総合知能を持ち、人と協働できる知能ロボットを開発! 研究室 … ·...

見たい 知りたい 29 SUNDAI ADVANCE 2016 vol.2 SUNDAI ADVANCE 2016 vol.2 28 山口高平教授 姿姿使使使××使寿!? 60

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見たい! 知りたい!

29 SUNDAI ADVANCE 2016 vol.2 SUNDAI ADVANCE 2016 vol.2 28

山口高平教授

人工知能研究の鍵は言葉の意味理解。特化知能ではなく、

総合知能を持ち、人と協働できる知能ロボットを開発!

慶應義塾大学

理工学部管理工学科

山口研究室

知能情報学

研究室の1室には、形も大きさも異な

る数体の人型ロボットが置かれている。

その中には、CMなどでおなじみのPe

pper君(人の言葉を理解し、自分も

言葉を話す知能ロボット)の愛らしい姿

ITスキルがなくても

人工知能のソフトウエアが作れる!

って人間の言葉を理解するのだろう。

「まず音の波形を文字単位で識別し文字

列に変換します。音声認識といわれるも

のですが、この技術はほとんど確立され

ています。次のステップは構文解析。主

語、述語、目的語など、それぞれの語が

文の中で果たす役割を切り分けていくわ

けですが、ここまではほぼできるのです。

ところが言葉の意味の理解、これが難し

く、現段階では、できても6、7割とい

ったところでしょうか」

えっ、でもPepper君は、人の言

葉を理解し、自分でもしゃべる知能ロボ

ットじゃないですか。すでに銀行などで

活躍しているようですけど。

「実際に接した人はわかるでしょうが、

Pepperは一方的にしゃべるだけで、

言葉のキャッチボール、受け答えはほと

んどできません。少し長い文になると、

『それ、わからない』と言って、話題を

変えてしまう(笑)。わかるのは想定シ

ナリオ内の短文だけで、実は言葉の意味

はほとんど理解していないのです」

これまでPepper君と話す機会が

なかった身としては、姿形のかわいさに

目を奪われ、その能力を過大評価してい

たようだ。さらに山口教授によれば、今、

AIの世界で注目のディープラーニング

も。これらのロボットを使い、いったい

どんな研究を行っているのだろう。

「今の人工知能(AI)は専門家にしか

作れませんが、それではAIの普及が限

られてしまいます。そこで私の研究室で

は、専門家とITスキルが低い普通の人

とのギャップを埋めるために、普通の人

でも手軽に使えるAIツールの研究開発

を進めているのです」

こう語り始めたのは山口高平教授。人

工知能学会の顧問を務める日本のAI研

究のパイオニアだ。そして、そのAIツ

ールとは、聞いて話して(音声対話)、

考えて(知識推論)、見て動いて(画像

センシング・動作)という一連の知的振

る舞いを実行するAI・知能ロボットの

も「言葉の意味理解に関してはほとんど

無力」なのだという。

「AIにはさまざまなタイプがあり、ビ

ッグデータから共通のパターンを抽出す

るディープラーニングは機械学習の最先

端の研究方法ですが、言葉の意味理解に

関しては、ディープラーニングでもあま

り精度は改善されない。今後、さらに研

究が進むでしょうが、現時点では従来の

やり方が優れていると思います」

では、従来のやり方とはどういうもの

だろうか。それこそ、山口教授が長らく

続けてきた、「オントロジー」をベース

に、AI・知能ロボットの言葉の意味理

解の精度を高めることだ。ちなみにオン

トロジーとは「存在論」を意味する哲学

用語だが、辞書を引くと「対象世界に関

わる諸概念を整理して体系づけ、コンピ

ュータにも理解可能な形式で明示的に記

述したもの」とある。でも、これではわ

からないから、山口教授にレクチャーし

ていただこう。

「私は言葉の意味のネットワーク、人・

物・事の関係性などと呼んでいます。例

えば織田信長なら、その家臣は秀吉、築

言葉の意味のネットワーク

オントロジーを作る

ソフトウエアを、モジュール(立つ・移

動する・話すなど知的振る舞いの機能別

プログラム)をつなぐだけで、ユーザー

自身が簡単に開発できるプラットホーム

PRINTEPS(プリンテプス)。

ユーザーが作業フローを描くだけでA

I・知能ロボットのプログラムが自動的

にできるなんて、まるで組み立てキット

みたいだ。「本当につなぐだけ?」と疑

いたくなるが、これはすでに実用化に向

けた実験が始まっている。例えば、Pe

pper君が取ったお客の注文情報を受

信した双腕ロボットが料理を作る「未来

のレストラン」、小学校の先生と知能ロ

ボットがチーム・ティーチングで展開す

る理科実験の授業、双腕ロボットが効率

城したのは安土城、本能寺で光秀に討た

れたという具合に、連想ゲーム的に言葉

の意味をつなげていき、ひとまとまりの

言葉のセットを作り、AIに与えていく。

私の研究室では十年かけ、日本語版ウィ

キペディアの情報からオントロジーを作

っており、今まで1500万ノード(要

素の総数)くらい蓄積できました。これ

を使うと『〇〇の××は?』という感じ

の質問には、ほぼ100%正解を出せる

のです」

逆に、オントロジーを使わなければ、

AIの言葉の意味理解は、前述のとおり

6、7割程度。目下、知能ロボットが

2021年度に東京大入試突破をめざす

「ロボットは東大に入れるか(東ロボ)」

プロジェクトが進行中だが、東京大の入

試問題は難解な長文だらけ。ロボットの

東京大への道はまだまだ険しいようだ。

「オントロジー研究は、むろんアメリカ

でも行われています。5年前に長寿クイ

ズ番組『ジェパディ』で、人間のチャン

ピオンに勝利したクイズAIのワトソン

は、この方法で鍛えられたんですよ」

ただし、このオントロジーにも大きな

ネックがある。作るのに、やたら手間ひ

まがかかるのだ。

「ネットワークを作成する作業は、すべ

的な作業手順を自律的に学ぶ「未来の工

場」などなど。

「このプリンテプスで、さまざまな業種

の仕事が手軽に簡略化、時間短縮化でき

るようになるでしょう。最近、話題のア

ルファ碁は、囲碁の世界だけで通用する

特化知能ですが、我々がめざしているの

は、人と協働できるAI・知能ロボット

―総合知能の開発なのです」

このプロジェクトは、「知識」「対話」

「画像センシング・動作」の3グループ

の共同研究で、研究代表者の山口教授は

知識グループを率いている。山口教授が

長年、研究してきた、AI・知能ロボッ

トにおける「言葉の意味理解」とも深く

関わる研究領域だ。でも、単なる機械に

過ぎないAI・知能ロボットが、どうや

Pepper君は

言葉のキャッチボールが苦手!?

て人力で行わねばならないのです。かつ

てコンピュータでその作業をやるという

研究がありましたが、この方法では精度

が高まらなかった。もしネットワーク化

を半自動的に構築する方法が開発されれ

ば、オントロジーによる意味理解は大き

く進展するでしょう」

この分野の研究がスタートして今年で

ちょうど60年。山口教授らは何度も何度

も壁にぶつかり、乗り越えてきた。

「今、AI研究でキーポイントとなるの

は言葉の意味の理解力を高めることです。

でも、それがとんでもなく難しい。この

研究を長く続けてきて、改めて実感する

のは人間の言語理解力は本当に素晴らし

い、ということですね(笑)」

今後、AI・知能ロボットが急速に進

化していく中、人類が確実に直面する問

題がある。それはAI・知能ロボットに

仕事を奪われる人が増加していくという

ことだ。すでに単純・肉体労働者は機械

やロボットに職場を追われている。前述

のプリンテプスは、人と協働するAIの

開発ツールだが、その傾向に拍車をかけ

るかもしれない。そしてAI先進国のア

知的好奇心と

はみ出して考える力を!

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見たい! 知りたい!

31 SUNDAI ADVANCE 2016 vol.2 SUNDAI ADVANCE 2016 vol.2 30

沼尾正行教授

学習機能を持ったコンピュータの開発から、人間の

感情・感性や心理に適応し、共感する人工知能の研究へ!

大阪大学産業科学研究所第1研究部門

知能アーキテクチャ研究分野

沼尾研究室

人工知能学

大阪大学産業科学研究所は昭和14年、

関西財界などの「産業に資する科学研究

の推進を!」との声を受けて設立された、

日本有数の総合理工型研究所。時代の要

請に応じ進化を続け、現在は情報・量子

研究の根幹をなすのは

機械学習

メリカでは今や、会計士、ファイナンシ

ャル・アドバイザー、調査専門の弁護士

などナレッジワーカー(知的労働者)も

同様の運命をたどりつつあるという。

「こうした状況の中、生き残れる職業が

持つ3要素は、クリエイティビティー(創

造性)とスキル(手先の器用さ)、パーソ

ナリティー(個性、人の気持ちを理解す

る能力)といわれています。3つめの要

素を考えると、セラピストや介護職など

が職業の人気ランキングの上位を占める

ようになるかもしれません」

読者諸君は、このような近未来社会で、

AI・知能ロボットと競い合いつつ生き

ていくことになる。では山口教授から、

そんな君たちにアドバイスを。

「まずは常に知的好奇心を持ち続けるこ

と。5W1Hのうち、クイズAIのワト

ソンが答えられないのはWHYとHOW

で、特に重要なのはWHYです。さまざ

まなものに『なぜ?』と知的好奇心を向

け、それを深堀りしていく姿勢を身につ

けてください。そしてもう一つはエクス

トリーム・シンキング、はみ出して考え

る力を培ってほしいということ。こうし

た能力が身についている人なら、人間と

AIが共存する社会となっても、何も怖

がることはない、と思いますよ」

科学系、材料・ビーム科学系、生体・分

子科学系の3部門に、産業科学ナノテク

ノロジーセンターを加え、それぞれ最先

端の研究を展開している。

「この研究所の大きな特徴は、異なる分

野の研究室との融合研究、コラボレーシ

ョンが非常に活発なことです。情報系の

私の研究室はデータ解析とかお手のもの

ですから、燃料電池のデータや生体系の

医学データの解析などを融合研究の一環

として行っています」

こう切り出したのは、情報・量子科学

系部門に属する研究室を率いる沼尾正行

教授。早くからコンピュータシステムの

柔軟性の欠如を指摘し、学習機能を持っ

たコンピュータ、人工知能(AI)の開

発に取り組んできた研究者だ。そして、

その研究の根幹をなすのは「機械学習」。

人間に備わっている学習能力と同じ機能

をコンピュータで実現しようとする技

術・手法である。

「1980年代、知識をどんどん追加し

ていくと、コンピュータがインテリジェ

ントになると言われましたが、その頃は

まだ知識は人間が与えなければならなか

ったのです。それで、自分で学習する機

能を持つコンピュータの開発がどうして

も必要だということになり、以来、我々

は知識をコンピュータに取り込むという

観点から、機械学習の研究が発展してき

ました。今、一番注目されているディー

プラーニング(深層学習)も機械学習の

一つの手法なのです」

ここで、機械学習の基本をインプット

しておこう。機械学習には「教師あり学

習」、「自己組織化」などの「教師なし学

習」、「強化学習」があるといわれている。

例えば、コンピュータにデータを入力

し、一連のデータ処理をさせたとしよう。

出力された答えが間違っていたら、教師

が登場し、どういう処理をすればよかっ

たか、正解を教師信号として与える。こ

れが「教師あり学習」だが、これに対し

「教師なし学習」はデータが入力される

だけで、どう処理すべきかの指示はなく、

コンピュータがデータ処理をする中で試

行錯誤を繰り返し、自ら学習しながら正

解を探していく。さらに「強化学習」で

は教師は登場しないが、データ処理の結

果の良否は、報酬や罰として与えられる

とされている。

人間の世界でいえば、「教師あり学習」

 

実は僕、AIにはあまり関心がな

かったのですが、この研究室で実際

にプログラミングを体験し興味が高

まってきました。AIの最先端の知

識・技術に触れられるのは、非常に

大きなメリットだと思います。現在

は慶應義塾幼稚舎にAIロボットを

持ち込み、教師・ロボット連携実験

授業を行う研究をしています。もち

ろん、子どもたちは毎回、大喜びで

す。

 

山口先生は放任主義というのか、

僕たち学生に好きな研究をさせてく

ださいます。それでいて、面倒見も

よい先生です。修士課程修了後はシ

ステムエンジニアか、ちょっと畑違

いですがコンサルティングの仕事に

就きたいと考えています。

先生とAIロボットが

教える実験授業に挑戦中!

 

丸川先輩と一緒にプリンテプスを

使って、「未来のレストラン」に関

する研究をしています。AIに関する

知識がほとんどゼロの状態で研究室

に入り、現在、基本的な勉強をして

いるところですが、“いざ実践!”と

なると、ちょっと違う部分が出てく

る。難しいものですね。

 

山口先生は僕たち学生のことを

よく考え、学生の意見を尊重してく

ださる先生です。教え方もとても丁

寧ですね。一見、厳格そうに見えま

すが、関西風のイントネーションで

の語り口が、親しみやすい雰囲気を

醸し出しています。学部卒業後は修

士課程に進み、将来はAIの知識を

生かせる職業に就きたいと考えてい

ます。

関西風の語り口で

親しまれる先生です!

 

3年次にディープラーニングが

大注目され、これからはAIの時代

と確信し、山口研究室に入りました。

現在はプリンテプスに関連する研究

に取り組んでいます。きちんとした

コードを描いたつもりでも、ロボッ

トがイメージ通りの動きをしてくれ

ず、試行錯誤を繰り返す。そのプロ

セスがけっこう大変です。

 

山口先生は、最初はちょっと怖い

人という印象でしたが、付き合いが

続くにつれ、学生の気持ちをすごく

理解してくれる先生だとわかりまし

た。学生が知り得ないAIの最新情

報を豊富に教えてくださいます。僕

の場合、就活の面接で、それを披露

し面接官に感心されて。すごくトク

した気分です(笑)。

AIの最新情報を

教えてもらえます!

赤柴駿介さん(修士課程1年)

丸川大輝さん(修士課程2年)

小松代紘生さん(理工学部4年)

生ミゼ 声の