理学療法ガイドライン(診療・教育)...理学療法教育ガイドラインの概要...
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理学療法ガイドライン(診療・教育)
ガイドラインとは ガイドラインとは
• 対象者(患者や学生)と支援者(医療者や教員)が特定の状況で適切な判断や選択を下せるように,体系的な方法に則って作成された文書を指す。
理学療法ガイドラインとは
• 日本理学療法士協会では、平成19年度にガイドライン特別委 員会を設置した(内山 靖 委員長)。
(1)理学療法診療ガイドライン部会 (鈴木重行 部会長)
(2)理学療法教育ガイドライン部会 (柳澤健,大橋ゆかり部会長)
(3)理学療法業務ガイドライン部会
(4)外部ガイドライン支援部会
教育・診療ガイドライン
教育・診療ガイドラインは,それぞれ0版を経て,1版が公開されている。
0版: 現状を整理し,主として会員内のコンセンサスを高める
ことを目的に作成。
1版: 拡充した内容を内外のレビューアーの吟味を踏まえ、実
行性のある提言を目的に作成。
教育ガイドライン
0版 平成21年 1版 平成22年(p82)
診療ガイドライン
0版 平成21年 1版 平成23年(p1,223)
ダイジェスト版 平成27年
理学療法教育ガイドライン
平成11年 理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則改正 (大綱化) 具体的な教育内容に関する指針を求める意見 教育課程が多岐。養成施設によって教育内容に偏り 理学療法教育には依拠すべき教育ガイドラインがない 平成16年 教育ガイドライン作成に向けた取り組み開始(教育部) 平成18年 教育ガイドライン(試案:専門領域のみ)が作成 平成21年 理学療法教育ガイドライン(第0版)が作成 平成22年 理学療法教育ガイドライン(第1版)が作成
理学療法教育ガイドラインの概要
• 第1部 総論
Ⅰ.卒前教育の枠組み
1. 卒前教育の到達目標
2. 養成期間・養成形態に関する考え方
3. 教員が備えるべき条件
Ⅱ.臨床実習教育
Ⅲ.卒前(学内)教育における理学療法教授法
Ⅳ.4年制大学カリキュラムへの提言
Ⅴ.大学院教育カリキュラムへの提言
• 第2部 理学療法卒前教育モデル・コア・カリキュラム
卒前教育の到達目標
• 理学療法教育は,本質的に生涯にわたって継続されなければならない。
• その中で,卒前教育が果たす役割とは,理学療法士として生涯にわたり活躍するための資質,知識,技術に関する基礎を築くこと,および医療専門職として必要な新たな知識,技術に出会った時に,それらを自ら学ぶための能力と習慣を形成することである。
このような考えの下に,本ガイドラインでは,理学療法の
卒前教育の到達目標を
「理学療法の基本的な知識と技能を修得するとともに,自ら学ぶ力
を育てる」と設定した。
(臨床実習教育の手引 第5版(2007)準拠)
臨床実習の到達目標
前述した卒業時の到達目標を受け,臨床実習の目標を
「ある程度の助言・指導のもとに,基本的理学療法を遂行できる」とした。
この目標の意図は、
①学生のみで独立した評価や治療を実施することを求めていない
②必要な助言や指導を積極的に受けてよいこと
を明示している。
また,
・学生自身が,わからない,できない点を自ら明確にすること
・卒業後に継続して積極的に学ぶ姿勢と方法を習得すること
が含まれている。
コア・カリキュラムとして指定した単位数
• 指定規則93単位の中の83単位に相当する内容をコア・カリキュラムとして示した。
3年制課程 93単位の89%
4年制課程 124単位の67%
• そのうち,18単位を臨床実習の単位として確保し,残り65単位を学内教育の単位に充てた。
基礎領域 12単位
専門基礎領域 23単位
専門領域 30単位
臨床実習 18単位
カリキュラム(教育課程)の位置づけ
臨床ニーズ
教育目標
カリキュラム
卒業生の特性
*コア・カリキュラム 基本的で必須の学習項目
教育内容 単位数
基礎分野 科学的思考の基盤
人間と生活
十四
専門基礎分野 人体の構造と機能及び心身の発達
疾病と障害の成り立ち及び回復過程の促進
保健医療福祉とリハビリテーションの理念
十二
十二
二
専門分野 基礎理学療法学
理学療法評価学
理学療法治療学
地域理学療法学
臨床実習
六
五
二十
四
十八
合計 九十三
理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則(1999年改定)の教育の内容(別表第一)
コア・カリキュラムとして指定した単位数
• 指定規則93単位の中の83単位に相当する内容をコア・カリキュラムとして示した。
3年制課程 93単位の89%
4年制課程 124単位の67%
• そのうち,18単位を臨床実習の単位として確保し,残り65単位を学内教育の単位に充てた。
基礎領域 12単位
専門基礎領域 23単位
専門領域 30単位
臨床実習 18単位
専門科目の区分
• 専門領域は
“理学療法の基礎”
“系統別理学療法”
“地域理学療法”
に3区分した。
• “系統別理学療法”については,協会における専門領域研究会の区分や欧米諸国における理学療法の領域区分を参考に,障害(疾患)別理学療法としてある程度の区分が可能な骨関節障害,神経障害,内部障害 を定めた。
各科目の到達レベル
コア・カリキュラムでは,教授項目毎に到達レベルを示した。 到達レベルは次の4段階に区分されている。
• 「キーワードレベル」
• 「知識獲得レベル」
• 「臨床実習要補助レベル」
• 「臨床実習見守りレベル」
その用語をどのような文脈で聞いたかが分か
り,必要な時に自己学習できるレベル
自分の言葉で説明できるレベル
学内実習で経験しており,健常者に対しては
適切に実施できるが,臨床場面ではリスクを
ともなう可能性が高く,指導者による十分な
指導,補助が必要なレベル
学内実習で経験することにより,臨床の場で
もある程度自力で行えると判断できるレベル
教育ガイドラインの課題
1999年に改正された「指定規則」が16年を経過して、現状の教
育の潮流と実際に合致していない部分があり、任意の教育ガイドラインのみでは実効性を伴わない懸念がある。
・モデル・コアカリキュラム(専門領域、講義・実習の配分を含む)
・臨床実習教育の参加基準(臨床実習前教育の効果判定)
・臨床実習(実施の範囲と領域、指導者・施設の認証、卒後研修)
訂正を加えた 「医学生の臨床実習における 医行為と水準」の例示
診療ガイドラインに期待される役割
診療の支援: 患者と医療者の意思決定の基礎資料
医療機関の診療の質の向上・格差の是正
教育の支援: 生涯教育の情報源
卒前・後教育における利用
研究の支援: 研究促進
医療政策: 医療保険制度などの医療制度、医療政策に影響
理学療法診療ガイドラインの概要
医学会等が発行する診療ガイドラインでは,治療方法についての適用と推奨グレードが主な内容となっている。
これは,国民の関心は,診断学そのものでなく,適切な治療方法と選択の根拠に関心があること,また,すでに診断基準等は一定以上の水準で確立している場合が多いことが背景にある。
理学療法では,統一した評価指標や機能診断学に類する臨床推論の過程についても標準化を図ることが求められる。
上記を踏まえて,本ガイドラインにおいては、評価指標ならびに
介入(治療)方法についてそれぞれ扱っている。
版 疾患,領域 班長(所属)
1版
0版
背部痛 班 長 副班長
鈴木 重行 松原 貴子
(名古屋大学) (日本福祉大学)
腰椎椎間板ヘルニア 班 長 副班長
伊藤 俊一 久保田健太
(埼玉県立大学) (北海道千歳リハビリテーション学院)
脳卒中 班 長 副班長
吉尾 雅春 松田 淳子
(千里リハビリテーション病院) (森ノ宮医療大学)
脊髄損傷 班 長 副班長
神沢 信行 棏平 司
(甲南女子大学) (関西労災病院)
パーキンソン病 班 長 副班長
望月 久 佐藤 信一
(文京学院大学) (東京慈恵会医科大学附属病院)
脳性麻痺 班 長 副班長
中 徹 大城 昌平
(鈴鹿医療科学大学) (聖隷クリストファー大学)
糖尿病 班 長 副班長
大平 雅美 片田 圭一
(信州大学) (石川県立中央病院)
心血管疾患 班 長 副班長
松永 篤彦 内山 覚
(北里大学) (東京都健康長寿医療センター)
慢性閉塞性肺疾患 (COPD)
班 長 副班長
千住 秀明 神津 玲
(長崎大学) (長崎大学)
身体的虚弱 (高齢者)
班 長 副班長
古名 丈人 島田 裕之
(札幌医科大学) (国立長寿医療研究センター)
診療ガイドラインで扱った疾患,領域
版 疾患,領域 班長(所属)
1版
膝前十字靭帯損傷 班 長 副班長
川島 敏生 大見 頼一
(日本鋼管病院) (日本鋼管病院)
変形性膝関節症 班 長 副班長 副班長
木藤 伸宏 金村 尚彦 小澤 純也
(広島国際大学) (埼玉県立大学) (広島国際大学)
肩関節周囲炎 班 長 副班長
立花 孝 村木 孝行
(信原病院) (東北大学病院)
下肢切断 班 長 副班長
大峯 三郎 舌間 秀雄
(九州リハビリテーション大学校) (産業医科大学病院)
徒手療法 班 長 副班長
板場 英行 中山 孝
(高知医療学院) (東京工科大学)
地域理学療法 班 長 副班長
金谷さとみ 浅川 康吉
(菅間記念病院在宅総合ケアセンター) (群馬大学)
1版での拡充領域
診療ガイドラインの基本構成
• 第1章 はじめに
• 第2章 参考にしたガイドライン,引用したデータベース
• 第3章 理学療法評価のエビデンスレベルと推奨グレード
• 第4章 理学療法介入のエビデンスレベルと推奨グレード
• 第5章 現状と今後の展望
• 用語
• アブストラクトテーブル
• 備考
エビデンスレベルとは
研究論文の研究デザインをもとに,科学的な信頼性の水準がどの程度であるかを判定するもの。
1 :システマティックレビュー RCTのメタアナリシス
2 :RCT(randomized clinical trialを含む)
3 :non-RCT
4a:コホート研究
4b:症例対象,横断研究
5 :記述研究
6 :学会・専門家の意見
推奨グレードとは
エビデンスレベルを基礎として,我が国の保険体系,関連学会等の推奨グレード,発行元の戦略を勘案し,標準的な臨床導入の推奨の程度を段階化したもの。
A:信頼性,妥当性があるもの
B:信頼性,妥当性が一部あるもの
C:信頼性,妥当性は明確でないが,一般的に使用されているもの。「一般的」とは学会,委員会等での推奨も含む。
A :行うように勧められる強い科学的根拠がある
B :行うように勧められる科学的根拠がある
C1:行うように勧められる科学的根拠がない
C2:行わないように勧められる科学的根拠がない
D :無効性または害を示す科学的根拠がある
評
価
治療介入
推奨グレードのピットフォール
1.推奨グレードはエビデンスレベルを基礎としているが
1)我が国の保険体系
2)関連学会等の推奨グレード
3)発行元の戦略
が加味された総合判断の結果である。
2.推奨グレードは総数としての統計学的なパワーに基
づくエビデンスを参考にしており,目の前の対象者が
適用となるかを保証しているものではない。
3.理学療法・リハの推奨グレードはC1が多い。
• 参考にした他のガイドライン • Neck Pain and the Decade of the Bone and Joint 2000-2010. (2008)
• Neck pain: Clinical practice guidelines linked to the international classification of functioning, disability, and health from the Orthopedic Section of the American Physical Therapy Association. (2008)
• 科学的根拠(Evidence Based Medicine; EBM)に基づいた腰痛診療ガイドライン. (2002)
• European Guidelines for the Management of Acute Nonspecific Low Back Pain in Primary Care. (2004)
• European Guidelines for the Management of Chronic Non-Specific Low Back Pain. (2004)
• An updated overview of clinical guidelines for the management of non-specific low back pain in primary care. (2010)
• Quality of low back pain guidelines improved. (2009),ほか
• 参考にした国際的なデータベース等 • PubMed
• MEDLINE
• CINAHL
• Cochrane Library
• 医学中央雑誌,など
診療ガイドラインの具体例(背部痛)
背部痛の「評価指標」
評価指標 判定 文献数
疫学 疫学,リスクファクター B 13
理学療法士が知っておくべき
診断に関する知識
レッドフラッグ,イエローフラッグ B 14
診断的トリアージ C 7
病歴聴取 B 5
診断画像 単純X線,MRI,CT,骨シンチ,椎間板造影 C 42
理学所見 (客観的評価)
疼痛誘発検査 A 1
筋力,可動性,TrP,SLR,機能検査,神経学的検査 B 28
触診,運動検査,圧痛,筋電図,脚長差 C 6
スケール,評価表,質問表 (主観的評価)
疼痛強度評価(VAS,NRS,VRS,Face scale) A 11
質問表(SF-MPQ,NDI,NPAD,CNFDS,RDQ,ODI,JOABPEQ)
A 30
包括的評価(SF-36,SIP,DRI,FRI) A 10
質問表(MPQ,NPQ) B 7
JOA腰痛スコア C 2
非器質的因子評価 精神心理社会的問題 B 10
若年者腰痛発症要因 C 20
背部痛の「評価指標」の推奨グレード
介 入
介入方法 判定 文献数
徒手療法 マニピュレーション,モビライゼーション B 37
マッサージ B 6
集学的リハ 集学的/学際的リハ A 22
認知行動療法,行動療法 A 11
社会的アプローチ 予防
教育的アプローチ A 4
予防 B 5
安静,活動
安静 D 2
活動制限 D 2
活動継続 A 6
再活動・活動量増加 B 1
装具療法
腰椎支持装具 D 12
靴インサート C1 1
枕 C1 3
背部痛の「治療介入」の推奨グレード
診療ガイドラインの臨床適用
日常診療での疑問点 日常診療での疑問点
患者への評価・治療の適応を評価 患者への評価・治療の適応を評価
治療方針の決定 治療方針の決定
疑問点・不確かな点
評価・更新
理学療法診療ガイドラインの課題
・臨床活用しやすいQ and A形式の記載 ⇒第2版への改訂 出版物として全会員へ配布 活用のための手引き、実践研修の実施 卒前教育・臨床実習教育での積極的な導入 病期ごとの整理 臨床推論とその過程における活用方法の提示 ・ステークホルダーならびに関連学会との連携 ⇒第3版以降の構想 分科学会単位での関連学会との恒常的な連携 各領域での分冊化と一体化の比較
ダイジェスト版 平成27年
腰椎椎間板ヘルニア 膝前十字靭帯(ACL)損傷 肩関節周囲炎 変形性膝関節症 脳卒中 脊髄損傷 パ-キンソン病 脳性麻痺 糖尿病 心大血管疾患 下肢切断 地域理学療法 徒手的理学療法
理学療法ガイドラインの展望
1.さらに、会員が利用しやすい改版と実行性の向上 2.利用者、関係諸機関・行政への普及と啓発 3.診療ー教育ガイドラインを有機的に統合し、理学療 法業務や職域を俯瞰できるキャリラダーをも包含した 概要の提示