CEDEC2015: ゲーム開発者教育の国際動向と実践報告

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ゲーム開発者教育の国際動向と 実践報告 山根 信二 岡山理科大 情報科学科 教員 (2014-) IGDA日本 理事 Higher Education Video Game Alliance 会員 827() 16:30-17:00

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ゲーム開発者教育の国際動向と実践報告

山根 信二岡山理科大 情報科学科 教員 (2014-)

IGDA日本 理事Higher Education Video Game Alliance 会員

8月27日(木) 16:30-17:00

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本セッションの内容● 高度化するゲーム人材育成と日本の立ち位置● 教員個人では網羅できない体系的な学問としてのゲーム教

育● 国際標準カリキュラムの利用

● ※本日発表する内容は,昨年度の一部の新設科目の内容です.カリキュラム全体や組織としての評価ではありません【追記: CEDEC2015後に本発表者が大学の旗振り役であると報道されましたが、教育プログラムの開発は組織全体の長期にわたる取組であり、発表者はその取組に2014年から新設科目の担当として加わったに過ぎません。】

● 学校・企業研修でのゲーム人材育成や,海外でのゲーム教育についての参考に

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国家事業になったゲーム開発者育成

● 国をあげてのゲーム開発者育成への期待– GDC2010式典でファーストレディーからシリアスゲー

ム開発呼びかけメッセージ– オバマ大統領 Hour of Code 演説 (2014)

「Don't just buy a new video game, make one.」

– 産学官によるホワイトハウスゲームジャム (2014)● ゲームを消費するだけではなくうみだす新世代へ

の期待● 各有名大学も卒業生のゲーム開発者をアピール● 一方,日本は: →日本特殊論の登場

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日本特殊論の登場(10年前~)● 「日本にはコンピュータゲームを学ぶ大学院が

ない」● 「日本には世界のどことも異なるゲーム開発者

教育が行われているようだ」● 「クリエイティブな作業を教えず既存タイトルを

真似しようとする」● 「大学でゲームを研究してるのに、なぜ国際学

会で発表しないのか?」● 「日本はゲーム開発の優位性を保つために,

英語論文を書かせないのでは? (真顔)」

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日本特殊論を越えて ● 専門学校だけではない日本のゲーム開発者育成● ゲーム産業のイノベーターの多くは大学出身

– 宮本茂(工業デザイン専攻)・鈴木裕(CAD研究)・岩田聡(手書き文字認識研究) etc.

● イノベーターを輩出しているのにロールモデルだとみていなかった国内大学– 東工大が岩田聡氏を追悼「本学の卒業生としては異色

の経歴の持ち主でした」←微妙– 海外だったら「我が大学の教育を受けた者は、新たな産

業でも活躍できる」とアピールしていたのでは?● 日本で海外大学レベルの本格的なゲーム開発者教

育を実施してみた→

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情報科学での試み

● 地方大学の情報科学科に,ゲーム技術を学ぶコースを新設する※ 岡山理科大学は東京理科大学とは関係ありません

● 本気度チェックポイント:

1.学位プログラムとしてのデザイン

2.カリキュラムフレームワークの活用

3.新規科目を設置し学習計画,教材を開発

情報科学科の話ですが,他学部にも応用可能

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新コースのデザイン ● 大学と専門学校との違い: 学位を授与・大学院へ接続

● 学位授与の方針(ディグリーポリシー)にゲーム技術を明記– オールドスクール「必修科目を邪魔せずに放課後にやってね」– ニュースクール 「ゲーム技術学ばないと卒業できないからね」– 国内の大学では初の事例 (当方調べ)

● 成績等にもとづいて3年進級時にコースを選択

● 国際学会(IEEE-CS, ACM)でのゲーム開発者教育に配慮– 情報科学の学位プログラムにゲームデザイン等を追加,ただし教

育の質を下げては意味がない● 開発者リスペクトと卒業生ロールモデル● 「IGDAゲーム開発者カリキュラムフレームワーク」活用→

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なぜカリキュラムフレームワーク?● 「IGDAゲーム開発者カリキュラムフレームワーク」とは

– 単一カリキュラムではなく,カリキュラムの集成– すべての職種で学ぶべきコアカリキュラムを策定– 最低限のコアだけでなく,先鋭的な実施例も紹介

● メリット: 用語の統一で「車輪の再発明」を避ける– たとえば「ナラティブ」は大学発の概念。

大学教科書~GDC学生コンペ~GDCサミットへと広がった● GDC Narrative Review Competition (2008-)

http://www.gdcvault.com/gamenarrativereview

– 日本では大学教科書が普及しなかったために新語と誤解される● メリット: 体系知のチェック

– 「CESA技術開発ロードマップ」と同様に不足した知識をマッピング

● 大学では幅広い分野で通用するコアの知識を教えたい

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教員の問題: 誰が教えるのか

● 「ゲーム開発のプロ」と「教育のプロ」との協働作業● プロのゲーム開発者が複数年の教育プログラム設計を率いた例は少ない(ブレンダ・ロメロのフルブライト海外派遣など)

● 英語教科書(後述)を活用できる人材が少ない● 学術的な(論文になる)ゲーム研究をゲーム産業と

つなげられる研究者はもっと少ない● 「ゲームデザイン」担当教員はゲームジャムでゲーム

開発の全工程を経験して授業に持ち帰っている– ゲームジャムでもプロとの協働経験を積める– 先週末(8/22-23)も福島ゲームジャム岡山会場を開設

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学習デザイン

● ゲーム開発をとりいれるために新規科目「ゲーム概論」「ゲームアルゴリズム」「ゲームデザイン」を追加

● カリキュラムフレームワークで追加すべき学習項目を洗い出し,新科目を開発する

● 新設科目「ゲームデザイン」で体系的な知識をカバーする (情報科学科2年生 約70名が受講)

● 【チャレンジ】ゲームデザインの英語大学教科書を使う– 日本語教科書(当時)では知識体系のコア領域をカバーで

きず,学術研究への視点も薄い– ただし講義は日本語で

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教材設計と学習計画● The Art of Game Design 「レンズの書」を採用

– 著者は,複数組織で異なるポジションを経験したあとにカーネギーメロン大学に招聘された教育専門の大学教員

● 教科書採用の決め手: 体系的記述,学術研究への発展, 情報科学の知識を活用

● 洋書は教科書指定できないので,毎週2-3章から必要範囲をプリントで配布

● eラーニングで学習サポート– 日本語スライドと電子掲示板を提供– 現役ゲームデザイナ・ゲーム研究者も学外からネット参加– 専門家の関心も高いことを学生も意識

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新設科目の評価

カリキュラムはまだ完成していませんが,本セッション後半では新設科目「ゲームデザイン」初年度を担当教員の視点で評価します.

● 英語教科書チャレンジの効果● 扱うことができた情報科学の学習項目● 扱わなかった学習項目

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英語教科書についての反応 (1)● 予習復習すればテキスト内容はほぼ理解でき

る: (6.67%)● ソフトウェアに関係する文章は理解できるが、そ

れ以外は難しい: (0%)● ゲームに関する文章は理解できるが、それ以外

は難しい: (20.00 %)● 予習復習の時間が足りずテキストの内容を理解できない: (40.00 %)

● 英語がまったく理解できない: (50.00%)

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英語教科書についての反応 (2)● 英語が壊滅的にもかかわらず,学生からの授業評価

アンケート結果は評価が高かった– ゲームならば英語教科書でも低評価にならない?

(要追試)– 試験では英語の出題を控え,出題範囲を日本語スライド

に限定した– 英語教科書から出題していれば評価は下がったかも(要

追試)● 教科書をほぼ理解できる学生も少数ながら存在する

– 彼らを中心としたグループ学習も考えられる– ただし教科書の予習量が多いので、範囲を厳選する必要

がある

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ゲームデザインで科学を学ぶ(1)● 扱うことができた学習項目の例

– 基本的概念(オブジェクト,関数空間, etc.)

– 情報デザイン(ユーザ中心デザイン,UI,UX等)

– ソフトウェア工学(UMLユースケース図,ウォーターフォールモデルとスパイラルモデル)

– クライアントのききとり,ユーザテスト– 専門家の社会的責任 (→後述)

● ゲーム開発で従来の学習項目を扱うことも可能● 情報科学の質を確保するために,さらに学位プ

ログラム全体の学習項目の見直しを行っていく

「この学習目標,ゲーム開発で学べます!」

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ゲームデザインで科学を学ぶ(2)● きちんと扱わなかった項目もある

– 英語教科書28章:ピッチ(投資家へのプレゼン)

● これは全職種共通のコア領域なのか? →簡略化しよう!だがしかし...

● 地元在住のゲーム開発者(NIGORO)がクラウドファンディングKickstarterで資金調達に成功!

● 卒業生がKickstarterで新記録を達成!!The fate of Shenmue is in your hands now!

● 「これは日本では必要ない」という判断は慎重に

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ゲームデザインで科学を学ぶ(3)● あえて扱った学習項目:

ゲームデザインの社会的責任: 価値観,依存

● ゲーム開発者カリキュラムのコア領域ではない.

だが,情報科学ではコア領域に含まれる.● ゲームデザインの倫理的問題を扱うことで,従来の

専門教育にないホットな問題を加えることができた– 例: 依存性の高いシステム開発を命じられたらどうす

る?

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ここまでのまとめ

● 既存タイトルの真似ではなく体系的に学ぶ視点● カリキュラムフレームワークで未整備の領域をチェック● 職業訓練ではなく,どの職種でも通用するコアスキル

を重視● ディグリーポリシーとして明文化 (組織として共有)● 従来の学問を削らずに,ゲーム開発を通じた新しい学

びを積み上げる● 【評価者募集】 本発表は新科目だけの評価だが,今

後はカリキュラム全体について第三者評価,相互評価を行い共有したい

● 今後の課題:

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今後の課題

● IGDAゲーム開発者カリキュラムフレームワークは,昨年度から改訂作業がはじまっています

● 最低限のコアスキルを重視したが、突き抜けたスキルを持つ人材育成については今後の課題– ジェネラリスト育成からスーパージェネラリスト育成へ

向かう海外先進校(8/27 VAセッション北田「帰国して感じたこと」でも出た話題です)

● フレームワークにもとづくゲーム開発教育は、大学教育レベルだけでなく,米国中学高校レベルにも広がりはじめている→

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こども向けフレームワークの登場● 昨年度末にホワイトハウス発表

– ゲームエンジンUnityを中学高校の授業で使うための手引きを教師に配布

● 教育用ツールではなく,本物のツールで学ぶ時代の再来● ゲーム開発モデルコースを複数のスキル標準で位置づけ

– Common Core (全米共通学力基準)

– Next Gen Science Standards (新理科教育基準)

– 21st Century Skills (21世紀スキル)

– STEM Career Cluster (高校卒業後に求められる進路別の理数工学教育基準)

● フレームワーク活用例: 「我が中学校でも21世紀スキルを教えよう」→「それゲーム開発入門の第●回で学べます」

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謝辞

● 本発表の一部は,科研費(26560128)「ソーシャルコミュニティデザイナ人材育成プログラムの開発と評価」(代表: 山根)に基づいています.

● 本発表はIGDA日本主催「GDC報告会」および情報処理学会「情報教育シンポジウム2015」 (http://id.nii.ac.jp/1001/00144696/)での発表と重複する部分があります.