季節調整法プログラムセンサス局法 X- -ARIMA X-13ARIMA...
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Ⅰ.はじめに
現在,日本の官庁や日本銀行などから毎月又は四半期ごとに定期的に
公表される経済統計の季節調整については,アメリカ商務省センサス局
が開発したセンサス局法X-12-ARIMAが一般的に用いられている。
ところで2012年7月には,そのアメリカ商務省センサス局から
X-13ARIMA-SEATSという新しい季節調整法のプログラムが公表され
た。
本稿は,そのX-13ARIMA-SEATSとはどのような季節調整法かとい
うことを述べた後,日本の2つの経済統計データに従来のX-12-ARIMA
と新しいX-13ARIMA-SEATSを適用して,その結果の違いを述べるも
のである。
Ⅱ.2つの季節調整法プログラムの概要
1.センサス局法X-12-ARIMAの概要
⑴ X-12-ARIMAの公表
センサス局法X-12-ARIMAは,アメリカ商務省センサス局が1996年に
公表した時系列データの季節調整法プログラムである。
研究ノート
季節調整法プログラム センサス局法X-12-ARIMAとX-13ARIMA-SEATSを
日本の2つの経済統計データに適用した結果の比較奥 本 佳 伸
千葉大学 経済研究 第29巻第4号(2015年3月)
(615) 241
センサス局は,1996年6月に従来の季節調整法プログラムX-11の改良
版であるセンサス局法X-12-ARIMAを公表したが,この時のバージョン
は「ベータ・バージョン」(Beta version)と呼ばれるものであった。
「ベータ・バージョン」とは,ソフトウェアの「正式版」の公表の前に
ユーザーに性能や機能,使い勝手などを評価してもらうための「試用版」
を言う。
1998年2月には「正式版」に当たるファイナル・バージョン(Final
version)(version0.1)が公表された。その後,1998年10月にはversion
0.2が公表され,さらに2007年5月にはversion0.3が公表された。2014
年12月現在の現行のバージョンは,このversion0.3である。
⑵ X-12-ARIMAの特徴
季節調整法としてのX-12-ARIMAの特徴を見ると,まず第1には,季
節調整を行う前の事前調整として,REGARIMA(レグアリマ)と呼ば
れる時系列モデルにより異常値や曜日変動等を推計し,これらをあらか
じめ原系列から除去するという点である。((注)REGARIMAは,“re-
gression and ARIMA”の略で,回帰式とARIMAモデルの組み合わせ
という意味である。)これによって,異常値等の混入により季節調整系
列が不安定化することを是正する効果がある。
第2には,REGARIMAを用いて原系列の予測値を推計した上で,こ
の予測値と原系列をつないだ系列に対して季節調整を行うことにより,
データの末端部分についても片側移動平均ではなく,両側のデータを用
いた移動平均ができる。これにより,末端部分での移動平均によるゆが
みが少なくなり,季節調整系列を安定化させる機能があると考えられて
いる。
第3には,季節調整した結果について,統計的な分析などにより,適
切に季節調整が行われているかを診断する機能が付いていることである。
季節調整法プログラム センサス局法X-12-ARIMAとX-13ARIMA-SEATSを日本の2つの経済統計データに適用した結果の比較
242 (616)
ここでの診断機能には,①季節調整が適切に行われているか(季節変動
要素が適切に除去されているか)を,季節調整後のデータについて,周
波数領域分析のパワースペクトルを観察することにより診断する方法,
②一定の長さの期間のデータに新しい時点のデータを追加していったと
き,季節調整値がどの程度安定的であるかを示す指標を見ることなどに
より,季節調整の方法としての安定性の診断をする方法,の2つがある。
こうしたX-12-ARIMAの手順は,①REGARIMAによる原系列の事前
調整パート,②従来のX-11による季節調整パート,③事後診断パート,
の3つのパートから成り立っている(第1図参照)。
それぞれのパートについて詳しく見ると,まずパート①では,
REGARIMAを用いて,原系列をARIMAモデルで表現できる部分と異
常値,曜日変動等への回帰部分とに分解する。その上で,ARIMAモデ
ルで表現できる部分とそのARIMAモデルを用いて推計した予測値をつ
なぎ合わせた「事前調整済み系列」を作成する。
パート②では,このようにして得られた事前調整済み系列に対して,
従来のX-11による季節調整を行う。ここでは,データの末端でも先行き
の予測値を用いた両側の項による移動平均が可能であり,また,異常値
や曜日変動等による攬乱を受けることがないため,移動平均による調整
で季節変動をより適切に除去できるものと考えられている。
パート③では,季節性が過不足なく除去されているかを統計的手法に
よりチェックするとともに,季節調整系列の安定性等に関する診断を行
う。
診断の結果によっては,REGARIMAにおけるモデル化の方法等を再
検討して変更することになる。
次に,ARIMAモデルについて簡単に説明する。
AR(Auto Regressive)モデルとは,時系列データの変動を,その時
千葉大学 経済研究 第29巻第4号(2015年3月)
(617) 243
原系列
事前調整
異常値,曜日変動要素等,回復変数で表現できる部分
パート③
パート②
ARIMAモデルで表現できる部分
ARIMAモデルを用いて推計した予測値
季節調整系列,季節変動成分等
事後診断
X―11
パート①
事前調整済み系列
(結合)
系列データの過去の変動から説明しようとするモデルであり,過去のp
期前までのデータが当期の値に影響していると考えると,p次のARモ
デルとなる。
MA(Moving Average)モデルとは,時系列データの当期の値が過
去の純粋に不規則な確率変数の値の加重和から説明されると考えるモデ
ルである。過去のq期前までのデータが当期の値に影響していると考え
第1図 X-12-ARIMAの構成
(出所)奥本(2001),P.242。
季節調整法プログラム センサス局法X-12-ARIMAとX-13ARIMA-SEATSを日本の2つの経済統計データに適用した結果の比較
244 (618)
ると,q次のMAモデルとなる。
このARモデルとMAモデルを足し合わせて構成したのが,ARMAモ
デルである。分析対象となるデータの階差(1期前の値と当期の値との
差)をとって,ARMAモデルを適用したのが,ARIMAモデルである(I
はIntegratedの略)。
時系列データの変動のうち,季節変動以外の部分にARIMAモデルを
あてはめ,また,季節変動する部分に季節変動を表すARIMAモデル
(季節変動ARIMAモデル)をあてはめて,その2つを掛け算の形で組
み合わせたものは乗法型季節変動ARIMAモデルと呼ばれ,それを簡略
化して,(p d q)(P D Q)と表現する。ここで,p,d,qなどの意味は,
次のとおりである。
p =ARモデルの次数
d =原データの階差をとる場合に何回階差をとるかの階数
q =MAモデルの次数
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P =季節変動ARモデルの次数
D=季節変動するデータに階差(季節階差。月次データでは12期前,
四半期データでは4期前のデータと階差をとる。)をとる場合
の階数
Q=季節変動MAモデルの次数
原系列から回帰式により説明される変動を取り除いた系列に,この乗
法型季節変動ARIMAモデルを適用したものがREGARIMA(レグアリ
マ)モデルである。X-12-ARIMAにおけるREGARIMAモデルの推計で
は,回帰式のパラメーター(係数)とARIMAモデルのパラメーターが
繰り返し収束計算により,同時に決定される。
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2.センサス局法X-13ARIMA-SEATSの概要
⑴ X-13ARIMA-SEATSの公表
センサス局法X-13ARIMA-SEATSは,2012年7月18日にアメリカの
商務省センサス局から公表された。この時に公表されたのは,version
1.0であったが,2013年9月にversion1.1が公表された。
⑵ X-13ARIMA-SEATSの概要
スペインの中央銀行であるスペイン銀行のVictor GomesとAgustln
Maravallの2人によって開発されたTRAMO-SEATSという季節調整法
プログラムがある1)。このTRAMO-SEATSは,時系列データについて
事前調整を行うTRAMOと,時系列の分解と季節調整を行うSEATSの
2つの部分から成っている。
X-13ARIMA-SEATSは,X-12-ARIMAにSEATSを導入したプログラ
ムということができる。
そこで,TRAMO-SEATSとはどのようなプログラムかということを
簡単に見ておくことにする。
① TRAMO-SEATSの概要
TRAMO-SEATSの概要について,ここでは主に高部(2009)の説明
にしたがって述べていく。
TRAMO-SEATSのプログラムは,時系列データの事前調整を行う
TRAMO(Time Series Regressions with ARIMA noise,Missing Ob-
servation and Outliers)パートと,時系列データの分解を行うSEATS
(Signal Extraction in ARIMA Time Series)パートの2つに大きく分
1)TRAMO-SEATSについては,日本語文献として東(2003)と高部(2009)がある。本稿の執筆においても,この2つの文献を参考にさせていただいた。
季節調整法プログラム センサス局法X-12-ARIMAとX-13ARIMA-SEATSを日本の2つの経済統計データに適用した結果の比較
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けられる。TRAMOパートでは,曜日効果の推定,はずれ値や欠測値の
補正などの事前調整のほか,前方予測及び後方予測(forecast and back-
cast)による時系列の延長,次のSEATSパートで必要になる季節
ARIMAモデルの当てはめなどを行う。
これに続くSEATSパートでは,TRAMOパートで当てはめたARIMA
モデルを基にして,AMB分解 (ARIMA-Model Based Decomposition)
とウィナー・コルモゴロフフィルタ(Wiener-Kolmogorov Filter:WK
filter)により,時系列データの分解と季節調整を行う。
このSEATSパートをもう少し詳しく説明すると,次のような手順に
なる2)。
⑴ AMB分解による時系列データの分解
・特性方程式の根の割り当てによるAR(Autoregressive)項の分
解
・自己共分散関数(AGF:Auto-covariance generating function)
の方程式による第一の許容分解
・Canonical分解による最終的な分解
⑵ 時系列の各種成分を抽出するためのウィナー・コルモゴロフフィ
ルタの導出
⑶ ウィナー・コルモゴロフフィルタの適用による時系列データの分
解と季節調整
2)高部(2009)p. 35―36。なお,高部(2009)p. 36の図1「TRAMO-SEATSの構造」では,SEATSパートの手順の⑵では,「時系列の各種成分を抽出するためのウィナー・コルモゴロフフィルタの構成」と記述されている。しかし,ここで「構成」という用語を用いると,そのフィルタが「どのような組み立てになっているか」という意味に理解される可能性があるが,ここでは,どのようにしてこのフィルタを導き出すか(又は,作り出すか)という意味なので,本稿では「導出」という用語に変更した。
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なお,高部(2009)では,TRAMO-SEATSのメリットとデメリット
として,以下のような点を指摘している。
メリット
○優れたモデルの自動選択機能が備わっている。
○時系列データの特性に合わせて数理的に最適なフィルタを構成す
ることができる。
○季節調整が周波数領域の作業として行われるので,季節周波数を
弱める季節調整の作用がイメージしやすい。
デメリット
○AMB分解における以下の2点について,恣意的であるとの批判
がある。
・Canonical分解の手法が恣意的であるとの批判がある。
・AR項の割当ての際の閾値(しきいち)の設定によって,分解
の結果が変わってきてしまうおそれがある。
○扱うデータについて「無限観測値」,「定常時系列」という仮定を
置いているが,この2つの仮定が強すぎる。このため,時系列の
端点におけるフィルタの不安定性や,新たな観測値に基づく改定
の大きさが問題になる。
○ウィナー・コルモゴロフフィルタを用いる必然性(根拠)がない。
カルマンフィルタを利用する方が,有限観測値という弱い仮定の
下で,より最適な結果を得ることができる。
プログラムTRAMO-SEATSの内容はかなり複雑であり,その内容を
詳しく説明することを目的にしていない本稿では,以上のような簡単な
説明にとどめたい。より詳しい説明は,高部(2009),東(2003),Gomes,
季節調整法プログラム センサス局法X-12-ARIMAとX-13ARIMA-SEATSを日本の2つの経済統計データに適用した結果の比較
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Victor and Agustln Maravall(1997)などを参照していただきたい。
② X-13ARIMA-SEATSについて
センサス局法X-13ARIMA-SEATSは,2012年7月にアメリカ商務省
センサス局から公表された。このX-13ARIMA-SEATSは,アメリカ商
務省センサス局がスペイン銀行の協力を得て開発した新しい季節調整法
プログラムである。
X-13ARIMA-SEATSは,TRAMO-SEATSの う ち のSEATSをX-12-
ARIMAに導入したもので,
X-13ARIMA-SEATS=X-12-ARIMA+SEATS
と言うことができる。
具体的には,第1図におけるパート②の部分で,X-12-ARIMAでは,
X-11を使って季節調整をするのに対し,X-13ARIMA-SEATSでは,X-
11を使って季節調整をすることができるほか,それと代替的な方法とし
て,SEATSというコマンドを用いて季節調整をすることもできる。こ
のSEATSは,季節調整法TRAMO-SEATSの後半部分のSEATSに相当
するプログラムである。
ここで述べたように,X-13ARIMA-SEATSは,第1図のパート②の
部分で必ずSEATSを使うというプログラムではなく,X-11も使えるし,
SEATSも使えるという形になっている。
例えば,センサス局がそのホームページで公表しているX-13ARIMA-
SEATS Reference Manualでは,事後診断のコマンドであるhistoryや
slidingspansの説明の中で例として掲載されているスペックファイルは,
パート②に当たる部分のスペックファイルのコマンドは,ほとんどがX-
11であり,SEATSが書かれているのは1例しかない。
また,同じくセンサス局がそのホームページで公表している,季節調
整法についての初心者向けの説明文書“Getting Started with X-13
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ARIMA-SEATS Input files”という文書でも,スペックファイルの例
は,パート②の部分がほとんどはX11になっている。
こうしたことから考えると,センサス局は,X-13ARIMA-SEATSを
使うときに,パート②の部分はX11で使うのが標準的で,それ以外にも
オプションとしてSEATSで季節調整するという方法もあるという考え
方をとっているように推測される。
3.X-13ARIMA-SEATSの日本の時系列データへの適用の試み
ここでは,日本の時系列データとして,大口電力使用量(電気事業連
合会公表)と百貨店販売額(経済産業省,商業販売額統計)を取り上げ,
それにX-13ARIMA-SEATSを適用してみた。
ここでは,第1図のパート①の部分の曜日変動についての回帰変数と
しては,次の3つのケースを設定した。
⑴ 標準曜日調整(regressionコマンドの中の指示語としては,
(tdnolpyear)とうるう年調整(同じくlpyear)をする。
⑵ 標準曜日調整と日本型曜日調整1及びうるう年調整の組み合わせ
⑶ 標準曜日調整と日本型曜日調整2及びうるう年調整の組み合わせ
このうち⑵,⑶で用いている「日本型曜日調整1」,「日本型曜日調整
2」という用語について説明する。
センサス局法の季節調整プログラムは,アメリカで作られたものであ
るから,アメリカの祝日については,それを回帰変数に入れることがで
きるようになっているが,日本の祝日については,当然ながら一切考慮
されていない。しかし,日本の消費関係のデータや生産関係のデータの
季節調整をするためには,曜日調整として,土曜日,日曜日だけではな
く,祝日の休みも考慮する必要がある。そのために,①各月ごとに月か
ら土曜日が祝日又は休日となっている日数(カレンダー要因のみを取り
季節調整法プログラム センサス局法X-12-ARIMAとX-13ARIMA-SEATSを日本の2つの経済統計データに適用した結果の比較
250 (624)
入れた場合)をholiday1と名付けて,それを用いて曜日調整することを
「日本型曜日調整1」と呼んでいる。
また,年末年始の休みや,ゴールデンウィーク,お盆休みなどを
holiday1の日数に加えたものをholiday2と名付けて,それを用いて曜日
調整することを「日本型曜日調整2」と呼んでいる。(この「日本型曜
日調整1」,「日本型曜日調整2」については,奥本(2001)のp.250~
256で説明している。)
第1表は,大口電力使用量について,以上の⑴~⑶の3ケースについ
てX-13ARIMA-SEATSを適用した結果である。
また,第2表は百貨店販売額について,同様に⑴~⑶の3ケースにつ
いてX-13ARIMA-SEATSを適用した結果である。
まず第1表,第2表のどちらも,データの期間は1998年1月から2014
年10月までとした。
次に,異常値の探索をするoutlierコマンドを使って異常値の探索をし
た。その結果,大口電力使用量の場合は,outlierコマンドで見つけて調
整した異常値は,LS2008.12,AO2009.1,TC2009.2,TC2011.3の4
つである。
また,百貨店販売額の場合は,LS2008.12,AO2011.3,AO2014.3,
TC2011.3の4つである3)。
第1表と第2表で,1,2,3のケースごとに上下2行で数値を書い
ているが,上は,X-13ARIMA-SEATSを,パート②の部分にX11を適
用したケース(これはX-12-ARIMAを適用したケースと同じである。)
であり,下はパート②の部分にSEATSを適用したケースである。
また,表の中で,かっこ内に書かれている数値はt値である。
3)異常値を表す記号であるLS,AO,TCの意味とその形状については,奥本(2013),p.57~59を参照していただきたい。
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(625) 251
まず第1表を見てみると,回帰変数がすべて有意なケースは,1の
ケースと3のケースである。2のケースは,日本型曜日調整1の回帰変
数(holiday1)が有意ではないので,日本型曜日調整1のt値の右側に
「×」を付けている。
一番右側の「選択」という欄については,○を付けたケースは選ぶ候
補になるケースである。×を付けたケースは,回帰変数に有意でないも
のがあり,選ぶ候補にならないケースである。
ケース1では,MAPRの値が,季節調整パートにX11を使った場合に
第1表 大口電力使用量についての結果の比較表
ケース
標準曜日調整
(TDNOLPYEAR)
日本型曜日調整1
日本型曜日調整2
うるう年調整(LPYEAR)
ARIMAモデル
AICC
MAPR(前月比)選択
季節調整パート
X11 SEATS
1○
P値���0.000.00
○(6.07)(6.08)
(011)(011)(011)(011)
2710.27642723.9104
0.290.20
○○
2○
P値���0.000.00
○(-1.54)×(-1.59)×
○(6.13)(6.14)
(011)(011)(011)(011)
2723.92532710.1128
0.290.20
××
3○
P値���0.000.00
○(-3.68)(-3.75)
○(6.97)(6.98)
(010)(011)(010)(011)
2715.65972701.6414
0.280.21
○○
第2表 百貨店販売額についての結果の比較表
ケース
標準曜日調整
(TDNOLPYEAR)
日本型曜日調整1
日本型曜日調整2
うるう年調整(LPYEAR)
ARIMAモデル
AICC
MAPR(前月比)選択
季節調整パート
X11 SEATS
1○
P値���0.000.00
○(4.16)(4.16)
(011)(011)(011)(011)
4149.44004149.4400
0.770.55
○○
2○
P値���0.000.00
○(-0.19)×(-0.19)×
○(4.15)(4.15)
(011)(011)(011)(011)
4151.76154151.7615
0.720.55
××
3○
P値���0.000.00
○(1.15)×(1.15)×
○(4.18)(4.18)
(011)(011)(011)(011)
4150.49464150.4946
0.680.55
××
季節調整法プログラム センサス局法X-12-ARIMAとX-13ARIMA-SEATSを日本の2つの経済統計データに適用した結果の比較
252 (626)
MAPRは0.29となっているのに対し,SEATSを使った場合は0.20と
なっている。
また,ケース3では,季節調整パートにX11を使った場合にMAPRは
0.28となっているのに対し,SEATSを使った場合は0.20となっている。
このようにどちらもケースでもMAPRはSEATSを使ったケースの方
が小さくなっている。
次に第2表で百貨店販売額の場合の結果を見ると,回帰変数がすべて
有意であったのは,1のケースのみとなっている。この1のケースで,
MAPRの大小を見ると,X-13SRIMA-SEATSの季節調整パートでX11を
使った場合は0.77であり,SEATSを使った場合は0.55となっている。
以上のように,第1表(大口電力使用量)と第2表(百貨店販売額)
のいずれにおいても,1つのケースの中で季節調整パートにSEATSを
使った場合の方が,X11を使った場合よりもMAPRが小さくなっている。
これはSEATSを使った方がより安定的な季節調整値が得られるという
ことを示しており,注目すべき結果だと思われる。
ただし,ここでは大口電力使用量と百貨店販売額の2つの統計データ
だけの結果であるから,一般的なことは言えないが,今後他の統計デー
タについてもさらに検討を進めていく必要があるだろう。
なお,本稿の表題は,「季節調整法プログラム センサス局法X-12-
ARIMAとX-13ARIMA-SEATSを日本の2つの経済統計データに適用し
た結果の比較」となっているが,実際の計算作業としては,上に述べた
ように,X-13ARIMA-SEATSにおいて,第2のパートである季節調整
パートにおいて,コマンドX11を使った場合と,コマンドSEATSを
使った場合の結果を比較している。これは,「X-12-ARIMAで計算した
結果」と,「X-13ARIMA-SEATSにおいて,第2のパートである季節調
千葉大学 経済研究 第29巻第4号(2015年3月)
(627) 253
1 6 1111 4 9 2 7 1212 5 1010 3 8 1 6 1111 4 9 2 7 1212 5 1010 3 8 1 6 1111 4 9 2 7 1212 5 1010 3 8 1 6 1111 4 917,000
19,000
21,000
23,000
25,000
27,000
29,000
1 6 11 4 9 2 7 12 5 10 3 8 1 6 11 4 9 2 7 12 5 10 3 8 1 6 11 4 9 2 7 12 5 10 3 8 1 6 11 4 91998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
原数値 季節調整値(X11)
(百万kWh)
整パートでコマンドX11を用いて計算した結果」は同じ結果になると考
えてそのようにしている。このことを御了解いただきたい。
次に,この2つの時系列データについて,グラフを書いた結果を見て
みることにする。
第2―1図は,大口電力使用量の原数値と季節調整値を1998年から
2014年までの期間にわたってグラフを書いたものである。大口電力使用
量はかなり季節変動が大きいデータであることがわかる。
このグラフでは,第1表のケース1においてX-13ARIMA-SEATSの
パート②でX11を用いた季節調整値だけを示した。この理由は,X11を
用いた季節調整値とSEATSを用いた季節調整値の両方をグラフに書い
ても,17年間というかなり長い期間である場合は,2つの季節調整値の
グラフはほぼ完全に重なってしまって,違いがわからないためである。
そこで,最近の5年間(2010年~2014年)についての2つの季節調整値
のグラフを書いたものが第2―2図である。この第2―2図を見ると,2
第2―1図 大口電力使用量の原数値と季節調整値
季節調整法プログラム センサス局法X-12-ARIMAとX-13ARIMA-SEATSを日本の2つの経済統計データに適用した結果の比較
254 (628)
21,000
21,500
22,000
22,500
23,000
23,500
24,000
24,500
1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 92010 2011 2012 2013 2014
季節調整値(X11) 季節調整値(SEATS)
(百万kWh)
つの季節調整値の違いがわずかではあるが,観察することができる。
2011年より前の時期に比べて,2012年から後の時期はやや2つの季節調
整値のグラフに差が見られるようになっている。ただ,その違いは大き
なものではない。また,このグラフだけからどちらの季節調整値がより
望ましい性質を持っているかということは判断できない。そうしたこと
は,先に述べたMAPRの大きさなどから判断をすることができる。
次に,百貨店販売額のグラフを見てみよう。第3―1図は,百貨店販
売額について原数値と季節調整値(第2表のケース1においてX-13
ARIMA-SEATSのパート②でX11を用いたもの)のグラフを書いたも
のである。百貨店販売額は季節変動が非常に顕著な統計データであるこ
とがわかる。
次に第3―2図は,2010年から2014年度までの期間で,X-13ARIMA-
SEATSのパート②でX11を用いたものと,SEATSを用いたものとの2
つの季節調整値をグラフに書いたものである。百貨店販売額の場合は,
大口電力使用量のようには2つの季節調整値の違いは顕著ではない。た
だし,2014年の5月~10月では,それまでの時期に比べて2つの季節調
第2―2図 大口電力使用量についての2つの季節調整値
千葉大学 経済研究 第29巻第4号(2015年3月)
(629) 255
1 6 1111 4 9 2 7 1212 5 1010 3 8 1 6 1111 4 9 2 7 1212 5 1010 3 8 1 6 1111 4 9 2 7 1212 5 1010 3 8 1 6 1111 4 9400,000500,000600,000700,000800,000900,000
1,000,0001,100,0001,200,0001,300,0001,400,000
1 6 11 4 9 2 7 12 5 10 3 8 1 6 11 4 9 2 7 12 5 10 3 8 1 6 11 4 9 2 7 12 5 10 3 8 1 6 11 4 9
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014原数値 季節調整値(X11)
(百万円)
450,000
500,000
550,000
600,000
650,000
700,000
750,000
1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 92010 2011 2012 2013 2014
季節調整値(X11) 季節調整値(SEATS)
(百万円)
整値の動きに少し差が見られる。この最近時の期間では,X11による季
節調整値に比べてSEATSによる季節調整値の方が滑らかな動きをして
いることが観察される。
第3―1図 百貨店販売額の原数値と季節調整値
第3―2図 百貨店販売額についての2つの季節調整値の比較
季節調整法プログラム センサス局法X-12-ARIMAとX-13ARIMA-SEATSを日本の2つの経済統計データに適用した結果の比較
256 (630)
4.終わりに
今回は,大口電力使用量と百貨店販売額についてX-13ARIMA-
SEATSで季節調整をする場合に,第2のパートである季節調整パート
でコマンドX11を用いる場合とコマンドSEATSを用いる場合との季節
調整値の比較を行った。
今回,この2つのデータについてX-13ARIMA-SEATSを適用する作
業を始めたところ,「日本型曜日調整1」と「日本型曜日調整2」は,
プログラムの中で回帰式での説明変数(回帰変数)として,ユーザーが
用意した変数を使う方式になるのであるが,そのプログラムを実行しよ
うとするとエラーが発生して,計算結果が得られないということが起
こった。このために非常に困り,本稿も最初は,検討結果として「日本
型曜日調整1」と「日本型曜日調整2」のケースのない形で原稿をまと
めて提出した。
しかし,その後,2015年1月11日にアメリカ商務省センサス局にその
ことについて相談するメールを出したところ,2日後に返事のメールを
受け取った。そこには,「あなたが遭遇したようなエラーなどの原因と
なる部分を修正した新しいX-13ARIMA-SEATSのプログラムを2015年
3月に公表予定であるが,そのプログラムをあなたには使えるようにし
てあげることが可能である。」と書かれていた。そして,そのプログラ
ムのダウンロードの方法を教えていただくことができた。
今回の検討結果は,そのようにして入手することができたプログラム
を用いて計算作業を行ったものであり,初校の際に修正・追加したもの
である。
今回,公表前の修正済みプログラムを使う便宜を図ってくださったセ
ンサス局の担当者に厚く感謝するものである。
今後,今回検討した大口電力使用量と百貨店販売額だけでなく,その
他の経済統計データについても検討を行っていくことにしたい。本稿は
千葉大学 経済研究 第29巻第4号(2015年3月)
(631) 257
今後のそうした検討作業の端緒となるものとして,不十分ながらもとり
まとめたものである。
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(2014年12月22日受理)
千葉大学 経済研究 第29巻第4号(2015年3月)
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