発行者 GCPレター - cmic-hci.com · ※本レターの無断転載を禁止いたします。...

2
※本レターの無断転載を禁止いたします。 1 / 2 GCPレタ ー 今回のテーマ 【治験薬の温度管理】 第 24号 2016年 7月 29日発行 発行者 アドバイザリーボード 弦間昭彦 1) 、小林広幸 2) 長谷川直樹 3) 、鈴木千恵子 4) 1)日本医科大学 2)東海大学医学部臨床薬理学 3)慶應義塾大学医学部 感染制御センター 4)浜松医科大学医学部附属病院 臨床研究管理センター 夏 も本 番 を迎 え て お ります 。気 象 庁 の報 告 によれ ば 、昨 年 8月 の 最 高 気 温 は 東 京 37.7℃ 、大 阪 38.0℃ 、福 岡 35.8℃ で あり、今年の夏も昨年並みの暑さとなりそうです。これからの季節は、治験薬の温度管理に対していつも以上に気をつける必要が ありそうですね。今回は、治験薬の温度管理について考えましょう。 治験薬を保管する温度は? 治験薬を保管すべき温度は、治験依頼者から交付される「治験薬の管理に関する手順書」に定められており、 治験薬管理者はそれに従って温度管理を行なう必要があります(GCP 省令第 39条)。 本 手 順 書 には 、 『1~ 30℃ 』 『1~ 25℃ 』『15~ 25℃ 』『2 ~ 8 ℃ 』な どの 具 体 的 な 数 値 に よ る 設 定 だ け で な く、『室 温 』『冷 所 』の よ う な 記 載 が あ り ま す が 、 それらは、日本薬局方の通則において以下のとおり規定されています。 【日本薬局方の通則において定められた温度】 貯蔵に用いる温度は、原則として、具体的な数値で記載する。ただし、以下の記述を用いることができる。 標準温度は 20℃、常温は 15~25℃、室温は 1~30℃、微温は 30~40℃とする。 冷 所 は 、別 に規 定 す る もの の ほ か 、1~ 15℃ の 場 所 とす る。 医薬品の保管温度はどのように決められるのでしょうか ❦❦❦ 医薬品の保管温度はどのように決められるのでしょうか? 新有効成分含有医薬品の承認申請例で説明しましょう。 保管温度を決める試験は、厚生労働省が定める安定性試験ガイドラインに従って行われます。 (独立行 政法人 医薬品 医療機 器総合 機構ホー ムペー ジ参照:https://www.pmda.go.jp/files/000156844.pdf) 一般的な製剤に対する安定性試験の種類 (R H :相対湿度) 試験の種類 保存条件 申請時点での 最小試験期間 長期保存試験 温度: 25℃±2℃、湿 度 :60% R H ± 5%RH 又は 温度: 30℃±2℃、湿度:65% R H ± 5%RH ※申請者がどちらの条件で試験を行うかを決定します 12カ月 中間的試験 温度: 30℃±2℃、湿度:65% R H ± 5%RH ※長期保 存条件 が 30℃±2℃/65%R H ± 5%R H の場合は、中間的条件はありません 6カ 月 加速試験 温度:40℃±2℃、湿度:75% R H ± 5%RH ※加速試験とは、通常の保管条件よりも厳しい条件で半年間の安定性を確認するもので、 合格すれば、3年間安定であるとみなすことが出来ます。 6カ月 ※長期保存試験や加速試験において、明確な変化が認められた場合には、中間的条件の試験が追加されます。 冷蔵庫での保存の製剤に対する安定性試験の種類 (R H :相対湿度) 試験の種類 保存条件 申請時点での 最小試験期間 長期保存試験 温 度 :5℃±3℃ 12カ月 加速試験 温度: 25℃±2℃、湿 度 :60% R H ± 5%RH 6カ月 安定性試験を行うことにより、どのような環境下で、どれ位の期間、 当該医薬品の安全性が担保されるかを確認できます。

Transcript of 発行者 GCPレター - cmic-hci.com · ※本レターの無断転載を禁止いたします。...

Page 1: 発行者 GCPレター - cmic-hci.com · ※本レターの無断転載を禁止いたします。 1 / 2 gcpレター 今回のテーマ 【治験薬の温度管理】 第24号 2016年7月29日発行

※ 本 レ ター の 無断 転 載を 禁 止い た しま す 。 1 / 2

G C P レ タ ー今回 の テ ー マ 【治 験 薬 の 温 度 管 理 】

第 2 4 号 2 0 16 年 7 月 2 9 日 発 行

発 行 者ア ド バ イ ザ リ ー ボ ー ド弦 間 昭 彦 1) 、小 林 広 幸 2)長 谷 川 直 樹 3) 、鈴 木 千 恵 子 4)

1 ) 日 本 医 科 大 学2 ) 東 海 大 学 医 学 部 臨 床 薬 理 学3 ) 慶 應 義 塾 大 学 医 学 部  感 染 制 御 セ ン タ ー4 ) 浜 松 医 科 大 学 医 学 部 附 属 病 院

臨 床 研 究 管 理 セ ン タ ー

夏 も 本 番 を 迎 え て お り ま す 。 気 象 庁 の 報 告 に よ れ ば 、 昨 年 8 月 の 最 高 気 温 は 東 京 3 7 .7 ℃ 、 大 阪 3 8 .0 ℃ 、 福 岡 3 5 .8 ℃ であ り 、 今 年 の 夏 も 昨 年 並 み の 暑 さ と な り そ う で す 。 こ れ か ら の 季 節 は 、 治 験 薬 の 温 度 管 理 に 対 し て い つ も 以 上 に 気 を つ け る 必 要 があ り そ う で す ね 。 今 回 は 、 治 験 薬 の 温 度 管 理 に つ い て 考 え ま し ょう 。

治 験 薬 を保管 する 温度 は ?治 験 薬 を 保 管 す べ き 温 度 は 、 治 験 依 頼 者 か ら 交 付 さ れ る 「 治 験 薬 の 管 理 に 関 す る 手 順 書 」 に 定 め ら れ て お り 、

治 験 薬 管 理 者 は そ れ に 従 っ て 温 度 管 理 を 行 な う 必 要 が あ り ま す ( G C P 省 令 第 3 9 条 ) 。 本 手 順 書 に は 、 『 1 ~ 3 0 ℃ 』『 1 ~ 2 5 ℃ 』 『1 5 ~ 2 5 ℃ 』 『 2 ~ 8 ℃ 』 な ど の 具 体 的 な 数 値 に よ る 設 定 だ け で な く 、 『室 温 』 『冷 所 』 の よ う な 記 載 が あ り ま す が 、そ れ ら は 、 日 本 薬 局 方 の 通 則 に お い て 以 下 の と お り 規 定 さ れ て い ま す 。【日 本 薬局 方の 通 則 におい て 定 められ た温度 】

貯 蔵 に 用 い る 温 度 は 、 原 則 と し て 、 具 体 的 な 数 値 で 記 載 す る 。 た だ し 、 以 下 の 記 述 を 用 い る こ と が で き る 。

標 準 温 度 は 2 0℃ 、常 温 は 1 5~ 2 5℃ 、室 温 は 1~ 3 0℃ 、微 温 は 3 0~ 4 0℃ とす る 。冷 所 は 、別 に規 定 す る もの の ほ か 、1~ 1 5℃ の場 所 とす る 。

医 薬 品 の 保 管 温 度 は どの よ う に 決 め ら れ るの で しょ う か ❦❦❦医 薬 品 の 保 管 温 度 は ど の よ うに 決 め ら れ る の で し ょ う か ? 新 有 効 成 分 含 有 医 薬 品 の 承 認 申 請 例 で 説 明 し ま し ょ う 。保 管 温 度 を 決 め る 試 験 は 、 厚 生 労 働 省 が 定 め る 安 定 性 試 験 ガ イ ド ラ イ ン に 従 っ て 行 わ れ ま す 。

( 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 ホ ー ム ペ ー ジ参 照 : ht t p s :/ /w w w .p m d a .g o . jp / fi le s / 0 0 01 5 68 4 4 .p d f )

❢ 一 般 的 な 製 剤 に 対 す る 安 定 性 試 験 の 種 類 ( R H :相 対 湿 度 )

試 験 の種 類 保 存 条 件 申 請 時 点 で の最 小 試 験期 間

長 期 保 存 試 験温 度 :2 5 ℃ ± 2 ℃ 、 湿 度 :6 0 % R H± 5 % R H 又 は温 度 :3 0 ℃ ± 2 ℃ 、 湿 度 :6 5 % R H± 5 % R H

※ 申 請 者 が ど ち ら の 条 件 で 試 験 を 行 う か を 決 定 し ま す1 2 カ 月

中 間 的 試 験 温 度 :3 0 ℃ ± 2 ℃ 、 湿 度 :6 5 % R H± 5 % R H※ 長 期 保 存 条 件 が 30 ℃ ± 2℃ /6 5 % R H ± 5% R H の 場 合 は 、 中 間 的 条 件 は あ り ま せ ん 6 カ 月

加 速 試 験温 度 :4 0 ℃ ± 2 ℃ 、 湿 度 :7 5 % R H± 5 % R H

※ 加 速 試 験 と は 、 通 常 の 保 管 条 件 よ り も 厳 し い 条 件 で 半 年 間 の 安 定 性 を 確 認 す る も の で 、合 格 す れ ば 、 3 年 間 安 定 で あ る と み な す こ とが 出 来 ま す 。

6 カ 月

※ 長 期 保 存 試 験 や 加 速 試 験 に お い て 、 明 確 な 変 化 が 認 め ら れ た 場 合 に は 、 中 間 的 条 件 の 試 験 が 追 加 さ れ ま す 。❢ 冷 蔵 庫 で の 保 存 の 製 剤 に 対 す る 安 定 性 試 験 の 種 類 ( R H :相 対 湿 度 )

試 験 の種 類 保 存 条 件 申 請 時 点 で の最 小 試 験期 間

長 期 保 存 試 験 温 度 :5 ℃ ± 3 ℃ 1 2 カ 月

加 速 試 験 温 度 :2 5 ℃ ± 2 ℃ 、 湿 度 :6 0 % R H± 5 % R H 6 カ 月

安 定 性 試 験 を 行 う こ と に よ り 、 ど の よ う な 環 境 下 で 、 ど れ 位 の 期 間 、当 該 医 薬 品 の 安 全 性 が 担 保 さ れ る か を 確 認 で き ま す 。

Page 2: 発行者 GCPレター - cmic-hci.com · ※本レターの無断転載を禁止いたします。 1 / 2 gcpレター 今回のテーマ 【治験薬の温度管理】 第24号 2016年7月29日発行

ア ドバ イ ザ リー ボ ー ド運 営 事務 局 か らの お知 らせ今 回 の G C P レ タ ー は い か が で し た か 。G C P レ タ ー に 対 す る ご 意 見 、 ご 指 摘 、 ご 感 想 な どが ご ざ い ま し た ら 、ア ド バ イ ザ リー ボ ー ド 運 営 事 務 局 ま で お 寄 せ 願 い ま す 。

ア ド バ イ ザ リー ボ ー ド 運 営 事 務 局 の メ ー ル ア ド レ ス :s s i-a d v is o ry _ b o a r d @ j-s m o .co m

G C P レ タ ー の バ ッ ク ナ ン バ ー :h ttp : //w w w .j - s m o .co m /g cp l_ a r c h iv e /

【次 回 の 発 行 予 定 】

本 格 的 な 夏 を 迎 え 、 熱 中 症 な ど にお 気 を 付 け て 、 お 過 ご し くだ さ い 。

次 回 の G C P レ タ ー は 9 月 3 0 日発 行 予 定 で す 。楽 し み に し て い て 下 さ い ね 。

サ イ ト サ ポ ー ト ・イ ン ス テ ィ テ ュ ー ト ㈱東 京 都 港 区 芝 浦 1 -1 -1浜 松 町 ビ ル デ ィ ン グT EL : 0 3-6 7 79 -8 16 0 ( 代 表 )U R L: h t t p :/ /w w w .j- sm o .co m /

※ 本 レ ター の 無断 転 載を 禁 止い た しま す 。 2 / 2

温 度 管 理 の 注 意 点 と工 夫 ❦❦❦2 0 1 5 年 の 各 地 の 気 温 に つ い て 纏 め て み ま し た 。 室 内 温 度 は 外 気 温 に 左 右 さ れ ま す の で 、 温 度 管 理 を 行 な う 際 に は

外 気 温 に も 気 を つ け て 、 治 験 薬 の 温 度 管 理 を し っ か り 行 な う こ と が 大 切 で す 。

『室 温 』保 存 の場 合 ・・ ・室 温 は 1 ~ 3 0 ℃ で す か ら 、 治 験 依 頼 者 か ら 「 冷 蔵 庫 で 保 管 し な い で 下 さ い 」 と 言 わ れ な い 限 り 、 室 温 保 存 の 治 験 薬 を冷 蔵 庫 に 保 管 し て も 問 題 あ り ま せ ん 。休 日 に は エ ア コ ン が 作 動 し な い 場 合 や 人 の 出 入 り が 多 い 場 合 な ど 、 温 度 管 理 が 難 し い部 屋 で 保 管 す る 場 合 に は 、 治 験 薬 を 恒 温 庫 や 冷 蔵 庫 で 保 管 す る こ と を 検 討 し て み て は い か が で し ょ う か 。『冷 所 』保 存 の場 合 ・・ ・

冷 蔵 庫 の 種 類 に よ っ て 次 の よ う な 注 意 点 が あ り ま す 。・シ ョー ケ ー ス ・・ ・ ・扉 近 くの 温 度 が 高 くな り 、 冷 気 の 吹 出 口 の 温 度 が 低 くな り や す い で す 。・業 務 用 冷 蔵 庫 ・ ・ ・ ・霜 取 り し た 際 の 温 度 上 昇 に は 注 意 が 必 要 で す 。 ま た 、 製 造 年 月 日 の 古 い 冷 蔵 庫 の 場 合 は 過 冷 却 を

起 こ す 場 合 が あ り ま す 。・や む を 得 ず 、 家 庭 用 冷 蔵 庫 を 使 用 す る 場 合 ・・・ ・温 度 変 化 の 幅 が 大 き く、 温 度 管 理 が 難 し い で す 。

温 度 管 理の ポ イント と温 度 逸脱 時の 対 応治 験 薬 保 管 場 所 の 温 度 管 理 や そ の 記 録 の 方 法 に つ い て は 、 G C P に お い て 明 確 な 基 準 は 示 さ れ て い ま せ ん が 、

重 要 な ポ イ ン トを 以 下 に 示 し ま す 。< 重 要な ポ イン ト>

❉ 保 存 条 件 か ら の 逸 脱 が 生 じ た 場 合 に 、 そ れ を 感 知 で き る こ と❉ 逸 脱 の 程 度 ( 最 大 温 度 差 ) と 期 間 ( 時 間 、 日 数 ) を 把 握 で き る こ と❉ 逸 脱 の 発 生 を 治 験 薬 管 理 者 が 速 や か に 知 り 、 対 応 で き る こ と❉ ア ラ ー ム 及 び 電 子 メ ー ル シ ス テ ム を 利 用 し て い る 場 合 に は 、 当 該 機 器 ・

シ ス テ ム が 定 期 的 に テ ス ト ・メ ン テ ナ ン ス さ れ て い る こ と( 引 用 : 治 験 1 19 質 問 ・見 解 集 (製 薬 協 ) 質 問 番 号 : 2 01 2 -4 6 治 験 薬 の 温 度 管 理 の 記 録 方 法 よ り 抜 粋 )

も し も 、温 度 逸 脱 して し ま った ら ・・ ・ ・・温 度 逸 脱 し た 治 験 薬 の 安 全 性 は 保 証 で き ま せ ん 。 そ の た め 、 温 度 逸 脱 し た 場 合 、 発 見 し た 人 は す ぐ に 治 験 責 任 医 師 と治 験 依 頼 者 に 報 告 す る 必 要 が あ り ま す 。 ま た 、 治 験 依 頼 者 か ら 温 度 逸 脱 し た 治 験 薬 の 使 用 許 可 が 下 り る ま で は 、当 該 治 験 薬 を 使 用 す る こ と は で き ま せ ん の で 、 誤 っ て 使 用 す る こ と が 無 い よ う に 他 の 治 験 薬 と 区 別 し て 保 管 し ま し ょ う 。治 験 継 続 中 の 被 験 者 が い る 場 合 に は 、 早 急 に 、 治 験 薬 の 再 搬 入 の 要 否 を 確 認 し 、 適 切 に 対 応 し ま し ょ う。な お 、 治 験 依 頼 者 よ り 温 度 逸 脱 し た 治 験 薬 の 使 用 許 可 の 連 絡 が 入 っ た 際 に は 、 そ の 旨 を 記 録 に 残 し て 下 さ い 。

温 度 計 は 校 正 さ れ た も の を 使 用し ま し ょ う 。 最 初 は 問 題 な く 作 動 し てい た の に 途 中 か ら 、 正 常 に 作 動 し な くな り 、 温 度 が 記 録 さ れ な か っ た ケ ー スも あ り ま し た 。 こ の よ う な 場 合 、 治 験薬 が 適 正 に 温 度 管 理 さ れ て い た こ とを 保 証 で き ま せ ん 。

温 度 管 理が 難 しい 場合 に は ・ ・・ ・冷 蔵 庫 の 中 の 治 験 薬 を さ ら に 段 ボ ー ル 等 の 箱 に 入 れ て 管 理 し て み て は い か が で し ょ う か 。一 時 的 な 温 度 変 化 の 影 響 を あ ま り 受 け な くな り ま す 。