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博士学位論文 CF/PC 積層板を用いたスタンピング成形品の表面品質, 強度および寸法安定性に及ぼす成形条件の影響に関する研究 指導教員 宮野 靖教授 2015 3 金沢工業大学大学院工学研究科 高信頼ものづくり専攻 尾崎 弘晃

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博士学位論文

CF/PC 積層板を用いたスタンピング成形品の表面品質,

強度および寸法安定性に及ぼす成形条件の影響に関する研究

指導教員 宮野 靖教授

2015 年 3 月

金沢工業大学大学院工学研究科

高信頼ものづくり専攻

尾崎 弘晃

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CF/PC 積層板を用いたスタンピング成形品の表面品質,

強度および寸法安定性に及ぼす成形条件の影響に関する研究

―目次-

第 1 章 緒論

1.1 CFRTS から CFRTP へ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

1.2 CFRTP の開発の歴史・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

1.3 スタンピング成形技術の現状と課題・・・・・・・・・・・・・・6

1.3.1 CFRTP 積層板の成形工程 ・・・・・・・・・・・・・・・・7

1.3.2 CFRTP 積層シェル構造のスタンピング賦形工程・・・・・・・10

1.4 ポリカーボネートについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

1.5 研究目的および意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

1.6 技術開発の取り組み方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

1.7 論文構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

第 2 章 CF/PC 積層板の成形方法の検討

2.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

2.2 供試材料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

2.3 ポリカーボネートの吸水性・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

2.4 CF/PC 積層板の成形方法の検討・・・・・・・・・・・・・・・25

2.5 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33

第 3 章 CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす成形条件の影響

3.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35

3.2 供試材料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35

3.3 成形方法および成形条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36

3.4 評価方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38

3.5 CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす樹脂に含まれる水分の影響・・39

3.6 CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼすサイジング剤の影響・・・・・41

3.7 CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす成形圧力の影響・・・・・・・42

3.8 CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす成形温度の影響・・・・・・・44

3.9 CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす成形時間の影響・・・・・・・54

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3.10 文献による CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす成形温度および成形時

間の影響の考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60

3.11 CF/PC 積層板と CF/EP 積層板による曲げ強度の比較・・・・・61

3.12 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67

第 4 章 CF/PC 積層板の耐衝撃性の評価

4.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69

4.2 供試材料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70

4.3 評価方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71

4.3.1 衝撃試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71

4.3.2 衝撃後 4 点曲げ試験・・・・・・・・・・・・・・・・72

4.3.3 衝撃損傷の観察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73

4.4 結果および考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73

4.4.1 外観に与える衝撃損傷の評価・・・・・・・・・・・・・73

4.4.2 超音波探傷装置による内部損傷の評価・・・・・・・・・75

4.4.3 断面観察による衝撃損傷の進展評価・・・・・・・・・・76

4.4.4 衝撃後の曲げ特性評価・・・・・・・・・・・・・・・・79

4.4.5 シャルピー衝撃試験・・・・・・・・・・・・・・・・・82

4.5 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86

参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・87

第 5 章 CF/PC 積層板の寸法安定性に及ぼすスタンピング条件の影響

5.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・89

5.2 熱可塑性樹脂の粘弾性モデルによるスタンピング温度がスプリングバ

ックおよび経時変形に及ぼす影響の考察・・・・・・・・・・・・90

5.3 供試材料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92

5.4 粘弾性特性によるスタンピング温度の決定・・・・・・・・・・・93

5.5 CF/PC 積層板のスタンピング賦形方法・・・・・・・・・・・・94

5.6 スタンピング賦形された CF/PC 試験片の観察による考察・・・・・96

5.7 スプリングバックおよび経時変形の評価・・・・・・・・・・・・96

5.8 PC の粘弾性による時間-温度換算則の加速率の算出・・・・・・・98

5.9 時間-温度換算則を用いた経時変形の長期予測からの長期寸法安定に

及ぼすスタンピング温度の影響の考察・・・・・・・・・・・・・100

5.10 スタンピング時の保持時間が経時変形に及ぼす影響・・・・・・・103

5.11 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・104

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参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・105

第 6 章 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・107

研究業績・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・109

謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・111

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第 1 章

緒論

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1.1 CFRTS から CFRTP へ

持続可能な社会の実現のために,再生可能なエネルギーの利用やリサイクル化,そして

省エネルギー化がある.20 世紀後半から,世界人口の急激な増加とそれに伴うエネルギー

消費の爆発的な増加に対して,地球環境の保全が真剣に問題視されるようになり,炭酸ガ

ス排出に対する国際的な規制が現実に行われるようになった.持続可能な社会を実現する

手段のひとつとして,炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic: 以下

CFRP と略称)の適用がさらに広まると考えられる.

CFRP が軽量,高強度,高剛性の優れた特徴を持つ工業材料として世に登場したのは 1970

年代である.この間,ゴルフのブラックシャフトなどのスポーツ用品,宇宙構造物,軍用

機の機体,レーシングカーのボディーなどの多様な用途に使われ,工業材料としての実績

を積んできた[1].1990 年代からは旅客機の二次構造材の一部に使われ,2 年前には主翼を

含めて機体重量の 50%が CFRP 製であるボーイング 787 が就航した[2].CFRP の軽量,

高強度,高剛性の特徴は,構造材料として地球環境の保全に応えるものと期待され,宇宙

構造物や船舶,旅客機などの輸送機器等に留まらず,建築物や橋梁および道路などの社会

インフラにまでその対象を広げることが期待されている.旅客機の CFRP 化はこれに応え

る技術開発の先駆けと捉えることもできる.

CFRP にはマトリックス樹脂の違いにより,熱硬化性樹脂を用いた炭素繊維強化熱硬化

性樹脂(Carbon Fiber Reinforced Thermoset resin: 以下 CFRTS と略称)と炭素繊維強化熱

可塑性樹脂(Carbon Fiber Reinforced Thermo-Plastics:以下 CFRTP と略称)の二種類あ

る.現在 CFRP のマトリックスには主に熱硬化性樹脂が用いられている.熱硬化性樹脂は

硬化する前までは,常温で流動性を持ち,樹脂が繊維束に含浸しやすいため強度に発現し

やすい.また,硬化時に架橋反応により網目構造をとり,樹脂と炭素繊維を強固に接着す

ることができる.そのため,CFRTSは比強度および比剛性に優れた構造材料となる.図1.2-1

に熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の硬化のイメージ図を示す.熱硬化性樹脂は,硬化の際,

化学反応により共有結合の生成を伴うため,反応するための熱と時間が必要である.その

ため,CFRTS の成形工程は強度を保障するために複雑な操作と樹脂硬化の時間が必要であ

る.ゆえに,一般に生産性は良くない.宇宙構造物や 50 年間は使用される旅客機の機体に

使用する CFRP は,高価であり,リサイクル性はほとんど考慮されていないが,大量生産

される自動車,建築物,さらには社会インフラにおいて使用される CFRP は,素材である

炭素繊維のコストはもちろん,CFRP の生産性やリサイクル性は克服しなければならない

技術課題である.

CFRTP は,熱を加えることによって軟化と硬化を繰り返す熱可塑性樹脂をマトリックス

として使用している.熱可塑性樹脂は分子鎖の絡み付きによって硬化する.加熱すること

によって分子鎖の絡み付きが解け,熱可塑性樹脂は流動性を持ち,冷却することによって

流動性が低くなり,再び分子鎖が絡みつくことによって硬化する.したがって,熱可塑性

樹脂の硬化には可逆性があり,硬化するための時間は冷却する時間のみとなる.ゆえに

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CFRTP は CFRTS の生産性やリサイクル性の問題を克服して今後飛躍的に生産量を増や

していく可能性を有する材料である.表 1.1-1 と表 1.1-2 に熱硬化性樹脂をマトリックスに

用いたこれまでのCFRTSとマトリックスに熱可塑性樹脂を用いたCFRTPの利点と欠点を

示す.

この表からも,CFRTP は,CFRTS の軽量,高強度,高剛性の優れた特性と合わせて,

生産性とリサイクル性に優れた材料になる可能性を有することは明らかである.生産性と

リサイクル性の実現のためには,炭素繊維のコストの低減に加えて, CFRTP の成形シス

テムとリサイクルシステムの構築が必要不可欠である.

図 1.2-1 熱硬化性樹脂と熱硬化性樹脂のイメージ図

表 1.1-1 CFRTS の利点・欠点

利点 欠点

常温で粘度が低い(含浸が比較的容易) 成形サイクルが長い

強度・剛性に優れる リサイクルが困難

型に沿いやすい(成形が比較的容易) リペアが困難

耐熱性に優れる 保存設備が必要(プリプレグ)

耐衝撃性が弱い

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表 1.1-2 CFRTP の利点・欠点

利点 欠点

成形サイクルが短い 樹脂の溶融粘度が高い

リサイクル性が高い 耐熱性が低い

リペアが可能 賦形しにくい

保存設備が不要 クリープが生じやすい

靱性がある(耐衝撃性が強い) 強度が弱い

二次加工が可能

1.2 CFRTP の開発の歴史

炭素繊維が開発された当初から,熱可塑性樹脂を用いた射出成形の強化材として炭素繊

維を利用しようとする試みが行われた.しかし,成形法の特徴から繊維の長さを長くする

ことができないため,炭素繊維の持っている優れた強度と剛性を十分に活かせず,大きな

市場を形成するに至っていない[3-9].

炭素繊維を連続繊維の状態で熱可塑性樹脂と組み合わせて使おうとする場合の成形法は

基本的には圧縮成形である.熱可塑性樹脂は高温において液状になるが,熱硬化性樹脂に

較べて一般に粘度が高く,織物などの連続繊維に溶融した熱可塑性樹脂を含浸することは

容易ではない[3-10].

PEEK(Poly-Ether-Ether-Ketone)はイギリスの ICI 社(Imperial Chemical industries)が

1970 年代後半に開発した熱可塑性樹脂であり,ガラス転移温度および融点が高く靱性にも

優れている.また,自己消火性を持つ難燃性材料であり,酸,アルカリ,熱水に対しても

耐性を持つ樹脂である.PEEK は通常のエンジニアリングプラスチックとして注目されて

いたものの,耐衝撃性が高いことから,1980 年代に入って PEEK をマトリックスとした

CFRTP の開発が進んだ.1990 年頃からは航空機部材への適用を目指した開発が続けられ

ている.しかし,PEEK は高価であることから,一般工業用途では用いられず,航空宇宙

分野に限定して検討されているのが現状である[3-11].

1980 年代後半から 1990 年代初めにかけて CFRTP の成形法の開発が盛んに行われた.

CFRTP の最大の課題は樹脂を繊維束に含浸させる「含浸技術」であることは言うまでもな

い.さらに,マトリックスである熱可塑性樹脂は常温で固く,成形型に沿わないため賦形

しにくいという問題がある.その問題をするために,強化繊維やマトリックス樹脂を組み

合わせた中間材料の形態が模索された.その結果,強化繊維の柔軟性を保ちつつ,高粘度

の熱可塑性樹脂をどのように含浸させるかという考えに焦点が当てられた.当時開発され

た材料形態は,強化繊維の織物と樹脂繊維の織物を積層したフィルムスタッキングの織物

板,強化繊維と樹脂繊維を織物の経糸,緯糸として交互に織る混交織織物(Cowoven Fabric),

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強化繊維と樹脂繊維を糸レベルで混合した混繊糸(Commingled Yarn)である.これらの材料

は,常温ではまだ強化繊維束にマトリックス樹脂が含浸していない非含浸状態であるため,

十分な賦形性を有しており,複雑な形状の成形金型に沿いやすい材料である.しかし,圧

縮成形の工程で成形と同時に樹脂を繊維に含浸させて成形品を得ることを想定しているた

め,成形サイクルは必然的に長くなる.さらに,成形技術が未熟であれば成形品にボイド

が多く残り,高品質の成形品を製造するのは困難であった.

以上のような中間材料の欠点があり,材料を成形に使用する企業が求める CFRTP の中間

材料の形態ではなかったため,普及には至らなかった[5-8].

CFRTP に対する工業界の期待は,射出成形にイメージされる成形サイクルの短さにある

と考えられる.この期待に応えるべく,材料を供給する企業の側でマトリックス樹脂の含

浸を完全に終えた CFRTP 積層板の形で提供し,賦形とトリミングのみを部品メーカーで完

了する方向に市場が変わってきた[5-8].樹脂含浸済みの UD テープなどのさまざまな

CFRTP の材料が開発されてきた.しかし,日本では材料のシーズを基に開発されたために

用途開発に困難を極めたこと,CFRTP を賦形する技術が乏しく,製品の試作が困難であっ

たことが大きな原因となり,東洋紡が開発した商品名:クイックフォームのみが国内では

生き残っている[5, 12].

2008 年~2013 年の 5 年間は,NEDO 国家プロジェクトで「サステナブルハイパーコン

ポジット技術開発」が実施された[5-8].このプロジェクトでは自動車部品への適用という

ニーズを基に CFRTP の開発が行われた.中間材料として短繊維を用いた CFRTP および連

続繊維の一方向材 CFRTP の開発が行われ,安価なポリプロピレン(Poly-Propylene: PP)

やポリアミド(Poly-Amide: PA)などの汎用熱可塑性樹脂がマトリックスとなっている.この

プロジェクトでは,強度の高い中間材料の開発,ハイサイクル成形の確立,接合技術,リ

サイクル技術の確立が行われ,今後の CFRTP の技術開発の先駆けの役割を果たしたと言え

る.しかし,コストの低減や長期耐久性のデータの取得が手つかずの状態であり,実用化

のためにはさらなる研究が必要である[8].

以上の CFRTP の開発動向から,CFRTP の実用化には,材料用途が明確であること,材

料を供給する企業は樹脂含浸済みの CFRTP 積層板の形態で市場に供給すること,部品メー

カーで供給された CFRTP 積層板を目的に合った賦形とトリミングする技術が確立してい

ることが必要であることがわかる.

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図 1.2-1 非含浸タイプの形状[5]

1.3 スタンピング成形技術の現状と課題

連続繊維を用いた CFRTP を製品の形に賦形する方法として,スタンピング成形法がある.

この成形法は,連続繊維に熱可塑性樹脂を含浸して積層板の形にする成形工程と,数枚あ

るいは 1 枚の積層板を金型に挟みこみ,熱と圧力をかけて厚さ一定のシェル形状にする賦

形工程の 2 つの工程からなる.前節で取り上げた強化繊維と熱可塑性樹脂繊維を混合した

織物を数枚重ねたものを賦形する成形法もスタンピング成形法のひとつとする分類法もあ

るが,ここでは前者をスタンピング成形法と定義する[3-4,6-8 ].

CFRTP のスタンピング成形では賦形工程での繊維の乱れや偏りを防止するために通常

炭素繊維は織物材が使われる.また熱可塑性樹脂はフィルムの形態で使われることが一般

的である.強化繊維と樹脂繊維の混交織織物(Cowoven Fabric),糸レベルで混合した混繊

糸(Commingled Yarn),あるいはパウダー形態が使われる場合もあるが,本研究では樹脂を

フィルムの形態で使う場合を取り上げる.成形工程において炭素繊維織物材と熱可塑性樹

脂フィルムを交互に重ね,プレスで熱と圧力を加えて積層板が成形される.

スタンピング成形法の一般的な特徴は,連続炭素繊維の持っている高強度と高剛性が安

定的に維持されることである.また,予め含浸した CFRTP 積層板を使用すれば賦形サイク

ルを短時間にすることもできる.この方法の短所は,含浸した積層板の剛性が高いので,

複雑な形状の賦形は難しいことが挙げられる[42-42, 47-53 ].しかし,厚さ一定で曲率の小

さいシェル構造は様々な分野における構造部品の一般的な形状であり,産業界における需

要は大きい.スタンピング成形における賦形工程を図 1.3-1 に示す[3].以下,スタンピン

グ成形を成形工程と賦形工程に分けてそれぞれの技術課題について言及する.

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図 1.3-1 スタンピング成形の賦形工程 [3]

1.3.1 CFRTP 積層板の成形工程

CFRTP のスタンピング成形システムにおける前工程である積層板の成形工程の課題は,

繊維に樹脂を良く含浸させ,繊維の乱れや白化およびボイドのない積層板を成形すること

にある.得られた積層板の機械的性質(曲げ強度や衝撃強度)が十分発揮されることも当

然要求される.しかし,熱可塑性樹脂は溶融粘度が高いため樹脂を繊維束に含浸させるの

は熱硬化性樹脂に較べて困難であり,優れた表面品質や強度が容易には発現しない.表面

品質および強度を確保し,低コスト化を実現することが開発には求められる.低コスト化

実現のために要求される課題は積層板の成形サイクルの短縮であるが,この実現のために

効率的に樹脂を繊維束へ含浸させる方法がいくつか提案されている.その含浸法は溶融法

[33],パウダー法[34-40],樹脂フィルム含浸法[24-32],混繊法[16-23]などである.

以下にそれぞれの方法について説明する.

溶融法は押出機で熱可塑性樹脂を溶融し,溶融バスの中に連続繊維を通し,繊維束内部

に樹脂を含浸させる製造法である.長所は設備投資やエネルギー消費が少なく,環境問題

も少ない点にある.短所は使用できる樹脂が限定される点にある.すなわち耐熱性が高く,

溶融粘度が高い樹脂には適さない.図 1.3-2 に溶融法の例を示す[33].

図 1.3-2 溶融法を用いた樹脂含浸法[33]

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パウダー法は,パウダー状に破砕した樹脂を使用する含浸法である[26-32].パウダー化

することで,樹脂と繊維の含浸距離を短くして含浸時間を短縮することができる.パウダ

ーを付着させる方法はいくつかあり,振り掛ける方法や静電気で付着させる方法,樹脂パ

ウダーを水あるいは溶剤に均一分散させた漕の中に強化繊維を通し,パウダーを強化繊維

に付着させる方法がある.パウダー法の長所は,使用できる樹脂が多く含浸しやすいため,

高品位の CFRTP を得ることができることや,含浸速度を短縮することができることである.

短所は樹脂をパウダー化するのが難しく,材料費が高くなることである.図 1.3-3 にパウダ

ー法のイメージ図を示す.

図 1.3-3 パウダー法のイメージ図[71]

樹脂フィルム含浸法(フィルムスタッキング法)は,樹脂フィルムと強化繊維を合わせ

て,ホットプレスやダブルベルトプレスで樹脂を溶融含浸させる方法である.この方法の

長所は樹脂のフィルム化はパウダー化に比べ安価であること,樹脂量の調節が簡易であり

安定した繊維含有量を維持できること,幅の広い CFRTP を製造できる点である.短所は樹

脂のフィルム化が必要であること,パウダー法や混繊法に比べ繊維と樹脂の含浸距離が長

いため含浸時間が比較的長いことである.図 1.3-4 にフィルムスタッキング法のイメージ図

を示し,図 1.3-5 にダブルベルトプレスの例を示す.

図 1.3-4 樹脂フィルム含浸法のイメージ図[71]

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図 1.3-5 ダブルベルトプレスのイメージ図[42]

混繊(コミングル)法は,強化繊維と熱可塑性樹脂繊維を複合化して複合糸を作成する

技術を言い,この複合糸を混繊糸(コミングルヤーン)と言う.強化繊維と熱可塑性樹脂

繊維を一緒に織り込むことで,含浸時の含浸距離が短くなり含浸時間を短縮する狙いがあ

る.この方法の長所は,未含浸の材料であるため型に沿いやすいことである.短所は樹脂

の繊維化が必要なため使用できる樹脂が制限される点や熱可塑性樹脂の繊維化コストが高

いことである.図 1.3-6 に混繊法のイメージ図を示す.

図 1.3.6 混繊糸のイメージ図[71]

このように,CFRTP の積層板を成形するに当たり繊維への樹脂の含浸方法が様々に提案

されている.CFRTP の用途により炭素繊維や樹脂の種類を決定し,それに相応しい含浸方

法が選択されなければならない.さらにより良い表面品質やより高い強度を求めて成形条

件が決められねばならない.

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1.3.2 CFRTP 積層シェル構造のスタンピング賦形工程

予め樹脂を含浸した CFRTP 積層板を用いて一定の厚さを持つ三次元形状のシェル構造

に賦形する工程においては,室温において高い剛性を保持している積層板を金型に挟み昇

温することで積層板を軟化させ,型に沿わせ室温に戻すことで賦形する.このような方法

で賦形される製品は複雑な形状を求めるには適していない.しかし,産業界には比較的薄

肉で曲率の小さいシェル構造の積層品の需要が大きいことからスタンピング成形システム

は今後も発展する余地が十分にあると推測される.

積層板を賦形する工程を経て成形されたシェル構造の積層品には,積層板に求められた

表面品質と強度に加えて,寸法安定性つまり寸法精度の高さと経時変形の抑制が求められ

る.多くの研究により,スタンピングによる賦形工程の諸条件の上記の項目への影響が検

討されている.図 1.3-7 にスタンピング成形に用いられる代表的な金型のイメージ図を示す.

スタンピング条件には,温度,圧力,保持時間,プレス速度,冷却速度,金型の曲率,ブ

ランクホルダーの圧力などが検討されている [42-42, 47-53].スタンピング条件がシェル構

造に賦形された積層品の表面品質の問題であるしわ,繊維の乱れ,残留気泡に及ぼす影響

が検討されている.さらに,積層板を金型に沿わせるための炭素繊維の織り方の工夫も行

われている.スタンピング時の炭素繊維織物の挙動は多くのシミュレーションにより検討

されている[55-63].スタンピング成形後の強度についての研究も,熱履歴が引張強度に与

える影響や,使用環境の温度や湿度が引張強度,圧縮強度,曲げ強度,衝撃強度,疲労強

度に与える影響など,多方面から検討されている[44-45, 64-66].スタンピング成形よる賦

形の後の寸法精度については,賦形条件のスプリングバックへの影響の実験的検討,シミ

ュレーションを用いた数値解析などが行われている[51,54].しかし,長期の寸法安定性つ

まり経時変形について議論している報告はない.スタンピング成形による CFRTP 積層シェ

ル構造品を本格的な構造部材として使用するためには,寸法安定性を含む長期の耐久性は

重要な項目であり,今後の検討課題である.

予め含浸した CFRTP 積層板を使用してスタンピング賦形をより効率よく行うためには,

スタンピング成形システム全体を俯瞰した技術革新が必要となる.それは,樹脂を繊維に

含浸する成形工程と,できあがった CFRTP 積層板から複雑な形状の成形品を作る賦形工程

を連続させる技術革新である.この技術課題に対して提案された具体的方法を記す.それ

は不連続繊維を用いたCFRTPと連続繊維を用いたCFRTPを組み合わせたハイブリット成

形である.図 1.3-8 に示すように,ハイブリット成形を行うことで強度の保持と複雑な形状

の成形品の両立を意図している[6, 8, 46].樹脂の含浸の後,ロールを用いて連続的に賦形

する方法が取られている[67-68].図 1.3-9 に連続賦形システムの例を示す.

このように,スタンピング成形を用いた CFRTP の賦形方法の技術開発が精力的に進んで

いる.スタンピング成形は CFRTP を賦形する技術として今後も発展することが期待される.

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図 1.3-7 スタンピング成形による賦形のイメージ図[41]

図 1.3-8 ハイブリットスタンピング成形[6]

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図 1.3-9 ロールを用いた連続スタンピング成形装置[68]

1.4 ポリカーボネートについて

ポリカーボネートは,ビスフェノール A および塩化カルボニル(もしくはジフェニルカー

ボネート)を原料に合成された透明な非晶性高分子材料であり,エンジニアリングプラスチ

ックのひとつである.図 1.4-1 にポリカーボネートの化学式を示す.

ポリカーボネートの長所は,分子構造内に極性を持つエステル結合 C=O の官能基がある

ことである.そのため,分子間力が強く,衝撃強さは熱可塑性樹脂の中でも最高レベルに

ある.また,ガラス転移温度が約 150℃と高く耐熱性に優れている.また,①低温靱性が良

い(-110~-130℃).②耐候性に優れている.③吸水性が低い.などの特長がある.さらに,

寸法安定性が良いことや透明性が高いことから光記録用材料としての利用や,耐衝撃性か

ら自動車などのヘッドランプカバーに使用されている.一方,①アルカリや有機溶剤に侵

されやすい.②疲労強度が弱い.③溶融粘度が高い.④やや成形性が劣るなどの短所があ

る.

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CFRTP のマトリックスとしてポリカーボネートを使用した場合,いくつか大きなメリッ

トが予測できる.先ず,ポリカーボネートは樹脂単体では熱可塑性樹脂の中でも高い耐衝

撃性を持つため,これを用いた CFRTP は耐衝撃性が高い材料になると考えられる.CFRP

の衝撃後の強度の低下は問題視されているので,この耐衝撃性の向上は重要なメリットと

言える.さらにガラス転移温度が約 150℃と高く,一般的な使用環境下では CFRTP の耐熱

性の問題は発生しないと考えられる.一方,一般的で安価な樹脂であるポリプロピレン(PP)

やポリアミド(PA6)はガラス転移温度がそれぞれ約 0℃,50℃と低く,構造部材として使う

には耐熱性に不安がある.また,ポリカーボネートの大きな特徴として非晶性であること

が挙げられる.そのため,ポリカーボネートの融点は明確に存在しないので,ガラス転移

温度が高いにも関わらず融点が低い.スタンピング成形を行う際は,一般的に融点以上で

行うためポリカーボネートの融点が低いことはスタンピング成形のハイサイクル化を促進

すると考えられる.したがって,炭素繊維強化ポリカーボネート(CF/PC)は使い勝手の良い

材料であると考えられる.しかし,ポリカーボネートの溶融粘度は高いため,含浸工程が

困難であると言える.含浸はコンポジットの表面性状および強度に大きく影響するため,

CF/PC の材料を評価するためには,表面品質および強度に優れた CF/PC 積層板を成形する

ことが必要となる.第 3 章で詳細に示すが CF/PC の論文を参照しても,ほとんどの論文は

短繊維を用いたコンポジットを評価している.連続繊維を用いた CF/PC のコンポジットを

評価している報告もあるが,成形には特殊な成形方法や金型を使用する.また,成形には

ノウハウがあり,安定して成形するためには,実際に成形しながら検討する必要がある.

図 1.4-1 ポリカーボネートの分子構造

1.5 研究目的および意義

スタンピング成形システムにより製造される CFRTP 積層シェル構造は高い生産性とリ

サイクル性の特徴を持ち,様々な工業分野での需要が期待できることが前節までで明らか

になった.CFRTP 積層シェル構造を構造部材として利用しようとした場合,一般的には先

ず繊維の配列の乱れ,白化,ボイドが極力認められない表面品質が要求される.さらに静

的強度や衝撃強度と言った強度の高さと製品の寸法精度や長期間の寸法安定性も構造材料

として当然確保されるべき項目である.これらの要求項目を満足するように炭素繊維織物

と熱可塑性樹脂の選定から始まり,積層板の成形工程およびスタンピング賦形工程におけ

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る諸条件が決定されなければならない.しかし,スタンピング成形システムによって成形

される製品に対する様々な要求を成形工程と賦形工程の中でどのように解決するかについ

て総合的に捉えた研究はこれまで見当たらない.

本研究では,平織炭素繊維とポリカーボネートの組み合わせからなる積層板(Carbon

Fiber Reinforced Polycarbonate: 以下 CF/PC 積層板と略称)を対象とした.CFRTP の強

化繊維として織物材を用いることによって,賦形時に生じる大きな形状変形による繊維の

乱れが抑制され,高強度および高剛性が期待できる.ポリカーボネートは 1.4 節に示したよ

うに優れた材料であるが,ポリカーボネートの耐熱性および溶融粘度が高いため,CF/PC

積層板の成形およびその加工には技術的な課題が多い.そこで,炭素繊維織物に樹脂を含

浸して積層板の平板を成形する工程と,この平板をスタンピングによって賦形する工程か

らなるスタンピング成形システムにおける成形の諸条件と成形品の表面品質,強度および

寸法安定性の関連について検討し,CF/PC 中間材料を用いた高品質のスタンピング成形品

を実現するための指針を示すことを目的とした.

1.6 技術開発の取り組み方

CF/PC スタンパブルシートを社会的に普及させるためには,最終製品を考慮した技術開

発が必要である.スタンピング成形システムで製造される CF/PC 積層シェル構造の製品に

一般的に要求される項目は表面品質,強度および寸法安定性の 3 点である.スタンピング

成形システムは樹脂を繊維束に含浸して平板の積層板を成形する工程と,この積層板を賦

形する工程からなる.寸法安定性の確保は賦形工程で解決されるべき技術課題であるが,

表面品質と強度については積層板を成形する工程で十分に満足するレベルまで到達させ,

賦形工程では到達したレベルを維持するに留めることが成形システム全体を合理的にする

ことになると考えた.さらに,積層板の表面品質の問題は強度の問題に影響を与えるため,

先ずは表面品質の問題を解決する必要があり,次に強度の確保を行うために成形条件を変

えるべきであると考えた.CFRTP の成形条件は炭素繊維と樹脂の接着強度に影響を与える

ことは報告されているため,成形条件を変化させて積層板の曲げ強度の向上を図ることで

効率的な開発方針になると考えた[69-71].

以上,開発戦略をまとめると次のようになる.先ず表面品質に優れた CF/PC 積層板を成

形する方法を確立する.次に曲げ強度に優れた CF/PC 積層板の成形条件を検討する.その

次に,曲げ強度に優れた CF/PC 積層板の衝撃後の残留曲げ強度を検討することで,最終目

的である三次元成形品の耐衝撃性を保証する.最後に寸法安定性に優れた CF/PC スタンピ

ング成形品の条件を検討する.以上の過程を経て,表面品質,強度および寸法安定性に優

れた CF/PC スタンピング成形品の成形システムを確立する.

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1.7 論文構成

本論文は,以下の 6 章から構成される.

第 1 章では,本研究における背景および従来研究の動向に触れながら,本研究の目的を

述べ,さらには技術開発の取り組み方について考察する.

第 2 章では,炭素繊維織物と PC シートを積層し,CF/PC 積層板を成形する工程での技

術開発について述べる.この工程においては樹脂の繊維への含浸と外観性状(繊維乱れ,

白化,ボイド)の向上を目標に成形方法に様々な工夫を凝らせたことを述べる.

第 3 章では,CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす成形温度と成形時間の影響を系統的に評

価し,繊維と樹脂の機械的性質から予測される曲げ強度の理論値を実現できる成形温度と

時間の条件を見出すことができたことを述べる.

第 2 章では,第 2,3 章で成形した CF/PC 積層板と比較のために,代表的な熱硬硬化性

樹脂であるエポキシ樹脂を使用した炭素繊維強化エポキシ樹脂(CF/EP)積層板を用いて,

CF/PC 積層板の耐衝撃性を評価したことを述べる.落錘試験による損傷を超音波探傷,断

面観察を行い,さらに衝撃後の曲げ強度を CF/EP 積層板のそれらと比較することで CF/PC

積層板の衝撃に対する特徴を明らかにする.

第 5 章では,第 2,3 章で成形した CF/PC 積層板を使用し,スタンピング成形品の寸法

安定性に与えるスタンピング温度の影響を検討したことを説明する.さらに,マトリック

ス材であるポリカーボネートの粘弾性特性からスタンピング成形品の長期の寸法安定性を

考察する.

第 6 章は結論であり,本研究で得られた成果をまとめ,今後の展開を述べる.

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第 2 章

CF/PC 積層板の成形方法の検討

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2.1 はじめに

1.5 節で述べた合理的なスタンピング成形システムの開発の考え方に基づき,成形工程で

製造される炭素繊維強化ポリカーボネート(CF/PC)積層板の表面品質の改善を行った.改善

の具体的項目としては,繊維の乱れ,白化,表面の残留気泡が挙げられる.これらは商品

として当然のこととして要求される項目であるが,強度にも影響する重要な項目であるた

め,先ず始めに取り組んだ.一般的に CFRTP の表面品質には樹脂の繊維に対する含浸状態

が直接的に影響することから,樹脂を繊維へ効率的に含浸する成形方法がいくつか提案さ

れている.1.3 節で述べたように,溶融法,パウダー法,コミングルヤーンを用いた混織法,

フィルムスタッキング法,マイクロブレーディング法などが挙げられる.本研究では,操

作性および材料コストの観点からフィルムスタッキング法を選択した.

本研究では耐熱性および耐衝撃性に優れたポリカーボネート(PC)をマトリックスとして

選択しているが, PC の性質を反映して,CF/PC 積層板は高強度,高剛性に加え耐熱性,

耐衝撃性に優れた材料であることが期待できる.CF/PC 複合材の研究はいくつか報告され

ている.Privalko らは[1]短繊維の炭素繊維と PC のコンポジットを用いて,樹脂の熱収縮

が繊維とサイジング剤の界面に与える影響を研究している.Ozkan ら[2]は短繊維炭素繊維

と PC のコンポジットを用いてサイジング剤が与える引張特性および衝撃特性に与える影

響を研究している.Choi ら[3]はカーボンナノチューブ(Carbon nanotube: CNT)と PC のコ

ンポジットを用いて,製造方法が及ぼす繊維の分散性,配向性および機械的特性の影響を

研究している.多くの研究は射出成型を想定した研究であるが,少ないながら連続繊維を

用いた研究報告もある.Brady ら[4]はフィルムスタッキング法により一方向炭素繊維強化

ポリカーボネート複合材料を使用し,引張特性に及ぼす成形温度とアニーリングの影響を

報告している.田中ら[5]はノンクリンプファブリック炭素繊維と PC フィルムの組み合わ

せの CF/PC 複合材を対象にフィルムスタッキング法を用いた真空含浸法による成形を行い,

真空含浸法の有用性とCF/PCの物性を評価している.このように,連続繊維を用いたCF/PC

の成形にはフィルムスタッキング法が用いられている.

本章では,表面品質を改善するために,材料の前処理,積層方法,金型形状などを検討

したことを述べる.

2.2 供試材料

本実験に使用した供試材料は,PAN 系の 3k 炭素繊維平織物シート(目付 200g/m2)およ

び PC フィルム(厚み:0.15mm および 0.3mm)である.CF シートは東レ製 T300 相当の物

性を持つ. PC として は住化スタイロンポリカーボネート㈱製 (商品名:

CAREVERTM301-15)を使用した.炭素繊維と PC の物性値を表 2.2-1 に示す.

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表 2.2-1 炭素繊維とポリカーボネートの物性値

Materials Density

(g/cm3)

Tensile elastic

modulus (GPa)

Tensile

strength

(MPa)

Breaking

elongation (%)

Carbon fiber 1.80 230 3450 1.5

Polycarbonate 1.20 2.3 60 10

2.3 ポリカーボネートの吸水性

ポリカーボネートの成形性の問題として,第一に溶融粘度が高いことが挙げられる.ポ

リカーボネートの融点は明確には存在しないが,射出成形に用いる流動性を持つ温度など

から融点は 240℃となる.そのため,成形は 240℃で行うこととした.さらに,ポリカー

ボネートは高温下では加水分解を起こすことが知られている.したがって,成形前にはポ

リカーボネートの乾燥が必要である.ポリカーボネートの乾燥時間と水分量の変化を図

2.3-1 に示し,室温放置時間と含水率の変化を図 2.3-2 に示す[6].図より,120℃以上の温

度で 2 時間以上乾燥させる必要があり,CF/PC を 30 分以内に行うこととした.

図 2.3-1 ポリカーボネートの乾燥時間と含水率の関係(初期含水率 0.18%)

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図 2.3-2 ポリカーボネートの室温放置時間と含水率の関係

2.4 CF/PC 積層板の成形方法の検討

フィルムスタッキング法により CF/PC 積層板を成形する方法は大きく分けて2つ考えら

れる.①予め1枚の未含浸のCFシートに樹脂を含浸させて1層のCF/PCシートを成形し,

これを複数枚重ねて溶融接着することによって CF/PC 積層板を成形する方法.②未含浸の

CF シートと PC フィルムを交互に複数枚重ねて,CF/PC 積層板の含浸と融着を同時に行う

成形方法.

先ずは,含浸が容易である考えられる 1 枚のシート状 CFRTP の成形を試みた.成形機

はホットプレス機(テスター産業㈱製)を使用した.図 2.3-1 にホットプレス機の写真を示す.

用いた金型の概略図を図 2.3-2 に示す.離形フィルムはカプトンフィルム(東レ・デュポン

㈱:品名 300H)に離型剤 MOULD RELEASE QZ-13(ナガセケムテック㈱)(以下 QZ-113 と

略す)を塗布したものを使用した.ホットプレスの温度,圧力および保持時間は,成形温度

240℃,成形圧力 3MPa,保持時間 10min とした.冷却は空冷により行った.具体的には,

金型を使用したホットプレスによる CF/PC シートの圧縮成形を行った後,ホットプレスか

ら金型を取り出し,CF/PC シートを金型で挟んだ状態で約 2 時間空冷した.図 2.3-3 に成

形中の温度履歴,圧力履歴を示す. CF/PC 積層板の繊維体積含有量が約 45%になるよう

に PC フィルムと CF シートの割合を調整した.検討した積層方法を表 2.3-1 に示す.具体

的には,以下の方法で行った.①CF シート 1 枚と厚み 0.075mm の PC フィルム 2 枚使用

し,CF シートを PC フィルムで挟むように積層する.②CF シート 1 枚と厚み 0.15mm の

PC フィルム 1 枚を使用し積層する.③CF シート 2 枚と厚み 0.3mm の PC フィルム 1 枚

を使用し,PC フィルムを CF シート 2 枚で挟むように積層する.

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①の積層方法で成形すると図 2.3-4 に示すように,表面に気泡が発生した.その原因は溶

解した樹脂がシート全体を覆い,繊維の中の気泡が中に閉じ込められ,その気泡が爆発し

たと考えられる.そのため,②の方法や③の方法で成形を行うことで含浸中に残留する気

泡が外側に流れ出るのではないかと考えた.②の方法で成形を行うと,表面にボイドは残

らなかったが, CF/PC シートが反ってしまった.原因は,樹脂の冷却による収縮量の差が

CF/PC シート内で発生したためと考えられる.この結果より,反らないようにするために

CF/PC シートの厚さ方向の真ん中を中心にして,繊維と樹脂の量を対称とすることが必要

であることがわかった.図 2.3-5 に②で成形した CF/PC シートの写真を示す.次に,片側

から樹脂を含浸させ,CF/PC シートの厚さ方向の真ん中を中心にして,繊維と樹脂の量が

対象となる方法として③の方法で成形を行った.その結果,表面にボイドの残留がなく,

反りもない CF が 2 層の CF/PC シートを成形することができた.図 2.3-6 に③の積層方法

で成形した CF が 2 層の CF/PC シートの写真を示す.この 2 層の CF/PC シートを用いて,

2mm の板厚の CFRTP を成形することを試みた.CF/PC シートを融着するために,ホット

プレスを使用し,厚みが 2mm になるようにスペーサーを使用した.結果は繊維が乱れ,層

間にボイドがある CF/PC 積層板となった.図 2.3-7 にその時の CF/PC 積層板の断面写真を

示す.

以上の検討から,層間のボイドを抜く方法を考えることが必要不可欠との考えにたどり

着いた.そこで多層に重ねた CF シートから一気に必要厚さの CF/PC 積層板を成形すると

いう考えに至った.先ずボイドが層間に残留する原因は,薄い CF/PC シートを複数枚重ね

て積層板を成形する場合は溶融した樹脂同士が接着することで,ボイドが樹脂の間に取り

残され,その状態で圧力が抜かれてボイドが膨張すると考えた.根本的な解決方法として,

PC フィルムと CF シートを交互に積層し,冷却機能付きのホットプレスを使用した.詳細

は①の積層方法で問題となる含浸した際に発生するボイドを解決するために,PC フィルム

を CF シートから 50mm 小さくすることによって,繊維束の中のボイドが繊維に沿って外

に抜けていくようにした.しかし,CF/PC の圧縮成形を行う際,多層の PC フィルムを使

用するために樹脂量が増え,繊維の乱れが大きくなった.その対策として,図 2.3-7 に示す

ような金型を使用し,樹脂の流れを抑制するための土手を設けた.また,残留したボイド

の膨張を防ぐため,図 2.3-8 冷却機能付きのホットプレス(上島製作所製)を使用した.し

かし,樹脂は冷却することにより収縮するため,図 2.3-9 に示したような形状の金型では,

冷却中にすき間が空いてしまう可能性があり,圧力をかけられないことが考えられる.そ

こで,金型の上部分が下金型に取り付ける土手の内側に入るように設計した.

以上のように,実験および検討を繰り返すことで表面品質に優れる材料を得ることがで

きた.図 2.3-10 および図 2.3-11 にこの方法により成形した CF/PC 積層板の表面写真と断

面観察をそれぞれ示す.

以下にその実際に行った成形方法を示す.

2mm の CF/PC 積層板を使用するために,長さ 300mm 角の平織 CF シートを 8 枚,厚

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み 0.15mm,長さ 250mm角のポリカーボネートフィルムを 5枚,厚み 0.3mm,長さ 250mm

角の PC フィルムを 4 枚準備した.ポリカーボネートの加水分解を防ぐために,成形前に

120℃の恒温槽で 2 時間真空乾燥を行った.さらに,材料に汚れが付かないようにするため

に,操作中は必ずゴム手袋を装着する必要がある.図 2.3-9 に示す金型を使用し,離型剤

QZ-13 を金型に塗布した.図 2.3-8 に示す冷却機能付きのホットプレスを使用した.成形条

件は成形温度 240℃,成形圧力 3MPa,保持時間 30min,冷却中は 3MPa の圧力を保持し

たまま水冷を行った.

図 2.3-1 高精度ホットプレス

図 2.3-2 簡易 CFRTP 板材成形用金型

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図 2.3-3 高精度ホットプレスを用いた温度履歴および圧力履歴の概略図

表 2.3-1 CF シートと PC フィルムの積層方法

CF シート PC フィルム 積層方法

① 1 枚 2 枚(0.075mm)

② 1 枚 1 枚(0.15mm)

③ 2 枚 1 枚(0.3mm)

図 2.3-4 ①の成形方法を用いた CF/PC シート

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図 2.3-5 ②の成形方法を用いた CF/PC シート

図 2.3-6 ③の成形方法を使用した CF/PC シート

図 2.3-7 CF シートが2層の CF/PC 積層板の断面写真

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図 2.3-8 冷却機能付きホットプレス

図 2.3-9 改善した金型形状と材料の積層構成

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図 2.3-10 改善した成形方法で成形した CF/PC 積層板の外観写真

図 2.3-11 改善した成形方法で成形した CF/PC 積層板の断面観察

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2.5 まとめ

表面品質の優れた CF/PC 積層板を得ることを目標に積層板成形の諸条件の影響を検討し

た.具体的には,平織 CF シートと PC フィルムの積層による樹脂含浸法に注目し,これら

の積層方法や成形温度,成形圧力などに関する検討を行った.最大の選択は,1層または2

層の CF/PC シートを最初に成形してこれを複数枚重ねて所定の厚さの CF/PC 積層板を成

形するのではなく,最初から複数枚の CF と PC を重ねて所定の厚さの CF/PC 積層板を一

気に成形することにしたことである.加えて以下に示す様々な工夫を行った.PC の加水分

解による気泡は,成形前に 120℃の恒温槽で 2時間真空乾燥を行い解決した.表面に残留す

る気泡は,含浸時の空気の抜け方に着目し,平織 CF シートより PC フィルムを小さくする

工夫を行い解決した.内部に残留した気泡は,冷却中に圧力をかけられるホットプレスお

よび金型を準備することによって解決した.繊維の乱れは,樹脂の流れを抑制する土手を

設けた金型を準備することによって解決した.これらの工夫により,繊維の乱れや樹脂の

白化,表面のボイドの確認できない高品位の CF/PC 積層板を成形できる方法を確立した.

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参考文献

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SCIENCE, 1999; 39: 1525-1533.

2. Ozkan C., Karsli N.G., Aytac A. and Deniz V. “Short carbon fiber reinforced

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3. Coi Y.K., Sugimoto K. Song A.M. and Endo M., “Production and characterization of

polycarbonate composite sheet reinforced with vapor grown carbon fiber”,

Composites: Part A, 2006; 37: 1944-1951.

4. 田中 和人,柏原 仁, 片山 傳生,“連続炭素繊維強化ポリカーボネート樹脂複

合材料の真空拘束圧縮成形とその機械的特性評価”Journal of the Society of

Materials Science ,Japan, 2011; 60: 251-258.

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polycarbonate in carbon fiber composites” Journal of Applied Polymer Science,

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6. 住化スタイロン, “TECHINICAL DATA CALIBERTM”, 2011.

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第 3 章

CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす

成形条件の影響

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3.1 はじめに

1.5 節で考察したスタンピング成形システムの開発方針に従い,2 章において CF/PC 積

層板の成形工程に着目し,製造される積層板の表面品質の向上を目指して成形方法に様々

な工夫を施した.本章では前章で確立した積層板の成形方法を採用し,成形される積層板

の機械的特性の向上を目指して,成形条件が機械的特性に与える影響を検討することを目

的とする.

CFRP の強度は様々な要因に影響されるが,特に繊維と樹脂の界面の接着は重要である

と考える.複合材料の強度は繊維と樹脂によって支配されることは当然として,界面の接

着強度にも大きく依存する.したがって CFRP の強度を上げるためには界面接着強度の改

善を行うべきである.

一般に熱可塑性樹脂と炭素繊維は接着性が低いことが知られており,繊維と樹脂の界面

強度を上げる研究が多く報告されている.Liu ら[1]は炭素繊維に水溶性の酸化剤を用いた

電気化学的酸化の処置を施し,炭素繊維と樹脂の界面接着強度が向上することを報告して

いる.さらに,Lee ら[2]は炭素繊維にマイクロ波プラズマ処置を施すことにより,界面強

度が向上することも報告している.圖子ら[3]はサイジング剤をアセトンで除去した炭素繊

維と無水マレイン酸を添加したポリプロピレンを用いることで,一方向炭素繊維強化ポリ

プロピレンの強度が向上することを報告している.Ozkan ら[4]は短繊維炭素繊維と PC の

コンポジットを用いてサイジング剤が引張特性および衝撃特性に与える影響を研究してい

る.また Brady ら[5]は一方向炭素繊維強化ポリカーボネート複合材料を使用し,引張特性

に及ぼす成形温度とアニーリングの影響を報告し,熱処理が繊維と樹脂の界面強度の向上

に寄与すると論じている.このように界面強度を上げる方法はいくつかあるが,繊維の表

面や樹脂に処置を施す方法はコストがかかるため,先ずは成形温度や成形時間の影響を検

討するべきであるとの考えを導いた.

本章では,一般的な荷重形態である曲げに着目し,曲げ強度を評価基準とした.その曲

げ強度の向上を目指して,樹脂に含まれる水分量,サイジング剤,成形条件である圧力,

温度そして時間を検討した.特に,本研究では成形温度および成形時間に着目し,成形温

度および成形時間を変化させて曲げ強度に与える影響について検討した.層間せん断強度

の測定と断面観察を加えて,繊維と樹脂の界面接着強度の視点から考察を加えた.さらに

代表的な CFRP である炭素繊維強化エポキシ樹脂(Carbon Fiber Reinforced Epoxy resin:

以下 CF/EP と略称)を使用し,FRP のマイクロバックリング圧縮破壊の理論強度から推測

される曲げ強度と比較し,CF/PC 積層板の曲げ強度の最大化を狙った.

3.2 供試材料

本実験に使用した供試材料は,PAN 系の 3k 炭素繊維平織物シート(目付 200g/m2)およ

び PC フィルム(厚み:0.15mm および 0.3mm)である.CF シートは東レ製 T300 相当の物

性を持つ.PC としては住化スタイロンポリカーボネート㈱製(商品名:CAREVERTM

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301-15)を使用した.前処理として,PC フィルムを 120℃で 2 時間の真空乾燥を行った.

また,サイジング剤は除去しないこととした.炭素繊維と PC の物性値を表 3.2-1 に示す.

表 3.2-1 炭素繊維とポリカーボネートの物性値

Materials Density

(g/cm3)

Tensile elastic

modulus (GPa)

Tensile

strength

(MPa)

Breaking

elongation (%)

Carbon fiber 1.80 230 3450 1.5

Polycarbonate 1.20 2.3 60 10

3.3 成形方法および成形条件

CF シートと PC フィルムをそれぞれ 300×300mm2,250×250mm2 にカットした.図

3.3-1 に示すように,前章で確立したフィルムスタッキング法を用いて積層成形した.8 枚

の平織炭素繊維シートと 9 枚の PC フィルムを交互に積層してホットプレス成形した.成形

工程中の温度履歴および圧力履歴の模式図を図 3.3-2 に示す.材料を溶融させる時間をとる

ために,ホットプレスを使い,材料をセットした金型を約 10min プレヒートした.冷却速

度は設定温度によるが約 9℃/min であり,時間にして約 30min を要する.金型をホットプ

レスから取り出すタイミングは,ホットプレスの温度が 50℃を下回った時点とした.詳細

な成形条件は各節で示すが,本章で重要視した成形温度と成形時間についての試験条件お

よび成形した CF/PC 積層板の繊維体積含有率 Vfとボイド率 Vvを表 3.3-1 に示す.240℃は

PC の流動温度であり,340℃は PC の耐熱性の限界温度である.表 3.3-1 に示すように,

Vvはすべて 3%以下であり,Vfは T-1 と T-6 以外,40%から 45%の範囲である.P シリー

ズの成形条件は後述する.

図 3.3-1 金型および積層方法

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図 3.3-2 成形工程の温度履歴と圧力履歴

表 3.3-1 CF/PC 積層板の成形条件,繊維体積含有率(Vf)およびボイド率(Vv)

(1) Effect of molding temperature

Molding

temperature

(°C)

Molding

pressure

(MPa)

Molding

time

(min)

Aging

Time

(min)

Vf

(%)

Vv

(%)

T-1 240

3 30 0

38.3 2.5

T-2 260 40.2 2.4

T-3 280 40.1 2.1

T-4 300 42.9 2.3

T-5 320 44.0 1.9

T-6 340 51.2 2.2

(2) Effect of aging time

Molding

temperature

(°C)

Molding

pressure

(MPa)

Molding

time

(min)

Aging

time

(min)

Vf

(%)

Vv

(%)

P-1 (T-3)

280 3 30

0 40.1 2.1

P-2 30 43.6 1.9

P-3 60 44.8 1.3

P-4 90 45.8 2.4

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3.4 評価方法

織物材を用いた CF/PC 積層板の曲げ特性に及ぼす成形条件の影響を評価するために,室

温で 3 点曲げ試験を行い,曲げ強度および曲げ弾性率を測定した(JIS-K7074)[6].それぞ

れ,曲げ強度に使用した式を式(1),曲げ弾性率を求めた式を式(2)に示す.

22

3

bh

LPb

bσ (1)

P

bh

LEb 3

3

4

1 (2)

式において,bは曲げ強度(MPa),Pbは荷重(N),L は支点間距離(mm),b は試験片の

幅(mm),h は試験片の厚み(mm)を示す.式(2)において,Eb は曲げ弾性率(GPa),P /δは

応力-ひずみ曲線の傾き(N/mm)を示す.試験片の長さ,幅,厚みはそれぞれ 100mm,15mm,

2mm である.支点間距離を 80mm,たわみ速度を 5mm/min で行った.試験装置はオート

グラフ(AG-IS:島津製作所製)を使用した.また,試験片の繊維方向は経糸を長手方向と

した.すべての曲げ強度は式(1)を使用し,Vf=50%に統一した.

Expf

ExpNor

50

V

, (3)

ここで,Norは Vf=50%に基準化した曲げ強度を示し,Expは試験による測定結果の曲げ

強度を示し,Vf·Expは実験に使用した試験片の Vfを示す.

炭素繊維と PC の界面接着強度を評価するために,室温でショートビームせん断試験を行

った(JIS-K7078)[6].試験片の長さ,幅,厚みはそれぞれ 14mm,10mm,2mm である.

支点間距離を 10mm,たわみ速度を 1mm/min で行った.曲げ試験同様,試験装置はオー

トグラフを使用した.層間せん断強度を求めるために使用した式を式(4)に示す.

bh

Ps

4

3 (4)

τは見かけの層間せん断強度(MPa),Psは破壊荷重(N)である.

炭素繊維と PC の界面状態は,CF/PC 積層板の成形後の断面をデジタルマイクロスコー

プ(VHX-500,キーエンス製)で観察することにより推測した.

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3.5 CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす樹脂に含まれる水分の影響

成形条件を変化させる前に,PC の乾燥工程の必要性を確認するために,PC に含まれる

水分が CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす影響を検討した.含水率の異なる PC フィルムを

3 種類準備した.①乾燥も吸水もさせていない PC フィルム,②120℃の恒温槽で真空乾燥

を行った PC フィルム,③温度 50℃の水の中に 5 時間浸した PC フィルム.含水率は①の

状態を 0 wt%とし,乾燥および吸水後の質量によって評価した.②は約-0.03wt%の含水率

であり,③は約 0.13 wt%の含水率であった.①,②,③の PC フィルムを使用し,CF/PC

積層板を成形する.この時の成形条件は,成形温度 280℃,成形圧力 3 MPa,成形時間 30

min とした.図 3.5-1 に PC フィルムに含まれる水分が CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす

影響について示す.結果より,乾燥させた②を使用したCF/PC積層板は①を使用したCF/PC

積層板より,曲げ強度が約 10%向上し,③を使用した CF/PC 積層板は①を使用した CF/PC

積層板より曲げ強度が約 16%低下することがわかった.曲げ強度低下の要因は明らかに PC

フィルムに含まれる水分量であり,高強度を発現させるためには成形前に樹脂を乾燥させ

る必要があることが明らかである.この原因は 2.3 節において説明したように,PC は 150℃

以上になると加水分解を起こし,樹脂の劣化が起きたと考えられる.図 3.5-2 に CF/PC 積

層板の曲げ弾性率に及ぼす水分の影響を示す.図より,PC フィルムを乾燥することによっ

て,CF/PC 積層板の曲げ弾性率が向上していることがわかる.曲げ強度と同様に,樹脂の

加水分解の影響により,曲げ弾性率が低下したと推測される.図 3.5-3 に,②と③をそれぞ

れ使用して成形した CF/PC 積層板の断面観察写真を示す.写真より,③を使用した CF/PC

積層板は紙面横方向にある繊維の部分がはく離していることがわかる.第 3.8 節で層間せん

断強度と合わせて推測するが,この現象は研磨により繊維が断面よりはく離したと考えら

れる.そのため,樹脂に含まれる水分は繊維と樹脂の界面接着強度に悪影響を与えること

が推測される.よって,CF/PC 積層板の曲げ強度を上げるために,成形前には樹脂を十分

乾燥させる必要性があることが明らかとなった.

図 3.5-1 樹脂の水分が CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす影響

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図 3.5-2 樹脂の水分が CF/PC 積層板の曲げ弾性率に及ぼす影響

②乾燥処理を行った樹脂を使用した CF/PC 積層板の断面観察

③吸水処理を行った樹脂を使用した CF/PC 積層板の断面観察写真

図 3.5-3 樹脂の水分が及ぼす CF/PC 積層板の断面への影響

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3.6 CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼすサイジング剤の影響

サイジング剤は樹脂と繊維の界面接着強度に大きな影響を与えることが知られている.

サイジング剤は繊維のハンドリング性をよくするために CF に塗布されており,通常エポキ

シ樹脂との接着強度を高める成分が含まれる.しかし,一般的に熱可塑性樹脂との相性は

よくないと言われている.そのため,CFRTP を扱う際にはサイジング剤を除去する処理が

行われる.当然ながらサイジング剤を除去するためにはアセトンで除去するなどの工程を

行わなければならないためコストが増える.この節ではサイジング剤が曲げ強度に及ぼす

影響を検討し,成形条件を決める際の参考とするデータを示す.

サイジング剤の除去にはアセトンを用いた.300×370mm2 のパレットに約 500ml のア

セトンを準備し,炭素繊維シートをアセトンに浸すことによって処理をした.この操作に

より,完全にサイジング剤を除去したとは確認していないが,ある程度サイジング剤が除

去できたものとした.成形温度 280℃,成形圧力 3MPa,成形時間 30min とし,プレス成

形を行った.CF シート 8 枚,PC フィルム 9 枚使用し,PC フィルムは 120℃の恒温槽で真

空乾燥を 2 時間行った.アセトン処理した CF シートを使用した CF/PC 積層板とアセトン

処理を行っていない CF シートを使用した CF/PC 積層板の 2 種類を準備した.図 3.6-1 に

サイジング剤が CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす影響を示す.図より,サイジング剤を除

去することによって CF/PC 積層板の曲げ強度が約 25%向上していることがわかる.また,

図 3.6-2 にサイジング剤が層間せん断強度に及ぼす影響を示す.図より,サイジング剤を除

去した CF/PC 積層板はサイジング剤を除去していない CF/PC 積層板より層間せん断強度

が高いことがわかる.

本研究では,工程数およびコストを考慮して,サイジング剤を除去しない CF を使用し,

成形条件の検討を行った.

図 3.6-1 サイジング剤が CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす影響

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図 3.6-2 サイジング剤が CF/PC 積層板の層間せん断強度に及ぼす影響

3.7 CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす成形圧力の影響

CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす成形圧力の影響について検討した.成形条件を表 3.7-1

に示す.また,樹脂は 120℃で 2 時間真空乾燥し,サイジング剤は除去していない.A シリ

ーズの成形条件で成形した CF/PC 積層板の曲げ強度の結果を図 3.7-1 に示し,CF/PC 積層

板の曲げ弾性率の結果を図 3.7-2 に示す.図 3.7-1 より,成形圧力を上げることによって

CF/PC 積層板の曲げ強度が減少することがわかる.図 3.7-2 より,成形圧力を上げること

によって CF/PC 積層板の曲げ弾性率のバラツキが大きくなることがわかる.このことは成

形圧力を上げることによって繊維の配向の乱れが大きくなり,CF/PC 積層板の弾性率およ

び強度が低下したと推測される.図 3.7-3 に成形圧力と層間せん断強度の関係を示す.

CF/PC 積層板の層間せん断強度は荷重-たわみ線図の最初に荷重が低下した点を層間せん

断破壊が起こったとして計算した.この図より,成形圧力を上げたとしても CF/PC 積層板

の層間せん断強度の向上にはつながらないと推測した.

これらの結果より,成形圧力を変化させることによって CF/PC 積層板の曲げ強度が向上

することは考えにくいと判断した.その理由として,今回成形に使用している金型に問題

があると考えている.金型には若干の隙間があり,成形中に樹脂が外へ漏れ出てしまう.

ある程度の成形圧力(3MP)であれば,樹脂の流れをある程度抑えることができるが,高い成

形圧力であれば多くの樹脂は流れ出る.つまり,圧力が高くても,樹脂にかかる圧力は樹

脂の漏れのため,ある一定以上上がらないと言える.また,樹脂が繊維へ含浸する前に樹

脂が流れ出てしまい,繊維と樹脂が接触している部分は少なくなると予測できる.ゆえに,

本実験で使用した成形方法では成形圧力を上げることによって曲げ強度が低下しすると推

測した.この実験結果より,本実験で圧力を上げる効果は,冷却中にある.表 3.7-1 より,

冷却中に圧力を上げることによって,ボイドが圧縮され,CF/PC 積層板のボイド率が減少

することが判断できる.

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本研究では成形温度 240℃で行ったとき,繊維の乱れが少なく,十分含浸した成形圧力で

ある 3 MPa を基準として,成形温度および Aging Time の曲げ強度に及ぼす影響を検討す

ることとした.

表 3.7-1 成形圧力の影響を検討した際の CF/PC 積層板の成形条件,Vfおよび Vv

Molding

temperature

(°C)

Molding

pressure

(MPa)

Molding

time

(min)

Aging

time

(min)

Vf

(%)

Vv

(%)

A-1 260

3 30

0 42.6 2.5

A-2 7 0 42.7 1.7

図 3.7-1 成形圧力と CF/PC 積層板の曲げ強度の関係

図 3.7-2 成形圧力と CF/PC 積層板の曲げ弾性率の関係

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図 3.7-3 成形圧力と CF/PC 積層板の層間せん断強度の関係

3.8 CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす成形温度の影響

T シリーズの成形条件により CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす成形温度の影響を評価し

た.図 3.8-1 に各成形温度で成形した CF/PC 積層板の3点曲げ試験時の応力-ひずみ曲線

を示す.この図の応力は式(3)を使い Vf=50%に基準化している.図 3.8-1 に示すように,応

力-ひずみ曲線の傾きは成形温度が変化しても変化しない.このことにより,CF/PC 積層

板の曲げ弾性率に及ぼす成形温度の影響はほとんどないと判断される.また,繊維の乱れ

が少ないことも推測される.

図 3.8-2 に各成形温度における CF/PC 積層板の曲げ強度を示す.図 3.8-2 中の赤色のポ

イントは各試験片のバラツキを示し,青の棒グラフは CF/PC 積層板の曲げ強度の平均値を

示す.CF/PC 積層板の曲げ強度は成形温度と共に変化している.CF/PC 積層板の曲げ強度

が最大となる成形温度は 320℃(T-5)である.これらの結果より,温度を上げることによっ

て CF/PC 積層板の曲げ強度が上がることが明らかとなった.ただし,320℃以上の成形温

度になると,CF/PC 積層板の曲げ強度が下がる.要因は繊維と樹脂の界面が化学劣化し,

繊維と樹脂の接着強度が落ちたためと考えられる.その原因はポリカーボネートの熱分解

が考えられる.

図 3.8-3 に 240℃および 300℃で成形した CF/PC 積層板の 3 点曲げ試験後の試験片の断

面観察写真を示す.240℃で成形した試験片は圧縮側にマイクロバックリングが起こってい

る.また,層間破壊も起こっている.すなわち,240℃で成形した積層板は層間せん断強度

が弱いことを示唆している.一方,300℃で成形した積層板の 3 点曲げ試験片の破壊モード

は圧縮側と反対の面の引張破壊が発生している.つまり,破壊モードはマイクロバックリ

ングから引張破壊へと劇的に変化していることがわかる.

繊維と樹脂の界面接着強度を直接評価するために層間せん断強度を測定した.ショート

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ビームせん断試験を行った際の各成形温度における荷重-たわみ曲線を図 3.8-4 に示し,各

成形温度における CF/PC 積層板の層間せん断強度を図 3.8-5 に示す.CF/PC 積層板の層間

せん断強度は図 3.8-4 に示す荷重-たわみ曲線の最初の荷重低下点を層間せん断で破壊し

たポイントとして計算した.また,図 3.8-6 にショートビームせん断試験後の試験片の断面

観察を示す.この図より,層間せん断により破壊されていることが判断できる.よって,

この試験で行ったショートビームせん断試験は正しく層間せん断強度を測定できたと判断

できる.図 3.8-5 より,CF/PC 積層板の層間せん断強度がピークを示す成形温度は 320℃

のときであり,この結果は CF/PC 積層板の曲げ強度とほぼ同じ傾向を示した.

図3.8-7に(a)240℃,(b)300℃,(c)340℃で成形したCF/PC積層板の断面観察写真を示す.

CF/PC 積層板の曲げ強度および層間せん断強度の温度に対する変化と断面に生じた現象と

の関係から,繊維と樹脂の界面強度との関係性を考察した.240℃で成形した積層板には試

験片の研摩の際に炭素繊維が抜け落ちてできた黒い影の部分が見られた.この繊維の抜け

落ちの原因は繊維と樹脂の界面接着強度が弱いためと推測する.さらに,300℃で成形した

CF/PC 積層板の断面には黒い影の部分が見られず,炭素繊維が抜け落ちていないと判断で

きる.すなわち,300℃で成形した CF/PC 積層板の炭素繊維と樹脂の界面接着強度は強い

ことが推測される.しかし,340℃で成形した積層板は再び炭素繊維の抜け落ちが確認でき

る.このことから,340℃で成形した CF/PC 積層板の炭素繊維と樹脂の界面接着強度は弱

くなったことが推測される.この傾向は,CF/PC 積層板の曲げ強度および層間せん断強度

の温度に対する変化と同じであることにより,断面に生じた現象は繊維と樹脂の界面強度

の変化を間接的に示したものと推察した.

温度を上げることによって炭素繊維と樹脂の界面接着強度が向上する理由を考察する.

繊維と樹脂の接着強度は化学結合や静電気力による結合などの結合の総量によって決まる.

炭素繊維の表面には-C-C,-COOH,-C-OH,-C=O などの官能基を持ち,サイジング剤は

エポキシ樹脂を使用するため-C-O-C-や-OH などの官能基を持つと推測される.[7-8]ポリカ

ーボネートは分子内にエステル結合を持つ.そのため,ポリカーボネートの一部分に極性

を持つ部分があり,かつその極性を持つ部分が繊維と接着すると考えられる.化学反応速

度を示す式としてアレニウスの式が知られている.この式の考え方として,化学反応には

主に encounter(出会う)と reaction(反応)の 2 つの段階があると考える.ポリカーボネート

は巨大な分子鎖の中の一部に反応する部分があるため,繊維表面の官能基と接触するのが

困難である可能性がある.成形温度を上げた場合粘度が下がるため,より分子鎖が複雑に

動く.そのため,PC の官能基と炭素繊維の官能基が“出会う”確率が増えて,より PC と

炭素繊維の結合数が増えた可能性が高い.また,反応するためには活性化エネルギーが必

要であることも知られている.活性化エネルギーとは反応に必要な熱エネルギーであるた

め,単純に成形温度を上げることによって,必要な活性化エネルギーを得ることができる

分子鎖が多くなったことが推測される.そのため,多くの箇所で結合することができ,PC

と炭素繊維の結合数が増えた可能性が高い.

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また,340℃で曲げ強度および繊維と樹脂の界面接着強度が下がった原因は,サイジング

剤もしくはポリカーボネートの熱分解が考えられる.図 3.8-8 に 340℃で CF を加熱した繊

維を使用して成形温度 340℃で成形した成形品を示す.写真より,CF を加熱していない方

の樹脂には細かい気泡が多く存在し,340℃で加熱した CF を使用した積層板の樹脂には大

きな気泡が数個存在するが,気泡全体の体積は少ないことが明らかにわかる.これより,

成形中に CF を 340℃で加熱されると,サイジング剤が成形中に熱分解して気泡が発生し,

繊維と樹脂の界面接着強度が低くなったと推測できる.また熱による樹脂の劣化を検討す

るために,340℃の温度履歴を経験した PC と 240℃の温度履歴を経験した PC の比較を行

った.図 3.8-9 に各温度を経験した樹脂の断面写真を示す.340℃の温度を経た PC は黄色

に変色しており,240℃の温度を経た PC は白色をしている.さらに,動的粘弾性試験を行

い,貯蔵弾性率とガラス転移温度 Tgを測定した.試験ではデュアルカンチレバーを使用し,

周波数 1.0 Hz の試験条件で行った.試験片寸法は,長さ 50 mm,幅 6.8 mm,厚み 2 mm

とした.図 3.8-10 樹脂単体の動的粘弾性試験により求めた貯蔵弾性率の温度依存性を示す.

表 3.8-1 に 240℃および 340℃の温度履歴を経験した PC の測定した tan から求めた Tgを

示す.図より,340℃の温度履歴を経た PC は貯蔵弾性率の低下する温度が早いことがわか

る.また表 3.8-1 より,Tgの低下が明らかである.したがって,340℃の成形温度により樹

脂が劣化したことが推測される.

PC の熱による劣化と CF のサイジング剤の劣化を検討するために,示差熱熱重量同時測

定装置(SII EXSTER TG/DTA7300:ヤマト科学㈱)を使用し,分析を行った.図 3-8-11

に TG/DTA 測定装置の写真を示す.測定条件は,10℃/min の昇温速度で 40℃から 400℃

まで変化させた.また試験中は圧縮空気を 200 ml/min で送り込んだ.図 3.8-12 に PC の

TG(熱重量変化)と DTA(熱量変化)の測定結果を示す.図の DTA の値より,約 150℃,

250℃,400℃付近で吸熱があったことを示している.また,図の TG の値より,340℃付近

から PC の重量が徐々に低下していき,400℃付近で急激に重量が減少している.DTA の値

より 150℃付近ではガラス転移温度と予測することができ,250℃付近では融点であること

が推測できる.400℃付近では,PC の熱分解により吸熱が発生し,重量が減少したと推測

できる.また,340℃付近から PC の重量が低下していることから,本実験で行った成形条

件 T-6(成形温度 340℃)の場合,30 min の成形時間中に PC の熱分解が進み劣化したことは

十分予測できる.しかし,図 3.8-1 の応力-ひずみ曲線より,T-6 における CF/PC 積層板

の弾性率に大きな変化はなく,図 3.8-12 より,本格的な熱による劣化も 400℃付近である

ことから,樹脂の熱による劣化が CF/PC 積層板の曲げ強度に与える影響は少ないと考えら

れる.次に,CF に付着しているサイジング剤の結果を図 3.8-13 に示す.DTA の測定結果

より,380℃付近で吸熱が発生していることがわかる.TG の測定結果より,240℃付近か

ら重量の低下が始まり,300℃付近から重量低下の速度が増えていることがわかる.すなわ

ち,サイジング剤の熱分解は 240℃から徐々に起こることが推測できる.本実験の結果から,

成形温度 320℃,成形時間 30 min の場合,サイジング剤の熱分解の影響はそれほどないが,

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成形温度 340℃,成形時間 30 min の場合,サイジング剤の熱分解の影響は大きいと推測さ

れる.CF と PC の界面に存在するサイジング剤の熱分解は,界面接着強度に悪影響を与え,

CF/PC 積層板の曲げ強度が極端に低下したと考えられる.

以上の PC および CF の熱による劣化を検討した結果,どちらも今回試験した温度範囲で

熱によるは少なからずあると言える.しかし,TG/DTA の測定結果および成形条件 T-6 の

積層板の断面観察より繊維と樹脂の界面に存在するサイジング剤の劣化の影響が大きいと

推測される.図 3.8-14 に 340℃で成形した曲げ試験片の断面観察を示す.図より,破壊は

界面で起きていることが観察されるため,サイジング剤による界面接着強度の低下という

推測を裏付ける結果となる.

図 3.8-1 成形温度を変えて成形した CF/PC 積層板を用いた 3 点曲げ試験における

応力-ひずみ曲線

図 3.8-2 成形温度を変えて成形した CF/PC 積層板曲げ強度の比較

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(a) 成形条件 T-1 (240℃)

(b) 成形条件 T-4 (300℃)

図 3.8-3 T-1 および T-4 の成形条件で成形した CF/PC 積層板の曲げ試験片の断面観察

図 3.8-4 T シリーズで成形した CF/PC 積層板を用いたショートビームせん断試験における

荷重-たわみ曲線

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図 3.8-5 T シリーズで成形した CF/PC 積層板の層間せん断強度の比較

図3.8-6 ショートビームせん断試験後の試験のCF/PC積層板の断面観察

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(a) 条件 T-1 (240℃)

(b) 条件 T-4 (300℃)

(c) 条件 T-6 (340℃)

図 3.8-7 CF/PC 積層板の断面観察,(a)成形条件 T-1,(b)成形条件 T-4,(c)成形条件 T-6

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図 3.8-8 CF を 340℃で加熱した場合の CF/PC 積層板の違い

図 3.8-9 PC を 340℃で加熱したときの変化

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図 3.8-10 PC を 340℃で加熱したときの貯蔵弾性率の温度依存性への影響

表 3.8-1 樹脂の温度履歴とガラス転移温度の関係

温度履歴 240℃ 340℃_No1 340℃_No2

Tg [℃] 158.4 154.0 153.1

図 3.8-11 TG/DTA 測定装置

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図 3.8-12 PC の TG および DTA の変化

図 3.8-13 サイジング剤の TG および DTA の変化

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図 3.8-14 成形条件 T-6 の曲げ試験後の断面観察

3.9 CF/PC積層板の曲げ強度に及ぼす成形時間の影響

CF/PC積層板の曲げ強度を上げるために,炭素繊維とPCの界面接着強度を改善しなければ

ならないことがわかった.成形条件T-3を新たにP-1とし,成形条件P-2,P-3で成形されたCF/PC

積層板の曲げ強度と比較した.成形条件P-2,P-3におけるAging Timeとは,冷却する前に圧

力をかけない状態で成形温度を一定に保ったままでそれぞれ30min,60minと状態を保持する

時間,言うなれば熟成させる時間である.圧力をかけないのは樹脂の流出,繊維の乱れを抑え

るためである.図3.3-2にはAging Timeを含む成形プロセスが示されている.

図3.9-1にPシリーズの成形条件で成形したCF/PC積層板の3点曲げ試験における応力-ひず

み曲線を示す.この図より,応力-ひずみ曲線の初期のひずみの範囲における傾きはほぼ同じ

である.したがって,Aging TimeがCF/PC積層板の曲げ弾性率に及ぼす影響はほとんどない.

図3.9-2に各Aging Timeで成形したCF/PC積層板の曲げ強度を示す.図より,CF/PC積層板の曲

げ強度はAging Timeの増加に伴い向上していることが確認できる.

図3.9-3に各Aging Timeで成形したショートビームせん断試験おける荷重-たわみ試験を示

し,図3.9-4に各Aging Timeで成形した試験片のCF/PC積層板の層間せん断強度を示す.図よ

り,曲げ強度と同様にAging Timeに対して層間せん断強度も向上していることがわかる.

図3.9-5に(a)Aging Time: 0min(P-1),(b)Aging Time: 60min(P-3)で成形した積層板を用いて3

点曲げ試験を行った後の試験片の断面観察結果を示す.成形条件P-1積層板の破壊モードは主

にマイクロバックリングである.成形条件P-3の積層板の破壊モードはマイクロバックリング

と引張による破壊が同時に起こっている.これらの図より,P-3の成形条件のCF/PC積層板は

最大の曲げ強度を持つことが推測される.

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図3.9-6に成形条件(a)P-1と(b)P-3で成形されたCF/PC積層板の断面の写真を示す.成形条件

P-1の場合,CF/PC積層板の断面から炭素繊維は明らかに抜け落ちていることが確認できる.ま

た,成形条件P-3の場合,CF/PC積層板の断面から炭素繊維は抜け落ちていない.したがって,

Aging Timeに対する層間せん断強度と繊維の抜け落ちの現象の傾向は一致することがわかる.

この結果はAging Timeを増やすことによって,炭素繊維と樹脂の界面接着強度が向上する

ことを裏づけている.

Aging Timeを増やすことによって炭素繊維と樹脂の界面接着強度が向上することについ

て考察する.樹脂と繊維の接合反応を起こすためには“出会う”ことが重要である.化学

反応速度論に基づくと,化学反応量は時間に比例することが知られている.そのため,Aging

Timeを増やすことによって,繊維と樹脂の接合反応が進んだことによって界面接着強度が

向上したと考えられる.

P-3の時点でAging Timeが60 minであるため,現実的な成形条件とは言えないがAging

Timeの影響をさらに検討するために,Aging Timeを90 minとした成形条件をP-4として試験

を行った.さらに,Aging Timeで検討したことが圧力をかけ続けた場合でも成り立つのか検

討するために温度圧力を維持した状態で成形時間を60 minおよび90 minで試験を行った.60

minで成形した試験片をP-2’,90 minで成形した試験片をP-3’とした.図3.9-7に曲げ試験の結

果を示す.P-4の結果より,CF/PC積層板の曲げ強度がP-3より上昇していることがわかる.そ

の向上率はP-2からP-3の場合は約16%向上しているが,P-3からP-4の場合は約4%と向上率が

減少していることがわかる.したがって,Aging TimeがCF/PC積層板の曲げ強度に及ぼす影響

は限界があることがわかる.P-2とP-2’およびP-3とP-3’を比較すると,平均値で見るとほぼ同

じ曲げ強度を発現していることがわかる.しかし,Aging Time中に圧力をかけた試験片はバ

ラツキが大きいことがわかる.図3.9-8にショートビームせん断試験の結果を示す.図3.9-7と

同様に時間の経過と共に層間せん断強度が増している.したがって,Aging Time中に加圧し

ても,ほぼ曲げ強度に及ぼす影響は同じであることがわかる.

Aging Timeが曲げ強度に及ぼす影響のメカニズムを推測するために下記の実験を行った.

Aging TimeがCF/PC積層板の曲げ強度が向上した要因として,Aging Time中にサイジング剤

が分解したことが考えられる.その状態は3.6節に示したサイジング剤を除去した条件になり,

CF/PC積層板の曲げ強度が向上したと推測できる.そこで,Aging Time 60 minの間に,サイ

ジング剤が熱分解を起こしたと仮定し,このAging Timeの時間60min分だけ280℃で繊維のみ

を加熱し,サイジング剤を熱分解除去することを行った.この処理をした炭素繊維を使用し,

280℃,30 minでCF/PC積層板の成形を行い曲げ強度で評価した.この結果をT-3およびP-3と

比較することにより,Aging Timeの増加によって曲げ強度が向上した原因が,サイジング剤

の熱分解によるものか検討した.その実験結果を図 3.9-9に示す.図中のTP-3は上記のサイジ

ング剤を熱処理した炭素繊維を使用したCF/PC積層板を使い曲げ試験を行った結果であり,こ

の結果をT-3とP-3の結果と比較した.また,図に示すように,TP-3はT-3より曲げ強度が高く

なった.TP-3とT-3の条件では,繊維にかかる熱処理時間は違うが樹脂と繊維が溶融状態で接

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する時間が同じである.そのため,サイジング剤が除去されることによって曲げ強度が改善し

たと推測できる.TP-3とP-3を比較すると,TP-3の曲げ強度の方が低い.TP-3とP-3の条件で

は,繊維と溶融した樹脂が接する時間が同じであるが,サイジング剤にかかる熱処理の時間を

同じにしている.そのため,サイジング剤除去以外の曲げ強度が向上する要因があると推測で

きる.

以上の結果より,繊維と樹脂の接する時間が長い方がより曲げ強度が高いことから,化学的

な反応により接着強度が高くなったと相対的に推測する. Aging Timeが増加することにより

繊維と樹脂の接着強度が向上したメカニズムを次の3.10節でさらに考察する.

図 3.9-1 P シリーズにおける CF/PC 積層板の 3 点曲げ試験時の応力-ひずみ曲線

図 3.9-2 P シリーズにおける CF/PC 積層板の曲げ強度の比較

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図 3.9-3 P シリーズにおける CF/PC 積層板の

ショートビームせん断試験の荷重-たわみ曲線

図 3.9-4 P シリーズにおける CF/PC 積層板の層間せん断強度の比較

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(a) 成形条件 P-1(Aging Time: 0min)

(b) 成形条件 P-3 (Aging Time: 60min)

図 3.9-5 図 CF/PC 積層板の曲げ試験後の断面観察写真,

(a)成形条件 P-1,(b)成形条件 P-3

(a)成形条件 P-1(Aging Time: 0min)

(b)成形条件 P-3(Aging Time: 30min)

図 3.9-6 CF/PC 積層板の断観察写真,

(a)成形条件 P-1,(b)成形条件 P-3

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図 3.9-7 Aging Time と成形圧力が及ぼす CF/PC 積層板の曲げ強度への影響

図 3.9-8 Aging Time と圧力が及ぼす CF/PC 積層板の層間せん断強度への影響

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図 3.9-9 サイジング剤および成形時間が CF/PC 積層板の曲げ強度へ及ぼす影響

3.10 文献による CF/PC 積層板の曲げ強度に及ぼす成形温度および成形時間の影響の考察

成形条件が曲げ強度に及ぼす影響の考察を Brady ら[5]の研究報告から推測する.Brady

らは一方向材を用いた CF/PC コンポジットの引張試験を行い成形条件の影響を評価してい

る.成形温度は 245℃,275℃,300℃の三種類を選択し,それぞれの温度でアニーリング

時間を変化させている.その結果を図 3.10-1 に示す.さらに,この結果を下に示す

Langmuir-type 式(図中の Equation (1))の吸着等温式でフィッテングしている.

kttGG 1kceqc

c0cc GGG

G cはコンポジットの厚み方向の靱性であり,G c0はアニーリング時間を変える前の厚み

方向の靱性,ΔG c はアニーリングによる靱性の変化,ΔG ceq は平衡状態時の靱性,t は

アニーリング時間,k は吸着速度定数である.図 3.10-1 に示すように吸着等温式とよく一

致している.このことより,引張強度が向上した要因は繊維と樹脂の吸着反応であると結

論付けている.

本実験の曲げ強度が向上した理由として,繊維と樹脂の界面接着強度が向上したためと

推測している.Brady らの研究により,吸着反応により繊維と樹脂の界面接着強度が向上

していることを報告しているため,曲げ強度が向上した理由も同様に考えられる.すなわ

ち,温度により繊維と樹脂の吸着反応が促進したため曲げ強度が向上し,成形時間をかけ

ることによって繊維と樹脂の吸着反応が進行したため曲げ強度が向上したと推測できる.

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図 3.10-1 引張試験における厚み方向の靱性とアニーリング時間の関係[5]

3.11 CF/PC積層板とCF/EP積層板による曲げ強度の比較

前節で曲げ試験後の試験片の様子より,P-3 以降の成形条件で成形した CF/PC 積層板の

曲げ強度が最大になったことを示した.図 3.9-5 より,本実験で使用した試験片の圧縮側に

おけるマイクロバックリングで破壊されることがわかる.CF/PC 積層板の曲げ強度の上限

値を評価するために,同じ繊維と織物材を使用した CF/EP 積層板の曲げ強度と比較した.

曲げでは圧縮応力(マイクロバックリング)と引張応力が試験片の内部に同時に発生す

る.したがって,破壊も引張破壊と圧縮破壊のいずれかあるいは同時に発生する可能性が

ある.引張破壊は繊維自身が限界応力に達して破壊することからマトリックス樹脂に影響

されることは少なく安定な値をとるが,圧縮破壊はマトリックス樹脂に大きく影響を受け

るマイクロバックリング破壊が想定され,界面強度の影響も大きい.また,CFRP の圧縮強

度は引張強度を越えないことが言える.そのため,曲げ破壊においては圧縮破壊が支配的

に発生するとして考察を進めた.図 3.8-3,図 3.9-5 に示すように,繊維と樹脂の界面接着

強度の影響を受けるが,マイクロバックリングによる破壊が観測される.したがって,曲

げ強度を考察するには,圧縮強度の予測式を使用すればよいことがわかる.

繊維方向の圧縮強度の予測は繊維と樹脂の特性より推定する方法が提唱されている.そ

の提唱を最初に行ったのは Rosen (1965 年)である.彼は繊維方向の圧縮荷重下での破壊は

支柱の座屈と同様に繊維の座屈を伴うものと考察した.この座屈は周囲のマトリックスに

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より拘束されるので,座屈応力が働き,繊維方向の圧縮強度はマトリックスの弾性特性に

依存する.Rosen は1方向の強化繊維を使用した単層板の圧縮破壊を図 3.11-1 に示すよう

な二次元モデルによりモデル化し,Extension mode と Shear mode の 2 つのモデルを提案

した.

図 3.11-1 繊維方向の圧縮荷重を受ける一方向単層版の座屈様式の模式図 [9]

Extension mode は繊維が外側に曲げられることで,マトリックス内に引張応力が発生する

ことを仮定している.一方,Shear mode はマトリックス内にせん断応力を引き起こす面内

バックリングを含んでいる.Extension mode は Vfが小さいことを仮定し,Shear mode は

Vf が大きいことを仮定している.これらのモデルを仮定し,圧縮強度は次式で表される

[9-11].

Extension mode: f

flmffc

V

EEVV

132 (5)

Shear mode: f

m

V

G

1c (6)

Shear mode の圧縮強度の予測値は Extension mode の予測値より小さくなるが,Shear

mode の予測値は実験値よりも大きい値を示す.以下に考察されている予測値が実験値より

上回る理由を実際のコンポジットの状態を基に考えられることを示す.

①繊維と樹脂の不均一性により,樹脂過多の領域が発生すると,その部分は圧縮強度が

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低下する.

②ボイドの存在は,樹脂過多領域よりさらに大きな影響がある.ボイドの影響により圧

縮強度が低下する.

③繊維の配向性の乱れにより,部分的に圧縮強度が低下する.

④繊維と樹脂の界面接着強度が弱い場合,樹脂の硬化による収縮や熱収縮の違いにより,

繊維と樹脂の間にはく離が生じ,圧縮強度が低下する.

これらの影響により,予測値と実験値に差が生じたと考えられる.そのほか,強化繊維

の材料によって座屈様式が異なるため,予測結果と異なるなども考えられる.仮に繊維と

Vfであるコンポジットの比較であれば,座屈による破壊は樹脂の弾性率の影響のみとなる.

さらに,実験値との比較であれば,①から④のような仮定の話を無視してもよいと考えら

れる.また強化繊維が織物形状の場合,圧縮強度の予測では,ストランドの幅や高さ,織

の密度や厚みなどの形状に関する考察が必要である[11].形状係数をαとすると,マイクロ

バックリングで示す式(5)および式(6)は下に示す式のように表すことができる.

Extension mode: f

flmffc

V

EEVV

132 (7)

Shear mode: f

mc

V

G

1 (8)

同じ織形状の材料を比較する場合,織の形状係数αは無視できると考えられる.したが

って,マトリックス樹脂のみが異なる織物材コンポジットの圧縮強度を比較した場合,式

(9)もしくは式(10)を使用し,以下の式で表すことができる.

Extension mode:

m2

m1

C2

C1

E

E

(9)

Shear mode:

m2

m1

C2

C1

G

G (10)

σC1 およびσC2 はそれぞれ任意の異なる樹脂を用いたコンポジットの圧縮強度であり,

Em1,Em2は任意の異なる樹脂の弾性率,G m1,G m2は任意の異なる樹脂の横せん断弾性率

である.樹脂は等方性材料であるため,横せん断弾性率は式(11)によって表すことができる.

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12

EG (11)

この式中のνはポアソン比である.式(10)と式(11)より,Shear mode の圧縮強度は式(11)

のように示すことができる.

Shear mode:

m2

m1

C2

C1

E

E (12)

CF/EP 積層板の曲げ強度を CFRP の最大曲げ強度と仮定すれば,式(9)および式(12)から求

めた曲げ強度は CF/PC 積層板の最大の曲げ強度と言える.式(9)および式(12)を使用し,

CF/PC 積層板の最大曲げ強度を推測した.下に計算に使用した式を示す.

Extension mode: EPPC

CF/EPCF/PC ExpExtE

E (13)

shear mode: EPPC

CF/EPCF/PC ExpSheE

E (14)

σExt(CF/PC)はExtension modeで破壊したと仮定したときのCF/EP積層板から予測される

CF/PC 積層板の曲げ強度である.σShe(CF/EP)は Shear mode で破壊したと仮定したとき

の CF/EP 積層板の実験により求めた曲げ強度である.これらの式により,破壊モードによ

って異なるが,マトリックス樹脂のみ異なる場合の曲げ強度の予測は,樹脂の弾性率の比

の 1/2 乗から 1 乗であると考察した.

図 3.11-2 に CF/PC 積層板と CF/EP 積層板の 3 点曲げ試験後の破断面を示す.図より,

どちらの試験片もマイクロバックリングによる破壊が起こっていることがわかる.このこ

とより,式(13)および式(14)を使用して,CF/PC 積層板の曲げ強度を推定した結果を表 3.11-1

に示す.表には樹脂単体の弾性率,曲げ強度の実測値,曲げ強度の平均値,CF/PC 積層板

の推定値を示している.また CF/PC 積層板の曲げ強度の実験値は P-3 の成形条件で成形し

た CF/PC 積層板の実験値を示している.表より,Extension mode の破壊が起こることを

仮定した場合,その推定値と実験値の割合は約 93%となる.一方,Shear mode の破壊が起

きることを仮定した場合,推定値と実験値の割合は約 111%となる.このことより,P-3 の

成形条件で成形した CF/PC 積層板はほぼ曲げ強度の限界に達していると考えられる.

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(a) CF/PC 積層板

(b) CF/EP 積層板

図 3.11-2 CF/PC 積層板と CF/E 積層板の3点曲げ後の圧縮側の断面観察写

表 3.11-1 成形条件 P-3 で成形した CF/PC 積層板と CF/EP 積層板の曲げ強度の比較

Elastic

modulus

of resin

(GPa)

Experimental

flexural

strength

(MPa)

Average of

flexural

strength

Exp

(MPa)

Estimate

value on

Extension

mode

Ext (MPa)

Estimate

value on

Shear

mode

She (MPa)

CF/EP 3.3

994

941

970

977

963

964 ― ―

CF/PC 2.3

709

759

753

720

771

752 805 672

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3.12 まとめ

CF/PC 積層板を対象に,表面品質の向上のために前節で確立した成形方法を基に曲げ強度

に及ぼす項目について検討した.評価した項目は樹脂に含まれる水分,サイジング剤,成形圧

力,成形温度,Aging Time である.特に成形温度と成形時の Aging Time を変動させて積層

板の曲げ強度を最大化する成形温度と Aging Time を検討した.結果として,PC を乾燥させ

ること,サイジング剤を除去することで曲げ強度を向上させることができることがわかった.

さらに成形温度および Aging Time は曲げ強度に大きな影響を与えることがわかり,CF/PC

積層板の曲げ強度を理論式から推測できる推測値とほぼ同等まで向上させることができた.成

形温度とその保持時間は繊維と樹脂の界面接着強度に影響を与えることが層間せん断強度と

断面観察から推測された.

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第 4 章

CF/PC 積層板の耐衝撃性の評価

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4.1 はじめに

織物材を用いた CFRTP 積層板は,短繊維を用いたものより面内方向の高強度,高剛性に

優れた構造材料となることが期待できるが,面外方向から衝撃荷重に対して,繊維と樹脂

のはく離や層間はく離,層内のトランスバースクラックなどの内部損傷が生じ易く,これ

らの損傷によって強度や剛性が大きく低下することが知られている.衝撃荷重によって内

部損傷が発生しても,外観の目視観察では発見できない場合が多いため,衝撃荷重や衝撃

エネルギーと損傷の発生・進展の関連や強度や剛性に及ぼす衝撃損傷の影響について詳細

に検討する必要がある.また,衝撃後の残留強度は安全率を考慮した設計上重要であるた

め,それについての研究報告は多い.特に航空業界では衝撃後の圧縮強度の低下が主に評

価されている.飛行機の主翼に CFRP を使用する場合,飛行中 CFRP に大きな圧縮応力が

働くため,航空業界では衝撃後の圧縮強度が重要となる.一方,一般産業機械へ CFRP を

適用の場合でも,衝撃後の残留強度は重要である.例えば,車のバンパーやスーツケース

への適用する場合でも,衝撃が少し加わっただけで壊れるようでは問題があり,設計する

際には想定される衝撃が与えられても使用に問題がないようにしなくてはならない.一般

産業で CFRP を使用する場合,圧縮応力だけではなく,引張応力,曲げ応力などの複雑な

応力が CFRP にかかる.圧縮強度だけではなく衝撃損傷が引張特性や曲げ特性や疲労特性

などの様々な物性に及ぼす影響を評価する必要がある.Yan ら[1]はガラス繊維織物とビニ

ルエステルを用いたコンポジットに及ぼす衝撃後の残留圧縮強度をモデルと比較し検討し

ている.Mitrevski ら[2]はインパクタの形状が残留引張強度に及ぼす影響を報告している.

Santiuste ら[3]はインパクタの形状および試験片の幅が残留曲げ特性に及ぼす影響を報告

している.Zhang ら[4]は衝撃エネルギーの大きさが残留曲げ特性に及ぼす影響を報告して

いる.Liu ら[5]は衝撃エネルギーの大きさおよび試験片の厚みが衝撃による破壊モードお

よび曲げ特性に及ぼす影響を評価している.Koo ら[6]は衝撃エネルギーの大きさおよびイ

ンパクタの形状が引張特性および疲労特性に及ぼす影響を実験および解析により評価して

いる.Suvarna ら[7]は環境温度が衝撃特性および衝撃後の曲げ特性に及ぼす影響を検討し

ている.Saito ら[8]は織物材およびノンクリンプファブリックで成形したコンポジットを使

用し,衝撃後の圧縮強度,圧縮による疲労強度に与える影響を報告している.熱可塑性樹

脂を用いたコンポジットを評価した報告もある.Vieille ら[9]は PPS や PEEK をマトリッ

クスとした CFRTP 積層板とエポキシ樹脂をマトリックスとした CFRP 積層板の衝撃後の

残留圧縮強度を比較し,残留圧縮強度に及ぼすマトリックスの影響を検討している.Reyes

ら[10]はガラス繊維織物とポリプロピレンを組み合わせたコンポジットを使用し,衝撃後の

曲げ特性について研究している.しかし,炭素繊維と熱可塑性樹脂を用いたコンポジット

の衝撃後の曲げ物性を評価した研究や熱硬化性樹脂のコンポジットと熱可塑性樹脂のコン

ポジットを比較して衝撃が曲げ特性に与える影響を検討した報告は見当たらない.

本章では,第 2 章および第 3 章で確立した表面品質および曲げ強度に優れた CF/PC 積層

板を成形する成形方法および成形条件によって成形した CF/PC 積層板の耐衝撃性を評価し

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た.具体的には,この CF/PC 積層板および比較対象として CF/EP 積層板を取り上げ,落

錘試験を行い,衝撃エネルギーと内部損傷の発生・進展の関連について,非破壊評価法の

ひとつである超音波探傷の C スキャンおよびデジタルマイクロスコープを用いた断面観察

により評価した.さらに,衝撃後曲げ試験を行い,衝撃損傷と曲げ強度の関連について検

討し,一般的な衝撃試験であるシャルピーの衝撃試験を行い,CF/PC の衝撃耐性を評価し

た.

4.2 供試材料

本実験に使用した供試材料は,PAN 系の 3k 炭素繊維平織物シート(目付 200g/m2)およ

び PC フィルム(厚み:0.15mm および 0.3mm)である.CF シートは東レ製 T300 相当の物

性を持つ. PC として は住化スタイロンポリカーボネート㈱製 (商品名:

CAREVERTM301-15)を使用した.前処理として,PC フィルムを 120℃で 2 時間の真空乾

燥を行った.炭素繊維と PC の物性値を表 4.2-1 に示す.

平織 CF シートおよび PC フィルムを使用し,第 3 章で確立した成形方法および成形条件

P-3 で成形した平織 CF/PC 積層板を用意した.ただし,積層枚数については既存の落錘衝

撃試験のインパクタの重量を考慮して積層板の厚さを厚くするため,CF シート 10 枚,PC

フィルム 11 枚を積層して成形した.

比較材料として,平織 CF シートにエポキシ樹脂を予め含浸したプリプレグを使用して成

形した CF/EP 積層板を準備した.CF/EP のプリプレグを 10 枚積層し,100℃,5MPa,5h,

ホットプレスで硬化を行い,長さ 300mm 角の平板を成形した.その後,ダイヤモンドカッ

ターにて,50×100mm2 の寸法に切断した試験片を 150℃の恒温槽中で 5 時間加熱し,ポ

ストキュアを行った.表 4.2-2 に試験片の厚さと繊維体積含有率 Vfおよびボイド率 Vvを示

す.

表 4.2-1 炭素繊維とポリカーボネートの物性値

Materials Density

(g/cm3)

Tensile elastic

modulus (GPa)

Tensile

strength

(MPa)

Breaking

elongation (%)

Carbon fiber 1.80 230 3450 1.5

Polycarbonate 1.20 2.3 60 10

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表4.2-2 試験片の平均厚さ,繊維体積含有率,ボイド率

Thickness

(mm)

Vf

(%)

Vv

(%)

CF/PC 2.11 52.6 1.82

CF/EP 1.98 55.9 2.32

4.3. 評価方法

4.3.1 衝撃試験

衝撃試験は図4.3.1-1に示す落錘試験装置を使い行なった.試験片の寸法は長さ100mm,

幅 50mm,厚さ約 2mm とした.インパクタの先端形状は直径 16mm の半球体である.イ

ンパクタの重さは約 9.8N である.図 4.3.1-1 に示すように,試験片を 30mm の穴が開いた

鉄板によって固定した.錘を落とす高さを変えて,異なる衝撃エネルギーを与えた.衝撃

エネルギーは試験片の単位厚み当たりのものとし,1J/mm,2J/mm および 4J/mm とした.

この時の錘を落とす高さは,それぞれ約 20mm,40mm,および 80mm である.

(a) 落錘衝撃試験機とインパクタ (b) 試験片の寸法

図 4.3.1-1 落錘衝撃試験機とインパクタの概略図

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4.3.2 衝撃後 4 点曲げ試験

CF/PC 積層板および CF/EP 積層板の衝撃後の残留曲げ特性を評価するために,室温で 4

点曲げ試験を行った(JIS K7074)[11].曲げ試験片は落錘試験を行った試験片をダイヤモン

ドカッターで切断して準備した.この時,衝撃点が試験片の中心になるようにした.試験

片の寸法は長さ 100mm,幅 20mm,厚さ約 2mm である.図 4.3.2-1 に示すように支点間

距離を 81mm,荷重点間距離を 27mm とした.試験装置はオートグラフ(AGS-5kNG:島津

製作所製)を使用した.試験片を曲げ試験機にセットする際,衝撃を与えた面を圧縮側とし,

荷重点間の中央に衝撃点が来るようにした.曲げ強度は式(1)により算出した.

ここで,bは曲げ強度,L は支点間距離,Pbは破壊時の荷重,b は試験片の幅,h は試験

片の厚みさをそれぞれ示す.また,試験片の厚さの違いによる繊維体積含有率の違いが生

じるため,式(2)を使用し,曲げ強度を Vf=50%に標準化した.

(2)

ここで,Norは標準化した曲げ強度,Expは実験による測定値,Vf·Expは試験片の Vfであ

る.

図 4.3.2-1 実験装置および試験条件の概略図

2

bb

bh

LP

Expf

ExpNor

50

V

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- 73 -

4.3.3 衝撃損傷の観察

衝撃による外観の損傷をデジタルマイクロスコープ(VHX-500;キーエンス製)で試験片の

裏側(衝撃面とは反対側)を観察した.内部損傷エリアは超音波探傷装置(UT-2000;東レエン

ジニアリング㈱製)を使用し観察した.内部損傷の進展メカニズムである層間剥離とトラン

スバースクラックをデジタルマイクロスコープによる断面観察によって検討した.図

4.3.3-1 に超音波探傷装置,図 4.3.3-2 にデジタルマイクロスコープの写真を示す.

図 4.3.3-1 超音波探傷装置

図 4.3.3-2 デジタルマイクロスコープ

4.4 結果および考察

4.4.1 外観に与える衝撃損傷の評価

図 4.4.1-1に衝撃を与えた試験片の外観写真を示す.図中の左側は CF/PC 積層板を示し,

右側は CF/EP 積層板を示す.CF/PC 積層板において,図 4.4.1-1(a) および(c)に示すよう

に 1J/mm,2J/mm の衝撃エネルギーを与えた試験片は表面にマトリックスクラックが観察

される.図 4.4.1-1(e)に示すように,4J/mm の衝撃エネルギーを与えた CF/PC 積層板の試

験片の表面にはマトリックスクラックに加えて繊維の破断が観察される.しかし,図

4.4.1-1(b),(d)および(f)に示すように CF/EP 積層板の試験片の表面にはいずれの衝撃エネ

ルギーの場合もマトリックスクラックと繊維破断が観察される.これより, CF/EP 積層板

に比べ,CF/PC 積層板は低い衝撃エネルギーの場合は繊維の破断を抑える傾向にあること

がわかる.これは,CF/PC 積層板の曲げ弾性率が低いため,試験片全体が大きく変形する

ことによって衝撃を吸収したためと考えられる.

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(a) CF/PC,衝撃エネルギー1J/mm

(b) CF/EP,衝撃エネルギー1J/mm

(c) CF/PC,衝撃エネルギー2J/mm

(d) CF/EP,衝撃エネルギー2J/mm

(e) CF/PC,衝撃エネルギー4J/mm

(f) CF/EP,衝撃エネルギー 4J/mm

図 4.4.1-1 衝撃後の試験片の表面観察写真

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4.4.2 超音波探傷装置による内部損傷の評価

CF/PC 積層板および CF/EP 積層板に衝撃エネルギー4J/mm の衝撃を与えた後の試験片

の超音波探傷 C スキャン画像を図 4.4.2-1 に示す.図中の黒の○は内部損傷領域を示す.衝

撃による損傷は両方とも衝撃の周辺に進展していることが観察できる.しかし,内部損傷

の広がりは CF/EP 積層板より CF/PC 積層板の方が小さいことが観察できる.図 4.4.2-2 に

内部損傷面積と衝撃エネルギーの関係を示す.CF/PC 積層板と CF/EP 積層板の両方とも損

傷面積は衝撃エネルギーの増加に伴い比例的に増加しているが,同じ衝撃エネルギーに対

する損傷面積は,CF/EP 積層板に比べて CF/PC 積層板の方が約 1/2 となり,損傷が進展し

にくいことが確認される.

図 4.4.2-1 衝撃エネルギー4J/mm 与えた CF/PC 積層板と CF/EP 積層板の

超音波探傷による C スキャン画像

図 4.4.2-2 試験の内部損傷面積と衝撃エネルギーの関係

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4.4.3 断面観察による衝撃損傷の進展評価

図 4.4.3-1 に衝撃エネルギー2J/mm を与えた CF/PC 積層板および CF/EP 積層板の断面

観察写真を示す.図 4.4.3-1 (a)に示すように CF/PC 積層板にはトランスバースクラックお

よび層間はく離が観察される.トランスバースクラックは衝撃を受けた側とは反対の部分

に存在し,層間はく離は試験片表面の浅い部分で観測される.しかし,繊維の破断は見ら

れない.一方,図 4.4.3-1 (b)に示すように,CF/EP 積層板にはトランスバースクラック,

層間剥離,マイクロバックリングおよび繊維破断が観測される.加えて,トランスバース

クラックはいくつもの層にわたって進展していることが確認できる.

図 4.4.3-2 に衝撃エネルギー4J/mm を与えた CF/PC 積層板および CF/EP 積層板の断面

観察写真を示す.図 4.4.3-2 (a)に示すように CF/PC 積層板はトランスバースクラックに加

え,マイクロバックリングや繊維破断が観測される.はく離は観察されない.一方,図 4.4.3-2

(b)に示すように CF/EP 積層板は衝撃による損傷が激しくなり,はく離の進展が顕著になっ

ている.

CF/PC積層板とCF/EP積層板の衝撃損傷の進展の違いは主に樹脂の靱性の違いによると

考えられる.PC は変形によって多くの衝撃エネルギーを吸収するため,CF/PC 積層板の表

面において,デントを形成することによって衝撃エネルギーを吸収すると推測できる.図

4.4.3-3 に衝撃によるデントの深さと衝撃エネルギーの関係を示す.デントの深さはデジタ

ルマイクロスコープにより測定した.この図より,CF/PC 積層板の変形量は CF/EP 積層板

の変形量より大きいことが確認できた.つまり,CF/PC 積層板はマトリックス樹脂である

PC の影響を受けて,衝撃吸収能力が高いことを示す.このことは,CF/PC 積層板のトラン

スバースクラックの様子からも推測できる.CF/PC 積層板のトランスバースクラックは空

間が空いているようには見えない.PC は靱性が高いため,その変形に追随して伸びること

ができる.そのため CF/PC 積層板に観察されるトランスバースクラックのように損傷が入

っていないように見えると推測する.CF/EP 積層板は,変形に対して許容できる伸びが少

ないため,クラックが入ると考えられる.

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(a) CF/PC 積層板

(b) CF/EP 積層板

図 4.4.3-1 衝撃エネルギーを 2J/mm 与えた CF/PC 積層板と CF/EP 積層板の断面観察写真

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(a) CF/PC 積層板

(b) CF/EP 積層板

図 4.4.3-2 衝撃エネルギーを 4J/mm 与えた CF/PC 積層板と CF/EP 積層板の断面観察写真

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図 4.3.3-3 デントの深さと衝撃エネルギーとの関係

4.4.4 衝撃後の曲げ特性評価

衝撃後の残留曲げ強度を評価するために,落錘試験後の試験片を用いて 4 点曲げ試験を

行った.図 4.4.4-1 に残留曲げ強度と衝撃エネルギーの関係を示す.この図より,CF/PC 積

層板および CF/EP 積層板のいずれも衝撃エネルギーの増加と共に残留曲げ強度が低下する.

衝撃エネルギーを与えていない場合,CF/PC 積層板の曲げ強度は CF/EP 積層板の曲げ強度

より約 10%低い.図 4.4.4-2 に衝撃を与えていない積層板の曲げ強度を用いて,2 つの積層

板の衝撃後の残留曲げ強度を標準化した結果を示す.衝撃エネルギーが2J/mm以下の場合,

CF/PC 積層板と CF/EP 積層板の間には大きな差が生じている.衝撃エネルギーが 1J/mm

の場合,CF/PC 積層板の衝撃後の曲げ強度の低下率は CF/EP 積層板のそれより小さく,

CF/PC 積層板と CF/EP 積層板の衝撃後の曲げ強度の残留率はそれぞれ約 80%および約

60%である.衝撃エネルギーが 2J/mm の場合,CF/PC 積層板と CF/EP 積層板の衝撃後の

曲げ強度の残留率はそれぞれ約 70%および約 50%である.したがって,CF/PC 積層板に与

える衝撃の影響は CF/EP 積層板に与える衝撃に比べ小さいことが明らかとなった.この残

留曲げ強度の低下率は衝撃による繊維破断に依存すると考えられる.これは次の理由によ

る.すなわち,図 4.4.3-1 に示すように,どちらの積層板にもトランスバースクラックが確

認できるが,CF/EP 積層板には確認できたマイクロバックリングなどの繊維破断が CF/PC

積層板には確認できなかった.荷重を支える役割を持つ繊維が破断した CF/EP 積層板は曲

げ強度が低下し, CF/PC 積層板は繊維の破断が生じず,曲げ強度が低下しなかったためと

考えられる.

衝撃エネルギーが 4J/mm の場合,CF/PC 積層板および CF/EP 積層板の衝撃後の曲げ強

度の残留率はどちらも 30%であった.図 4.4.3-2 に示すように,衝撃エネルギーが 4J/mm

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の場合,CF/PC 積層板および CF/EP 積層板にはマイクロバックリングなどの繊維破断が確

認できる.そのため,どちらの材料も繊維破断により同程度の曲げ強度の低下率を示した

と考えられ,残留曲げ強度の低下率は衝撃による繊維破断に依存することを裏付けている.

次に衝撃による曲げ弾性率について議論する.図 4.4.4-3 に衝撃エネルギーと残留曲げ弾

性率の影響を示し,図 4.4.4-4 に衝撃エネルギーと衝撃を与えていない試験の曲げ弾性率を

使用して基準化した曲げ弾性率との関係を示す.図 4.4.4-3 より,衝撃を受けていないと

CF/PC 積層板は CF/EP 積層板より,約 10%低く,衝撃により衝撃エネルギーが大きくな

ると, CF/PC積層板およびCF/EP積層板の曲げ弾性率が低下することがわかる.図 4.4.4-4

より,衝撃エネルギーが 1J/mm および 2J/mm の場合は CF/PC 積層板の弾性率をほぼ一定

であり,4J/mm の場合は約 14%低下している.CF/EP 積層板の場合,衝撃エネルギーが

1J/mm および 2J/mm の時は曲げ弾性率が若干低下しており,さらに 4J/mm の時は曲げ弾

性率が約 8%低下している.曲げ弾性率と衝撃エネルギーと破壊様相の関係より,曲げ弾性

率の低下は繊維の破断により低下していることが推測できる.また,衝撃を与えることに

よって,弾性率のバラツキが大きくなることが推測される.これは衝撃が試験片に与える

損傷の影響のバラツキであり,CF/PC 積層板は CF/EP 積層板より衝撃の影響を受けにくい

ことが考えられる.また,衝撃が曲げ強度に与える影響に比べ,衝撃が曲げ弾性率に与え

る影響を小さいことが推測できる.

図 4.4.4-1 衝撃による残留曲げ強度と衝撃エネルギーの関係

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図 4.4.4-2 衝撃による曲げ強度の残留率と衝撃エネルギーの関係

図 4.4.4-3 衝撃による残留曲げ弾性率と衝撃エネルギーの関係

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図 4.4.4-4 衝撃による曲げ弾性率の残留率と衝撃エネルギーの関係

4.4.5 シャルピー衝撃試験

CF/PC積層板とCF/EP積層板の衝撃耐性を評価するために一般的な衝撃耐性評価方法で

あるシャルピー衝撃試験を行った.試験機は万能衝撃試験機(㈱安田精機製作所製)を使

用した(図 4.4.5-1).ひょう量 5J,ハンマーモーメント 2.684 N・m,打撃点までの距離 29.93

cm である.試験片サイズは,JIS K7077 に従い,長さ 80mm,幅 10mm,厚み 2mm とし

た.しかし,実際の試験片の厚みは,CF/PC 積層板は 2.2mm,CF/Ep 積層板は 1.9mm で

ある.試験片支持台間の距離は 60mm であり,実験中の温度は 23℃である.また,CF/PC

積層板と CF/EP 積層板の Vf の平均値はそれぞれ 51%,58%である.シャルピーの衝撃値

はハンマーの振り上がり角度と持ち上げ角度の差から求めた.

衝撃試験によって求めたシャルピー衝撃値を図 4.4.5-2 に示す.図より,シャルピー衝撃

値は CF/PC の方が CF/EP より小さいことがわかる.つまり,CF/PC 積層板は CF/EP 積層

板より衝撃による破壊には弱いということがわかる.図 4.4.5-3 および図 4.4.5-4 に CF/PC

積層板とCF/EP積層板のシャルピー衝撃試験後の試験片をそれぞれ示す.写真より,CF/PC

積層板は完全に破断しているが,CF/EP 積層板は完全な破断は起こっておらず,一部がつ

ながっていることがわかる.試験片からも明らかに CF/EP の方が粘り強いことがわかる.

この現象を落錘衝撃による損傷観察から推測する.CF/PC 積層板は層間に損傷が起きにく

く,ある程度の弱い衝撃に対しては強いことが明らかである.しかし,繊維の破断を伴う

破壊に関しては弱くなることが推測される.このことは衝撃後の残留曲げ強度の評価から

も推測される.この評価は,CF/PC 積層板には衝撃による層間のはく離が起きにくいこと

が起因していると考察した.シャルピー衝撃試験の結果に対して同様な現象が起きている

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と推測した.

シャルピーの衝撃試験より,CF/PC 積層板の材料としての衝撃吸収能力は低いと判断で

きる.シャルピーの衝撃試験の結果は破壊までの衝撃エネルギーを表すので,3 点曲げ試験

の荷重-たわみ曲線の面積の大きさからも推測できる.図4.4.5-5にCF/PC積層板とCF/EP

積層板の 3 点曲げ試験の荷重-たわみ曲線を示す.図に示すように,破断荷重は CF/PC 積

層板の方が CF/EP 積層板より小さい.また,破断たわみは若干 CF/PC 積層板の方が大き

い.この荷重-たわみ曲線の面積は破壊までのエネルギーを示す.図より,明らかに CF/EP

積層板の荷重-たわみ曲線の面積が大きく,破壊までのエネルギーが CF/PC 積層板の方が

CF/EP 積層板より小さいことがわかる.このことからも,CF/PC 積層板は CF/EP 積層板

より破壊に至る場合の耐衝撃性が低いことが予測される.

しかし,多くの材料の使用条件で,破壊に至る衝撃エネルギーを与えられることは少な

く,破壊に至らない場合の衝撃エネルギーレベルで評価する必要がある.図 4.4.4-1 より,

残留曲げ強度が 0MPa となるときの衝撃エネルギーを計算し,CF/PC と CF/EP の衝撃エ

ネルギーの比をとると CF/PC:CF/EP=1:1.324 となる.一方,シャルピー衝撃値の CF/PC

と CF/EP の比をとると CF/PC:CF/EP=1:1.450 となる.このことより,残留曲げ強度とシ

ャルピーの衝撃値には関係性があり,落錘試験はシャルピー衝撃試験より衝撃エネルギー

レベルが小さいことがわかる.実際の製品に与えられる衝撃はほとんどの場合,完全な破

壊を伴わない衝撃エネルギーレベルである.したがって,落錘試験の実験結果から,CF/PC

積層板は実製品において耐衝撃性が高いこと判断できる.

図 4.4.5-1 シャルピー衝撃試験機

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図 4.4.5-2 CF/PC 積層板および CF/EP 積層板のシャルピー衝撃値の比較

図 4.4.5-3 CF/PC 積層板を用いたシャルピー衝撃試験後の試験片

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図 4.4.5-4 CF/EP 積層板を用いたシャルピー衝撃試験後の試験片

図 4.4.5-5 CF/PC 積層板と CF/EP 積層板の 3 点曲げ試験時の荷重-たわみ曲線

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4.5 まとめ

CF/PC 積層板の耐衝撃性を同じ繊維を用いた CF/EP 積層板と比較しながら評価した.そ

の結果,同じ衝撃エネルギーに対する CF/PC 積層板の損傷は CF/EP 積層板のそれより小

さいことが分かった.また衝撃エネルギーが小さい場合,CF/PC 積層板では衝撃による繊

維破断が抑制され,結果として,CF/PC 積層板の衝撃による曲げ強度の低下率は CF/EP 積

層板のそれに比べ小さいことがわかった.しかし,シャルピー衝撃試験による評価では,

CF/PC 積層板は CF/EP 積層板より耐衝撃性が低いことが明らかとなった.この結果より,

完全に破断もしくは破壊が起きるほどの大きな衝撃エネルギーが与えられる場合は CF/PC

積層板より CF/EP 積層板の方が優れていると判断できる.しかし,実際に製品として使用

する場合,完全に破壊される衝撃エネルギーを与えられることはほとんどない.したがっ

て,実使用における場合,CF/PC 積層板は耐衝撃性が高いと判断できる.

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第5章

CF/PC 積層板の寸法安定性に及ぼす

スタンピング条件の影響

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5.1 はじめに

第 2 章,第 3 章より,表面品質,強度に優れた CF/PC 積層板を成形することができた.

本章ではスタンピング成形による CF/PC 積層板の賦形を行う.CFRP 成形品は,それ単体

で使用されることは少なく,多くの場合ほかの部品と組み合わせて使用される.そのため,

寸法安定性は重要な問題である.スタンピング成形による賦形工程は,成形品の最終形状

を決定する工程であるため,この工程で寸法安定性の問題を解決する必要がある.寸法安

定性は成形品の長さ,厚さ,角度などで評価できるが,スタンピング成形品は角度をつけ

たシェル構造をとることが多いため,角度寸法が重要であると考える.角度の寸法安定性

の問題となる現象はスプリングバックおよび経時変形である.スプリングバックは大きく

分けて 2 種類の粘弾性メカニズムによって説明できる.それは,①変形による残留応力の

影響.②材料の熱特性の違いによる熱残留応力の影響.である.スプリングバックは板金

加工などでも起きる問題であり,材料をプレスなどの曲げ加工をしたとき,工具から離す

と材料に施した変形が若干元に戻る現象である.曲げによる変形では,材料内部に圧縮応

力と引張応力が1枚の板の表裏に発生する.そのため,圧力を除くと変形に対して元に戻

ろうとする応力が材料に働き,スプリングバックは起きる.変形に対して元に戻ろうとす

る応力を残留応力という.同じように,CFRTP 積層板を変形させる時にもこのような現象

が起こる.熱残留応力によるスプリングバックは材料の熱特性の違いと材料の熱特性の異

方性によって起こる.熱特性とは強化繊維とマトリックス樹脂の熱膨張率の差を指す.熱

残留応力は主に冷却中に発生し,冷却中の繊維と樹脂の熱による収縮量の差により発生す

る.このような材料の熱膨張率の違いによる変形はコンポジット特有の現象である.その

ほか,樹脂の結晶化による収縮や樹脂と繊維の体積量の違いによる収縮量の差,吸水によ

る体積変化などによっても変形する.経時変形とは,時間の経過と共に徐々に変形してい

く現象である.経時変形の発生メカニズムは 5.2 節で詳しく説明するように,粘弾性特性を

用いて説明することができる.

スタンピング成形品には寸法安定性が重要であることは明確であるが,それ以前の問題

として,先ずは表面品質,強度を損なわずに賦形することが問題になる. Hou ら[1]はガラ

ス繊維織物とポリエチルイミド(Poly-Ether-Imide: PEI)を用いてスタンピング温度,スタ

ンピング圧力,スタンピング速度,材料の固定方法などの各諸条件が外観に及ぼす影響の

研究を行った.Meyer ら[2]はノンクリンプファブリックと PEEK(Poly-Ether-Ether –Ket

one)を用いて鋭角のシンプルな部品の賦形の評価を行った.Hwang ら[3]は一方向材炭素繊

維とナイロン6を用いた CFRTP を用いて寸法精度に及ぼすスタンピング温度,スタンピン

グ圧力,保持時間の影響を報告している.De Luca ら[4]は織物炭素繊維と PEI を用いた

CFRTP を用いてシミュレーションによってスタンピング製品の品質に及ぼすスタンピン

グ条件の影響を報告している.Viellie ら[5-6]は炭素繊維織物と PPS(Poly-Phenylene-Sulfi

de)からなる CFRTP を用いて,強度に及ぼすスタンピング条件の影響を報告している.ま

た,スタンピング成形によるスプリングバック量を予測するモデルが考案され,実験とシ

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ミュレーションを用いたスプリングバック量の予測値を比較検討する研究が行われている.

Padovec ら[7]は炭素繊維織物と PEEK を複合させた CFRTP を用いて,シミュレーション

によってスプリングバックに及ぼす残留応力,熱収縮,湿度の影響を報告している.

Sunderland ら[8]や Kim ら[9]は異方性のある熱特性(熱膨張),熱勾配の非対称性,熱膨張

の温度依存性,金型形状の影響を,熱粘弾性特性を考慮したモデルを使用して予測したデ

ータと実験値を比較検討し,スプリングバック量の予測精度の向上を図っている.Lynam

ら[10]は Sunderland らや Kim らが開発したモデルを使用し,ロールを用いた連続スタン

ピング成形システムへの適応を報告している.

以上のようにスプリングバックに関する報告は多いが,長期の寸法安定性を評価した報

告は見当たらない.しかし,CFRTP をスタンピングするには材料を加熱し,樹脂を軟化さ

せる必要がある.樹脂は軟化させた状態のとき粘弾性挙動を示し,5.2 節で詳しく説明する

が経時変形も粘弾性特性によって説明できる.ゆえにスタンピングを検討する上で粘弾性

特性を考慮することは必要である.

本章では,スプリングバックと経時変形に及ぼすスタンピング温度の影響について,織

物材を用いた CF/PC 積層板とマトリックスである PC の粘弾性特性を用いて検討した.ス

タンピング圧力やプレス時間,冷却速度などの条件も寸法安定性に影響を与えると考えら

れる.しかし,5.2 節で詳しく説明するが,長期寸法安定性に及ぼすスタンピング温度の影

響が最も大きいと考えられる.CF/PC 積層板をいくつかの温度でハット型にスタンピング

賦形し,ハット型の角度を測定することで寸法安定性を評価した.スタンピング時の温度

は,動的粘弾性装置(Dynamic mechanical analyzer: 以下 DMA と略称)で測定した貯蔵弾

性率の温度依存性の関係から決定した.スタンピング後のハット型の角度を測定すること

でスプリングバックを評価した.次に,ハット型に賦形した試験片を恒温槽の中に入れ,

高温雰囲気下での加速試験を行った.一定時間後,経時変形によって変化したハット型の

角度を測定し,長期の寸法安定性を評価した.スタンピング温度が経時変形に与える影響

を PC の粘弾性特性に基づいて考察した.さらに,スタンピング時の保持時間を変えてスタ

ンピング成形をした試験片を用いて,スタンピング時間が経時変形に与える影響について

も評価した.

5.2 熱可塑性樹脂の粘弾性モデルによるスタンピング温度がスプリングバックおよび経時

変形に及ぼす影響の考察

図 5.2-1 の左側に示すように熱可塑性樹脂の粘弾性モデルはフック弾性のスプリングと

ニュートン粘性のダッシュポットで表すことができる.図中の右側は温度と樹脂の弾性率

の関係を示す.Tg はガラス転移温度,Tm は溶融温度,Eg はガラス状態の弾性率,Er およ

びrはそれぞれゴム状態の弾性率と粘性,そしてmは溶融状態の粘性を示す.Tg以下のガ

ラス状態では,r およびm が大きいためダッシュポットr およびm は固定されるので,

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弾性率はスプリング Egのみで表すことができる.Tg以上 Tm以下のゴム状態では, rは低

くなるが,mの粘度は依然高い状態であり,ダッシュポットmのみ固定されるので,弾性

率はスプリング Egおよび Erの直列モデルで表すことができる.Tm以上の溶融状態では,

ダッシュポットr およびm は低くなるためスプリングに負荷がかからないため,弾性率は

ゼロとなる.温度と熱可塑性樹脂の粘弾性モデル関係を表 5.2-1 に示す.

図 5.2-1 粘弾性モデルの温度依存性.

表 5.2-1 温度と粘弾性挙動の関係

Temperature Spring Eg Spring Er Dashpot r Dashpot m

T<Tg Move Set Set Set

Tg<T<Tm Move Move Move Set

Tg<T Unmoving Unmoving Unmoving Move

図 5.2-2 にスタンピングおよびスタンピング後における試験片のひずみ変化とスタンピ

ング温度の関係のイメージ図を示す.試験片は時刻 t=0 から t=S の間に,スタンピング賦

形によってひずみ 0(ゼロ)の状態からひずみ0の状態へと変形する.t=S で試験片が金型か

ら取り出され,以降の時間を Exposure time と定義する.スタンピング後の試験片は,図

5.2-1 の粘弾性モデルに基づいて,スタンピング温度 Tsの違いにより以下の 3 通りの変形挙

動を示す.

Tm<Tsの場合,樹脂は溶融状態にあり,スタンピング中にダッシュポットmは自由に動

き,スプリング Egおよび Erは動かない.したがって,スタンピング後の復元力が働かない

ため,図 5.2-2 の(1)に示すように永久変形(Permanent set)が保持される.

Tg<Ts<Tm の場合,スタンピング中にダッシュポットm は動かないが,r およびスプ

リング Egおよび Erが動く.そのため,図 5.2-2 の(2)に示すように,スタンピング直後にス

プリング Egの復元力によるスプリングバック(Spring back)およびスプリング Erの復元力

による経時変形(Age deformation)が起きる.

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Ts<Tgの場合,スタンピング中にダッシュポットmおよびrは動かないためスプリング

Eg のみ動く.そのため,スタンピング直後に図 5.2-2 の(3)に示すように変形が完全に元に

戻る.

図 5.2-2 スタンピング後のスプリングバックと経時変形の概念図

5.3 供試材料

本実験に使用した供試材料は,PAN 系の 3k 炭素繊維平織物シート(目付 200g/m2)およ

び PC フィルム(厚み:0.15mm および 0.3mm)である.CF シートは東レ製 T300 相当の物

性を持つ.PC としては住化スタイロンポリカーボネート㈱製(商品名:CAREVERTM

301-15)を使用した.前処理として,PC フィルムを 120℃で 2 時間の真空乾燥を行った.

炭素繊維と PC の物性値を表 5.3-1 に示す.また,CF/PC 積層板は平織 CF シート8枚,

PC フィルム9枚使用し,第2章および第 3 章で確立した成形方法および成形条件で成形し

た.成形条件は第3章で示した成形条件 P-3 である.表 5.3-2 に試験片の厚さと繊維体積含

有率 Vf,曲げ強度,曲げ弾性率を示す.

表 5.3-1 炭素繊維とポリカーボネートの物性値

Materials Density

(g/cm3)

Tensile elastic

modulus (GPa)

Tensile strength

(MPa)

Breaking

elongation (%)

Carbon fiber 1.80 230 3450 1.5

Polycarbonate 1.20 2.3 60 10

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表 5.3-2 成形条件 P-3 で成形した CF/PC 積層板の物性

Thickness

(mm)

Vf

(%)

Flexural strength

(MPa)

Flexural elastic

modulus (GPa)

2.01 42 670 43

5.4 粘弾性特性によるスタンピング温度の決定

PC の粘弾性特性を評価するために,動的温度分散試験(Dynamic Temperature Ramp

test: 以下 DTR と略称)を行った.試験はデュアルカンチレバー(dual cantilever)を用いた

曲げモード試験を DMA(PSA-III; TA インストルメント社製)を用いて行った.図 5.4-1 にデ

ュアルカンチレバーとDMA装置の写真を示す.試験はひずみ0.01%,支点間距離37.5mm,

周波数 1.0Hz の試験条件で行った.試験片寸法は長さ 50mm,幅 6.7mm,厚み 2mm であ

る.

図 5.4-2 に貯蔵弾性率 E’の温度依存性を示す[11].図中のひし形のプロット点は DTR 試

験により測定した実験データである.実線は参考文献からのデータである.図より,貯蔵

弾性率 E’は 150℃付近から急激に低下していることがわかる.このことより,Tg はおよそ

150℃であることが推測される.また,貯蔵弾性率 E’は 180℃付近でも急激な低下を示して

いることより,Tm は 180℃付近であることが推測される.したがって,表 5.4-1 に示すよ

うに,150℃以下ではガラス状態,150℃から 180℃の間ではゴム状態,180℃以上では溶融

状態であることが推測される.これより,スタンピング温度 Ts を 140℃,160℃,180℃,

200℃とした.

実際のスタンピング成形では融点以上で行うのが一般的である.また 5.2 節より,融点以

上で行う場合は経時変形が起きないと予測される.しかし,本当に経時変形が起きないこ

と判断することはできない.ゆえに,経時変形を起す温度である 140℃および 160℃を選択

し,寸法安定性を評価した.また,融点以上でスタンピングすることで経時変形を起さな

いのかを確認するために,180℃および 200℃のスタンピング温度を選択した.

図 5.4-1 DMA に使用したデュアルカンチレバー

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図 5.4-2 貯蔵弾性率 E’の温度依存性 [11]

表 5.4-1 樹脂の温度と樹脂状態の関係

温度範囲 150℃以下 150℃~180℃ 180℃以上

樹脂状態 ガラス状態 ゴム状態 溶融状態

5.5 CF/PC 積層板のスタンピング賦形方法

図 5.5-1 にスタンピングに用いた金型を示す.スタンピング温度は図 5.5-1 に示す 2 つの

熱電対によって監視した.金型を加熱するために,水冷機能付きのホットプレスを使用し

た.また,実験前に熱電対によって CF/PC 積層板の温度と金型の温度の関係を確認した.

スタンピングの手順としては,先ず,ホットプレスを用いてスタンピング温度まで金型を

加熱し,CF/PC 積層板を図 5.5-1 のように金型の間に設置する.材料の温度がスタンピン

グ温度に上昇するまでその状態を維持し,CF/PC 積層板を温めるために約十分間の加熱時

間(Heating Time)を設け,その後 1 分間の時間をかけて CF/PC 積層板をプレスし,1 分間

その状態を保持した(Stamping Time).その後,CF/PC 試験片を硬化させるために,ホッ

トプレスを水冷し,間接的に金型を冷却し,金型の温度が約 100℃以下に低下後,金型から

試験片を取り出した(Cooling Time).図 5.5-2 に Ts=160℃の場合のスタンピング賦形工程

における温度履歴および圧力履歴を示す.図 5.5-3 に Ts=180℃でスタンピング賦形した試

験片を示す.

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図 5.5-1 スタンピング金型とスタンピングシステム

図 5.5-2 スタンピング工程における材料の温度履歴と圧力履歴の概略図(Ts=160℃)

図 5.5-3 スタンピング成形品

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5.6 スタンピング賦形された CF/PC 試験片の観察による考察

図 5.6-1 に各スタンピング温度 Tsで賦形された試験片の断面観察を示す.140℃でスタン

ピング賦形された試験片には層間はく離などの損傷が観察された.しかし,160℃以上の温

度でスタンピング賦形された試験片には損傷は観察されなかった.また,200℃の温度でス

タンピング賦形された試験片では断面に樹脂の流出によって生じた樹脂玉(Resin ball)が観

察され,表面では繊維の乱れも観察された.これらのことより,Tg以下である 140℃では,

樹脂の軟化が不十分であり,損傷が発生する.また,Tm 以上である 200℃では,樹脂が流

動性を持ち,樹脂の流出や繊維の乱れが発生する.よって,CF/PC 積層板のスタンピング

賦形に適切な温度は 160℃もしくは 180℃であることがわかる.

(a) Ts=140°C (b) Ts=160°C

(c) Ts=180°C (d) Ts=200°C

図5.6-1 Cross-section of specimens stamped with textile CF/PC laminates

5.7 スプリングバックおよび経時変形の評価

図 5.7-1 に試験片の寸法と測定方法を示す.スプリングバックおよび経時変形を図 5.7-1

に示す角度θを測定することで評価した.角度θの基準値は図 5.5-1 に示す金型の角度θ

=120°である.測定には画像解析ソフト“Image J”を使用し,図 5.7-1 の右側に示すよう

に測定した.

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図 5.7-2 に各温度でスタンピング賦形した直後に試験片の角度θを測定した結果を示す.

140℃でスタンピング賦形した試験片ではスプリングバックが生じかつバラツキが大きい.

その他の温度では角度はほとんど変化せず,バラツキもない.

図 5.7-1 試験片の形状角度θの測定方法

図 5.7-2 スプリングバックによる角度の変化とスタンピング温度の関係

次に経時変形を評価するために加速試験による実験を行った.スタンピングされた試験

片を 140℃に設定した恒温槽の中に入れて,一定時間後,恒温槽から試験片を取り出し,室

温の状態で試験片の角度θの測定を行った.

図 5.7-3 に試験片を 140℃の雰囲気下に置いた時の角度θの時間変化を示す.図中のポイ

ント S は試験片を金型から取り出した直後の角度,つまりスプリングバックの量を示す.

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この図から,140℃および 160℃でスタンピングした試験片の角度θは時間と共に大きくな

る.180℃および 200℃でスタンピングした試験片の角度θは時間の経過に対してほとんど

変化していない.このことから,スタンピング温度の上昇に伴い経時変形が抑制されるこ

とが明らかとなった.

図 5.7-3 各スタンピング温度で賦形した試験片における時間と角度θの変化の関係

5.8 PC の粘弾性特性による時間-温度換算則の加速率の算出

熱硬化性樹脂や非晶性の熱硬化性樹脂が微小変形した場合の粘弾性特性には時間-温度

換算則が成立することが知られている.大きく形を変えることができる熱可塑性樹脂の大

変形時には一般に結晶化や分子配向を伴うことから,微小変形と変形機構が異なり,時間

-温度換算則が成立しない.しかし,PC は比較的分子構造の複雑な非晶性高分子であり,

分子鎖の無定形状態が大変形まで保持すると考えられる.その証拠にスタンピング温度

160℃以上の試験片の大変形が起きた角の部分では白化現象は見られず,樹脂は透明な状態

を保っていた.そのため,微小変形で成立した時間-温度換算則は大変形の場合でも成立

すると考えた.

図 5.7-3 の結果より,スタンピング後の経時変形が樹脂の粘弾性変形と密接に関係してい

ると考えられる.そこで,樹脂の粘弾性に成立する時間-温度換算則を用いて,経時変形

の長期予測を試みた.

PC の時間-温度換算則における加速率である時間-温度移動因子 aT0を求めるために,

動的周波数/温度スイープ試験(Dynamic Frequency/Temperature Sweep: DF/TS test)を行

った.試験はデュアルカンチレバーを用いた曲げモード試験で DMA 装置を用いて行った.

温度は 25℃から 160℃まで変化させ,周波数は 0.01Hz から 10Hz まで変化させた.

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図 5.8-1 の左側に PC の DF/TS 試験によって求めた種々の温度における tanと対数時間

(ここでは,周波数の逆数をとった)の関係を示す.tanδとは損失係数と呼ばれるものであ

り,貯蔵弾性率と損失弾性率の比である.25℃の tanを固定し,それ以外の温度の tanが

互いに滑らかに接続するように横軸に対して平行移動して求めたマスター曲線を図 5.8-1

の右側に示す.滑らかな 1 本のマスター曲線が求められることから,PC における tanの

時間依存性と温度依存性の間には時間-温度換算則が成立する.

図 5.8-1 PC のおける tan のマスター曲線

時間-温度移動因子 aT0は式(1)によって定義される.

't

tTa T0 (1)

ここで,t はある温度 T における実時間を示し,t’は基準温度 T0=25℃における換算時間

を示す.実験により求められた tanの時間-温度移動因子と絶対温度の逆数の関係を図

3.8-2 に示す.aT0(T)は次式のアレニウスの式で表すことができる.

0

0

11

3032 TT.

HTalog

GT , (2)

ここで,G は気体定数(8.314×10-3 [kJ/kmol]),⊿H は活性化エネルギー,である.図 5.8-2

に示すように,温度 135℃以下の場合は⊿H1=117 [kJ/mol],温度 135℃以上の場合は⊿

H2=852 [kJ/mol]となる.

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図 5.8-2 PC の tanにおける時間-温度移動因子 aT0

5.9 時間-温度換算則を用いた経時変形の長期予測からの長期寸法安定性に及ぼすスタン

ピング温度の影響の考察

寸法安定性を評価するために,スタンピング賦形された試験片の角度θの経時変形にお

けるマスター曲線を作成した.160℃でスタンピング賦形した試験片を温度 Tb=60℃,100℃,

120℃,130℃,135℃,140℃に設定した恒温槽に入れた.その後,恒温槽から取り出し,

室温に冷却した試験片の角度θを測定した.また,恒温槽の温度を変更するたびに新たな

試験片を準備した.その測定結果を図 5.9-1 の左側に示す.各 Tbにおける角度θについて,

基準温度を 80℃として,図 5.8-2 に示す aT0 を用いて横軸に対して平行移動した結果を図

5.9-1 の右側に示す.各温度における角度θは1本の滑らかな曲線上に乗ることから,経時

変形の時間依存性と温度依存性の間にはマトリックス樹脂である PC の粘弾性特性に成立

するものと同じ時間-温度換算則が成立することが確認できた.図 5.9-2 に 140℃でスタン

ピング賦形した試験片の角度θのマスター曲線を示す.この図より,角度θの経時変形は

滑らかな曲線上に乗らないことが確認できる.よって,140℃でスタンピング賦形したもの

は経時変形が適用できないことがわかる.その理由として,図 5.6-1(a)に示す写真のように

140℃でスタンピング賦形したものには損傷が起きているためである考えられる.つまり,

損傷によってそれぞれの試験片の状態が異なるため,今回のような方法では時間-温度換

算則が成立しないことが考えられる.この結果を受けて,スタンピング温度 140℃で成形し

た試験片を 1 つ準備し,その 1 つの試験片について経時変形の評価を行った.その結果を

図 5.9-3 に示す.図より,異なる温度をまたぐとき若干のずれは認められるが,ほぼ 1 本の

滑らかな曲線を描いている.したがって,140℃のスタンピング成形を行った試験片につい

ても,経時変形に温度-時間換算則が成立することが明らかになった.このことより,成

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形の際に損傷を受けたとしても,時間-温度換算則が成立することが明らかとなり,長期

寸法安定性を予測することができることがわかった.

180℃および 200℃で成形したものは,図 5.7-3 に示すように経時変形は起きないため,

時間-温度換算則が成立するか判断できない.しかし,180℃および 200℃でスタンピング

賦形した場合,140℃でスタンピング賦形した場合のように損傷が起きていないと考えられ

るため,160℃でスタンピング賦形した場合と同様に時間-温度換算則が成立することが推

測できる.図 5.9-4 の左側に図 5.7-3 の結果を示し,図 5.8-2 に示す aT0を用いて横軸に対

して平行移動した結果を図 5.9-4 の右側に示す.図 5.9-4 に示すように 180℃および 200℃

でスタンピング成形した試験片は長期間にわたりほとんど変化しないことがわかる.した

がって,融点以上でスタンピングした成形品は長期寸法安定性に優れることが明らかとな

った.

図 5.9-1 160℃でスタンピング成形した試験片における角度θのマスター曲線

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図 5.9-2 140℃でスタンピング成形した試験片における角度θのマスター曲線

図 5.9-3 一つの 140℃でスタンピング成形した試験片における角度θのマスター曲線

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図 5.9-4 各スタンピング温度における経時変形予測

5.10 スタンピング時の保持時間が経時変形に及ぼす影響

寸法安定性はマトリックス樹脂の粘弾性特性によって予測できることを示した.粘弾性

特性は温度と時間に依存するため,経時変形は温度と時間に依存することが推測できる.

そのため,経時変形に及ぼすスタンピング時間が及ぼす影響を検討する.具体的には,ス

タンピング温度を 160℃とし,その保持時間(Stamping Time:ta)を 0.5min,1min,10min

で変化させ,それぞれの試験片の経時変形を観測した.その結果を図 5.10-1 に示す.その

結果,Stampin Time を長くすることによって経時変形を抑制することができることがわか

った.

図 5.10-1 Stamping Time が経時変形に及ぼす影響

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5.11 まとめ

織物材を用いた CF/PC 積層板を用いてスタンピング賦形後の経時変形に及ぼすスタンピ

ング温度の影響を PC マトリックスの粘弾性挙動をベースに評価した.CF/PC 積層板をい

くつかのスタンピング温度でスタンピング賦形することによってハット型の試験片を作成

した.実験の結果として,ガラス転移温度以下の温度でスタンピング賦形した試験片はス

プリングバックが起きることが示された.ガラス転移温度以上,溶融温度以下でスタンピ

ング賦形した試験片は経時変形が起きることが示された.溶融温度以上でスタンピング賦

形した試験片は経時変形をほとんど起こさないことが示された.さらに経時変形はスタン

ピング温度を上げることによって抑制できることが示された.しかし,スタンピング温度

を高くすると,樹脂の流出や繊維の乱れが生じる.これは強度や寸法,後加工にも影響す

るため,樹脂の流動が起きない適切な温度を選択しなくてはならない.最後に,長期の経

時変形は PC マトリックスの粘弾性特性に成立する時間-温度換算則を基に,加速試験によ

って評価した短期の経時変形より予測することができることを示した.このことより,融

点以上でスタンピング賦形を行った成形品は経時変形をほとんど起こさないことが明らか

になった.また,スタンピング時の保持時間にを長くすることによって経時変形を抑制す

ることができることを明らかにした.融点以下でスタンピング成形できることを示し,ス

タンピング時の保持時間を長くすることによって寸法安定性を保証することを示したこと

により,スタンピング温度選択の可能性を広げることができた.

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process-induced internal stresses in thermoplastic matrix composites”, Polymer

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9. Kim B.-S., Bernet N., Sunderland P. and Manson J.-A., “Numerical Analysis of the

Dimensinaol Stability of Thermoplastic Comosites Using a Thermoplastic Approach”,

Journal of Composites Materials, 2001; 36: 2389-2403.

10. Lynam C., Milani A.S., Boucher D.T. and Borazghi H., “Predicting dimensional

distortions in roll forming of comingled polypropylene/glass fiber thermoplastic

composites: On the effect of matrix viscoelasticity”, Journal of Composites Materials,

2013, online published.

11. TA instruments. “RSA-G2 Solid Analyzer Brochure” 2011.

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第 6 章

結論

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本研究は強化材としての平織炭素繊維(CF 織物)とマトリックスとしてポリカーボネート

(PC)の組み合わせた平織炭素繊維強化ポリカーボネート(CF/PC)積層板からなるハット

型の成形を目標として,CF 織物に PC を含浸して積層平板を成形する工程と,この平板をス

タンピングによって賦形する工程からなるスタンピング成形システムを対象に,スタンピング

成形の諸条件と成形品の表面品質,強度および寸法安定性の関連について検討し,高品質のス

タンピング成形品を実現するための成形指針を示し,CFRTP の開発方法に寄与することを

目的として行った.

CF/PCスタンパブルシートを社会的に普及させるためには,最終製品を考慮した技術開

発が必要である.最終製品に要求される表面品質,強度および寸法安定性は,CFRTP積層板

の成形工程とスタンピングによる賦形工程の両方の工程にわたるスタンピング成形システム

全体に関係する技術課題であるが,CFRTPを用いる最大の理由である成形サイクルの短縮を

達成するためには,賦形工程は単純である必要があり,要求項目は可能な限り積層板の成形工

程で解決しなければならない.表面品質や強度については積層板の成形工程で解決できる項目

であり,寸法安定性は賦形工程で解決すべきであると考察した.

以下に各工程で解決した技術課題を示す.

第2章では,表面品質を損なう問題の解決を目標に積層板成形の諸条件の影響を検討した.

具体的には,CF織物シートとPCフィルムの積層による樹脂含浸法に注目し,これらの積層方

法や成形温度,成形圧力などに関して検討し,繊維の乱れや樹脂の白化および表面のボイドの

無い高品質のCF/PC積層板を成形できる方法を確立した.

第3章では第2章で確立した成形方法で成形条件を検討するために,成形条件が曲げ強度に及

ぼす影響について検討した.検討した項目は樹脂に含まれる水分,サイジング剤,成形圧力,

成形温度,Aging Timeである.特に成形温度と成形時のAging Timeを変動させて積層板の曲げ

強度を最大化する成形温度とAging Timeを検討した.結果として,PCを乾燥させること,サイ

ジング剤を除去することで曲げ強度を向上させることができることがわかった.成形圧力はボ

イド率に大きく影響を与えるが,曲げ強度にあまり影響を与えないことがわかった.さらに成

形温度およびAging Timeは曲げ強度に大きな影響を与えることがわかり,適切な成形温度およ

び成形時間を選択することによってCF/PC積層板の曲げ強度をCF/EP積層板の曲げ強度から推

測できるCF/PC積層板の曲げ強度のほぼ最大値まで向上させることができた.また,サイジン

グ剤を除去することによって得られた曲げ強度はAging Time: 60minとほぼ同じ値を示した.

実際に大量生産などに適用する場合には,工程数,コスト,成形時間を考慮してサイジング剤

を除去するか決めなくてはならない.

第4章では第2章および第3章で検討した成形方法および成形条件で得られたCF/PC積層板

の耐衝撃性を評価した.衝撃後の曲げ強度を測定し,さらに超音波探傷装置による観察や断面

観察により衝撃損傷のメカニズムを検討した.その結果,CF/PC積層板はエポキシ樹脂をマト

リックスとする従来の炭素繊維強化プラスチックと比べて衝撃による損傷の進展を抑制する

ことができ,高い耐衝撃性を持つことを確かめることができた.さらに,シャルピー衝撃試験

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との結果と落錘試験の結果を比較することにより,実際に使用する製品に及ぼす衝撃範囲では

CF/PCは耐衝撃性が高いことを示した.

第5章ではスタンピングによるCF/PC積層板の賦形のモデルとしてハット型を採用し,種々

のスタンピング温度のもとで CF/PC 積層板の平板を賦形し,スプリングバックと経時変形を

計測した.経時変形については PC の粘弾性特性に成立する時間-温度換算則を基に,その長

期予測を行った.その結果,PC の粘弾性特性を根拠に,長期間にわたって寸法安定性を保証

することが可能なスタンピング温度の決定指針を示すことができた.このことより,融点以

上でスタンピング賦形を行った成形品は経時変形をほとんど起こさないことが明らかにな

った.さらに,融点以下でスタンピング成形できることを示すことによって,スタンピン

グ温度選択の可能性を広げることができた.

以上の各要素技術の研究により,表面品質,強度および寸法安定性に優れた平織CF/PC積層

成形品のためのスタンピング成形システムを確立し,CF/PC中間材料開発に向けての道筋をつ

けることができた.また,CF/PCスタンパブルシートの強度面での検討,加工におけるノウハ

ウを示すことによってCF/PCスタンパブルシートの有用性を示すことができた.

ただし,本研究で行ったスタンピング成形システムは極めて小規模である.積層板の成形工

程においては,積層板のサイズが300mm角と小さく,ホットプレスによるバッチ成形である

ため,生産性は考慮されていない.また賦形工程では,二次元形状のハット型を検討している

が,実際の製品では複雑な三次元形状であるのが一般的である.そのため,本論文で検討した

条件等は大量生産に向けての前実験と位置付けることができる.実際に大量生産する際には異

なる装置を使用し,本論文中と異なる成形条件を検討しなくてはならない.しかし,本論文に

よって示された検討項目は,実際の大量生産に向けた開発でも発生する問題であることは間違

いない.したがって,次のステップとして本論文中に検討したノウハウを活用し,大量生産へ

向けての開発を行うことが考えられる.

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研究業績

1. 学位論文に関する内容の投稿論文

[1] Hiroaki Ozaki, Masayuki Nakada, Kiyoshi Uzawa and Yasushi Miyano, “Effect

of molding condition on flexural strength of textile carbon fiber reinforced

polycarbonate laminates”, Journal of Reinforced Plastics and Composites (to be

published).

[2] 尾崎 弘晃,中田 政之,鵜澤 潔,宮野 靖, “平織炭素繊維強化ポリカーボネ

ート積層板のスタンピング成形システムの条件設定に関する研究”, 材料システム

[3] Hiroaki Ozaki, Masayuki Nakada, Kiyoshi Uzawa and Yasushi Miyano, “Effect

of stamping condition on age deformation of textile carbon fiber reinforced

polycarbonate laminates”, Journal of Reinforced Plastics and Composites (to be

published).

[4] Hiroaki Ozaki, Hiroshi Saito, Masayuki Nakada and Yasushi Miyano, “Residual

flexural strength after impact for textile carbon fiber reinforced polycarbonate

laminates”, Journal of Reinforced Plastics and Composites (審査中).

2. 学会発表

[1] 尾崎 弘晃,中田 政之,宮野 靖,“織物材を用いた炭素繊維強化ポリカーボネ

ート複合材料の開発 –経時変形に及ぼすスタンピング条件の影響-”, 第 30 回新材料

工学研究会,2014 年 9 月 3 日発表

[2] Hiroshi Saito, Hiroaki Ozaki, Masayuki Nakada, Yasushi Miyano, “Evaluation

on Impact Damage of Textile Carbon Fiber Reinforced Polycarbonate Composite”,

16th US-JAPAN, Conference on Composite Materials (ASC29/US-J16/D30), 2014 年

9 月 8 日発表

[3] Hiroaki Ozaki, Masayuki Nakada, Kiyoshi Uzawa, Yasushi Miyano, “Effect of

Molding Condition on Flexural Strength of Textile Carbon Fiber Reinforced

Polycarbonate Laminates”, 16th US-JAPAN, Conference on Composite Materials

(ASC29/US-J16/D30), 2014 年 9 月 9 日発表

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[4] Hiroaki Ozaki, Masayuki Nakada, Kiyoshi Uzawa, Yasushi Miyano, “Effect of

Stamping Condition on Aged Deformation of Textile Carbon Fiber Reinforced

Polycarbonate Laminates”, Durability of Composite Systems (DURACOSYS) 2014,

2014 年 9 月 17 日発表

[5] 中田 政之,尾崎 弘晃, 鵜澤 潔,宮野 靖,“炭素繊維織物/ポリカーボネー

ト積層板の経時変形に及ぼすスタンプ条件の影響”,第 39 回複合材料シンポジウム

2014 年 9 月 19 日発表

[6] 尾崎 弘晃,中田 政之,鵜澤 潔,宮野 靖,“平織 CF/PC 積層板のスタンピン

グ後の経時変形の予測”,第 6 回日本複合材料会議,2015 年 3 月 5 日発表予定

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謝 辞

金沢工業大学大学院工学科研究科,高信頼ものづくり専攻,博士後期課程を修了するに

あたり,多くの方々の御支援,御協力をいただきました.ここに厚く御礼申し上げます.

博士後期課程の 3 年間,指導教授として終始変わらない情熱を持って御指導を賜りまし

た金沢工業大学教授の宮野靖先生に心から感謝いたします.入学当初,複合材料に関する

知識をほとんど持ち合わせていなかった私に,複合材料の基本から教えて下さいました.

博士後期課程では通常受講しなければならない講義科目はありませんが,複合材料に関す

る学内外の第一級の専門家を講師に招いて 1 年間にわたる講義科目を数人の受講生のため

に特別に設定して下さり,複合材料に関する様々な角度からの講義を受けさせていただき

ました.さらに,事実や現象を真正面に捉えて大胆に推論する研究者のあり方と,具体的

な製品や技術を粘り強く開発する技術者のあり方について,これまでの豊富な経験を踏ま

えて折に触れ語って下さいました.学位論文をまめる際には,論文は自身の哲学を表現す

るものとして,文章について徹底的に御推敲いただきました.宮野先生にはこの 3 年間に

研究内容だけでなく,多岐にわたり御指導いただきましたことを改めて深く感謝いたしま

す.

金沢工業大学教授の中田政之先生には,宮野先生と同じ研究室を構成する研究指導者の

お立場と学位論文審査員のお立場の両面で御指導を賜りました.研究室の実験装置の利用,

得られた結果に対する考察,学会発表,学術誌への論文投稿など,研究の実践面で御指導

を賜りました.さらに,国際学会における発表のための海外出張に同行していただき,発

表はもちろん海外旅行に不慣れな私を無事帰国するまでお世話くださいました.ここに深

く感謝いたします.

金沢工業大学教授の鵜澤潔先生には学位論文審査員として学位論文の査読を賜り,主に

スタンピング成形システムに関して適切な御助言をいただきました.また,博士後期課程

の 3 年間を通じて熱可塑性樹脂をマトリックスとする CFRP の成形に関しての先生の豊富

な御経験を基に的確な技術上の御助言をいただきました.ここに深く感謝いたします.

東北大学大学院教授の岡部朋永先生には学位論文審査委員として査読を賜り,複合材料

の微視機構の御専門のお立場から的確な御助言をいただきました.金沢工業大学教授の作

道訓之先生には学位論文審査委員として査読を賜り,複合材料とは異なる分野の専門家と

してのお立場から的確な御助言をいただきました.ここに深く感謝します.

金沢工業大学講師の斉藤博嗣先生には複合材料の衝撃損傷評価の御専門のお立場から御

指導を賜り,学会発表や投稿論文の作成の際には大変お世話になりました.金沢工業大学

研究推進機構専門員の金光学先生には,金沢工業大学内の実験装置の利用さらには外部企

業への加工の依頼など実験遂行のための便宜をはかっていただきました.また折に触れ励

まして下さいました.金沢工業大学准教授の田中基嗣先生には第 4 章で使用した落錘衝撃

試験機や超音波探傷装置,自動研磨機などの実験装置の使用に関する御助言をいただきま

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した.金沢工業大学准教授の吉田啓史郎先生には学内ネットワークの使用や論文の検索方

法,さらに CFRP の数値解析に関する御助言をいただきました.本研究を行うに当たり,

多くの人の御協力をいただきましたこと,深く感謝いたします.

金沢工業大学材料システム研究所事務の山下広子氏には,大学生活におけるサポートだ

けではなく,発表の資料作成やその準備のサポートをいただき大変お世話になりました.

誠にありがとうございました.

本研究を遂行するに当たり,金沢工業大学の宮野・中田研究室の学生達には大学での研

究やその他の活動でサポートいただきました.特に学部 4 年生であった平谷伸樹氏,勝木

寛太氏そして髙野祏生氏には私と共に実験を行い,さまざまなサポートをしていただきま

した.また,金沢工業大学の修士であった笠原和也氏,山北裕紀氏には特に研究室でのさ

まざまな活動においてサポートいただきました.金沢工業大学の学生の皆様にはお世話に

なりました.ここに深く感謝いたします.

私は 3 年前に勤務している津田駒工業株式会社から辞令を受けて,金沢工業大学大学院

高信頼ものづくり専攻博士後期課程を受験し,合格して入学させていただきました.学費

は全額を会社が負担して下さいました.このように願ってもない貴重な機会を与えて下さ

いました津田駒工業株式会社の元社長の菱沼捷二代表取締役会長,高納伸宏代表取締役社

長,執行役員の坂井一仁コンポジット機械部部長に心から感謝します.また,私が所属す

るコンポジット機械部コンポジット材料技術課の高島淳上級参事,平井淳副参事には研究

開始当初に研究の進め方を宮野先生とともに打ち合わせしていただき,折に触れ励まして

いただきました.また,同課員の皆様には,社内における業務,その他多岐にわたる御配

慮,御支援をいただきました.誠にありがとうございました.今後は,大学院で学び経験

した知識や経験を活かし,会社へ貢献できるよう努力する所存であります.

最後に,社会人学生としての生活を送る中で,温かく支えてくださった両親に深く感謝

いたします.

2015 年 3 月 尾崎弘晃