統計数理研究所 · 統計基礎数理グループ 統計科学の基礎理論および数理的根拠に裏打ちされた統計的方法の系統的開発の研究を進めます。特に、データから
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まえがき
みなさんは統計物理学 Iから IIIまでの学習をしてきました.統計物理学 Iでは熱力学の概要と統計力学の出発点となるミクロカノニカル分布を,統計物理学 IIではカノニカル分布やグランドカノニカル分布とそのさまざまな系への応用を,統計物理学 IIIでは量子統計と相転移現象を学んだはずです.最近,統計物理学 IIIを必修から選択に変えることが決まったので,その実施と共に内容の変更があると思います.必修の内容は削減されても,名古屋大学物理教室としては,大学院進学者に対しては現在の統計 IIIまでの内容の習得を求めています.さて統計物理学 IVで何を学ぶかですが,まず統計力学の基本的なことを少し高い立場から復習しまとめます.最近の発展についても少し勉強して紹介するつもりですので,自分の統計力学への理解を反省し深める機会としてください.次に物質の構造を解明する手段としての基本的なこと,また物質構造にはどんなものがあるかなどを学びます.物質構造の代表的なものは気体,液体,固体ですが,近年,統計物理学の対象はこの三つに入らないガラス,液晶や,非一様な構造を持ったフラクタル,高分子,生体超分子など,さまざまなものに広がっています.これらのいくつかを紹介するつもりですが,生体まではとてもできません.いろいろな物質の状態間の移り変わりである相転移は,伝統的に統計力学の対象として最も詳しく調べられているものですが,簡単に触れるにとどめます.相転移の進行過程にも関係する平衡状態から外れた非平衡系の問題は,発展途上の面白い問題ですが,平衡状態の統計力学のような一般的な定式化はありません.この講義では,ほぼ平衡統計力学の枠内で扱える線形応答の話と,ブラウン運動やゆらぎの話を紹介します.短い期間で広い範囲を覆うので,講義でこのノートの内容を全部やれるかどうかもわかりませんし,かなり中途半端なものにならざるを得ませんが,これから専門的なことに進んでいくためのガイドブックとしてください.
参考書: この講義ノートを準備するさいに参照した教科書的なもののなかから,いくつかを参考書としてあげておきます.
• L. D. ランダウ,E. M. リフシッツ,「統計物理学」第 2版 (岩波, 東京, 1980).
• 北原和夫,吉川研一, 「非平衡系の科学 I」(講談社, 東京, 1994).
• 早川尚男「非平衡統計力学」数理科学,別冊,2007年 3月 (サイエンス社)
• R. P. Feynman, ‘Statistical mechanics’, (Benjamin, Reading, 1972).
• D. Chandler ‘Introduction to modern statistical mechanics’ (Oxford, London, 1987)
• P. M. Chaikin and T. C. Lubensky, ‘Principles of condensed matter physics’, (Cam-bridge, Cambridge, 1995).
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目 次
第 1章 密度行列と統計力学 1
1.1 密度行列による部分系の記述 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
1.2 熱平衡状態の密度行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
1.3 統計力学についての基礎的事項の補足 . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
1.4 統計力学のまとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
第 2章 構造因子と相関関数 15
2.1 散乱実験と構造因子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
2.2 密度相関関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
2.3 数学的補足: 汎関数とその微分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
2.4 古典系における相関関数の統計力学的表式 . . . . . . . . . . . . . . . 21
第 3章 物質の構造 25
3.1 気体と液体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
3.2 固体 (結晶) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29
3.3 液晶とガラス . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32
3.4 一様でない物質—フラクタル,鎖状高分子— . . . . . . . . . . . . . . 33
第 4章 相転移と秩序状態 41
4.1 磁性体の相転移 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41
4.2 相転移の現象論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 48
第 5章 非平衡系 51
5.1 線形応答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 51
5.2 Brown運動とゆらぎ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58
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第1章 密度行列と統計力学
最初に統計力学の基礎的な事項を復習する.この講義では統計的特徴を強調したいので量子系はあまり扱わないが,基礎付けはできるだけ量子力学を使うべきであろう.そこで密度行列を使った系の記述法を説明し,統計力学の内容を密度行列で表現する.こうしておけば量子系への応用も自然に行え,いろいろな式の簡潔な表現にも威力を発揮する.
1.1 密度行列による部分系の記述系の状態は波動関数で記述されるが,われわれの持つ情報が限られていること,対象となる系が必ず環境の影響をを受けていることなどを考えると,もっと一般性を持った密度行列による記述が便利である.
[密度行列]
全系の状態が波動関数Ψ(x, q)で記述されるとき,その一部の座標 xで記述される部分系のみに注目する.この系の物理量Aの期待値は,部分系以外の情報に目をつむれば1
⟨A⟩ =∫ ∫
Ψ∗(x, q)A(x)Ψ(x, q)dx dq (1.1)
である.全系の波動関数から注目する部分系の密度行列 (density matrix)を次のように定義する:
ρ(x′, x) =∫
Ψ∗(x′, q)Ψ(x, q)dq. (1.2)
ρ(x′, x)はエルミートである:
ρ∗(x, x′) = ρ(x′, x). (1.3)
密度行列を使うとAの期待値は
⟨A⟩ =∫
A(x)ρ(x′, x)|x′=xdx (1.4)
と表せる.ただしこの式で x′ = xとするのは演算子を作用させたあとからである.系の xについての確率分布は
ρ(x, x) =∫|Ψ(x, q)|2dq (1.5)
で与えられる.1演算子であることを明示したいときには帽子をかぶせる.
1
[完全系での表示]
上と同じことを部分系と残りの系の完全系,|ψi⟩と |ϕi⟩を使って表す.全系の波動関数は
|Ψ⟩ =∑
i
∑j
cij|ψi⟩|ϕj⟩ (1.6)
となり,この部分系に関する物理量Aの期待値は
⟨Ψ|A|Ψ⟩ =∑
i
∑j
∑k
∑l
c∗ijckl⟨ψi|A|ψk⟩⟨ϕj|ϕl⟩
=∑
i
∑k
⟨ψi|A|ψk⟩∑j
c∗ijckj
≡∑
i
∑k
⟨ψi|A|ψk⟩ρki (1.7)
である.ここで定義された ρkiはエルミートである:
ρ∗ki =
∑j
cijc∗kj = ρik. (1.8)
ρkiを使って,系の状態を指定する密度行列の演算子が定義できる:
ρ ≡∑
i
∑k
|ψk⟩ρki⟨ψi|. (1.9)
密度行列の行列要素は⟨ψk|ρ|ψi⟩ = ρki (1.10)
である.Aの期待値は (1.7)式から
⟨Ψ|A|Ψ⟩ =∑
i
∑k
⟨ψi|A|ψk⟩⟨ψk|ρ|ψi⟩
=∑
i
⟨ψi|Aρ|ψi⟩
= TrS ρA ⇒ Tr ρA (1.11)
と部分系 Sについての対角和の形に書ける.簡単のため以下とくに明示する必要のない場合は単に「Tr」と書く.対角和は完全系の選び方によらない.
[密度行列の意味]
ρはエルミートだから対角化できる.
ρ =∑j
|j⟩wj⟨j|. (1.12)
演算子 Aとして状態 |i⟩への射影演算子 Pi = |i⟩⟨i|をとると,
Tr ρA = wi. (1.13)
他方これは
⟨Ψ|Pi|Ψ⟩ =∑j
⟨Ψ|i⟩|ϕj⟩⟨ϕj|⟨i|Ψ⟩
=∑j
|⟨ϕj|⟨i|Ψ⟩|2 ≥ 0 (1.14)
2
とも書けるのでwi ≥ 0である.さらに∑i
wi = Tr ρ =∑
i
∑j
cijc∗ij =
∑j
|cij|2 = ⟨Ψ|Ψ⟩ = 1 (1.15)
である.以上のようにwjは非負であり,和が 1なので,状態 |j⟩にある確率と解釈できる.ひとつの wiが 1で,他は零のとき純粋状態,それ以外の場合を混合状態と呼ぶ.
ρが純粋状態であるための必要十分条件は
ρ2 = ρ (1.16)
である.今の場合,全系を密度行列の形で表せば |Ψ⟩⟨Ψ| ≡ PΨであり,部分系の密度行列は
ρ = TrB PΨ =∑j
⟨ϕj|Ψ⟩⟨Ψ|ϕj⟩ (1.17)
と書ける.ただしTrBは系の残りの部分についての対角和を表す.
[問題](1.16)式が ρが純粋状態であるための必要十分条件であることを示せ.
部分系の状態は密度行列ρ =
∑j
wj|j⟩⟨j|
で記述できる.このとき wjは状態 |j⟩にある確率と解釈できる.物理量Aの期待値は
⟨A⟩ = TrρA =∑j
wj⟨j|A|j⟩
と表される.
[時間発展]
t = 0での密度行列が ρ(0) =∑
j wj|j(0)⟩⟨j(0)|とし,t ≥ 0で系が孤立していたとすると
ρ(t) =∑j
wj|j(t)⟩⟨j(t)| (1.18)
と書ける.ここで |j(t)⟩は
|j(t)⟩ = e−iHt/h|j(0)⟩ (1.19)
である.よって密度行列の時間変化は
ρ(t) =∑j
wje−iHt/h|j(0)⟩⟨j(0)|eiHt/h = e−iHt/hρ(0)eiHt/h (1.20)
これを微分して密度行列に対する運動方程式が得られる.
˙ρ = − i
h(Hρ − ρH) (1.21)
この式は von Neumann方程式と呼ばれる.Heisenbergの運動方程式
˙A =
i
h(HA − AH) (1.22)
とは符号が逆であることに注意しよう.
3
1.2 熱平衡状態の密度行列密度行列を使うとカノニカル分布などの熱平衡状態を簡潔に記述することができる.
[熱平衡分布: 小正準分布]
熱平衡状態では系は定常であるから平衡状態を表す密度行列 (統計演算子とも呼ぶ)を ρeqとすれば,これは時間変化しない:
˙ρeq = 0, (1.23)
つまり
Hρeq − ρeqH = 0 (1.24)
で, ˙ρeqと Hは可換である.よってエネルギーの固有関数 H|j⟩ = Ej|j⟩で表示すれば ρeqは対角的
ρeq =∑j
wj|j⟩⟨j| (1.25)
でさえあれば,分布wjは全く何でもよい.よく使われるのは,ミクロカノニカル分布 (小正準分布/集団,microcanonical dis-
tribution/ensemble)で,エネルギーが決定できる精度の範囲にある状態はすべて等確率で実現すると考える.すると全系の密度行列は,十分小さい∆Eをとって
ρmicro =1
Ω(E, ∆E)
∑E≤Ej≤E+∆E
|j⟩⟨j| (1.26)
ここでΩ(E, ∆E)はエネルギーの区間 [E,E +∆E]にある固有状態数である.エネルギー準位の分布がなめらかならば,状態密度 (density of states)D(E) = Ω(E, ∆E)/∆E
を使って
wj → w(E) =
1
D(E)∆EE < E ≤ E + ∆E
0 others
(1.27)
と書いてもよい.状態密度は形式的に書けば
D(E) = Tr δ(E − H) (1.28)
である (任意の区間 [E,E+∆E]で積分すればΩ(E, ∆E)となる).理想化して∆E → 0
とすれば,(1.27)式は
ρmicro =δ(E − H)
D(E)(1.29)
と書いてもよい.ミクロカノニカル分布は,平衡状態の系の様子が微視的にどういう状態にあるかよく分からないから,可能な微視的状態を同じ重みで入れておこう
4
という考え方である.これを統計力学の前提として採用するときには,等重率の原理 (principle of equal probability)と呼ばれる.
[熱平衡分布: 正準分布]
カノニカル分布 (正準分布/集団,canonical distribution/ensemble)では
wj =e−βEj∑j e−βEj
(1.30)
ととる.したがって統計演算子は
ρcan =
∑j e−βEj |j⟩⟨j|∑
j e−βEj=
e−βH
Tr e−βH(1.31)
と表せる.この式の分母は分配関数 (partition function)と呼ばれる:
Z(T, V,N) = Tr e−βH
=∑j
e−βEj
=∫
dE∑j
δ(E − Ej)e−βE
=∫
dE D(E)e−βE. (1.32)
これからHelmholtz自由エネルギーが計算できる:
F = −kBT ln(Tr e−βH
). (1.33)
同種粒子の古典系では対角和に当たる演算は位相空間での積分で表され
Z(T, V,N) =1
N !
∫ d3Np d3Nq
(2πh)3Ne−βH(p,q) (1.34)
である.同種粒子が区別できないため (これは量子力学効果)因子 1/N !が付けられている.
代表的な熱平衡分布であるミクロカノニカル分布とカノニカル分布は,それぞれ
ρmicro =1
Ω(E, ∆E)
∑E≤Ej≤E+∆E
|j⟩⟨j| (1.35)
ρcan =
∑j e−βEj |j⟩⟨j|∑
j e−βEj(1.36)
という密度行列で表される.
5
[Bloch方程式]
規格化していないカノニカル分布の密度行列 ρ = e−βHをエネルギーの固有関数で表示すると
⟨i|ρ|j⟩ = ρij = δije−βEi (1.37)
これを βで微分すると
dρij
dβ= −δijEie
−βEi = −Eiρij (1.38)
つまり演算子の形に戻せば
dρ
dβ= −Hρ (1.39)
これをBloch方程式と呼ぶ.この方程式を,温度無限大ですべての状態が等確率で実現されるという条件,ρ(0) = 1,で解けば ρ(β)が求められる.Schrodinger方程式
ih∂ψ
∂t= Hψ (1.40)
と比べて
t ↔ −ihβ (1.41)
との対応があることに注意しよう.
[エントロピー]
エントロピー演算子を
S = −kB ln ρ (1.42)
と定義することができる.関数形として対数を選んだ理由は,系 Sが S1と S2の二つに分けられるとしたとき,エントロピーは熱力学から双方の和 S = S1 + S2となり,状態数は双方の積W = W1W2となるからである.エントロピーの相加性からは,このほかに同種粒子の不可分別性も結論される (いわゆるGibbsのパラドクス).(1.42)式の統計演算子 ρでの期待値は
⟨S⟩ = −kBTr (ρ ln ρ) (1.43)
純粋状態では ⟨S⟩ = 0である.ミクロカノニカル分布では
S = ⟨S⟩ = −kB
∑E≤Ej≤E+∆E
1
Ω(E, ∆E)ln
1
Ω(E, ∆E)= kB ln Ω(E, ∆E) (1.44)
である.ここでΩ(E, ∆E)は区間 [E,E + ∆E]に含まれる状態数である.カノニカル分布では ln ρcan = −βH − ln(Tr e−βH) だから
−kBTr (ρcan ln ρcan) = kBTr (e−βHβH)
Tr e−βH+ kB
Tr e−βH
Tr e−βHln (Tr e−βH)
=⟨H⟩ − F
T(1.45)
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となって熱力学の定義と一致する.ただし密度行列が系のハミルトニアンにしたがって時間発展すれば,どんな密度行列のエントロピーも時間的に一定である.エントロピーが増大するためには,系のハミルトニアンによる自然な時間発展以外のものが必要である.
[問題] ρ(t) = e−iHt/hρ(0)eiHt/hのとき d⟨S⟩/dt = 0を示せ.
1.3 統計力学についての基礎的事項の補足統計力学の基礎的なことに関連していくつかの議論を行う.またその中で,統計力学の基礎についての最近の研究についても紹介する.
[統計力学の対象について]
物理学のひとつの目標としては,ある系の構成要素とその相互作用 (つまり系のハミルトニアン)と初期状態Ψ(x, t = 0)を知って,その後の物理量の時間発展を予言することだが,ハミルトニアンはともかく,初期状態については,一般にきわめてわずかな情報しかない.このようなとき,系の平衡状態については統計力学が相当のことを教えてくれる.統計力学の対象となるのは,多数個の少数種粒子からなる一様な系である.系が一様でなく複数の相が存在することもあるが,そのときでも一様な相と界面に分けられることがほとんどである.少なくとも平衡状態に関する限り,まず一様な相を考えればよい.それは大きな系で,典型的にはAvogadro
数NA個程度の粒子をふくむ.系が大きいことは平均量が確定的な意味を持つために必要だが,そのためには,ほんとうはNA個もの数は必要ない.分子動力学シミュレーションでは 1000個もの粒子があればおおよその巨視的な性質は出てくるから,ナノスケールの系でも巨視的とみなしてもよい.(ただしこのサイズの系では,ゆらぎを無視することはできないことを頭に入れておかねばならない.) すると,日常的な意味での巨視的な系には,膨大な数のそれ自身巨視的なナノスケールの系が含まれている.カノニカル分布のような扱いも,そもそも対象が大きな一様系の一部分を扱っていと理解すれば,自然に受け入れられる.日常的な意味で巨視的な物体は,それ自身カノニカルアンサンブルを体現していると見なせる.対象となる粒子が種類が少ない点も重要である.しかも同種類と言うことの量子論的意味は,リンゴの種類というような意味ではなく,全く不可分別的であることも強調されねばならない.それはエントロピーの相加性を保証するために,古典統計の分配関数に 1/N !の因子が必要であったことにも表れている.伝統的に統計力学を適用する対象は,簡単な単位 (粒子)からなる物質の莫大な数の集合体の平衡状態であった.ここからの発展として,平衡状態から外れたときの系の発展,とくに結晶化のような構造形成の問題,また,ゆらぎが重要になるミクロとマクロの狭間の問題などがある.さらに生物体のように複雑な構造を持った対象をどう扱うはこれからの重要な問題であろう.生物体までいかなくても,蛋白質や高分子のような複雑な構成単位をどう扱うかという問題は物理学の対象として長い歴史と新たな発展がある.一例を挙げれば,DNAを使ったさまざまな構造の分子を自由に設計,合成し,それを単位にした結晶構造を作ったりもできるようになっている.これらの例から分かるように,巨視的な対象と微視的な対象がかけ離れたものではなく,連続的につながるようになってきている.統計物理の対象も大きく
7
広がっているのである.
[カノニカル分布の裏づけ]
注目する部分系Sと熱浴Bが弱く相互作用しているとする.全系のハミルトニアンは
H = HS + HB + Hint. (1.46)
ここで系と熱浴の相互作用が無視できるとしよう (ほんとうに相互作用がなければ熱平衡になれないが).全系の状態はSの状態を表すHilbert空間とBの状態を表すHilbert空間の直積で表され
H|Ψk⟩ = (HS + HB)|ψi⟩|ϕj⟩ = (ESi + EB
j )|ψi⟩|ϕj⟩ = Ek|Ψk⟩ (1.47)
である.ここで |ψi⟩と |ϕi⟩はHS|ψi⟩ = ESi |ψi⟩とHB|ϕj⟩ = EB
j |ϕj⟩を満たす系 Sと熱浴Bの固有状態で,Ek = ES
i + EBj ,|Ψk⟩ ≡ |ψi⟩|ϕj⟩である.全系がミクロカノ
ニカル分布で記述されるとしよう.つまり,全系の密度行列は,十分小さい∆Eをとって
ρE,∆E =1
Ω(E, ∆E)
∑E≤Ek≤E+∆E
|Ψk⟩⟨Ψk|. (1.48)
である.ここでΩ(E, ∆E)は [E,E + ∆E]にある固有状態数である.熱浴について対角和をとると
ρS = TrB ρE,∆E
=1
Ω(E, ∆E)
∑E≤Ek≤E+∆E
∑l
⟨ϕl|Ψk⟩⟨Ψk|ϕl⟩
=1
Ω(E, ∆E)
∑l
∑i
∑E−ES
i ≤EBj ≤E+∆E−ES
i
⟨ϕl|ϕj⟩|ψi⟩⟨ψi|⟨ϕj|ϕl⟩
=1
Ω(E, ∆E)
∑i
|ψi⟩⟨ψi|∑
E−ESi ≤EB
j ≤E+∆E−ESi
=1
Ω(E, ∆E)
∑i
ΩB(E − ESi , ∆E)|ψi⟩⟨ψi|. (1.49)
となる.状態数とエントロピーの関係 S(E) = kB ln Ω(E, ∆E)から
ΩB(E − ESi , ∆E) = eSB(E−ES
i )/kB
≈ exp
[1
kB
(SB(E) − dSB(E)
dEES
i
)]= eSB(E)/kB−βES
i ∝ e−βESi (1.50)
が得られる.ここで ESi ≪ Eの条件を使い SB(E)を展開した.規格化条件を考慮
して
ρS ≈∑
i e−βEi|ψi⟩⟨ψi|∑
i e−βEi
=e−βHS
Tr e−βHS(1.51)
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と,部分系の密度行列がカノニカル分布で近似できることが示される.全系に対しミクロカノニカル分布 (1.48)式を仮定したが,代わりにそのエネルギー範囲にはいるエネルギー固有状態で作られたひとつの波動関数 |Ψ⟩を考えよう:
|Ψ⟩ =∑
E≤Ek≤E+∆E
ck|Ψk⟩. (1.52)
ただし先に定義したように,H|Ψk⟩ = Ek|Ψk⟩で,規格化のため∑|ck|2 = 1 (1.53)
である.(1.53)式を満たす ck空間の球の上で一様な係数の分布をとったいろいろな波動関数 |Ψ⟩を加え合わせるとミクロカノニカル分布 ρE,∆Eと同等なことが知られている.さてこのようにして作られた全系のひとつの純粋状態を表す波動関数 (1.52)
から,熱浴について対角和をとって密度行列
ρS = TrB |Ψ⟩⟨Ψ| (1.54)
を作っても,確実にカノニカル分布で近似できることが示されている2.
上の話で気になる点は,系と熱浴の熱平衡を作り出す相互作用が無視されていることである.相互作用が十分弱く,そのエネルギー ⟨Hint⟩が系の準位間隔より十分小さければ (ただし全系の準位間隔よりははるかに大きい),全系が一つの波動関数で表される純粋状態にあっても,その部分系の状態はカノニカル分布で記述できることも示されている3.議論のあらましは次のようなものである.部分系 Sより熱浴Bははるかに大きいので,Sの準位間隔はBの準位間隔よりはるかに大きい:δES ≫ δEB. 相互作用エネルギー Eintはこの中間の大きさをとると仮定しよう: δES ≫ Eint ≫ δEB, 全系はHの固有状態 |Ψk⟩にあるとする: H|Ψk⟩ = Ek|Ψk⟩. この波動関数を SとBの完全形を使って展開し,
|Ψk⟩ =∑
i
∑j
cij |ψi⟩|ϕi⟩ (1.55)
と書く.係数 cij は次の条件を満たすだろう:
cij ≈ 0 for |Ek − (ESi + EB
j )| ≫ Eint. (1.56)
|Ek − (ESi + EB
j )| <≈ Eintの i,jに対する係数 cij は有限の値をとりうるが,それらが同じ程度の大きさであると仮定する.
cij ≈ const. for |Ek − (ESi + EB
j )| <≈ Eint (1.57)
すると系が状態 |ψi⟩にある確率は
|⟨ψi|Ψk⟩|2 =∑
j |cij |2∑i
∑j |cij |2
≈
∑Ek−ES
i −Eint≤EBj <Ek−ES
i +Eint∑i
∑Ek−ES
i −Eint≤EBj <Ek−ES
i +Eint
=ΩB(E − ES
i − Eint, 2Eint)∑i ΩB(E − ES
i − Eint, 2Eint)(1.58)
2S. Goldstein, J. L. Lebowitz, R. Tumulka and N. Zangh, Phys. Rev. Lett 96, 050403 (2006).3H. Tasaki, Phys. Rev. Lett 80, 1373 (1998).
9
である.これは (1.49)式の係数と同様の形である.その結果,前と同じように
|⟨ψi|Ψk⟩|2 ≈ e−β(Ek)ESi∑
i e−β(Ek)ES
i
(1.59)
となって,全系が純粋状態 |Ψk⟩にあるとき,系の密度行列はカノニカル分布で近似できる.
[熱力学の第 2法則: 量子論]
統計力学から熱力学の法則,たとえば第 2法則を導くことはなかなか困難である.しかし,それと密接につながる関係が導かれている4.パラメタをふくむハミルトニアン H(λ)で記述される系を考えよう.このパラメタは外部からの系に対する力学的な操作を表していて,λ = 0が初期 t = tiのハミルトニアン,λ = 1が最後 t = tfの状態を表すハミルトニアンである.各パラメタ値におけるハミルトニアンの固有値と固有状態は
Hλ|ψλi ⟩ = Eλ
i |ψλi ⟩ (1.60)
で決定され,Eλi ≤ Eλ
i+1となるよう番号を付ける.パラメタの変化が遅い極限では固有状態は連続的に変わり,ある固有状態の系は同じ番号 iの状態 |ψλ
i ⟩にとどまる (量子力学における断熱変化: adiabatic change).初期分布が
ρ(0) =∑
i
|ψλ=0i ⟩wi⟨ψλ=0
i | (1.61)
で与えられるとするとwiは最後まで不変にとどまる.初期状態がカノニカル分布ならば wi = e−βEλ=0
i /Zλ=0である.λの変化を有限の速度で行ったとき,初めの固有状態が時間発展した状態を |ψi(t)⟩としよう.この状態は Schrodinger方程式
ih∂
∂t|ψi(t)⟩ = Hλ(t)|ψi(t)⟩ (1.62)
に従う.密度行列は
ρ(t) =∑
i
|ψi(t)⟩wi⟨ψi(t)| (1.63)
であるが,λの変化のさせ方によって途中の状態も最後 t = tf の状態もいろいろ異なるものが得られる: 最後の t = tf でのエネルギーを比べると,断熱変化のとき最小値になることが示される.
Tr(Hλ=1ρ(tf)
)≥ Tr
(Hλ=1ρad(tf)
). (1.64)
対角和を最終のハミルトニアン Hλ=1の固有状態についてとって,左辺を具体的に書くと∑
i
∑j
⟨ψλ=1i |Hλ=1|ψj(tf)⟩wj⟨ψj(tf)|ψλ=1
i ⟩ =∑
i
∑j
Eλ=1i wj|⟨ψj(tf)|ψλ=1
i ⟩|2
≡∑ij
Eλ=1i wjαij (1.65)
4A. Lenard, ‘Thermodynamical proof of the Gibbs formula for elementary quantum systems,’J. Stat. Phys. 19, 575 (1978); H. Tasaki, ‘Statistical mechanical derivation of the second law ofthermodynamics,’ condmat/0009206
10
右辺の断熱変化の場合には |ψadj (tf)⟩と |ψλ=1
i ⟩は同じもの (違いは位相因子だけ)だから |⟨ψad
j (tf)|ψλ=1i ⟩|2 = δij.(1.64)式は∑
ij
Eλ=1i wjαij ≥
∑i
Eλ=1i wi (1.66)
と書ける.E1i が非減少数列,wiが非増加数列,0 ≤ αij ≤ 1,
∑i αij = 1,
∑j αij = 1
の条件を使うとこの不等式が証明できる.最後のエネルギーから最初のエネルギーを引いた系のエネルギー変化
W = Tr(Hλ=1ρ(tf)
)− Tr
(Hλ=0ρ(0)
)(1.67)
は,この系に加えられた仕事であり,(1.64)式は断熱変化の場合に仕事が最小になることを示している.
[熱力学の第 2法則: 古典論]
上の議論は興味深いが,熱力学の法則との関係は必ずしもはっきりしない.古典論についてはもう少し踏み込んだ関係が知られている5.それは系に加えられた仕事とその系の自由エネルギー変化に成り立つ
⟨e−βW ⟩ = e−β∆F (1.68)
という関係式である.∆F は始状態のハミルトニアン Hλ=0と終状態のハミルトニアン Hλ=1で定義される自由エネルギーの差である.
∆F = F λ=1 − F λ=0 = − 1
βln
∫e−βHλ=1
dΓ +1
βln
∫e−βHλ=0
dΓ (1.69)
ここで Γは位相空間の体積である:
dΓ =d3Np d3Nq
N !(2πh)3N. (1.70)
(1.68)式左辺の平均は,初めのハミルトニアン Hλ=0でのカノニカル分布でとる.ある時刻までになされた仕事は,位相空間の座標 pi, qiをまとめてxと表し,次の式で定義する:
W (t) =∫ t
0λ(t)
∂Hλ(x(t))
∂λdt (1.71)
つまり
⟨e−βW (t)⟩ =1
Zλ=0
∫dΓ(0) exp
[−β
(Hλ=0(x(0)) + W (t)
)](1.72)
ということである.積分は,初めのハミルトニアン Hλ=0についてのカノニカル分布を使い,初期座標 x(0)の位相空間 Γ(0)についてとる.ハミルトニアンの時間変化は
dHλ
dt=
dλ(t)
dt
∂Hλ(x(t))
∂λ+
dx(t)
dt· ∂Hλ(x(t))
∂x(t)(1.73)
5不可逆仕事の定理 (nonequilibrium work theorem): C. Jarzynski,J. Stat. Mech.: Theor. Exp.(2004) P09005.
11
だが,x(t)はハミルトンの運動方程式を満たすから
dx(t)
dt· ∂Hλ(x(t))
∂x(t)=
∑i
(dqi
dt
∂Hλ(p, q)
∂qi
+dpi
dt
∂Hλ(p, q)
∂pi
)
=∑
i
(∂Hλ(p, q)
∂pi
∂Hλ(p, q)
∂qi
− ∂Hλ(p, q)
∂qi
∂Hλ(p, q)
∂pi
)= 0 (1.74)
となり (1.73)式の右辺第 2項は消える.つまり時間積分の後,時刻 tのハミルトニアンとして
Hλ(t)(x(t)) = Hλ=0(x(0)) +∫ t
0
∂Hλ(x(t))
∂λλdt
= Hλ=0(x(0)) + W (t) (1.75)
が得られる.したがって (1.72)式で λ = 1となる時刻 tf までになされた仕事は
⟨e−βW ⟩ =1
Zλ=0
∫dΓ(0) exp
[−βHλ(tf)(x(tf))
]. (1.76)
ここで積分は初期時刻の位相空間の座標x(0)について行われる,これをx(tf)についての積分に直さなければならない.だがハミルトニアンが時間変化してもLiouville
の定理から位相空間の体積は変わらないのでヤコビアンは
∂(xj(tf))
∂(xi(0))= 1. (1.77)
したがって積分変数は dΓ(0) → dΓ(tf)にできるので (1.76)式の積分はHλ=1に対する分配関数に他ならない.結局
⟨e−βW ⟩ =Zλ=1
Zλ=0=
e−βF λ=1
e−βF λ=0 = e−β∆F (1.78)
が得られる.この式の左辺は初期のハミルトニアンの熱平衡分布についてとったものだった.しかし,仕事が終わったときには一般に熱平衡分布にはなっていないこと,長時間放置して平衡状態に落ち着いても,それがHλ=1の平衡分布である必要はないことを注意しておこう.
(1.78)式から仕事と自由エネルギーの変化についての熱力学第 2法則に対応する関係が得られる.下に凸な関数6f(x)に対して,不等式
f(⟨x⟩) ≤ ⟨f(x)⟩ (1.79)
が成り立つので,不等式
e−β⟨W ⟩ ≤ ⟨e−βW ⟩ = e−β∆F (1.80)
が成り立つ.これから次の関係式が成立することがわかる.
⟨W ⟩ ≥ ∆F (1.81)
つまり系に加えられた仕事は自由エネルギーの変化より必ず大きい.6グラフで言うと,x < y のとき f(x) と f(y) を結ぶ線分の下に f の曲線がくる.式で表せば,
0 ≤ p, q,p + q = 1のとき f(px + qy) ≤ pf(x) + qf(y).
12
1.4 統計力学のまとめ統計力学で学んだ関係式などをまとめておく.
[カノニカル分布]
カノニカル分布はエネルギーの出入りがある温度一定の系の熱平衡状態を表し,統計演算子は
ρcan =e−βH
ZN(β, V )(1.82)
であり,規格化定数となる分母は分配関数である:
ZN(β, V ) = Tr e−βH
=∑
i
e−βEi
=∫
e−βED(E)dE
→ 1
N !
∫e−βH(p,q)d
3Np d3Nq
(2πh)3N. (1.83)
[グランドカノニカル分布]
グランドカノニカル分布 (大正準分布/集団,grand canonical distribution/ensemble)
は粒子の出入りもある系の平衡状態を表す.統計演算子は
ρgc =e−β(H−µN)
Ξ(β, V, µ)(1.84)
と書ける.もちろん状態空間 (Hilbert空間)とハミルトニアンはいろいろな粒子数の状態をすべてふくむようにとる.規格化定数となる分母は大分配関数 (grand partition
function)である:
Ξ(β, V, µ) = Tr e−β(H−µN)
=∑N
eβµNZN(β, V ). (1.85)
[平均値とゆらぎ]
エネルギーについて,平均値は
⟨E⟩ = ⟨H⟩
= Tr (ρH) =Tr He−βH
Tr e−βH=
− ∂
∂βTr e−βH
Tr e−βH
= − 1
Z
∂Z
∂β= − ∂
∂βln Z =
∂(βF (β))
∂β(1.86)
⟨E2⟩ = Tr (ρH2) =Tr H2e−βH
Tr e−βH
=1
Z
∂2Z
∂β2. (1.87)
13
である.これからエネルギーのゆらぎは
⟨(δE)2⟩ = ⟨H2⟩ − ⟨H⟩2
=1
Z
∂2Z
∂β2− 1
Z2
(∂Z
∂β
)2
=∂
∂β
(1
Z
(∂Z
∂β
))=
∂2
∂β2ln Z
= −∂⟨E⟩∂β
(1.88)
となる.グランドカノニカル分布でも同様である.粒子数については,[H, N ] = 0だから e−β(H−µN) = e−βHeβµN としてよい.したがって
⟨N⟩ = Tr (ρgcN) =Tr Ne−β(H−µN)
Tr e−β(H−µN)
=1
Ξ
∂Ξ
β∂µ=
1
β
∂
∂µln Ξ
= −∂Ω
∂µ(1.89)
エネルギーのときと同様に
⟨(δN)2⟩ =1
β2
∂2
∂µ2ln Ξ
=1
β
∂⟨N⟩∂µ
(1.90)
と,熱力学で与えられるグランドポテンシャルのµ微分となる.粒子数のゆらぎは,化学ポテンシャルを変化させたときの熱平衡での粒子数変化と結びついている.
[熱力学との関係]
Helmholtz自由エネルギーは統計力学では次のように定義される:
e−βF = Tr e−βH = ZN . (1.91)
これに対し熱力学では F は内部エネルギーEの Legendre変換
F = E − ∂E
∂SS = E − TS (1.92)
で定義される.ふたつの定義は状態密度D(E)と確率分布 e−βE の積がE = ⟨H⟩に非常に鋭いピークを持つことを考慮すれば同等である:
ZN =∫
dE D(E)e−βE
∼ D(⟨H⟩)e−β⟨H⟩
≈ eS(⟨H⟩)/kBe−β⟨H⟩
= exp[−β
(⟨H⟩ − TS(⟨H⟩)
)]= exp [−β (E − TS(E))]. (1.93)
最後の行のEは平均値 ⟨H⟩の意味である.以上のことは巨視的な物理量が微視的なHamiltonianを使って計算した分配関数から導かれることを意味する.それでは微視的な量はどのように表現されるだろうか.またそれは原子レベルの物質構造とどのように関係しているだろうか.
14
第2章 構造因子と相関関数
統計物理では,たいていの場合,同種,あるいは少数種の同種粒子多数からなる系を問題にする.このような物質の原子レベルでの構造を知る手段はいろいろある.表面の様子は各種の走査顕微鏡 (SEM,STM,AFM)などによって詳しく調べられるが,バルクの様子を知ろうと思えば,基本的な手段は散乱実験である.散乱データと物質の構造の関係を見てみよう.
2.1 散乱実験と構造因子散乱実験では入射粒子の運動量 hkと散乱されたあとの粒子の運動量 hk′が観測にかかる.
[微分散乱断面積]
散乱の効果は微分散乱断面積 (differential cross section)として測定され,物質のつくるポテンシャルによる散乱振幅と関係付けられる:
dσ
dΩ∼ 2π
h|Mk,k′|2. (2.1)
右辺は波数 kから波数 k′に散乱される確率を表し
Mk,k′ = ⟨k|U |k′⟩
∝∫
d3r e−ik·rU(r)eik′·r (2.2)
はポテンシャル U(r)による散乱振幅 (scattering amplitude)である.
図 2.1: 散乱実験では入射波 hkを制御し散乱波 hk′を観測する.
[多原子系での散乱]
簡単のため 1種類の粒子からなる系を扱う.同種原子 (あるいは分子など)からなる系では,1原子のポテンシャルをUa(r),i番目の原子の位置を riとすれば,全体のポテンシャルは
U(r) =∑
i
Ua(r − ri) (2.3)
15
である.散乱振幅は
⟨k|U |k′⟩ =∑
i
∫e−ik·rUa(r − ri)e
ik′·rd3r (2.4)
と書ける.ここでポテンシャルの中心の位置を分離するために
si = r − ri (2.5)
と書くと
⟨k|U |k′⟩ =∑
i
∫e−ik·(ri+si)Ua(si)e
ik′·(ri+si) d3si
=∑
i
(∫e−ik·siUa(si)e
ik′·si d3si
)e−iq·ri
= Ua(q)∑
i
e−iq·ri (2.6)
である.ここで q = k − k′である.Ui(q)は 1個の原子の構造を表している.散乱振幅は,これと原子位置を表す部分の積になっている.散乱強度は
|⟨k|U |k′⟩|2 =∑ij
Ua(q)U∗a (q)e−iq·rieiq·rj (2.7)
に比例する.実際に実験で観測されるものはこれを時間的に平均したものであるが,それは統計平均で置き換えられるだろう.微分散乱断面積は
dσ
dΩ∼ |Ua(q)|2I(q) (2.8)
I(q) ≡ ⟨∑ij
e−iq·(ri−rj)⟩ (2.9)
となる.(2.9)は粒子の配置だけで決まる量で構造関数 (structure function)と呼ばれる.N 個の粒子からなる理想気体では,異なる粒子の位置は全く独立だから i = j
の項はすべて零になり,散乱関数は I(q) = N である.
I(q)
= N2 for q = 0,
= N for q = 0(2.10)
液体の場合は,q = 0でも粒子 iに近いところにある粒子 jの寄与が残る.普通使われるのは構造因子 (structure factor)で,古典流体では
S(q) =1
NI(q) =
1
N
∑ij
⟨e−iq·(ri−rj)⟩ (2.11)
と定義され,量子流体では
S(q) =1
VI(q) =
1
V
∑ij
⟨e−iq·(ri−rj)⟩ (2.12)
がよく使われる.
16
2.2 密度相関関数散乱断面積を決める構造関数や構造因子は,標的となる系の密度の相関関数によって表される.このことによって散乱実験のデータから物質の構造に関するいろいろな知見が得られる.
[密度の相関関数]
点状粒子からなる系の密度演算子は
n(r) =∑
i
δ(r − ri) (2.13)
と表せる.ここで riは i番目の粒子の位置である.密度演算子の Fourier変換は
n(q) =∫
d3r e−iq·rn(r) =∑
i
e−iq·ri (2.14)
気体や液体では ⟨n(r)⟩ = const.で並進,回転対称性を持つ.固体 (結晶)では ⟨n(r)⟩は周期的で,あるQに対し ⟨n(Q)⟩ = 0であり,並進,回転対称性が破れている.密度の相関関数は
Cnn(r, r′) = ⟨n(r)n(r′)⟩= ⟨
∑i
∑j
δ(r − ri)δ(r′ − ri)⟩ (2.15)
と定義される.構造関数は密度の相関関数を Fourier変換したものである:
I(q) =∫
d3r∫
d3r′⟨n(r)n(r′)⟩e−iq·(r−r′)
=∑
i
∑j
⟨e−iq·(ri−rj)⟩
= ⟨n(q)n(−q)⟩. (2.16)
[密度ゆらぎの相関関数]
密度ゆらぎの相関関数は
Snn(r, r′) = ⟨δn(r)δn(r′)⟩= ⟨(n(r) − ⟨n(r)⟩)(n(r′) − ⟨n(r′)⟩)⟩= Cnn(r, r′) − ⟨n(r)⟩⟨n(r′)⟩ (2.17)
である.密度ゆらぎの相関関数は,相転移の臨界点近くを除けば距離 |r − r′|に対して指数関数的に減少する.この Fourier変換 (下の式は一様な系の場合,(2.27)式参照)
Snn(q) =1
V
∫d3r
∫d3r′⟨δn(r)δn(r′)⟩e−iq·(r−r′) (2.18)
は体積 V によらない量である.構造関数との関係は
I(q) = V Snn(q) + |⟨n(q)⟩|2 (2.19)
17
もし ⟨n(q)⟩ = 0なら,⟨n(q)⟩ ∝ V だから,第 2項は V 2に比例する.液体では
⟨n(q)⟩ = V ⟨n⟩δq,0 (2.20)
であり,構造因子は
S(q) =1
VI(q)
= Snn(q) + V ⟨n⟩2δq,0V →∞=⇒ Snn(q) + V ⟨n⟩2(2π)3δ(q) (2.21)
となる.
[2体分布関数]
rに粒子があるとき,r′に別な粒子がある確率を 2体分布関数と呼ぶ.つまり 2体分布関数 g(r, r′)は
⟨n(r)⟩⟨n(r′)⟩g(r, r′) = ⟨∑
i
∑j( =i)
δ(r − ri)δ(r′ − rj)⟩
= ⟨∑
i
∑j
δ(r − ri)δ(r′ − rj)⟩ −
∑i
⟨δ(r − ri)δ(r′ − ri)⟩
= ⟨n(r)n(r′)⟩ − ⟨n(r)⟩δ(r − r′) (2.22)
と定義される.一様な系では
⟨n⟩2g(r − r′) =1
V
∫d3r′⟨
∑i
∑j( =i)
δ(r − ri)δ(r′ − rj)⟩
= ⟨∑
i
∑j(=i)
1
V
∫d3r′δ(r′ + r′′ − ri)δ(r
′ − rj)⟩
=1
V⟨∑
i
∑j(=i)
δ(r′′ − (ri − rj)⟩
=N
V⟨
N∑i=2
δ(r′′ − (ri − r1)⟩ (2.23)
となる.ここで r = r′ + r′′とした.結局,2体分布関数は
g(r) =1
⟨n⟩⟨
N∑i=2
δ(r − (ri − r1)⟩ (2.24)
と書くことができ,1番目の粒子の周りに他の粒子がどのように分布しているかを表していることが分かる.g(r)は積分すると∫
g(r)d3r =N − 1
⟨n⟩⇒ V (2.25)
と系の体積になるように規格化されている.
18
[一様な系での相関関数]
一様な系では,相関関数のような二つの位置座標の関数は,並進対称性のために座標の差の関数になる.2体分布関数を例にとると,並進対称性があるから g(r, r′)
を r′だけずらしてもよい.つまり
g(r, r′) = g(r − r′,0) ≡ g(r − r′) (2.26)
と,相対座標の差だけの関数になる.ふつう g(r)をそのまま g(r)と書くことが多い.この結果,Fourier変換も,本来は二つの波数が現れるものが一つになる:
g(q, q′) =∫
d3r∫
d3r′ e−iq·re−iq′·r′g(r, r′)
=∫
d3r∫
d3r′ e−iq·re−iq′·r′g(r − r′)
=∫
d3r∫
d3r′′ e−iq·r−iq′·(r−r′′)g(r′′)
=∫
d3r e−i(q+q′)·r∫
d3r′′ eiq′·r′′g(r′′)
=
(2π)3δ(q + q′) g(q)
V δq+q′,0 g(q).
(2.27)
一様な系について (2.22)式を Fourier変換すると
⟨n⟩2∫
g(r)e−iq·rd3r = S(q) − ⟨n⟩ (2.28)
であり,これから
S(q) = ⟨n⟩(1 + ⟨n⟩
∫g(r)e−iq·rd3r
)(2.29)
となる.たとえば理想気体の場合は g(r) = 1だから
S(q) = ⟨n⟩(1 + ⟨n⟩(2π)3δ(q)
)(2.30)
である.
2.3 数学的補足: 汎関数とその微分汎関数微分 (変分法)は解析力学などで既習のことだろうが,以後よく使うので要点をまとめておく.汎関数とは関数の関数のことであり,つまり関数形 f(x)がひとつ決まるとそれに応じて関数値が定まるもので,F (f(x))と書くことにする.これは多変数関数の拡張である.関数 f(x)を幅∆xの区間に分け,そのN個の代表値の組 fiをとり,その関数 F (f1, f2, · · · , fN)を F (fi)と書けば,∆x → 0(N → ∞)
とした極限がF (f(x))である.N変数関数F (f1, f2, · · · , fN)のN個の変数の組 fi
を,番号 iを連続変数 xにして無限個の変数に代えたと思えばよい.(たいていの場合 f(x)は連続になっているので,この点は fiがそれぞれ勝手な値を取る多変数関数と少し違う.) F (fi)の独立変数をわずかに変化させれば
F (fi + δfi) = F (fi) +∑
i
∂F
∂fi
δfi +1
2
∑i
∑j
∂2F
∂fi∂fj
δfiδfj + · · · (2.31)
19
である.ここで偏微分係数はもちろん
∂F
∂fi
= limδfi→0
F (f1, · · · , fi + δfi, · · · , fN) − F (f1, · · · , fi, · · · , fN)
δfi
(2.32)
である.シンボリックに書けば (2.31)式に対応して
F (f(x) + δf(x)) = lim∆x→0
F (fi + δfi)
= lim∆x→0
F (fi) +∑
i
∆x∂F
∆x∂fi
δfi +1
2
∑i
∆x∑j
∆x∂2F
∆x∂fi∆x∂fj
δfiδfj + · · ·
= F (f(x)) +
∫dx
δF
δf(x)δf(x) +
1
2
∫dx
∫dx′ δ2F
δf(x)δf(x′)δf(x)δf(x′) + · · ·(2.33)
となる.ここで∑
∆x →∫
dxであり,汎関数微分 δF/δf(x)の定義は
δF
δf(x)= lim
∆x→0lim
δfi→0
F (f1, · · · , fi + δfi, · · · , fN) − F (f1, · · · , fi, · · · , fN)
∆xδfi
(2.34)
である.多変数関数の微分との対応によって次の関係が得られる:
∂fj
∂fi
= δij ⇒ δf(y)
δf(x)= δ(x − y) (2.35)
∂g(fj)
∂fi
= g′∂fj
∂fi
= g′δij ⇒ δg(f(y))
δf(x)= g′ δf(y)
δf(x)= g′δ(x − y) (2.36)
ここで g′(x) = dg(x)/dxである.汎関数のよく使われる例が積分汎関数
F (f(x)) =∫
dy g(f(y), fy(y)) (2.37)
である.汎関数微分は
δF
δf(x)=
∫dy
δg(f(y), fy(y))
δf(x)
=∫
dy
(∂g
∂f
δf(y)
δf(x)+
∂g
∂fy
δfy(y)
δf(x)
)
=∫
dy
(∂g
∂fδ(x − y) +
∂g
∂fy
d
dyδ(x − y)
)
=∫
dy
[∂g
∂fδ(x − y) − d
dy
(∂g
∂fy
)δ(x − y)
]
=∂g
∂f(x)− d
dx
∂g
∂fx(x)(2.38)
4行目は部分積分を行い,両端では零とした.ここで,x → t,f(x) → q(t),g(f, fx) →L(x, x)とすると,F は作用積分で,汎関数部分を零,δF/δf(x) = 0,としたものは見慣れた Lagrangeの運動方程式である.
20
2.4 古典系における相関関数の統計力学的表式相関関数を統計力学的に計算する方法をまとめる.簡単のため古典系に限ることとする.形の上では量子力学的な表式を用いるが,演算子の非可換性を無視する.平衡状態についての平均しか取り扱わないので,以下で現れる対角和「Tr」は位相空間での積分を表していると思えばよい.
Tr ≡∫
dΓ (2.39)
[古典流体の密度相関関数]
固体では,外力をかけたとしても本当の平衡状態に緩和することは少ない.たとえば固体を包む容器の形を少し変えれば固体は歪むが,最低エネルギーの状態は結晶格子を組みなおして歪みをなくしたものだろう.そこで以下では実際に平衡状態に緩和しうる流体を念頭に置く.流体系に外場 (一体のポテンシャル)をかけたとしよう.
Uext = −∑
i
u(ri) = −∫
d3r u(r)n(r) (2.40)
ポテンシャルに応じて流体粒子は運動し,新しい平衡状態が実現されるだろう.ポテンシャルは uが大きいところに粒子が集まるよう定義されている.系のハミルトニアンを,外場がないときのものを H0とし
H = H0 + Uext (2.41)
と書いておく.分配関数は
ZN(T, V, u(r)) = Tr[exp
[−β
(H0 −
∫d3r u(r)n(r)
)]](2.42)
分配関数の外場に関する汎関数微分を取ると,Trは状態に関する和,あるいは位相空間での積分を表していることに注意して
δ
δu(r)ZN(u(r)) = Tr
[βn(r)e−β(H0−
∫d3r′ u(r′)n(r′))
]= ZN(u(r))β⟨n(r)⟩ (2.43)
となる.ただし平均は
⟨A⟩ =Tr Ae−β(H0−
∫d3r′ u(r′)n(r′))
Tr e−β(H0−∫
d3r′ u(r′)n(r′))(2.44)
で定義されている.これから密度の平均は
⟨n(r)⟩ =1
β
1
ZN
δZN
δu(r)
= − δ
δu(r)
(− 1
βln ZN
)
= − δ
δu(r)F (u(r)) (2.45)
21
となって,自由エネルギーの外場ポテンシャルによる汎関数微分で表される.分配関数の 2階汎関数微分を取ると
δ2
δu(r)δu(r′)ZN(u(r)) = Tr
[βn(r)βn(r′)e−β(H0−
∫d3r′′ u(r′′)n(r′′))
]= β2ZN(u(r))⟨n(r)n(r′)⟩ (2.46)
と分配関数の外場ポテンシャルによる汎関数微分で表される.これから密度密度相関関数は
Cnn(r, r′) = ⟨n(r)n(r′)⟩ =1
β2
1
ZN
δ2ZN
δu(r)δu(r′)(2.47)
(2.45)式で密度はHelmholtz自由エネルギーの微分で書けたので,2階の汎関数微分を調べてみると
δ2
δu(r)δu(r′)F (u(r)) =
δ
δu(r)
(− 1
β
1
ZN
δZN
δu(r′)
)
=1
β
1
Z2N
δZN
δu(r)
δZN
δu(r′)− 1
β
1
ZN
δ2ZN
δu(r)δu(r′)
= β⟨n(r)⟩⟨n(r′)⟩ − β⟨n(r)n(r)⟩= −β⟨(n(r) − ⟨n(r)⟩) (n(r′) − ⟨n(r′)⟩)⟩ (2.48)
これは密度ゆらぎの相関関数に他ならない.
−δ2F (u(r))δu(r)δu(r′)
= β⟨δn(r)δn(r′)⟩
= βSnn(r, r′) (2.49)
また密度密度相関関数と密度ゆらぎの相関関数の関係は
Snn(r, r′) = Cnn(r, r′) − ⟨n(r)⟩⟨n(r′)⟩ (2.50)
である.また (2.45)式と (2.49)式から
Snn(r, r′) =1
β
δ⟨n(r′)⟩δu(r)
(2.51)
とも書けるから,密度ゆらぎの相関関数が,ある場所で外場u(r)が変化したときの別な場所での密度 n(r′)の変化を表していることがわかる.
[グランドカノニカル分布]
以上の話は粒子数が一定でないグランドカノニカル分布についても同様である.ただし今まで考えてきた外場の変化は,化学ポテンシャルが場所によって変化すると考えても同じことなので,すべて化学ポテンシャルで置き換えてよい.つまり
µ → µ(r) = µ + u(r) (2.52)
とすればよい.大分配関数を
Ξ(T, V, µ(r)) = Tr[exp
[−β
(H0 −
∫d3r µ(r)n(r)
)]](2.53)
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とするとグランドポテンシャルは
Ω(T, V, µ(r)) = − 1
βln Ξ(T, V, µ(r)) (2.54)
である.カノニカル分布のときと同様に,密度や密度ゆらぎの相関関数は化学ポテンシャルによる汎関数微分で表される.
⟨n(r)⟩ =1
β
1
Ξ
δΞ
δµ(r)
= − δ
δµ(r)Ω(µ(r)) (2.55)
β⟨δn(r)δn(r′)⟩ = −δ2Ω(µ(r))δµ(r)δµ(r′)
=δ⟨n(r′)⟩δµ(r)
(2.56)
これらを使えば化学ポテンシャルのわずかな変動があったときの密度の変動が分かる.
⟨n(r)⟩ = ⟨n(r)⟩δµ(r)=0 +∫
d3r′δ⟨n(r)⟩δµ(r′)
δµ(r′) + · · ·
= ⟨n(r)⟩δµ(r)=0 + β∫
d3r′Snn(r, r′)δµ(r′) + · · · (2.57)
一様な変動の場合には,上の式で δµ(r) = δµとして
δ⟨n⟩δµ
= β∫
d3r′Snn(r, r′)
= βSnn(q = 0) (2.58)
等温圧縮率は (dµ = dP/nより)
κT = − 1
V
∂V
∂P
∣∣∣∣∣T,N
= − n
N
∂(N/n)
∂P
∣∣∣∣∣T,N
=1
n
∂n
∂P
∣∣∣∣∣T
=1
n2
∂n
∂µ
∣∣∣∣∣T
(2.59)
と書けるから,密度ゆらぎの相関関数を使って
κT ⟨n⟩2 = βSnn(q = 0) (2.60)
である.つまり一様な密度のゆらぎが圧縮率を決めている.
[局所密度の関数としての自由エネルギー]
密度の関数としての自由エネルギーの表式が有用だが,密度を指定して状態和をとることは困難である.そこで代わりに外場の関数として計算したグランドポテンシャルのLegendre変換が使える.つまり密度の関数としての自由エネルギーを次のように定義する.
F (T, V, ⟨n(r)⟩) ≡ Ω(T, V, µ(r)) +∫
d3r⟨n(r)⟩µ(r) (2.61)
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ここで被積分関数にある ⟨n(r)⟩は (2.55)式を使ってΩ(µ(r))から計算できる.こうして定義された F (⟨n(r)⟩)の密度での汎関数微分をとると
δF
δ⟨n(r)⟩=
∫d3r′
δΩ
δµ(r′)
δµ(r′)
δ⟨n(r)⟩+ µ(r) +
∫d3r′⟨n(r′)⟩ δµ(r′)
δ⟨n(r)⟩= µ(r) (2.62)
となって,化学ポテンシャルが得られる.
以上のように,汎関数微分を使うと一様な系での統計力学の関係式が非一様系に自然な形で拡張でき,簡潔な一般式が得られる.ただし,これから実際に有用な形で計算できるかどうかは別問題である.
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