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特集 42 富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018 クラウドを活用した、 プリンターのカラーマネジメントサービス Cloud-based Color Management Service for Printers 近年、お客様によるプロダクションプリンターの利用形 態は多様化し、複数の併設運用や多拠点で分散印刷する ケースが増えている。従来、どのプリンターでも同じ色に 再現するためには、専門知識を有する人がプリンターごと に色の調整や管理を行う必要があり、多くの時間を要して いた。そのカラーマネジメントの作業を、より効率的に行 うため、クラウドを活用して複数のプリンターの色を簡単 に管理できるサービスを開発し、2017年2月から 「Remote Color Management ® Service」としてサー ビス提供を開始した。本稿では、この新しいサービスが有 する各技術、すなわち、カラーマネジメント条件の設定技 術、プリンターに搭載されているプラテンスキャナーやイ ンラインセンサーを使用した測色技術、評価結果に応じて 簡便に行える診断・調整技術、クラウドを活用した一元管 理技術について説明する。本サービスにより、色調整の時 間と頻度が削減できるとともに、特定のオペレーターにし かできなかった業務が誰にでも可能になり、お客様の業務 効率改善への貢献が期待される。 Abstract Use of production printers has become more diverse in recent years; we can see more customers operating multiple printers, and at times, distributing printing over multiple facilities. While the management of printer color in such setups previously required the knowledge of specialists in order to maintain consistent color quality over multiple devices, Fuji Xerox has addressed this issue by starting the Remote Color Management ® service (February 2017), a cloud service that enables simpler, more efficient color management across multiple printers. This paper explains the service functions and technologies: color management settings, simplified color measurement using a printer’s platen scanner or inline sensor, simple diagnosis and adjustment based on measurement results, and cloud- based centralized management of multiple printers. This color management service not only reduces the time required in undertaking color adjustment, but also allows non-specialist staff to carry out operations that were previously limited to specialists. We can thus expect this service to bring improvements to customers’ business efficiency. 執筆者(Author田端伸司(Shinji Tabata*1 坂本正臣(Masaomi Sakamoto*1 伸介(Shinsuke Sugi*1 田代陽介(Yousuke Tashiro*1 パウフィ・スリスティオ(Pauvi Sulistio*2 荒武正幸(Masayuki Aratake*3 *1 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部 Imaging Platform Development, Device Development Group*2 カストマーサティスファクション品質本部 環境商品安全部 Environment & Product Safety, Customer Satisfaction Quality Assurance Group*3 エンタープライズドキュメントソリューション事業本部 開発統括 システム開発部 System Platform Development, Development Unit, Enterprise Document Solutions Business Group【キーワード】 カラーマネジメント、プリンター、クラウド、測色、評価、診 断、調整 Keywordscolor management, printer, cloud, color measurement, evaluation, diagnosis, adjustment

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特集

42 富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018

クラウドを活用した、 プリンターのカラーマネジメントサービス Cloud-based Color Management Service for Printers

要 旨

近年、お客様によるプロダクションプリンターの利用形

態は多様化し、複数の併設運用や多拠点で分散印刷する

ケースが増えている。従来、どのプリンターでも同じ色に

再現するためには、専門知識を有する人がプリンターごと

に色の調整や管理を行う必要があり、多くの時間を要して

いた。そのカラーマネジメントの作業を、より効率的に行

うため、クラウドを活用して複数のプリンターの色を簡単

に管理できるサービスを開発し、2017年 2月か ら

「Remote Color Management® Service」としてサー

ビス提供を開始した。本稿では、この新しいサービスが有

する各技術、すなわち、カラーマネジメント条件の設定技

術、プリンターに搭載されているプラテンスキャナーやイ

ンラインセンサーを使用した測色技術、評価結果に応じて

簡便に行える診断・調整技術、クラウドを活用した一元管

理技術について説明する。本サービスにより、色調整の時

間と頻度が削減できるとともに、特定のオペレーターにし

かできなかった業務が誰にでも可能になり、お客様の業務

効率改善への貢献が期待される。

Abstract

Use of production printers has become more diverse in recent years; we can see more customers operating multiple printers, and at times, distributing printing over multiple facilities. While the management of printer color in such setups previously required the knowledge of specialists in order to maintain consistent color quality over multiple devices, Fuji Xerox has addressed this issue by starting the Remote Color Management® service (February 2017), a cloud service that enables simpler, more efficient color management across multiple printers. This paper explains the service functions and technologies: color management settings, simplified color measurement using a printer’s platen scanner or inline sensor, simple diagnosis and adjustment based on measurement results, and cloud-based centralized management of multiple printers. This color management service not only reduces the time required in undertaking color adjustment, but also allows non-specialist staff to carry out operations that were previously limited to specialists. We can thus expect this service to bring improvements to customers’ business efficiency.

執筆者(Author) 田端伸司(Shinji Tabata)*1 坂本正臣(Masaomi Sakamoto)*1 杉 伸介(Shinsuke Sugi)*1 田代陽介(Yousuke Tashiro)*1

パウフィ・スリスティオ(Pauvi Sulistio)*2 荒武正幸(Masayuki Aratake)*3 *1 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部

(Imaging Platform Development, Device Development Group) *2 カストマーサティスファクション品質本部 環境商品安全部

( Environment & Product Safety, Customer Satisfaction Quality Assurance Group)

*3 エンタープライズドキュメントソリューション事業本部 開発統括 システム開発部 ( System Platform Development, Development Unit, Enterprise Document Solutions Business Group)

【キーワード】

カラーマネジメント、プリンター、クラウド、測色、評価、診

断、調整

【Keywords】 color management, printer, cloud, color measurement, evaluation, diagnosis, adjustment

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クラウドを活用した、プリンターのカラーマネジメントサービス

富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018 43

1. はじめに

富士ゼロックスはこれまで、自社開発のプリントサー

バーに各種カラーマネジメント機能を搭載したプロダク

ションプリンターを導入し、お客様のさまざまなニーズに

対応してきた。

近年、プリンターの画質や生産性、用紙汎用性が向上す

るとともに、印刷物の多品種・少量化が進み、市場はます

ます拡大している。それに伴い、お客様の利用形態もこれ

まで以上に多様化し、複数のプリンターの併設や、多拠点

で分散させて印刷を行うといったケースが増えている。

プリンターは、機種によって構成が異なるため、色再現

に相違がある。そのうえ、同じ機種でも個体差があり、同

じ原稿を出力しても、個々のプリンターから出力される印

刷物の色再現は異なる。どのプリンターでも同じ色が再現

できればお客様の業務拡大につながるが、その実現のため

には、カラーマネジメントの専門知識を有する人が同じ基

準で個々のプリンターの色を調整・管理する必要がある。

さらに近年、プリンターの高機能化や利用形態の多様化が

進んだことにより、安定した状態で印刷するためには多く

の知識や工程が必要となり、管理することが難しい。

これらの課題を解決するため、これまで人が行っていた

作業を自動化すべく、クラウドを活用して複数のプリン

ターの色を簡単に調整・管理できるサービスを開発し、

2017 年 の 2 月 か ら 「 Remote Color Management

Service」として、国内で提供を開始した1)。

本稿では、Remote Color Management Serviceの概

要を解説する。まずは第2章で、従来のカラーマネジメン

トの方法について紹介した後、第3章で、新しく開発され

た本サービスが有する各技術(カラーマネジメント条件の

設定技術、プリンター搭載のスキャナーやインラインセン

サーによる測色技術、診断・調整技術、クラウドを活用し

たプリンターの一元管理技術)とその導入事例を紹介する。

2. プリンターのカラーマネジメント

プリンターのカラーマネジメントを行うためには、まず

色再現ターゲット(2.1)を決めたうえで、原稿のデータに

カラーマッチング処理(2.2)とキャリブレーション(2.3)

を施して印刷を行う必要がある(図1)。

2.1 色再現ターゲット

プリンターで印刷するとき、合わせる色の目標値のこと

を色再現ターゲットと呼ぶ。色再現ターゲットには、広く

使用されているJapan Color 2011や雑誌広告基準など

の印刷基準、オフセット印刷や他のプリンターでの印刷物

などを利用することが多い。

2.2 カラーマッチング処理

カラーマッチング処理とは、個々のプリンターの色特性

データを利用して、どのプリンターでも一貫した色の再現

を可能にするための処理である。そこで、色再現ターゲッ

トの色特性を記述した「ソースプロファイル」と、プリン

ターの色特性を記述した「プリンタープロファイル」を利

用して、同等の色再現を得るための色変換を行う。

この処理では、原稿の入力色空間であるRGBやCMYK

などのデータを、プリンターすなわちデバイスに依存しな

い色空間のL*a*b*データに変換する。さらに、デバイスご

とに異なる色再現域のマッピングを行い、出力色空間であ

るCMYKデータに変換する。これら一連の色変換処理をひ

とまとめにし、デバイス間の色変換を直接行えるようにす

るのが、デバイスリンクプロファイルである。

2.3 キャリブレーション

キャリブレーションとは、プリンターで常に安定した色

再現を可能にするため、階調性を調整する機能である。階

調性とは、色の濃淡のグラデーションの滑らかさである。

プリンターは、機種の違いや個体差のみならず、設置さ

れている環境やプリント枚数といった条件の違いによって

も、色再現が変動することがある。そのような状態でカラー

マッチング処理を行っても正確な色再現は得られないため、

カラーマッチング処理に先立ち、プリンターごとに定期的

にキャリブレーションを実施する。そうすることで、安定

した色再現を得ることが可能になる。

キャリブレーションの目標となる色の状態をキャリブ

レーションターゲットと呼ぶ。プリンターの色再現特性は、

印刷する用紙によっても変わるため、用紙ごとに設定する

ことが好ましい。

図1 プリンターのカラーマネジメントの概要

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クラウドを活用した、プリンターのカラーマネジメントサービス

44 富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018

2.4 プリンターのカラーマネジメントフロー

従来行われているプリンターのカラーマネジメントフ

ローと、その課題を図2に示す。以下、その各工程について

説明する。

① 印刷に使用する用紙、色再現ターゲット、デバイスリン

クプロファイルやキャリブレーションなど、プリンター

で出力するカラーマネジメント条件を決定する。

② デバイスリンクプロファイルやキャリブレーションな

ど、プリンターの出力パラメーターを作成する。

③ ①で決定したカラーマネジメント条件と、②で作成した

出力パラメーターを用いて、多数のカラーパッチからな

るチャートを出力する。

④ 出力したチャートのカラーパッチをX-Rite®社のi1Pro

やi1iSisなどの測色器で測色する。

⑤ 測色データを解析し、結果を表示・確認する。

⑥ 測色結果が、目標値に達しているかを判断する。

⑦ 測色結果が目標値に達していない場合、その原因が用紙

やカラーマネジメント条件の設定ミスによるのか、出力

パラメーターによるのかを特定する。

⑧ 特定された原因の対処方法を決定し、用紙やカラーマネ

ジメント条件の設定ミスを修正したり、デバイスリンク

プロファイルやキャリブレーションを再作成したりと

いった、適切な調整を実施する。

③~⑧の作業は、目標値を達成するまで繰り返して行う

が、チャートの測色には手間がかかるうえ、カラーマネジ

メント条件の設定や原因特定、調整には専門的なカラーマ

ネジメントの知識が必要となる。それゆえ、色の管理は難

しく敬遠されがちであった。

さらに、多拠点に分散されて設置されている複数のプリ

ンターの色を管理したり、過去の印刷物からの状態を管理

する場合は、オペレーター間でカラーマネジメント条件を

確認するなどコミュニケーションを図ることになる。オペ

レーターごとの知識レベルの違いや遠隔のコミュニケー

ションに伴う制約により、カラーマネジメント条件や調整

方法、評価結果の管理方法などを統一することは容易では

ない。そのために、色の管理はさらに難しいものとなって

いた。

3. クラウドを活用したプリンターのカ

ラーマネジメントサービス

これらの課題を解決するために開発されたのが、クラウ

ドを活用したカラーマネジメントサービス「Remote

Color Management Service」である。このサービスは、

図3のように、プリントサーバー上に搭載される専用のク

ライアントソフトウェアとクラウド環境の管理サーバーで

構成される。

クライアントソフトウェアは、カラーマネジメント条件

図2 プリンターのカラーマネジメントフローと課題

図3 クラウドを活用したプリンターのカラーマネジメントサービスの概要

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クラウドを活用した、プリンターのカラーマネジメントサービス

富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018 45

の設定、チャートの出力、測色、評価結果の表示、診断・

調整、データ送信といった機能を搭載する。当社のGX

Print Server/PX Print Serverと連携させることにより、

作業の自動化とミスの低減が実現できる。

一方、管理サーバーは、複数のプリンターの評価結果を

ネットワーク経由で収集し、そのすべての結果を一覧で表

示したり、過去からの結果を時系列で表示したりすること

ができるうえ、レポート作成も行える。

3.1 カラーマネジメント条件の設定

安定した色再現のためには、管理を始める前に用紙や、

色再現ターゲット、デバイスリンクプロファイル、キャリ

ブレーションターゲットといった出力パラメーターからな

るカラーマネジメント条件を設定することが重要である。

本サービスでは、お客様のニーズに合わせて図4に示す標

準設定とカスタム設定の2つの設定モードを提供する。

標準設定は、ライトユーザーの使用を想定した設定であ

る。作業の効率化を重視して、プリントサーバーやクライ

アントソフトウェアなどであらかじめ登録されている代表

的な用紙や色再現ターゲット、標準用紙用のキャリブレー

ションターゲット、判定基準などの設定情報を使用する。

カスタム設定は、高い品質を求めるエキスパートユー

ザーの要求に応えるためのものである。色再現ターゲット、

デバイスリンクプロファイル、キャリブレーションター

ゲットは、独自にパラメーターを作成して設定できるよう

になっている。これらのカラーマネジメント条件は、使用

する用紙や色再現ターゲットごとに5種類の設定まで作成

できる。

また、複数のプリンターを同じ色再現ターゲットで管理

する場合、プリンターごとに設定情報を作成すると、作業

時間が長くなるだけでなく、間違いを起こしやすい。そこ

で、設定情報の共有機能も搭載している。この機能により、

1台のプリンターで作成した設定情報を管理サーバーに送

信・格納し、それをダウンロードすれば他のプリンターで

も使用できる。用紙や色再現ターゲットといった、プリン

ターの個体差に依存しない情報を共有できるため、設定ミ

スを減らして、効率的なカラーマネジメントが可能になる。

3.2 チャートの出力

使用する測色器によって、出力されるチャートのパター

ンは異なるため、本サービスでは、カラーマネジメント条

件で設定した測色器に応じて、適切なチャートが自動的に

選択され、出力される。その際、設定した用紙と同種の用

紙がセットされているトレイを判別し、そのトレイから

チャートを出力するため、用紙の間違えが少なくなる。

3.3 測色

測色の手間を低減させるためには、できるだけ人の手を

介さずに作業時間を短縮することが必要である。そこで、

従来から使用されているi1Proやi1iSisなどの測色器に加

え、プリンター搭載のスキャナーやインラインセンサーを

使用して簡易に測色ができる機能を搭載した2), 3)。

スキャナーやインラインセンサーを測色器として使用

するためには、それらの機器から出力されるRGBデータを、

L*a*b*データに変換するスキャナープロファイルを作成す

る必要がある。その際、新規開発したアルゴリズムをクラ

イアントソフトウェアに搭載することで、少ない測定ポイ

ントのチャートによって高精度の測色を行うことを可能に

した。

図4 カラーマネジメント設定モード 図5 測色方法と使用チャート

標準設定

色再現ターゲット

Japan Color 2011

雑誌広告基準カラー

カスタム設定

用紙

J紙

OSコート紙

デバイスリンクプロファイル

色再現ターゲットに応じて自動設定

測色装置

X-Rite社の測色器

スキャナー/インラインセンサー

キャリブレーションターゲット

標準で用意されているターゲット

判定基準

自動で設定

色再現ターゲット

独自に作成したターゲット

デバイスリンクプロファイル

標準で用意されているプロファイル

独自に作成したプロファイル

測色装置

X-Rite社の測色器

スキャナー/インラインセンサー

キャリブレーションターゲット

独自に作成したターゲット

判定基準

標準で用意されている判定基準

独自に作成した判定基準

用紙

プリンターで印刷可能な紙種

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クラウドを活用した、プリンターのカラーマネジメントサービス

46 富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018

スキャナーが搭載されたプリンターでは、1枚のチャー

トを出力してプラテン上にセットし、ボタンを押すだけで

測色が実施できる。インラインセンサーが搭載されたプリ

ンターでは、5枚のチャートが出力され、自動的に測色ま

で実施される。

この測色技術を使用すると、従来の専用測色器で約10

分要する測色が、精度はほぼ同等のまま、約2分へと大幅

な短縮が可能になる。

3.4 測色結果表示

測色したデータは、リアルタイムで評価され、クライア

ントソフトウェアの画面に表示される。その評価結果は、

自動的に管理サーバーに送信される。画面上では、色再現

精度、キャリブレーション精度が確認できるとともに、カ

ラーマネジメント条件で設定した判定基準に従って、「良好」

「注意」「警告」の判定結果が表示される。また、過去にさ

かのぼった時系列での評価結果や、色再現精度やキャリブ

レーション精度の詳細データも確認できる。

3.5 診断・調整

評価結果が数値で得られると品質の良し悪しは明確に

なるが、数値だけでは、目標値に満たない場合、何をどう

調整すればいいのかがわからない。原因に応じた適切な調

整を実施しないと余計に品質が悪化する場合もある。

そこで、本サービスは、測色データをさまざまな観点で

解析し、品質の改善のために優先的に行うべき作業内容を

提示する。

図6は診断のフローである。チャートの測色結果を解析

し、問題がある場合はまず、その原因が操作ミスなどの運

用によるものか、品質によるものなのかの切り分けを行う。

運用に原因がある場合、用紙の設定や測色におけるミス

が考えられるため、正しい設定や操作でやり直してもらう

ように誘導する。

品質が原因の場合は、階調性や色再現精度を解析し、問

題がプリントサーバーによるものなのか、プリンター本体

によるものなのか、発生箇所を切り分ける。プリントサー

バーが原因であれば、キャリブレーションやプロファイル

調整などの出力パラメーターの調整を行う。一方、プリン

ター本体が原因であれば、面内ムラなどのプリンター本体

の調整を行い、ユーザーが適切な処置を実施できるよう診

断メッセージを表示する。もし、一度で問題が解決できな

い場合には、繰り返し診断を行うことで、別の処置方法を

提示し、複数の想定原因に対して優先順位を持たせて、そ

の順に処置を行えるように誘導する。またその際、達成不

可能な厳しすぎる精度目標が設定されている場合には、目

標値の変更を促すことで、必要以上に診断回数が増えない

ようにしている。

プロファイル調整は、色域全体にすれがあり、改善の余

地があると判断された場合に実行できる。この場合、新た

にチャートを出力せずとも、すでに印刷したチャートの評

価結果からプリンターの色変動を予測し、その変動分を吸

収するようにデバイスリンクプロファイルを自動で調整す

る機能となっている。

これらの機能の効果を確認するため、当社の4種類のプ

リンターを使用して色再現精度を評価した。いずれも用紙

はJ紙(82g/m2)、色再現ターゲットはJapan Color

2011とし、カラーマネジメント条件を統一した。その結

果、色再現ターゲットからの平均色差は2.5~3.8であった

が、プロファイル調整を行うと、ばらつきは色差2.0前後に

抑えられた。プロファイルを新規に作成し直した場合とほ

ぼ同レベルの精度に調整されたことが確認できた。

3.6 プリンターの一元管理

管理サーバーでは、複数のプリンターから送信された評

価データを、色再現ターゲットごと、または機種ごとにグ

ルーピングして、色再現状態を表示する。また、過去の測

定データや、色再現精度、キャリブレーションの詳細精度

も表示できる。過去の測定データとしては、色再現ターゲッ

トとの色差や、初回の測色値との色差が表示できる。他の

プリンターとの比較機能もある。

これらの機能によって、管理者は遠隔地にいながらWeb

ブラウザーを使用して各プリンターの状態を確認し、必要

に応じて改善指示を出すことができる。

本サービスを利用するには、ユーザー登録を行うととも

に、専用の申し込みチェックツールを使用して、管理する

プリンターの機械番号を取得・登録する。ユーザーは、管

理者、オペレーター、閲覧者の各モードが設定でき、それ

ぞれ閲覧できる表示範囲や利用できる機能が異なる。 図6 診断フロー

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クラウドを活用した、プリンターのカラーマネジメントサービス

富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018 47

3.7 レポート作成

複数の拠点に設置されているプリンターから管理サー

バーに送信された評価データは、画面上で確認できるだけ

でなく、日時レポートと経時レポートとしてPDF形式の

ファイルが生成される。レポートを簡単に作成できるため、

日々の結果を報告するオペレーターの負荷を軽減すること

ができる。

4. 導入事例

2017年2月のサービス開始後、すでに多数のお客様に

導入いただいている。印刷会社のA社様では、異なる拠点

の複数のプリンターに設置され、毎日、色再現状態の確認

を行っている。導入後は、

● 従来、見本に忠実な色を出力するには、ユーザー調

整カーブを用いた20~30分の調節作業を要して

いたが、このサービスを導入して日々の色が安定し

てからは、2~3分で済むようになった。

● プリンターの状態診断や見える化ができているた

め、キャリブレーションや色調整の頻度も抑えるこ

とができ、大幅な工数削減につながった。

● これまで一部のオペレーターしかできなかった業

務を多くの者がこなせるようになり、会社全体のレ

ベルアップが図れた。

● クライアントへ納品した印刷物の品質レベルを常

に記録として残せるため、繰り返しの印刷に対して

も安心感が増した。

など、多くの肯定的なコメントが寄せられている。

お客様への導入とともに、社内でも全国のショウルーム

に設置されているプリンターに導入した。定期的に色再現

状態を把握できるため、品質管理がスムーズになり、商談

時にお客様からの要求に沿ったサンプルを円滑に提供する

ことができている。

5. おわりに

本サービスは、プリンターのカラーマネジメント作業を

効率化するため、カラーマネジメントの条件設定、測色、

評価結果の診断・調整の各技術を新しく開発し、クラウド

を活用してそれらの評価結果などをWebブラウザーで閲

覧できるようにした。これにより管理者は、遠隔地にいて

も各プリンターの状態を確認し、必要に応じて改善指示を

出すことが可能となる。

現在提供しているサービスは、無料お試し期間を設け、

より多くのお客様に試用いただけるようにしている。また、

当社のターゲット/デバイスリンクプロファイルを作成す

る「カラーワークフロー運用立ち上げ支援サービス」や、

エンジニアがプリンター本体を詳細に調整する「カラープ

ロフェッショナルサービスⅡ」といった他の関連サービス

と組み合わせることで、より充実したカラーマネジメント

や調整環境が実現できる。

今後、新規に導入するプロダクションプリンターにも適

用可能にするとともに、新たな機能も導入し、より効率的

にカラーマネジメントを行えるサービスにしていく予定で

ある。

商標について

Remote Color Managementは、富士ゼロックス株式会社の登録商

標または商標です。

X-RiteはX-Rite社の米国、およびその他の国における登録商標であり、

i1はX-Riteの商標です。

その他の商品名、会社名は、一般に各社の商号、登録商標または商標

です。

参考文献

1) Remote Color Management Service

http://www.fujixerox.co.jp/product/software/r_color_manage/index.html (参照日:2018.03.06)

2) Masao Ito, Yoshiya Imoto, Akira Ishii, Yoshifumi Takebe, and Toshiyuki Kazama, “ In-Line Sensor for Color 1000 Press” , Proceeding of Imaging Conference JAPAN 2012, pp.123-126 (2012)[in Japanese]

3) 浅野和夫ほか:“デジタル印刷の価値を高める画像処理技術 高画質の実

現と維持・管理”, 富士ゼロックステクニカルレポート, No.24, (2015).

http://www.fujixerox.co.jp/company/technical/tr/2015/s_04.html (参照

日:2018.03.06)

図7 管理サーバーの結果表示画面

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クラウドを活用した、プリンターのカラーマネジメントサービス

48 富士ゼロックス テクニカルレポート No.27 2018

筆者紹介

田端伸司 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部に所属

専門分野:画質設計、画質評価

坂本正臣 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部に所属

専門分野:画像処理、カラーマネジメント

杉 伸介 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部に所属

専門分野:画質設計、画質評価

田代陽介 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部に所属

専門分野:画像処理、カラーマネジメント

パウフィ・スリスティオ カストマーサティスファクション品質本部 環境商品安全部に所属

専門分野:画像設計、各国法規制対応

荒武正幸 エンタープライズドキュメントソリューション事業本部

開発統括 システム開発部に所属

専門分野:プロジェクトマネジメント