授業の基礎的・基本的な指導法Ⅰ -「発問」のポイント- ·...

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日々の授業の中で、教師は様々な指導技術を用い、子どもの興味関心を高めよう としている。とりわけ、教師の発問次第で、子どもの目は輝き、学習への意欲も高 まってくる。しかし、ただ漠然とした発問や的を得ない発問では、全く逆効果にな る。ここでは、授業において教師が陥りがちな発問の失敗事例も含めて、子どもの 意欲を引き出す発問の事例を紹介する。 発問のポイント よくある失敗例 多様な場面の 中で、どのよう に発問を行い、 その答えにどう 切り返していく か、そのヒント が示されている。 大切なことは 何か。このこと を意識して発問 する。 「発問」「板書」のポイント事例集は、教育センターホームページ教材データ ベースに掲載しています。 URL http://www.tym.ed.jp/c10/index.html 「ねらいを明確にする発問」 発問のねらいを明確にした、研ぎ澄まされた発問を! 【こんな失敗をしていませんか】 先生が質問しているからしかたなく子どもが答える。でも子どもたちは問題意識 が薄く、何のために答えているのか分からない・・・。こんな発問を授業の中で繰り 返してはいませんか?ここでは、本時の学習課題が何で、どんな力を身に付けさせた いのかなど、ねらいを明確にした発問を取り上げ、授業で子ども自身が何を学ぶのか 実感できる発問について考えましょう。 【展開例】 (中学校3年生 国語 「俳句の読み取り」) 【各段階におけるポイントや助言】 教:俳句のおもしろさはどんなところにあると、 筆者は述べていますか? ※1 ※1 A:省略されている部分を、読む人が自由に鑑 前時までに学習した内容の最も大切 賞できるところです。 な部分をクラス全体で確認します。 教:そうですね。では、「どの子にも涼しく風 ここで子どもの反応がよくなかった の吹く日かな」という俳句は、どんなとこ 場合は、前時までの学習が定着してい ろが省略されているのでしたか? ない証拠です。本時のねらいに迫るた B:場所や時間! めにも、ここでの確認は丁寧に行いま C:「どの子」ってだれのことか、自由に想像 しょう。 できるよ。 教:その通り。みんな、すばらしい!でも、そ ※2 うだとすれば、みなさんが課題で作ってき 生徒が気付かない部分を発問によっ た俳句も、「省略されている部分」がちゃ て揺さぶります。生徒自身に自分の学 んとあって、そこを自由に鑑賞できる作品に 習の達着度を見直す機会を設けること なっているはずですよね? ※2 で、本時のねらいを達成できるように D:えー、どうだろう。 します。 E:「省略されている」って、考えなかった… ※3 F:ストレートすぎるかも。 既習事項を元に、「自分の作品を推敲 G:想像の余地なしの俳句だあ。 する」という本時のねらいを提示しま 教: では、「鑑賞の視点」を大切にして、自分 す。 の俳句を推敲してみましょう。 ※3 場合によっては補助発問も用意し、子 ・・・・・ どもの理解を助けることも効果的です。 【ここが大切なポイントです】 既習事項を次の学習課題に結び付けることで、子どもは何を学んでいるのかを実感 することができます。従って、ただ漠然と「なぜ?」「どう思う?」といった安易な 発問を繰り返すのではなくて、その発問でどのような力を子どもに身に付けさせたい かをしっかりと考え、そのことと直結した発問にしましょう。 発問の構成を意識し、授業を組み立てましょう。「易から難」を基本的な流れとし ながら、子どもの思考の流れを大切にできる発問を構成しましょう。先生が聞くから 答えるという発問ではなく、発問のねらいを明確にし、どんな順番で発問すれば子ど もにとって気付きの多い学習になるのかを考え、発問計画を行います。 71

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Page 1: 授業の基礎的・基本的な指導法Ⅰ -「発問」のポイント- · 授業の基礎的・基本的な指導法Ⅰ -「発問」のポイント- 日々の授業の中で、教師は様々な指導技術を用い、子どもの興味関心を高めよう

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授業の基礎的・基本的な指導法Ⅰ

-「発問」のポイント-

日々の授業の中で、教師は様々な指導技術を用い、子どもの興味関心を高めようとしている。とりわけ、教師の発問次第で、子どもの目は輝き、学習への意欲も高まってくる。しかし、ただ漠然とした発問や的を得ない発問では、全く逆効果になる。ここでは、授業において教師が陥りがちな発問の失敗事例も含めて、子どもの意欲を引き出す発問の事例を紹介する。

発問のポイント

よくある失敗例

多様な場面の

中で、どのよう

に発問を行い、

その答えにどう

切り返していく

か、そのヒント

が示されている。

大切なことは

何か。このこと

を意識して発問

する。

「発問」「板書」のポイント事例集は、教育センターホームページ教材データベースに掲載しています。

URL http://www.tym.ed.jp/c10/index.html

「ねらいを明確にする発問」

発問のねらいを明確にした、研ぎ澄まされた発問を!

【こんな失敗をしていませんか】

先生が質問しているからしかたなく子どもが答える。でも子どもたちは問題意識が薄く、何のために答えているのか分からない・・・。こんな発問を授業の中で繰り返してはいませんか?ここでは、本時の学習課題が何で、どんな力を身に付けさせたいのかなど、ねらいを明確にした発問を取り上げ、授業で子ども自身が何を学ぶのか実感できる発問について考えましょう。

【展開例】(中学校3年生 国語 「俳句の読み取り」)

【各段階におけるポイントや助言】

教:俳句のおもしろさはどんなところにあると、筆者は述べていますか? ※1 ※1

A:省略されている部分を、読む人が自由に鑑 前時までに学習した内容の最も大切

賞できるところです。 な部分をクラス全体で確認します。

教:そうですね。では、「どの子にも涼しく風 ここで子どもの反応がよくなかった

の吹く日かな」という俳句は、どんなとこ 場合は、前時までの学習が定着してい

ろが省略されているのでしたか? ない証拠です。本時のねらいに迫るた

B:場所や時間! めにも、ここでの確認は丁寧に行いま

C:「どの子」ってだれのことか、自由に想像 しょう。

できるよ。教:その通り。みんな、すばらしい!でも、そ ※2

うだとすれば、みなさんが課題で作ってき 生徒が気付かない部分を発問によっ

た俳句も、「省略されている部分」がちゃ て揺さぶります。生徒自身に自分の学

んとあって、そこを自由に鑑賞できる作品に 習の達着度を見直す機会を設けること

なっているはずですよね? ※2 で、本時のねらいを達成できるように

D:えー、どうだろう。 します。

E:「省略されている」って、考えなかった… ※3

F:ストレートすぎるかも。 既習事項を元に、「自分の作品を推敲

G:想像の余地なしの俳句だあ。 する」という本時のねらいを提示しま

教:では、「鑑賞の視点」を大切にして、自分 す。

の俳句を推敲してみましょう。 ※3 場合によっては補助発問も用意し、子

・・・・・ どもの理解を助けることも効果的です。

【ここが大切なポイントです】既習事項を次の学習課題に結び付けることで、子どもは何を学んでいるのかを実感

することができます。従って、ただ漠然と「なぜ?」「どう思う?」といった安易な発問を繰り返すのではなくて、その発問でどのような力を子どもに身に付けさせたいかをしっかりと考え、そのことと直結した発問にしましょう。

発問の構成を意識し、授業を組み立てましょう。「易から難」を基本的な流れとしながら、子どもの思考の流れを大切にできる発問を構成しましょう。先生が聞くから答えるという発問ではなく、発問のねらいを明確にし、どんな順番で発問すれば子どもにとって気付きの多い学習になるのかを考え、発問計画を行います。

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授業の基礎的・基本的な指導法Ⅱ

-「板書」のポイント-

板書は1時間の授業の構想図であり、学習の足跡が視覚で理解できるものである。授業の始まりに、どのような資料を提示するのか、そこからどのような問題を構

成するのかなどを検討することは、問題解決的な学習に直接つながる。また、板書の内容を検討するには、子どもの考えを予測したり、教師の次の資料提示や発問を検討することになり、授業力の向上につながる。

児童生徒の思考を促し、学びをより確かなものにするための板書の在り方についての事例を紹介する。

「大切にして

ほしい」板書の

ポイント

教師が陥りがちな板書の失敗事例を取り上げ、問題を提起した。

「大切にしてほしい板書」を具体的にイメージ で き る よ うに、授業全体や一部を示す板書の写真や図にポイントとなる事柄を付け加えて示した。

授 業 の 中 で「大切にしてほしい板書」を効果的に活用するための助言が書かれている。

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授業の基礎的・基本的な指導法Ⅱ

-「板書」のポイント-

板書は1時間の授業の構想図であり、学習の足跡が視覚で理解できるものである。授業の始まりに、どのような資料を提示するのか、そこからどのような問題を構

成するのかなどを検討することは、問題解決的な学習に直接つながる。また、板書の内容を検討するには、子どもの考えを予測したり、教師の次の資料提示や発問を検討することになり、授業力の向上につながる。

児童生徒の思考を促し、学びをより確かなものにするための板書の在り方についての事例を紹介する。

「大切にして

ほしい」板書の

ポイント

教師が陥りがちな板書の失敗事例を取り上げ、問題を提起した。

「大切にしてほしい板書」を具体的にイメージ で き る よ うに、授業全体や一部を示す板書の写真や図にポイントとなる事柄を付け加えて示した。

授 業 の 中 で「大切にしてほしい板書」を効果的に活用するための助言が書かれている。

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授業の基礎的・基本的な指導法Ⅱ

-「板書」のポイント-

板書は1時間の授業の構想図であり、学習の足跡が視覚で理解できるものである。授業の始まりに、どのような資料を提示するのか、そこからどのような問題を構

成するのかなどを検討することは、問題解決的な学習に直接つながる。また、板書の内容を検討するには、子どもの考えを予測したり、教師の次の資料提示や発問を検討することになり、授業力の向上につながる。

児童生徒の思考を促し、学びをより確かなものにするための板書の在り方についての事例を紹介する。

「大切にして

ほしい」板書の

ポイント

教師が陥りがちな板書の失敗事例を取り上げ、問題を提起した。

「大切にしてほしい板書」を具体的にイメージ で き る よ うに、授業全体や一部を示す板書の写真や図にポイントとなる事柄を付け加えて示した。

授 業 の 中 で「大切にしてほしい板書」を効果的に活用するための助言が書かれている。

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授業の基礎的・基本的な指導法Ⅱ

-「板書」のポイント-

板書は1時間の授業の構想図であり、学習の足跡が視覚で理解できるものである。授業の始まりに、どのような資料を提示するのか、そこからどのような問題を構

成するのかなどを検討することは、問題解決的な学習に直接つながる。また、板書の内容を検討するには、子どもの考えを予測したり、教師の次の資料提示や発問を検討することになり、授業力の向上につながる。

児童生徒の思考を促し、学びをより確かなものにするための板書の在り方についての事例を紹介する。

「大切にして

ほしい」板書の

ポイント

教師が陥りがちな板書の失敗事例を取り上げ、問題を提起した。

「大切にしてほしい板書」を具体的にイメージ で き る よ うに、授業全体や一部を示す板書の写真や図にポイントとなる事柄を付け加えて示した。

授 業 の 中 で「大切にしてほしい板書」を効果的に活用するための助言が書かれている。

「事実と考えを関連付ける板書」

事実と子どもの考えが混在していませんか?

【気になっている状況】

「資料を見て気付いたことや疑問に思ったことを書きましょう」と投げかけ、様々な視点から気付いたことを話し合う場面はよくあります。その際に、子どもたちが見付けた事実をたくさん書き出すことで、多面的な見方が広まったと捉えたり、「大変だ」「ひどい」といった思いを出し合うことで、思考が高まったと思ったりすることがあります。板書で事実と考えとをどのように整理し、位置付けたら子どもの思考は深まるのでしょうか。

【展開例】(小学校6年生 社会科「条約改正」の導入場面)

ポイント① 一人一人の着眼点を資料に で囲んで明確にし、そこからどんな事実を読み取ったのか要点をおさえて板書します。

ポイント② 読み取った事実から導き出された多様な考えを観点ごとに分類しながら板書します。事実と考えをペアで示し、互いの考えを比べやすくすることで、本時の課題に迫ります。

【ここがポイント】

子どもが捉えた着眼点や事実を明確にすることは、共通の知識を共有しながら新たな気付きを追究しようとする意欲につながります。また、個々の考えとその裏付けとなる事実のつながりを明確にすることで、互いの見方・考え方の違いやよさに気付くきっかけになります。事実と考えを明確に分け、それらを関連付けて観点別に構造化して板書することが、学習課題に迫る子どもの思考を支えます。

ポイント①

「ノルマントン号事件」が起きた当時の日本と外国の関係を考えよう

日本人 イギリス人

船長

舟がしずみそう 助けない

遠くから泳いでいる ・浮き輪

困っている ・「行け!」

寒そうだ 船員 事実乗せててもらえない 無視

事実 ・パイプ

・うでぐみ

多様な考え

許さない どうしてだろう 仕方ない

家族の人が悲しむ 助けなくても許される 自分の命が大切

国民だって許さない 理由があるのかな 当時のイギリスには

差別だ ひどい 日本は近代化して強い 逆らえない

人間じゃない 国になったはずなのに

ポイント①

ポイント②

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