EnbridgeのFranagan South PL計画

イリノイ州シカゴ南西約100マイル(約160km)にあるフラナガンターミナルに

貯蔵された原油をオクラホマ州クッシングに輸送する輸送能力60万BDのPL計画

である。

図3に紫線で表示された同社原油輸送パイプライン網のうちSpearhead PL(図3

の紫細線)に並走して建設される計画で、サービス開始時期は2014年中頃に予定さ

れている。2本のPLによる輸送能力が 大80万BDとなる計画が発表されている。

図6 : Enbridgeの PL地図(出所:同社ホームページ)

⑫ Talgrass EnergyのPony Express PL計画

本計画は既存天然ガスPLの逆送(図7の赤実線部分)と新設PL(図7の赤点線

部分)によりバッケンシェールや、開発が進むロッキー山脈で生産された原油をク

ッシングに輸送するPL 計画(輸送能力35 万BD)。2014 年第3 四半期のサービス

開始が予定されている。

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図7 Pony Express PL地図(出所:キンダーモルガンホームページ)

3. まとめ

本レポートではクッシングおよびテキサス州西部からメキシコ湾岸向けに原油を輸

送するPL計画を中心に取り上げたが、いずれのルートも2014年中に複数のPL開通

による北米産原油の輸送能力増強が計画されている。北米の内陸部で増産されている

原油が、メキシコ湾岸に集積されようとしている様子が伺える。

3.1. 米国原油需給・市況動向

本レポートの冒頭で、2013 年 6 月末以降、10 月初旬にかけて続いたクッシング

在庫下落にあわせ、WTI-ブレント格差の縮小、米国石油精製業界の収益減少といっ

た現象が起こったことにについて触れた。

これとは対照的にメキシコ湾岸を含むPADD3地区の原油在庫は8月中旬から増加

傾向にあったこともEIAデータは示している(図8)。10月25日時点の週間在庫は

1億97百万バレルまで増加したが、これは2009年4月末以来の高さである。

図8 PADD3地区週間在庫の推移(出所:EIAホームページ)

(青線が直近1年間の在庫。他の5本の線は直近5年間の在庫実績)

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こうした状況においてEIAの10月30日付けThis Week In Petroleumは、メキシ

コ湾岸で指標価格として使用されるルイジアナ・ライト・スイート原油(LLS)の価

格が、10 月末時点でブレント市況対比▲11 ドル/バレルのディスカウントとなった

ことを取り上げた。LLS-ブレント格差は従来、若干のプレミアムで推移してきた。

パイプラインを始めとする輸送インフラ発達により、クッシング原油在庫の余剰

が緩和される方向にある一方、原油在庫余剰はメキシコ湾岸にシフトし、引続き米

国原油市況の軟化要因として作用していくとの見方もある。

2013 年 10 月は定修影響で米国内製油所稼働が低調だったこともメキシコ湾岸で

原油在庫の増加が進んだ一因であるが、2014 年開通予定のPL 計画が複数あり、メ

キシコ湾岸向け原油輸送量が更に増加する見通しの中、原油処理能力の増強がなけ

れば、当該地区の原油需給が余剰気味に推移するとの見通しは理解できる。

バレロのCEO、Bill Klesse氏は2013 年第3 四半期決算発表において、米国やカ

ナダで生産される原油市況が、第 4 四半期以降、国際原油市況対比のディスカウン

ト幅を拡大していることに言及している。冒頭に紹介した EIA の 11 月 STEO は、

WTI-ブレント格差の見通しを、2013 年第 4 四半期が 10 ドル/バレル、2014 年は 8

ドル/バレルとした。米国内原油市況の国際原油市況対比ディスカウントが続くこと

は、今後も米国石油精製企業にとって有利な環境を提供すると考えられる。

3.2. 米国産原油処理向けた米国石油精製企業の動向

米国内石油精製企業の中ではバレロが米国産原油の積極的な活用に向けた取組を続

けていることが知られる。

バレロはコスト競争力のある米国産軽質原油処理量を増強するため、2015年後半に

操業開始の予定で、ヒューストン製油所で 9 万 BD、コーパスクリスティ製油所で 7 万 BD

の軽質原油処理用トッパーを建設中の他、Mckee 製油所(テキサス州北部)でも原油処理

能力を 2.5 万 BD 増強する工事を実施している(2015 年前半に操業開始予定)。他にもポ

ートアーサー製油所や Meraux 製油所(ルイジアナ州)でも軽質原油処理増強を検討して

いるとのことだ。

また、ポートアーサー製油所やメキシコ湾岸およびメンフィス製油所(テネシー州)

における軽質原油を2012年第4四半期時点で国産原油に置換したことも報じられた。

一方、フィリップス66も、2013年3月の報道ではメキシコ湾岸にある製油所で処

理する軽質原油には輸入品を使用していないとされ、米国産原油処理を進めているこ

とが伺える一方、 近は、同社がシェールから生産される天然ガスや天然ガス液

(Natural Gas Liquid、NGL)を活用した石油化学設備への投資を強化していることが

報じられている。

石油製品の米国内需要が横ばいに推移する見通しである一方、石油化学部門は米国、

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カナダとも将来見通しが堅調であることが背景にあると分析されている。

3.3. 国際原油市場への影響

米国内での輸送インフラ発達により米国産原油が国内に普及することは、表1のと

おり米国の原油輸入量減少にもつながっている。こうした中、従来米国市場に輸入さ

れていた原油がアジア市場に仕向け地を変更していることも報じられている。

2013年7月のPADD3原油輸入量370万BDは、2008年平均の560万BDに

対して3分の2を下回るレベル。輸入量減少の大半は軽質原油で発生している。

重質原油ではメキシコ、ベネズエラ産原油が減少傾向にある中、カナダ産原油

輸入は増加傾向にあり、カナダ産への置換が進んでいる。2.4.項、⑩で既述の

とおりキーストーンXLPL計画の進捗は滞っている一方で、増産が続くカナダ

産原油の輸送は、鉄道輸送により代替されるとの見通しが示されている。)

メキシコ湾岸で米国産原油の流通量が増加したことにより、コロンビア等のラ

テンアメリカで生産される原油のアジア市場での取引量が増加している。

また、米国内で増産されているシェールオイルが軽質原油であり、軽質原油処理に

適した米国内製油所数が限られていることは、米国内の原油輸出解禁に向けた政治的

な議論の機運を高めているが、米国内ガソリン価格への影響に対する消費者の懸念と

も結びつくため、政治的に慎重な扱いが必要とされる。

11月初旬の報道によれば、連邦議会上院のエネルギー天然資源委員会で共和党の筆

頭議員であるリサ・マコウスキ議員(アラスカ州)は、米国産原油輸出の議論開始時

期について”sooner rather than later(後でというよりむしろすぐに)”との考えを示す

一方、同委員会委員長の民主党ロン・ワイデン議員(オレゴン州)は、議論を開始す

る前に消費者の利益について確認する必要があるとの考えを示している。

増産が続く米国内陸部での原油生産と、パイプラインを始めとする輸送インフラの

発達状況は、今後も米国石油精製業界の経営環境、更に国際的な原油需給・市況動向

に大きな影響を与えることが予想されるため、今後も注視していく必要がある。

3.4. その他

PLによる環境影響に関する議論が高まりを見せる中、トランスカナダはキーストー

ンXL PL計画のウェブサイト上に以下の写真(図9)を掲載し、PL建設による環境影

響を 小限のものにするための取組を行っていることを明らかにしている。

新規 PL 計画は雇用創出等の経済効果が期待される一方、環境影響評価上の課題を

クリアすることが重要な課題である。

Page 13: 米国のメキシコ湾岸向け原油パイプラインに関する …JPEC レポート 1 平成25 年12 月4日 米国のメキシコ湾岸向け原油パイプラインに関する最新状況

JPEC レポート

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図9 パイプライン建設前後の図(出所:トランスカナダホームページ)

(左側が建設途中、右側が建設後の写真)

以上

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したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは [email protected] までお願いします。

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次回のJPECレポート(2013年度 第21回)は

「大水深開発に挑む中国」

を予定しています。