組織開発に取り組む人々 - TORAY · 2020. 6. 14. ·...
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2014.9 経営センサー4949
「多様な価値観を生かして成果を上げる組織をつくる、イノベーションを生み出すようなチャレンジを促す風土を育てるなど、現代の難しい人事課題を解決するには、組織開発の視点を持ったアプローチが必要」と言われたとき、「組織開発」という言葉にピンとくる人はどれくらいいるのだろうか。
学校法人産業能率大学総合研究所のホームページではこの言葉を下記のように説明している。
「組織開発とは、組織の効果性と健康性を高め、また組織が環境変化にタイミングよく適応していくために、組織を動かしている人の価値観や態度、人と人との関係などをより良い方向に変革を図っていくことを指す。具体的には、組織活動のプロ
セスに行動科学の理論や技法を用いて、組織の体質強化や協調体制を図っていく組織戦略を指し、
「OD(organization development)」ともいう。組織の改編や制度、手続きの変革を主とするのでなく、組織人の持てる力を十二分に発揮させ、協働の成果が上げられるような風土作りを目指すことに焦点をおいた活動である。(中略)この際、問題分析や診断、介入のためには、職場診断アンケートや対決会議、チームビルディング会議、オーガニゼーション・ミラーなどを用いる。」
また、世界大百科事典には次のような記述もある。
「変化の激しい現代社会のなかで組織がその存
組織開発に取り組む人々— 組織イノベーション研究会の活動から—
Point❶ 組織開発は 1950 年代に生まれ、米国で発展してきた「変革の実践」を中心テーマとした領域で
あるが、近年は日本でも「人事の新しい武器」として注目されている。❷ グローバルに事業展開する優良企業の中には、組織開発を専門に取り組む専任部署や担当役員を置
く企業が出てきている。❸ 本稿では組織開発に正面から取り組む企業担当者が集まって情報交換を行う「組織イノベーション
研究会」の活動の様子を紹介する。
小西 明子(こにし あきこ)人材開発部長東レ(株)人事部で総合職採用、新入社員教育に長く従事するほか、総務部で役員秘書業務、(財)東レ科学振興会で理科教育賞運営、勤労部で労務管理を担当。2009 年 6月から現職。
人材/人材育成の視点
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続を確保していくためには、組織自体が絶えず新しく作り変えられなければならない。そこで現代組織論の重要な課題として、組織の変革をどのように行っていくかという点が論じられるようになった。組織開発はこのような時代の要請を反映した、組織変革に関する一つの接近方法にほかならない。組織開発なる用語は、広狭二つの意味で使われている。広くは構造・風土両側面の変革を表す<組織変革>一般の概念と同一視する考え方であり、狭くは組織の風土的側面の変革に限定する考え方である。」
組織開発(以下、OD)は、概念としては 1950年代に生まれ、米国で発展してきたもので、日本では人材開発関係者以外にはあまり浸透していないかもしれない。多様な社会的背景を持った人々が集まる米国では、人を集めたからといって組織として動けるわけではなく、だからこそ人をまとめたり、組織にするためのテクノロジーが必要だったため、OD の理論研究、実践手法が発達したという見方もある。
逆に言えば、多様性の少ない日本企業ではこれまであまり OD が表舞台に出てくることがなかったといえるだろう。多くの日本企業では、より効果的な経営を行うための「組織の形」をどうするか、その組織を支えるための「制度」をどうするかということについては、経営企画や人事部門のメインの仕事として担ってきたが、そもそも組織が意図する目的を果たしうる器となっているか否かのチェックやフォローなどの OD 的な介入を担う担当者や部署を置いているという話はあまり聞いたことがない。おそらく組織や制度そのものの研究ほどの労力をかけてこなかったのではなかろうか。だが今日、グローバルに展開する優良企業の多くが、人事・人材開発以外に OD 担当の役員を選任し、専任の部署を置いて日常的に組織開発に取り組んでいるという。多様性に富んだ組織で強みを発揮していくには、個々の能力開発とともに、人と人との関係性にアプローチする「組織開発」
が重要になっているのだ(図表 1 参照)。この話は「組織イノベーション研究会」という
勉強会で OD を専門分野としている大学の先生から聞いた。「組織イノベーション研究会」は株式会社スコラ・コンサルトでプロセスデザイナー(一般的にはコンサルタントと呼ばれる役割)として活躍する三好博幸氏が中心になって、昨年度から立ち上げたものだ。基本的にはスコラ・コンサルト社の支援を受けて組織開発や組織風土改革、コミュニケーション改革、企業理念の浸透などの活動に取り組む数社から担当者が集まって情報交換するクローズドな勉強会だが、上記のような ODの理論家や実践者をゲストに招いて話を聞くこともあり、貴重な勉強の機会として活用させていただいている。
組織イノベーション研究会の参加メンバーは、各々の所属企業において全社プロジェクト的な位置付けのもと、かなりのエネルギーをかけてそれぞれの活動に従事しており、その意味では OD に真正面から取り組んでいる企業に属している。そんな彼らにとっても担当役員や専任組織を設ける企業群が存在することは、かなりインパクトのある事実だったようである。
以前本欄でも紹介したように、スコラ・コンサルト社の組織風土改革は<スコラ式>という独自の手法によるものだが、その基本にはやはり ODの理論や手法が生かされている。そのメインツー
図表 1 人材開発と組織開発のアプローチの違い
出所:(株)リクルートマネジメントソリューションズHP掲載図表を基に筆者が作成
人材開発では対象となる「人」にアプローチする
組織開発では人と人との「関係性」にアプローチする
人材/人材育成の視点
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ルは心理的にも物理的にもバリアフリーな場で行われる「オフサイトミーティング」という気楽でまじめな話し合いだ。参加企業は「オフサイトミーティング」を社内で展開しながら、それぞれの課題に取り組んでいる。取り組みの動機も、例えば従業員満足度調査の結果を受けてとか、急激に会社の規模が拡大してマネジメントが追いつかなくなっている状況を正確に把握し、改善につなげるためとか、コンプライアンス上の問題指摘を受けて取り組まざるを得なくなった業務プロセス改善を、現場の士気を下げずに浸透させるためなど、それぞれだ。
特徴的なのは、各社それぞれの取り組みについて、かなりオープンに情報交換がなされていることだ。もちろん、あくまで差し支えのない範囲でとは思うが、例えば取り組みで効果があった部分やうまくいかなかった部分、取り組み途中で出てきた不満や葛藤などについては、おおむね包み隠さず率直に共有されている印象だ。
このオープンな雰囲気は、そもそも OD が「変革の実践」を主要テーマにしているためではないかと思う。変革に直面する人や組織が多様で、応用する手法も多様なため、両者の組み合わせとしての変革実践は状況に応じて無数に存在する。したがってある組織で成功した実践が他の組織でそのまま適用できるわけではない。研究会の場で行われている事例の共有も、「こういう組織状況の中
で行われた実践がこんな風に受け止められた」とか「変革実践のこの段階ではこのようなコンフリクトが起きた」というような内容にすぎない。だからといってそれが参加者にとって役に立たないかといえばそうではなく、各自が今まで通ってきた変革の道筋を振り返って整理し、これから起こりうるコンフリクトを予測して対処する上で、相互に非常に参考になり、触発し合えているという印象だ。そこには成功事例を自社だけのものとして独占しようとしたり、全社で取り組むプロジェクトの過程で生じるコンフリクトを隠しだてしようという意図は感じられない。「オフサイトミーティング」という共通のツールを、目的や活動の浸透度合い、組織の状況に合わせながら使いこなしていく工夫を共有しあうことが、各々にとってメリットになるという確信が感じられる。
こうした顧客同士の横の連携はスコラ・コンサルト社にとってある種ノウハウの流出にもつながりそうに見えるが、そうしたことを気にする様子はまったくない。むしろ、OD や組織変革に正面から取り組んでいる先進企業が集まって、独自に「日本の企業を元気にする」活動や発信ができないかと模索しながら毎回の勉強会のテーマアップをしているようだ。ある意味、いちコンサルタントとしての活動を超えているように思えるこのような活動がどこまで広がっていくのか、日本企業における OD の広がりとともに、非常に興味深い。
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