水稲育苗ハウスを 活用した果樹栽培【いちじく栽培技術のポイント】...

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○本資料の取扱いについて 複写・転載または引用に当たっては、必ず編集元の承諾を得てください。 発行/平成28年2月25日  編集・発行/水稲育苗ハウスを利用した果樹栽培研究コンソーシアム (新潟県農業総合研究所、富山県農林水産総合技術センター園芸研究 所果樹研究センター、石川県農林総合研究センター、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構果樹研究所、新潟大学) 【問い合わせ先】 新潟県農業総合研究所園芸研究センター環境・施設科 新潟県北蒲原郡聖籠町真野177 TEL 0254-27-5555 本資料は、農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター が実施する「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業(うち産学 の英知を結集した革新的な技術体系の確立)」により実施した研究成果にもとづき編 集しています。 [研究課題名] 革新的技術導入による水稲育苗ハウスを利用した省力低コスト果樹栽培の実証研究 実施年度/平成26年度~27年度 水稲育苗ハウスを 活用した果樹栽培 水稲育苗ハウスを利用した果樹栽培研究コンソーシアム いちじく養液コンテナ栽培編 水稲育苗ハウスを 活用した果樹栽培 いちじく養液コンテナ栽培編

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○本資料の取扱いについて複写・転載または引用に当たっては、必ず編集元の承諾を得てください。

発行/平成28年2月25日 編集・発行/水稲育苗ハウスを利用した果樹栽培研究コンソーシアム

(新潟県農業総合研究所、富山県農林水産総合技術センター園芸研究所果樹研究センター、石川県農林総合研究センター、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構果樹研究所、新潟大学)

【問い合わせ先】 新潟県農業総合研究所園芸研究センター環境・施設科 新潟県北蒲原郡聖籠町真野177 TEL 0254-27-5555

本資料は、農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センターが実施する「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業(うち産学の英知を結集した革新的な技術体系の確立)」により実施した研究成果にもとづき編集しています。

[研究課題名]革新的技術導入による水稲育苗ハウスを利用した省力低コスト果樹栽培の実証研究  実施年度/平成26年度~27年度

水稲育苗ハウスを活用した果樹栽培

水稲育苗ハウスを利用した果樹栽培研究コンソーシアム

いちじく養液コンテナ栽培編

水稲育苗ハウスを活用した果樹栽培 いちじく養液コンテナ栽培編

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はじめに もくじ 北陸地域はその気候風土と豊富な水資源を生かし、水稲単作地帯として農業が

発展してきました。しかし、近年の農業従事者の高齢化とそれに伴う深刻な担い手

不足は農業における大きな問題となっています。国・各県では、これらの問題につい

て集落営農や法人化による農地の集積を進め、水田農業における経営規模の拡大

を推進してきました。さらに今後の経営の安定化や6次産業化への展開、担い手確

保を図る上で、園芸導入による経営の複合化はとても有効な手段と考えられます。

 新たに果樹栽培を始めたいと考えている水稲生産法人等の背中を押すために、

水稲育苗ハウスを有効利用しながら、簡単な技術で現行と遜色のない品質の果実

が生産できるように、今回の実証研究に取り組みました。できるだけ簡易な栽培管

理で、早期に成園並みの収量が得られるため、初期投資の回収が早い技術体系に

なっています。

 本マニュアルが存分に活用され、経営の中の果樹部門が1つの柱となり、農業の

活性化と経営の安定のために役立ててもらえれば幸いです。

平成28年2月

水稲育苗ハウス果樹栽培研究コンソーシアム

研究総括 根津 潔(新潟県農業総合研究所園芸研究センター 主任研究員)

いちじく養液コンテナ栽培とは…

 いちじくは3月に挿し木をし、苗を作ります。水稲育苗ハウスがあいた5~6月に苗をコンテナに定植し、搬入します。その後は培養液を使って栽培することで、挿し木した年から収穫することができます。2年目以降は挿し木する必要はなく、継続して5年以上栽培することができます。

【いちじく栽培の導入メリット】①挿し木した年から収量が得られる。②2年目以降は成園として安定した収量が得られる。③作業適期の幅が広く、収穫期以外は比較的作業が少ない。④加工品製造や直売等の6次産業化が可能である。

【いちじく栽培技術のポイント】①ハウス活用:水稲育苗ハウスがあいている時期はコンテナ栽培のいちじくを入れる。②コンテナ利用:もみ殻を培地としたコンテナに定植する。③養液栽培:培養液を用いて栽培を行う。

PART 1培養液を用いたコンテナ栽培マニュアル ・年間スケジュール 1

 ・育苗準備 3

 ・挿し木 4

 ・育苗 5

 ・栽培装置の設置 6

 ・給液装置の設置 7

 ・定植 8

 ・定植後の装置の設置 10

 ・給液方法 11

 ・栽培管理 12

 ・収穫 13

 ・収穫後の管理 14

 ・2年目の管理 15

 ・3年目以降の留意点 16

PART 2新たな開発技術 ・肥効調節型肥料を用いたコンテナ栽培(新潟県) 17

 ・コンテナ栽培いちじくコナドリア(富山県) 19

PART 3大規模稲作経営におけるいちじく導入経営モデル 21

 ・経営指標 23

PART 4現地導入事例 ・大規模稲作法人でいちじく導入 24

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培養液を用いたコンテナ栽培マニュアル (品種:桝井ドーフィン)

PART

1年間スケジュール

1月

育苗ハウス

挿し木1年目

2年目以降

管理作業

管理作業

生態

管理作業

病害虫

生態

2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

育苗ハウスの改良❻ 栽培装置の設置❻❼ 給液11

田植え

水稲育苗

穂木の準備・保管❸ 挿し木❹ 定植❽

育苗❺

稲刈り

収穫期13発芽期着果始日

摘心12

新梢誘引12

わき芽欠き12

キボシカミキリ成虫12 キボシカミキリ幼虫12キボシカミキリ幼虫12

※表中の○数字は本冊のページ数を示しています。

ハダニ類12ナメクジカタツムリ12

コンテナ搬入15

落葉期発芽期 収穫期着果始日

摘心12

新梢誘引12

わき芽欠き12せん定・コンテナ搬出

培地補充15 施肥15

せん定・搬出14

せん定・搬出16

落葉期

芽かき15

灰色かび病12キボシカミキリ幼虫による食害

アザミウマ類12

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均熱層

温床線 断熱層

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育苗準備

●前年伸びた枝(1年枝)を挿し穂として使います。●1年枝の太さは問いませんが、充実している芽が多く着いた枝を穂木として採取します。●穂木は12月~2月(休眠期)に採取しておくか、挿し木直前に採取しても良いです。●事前に穂木を採取した場合は、ビニールで覆い、保存期間が長期間にわたる場合は冷蔵庫で、短い期間なら日が当たらず気温が上昇しない場所で保管しておきます。

均熱層:湿らせた3~6cmの砂等に温床線を設置断熱層:6~9cmのもみ殻や発泡スチロール床の大きさや必要な地温により温床線の容量を決めます。

左:充実した大きな芽→発芽が早い右:貧弱な芽→発芽が遅い

調整後の穂木

▲ポットの底穴を ふさぐ

挿し木した状態

▲穂木の採取

●1年目から収穫を得るために、3月上旬までに挿し木します。

挿し木時期

●穂木の調整は挿し木の直前に行います。●穂木は充実した芽の上1cm、長さ10cm程度で切ります。●穂木の一番上の芽の下までポットに挿します。

●穂木の上部切り口に切り口保護剤を塗布します。●挿し穂の下部に節がある場合は、芽をナイフ等で削ぎます。●挿す側はまっすぐか、やや斜めに切ります。●調整後は乾かないよう、速やかに挿しましょう。

穂木の調整

●定植が6月以降になる場合は12cmポット、5月下旬までに定植する場合は10.5cmのビニールポットを使います。●ポットの底を寒冷紗等でふさぎ、穂木をポットに置いてから、鹿沼土を詰めます。●不発芽や発根不良等により成苗率は7割程度となるため、十分な本数を見込んで挿し木しましょう。

挿し木

●1年目から収穫するためには寒い時期から育苗を始めなければならないため、育苗床(温床線設置)が必要です。●育苗床の設置手順①育苗ポットを並べる場所を整地し、平らにします。②断熱層としてもみ殻等を6~9cm程度入れ、踏み固めます(または発泡スチロールを利用します)。③断熱層の上に砂等を3cm程度敷き、平らに踏み固めます。④サーモスタット(温度調整器)を接続します。⑤温床線を配置し、さらに3cm程度砂等を入れた後に、水をまいて湿らせます。⑥ビニルフィルム等で全面を覆います。

育苗場所の準備

温床床の設置例

穂木として採取する1年枝

基部は芽が非常に小さいので使わない

2次伸長、わき芽から伸びた枝は使わない

芽の大きさを見て穂木として使う

PART 1

挿し木

培養液を用いたコンテナ栽培マニュアル

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培養液を用いたコンテナ栽培マニュアル

地面が均平でなくても設置ができる。

組立に時間がかかる。資材費がかかる。

▲ポットを並べて設置

▲トンネル被覆した状態

▲発根時期の地上部の様子

※架台の資材及び水耕シートを含んだ単価

■ 5.4×18mのハウスに右図の誘引線用の  支柱を設置した場合の試算(円)

30,106

●鹿沼土は乾きやすいので、こまめに観察しましょう。●表面の鹿沼土が乾き始めて白くなってきたらかん水を行います。

かん水

●育苗床の地温は20℃に設定します。●無加温ハウスの場合、夜間及び気温が低い日はトンネル被覆します(高温に気をつけること)。●ポットの地温が低かったり、高い温度で保温し続けると、発根よりも発芽が先行し、後に枯死することがあるので、育苗期の温度管理には注意しましょう。

保温

●穂木を優しく引っ張り、発根を確認し、発根後は培養液(タンクミックスF&B400倍)でかん水します。●複数の新梢が発生した場合は生育の悪い方を切除し、1本だけ伸ばします。

展葉・発根後の管理

必要以上の培養液量を給液すると果実の糖度低下や着色不良等の品質低下を招くことになります。排液が貯まらないように、また排液量をみながら給液するために架台を設置しましょう。

排液管理のための架台

新梢が伸びた時に誘引する必要があるため、誘引紐を下げるための誘引線を張ります。定植後に誘引線から誘引紐を下げて、新梢を誘引します。

誘引線の設置

■ 5.4×18mのハウスに2列66コンテナを導入した場合の試算(円)

〔設置例〕

①φ19mmパイプを用いた固定架台

②セメントブロックと角スタッドを用いた簡易架台

③運搬が楽な移動架台

利点

欠点

資材が安価で経費が少ない。

比較的平らな地面が必要。やや不安定。

利点

欠点

搬出入の作業時間が短い。

平らな地面が必要。資材費がかかる。

利点

欠点

PART 1

育苗 栽培装置の設置

導入経費※ 83,370 18,174 82,884

①固定架台

導入経費※

誘引線資材

②簡易架台 ③移動架台

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写真は親タイマーとしての24時間タイマーと稼働時間を制御する子タイマーを組み合わせている例。1日に10回程度の「何時に何分間稼働」設定できるタイマーを利用します。

加工しやすいΦ20またはφ25mmの塩ビ管を利用します。塩ビ管を繋ぐソケット、方向を曲げるためのエルボ、分岐させるためのチーズ、かん水チューブを付けるための水栓ソケットを必要数用意します。

給液するための点滴チューブとしてストリームラインを利用する場合、水栓ソケット→リング付きスタートコネクター→ストリームライン→リング付きエンドと接続します。

必要な装置・材料の例

陸上または水中ポンプのどちらでもよい。能力は給液する点滴チューブの長さ、吐出量等により決定します。(下表参照)

原水と給液を濾過し、点滴チューブ等の目詰まり防止のため、フィルターが必要です。

タンクミックスF&Bを使用する場合、養液タンクは100リットルの容量が必要です。

チューブに対応した適正圧の管理と給液量の推定に使用します。

底面用は1枚2つ折りのまま

側面用は新聞紙1枚を3つ折り

排液量、排液ECを測定するための排液モニタリングタンクが必要です。

ボールタップ 液肥混入器 点滴チューブフィルター

水源

水 ポンプ

水タンク電源 排液モニタリングタンク

水耕シート

タイマー

コンテナ

圧力計

コンテナ準備

●輸入球根用コンテナ(W600×D400×H230mm)(以下、球根コンテナまたはコンテナと表記)を使います。

培地の準備

●乾いたもみ殻に上から水をかけても十分に湿らないため、大きなタンク等に水をはり、もみ殻を事前に水に浸し、十分に湿らせてからコンテナの取っ手の穴まで詰めます。

●球根コンテナの底面、側面に新聞紙を敷きます。 (新聞紙は1年で腐植してなくなるため、防虫ネット、寒冷紗等のネットを利用しても良い。)

▲もみ殻を詰めた状態

PART 1

給液装置の設置 定植

培養液を用いたコンテナ栽培マニュアル

ポンプ 液肥タンク水タンクポンプでタンク内の水を供給。

ディスクフィルター

液肥混入器は高価だが簡易に、自動的に混入できる。

液肥混入器

FF

養液タンク

コンテナ

いちじく養液栽培の給液装置模式図

タイマー

エルボ 水栓ソケット

水栓ソケット

リング付きスタートコネクター

リング付きエンド

ストリームライン

ソケットチーズ

給液用の配管に必要な資材

▲コンテナの内側に敷く

ストリームライン60の場合

※10%以内の吐出量変動で使用する場合(HPより引用)

水圧(bar)流量(リットル/時)延長可能距離(m)※

0.40.7-

0.50.858

0.60.859

0.70.959

0.81.060

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▲白黒ダブルマルチで株を挟むように被覆

▲点滴チューブの配置

定植時期

●育苗ハウスがあいた5月下旬~6月上旬に定植しますが、大苗となってから定植すると葉枯れが発生する場合があるので根鉢ができたら早めに植えます。

かん水チューブの設置

定植

●定植する際は根鉢を崩さず、ポットから抜いた状態で植えます。●新梢の発生方向が反対になるようにコンテナの中央部に2株を並べて植えます。

●点滴チューブ(Netafim社ストリームライン10cmピッチ)をかん水に利用します。●チューブは3本設置します。●点滴穴を上向きに設置すると詰まりにくくなります。●チューブが目詰まりしないようにフィルターや液肥混入器をこまめに点検、清掃しましょう。

白黒ダブルマルチの設置

●乾燥防止、培地温度上昇抑制、アザミウマ類被害軽減等を目的として白黒ダブルマルチでコンテナ全体を覆います。●白黒ダブルマルチは株を左右からはさみ、真ん中でホチキス等で留めます。

●上にココピート(粉砕ヤシ殻)等を敷くため、深植えにならないように注意しましょう。●もみ殻に定植した後、上層にココピートや堆肥等2リットル程度敷き詰めます。●ココピートを使う場合は事前に良く湿らせておきましょう。

▲定植途中の様子

▲定植完了後の様子

▲コンテナへの植栽例

▲定植時の苗姿 ▲根鉢形成の状況

PART 1

定植後の装置の設置

培養液を用いたコンテナ栽培マニュアル

新梢の向き

新梢の向き

点滴チューブを使用コンテナに3本配置

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①果肉の褐変

②食害による枯死

培養液を用いたコンテナ栽培マニュアル

培養液の種類 新梢誘引●新梢は伸びるにしたがい倒れてくるので、定植後から随時、ひも等で誘引します。●培養液はOATタンクミックスA&B、またはOATタンク

ミックスF&Bが1液式養液栽培用肥料で扱いやすいので、どちらかを使用します。

原水の水質●原水に不純物が多く含まれていると培養液中の肥料分バランスが異常となったり、適正な養分管理ができなくなります。一般的に養液栽培で使われる水質基準は以下のとおりですが、季節的な変動もありますので、Aランク以外は使用しない方が無難です。

供給量●1回当たりの供給量は1コンテナあたり1リットルとし、右図のいちじくの吸水量を参考に、1日当たり2~9回給液します。●供給量は、排液率30%を目安に生育ステージや天候に応じて調整しましょう。  

養液濃度●定植後はEC2.0dS/mとし、1週間程度の間隔で排液ECを測定し、排液ECが給液ECを超えたら段階的に0.7dS/mまで下げます。

わき芽かき●わき芽が伸びた場合は早めにかき取りましょう。●わき芽をかく時には果実がとれないように気をつけましょう。

摘心●8月中旬に、着果している節の上2節残して摘心します。

病害虫対策①アザミウマ類果実径が2.5~3cmに達した時(着果約20日後)に一時的に果頂部先端の目に小穴が空きますが、その際に成虫が飛来、果実内に侵入して、食害するため、果実内が褐変、変色します。ハウス内、ハウス周りの雑草対策や定期的な薬剤散布が必要です。

②ナメクジ、カタツムリコンテナ等にナメクジやカタツムリが付着している場合は、主幹部の食害が発生しないように駆除します。

③キボシカミキリ4年生程度までは被害が見られませんが、主幹が太くなると被害が出始めます。成虫は樹皮に噛み傷をつけ、その皮下に卵を産み付けます。幼虫は樹皮下、材の中心部を食害します。主幹部からの木くず状の虫糞が出ていたら刺殺または薬剤散布を行いましょう。

④ハダニ類いちじくハウス栽培では7月頃に発生が多くなります。発生が多くなると葉から果実へと寄生し、被害果は果皮が錆びたようになり、褐変して硬くなります。発生初期の防除が重要です。

⑤灰色かび病果実の開口部付近に褐色水浸状の小斑点を生じ、しだいに拡大するにしたがってややくぼみ、その表面に灰色のかびが密生し、腐敗します。ハウス内の湿度が高まると発生しやすいので換気に注意してください。

▲わき芽は伸びる前にかき取る

③幼虫寄生痕

④ハダニ類による 被害果実

⑤灰色かび病

各水質の成分の許容量

(株)大塚化学資料より

タンクミックスAとBを使用タンクミックスFとBでも良い

PART 1

給液方法 栽培管理

Aランクの水Bランクの水Cランクの水

30以下50以下50以上

10以下30以下30以上

0.3以下1.0以下1.0以上

10以下25以下25以上

30以下50以下50以上

1以下10以下10以上

200300400

1.270.85

希釈倍率100

EC(dS/m)2.54

0.64

Aランクの水

Bランクの水

Cランクの水

EC0.2dS/m以下

EC0.5dS/m以下

EC0.5dS/m以上

一般に良質な水で、使用しても差し支えない。

ECでの管理に十分注意を払うとともに、含有成分を把握し、モニタリングをこまめに行う

不純物が多く、使用できない。

CaO MgO Fe+++ Na+ Cl- NH4+

6/200

1

2

3

4

5

6

7

7/20 8/19 9/18 10/18 11/17図 給水量の推移(2012年、4年生株)

タンクミックスF&Bの場合

給水量(L/コンテナ・日)

※ECは原水を0dS/mとしているので実際の使用時は水のECを加算する。例)水道水 約0.1dS/m

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培養液を用いたコンテナ栽培マニュアル PART 1

果実成熟

●着果(果実横径5mm)してから収穫までに必要な日平均積算気温は約2,000日℃であるため、遅く着果した果実は成熟まで日数がかかります。

かん水

●落葉後は培地が乾かないように、適宜かん水を行います。

せん定

●落葉後、新梢基部の充実した芽の1つ上の芽で切り戻します(犠牲芽せん定)。●隣のコンテナに根が差し込んでいる場合はのこぎり等を入れて切り離します。●コンテナからとび出ている根は切り落としておきます。

搬出

●水稲育苗が始まるまでの冬期間のコンテナ保管場所はハウスの内外どちらでもかまいません。●春の乾燥時にかん水できるように、水源がある場所を選びましょう。●外で越冬させる場合は野鼠被害に注意しましょう。

収穫

●果実のやわらかさ、目(果頂部の穴)の裂果等を見極めて収穫します。●着色はじめから4~6日くらいで完熟し、その後1~2日で過熟果となるので、もぎ遅れないように注意が必要です。●収穫は気温の低い早朝の時間帯に行うと、日持ちが向上します。●収穫は果実を引っ張るのではなく、果梗に近い部分に軽く指をかけ、持ち上げるように収穫します。●果実の乳汁中に含まれるタンパク質分解酵素によって皮膚が冒されるので、ゴム手袋などをして収穫します。また、果実に果汁が付着すると外観を損ねるので気をつけましょう。

熟期促進

 エテホン10%液剤を成熟予定15日前(果実生長第2期終期)、外観では果皮が緑色から黄緑色に、花托内の小果が淡桃色から赤桃色にかわり、かつ果頂部の目の部分が多少隆起して、淡桃色から赤桃色に変化した頃に、ハンドスプレー等で果面散布(果面がぬれる程度)することにより熟期を促進することができます。(注:平成28年2月10日現在の農薬取締法による登録に基づき記載しています)

収穫量

●1年目の1コンテナ当たり収量は約1.8kgとなります。●2年目以降は1コンテナ当たり3kg収穫できます。

収穫 収穫後の管理

▲基部の充実した芽の1つ上の節でせん定

7/5 8/147/25着果日

9/30

20

40

60

80

100

120

140

160

着果後日数(日)

6/15

R2=0.3516

1年0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

2年 3年樹齢

4年 5年

商品果収量(㎏/コンテナ)

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培地の補充

●培地が痩せ、コンテナ周辺に隙間ができた場合はもみ殻を足し、上にココピート等を被せます。

施肥

●発芽時に化成肥料(窒素量で4g/株)を施用します。

搬入

●水稲育苗ハウスが空いたら架台、排水装置等を設置し、コンテナをハウス内へ搬入します。

芽かき

●発芽が揃い、複数の新梢が伸びたら、伸長方向や勢いを見て、1本残して他はかき取ります。

2年目の管理 3年目以降の留意点せん定時の留意点

●新梢が発生した位置から長く1年枝を残しておくと年数が経つにつれ枯れ込むのでせん定時に切り直しましょう。切り口には保護剤を塗布してください。

株の更新

●株の生産寿命は検討中ですが、2~7年生までは、ほぼ同等の生産が可能と思われます。●株が長くなったり、樹勢が低下した場合は株の基部から発生した新梢を用いて更新することもできます。●株の更新を考えて、毎年いくらかの新しい株を作ると良いでしょう。

肥効調節型肥料への切り替え

●4年生程度の成木では培養液を用いず、肥効調節型肥料を施用して水をかん水する肥培管理に切り替えることも可能です。

PART 1 培養液を用いたコンテナ栽培マニュアル

▲株の更新例(矢印の枝に株を更新する)

▲コンテナ周辺に隙間ができる。 ▲もみ殻とココピート等で培地を補充する ▲デベソ切りすると枯れ込みが入る ▲せん定時には斜めにきれいに切り取る

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収穫果数(左:4年生株、右:1年生株)

1新梢当たり収穫数

葉色(SPAD)

1新梢当たり収穫数

肥効を安定させるため、肥効調節型肥料を施用後、ココピート等で覆土するか、表土と混和して、肥料を土中に埋め込みます。

0

5

10

15

20

25

0.0

20.0

10.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

012345678910

200g 100g 50g 200g 100g 50g70日 140日

肥効調節型肥料に利用により、養液の給液装置、養液代が不要となるため、1a当たり2万円程度削減できる上、養液管理作業を減らすことができるため、コスト面、作業面で楽になります。

ポンプ

水源

電源 フィルター

タイマー水耕シート

排液モニタリングタンク

コンテナコンテナT

圧力計

新たな開発技術PART

2肥効調節型肥料を用いたコンテナ栽培(新潟県農業総合研究所園芸研究センター)

成木となった株では肥効調節型肥料で栽培することができます。

 いちじくのコンテナ栽培では培養液を用いると1年目から1コンテナ当たり1.8kgの収量が得られますが、培養液を利用する場合は装置の導入やランニングコストがかかる等の理由から導入に踏み切ることができない事例も見られます。 そこで、装置を簡略化するとともに養液管理にかかる作業を省力化するため、肥効が長期にわたる肥効調節型肥料を用いて栽培する方法を検討しました。

背景、目的

●4年生株では肥効調節型肥料70日タイプを100~200g、または140日タイプを200g施用することで、新梢伸長や葉色、着果数、果実品質も養液栽培と同程度となりました。●1年生株では肥効調節型肥料を用いると養液栽培よりも葉色が淡く、着果数が極端に少なくなるため、挿し木当年の収量は期待できません。1年目から肥効調節型肥料で栽培する場合は株養成を目的として140日タイプを200g施用して栽培し、2年目からの本格的な収穫を目指します。

研究の成果

手順

 肥効調節型肥料の溶出期間が70日と140日の2種類を用い、もみ殻を培地としたコンテナに植えた1年生株、4年生株に1コンテナ当たり50g(N量6.5g)、100g(N量13g)、200g(N量26g)を施用し、養液栽培と比較しました。

方法

P F

点滴チューブ肥効調節型肥料を用いた栽培装置の模式図 100g 50g

70日200g 100g 50g 養液

栽培 収穫果数10/20葉色(SPAD)

養液栽培140日

200g

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新たな開発技術PART 2

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植栽2年目の生育状況(5月末) コンテナ栽培いちじくの生育状況と果実(8月)

「コナドリア」を食材に用いたスイーツ(イメージ)「コナドリア」果実(秋果)

コンテナ栽培いちじく「コナドリア」(富山県農林水産総合技術センター園芸研究所果樹研究センター)

水稲育苗ハウスとコンテナによる雨除け根域制限栽培で皮ごと食べられる小粒いちじく「コナドリア」を生産。

 富山県内では、近年、地産地消の機運が高まっており、外食産業等からも県産食材の要望が大きくなっています。 特に小粒いちじく「コナドリア」は、外観が優れる、皮ごと食べられるなどの特長から司厨士会・洋菓子店等からの需要が高く、また、栽培管理が容易、結実までの樹齢が短い等から、初心者にも取り組みやすい品目として期待されています。

背景、目的

「コナドリア」果実の特徴(秋果)①糖度は15Brix%で甘く、 皮ごと食べられる。②果重は約50gで食べ切りサイズ。スイーツ等料理にも使いやすい。③果皮は鮮緑色、果肉は赤色で、コントラストがきれい。*夏果と秋果の兼用種ですが、夏果は果皮が硬く、酸味が強く、食味が劣るため、秋果を目的に生産します。

「コナドリア」果実の特徴(秋果)

① 水稲育苗ハウスの遊休期間を利用した雨除け栽培② 栽培管理が容易で、初心者でも取り組みやすい③ 挿し木による苗木の自家繁殖が可能

栽培の特徴

概評

15.9

13.3

15.6

1年目秋果

2年目夏果

2年目秋果

52.7

42.5

37.1

■ コンテナ栽培いちじく「コナドリア」果実品質(2014-15年)

収穫期

10月下旬▼

11月上旬

7月上旬▼中旬

8月中旬▼

9月上旬

挿し木年目夏/秋果

平均果重(g)

糖度(Brix%)

着果0~3個/コンテナで収量少。果皮硬く、皮ごと食べることが困難。酸味強く食味不良。成熟に至らなかった果実あり。

着果0~3個/コンテナで収量少。果皮・種子硬く、酸味強く食味不良。果実内部の色は、秋果と比べ赤黒い。

果皮軟らかく、皮ごと食べられる。食味良好。

挿し木2年目から良質な果実が収穫できる!!

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PART

3 大規模稲作経営におけるいちじく導入経営モデル

 北陸4県の農業産出額をみると、米が過半を占めてきたことがわかります。し

かし、近年の需要減少と価格の低迷により米の産出額は急速に減少しています。

一方で、園芸品目や畜産の生産額は維持または増加傾向にあり、相対的に果樹

の重要性は高いものになってきています。(統計数値についてはぶどう編参照)。

高まっている果樹の重要性

 いちじくについて試算すると、比較的労働時間にゆとりのある時期を利用して

所得の向上が期待できる経営が可能となります。

 いちじく導入による所得増大効果を試算します。稲作35ha、大豆5ha、えだま

め2haの大規模経営に桝井ドーフィン(1kg当たり500円、10a当たり1900kg)

を20aを導入したケースを想定して試算を行うと5%程度の所得増加が期待でき

ます。余剰労働を利用しての栽培であるため、農業経営全体としてはメリットが大

きいと評価できます。

 図では、稲作35ha、大豆5ha、えだまめ2ha、いちじく20aの年間の必要労働

時間を10日単位で示してあります。図の中程の横線は家族労働3人と年間雇用

6人の9人の労働時間720時間を示した線です。棒グラフがこの線より上に出る

と労働力が不足していることを示します。稲作経営で労働のピークは5月の田植

え時期、次いで7月のえだまめの収穫、9月の稲の収穫の時期となります。

 大規模稲作経営にいちじく20aを加えた場合の労働時間の分布を図に示します。

稲作経営で最も労働需要の大きい5月上旬、中旬にいちじくの主要な作業はな

いため、いちじく栽培のために稲作経営が阻害される時期はありません。いちじ

く20a程度では稲刈り時期も含めて、まだ労働時間にはゆとりのある経営が可

能です。 

所得増大効果大規模稲作+果樹の経営モデルによる

注1)大豆の所得は単収228kgの高単収を想定して試算された平成21年度の農水省の試算結果(助成金を含む)としました。1時間あたりの所得が高いのは助成金を含むためです。他は新潟県作成の経営指標を基に計算し、いちじくについては、500円/kg、単収1900kgで計算を行いました。

注2)所得・労働時間は家族労働と通年雇用の合計9人分として計算しました。

大規模稲作経営で育苗ハウスを利用したいちじく栽培をおこなうことによって農業所得の増大が期待できる。

作目10a当たり所得(万円)

労働時間計(時間)

1時間あたり所得(円)

1人当たり年間所得(万円)

35 7.7 5,086 2,695 5,2995 6.1 240 305 12,7082 13.4 1,280 268 2,0940.2 65.8 884 132 1,489

-406 -41 1,000

373農業所得・労働時間

(作物ごとの合計-臨時雇用)

米大豆えだまめいちじく

臨時雇用分(支払賃金)

作付面積(ha)

いちじく

所得(賃金)計(万円)

なし 359

あり 7,0846,200

3,3593,227

4,7425,206

農業所得の推計大規模稲作経営にいちじく20aを加えた

いちじく20a の必要労働時間稲35ha、 大豆5ha、 えだまめ2ha、

0

200

400

600

800

1000時間

上旬中旬下旬上旬中旬下旬上旬中旬下旬上旬中旬下旬上旬中旬下旬上旬中旬下旬上旬中旬下旬上旬中旬下旬上旬中旬下旬上旬中旬下旬上旬中旬下旬上旬中旬

1月 2月 3月 4月 5月

労働力不足 _ 臨時の雇用で対応

6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

下旬

労働力余剰 労働力余剰

労働力余剰

家族労働+通年雇用労働(720時間/10日)

■ いちじく

■ エダマメ

■ 大豆

■ 水稲

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大規模稲作経営におけるいちじく導入経営モデルPART 3

*労賃、光熱水費は含んでいない。**4年程度経過し、肥効調節型肥料に切り替えた場合

*光熱水費は含んでいない。

現地導入事例PART

4

 大規模稲作法人において育苗ハウスを利用したいちじくのコンテナ栽培を導入しました。 経営面積(H26時点)は水稲38ha園芸47a(うち、いちじく栽培面積:3a)であり、園芸品目として、いちご、いちじくなどを栽培しています。いちご+いちじく部門には専従者をおいています。

背景、目的

水稲育苗ハウスが有効利用できるうえに、いちじく+いちごで周年作業が可能に

 初めて導入した平成26年には5間×20間(3.3a)の育苗ハウスに331コンテナを導入しました。ハウス内に4列設置しましたが、作業性が悪く、果実への日当たりが良くなかったため、着色不良となりました。そこで27年には3列にして、列間を広げました。余ったコンテナは、もう1棟増やした育苗ハウスに、1株から4新梢出して栽培しています。 

経過

●1年目の栽培は病害の発生が見られたものの、養液栽培の収量は1コンテナ当たり1.5kgの収穫ができました。直売やお菓子屋さんへの素材提供など、いちごといちじくのリレー販売もできました。●2年目の養液栽培は1コンテナ当たり2.4kgに収量が増加しました。栽培管理の改善でさらに収量を増加させる可能性も見えました。

実証の結果

 いちじくは気温・かん水量・肥効などをどう管理したかが品質・収量に顕著に表れる作物であると感じました。品質の良いいちじくを栽培するためにはこまめに状況を確認してあげる必要があると感じました。 この技術は、水稲育苗ハウスの後利用として栽培を行い、収入を増加させることを目的とした技術ですが、採算ベースまで持っていくには初期投資を抑

え、手間をなるべく減らす等の更なる改善が必要です。まだまだ改善する余地は多く残されていると感じます。他品種も試験中ですが可能性があり、今後の展開が期待できる技術であると思います。

●いちじくの養液コンテナ栽培を、5.4×18m水稲育苗ハウスで設置する場合に必要な経費は以下のとおりです。

●導入した年から収量が得られ、2年目以降は成園となり、収量は安定します。生産原価は出荷量が増えることにより資材費が増加しますが、導入した年からほぼ変わらないため、安定した利益が得られます。●地域に産地がない場合は個人で販売チャネルを探す必要があります。導入に合わせて販売の目途をたてておきましょう。

大規模稲作法人でいちじく導入(有)安田興和農事

あっという間に大きくなって…あっという間に大きくなって…

経営指標

■ 導入経費(5.4×18mハウス 2列66コンテナの場合)

■ 導入後の経営試算(5.4×18mハウス 2列66コンテナの場合)

架台(簡易架台)

誘引線

給液装置

育苗・定植*

18,174

27,443

99,182

49,290

194,089合計

経費 主な器具、部品等

ブロック、角スタッド、水耕シート、水栓ソケット、バルブソケット、ゴムパッキン、塩ビ管他

足場管、ワイヤー、ターンバックル、ワイヤークリップ、アンカー他

ポンプ、ローリータンク、ディスクフィルター、ボールタップ、圧力計他

コンテナ、鹿沼土、ココピート、ポット、温床線、農電サーモ、液肥等

収量(㎏)粗収入

生産原価

11959,500

23,894肥料費

所得 20,540 57,999 77,331

1年目 2年目以降

19899,000

25,006

4年目以降**

19899,000

5,674

農薬費

販売単価(500円/kg)

殺虫剤(ハダニ類、アザミウマ類)

12,100 12,100 12,1002,966 3,895 3,895

資材費 ダブルマルチ、点滴チューブ

タンクミックスF&B、IB化成S1号、エコロングトータル