究極理論への夢 - Osaka...
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超弦理論とはなにか?-- 究極理論への夢 --
近畿大学理工学部
太田信義
参考:別冊数理科学「スーパーストリング」2005年サイエンス社
http://qube.phys.kindai.ac.jp/users/ohtan/
素粒子物理学の目的
素粒子の相互作用
強い相互作用 ・・・ QCD(量子色力学)
弱い相互作用
電磁相互作用
重力相互作用
これらを量子論として統一的に理解する。
初の3つはゲージ理論として定式化されている。 も古くから知られている重力もゲージ理論の一種。 しかし、、、、
電弱相互作用(GWS model)
超弦理論はなぜ必要なのか?
重力理論は繰り込み可能ではない(無限大の困難)。
重力理論は計量 を用いて書かれる。
平坦時空計量
ただし は、重力の結合定数。
他との違いは、これが質量の逆数の次元を持つこと。
( の単位系では、すべての物理量を質量で表せる。)
gμν
g hμν μν μν= η + κ
NGπκ = 8
/ 2 1, 1h cπ = =
重力理論の困難
電気の力の伝播・・・電磁波を出して伝わる。・・・粒子の交換(量子力学)
量子効果はファインマン図の計算で求まる。
重力子の放出、吸収の
ファインマン図に がかか
る(光子の場合は電荷 )
この場合、量子効果を計算すると、 の次元を打ち消すために、質量の次元を持つものがかかる 重力子の交換振幅
エネルギーを上げればいくらでも大きくなる!
κe
κ2 2A E∝ κ
κ
重力理論の困難2
とくにループを考えたとき、このエネルギーはとてつもなく大きい。 無限大の困難
量子電磁気学では、電荷 e は次元がないの
で、このような困難はない。(一部に無限大がでるが、電荷などにそれを吸収(「くりこんで」)除ける。(e に次元がないため。)
重力理論では、 が質量の次元を持つために、量子補正を計算するたびに無限大の量が出てくる。これはどうしようもない困難。
κ
2 ) (n(κΛ ⋅⋅⋅ Λ はとても大きい。)が補正として付け加わる。
Λ
なぜ問題か?
原理的問題
高いエネルギーへいったとき、重力の効果を無視できない。(重力の力は弱いけど。)
宇宙論的問題実験的に到達できなくても、宇宙初期には
とてつもなく大きなエネルギーを含む現象があったはず。
ブラックホールブラックホールを理解するには曲率が大
きいところの物理(量子論)を理解する必要がある。
弦理論は何故良いのか?
弦がふとっているため、小さくなる限界があって無限大が入ってこない(不確定性原理
により、高エネルギーは短距離と同等)
/ 2p q h πΔ Δ ≥
弦理論とは?
開いた弦と閉じた弦
波がつながる条件または自由端条件
無限個の基準振動の集合。調和振動子 粒子(量子力学)
弦理論とは無限個の粒子の集合。
それらが精妙に相互作用(南部、他)。
弦理論の種類
開いた弦にはゲージ理論、閉じた弦には重力理論が含まれる(Scherk, Schwarz, 米谷)。
右向きの波と、左向きの波があってよく、それぞれがスピン1をになうため。
開いた弦だけの理論は可能?
弦理論は重力の存在を予言する!
開いた弦だけの理論から出発しても
のような弦の相互作用を考えると、閉じた弦(スピンが2の重力子)が必ず生じる!!(それだけでなく、さらに高いスピンの粒子も存在するが、それらは重いので見えない。)局所的相互作用なので、相対論と無矛盾。
粒子の理論にない新しい特徴。
弦理論は物質の存在を予言する!
ゲージ場や重力場(ボソン場)だけの理論はタキオンを含む(タキオン:質量の2乗が負に見える、考えている真空の不安定性を示す粒子。)
これを除くためには、フェルミオン(電子や陽子などのフェルミ統計に従う粒子)が必要。
物質を形作っている粒子
また、超対称性(ボソンとフェルミオンを入れ替えたときに理論が変わらない)も必要
超弦理論
現在の標準理論を超える物理を予言
超弦理論は究極理論か?矛盾のない超弦理論は5種類しかない!理論の無矛盾性のため(GreenとSchwarzの発見、弦理論の第1次革命,1984)これと開弦のSO(32)理論
これらの理論はすべてつながっており、すべての素粒子と相互作用を含む!(第2次革命, 1995)TOE ?
弦以外のものも存在 ・・・ ブレイン (開弦)
超弦理論の問題点
超弦理論は10次元時空に住んでいる!4次元以外の時空はどうして見えないか?
コンパクト化? ・・・ 小さく丸まっている
ブレインワールド ・・・ 我々の世界は、空間に浮かんだ板のような所に制限されている(重力だけが外の世界に出られる)
これは致命的か? 逆に何故我々の住んでいる世界が4次元なのかを説明できる理論
弦理論は宇宙初期のインフレーションを説明できるか?
20年ほど前は、禁止定理
数年前にこれが可能であることがわかった。
ブレインなどの余分の自由度を持ち込む
内部空間の大きさが時間に依存する
高次量子補正効果を考える
負の運動項をもつファントムを考える
ブレインワールド(空間に浮かんだ板に我々が住んでいると考える。)
超弦理論はブラックホールを記述できるか?
ホーキング放射: ブラックホールは完全に真っ黒ではなく、量子力学的に放射を出している(温度を持つ)。 熱力学の法則
Yes! 超弦理論はそれまで謎であったブラック
ホールのエントロピーを統計力学的に説明できた。
まとめ超弦理論は、現存する物質と相互作用(ゲージ理論、重力理論)の存在を予言する。
超弦理論は、超対称性(未発見)を予言する。
超弦理論は、我々の時空の構造を予言する。
超弦理論は、宇宙論、ブラックホールを説明。
超弦理論の弱点:コンパクト化の問題、どの超弦理論が我々の世界とどのようにつながっているか?解は無数にある(ランドスケープ)?理論を支配している基本原理が何かわからない(シュレディンガー方程式に相当するもの)。
弱点は強みになりうる
今まで説明できなかったことが、物理の問題として説明できる可能性
時空の次元
我々の存在形態(どのような相互作用が何故)
宇宙初期のビッグバン特異点
ブラックホール特異点
等々
理論をまだ良く理解する必要があるとともに、物理的予言を調べ、検証していく必要がある。
太田信義:超弦理論・ブレイン・M理論(シュプリンガージャパン、2002)