疫学コア 症例対照研究 ・コホート研究 - 京都大 …1 社会健康医学系専攻 2008.5.9 疫学コア 症例対照研究 ・コホート研究 (2) 京都大学大学院医学研究科
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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第57集・第2号(2009年)
本稿では、広汎性発達障害を中心とした発達障害をもつ子どもの向社会的行動に関する今後の研
究の方向性を明らかにすることを目的として先行研究のレビューを行った。具体的には、主に、①
障害をもたない子どもの向社会的行動の発達とその関連要因、②広汎性発達障害を中心とした発達
障害をもつ子どもの向社会的行動に関する研究で取り上げられている関連要因や促進・教育を目的
とした介入の方法、という2つの観点から先行研究を概観した。その結果、広汎性発達障害をもつ
子どもの向社会的行動の遂行における苦手な部分を明らかにするだけではなく、逆に、どのような
状況、条件であれば広汎性発達障害をもつ子どもも他者に対する援助や他者との協力が行えるかと
いう点を明らかにしていく方向性が示された。また、介入研究については、多くの先行研究によっ
て明らかにされている向社会的行動の生起過程や発達に関する知見にもとづいて介入の方法や結果
を検討していくことや、幼稚園や学校など子どもが他児とかかわる日常生活の場において介入が行
われる必要性が示された。
キーワード: 広汎性発達障害をもつ子ども、向社会的行動、自閉症、援助、協力
1. はじめに 広汎性発達障害は幼児期の早い段階から、対人間の相互的な交流の障害、コミュニケーションの
障害、行動や興味の偏りや硬さという3つの特徴が出現する発達障害のひとつである。これらの特
徴のため、養育者との愛着の問題、ことばの遅れ、こだわり行動などさまざまな問題を示す。また、
保育所や幼稚園に入ることによって、集団生活や他児との関係などにおいて新たな問題が発生する
ことも多い。集団を避けて他児とのかかわりをもたない場合、逆に、他児に対して興味関心をもち、
かかわる意欲は高いものの、かかわり方が不適切なためトラブルが生じてしまう場合など対人関係
の問題がさまざまな形でより顕在化し始める。
広汎性発達障害をもつ子どもは、中心的な特徴として他者との相互的なやりとりに難しさをもっ
ていることからも、一般に向社会的行動が少ないと言われている(Carter,�Davis,�Klin,�and�
Volkmar,�2005)。向社会的行動は、もともと他者に対する思いやりに支えられた行動であり、その
東北大学大学院教育学研究科博士後期課程
発達障害をもつ子どもの向社会的行動に関する研究動向―広汎性発達障害を中心に―
杉 村 僚 子
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発達障害をもつ子どもの向社会的行動に関する研究動向
点で多くの社会的行動のなかでも重要な価値をもっている。また一方で、向社会的行動は他者への
思いやりという動機づけにかかわらず、広い意味で他者に対するポジティブなはたらきかけとして
捉えられる。その点から、向社会的行動は対人関係を円滑にしたり、相互交渉を活発にしたりする
上で重要な機能を果たしていると言える。このように考えると、広汎性発達障害をもつ子どもの向
社会的行動を取り上げ、その教育や促進の方法について検討することは意義のあることと言える。
そこで、本報告では、広汎性発達障害を中心とした発達障害をもつ子どもの向社会的行動に関す
る最近の研究動向を明らかにするために、文献レビューを行う。具体的には、障害をもたない子ど
もの向社会的行動に関する研究を概観し、向社会的行動の発達やそれに関わる要因を整理した上で、
主に1990年代から2008年までに発表された自閉症やアスペルガー症候群などの広汎性発達障害を
中心とした発達障害をもつ子ども対象にした向社会的行動に関する研究において取り上げられてい
る関連要因や介入方法について概観する。
ところで、近年、障害をもつ子どもを障害児と呼称するのに対して、障害をもたない子どもの呼
称として定型発達児という用語が用いられることがある。これは、typically�developing�children�
という英語表現を和訳した語と考えられる。しかしながら、typically という語には「定型」という
よりもむしろ、「典型」という意味合いが含まれている。また、障害をもたない子どもも発達のバリ
エーションは多様であり、「定型」発達児という表現は必ずしも適切ではないと考えられる。これ
らのことから、本稿では、障害をもたない子どもの呼称として、「障害をもたない子ども」、あるい
は従来から使用されている「健常児」という用語を用いることとする。
2.幼児・児童の向社会的行動に関する研究⑴ 向社会的行動と愛他行動
向社会的行動と類似した用語として愛他行動や援助行動といった用語がある。松崎・浜崎(1990)
は向社会的行動に関する研究のレビューにおいて、高頻度で論文のタイトルに使用されていた用語
として、prosocial(向社会的あるいは向社会的行動)、altruism(愛他性あるいは愛他行動)、help(援
助あるいは援助行動)をあげ、研究分野による使用頻度の違いやその理由について述べている。そ
れによると、help は社会心理学で多く使われ、prosocial は発達心理学、altruism は社会心理学、発
達心理学の両方で多く使用されているという。社会心理学において援助という語が多く用いられる
ことについては、実験場面で援助を検討することが多いことや、援助という語が広義には人助け全
般をさしているために使用されやすいことの2点をあげている。一方、発達心理学の研究において
prosocial が多く用いられてきた理由として以下の2点をあげている。第1は、実験状況で寄付や分
与を求めることが多く、狭義の意味での援助を求めることは少ない点、第2は、発達途上の子どもの
行動を問題にする場合には必ずしもその行動が愛他的とは言い難い場合がある点である。以上の点
を踏まえると、子どもの発達について検討する上で特に問題となるのは、向社会的行動と愛他行動
の関係やそれぞれの定義ということになるだろう。
Eisenberg(1982)によると、1980年前後までは、向社会的行動と愛他行動は交換可能なほぼ同義
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のものとして使用されていたが、次第に動機が不明確な援助、分与等の意図的、自発的な行動を示
すために向社会的行動という用語が用いられるようになったという。とは言うものの、向社会的行
動と愛他行動の定義の大きな枠組みが設定されたということに過ぎず、研究者によって向社会的行
動と愛他行動それぞれの位置づけや両者の関係の捉え方は微妙に異なっている。たとえば、
Eisenberg(1982)は、向社会的行動と愛他行動の関係について以下のように整理している。まず、
その行動の動機にかかわらず他者の利益となる行動をポジティブ行動とし、その行動の意図と動機
の点から両者を区別しようとした。そして、愛他行動をこのポジティブ行動の下位行動として捉え
た上で、他者の利益のために外的報酬を期待することなくなされた意図的かつ自発的行動と定義し
ている。一方、向社会的行動はその行動の動機は不明であるにしても表面上意図的で自発的なポジ
ティブ行動であるとしている。Eisenberg の定義から、向社会的行動と愛他行動の関係を整理する
と、愛他行動は向社会的行動の下位行動のひとつとして捉えられ、向社会的行動のなかでも限定さ
れた動機にもとづく行動ということになる。このように考えると、狭義の援助も向社会的行動の下
位行動のひとつとして捉えることができるだろう。
岩立(1995)でも Eisenberg(1982)と同様の見解が示されている。岩立は先行研究における向社
会的行動と愛他行動の定義を概観し、他者の福祉に動機づけられている行動は愛他行動として向社
会的行動から区別することができると指摘している。そして、愛他行動は以下の4点を含むものと
している。すなわち、第1は外的な報酬を目的としていないこと、第2は他者のためになること、第
3は自発的・意図的であること、第4は自己犠牲を伴う行動であること、である。一方、向社会的行
動については、動機にかかわらず他者のためになされる行動としている。
以上の見解から、愛他行動は向社会的行動に含まれる下位行動と捉えられ、向社会的行動から愛
他行動を区別する要件としては、他者の福祉や利益に動機づけられているか否かという点、外的報
酬を目的としているか否かという点、自己の損失や犠牲を伴うか否かという点の3点があげられる。�
発達障害をもつ子どもを対象として検討していく際に考慮すべき向社会的行動の捉え方について
は、以上の議論を踏まえて後述する。
⑵ 向社会的行動の発達とその関連要因
向社会的行動の初期発生ついては、9か月児においてすでにその出現が認められ、19か月児では
過半数の乳児に出現が確認されている(平井・浜崎,1985)。また、1歳から2歳の幼児であっても、
他者への考慮や家事を手伝うような協力を示すことが報告されている(Rheingold,�Hay,�and�West,�
1976;�Zahn-Waxler,�Radke-Yarrow,�Wager,�and�Chapman,�1992)。さらに、人の永続性の概念、知覚
的な役割取得能力などの発達に伴って、動揺を示す大人や子どもを慰めるようになることも知られ
ている(Grusec,�Davidov,�and�Lundell,�2002)。このように向社会的行動は比較的早い時期からみら
れる社会的行動である。一般に、向社会的行動は年齢が上がるにつれて増加するとされているが、
向社会的行動の生起やその発達過程にはさまざまな要因が関連している。
向社会的行動の生起過程とそれに関わる多様な要因を要領よく組み入れ、それらの関係を的確に
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発達障害をもつ子どもの向社会的行動に関する研究動向
表現している(菊池 ,�1988)とされる向社会的行動のモデルが Eisenberg(1986)によって提唱され
ている(Fig.�1)。
このモデルは向社会的行動の生起過程を大きく3つの段階に区分している。第1は他者の要求へ
の注意の段階、第2は動機づけ段階、第3は意図と行動のつながりの段階という3つの段階である。
Eisenberg によると、第1の段階である他者の要求への注意は、共感性や向社会的道徳性判断などと
いった社会認知的発達の段階、親子関係やモデリングなどの社会化経験、他者への好意や関心、役
割取得能力といった個人特性、被援助者の同定、要求の理解のしやすさといった問題場面の特徴な
どの影響を受ける。第2の動機づけ段階に関わる要因は動機づけの質的な違いによって、相手への
共感や同情などの情動的側面、自尊感情や自身の援助能力の同定などの評価的側面、原因帰属(援
助が必要となった理由についての推論)や援助時のコストの見積もりといった認知的側面という3
つに分けられる。最後の意図と行動のつながりの段階では、実行方略の知識や自己調整力などといっ
た個人の諸能力、問題場面や被援助者の変化といった要因が関連し、最終的に向社会的行動が行わ
れるか否かが決定される。さらに、このモデルでは、行動の結果が自己効力感や自尊感情などの個
人の諸能力に影響を与え、それがその後の向社会的行動の生起に影響を与えるという点が想定され
ている。
向社会的行動に関する研究で取り上げられている関連要因は状況要因と個人内要因に大別するこ
とができる。Eisenberg(1986)をもとにした松崎・浜崎(1990)の分類によると、状況要因には傍観
者効果、援助者 - 被援助者間関係(性、魅力、人種、仲間関係など)、援助の性質(コストなど)、周辺
環境(騒音、都市 - 地方、文化差など)が含まれる。一方、個人内要因には役割取得能力や共感性な
どの個人特性、社会化経験(モデリングや親子関係など)、社会認知的発達(向社会的道徳判断など)、
動機づけ要因が含まれる。前述したとおり、動機づけ要因にはその内容によって情動的側面(共感
他者の要求への注意の段階 動機づけ段階 意図と行動のつながり
・ 問題場面の特徴(要求の理解のしやすさなど)
・ 個人特性(他者への好意や関心、役割取得能力など)
・ 社会認知的発達の段階(共感性や向社会的判断など)
・ 社会化経験(親子関係やモデリングなど)
・ 情動的側面(被援助者への同情や共感など)
・ 認知的側面(原因帰属やコストの見積もりなど)
・ 評価的側面(自尊感情や自分の援助能力の同定など)
・ 問題場面と援助相手の変化・ 個人の諸能力(実行方略の知識や自己調整力など)
行動の結果が自尊感情などに影響を及ぼす
Fig. 1 Eisenberg による向社会的行動の生起モデル(Eisenberg[1986] を参考に作成)
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や同情など)、認知的側面(原因帰属やコストの見積もりなど)、評価的側面(援助能力の自己同定、
自尊感情、個人的価値や目標など)の3つの側面がある。
状況要因に関しては、大人の向社会的行動の研究と比較して発達的観点からの研究は少なく(松
崎・浜崎,1990)、国外では、子ども間の関係性、たとえば、親しさ(Costin�and�Jones,1992)や年齢
差(Bizman,�Yinon,�Mivtzari,�and�Shavit,�1978)といった要因との関連が検討されているが、1990年
代以降の国内の研究では浜崎・石橋(1993;�1996)が物質的報酬を要因として取り上げている以外は
ほとんど見当たらない(これらの研究は遊び能力との関連を主に扱っていたため今回の分類では個
人内要因に含めた)。
一方、個人内要因を扱う研究は盛んに行われており、どのような特性をもった子どもが向社会的
行動をより多く行うのか、その個人差はどのように生じるのかという点について関心が集まってい
る。国内の向社会的行動(愛他、援助、協同、協力、分配、貸与等も含む)に関する研究を主に取り扱っ
ている要因ごとに分類した結果を Table�1�に示した。Table�1�からわかるように、個人の特性とし
ての共感性(畠山・戸田,1998;�森下,1990b;�桜井,1991)や自己制御(伊藤,2002;�伊藤・丸山〔山本〕・
山崎,1999;�樟本・伊藤・山崎,2004;�関・松永,2005)、遊びの能力(浜崎・石橋,1993;�渡辺・佐藤,
2005)などとの関連や、動機づけに関わる共感性(浅川・吉川・古川,1998;�浜崎,1991a;�樟本・伊藤,
2002;�桜井,1990;�渡辺・衛藤,1990)、自己効力感や価値・目標(伊藤,1996;�2003;�2004;�2006;�2008)
などとの関連を検討している研究が多い。また、親子関係(金子・新瀬,2002;�樟本・山崎,2002;�森下,
1990a)を中心とした社会化経験との関連や、感情解釈(伊藤,1997;�戸田,2003)や心の理論(森野,
2006)などの社会認知的発達との関連を取り上げている研究も多い。なかでも、共感性との関連に
ついては多くの研究が取り上げており、概して、共感性が高い子どもは向社会的行動を多く行うこ
とが示されている。
⑶ 向社会的行動の促進や教育に関する研究
� �あまり多くはないが、障害をもたない幼児や児童を対象に向社会的行動の促進や教育を目的とし
た研究も行われている。浜崎(1992)は、5歳から6歳の幼児を対象として困窮者と援助者双方の役
割を演じさせる役割演技(role�playing)が援助行動と分与行動におよぼす影響について検討を行っ
ている。その結果、困窮者と援助者双方の役割を演じることで、困窮者に対する共感が高まるとと
もに、援助方略が習得されるため、援助行動の増加につながることを示している。また、5歳から6
歳の幼稚園年長児を対象に改良型 VLF プログラムによって向社会的行動を促進する試みも行われ
ている(小林・河合・廣田,2005)。この研究で用いられている改良型 VLF プログラムとは、日常の
園生活で観察された向社会的行動を録画した VTR を一斉保育の時間に視聴し、行動の原因を内的
特性に帰属させる(援助者に対して「○○ちゃんは優しいから援助したんだね」などと褒める)、子
どもたちの日常でよくみられる葛藤場面を含んだ絵本やパネルを用いて解決するための行動を子ど
もに考えさせたり、話し合いやロールプレイを行わせたりする、などの活動から構成されている。
約4か月間の実践から、援助行動などの向社会的行動には統計的に有意な増加はみられなかったも
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発達障害をもつ子どもの向社会的行動に関する研究動向
のの、その他の社会的スキルの向上がみられた。これらの研究以外にも、道徳や総合的な学習の時
間などの活動を通して向社会性を高める教育実践(櫻谷・澤井・桂田 ,�2006)、向社会的行動の協同
学習(若林 ,�2008)、絵本の読み聞かせの効果(堂野 ,�2008)などを検討している研究もある。
3. 発達障害をもつ子どもの向社会的行動に関する研究 自閉症やアスペルガー症候群などの広汎性発達障害を中心とした発達障害をもつ幼児または児童
を対象とした向社会的行動に関する研究は、発達障害をもたない子どもの向社会的行動に関する研
究と比較するとかなり少ない。しがしながら、発達障害をもたない子どもの研究と同様に2つのタ
イプに大別することができる。第1は、社会的認知能力を中心とした個人内要因との関連を調査し
Table 1 国内の向社会的行動に関する研究で取り上げられている関連要因
主要テーマ(主に個人内要因) 関連要因
個人の特性 児童の向社会的行動と学校愛着・学級愛着(奥野・藤本・鎌倉・糸井,2008)、幼児の共感性と援助行動のモデリング(森下,1990)、生徒の援助行動と宗教性(松島,2006)、幼児の愛他行動と象徴能力(小谷,2000)、幼児の向社会的行動と自己制御の認知(伊藤・丸山〔山本〕・山崎,1999� ;�伊藤,2002)、児童の向社会的行動と遊び能力(渡辺・佐藤 ,�2005)、幼児の向社会的行動と IWN(Internal�Working�Model)(武田・菅原・吉田・笹原・加藤,2004)、幼児の向社会的行動と自己制御(関・松永,2005)、児童・生徒の向社会的行動と共感性、自己統制力(畠山・戸田,1998)、児童の向社会的行動と自己制御の認知(樟本・伊藤・山崎,�2004)、児童の向社会的行動と共感(桜井,1991)、幼児の協同行動と遊び能力(浜崎・石橋,1993;�1996)
社会認知的発達 幼児の向社会的行動と他者の感情解釈(伊藤,1997)、乳幼児の向社会的行動と自他の分化(久崎,2007)、幼児の向社会的行動と心の理論、感情理解(森野,�2006)、幼児の向社会的行動と他者感情理解(戸田,2003)
社会化経験 幼児の向社会的行動のモデリングと親子関係(森下,1990� ;�2006� ;�森下・庵田,�2005)、児童の向社会性と親の養育態度(金子・新瀬,�2002)、幼児の向社会性と夫婦間相互尊重性(堂野,2000)、幼児の向社会性と母親の自己理解と発達期待
(樟本・山崎,2002)、幼児の向社会性と親の共感経験(首藤,2006)、児童・生徒の向社会的行動、共感性とキャンプ経験(近藤,2007)
動機づけ 全 般 幼児の分与判断、分与行動と動機(石橋,1992)、児童の向社会的行動の帰属要因(岩立,1991)
情動的側面 児童の向社会的行動と両親、自己の共感の認知(桜井,1990)、児童の向社会的行動と共感性、他者の統制可能性(渡辺・衛藤,1990)、幼児・児童の向社会的行動と共感(浜崎,1991a)、幼児の向社会的行動と共感性(浅川・吉川・古川,1998)、幼児の向社会性と共感のタイプ(樟本・伊藤,2002)、幼児の共感的状況における向社会的判断(浜崎,1991b)
認知的側面 幼児・児童に貸与行動におけるコスト(江口・安里・川島,2003)
評価的側面 児童の向社会的行動と向社会性についての認知(価値観と効力感)(伊藤,�2004)、幼児の向社会的行動と向社会性についての認知(伊藤,1996� ;�2003� ;�2006)、児童・生徒の向社会的行動と向社会性についての認知(伊藤,2008)
方法論、その他 児童の愛他行動の観察(広田,1995)、幼児の思いやり行動の観察方法(長山・千羽・平井,1991)、児童の向社会的行動の測定(吉村,2003)、児童・生徒の思いやり意識(金子・田村,1998)、幼児の向社会的行動方略とその効果(若林,2002� ;�2003)
注1.��共感性を取り扱っている研究については、特に動機づけ過程に限定している研究以外は個人の特性の中に含めた。
注2.��コストの問題を検討している研究は状況要因に分類することも可能だが、今回はコストの見積もりとして個人内要因に含めた。
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ている研究である。これらの研究の多くは、発達障害をもたない子どもや他の障害をもつ子どもを
統制群として設定している。第2は、社会的スキルの形成や社会的相互交渉の促進に関する研究に
おいて、援助行動などの向社会的行動がターゲット行動とされている研究である。以下では、まず、
発達障害をもつ子どもを対象として検討していく際に考慮すべき向社会的行動の捉え方について言
及した上で、上記2つのタイプごとに広汎性発達障害をもつ子どもを対象とした研究を中心に概観
する。
⑴ 発達障害をもつ子どもを対象にする際の向社会的行動の捉え方
前述した向社会的行動の定義に関する議論を踏まえた上で、発達障害をもつ子どもの向社会的行
動を検討していく際の向社会的行動の捉え方について考えておく必要があるだろう。菊池(1988)は、
子どもの向社会的行動の発達を考慮した定義づけにおける問題として以下の2点をあげている。第
1は、動機づけや意図、感情移入などを定義に含めるかという点、第2は、自発性や自己犠牲を含め
るかという点である。つまり、上記2点を定義に含めると、発達を考えた場合、初期の行動が説明で
きなくなるということである(菊池 ,�1988)。このことは発達障害をもつ子どもの向社会的行動を検
討する際にも考慮すべき問題であろう。また、向社会的行動には他者に対する思いやりに支えられ
た行動という側面があり、その点で、多くの社会的行動のなかでも極めて重要な価値をもっている。
また一方で、向社会的行動は他者への思いやりという動機づけにかかわらず、広い意味で他者に対
するポジティブな働きかけとして捉えられる。そういった観点から考えると、向社会的行動は対人
的相互交渉を活発にしたり、社会的活動に能動的に参加したりする上で重要な機能を果たしている
と言える。つまり、動機づけや意図、自発性や自己犠牲の有無にかかわらず、他者のためになる行
動自体に重要な価値があると言える。
以上の点より、発達障害をもつ子どもの向社会的行動について検討していく場合、愛他的な要素、
すなわち、①他者の福祉や利益に動機づけられている点、②外的報酬を目的としていない点、③自
己の損失や犠牲を伴う点、の3点については柔軟に取り扱っていく必要があるだろう。また、通常、
向社会的行動の定義に含まれる自発性についても同様である。
⑵ 発達障害をもつ子どもの向社会的行動に関する研究で取り上げられている要因
向社会的行動の促進や教育を目的とした介入研究以外で、発達障害をもつ子どもを対象とした向
社会的行動に関する研究は少なく、国内では水田(2001)によるダウン症候群の青年を対象にした研
究以外は見当たらない。水田(2001)では分与行動と共感性の関連が検討され、ダウン症者において
も共感場面の方が非共感場面よりも分与行動が促進されるが、先行研究と比較してダウン症者の分
与行動は健常者よりも共感の有無によって大きな影響を受けにくいことが示されている。
国外の研究も多くはないが、Table�2に主な研究を示した。Bacon,�Fein,�Morris,�Waterhouse,�
and�Allen(1998)は4歳から5歳の言語発達障害、高機能自閉症、知的障害のある自閉症、知的障害、
障害のない幼児を対象に、手や足をぶつけて痛がっている大人に対する反応と失くしたペンを探し
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発達障害をもつ子どもの向社会的行動に関する研究動向
ている大人に対する反応について調査を行っている。その結果、知的に遅れのある自閉症の幼児は
他者の困窮に対する反応性が低く、高機能自閉症の幼児は反応はするものの他者の困窮に対して向
社会的行動を示すことが少ない点が示された。また、知的障害の有無にかかわらず、他の群と比較
して自閉症の幼児は社会的参照が有意に少ない点が示されている。Downs�and�Smith(2004)は5
歳から9歳の顕著な知的な遅れのない自閉症の子どもを対象として、囚人のジレンマ状況における
協力課題を用いて注意欠陥多動性障害あるいは反抗挑戦性障害の子どもや障害のない子どもとの比
較検討を行っている。その際、感情理解と他者との相互交渉スタイルが関連要因として取り上げら
れている。その結果、感情理解の苦手さはあるものの、自閉症の子どもでも障害をもたない子ども
と同等に協力行動を示すことが示された。また、Sally�and�Hill(2006)は、6歳から15歳の広汎性
発達障害の子ども18名を対象として、囚人のジレンマをもとにした協力課題と心の理論課題を用い
て6歳、8歳、10歳の障害をもたない子ども51名と比較検討している。その結果、広汎性発達障害の
子どもと障害をもたない子どもとの間で、協力課題の達成に大きな差は見出されなかったことが示
された。Liebal,�Colombi,�Rogers,�Warneken,�Tomasello(2008)は、2歳から4歳の自閉症と広汎性
発達障害の幼児15名を対象として、援助と協力について発達遅滞の幼児と比較した実験を行ってい
る。援助課題では、実験者が明確な意図や目標をもった行動をしている際、偶然にその意図や目標
が達成できず援助が必要となる状況を設定している(統制条件は意図や目標がない状況を設定)。
また、協力課題では、相手と協力しなければ達成できない課題を用いて、その遂行中に協力のパー
Table 2 広汎性発達障害をもつ子どもの向社会的行動に関する主な研究の概要
研��究 主要テーマ 対��象 課題の設定状況 主な結果
Bacon�et�al.(1998)
知的障害をもつ自閉症児と高機能自閉症児の他者の困窮への反応
高機能自閉症児( 平 均 年 齢53か月)、知的障害をもつ自閉症児(平均年齢62か月)、言語発達障害児と 知 的 障 害 児、健常児
見知らぬ大人が痛がるふりをしたり、ペンを落として困ったふりをするといった困窮状態を設定
知的な遅れがある自閉症児は他者の困窮に対する反応性が低く、高機能自閉症児は反応はするものの他者の困窮に対して向社会的行動を示すことが少ないまた、知的障害の有無にかかわらず、他の群と比較して自閉症幼児は社会的参照が有意に少ない
Downs�et�al.�(2004)
高機能自閉症児の協力と感情理解、相互交渉スタイルの関連
5 ~ 9歳の高機能自 閉 症 児、ADHD/ODD 児、健常児
囚人のジレンマ状況における協力
感情理解の苦手さはあるものの、自閉症児も健常児と比較して同等に協力行動を示す
Sally�et�al.(2006)
広汎性発達障害児の協力と心の理論の関連
6 ~ 15歳の広汎性発達障害児、6~ 10歳の健常児
囚人のジレンマ状況における協力
広汎性発達障害児と健常児との間で、協力課題の達成に有意な差はない
Liebal�et�al.�(2008)
広汎性発達障害児の援助・協力と 他 者 の 意 図・目標の理解の関連
2 ~ 4歳の広汎性発達障害児、2 ~5歳の発達遅滞児
援助については見知らぬ大人がペンを落とし困っている状況などを設定、協力については相手(見知らぬ大人)と協力しないと達成できない課題を設定
援助課題では実験条件と統制条件間で自閉症児と発達遅滞児との間に統計的な差はない一方、協力課題では違いがあった
注 .��研究によっては自閉性障害(autistic�disorder)やアスペルガー症候群(asperger�syndrome)などの総称として自閉症スペクトラム障害(autism�spectrum�disorder)という語を用いているが、本稿では同義で広汎性発達障害という語で統一した。
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トナーである実験者が作業を一時中断した時の子どもの様子を評価するという方法で、目標の共有
という要因を組み込んでいる。その結果、援助課題では実験条件と統制条件間で自閉症の子どもと
発達遅滞の子どもとの間に統計的な差はない一方、協力課題では違いがあったことが示された。
以上のように、広汎性発達障害を中心とした発達障害をもつ子どもの向社会的行動に関する研究
において取り上げられている要因は、相手の行動の意図や目標の理解(Liebal�et�al.,�2008)、感情理
解や相互交渉スタイル(Downs�et�al.,�2004)、心の理論(Sally�et�al.,�2006)などであるが、いずれも
自閉症もしくは広汎性発達障害以外の発達障害の子どもや障害をもたない子どもが統制群として設
定され、比較が行われている。つまり、これらの研究では広汎性発達障害の障害特性を明らかにす
ることに主眼が置かれていると言える。
⑶ 発達障害をもつ子どもの向社会的行動の促進や教育に関する研究
Sawyer,�Luiselli,�Ricciardi,�and�Gower(2005)は統合保育環境における4歳の自閉症の幼児に対
して、モデリングによって他児とのおもちゃの貸し借りのスキルを形成・維持する試みを行ってい
Table 3 広汎性発達障害をもつ子どもに対する向社会的行動の促進に関する主な国内の研究
研��究 対��象 ターゲット行動 介入方法 主な結果
松岡ら(1999)
17歳の自閉症青年
困難状況にある他者の援助と非困難状況にある他者の非援助(個数の多少と重量の重軽で困難の程度を操作)
ビデオモデリング、援助技能訓練、役割交代訓練
個数に関しては少ない場合に援助せず多い場合に援助する行動が生起したが、重量に関しては困難程度に応じた適切な援助は生起しなかった
松岡ら(2001)
14歳 と18歳の自閉症青年
援助してくれた相手に対する援助と援助しなかった相手に対する非援助
ビデオモデリング、被援助経験、言語的フィードバック
被援助経験のみ、もしくは被援助経験に関する言語的フィードバック(援助者の名前を確認)によって、援助してくれた相手に対する援助が形成された
須藤(2006)
自閉症あるいは広汎性発達障害の小学生2名と中学生1名
松岡ら(1999)と同様 役 割 交 代 訓 練(被援助経験)
役割交代訓練によって、個数に関しては多い場合に援助し、重量に関していは重い場合に援助する行動が生起した
須藤ら(2007)
7 ~ 11歳の自閉症あるいは自閉傾向の小学生3名
松岡ら(1999)と同様、ただし困難状況の弁別刺激として悲しい表情と喜びの表情を設定
役 割 交 代 訓 練(予備訓練)、表情マッチング訓練、ビデオ弁別訓練
表情による弁別が機能し、困難状況で援助が生起し、非困難状況では援助が生起しない行動が形成された
須藤(2008)
8歳の自閉症児
相手からの言語刺激や状況刺激、さらに自分の状況に応じて反応しそれを刺激として援助を行う
ビデオモデリング
相手からの言語刺激や状況刺激に対して自分の状況に応じて反応しそれを刺激として援助する行動が形成された
小島(1999)
9 ~ 11歳の自閉 症 児2名、10歳の知的障害児2名、8歳の ADHD 児1名
集団随伴性による仲間との相互交渉を中心とした社会的スキルの獲得と、副次的効果としての援助行動の獲得
集団随伴性条件(集団で行った結果に対して報酬によって強化する)と個人随伴性条件を比較
援助行動については個人差があり明確な結果は得られなかった
小島(2000)
小1の自閉症児1名と知的障害児2名
集団随伴性による向社会的行動を含む仲間との相互交渉の促進
集団随伴性 知的障害児には向社会的行動が出現したが、自閉症児には出現しなかった
― ―248
発達障害をもつ子どもの向社会的行動に関する研究動向
る。また、Reeve(2001)は5歳から6歳の自閉症をもつ幼児に対してビデオによるモデリングを用
いて援助行動を促進する試みを行っている。
国内では、応用行動分析にもとづいて、発達障害児・者を対象とした社会的行動を形成する試み
のなかで、援助行動がターゲット行動とされている研究がいくつか報告されている(Table�3)。た
とえば、松岡・野呂(2001)は14歳と18歳の発達障害児者を対象として、以前、自分を援助してくれ
た他者を選択して援助する反応を形成する試みを行っている。その結果、制限つきではあるものの
援助してくれた他者を選択して援助する反応が形成されたことを報告している。また、松岡・野呂・
小林(1999)は17歳の自閉症者を対象として困窮状態にある他者の作業の困難さ(作業の個数、作業
の重量)を弁別刺激として援助する、あるいは援助しない反応の形成を行った。その結果、作業個数
の多いときには援助し、少ないときには援助しない行動が形成されたが、重量に関しては、困窮状
態にある他者が明確な刺激提示をした場合のみ援助行動が生起するようになったことが報告されて
いる。松岡ら(1999)を受けて、須藤(2006)は7歳から11歳の自閉症の子どもを対象に困窮状態に
ある他者の作業の困難さと非援助体験を弁別刺激として、須藤(2007)では困窮状態にある他者の作
業の困難さに加えて表情を弁別指摘として援助する、あるいは援助しない反応の形成を行っている。
さらに、須藤(2008)では、8歳の自閉症児を対象として、ビデオモデリングによって相手から求めら
れている物品を自分が使用中である場合に援助を留保する発言をして相手を一度待機させ、自分が
物品を使用し終わってから援助行動を自発するという行動を形成している。以上の研究では、介入
の方法として、ビデオによるモデリング(須藤,2008)や対象者を被援助者とする役割交代訓練(須
藤,2006)のどちらかもしくは両方(松岡ら,1999;�松岡ら,2001;�須藤,2007)が用いられている。
一方、小島(1999;�2001)、涌井(2002)は自閉症や知的障害、注意欠陥多動性障害などの発達障害を
もつ子どもを対象として、社会的スキルの獲得や相互交渉促進における集団随伴性の効果について
調査するなかで、その副次的効果として援助行動の出現について検討を行っている。集団随伴性と
は集団場面における強化随伴性による介入方法のひとつであり、個人の遂行成績に応じて個人の強
化が決定される個人随伴性に対して、集団内の一部あるいは全員の遂行成績に応じて集団全員の強
化が決定されるものである(小島,1999)。小島(1999)では集団随伴性の副次的効果として期待さ
れた援助行動の出現は明確には確認されなかった。一方、小島(2001)では知的障害児には援助行動
が出現したが、自閉症児には出現しなかったことが報告されている。
4. 今後の研究の課題 ―広汎性発達障害をもつ子どもに対する向社会的行動の促進・教育―
ここまで、障害をもたない子どもの向社会的行動に関する国内の研究を概観し、向社会的行動の
発達やそれに関わる要因を整理した上で、自閉症やアスペルガー症候群などの広汎性発達障害を中
心とした発達障害をもつ子どもを対象にした向社会的行動に関する研究で取り上げられている関連
要因や介入方法について概観した。その結果から、広汎性発達障害をもつ子どもに対する向社会的
行動の促進や教育につなげていく上で必要な課題について、以下の2点が考えられる。
― ―249
� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第57集・第2号(2009年)
第1は、促進や教育を目的とした介入研究以外の研究の今後の方向性についてである。促進や教
育を直接的な目的としていない研究では、感情理解や心の理論、他者の意図や目標の理解などといっ
た社会認知的能力との関連が取り上げられ、広汎性発達障害の子どもや障害のない子ども、他の障
害をもつ子どもとの比較がなされているものが多い。広汎性発達障害以外の子どもとの比較を行う
ことによって、広汎性発達障害の子どもの苦手な部分を明らかにすることは促進や教育を考えてい
く上でも必要な知見と言える。しかしながら、苦手な部分を明らかにするだけではなく、逆に、ど
のような状況、条件であれば広汎性発達障害をもつ子どもも他者に対する援助や他者との協力が行
えるかという点について検討する必要があるだろう。
また、障害をもたない子どもの向社会的行動に関する国内の研究では、仲間関係などの援助者 -
被援助者間関係、コストなどの状況要因を中心的に取り扱った研究は少なく、個人特性や社会化経
験、動機づけなどの個人内要因を検討した研究が多く行われている。つまり、どのような特性をもっ
た子どもが他者に対する援助などを多く行うのかといった点が中心的課題となっていると言える。
このような研究において明らかにされている知見も広汎性発達障害をもつ子どもの向社会的行動の
促進や教育を考えていく上で重要な示唆をもっていると言える。しかしながら、向社会的行動の遂
行との関連が明らかにされている個人内要因は共感性や役割取得、感情理解など、広汎性発達障害
の子どもが最も苦手とする能力であり、これらの能力を高めることによって向社会的行動を促進す
るという方法は有効ではない場合も少なくない。この点からも個人内要因だけではなく、状況要因
についての検討も期待される。
第2は向社会的行動の促進や教育を目的とした介入研究の今後の方向性についてである。前述し
たように、国内の研究では主に応用行動分析にもとづいた援助行動の獲得や促進を目的とした介入
研究が多く行われている。これらの研究では、どのような状況を設定すれば援助行動が可能かといっ
た観点から介入が行われており、一定の成果をあげていると言える。向社会的行動は対人関係を円
滑にしたり、相互交渉を活発にしたりする上で重要な機能をもっていることを考えると、今後は援
助行動の遂行が他者との関係にどのような影響を及ぼすかについて検討する必要があるだろう。た
とえば、幼稚園や学校など子どもが他児とかかわる日常生活の場において介入が行われ、仲間関係
の形成にどのような影響を与えるかについて検討していくことなどが考えられる。また、従来の研
究では、多くの先行研究によって明らかにされている向社会的行動の生起過程や発達に関する知見
があまり取り入れられないまま、行動の形成や促進がなされていると言える。これまでに積み重ね
られてきた知見をもとにしながら介入研究を行い、その結果を新しい知見として積み重ねていくこ
とが望まれる。
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発達障害をもつ子どもの向社会的行動に関する研究動向
Trends� in� studies� of� prosocial� behavior� of� children�with�
developmental�disabilities
Ryoko�SUGIMURA(Graduate�Student,�Graduate�School�of�Education,�Tohoku�University)
� The�purpose�of�the�present�study�was�to�review�the�studies�on�prosocial�behavior�of�children�
with�developmental�disabilities.�Especially,�this�study�focused�on�the�studies�of�prosocial�behavior�
of� children�with� pervasive� developmental� disorders� (PDD),�who�have�difficulties� in� social�
interaction.�This�study�consisted�of� two�sections.� In� the�first�section,� this�paper�reviewed�the�
studies�on�prosocial�behavior�of� typically�developing�children.� In� this� section,� the�difference�
between�prosocial�behavior�and�altruistic�behavior�was�clarified.�And,�the�process�of�development,�
variables�relevant� to� individual�differences�were�considered.�The�second�section�reviewed�the�
studies�on�the�prosocial�behavior�of�children�with�developmental�disabilities.�And�this�paper�also�
reviewed�the� intervention�studies�to�facilitate�prosocial�behavior�for�children�with�PDD.�It�was�
suggested�that�the�intervention�program�in�children’s�real�life,�such�as�preschool�and�school,�was�
more�important�than�the�social�skill�training�in�laboratories.�
Key�words�:��children�with�pervasive�developmental�disorders,�prosocial�behavior,�autism,�helping,�
cooperation