主体的に問題解決する生徒を育む理科学習指導 · 2019. 3. 1. ·...

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主体的に問題解決する生徒を育む理科学習指導 -四つの学びの場の設定を通して- 福岡市教育センター 中学校理科 長期研修員 姫野 翔伍 平成 30 年度 研究報告書 (第 1066 号) G4-03 学習指導要領改訂に伴い,問題解決の過程で生徒が自ら学ぶことの重要 性が述べられている。 本市の実態からも,生徒が課題の解決に向けて,自分で考え,自分から 取り組むという視点を意識した授業改善が必要とされている。 そこで,本研究では「自ら行う」を「追究意欲」をもち「自己選択・自 己主張・自己解決・自己理解」するという五つの姿で捉え,「学ぶべき課 題に気付く場」「学びに必要な観察・実験の場」「学んだことを主張する 場」「学びを振り返る場」の四つの学びの場の設定をした。 具体的には「学ぶべき課題に気付く場」ではズレなどに気付く資料を提 示し,追究意欲を引き出す。「学びに必要な観察・実験の場」では対象物 や学び方を複数与え,「学んだことを主張する場」では説明活動の場面を 準備し,生徒の自己選択・自己主張・自己解決を促す。「学びを振り返る 場」では,ワークシートを活用し生徒の自己理解を促す。 これらの四つの学びの場の設定をした授業を単元を通して行うことが, 主体的に問題解決する生徒を育む理科学習指導として有効であることが明 らかになった。

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主体的に問題解決する生徒を育む理科学習指導

-四つの学びの場の設定を通して-

福岡市教育センター

中学校理科

長期研修員 姫野 翔伍

平成 30 年度

研究報告書

(第 1066 号)

G4-03

学習指導要領改訂に伴い,問題解決の過程で生徒が自ら学ぶことの重要

性が述べられている。

本市の実態からも,生徒が課題の解決に向けて,自分で考え,自分から

取り組むという視点を意識した授業改善が必要とされている。

そこで,本研究では「自ら行う」を「追究意欲」をもち「自己選択・自

己主張・自己解決・自己理解」するという五つの姿で捉え,「学ぶべき課

題に気付く場」「学びに必要な観察・実験の場」「学んだことを主張する

場」「学びを振り返る場」の四つの学びの場の設定をした。

具体的には「学ぶべき課題に気付く場」ではズレなどに気付く資料を提

示し,追究意欲を引き出す。「学びに必要な観察・実験の場」では対象物

や学び方を複数与え,「学んだことを主張する場」では説明活動の場面を

準備し,生徒の自己選択・自己主張・自己解決を促す。「学びを振り返る

場」では,ワークシートを活用し生徒の自己理解を促す。

これらの四つの学びの場の設定をした授業を単元を通して行うことが,

主体的に問題解決する生徒を育む理科学習指導として有効であることが明

らかになった。

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目 次

1 主題について

(1)主題設定の理由・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-1

(2)主題及び副主題の意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-2

2 研究の目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-2

3 研究の仮説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-2

4 研究の構想

(1)内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-2

(2)理科学習における学習過程・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-3

(3)手だて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-3

(4)検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-4

5 研究構想図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-4

6 研究の実際と考察

『動物の生活と生物の進化』

(1) 単元を通した「四つの場の設定」

① 「学ぶべき課題に気付く場」への設定と実際・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-5

② 「学びに必要な観察・実験の場」への設定と実際・・・・・・・・・・理(中)・長研-7

③ 「学んだことを主張する場」への設定と実際・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-10

④ 「学びを振り返る場」への設定と実際・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-12

(2) 考察

① 「学ぶべき課題に気付く場」の有効性・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-13

② 「学びに必要な観察,実験の場」の有効性・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-14

③ 「学んだことを主張する場」の有効性・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-19

④ 「学びを振り返る場」の有効性・・・・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-21

7 研究のまとめ

(1)研究の成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-22

(2)研究の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-23

引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-24

参考文献・参考資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理(中)・長研-24

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理(中)・長研-1

1 主題について

(1) 主題設定の理由

① 国の動向から

平成28年12月に出された中央教育審議会答申1)において「子供たち一人一人が,予測できない

変化に受け身で対処するのではなく,主体的に向き合って関わり合い,その過程を通して,自ら

の可能性を発揮し,よりよい社会と幸福な人生の創り手となっていけるようにすることが重要で

ある。」と,学習指導要領改訂の背景が示された。新学習指導要領2)で中学校理科の目標は「自

然の事物・現象に関わり,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行う

ことなどを通して,自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を次のとお

り育成することを目指す。」と示された。この目標について,平成29年3月に公示された学習

指導要領解説理科編3)では「『自然の事物・現象に関わり』は,生徒が主体的に問題を見いだ

すために不可欠であり,学習意欲を喚起する点からも大切なことである。」と説明されてい

る。主体的について調べてみると,小学校学習指導要領解説理科編4)で「一連の問題解決の活

動を,児童自らが行おうとすることによって表出された姿である」と示してある。平成29年度

小・中学校新教育課程説明会(中央説明会)における文部科学省説明資料の主体的な学びの

定義でも,児童自らが興味や関心をもつこと,振り返ること,次の学びにつなげることが示

され,問題解決の活動で学習者が自ら学ぶことの重要性が述べられている。

② 全国調査から

平成30年度全国学力・学習状況調査では,新たに「授業では,課題の解決に向けて,自分で考

え,自分から進んで取り組んでいたと思いますか」などの項目が新設された。生徒が課題解決を

させられるのではなく,自ら行うという視点を意識した授業改善が求められていることが伺える。

また,この質問に対する回答と試験結果とのクロス集計でも,肯定的な回答をする生徒の方が平

均正答率が高いという結果が出ている。生徒が課題解決を自ら行うことが,学力の向上にも影響

を与えることがわかる。

③ 福岡市の実態から

平成27年度及び平成30年度に実施された全国学力・学習状況調査質問紙における,問題解決に

自ら取り組めているかということに関する項目について,肯定的な回答の割合を整理した(表-

1)。

表-1 平成27年度及び30年度 全国学力・学習状況調査 質問紙項目における全国と福岡市との比較

本市の教師が「生徒に自ら仮説を立てさせるような指導をする」という意識は3年間で18.4%

の改善が見られる。これに対して,生徒が「観察や実験を自らの予想をもとに計画している」と

いう意識は3年前と比べ大きな変化はなく,全国平均との差が開く結果となった。生徒が問題解

決を自ら行っているといえる状況は改善しておらず,意欲をもたないまま問題解決に臨んでいる

のではないかと考えられる。このような本市の実態からも,生徒が課題の解決に向けて,自分で

考え,自分から取り組むという視点を意識した授業改善をする必要がある。

以上の理由から,主題を「主体的に問題解決する生徒を育む理科学習指導」と設定した。

学校質問紙項目 全国 福岡市

「自ら考えた仮説をもとに観察,実験の計画を立てさせる指導

を行いましたか」

27 年度 65.8% 55.5%

30 年度 73.0% 73.9%

生徒質問紙項目 全国 福岡市

「自分の予想をもとに観察や実験の計画を立てていますか」 27 年度 54.0% 51.3%

30 年度 58.5% 54.4%

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理(中)・長研-2

(2)◆主題及び副主題の意味

① 「主体的に問題解決する生徒」とは

「自然事象に対する気付き,課題の設定,仮説の設定,検証計画の立案,観察・実験の実施,

結果の処理,考察・推論,表現・伝達,振り返り」という一連の問題解決の活動を,生徒自らが

行う姿である。

② 「四つの学びの場」とは

学習過程のなかで生徒の追究意欲を引き出し,自己選択・自己主張・自己解決・自己理解を促

すための「学ぶべき課題に気付く場」「学びに必要な観察・実験の場」「学んだことを主張する

場」「学びを振り返る場」の四つである。

③ 「四つの学びの場の設定」とは

四つの学びの場に,それぞれの役割を果たすための仕掛けを施すことである。

2 研究の目標

四つの学びの場の設定を通して,主体的に問題解決する生徒を育む理科学習指導を明らかにする。

3 研究の仮説

理科学習指導において,四つの学びの場に,生徒の追究意欲を引き出し,自己選択・自己主張・自

己解決・自己理解を促すための設定をすれば,主体的に問題解決する生徒を育むことができるであろ

う。

4 研究の構想

(1)◆内容

本研究では,「生徒自らが行う」ことを「指示されたから,自ら行う」ではなく「自ら行いたい

から,自ら行う」とする。具体的には,鹿毛(2013)の学習意欲の理論を基に,「自ら行いたい」

を「追究意欲をもつ」とし,長澤(2015)の自己決定の考え方を基に,「自ら行う」を「自己選択・

自己主張・自己解決・自己理解」の四つとする。つまり,主体的な生徒を,一連の問題解決の活動

に取り組む五つの姿として捉える。これらは相互に影響するものである(図-1,2)。

図-2 主体的に問題解決する生徒の姿の詳細

図-1 生徒の姿

「自ら行いたい」(挑戦したい・調べたい)という動機をもって学習に取り組む生徒。

追究意欲をもつ生徒

一連の問題解決の活動で,自分に必要な学びの過程を振り返る生徒。

(目標達成の為に,自分の学びを把握し,制御して,調整していく生徒。)

ここでは,フィリップ・H・ウィニー(PhilipH.Winne)とロジャー・アズビート

(RogerAzervedo)の「思考としてのメタ認知(メタ認知的モニタリング・メタ認知的

コントロール・自己調整学習)」として自己理解を述べていく。

自己理解する生徒

自然事象における課題に対する答えを見いだす生徒。

(解決するために,既習の知識や経験を選択し,主張する。)

自然事象や課題に対する自分の考えを必要な言葉や文章,図,表,絵で伝える生

徒。(主張するために,既習の知識や経験を選択する。)

自然事象における課題の把握や解決に必要な自分の知識や経験を選ぶ生徒。

自己解決する生徒

自己主張する生徒

自己選択する生徒

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理(中)・長研-3

(2)◆理科学習における学習過程

問題解決的な学習の枠組みを明らかにした鈴木・森本(2012)の理科授業デザインの考えによれ

ば,「生活経験や既有概念から学習についての問題を見いだす」ことが,生徒と自然事象との関わ

りを強く意識させ,自然事象への関心を高める。つまり,一連の問題解決の活動における「自然事

象に対する気付き,課題の設定」の部分において,生徒の追究意欲を引き出すことができると考え

られる。そこで,この部分を「学ぶべき課題に気付く場」とし,追究意欲を引き出す設定をする。

また,「観察・実験の結果について様々な情報を収集・整理する」「考察・解釈を通して自然事

象に対する考えを明らかにする」「話し合い・発表を行い,科学概念を構築する」ことが,問題解

決的な学習には重要とされる。そこで,「仮説の設定~結果の処理」「考察・推論,表現・伝達」

の部分を,それぞれ「学びに必要な観察・実験の場」「学んだことを主張する場」とし,自己選択・

自己主張・自己解決を促す設定をする。

さらに,「それまでの学習を振り返る」ことが,生徒の学習状況や学習方略のメタ認知を促し,

構築した科学概念を活用可能な知識としたり,学習の過程で芽生えた構想を新たな学習への契機と

したりするために必要な活動だと考えられる。そこで,学習過程における「振り返り」の部分を「学

びを振り返る場」とし,自己理解を促す設定をする。

(3)◆手だて

学ぶべき課題に気付く場,学びに必要な観察・実験の場,学んだことを主張する場,学びを振り

返る場という四つの学びの場に,それぞれの役割を果たすための設定を行う(表-2)。

田代(2015)は観察・実験と主体性や対話性の

関係を整理している。単にレシピにしたがう実験

でなく,仮説の検証のための実験を行うことが生

徒どうしや先生と生徒の対話性を向上させ,対話

性の高まりが主体性の高まりに影響することを述

べている(図-3)。

この考えを基にして,学習過程のなかの観察・

実験の実施や表現・伝達の部分に,生徒どうしの

対話性を高める機会があると考え,「学びに必要

な観察・実験の場」と「学んだことを主張する場」

で対話性を向上させる取り組みを行う。

学びの場 役割 設定

学ぶべき課題に

気付く場 追究意欲を引き出す

○既習事項とのズレに気付く資料を提示する

○知識や技能の不足に気付く資料を提示する

学びに必要な

観察・実験の場

自己選択

自己主張 を促す

自己解決

○処理可能な対象物を複数与える

○学び方(方法・時間)を複数与える

○協働的な活動班の人数を調整する

選択

選択

解決

学んだことを

主張する場

自己選択

自己主張 を促す

自己解決

○思考ツールを活用する

○考えをつくる時間を与える

○説明活動(一対一)の場面を用意する

主張

主張

解決

学びを振り返る場 自己理解を促す ○学習方略の変容を累積できるワークシートを活用する

図-3 対話性と主体性の関連

表-2 四つの学びの場の役割とそれぞれの設定

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理(中)・長研-4

(4)◆検証

① 検証内容

○ 「学ぶべき課題に気付く場」で資料の提示によって,主に追究意欲をもった生徒を育むこと

ができたか。

○ 「学びに必要な観察・実験の場」で,対象物や学び方を複数与え,協働的に取り組める人数

を調整することによって,主に自己選択・自己主張・自己解決をする生徒を育むことができた

か。

○ 「学んだことを主張する場」で,考えや学んだことを整理し,説明活動の場面を用意するこ

とによって,主に自己選択・自己主張・自己解決する生徒を育むことができたか。

○ 「学びを振り返る場」で,学習方略の変容を累積できるワークシートを活用することによっ

て,主に自己理解する生徒を育むことができたか。

② 検証授業 第2学年 単元2「動物の生活と生物の進化」

③ 検証方法

ア 単元前後におけるアンケートの効果量測定

イ 単元内の生徒の様相分析

ウ 単元内の学習プリント,振り返りワークシート分析

5◆研究構想図

図-4 研究構想図

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理(中)・長研-5

6 研究の実際と考察

(1) 単元を通した「四つの場の設定」

実践を行った授業の内容に一連の番号を割り当てた(表-3)。以降,実際の授業を取り上げる

際は『授業内容(番号)』と記載し対応を表す。

① 「学ぶべき課題に気付く場」への設定と実際

○ 既習事項とのズレに気付く資料を提示する

『血液の学習(6)』での具体例

人体の学習において,「血液について知りたい」

という追究意欲を生徒から引き出すために,今ま

での生活で経験してきた血液の概念とのズレが生

まれるような資料を提示した。

生徒はこれまでの生活や学習から,血液が生命

を維持するために体を巡り,人体に大切なもので

あることは理解しているが,成分や静脈血と動脈

血の違いは理解していない。そこで,「血液とは

なんだろう?」という問いかけから「体を流れて

いる」や「赤色をしている」といった生徒の自由

な意見が挙がった。色に着目した意見が出たこと

から「二種類の血液の画像を見せるから,どちら

が君たちの体を流れている血液か考えて。」と伝

え,静脈血と動脈血がそれぞれ入った試験管の画

像を順に提示した(資料-1)。提示した後,生

徒は出血した経験などから,静脈血のみを血液だと認識する生徒が大多数で,動脈血は色が鮮

やかなことから「トマトジュースではないか?」といった意見が出るなど,血液とは認識でき

ていなかった。

その後「先ほど提示したのは,同じ人から採取した血液。つまり両方とも血液だった。」と

いうことを説明した。生徒は驚きと共に経験とのズレが生まれ,「採取した場所がちがうので

はないか。」「時間がたっているのではないか?」といった疑問が次々と出てきた。そこで「な

ぜ色が違うのか?」ということに着目させると,生徒は血液の中身が原因ではないかと考え,

色の違いを解明するために「血液について知りたい。」という追究意欲を引き出すことができ

た。

1 植物の細胞 3

15 感覚器官

2 動物の細胞 16 運動器官

3 植物全身の観察 17 反応

4 組織と器官

18 分類の視点(セキツイ)

5 呼吸 19 視点の整理(セキツイ)

6 血液の学習 20 視点の活用(セキツイ)

7 血流と心臓 21 無セキツイ動物(エビ)

8 血液循環 22 無セキツイ動物(アサリ)

9 栄養整理 23 無セキツイ動物(イカ)

10 消化再現実験 24 無セキツイ動物(アリ)

11 デンプンの消化 25 動物の分類整理

12 消化酵素の整理 5

26 進化とは何か

13 栄養の循環 27 進化の根拠

14 細胞の呼吸まとめ 28 生物の進化

資料-1 既習事項とのズレに気付く資料

表-3 授業番号と対応する授業内容一覧

同じ人から採取した「静脈血」と「動脈

血」を1枚ずつの画像に分けて提示

その後もとの画像を表示する

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理(中)・長研-6

○ 知識や技能の不足に気付く資料を提示する

『無セキツイ動物(アリ)(24)』での具体例

動物の分類の学習を進め,セキツイ動物のなかまやエビなどの甲殻類,アサリやイカといっ

た軟体動物の観察により,生徒は分類の視点や動物のことがわかったつもりになっている。生

徒の動物に関する概念がまだ不十分であることに気付かせ,昆虫など新たな概念形成の必要性

に基づいた追究意欲を引き出すために,「わからない」部分に気付かせる資料提示を行った。

ここまでの学習で,生徒はセキツイ動物・甲殻

類・軟体動物がいることを理解している。そこで,

空白の円グラフを提示し「この空白の円が1 4 0万

の動物種全てを表す円グラフだとすると,これま

で学習した動物たちでどこまでを占めるだろう

か?」と問うと「ほぼ全体を占めるのではないか」

や「半分くらいを占めるのではないか」という意

見が出てきた。生徒にとって身近であるセキツイ

動物や軟体動物などの学習によって動物に関す

る概念を形成できていると考えている生徒が多

数いることがわかった。それを踏まえて,何を学

習したかを振り返りながら,グラフ上に順に提示

していき,セキツイ動物・甲殻類・軟体動物を足

し合わせても,その割合が全動物種のなかの 20%

にも満たないことを表示した。それにより,円グ

ラフには,まだ学習していない「?」が大部分を

占めていることが視覚化された(資料-2)。

生徒は「これだけしか学習してないの」といっ

た驚きとともに,わかっていない部分がまだ多数

あり,概念形成が不足していることに気付き,「残

りは何なのだろう?」という疑問をもった。提示

した資料を見ながら,どんな動物の学習が不足し

ているのか,「?の部分の動物には何が含まれる

だろうか」という問いを投げかけると「ムシの勉

強まだやっていない」「ムシが入るのではないか?」

ということに生徒が気付き「?の部分を解明する

ために昆虫の学習をしたい」という追究意欲を引

き出すことができた(資料-3,4)。

資料-2 知識や技能の不足に気付く資料

資料-3 生徒の記述

全動物種に対する学習した動物種の割合

をグラフ化して示し…

まだわかっていない「?」の部分が多く

あることを視覚化する

資料-4 生徒の記述

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理(中)・長研-7

② 「学びに必要な観察・実験の場」への設定と実際

○ 処理可能な対象物を複数与える

『植物全身の観察(3)』での具体例

生物の学習の1章で,生徒は植物と動物の細胞

の基本的なつくりを学習した。葉や人のホホなど

特定の器官の細胞は観察しているが,まだ器官ご

との細胞の違いまでは理解できていない。そこで

「植物の細胞のつくりは器官ごとに違うこと」を

自分たちで見いだせるように,生徒自身が扱える

観察対象を与え,自分で観察対象を選択しながら

学習に取り組ませたい。

植物と動物の細胞を観察したことを想起し,「植

物や動物の体は様々な部位でできているが,他の

部位の細胞も同じ形なのだろうか」と問うと「細

胞は同じではないか」や「一年生で観察したとき

は違った気がする」といった予想や考えをもって

いた。

そこで「今日は先ほどの課題の解決のために花

壇からこれを持ってきました。」と,キバナコス

モスの束を提示した(資料-5)。部位の名称を

復習し,光学顕微鏡の操作,プレパラートの作成

手順,安全管理について全体で確認した後,「自

分が観察したい場所の細胞をどこでも観察して,

全身の細胞がどうなっているか調査して下さい。」

という指示とともに,観察対象のキバナコスモス

を一班に一株配付した。

生徒は目の前にある一株のキバナコスモスから

自分が調べたいと思った場所を選び(資料-6),

花弁を取ったり根を輪切りにしたりしてプレパラ

ートを作成し,観察を行った(資料-7)。酢酸

カーミン液など,使う道具も自分で選んで観察を

する生徒の姿もみられた。生徒の学習プリントの

記述から様々な部位を選び,記録できている様子

がわかる(資料-8)。振り返りの記述からも「自

分が調べたい部分を顕微鏡で見られた」というよ

うに観察対象を自分で選択していることがわかる

(資料-9)。

資料-5 選択の幅の広い実験の例示

資料-8 調べたことからをまとめた様子

資料-9 調べたことからの課題解決

資料-6 自分で調べる部位を選ぶ

資料-7 選んだ部位を観察する姿

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理(中)・長研-8

○ 学び方(方法・時間)を複数与える

『無セキツイ動物(アリ)(24)』の具体例

無セキツイ動物の昆虫について特徴を整理する

なかで,観察の必要性を生徒が見いだし,観察方

法や時間といった学び方を自分で選択しながら

学習に取り組めるようにしたい。

学習ではまず,「ムシの勉強をしていくにあた

って,皆さん小学校でも学習していますよね。」

と問うと生徒は「蝶の学習をした。」「足が6本

だった。」といった小学校での学びを想起した。

そこで,体が三つの部位にわかれていることや脚

の本数などが理解しやすく,生徒の身近にいるこ

とから「学習プリントにアリを描いてみよう」と

いう課題に取り組んだ。自信をもって描いている

生徒もいれば「あれ?アリってどんな姿だったか

な。」と疑問をもちながら描く生徒もいた。生徒

全員の描いた絵を見ると,「3つの部位に分かれ

ている」「足の生えている位置」「足の本数」と

いったポイントを押さえられていない絵が多数見

られた(資料-10)。

次に「これがアリだ。」と自信をもって描けて

いるかを尋ねると,挙手をする生徒は少なく,大

多数の生徒が自信をもてていないことがわかった。

自信のある生徒の絵を数枚実物投影機で拡大し

(資料-11),全体で共有して見比べたが,生徒

は「アリっぽいけど何かが違う。」という疑問を

もっていた。小学校で学習しているはずの昆虫の

特徴に関する概念形成がうまくいっていない様子

が見られた。

生徒が明確なアリの特徴がイメージできないこ

とを意識したところで「このままではアリがきち

んと描けないが,どうやったら描くことができる

だろう。」という疑問を投げかけると,生徒から

「外に行って実際にアリを観察する。」という方

法が提案された。観察という方法を生徒が選んだ

ので,ルーペなど必要な道具は何か,どこに注目

して何を見てくればいいのかといった視点の他

に,観察するためにどれくらいの時間が必要かと

いうことも自分たちで選択し,観察の準備を行っ

た。

生徒はルーペを用いてアリの体がどのように分

かれているか,どこから何本脚が生えているかと

いった自分たちで選んだ視点に注意して観察し,

自分たちで選択した時間を自分たちで管理して

観察に取り組むことができていた(資料-12)。

自分たちで観察した結果を基に,再度アリの絵

を描くと,「体が3つの部位に分かれている」「足

は胸から生えている」という体のつくりを絵で表

現することができていた(資料-13)。

資料-10 生徒が書いたアリ

資料-12 視点を意識して観察する生徒

資料-13 授業時の生徒のプリント

観察前後でスケッチ

が変化している

生徒が書いた絵を提示

資料-11 全体で共有する様子

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理(中)・長研-9

○ 協働的な活動班の人数を調整する

『無セキツイ動物(イカ)(23)』での具体例

協働的に活動することで,生徒が自己選択及び

自己主張を伴う自己理解ができるように活動班

の人数を調整する。

セキツイ動物の分類の学習が終わった後,無セ

キツイ動物の学習に進む際,生徒の身近にある食

材でシーフードミックスを例示し,シーフードミ

ックスに含まれる食材は「魚介類」という表現を

していることから「シーフードミックスに含まれ

るエビ,アサリ,イカは魚類ではないのか?」と

いう課題に章を通して取り組んだ。

エビやアサリの学習を通して,自分たちで調査

することで(資料-14,15),魚類との違いを見

いだしてきたことから,イカの学習も「自分たち

でやりたい。」という意欲をもっていた。

授業導入でイカをまだ調べていないことを押さ

え「イカは何の動物のなかまだろう」と問いかけ

ると,生徒は既有概念や生活経験から「タコと同

じだから軟体動物ではないか?」という考えもっ

た。そこで「イカが軟体動物であることを自分た

ちで調べられる?」というと「やりたい。」と喜

んで取り組もうとする姿勢が見られた。対象物の

数や解剖の手順などを考えて,少人数の活動班で

取り組むことを決めた。どんな特徴があれば軟体

動物と言えるかといった観察の視点や,解剖ばさ

みなどの道具の扱い,アレルギーの確認や解剖の

意義を確認した上で,一班に一杯のイカを配布し,

調査に取り組んだ(資料-16)。

複数の視点で対象を見るため,「背骨の有無」

や「外套膜の有無」を自分たちで確認することに

加え,目の様子,口はどこか,それぞれの臓器は

どのようにつながっているのかといったそれぞ

れのもつ疑問や興味に基づいて自分たちで選択

しながら観察する姿が見られた。また解剖の作業

を協働的に行うことや,「これは胃ではないか?」

「肝臓だよ」「でもこの資料見ると…」といった

やり取りが生まれ対話性が向上している姿も分

かった。生徒の学習プリントからも「背骨はやは

りなかった」「外套膜はあった」といったことを

根拠として主張を行い,イカは魚類ではなく,軟

体動物であるということを自分たちで見いだす

ことができた(資料-17)。

資料-16 イカの観察に取り組む姿

資料-14 エビの観察に取り組む姿

資料-15 アサリの観察に取り組む姿

資料-17 生徒の学習プリント

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理(中)・長研-10

③ 「学んだことを主張する場」への設定と実際

○ 思考ツールを活用する

『分類の視点(セキツイ)(18)』での具体例

自分の考えや学んだことを整理し,他者の意見

を取り入れた課題解決を促すという風土をつくる

ため,思考ツールを使用した。多数ある思考ツー

ルの中で,生物同士の共通点や相違点を分けて整

理できるベン図を使用した。ベン図を使うことで,

整理された知識から必要なものを選択し,自分の

考えをつくりやすくなる(資料-19,20)。

動物の分類の視点に着目するために,自分とチ

ンパンジーの共通点と相違点を整理した。自分自

身で考えた意見は鉛筆で,「四足歩行と二足歩行」

「眉毛の有無」など,全体交流の際に他者の意見

を聞いて参考になったものは色を変えて表記す

る習慣をつけることで,課題を解決の際に,他者

の意見を取り入れるという風土をつくった。

○ 考えをつくる時間を与える

『細胞の呼吸まとめ(14)』での具体例

自己選択を伴った自己主張ができるようにする

ために,生徒が学習したことを含む既有概念を用

いて自分の考えをつくるための時間を与える。

生物が生きるためにはすべての細胞が生きる必

要があることを人体のテーマとして学習を進めて

きた。生徒は細胞の呼吸や血液の循環,消化,吸

収,排出といった人体の諸機能について,それぞ

れの知識は獲得できているが,これらの機能がど

のように関連して細胞が生きることにつながって

いるのかといった体系的な理解ができていなかっ

た。

そこで「今まで学習したことをつなぎ合わせて

細胞の呼吸について他人に理解してもらおう」と

いう課題を与えた。細胞の呼吸に関わっている酸

素や二酸化炭素,それらに関わる器官やはたらき

について全体で振り返りを行った上で,細胞の呼

吸について考えをまとめる時間を生徒に与えた。

生徒は必要な養分や酸素はどのように体内に入り,

細胞に届けられるのか,二酸化炭素や不要物は,

どのように体内を巡り,どのように体外に出るの

かといったことをノートや教科書を必要に応じて

使用し,説明に必要な知識を選択して考えを自分

で作り上げていた(資料-21)。なお,一人で考

えを作り上げることが難しい際には,班員に助言

を求めることを促し,理解が不足している生徒も

考えを作ることができた(資料-22)。

説明活動に移る前に,他人に理解してもらえる

ような説明について,考えを作る時間を与えたこ

とで,全員がそのために必要な知識を選択し,主

張することができた。

資料-19 ベン図での考え整理

資料-21 個人で考えをまとめる

資料-20 まとめの様子

資料-22 説明のための学習プリント

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理(中)・長研-11

○ 説明活動(一対一)の場面を用意する

『細胞の呼吸まとめ(14)』での具体例

自己選択及び自己主張を伴って自己解決が促さ

れるように,時間を与えて作り上げた説明を基に,

他者への一対一で行う説明活動の場面を用意す

る。

「考えをつくる時間」を与えたことで,生徒は

それぞれ細胞の呼吸についての考えをつくるこ

とができていた。この考えを基にして,他者への

説明活動を行う。その際,一対一での主張をさせ

るために下記項目に留意して活動させた。

・クラスを同数の2グループにわける。

・説明する側と聴く側を交代で行う。

・説明する側が移動する,聴く側は動かない。

・聴く側は説明に対して質問し,納得ができた

ら説明者のプリントに評価シールを貼る。

活動している中で,分からない部分に質問する

姿や,プリントを読むだけでなく,教科書などを

使って説明する姿(資料-23),聴く側から「酸

素と二酸化炭素の書き方が逆ではない?」など修正をしてもらう姿(資料-24),説明を聴い

て自分の考えを修正する姿などが見られた。生徒の振り返りの記述からも活動による理解の深

まりを実感するものや(資料-25),わかりやすくするために効果的な表現の方法を選ぶ必要

性に気付くものなどが見られた(資料-26)。説明活動の場面を用意したことで,生徒は既習

の知識から必要なものを選び,選んだことをもとに表現し,他者へ説明することで,細胞の呼

吸を体系的に理解し解決が促された。

資料-23 教科書を使って説明する様子

資料-24 説明を修正する様子

資料-25 生徒の振り返り記述

資料-26 生徒の振り返り記述

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理(中)・長研-12

④ 「学びを振り返る場」への設定と実際

○ 学習方略の変容を累積できるワークシートを活用する

ワークシートを活用した具体例

単位時間や単元の学習の中で,自分の学びを把握

し,制御し,調整するといったことに生徒自身が気

づき,自己の変容を自覚し,自己理解を促すために

「学びを振り返る場」を設定していく。

単位時間の中で自己選択・自己主張・自己解決・

自己理解がどれくらいできたのかを,0~10の11段

階で振り返る項目と,文章記述で単位時間の学びを

振り返り,学習方略の変容を累積できるワークシー

ト(資料-27)を準備し,単位時間の終末に取り組

ませた。

毎時間の終末に振り返りの時間を確保し,学習方

略の変容を累積できるワークシートを活用した。今

回の実践では全28時間のうち,第10時以降の授業で

実施した。

項目ごとに11段階の数値で振り返ることで達成の

度合いを可視化でき,生徒自身が単位時間の学びを

振り返る指標となった。

文章記述の振り返りでは,単位時間の学習を振り返ることで,「最初は見分けがつかなかっ

たが,今は何が違うのかがわかる」や(資料-28),「こんがらがっているところや分かって

いないところを見つけることができた」といった自己の変容を自覚する記述がみられた(資料

-29)。

取組を続けるなかで,自分の学びをうまく把握できていない生徒が見られた。そこで,資料

-28,29のような記述を抜粋し,授業内でICTを使って提示し,全体に共有した。自己の変容

を振り返るとはどういったものなのか,振り返りを行うことにどんな意味があるのかを全体で

共有することができた。

資料-28 学習活動を意味づける振り返り記述

資料-29 身に付けた資質能力を自覚する振り返り記述

資料-27 使用したワークシート

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理(中)・長研-13

(2) 考察

① 「学ぶべき課題に気付く場」への設定の有効性

○ 既習事項とのズレに気付く資料を提示する

資料-30の生徒の記述における「区別する方法を詳しく知りたい」は,追究意欲の高まりと

とらえられる。生徒がこのような記述をしたのは,画像を並べて提示した,ズレに気付かせる

資料提示によって,今まで無意識で物事を区別していたことに「区別の視点」が意識されたこ

とが,知りたいという気持ちにつながったためであり,追究意欲を引き出すために有効であっ

たと考えられる。

○ 知識や技能の不足に気付く資料を提示する

資料-31の生徒の記述における「?のところを知りたい」も,追究意欲の高まりととらえら

れる。生徒がこのような記述をしたのは,分からないことに気付かせる資料提示によって分か

ったことを全体と照らし合わせることで,学習できていない部分の大きさが可視化されたこと

で,驚きから知りたいという気持ちにつながったためであり,追究意欲を引き出すために有効

であったと考えられる。

○ その他の手だてとの関連

生徒の記述における「唾液がデンプンにどのように働いているのかが気になったので,これ

からの授業で明らかにしたい」(資料-32)や,「人に説明することで自分がどう理解してい

るのかがわかった。これからの授業でもしっかり内容を理解していきたい」(資料-33)も,

追究意欲の高まりととらえられる。生徒がこのような記述をしたのは,学ぶべき課題に気付く

場以外の場の設定が,生徒の「知りたい」という追究意欲を引き出すことにつながったためで

あり,追究意欲を引き出すために有効な場が「学ぶべき課題に気付く場」以外にもあると考え

られる。

資料-32 他の手だてと関連する追究意欲がみられる記述

資料-31 知識の不足に気付く資料提示から追究意欲がみられる記述(再掲)

資料-30 ズレに気付く資料提示から追究意欲がみられる記述

資料-33 他の手だてと関連する追究意欲がみられる記述

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理(中)・長研-14

② 「学びに必要な観察・実験の場」への設定の有効性

○ 処理可能な対象を複数与える

『無セキツイ動物(エビ)(21)』では自分で目

の前の対象を調査し結果を多数集めることがで

きていた。『無セキツイ動物(イカ)(23)』でも,

調査項目以外の部分まで「どうなっているのだろ

う?」と自分から調べる生徒の姿が見られた(資

料-34)。生徒の振り返りにも「自分が気になっ

たところを切ることができ,比べながらできた。」

という記述が見られた(資料-35)。これは生徒

が自己選択できている姿だととらえられる。生徒

がこのような姿を表出したのは,エビやイカとい

った処理可能な対象を与えることで,課題の解決

を自分で行うということが意識されたためであ

る。また,自分たちでの処理が可能であるため,

調べたいという思いを実践できたためであり,生

徒の自己選択を促すのに有効であったと考えら

れる。

○学学び方(方法・時間)を複数与える

第21時や第23時では,双眼実体顕微鏡を自分で

準備してより詳しく観察する生徒の姿や(資料-

36),観察がうまくいかない際に再実験をする姿

が見られた(資料-37)。生徒の振り返りにも「自

由に何回でもできた。」という記述が見られた(資

料-38)。これは生徒が自己選択できている姿だ

ととらえられる。生徒がこのような姿を表出した

のは,観察道具や観察方法,必要な時間は教師が

指定するだけではなく,生徒とのやり取りを通し

て,生徒自身が選べるようにしたことで,自分で

やりたいという思いが実現できる環境になって

いたためであり,生徒の自己選択を促すのに有効

であったと考えられる。

資料-38 再実験をした生徒の記述

資料-37 解剖をやり直す生徒

資料-36 自分で双眼実体顕微鏡を用意

して観察する生徒

資料-34 気になった部分を自分から調査

する生徒

資料-35 観察する部位を選んだ生徒の記述

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理(中)・長研-15

○ 協働的な活動班の人数を調整する

『無セキツイ動物(アサリ)(22)』では,二

人で観察を行った。観察のためにお湯を使うや,

ガスコンロを使うなど班ごとに工夫し協力する

姿が見られた(資料-39)。殻を開いて「えらは

これではないか?」「ではこれはどの部分?」と

意見を交わしながら観察する姿が見られた。生徒

のこのような姿は,選択を伴い主張した課題解決

が促されている姿だととらえられたが,後述のワ

ークシートを用いた数値による振り返りでは,第

21時や23時に比べて生徒の自己解決をあまり促

すことができなかったことがわかった。学習プリ

ントでは,どの班もアサリの殻を開き,背骨の有

無を確認し,アサリは魚類ではないことを自分で

見出すことができたが(資料-40),生徒の振り

返りを見ると「アサリは全然見たこともない器官

があることがわかった」と記述されていた(資料

-41)。少人数で取り組んだとしても,解決でき

ない内容が多数あり,生徒自身が解答にたどり着

けなかったことが,自ら選択し,主張し解決した

という実感をもてなかった原因だと考えられる。

『無セキツイ動物(イカ)(23)』では,「これ

はどの部分だろう」と対話を繰り返しながら観察

を進める姿が見られた(資料-42)。生徒の振り

返りにも「イカをイワシと比較して共通点,違う

点を自分で見つけれた」と記述されている(資料

-43)。これらの姿は,自己選択や自己主張に伴

う自己解決が促された姿だととらえられる。

生徒がこのような姿を表出したのは,これまで

の学びをいかして「イカが軟体動物の仲間である

ことを明らかにする」という仮説を検証するため

に行われる観察であったこと。少人数で活動し,

目の前で対象を扱うことで,軟体動物の特徴をお

さえるという視点での観察が進み,対話性が向上

し,主体的な学びが促されたと考えられる。

このことから生徒が選択し,選択したことを基に主張し,主張したことを基に課題の解決を

促すことに有効であったと考えられる。

資料-39 自分たちで殻を開けることに

取り組む

資料-42 自ら観察する生徒

資料-40 生徒の学習プリント

資料-41 自己選択等が促されなかった生徒の記述

資料-43 自己選択等が促された生徒の記述

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理(中)・長研-16

○ 学びに必要な観察・実験の場への設定をそれぞれ関連させる

第21時から第23時までの授業での同一生徒のレポートの記述から,それぞれの手立てが生徒

の「自ら行う」姿につながっているかを考察する(資料-44)。どの授業でも処理可能な対象

物や学び方を複数与え,協働的な活動班の人数を少人数に調整した。目の前で観察対象を自ら

扱えるので,自分で調べた内容を記録して課題の解決に向かっていることが分かる。また,第

23時のプリントから背骨の有無といった調査しなければいけない項目以外の様々な視点で観

察ができていることが分かる。

これらの手立てをうつことで,第23時のレポートでは「イカが魚類か」という課題を解決す

るために,第21時や第 22 時の観察で得た,既習の知識を選択し,①背骨の有無を調べたり②

外套膜の有無を調べたりし,共通点と相違点を視覚的に分かりやすく整理するという方略を選

び,観察を行っている。

そして,観察で得られた結果を根拠として③「背骨がないため無脊椎動物である」というこ

と,「外套膜があることから軟体動物である」という主張ができている。

さらに,主張したことで最終的に④「イカは魚類ではなく軟体動物である」と結論づけてい

る。これらは,生徒自身が既習の知識や経験から選択し,選択したことを基に主張をし,主張

したことで課題の解決に向かっている姿ではないかと考えられる。

このように自ら課題解決ができている姿が見られたことからも,学びに必要な観察,実験の

場の設定を関連させることは生徒の自己選択・自己主張・自己解決を促すのに有効であった。

第 21 時 ①

第 22 時

第 23 時

資料-44 同一生徒の授業を通した記述からの分析

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理(中)・長研-17

○ 振り返りの累積からの分析

「学びに必要な観察・実験の場」への設定が,生徒の自己選択・自己主張・自己解決を促す

ことに有効であったかを,振り返りワークシートの各項目の数値変容から考察する。毎時間行

った振り返りワークシート(P12.資料-27)で自己選択・自己主張・自己解決の達成度合いを

0~10の11段階で振り返った。単位時間の学習で生徒の自己選択・自己主張・自己解決をどれ

くらい促したかを数値化し,数値の変容から,学習のどのような部分が生徒自身の変容につな

がったのかを分析する。

授業を行った2クラス61名分の数値を授業毎に平均し,授業毎の自己選択・自己主張・自己

解決の変化を表した(P18.図-5,6,7)。

今回の実践で観察・実験に取り組めたのは第10時,第11時,第12時と第21時,第22時,第23時,

第24時であった。その中でも数値の変容から単元後半の第21時,第22時,第23時に行った授業

では「学びに必要な観察・実験の場」として有効だったと考えられる。

前半の第10時,第11時,第12時では,自己選択・自己主張・自己解決の数値は低い結果とな

った。これは,活動班の人数を少人数に調整することで,実験に取り組むことはできていたの

だが,満足のいく実験結果が出なかったことや,うまく検証ができないときに班のメンバーに

任せて実験を行ったり,他の班の実験結果を参考にしたりしたこと。新たに教師が教える部分

が多く,生徒自らが解決をしたという実感がもてなかったことが原因ではないかと考えられる。

これに対して特に後半の第21時,第23時では選択・主張・解決の数値は高い結果となった。

この授業では生徒の振り返りの記述や学習プリントの内容からも,生徒が対象を様々な面から

とらえた観察結果や既習の経験から課題の解決に必要なものを自分で選択し,選択したことを

基に自分で主張し,課題の解決ができていることがわかる。

以上のことから生徒の数値による振り返りからも「学びに必要な観察,実験の場」の設定を

することが生徒が自ら行うということに有効であった。

自己選択 自己主張 自己解決

10 消化再現実験 7.8 7.9 7.9

11 デンプンの消化 7.6 7.6 7.9

12 消化酵素の整理 7.7 7.9 8.0

21 無セキツイ動物(エビ) 8.1 8.4 8.4

22 無セキツイ動物(アサリ) 7.9 8.0 8.3

23 無セキツイ動物(イカ) 8.1 8.2 8.6

24 無セキツイ動物(アリ) 8.1 7.9 8.3

全授業平均 7.9 8.1 8.3

表-4 振り返りの累積からの分析

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理(中)・長研-18

7.8

7.6

7.8 7.4

8.0

7.9

8.3

7.8

8.0

7.9

8.4

8.3

7.9

8.1 8.1

7.8

7.9

7.5

8.2

7.25

7.50

7.75

8.00

8.25

8.50

8.75

10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28

自己選択

7.9

7.6

7.9

8.1 8.0

7.9

8.6

8.4 8.3 8.3

8.5 8.4

8.0

8.2

7.9 7.9

8.0

7.9

8.3

7.25

7.50

7.75

8.00

8.25

8.50

8.75

10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28

自己主張

7.9 7.9

8.0

8.1 8.1

8.4 8.4

8.5

8.3 8.4

8.5

8.4

8.3

8.6

8.3

8.0

8.4

8.1 8.2

7.25

7.50

7.75

8.00

8.25

8.50

8.75

10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28

自己解決

図-5 自己選択の値の平均値の授業毎の変容

図-6 自己主張の値の平均値の授業毎の変容

図-7 自己解決の値の平均値の授業毎の変容

全体平均

7.9 授業毎の平均値

授業番号

全体平均

8.1

授業番号

授業番号

全体平均

8.3

授業毎の平均値

授業毎の平均値

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理(中)・長研-19

③ 「学んだことを主張する場」への設定の有効性

○ 思考ツールを活用する

思考ツールとしてベン図を用いて自分の考えを

整理したことで,視覚的にわかりやすくすること

ができた。意見を発表し,交流するなかで他者の

考えを追加するという素地をつくることもでき

た(資料-45)。

生物の学習を通してベン図を使って整理したこ

とで,観察をした結果をまとめるときにも,対象

の共通点と相違点に分けて整理するようになり,

二者の共通点や相違点を整理する際の方略として

生徒に身に付いた。

○ 考えをつくる時間を与える

第20時で考えをつくる際に使用した学習プリントを分析すると,生徒はヤモリとイモリのち

がいを両者の体表の様子の違いや呼吸方法の違いから説明しようとしている。これはイモリと

ヤモリの子どもの頃の様子や,体表の様子を見て,両者の違いを説明するために①呼吸方法の

違いと②体表の様子の違いを既習の経験から選んでいる。さらに,選んだことを根拠として「だ

から違う」と記述している(資料-46)。これらの記述は自分の考えを表出するなかで,自己

選択と自己主張をしている姿であるととらえられる。このような姿を表出したのは,「他者に

説明するために」考えをまとめる課題を設定したことで,他者に理解してもらうためにという

相手を意識した説明を作るという必要性が生じたことと,全員が同様に身につけたことから選

んで説明をつくるための十分な時間があったためであり,自己選択を伴う主張を促すのに有効

であったと考えられる。

資料-45 自分の考えを表出する姿

資料-46 学習プリントに見える自己選択・自己主張の記述

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理(中)・長研-20

○ 説明活動(一対一)の場面

第20時の説明活動の際には,学習プリントを基

にして「イモリは体表がぬるぬるして,肺呼吸と

皮膚呼吸をしている」といった特徴を順々に根拠

として挙げる姿(資料-47)が見られ,生徒の振

り返りの記述からも活動に臨むことで理解の深ま

りを実感できている記述が見られた(資料-48)。

これは自己選択・自己主張を繰り返す姿だと言え

る。このような姿が見られたのは,自分で作成し

た考えに自信をもっていたことや,必要に応じて,

教科書やノートなどを自分で選び主張できたため

である。

また,自分の考えを付加・修正する姿が見られ

た(資料-49)。これは,自己主張を伴う自己解

決の姿ととらえられる。このような姿が表出した

のは,一対一での活動であるため,他者の説明を

きちんと聞くことができ,聞いた上での質問がし

やすかったからであり,他者の考えを取り入れる

という素地ができていたからである。

以上のことから,自己選択や自己主張を伴う自

己解決を促すのに有効だったと考えられる。

○ 振り返りの累積からの分析

「学んだことを主張する場」の設定が,生徒の自己選択・自己主張・自己解決を促すことに有

効であったかを,振り返りワークシートの各項目の数値変容から考察する(P18.図-5,6,7)。

本単元では第14時,16時,20時,28時の授業で「学んだことを主張する場」の設定を行った。

それぞれの授業での自己選択・主張・解決の平均値と全授業の平均値を比較した(表-5)。第14

時の際は自己選択以外の数値が平均を下回った。活動を初めて行ったことや,自分の考えを作る

内容が多すぎたため,主張がうまくいかず,理解につながらなかったのではないかと考えられる。

第16時,20時の際は,どの数値も平均を上回り,効果があったことを示している。これは,自分

の考えをつくる際,単位時間の学習だけで行うことや,視点を活用して「学んだことを使えばで

きる」という感覚をもたせたことが効果的に働いたためではないかと考えられる。

第28時の際には自己理解だけが平均を下回った。これは,ここまでの学習を生かして主張まで

はうまくいったのだが,進化の学習の最後として,まとめに広がりがあり,うまく解決につなが

らなかったためではないかと考えられる。

自己選択 自己主張 自己解決

14 細胞の呼吸まとめ 8.0 8.0 8.1

16 運動器官 8.3 8.6 8.4

20 視点の活用(セキツイ) 8.4 8.5 8.5

28 生物の進化 8.2 8.3 8.2

全授業平均 7.9 8.1 8.3

資料-48 学びの深まりを実感する生徒の記述

表-5 学んだことを主張する場の設定を行った授業での比較

資料-47 既習の知識を選び,挙げながら

説明する生徒の姿

資料-49 やり取りのなかで自分の考え

を修正する生徒

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理(中)・長研-21

④ 「学びを振り返る場」の有効性

毎時間行った振り返りワークシート(P12.資料-27)で自己理解の達成度合いを0~10の11段

階で表現した。

授業を行った2クラス分の数値を授業毎に平均し,授業毎の自己理解の変化を表した(図-8)。

授業毎の自己理解の度合いの変化を折れ線グラフで,自己選択・自己主張・自己解決の合計値の

変化を棒グラフで表し,関連を分析した。

生徒が自己選択・自己主張・自己解決をより「できた」と実感している学習では,自己理解の

達成度合いも高くなる傾向があると考えられる。自己選択・自己主張・自己解決を強く実感し,

自己理解の度合いも高かった第16時の学習の際の生徒の振り返りを分析すると,自分の学習活動

をふり返り意味付けする記述(資料-50)など自己の変容や理解が何に起因するのかに気づいて

いるものが多数見られた。これに対して自己選択・自己主張・自己解決の実感が低い第11時や13時,

25時,27時の学習内容を分析すると,そこまでに学習したことを整理する学習内容や,教える度

合いが強い学習内容であった。

以上のことから,毎時間「振り返りシートを活用する」や「振り返りの時間を確保する」だけ

では自己理解を促すには不十分であり,自己選択・自己主張・自己解決を促す手だてと関連させ

ることで生徒の自己理解を促すと考えられる。

7.25

7.5

7.75

8

8.25

8.5

8.75

10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28

自己理解

図-8 自己理解の値の平均値の授業毎の変容

資料-50 まとめの文章の変容(再掲)

授業毎の平均値

授業番号

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理(中)・長研-22

7 研究のまとめ

(1) 研究の成果

事前と事後の生徒アンケートから手だての効果量(Cohen’s d)を測定した。効果量の数値が0 . 2

程度は弱い効果,0 . 5程度は中程度の効果,0 . 8程度は強い効果があることを示す。

追究意欲に関する項目では0 . 6及び0 . 7となり,やや強い効果を示した(表-6)。ここから,

理科学習において,「学ぶべき課題に気付く場」への設定は生徒の主体的な問題解決を導く追究意

欲を引き出すのに効果的であることがわかった。

自己選択については0 . 4及び0 . 3,自己主張については0 . 6,自己解決については0 . 4となり,

中程度の効果を示した(表-7)。ここから,理科学習において,「学びに必要な観察,実験の場」

や「学んだことを主張する場」への設定は,生徒の主体的な学びを導く自己選択・自己主張・自己

解決を促すのに効果的であることがわかった。

追究意欲に関する質問項目 事前平均 事後平均 効果量

理科の授業で学習することに「もっと知りたい」「やってみたい」と思って

取り組めていますか

2.7 3.2

0.6 標準偏差 標準偏差

0.9 0.7

事前平均 事後平均 効果量

単元全体を通して,理科の授業に対する興味や意欲を持続させることができ

ていますか

2.7 3.2

0.7 標準偏差 標準偏差

0.9 0.8

自己選択に関する質問項目 事前平均 事後平均 効果量

理科の授業で,自分で仮説や予想をたてるとき,絵,図,表,文章から選ん

で表現することができていますか

2.8 3.1

0.4 標準偏差 標準偏差

0.7 0.7

事前平均 事後平均 効果量

理科の授業で,自分で仮説や予想をたてるとき,今まで勉強したことや経験

したことを生かして考えられていますか

2.9 3.2

0.3 標準偏差 標準偏差

0.8 0.7

自己主張に関する質問項目 事前平均 事後平均 効果量

理科の授業で,自分の考えや考察をまわりの人に説明したり,発表したりし

ている

2.8 3.2

0.6 標準偏差 標準偏差

0.8 0.7

自己解決に関する質問項目 事前平均 事後平均 効果量

理科の授業で,観察や実験の結果をもとに自分なりの考察ができていますか

3.0 3.2

0.4 標準偏差 標準偏差

0.6 0.6

表-6 追究意欲に関する効果量

表-7 自己選択・自己主張・自己解決に関する効果量

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理(中)・長研-23

自己理解については0 . 4となり,中程度の効果を示した(表-8)。ここから,理科学習におい

て,「学びを振り返る場」への設定は,生徒の主体的な学びを導く自己理解を促すのに効果的であ

ることがわかった。

以上の結果から,本研究において四つの学びの場の設定が主体的な問題解決をする生徒を育むこ

とに有効であることがわかった。

(2) 研究の課題

○ 「学びを主張する場」への設定を章末などの場面に限定してしまっていた。特に説明活動とい

う手だては,結果を基にした考察場面に限らず,一連の過程を通して生徒の追究意欲や必要感に

応じて様々な場面で講じることが必要だと考える。

自己理解に関する質問項目 事前平均 事後平均 効果量

理科の授業で,学習した「内容」や「考え方」「どこに着目したことで考え

が深まったか」を振り返っていますか

2.8 3.1

0.4 標準偏差 標準偏差

0.8 0.8

表-8 追究意欲に関する効果量

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理(中)・長研-24

引用文献

1 文部科学省 中央教育審議会答申(平成28年12月21日) P10~11 (平成 28 年)

2 文部科学省 中学校学習指導要領(平成29年3月告示) P78 (平成 29 年)

3 文部科学省 中学校学習指導要領解説 理科編 P7,11 学校図書 (平成 29 年)

4 文部科学省 小学校学習指導要領解説 理科編 P18 学校図書 (平成 29 年)

参考文献・参考資料

1 文部科学省 中学校学習指導要領解説 理科編 学校図書 (平成 29 年)

2 森本 信也 理科授業をデザインする 理科東洋館出版 (平成 29 年)

3 鹿毛 雅治 学習意欲の理論 金子書房 (平成 23 年)

4 長澤 正樹 学校教育の在り方 (平成 27 年)

3 田村 学 深い学び 東洋館出版 (平成 30 年)

4 奈須 正裕 資質・能力と学びのメカニズム 東洋館出版 (平成 30 年)

5 国立教育政策研究所 資質・能力 理論編 東洋館出版 (平成 28 年)

6 奈須 正裕 子どもを学びの主体として育てる ぎょうせい (平成 26 年)

7 森本 信也 考える力が身につく対話的な 東洋館出版 (平成 25 年)

理科授業

8 ダン・ロスステイン たった一つを変えるだけ 新評論 (平成 27 年)

ルース・サンタナ

9 関西大学初等部 思考ツール さくら社 (平成 25 年)

10 ジョン・ハッティ 教育の効果 図書文化 (平成 30 年)

11 田代 直幸 9つの視点でアクティブ・ラーニング 東洋館出版 (平成 27 年)

12 鳴川 哲也 アクティブ・ラーニングを位置づけた 明治図書 (平成 29 年)

小学校理科の授業プラン

13 森本 信也 アクティブに学ぶ子どもを育む理科授業 学校図書 (平成 29 年)

14 佐々木 昭弘 「資質・能力」を育成する理科授業 学事出版 (平成 29 年)

モデル

15 小林 辰至 探究する資質・能力を育む理科教育 大学教育出版 (平成 29 年)

16 日本理科教育学会 理科の教育776号~785号 東洋館出版 (平成 29 年)

17 日本授業UD学会 授業のユニバーサルデザインVol.7~10 東洋館出版 (平成 29 年)

長期研修員

姫野 翔伍 (警固中学校 教諭)

担当主事

森 正隆 (研修・研究課 主任指導主事)