石油天然ガス資源の埋蔵量定義:分類および評価手法...45石油・天然ガスレビュー...

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43 石油・天然ガスレビュー アナリシス JOGMEC 技術調査部 探査技術課 [email protected] 坂口 隆昭 石油天然ガス資源の埋蔵量定義:分類および評価手法 ―SPE基準とSEC 基準との比較における基礎知識― はじめに 現在、埋蔵量の定義や分類に関する基準は、国や会社 ごとに独自のものを使用しており、統一した視点で比較 することができない状況となっている。このようなな か、2004年にはRD/Shell社が独自の埋蔵量基準に従い、 投資家に対して埋蔵量の過大申告を行っている問題が発 生したことは、読者の記憶にも新しいことと思われる。 Shell社の埋蔵量の過大申告では、修正の結果、2002 年末と比較し、2003年末は全体の約3分の1が埋蔵量か ら外された結果となり、同社の油・ガス田の資産価値に 少なからず影響を及ぼしただけでなく、同社に対する投 資家の信頼が損なわれる事態につながった。 石油業界では、このShell社の問題を機として埋蔵量 の定義や評価手法のズレが意識されようになり、今日で はSPE (Society of Petroleum Engineers, 石油技術者協 会)、WPC(World Petroleum Congress, 世界石油会 議)、AAPG (American Association of Petroleum Geologists, 米国石油地質家協会)、SPEE(Society of Petroleum Evaluation Engineers, 石油評価技術協会)の 4組織によって、世界統一基準を念頭に置いた新基準が 策定されつつある。 しかし、“埋蔵量”については、会計上の概念でとら える基準や、技術的観点も含めた概念でとらえる基準が 依然として存在している。そのため、何をもって埋蔵量 とするのか、その定義を考えるためには、これまでの基 準や概念についての理解を深めることが重要になる。 そこで本稿では、現在、石油業界で広汎に使用されて いるSPE/WPC基準とSEC(U.S. Securities and Exchange Commission, 米国証券取引委員会)基準につ いて、その定義、分類および評価手法を比較し、その違 いについて言及する。 1. Reservesとは Reserves(埋蔵量)についての話をする前に、初め にResources(資源量)について触れたい。Resources とは、一般的に地下に存在するすべての炭化水素の量を 指し、既に生産されている量を含む場合もある。 たとえば、WPC基準では、Resourcesについて「既に 生産された量と同様、地下に含まれる炭化水素の見積も られたすべての量」と定義され、地下に存在すると推定 されるすべての炭化水素の量が“資源量”と位置づけら れている。 一方、Reservesについては、一般的にResourcesの一 部としてとらえられており、①既発見であり②回収可能 であり③経済性を有し④残存している――の4条件を満 たすものとされる。 例えば、SPE/WPC基準(1997)では、「埋蔵量とは、 ある時点以降に、既発見の油・ガスの集積から経済的に 回収可能と考えられる炭化水素の量」とまとめられてい る。 「埋蔵量」は資源量の一部分と位置づけられ、現状で 採算が取れて回収できる炭化水素の量(=可採埋蔵量) と定められているのである。 この資源量と埋蔵量との関係において、現在提唱され ている多くの埋蔵量定義の基礎となったとも言えるの が、1972年に提唱されたMcKelvey Boxである(図1)。 McKelvey Box 1972では、炭化水素の発見状況(横軸) と商業性(縦軸)の観点から、ReservesとContingent Resources(条件付き資源量)、Resourcesの区分がなさ れており、ReservesがResourcesの一部に位置づけられ ることがよく理解できる。また、既発見で今後商業性が 認められる可能性が高い部分にはContingent Resources と区分され、未発見の資源量よりもランクの高い部分に 定義されている。 現在、Reserves部分に関しては、多くの基準で、 Proved reserves(確認埋蔵量)、Probable reserves(推 定埋蔵量)、Possible reserves(予想埋蔵量)のカテゴ リーが設けられており、回収の確実性の度合いや評価の 不確実性を反映するように区分されている(図2)。 このように、一般的には以上のような分類や定義がなさ

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43 石油・天然ガスレビュー

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JOGMEC 技術調査部 探査技術課[email protected] 坂口 隆昭

石油天然ガス資源の埋蔵量定義:分類および評価手法―SPE基準とSEC 基準との比較における基礎知識―

はじめに

 現在、埋蔵量の定義や分類に関する基準は、国や会社ごとに独自のものを使用しており、統一した視点で比較することができない状況となっている。このようななか、2004年にはRD/Shell社が独自の埋蔵量基準に従い、投資家に対して埋蔵量の過大申告を行っている問題が発生したことは、読者の記憶にも新しいことと思われる。 Shell社の埋蔵量の過大申告では、修正の結果、2002年末と比較し、2003年末は全体の約3分の1が埋蔵量から外された結果となり、同社の油・ガス田の資産価値に少なからず影響を及ぼしただけでなく、同社に対する投資家の信頼が損なわれる事態につながった。 石油業界では、このShell社の問題を機として埋蔵量の定義や評価手法のズレが意識されようになり、今日ではSPE (Society of Petroleum Engineers, 石油技術者協会)、WPC (World Petroleum Congress, 世界石油会

議)、AAPG (American Association of Petroleum Geologists, 米国石油地質家協会)、SPEE (Society of Petroleum Evaluation Engineers, 石油評価技術協会)の4組織によって、世界統一基準を念頭に置いた新基準が策定されつつある。 しかし、“埋蔵量”については、会計上の概念でとらえる基準や、技術的観点も含めた概念でとらえる基準が依然として存在している。そのため、何をもって埋蔵量とするのか、その定義を考えるためには、これまでの基準や概念についての理解を深めることが重要になる。 そこで本稿では、現在、石油業界で広汎に使用されているSPE/WPC基準とSEC(U.S . Secur i t ies and Exchange Commission, 米国証券取引委員会)基準について、その定義、分類および評価手法を比較し、その違いについて言及する。

1. Reservesとは

 Reserves(埋蔵量)についての話をする前に、初めにResources(資源量)について触れたい。Resourcesとは、一般的に地下に存在するすべての炭化水素の量を指し、既に生産されている量を含む場合もある。 たとえば、WPC基準では、Resourcesについて「既に生産された量と同様、地下に含まれる炭化水素の見積もられたすべての量」と定義され、地下に存在すると推定されるすべての炭化水素の量が“資源量”と位置づけられている。 一方、Reservesについては、一般的にResourcesの一部としてとらえられており、①既発見であり②回収可能であり③経済性を有し④残存している――の4条件を満たすものとされる。 例えば、SPE/WPC基準(1997)では、「埋蔵量とは、ある時点以降に、既発見の油・ガスの集積から経済的に回収可能と考えられる炭化水素の量」とまとめられている。「埋蔵量」は資源量の一部分と位置づけられ、現状で採算が取れて回収できる炭化水素の量(=可採埋蔵量)

と定められているのである。 この資源量と埋蔵量との関係において、現在提唱されている多くの埋蔵量定義の基礎となったとも言えるのが、1972年に提唱されたMcKelvey Boxである(図1)。McKelvey Box 1972では、炭化水素の発見状況(横軸)と商業性(縦軸)の観点から、ReservesとContingent Resources(条件付き資源量)、Resourcesの区分がなされており、ReservesがResourcesの一部に位置づけられることがよく理解できる。また、既発見で今後商業性が認められる可能性が高い部分にはContingent Resourcesと区分され、未発見の資源量よりもランクの高い部分に定義されている。 現在、Reserves部分に関しては、多くの基準で、Proved reserves(確認埋蔵量)、Probable reserves(推定埋蔵量)、Possible reserves(予想埋蔵量)のカテゴリーが設けられており、回収の確実性の度合いや評価の不確実性を反映するように区分されている(図2)。このように、一般的には以上のような分類や定義がなさ

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れているが、その埋蔵量をとらえる概念や量を算定する評価手法は国や会社ごとに異なり、大きな違いが生じている。

DiscoveredCommercial

Sub-Commercial

Reserves

ContingentResources

Undiscovered

ProspectiveResources

出所:JOGMEC et al. 2007より

McKelvey Box-1972図1

Resources

Discovered Undiscovered

Non-Commercial

Reserves

Proved Probable Possible

CommerciallyRecoverable

CumulativeProduction

出所:SPEE,1988より

Resourcesの分類図2

2. SPEやSECにおける埋蔵量の分類と定義について

(1)SPEとSECについて

 次に、SPE/WPCとSECの組織および各基準について述べる。SPEは1964年に設立され、Reservesの定義に関する基準を作成し、この定義を他の組織へ広めること、また他の組織の活動をモニターし、世界規模の定義へ導くことを目的として活動している機関である。1964年に最初のSPE基準を策定して以降、これまで、技術の進歩などの業界を取り巻く環境変化に応じて、その基準を何度も改定してきている。 1987年には、ReservesをProved(確認)、Probable

(推定)、Possible(予想)に分類した定義を策定、1997年にはWPC(1983年設立)と共同で、この分類に決定論的手法と確率論的手法を取り入れた定義を策定している。さらに2000年には、AAPGも加入し、SPE/WPC/AAPGとして石油資源における定義を策定、ReservesだけでなくResourcesまで広げて定義付けた。最近においても、2007年3月にSPEEを加え、SPE/WPC/AAPG/SPEEとして新基準を策定したところである。 これらのうち、2007年の新基準を除き、1997年に発表されたSPE/WPCの定義が、国や組織が統制等の目的のためReservesやその分類に対する世界的で技術的な基準として策定され、最も世界基準に近いものとなっている。 一方、SECは、米国株式市場の暴落を機に1934年に設立され、投資家を保護するためにルールや指針の問題点

を洗い出すこと、正当で正直なセキュリティーマーケット(証券取引市場)を保証すること、さらには、投資家に埋蔵量を公表することを目的として活動している機関である。米国の証券取引所に株式を上場するすべての石油・ガス会社は、埋蔵量に関してSEC基準での報告を義務付けられている(総売り上げ、総資産もしくは総収入に占める油・ガス田操業部門の比率が10%以上の会社が対象)。 SEC基準は、1978年に策定されて以来改定されておらず、世界の石油開発技術の進歩や、産油国が外国企業と交わす石油契約形態の変化、企業の意思決定など、業界を取り巻く環境変化に追いついていないとの指摘がなされている。

(2) SPE/WPC基準におけるReservesと

Resourcesとの分類および定義

 SPE/WPC基準におけるReservesとResourcesとの分類では、プロジェクトのMaturity(熟成度)と不確実性の程度範囲を反映させた概念で区分がなされている(図3)。 この概念では、Resourcesのなかの「既発見の油田からある時点以降の将来にわたって商業的に採取可能と見込まれる量」を Reservesと位置づけ、このうち技術的に確実に採取可能と見込まれる量をProved Reservesとし、これに準ずる確実さのものを Probable Reserves 、さらにこれに準ずるものをPossible Reservesと細分して

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いる。 また、既発見で、かつ商業的採取の可能性が未確認で、かつ採取可能と想定される量をContingent Resourcesとし、今後探鉱を実施した結果発見され、採取されると想定される量をProspective Resources(想定資源量)としている。 この概念では、現時点で商業的採取の可能性が確認されていないものや現時点で未発見のものには、用語としてResourcesを使用し、Reservesと混同しないように使い分けがなされている。 さらにProved reserves、Probable reserves、Possible reservesについては次のように定義されており、確率論的手法とも対応されている。

➢Proved reserves(確認埋蔵量)は、地質学的、工学的データの解析により、ある時点以降に既知の貯留層から現状の経済条件、操業方法と規制の

下で商業的に回収されることが合理的確実さをもって予想される石油の量。また、確率論的手法が用いられるならば、確認埋蔵量が回収できる確率が、90%以上なければならない。

➢Probable reserves(推定埋蔵量)は、地質学的、工学的データの解析により、おそらく回収できると考えられる未確認埋蔵量。また、確率論的手法が用いられるならば、確認+推定埋蔵量が回収できる確率が、50%以上なければならない。

➢Possible reserves(予想埋蔵量)は、地質学的、工学的データの解析により、推定埋蔵量よりも回収できる確度が小さいと考えられる未確認埋蔵量。また、確率論的手法が用いられるならば、確認+推定+予想埋蔵量が回収できる確率が、10%以上なければならない。

 確率論的手法を用いる場合では、Proved reservesは少なくとも90%以上の確率で回収可能な量、Proved+Probable埋蔵量は50%以上の確率で回収可能な量、Proved+Probable+Possible埋蔵量は10%以上の確率で回収可能な量と定義されている。 また、SPE/WPC基準ではReserves(埋蔵量)部分に対して開発状況に基づいた分類がなされており、これを体系的にあらわしたものが図4、5となっている。

PRODUCTION

PROJECT STATUSRESOURCES CLASSIFICATION SYSTEM

RANGE OF UNCERTAINTY

PROSPECT MATURITY

TOTAL PETROLEUM INITIALLY IN PLACE(PIIP)

UNDISCOVERES PIIP

DISCOVERED HIIP

SUBCOMMERCIAL

COMMERCIAL

RESERVES

PROVED

LOW ESTIMATE HIGH ESTIMATEBEST ESTIMATE

UNRECOVERABLE

PLAY

LEAD

PROSPECT

ON PRODUCTION

UNDER DEVELOPMENT

PLANNED FOR DEVELOPMENT

DEVELOPMENT PENDING

DEVELOPMENT ON HOLD

DEVELOPMENT NOT VIABLE

UNRECOVERABLE

LOW ESTIMATE HIGH ESTIMATEBEST ESTIMATE

PROVED+PROBALEPROVED+PROBALE+POSSIBLE

CONTINGENT RESOURCES

PROSPECTIVE RESOURCES

LOW

LOWER RISK

HIGH

HIGHER RISK

出所:SPE/WPC/AAPG. 2000より

Resourcesの分類図3

Reserves Classification

UndevelopedDeveloped

Producing

Shut-in

Non Producing

Behind Pipe

Primary ImprovedRecovery Primary Improved

Recovery Primary ImprovedRecovery Primary Improved

Recovery

出所:JOGMEC et al. 2007より

Reserves分類におけるフローチャート図4出所:JOGMEC et al. 2007より

Reservesの分類図5

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(3)SEC基準におけるReservesの分類および定義

 SEC基準(1978)では、石油天然ガスの埋蔵量に関してProved Reserves のみが認められている。さらに開発の有無によって、Proved developed reserves(確認開発埋蔵量)、Proved undeveloped reserves(確認未開発埋蔵量)の二つに細分している。これらは以下のように定義されている。

➢Proved developed reserves(確認開発埋蔵量)は、既発見で操業中の坑井を通して回収され得ることが予期される炭化水素の量。

➢Proved undeveloped reserves(確認未開発埋蔵量)は、未掘削域に掘削することにより回収が期待される炭化水素の量、あるいは既存坑井からの回収が期待されるものの再仕上げに相当の支出が必要とされるもの。

 Proved developed reservesは、水圧入などの回収手法によって回収されることが予期される炭化水素量であるが、認められるためにはパイロットテスト、または用いられたプログラムの生産挙動から回収のメカニズムが確認されることが必要とされる。 また、Proved undeveloped reservesの対象となるエリアは、生産している部分と直接近接するエリアのみに限られる。同レザバーでテストが実施され、その結果、生産層の存在から生産の連続性の存在があると判断される場合のみ認められている。これについては、後述のProved areaで触れることにする。

(4)Reservesの対象となる資源

 SPE/WPC基準、SEC基準においても、自然状態でその場に存在するコンデンセート、天然液体ガス、天然ガスをReservesの対象としている。 たとえば、SPE/WPC基準では、埋蔵量の対象となる炭化水素について、「炭化水素化合物を主成分とする天然に産する液体およびガス」と定義しており、頁岩、タールサンド、石炭などからの炭化水素が抽出されるもの、また、加工製品は、Reservesとはみなされていない。しかし、天然に産するものでもSPE基準では、ガスハイドレートやコールベッドメタンなどの不浸透な岩石から発生するガス分については、Reservesの対象として認められていない。一方、SEC基準においては、コールベッドメタンのみ1989年から対象として認めている。 また、ガスと石油の備蓄については、両基準ともReservesとして考えられていない。いったん、天然のレザバーから取り出されたものや、ある目的で他の容器に注入されたものは、Reservesとして取り扱われないことになっている。ただし、天然のレザバーに再び戻したものは、生産や売買されるまでReservesとして考えられている。 両基準においても“Reserves”は、原則として販売可能な量を指す。それ故、生産処理で除去される成分や、生産現場で燃料として消費される分、または放散される分はReservesから除かれることになっている。例えば、CO2が多く含まれるガスの場合は、CO2を除いた分のみが“Reserves”とされるのである。

3. Proved reservesの定義における実運用の違い

 SPE/WPC基準(1997)とSEC基準(1978)で定義されているProved reservesについて、定義からその運用の違いについて比較する。 両基準におけるProved reservesの定義は、以下のように記されている。

➢(SPE/WPC基準) Proved reserves are those quantities of petroleum which, by analysis of geological and engineering data , can be estimated with reasonable certainty to be commerc ia l ly recoverab le , f rom known reservoirs and under current economic conditions, operating methods, and government regulations. Proved reserves can be categorized as developed or undeveloped.

 (Proved reservesは、地質学的、工学的データの解析により、ある時点以降に既知の貯留層から現状の経済条件、操業方法および規制の下で商業的に回収されることが合理的確実さをもって予想される石油の量。)

➢(SEC基準) Proved oil and gas reserves are the estimated quantities of crude oil, natural gas, and natural gas liquids which geological and engineering data demonstrate with reasonable certainty to be recoverable in future years from known reservoirs under existing economic and operating conditions, i.e., prices and costs as of the date the estimate is made.

 (Proved オイル&ガスreservesは、現行の経済条

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件、操業条件の下<ある時点での価格やコスト>で、既発見であり将来採取可能となるreasonable certaintyを持った地質的および工学的データに基づき見積もられた原油、天然ガス、液体天然ガスの量)

 定義においてはSPE/WPC基準もSEC基準も類似した用語が使用されており、一見して両基準は同様のものに見える。しかし実際の運用には違いがある場合がある。

〔Reasonable Certainty〕 “Reasonable Certainty (合理的確実さ)”について、SPE/WPC基準では、決定論的手法と確率論的手法による確認埋蔵量の定義が併記されており、決定論的手法の場合は、その量を回収する確度が高いことを意味し、確率論的手法が用いられる場合には回収できる確率が90%もしくはそれ以上に相当するとされる。一方、SEC基準では具体的に何を意味するか曖

あい

昧まい

になっており、SECスタッフの判断に委ねられている。

〔Commerciality〕 “Commerciality (商業性)”については、SEC基準ではキャッシュフローが正であることをもって商業性があるとされているが、キャッシュフローの規模や割引率の基準については示されていない。一方、SPE/WPC基準では、商業性を判定する具体的基準は全く明らかにされていない。SPE/WPC基 準 の 分 類 に お い て は 、Subcommercial(準商業性)の条件付き資源量の位置づけがあるため、商業性については、経済性があるだけでなく、開発される見込みがあるのかどうかに焦点があてられているのかもしれない。

〔Current Economic and Operating Conditions〕 “Current Economic and Operating Conditions(現状の経済条件、操業条件)”について、SPE/WPC基準では長期間(数年間)の平均の油ガス価を使用している。SPE/WPC基準では、現在の経済条件の成立は油ガス価の変動と密接に関連していると考えられるため、期間内の平均された油ガス価が取り入れられている。そのため、価格が将来的に上昇する予測モデルも認められており、未確認埋蔵量においては推定した将来の経済条件で評価されることが容認されている。一方、SEC基準では、特定の日における油ガス価(典型的には12月31日の年末油ガス価)が使用される。ただし、操業費については特定の日の直近する一定期間の平均値を使用することが認められている。SEC基準は、価格はコントラクターのアレンジメントが及ぶ範囲の変化までを対象としている。例えば、契約が存在するなら、契約期間内における特定日の油ガス価が使用される。そのため、油価とガス価の変動は無視され、設定される日の油ガス価によって平均油ガス価との間で経済条件に誤差が生じている(図6)。 

出所:D.R.Harrell et al. 2005より

図6 各年次における油ガスの「年末価格」と「年平均価格」の差

油価

ガス価

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4. Proved reservesに関する評価基準の違い

 次に、Proved reservesの両基準における算出手法の違いについて述べる。 埋蔵量の算出手法には、アナロジー手法、Volumetric手法、Material Balance手法、レザバーシミュレーションなどがある。 アナロジー手法は、対象となるフィールドで油ガス生産に関する結果がない場合、将来の生産レートやProved reservesを類似したパフォーマンストレンド、特徴を持つ地理的な領域のレザバーから求める手法である。 Volumetric手法は、地質学的・工学的データを基に原始埋蔵量を評価する手法であり、一般的にReservesを原始埋蔵量と回収率から算定する。 Material Balance手法は、圧力トレンドと累積生産の推定から言及される手法であり、累積ガス生産のファンクションとして、ガスの圧縮比を超えた地層圧力からオリジナルのガス原始埋蔵量を算定する。 レザバーシミュレーションでは、Reservesや将来の生産パフォーマンスを、詳細な地質的・工学的スタディー、油層工学スタディー、計算もしくはコンピューターシミュレーションモデルによって評価する手法である。 これらの評価手法を利用したProved reservesの算定については、SEC基準、SPE/WPC基準とも認めている。しかし、SEC基準はSPE/WPC基準よりも評価が限定的である等、これら二つの基準の間には隔たりがある。以下に、Volumetric手法で算出する順序に基づき、この違いを説明する。

(1)Net Reservoir評価に対する考え方

 Reservesを評価する最初のステップは、どこを有効的なレザバーとして考えるかである。SEC基準では、レザバーの定義を以下のように記述している。

➢天然の生産し得る石油・ガスを含むポーラスで浸透性のある地下の地層は、浸透性のない岩石または水のバリアーによって境界され、単体で他のレザバーから分離しているもの。

 一方、SPE/WPC基準の定義では、重要なコメントを添えている。

➢単体もしくはそれ以上に移動でき得る石油の天然の集積を分ける地下の地層は、不浸透な岩石によって境界され、一つの圧力システムによって特徴づけられる。

 両基準においても、炭化水素を胚はい

胎たい

し、生産すること

を予期できるポーラスで浸透性のある地層部分をネットレザバーとし、さらには、垂直や側方にある程度連続性を持つことを示している。この連続性について、SPE/WPC基準では、圧力データにおける変化を明瞭に認めている。 また、レザバーの性状を示す孔

こう

隙げき

率や浸透率などのパラメーターは、検層やコア、フォーメーションテスト、生産などの利用できるデータに基づいて決定される。これらのデータの石油地質的解析手法はさまざま使用されているが、両基準とも手法は限定されておらず、評価者に委ねられている。 ただし、これらの解析結果は両基準においても、利用できるデータと整合的であるべきとされる。しかし、具体的に何をもって整合的とするのかは触れられておらず、両組織に委ねられた状況となっている。

(2)油ガス垂直方向における賦存範囲の決定基準

・LKH、圧力データの使用 次に、確認埋蔵量に含められる油ガスの垂直方向における賦存範囲について述べる。 OWC(Oil Water contact)やGWC(Gas water contact)、GOC(Gas oil contact)などの油ガス垂直方向における賦存範囲の決定には、今日、坑井において取得されたRFT(Repeat Formation Tester)またはMDT(Modular Formation Dynamics Tester)データによる深度対圧力プロット情報を基に、推測・決定することが一般的である。SPE/WPC基準では、

➢“lowest known occurrence of hydrocarbons controls the proved limit unless otherwise indicated by defi nitive geological, engineering, or performance data.”

と記されており、使用される深度対圧力情報の精度と信頼性が高い場合には、圧力データより決定された境界深度まで確認埋蔵量に含めることが容認されている。 しかし、SEC基準では、

➢“in the absence of information on fl uid contacts, the lowest-known structural occurrence of hydrocarbons controls the lower proved limit of the reservoir.”

と記され、“lowest known” と言えるためには坑井における検層もしくは試油試ガスによる確認を条件とし

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ており、LKH(Lowest Known Hydrocarbon)より構造下位の炭化水素の存在を確認埋蔵量に含めることを通常は認めていない。 SECスタッフは2003年に、MDTデータに基づく深度対圧力プロットの評価からLKHを定め、確認埋蔵量に含めることを容認する場合もあるとコメントしているが、実行されてはいない。

・HKH さらに、SEC基準では坑井で確認した区間よりもup dip側に胚胎する炭化水素についても、up dip側に坑井が掘削されるまでその胚胎が確認できないため、Proved reservesとは認めていない。そのため、up dip側には坑井で確認された炭化水素胚胎層の上限深度HKH(Highest Known Hydrocarbon)がProved レザバーのリミットとして使用される(図7)。特に、オイルレザバーにおいてガスキャップの存在が想定される場合は、Provedレザバーの上限としてHKO

(Highest Known Oil)が使用される。SEC基準においては、圧力変化データや震探アトリビュートに基づいた制限も認める場合もあるとコメントされているが、坑井のLKHやHKHで評価されたものよりも回収できると結論付けるための、十分なパフォーマンスヒストリーが得られるまで使用できないことになっている。

・マルチレザバーの場合 マルチレザバーの場合においても、SPE/WPC基準では、圧力データが各層の同通性を示すなら、圧力データに基づいてProvedレザバーの境界を設定することができる。 しかし、SEC基準においては圧力データの使用が通常認められないため、各層別にHKHとLKHを設定しなければならない(図8)。そのため、SEC基準では、各層のLKHより下位、HKHより上位に胚胎する炭化

水素量は見込まれないことになる。・坑井間で確認流体が異なる場合

 また、ある構造においてup dip側の坑井にLKG(Lowest Known Gas)が存在し、down dip側の坑井にHKOが存在する場合、LKGとHKO間に挟まれて存在するオイルとガスの境界については不明である(図9)。もし、圧力-深度プロットデータが高い確信を持ち、坑井AとBから得られるトレンドよりGOCが解釈されるのであれば、SPE基準では、このデータを用いてProvedレザバーを決定することができる。 しかしSEC基準では、通常各坑井によって確認されたHKG-LKG間、HKO-LKO間で設定された部分がProvedレザバーとなり、LKG-HKO間の未確認部分はProvedレザバーには含まれないことになる。

 LKH以下やHKH以上に胚胎する炭化水素が明らかに存在するとしても、SEC基準ではこれをProvedとは受け入れておらず、認められるためにはプロダクションに貢献するためのパフォーマンスが施されなければならないのである。

出所:JOGMEC et al. 2007より

HKHとLKHに基づいたProvedの領域図7

LKO Sand A

LKO Sand B

HKH

HKH

HKH

HKH

出所:JOGMEC et al. 2007より

マルチ レザバーにおけるLKH・HKHの設定図8

InterpretedGas/Oil Contact

Interpreted Gas/Oil Contact

PRESSURE

Well A

LKG

HKO

Well B

DEPTH

Well A

LKGUnknown

LKOHKO

Well B

Gas Proved 領域Oil Proved 領域

出所:JOGMEC et al. 2007より

坑井間で確認流体が異なる場合のProvedの領域図9

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(3)Proved areaにおける決定基準

 垂直方向における賦存範囲に続き、設定されるのは側方への広がりである。ここでは、Proved areaについて述べる。Proved areaにおけるSPE/WPC基準とSEC基準の定義は以下のとおりである。

➢(SPE/WPC基準) Provedと考えられるレザバーのエリアは(1)掘削と流体境界、等によって定義された輪郭で囲まれる部分(2)利用できる地質的・工学的データに基づいて商業的に生産が可能とreasonableに判断されるレザバーの未掘削部分。流体境界上のデータが存在しない場合、定義できる地質的、工学的、またはパフォーマンスデータによって指し示されなければ、最も深い深度で確認された炭化水素がProvedの境界をコントロールする。

➢(SEC基準) Provedと考えられるレザバーのエリアは(A)掘削およびGOCやOWC、等によって定義された輪郭で囲まれる部分(B)地質的・工学的データに基づいて経済的に生産可能としてreasonableに判断することができる、直接隣接する未掘削部分。流体境界上にformationが存在しない場合、最も深度の深い知られた炭化水素の構造的胚胎はレザバーの最も深度の深いProved境界をコントロールする。

 SPE/WPC基準では、坑井や圧力データから確認と推定がなされたGWCやOWC等の境界を用いてレザバートップの構造図上に描かれる輪郭エリアすべてがProved areaとして認められている。 しかしSEC基準では、炭化水素を確認した坑井を中心とし、その坑井でのテストの結果から、Reasonable certaintyをもって回収し得る輪郭エリアが設定され、これをProved areaとしている。SPE基準では技術者における解釈が大きく反映されるのに対して、SEC基準におけるProved areaの設定では、あくまでも坑井における確認が基本とされる。・Off setルール

 また、両基準とも、未掘削のエリアについてもProved areaとして認められる場合があり、生産性のReasonable certaintyが判断される既存エリアと同様の地質的条件や生産性を持つ未掘削エリアであれば、Proved areaとして認められることになっている。 しかし、その適用範囲はSPE基準では、同一の地域まで認められるのに対して、SEC基準では同フィールド内に限定されている。さらに、SEC基準におけるProved areaの設定では“off setルール”というルール

が適用されており、坑井によって決められたProved areaの周囲に同じ広がりを持つ隣接した8エリアが同フィールド内に設定され、これらのエリアにおいて生産性のReasonable certaintyが判断されるなら、その部分をProved areaとして認めることができるようになっている(図10)。Reasonable certaintyでは、レザバーの存在と経済的な生産性を示す最良の技術的解釈が要求される。チャネルサンドの分布のように、砂岩層の連続性が認められない場合は、Proved areaとは認められない(図11)。

 このようにSEC基準では、Proved areaが坑井を中心として考えられるため、同構造上で坑井が掘削され、同レザバーで炭化水素の胚胎が確認される度に、Proved areaは大きくなる。

出所:JOGMEC et al. 2007より

Offsetルールに基づいたProvedの対象となる領域図10

Loc 1

Loc 2

出所:JOGMEC et al. 2007より

Off setルールにおけるチャネルサンドレザバーの例図11

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51 石油・天然ガスレビュー

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石油天然ガス資源の埋蔵量定義:分類および評価手法 ―SPE基準とSEC基準との比較における基礎知識―

(4) SEC基準のProved areaにおける震探データの

利用

 SEC基準では、Proved areaの側方の広がりを決定することによって坑井でのコントロールで定義するには不十分であるため、地震探査データを利用することが認められている。その際、下記の点に注意することが求められている。・Resolving the top of the reservoir

 震探データにおいて、解像度の問題やレザバーのトップに反射境界が欠如するなど、レザバートップに相当する震探イベントをマッピングできない場合、地図に表現可能なイベントの構造解釈がレザバートップの構造と平行であると考えられるなら、そのイベントの構造を、レザバーのトップにシフトすることが認められている。また、レンズ状の形状や成長断層における堆

たい

積せき

変化の構造など、レザバートップ構造と平行にならない場合は、地質的に最も考えられる状況で解釈することが認められている。

・Migration of the Seismic data 断層や不整合のように垂直でないレザバー境界の場合、表現される境界がトップレザバー上に位置しているかどうか不確かなため、トップレザバーの境界位置は、断層等の位置ではなく、レザバーの連続が確認される領域を使用することが求められている。 複雑な構造においては、震探上でイメージされるイベントは、震探で表現されているよりも異なった位置上に存在している可能性があるため、このリスクが未開発位置として認識され、Provedより下位のグレードに位置づけされる。

・Converting Time to Depth 深度構造図は、当然ながら、坑井とタイが取られたものでなければならない。

・Discontinuous Data レザバートップに対比される震探イベントが、岩相変化や、上位層の岩相変化などにより不連続な場合、震探データ上でのその不連続性を明瞭に表現しなければならない。イベントの表現がクリアーでなければProved areaとは見なされない。

・Seismically Derived Isocore よく、高精度の3D震探からレザバー層厚が求められる。Proved reservesとして認められるためには、以下の二つの条件を満たすことが要求される。一つは、坑井で確認されたNet pay層厚に対する震探アトリビュートでのバリエーションのキャリブレーションが示されること。二つめは、解釈されたNet pay層厚

は坑井で確認した厚さを超えてはいけないことである。

(5)産出能力の確認

 産出能力の検証に関しては、SEC基準とSPE/WPC基準において、以下のように定義されている。

➢(SPE/WPC基準) In general, reserves are c on s i d e r ed p r oved i f t h e c ommerc i a l producibility of the reservoir is supported by actual production or formation tests.

 (reservesは、もし生産やフォーメーションテストのどちらかによって商業的生産がサポートされれば、provedと考えられる。)

➢(SEC基準) Reserves are considered proved if economic producibility is supported by either actual production or a conclusive formation test.

 (reservesは、もし生産および決定的なフォーメーションテストのどちらかによって経済的生産がサポートされれば、provedと考えられる。)

 両基準ともに、未生産エリアでProved reservesと認めるためには実生産や生産テストにおけるデータのサポートが必要となっており、これらのデータによる産出能力の検証は、対象となる同じレザバーからの類推で代替できる可能性を示唆している。米国では産出能力の確認において、連続48時間しかフローできないという規制が設けられているため、類似貯留層からの類推で代替が可能になっている。しかし、その類推の適用範囲について、SEC基準では、同一フィールドのみに限定されるのに対して、SPE/WPC基準では同一地域まで広げることが可能になっている。・ 米国メキシコ湾における産出試験未実施でのproved

reservesの容認例 上記の定義のように、通常、SEC基準では、未生産エリアでproved reservesを認定するためには坑井における生産試験が義務付けられている。しかし、米国メキシコ湾(大水深域)での試掘成功構造に対して、産出試験の実施なしにproved reservesを認定した事例が存在する。この件についてSECは、検層、コア試料、MDT(圧力データ)と震探のすべての情報が産出能力を支持しているから認めたとの理由を示し、さらにこの適用については、米国メキシコ湾のみと表明した(2002年10月, 2004年4月)。 メキシコ湾大水深域においては、坑井で産出試験を実施しなくとも、計算によって信頼性のある評価ができること、坑井での試験実施に要するコストの削減、

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時間的節約、環境影響・許認可という観点から、坑井における産出試験を行わず、さまざまな坑井データから産出能力を予測評価する手法が使われており、坑井での産出試験実施を義務付けることはむしろマイナスとの見方が強くなっている。 SECの見解は、地域によって特例を認めるなど、基準の曖昧さや、相応の条件を満足できなければ産出試験なしで確認埋蔵量と認定できないとの理解を、業界に広める結果となった。

(6)Proved reservesの算定例

 これまでに述べた両基準における確認埋蔵量の評価手法の例を、D.R.Harrell and T.L.Gardner(2005)で紹介されている例を用いて比較する(図12)。 図に表示される例では、断層でブロック化した構造(構造トップ深度8,200ft)においてWellAとWellBの2坑井が掘削されている。 WellA では油層を確認し、その炭化水素胚胎が確認される最も深い深度(LKO) は8,410ft.ssとなっている。一方、WellBでは水層を確認している。また、AおよびB両坑井で取得されたMDTの圧力データから作成された深度対圧力プロットでは、油水界面

(OWC)が8,500ft.ssに存在すると推定されている(図13)。レザバーとなる層は、断層ブロック全域に分布すると仮定する。 この状況において、確認埋蔵量に含める垂直方向の範囲最下限を設定すると、SEC基準では、圧力データを使用できないことから、坑井で確認された8,410ft.ss が設定される。一方、SPE/WPC基準では、深度圧力プロットから推定される油水界面8,500ft.ssが設定されることになる。これらを高さにすると、それぞれは構造高から、190ft、300ftとなり、もし同エリアについてGross Rock Volumeを算定すると、この時点で両基準に約1/3以上の量の差異が存在することになる。 次に、Proved areaを設定する。SPE/WPC基準では、

構造図において断層ブロックの範囲で等高線に沿ってOWCが引かれ、OWC以浅のエリアが対象とされる。一方、SEC基準では、炭化水素胚胎の確認が取られているWellAからオイルを回収できるエリアが設定されることになるのである。 さらには、本構造においてガスキャップの存在可能性がある場合、SEC基準ではWellAでオイルを確認した上限深度をもってHKO (Highest Known Oil) が設定され、これ以浅の部分の容積を確認埋蔵量から除外することが要求されることになる。 このように、同じProved reservesではあるが、SEC基準では、SPE/WPC基準よりも限定的なProved reservesが算出されることになる。そのため、中小規模で坑井数の少ない構造では、両基準において埋蔵量に大きな差異が生ずる可能性が非常に高い。

(7)決定論的手法と確率論的手法の取り扱い

 決定論的手法は地質的、工学的、経済的データを基に埋蔵量の最良単一値を求める手法であり、確率論的手法は、地質的、工学的、経済的データは評価の幅とそれぞれの値に関連した確率を兼ね備えている。不確実性の程度を含む状況では、多くの企業や組織で確率論的手法がよく適用され、いくつかの外国政府によっても認められている。 両基準においても、これらの手法の使用について認めている。SPE/WPC基準では1997年より両手法を容認し、 Proved Reservesにおいて確率論的手法では、回収される確率が90%もしくはそれ以上に相当するとしている。一方、SECにおいても定義には明確に記されていな

出所:D.R.Harrell et al.2005より

構造図・断面図図12

出所:D.R.Harrell et al.2005より

WellA,Bからの圧力深度プロット図13

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いが、SECスタッフは、決定論的手法を前提としたSEC基準の定義に沿って適切に行われたものであれば、確率論的手法によるProved reservesを認める旨、公式の場で発言している。そのため、算出パラメーターがSECのクライテリアにそぐわない場合は、この手法での埋蔵量算出を認めていない。また、確率の数値がどれだけであれば確認埋蔵量と認めるかは示されていない。 多くの会社にとって、SECの基準の設定は受け入れ難く、SEC基準のProved reservesの決定に対して確率論的手法の利用を思いとどまっている。・問題点

 SEC基準で、確認埋蔵量における具体的な確率値の設定が定められていないことは無論問題であるが、SPE/WPC基準でも確率値の設定等に問題点がある。 SPE/WPC基準のProbable reservesとPossible reservesにおいて、決定論的手法では、おのおのの回収される確率が50%、10%とされているが、確率論的手法を用いた場合は、Proved+Possible埋蔵量が50%以上、Proved+Probable+Possible埋蔵量が10%以上回収できる確率となり、決定論的手法と確率論的手法で扱われる確率の設定には、矛盾が生じている。 また、埋蔵量の合算において確率論的手法で算出した場合、個々のフィールドのProved reservesの値を合計する方法が、業界で一般的に使用されている。 しかし、90%の確率を持つ埋蔵量同士を加算したものは、90%の確率で存在する埋蔵量にはならない。90%以上の確率を持つ埋蔵量を求めるには、個々の確率分布曲線を、確率論的手法により合算して、これらのフィールド全体での90%以上の確率を持つ埋蔵量の値が算出される。そのため、フィールドレベルとポートフォリオレベルで取り扱われる確率には乖

かい

離り

がある。 SPE/WPC基準、SEC基準とも、これらの扱いについては特に記述されていない。しかし確率論的に合算値を求める場合、確率論的に合算した確率90%は個々の確率90%を加算した値より大きくなること、また、個々の埋蔵量に相互依存性がある場合、Proved reservesは過大評価となることを意識する必要がある。 相互依存性については、隣接するフィールド間との圧力同通性、生産処理施設の共有、同一評価者における埋蔵量評価等を勘案することが求められる。

(8)油ガス層シミュレーションの利用

 SPE/WPC基準、SEC基準では、ともに各基準に沿ったパラメーターが設定されていれば、Proved reservesの評価にシミュレーションモデルを利用することを認めている。一般的に、油ガス層シミュレーションモデルを構築して評価を行う場合、当該レザバーを最も的確に表現したモデルを構築するのが基本である。 SPE/WPC基準では、パラメーターの設定が上記の業界の実態に沿った形でなされるため、構築されるモデルは、当該貯留層を的確に表現したものが構築されると考えられる。 また、結果的に構築されるモデルは most likely ケースに相当するものが基本となっており、ここで得られる評価値はProved+Probable埋蔵量に相当する。 しかし、SEC基準では、モデル構築における各パラメーターの設定がSEC基準に則

のっと

っていることが必要となり、SEC基準でProved reservesに対応した設定にした上でシミュレーションモデル評価を行うことが求められることになる。そのため、SEC基準では、業界の実態とは離れた評価が実施されることになる。

(9)EOR適用による可採埋蔵量:事例からの類推

 SPE/WPC基準、SEC基準では、EOR(Enhanced Oil Recovery)適用によるProved reservesの評価を認めており、その認定には坑井におけるパイロットテストの実施が義務付けられている。 SEC基準では、公開の場やウェブサイトの記述等での説明から、類似の貯留層(時代、深度、岩相)、望ましくは同一の堆積盆地において開発生産された貯留層の成功事例があり、対象フィールドでパイロットテストを実施した結果、成功事例と比較して、流体性状、貯留岩性状が事例のものと同等またはよりよいこと、オペレーターが開発にコミットしていること、許認可手続き等の理由で事業の遅延または中止が生ずるおそれがないこと等の条件を満たしていれば、パイロットテストでの増産分についてはProved reservesとして認めている。しかし、その認定には必ず対象坑井でパイロットテストの実施がなされていなければならない。 一方、SPE/WPC基準では、対象または別の坑井でパイロットテストが行われていることが条件となっており、SEC基準と比較して類推できる幅が広くなっている。しかし、どこまで確認埋蔵量に含めるかの基準はほとんど記述されておらず、評価者に委ねる状況となっている。

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5. Proved reserves に係る条件

(1)市場の確保・売買契約の存在

 SEC基準、SPE/WPC基準のいずれも、Proved reservesと認識するために、生産物の販売先を確保すべきことを直接的には言及してはいない。しかし、以下の表現の中で示唆されている。

➢(SPE/WPC)“current economic conditions”“(to transport) those reserves to market”

➢(SEC)“exist ing economic and operating conditions”

 両基準に即した評価において、評価者は、生産物の市場が既に存在するか、または将来の特定の期日に存在すること、売買契約の内容が販売量と価格を合理的に保証するものであること、生産販売に必要な設備のすべてが完成しているかもしくは適時に完成する見込みであることの状況を満足するデータを、確認しておく必要がある。

(2) 確認・未確認埋蔵量での開発投資分担あるいは開

発計画の代替案

 SEC基準、SPE/WPC基準のいずれもProved reservesと認識するためには、存在する開発計画による開発投資全体の経済性がProved reservesによって確保されることを前提としている。開発計画がProbable reserves、Possible reserves等を見込んだ規模の開発生産を対象に立案されることはしばしばあるが、Proved reservesだけでは経済性を持たず、未確認の埋蔵量を含んだ場合に初めて経済性を持つ場合がある。 この場合、開発計画の投資額全体を確認部分と未確認部分の埋蔵量に分担させるというような便宜的整理は、SEC基準においてもSPE/WPC基準においても認められない。また、このような場合、未確認の部分に石油・天然ガスが存在しないことが分かったとき、Proved reservesだけで経済的に開発する代替の開発計画がその時点で描くことができれば、それを根拠にProved reservesとして認定できる可能性がある。

6. おわりに

 SPEでは埋蔵量資源量の定義と運用に関する基準を見直し、世界標準を形成することを目標に、2004年以降討議が重ねられてきた。その結果、2007年3月末にはSPE、WPC、AAPGおよびSPEEの4組織により新基準が策定され、その適用が開始されている。 新基準における資源の分類に関する基本枠組みはReserves、Contingent Resources、Prospective Resources からなり、従来のものと同じである(図14)が、開発状況によって、ReservesとCont ingen t R e s o u r c e sの概念がより細分類され、さらには、Proved、Probable、Possible、Contingent Resourcesのカテゴリーの分類においても、確率的手法との対応がより整理された。 また、これまで埋蔵量を認識する単位は油層単位であったが、油層単位では経済性がなくても複数油層をまとめて1プロジェクトとして開発し、経済性があるものはその全体を埋蔵量と認識するプロジェクト単位へと大きく変化している(図15)。 一方、SECにおいても1978年に制定された基準と業界の実情の乖離を埋める必要性が高まっていると認識し、1999年以来基準の見直し作業を進めている段階にある。

 このように、現在、埋蔵量定義については大きな動きがある。JOGMECにおいても、これらの動向の把握や埋蔵量評価への見直しのため、平成18年度動向調査「埋蔵量定義および評価手法に関する調査」を実施し、これまでのSPE/WPCとSECにおける基準の概念や評価手法

出所:SPE/WPC/AAPG/SPEE.2007より

Resourcesの分類図14

PRODUCTION

RANGE OF UNCERTAINTY

TOTAL PETROLEUM INITIALLY IN PLACE(PIIP)

UNDISCOVERED PIIP

DISCOVERED PIIP

SUBCOMMERCIAL

COMMERCIAL

RESERVESRESERVES

PROVED

UNRECOVERABLE

UNRECOVERABLE

LOW ESTIMATE HIGH ESTIMATEBEST ESTIMATE

CONTINGENT RESOURCESCONTINGENT RESOURCES

PROSPECTIVE RESOURCESPROSPECTIVE RESOURCES

1P 2P 3P

1C 2C 3C

PROBALE POSSIBLE

Not to scale

Increasing Chance of Commerciality

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石油天然ガス資源の埋蔵量定義:分類および評価手法 ―SPE基準とSEC基準との比較における基礎知識―

への理解を促した。 その内容には、本稿で触れた定義、分類と評価手法以外に、レポーティングとSOX法との関係や、内外部における監査例、Reserves Management Systemなどについても含まれている。 外部における評価を受ける機会が多くなるなか、国際スタンダードとして策定されたSPE/WPC/AAPG/SPEEの新基準を意識しながら、日本としても埋蔵量の扱いについて考えていく必要がある。それ故、今後ともこれらの動向について追っていくことにしたい。

参考文献1. 富田伸彦、高山將、石油・天然ガス資源の埋蔵量定義と算定法―最新基礎知識と実際―, 石油・天ガスレビュー,

1999.8,25-59.2. D.R.Harrell and T.L.Gardner SPE 84145, 2005, Significant Differences in Proved Reserves Estimates Using SPE/

WPC Definitions Compared to United States Securities and Exchange Commission Definitions.3. McKelvey, V. E., 1972, Mineral Resource Estimates and Public Policy: American Scientist, Jan-Feb., 60, 32.4. SPEE, 1988, Guidelines for Application of the Definitions for Oil and Gas Reserves: in Society of Petroleum

Evaluation Engineers Monograph 1.5. World Petroleum Council, 1997, SPE/WPC/AAPG Petroleum Reserves and Resources Definitions, March, 1997.6. World Petroleum Congress and American Association of Petroleum Geologists, 2000, Petroleum Resources

Classification and Definitions, approved by SPE, WPC, AAPG, February 2000, published by SPE.7. SPE/WPC/AAPG/SPEE, 2007, Petroleum Reserves and Resources Classification, Definitions, and Guidelines.8. JOGMEC, SCA, RS. 2007, Trends of Reserves Definitions and Evaluation Methodology.(平成18年度JOGMEC開

発技術動向調査報告書)

執筆者紹介

坂口 隆昭(さかぐち たかあき)大阪府出身。山口大学大学院化学地球科学科修士課程終了。2003年、石油公団(当時)入団、地質探査研究室配属。2006年5月より現職。専門:地質趣味:登山、旅行、運動(器械体操)

油ガス層(原始埋蔵量)

プロジェクト(生産・投資見込み~キャッシュフロー)

鉱区資産(権益比率、契約条件)

netrecoverableresource

出所:SPE/WPC/AAPG/SPEE.2007より

新基準の概念図15

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