税務における第一人者〝税務マエストロ〟による税 …...No.525 2013.12.2 19 2...

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No.525 2013.12.2 19 BEPS行動計画の個別項目(承前) 2 (6)租税条約の濫用防止規定(LOB 条項)の 整備(期限:2014 年 9 月) 長年問題視されてきている租税条約の濫用防 止策を提言するもの。モデル条約の改定及び付 随的に必要となる国内法に関する提言も合わせ て行う。すでに OECD モデル条約第 1 条のコメ ンタリーでは、導管取引等、租税条約の特典を 濫用するケースが縷々説明されており、諸外国 の締結する租税条約においては、「特典制限条 項(LOB:Limitation of Benefits)」が一般的 となっている。また、租税条約の特定の規定 (たとえばLOB)によらずとも、国内法の一般 的租税回避防止規定(GAARs:General anti- abuse rules)によって租税条約の適用を否認 する事例も増加してきているようである。こう した動きを強化するために、モデル条約そのも のを改定しようとするものと考えられる。 なお、図1 にあるような、オランダを経由し た支払いを利用した源泉税軽減スキームは、 LOB の導入や GAARs によって効力がなくなる ものと考えられる。これは、アメリカの多国籍 企業が利用しているといわれている「ダブルア イリッシュ・ダッチサンドウィッチ」と呼ばれ るものであるが、アイルランド法人Aからア イルランド法人Bに支払われるロイヤルティ は、原則源泉徴収の対象となるところ、オラン ダとアイルランドの関係では源泉税が免税とな るため、オランダ法人を導管としてかませるこ とにより、結果的源泉税が課されずにアイルラ ンド法人 B までロイヤルティをおくることがで きるというものである。 (7)PE(恒久的施設)の定義・範囲の再検 討(期限:2015 年 9 月) 問屋スキームやPEの例外規定(補助的・準 備的な活動のための施設)を利用して PE の認 定を受けないようにする租税回避を防止するた # 97 品川克己 税理士法人プライスウォ ーターハウスクーパース マネージング・ディレクター略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国 際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及 び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロー スクールにて客員研究員として日米租税条約につ いて研究。97年より00年までOECD租税委員会 に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD 移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」 の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財 務省を辞職し現職。 多国籍企業の 国際的租税回 避問題④ 今週のマエストロ&テーマ 次回のテーマ # 98 経営戦略に応える 企業再編成税制 税理士 朝長英樹 経営戦略の1つとして組織再編成税制を活 用できる方法を、同税制等の創設を主導し た筆者が事例形式で解説する。 ※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。 [email protected]

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No.5252013.12.2 19

BEPS行動計画の個別項目(承前)2(6)租税条約の濫用防止規定(LOB条項)の整備(期限:2014年9月)

 長年問題視されてきている租税条約の濫用防止策を提言するもの。モデル条約の改定及び付随的に必要となる国内法に関する提言も合わせて行う。すでにOECDモデル条約第1条のコメンタリーでは、導管取引等、租税条約の特典を濫用するケースが縷々説明されており、諸外国の締結する租税条約においては、「特典制限条項(LOB:Limitation of Benefits)」が一般的となっている。また、租税条約の特定の規定

(たとえばLOB)によらずとも、国内法の一般的租税回避防止規定(GAARs:General anti-abuse rules)によって租税条約の適用を否認する事例も増加してきているようである。こうした動きを強化するために、モデル条約そのものを改定しようとするものと考えられる。 なお、図1にあるような、オランダを経由した支払いを利用した源泉税軽減スキームは、LOBの導入やGAARsによって効力がなくなるものと考えられる。これは、アメリカの多国籍企業が利用しているといわれている「ダブルアイリッシュ・ダッチサンドウィッチ」と呼ばれるものであるが、アイルランド法人Aからアイルランド法人Bに支払われるロイヤルティは、原則源泉徴収の対象となるところ、オランダとアイルランドの関係では源泉税が免税となるため、オランダ法人を導管としてかませることにより、結果的源泉税が課されずにアイルランド法人Bまでロイヤルティをおくることができるというものである。(7)PE(恒久的施設)の定義・範囲の再検討(期限:2015年9月)

 問屋スキームやPEの例外規定(補助的・準備的な活動のための施設)を利用してPEの認定を受けないようにする租税回避を防止するた

今回のテーマ

マエストロの解説

#01

経営戦略に応える企業再編税制

#02

スカウト最新事情㈪ヘッドハンター 佐藤文男

#03

「スカウト力」をUPさせるキメ技

#04

キャリアシートの書き方

#05

スカウト転職に成功した人々

朝長英樹(税理士法人アクト22代表社員、元財務省主税局)

業界動向を踏まえた効果的アピール法

スカウトサービスで効率よくキャリアアップ

キャリアシートで決まるスカウト転職成功の道

経営戦略に応える企業再編税制

#02

朝長英樹(税理士法人アクト22代表社員、元財務省主税局)

今から考えておく・遺産取得課税方式で相続税対策はこう変わる

#02 □□□□■□□□□■□□□□■□□□□■□□□□■

~「理解」から「活用」の段階へ~グループ税制の使い方

#03 □□□□■□□□□■□□□□■□□□□■□□□□■

今から考えておく・遺産取得課税方式で相続税対策はこう変わる

#04 □□□□■□□□□■□□□□■□□□□■□□□□■

国際課税に潜む見落とされがちなリスク

#05 □□□□■□□□□■□□□□■□□□□■□□□□■

”複雑になりすぎた”法人税をもう一度勉強しよう

#05 □□□□■□□□□■□□□□■□□□□■□□□□■

”複雑になりすぎた”法人税をもう一度勉強しよう

#03 □□□□■□□□□■□□□□■□□□□■□□□□■

今から考えておく・遺産取得課税方式で相続税対策はこう変わる

#04 □□□□■□□□□■□□□□■□□□□■□□□□■

国際課税に潜む見落とされがちなリスク

#05 □□□□■□□□□■□□□□■□□□□■□□□□■

”複雑になりすぎた”法人税をもう一度勉強しよう

~「理解」から「活用」の段階へ~グループ税制の使い方

Maestro&Theme

#97品川克己税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(マネージング・ディレクター)

略歴89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

多国籍企業の国際的租税回避問題④

#02国際課税に潜む見落とされがちなリスク

今週のマエストロ&テーマ

次回のテーマ

朝長英樹(税理士法人アクト22代表社員、元財務省主税局)

#98 経営戦略に応える企業再編成税制税理士朝長英樹

経営戦略の1つとして組織再編成税制を活用できる方法を、同税制等の創設を主導した筆者が事例形式で解説する。

税務における第一人者〝税務マエストロ〟による税実務講座

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。 [email protected]

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No.5252013.12.220

め、PEの定義を見直すというもの。具体的にはOECDモデル条約第5条の規定が見直されることとなる。 この問屋スキームとは、図2にあるように、A国のA社商品の販売にあたって、B国の子会社Bは実際の販売活動を行わず、その補助的な業務(たとえば配送)のみを行い、少ない機能に見合う僅少な所得のみを計上しつつ、販売利益はA社で認識するスキームである。こうした問屋スキームでは、実態的にはB社が販売しているのと相違ないような場合もある。そうした場合、B社の機能の一部をA社のPEとみなすことによりA社に対して課税し、A社及びB社全体に対して適正な課税を実現するためにPEの定義を見直そうというものである。 また、現在のPEの定義では、準備的、補助的な活動のみを行う施設はPEに該当しないとされている。こうしたPEの例外規定についても見直されるものと考えられる。(8)無形資産に係る移転価格ルールの確保(期限:2014年9月、2015年9月)

 現在の多国籍企業のビジネスモデルにおいては、ブランドや営業ノウハウなどの無形資産の価値を最大化して、グローバルに事業が展開されている。こうした無形資産の移転や使用の対価としてのロイヤルティ支払を利用して租税負担を軽減しているとの前提のもと、これら無形

資産に関する取引の適正化を図るため、移転価格ガイドラインを2014年9月までに、OECDモデル条約を2015年9月までに見直すというもの。具体的には、(i)包括的かつ明確な無形資産の定義を導入する、(ii)無形資産の利用及び移転に伴う利益が価値創出に基づいて適切に各国に配分されるようにする、(iii)評価が困難な無形資産の移転に係る移転価格ルールまたは特別規定を策定する、(iv)コストシェアリングに関する指針をアップデートする、ことが主要議題になると考えられる。 なお無形資産については、「定義」、「帰属」、

「評価」の3点で検討する必要があると考えられる。現在、移転価格税制の適用の場面では、無形資産の明確な定義がないまま、多額の課税がなされている。つまり、無形資産の範囲が明

【図7】 営業権に関する議論は不毛?

【図表2】□□□□■□□□□■

【図2】特定医療法人化と本件相続の関係

B/S

寄附?

負 債資 産

営業権

(簿価500、時価700)

負 債資 産

<債務超過会社のB/S>

マイナスの利益積立金▲ 500資本金等(100)

(900)

      (借   方)       (貸   方)(債   務) 430,442,435 (資 本 金) 400,000,000 (資本準備金) 30,400,000 (雑 収 入) 42,435

【図2】債務者会社の経理処理

現 行

譲渡損失

×

対価がA社株式ではないため、現行の税制では課税繰延は認められない。

国内会社

業界団体等

※ 

被相続人に係る相続発生

各省庁(窓口)

各省の税制担当副大臣

政府税調

政府税調

各省の税制担当副大臣

各省庁(窓口)

業界団体等

持ち分の定めのある医療法人

②①債権を1億6200万円で取得

親会社

株主株主

特定医療法人へ移行

双方の株主総会特別決議が必要であり、友好的に行われる。

DES

【図3】本件自己株式の譲渡の概要(平成16年5月期)

③債権(3億2470万円)

①債権4億6931万0500円

②①債権を1億6200万円で取得

③自己株式(34万株) 債務者会社

外国銀行

債権者会社

②①債権を2億5663万2756円で取得、1億4461万0500円の弁済収受

100%出資

100%出資

新設医療法人

新設医療法人

A国

日本企業

日本

子会社設立(金銭出資)

業界団体等 自民党税調

臨時株主総会

特定医療法人の承認申請の遂行、

定款変更の認可の手続を決定

業界団体等

商工部会農林部会

財務金融部会建設部会…etc

自民党税調

政府税調

各省の税制担当副大臣

各省庁(窓口)

業界団体等

〈これまでの税制改正プロセス〉

〈民主党政権下での税制改正プロセス〉

自民党政務調査会

商工部会 財務金融部会

農林部会 建設部会

…etc

【図表2】新旧の税制改正要望プロセス

業界団体等

業界団体等

各省庁(窓口)

各省の税制担当副大臣

政府税調

自民党税調

自民党税調

業界団体等

自民党税調

〈これまでのプロセス〉 〈民主党政権下でのプロセス〉

自民党政務調査会

経済産業部会 財務金融部会

農林部会 国土交通部会

…etc.

【図1】グループ法人単体課税制度の適用範囲と    譲渡損益の繰延べ範囲

譲渡損益の繰り延べ

一定資産の譲渡

100%100%

内国法人

内国法人または個人または外国法人

内国法人

【図3】改正寄附金税制の適用範囲

寄附

100%

B社

個人

A社

【図】評価範囲の決定方法(見直し案)

譲 渡譲渡先

資産

譲渡元

減価償却分の譲渡損益実現 減価償却

繰延べ損益の金額実現 除  却

寄附

100%100%

B社

内国法人又は外国法人

A社

損金算入損金算入

損金算入制限の中で損金算入損金算入制限の中で損金算入A社

B社  損金不算入損金不算入

損金不算入損金不算入A社

B社 

【図3】改正寄附金税制の適用範囲

寄附

100%100%

B社

個人

A社寄附

100%100%

B社

内国法人または外国法人

A社

益金算入益金算入

損金算入制限の中で損金算入損金算入制限の中で損金算入A社

B社  益金不算入益金不算入

損金不算入損金不算入A社

B社 

0 30 60 90 120 150

本社売上¥60

A支社¥30

B支社¥20

その他¥40

100/150以上

80/150以上

(例)A支社が ① 前年度の評価が良好 ② 状況に大きな変化がない ③ 特に重要な事業拠点 (本社)でない

【当年度】

【前年度】

Aは評価対象外

(出典:金融庁)

寄 附 金 40 / 土   地 30 譲 渡 益 10譲渡損益調整損 10 / 譲渡損益調整勘定 10

土   地 40 / 受 贈 益 40 土 地 :+40 利益積立金 40 / S 社 株 式 40 S社株式 :-40(帳簿価額:60) 利益積立金 :±0

【図1】 

B/S100% 土地

P社

S社

現  金  70  資本金等  50土  地  30  利益積立金 50

【仕訳5】

【仕訳4】

【図】統括会社の概念図

【図2】本邦法令に基づく基準所得金額の計算 【図3】受取配当の除外(原則)

【図2】平成13年度改正における法人税法上の処理

【図3】平成18年度改正以後の法人税法上の処理

【会社法上の貸借対照表】

【図表2】組織再編成における未経過固定資産税     相当額の金銭の位置関係

【例1】

【例2】

【ケース2】 

A社 B社

100%

甲 乙 丙 丁

100%

100%99%1%

C社 D社

【ケース3】 

A社 B社

100%

甲 乙 丙 丁

100%100%

1% 99%

C社 D社

P社

B/S現    金  70 譲渡損益調整勘定 10 資 本 金 50 利益積立金 10

利益積立金 30 / 土   地 30

土   地 30 / 配 当 収 入 30 土 地 :+30  S社株式 :-(帳簿価額:100) 利益積立金 :+30

【図2】 

S社

P社

B/S現    金  70 資 本 金 等 50 利益積立金 20

資本金等 15 / 土   地 30利益積立金 15

土   地 30 / 利益積立金 15 土 地 :+30 資本金等 15 S社株式 30 S社株式 :-30(帳簿価額:70) 利益積立金 :+15 資本金等 :-15

(*)分割前事業年度の簿価純資産価額を100、分割直前の資本金等の額を50とする。  ・S社の減少する資本金等の額 15=50×30/100(法令8①十五)  ・S社の減少する利益積立金額 15=30-15(法令9①十)

(*)前提は、上記S社の場合と同様である。  ・P社の増加する資本金等の額 -15=15-(100×30/100)(法令8①六)  ・P社の増加する利益積立金額 15=30-(-15)-(100×30/100)(法令9①三)  ・P社が保有するS社株式の減少額 30=100×30/100(法令119の3⑪、119の8)

【図3】 

※S社

P社

B/S現    金  70 資 本 金 等 35 利益積立金 35

【図表4】ケース1

A社 B社

100%甲 乙 丙 丁

100% 100% 100%

C社 D社

【図表5】ケース2

A社 B社

100%

甲 乙 丙 丁

100%

100% 99%

C社 D社

【図表6】ケース3

A社 B社

100%

甲 乙 丙 丁

100%100% 99%

C社 D社

1%

1%

匿名組合契約匿名組合契約

反対株主の買

取請求に基づ

いて交付され

る金銭等

剰余金の配当

等として交付

される金銭等

未経過固定資

産税相当額の

金銭

一株未満の株

式の代り金

親法人株式等

の端数の代り金

【図表3】未経過固定資産税相当額の金銭の受払い     と取引の関係

(親法人株式

等の端数の代

り金)

(一株未満の株

式の代り金)

株  

株  

株  

未経過固定資

産税相当額の

金銭

寄附B社

B社

益金算入益金算入

損金算入制限の中で損金算入損金算入制限の中で損金算入A社

【法人税法上の貸借対照表】

B社 

益金不算入益金不算入

損金不算入損金不算入A社

B社 

(注)株主における株式の譲渡原価は、『平成22年度 税制改正の解説』の処理例と同等に、300であるものとする。

【法人税法上の貸借対照表】

(注3)株主における株式の帳簿価額の合計額は1,500とし、旧法人税法施行令119条の9第1項(減資等の場合の株式の譲渡原価の額等)に規定する「当該払戻し等に係る第二十三条第一項第三号(みなし配当金額の計算方法)に規定する割合」は0.15(150÷1,000)とする。

【図3】平成18年度改正以後の法人税法上の処理

【法人税法上の貸借対照表】

(注1)法人税法23条1項1号においては、剰余金の配当に関して、「資本剰余金の額の減少に伴うもの・・・を除く」とされており、24条1項3号においては、資本の払戻しに該当する剰余金の配当に関して、「資本剰余金の額の減少に伴うものに限る」とされているため、剰余金の配当の原資に一部でも資本剰余金がある場合には、その剰余金の配当の全てが24条1項3号の適用対象となり、利益積立金額の減少に対応する部分の金額は、全てみなし配当の額とされることとなっている。

  本来、みなし配当は、会社法等において法人税法23条1項の配当等の額とされないものについて、法人税法上、配当等の額とみなすこととするものであり、会社法上の処理において利益剰余金を原資とする部分に関しては、24条1項3号の規定を適用してみなし配当とした上で23条1項の配当等の額としなければならないものであるのか、また、資本剰余金を原資とする部分と利益剰余金を原資とする部分の区分は、本来は、事実認定の問題ではないのか、という疑問が残らざるを得ない。

(注2)株主における株式の譲渡原価は300であるものとする。

・・・・・

【法人税法上の貸借対照表】

(注1)法人税法施行令9条1項11号においては、利益積立金の減少額を「第八条第一項第十六号に規定する合計額」に基づいて計算することとされており、この「合計額」は、「当該資本の払戻し等により交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額(適格現物分配に係る資産にあつては、その交付の直前の帳簿価額)の合計額」(法令8①十六)とされているが、この括弧書きの「(適格現物分配に係る資産にあつては、その交付の直前の帳簿価額)」は、資本の払戻し等が適格現物分配に該当する場合には、疑問の余地なく、働くこととなる。次の処理例においても、同様である。

(注2)株主における株式の譲渡原価は300であるものとする。(注3)法人税法施行令8条1項17号により、譲渡損相当額は資本金等の額の減少額とすることとなる。(注4)法人税法24条1項においては、「適格現物分配」の場合には、みなし配当とする金額の計算に用いる「金銭以外の資

産の価額」について、「適格現物分配に係る資産にあつては、当該法人のその交付の直前の当該資産の帳簿価額に相当する金額」としている。そして、法人税法24条1項においては、みなし配当とする金額の計算に用いる「当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額」について政令に委任し、「資本の払戻し」に関しては、法人税法施行令23条1項3号において、「直前の資本金等の額・・・にイに掲げる金額のうちにロに掲げる金額の占める割合・・・を乗じて計算した金額」を基にして計算するものと定め、同号イ及びロにおいて、質問文におけるイ及びロと殆ど同じ文言の定めを設けている。

   すなわち、本件質問は、「適格現物分配」に該当する「資本の払戻し」を行った法人において減少させることとなる資本金等の額の計算に関する質問であると同時に、「適格現物分配」に該当する「資本の払戻し」を受けた株主においてみなし配当とする金額の計算に関する質問ともなっているわけである。

【法人税法上の貸借対照表】

(注1)株主における株式の譲渡原価の額は、法人税法61条の2第17項及び法人税法施行令119条の9第1項において、所有株式の帳簿価額に「当該払戻し等に係る第二十三条第一項第三号(みなし配当金額の計算方法)に規定する割合」を乗じて計算した金額とされており、この割合は、法人税法施行令8条1項16号ロと同様に、「適格現物分配」の場合の取扱いに関する疑問が存在する状態となっているが、本例では、他の例との比較検討の都合上、300であるものとする。

(注2)処理例1と同様に、法人税法施行令8条1項17号により、譲渡損相当額は資本金等の額の減少額とすることとなる。(注3)この法人税法62条の5第4項の「収益の額」は23条1項1号の「剰余金の配当等の額」ではないのか、なぜ「収益の

額」としたのか、23条1項と同様の取扱いとしているにもかかわらず同項の適用対象から除いて62条の5第4項において取扱いを定めることとしたのはなぜか、といった疑問の声が聞かれる。

   法人税法24条1項により、同項3号の金額を23条1項1号の金額とみなす取扱いは、23条1項の規定を適用する場合に止まらず、法人税法の全ての規定を適用する場合に適用されるため、62条の5第4項の規定を適用する場合にも、「資本の払戻し」によって生じた24条1項の「その超える部分の金額」は23条1項1号の「剰余金の配当等の額」とみなされることとなる。このため、法人税法62条の5第4項の「収益の額」は、23条1項1号の「剰余金の配当等の額」と同じものであると考えられる。

   この金額を「剰余金の配当等の額」に含めずに「収益の額」とした理由や組織再編成に係る所得の金額の計算(第2編第1章第1節第6款)中の62条の5第4項において取扱いを定めることとしたことに関しては、その理由を明確に説明したものは見受けられないが、「適格現物分配」を資本等取引ではなく組織再編成と位置付けたことに因るものと推測される。

   なお、「現物分配」や「適格現物分配」は、組織再編成ではなく、資本等取引であって、これらに関する税制は、本来、資本等取引税制として整備すべきことについては、拙著『詳解 グループ法人税制』(法令出版)の問103及び鼎談664頁を、また、法人が稼得した「所得」に対する課税を行わないまま「所得の分配」を行うことに関する疑問については、同じく問104を参照されたい。

【図4】処理例1(法令8①十六ロの括弧書きの置換えが働かないと解釈する場合)

【図5】処理例2(法令8①十六ロの括弧書きの置換えが働くと解釈する場合)

子会社等

製品販売

香港法人(特定外国子会社等)

中国側企業体(工 場)

材料・仕掛品支給

技術指導

完成品

工場財務・管理等

完成品

加工賃・賃貸料

日本親会社

株式

株式

資本等取引

国外

国内

▶加工、組立業務

▶工場所有、賃貸

▶工員手配

▶福利厚生、庶務

▶組  合

【図1】タックスヘイブン対策税制による合算所得の計算

本邦法令又は現地法令により計算される所得

基準所得金額 適用対象金額 課税対象金額

法人税及び受取配当等の調整

欠損金及び納付税額等の調整

持分に応じた金額の計算

適用対象法人A

国内関連者等B

非国内関連者等

C国内関連者等

支払利子 受取利子 a100

受取利子 b80

受取利子 c20

0

200

400

600

800

1000

1200

【図2】一定の第三者の範囲

【図3】控除対象受取利子等合計額への算入を制限する措置

【図2】行動3 CFC税制の見直し

(出所:財務省 平成24年度税制改正の解説)

(出所:財務省 平成24年度税制改正の解説)

(出所:財務省 平成24年度税制改正の解説)

調整所得金額の50%

過大支払利子

関連者純支払利子等の額

[米国]

X社

Y社

Z社

比較

100%資本等取引

関連者

第三者

日本本社

1 第三者を通じた関連者からの 資金供与((a)のケース)

関連会社(シンガポール)

商流(販売)

資金

50%

資金

法人

関連者

第三者

2 関連者の債務保証により第三者が 資金供与((b)のケース)

債務保証

50%

資金

法人

第三者

関連者

他の

第三者

50%

資金

債券

債券債券

法人

関連者

他の

第三者

50%

資金

債務保証債券

法人

3 関連者又は第三者から貸し付けられた債券を他の第三者  へ譲渡し又は貸し付けること等による資金供与((c)のケース)

受取利子a100>受取利子b80より、受取利子の合計額に含まれる金額は80となる

関連者

50%

法人

[日本]国税庁②徴収共助要請③徴収④送金

IRS

国税庁

①租税債権 ③徴収④送金

②徴収共助要請

米国納税者の財産

A国支払B国顧客

【図2】問屋スキーム

Amazon EuropeHoldings

Amazon EU Sari

A国(低税率)

低機能低所得

B国(高税率)

A国(CFC税制が厳しい)

C国(タックスヘイブン)

B国(CFC税制が緩い)

Z社所得の合算課税

合算課税なし

顧客

B国にはPEを有せず販売、サービス提供が可能

【図1】行動1 デジタルエコノミーに係る 税務上の課題への対応

X社

支払

A国

B国

販売、サービス提供等の経済活動

顧客

B国にはPEを有せず販売、サービス提供が可能

事業流出(BEPS)

【図3】行動5 有害な税制への対応の強化

X社

子会社Z

子会社Y

A国 B国(有害税制なし)

C国(有害税制あり)

Z社所得の合算課税

利益圧縮(BEPS)

事業流出(BEPS)支払

【図1】ダブルアイリッシュ・ダッチサンドウィッチ

製品販売

香港法人(特定外国子会社等)

中国側企業体(工 場)

材料・仕掛品支給

技術指導

完成品

工場財務・管理等

加工賃・賃貸料

日本親会社 ▶加工、組立業務

▶工場所有、賃貸

▶工員手配

▶福利厚生、庶務

▶組  合

Z社C国

(タックスヘイブン)

Z社所得の合算課税

合算課税なし

事業流出(BEPS)

アイルランド子会社

アイルランド統括会社

オランダ法人

サブライセンス

使用料

使用料IP

ダブル・アイリッシュ ダッチ・サンドウィッチ

源泉税が回避されるようにオランダ経由で使用料が支払われる

アイルランドの税法上外国法人とされる

消費者

A社注文

直接販売

B社配送等

高機能高所得

低機能低所得

【図2】問屋スキーム

A国(低税率)

B国(高税率)

消費者

A社注文

直接販売

B社配送等

高機能高所得

低機能低所得

現 行親会社

【図3】改正寄附金税制の適用範囲

寄附

100%100%

B社

個人

A社寄附

100%100%

B社

内国法人または外国法人

A社

益金算入益金算入

損金算入制限の中で損金算入損金算入制限の中で損金算入A社

B社  益金不算入益金不算入

損金不算入損金不算入A社

B社 

<原則によるときの処理例> <適格合併の処理例>資産 1,000 / 負債 500 資産 800 / 負債 500現金 40 資本金等の額 240 資本金等の額 500 利益積立金額 100譲渡損 660 合併交付金 200 被合併法人株式 700 被合併法人株式 700 配当 60

<原則によるときの処理例> <適格合併の処理例>資産 1,000 / 負債 500 資産 800 / 負債 500現金 40 合併交付金 200 資本金等の額 500 利益積立金額 100資本金等の額 420 被合併法人株式 700 被合併法人株式 700 配当 60

会議費10/現 金10会議費10/現 金10

⑩⑤

会議費10/現 金10

① ②~④ ⑥~⑨

-交際費10/会議費10交際費10/会議費10

申告省 

 

省  

略 修正

資産10 負  債5     資本金等5

資産6 負  債5    資本金等1

⑩⑤

現 金5 資 産10譲渡損5

① ②~④ ⑥~⑨

〈期首〉資本金等4/資産4

- -

-資 産4/譲渡損4

申告

修正

A社

100%

米国

出資者出資者

営業者

(B)(A)

日本法人

オランダ

出資

分配金

営業者日本法人

資産2,000

負債  700 <会 社>資産(簿価300、時価600)

資本金 500

資本剰余金500

利益剰余金300

<株 主>

剰余金の配当

含み益

600300150

150

資産2,000

負債 500

<法 人>

資本金等の額の減少額

利益積立金額の減少額

(資本金500)資本等の金額1,000

利益積立金額500

<株 主>

(みなし配当)

◎ 減資等(300) ○ 資本等の金額の減少額(旧法令9⑨)         300   1,000 ×   = 200         1,500 ○ 利益積立金額の減少額(みなし配当)(旧法法2十八ヲ)   300 - 200 = 100◎ 配当等(300) ○ 利益積立金額の減少額(配当等の額)(旧法法2十八ヌ)   300

200

100

300

株式の譲渡対価の額(旧法法61の2①一)

配当等の額(旧法法23①一、旧法法24①三、旧法令23①三)

200

100

300

資本金等の額 200   資 産 300    資 産 600   株 式 300(注)利益積立金額 400   譲渡益 300    譲渡損 100   配 当 400

資産2,000

負債 500

<法 人>

資本金等の額の減少額

利益積立金額の減少額

(資本金500)資本金等の額1,000

利益積立金額500

<株 主>

(みなし配当)

◎ 減資等(300) ○ 資本等の金額の減少額(旧法令9⑨)         300   1,000 ×   = 200         1,500 ○ 利益積立金額の減少額(みなし配当)(旧法法2十八ヲ)   300 - 200 = 100◎ 配当等(300) ○ 利益積立金額の減少額(配当等の額)(旧法法2十八ヌ)   300

200

100

300

株式の譲渡対価の額(旧法法61の2①一)

配当等の額(旧法法23①一、旧法法24①三、旧法令23①三)

200

100

300

資本金等の額 200   資 産 300    資 産 600   株 式 225(注3)利益積立金額 400   譲渡益 300    譲渡損 125   配 当 500

資産2,000

負債 500

<法 人>

資本金等の額の減少額

利益積立金額の減少額

(資本金500)資本金等の額1,000

利益積立金額500

<株 主>

 ○ 資本金等の額の減少額(旧法令8①十九)         150   1,000 ×   = 100         1,500  ○ 利益積立金額の減少額(旧法令9①七)   600 - 100 = 500

100

500

株式の譲渡対価の額(旧法法61の2①一)100

500

資本金等の額 100   資 産 300    資 産 600   株 式 300(注2)利益積立金額 500   譲渡益 300    譲渡損 200   配 当 500

みなし配当の額(旧法法24①三、旧法令23①三)(注1)

資産2,000

負債 500

<法 人>

資本金等の額の減少額

利益積立金額の減少額

(資本金500)資本金等の額1,000

利益積立金額500

<株 主>

 ○ 資本金等の額の減少額(法令8①十六)         150   1,000 ×   = 100         1,500  ○ 利益積立金額の減少額(法令9①十一)(注1)   300 - 100 = 200

100

200

株式の譲渡対価の額(法法61の2⑯)300

200

資本金等の額 100   資 産 300  資 産   300    株 式 300(注2)利益積立金額 200            資本金等の額200(注3)  配 当 200(注4)

みなし配当の額(法法24①三、法令23①三)

資産2,000

負債 500

<法 人>

資本金等の額の減少額

利益積立金額の減少額

(資本金500)資本金等の額1,000

利益積立金額500

<株 主>

 ○ 資本金等の額の減少額(法令8①十六)         300   1,000 ×   = 200         1,500  ○ 利益積立金額の減少額(法令9①十一)   300 - 200 = 100

200

100 100

株式の譲渡対価の額(法法61の2⑯)300

資本金等の額 200 資 産 300  資 産   300    株 式  300(注1)利益積立金額 100          資本金等の額100(注2)  「収益の額」100 (注3)

みなし配当の額(法法24①三、法令23①三)

100%

寄附

100%100%

組織再編成

資本等取引

匿名組合契約

匿名組合契約

出資者出資者

(B)

オランダ

出資

出資分配金

分配金

国外

この事業は?株式保有 or サービス業

製造会社(ベトナム)

第三者

日本本社

関連会社(シンガポール)

商流(販売)

販売

商流(購入)

製造会社(インドネシア)

法人税法・措置法により計算される所得

(措令39の15①一)

(加算)納付法人所得税(措令39の15①二)

(減算)還付法人所得税(措令39の15①三)

(減算)益金不算入配当(措令39の15①四)

(減算)控除対象配当等(措令39の15③④)

・25%以上・6ヶ月以上 所有上記以外

基準所得金額の計算上減算

基準所得金額を構成

配当(他の子会社) (特定外国子会社等)

配当

【図7】 営業権に関する議論は不毛?

【図表2】□□□□■□□□□■

【図2】特定医療法人化と本件相続の関係

B/S

寄附?

負 債資 産

営業権

(簿価500、時価700)

負 債資 産

<債務超過会社のB/S>

マイナスの利益積立金▲ 500資本金等(100)

(900)

      (借   方)       (貸   方)(債   務) 430,442,435 (資 本 金) 400,000,000 (資本準備金) 30,400,000 (雑 収 入) 42,435

【図2】債務者会社の経理処理

現 行

譲渡損失

×

対価がA社株式ではないため、現行の税制では課税繰延は認められない。

国内会社

業界団体等

※ 

被相続人に係る相続発生

各省庁(窓口)

各省の税制担当副大臣

政府税調

政府税調

各省の税制担当副大臣

各省庁(窓口)

業界団体等

持ち分の定めのある医療法人

②①債権を1億6200万円で取得

親会社

株主株主

特定医療法人へ移行

双方の株主総会特別決議が必要であり、友好的に行われる。

DES

【図3】本件自己株式の譲渡の概要(平成16年5月期)

③債権(3億2470万円)

①債権4億6931万0500円

②①債権を1億6200万円で取得

③自己株式(34万株) 債務者会社

外国銀行

債権者会社

②①債権を2億5663万2756円で取得、1億4461万0500円の弁済収受

100%出資

100%出資

新設医療法人

新設医療法人

A国

日本企業

日本

子会社設立(金銭出資)

業界団体等 自民党税調

臨時株主総会

特定医療法人の承認申請の遂行、

定款変更の認可の手続を決定

業界団体等

商工部会農林部会

財務金融部会建設部会…etc

自民党税調

政府税調

各省の税制担当副大臣

各省庁(窓口)

業界団体等

〈これまでの税制改正プロセス〉

〈民主党政権下での税制改正プロセス〉

自民党政務調査会

商工部会 財務金融部会

農林部会 建設部会

…etc

【図表2】新旧の税制改正要望プロセス

業界団体等

業界団体等

各省庁(窓口)

各省の税制担当副大臣

政府税調

自民党税調

自民党税調

業界団体等

自民党税調

〈これまでのプロセス〉 〈民主党政権下でのプロセス〉

自民党政務調査会

経済産業部会 財務金融部会

農林部会 国土交通部会

…etc.

【図1】グループ法人単体課税制度の適用範囲と    譲渡損益の繰延べ範囲

譲渡損益の繰り延べ

一定資産の譲渡

100%100%

内国法人

内国法人または個人または外国法人

内国法人

【図3】改正寄附金税制の適用範囲

寄附

100%

B社

個人

A社

【図】評価範囲の決定方法(見直し案)

譲 渡譲渡先

資産

譲渡元

減価償却分の譲渡損益実現 減価償却

繰延べ損益の金額実現 除  却

寄附

100%100%

B社

内国法人又は外国法人

A社

損金算入損金算入

損金算入制限の中で損金算入損金算入制限の中で損金算入A社

B社  損金不算入損金不算入

損金不算入損金不算入A社

B社 

【図3】改正寄附金税制の適用範囲

寄附

100%100%

B社

個人

A社寄附

100%100%

B社

内国法人または外国法人

A社

益金算入益金算入

損金算入制限の中で損金算入損金算入制限の中で損金算入A社

B社  益金不算入益金不算入

損金不算入損金不算入A社

B社 

0 30 60 90 120 150

本社売上¥60

A支社¥30

B支社¥20

その他¥40

100/150以上

80/150以上

(例)A支社が ① 前年度の評価が良好 ② 状況に大きな変化がない ③ 特に重要な事業拠点 (本社)でない

【当年度】

【前年度】

Aは評価対象外

(出典:金融庁)

寄 附 金 40 / 土   地 30 譲 渡 益 10譲渡損益調整損 10 / 譲渡損益調整勘定 10

土   地 40 / 受 贈 益 40 土 地 :+40 利益積立金 40 / S 社 株 式 40 S社株式 :-40(帳簿価額:60) 利益積立金 :±0

【図1】 

B/S100% 土地

P社

S社

現  金  70  資本金等  50土  地  30  利益積立金 50

【仕訳5】

【仕訳4】

【図】統括会社の概念図

【図2】本邦法令に基づく基準所得金額の計算 【図3】受取配当の除外(原則)

【図2】平成13年度改正における法人税法上の処理

【図3】平成18年度改正以後の法人税法上の処理

【会社法上の貸借対照表】

【図表2】組織再編成における未経過固定資産税     相当額の金銭の位置関係

【例1】

【例2】

【ケース2】 

A社 B社

100%

甲 乙 丙 丁

100%

100%99%1%

C社 D社

【ケース3】 

A社 B社

100%

甲 乙 丙 丁

100%100%

1% 99%

C社 D社

P社

B/S現    金  70 譲渡損益調整勘定 10 資 本 金 50 利益積立金 10

利益積立金 30 / 土   地 30

土   地 30 / 配 当 収 入 30 土 地 :+30  S社株式 :-(帳簿価額:100) 利益積立金 :+30

【図2】 

S社

P社

B/S現    金  70 資 本 金 等 50 利益積立金 20

資本金等 15 / 土   地 30利益積立金 15

土   地 30 / 利益積立金 15 土 地 :+30 資本金等 15 S社株式 30 S社株式 :-30(帳簿価額:70) 利益積立金 :+15 資本金等 :-15

(*)分割前事業年度の簿価純資産価額を100、分割直前の資本金等の額を50とする。  ・S社の減少する資本金等の額 15=50×30/100(法令8①十五)  ・S社の減少する利益積立金額 15=30-15(法令9①十)

(*)前提は、上記S社の場合と同様である。  ・P社の増加する資本金等の額 -15=15-(100×30/100)(法令8①六)  ・P社の増加する利益積立金額 15=30-(-15)-(100×30/100)(法令9①三)  ・P社が保有するS社株式の減少額 30=100×30/100(法令119の3⑪、119の8)

【図3】 

※S社

P社

B/S現    金  70 資 本 金 等 35 利益積立金 35

【図表4】ケース1

A社 B社

100%甲 乙 丙 丁

100% 100% 100%

C社 D社

【図表5】ケース2

A社 B社

100%

甲 乙 丙 丁

100%

100% 99%

C社 D社

【図表6】ケース3

A社 B社

100%

甲 乙 丙 丁

100%100% 99%

C社 D社

1%

1%

匿名組合契約匿名組合契約

反対株主の買

取請求に基づ

いて交付され

る金銭等

剰余金の配当

等として交付

される金銭等

未経過固定資

産税相当額の

金銭

一株未満の株

式の代り金

親法人株式等

の端数の代り金

【図表3】未経過固定資産税相当額の金銭の受払い     と取引の関係

(親法人株式

等の端数の代

り金)

(一株未満の株

式の代り金)

株  

株  

株  

未経過固定資

産税相当額の

金銭

寄附B社

B社

益金算入益金算入

損金算入制限の中で損金算入損金算入制限の中で損金算入A社

【法人税法上の貸借対照表】

B社 

益金不算入益金不算入

損金不算入損金不算入A社

B社 

(注)株主における株式の譲渡原価は、『平成22年度 税制改正の解説』の処理例と同等に、300であるものとする。

【法人税法上の貸借対照表】

(注3)株主における株式の帳簿価額の合計額は1,500とし、旧法人税法施行令119条の9第1項(減資等の場合の株式の譲渡原価の額等)に規定する「当該払戻し等に係る第二十三条第一項第三号(みなし配当金額の計算方法)に規定する割合」は0.15(150÷1,000)とする。

【図3】平成18年度改正以後の法人税法上の処理

【法人税法上の貸借対照表】

(注1)法人税法23条1項1号においては、剰余金の配当に関して、「資本剰余金の額の減少に伴うもの・・・を除く」とされており、24条1項3号においては、資本の払戻しに該当する剰余金の配当に関して、「資本剰余金の額の減少に伴うものに限る」とされているため、剰余金の配当の原資に一部でも資本剰余金がある場合には、その剰余金の配当の全てが24条1項3号の適用対象となり、利益積立金額の減少に対応する部分の金額は、全てみなし配当の額とされることとなっている。

  本来、みなし配当は、会社法等において法人税法23条1項の配当等の額とされないものについて、法人税法上、配当等の額とみなすこととするものであり、会社法上の処理において利益剰余金を原資とする部分に関しては、24条1項3号の規定を適用してみなし配当とした上で23条1項の配当等の額としなければならないものであるのか、また、資本剰余金を原資とする部分と利益剰余金を原資とする部分の区分は、本来は、事実認定の問題ではないのか、という疑問が残らざるを得ない。

(注2)株主における株式の譲渡原価は300であるものとする。

・・・・・

【法人税法上の貸借対照表】

(注1)法人税法施行令9条1項11号においては、利益積立金の減少額を「第八条第一項第十六号に規定する合計額」に基づいて計算することとされており、この「合計額」は、「当該資本の払戻し等により交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額(適格現物分配に係る資産にあつては、その交付の直前の帳簿価額)の合計額」(法令8①十六)とされているが、この括弧書きの「(適格現物分配に係る資産にあつては、その交付の直前の帳簿価額)」は、資本の払戻し等が適格現物分配に該当する場合には、疑問の余地なく、働くこととなる。次の処理例においても、同様である。

(注2)株主における株式の譲渡原価は300であるものとする。(注3)法人税法施行令8条1項17号により、譲渡損相当額は資本金等の額の減少額とすることとなる。(注4)法人税法24条1項においては、「適格現物分配」の場合には、みなし配当とする金額の計算に用いる「金銭以外の資

産の価額」について、「適格現物分配に係る資産にあつては、当該法人のその交付の直前の当該資産の帳簿価額に相当する金額」としている。そして、法人税法24条1項においては、みなし配当とする金額の計算に用いる「当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額」について政令に委任し、「資本の払戻し」に関しては、法人税法施行令23条1項3号において、「直前の資本金等の額・・・にイに掲げる金額のうちにロに掲げる金額の占める割合・・・を乗じて計算した金額」を基にして計算するものと定め、同号イ及びロにおいて、質問文におけるイ及びロと殆ど同じ文言の定めを設けている。

   すなわち、本件質問は、「適格現物分配」に該当する「資本の払戻し」を行った法人において減少させることとなる資本金等の額の計算に関する質問であると同時に、「適格現物分配」に該当する「資本の払戻し」を受けた株主においてみなし配当とする金額の計算に関する質問ともなっているわけである。

【法人税法上の貸借対照表】

(注1)株主における株式の譲渡原価の額は、法人税法61条の2第17項及び法人税法施行令119条の9第1項において、所有株式の帳簿価額に「当該払戻し等に係る第二十三条第一項第三号(みなし配当金額の計算方法)に規定する割合」を乗じて計算した金額とされており、この割合は、法人税法施行令8条1項16号ロと同様に、「適格現物分配」の場合の取扱いに関する疑問が存在する状態となっているが、本例では、他の例との比較検討の都合上、300であるものとする。

(注2)処理例1と同様に、法人税法施行令8条1項17号により、譲渡損相当額は資本金等の額の減少額とすることとなる。(注3)この法人税法62条の5第4項の「収益の額」は23条1項1号の「剰余金の配当等の額」ではないのか、なぜ「収益の

額」としたのか、23条1項と同様の取扱いとしているにもかかわらず同項の適用対象から除いて62条の5第4項において取扱いを定めることとしたのはなぜか、といった疑問の声が聞かれる。

   法人税法24条1項により、同項3号の金額を23条1項1号の金額とみなす取扱いは、23条1項の規定を適用する場合に止まらず、法人税法の全ての規定を適用する場合に適用されるため、62条の5第4項の規定を適用する場合にも、「資本の払戻し」によって生じた24条1項の「その超える部分の金額」は23条1項1号の「剰余金の配当等の額」とみなされることとなる。このため、法人税法62条の5第4項の「収益の額」は、23条1項1号の「剰余金の配当等の額」と同じものであると考えられる。

   この金額を「剰余金の配当等の額」に含めずに「収益の額」とした理由や組織再編成に係る所得の金額の計算(第2編第1章第1節第6款)中の62条の5第4項において取扱いを定めることとしたことに関しては、その理由を明確に説明したものは見受けられないが、「適格現物分配」を資本等取引ではなく組織再編成と位置付けたことに因るものと推測される。

   なお、「現物分配」や「適格現物分配」は、組織再編成ではなく、資本等取引であって、これらに関する税制は、本来、資本等取引税制として整備すべきことについては、拙著『詳解 グループ法人税制』(法令出版)の問103及び鼎談664頁を、また、法人が稼得した「所得」に対する課税を行わないまま「所得の分配」を行うことに関する疑問については、同じく問104を参照されたい。

【図4】処理例1(法令8①十六ロの括弧書きの置換えが働かないと解釈する場合)

【図5】処理例2(法令8①十六ロの括弧書きの置換えが働くと解釈する場合)

子会社等

製品販売

香港法人(特定外国子会社等)

中国側企業体(工 場)

材料・仕掛品支給

技術指導

完成品

工場財務・管理等

完成品

加工賃・賃貸料

日本親会社

株式

株式

資本等取引

国外

国内

▶加工、組立業務

▶工場所有、賃貸

▶工員手配

▶福利厚生、庶務

▶組  合

【図1】タックスヘイブン対策税制による合算所得の計算

本邦法令又は現地法令により計算される所得

基準所得金額 適用対象金額 課税対象金額

法人税及び受取配当等の調整

欠損金及び納付税額等の調整

持分に応じた金額の計算

適用対象法人A

国内関連者等B

非国内関連者等

C国内関連者等

支払利子 受取利子 a100

受取利子 b80

受取利子 c20

0

200

400

600

800

1000

1200

【図2】一定の第三者の範囲

【図3】控除対象受取利子等合計額への算入を制限する措置

【図2】行動3 CFC税制の見直し

(出所:財務省 平成24年度税制改正の解説)

(出所:財務省 平成24年度税制改正の解説)

(出所:財務省 平成24年度税制改正の解説)

調整所得金額の50%

過大支払利子

関連者純支払利子等の額

[米国]

X社

Y社

Z社

比較

100%資本等取引

関連者

第三者

日本本社

1 第三者を通じた関連者からの 資金供与((a)のケース)

関連会社(シンガポール)

商流(販売)

資金

50%

資金

法人

関連者

第三者

2 関連者の債務保証により第三者が 資金供与((b)のケース)

債務保証

50%

資金

法人

第三者

関連者

他の

第三者

50%

資金

債券

債券債券

法人

関連者

他の

第三者

50%

資金

債務保証債券

法人

3 関連者又は第三者から貸し付けられた債券を他の第三者  へ譲渡し又は貸し付けること等による資金供与((c)のケース)

受取利子a100>受取利子b80より、受取利子の合計額に含まれる金額は80となる

関連者

50%

法人

[日本]国税庁②徴収共助要請③徴収④送金

IRS

国税庁

①租税債権 ③徴収④送金

②徴収共助要請

米国納税者の財産

A国支払B国顧客

【図2】問屋スキーム

Amazon EuropeHoldings

Amazon EU Sari

A国(低税率)

低機能低所得

B国(高税率)

A国(CFC税制が厳しい)

C国(タックスヘイブン)

B国(CFC税制が緩い)

Z社所得の合算課税

合算課税なし

顧客

B国にはPEを有せず販売、サービス提供が可能

【図1】行動1 デジタルエコノミーに係る 税務上の課題への対応

X社

支払

A国

B国

販売、サービス提供等の経済活動

顧客

B国にはPEを有せず販売、サービス提供が可能

事業流出(BEPS)

【図3】行動5 有害な税制への対応の強化

X社

子会社Z

子会社Y

A国 B国(有害税制なし)

C国(有害税制あり)

Z社所得の合算課税

利益圧縮(BEPS)

事業流出(BEPS)支払

【図1】ダブルアイリッシュ・ダッチサンドウィッチ

製品販売

香港法人(特定外国子会社等)

中国側企業体(工 場)

材料・仕掛品支給

技術指導

完成品

工場財務・管理等

加工賃・賃貸料

日本親会社 ▶加工、組立業務

▶工場所有、賃貸

▶工員手配

▶福利厚生、庶務

▶組  合

Z社C国

(タックスヘイブン)

Z社所得の合算課税

合算課税なし

事業流出(BEPS)

アイルランド子会社

アイルランド統括会社

オランダ法人

サブライセンス

使用料

使用料IP

ダブル・アイリッシュ ダッチ・サンドウィッチ

源泉税が回避されるようにオランダ経由で使用料が支払われる

アイルランドの税法上外国法人とされる

消費者

A社注文

直接販売

B社配送等

高機能高所得

低機能低所得

【図2】問屋スキーム

A国(低税率)

B国(高税率)

消費者

A社注文

直接販売

B社配送等

高機能高所得

低機能低所得

現 行親会社

【図3】改正寄附金税制の適用範囲

寄附

100%100%

B社

個人

A社寄附

100%100%

B社

内国法人または外国法人

A社

益金算入益金算入

損金算入制限の中で損金算入損金算入制限の中で損金算入A社

B社  益金不算入益金不算入

損金不算入損金不算入A社

B社 

<原則によるときの処理例> <適格合併の処理例>資産 1,000 / 負債 500 資産 800 / 負債 500現金 40 資本金等の額 240 資本金等の額 500 利益積立金額 100譲渡損 660 合併交付金 200 被合併法人株式 700 被合併法人株式 700 配当 60

<原則によるときの処理例> <適格合併の処理例>資産 1,000 / 負債 500 資産 800 / 負債 500現金 40 合併交付金 200 資本金等の額 500 利益積立金額 100資本金等の額 420 被合併法人株式 700 被合併法人株式 700 配当 60

会議費10/現 金10会議費10/現 金10

⑩⑤

会議費10/現 金10

① ②~④ ⑥~⑨

-交際費10/会議費10交際費10/会議費10

申告省 

 

省  

略 修正

資産10 負  債5     資本金等5

資産6 負  債5    資本金等1

⑩⑤

現 金5 資 産10譲渡損5

① ②~④ ⑥~⑨

〈期首〉資本金等4/資産4

- -

-資 産4/譲渡損4

申告

修正

A社

100%

米国

出資者出資者

営業者

(B)(A)

日本法人

オランダ

出資

分配金

営業者日本法人

資産2,000

負債  700 <会 社>資産(簿価300、時価600)

資本金 500

資本剰余金500

利益剰余金300

<株 主>

剰余金の配当

含み益

600300150

150

資産2,000

負債 500

<法 人>

資本金等の額の減少額

利益積立金額の減少額

(資本金500)資本等の金額1,000

利益積立金額500

<株 主>

(みなし配当)

◎ 減資等(300) ○ 資本等の金額の減少額(旧法令9⑨)         300   1,000 ×   = 200         1,500 ○ 利益積立金額の減少額(みなし配当)(旧法法2十八ヲ)   300 - 200 = 100◎ 配当等(300) ○ 利益積立金額の減少額(配当等の額)(旧法法2十八ヌ)   300

200

100

300

株式の譲渡対価の額(旧法法61の2①一)

配当等の額(旧法法23①一、旧法法24①三、旧法令23①三)

200

100

300

資本金等の額 200   資 産 300    資 産 600   株 式 300(注)利益積立金額 400   譲渡益 300    譲渡損 100   配 当 400

資産2,000

負債 500

<法 人>

資本金等の額の減少額

利益積立金額の減少額

(資本金500)資本金等の額1,000

利益積立金額500

<株 主>

(みなし配当)

◎ 減資等(300) ○ 資本等の金額の減少額(旧法令9⑨)         300   1,000 ×   = 200         1,500 ○ 利益積立金額の減少額(みなし配当)(旧法法2十八ヲ)   300 - 200 = 100◎ 配当等(300) ○ 利益積立金額の減少額(配当等の額)(旧法法2十八ヌ)   300

200

100

300

株式の譲渡対価の額(旧法法61の2①一)

配当等の額(旧法法23①一、旧法法24①三、旧法令23①三)

200

100

300

資本金等の額 200   資 産 300    資 産 600   株 式 225(注3)利益積立金額 400   譲渡益 300    譲渡損 125   配 当 500

資産2,000

負債 500

<法 人>

資本金等の額の減少額

利益積立金額の減少額

(資本金500)資本金等の額1,000

利益積立金額500

<株 主>

 ○ 資本金等の額の減少額(旧法令8①十九)         150   1,000 ×   = 100         1,500  ○ 利益積立金額の減少額(旧法令9①七)   600 - 100 = 500

100

500

株式の譲渡対価の額(旧法法61の2①一)100

500

資本金等の額 100   資 産 300    資 産 600   株 式 300(注2)利益積立金額 500   譲渡益 300    譲渡損 200   配 当 500

みなし配当の額(旧法法24①三、旧法令23①三)(注1)

資産2,000

負債 500

<法 人>

資本金等の額の減少額

利益積立金額の減少額

(資本金500)資本金等の額1,000

利益積立金額500

<株 主>

 ○ 資本金等の額の減少額(法令8①十六)         150   1,000 ×   = 100         1,500  ○ 利益積立金額の減少額(法令9①十一)(注1)   300 - 100 = 200

100

200

株式の譲渡対価の額(法法61の2⑯)300

200

資本金等の額 100   資 産 300  資 産   300    株 式 300(注2)利益積立金額 200            資本金等の額200(注3)  配 当 200(注4)

みなし配当の額(法法24①三、法令23①三)

資産2,000

負債 500

<法 人>

資本金等の額の減少額

利益積立金額の減少額

(資本金500)資本金等の額1,000

利益積立金額500

<株 主>

 ○ 資本金等の額の減少額(法令8①十六)         300   1,000 ×   = 200         1,500  ○ 利益積立金額の減少額(法令9①十一)   300 - 200 = 100

200

100 100

株式の譲渡対価の額(法法61の2⑯)300

資本金等の額 200 資 産 300  資 産   300    株 式  300(注1)利益積立金額 100          資本金等の額100(注2)  「収益の額」100 (注3)

みなし配当の額(法法24①三、法令23①三)

100%

寄附

100%100%

組織再編成

資本等取引

匿名組合契約

匿名組合契約

出資者出資者

(B)

オランダ

出資

出資分配金

分配金

国外

この事業は?株式保有 or サービス業

製造会社(ベトナム)

第三者

日本本社

関連会社(シンガポール)

商流(販売)

販売

商流(購入)

製造会社(インドネシア)

法人税法・措置法により計算される所得

(措令39の15①一)

(加算)納付法人所得税(措令39の15①二)

(減算)還付法人所得税(措令39の15①三)

(減算)益金不算入配当(措令39の15①四)

(減算)控除対象配当等(措令39の15③④)

・25%以上・6ヶ月以上 所有上記以外

基準所得金額の計算上減算

基準所得金額を構成

配当(他の子会社) (特定外国子会社等)

配当

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No.5252013.12.2 21

確でないにもかかわらず、「何なりかの」無形資産の存在を見立て、そこに対価の支払いを創出して課税するケースである。逆に、企業側も、無形資産の存在を見立て、その使用の対価としてのロイヤルティを支払うことにより所得の移転を行うことができることになる。こうしたことを防止するため、支払の妥当性の根拠となるよう、無形資産の定義を明確にすることが求められている。また、無形資産の定義に合わせて、その帰属も明確にする必要がある。無形資産の創造のためにコスト負担した場合に所有権が得られると考えるのか、法的な所有権を優先させるのか等の問題であるが、無形資産の移転という行為の妥当性も検討する必要があろう。 また、移転価格ルールの見直しという観点では、無形資産が移転する場合(譲渡される場合)のみならず、ライセンス契約によりロイヤルティが支払われる場合であっても、その金額の妥当性を担保するため無形資産の価値を適正に評価する必要がある。しかしながら、現在のところ、無形資産の評価には明確なガイドラインが存在していない。この点も重要な検討課題となる。 なお、無形資産に関する現行の移転価格ガイドラインの見直しはすでに進展しており、ディスカッション・ドラフトが公表されている。(9)リスク及び資本に係る移転価格ルールの確保(期限:2015年9月)

 企業グループ内のメンバー会社へのリスクの移転又は過度な資本の配分により所得の移転等

(BEPS)を防止するルールを策定する。これには契約上リスクを負担したり、資本を付与するというだけで不適切な利益を生じさせることを防止するため、移転価格ルール及び国内法における特別規定の創設について検討し、移転価格ガイドライン(及びモデル条約)の改定を行う。ただ契約上のリスク負担は真にリスクを負

担しているか否かの事実認定の問題でもあり、ルール化は困難なことも否めない。(10)ハイリスク取引に係る移転価格ルール

の確保(期限:2015年9月) 第三者間では起こり得ない、または起こることが極めて稀である取引による所得の移転等

(BEPS)を防止するためのルールの策定を行う。この作業では、次のような内容の移転価格ルールや国内法における特別規定の導入を提言することとなるが、同時に移転価格ガイドライン(及びOECDモデル条約)の改定を目指す。◦取引の性質変更を可能とする状況を特定◦グローバルなバリューチェーンという状況下

で、移転価格算定方法、特に利益分割法の適用を明確にする◦マネージメント料及び本部経費の支払いのよ

うな税源浸食となる可能性のある支払に対する措置を規定

 オーストラリア、フランス、ドイツなどでは、独立企業間では生じないような取引は、独立企業間価格の議論以前の問題として、その取引そのものを否認するアプローチも検討されている。つまり価格設定の妥当性というより、そうした取引そのものが起こり得ないならば、起こり得る取引に作り直すということである。なお無形資産の譲渡も独立企業間では起こり得ないとの考えもある。収益の根幹をなす無形資産を第三者に譲渡することは継続企業としてありえないという発想である。(11)BEPSに係るデータの収集と分析及びそ

の手法の確立(期限:2015年9月) 特定の多国籍企業の企業行動及びその結果としての「租税回避」行為的な租税スキームをBEPS行動計画の必要性の論拠としているが、そもそもBEPSに関する数値的データがないのが実情である。BEPSがどの程度の規模で起きており、経済にどのような影響が生じているのかという問題は、必ずしも明らかになっていな

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TEL:03-5281-0020 FAX:03-5281-0030 e-mail:[email protected]※なお、内容によっては回答いたしかねる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

い。 こうしたことから、現在のタックススキームをさらに分析し、BEPS関連の数値的データの測定方法を開発、モニターしていく方法についての提言を行う。(12)タックスプランニングに係る報告義務

の創設(期限:2015年9月) 多国籍企業を中心とした国際税務プランニングについて、各国税務当局が情報を共有できるようにするためのルールの確立を目指す。そのために、具体的には、アグレッシブな又は濫用的な取引や契約、ストラクチュアについて、納税者企業から強制的に情報を開示させる義務を課す案が浮上している。しかしながら、そもそも「アグレッシブ」とか「濫用的」といった主観性が高い要素をどのように定義するかといった問題があり、行き過ぎた義務を課すことになりかねない点に留意が必要といえる。(13)移転価格文書化義務の再検討(期限

2014年9月) 各国間で、多国籍企業等の所得、経済活動、支払税額のグローバルな配分に関する情報を共有するため、移転価格ガイドラインの改正及び国内ルールの創設に関する提言を行うというもの。具体的には移転価格に関する文書化ルールを策定することとされているが、企業にとってのコンプライアンスコストや税務行政側による

執行の透明性や簡便性から、一定のテンプレートによって提出する方法が検討されている。税務行政側の視点での行動計画であり、要求される情報の程度によっては、かなりの負担が企業に課されることになりかねない点に留意が必要といえる。 (14)相互協議・仲裁手続きの充実(期限:

2015年9月) 租税条約に定める相互協議が有効的に機能していないことを問題視し、紛争解決に効果的に取り組むための解決策を策定するというもの。OECD加盟国により報告されている相互協議件数の合計は、2012 年度で 4,061 件(前年対比5.8%増)であるが、より一層の効果を得るため、強制的かつ拘束力のある「仲裁規定」の導入についての検討が進められる。(15)多国間協定の開発(期限:2014年9月

及び2015年12月) BEPSプロジェクトで提言された様々な施策等及び国際法上の問題点について分析を行い、報告書を策定する。また、いくつかの行動計画で予定されているOECDモデル条約の改定は、各国の税務執行上直接的な影響を与えるものではなく、各国は個別の租税条約を改正する必要がある。しかしながら、このプロセスは非常に時間のかかるものとなるため、多国間条約の締結によって対応することも検討される。