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私的録音録画補償金事件判決について 中小路

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私的録音録画補償金事件判決について

中小路 大大 軒 敬 子園 部 正 人

目次

1.事案の概要

2.私的録音録画補償金制度の概要

3.他国における私的録音録画補償金制度

4.特定機器該当性

5.法104条の5所定の協力義務の法的性質

6.不法行為に基づく損害賠償義務の有無

7.被告各製品の販売による補償金請求権の侵害の有無

1.事案の概要• 控訴審判決 知財高判平23.12.22平23(ネ)10008号

• 第一審判決 東京地判平22.12.27平21(ワ)40387号

• 一審原告:私的録画補償金を受ける権利を行使することができる唯一の指定管理団体(一般社団法人私的録画補償金管理協会:SARVH)

• 一審被告:地上デジタル放送用、BSデジタル放送用及び東経110度CSデジタル放送用のチューナーを搭載するのみで、アナログ放送用のチューナーを搭載していないDVD録画機器(アナログチューナー非搭載DVD録画機器。被告各製品)を製造する製造業者で、当該録画機器に関する私的録画補償金相当額を上乗せ徴収せず、支払っていない者(東芝)

• 一審原告が著作権法104条の5の協力義務の履行として、又は協力義務違反の不法行為による損害賠償として、被告各製品に関する私的録画補償金相当額の支払い請求を行った。

• (平成24年11月8日上告棄却)

2.私的録音録画補償金制度の概要

電子情報技術産業協会

(JEITA)

日本記録メディア工業会

(JRIA)

(

指定管理団体

私的録音補償金管理協会(

SARAH)

私的録画補償金管理協会(SARVH)

権利者分配金

共通目的基金

(20%)

2.私的録音録画補償金制度の概要• 指定管理団体のみが私的録音録画補償金を受ける権利を有する(法104

条の2第1項)。裁判上、裁判外の行為を行う権限を有する(同条2項)。

• 特定機器、特定記録媒体の購入者が支払義務を負う(法104条の4第1項)。

• 特定機器、特定記録媒体の製造又は輸入を業とする者は、私的録音録画補償金の支払の請求及びその受領に関し協力しなければならない(法104条の5)。

• 補償金の額は文化庁長官の認可事項(法104条の6)。

• 補償金の20%は著作権等の保護に関する事業等のために支出しなければならない(法104条の8)。

3.他国における私的録音録画補償金制度

• 1965年、ドイツ(当時の西ドイツ)が私的録音補償金制度を採用。

• 著作権先進国を中心に、日本を含めて25カ国で同制度を導入(2008年1月現在)。

• 補償金の対象は、録画機器、記録媒体の一方または双方(国により異なる)。

• 補償金の額は、定額、料率、アナログとデジタルで金額設定が異なる場合もある(国により異なる)。

• イギリスでは、私的複製そのものが原則違法。私的録音録画補償金制度はない。

省略

3(1)ドイツの私的録音補償金制度

• 対象:アナログ・デジタルの録音・録画の機器・記憶媒体。MP3プレーヤー(iPodなど)も含む。

• 補償金支払者:製造業者、輸入業者(日本は、機器・記憶媒体の購入者)

• 請求権行使者:集中管理団体

3(2)フランス

• 対象は、アナログ・デジタルの録音・録画媒体。MP3プレーヤー、USBメモリーカード、HDも含む。• 機器は対象外

• 補償金支払者:製造業者、輸入業者(日本は、機器・記憶媒体の購入者)

• 請求権行使者:集中管理団体(使用料徴収分配協会)

3(3)米国の私的録音補償金制度

• デジタル家庭内録音法(Audio Home Recording Act, “AHRA”)

• デジタル録音の機器・媒体のみが対象。• 録画は対象外。

• 権利者は、映像にコピーガードをかけており、私的目的でも録画されないように対応。

• 補償金支払者:製造業者、輸入業者(日本は、機器・記憶媒体の購入者)

• 請求権行使者:著作権局長

4.特定機器該当性

• 著作権法30条2項

• 特定機器:デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器であって政令で定めるもの(①放送等の業務用の特別の性能を有するもの、②本来の機能に附属する

機能として録音又は録画の機能を有するものを除く)

• 特定記録媒体:当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体

4.特定機器該当性-録音機器

• 著作権法施行令第1条第1項 法第30条第2項 の政令で定める機器のうち録音の機能を有するものは、次に掲げる機器(他の機器との間の音の信号に係る接続の方法で法第30条第2項の特別の性能を有する機器に用いるものとして文部科学省令で定めるものを用いる機器を除く。)であつて主として録音の用に供するもの(次項に規定するものを除く。)とする。

• DAT(デジタル・オーディオ・テープレコーダー) 回転ヘッド技術を用いた磁気的方法により、32キロヘルツ、44.1キロヘルツ又は48キロヘルツの標本化周波数(後述)でアナログデジタル変換(後述)が行われた音を幅が3.81ミリメートルの磁気テープに固定する機能を有する機器 (1項1号)

• DCC(デジタル・コンパクト・カセット) 固定ヘッド技術を用いた磁気的方法により、32キロヘルツ、44.1キロヘルツ又は48キロヘルツの標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた音を幅が3.78ミリメートルの磁気テープに固定する機能を有する機器 (1項2号)

• MD(ミニ・ディスク) 磁気的かつ光学的方法により、44.1キロヘルツの標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた音を直径が64ミリメートルの光磁気ディスクに固定する機能を有する機器(1項3号)

• オーディオ用CD-R(コンパクトディスク・レコーダブル)、オーディオ用CD-RW(コンパクトディスク・リライタブル) 光学的方法により、44.1キロヘルツの標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた音を直径が80ミリメートル又は120ミリメートルの光ディスク(一枚の基板からなるものに限る。)に固定する機能を有する機器 (1項4号)

4.特定機器該当性-録画機器

• 同施行令第1条第2項 法第30条第2項 の政令で定める機器のうち録画の機能を有するものは、次に掲げる機器(ビデオカメラとしての機能を併せ有するものを除く。)であつて主として録画の用に供するもの(デジタル方式の録音の機能を併せ有するものを含む。)とする。

• DVCR(デジタル・ビデオ・カセット・レコーダー) 回転ヘッド技術を用いた磁気的方法により、その輝度については13.5メガヘルツの標本化周波数で、その色相及び彩度については3.375メガヘルツの標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた影像を、幅が6.35ミリメートルの磁気テープ(幅、奥行及び高さが125ミリメートル、78ミリメートル及び14.6ミリメートルのカセットに収容されているものに限る。)に連続して固定する機能を有する機器

• D-VHS(データ・ビデオ・ホーム・システム) 回転ヘッド技術を用いた磁気的方法により、いずれの標本化周波数によるものであるかを問わずアナログデジタル変換が行われた影像を、幅が12.65ミリメートルの磁気テープに連続して固定する機能を有する機器 (2項2号)

4.特定機器該当性-録画機器

• DVD等 光学的方法により、特定の標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた影像又はいずれの標本化周波数によるものであるかを問わずアナログデジタル変換が行われた影像を、直径が120ミリメートルの光ディスク(レーザー光が照射される面から記録層までの距離が0.6ミリメートルのものに限る。)であつて次のいずれか一に該当するものに連続して固定する機能を有する機器 (2項3号)

• イ 記録層の渦巻状の溝がうねつておらず、かつ、連続していないもの → MVDISC(マルチメディア・ビデオ・ディスク)?

• ロ 記録層の渦巻状の溝がうねつており、かつ、連続しているもの → DVD-RW(デジタル・バーサタイル・ディスク・リライタブル)、DVD+RW(デジタル・バーサタイル・ディスク・リライタブル)

• ハ 記録層の渦巻状の溝がうねつており、かつ、連続していないもの → DVD-RAM(デジタル・バーサタイル・ディスク・ランダム・アクセス・メモリ)

4.特定機器該当性-録画機器

• Blu-ray(ブルーレイ・ディスク・レコーダー) 光学的方法(波長が405ナノメートルのレーザー光を用いることその他の文部科学省令で定める基準に従うものに限る。)により、特定の標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた影像又はいずれの標本化周波数によるものであるかを問わずアナログデジタル変換が行われた影像を、直径が120ミリメートルの光ディスク(レーザー光が照射される面から記録層までの距離が0.1ミリメートルのものに限る。)であつて前号ロに該当するものに連続して固定する機能を有する機器(2項4号)

4.特定機器該当性-特定記録媒体

• 著作権法施行令第1条の2 法第30条第2項 の政令で定める記録媒体のうち録音の用に供されるものは、前条第一項に規定する機器によるデジタル方式の録音の用に供される同項各号に規定する磁気テープ、光磁気ディスク又は光ディスク(小売に供された後最初に購入する時に録音されていないものに限る。)とする。

• 2 法第30条第2項 の政令で定める記録媒体のうち録画の用に供されるものは、前条第二項に規定する機器によるデジタル方式の録画(デジタル方式の録音及び録画を含む。)の用に供される同項各号に規定する磁気テープ又は光ディスク(小売に供された後最初に購入する時に録画されていないものに限る。)とする。

4.特定機器該当性-デジタルアナログ変換• 標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた音/影像を・・・・に固定/連

続して固定する機能を有する機器

• アナログデジタル変換:アナログ信号をデジタル信号に変換すること

• 標本化周波数:1ヘルツは、1秒間に1回の周波数・振動数

©鈴木 啓一郎=アイティ・アシスト

4.特定機器該当性-デジタルアナログ変換• DATの場合

• 音声(アナログ)→電気信号(アナログ)→A/Dコンバーター→デジタル信号→磁気テープに録音

• 磁気テープ読み取り→デジタル信号→D/Aコンバーター→電気信号(アナログ)

• アナログ放送の録音機器の場合

• アナログ放送信号(アナログ)→ A/Dコンバーター→デジタル信号→DVD等に録画

• 被告各製品の場合

• 地デジ放送信号等(デジタル)→暗号解除→DVD等に録画

• 地デジ放送信号

• 撮影対象・音(アナログ)→(ベータカム(アナログ信号))→A/Dコンバーター→デジタル信号

4.特定機器該当性-第一審の判断

• 施行令1条2項3号の「アナログデジタル変換が行われた影像」との文言は、変換処理が行われる場所がその機器内で行われたものか、それ以外の場所で行われたものかについては、何ら規定していないのであるから、そのような変換処理が行われる場所の如何に関わらず、「アナログ信号をデジタル信号に変換する処理が行われた影像」を意味すると解するのが相当であるとし、被告各製品の特定機器該当性を肯定した。

4.特定機器該当性-控訴審の判断

• 著作権法30条2項に基づき政令で録音・録画機器(特定機器)の範囲を定めるには,その当時利用されていた機器が対象とする録音・録画源と録音・録画規格を前提にし,当該録音・録画機器の普及の状況や利用実態が検討され,関係者の協議等に基づく合意の程度が勘案されてきたものであるところ,

• 著作権法施行令1条2項に3号が追加された当時,録画源がアナログテレビ放送であることが念頭に置かれ,この録画源についてDVD録画が行われる機器を録画補償金の対象とする点で関係者の大方の合意が得られたことから,同号の追加が閣議決定されたものであると認定し,

• 同号所定の「アナログデジタル変換によって行われた」影像を連続して固定する機能を有する機器との要件は,アナログ放送をデジタル変換して録画が行われることを規定したものであり,しかも,この変換は,DVD録画機器に搭載されるアナログチューナーからのアナログ信号を対象にするものであるから,当該機器においてアナログチューナーを搭載しないDVD録画機器については,アナログデジタル変換が行われず,したがって3号該当性は否定される。

4.特定機器該当性-控訴審の判断について• 立法者は施行令1条1項1号の録音機器を特定する要件としての「アナログデジタル

変換が行われた」につき、場所的限定がないことを規定の文言によって示したと積極的に明らかにしている。

• 平成11年には施行令1条2項2号が改正され、デジタル衛星放送をそのまま録画するD-VHS録画機器が補償金の対象とされていた。また、平成12年12月1日からBSデジタル放送の開始が決定しており、地上デジタル放送に移行することも決定していた。(施行令1条2項3号が追加されたのは平成12年7月)

• 施行令1条2項3号に「特定の標本化周波数でアナログデジタル変換が行われた影像」と「いずれの標本化周波数によるものであるかを問わずアナログデジタル変換が行われた影像」が併記されており、仮に前者が機器内部でA/D変換をするものだとしても、後者は他の機器でA/D変換した映像を意味するのではないか。

• CG等最初からデジタルで制作された放送用コンテンツや、フルデジタルカメラによって撮影された映像は、アナログデジタル変換が一度もされていないのではないか?

5.法104条の5所定の協力義務の法的性質

• 第1審

• 「協力」という用語は、抽象的で広範な内容を包含しうる用語であり、特定の具体的な行為を想定できない。

• 法104条の5においても、「協力」の具体的な行為ないし内容が特定されていない。

• 法第5章のその他の規定を見ても、上記の「協力」の内容を具体的に特定する旨の規定はない。

• このように、法104条の5においては、特定機器の製造業者等において「しなければならない」ものとされる行為が,具体的に特定して規定されていないのであるから,同条の規定をもって,特定機器の製造業者等に対し,原告が主張するような具体的な行為(すなわち,特定機器の販売価格に私的録画補償金相当額を上乗せして出荷し,利用者から当該補償金を徴収して,原告に対し当該補償金相当額の金銭を納付すること(以下「上乗せ徴収・納付」という。))を行うべき法律上の義務を課したものと解することは困難というほかなく,法的強制力を伴わない抽象的な義務としての協力義務を課したものにすぎないと解するのが相当である。

5.法104条の5所定の協力義務の法的性質

• 控訴審

• 上乗せ徴収・納付形式を前提にして制定されたものであるが、法文上一義的に明確ではない。その他の方法もあり得る。よって、協力義務の履行請求はできない。

6.不法行為に基づく損害賠償義務の有無

• 第1審

• 法的強制力を伴わない抽象的な義務としての協力義務を履行しなかったことについて,不法行為としての違法性が認められるとはいえない。

• 控訴審

• 上乗せ徴収・納付形式により徴収・支払いが行われてきた実態、協力義務が規定されていること、認可につき製造業者の意見を聞くこととされていることからして、協力しない場合、違反に至った経緯や態様によっては、指定管理団体が被った損害を賠償する場合があり得る。

7.被告各製品の販売による補償金請求権の侵害の有無

• 第1審

• 私的録画補償金相当額を上乗せせずに被告各製品を販売した被告の行為が,不法行為としての違法性を有するものと評価されるためには,少なくとも,被告に,被告各製品を販売するに当たって私的録画補償金相当額を上乗せして販売しなければならない法的な作為義務があることが前提とされなければならない。

• 法104条の5の協力義務の法的性質からすれば,同条の協力義務が,被告の法的な作為義務の根拠とならないことは明らかであり,また,そのほかに,かかる作為義務が生ずべき法律上の根拠も認められない。

• 控訴審

• 特定機器に当たらないと認定されているので、判断されていない。