環境メディアの 特性と活用 - 福島大学a067/EnvPlan...環境メディアの潮流...

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環境計画論 第7Jan.19, 2012 福島大学共生システム理工学類 後藤 環境メディアの 特性と活用 1.環境メディアとは 2.環境メディアとしての広告 3.環境“見える化”プロジェクト 4.原子力広報における問題点 5.環境メディアの注意点

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環境計画論 第7講 Jan.19, 2012

福島大学共生システム理工学類 後藤 忍

環境メディアの特性と活用

1.環境メディアとは

2.環境メディアとしての広告

3.環境“見える化”プロジェクト

4.原子力広報における問題点

5.環境メディアの注意点

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1.環境メディアとは

2.環境メディアとしての広告

3.環境“見える化”プロジェクト

4.原子力広報における問題点

5.環境メディアの注意点

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環境メディアとは

環境メディアとは

環境や環境問題に関する情報を伝える媒体。

環境メディアの役割

「時空間的に遠い問題」を認識するには、環境メディアの伝える情報によるところが大きい。

(cf. Think globally, act locally.)環境メディアの正負両側面に留意する必要がある。

→過去の失敗事例や遠い地域の環境問題の現状、新しい考え・実践例等について学ぶことができる。

→メディアの情報のみに頼ることは、誤った認識を生む可能性がある。

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環境問題に関する情報の入手先 平成17年に内閣府が

行った「環境問題に関する世論調査」では,環境問題に関する情報や知識を,どこから得ているか聞いたところ,「テレビ・ラジオ」を挙げた者の割合が88.6%と も高く,以下,「新聞」(67.6%),

「行政による白書や広報紙など」(30.5%),「書籍,雑誌」(22.4%),「友人,知人,家族」(21.6%)な

どの順となっている。(複数回答,上位5項目) 環境に関する情報の入手先

(出典:内閣府ウェブサイト http://www8.cao.go.jp/Survey/h17/h17-environment/index.html)

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環境メディアの潮流

環境メディア論環境問題とメディアの関係を対象とする学問分野として

1990年代に登場。

「メディアと環境問題」(Media and the Environment)というタイトルの本がはじめて出版されたのは1991年。

日本における2つの大きな流れ メディア効果論

マスメディアを中心とする各種情報メディアが、受け手の環境意識や環境保全行動に及ぼす影響を明らかにするもの。

環境ジャーナリズム論

公害問題・環境問題に関する報道が世論喚起と環境政策形成に果たしてきた役割を明らかにするもの。

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環境メディアの枠組み

出典:(財)地球環境戦略研究機関編(2001) 『環境メディア論』,p.6

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環境教育とメディア(1) トビリシ宣言・勧告(1977年)における位置づけ

宣言の中では次のように記述されている。

「マスメディアはこの(環境)教育の使命にとって幅広い情報源を提供する上で大きな責任を担っている。(The mass media have a great responsibility to make their immense resources available for this educational mission.)」

勧告16では次のように記述されている。

「特に商業的な番組や広告を通じて消費行動に及ぼすマスメディアの影響はとても大きいことを認識している。(Recognizing the great influence of the mass media on consumer behavior, especially through commercial programs and advertisements.)」

勧告20では次のように記述されている。

「正規の教育課程、非正規の教育課程の両方において、環境教育にとってのマスメディアの重要性を認識している。(Recognizing the importance of the mass media for environmental education in both formal and nonformal education.)」

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環境教育とメディア(2) テサロニキ宣言(1997年)における位置づけ

「メディアは、(環境)問題の複雑性を、一般の人々にとって意味のある理解しやすい情報に翻訳することを手助けすることで、鍵となるメッセージを広げるための分配チャンネルとノウハウを入手しやすくすることに敏感になり、促進すべきである。(The media be sensitized and invited to mobilize its know-how and distribution channels to diffuse the key messages, while helping to translate the complexity of the issues into meaningful and understandable information to the public.)」

「新しい情報システムの潜在的な力すべてがこの目的のために適切に利用されるべきである。(The full potential of new information systems should be used properly for this purpose.)」

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1.環境メディアとは

2.環境メディアとしての広告

3.環境“見える化”プロジェクト

4.原子力広報における問題点

5.環境メディアの注意点

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環境メディアとしての広告

環境広告とは

環境広告大賞(1991~)での説明

「環境保全の取り組みを紹介するもの、環境保全に貢献する製品やサービスを表現するもの、環境問題に関する情報を伝え、意識改革や行動を呼びかけるもの、その他環境保全をテーマとするもの」

環境広告の歴史

1960~1970年代「公害防止製品広告」

1970年代中頃~「省エネ広告」「省資源広告」

「自然保護訴求広告」

1990年代~現在「環境広告」

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環境広告の事例

京都府(1997年)VOLVO社(1990年,第1回日経環境広告賞)

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公共的な広告 公共広告は,公共的なメッセー

ジ伝達を目的とした広告であり,環境広告もその性格を有する。

ドイツ赤十字社(1999年) アメリカのMuir Heritage財団(2001年)

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公共広告機構(AC)の環境広告

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環境広告の広がり 環境広告の広がり

1997年には、環境広告は企業広告の16%を占めるに至っている(栗原,2000)

「環境をテーマにした広告」の認知率は、1991年は40%程度だったものが、1998年には60%に達している(電通,1998)

2000年では約8割近くの人が環境問題をテーマとする広告に接していると回答している(三上・関谷,2001)

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新聞広告クリエーティブコンテスト

新聞広告クリエーティブコンテストとは

社団法人日本新聞協会広告委員会が主催する、若手クリエーター(プロ、アマ問わず)を対象に実施するコンテスト。

入賞作品は、日本新聞協会が広告主となり、全国の新聞に掲載。

2002年から始まり、2005年までは「新聞広告」そのものが

テーマ。

2006年は、それまでの傾向を変えて、「環境」をテーマとし

た。

コンペの結果応募総数は1,379点。前年の応募総数952点を大きく上

回った。

優秀賞、優秀賞、デザイン賞、コピー賞、学生賞が各1点ずつ選定された。

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優秀賞:“エコ買い”

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The “newspaper” is made of “old papers”.

あたりまえのことかもしれませんが、新聞紙には早くから古紙が使われています。近年は混入率も上昇し、古紙100%の新聞紙もつくられています。回収率90%以上

のリサイクルを可能にしているのは、読者の皆さまのご協力のおかげです。これからも新聞広告は、持続可能なメディアを目指します。

事実、新聞には古紙が使われています。

古くて新しいメディア。新聞広告。

“The newspaper is made of old papers”

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1.環境メディアとは

2.環境メディアとしての広告

3.環境“見える化”プロジェクト

4.原子力広報における問題点

5.環境メディアの注意点

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環境負荷を減らすためには、日常生活ではなかなか実感しにくい環境負荷を人々が分かりやすく認識できるようにすることが求められています。そのためには、環境指標などにより環境負荷を分かりやすく提示する“見える化”が重要とされています。

このプロジェクトでは、福大を対象として、資源・エネルギー・廃棄物などの環境負荷を計上するとともに、相対的に重要と考えられる環境負荷について構成員(学生・職員・教員)が認識できるように、環境指標を用いて、“見える化”することを目的としています。

青い瞳の忍者「ウルルん」

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環境“見える化”PROJECTの枠組み 目的

福島大学を対象として,日常でなかなか実感できない資源・エネルギー・廃棄物などの環境負荷を,学生,教員,職員が分かりやすく認識できるように工夫(見える化)すること。

2010年1月に環境情報を掲示

対象とする環境負荷 資源・エネルギー・廃棄物全般

特に電気使用量に着目

“見える化” の手段 立て看

ポスター(時事的情報)

ステッカー(定常的情報)

プラズマテレビ

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○ステッカー

トイレ

エレベータ

○プラズマテレビ

“見える化”による環境情報の提示(1)全体像

○立て看板

○ポスター

全体(まとめ)IPC編

電気 理工編

学校全体編

講義棟 行政棟 人間棟 経済棟 理工 図書館 生協 屋外 IPC 体育館総合教育

研究センター計

立て看板 1 1

ポスター

IPC編 4 4

理工編 14 14

学校全体編 8 1 5 2 1 6 6 29

全体(まとめ)

8 1 5 2 10 1 6 6 39

ステッ

カー

トイレ 66 21 23 24 41 17 19 11 9 9 240

エレベータ 2 1 2 1 1 7

掲示の際はそれぞれの

施設に許可をとりました。

環境情報の掲示場所と枚数

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環境“見える化”PROJECTにおける工夫 環境メディアにおける工夫

環境キャラクターを採用する。

初に目を引く言葉を配置する。

構成員に身近な単位(500mℓペットボトル)に換算して表示する。

目に触れる頻度が高いものは嫌みにならない表現にする。

トイレ用ステッカー(温熱便座なし)

エレベータ用ステッカー

トイレ用ステッカー(温熱便座あり)

ポスター(学校全体編)

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環境“見える化”PROJECTの効果 プロジェクトの反響

好意的な感想が,学生,教職員から寄せられている。

例:「環境“見える化”プロジェクトのポスターはよく目にしていて,こんなにCO2が

出るのかとびっくりしました」

「わかりやすいし,内容も楽しいので,省エネを心掛けようと思っています。」

一方,ステッカーが故意にはがされるなどの事態も起きている。

簡易調査の実施 学生を対象とした簡易調査を実施。

2010年2月3日,理工学類の「環境システム論」の受講者117名(男86,女30,性別不明1)を対象に調査票調査を実施。

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

温熱便座を閉める トイレの

2回流しをやめる

誰も居ない

エレベータには

乗らない

パソコンを

つけっぱなしにせず

スタンバイ状態にする

(人)環境配慮行動の取り組み内容

86

14

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

あり なし

(%)ステッカーによる環境配慮行動の心がけ

ステッカーを見た人(54.7%)のうち、

環境配慮行動を心掛けるようになった人は86%と多かった。

自己の負担が大きく効果が見えにくい環境配慮行動は,あまり行われなかった。

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環境“見える化”PROJECT 第二弾 廃棄物に関する環境情報の見える化

2010年度に,後藤研究室の沼木俊亮君が卒業研究として実施した環境“見える化”PROJECT。

廃棄物の量と広域移動に着目し,それらの抑制に向けた構成員の心理的変化を促すと共に,行動への変化に寄与する施策として,廃棄物問題対策に特化した環境情報の“見える化”を考案し,その効果検証を行う。

研究の概要

生協のリ・リパック弁当容器(ヨコタ東北製造)に限定し,廃棄物の移動距離を表す「廃棄物マイレージ」と,処理方法によって異なる「ライフサイクルのCO2排出量(LCA)」を計算して,学内に掲示する。

環境情報の認知によって,意識や行動に影響を及ぼしたかどうかについて,心理モデルを用いるとともに,調査票調査によって分析する。

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ポスターの情報「リ・リパック弁当容器の行き先マップ」

1)リ・リパック弁当の広域移動状況について廃棄物マイレージとLCAの結果を記載

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ポスターの情報「CO2削減効果」

2)各種ゴミ箱に捨てる際のCO2削減効果についてLCA結果から算出した削減率や削減量を記載

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ポスター情報「リ・リパック弁当の適切な捨て方」

3)リ・リパック弁当の適切な捨て方についてフィルムの剥がし方や弁当容器とフィルムの捨てるゴミ箱、

専用回収ボックスの設置場所を記載

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環境情報の掲示場所

福島大学生活共同組合店頭

講義棟ごみ箱(M棟2階)

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分析の枠組み

情報を⾒ていない被験者と情報を⾒た被験者の比較分析

分析内容

①意識レベルの分析

精緻化された集合的防護動機モデルの因子に従った

②行動レベルの分析

勧告した行動の実際の行動状況(集合的対処行動状態)、

リ・リパック弁当回収率

③情報の認知度の分析

弁当の行き先や適切な捨て方といった提示した情報

分析ソフト:「SPSS 13.0J」,EXCEL

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①意識レベル:精緻化された集合的防護動機モデル因子の中央値検定及びMann-WhitneyのU検定結果

結果

実行能力認知(p<.001)

集合的対処行動意図1(p<.05) →情報を見た場合に高い

しかし・・・

深刻さ認知や効果性認知の有意差は認められず(p>.05)

→深刻さ認知:

リ・リパック弁当の行き先マップの効果評価

→効果性認知:

リ・リパック弁当の行き先マップ及びCO2削減効果の

ポスターの効果評価

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②行動レベル:リ・リパック弁当の「普段よく捨てるごみ箱」と「弁当とフィルムに分別する頻度について」のχ2検定結果

結果

普段よく捨てるごみ箱

情報を見た場合に選択割合が高い

・「専用回収ボックス」(χ2=6.492,df=1,p<.05)

情報を見た場合に選択割合が低い

・「可燃ごみ」(χ2=8.908,df=1,p<.05)

弁当とフィルムに分別する頻度

情報を見た場合に選択割合が高い

・「いつも分別する」(χ2=17.907,df=1,p<.001)

情報を見た場合に選択割合が低い

・「全く分別しない」(χ2=8.289,df=1,p<.05)

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②行動レベル:実際の行動状況(集合的対処行動状態)の中央値検定結果

各因子 認知の内容

集合的対処行動状態1 「リ・リパック弁当を専用回収ボックスに入れている」

集合的対処行動状態2「お店の陳列棚から商品を選ぶとき、選んだ商品がどこに運搬され処理処分されるか考えている」

集合的対処行動状態3「ごみ箱に物を捨てる時、捨てたごみがどこに運搬され処理処分されるか考えている」

結果

情報を見た場合に得点が高い

・集合的対処行動状態1(p<.001)

・集合的対処行動状態2(p<.05)

・集合的対処行動状態3(p<.05)

5段階評価(5:いつも入れている~1:全く入れていない)(5:いつも考えている~1:全く考えていない)

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まとめ

今回の見える化を行った結果,意識レベルでは,集合的対処行動意図1の説得に概ね成功し,さらに行動レベルでは,情報を見た人の方がリ・リパック弁当のフィルムを剥がし,専用回収ボックスに入れ,商品を選ぶ時やゴミとして捨てる時にその運搬先を考える頻度が高かった。これらのことから今回,考案した見える化の目的は一定程度果たせたといえる。

しかし・・・

深刻さ認知や効果性認知を高めることはできず、さらに認知度に関しては,情報受信側で情報の不正確な認知が生じており,十分な周知効果が得られず課題が残った。

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1.環境メディアとは

2.環境メディアとしての広告

3.環境“見える化”プロジェクト

4.原子力広報における問題点

5.環境メディアの注意点

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日本では,原子力は国策として様々な教育・広報が行われてきた。

日本の原子力教育・広報について

メディア 主な教育・広報の内容 主な主体

テレビ TVCMの放映 政府公報

各電力会社・電気事業連合会

NUMOなど

新聞 新聞広告の出稿 政府公報

各電力会社・電気事業連合会

NUMOなど

雑誌 月刊誌「原子力文化」 日本原子力文化振興財団

本・テキスト 副教材等の作成・普及 文部科学省・経済産業省資源エネルギー庁

インターネット 「あとみん」 文部科学省

「なるほど!原子力AtoZ」 経済産業省資源エネルギー庁

サイエンスチャンネル 科学技術振興機構

エネコチャンネル 日本原子力文化振興財団

講義・研修 出前授業等の開催 文部科学省

施設見学 文部科学省

教育職員セミナー 文部科学省

課題 原子力ポスターコンクール 文部科学省・経済産業省資源エネルギー庁

原子力小論文・作文コンクール 日本原子力文化振興財団,文部科学省

課題探求コンクール 文部科学省

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「原子力PA方策の考え方」とは

日本原子力文化振興財団が,科学技術庁(当時)の委託を受けて1991年3月にまとめた報告書。

原子力を人々が受け入れる(Public Acceptance)ための様々な方策について言及されている。

「原子力PA方策委員会」が設置され,3回にわたる検討会の内容が要約される形で記述されている。

原子力PA方策委員会のメンバー委員長:中村政雄(読売新聞社論説委員)

委員:田中靖政(学習院大学法学部教授),赤間紘一(電気事業連合会広報部部長),片山洋(三菱重工業広報宣伝部次長),柴田裕子(三和総合研究所研究開発部主任研究員)

オブザーバー:松尾浩道(科学技術庁原子力局原子力調査室),村上恭司(科学技術庁原子力局利用推進企画室)

事務局:松井正雄(日本原子力文化振興財団事務局長)

原発推進側の原子力PA方策について

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広報の具体的手法:対象 「対象を明確に定めて,対象毎に効果的な手法をとる」

「父親層がオピニオンリーダーとなったとき,効果は大きい。父親層を重要ターゲットと位置づける。(中略)真正面から原子力の必要性,安全性を訴える。」

「女性(主婦)層には,訴求点を絞り,信頼ある学者や文化人等が連呼方式で訴える方式をとる。「原子力はいらないが,停電は困る」という虫のいい人たちに,正面から原子力の安全性を説いて聞いてもらうのは難しい。」

「不安感の薄い子供向けには,マンガを使うなどして必要性に重点を置いた広報がよい。」

頻度

「繰り返し繰り返し広報が必要である。新聞記事も,読者は三日すれば忘れる。繰り返し書くことによって,刷り込み効果が出る。」

原子力PA方策の例(1)

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時機(タイミング)

「事故時を広報の好機ととらえ,利用すべきだ。(中略)事故時はみんなの関心が高まっている。大金を投じてもこのような関心を高めることは不可能だ。事故時は聞いてもらえる,見てもらえる,願ってもないチャンスだ。」

「事故時の広報は,当該事故についてだけでなく,その周辺に関する情報も流す。この時とばかり,必要性や安全性の情報を流す。」

「夏でも冬でも電力消費量のピークは話題になる。必要性広報の絶好機である。広告のタイミングは事故時だけではない。」

内容

「一般人が信頼感をもっている人(医者,学者,教師等)からのメッセージを多くする。(中略)医者の放射線の知識は極めてプアだときく。しかし専門家意識だけは持っている。」

原子力PA方策の例(2)

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考え方(姿勢)

「原子力が負った悪いイメージを払拭する方法を探りたい。どんな美人にもあらはある。欠点のない人がいないように,世の中のあらゆるもの,現象には長所と短所がある。(中略)原子力はもともと美人なのだから,その美しさ,よさを嫌みなく引き立てる努力がいる。」

「原子力による電力が“すでに全電力の3分の1も賄っているのなら,もう仕方がない”と大方は思うだろう。(中略)女性等は必要性よりも安全性に関心があり,学習意欲も十分に持っている。体験学習の場を設けるなど接触したらよい。大部分はグループ活動をしているのでアプローチが容易だ。」

手法

「広報の中心を“原子力発電所”に置きすぎる。放射線やその他の分野から理解を深める手法も考える余地がある。放射線や放射能が日常的な存在であることを周知させる必要がある。」

原子力PA方策の例(3)

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手法

「文化系の人は数字を見るとむやみに有難がる。数字の怖さを知らないからだ。過信して判断を誤ることがある。理科系の人間は数字のいい加減さを知っているので過信はない。有効性についても判断を誤らない。」

「消費生活アドバイザーの国家試験問題に,原子力を取り入れたらどうか。」

学校教育

「教科書(例えば中学の理科)に原子力のことがスペースは小さいが取り上げてある。この記述を注意深く読むと,原子力や放射線は危険であり,できることなら存在してもらいたくないといった感じが表れている。書き手が自信がなく腰の引けた状態で書いている。これではだめだ。厳しくチェックし,文部省の検定に反映させるべきである。さらに,その存在意義をもっと高く評価してもらえるように働きかけるべきだ。」

原子力PA方策の例(4)

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PAのPRについて 「ポスターもPAの一環として位置づけて作成し,全国の学校,

JR・地下鉄,展示館や博物館,プラントメーカー,電力会社などに配布すること。特に学校と駅は効果が期待できる。」

「中吊り広告は効果あると思う。(中略)原子力の基礎的な知識や,環境における原子力の優位性をクイズにするなど,工夫したら効果のあるものになるだろう。」

「一般市民を対象とした草の根の広報として講師派遣の事業を実施している。この事業は日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団を中心にかなり実績を上げていると聞く。」

「学校は重要な組織であると心得て,学校教師には科学技術庁からダイレクトメールを直送したらどうか。読まれる率も高いし,国の積極的姿勢も同時に示すことができる。」

マスメディア広報

「スポークスマン(役人を含む)を養成する。(中略)一種のマスコミ操作法だが,合法的世論操作だ。」

原子力PA方策の例(5)

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原子力文化振興財団の主な調査研究(2000年以降)

「原子力利用の知識普及啓発に関する世論調査」(平成18~22年度,毎年)

「原子力の平和利用に関する知識普及啓発の在り方に関する世論調査」(平成17年)

「ビデオ視聴によるPA効果測定報告書」(平成17年2月)

「原子力文化に関する考察 報告書」(平成16年2月)

「コミュニケーション手法を利用した原子力広報におけるツール開発 報告書」(平成15年2月)

「高レベル放射性廃棄物に関する意識調査報告書」(平成14年2月)

「原子力広報におけるリスクコミュニケーション調査報告書」(平成13年2月)

原子力広報に関する調査研究

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受け手と媒体の特徴に基づく広報戦略 「原子力広報評価検討会報告書」(2000年9月)では,社会的な属性による

分類(セグメンテーション),原発への関心度,原発の安全性に対する考え方などをもとに,6つのグループに分類。

女性層は、原子力に対する態度(受容/拒否)を保留する傾向が見られることから、理解増進に向けて男性層以上にきめ細やかな対応を行っていくことを指摘。

原子力の広報戦略

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女性をターゲットとした広報活動 放射性廃棄物に関する広報

特に女性層をターゲットにした普及啓発活動を検討。

高レベル放射性廃棄物の地層処分に使用が想定されているベントナイトを使い,アロマ石けんをつくる企画を実施。

(出典:日本原子力研究開発機構「フレンドリー通信」2009年10月9日号)

(出典:http://www.enecho.meti.go.jp/rw/ene/2010/document/20110306-seminar.pdf)

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ベントナイトとは

(出典:放射性廃棄物ワークショップ資料,東京大学 木村浩氏「放射性廃棄物の地層処分について」,2011年1月29日)

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子ども向けの広報活動 キャラクター「プルト君」の利用

「プルトニウム物語 頼れる仲間プルト君」は,1993年に動力炉・核燃料開発事業団(動燃、現 日本原子力研究開発機構)が企画制作した,約11分の広報用ビデオ。

プルト君は以下のような解説を行っている。

「プルトニウムは青酸カリのように飲んだらすぐ死ぬという劇薬ではありません」

「プルトニウムは水と一緒に飲み込まれても、ほとんど吸収されず、体の外に出てしまいます」

「胃や腸に入った場合も、ほとんどが排泄されて体の外に出てしまいます」

「プルトニウムが原因でがんになったと断定された例は全くありません」

当時のアメリカのエネルギー省長官から「プルトニウムの危険性を過小評価している」などと抗議文が送られたとされる。

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原子力文化振興財団の広報誌「原子力文化」では,様々な形での広報が組み込まれていた。(例:鉄腕アトム)

雑誌「原子力文化」でのマンガの利用

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日本広報学会と東京電力の関係 日本広報学会

企業の広報やコミュニケーション活動について学術的な研究をすること目的として,1995年に設立された学会。

個人会員約500名,法人会員62社,法人登録者163名(2010年3月現在)

原発事故当時の会長は,東京電力取締役社長の清水正孝氏であった。

ウェブサイトの清水氏の挨拶文は,上野副会長の挨拶文に差し替えられた。

日本広報学会の役員名簿(出典:日本広報学会ウェブサイト,2011年4月閲覧)

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原発事故前の電力会社のTVCM(例)

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日本広告審査機構(JARO)による裁定

「原子力発電はクリーンな電気のつくり方」という宣伝コピーに対し,原子力発電が発電時に二酸化炭素を出さないという点だけで,「エコ」や「クリーン」という表現が使われるのは「不当な広告表示である」として,JAROに審査を求めた。

2008年11月25日付の回答

「今回の雑誌広告においては,原子力発電あるいは放射性降下物等の安全性について一切の説明なしに,発電の際に二酸化炭素を出さないことだけを捉えて「クリーン」と表現しているため,疑念を持つ一般消費者も少なくないと考えられる。今後は,原子力発電の地球環境に及ぼす影響や安全性について十分な説明なしに,発電の際に二酸化炭素を出さないことだけを限定的に捉えて「クリーン」と表現すべきではないと考える。」

ただし,JAROは民間の機関(社団法人)で,法的拘束力は持たないため,必ずしも改善されたわけではない。

原子力に関する広告への審査

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信頼のあるコミュニケーションとは 原子力文化振興財団の報告書での指摘

「原子力広報におけるリスクコミュニケーション調査報告書」(2001年2月)では,JCOの臨界事故後の東海村における調査を踏まえて,次のような点が指摘されている。

限りなく生起確率が小さいリスクであっても,それがゼロでない以上,「絶対安全」と伝えるようなことがあってはならない。

リスクがあることを前提とした上で情報を多く伝えていくことこそが,安心の確保につながる。

切迫した状況においては,現実には情報を加工している時間がないことも多い。行政機関は特に正確な情報を提供しようと腐心するあまり情報提供までに時間がかかることもあるが,このことが「情報隠し」という不信を招くこともある。伝えられない情報も含めて,人々は状況を判断するということを忘れてはならない。

情報提供の量が多いことが信頼につながることが明らかにされている。安心を保証するのは,安全だという情報だけでなく,いいことも悪いことも,ともに伝えることだと指摘している回答者が多いことに注意を払うべきである。

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コミュニケーションの失敗事例 放射性廃棄物ワークショップ(2011年3月6日)の資料では,コミュ

ニケーションの失敗事例として,3つがあげられている。

(出典:http://www.enecho.meti.go.jp/rw/ene/2010/document/20110306-seminar.pdf)

→これらの指摘は今回のリスクコミュニケーションで活かされたのか?

福島県放射線健康リスク管理アドバイザー山下俊一氏の主な発言内容

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原子力広報における問題点

原子力広報における問題点

公共性の高い,地域の独占企業でありながら,多額の広告費を使って,広報を行ってきた。

原発のプラス面に偏った情報が流されており,JAROに

よって適切でないとの審査結果が出たあとも,大きな改善は図られなかった。

国も,効果的な広報を進めるために,受け手の特性を調査・分析しながら,様々な方法を実施してきた。

リスクコミュニケーションについて重要な点を指摘する報告書もあったが,東電福島第一原発の事故への対応では,報告書の内容は活かされなかった。

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1.環境メディアとは

2.環境メディアとしての広告

3.環境“見える化”プロジェクト

4.原子力広報における問題点

5.環境メディアの注意点

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長期的短期的

意図的

非意図的

*TVCM・広告(環境保全に関するもの)

*メディアキャンペーン(例:公害追放キャンペーン)

*ニュースや情報・知識の伝達(例:議題設定効果)

*集合的・個人のリアクション(例)ダイオキシン報道の影響

*社会化

出典:(財)地球環境戦略研究機関編

(2001) 『環境メディア論』,p.28

*現実の定義づけ(例:培養効果)

人々の環境問題への認識・態度に与えるマスメディアの影響・効果の類型

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議題設定効果 議題設定効果(agenda-setting effects)とは

人々の考えや議論の柱となる「議題」の設定、つまり人々に「今何が重要なのか」といったことを伝え、その判断に影響を与える効果のこと。

温暖化やオゾン層破壊のように、認知可能性の低い地球環境問題については、人々の社会の現実認知にマスメディアが影響をもつという考え。

議題設定効果の研究例

1970年から1990年までの環境汚染(公害)に関するメディア報道の内容と世間議題(public agenda)の間には、

調査時点のメディア議題とよりも、それ以前のメディア議題との相関が高かった(Ader,1995)

1992年の地球サミット開催時における世間議題と、一ヶ

月ほど前のメディア議題との間に高い順位相関が見られた(三上ら,1995)

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培養効果(1) 培養効果(cultivation effects)とは

長時間のテレビへの接触が人々の社会的な現状認識に長期的・累積的な影響を与える(培養している)効果のこと。

培養効果に関する研究例

1991~1995年のアメリカのプライムタイムで、自然をテーマにした番組は20%程度であり、しかも主要なテーマとして扱われている番組は2%足らずに過ぎない。(Shanahanら,1999)

→テレビは元来資本主義的な背景をもった、広告を流す

ためのメディアであり、視聴者に対して消費を奨励するような価値観に満ちた世界を作り上げてしまうからではないか。

→長期間の累積的なテレビ視聴、それも娯楽を中心とし

た内容への接触は人々の環境問題への関心を高めるのに否定的な役割を果たすのではないか?

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培養効果(2) テレビの否定的な側面

テレビ視聴量が多くなるほど、環境問題に対してネガティブな態度ないし意見が強くなるという傾向が一貫してみられていた(三上,1996)

テレビの肯定的な側面テレビニュース視聴量が多い人ほど、環境保全行動の実行

度が高い傾向が弱いながら見られていた(川端ら,2001)

環境問題関連の番組を見ている人ほど環境税の導入に賛成する傾向があった(川端,2001)

注意すべき点マスメディア報道と、人々の環境意識や態度との間の相関関

係を分析しているだけであり、因果関係を述べているのではない。

意識や認識は変わる可能性があるが、行動はなかなか変化しないという結果もある。

→意識に与える影響だけでなく、行動を促進するようなメディアのあり方を考えていく必要がある。

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メディアとしての広告 広告とは

広告の意味

人々の態度に影響を与え、新しい欲望を生み出し、特定の方向に消費を導こうとするもの

日本の広告費(例)

日本における2009年(平成21年)1~12月の総広告費は5兆9,222億円。

平成21年度の国内総生産(GDP)と比べた割合は1.25%。

cf.農業の総生産額は、平成17年度のデータで4兆8,599億円で、

当該年度のGDP501兆7,344億円に対する割合は0.97%

→これだけの金額が、商品そのものではなく、それに関する情報を発信する広告に使われている。

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日本の広告費の推移

(出典: http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5650.html )

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広告と生産・消費

広告を伴う需要創造

企業と広告業者は新しい製品ニーズやカテゴリーをつくり出してきた。

例:石けんのバリエーション

シャンプー

ボディソープ

ハンドソープ

フェイスソープ ・・・

広告の功罪

経済成長をサポート。

大量生産、大量消費社会の文化を創造。

1960年代の大手広告代理店における十則

①もっと使わせろ②捨てさせろ③ムダ使いさせろ④季節を忘れさせろ⑤贈り物をさせろ⑥コンビで使わせろ⑦きっかけを投じよ⑧流行遅れにさせろ⑨気安く買わせろ⑩混乱を作り出せ

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広告に見られる説得のテクニック 広告と説得

広告主の商品に対する消費者の態度を好ましいものに変容させようとするものであり、ほとんどは説得的コミュニケーションと言える。

『影響力の武器』(R.B.Cialdini)における6つの原理返報性(Reciprocation)

恩を受けると同意しやすい。

コミットメントと一貫性(Commitment and Consistency) 人はできるだけ一貫した立場をとりたがる。

社会的証明(Social Proof) 多くの人が認めているものを受け入れやすい。

好意(Liking) 自分にとって魅力的な人物の言動は受け入れやすい。

権威(Authority) 専門家の言動に説得されやすい。

希少性(Scarcity) なかなか手に入りにくいものに魅力を感じてしまう。

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一貫性と認知的不協和理論 認知的不協和(cognitive dissonance)理論とは

人間が自分の行動をどのように合理化するかを記述し、予測しようとする理論。

1957年、社会心理学者レオン・フェスティンガーが提唱。

不協和が発生したとき、できるだけ簡素な方法でこの不協和を低減しようとする傾向がある。

認知的不協和を解消しようとする例募金の実験(チャルディーニとシュロウダー)

募金を集めに各家庭に回る実験で、半数では「10円でも頂けると助かるんです」と付け加えた。その結果、これを付け加えなかった場合に比べておよそ2倍の人が募金に応じてくれた。しかも、募金の平均額はほとんど同じだった。

戦争時の傾向 別の国の国民を破滅に追いやるのに罪悪感を感じなくするため、

犠牲になった人の人間性を低め、逆に、犠牲者の方に罪があることを主張する。

このように、自分が行った残虐な行為を正当化すればするほど、残虐な行為を行うことが容易になる。

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その他のテクニック(例) 自己成就的予言

人はラベルを貼られると、それにあった行動をとってしまう。

イメージによるアジェンダ(議題)設定 マスメディアがより多く取り上げる議題が、日常生活において も重

要だとみなしてしまう。

アナロジー 似たような事例を出されると、同じような展開になると考えてしまう。

おとり 比較することで、良くも悪くも見える。

事実もどき 虚偽の情報でも、社会的なリアリティをつくりだす。

自己説得 当事者の立場にたって論拠を考えると、その立場を受け入れやすく

なる。

注意の散逸 メロディをつくったりすることで、注意深い思考を妨げられる。

恐怖アピール 脅されるほど、望ましい予防行動をとる傾向がある

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環境ブランド調査 日経BP環境経営フォーラ

ム が、消費者に各企業の環境への取り組みに対する評価や、環境に関する企業イメージなどについてインターネットを利用して行ったアンケート調査。

2000年に第1回目を実施してから、毎年実施。

2008年調査は各業種から売り上げ上位を中心に選んだ560社を調査対象として実施。2万223人の有効回答を得た。

企業の環境広告とイメージ形成

出典:http://emf.nikkeibp.co.jp/emf/report/2008_08/index.html

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2007年 2006年 2005年2008年

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環境メディアに関する練習問題

今回は環境広告についてBさんが考えた。「環境広告が広がっ

て、企業の環境に関するイメージも形成されているというけれど、その解釈には注意が必要だわ。例えば、人々に認知されている環境広告の業種のトップは自動車業界で約5割を占めているとい

うデータがあるけれど、本来自動車業界は環境への悪影響がも大きい業種の一つであるはずよ。つまり、製品の与える環境負荷が大きい業種ほど環境広告に熱心な傾向があるので、環境広告によって私たちが抱く企業イメージをもとにした消費行動では、根本的に社会を変えていくことにはならないのではないかしら。」

さて、Bさんの意見に対してあなたはどのように考えますか?意見を述べてください。また、これまで(正負に関わらず)あなたが影響を受けた環境広告があれば、それについても言及して下さい。

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今後の課題~説得的なメッセージへの対処~

昔と今との違い

① メッセージが溢れた環境に住んでいる。

② 短く、覚えやすく、視覚に訴えるメッセージが溢れている。

③ ずっと素早く伝達される。

④ 説得についての教育機会がない。

→毎日説得的メッセージにさらされているのに、説得の技術や効果について理解する機会はほとんどない。

→消費者の役割の自覚と、消費者教育が重要!

→メディアのもつ説得効果を、環境改善に役立てる方法を追究することが求められる。

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主な参考資料 参考文献

(財)地球環境戦略研究機関編、『環境メディア論』、中央法規出版、2001年

竹内郁郎・児島和人・橋元良明編著、『メディア・コミュニケーション論』、北樹出版、1998年

A.プラトカニス、E.アロンソン著、社会行動研究会訳、『プロパガンダ―広告・政治宣伝のからくりを見抜く』、誠信書房、1998年

R.B.Cialdini、“INFLUENCE”,Allyn & Bacon, 2001 金子秀之『世界の公共広告―世界は「公共広告」のテーマに満ち満ち

ている』、研究社出版、2000年

参考ウェブサイト 日経BP社ウェブサイト http://emf.nikkeibp.co.jp/emf/index.html 日本の広告費の推移 http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5650.html