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特集―介護しながら働き続けるには Business Labor Trend 2013.8 2 介護しながら働き続けるには ―企業に求められる支援策 高齢化社会を迎え、働く人にとって介護が身近な問題になりつつある。今後、要介護者が増え、多 くの労働者が親の介護に直面することが予測されている。介護が原因で労働者が仕事への意欲を失 ったり、介護を理由にした離職も増えるようになれば、企業はもとより社会にとっても大きな損失 になりかねない。だが、育児との両立と異なり、介護の課題は多様なうえに、たとえ支援制度があ っても利用のタイミングが難しい。特集では、労働政策フォーラム「仕事と介護の両立支援を考える」 の議論から、企業に求められる対応を考える。 特 集

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特集―介護しながら働き続けるには

Business Labor Trend 2013.8

2

 

仕事と介護の両立に対する不安が高

まっている。両立できず、介護や看護

を機に離職したり転職を考える人も少

なくない。とはいえ、仕事を辞めれば、

経済的にも精神的にも追い詰められる。

このため、企業は労働者の仕事と介護

の両立を支援することが必要になる一

方、介護の課題に直面した労働者も仕

事との両立を図りながら就業継続する

ことが求められてくる。JILPTが

五月三一日に開いた労働政策フォーラ

ムでは、企業担当者および研究者が、

両立支援のポイントや課題、制度を利

用しやすい風土づくりなどの事例につ

いて報告・議論した。

介護しながら働き続けるには―企業に求められる支援策

高齢化社会を迎え、働く人にとって介護が身近な問題になりつつある。今後、要介護者が増え、多くの労働者が親の介護に直面することが予測されている。介護が原因で労働者が仕事への意欲を失ったり、介護を理由にした離職も増えるようになれば、企業はもとより社会にとっても大きな損失になりかねない。だが、育児との両立と異なり、介護の課題は多様なうえに、たとえ支援制度があっても利用のタイミングが難しい。特集では、労働政策フォーラム「仕事と介護の両立支援を考える」の議論から、企業に求められる対応を考える。

特 集

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3

 

最初に、企業が社員の仕事と介護の

両立を支援することが重要になってき

ていることをお話します。

 

そして、副題とさせていただきまし

たが、まだ子育ての両立と同じように

考えて支援すればいいと誤解している

企業も少なくありません。もちろん共

通する部分はありますが、仕事と介護

の両立を支援するときは、子育ての場

合と違った留意点があります。そのこ

とを二番目にお話します。

 

最後は、具体的な支援の仕方につい

て、後ほど先進的な取り組みの企業か

ら事例報告もありますが、その基本的

な考え方についてお話します。

親の介護に直面する社員が増加

 

企業が仕事と介護の両立を支援する

必要が高まっている背景には、介護に

直面する社員が増えていくことがあり

ます。

 

二○二五年には、団塊の世代が七五

歳を超えます。この七五歳がどういう

ことかというと、もちろん七○歳代の

前半から介護を必要とする人が出てく

るわけですが、七五歳から七九歳ぐら

いになりますと、一○人に一人程度が

要支援・要介護の状態になります。そ

うすると、団塊の世代のお子さんたち

にあたる団塊のジュニア層が親御さん

の介護に直面します。

 

団塊のジュニア層は、みなさんの会

社においても人数が多いわけです。こ

れまでも社員が親御さんの介護に直面

することはありましたが、これからは、

団塊のジュニア層にみられるように介

護の課題に直面する社員の人数が増え

てくることが確実なのです。

 

もうひとつ大事なのは、団塊のジュ

ニア層は、親の世代に比べて親の介護

の負荷が大きいことです。団塊のジュ

ニア層は兄弟数が少なく、また、未婚

の人も相対的に増えています。このた

め、親の介護の課題に直面したときの

負荷が高くなります。

 

極端な言い方をすれば、企業からす

ると、会社を退職してしまえば、社員

の仕事と介護の両立を支援する必要は

なくなるわけです。しかし、これから

は社員に六五歳までは元気に意欲的に

仕事に取り組んでいくことが求められ

ます。

 

団塊のジュニア層が親の介護に直面

しはじめるのは五○歳前後からです。

そこから六五歳までの一五年間近く、

仕事と介護を両立しながら、会社の中

で組織に貢献し、意欲的に働いてもら

うことが重要になります。

基幹的業務を担う社員の離職

 

仕事と介護の両立がうまくいかない

と、本人が仕事に意欲的に取り組めな

いだけではなく、最悪の場合は離職に

つながります。

 

介護の課題に直面する社員層は、多

分みなさんの会社の中で管理職や基幹

的な業務を担っている人たちです。

 

もちろん子育て層が大事な仕事をし

ていないという意味ではありませんが、

相対的に見れば、やはり会社の中で管

理職として働き、あるいは基幹的な仕

事を担う層が仕事と介護の課題に直面

することになるわけです。その人たち

がうまく両立できず、意欲的に働けな

くなり、あるいは離職してしまうこと

は、会社にとってのマイナスがより大

きくなります。

離職は本人にもマイナス

 

もうひとつ、離職は本人にとっても

マイナスの影響が大きくなります。た

とえば五○歳で離職すると、生涯所得

が大きくマイナスになります。あるい

は介護の課題が解消した後、再就職し

ようとしたとき、たとえば五五歳に

なってからの再就職は非常に難しいも

のとなり、キャリアの継続にとっても

マイナスです。

 

仕事と介護の両立が難しくて離職し

た方に伺うと、仕事を続けていたとき

よりも、辞めてしまった後のほうが大

変だと話されます。毎日が介護だけに

なり、収入も途絶えます。復帰しよう

と思っても、戻れなくなります。そう

いう意味では、介護の課題に直面して

もきちんと仕事と両立でき、意欲的に

働ける仕組みをつくっていくことが企

業として重要になります。

介護の課題を抱えている社員

は多い

 

こういう話をすると、そうは言って

も、現状では、社員の中で介護休業を

取得する人が少なく、あるいは面談の

とき、親の介護の話はあまり出てこな

基調報告

社員の仕事と介護の両立を企業としてどのように支援すべきか

   

︱︱仕事と子育ての両立支援との違い

東京大学大学院情報学環教授 

佐藤 博樹

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いと指摘されます。

 

私は、いろいろなデータを見ていま

すが、実は介護の課題を抱えている社

員は多いのです。にもかかわらず、な

かなか会社に介護の課題を伝えて、会

社のいろいろな支援を使うことには

至っていません。

 

介護の課題が会社側に伝わらない背

景には、まだまだワーク・ライフ・バ

ランス、あるいは個人的な課題を会社

に伝えないほうがいいと考える人が中

高年に多いこともあります。これまで

人事から、部下の仕事と子育ての両立

を支援してくださいと言われ、仕方が

ないと思っていた管理職、つまり、ワー

ク・ライフ・バランスを自分のことと

して考えてこなかった層が、実はワー

ク・ライフ・バランスの課題に今、直

面しているともいえます。

 

実際、社内研修の際に七五歳以上の

親御さんがいる社員に手をあげてもら

うと、そのなかには一定割合で介護の

課題を抱えている人がいます。調査で

も、七五歳から七九歳の親御さんがい

る人が一○○人いれば、その一○分の

一にあたる一○人の社員は親の介護に

課題を抱えていることになります(図

表1)。

 

しかし、こうした情報はなかなか会

社に上がってきません。自分だけでう

まく両立できればいいのですが、実は

悩んでいる人も少なくないのです。こ

ういう状態を解消することが大事です。

子育て支援との違いを考える

 

そういう中で、どういう点に留意し

て仕事と介護の両立を支援すればよい

のか。先ほど子育てとの違いを考えな

ければならないとお話しました。まず、

当たり前のことですが、対象層が異な

ります。

 

子育ての場合は、二○歳後半から、

三○歳前半層ぐらいが主要なターゲッ

トになります。男性も対象層ですが、

残念ながらまだ子育ては女性という考

え方が強く、二○歳代後半から三○歳

代の既婚の女性が中心となりがちです。

 

そういう意味では、社員全体からみ

ると、仕事と子育ての両立は一部の層

の課題と受け止められがちです。しか

し、介護の場合は、四○歳代後半から

六五歳までの間、ほぼ全員の社員が直

面する課題といえます。

 

もう一つは、支援の仕方です。たと

えば、仕事と子育ての両立の場合、女

性であれば妊娠がわかってから、「会社

にはこういう育児休業の制度があり、

復帰後は、短時間勤務もあります」と

情報提供しても間に合います。男性の

場合は、職場の上司などに子どもが生

まれたと言ってもらえないとわかりま

せんが、健康保険など、いろいろな手

続きで子どもが生まれたことがわかり

ます。

 

ところが、介護の課題は、本人が会

社に言ってくれないとわかりません。

介護の課題に直面してから、たとえば、

こういう制度が使えますとか、あるい

は地域のここに相談に行きなさいと伝

えることはできますが、それでは遅い

のです。そういう意味では、介護の課

題に直面する前に、事前の情報提供を

行うことが重要になります。

介護に対する事前の心構えを

 

では、どんな情報を事前に提供すれ

ばいいのでしょうか。

 

子育てと違い、介護の課題は多様で

す。子育ての場合は、お子さんが生ま

れて、このくらいの年齢になればハイ

ハイを始めて、離乳食を口にするなど、

どういう形でお子さんが育っていくか

わかります。成長段階に応じて、必要

な情報を提供できます。

 

けれども、介護の課題は、たとえば、

親御さんと同居しているのか。あるい

は、別のところに住んでいて、遠距離

介護が必要なのか。同居していても、

在宅介護で対応するのか、あるいは施

設を検討するのか。認知症があるのか

などにより、対応が大きく異なります。

これらについてすべてを網羅した情報

を事前に提供することは無理がありま

す。また、それでは本人にとって必要

ない情報も多くなります。

 

そういう意味では、やはり事前に提

供すべき情報は、事前の心構えになり

ます。たとえば介護の課題に直面した

ら、自分一人で解決しようとしないで、

会社に相談すること。地域では地域包

括支援センターなどに相談することな

どの情報を伝えることです。

 

もう一つ大事なことは、自分で介護

するのではなく、仕事と介護の両立を

マネジメントすることを伝えることで

す。それに加えて仕事を辞めてはいけ

ないことを伝えることです。仕事と介

護の両立も大変ですが、退職した介護

のみの生活はさらに大変になります。

仕事との両立を前提に介護の課題を解

決することが重要です。そういう心構

えに関する情報提供をすることが大事

なのです。

介護はマネジメントが重要

 

仕事と子育ての両立では、男性も女

性も、子育てできるように支援するわ

けです。しかし、介護の場合はできる

だけ本人が直接介護しないで済むよう

に支援することが大事です。介護を必

要とする親御さんが必要なサービスを

受けられるようにマネジメントするこ

とが重要なのです。

 

つまり、介護保険制度の仕組みや社

内のさまざまな制度を使って、親御さ

んが必要な介護サービスを受けること

ができ、社員は仕事を続けることがで

きるようにすることが重要です。

 

とくに女性は、自分を育てた親御さ

んを自分で介護することが大事だと思

う方もたくさんいます。しかし、自分

で介護したら、仕事を続けることが困

難になります。

図表1 年齢別の要支援・要介護度(厚生労働省「介護保険事業状況報告」2009 年度より作成)

要支援以上 要介護以上

65~69 2.0% 1.6%

70~74 4.6% 3.5%

75~79 10.4% 7.7%

80~84 22.0% 16.3%

85~89 40.5% 31.9%

90歳以上 62.0% 55.0%

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それだけでなく実は、介護サービス

は専門家が提供するほうが質が高いの

です。たとえば、入浴の介助なども、

素人がやると危険です。専門のヘル

パーさんなどに任せたほうが、親御さ

んは質の高いサービスを受けることが

できます。

 

そのかわり、自分としては、親御さ

んがより質の高いサービスを受けられ

るように、ケアマネジャーを探したり、

専門家と相談するなど、そういうマネ

ジメントが大切になってきます。こう

したことを含めた事前の情報提供が重

要になります。

社員に情報提供するタイミングは

 

では、どの段階で情報提供すればい

いのでしょうか。これは企業で講演す

ると必ず聞かれることです。

 

私は、社員が四○歳と五○歳の時点、

それに親御さんが六五歳になった時が

ポイントだと思います。

 

社内で課長研修をやるとき、四○歳

以上の人に手をあげてもらいます。課

長研修ですから、四○歳以上が多くな

ります。続けて、介護保険制度の被保

険者になっているかも尋ねます。しか

し、半分ぐらいの人は手をおろしてし

まいます。

 

四○歳になると介護保険に入り、保

険料が給与から天引きされます。とこ

ろが、最近は給与明細が電子化され、

自分が介護保険に入っていることを知

らない社員も少なくありません。四○

歳で介護保険に入り保険料を支払うわ

けですから、そのタイミングに最初の

情報提供をすることが大事です。

四○歳時の社員に伝えておくこと

 

では、企業は四○歳時に社員に何を

伝えたらいいのでしょうか。四○歳時

では、介護保険の概要や社内の休業な

どの仕組みを説明すると同時に、親御

さんも介護保険の被保険者であること

を伝えるべきです。

 

介護保険によるサービスは六五歳を

過ぎて、原則、要介護・要支援の状態

と認定されて初めて使えるものです。

企業は六五歳まで雇用機会をすること

になるので、基本的に今いる社員が介

護保険制度サービスを利用できるのは

定年後になります。

 

大切なのは親御さんが六五歳を過ぎ

て認定を受ければ、介護保険による

サービスを使えることを説明すること

です。親御さんが元気で、まだ実感が

わかないかもしれませんが、四○歳時

にはこうした情報提供することが大事

です。

五○歳時にもう一度説明する

 

もう一つは五○歳時です。五○歳ぐ

らいになると、キャリアプランやライ

フプランなどのセミナーが始まります。

これから六五歳まで意欲的に働いても

らうために、キャリアをどうするかを

含めて、キャリアプランやライフプラ

ンのセミナーを開催する企業が増えて

います。こうしたセミナー時に情報提

供するのは効果的です。

 

五○歳というのは、多くの社員の親

御さんが七五歳以上になる年齢です。

調査でみても、介護をしている人が

もっとも多い年代でもあります(図表

2)。この五○歳時には、もう一度、

説明が必要だと思います。五○歳から

六五歳までは、親御さんの介護に直面

する時期でもあります。仕事と介護を

両立しながら、仕事もきちんとこなし

てもらうことが重要です。その意味で

は、四○歳時と同じことをもう一度、

きちんと伝えることが大事です。五○

歳の段階に入ると、真剣に話を聞くよ

うになります。

親が六五歳になったら話し合いを

 

三つ目は、親御さんが六五歳になっ

た時点です。親御さんが六五歳になっ

たとき、社員が親御さんと話し合いを

することが大事です。 

 

親御さんが六五歳の誕生日を迎える

と、親御さんのもとに、介護保険証が

届きます。みなさんも親御さんが六五

歳以上なら、同居していても、遠距離

でも、介護保険証はどこにあるのか一

度、尋ねてみてください。多くの場合、

大事にしまってあります。介護保険証

は健康保険証と同じものと思っている

高齢者が少なくありません。介護保険

は認定を受けないと使えないのですが、

その点など理解されていないことも多

いです。

 

親御さんと介護のことを話すのは難

しいことです。でも、六五歳になり介

護保険証が届いた時は、親御さんと話

をするチャンスです。介護保険の仕組

みはこうなっていますよ。まだ元気だ

ろうけど、介護の問題はどうして欲し

いのか。こうしたことについて、親御

さんと話し合うチャンスです。ですか

ら、親御さんが六五歳になったとき、

介護のことを話し合うように社員にリ

マインドすることは重要です。このよ

うな事前の情報提供が企業には求めら

れます。

介護休業は両立のための準備期間

 

育児休業は自分で育児する制度です

が、介護休業は自分で介護に専念する

ための制度ではありません。もちろん

緊急対応もありますが、仕事と介護の

両立のための準備期間、アレンジ期間

なのです。介護休業を取得して介護を

してはいけないのです。

 

でも、このことを会社の人事の方も

誤解しています。一般に、介護に要す

る期間は四年から五年ともいわれます。

にもかかわらず、介護休業の期間は法

定で九三日です。なぜでしょうか。自

分で介護するなら、これでは絶対足り

ません。これは緊急対応のための制度

なのです。親御さんが倒れて、有給休

暇が足りなくなり、介護休業を取って、

図表2 介護をしている人は50歳代が多い

(資料)総務省「平成18年度社会生活基本調査(介護統計表)」より作成

600

35

30歳未満 30~39歳未満 40~49歳未満 50~59歳未満 60~69歳未満 70歳以上

41

74

179

118

86

500

400

300

200

100

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その間に介護認定を受けるなどアレン

ジして自分が早く仕事に復帰する。そ

のための準備期間なのです。この期間

に介護に専念してしまうと仕事に戻れ

なくなります。

 

そういう意味では、企業による仕事

と介護の両立支援の制度は、そのあた

りを誤解しないで設計してほしいと思

います。たとえば、長い休業よりも、

分割して休業を取れるようにすること

が大事です。介護の場合には、施設に

入居しても、今度は施設を変わるとか、

病院から在宅に移るとか、そういうこ

とで三、四日休む必要が生じます。調

査でみても、年休を取りやすい職場に

いる人は、親の介護の問題があっても

仕事を続ける可能性が高いと回答する

割合が多くなっています(図表3)。こ

うした点を踏まえて、企業は両立支援

の制度を設計することが求められます。

ワーク・ライフ・バランスの

実現を

 

では、仕事と介護が両立できるのは

どのような職場なのでしょうか。

 

調査では、実際に介護に直面するこ

とになった場合、職場の上司や同僚に

相談できる雰囲気の職場では、仕事が

続けられると回答する割合が高くなっ

ています(図表4)。そういう意味では、

お互いどういう課題を抱えているかを、

日頃から話せる職場であることが重要

になります。ほかには、過度な残業が

ないとか、年休が取得しやすいことも

関係します。これは、広い意味でのワー

ク・ライフ・バランスが実現しやすい

職場です。仕事と介護の両立を可能と

するには、ワーク・ライフ・バランス

が実現できる職場づくりをしておくと

いうことが重要になります。これは育

児の場合でも同じです。

 

子育てとの違い、あるいは共通点も

ありますが、仕事と介護の両立に関す

る基本的な情報を、介護の課題に直面

する前に提供し、社員のみなさんがそ

の情報を使ってうまく仕事と介護を両

立できるようにマネジメントできるよ

うな支援することが大事です。

調査報告

企業と労働者の視点からみた

   仕事と介護の両立における課題

三菱UFJリサーチ&コンサルティング

経済・社会政策部主任研究員 矢島 洋子

 

私からは、具体的なデータをもとに、

企業と労働者の視点から仕事と介護の

両立における課題を整理します。今日

報告するデータは、主に昨年度厚生労

働省の委託事業で当社が実施した調査

に基づくデータです。

 

まず、企業の側からみて、仕事と介

護の両立支援の実態と課題がどうなっ

ているかをご紹介します。

両立支援の取り組み状況

 

図表1は、企業が取り組んでいる仕

事と介護の両立支援の実施状況です。

これは昨年九月から一○月にかけて実

施したアンケート調査です。現在、ど

んな取り組みを実施しているのかを尋

ねると、もっとも多いのは、介護休業

制度や介護休暇に関する法定の制度を

整えることで、九割近くを占めていま

図表3 希望通りの年休取得別 仕事の継続可能性

図表4 職場における相談できる雰囲気の有無別 仕事の継続可能性

0%

35.1% 23.6%

42.0% 20.4%

34.8% 21.2%

31.7% 27.1%

29.7% 28.4%

22.4% 37.4%

41.4%

37.6%

44.0%

41.2%

41.9%

40.2%

全体(n=1736)

希望通りとれた(n=481)

大体希望通りとれた(n=709)

あまり希望通りとれなかった(n=155)

希望通りとれなかった(n=107)

■続けられると思う ■続けられないと思う ■わからない

どちらとも言えない(n=284)

20% 40% 60% 80% 100%

41.4%

37.6%

44.0%

41.2%

41.9%

40.2%

35.1% 23.6%

48.4% 14.2%

12.0% 56.3%

20.0% 29.8%

41.4%

37.3%

31.6%

50.2%

全体(n=1736)実際に介護をすることになった場合、

職場の上司や同僚に話す雰囲気

ある(n=964)

ない(n=158)

どちらともいえない(n=614)

■続けられると思う ■続けられないと思う ■わからない

20% 40% 60% 80% 100%

{0%

41.4%

37.3%

31.6%

50.2%

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す。それ以外は、割合がかなり低くな

り、次に多いのが、制度を利用しやす

い職場づくりを行う。それから、介護

に直面した従業員を対象に仕事と介護

の両立に関する情報提供を行う、が続

きます。このあたりは二割前後の企業

が取り組んでいる状況です。現在の段

階では、法定どおりの休業や休暇の制

度を整える取り組みのみをしている企

業が多いことがわかります。

 

取り組みのなかで、従業員の仕事と

介護の両立に関する実態・ニーズ把握

を行うことは、現在は一○%ほどの企

業しかありませんが、実は企業の人事

の方に何が一番重要かと尋ねますと、

これが今、もっとも重要だという回答

が多くなっています。しかし、実際に

はできていません。なぜかというと、

プライバシーにかかわる問題なので、

従業員から状況を聞き出すことに躊躇

している企業が多いようです。

意外に少ない職場に知られる

抵抗感

 

この介護について職場に知られるこ

との抵抗感を労働者に尋ねたのが図表

2になります。同じく昨年実施した調

査で、男性正社員一○○○人と女性正

社員一○○○人に尋ねました。そのな

かで現在、実際に介護している男性一

四四人、女性一○七人に回答しても

らった結果です。

 

ただ、調査では介護の概念をかなり

広く捉え、簡単な手助けも介護に含め

ました。その結果、これぐらいの割合

の人が実際に介護していると回答し、

その人たちが職場に知られることの抵

抗感がどの程度あるかと聞くと、男性

で抵抗感があると回答したのは三・

五%、ややあるが一六・七%、女性で

抵抗感があるは五・六%、ややあるが

一四・○%と、男女でそれほど変わら

ず、抵抗感は思ったほど多くないこと

がわかります。

二割強が法を上回る対応を

 

そうしたなか、介護休業制度の整備

状況と法定を上回る対応内容を尋ねた

のが図表3です。現在、取り組んでい

る介護休業の整備について、法定の取

り組みと、それを上回る取り組みをど

の程度行っているかを聞いたものです。

 

左のグラフでみますと、全体の二

二%が法定を上回る内容で整備してい

ると回答しています。従業員規模別に

みると一○○一人以上では五割近くの

企業が法定を上回る取り組みをしてい

ると回答しています。

 

では、この法定を上回る取り組みは

どのような内容なのでしょうか。それ

を聞いたのが右のグラフです。もっと

も多いのは、取得期間を延ばすことで

す。法定では九三日で三カ月近くあり

ますが、これを一年三六五日に延長す

支立両の護介と事仕「るけおに業企1表図組取」援

定法 度制 整え2.78

8.42

度制業休護介 や 等暇休護介 に関 るす の をる

う行をりくづ場職いすやし用利を度制

護介 に 面直 たし 員業従 を 象対 に 事仕 と 護介 の 立両 に関5.81

8.51

611

にう行を供提報情るす

取の方き働のめたの立両のと護介、等度制の外以定法実充を組

護介 に関 るす 口窓談相 や 者当担談相 を設 るけ 11 .6

9.01

0.9

るす

を握把ズーニ・態実るす関に立両の護介と事仕の員業従う行

す関に立両の護介と事仕、ずわ問かるいてし面直に護介

1.2

7.2う行を援支な的済経に員業従るあが題課の護介

他のそ

9.5

2.0

いないでん組り取もにれずい

答回無)%(

769=n

0.0010.080.060.040.020.0

)査調業企るす関に立両の護介と事仕(業事及普スィテクラプトスベ援支立両度年42成平「グンィテルサンコ&チーサリJFU菱三:資料出所 」月3年3102)業事託委省労厚(

。施実で式方送郵に象対を社001,5種業く除を務公、業鉱、業産水林農の上以人101員業従、は査調:注

)%(

る 供提報情 を行う

抗抵のとこるれら知に場職、ていつに護介2表図感

%001%08%06%04%02%0

7.61 6.841.72)441=n(性男

6.5 0.41 9.440.92 5.6)701=n(性女

るあ るあやや いなりまあ いな いならかわ

」)査調者働労(究研査調のめたの握把態実るす関に立両の護介と事仕「グンィテルサンコ&チーサリJFU菱三:資料出所月3年3102)業事託委省労厚(

5.3 2.4

対る回上を定法と況状備整の度制業休護介3表図容内応

%001%08%06%04%02%0

間期得取

>況状備整の度制業休護介< >容内備整る回上を定法<

0.22 4.77 6.0)769=n(体全

0.39

2.02数回得取

1.8 2.19 7.0)804=n(下以人0037.91

1.31

件要の族家象対

填補金賃

9.71 1.18 9.0)813=n(人000,1~1031.6態状の者護介要

0.15 0.94 0.0)142=n(上以人100,1

定法 を 回上 る 容内 るあで 定法 のりおど 容内 るあで 答回無

0.8

9.0

他のそ

答回無 312=n)%(定法 を 回上 る 容内 るあで 定法 のりおど 容内 るあで 答回無

0.0010.080.060.040.020.0

)%(

)査調業企るす関に立両の護介と事仕(業事及普スィテクラプトスベ援支立両度年42成平「グンィテルサンコ&チーサリJFU菱三:資料出所 」月3年3102)業事託委省労厚(

特集―介護しながら働き続けるには

Business Labor Trend 2013.8

8

る企業が多くなっています。

 

昨年度はアンケートに加え、企業の

人事担当者に対するインタビュー調査

も実施しました。そのなかで、休業期

間を延長している企業には、介護休業

の期間を三カ月から一年に延ばした場

合、三カ月で復帰ができない人が、一

年に延長したら復帰の目途が立つのか

を尋ねてみました。

 

すると人事担当者からは、わかりま

せんという答えが返ってきます。どう

してかを尋ねると、介護休業を取得し

た人が実際、どのように介護休業を使

い、普段はどのように仕事と介護を両

立しているかなど、立ち入った情報を

得られていないからです。こういう手

探り状態のなか、介護は期限がない、

いつ終わるかわからないという従業員

の不安の声に応えるために、とりあえ

ず期間を延長する企業が出てきている

ことがわかりました。

約七割が所定労働時間を短縮

 

さらに、介護休業や休暇を除いた柔

軟な働き方の導入についても尋ねまし

た(図表4)。もっとも多いのが、一

日の所定労働時間を短縮する制度、つ

まり短時間勤務です。これを導入して

いる企業は七割近くにのぼります。続

いて、半日単位、時間単位等の休暇制

度と始業・終業時間の繰上げ・繰下げ

が多くなっています。

 

ただし、制度の利用状況になると、

導入割合のもっとも多い短時間勤務の

利用割合は非常に低くなっています。

現在、育児目的の短時間勤務制度が普

及しているところですが、まだ運用に

課題があり、とくに男性では利用する

人がほとんどいません。そういうこと

もあり、短時間勤務制度は、導入して

いる企業は多いものの、まだあまり活

用されていない状況です。

 

一方、半日単位、時間単位等の休暇

制度、それから、始業・終業時間の繰

上げ・繰下げは、利用する従業員がい

ると回答する割合が相対的に高くなっ

ています。

米国企業における柔軟な

働き方とは 

 

こうした柔軟な働き方は、他国では

どうなっているのでしょうか。参考ま

でに、米国企業で適用している柔軟な

働き方の調査結果をご紹介します。導

入割合が高いのは、ある時間の範囲内

で始業時間と終業時間を一定期間変更

することができるもの、つまり、始業・

終業時間の変更です。次に、休憩時間

を自分で決めることができるものです。

それから、家族や労働者個人の事情を

理由に有給休暇をとることができるも

のが多くなっています。

 

米国の調査をみますと、米国企業が

方き働な軟柔のめたるす立両を護介と事仕4表図 の

)く除を暇休・業休護介(度制入導

0.96

0.64

度制るす縮短を間時働労定所の日1

度制暇休の等位単間時、位単日半

7.54

0.52

912

げ下繰・げ上繰の間時業終・業始

度制ムイタスクッレフ

務勤日休 の 除免 12 .9

5.12

9.91

用利由事護介の度制立積暇休給有次年効失

度制るす縮短を間時働労定所の月はたま週

9.7

3.21度制用雇再の人たし職退に由事を護介

度制務勤宅在

1.7

1.41

定設の所場務勤の外以宅在

答回無)%(

769=n

0.080.070.060.050.040.030.020.010.0

)査調業企るす関に立両の護介と事仕(業事及普スィテクラプトスベ援支立両度年42成平「グンィテルサンコ&チーサリJFU菱三:資料出所 」月3年3102)業事託委省労厚(

の め た る す 援 支 を 立 両 の 護 介 と 事 仕 5 表 図 慮 配 の へ 所 場 務 勤

6.234.94

87

1.56るいてし慮配を先勤転・動異

9.6

7.4

1.7

4.4

7.8るいてめ認を勤転・動異るよに望希の人本

地務勤 の 更変 を伴う 動異 ・ 勤転 を 除免 るいてし

6.7

7.4

9.7

4.5

6.11他のそ

9.44

93

4.721.7

が所場務勤てっよに動異、りおてれら限が等所業事いなはとこるわ変

3.96.68.5

070605040302010

答回無

) % (

)804=n(下以人003 )813=n(人000,1~103 )142=n(上以人100,1

)査調業企るす関に立両の護介と事仕(業事及普スィテクラプトスベ援支立両度年42成平「グンィテルサンコ&チーサリJFU菱三:資料出所 」月3年3102)業事託委省労厚(

両の護介と事仕:け向員社たし面直に護介6表図み組り取るけおに用運の援支立

7.13

6.23

732

施実を談面と者当担事人や長上の場職、に時始開用利度制

な的人個の下部くなでけだ護介らか頃日、が等職理管の場職知周うよく聞をどなみ悩

を応対なうよいならなに利不が用利度制てったあに等課考事人

4.12

1.21

.施実

・談相別個、し置設を者当担・口窓談相に署部当担務総や事人応対にグンリセンウカ

を談面や換交報情と者当担事人や長上の場職、に中用利度制施実

7.9

3.5

へ下部るいてっ行を護介や度制るす関に護介、てし対に職理管知周ていつにどな法方応対の

ーサの部外う行をグンリセンウカ・談相・供提報情るす関に護介用活をスビ

2.1

8.2理管の場職、めたるすくすやし用利を度制るす関に護介が員社譲委を限権るわ関に用利度制に職

介紹を等談験体や例事用利度制るす関に護介ので内社

4.0

0.2

103

援支をンョシーケニュミコの士同者験経護介の内社

他のそ

特に行 いないてっ .

3.2

0.530.030.520.020.510.010.50.0

答回無

)%(トスベ援支立両度年42成平「グンィテルサンコ&チーサリJFU菱三:資料出所

」)査調業企るす関に立両の護介と事仕(業事及普スィテクラプ月3年3102)業事託委省労厚(

特集―介護しながら働き続けるには

Business Labor Trend 2013.8

9

景気後退のなか、仕事と介護の両立の

問題をどのように捉えてきたかがわか

ります。米国企業は、できるだけフル

タイムに近い形で働いてもらうことが

重要と考えています。先ほど申し上げ

た短時間勤務、あるいは長期休業に従

業員が陥らないよう、できるだけフル

タイムに近い形で働いてもらうために、

時間帯を変更し、必要な休暇を取れる

ようにするなど、従業員の裁量を高め

る取り組みを進めています。

大企業・中堅企業は勤務場所

への配慮も

 

日本に話を戻しますと、こうした働

き方の問題以外に、もう一つ大きな問

題が、転勤の場合の対応です。

 

図表5は遠距離介護の問題などに対

応するため、転勤の場合、勤務場所を

配慮するかを尋ねています。異動・転

勤先を配慮していると答えた企業は、

三○○人以下で三二・六%、三○一人

から一○○○人は四九・四%、一○○

一人以上は六五・一%と多くなってい

ます。三○○人以下の企業は、事業所

が限られ、異動に伴い勤務場所が変わ

ることは少ないので、低い割合にとど

まっています。

 

一方、大企業や中堅企業では、必要

に応じて、勤務場所の配慮は既に行わ

れています。制度化されているわけで

はないかもしれませんが、何らかの配

慮がなされている状況がみてとれます。

介護に直面した社員への両立支援

 

さらに調査では、介護に直面した社

員にどのような取り組みをしているか

を聞きました(図表6)。もっとも多

いのが、制度利用開始時に、職場の上

長や人事担当者と面談を実施すること

です。三割強の企業がこうした面談を

実施しています。続けて、職場の管理

職等が日頃から介護だけでなく部下の

個人的な悩みなどを聞くように周知し

ていることです。それから、人事考課

等にあたって制度利用が不利にならな

いような対応をしている。相談窓口・

担当者を設置して、個別相談やカウン

セリングに対

応しているが

続きます。

 

このように、

実際に介護に

直面した社員

が上長、ある

いは人事担当

者、専門家に

相談できるよ

うな仕組みづ

くりといった

ことに対応し

ている企業が

ある一方で、

特に何も行っ

ていない企業

が三割ありま

す。

 

今日、これ

から紹介され

る二つの企業

の取り組みの中でも行われていると思

いますが、昨年度実施したインタ

ビュー調査でも、現時点で先進的な取

り組みをしている企業においては、こ

ういう相談や、カウンセリングの仕組

みづくりが進んでいました。

気になる人事考課への影響

 

介護に直面した社員への支援として

三番目に多かった、支援制度利用の人

事考課への影響の問題についても聞き

ました。この問題は、今日会場にいらっ

しゃる方の中でも、関心が高いかと思

います。管理職が両立支援制度を利用

した場合、評価に響かないかなど、制

度利用される人にとっても大きな関心

事だと思います。

 

調査では、管理職が両立支援制度を

利用したことによる長期的な昇進・昇

格への影響について尋ねました(図表

7)。影響するは三・七%、やや影響

するは一○・三%となりました。影響

するとはっきり答えたところはかなり

少ない状況です。ただ、私が気になる

のは、わからないと答えた三割近くの

企業です。この「わからない」という

状況が、制度利用される人にとって、

不安材料になるのではないかとみてい

ます。

男性も無関心ではいられない

 

次に、就労者の立場から見た両立支

援の実態と支援ニーズをご報告します。

 

図表8は、先ほどご紹介した男性・

女性それぞれ一○○○人の正社員を対

象とした調査です。男性で介護を担っ

ている人は一四・四%、女性では一○・

七%です。この数値の背景として、女

よにとこたし用利を度制援支立両が職理管7表図響影のへ格昇・進昇な的期長る

るす響影%7.3

るす響影やや%301

答回無%4.1

01 . %3

いならかわ%6.33 いなし響影りまあ

%8.81

いなし響影%1.23

)査調業企るす関に立両の護介と事仕(業事及普スィテクラプトスベ援支立両度年42成平「グンィテルサンコ&チーサリJFU菱三:資料出所 」月3年3102)業事託委省労厚(

護介の親の)員社正(者労就の代05・代048表図況状

てっ担を護介 てっ担を護介

】性男【 000,1=n 】性女【人 000,1=n 人

にですが母父いない 51 5%

%4.41るい

にですが母父いない%561

は親な要必護介てっ担がるい%6.8 いない

%7.01 るい

51 .5%は親な要必護介

てっ担がるい%5.41いない

61 . %5

は親な要必護介いない%6.55

は親な要必護介いない%2.46

資料出所: 菱三 JFU サリ ーチ& グンィテルサンコ 「 事仕 と 護介 の 立両 に関 るす 握把態実 のめたの 究研査調 ( 査調者働労 」)月3年3102)業事託委省労厚(

計女男)員社正は前職離(者職離たしと機を護介、と人0001各女男)員社正(者労就の代歳05~代歳04、は査調:注。施実りよに査調ータニモので上トッネータンイ、に象対を人0001

特集―介護しながら働き続けるには

Business Labor Trend 2013.8

10

性は介護で離職している人が多いこと

があるとみられます。調査は、四○代、

五○代で、会社に残って正社員として

働いている方を対象としていて、こう

したベースで介護に携わっている割合

をみると、男女差はほとんどないとも

いえます。

 

問題は、男性の場合、配偶者がいる・

いないでこの割合が変わることです。

配偶者がいない男性は、介護を担って

いる割合が二割になります。おもしろ

いのは、配偶者がいる男性では、妻が

専業主婦の場合でも働いている場合で

も、介護を担う割合に変化がないこと

です。妻が専業主婦だから男性は介護

をしないわけではないのです。

 

今回調査では、介護の概念を広めに

とっています。ちょっとした手助けも

含めて回答しているかもしれません。

どの程度、介護をしているかは別とし

て、妻が専業主婦だからといって男性

も介護に無関係ではいられないことが

見てとれます。

働きながら介護している人の内容

 

次に、正社員として働きながら介護

している人の介護内容をグラフにしま

した(図表9)。

 

棒グラフが介護全体です。今回調査

対象となった人が介護している要介護

高齢者の五四・九%が、排泄や入浴等

の身体介護を必要としていることがわ

かります。このうち、実際に正社員と

して働いている方が自分で行う割合は

一一・三%とかなり低くなっています。

そのかわり、事業者や要介護者の配偶

者が担う割合が高くなっています。

 

では、正社員として働きながら介護

している調査対象者は何をしているの

かというと、入退院手続きや金銭管理、

サービス利用にかかる調整・手続きな

どをしています。先ほど、佐藤先生が

マネジメントとおっしゃいましたが、

そういうことをやっている割合が高く

なっています。

離職者は自らが介護を負担する

傾向が

 

同じ内容を介護で離職した人につい

てみたのが図表10です。

 

全体の介護の量も、少し多くなって

いますが、特徴的なのは、本人が介護

する割合が非常に高いことです。この

調査は、介護で離職した人が離職前に

行っていた介護の状況を聞いたもので

す。これをみると、正社員として働き

ながら五割近くの人が直接身体介護を

担っていたことがわかります。先ほど

の両立している人と比べ、身体介護や

家事など、日々手がかかることを自分

でやっていた割合が高いことがわかり

ます。こうしたことを自分で行うと、

仕事を続けていくのが厳しいことがみ

てとれます。

 

身体介護や家事、見守りなどは毎日、

発生してくるものです。一方、先ほど

見ていただいた両立している人が担っ

ている、サービスの調整や入退院手続

き、緊急搬送時の対応などは頻度が高

くありません。こうしたサービス利用

にかかる調整や手続きをしながら働い

ている場合と、自分で全部介護しなが

ら働いている場合では、仕事の続けや

すさに差があるように考えられます。

仕事と介護の両立における不安

 

仕事と介護の両立における不安をグ

ラフにしたのが図表11です。

 

これをみると、働きながら介護して

いる人で一番高いのは、自分の仕事を

代わってくれる人がいないことです。

一方、離職者でみると、介護休業制度

等の両立支援制度がないことをあげて

います。また、現在まだ介護をしてな

い人では、介護サービスや施設の利用

方法、両立支援制度の中身がわからな

いことが不安材料になっています。

 

不安として上げられているもののう

ち、離職者と現在介護している人の両

678%09

%001) 3 9 1 = n (

7.67

0.68 .

8.080.58

1.57

5.07

8.46%07

%08

9.45

0.050.25

1.74

0.15

2.15

5.16

3.746.24

%05

%06

9.82

%02

%03

%04

0.1

3.11

%0

%01

護介るいてれわ行 護介う担が者偶配の者護介要 護介う担がたなあ

護介う担が者偶配のたなあ 護介う担が域地・族親 護介う担が者業事

「で」人1が母父るすと要必を護介「:1注 1 。るいてし計集てしと象対をみの者答回」るいてし護介を母父の人

を」護介るいてれわ行「、は合割の手い担各:2注 0 0 1 。のもたし出算てしと

関係機関(警察・

施設等)からの

呼び出し対応

手助・介護の役割分担

やサービス利用等に

関わる調整・手続き

救急搬送、緊急入院

などの急変時の対応

通院の送迎や

外出の手助け

入退院の手続き

ちょっとした

買い物やゴミ出し

食事の支度や掃除、

洗濯などの家事

定期的な声かけ

(見守り)

排泄や入浴等の

身体介護

金銭の管理

資料出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究(労働者調査)」       (厚労省委託事業)2013年3月

者労就:容内護介の人るいてし護介らがなき働てしと員社正9表図

9683.98

2.298.98

%09

%001) 5 6 6 = n (

936

. 3.587.28

1.771.37

566676

0.968.27

296%07

%08

. .

3.95

..

1.06

1.36

3.74%05

%06

0.04

%02

%03

%04

8.0%0

%01

護介るいてれわ行 護介う担が者偶配の者護介要 護介う担がたなあ

たなあ 者偶 が担う 護介 族親 域地 が担う 護介 者業事 が担う 護介配の が ・

「で」人1が母父るすと要必を護介「:1注 1 。るいてし計集てしと象対をみの者答回」るいてし護介を母父の人

を」護介るいてれわ行「、は合割の手い担各:3注。るいてい聞ていつに況状護介の前職離:2注 0 0 1 。のもたし出算てしと

関係機関(警察・

施設等)からの

呼び出し対応

手助・介護の役割分担

やサービス利用等に

関わる調整・手続き

救急搬送、緊急入院

などの急変時の対応

通院の送迎や

外出の手助け

入退院の手続き

ちょっとした

買い物やゴミ出し

食事の支度や掃除、

洗濯などの家事

定期的な声かけ

(見守り)

排泄や入浴等の

身体介護

金銭の管理

資料出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究(労働者調査)」       (厚労省委託事業)2013年3月

表図 01 :容内護介の人るいてし護介らがなき働てしと員社正 者職離

特集―介護しながら働き続けるには

Business Labor Trend 2013.8

11

方で高いのが、人事評価に悪影響が出

る可能性です。さらに、離職者と介護

する親がいるものの自分で担っていな

い人で共通するのが、労働時間が長い

ことです。ここは突っ込んで検討しな

いとわかりませんが、現在介護する親

がいるのに、自分で担えていない人は、

自分の職場環境が厳しいので、ほかの

兄弟や配偶者などに担ってもらってい

る状況があるかもしれません。

勤務先に相談する人は少ない

 

このような不安を抱えながら、どの

ようなところに介護の相談をしている

のでしょうか。

 

相談先で一番多いのは家族や親族で

す。次に、ケアマネジャーが専門家と

してかなり頼られています。特に今、

両立している人はケアマネジャーに相

談している割合が高くなっています。

それから、これはもっと知られたほう

がいいと思うのですが、地域包括支援

センターへの相談もあがっています。

 

一方、みなさまのご関心のある勤務

先への相談は、非常に低い割合になっ

ています。これは、先ほどみていただ

いたように、職場に知られることへの

抵抗感があるから相談しないのではな

いようです。では、どうして相談しな

いかというと、やはり相談してもどう

にもならないと思われているからです。

就労者から見ると、残念ながら、今の

ところ、勤務先は相談先として頼られ

ていない状況ではないかと思われます。

両立のイメージづくりを

 

先ほど、佐藤先生からもお話があり

ましたが、介護を機に離職してしまう

と、精神面、肉体面、経済面で負担が増

します(図表12)。仕事と介護を両立す

るのは精神的にも、肉体的にも、経済的

にも苦しいと思うかもしれませんが、辞

めるともっと苦しくなることをわかっ

ていただく必要があるかと思います。

 

こういう状況を踏まえて、仕事と介

護を両立するにはどのような支援が必

要かを考えま

すと、企業に

おける取り組

みが重要なこ

とは言うまで

もありません。

ただ、企業内

の取り組みだ

けでは限界が

あることも見

えてきました。

企業だけでは

なく、社会全

体を巻き込ん

だ仕事と介護

の両立を肯定

する意識の醸

成、仕事と介

護の両立モデ

ルの提示、両

立可能な介護

の仕組みづく

り、こうした仕組みを活用した両立事

例が求められます。

 

子育ての場合なら、育児休業をとり、

短時間勤務で復帰し、ある程度やって

いけるイメージがようやくできあがっ

てきました。しかし、介護の場合はこ

うしたものがありません。これは大き

な問題です。こうした両立事例のイ

メージをつくっていくことが必要なの

ではないかと思います。

多様な社会資源の活用を

 

介護をする場合、企業において、両

立できるような働き方を提供すること

は重要です。ただ、企業だけが努力し

ても調査でみた離職者のように働く介

護者が一人で介護を抱え込んでしまっ

ては、支援することが難しくなります。

では、両立する人が困らないように介

護保険のサービスを増やしてくれと

いっても、財源の問題も取り沙汰され

ているなか、大幅に増やすことは難し

いと思います。

 

介護においては、家族や親族の役割

も重要です。さらに、地域での取り組

みも必要となります。こうした多様な

社会資源があることを認識してもらい、

それぞれを少しずつ活用してもらうこ

とが重要です。介護保険についても、

大幅にサービス量を増やすことはでき

なくとも、サービス内容や提供の仕組

みなどを両立の視点から見直して、再

度構築していく必要があるのではない

かと思います。

企業と社会が一体で取り組む

 

具体的に、企業と社会、それぞれに

必要な取り組みをあげます。

表図 11 容内的体具の安不るけおに立両の護介と事仕

5.337.03

7.52

0.040.530.030.520.020.510.010.50.0

とこいないが人るれくてっわ代を事仕の分自

) % (

1.52

5.71

8.02

7.41

4.12

381

6.72

1.22とこる減が入収とるす用利を度制援支立両の等度制業休護介

等度制業休護介 の 度制援支立両 なが こい と

1.31

7.21

0.61

4.31

.

8.52

122

8.92

2.21とこいならかわが法方用利の設施やスビーサ護介

こいならかわかい良ばれせわ合み組をスビーサ護介と度制援支立両にうよのど

7.21

4.21

8.7

47

.

2.8

6.51

4.31

とこるあが性能可るでが響影悪に価評事人

等度制業休護介 の 度制援支立両 を 用利 いくにし 気囲雰 とこるあが

0.21

6.11

.

7.71

78

5.01

9.21

1.61

1.91とこい長が間時働労

8.01

69

.

4.7

7.11

3.9

9.11

8.31

とこいないが人るいてし用利を度制援支立両の等度制業休護介

とこいならかわはくしも、とこいなが等署部るす談相

.

4.6

84

3.4

1.9

3.6

8.51

0.31

0.51

とこいなれら得に分十が力協・解理の族親・族家

とこいならかわが容内や無有の度制援支立両の等度制業休護介

者労就 : 護介 を担 るいてっ (n= 152 ).

4.2

6.5

7.1

3.6

8.1

9.31

3.3

とこむ望が僚同・司上をとこるめやを事仕らなるすを護介・助手

他のそ

いないてっ担がるい親な要必護介:者労就)132=n(

)891,1=n(いないは親な要必護介:者労就

)499=n(者職離】考参【

に立両の護介と事仕「グンィテルサンコ&チーサリJFU菱三:資料出所」)査調者働労(究研査調のめたの握把態実るす関

月3年3102)業事託委省労厚(

21表図

613 333 321321 37

%001%08%06%04%02%0

面神精 13 .6 33 .3 21 .321 .3 7.3

3.22 3.43 0.411.81

70

1.8 1.3面体肉

9.53 0.93 6.91 2.1

0.7

5.3面済経

499=nたし増が担負に常非 たし増が担負 いならわ変

たっ減が担負 たっ減が担負りなか いならかわ

に立両の護介と事仕「グンィテルサンコ&チーサリJFU菱三:資料出所 )業事託委省労厚(」)査調者働労(究研査調のめたの握把態実るす関 月3年3102

)担負(化変の後職離たしと機を護介

3.23 2

特集―介護しながら働き続けるには

Business Labor Trend 2013.8

12

 

まず企業には、実態把握に加え、両

立支援の方針を明確にすることが求め

られます。企業の方から会社を辞めな

いほうがいいよ、続けられるのではな

いかというメッセージを出すことが重

要です。介護に直面する前から両立の

イメージを抱いてもらえるよう情報を

提示することが必要です。さらに、両

立可能な介護の仕組みづくりとしては、

柔軟な働き方の可能な職場づくりとい

うことで、長期の休業よりも、必要な

ときに取得できる休暇や時間帯の調整、

柔軟な働き方に即した人事評価制度の

構築が求められます。

 

一方、社会全体でいうと、両立の視

点に立った介護の実態がなかなか把握

されていないのが現状です。こういう

状態なら、どういうサービスが利用で

きるのか。どうサービスを利用したら

生活が成り立つのかという情報があり

ません。こうした実態把握が求められ

ます。さらに、介護イコール離職イメー

ジの払拭、仕事と介護の両立の視点か

らアドバイスできるケアマネジャーの

育成も非常に重要だと思います。

 

こうした取り組みを通じて、社会、

企業が一体となって、仕事と介護の両

立を可能にするイメージや制度づくり

をすすめていくことが必要なのではな

いでしょうか。

事例報告1

仕事と介護の両立支援について

     

︱大成建設の取り組み

大成建設

管理本部人事部人材いきいき推進室長 

塩入 徹弥

 

今日は、会社の両立支援ということ

で、取り組みを始めた経緯、具体的な

内容、今後の方向性についてお話しま

す。

取り組みを始めた経緯

 

最初に、当社がなぜ仕事と介護の両

立に取り組むようになったかを簡単に

ご説明します。一番の要因は、建設業

を取り巻く厳しい環境があったからで

す。図表1をご覧いただくと、建設投

資、いわゆる工事の量は、一九九二年

頃をピークに右肩下がりになっていま

す。一方、建設業者は工事量の減少に

比例していなくて、あまり下がってい

ません。建設業界は過剰供給構造にあ

るわけです。

 

一方、社内に目を向けると、社員数

は八一六○人程、平均年齢は四二・二

歳、平均勤続年数は一八・六年となり

ます。平均勤続年数については、今で

は男女の差はほとんどありません。

 

しかし、一九九○年頃は女性の勤続

年数は非常に短く、その後どんどん延

びて、二○○五年頃には、今とほぼ同

じような状況になっていました。その

ような状況のもと、厳しい競争を勝ち

抜いていくには、社員のモチベーショ

ンに加え、生産性の向上に取り組む必

要がありますが、女性の力を活かしき

れていないのではないかということで、

ワーク・ライフ・バランス、ダイバー

シティの推進に積極的に取り組んでい

くことが決まりました。

 

それを具体的に進めていくなかで、

いろいろな方策に取り組んできました。

たとえば、女性社員のヒアリングや、

いきいきと働ける職場環境改善活動の

実施などです。こうした取り組みを進

めるうちに、だんだんと介護に対する

不安の声が上がってきました。

 

当時、ワーク・ライフ・バランスの

意識を広めていく活動もやっていまし

たが、そこでよく耳にしたのが、「ワー

ク・ライフ・バランスは、子育てする

女性のための取り組みではないか」と

いう声でした。こうした誤解もあり、

男性にも関係ある取り組みであること

を認識してもらいたくて、高齢化が

進むと男性も無縁でなくなる介護を

テーマにした意識啓発の研修をする

ことになりました。佐藤先生がおつ

くりになったDVD「ワーク・ライ

フ・バランス」を用いながら研修を

しました。

意識啓発のための研修を実施

 

このDVDにはドラマがあります。

五○歳を超えバリバリ仕事している

男性の営業部長のお父さんが倒れて

しまい、介護をしなくてはならない

状況になりました。それに伴い考え

方や、働き方が変わっていくドラマ

です。このDVDをみた男性社員、

特に年齢が高い男性社員からは結構

な反響がありました。今まであがっ

ていた介護に対する不安の声に加え、

DVDをみた男性社員からの反響もみ

て、やはり会社として介護の問題に真

剣に向き合っていかなければならない

図表1 女性活躍推進への取り組みを始めた経緯

人がいきいきとする環境を創造する

民間投資

政府投資

建設投資ピー ク時84兆円

業者数ピー ク時60万社

建設投資と業者数の推移

建設業を取り巻く厳しい環境

図表1 女性活躍推進への取り組みを始めた経緯図表1 女性活躍推進への取り組みを始めた経緯

特集―介護しながら働き続けるには

Business Labor Trend 2013.8

13

と感じました。

 

また、佐藤先生が主催している東京

大学のワーク・ライフ・バランスの研

究推進プロジェクトとタイアップした

介護のアンケートも実施しています。

そこで吸い上げたニーズや状況を、そ

の後の制度設計や施策に結びつけてい

ます。

具体的な取り組み内容

 

具体的な制度については、図表2を

ご覧ください。上の三つは、法定どお

りの制度となっています。その下の勤

務時間の繰り上げ・繰り下げは、職場

単位で柔軟に設定できるものです。リ

バイバル休暇は、繰り越し満了で消滅

する有休をある一定期間保存できるも

ので、これを半日単位で定期的な介護

に利用することができます。勤務地変

更制度は、勤務地が限定している社員

が介護するとき、希望勤務地への異動

を認めるものです。最後のジョブリ

ターン制度は、介護を理由に退職した

社員が、状況が変わったので働きたい

と希望したとき再雇用できる制度です。

 

ただ、介護休業の九三日については、

このままでいいのかと、私自身もいろ

いろ考える時期がありました。よく社

員から出る声に、「介護は九三日では終

わらない」というものがあります。そ

れから、「そんなに短い介護休業なら、

本当に必要なときのため、大事にとっ

ておく」という話も聞きます。そうし

ているうちに、介護休業を取らずに終

わってしまう。では、どのぐらいの休

業期間があればいいのでしょうか。三

年~四年との見方もありますし、先ほ

どの佐藤先生のお話では、介護にかか

る平均期間は四年から五年というお話

もありました。では、そこまで休業期

間を延ばしていく必要があるのか。介

護にはいろいろなケースがあり、一概

には言えません。介護に取り組む社員

の価値観とか、考え方もいろいろ違い

ます。単に介護休業の期間を延ばした

だけでは、社員の納得感は得られない

と考えました。

制度の充実より情報提供を

 

そんなことを考えているうちに、佐

藤先生が主催している東京大学のワー

ク・ライフ・バランス研究プロジェク

トに参加するようになりました。そこ

では、いろいろなことを勉強させてい

ただきました。先ほどの介護休業の九

三日の意味も、そこで勉強するなかで、

私自身がわかってきたことでもありま

す。そうこうしているうち、だんだん

介護に関する基本スタンスが固まって

きました(図表3)。

 

会社としてやるべきことは、仕事と

介護の両立を支援することで、介護に

注力することを支援するのではないと

いうことです。このスタンスが決まっ

てからは、期間を延長するよりは、情

報を提供して、できるだけ介護に備え

ることをサポートすることに注力する

ようになりました。情

報提供の内容

 

情報提供を本格化

したのは二○一○年

頃からです(図表4)。

まず一番上の介護保

険制度についてです。

公的な保険制度につ

いてや、会社の介護

関係の制度について

は、人事部のホーム

ページに詳しくまと

めて紹介してありま

す。そのうち、会社

の制度については、

「介護のしおり」と

題した冊子にもまと

めました。ほかにも、

社員がいきいきと働

くためにどうしたら

いいのかということ

人がいきいきとする環境を創造する

制度名 内容

介護休業制度 法定どおり(※勤務時間短縮制度と合わせて)

介護休暇制度 法定どおり

時間有休制度 法定どおり

勤務時間の繰り上げ下げ 1日の労働時間を変えずに運用

リハ イ゙ハ ル゙休暇繰越期間満了により消滅する有給休暇 ⇒

定期的な介護に利用(半日単位での利用可)

勤務地変更制度 勤務地限定社員 ⇒ 希望勤務地への異動が可能

シ ョ゙フ リ゙ターン制度 介護を理由に退職 ⇒ 雇用希望 ⇒ 再雇用

図表2.具体的な取り組み内容(制度)図表2.具体的な取り組み内容(制度)

人がいきいきとする環境を創造する

図表3.具体的な取り組み内容図表3.具体的な取り組み内容

介護に関する基本スタンス

仕事と介護の両立を支援

介護に注力することを支援するのではない

制度の充実より情報提供へ

図表2 具体的な取り組み内容(制度)

図表3 具体的な取り組み内容

www.themegallery.com Company Logo人がいきいきとする環境を創造する

3.具体的な取り組み内容(情報提供)3.具体的な取り組み内容(情報提供)

介護に関する情報提供

1)介護保険制度

2)介護に関する両立支援制度

3)介護セミナーの実施

4)介護施設検索

2010年より本格化

情報提供用HP

ハンドブック

介護のしおり

図表 4 具体的な取り組み内容(情報提供)

特集―介護しながら働き続けるには

Business Labor Trend 2013.8

14

を考える教材として、ハンドブックを

つくり、社員に配布しましたが、この

なかにも、介護に関する制度を盛り込

んであります。

 

次の介護に関する両立支援制度につ

いては、いざ介護をしなければいけな

い状況になったとき、ケアマネジャー

と細かい話をするのも大変なので、簡

単にまとめたリーフレットを作成しま

した。これをみれば、だいたい一通り

の制度がわかるようにしてあります。

 

セミナーについては、介護に関心の

ある社員を集めて定期的に開催してい

ます。会社から一方的に情報提供する

のではなく、講師の先生に直接いろい

ろなことを聞ける機会や、参加者同士

がお互いに情報交換できる機会も設け

ています。

 

ほかには、介護施設の検索がありま

す。介護を不安に感じる要因のひとつ

に、介護施設にはどんなものがあるか

わからないことがあります。社外の企

業(株式会社ワーク・ライフバランス)

と契約し、介護関連の施設が検索でき

るような体制を整備しています(図表

5)。

今後の課題とめざすべき方向性

 

最後になりますが、これまでの取り

組みを振り返って、現在、新たに実施

していること、それから、今後、実施

しようとしていることについてご説明

します。

 

これまで情報提供に注力し

ているお話をしましたけれど

も、社員にアンケートをする

と、まだその情報、介護に関

する仕組みが全員に知れ渡っ

ていないことがわかりました。

そこで、まずやろうとしてい

るのが、この情報提供を徹底

することです。会社としては、

いろいろな媒体を使って、こ

れまでも情報提供してきまし

た。しかし、介護に直面して

ないと、目に入ってもなかな

か意識の中にとどまらないと

思います。

 

そのため、今後、考えてい

るのは、全社員を対象にした

アンケートやeラーニングの

実施です。質問に答えてもら

う中で、会社の仕組みや制度

について、少なくとも概要は

理解してもらいたいと考えています。

先ほど、アンケートを実施したお話を

しましたが、そのときは、社内の状況

把握という観点があったので、全員を

対象にしたアンケートではなくて、サ

ンプル調査にとどまりました。ただ、

アンケートは情報提供の側面もありま

すので、今後は全社員を対象に実施し

ていきたいと考えています。

ターゲットを絞った情報発信を

 

それから、情報発信も、これまでは

全社員を対象に行っていましたが、今

後はターゲットを少し絞った形で行っ

ていきたいと思います。先ほど佐藤先

生からも、四○歳とか五○歳、六五歳

というお話がありました。ターゲット

を絞り込むことで、これは自分に関係

あると気づき、社員のアクセスが向上

します。どういうことをやったかとい

いますと、四○歳になった社員に、介

護保険料の徴収が始まることをお知ら

せする内容を掲示板に載せました。そ

こにアクセスしてもらい、会社の制度

や施設が検索できるサイトまで誘導す

る仕組みをつくりました。これはかな

り効果的だったので、今後、親が六五

歳になった社員、七五歳になった社員

向けのアプローチも進めていくことを

考えています。

 

関心の高いセミナーの実施について

は、公的な介護保険制度、それから、

介護施設に関することを、もっと知り

たいというニーズが社員から上がって

きています。こうしたニーズに対応す

るため、この部分は独立した形でセミ

ナーを開催して、社員の声に応えてい

きたいと思っています。

相談窓口や組合との連携も

 

それから、もうひとつの柱が、情報

の把握です。会社としては、できるだ

け社員の実態をつかむことが制度の整

備や、支援につながると考えています。

しかし、先ほどからお話がありますよ

うに、なかなか会社の人事のほうに、

そうした話が上がってこないのが実情

です。

 

そこで、会社はもちろん相談窓口を

設けていますが、会社以外の相談窓口、

たとえばEAP(従業員支援プログラ

ム)とか、産業医の先生とか、労働組

合の窓口ともタイアップして、守秘義

務もありますが、できる限り情報共有

して、サポート体制を築いていきたい

と考えています。

 

たとえば、会社側からEAPでも介

護に関する相談も受け付けていること

を周知します。一方、外部の相談窓口

に行ったときには、会社でもこうした

制度があるので、ぜひみてくださいと、

お互いの制度や仕組みを紹介し合うこ

ともやっていきたいと考えています。

 

最後に、権利として持っている休暇、

この休暇をできるだけ長い間、細かく

でもいいから、使いたいという社員の

ニーズがあります。それから、在宅勤

務のニーズも聞こえてきています。今

後は、介護する人が増えてくると、い

ろいろなパターンが出てくると思いま

す。会社も柔軟に考えていく必要があ

ると思います。常に社員のニーズ、状

況把握に努めながら、仕事と介護の両

立というスタンスのもと、実りある制

度、支援体制を築いていきたいと考え

ています。

人がいきいきとする環境を創造する

図表4.具体的な取り組み内容(情報提供)図表4.具体的な取り組み内容(情報提供)

介護に関する情報提供

1)介護保険制度

2)介護に関する両立支援制度

3)介護セミナーの実施

4)介護施設検索

介護セミナー

介護ナビ

2010年より本格化

【提供元:㈱ワーク・ライフバランス】

図表 5 具体的な取り組み内容(情報提供)

特集―介護しながら働き続けるには

Business Labor Trend 2013.8

15

 

本日は、丸紅のワーク・ライフ・バ

ランスと介護支援に関する取り組みを

ご紹介します。

 

まず、介護の話に入る前に、ワーク・

ライフ・バランス全般の取り組みにつ

いて、簡単にご説明します。

 

二○○五年に育児介護休業法の改正

があり、当社では、そのころから法令

を上回る制度設計に取り組んでいます。

二○○六年には会社独自の休暇制度、

たとえば、ファミリーサポート休暇や

特別傷病休暇の介護等への転用を可能

にするなど、独自の取り組みも進めて

きました。また、短時間勤務や時差勤

務についても、育児と介護で足並みを

そろえて整備を進めてきました。

「丸紅のワーク・ライフ・

バランス」を定義

 

会社にとってワーク・ライフ・バラ

ンスに関する大きな転換点は、二○一

○年でした。当社では二○○六年以降、

ワーク・ライフ・バランスという言葉

を使って推進してきました。しかし、

社員の中でも、人によってワーク・ラ

イフ・バランスの捉え方がまちまちで

あり、会社として改めてベクトルを合

わせることが必要だと感じていました。

そこで、改めて、「丸紅のワーク・

ライ

フ・

バランス」を定義し、“社員一人ひ

とりの「会社への貢献」の極大化”を

推進目的として掲げました。中長期的

な社員一人ひとりの「会社への貢献」

の総和ができるだけ大きくなることを

めざし、これからご紹介する介護の支

援施策に関しても、この推進目的を基

本理念として、制度設計や施策の運用

をしています。

 

なお、丸紅では、ワーク・ライフ・

バランスを、介護を含む「ライフイベ

ントサポートプログラム」と、メリハ

リある働き方を推進する「メリハリ

ワーク推進プログラム」の二つに分け

て推進しています。

介護支援施策拡充のきっかけ

 

では、介護支援に関する取り組みに

ついてご紹介します。

 

介護支援施策については昨年一部の

拡充を図り、九月にニュースリリース

しました。そこに至る経緯とともに、

具体的な取り組みについてお話します。

 

介護支援施策の拡充に至る大きな

きっかけは二つありました。ひとつは、

介護予備軍増加の兆しを人事部が肌で

感じたことです。具体的には、キャリ

アプラン申告書に設けている、会社が

配慮すべきことや知っておくべきこと、

たとえば健康ですとか、家族、その他

個人の事情について記入する欄に、親

の介護の問題や、老いてきた親が心配

だとか、老齢の親がひとり暮らしをし

ているとか、将来の介護に対する不安

を記載する社員が増えていることを感

じていました。

 

二つ目として、介護に対する不安か

ら、海外の人事異動に影響が出始めた

という経緯もあります。介護を抱える

世代は海外で主管者クラスを担って欲

しい世代でもあり、まさに社員の介護

の問題は経営にも直結するインパクト

のある課題といえます。

介護予備軍の増加が明らかに

 

介護施策拡充のもうひとつのきっか

けは、介護ニーズ調査です。先ほどご

紹介のありました東京大学の研究会を

通じて、二○一一年度に実施したもの

です。四○代、五○代の社員約二○○

○人にアンケートを配布し、四割弱か

ら回答を得ました。結果は、人事部と

して肌で感じていた介護予備軍増加の

きざしを数字で証明するものでした。

 

まず、現在介護中の社員は一一%と

なり、内訳は男女ほぼ半々でした。年

代別に見ると、四○代は四%でしたが、

五○代になると一気に一八%まで跳ね

上がりました。さらに、介護中の社員

のうち七七%が、自分が主たる介護者

であると回答しています。

 

また、今後五年以内に介護をする可

能性については、「かなり可能性が高

い」と「少しある」を合わせると、八

四%に達しました。これはわれわれに

とって衝撃的なデータでした。さらに

衝撃的だったのは、そのうち九六%が

将来の介護に不安を感じていると回答

したことでした。また、情報が足りな

いことにより、漠然とした不安を持っ

ていることが浮かび上がってきました。

二つの大きなハードルが

 

この介護ニーズ調査の結果を受けて、

具体的に何をするか検討を始めました。

しかし、そこには二つの大きなハード

ルがあると感じました(図表1)。一

つは、先ほどからご指摘のあることで、

育児に比べて介護はいろいろなパター

ンがあり、人事部として、自分たちの

手でできることは限界があるのではな

いかと感じたことです。

 

二つ目は、介護保険や介護サービス

の仕組みが非常に複雑でわかりにくい

ことです。情報を持っているかどうか

が仕事と介護の両立体制整備の鍵を握

るにもかかわらず、これだけ複雑では、

社員が個別に情報収集しようにも、な

かなか大変だな、と思いました。

事例報告2

丸紅のワーク・ライフ・バランスと介護支援に関する取り組み

丸紅

人事部ダイバーシティ・マネジメントチーム・チーム長補佐 

許斐 理恵

特集―介護しながら働き続けるには

Business Labor Trend 2013.8

16

情報提供と支援体制強化を

 

こうしたなか、会社として何ができ

るか検討を重ねました。出した結論は

「情報提供」と「個別相談・支援体制

の強化」です。

 

社員自身が将来の介護に備える支援

をし、いざ介護に直面する前に両立の

イメージを持てるようにすること、そ

して、実際に介護に直面したときや、

介護の状況が変化したときにスムーズ

に両立体制がつくれるようにサポート

することが、会社ができる支援だと考

えました。このための「情報提供」と

「個別相談・支援体制の強化」を二本

柱とし、いろいろな施策を考えていき

ました。

フェーズに合わせた制度の活用を

 

図表2は、当社の介護に関する施策

の一覧です。昨年の施策拡充の際は制

度面の改定はまったくしていません。

ただ、介護のフェーズに合わせてどの

制度が使えるのか、制度の利用につい

ての解説をこの一覧表に加えることに

しました。たとえば、当社の場合、介

護休暇は要介護状態でなくても、介護

準備段階から使える運用としているこ

とを明記したり、介護休業に関しても、

自分自身の手で介護するための期間で

はなく、仕事と介護の両立体制を確立

するための準備期間であることを明示

するなど工夫をこらしました。

継続的にセミナーを開催

 

次に、情報提供の取り組みをご

紹介します。情報提供の柱のひと

つは、昨年度作成した介護支援ハ

ンドブックです。会社の制度、仕

組みはもちろんですが、複雑でわ

かりにくい介護保険の仕組みや認

定の流れ、デイサービスなどの在

宅サービスや介護施設など介護

サービスの概要を紹介しています。

さらに、介護期間は平均四、五年

にわたること、お金はどのくらい

かかるのかなど、介護の一般的な

情報も盛り込んでいます。

 

情報提供の二つ目の柱は、二○

一○年度から継続的に実施してい

る介護セミナーです。東京本社で

年二回、大阪支社で年一回、合計

九回実施し、延べ六○○人弱が聴

講しました。非常に人気の高いセ

ミナーです。過去のテーマでは、

介護保険の上手な使い方や介護施設の

選び方などを取り上げました。今年度

以降もテーマを変えながらセミナーを

継続していきたいと思っています。た

とえば、遠距離介護に関しても非常に

関心が高いので、今年は取り上げてみ

たいと思います。

遠距離介護や見守りサービス

の対応も

 

次に、個別相談と支援体制強化につ

いてご説明します。ひとつは、NPO

法人「海を越える

ケアの手」との法

人契約があります。

このNPOは、介

護支援全般に詳し

いことに加えて、

名前からもわかる

とおり、遠距離介

護支援を得意とし

ています。

 

当社では、海外

駐在と介護の問題

が喫緊の課題でし

たので、二○一○

年に海外駐在員向

けに契約をしまし

た。そして昨年に

は、利用対象を全

社員まで拡大しま

した。これにより、

社員は介護の相談

をいつでも無料で

受けることができ

ます。こうした相

談のほかにも、離

れて暮らす親を見守り、介護のケアプ

ラン作成・実行などの個別支援を入会

金なしで受けることができるようにな

りました。

個別相談会の開催も

 

加えて、介護個別相談会も始めまし

た。会社の会議室に先ほどのNPOよ

り専門家をお招きして、一時間ほど、

社員が個別にじっくりと相談できる機

会で、家族の同伴も可能としています。

これも東京本社、大阪支社で定期的に

開催し、今後も実施する予定です。そ

トンイポの充拡策施援支護介度年21021表図

るあがンータパな様多種多、べ比に児育は護介→ るあがり限もに援支るきでてしと部事人 るあがり限もに援支るきでてしと部事人

雑複がスビーサ護介や険保護介、がかうどかるあが識知礎基のていつに護介→

るなに鍵の立両

供提報情 ・談相別個化強制体援支

や」え備のへ護介「の身自員社援支を」備整制体立両の護介と事仕「 援支を」備整制体立両の護介と事仕「

図表2 介護支援施策一覧

特集―介護しながら働き続けるには

Business Labor Trend 2013.8

17

のほか、セコム株式会社と法人契約し、

オンライン・セキュリティシステムで

親を見守る「高齢者見守りサービス」

も利用できるようにしています。

会社で介護の話ができる風土

づくりを

 

介護支援施策拡充の機会を捉え、例

年実施している介護セミナーとは別に、

昨年は労使共催で介護講演会を開催し

ました。先ほど、佐藤先生より四○歳

のときの情報提供というお話がありま

したが、特にそのぐらいの働き盛りの

社員は、なかなか介護に目が向かない

のが実情です。こうしたこともあり、

あえてサブタイトルに、「親が六五歳を

過ぎたら」とつけました。狙いは的中

し、介護講演会の聴講者は四○代社員

がボリュームゾーンとなりました。二

○代から五○代の社員約一六○人が参

加し、あらゆる年代の社員が介護に関

する理解を深め、人ごとではないと理

解してくれたようです。

 

そのほか、広報活動として、広報部

とタイアップして、グループ広報誌、

これには、紙媒体とウェブ媒体がある

のですが、こちらでワーク・ライフ・

バランスや仕事と介護の両立について

特集したり、動画で紹介するなどの情

報発信もしています。

 

このように、いろいろな機会を捉え、

介護について情報発信を続けることが

重要だと思っています。介護は決して

特別ではないという雰囲気をつくり、

会社で介護の話ができる風土づくりに

つながればという思いで、今後も情報

発信を続けていきます。

研究報告

仕事と介護の両立支援の新たな課題

JILPT副主任研究員 

池田 心豪

 

これまでの報告で、仕事と介護の両

立支援で何をしたらいいのか具体的に

わかってきたかと思います。

 

私の報告では、仕事と介護の両立支

援でまだ明らかになっていない新たな

課題について分析した、当機構の研究

成果をご紹介します。

勤務時間外の介護疲労が

仕事に影響

 

昨年度行いましたヒアリング調査か

ら、まず勤務時間外の介護疲労による

仕事の能率低下が軽視できない問題で

あることがわかりました。

 

図表1の仕事と介護の両立相関図を

ご覧ください。従来の両立支援は、た

とえば、親が倒れたときの緊急対応や

その後の介護生活の態勢づくりである

とか、通院の付添い、あるいは在宅サー

ビスの利用時間が短いといったことか

ら、勤務時間を調整するものが中心で

した。介護の用事が発生したとき、仕

事を休まざるを得ないとか、勤務時間

を変更せざるを得ないとか、そういう

物理的な時間のやりくりが難しい状況

に直面したときに、休業や休暇が必要

になりますよ。短時間も必要かもしれ

ませんねと、そういう発想でやってき

ました。私たちの調査結果からも、そ

うした時間的な面の支援は重要だと言

えます。

 

しかしそれだけでなく、勤務時間と

介護時間のバッティングはなくても両

立が難しいと思われる事例もありまし

た。

 

それは、勤務時間外の介護の疲労が

蓄積しているケースです。深夜介護は

その典型です。介護者は日中、出勤し

て仕事をこなし、夕方には帰宅します。

その後は、要介護者の人が深夜まで寝

ずに起きていて、自分も寝られない。

そうした睡眠不足の中で翌朝、出勤し

て仕事をします。こうした

ことが続くうちに、体調が

悪化します。

 

こうなったとき、つらく

なって仕事を辞めてしまう

人もいますが、仕事を休ま

ずに出勤している人も少な

くありません。本人として

は一生懸命頑張っているけ

れども、やはり仕事の能率

は低下しています。睡眠不

足で仕事中に居眠りをして

しまう人もいます。あるい

は、介護者も持病を抱えて

いて、疲労の蓄積に伴い、

痛風の発作が起きたという

事例もありました。

 

このように、本人は頑

張って仕事と介護の両立を図っている

けれども、疲労の蓄積によって体調が

図表1 仕事と介護の両立相関図

業 休 護 介

職 退 暇 休 続 連

要 必 の と 応 対 急 緊 り く づ 勢 態

助 介 体 身 要 必 の

間 時 務 勤

助 介 院 通

間 時 務 勤 要 必 の 整 調

護 介 宅 在 用 利 ス ビ ー サ

い 短 が 間 時 暇 休 護 介

い 短 が 間 時 暇 休 護 介 ・

等 務 勤 間 時 短

の 事 仕 下 低 率 能 護 介 夜 深 化 悪 調 体

ス レ ト ス 症 知 認

特集―介護しながら働き続けるには

Business Labor Trend 2013.8

18

悪化し、そのことが仕事に好ましくな

い影響を及ぼしているという面があり

ます。

自身の体調悪化も年休の取得

要因に

 

詳しい分析結果を示す前にポイント

を、先にお話します。

 

まず、私たちの調査からも、物理的

な時間調整のために仕事を休む必要性

は高いといえます。従来から言われて

いるように、連続した期間の介護休業

をとる人は少ないのですが、通院の付

き添いや、介護サービスの利用手続、

あるいは介護事業所との打ち合わせな

ど、細々とした用事で一日ないしは時

間単位で仕事を休んでいる人は多いで

す。日中に介護の用事が入るために、

勤務時間を調整する必要が生じるとい

うことです。

 

しかし、そういうこととは別に、た

とえば認知症を持っているご家族の場

合ですと、要介護者が昼夜逆転してし

まい、夜に寝てくれないということが

起きます。介護者は疲れとストレスが

たまり、睡眠不足になります。疲労は

蓄積するけれども、次の日は頑張って

普段どおり出勤します。しかし、睡眠

不足で仕事に集中できない、そういう

問題がみえてきました。

 

そういう人が、職場でどうしている

かというと、やはり、体調を崩して仕

事を休むことになります。他方、先ほ

どから申し上げているように、物理的

な用事のために仕事を休む場合は、用

事が済んだら仕事に戻り、遅れを取り

戻すため、効率的に働くことができま

す。けれども、慢性的に体調が悪い場

合、その悪い体調を引きずった状態で

仕事をしていますから、仕事の能率が

低下しています。

 

そして、勤務時間の調整を必要とす

る日中の介護だけでなく、自身の体調

悪化がある場合にも年休取得率は高く

なることが明らかになりました。

 

このようなことがわかりました、ヒ

アリング調査とアンケート調査の結果

をこれから報告していきます。

緊急対応と態勢づくりのための

介護休業取得

 

私たちは昨年、男性正社員の介護者

一○人にヒアリングをしました。その

中で、介護休業を取得している人は三

人でした。うち二人は、法律が想定す

るように、緊急対応や態勢づくりのた

めに休業を取得しています。

 

まず、緊急対応のケースです。要介

護者が手術をした後に一カ月、その後、

デイサービス利用中に要介護者が交通

事故にあって二週間の介護休業を取得

しました。先ほどからの報告にありま

したが、休業や休暇は長ければいいわ

けではなく、分割できたほうが便利な

面もあることが、われわれの調査結果

からもみてとれます。

 

次は、要介護者に認知症があった

ケースです。認知症の場合ですと、先

ほどの手術のような緊急対応があるわ

けではありませんが、先々を見通し、

認知症の父親が入所する介護施設を探

す目的で介護休業を取得しています。

会社の人事ローテーションが一年単位

なので、それにあわせて介護休業も一

年とりました。

勤務時間を調整している

ケースは多い

 

一方、介護休業はとらないけれども、

勤務時間を調整しているケースもあり

ます。

 

その最たる理由は、在宅介護サービ

スの利用時間が合わないことです。要

介護者である父親がデイサービスに通

う日は送り出しのため、出勤時刻を遅

らせた事例があります。

 

また、一度退職した人で、そういう

ことが一般的なのかどうかわかりませ

んが、ホームヘルパーの訪問時刻を利

用者が指定できず、時間の融通がきか

ないため、正社員での就業は難しいと

いう声もありました。

 

ほかにもいろいろなケースがありま

すが、一○人中七人が、一日単位もし

くは時間単位で休暇を取得し、勤務時

間を調整していました。

 

残りの三人は、比較的時間の融通の

きく働き方で、平日に休みがあり、そ

の代わりに週末に働くとか、そういう

やり方で対応していました。こういう

ケースも含めると、仕事時間と介護時

間の調整は、多くの人に起きている問

題といえます。

勤務時間外の介護負担の影響

 

しかし、仕事時間と介護時間が重な

らない、勤務時間外の介護負担が仕事

に影響をおよぼしている事例もありま

す。

 

一つ目は、外食産業の店長をしてい

る事例です。外食産業ですから仕事の

終わる時間が遅く、その後、別居して

いる母親のところに通って介護して、

翌日出勤していました。深夜介護をし

て翌朝、出勤する生活を繰り返してい

たところ、仕事と介護のストレスから

痛風の発作が起きました。しかし、そ

れでも休まないで、痛い足を引きずっ

て、仕事に出ました。介護をしながら

仕事も一生懸命頑張っているのですが、

痛い足を引きずっているのですから、

仕事にいい影響は出ていないと思いま

す。

 

もう一つは、認知症で要介護者が昼

夜逆転している事例です。要介護者が

深夜まで起きていて、なかなか寝てく

れません。こういう状態が続くと慢性

的な睡眠不足になり、仕事中に居眠り

をしたり、ぼーっとしてしまいます。

認知症介護でよく聞くケースです。

継続的な介護にはゆとりが大事

 

次にご紹介するのは極端なケースな

のですが、同じ問題は多くの人が指摘

しています。その意味で参考になる事

例です。

 

この人は、父親の介護のために介護

休業をとっています。ほかにも、短時

間勤務や介護休暇など、両立支援制度

をフル活用しています。会社が両立支

援に前向きなこともあり、仕事を休め

るときは、なるべく休みました。

 

もちろん仕事もきちんとしています。

ただし、勤務時間と介護時間をぎりぎ

りのところで調整するのではなく、少

しゆとりを持たせていました。そうし

ないと、自分が倒れてしまうからです。

継続的に介護を続けるには、ゆとりが

大事だと言っていました。

 

先ほども言いましたように、この事

例は極端ですが、休めないと言ってい

特集―介護しながら働き続けるには

Business Labor Trend 2013.8

19

る方も、少し休んでいる方も、どんな

方でも自分の健康状態は気にしていま

す。仕事が忙しくて疲れているときは、

介護を休むことで、体力の回復を図る

という方もいました。そういう意味で、

介護者の健康管理は、軽視できない問

題だと思います。

両立支援の新たな課題

 

以上のヒアリング調査を通じて、ど

ういうことがみえてきたのでしょうか。

 

従来の両立支援は、勤務時間内に発

生する介護にどう対応するかを問題に

していました。しかし、新たな課題と

してもう一つ、勤務時間外の介護負担

による疲労の蓄積、これが仕事に影響

をおよぼしていることがわかりました。

 

たとえば、居眠りとか、持病の発作

などです。そうなると、家族としても

心配だから、仕事は続けられないとな

り、退職してしまうケースもあります。

 

また、仕事を休んでいるけれども、

そこに介護の用事だけでなく、自分自

身の健康管理も含まれるというケース

もありました。もし慢性的に体調が悪

いのであれば、休む・休まないという

ことの先にある問題をどう考えるかと

いうところにも、目線を向けていく必

要があると思います。

四割近くが介護で体調悪化

 

今まで申し上げたお話が、データで

はどうなっているかをご紹介します。

 

要介護者と同居している三〇―五九

歳の男女を対象に、二○○六年に行っ

たアンケート調査の結果です。調査対

象には非正社員も含まれていますが、

フルタイム就業の両立困難という側面

に焦点を当てるため、ここでは分析対

象を正社員に限定しています。

 

まず、どのくらいの人に介護による

体調悪化があるかをみましょう(図表

2)。四割近くが介護による体調悪化

があると回答しています。どういう人

に顕著かといいますと、先ほどの事例

でもみた、深夜介護している人です。

 

もう一つ、この深夜介護と関連して

いるのが認知症です。特に、重度認知

症の場合には、やはり体調悪化の割合

が高くなります(図表3)。

体調悪化でも仕事は辞めない

 

では、体調悪化はどういう形で仕事

に影響をおよぼすのでしょうか。

 

介護で体調悪化がある方に、自分は

仕事の責任をきちんと果たせていない

と感じるかを尋ねました(図表4)。

やはり体調が悪い人は、仕事の責任を

果せていないと感じる割合が高くなっ

ています。仕事の能率を客観的にどの

ようにはかるかという問題は残ります

が、自己評価としては仕事の能率が低

下していることを示唆する結果だとい

えます。

 

では、仕事の責

任が果たせていな

いと感じるから、

辞めてしまうかと

いうと、必ずしも

そうではないよう

です。ここで分析

している人は、今

まさに介護してい

る最中の人なので、

「辞めない」とい

うよりも、「まだ辞

めてない」とみた

ほうがいいかもし

れません。いずれ

にしろ、退職はし

ていないものの両

立困難な状態であ

ることには変わり

ません。

図表2 介護による体調悪化がある割合*ー深夜介護の有無別* * ー

% 0 % 0 2 % 0 4 % 0 6 % 0 8

% 3 7 3 全 体 ( N = 1 9 3 ) . =

% 5 . 2 6 深 夜 介 護 あ り

( N = 3 2 )

% 8 4 3 深 夜 介 護 な し

4 3 . % 8 ( N = 1 3 5 )

用 雇 規 正 職 現 : 象 対 析 分

る ま は て あ 「 に 」 る な く 悪 が 調 体 の 分 自 、 で 因 原 が 護 介 「 の 票 査 調 * 。 合 割 た し 答 回 と 」 る ま は て あ や や 「 」 時 5 朝 翌 ら か 時 0 1 後 午 、 て い つ に 日 曜 各 の 曜 日 ら か 曜 月 * * 。 合 割 る あ も で 日 1 が 日 る す を 護 介 に で ま

図表3 介護による体調悪化がある割合ー要介護者の認知症の程度別* ー0 % 0 2 % 0 4 % 0 6 % 0 8 %

% 7 . 9 2

% % % % %

認 知 症 な し

( N = 1 0 1 )

% 1 . 6 3 軽 度 認 知 症 ( N = 6 1 )

% 0 . 9 6 重 度 認 知 症 ( N = 2 9 )

用 雇 規 正 職 現 : 象 対 析 分

異 や 為 行 潔 不 「 」 難 困 の 通 疎 思 意 「 」 徊 徘 「 て し と 態 状 の 点 時 査 調 * が か れ ず い の 」 力 暴 言 暴 「 」 動 行 食 は 合 場 」 る あ 「 が 症 知 認 で 外 以 れ そ 、 」 度 重 「 に 合 場 」 る あ も つ い 「 時 常 は 」 度 重 「 。 る い て し と 」 度 軽 「

。 当 相 に 態 状 る あ が 要 必 の り 張 見

図表4 介護による体調悪化が仕事に及ぼす影響~仕事の能率低下~

家 族 的 責 任 に よ る 仕 事 の 能 率 低 下 を 感 じ て い る 割 合 *

— 介 護 に よ る 体 調 悪 化 の 有 無 別 —

% 0 8 % 0 6 % 0 4 % 0 2 % 0

体 調 悪 化 あ り % 3 . 5 3

( N = 6 8 )

% 6 . 2 体 調 悪 化 な し

( N 1 1 7 ) ( =

用 雇 規 正 職 現 : 象 対 析 分

じ 感 と い な い て せ た 果 を 任 責 の で 事 仕 に め た の 護 介 ・ 児 育 ・ 事 家 「 * や や 「 」 る ま は て あ 「 に 」 る 合 割 た し 答 回 と 」 る ま は て あ

特集―介護しながら働き続けるには

Business Labor Trend 2013.8

20

勤務時間短縮の希望には差がない

 

体調が悪いから、仕事を少しセーブ

したらどうかという考え方もあります。

そこで、一日の所定労働時間を減らし

たり、週の労働日数を減らしたり、あ

るいは残業や休日労働をしないといっ

た、勤務時間の短縮についても聞きま

した(図表5)。法定の短時間勤務を

利用できる期間は短いので、「今後した

い」と回答した短縮希望の回答にも着

目しました。

 

その結果、六割ぐらいの人が勤務時

間の短縮を希望しています。しかし、

体調悪化の有無による差はありません。

体調が悪いという理由では、仕事を

セーブしようとは思わないということ

です。疲労が蓄積した状態でもがん

ばって仕事をしている人は少なくない

ようです。

体調不良で休暇を取得

 

しかし、体調が悪い人ほど仕事を休

んでいるようです(図表6)。

 

介護のために年休をとる人は多くい

ます。その理由として従来は、介護施

設に行くためであったり、通院に付き

添うためであったり、そういう目線で

とらえることが多かったと思います。

しかし、調査結果をみますと、介護の

用事ではなく、本人の体調不良で休ん

でいるケースも混在していることがわ

かります(図表7)。

 

休んでいても、体調が悪くなければ、

用事を済ませた後、仕事に戻って高い

密度で効率的に仕事をして、遅れを取

り戻すことも可能です。

 

しかし逆に、体調が悪い状態を引き

ずりながら、無理して出勤していると、

仕事中に居眠りをしたり、ぼーっとし

てしまいます。こういうことで、自分

はきちんと仕事ができていないと感じ

る。そういう労働者の人が少なからず

いることがみえてきました。

介護の特徴を踏まえた支援を

 

ここまでの結果から、今後、仕事と

介護の両立支援を効果的に進めるには、

従来からある勤務時間内の介護の事情

に対応するための物理的な時間のやり

くりに加え、勤務時間外の介護疲労の

蓄積の問題にも目を向けていく必要が

あるといえます。

 

物理的な時間のやりくりは、ワーク・

ライフ・バランス一般として、休みや

すい職場づくり、長時間労働の是正、

働き方の柔軟化などで対応できます。

企業のなかには、育児支援のノウハウ

を蓄積しているところも少なからずあ

ります。育児支援のやり方をそのまま

介護に当てはめることはできませんが、

適切に応用すればうまく回っていく部

分もあります。

 

しかし、育児支援の発想をいくら延

長してもみえてこない、介護に特有の

課題もあります。先ほどの報告にも

あった、事前の備えや情報提供もその

一つです。われわれの調査からは、勤

務時間外の介護疲労の

蓄積の問題を指摘でき

ます。その観点から、

介護者の健康管理も大

事ではないかという問

題提起をしました。

 

その手がかりとして、

介護者が休暇をとった

とき、それは介護をす

るためなのか、それと

も、体調が悪いからな

のか、そういったとこ

ろに注意を向けていた

だければ、両立支援を

効果的に進める一つの

きっかけになるのでは

ないかと思います。

図表7 介護による体調悪化が仕事に及ぼす影響~年休取得と仕事の能率低下の関係~

家族的責任による仕事の能率低下を感じている割合

% 0 8 % 0 6 % 0 4 % 0 2 % 0

― 介 護 に よ る 体 調 悪 化 の 有 無 ・ 介 護 の た め の 年 休 取 得 の 有 無 別 ―

▼ 体 調 悪 化 あ り

年 休 取 得 あ り ( N 3 8 ) % 7 . 4 4

% 4 . 5 1

=

年 休 取 得 な し ( N = 1 3 )

▼ 体 調 悪 化 な し

% 3 . 2

% 7 . 3

年 休 取 得 あ り ( N = 4 3 )

年 休 取 得 な し ( N = 5 4 ) 用 雇 規 正 職 現 : 象 対 析 分

図表5 介護による体調悪化が仕事に及ぼす影響~勤務時間の短縮(?)~

現在の勤務時間短縮割合と短縮希望ありの割合*

% 0 % 0 2 % 0 4 % 0 6 % 0 8

― 介 護 に よ る 体 調 悪 化 の 有 無 別 ―

% 4 . 1 2 体 調 悪 化 % 3 . 3 6 あ り

勤 務 時 間 短 縮 あ り

% 5 . 7 1

% 8 7 5

体 調 悪 化

な し

短 縮 希 望 あ り

7 5 . % 8

用 雇 規 正 職 現 : 象 対 析 分 し な 差 意 有 的 計 統

短 の 数 日 働 労 の 週 「 」 縮 短 の 間 時 働 労 の 日 1 「 の 票 査 調 * ず い の 」 い な し を 働 労 日 休 や 業 残 「 」 縮 し と 」 り あ 「 縮 短 間 時 務 勤 に 合 場 た し 答 回 と 」 る い て し 在 現 「 に か れ た し 答 回 と 」 い た し 後 今 「 、

。 る い て し と 」 り あ 「 望 希 縮 短 に 合 場

図表6 介護による体調悪化が仕事に及ぼす影響休暇取得~ ~

介護のための年休取得割合*

% 0 % 0 2 % 0 4 % 0 6 % 0 8

*

― 介 護 に よ る 体 調 悪 化 の 有 無 別 ―

体 調 悪 化 あ り % 7 . 1 7

( N = 5 3 )

% 6 4 4 体 調 悪 化 な し

. ( N = 1 0 1 )

用 雇 規 正 職 現 : 象 対 析 分 1 * 合 割 得 取 の 上 以 日