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農-3-1 科目「課題研究」における効果的な指導方法の研究について -情報技術を活用した創造力・表現力及びコミュニケーション能力向上の取り組み- 千葉県立 ○○○○ 高等学校 ○○ ○○(農業) 1 はじめに 平成21年3月に告示された高等学校学習指導要領は,平成20年1月の中央教育審議会答申 を踏まえ, ① 教育基本法の改正等で明確となった教育理念を踏まえ「生きる力」を育成すること, ② 知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視すること, ③ 道徳教育や体育などの充実により,豊かな心と健やかな体を育成すること, を基本的なねらいとして改訂されたものである。 また,高等学校学習指導要領解説農業編(平成22年6月発行)では改訂の要点として,教育 内容の改善のうち,各分野に共通する科目の見直しとして,科目「課題研究」については,従前 と同様原則履修科目であるが,生徒の思考力,判断力,表現力その他の能力をはぐくみ,言語活 動を充実する観点から,課題研究の成果について発表する機会を設けるようにすることとしたと 言及している。 高等学校学習指導要領における科目「課題研究」の目標は,「農業に関する課題を設定し,その 課題の解決を図る学習を通して,専門的な知識と技術の深化,総合化を図るとともに,問題解決 の能力や自発的,創造的な学習態度を育てる。」である。 本校農業経済科では,従来から3年次において科目「課題研究」を履修し,1年次,2年次と 継続して履修する「農業情報処理」の学習と連動させて,主にワープロや情報処理などの職業資 格の取得を目指した学習活動を展開し,一定の成果を上げてきた。 しかし,平成25年度からの新教育課程の実施を踏まえ,近隣中学校に対する魅力ある学科づ くりや今後の在り方を考えた場合,農業経済科に学ぶ生徒がより主体的・意欲的に学習活動に取 り組み,学習成果を具体的に示すことが重要であると考えられる。 そこで,本研究では,科目「課題研究」において,科目「農業情報処理」の情報技術の学習を 活用した作品製作に取り組むことにより,創造力・表現力及びコミュニケーション能力の向上を 図り,さらに地域との連携や行事を活用した成果発表の機会を設けるなど,効果的な学習活動に ついて研究し,その教育的効果を検証することを目標に主題設定を行った。 2 研究方法 本研究では,次に示す方法で研究に取り組む。 (1)生徒の意識調査 ア 本校農業経済科生徒に対して志望理由やコンピュータ及び情報処理に関するアンケート調 査を行い,調査結果を検討して学習内容や展開方法の参考とする。 イ 学習活動をとおした生徒の意識の変化をアンケート調査の結果から分析し,生徒に対する 効果的な指導方法を検討する。 (2)科目「課題研究」の学習項目「作品製作」における授業内容の工夫と改善 ア 科目「農業情報処理」の情報技術の学習を活かした作品製作の展開方法を検討する。 イ 作品製作やプレゼンテーションをとおして,創造力や表現力の育成を効果的に図ることが できたか検証する。 (3)地域との連携,行事等への参加を活用した成果発表の機会の検討

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科目「課題研究」における効果的な指導方法の研究について

-情報技術を活用した創造力・表現力及びコミュニケーション能力向上の取り組み-

千葉県立 ○○○○ 高等学校 ○○ ○○(農業) 1 はじめに 平成21年3月に告示された高等学校学習指導要領は,平成20年1月の中央教育審議会答申

を踏まえ, ① 教育基本法の改正等で明確となった教育理念を踏まえ「生きる力」を育成すること, ② 知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視すること, ③ 道徳教育や体育などの充実により,豊かな心と健やかな体を育成すること, を基本的なねらいとして改訂されたものである。

また,高等学校学習指導要領解説農業編(平成22年6月発行)では改訂の要点として,教育

内容の改善のうち,各分野に共通する科目の見直しとして,科目「課題研究」については,従前

と同様原則履修科目であるが,生徒の思考力,判断力,表現力その他の能力をはぐくみ,言語活

動を充実する観点から,課題研究の成果について発表する機会を設けるようにすることとしたと

言及している。 高等学校学習指導要領における科目「課題研究」の目標は,「農業に関する課題を設定し,その

課題の解決を図る学習を通して,専門的な知識と技術の深化,総合化を図るとともに,問題解決

の能力や自発的,創造的な学習態度を育てる。」である。 本校農業経済科では,従来から3年次において科目「課題研究」を履修し,1年次,2年次と

継続して履修する「農業情報処理」の学習と連動させて,主にワープロや情報処理などの職業資

格の取得を目指した学習活動を展開し,一定の成果を上げてきた。 しかし,平成25年度からの新教育課程の実施を踏まえ,近隣中学校に対する魅力ある学科づ

くりや今後の在り方を考えた場合,農業経済科に学ぶ生徒がより主体的・意欲的に学習活動に取

り組み,学習成果を具体的に示すことが重要であると考えられる。 そこで,本研究では,科目「課題研究」において,科目「農業情報処理」の情報技術の学習を

活用した作品製作に取り組むことにより,創造力・表現力及びコミュニケーション能力の向上を

図り,さらに地域との連携や行事を活用した成果発表の機会を設けるなど,効果的な学習活動に

ついて研究し,その教育的効果を検証することを目標に主題設定を行った。

2 研究方法 本研究では,次に示す方法で研究に取り組む。 (1)生徒の意識調査 ア 本校農業経済科生徒に対して志望理由やコンピュータ及び情報処理に関するアンケート調

査を行い,調査結果を検討して学習内容や展開方法の参考とする。 イ 学習活動をとおした生徒の意識の変化をアンケート調査の結果から分析し,生徒に対する

効果的な指導方法を検討する。

(2)科目「課題研究」の学習項目「作品製作」における授業内容の工夫と改善 ア 科目「農業情報処理」の情報技術の学習を活かした作品製作の展開方法を検討する。 イ 作品製作やプレゼンテーションをとおして,創造力や表現力の育成を効果的に図ることが

できたか検証する。 (3)地域との連携,行事等への参加を活用した成果発表の機会の検討

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ア 地域との連携や行事等への参加を学習指導計画に位置付け,計画的に実施することでより

深化した学習とする。 イ 地域と連携した取組や行事等への参加が,生徒の創造力や表現力の育成及びコミュニケー

ション能力の向上にどのような効果があるのか検証する。

3 研究計画 研究計画は次のとおりである。

平成23年度 平成24年度 5月 研究計画の立案 4月 画像処理ソフトウェアの学習

※紙袋の企画・デザイン

6月 生徒意識調査 画像処理ソフトウェアの学習 ※紙袋の企画・デザイン

6月 プレゼンテーション及び相互評価(第1回)

ホテルポートプラザちば朝市 ※紙袋の活用及び来場者による評価

10月 ホテルポートプラザちば朝市 ※紙袋の活用

7月 プレゼンテーション及び相互評価(第2回)

11月 文化祭(みやざく祭) 全国農業高校収穫祭2011

※紙袋展示,活用及び来場者による評価

9月 生徒アンケート調査 紙袋の企画・デザイン(文化祭展示)

12月 地域連携(大網笑

店・

) ※紙袋の活用及び来場者による評価

10月 ホテルポートプラザちば朝市 ※オリジナル紙袋の活用

1月 プレゼンテーション及び相互評価 生徒アンケート調査

11月 文化祭(みやざく祭) 全国農業高校収穫祭2012

※紙袋展示,活用及び来場者による評価 2月 2年生へのプレゼンテーション 12月 研究のまとめ

4 研究内容・結果・考察 (1)生徒の意識調査 平成23年6月に生徒の実態を調べるため,農業経済科2・3年生に意識調査を行った。

図1~5は,その結果をまとめたものである。

Q1 農業経済科を志望した理由は何ですか。 a 農業後継者だから

b 関連産業への就職を考えて c 農業関係の大学や専門学校などへの進学を考えて d ワープロ検定や情報処理検定などの資格取得を考えて e 農業経済や流通などに興味・関心があるから f 学力的な選択

1

1

22

21

1

213

18

142

12

0% 20% 40% 60% 80% 100%

2・3年生

3年生

2年生

a b c d f

図1 生徒意識調査結果(Q1)

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例年,資格取得と回答する生徒が多いが,2年生(平成22年度入学生)では特にその割合

が高く,生徒の半数に達した。その一方で学力的な選択と回答した生徒も多く約4割に達した。

また,ごく少数ではあるが,農業後継者であるからと回答した生徒も見られた。(図1)

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Q2 農業経済科で学びたいことは何ですか。 a 農業経済や流通などについての知識 b ワープロ検定や情報処理検定などの資格取得のため学習 c コンピュータの技術 d 特にない e その他

1

1

203

17

124

8

61

5

1

1

0% 20% 40% 60% 80% 100%

2・3年生

3年生

2年生

a b c d e

図2 生徒意識調査結果(Q2)

3年生では半数がコンピュータの技術と回答したが,2年生では,コンピュータの技術の回

答が減少し,資格取得のための学習が半数以上となった。また,農業経済や流通などについて

の知識を学びたいと回答した生徒も見られた。(図2)

Q3 コンピュータの授業で特に学びたいことは何ですか。 a 情報モラルやセキュリティ g 画像処理(グラフィック)

b タイピング h プレゼンテーション c 情報収集及び活用 i Webページ作成 d ワープロ j プログラミング e 表計算(表やグラフの作成) k コンピュータを利用した栽培管理 f データベース

93

6

216

15

182

16

265

21

122

10

1

1

153

12

3

3

62

4

81

7

1

1

0% 20% 40% 60% 80% 100%

2・3年生

3年生

2年生

a b c d e f g h i j k

図3 生徒意識調査結果(Q3)

2年生では,3年生に比べて学びたいことがより多岐にわたっている。両学年ともにワープ

ロやタイピングに加えて,画像処理(グラフィック)の学習に関心が高い。また,学年によっ

て割合は異なるが,次いで表計算などの学習に関心が高い結果となった。(図3)

Q4 卒業後の進路は何を考えていますか。 a 大学(経済・情報) f 自営(農業)

b 大学(その他) g 自営(その他) c 専門学校(経済・情報) h 公務員 d 専門学校(その他) i その他 e 就職

21

1

1

1

11

102

8

183

15

1

1

61

5

1

1

0% 20% 40% 60% 80% 100%

2・3年生

3年生

2年生

a b c d e f g h i

図4 生徒意識調査結果(Q4)

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また,卒業後の進路として,3年生では,進学と就職の割合がほぼ半数であり,進学の中で

も専門を生かした経済・情報系の進学を希望する生徒が半数を占めた。2年生では,就職の割

合が約半数であり,専門学校(経済・情報)への進学の回答はなかった。(図4) 本研究においては,生徒の意識調査の結果(図3)からコンピュータの学習の中でも情報技

術に関する学習内容である画像処理(グラフィック)の学習に特に関心が高いことに着目し,

科目「課題研究」の単元「作品製作」において,画像処理ソフトウェアを活用したオリジナル

紙袋の製作に取り組むことにした。 (2)科目「課題研究」の単元「作品製作」における授業内容の工夫と改善 ア 画像処理ソフトウェアを活用したオリジナル紙袋の作成 オリジナル紙袋のデザインをするために,各自がデジタルカメラを活用し,学校の敷地内で

デザインの元となる素材を集めることにした。 本校の農業情報処理室のコンピュータには,画像処理ソフトウェアとして主に写真などの加

工に適したアドビシステムのフォトショップ(Adobe Photoshop)と同社のイラスト制作や図

面,広告等のデザインに適したイラストレーター(Adobe Illustrator)が台数は限られてい

るもののインストールされている。デザイン業界ではスタンダードとなっているそれらのソフ

トウェアを活用して素材となる写真のデジタルデータを加工し,紙袋の図面にデザインして型

紙を作成した後にデザインの確認と相互評価を兼ねてA3用紙に印刷し紙袋を試作した。(図

5)

図5 試作した紙袋 図6 作品のプレゼンテーション

また,オリジナル紙袋の製作をとおして創造力や表現力の育成を図るため,作品におけるデ

ザイン性について各自が短時間のプレゼンテーションを活動初期に実施した。(図6) 簡単な相互評価と全体での話し合いを行い,各自のデザインを再検討しデザインを決定した。

その後,大判プリンター等の印刷機器を活用してオリジナル紙袋の元となる紙型を印刷した。

イ プレゼンテーションによる相互評価 各自がこれまでの作品製作の過程を簡潔にまとめ,他の生徒の前で発表することで主体的な

学習態度を育てることを目的にプレゼンテーションソフトウェアを用いたプレゼンテーション

を行った。(図7)なお,この発表ではプレゼンテーションソフトウェアの操作に関しては,必

要以上に高度な技術は求めないことにした。

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また,プレゼンテーションの実施に際し,プレゼンテーションには伝える相手がいるという

ことを常に意識するというプレゼンテーションを行う上で欠かせない態度を養うことを目的に

相互評価シートを作成した。(図9)相互評価シートの記入については,日ごろの学習活動の中

でも特に熱心な取組が見られた。また,相互評価を取り入れたことで,発表者として見る側の

立場に立った,より効果的なプレゼンテーションをするために発表までの限られた時間で創意

工夫する姿が見られた。以下はプレゼンテーション相互評価シートに記入された内容の一部で

ある。

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◎良かった点や今後の参考になった点 ・説明のスピードが聞きやすくてよかった。 ・声がはきはきしていて,内容がわかりやすく整理されていた。 ・写真の編集の仕方に工夫があり参考になった。 ◎改善点やこんな工夫があるのではというアドバイス ・スライドの枚数が説明に対して足りない。 ・スライドの切り替えのタイミングや声の大きさに注意した方がよい。 ・聞き手の方を向いて堂々と話し,聞き手に伝えるという気持ちを常に意識して発表する。

良かった点や今後の参考になった点,改善点及びこんな工夫があるのではというアドバイス

についてはお互いに記入がよくされており,今後のプレゼンテーションの改善における検討材

料が揃った。平成24年度においては,表現力を高めるために口頭によるプレゼンテーション

を実施した。(図8)プレゼンテーション終了後に,プレゼンテーション相互評価シートの各評

価項目に対する評価と記入内容を各発表者にフィードバックし,全体でプレゼンテーションに

対してのディスカッションを行った。7月に行った第2回のプレゼンテーションの実施後に第

1回と併せて2回分の相互評価シートを集計したところ,第2回のプレゼンテーションの合計

点は 第1回のプレゼンテーションの合計点に比べて平均で4.9点上昇した。

図7 作品のプレゼンテーション 図8 口頭によるプレゼンテーション

プレゼンテーション相互評価シート(第2回) 3年D組     番   氏名

 評価基準 5:大変よい 4:よい 3:ふつう 2:もう少し 1:努力不足

評価項目 / 発表者番号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

声の大きさは適当か

話す速さは適当か

はっきりとした話し方か

聞き手の方を向いているか

堂々 としているか

発表態度に好感が持てるか

紙袋を効果的に使っているか

間の取り方は適当か

内容はよく理解できましたか(伝えられましたか)

作品のデザイン(見やすさ)はどうでしたか

総合

全体をとおしての評価(合計点)

◎前回の自分の発表と比べて今回の発表の出来はどうでしたか。発表の感想を記入する。

◎今後,自分の発表で,さらに改善したらよい点やこんな工夫をすれば良かったという点について記入する。

態  度

内容・説得力

自由記入

図9 プレゼンテーション相互評価シート

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(3)地域との連携,行事等への参加を活用した成果発表の機会の検討 平成23年度 成果発表の機会 生徒の学習活動(中心となるもの)

10月22日(土) ホテルポートプラザちば朝市

(千葉市)

オリジナル紙袋の販売時の活用

作品製作の学習活動についての説明

11月18日(金)

から19日(土) みやざく祭(文化祭)

オリジナル紙袋とコンセプトシートの展示

コンセプトシートの内容や課題研究の学習

活動についての説明

来場者へ評価依頼(アンケート)

11月20日(日) 全国農業高校収穫祭2011

(東京都武蔵野市)

オリジナル紙袋の配布

作品製作の学習活動についての説明

評価依頼(返信はがき)

コミュニケーション能力の向上

12月23日(金)

から25日(日)

チャレンジショップ

(大網白里町)

コミュニケーション能力の向上

評価依頼(返信はがき)

平成24年度 成果発表の機会 生徒の学習活動(中心となるもの)

6月16日(土) ホテルポートプラザちば朝市

(千葉市)

オリジナル紙袋の配布

作品製作の学習活動についての説明

評価依頼(返信はがき)

コミュニケーション能力の向上 10月27日(土)

11月16日(金)

から17日(土) みやざく祭(文化祭)

オリジナル紙袋とコンセプトシートの展示

口頭による学習活動のプレゼンテージョン

来場者へ評価依頼(アンケート)

11月18日(日) 全国農業高校収穫祭2012

(東京都千代田区)

オリジナル紙袋の配布

作品製作の学習活動についての説明

評価依頼(返信はがき)

コミュニケーション能力の向上

ア 農業関係高校14校が自校生産物を地域住民に販売するホテルポートプラザちば朝市 各自がデザインしたオリジナル紙袋を販売時に活用することを主な目的とした。(図10)

朝市では,生徒の相互評価が高かった,4種類のデザインの紙袋を各10袋程度製作し,本

校で生産したイチゴジャムを販売する際に活用することにした。その際,製作した生徒が対面

販売をとおして,購入者に各自のデザインや紙袋についてできるだけ説明を行うことにした。 次に来場者に紙袋の配布を行い,紙袋やデザインについての感想や意見の聞き取り調査も同

時に実施して次回の紙袋づくりに活かすことにした。

イチゴジャムの販売袋として活用 紙袋を配布しての聞き取り調査 図10 ホテルポートプラザちば朝市(千葉市)

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購入者や来場者からは,紙袋のデザインについて,製作者の個性が出ていて概ね良いデザイ

ンと好評であった。その他にも取組の経緯についての質問や全部手作りなのか等,配布した紙

袋についての質問や意見も寄せられた。 また,来場者に紙袋の配布を行って聞き取り調査をしていたところ,ケーブルテレビ局にオ

リジナル紙袋の活用についての取材を受けた。生徒にとっては初めての取組であったため,来

場者とコミュニケーションを取ることが難しく感じたようである。 この取組の数日後,課題研究の授業の中で朝市に参加した生徒を中心にして紙袋の取組につ

いてのディスカッションを行った。朝市の参加生徒から紙袋のデザインや取組について説明す

るためには,製作した紙袋のコンセプトをもっとはっきりさせる必要があるのではないかとの

建設的な意見が出された。また,併せて次のような課題や検討すべき点が出された。 ◎課題や検討すべき点 ・配布する相手の明確化(年齢層や性別などのより詳細な設定) ・デザインの特徴や表現した内容についての再検討 ・紙袋の大きさや材質はどのようなものがよいか

これらの意見を踏まえ,生徒の感じた課題を解決するための方策について検討した。 検討の結果,紙袋の材質や大きさについては改良の

余地はあるとは思われるが,無料で提供をすることを

前提としているため,検討の対象からは外すこととし

た。そこで,配布する対象を誰にするか,デザインの

特徴や紙袋にどのような情報を織り込むのかを中心に

紙袋のコンセプトについて各自が再検討し,考えをま

とめることにした。

図11 コミュニケーション能力

に対する評価

平成24年度からは評価を得るために同封した葉書

に,デザインに対する意見や紙袋を渡した際の生徒の

印象などの項目に加えて,応対した生徒のコミュニケ

ーション能力について5段階で評価を記入し,返送し

ていただけるようにお願いすることにした。(図11)コミュニケーション能力についての評価

としては,記入のあった12名の内訳は,高い(5)が2名,比較的高い(4)が5名,普通

(3)が5名であった。 また,配布した方から返送されたはがきに記入されていた内容の一部を以下に掲載した。

◎生徒の態度や印象などについて ・はっきりと理解しやすい言葉での対応好印象でした。年齢層によっては,「失礼いたします。」

や「お忙しいところすみません。」のひと言を添えて。「~ですよ。」は使用しない方がいい。

・明るく活発な生徒さんでした。元気が良く好感を持ちました。 ・とてもさわやかで一生懸命な感じが伝わってきて好感が持てました。 ・明るくて真面目さが伝わってきました。

イ 全国の農業関係高校が生産物を販売する全国農業高校収穫祭2011(東京都武蔵野市) オリジナル紙袋を各自が設定した配布対象に渡す際に,作品製作の学習活動及びコンセプト

シートの説明を行い,配布する相手と可能な限りコミュニケーションを取ることでコミュニケ

ーション能力の向上を図ることを主な目的とした。(図12)

成成果発表の場である全国農業高校収穫祭2011に参加するに当たって,10月の朝市の際

に参加した生徒から出された紙袋製作に関する課題の解決を図るとともに,今後の学習の進め

方について考えをまとめさせた。考えを互いに発表する中で,紙袋についてのコンセプトシー

トを作成する案が出され,紙袋を配布する対象(年齢層)やデザインの特徴や表現した内容に

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ついて記入できるコンセプトシート(図13)を作成することにした。

製作した紙袋(3デザイン) 設定した対象にオリジナル紙袋を配布 図12 全国農業高校収穫祭2011(東京都武蔵野市)

この行事は本校の文化祭と同日の開催であるために,コンセ

プトシートの作成に当たり,文化祭での紙袋の展示発表や多く

の来校者が各々の作品を評価する可能性があることも意識させ

て作品製作の過程における創意工夫を促すとともに,学習意欲

の喚起に努めた。 新たにコンセプトシートを作成することで,製作する紙袋に

対するターゲット(対象者)がより明確化されるとともに,デ

ザインの特徴や表現した内容について詳細に記述させたことで,

各自が製作した紙袋に対してきちんとした説明ができるように

なった。 次のステップとして,紙袋に対しての説明をする際に,今回

は紙袋を配布する相手と可能な限りコミュニケーションを取る

ように心掛けさせることで,コミュニケーション能力の向上を 図13 コンセプトシート 目指した。

また,製作した紙袋を受け取ってくれた方には今回から紙袋のコンセプトシートや課題研究

の取組についての説明書きを渡すことにした。 さらに,評価を得るために同封した葉書に,デザインに対する意見や紙袋を渡した際の生徒

の印象などについて記入し,返送していただけるようにお願いすることにした。 返送された作品に対する評価の一部を以下に掲載した。

◎紙袋の取組やデザイン・コンセプトなどについて ・校舎のデザイン,色共にシンプルでモダンな感じです。欲を言えば,片面は校舎の周りの景色

を入れたらもっと楽しめると思う。(図12画像左) ・色使いが優しくてとても美味しそうな感じがよく出ていました。(画像中央) ・これからの季節に合わせて,雪だるまなどの具体的なデザインで色はピンクがよい。(画像右)

◎生徒の態度や印象などについて ・言葉がはっきりして,分かり易くうれしかった。笑顔で渡してくれた態度は良かったです。 ・ニコニコして可愛らしかったです。楽しそうな学校生活がうかがえます。 ・快活で心地よい印象です。紙袋を作った生徒のはにかんだ笑顔が清々しかったです。 以上のような評価をいただき,参加した生徒に返送されたはがきの内容をフィードバックし

た。その結果,デザインなどについて指摘されたことで,各自が自分の作品を改めて客観的に

評価することができ,早速に改善するなど,さらによい作品を製作しようとする意欲的な学習

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活動が見られたとともに紙袋製作をとおして創意工夫する面白さを感じたという声が聞かれた。 ウ みやざく祭(文化祭)での作品成果発表 製作したオリジナル紙袋とコンセプトシートを文化祭で展示した。来場者に対して各自が製

作した紙袋の配布対象やデザインなどが記入されたコンセプトシートの内容や課題研究の学

習活動についての説明を行った。(図14)平成24年度においては,科目選択生徒の代表者

が来場者に対して口頭によるプレゼンテーションを実施した。

製作したオリジナル紙袋の展示 来場者の評価(投票用紙) 図14 みやざく祭(文化祭)

会場には来場者の評価を得るために簡単な評価用紙を用意し,気に入ったデザインの紙袋へ

の投票及び選んだ理由についてひと言記入していただけるよう,説明をしながらお願いをした。 その結果,一般公開日に約60枚の評価用紙を回収することができ,以下は記入された内容

の一部である。なお,コメントについては原文のまま掲載した。 ・とてもいんしょうにのこりました(小2) ※( )は回答した年齢層 ・キレイなデザインですてきです(中学生) ・デザインがかわいい(高校生) ・Nice和柄ですね。両サイドの花がポイントですね(高校生) ・紙袋のデザインがとってもおいしそう。キュート!(一般)

記入された内容の多くは,投票した紙袋のデザインに対する感想であったが,どれもデザイ

ンの工夫に理解を示すものや紙袋製作についての学習に興味や関心を寄せたものであった。こ

れらの感想を製作した生徒にフィードバックしたところ,生徒からは次の成果発表の場である

チャレンジショップに向けて,デザインのさらなる工夫に取り組みたいという製作活動に対す

る意欲的な発言や来場者に学習活動を認められ,良い評価を得たことで学習の喜びを感じたと

の率直な感想が寄せられた。 エ 街中の空き商店で生産物等を販売するチャレンジショップ2011大網笑店

・ ・

(大網白里町) 上記イの取組同様,コミュニケーション能力の向

上を図るとともに,製作した作品に対する来場者の

評価を得ることを主な目的とした。 作品の成果発表の場として,11月に参加した全

国農業高校収穫祭2011に引き続き,近隣の方々

からも製作した紙袋に対する評価を得るために,来

場者に配布することにした。チャレンジショップは, 12月23日から25日までの開催ということもあ

り,季節感のあるクリスマスカラーのデザイン(図 15)を取り入れるなど新たな配布対象の設定やデ 図15 季節感のあるデザイン

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ザインの見直しも意欲的に行って参加した。 これまでの行事の参加経験なども踏まえて,作品製作の学習活動についての説明も概ね手際

よく行うことができた。また,紙袋を配布した相手とコミュニケーションを取る姿にも落ち着

きや笑顔も比較的多く見られるようになり,コミュニケーション能力の向上にも一定の成果が

見られるようになった。また,返送された作品に対する評価の一部を以下に掲載した。

◎紙袋の取組やデザイン・コンセプトなどについて ・すてきな紙袋をありがとうございました。早速窓辺に置いてみました。 色のアクセントがあったらまた違ったすてきな袋ができたかなと思います。

・優しい色使いが若い方に好まれるのではないでしょうか。スイーツの図柄も喜ばれ

ることでしょう。私も持って街へ出かけます。 ・高校の校章や赤と緑と白のクリスマスカラーが使ってありよかったです。 ◎生徒の態度や印象などについて

・声の大きさ,てきぱきとした態度,笑顔,好印象でした。 ・礼儀正しく素敵な笑顔で接客してくれました。 ・寒い中,大きな声で頑張っていました。説明は大変よくわかりました。

(4)課題研究における作品製作をとおしての生徒の意識の変化

Q1 これまでのオリジナル紙袋の製作(行事等での販売実習への参加も含む)をとおして身に付いたと思う力は何ですか。 a とても身に付いた b 身に付いた c かわらない

1 創造力

作品製作の開始前と比べて約4割の生徒が,とても身に付いたと回答した。身に付

いたという回答を加えると約8割の生徒が身に付いたと回答した。

2 表現力

作品製作の開始前と比べて,とても身に付いたという平成24年度の回答も加え,

約8割の生徒が身に付いたと回答した。

7

3

4

8

4

4

3

1

2

0% 20% 40% 60% 80% 100%

合計

平成23年度

平成24年度

a b c

1

1

13

5

8

4

3

1

0% 20% 40% 60% 80% 100%

合計

平成23年度

平成24年度

a b c

農-3-10

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3 コミュニケーション能力

今回のアンケートの中では,とても身に付いたという回答の割合が創造力とともに

も高かった項目である。 4 判断力

約9割の生徒が作品製作の開始前と比べて判断力が身に付いたと回答した。 5 思考力

平成23年度回答の1名を除いた生徒の全員が身に付いたと回答した。

6

3

3

11

4

7

1

1

0% 20% 40% 60% 80% 100%

合計

平成23年度

平成24年度

a b c

2

2

14

7

7

2

1

1

0% 20% 40% 60% 80% 100%

合計

平成23年度

平成24年度

a b c

7

4

3

8

2

6

3

2

1

0% 20% 40% 60% 80% 100%

合計

平成23年度

平成24年度

a b c

5 研究のまとめと今後の課題

本研究では,「課題研究」における効果的な指導方法の研究について,情報技術の学習の中でも

関心の高かった画像処理(グラフィック)の学習を活用したオリジナル紙袋の製作とその展開方

法の検討を行ってきた。 研究初年度においては,試行錯誤を重ねながらオリジナル紙袋のデザインの検討から製作まで

行うとともに,一連の学習活動をより深化した学習とするために,作品の成果発表の機会を検討

して校内外合わせて4回設けることができた。 次に,作品の成果発表後に作品製作における今後の検討及び改善の場とするため,授業でディ

スカッションを行ったところ,作品の成果発表となった地域との連携や行事等へ参加した生徒を

中心として,自分が製作した作品に対する新たな課題や今後の課題研究の学習を進める上で検討

すべき点が積極的に出された。作品のコンセプトシートや作品の評価を得るために返送をお願い

して同封した葉書のアイディアも成果発表後に行った生徒のディスカッションから生まれたもの

である。これらのアイディアを作品製作の日々の学習活動にフィードバックすることで生徒の創

作意欲をはじめとした学習意欲を高めることができ,より効果的な学習活動を展開することがで

きた。

農-3-11

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農-3-12

さらに主体的な学習態度を育てることを目的として,製作した作品のプレゼンテーションを実

施した。次年度においては,作品を手に持った状態での口頭による短時間のプレゼンテーション

を取り入れて,発表者に聞き手をより意識させるように改善した。発表を行った生徒にとっては,

プレゼンテーションソフトウェアを用いた場合と異なり,スライドがないためにプレゼンテーシ

ョンに難しさを感じたようであるが,作品を効果的に使って聞き手に製作した紙袋のデザインや

コンセプトについて,熱心に伝えようとする努力が感じられた。 課題研究における作品製作をとおした生徒の意識の変化をアンケート形式で回答してもらった

ところ,質問項目によって若干の差はあるものの,約8割から9割の生徒が,表現力,創造力,

コミュニケーション能力,判断力,思考力が身に付いた又はとても身に付いたとの回答を得るこ

とができた。紙袋のデザインを何度も改善し,自らが表現したい内容を時間をかけてデザインす

る過程で表現力や創造力が,作品のコンセプトシートを作成することにより思考力の育成が図ら

れたと考えられる。併せて行事等での販売実習の体験や来場者への説明に対する返答などの経験

が判断力を高めたと考えられる。さらに,行事等での対面販売や紙袋の配布,或いは課題研究の

取組などの学習内容の説明,文化祭での来場者に対する紙袋のデザインやコンセプトシートなど

の説明をとおして総合的にコミュニケーション能力が高まったと考えられる。 特に創造力,コミュニケーション能力については,身に付いたという約8割の回答のうち,ほ

ぼ半数の生徒が,それらの能力がとても身に付いたと回答していることは,この取組をとおした

大きな成果といえる。

今後も引き続き情報技術を活用した創造力や表現力及びコミュニケーション能力を向上させる

取組について研究を行っていくことはもとより,これらの研究成果を生かし,課題研究だけでは

なく,農業経済科で履修するすべての農業科目において,どのような授業改善や取組が導入可能

であるかについても検討していきたいと考えている。

6 おわりに 今回,このような研究の機会を与えていただき大変感謝しています。教員としての経験も20

年を過ぎ,それなりに経験も積んできたつもりではいましたが,改めて日ごろから研鑽を積むこ

との大切さを感じました。また,本研究に取り組んだことで,日ごろの学習指導における多くの

改善点を見いだすことができたことは大変有意義でした。 今後もさらにこの研究を発展的に継続し,教科研究員としての経験を生かし,より一層努力を

していきたいと思います。 後に,本研究を進めるにあたり,御多忙の中,懇切丁寧に御指導いただきました,平成23

年度千葉県教育庁教育振興部指導課主幹兼教育課程室長 根本進先生,平成24年度千葉県教育

庁教育振興部指導課指導主事 山本昭博先生,教科指導員(農業)千葉県立君津青葉高等学校 西川明夫先生,平成23年度千葉県立大網高等学校校長 宗政恒興先生,平成24年度千葉県立

大網高等学校校長 藤沼文郎先生をはじめ,教科研究員の先生方ならびに御協力いただきました

関係の先生方に深く感謝申し上げます。 ≪ 参考文献 ≫ ・高等学校学習指導要領 文部科学省 ・高等学校学習指導要領解説農業編 文部科学省