国立歴史民俗博物館 (歴博)について · 国立歴史民俗博物館...
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国立歴史民俗博物館(歴博)について
201911 国立歴史民俗博物館 久留島浩
令和元年11月18日 国立公文書館の機能・施設の在り方等に関する調査検討会議(第25回)
資料2
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目次
1 歴博とは
1)歴史系博物館を持つ大学共同利用機関 / 2)ミッション
3)現在の課題=「総合資料学」の創生 / 4)歴博の研究上の特色
2 常設展示の検討における留意事項や工夫、展示の時代区分の考え方
1)常設展示(「総合展示」)での留意事項
2)展示内容を構築するうえで(歴史系博物館として)留意した点
3)展示の時期区分の考え方について
3 多様な観客への対応について
1)車いす利用者や障がい者が展示を楽しむために
2)小・中学生が展示を楽しむために
3)外国人集客についての工夫
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1 歴博とは
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1)歴史系博物館を持つ大学共同利用機関
(人間文化研究機構に属する研究機関)
2)ミッション
3)現在の課題=「総合資料学」の創成
4)歴博の研究上の特色
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1)歴史系博物館を持つ大学共同利用機関(人間文化研究機構に属する研究機関)
「大学の共同利用の研究所」として、大学では実現困難な高度の人的・物的資源を大学等の利用に供するとともに、国際的な共同研究を推進。
⇒日本の歴史と文化に関する総合的な研究を組織的かつ持続的に推進するために設置された大学共同利用機関である。
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2)ミッション人類の歴史的営為が複雑に絡み合った現代社会において、自らの未来を展望することができるような歴史観・歴史想像力の獲得と、歴史認識を異にする人々の相互理解の実現に寄与することにあり、日本の歴史文化研究のナショナルセンターとしての役割をもっている。
【公式ミッション全文】
「歴博は、日本の歴史と文化に関する研究を組織的かつ持続的に推進するために設置された大学共同利用機関である。その使命は、人類の歴史的営為が複雑に絡み合った現代社会において、未来を切り拓く歴史的展望の獲得と、歴史認識を異にする人々の相互理解の実現に寄与することにある。歴博は、歴史資料・情報の収集、整理、保存、調査研究そして提供という一連の機能を有することを最大の特色としている。これらの機能を有機的に連携させた博物館型研究統合によって、有形無形の多様な資料に基づき、文献史学・考古学・民俗学及び自然科学を含む関連諸学の学際的共同を通じて、現代的視点と世界史的視野のもとに、日本の歴史と文化に関する基盤的並びに先進的研究を推進する。大学共同利用機関として、そのすべての機能を国内外の研究者と共有するとともに、次代を担う研究者を育成し、それらの活動を通じて広く国内外の人々に日本の歴史と文化への理解を促進する。」
→歴博は、総合展示を成長させ続けることを、今後の館の在り方との関わりで最重視している
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3)現在の課題=「総合資料学」
の創生
メタ資料学研究センターの設置
• 日本の歴史と文化に関する大量かつ多様な資料を総合的に研究するメタ資料学研究センターを設置し、様々な学問分野からのアプローチによる日本歴史の再構築と異分野連携・融合を図る総合資料学を構築し、日本歴史文化に関する研究資源の共同利用基盤を形成し、大学に対し、研究・教育の両面でその質的向上に貢献する。
• さらに総合資料学によって得られた成果をミシガン大学出版会から出版するなど、日本の歴史と文化に関する新知見を国際的に位置づけて発信する枠組みを構築し、学術研究の発展に貢献する。
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4)歴博の研究上の特色
①
全てが、プロジェクト方式共同研究をベースにしている
研究テーマはすべて公募型歴博の研究者が提案するプロジェクトテーマもある
歴博としての主体性の問題プロジェクトの成果は、著書・論文集(紀要)やシンポジウム・フォーラムなどで公表するとともに、展示に活かすことを基本にしている。
⇒総合展示のリニューアルも企画展示も国内外の
研究者を組織したプロジェクトで実施した
共同研究を踏まえて、展示を構築する
②
発足当初から、「文理連携型」の研究を進めている
分析科学・保存科学
炭素14年代測定法、
素材分析
人文情報学
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2常設展示の検討における留意事項や工夫、展示の時代区分の考え方
基本的には、1997年の『第三者評価報告書』を受けて始まったリニューアル検討委員会(「実行委員会」1999年)での議論と外部評価、そして2008年の近世展示リニューアルを踏まえた方針がもとになっている
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1)常設展示(「総合展示」)での留意事項
★研究→展示という回路を目的意識的に追及すること(さらに、展示⇒研究も不
可欠)は、大学共同利用機関としては譲
れない点だが、
「大学共同利用の研究機関としての側面
と、生涯学習時代の市民学習機関として
の博物館の側面をいかに両立させるか」(『第三者評価報告書』1997)
は依然として課題のまま。ただし、いまだに「課題」でもある
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ポイントは以下の5点
「実際の観客の視点」が欠如
*多様な来館者向けの対応
01「説明型・一方向型の展示」からの脱却
02多様な展示技術の積極的な導入
03動線をわかりやすくする
*単線化ではない!
04解説をわかりやすく、読みやすくする
05
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①「実際の観客の視点」が欠如多様な来館者向けの対応
○「学術性の高さ-学説展開型展示」としては学界から高い評価を受けてきたが、「研究者の自己満足」に陥っていないか
⇒来館者調査が必要であることは現在では「常識」
しかしその結果を踏えて展示を「成長させる」というフォローアップの
必要性(展示はつくったら終わりではなく、むしろそれからが始まり=
可変的な展示、一言付け加えることのできる展示)はまだ十分ではない
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②「説明型・一方向型の展示」からの脱却
○「世界の博物館界では、
体験型・参加型・双方向的展示への動き が大きな潮流」
⇒もはや、当然のことになっている
○体験・参加型展示(くらしの植物苑!も含めて)「五感(できるだけ多くの感覚)で感じ
取れる」展示 触ってほしいものはサインで明確に 複製を実際に手にとってみることが
できるように(間近で観る) なお、観客自身の「行為・展示評価」があると理解は深まる
そのためにも「入館者研究」が不可欠 来館者の「満足度」をはかる方法自体を実践的に研
究することそのうえで、すぐにいつでも「改善」すること=可変的な展示
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③多様な展示技術の積極的な導入
○いまでは、これは必須だが
課題も一杯あることもたしか
映像技術の活用
(ビデオ解説は有効だが、3分を超えると立って聞くのは辛い)
照明技術、音響技術、デジタル技術
日々「革新」⇒「試行実験」をしてから導入するとすでに古くなっている
○「更新」することが金銭的にも、技術的にも
「無理なく」できないと、結局あるところで、使えなくなる
⇒想像を超えるスピードで変化している(良くなる可能性もあるが)
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○スマホの活用も今後進むはず
⇒歴史的資料と向き合い、資料が語りかけてくれる情報を読み取り
(耳を傾け)、自らの歴史像を構築する能力は、
鍛えなければ身につかない。
AIで「古文書を読む」という試みを否定しないが、
現状ではまだ一部しか使えないうえに、
おそらくその先の解釈は「ブラックボックス」でしかない。
⇒現在、期待できるのは、「みんなで翻刻」
今必要なのは、
数億は下らない近世・近代の史料を把握し、目録化すること
(できるだけデジタル記録化もすること)によって、
どこに、どの程度、何が残されているのかを把握すること
=大水害で、何が失われたのかさえわからない!! 何も救えない!!
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④動線をわかりやすくする *単線化ではない!
○動線がわかりやすいことは最低条件かもしれない
○しかし、実は、実際に、さまざまなところに展示している資料を
結ぶ動線は一つではない
=来館者の「展示を観る力」次第では、多様に存在する
○実は、ギャラリートークをしてみると、そのコーナーでもいくつかの
「ストーリー」がありうる
○選択可能な観覧動線と観覧時間の明示
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⑤解説をわかりやすく、読みやすくする○そもそも、文字が多い。字が小さい。暗い。
○歴史系博物館は、どうしても展示資料が文字資料になりがち
これをどのようにわかりやすく見せるか? 内容を伝えるか?
しかも、実は「読み」も難しいうえ、解釈もそう簡単ではない
その資料が作成された背景や意義については、
ある程度の解説は可能だが、
そうすると、現物の資料と向き合うことの意味は?
実際に、ストーリーのうえで不可欠なものは、「複製」となる場合が多い
○解説を「重層構造」にすること
小学生向き(それ以下も含む)・成人向き・専門家向きなど
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⇒「ソフト面でのリニューアル」
▼観客調査の結果を生かして、観客の視点にたった展示を実現
▼さまざまな教育プログラムを充実
体験コーナー
複数の音声ガイドシステム
複数の解説パネル
ギャラリートークの制度化
ボランテイアガイドシステムの構築など
⇒生涯学習時代に適合した、観客に応じたきめ細かい対応のできる
新しい歴史民俗系博物館モデルを構築する
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2)展示内容を構築するうえで留意した点(歴史系博物館として)
①「展示は現代の視点に立脚し、民衆生活史を基調とする」
②「一国史」にしない 国際的視点の重視(列島を孤立させない)
③ジェンダー的視点での展示批判を行い、少数民族の視点を組み込む
④環境史を組み込む(自然と人間の相互関係の歴史)
技術史(道具の陳列終わらない 技術史は展示が難しい)
⑤歴史と真摯に向き合う
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①「展示は現代の視点に立脚し、民衆生活史を基調とする」
「民衆」は「特定の階層の歴史に偏しない」という意味
○人物史(英雄の歴史)ではない
(聖徳太子も徳川家康も個人としては取り上げない)
○列島上で生活・生産した人びと・列島に訪れた人びと・
列島上を移動した人びとの「生活文化の歴史」が基本
○現在からの視点を重視する
資料収集も含めて「現代」を歴史で叙述する努力
「過去がわかる」は当たり前
⇒「今(=自分たちの歴史的立ち位置)がわかる」へ
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②「一国史」にしない国際的視点の重視(列島を孤立させない)
○古代における「環海地域」の人・もの・情報・技術の動きに注目する
○近世の朝鮮通信使・琉球国王の使節から、近世の国際関係を考える
○近代の日韓の「海をめぐる民俗」の比較
現在、韓国国立民俗博物館で開催中の
「昆布とミヨク-潮香るくらしの日韓比較文化誌」
⇒東アジアとの歴史的関係の深さを重視する
(欧米中心の歴史観だけでは捉えられない)
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○世界の博物館(とくに歴史系博物館)との交流を
進めることを重視する
海外にある日本関連資料はきわめて多く、かつ「危うい」
日本を研究する学芸員(研究者)の減少=後継者がいない!
いまだに、ステレオタイプの「日本文化」展示、あるいは「サムライ」展示!
そうでなければ、ポップカルチュアのみ
そして、早晩「収蔵庫の肥やし」へ
○2016年企画展示「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」でなにがわかったか?
今の日本では検証できない、「シーボルト来日の時期」に
たしかに使われていたもの、売られていたものの時期を特定する
「規準資料」が海外にはある
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海外での武士展示
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大英博物館での展示
日本展示室エントランス「時を刻む」から中を望む*国立歴史民俗博物館研究報告№140「歴史展示における「異文化」表彰の基礎的研究」よりⒸThe British Museum
「近代日本―武家・公家・町人」導入部分
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③ジェンダー的視点での展示批判を行い、少数民族の視点を組み込む
○北方少数民族の歴史と南島の歴史
アイヌをはじめとする北方の少数民族の歴史・文化
「伝統的な暮らしをとらえるだけではなく、彼らが先進的な
世界と接触したときに生じた政治・社会・経済など文化の
全面にわたる交流と摩擦を明らかにすること」の現代的意義」
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○南島については「日中両属の問題」を見過ごしてはならない
○現在公開中の企画展示
「ハワイ:日本移民の150年と憧れの島のなりたち」
→今後、ハワイ以外の移民先での記録をどのように
残し、記憶をどのように繋ぐかという点で
重要な課題を明確にしたと同時に、
このような移民の人びとからみた
「日本近代・現代」がどのようなものであったのか
についても考えさせるきっかけとなっている。
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④環境史を組み込む(自然と人間の相互関係の歴史)
技術史(道具の陳列終わらない 技術史は展示が難しい)
⇒ここまでの①~④は、
多様な視点で多面的に歴史を考える
(考えていただく)ということでもある
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⑤歴史と真摯に向き合う
戦争・公害・災害などについての展示をどうするか
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3)展示の時期区分の考え方について通史展示とテーマ展示との関係などについて
○通史展示ではなく、したがって「教科書的」展示ではなく、 「テーマ型」展示をめざしたことの「功罪」
=通史的叙述は難しいが、「テーマ」だけでも歴史の流れがわからない、あるいは自分が歴史のどこを観ているのかわからないという声が少なくない
○「変革期の展示」の欠如とも関わる
「若干通史展示寄りに修正する必要がある」=来館者が理解しにくい!
後述するように、「時期区分」の問題と関わる
○「両論併記の展示」への「習熟」が必要
→暗記ものではなく、観客が自ら考えたり感じたりできる展示
「自主的・創造的な歴史の学び方」
○時期区分について5時代区分 「戦後歴史学」同様「原始(先史)・古代」「中世」『近世』「近代」「現代」
「移行期」の展示の仕方は課題のまま 第1展示室リニューアルで少し改善=問題提起
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★なお、総合展示は、一度構築すると更新が難しい 予算の問題!!
企画展示の成果を総合展示の部分的リニューアルに如何につなげるか
「いつ来ても、新しい発見があり、楽しむことができる展示」の場が必要
企画展示は、その一つではあるが、年に3回開催できなくなりつつある。
その代わりに、ミニ企画展示である「特集展示」を、館内3カ所で行って、どこかで、新しい展示を見ることができるようにしている「くらしの植物苑」は年4回、季節の「伝統の植物」を展示している
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第1展示室(先史・古代)2019.3.19 リニューアルOPEN
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第1展示室内覧会
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第1展示室
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第1展示室
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第2展示室(中世)
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第3展示室(近世)
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第4展示室(民俗)
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第5展示室(近代)
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第6展示室(現代)
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くらしの植物苑
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3 多様な観客への対応について
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1)車いす利用者や障がい者が展示を楽しむために
▼展示室新規リニューアルの際は、
展示ケースやグラフィックパネルの
高さを車いす利用を配慮している。
▼車いすや、サポートカーの貸出し
を行っている。
▼視覚障がい者のための点字パネル
の設置。
▼盲学校を対象とした触察を中心と
したプログラムの実施。車椅子(左)とサポートカー(右)
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点字パネル
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2)小・中学生が展示を楽しむために
▼子ども向けの展示解説パネルの設置
⇒子どもに限らず大人にも好評
▼未来を担うこどもたちにこそ、博物館リテラシーの獲得と自国の歴史(一国史ではなく)・地域(まずは学区の歴史)を学ぶことが、実は「国際人」として成長するための基礎要件
こどもパネル全景
こどもパネル
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▼ボランティアの対応による近世の学びを体験することのできる「寺子屋れきはく」および体験を通じて日本の歴史や文化を学ぶことのできる「たいけんれきはく」の提供
▼夏休みを中心として展示資料や展示テーマ
に興味関心をいざなう体験プログラムの実施
⇒次世代を担う子どもたちへの対応
▼現場の教師を対象とした
「先生のための歴博活用講座」や
教師を研究員として受け入れ、歴博を活用
した授業実践を計画・実施・評価する
博学連携研究員制度の実施
⇒教師を巻き込んだ博物館利活用の促進
寺子屋れきはく
たいけんれきはく
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3)外国人集客についての工夫
①各国からの留学生による展示案内
千葉大学留学生センターとの共同事業
②映像や外国語キャプションについて
多言語化は重要 課題もある
③羽田空港国際線ターミナルとのコラボレーションなど博物館の持つ歴史・文化資料をどのように活用するか、という点での工夫
ただし、押さえておくべき課題もある
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①留学生による展示案内
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②多言語を用いたパネル
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HANEDA×REKIHAKUThink Japan.
日本の魅力を、考える。
③羽田空港とのコラボレーション2018年 羽田空港
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2019年は…FIND IEMITSU
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ご静聴ありがとうございました。
歴博の屏風桜
国立歴史民俗博物館�(歴博)について�目次1 歴博とはスライド番号 41)�歴史系博物館を持つ大学共同利用機関�(人間文化研究機構に属する研究機関)2)ミッション3)�現在の課題�=「総合資料学」� の創生4)�歴博の研究上の特色2 �常設展示の検討における留意事項や工夫、�展示の時代区分の考え方1)�常設展示�(「総合展示」)�での留意事項ポイントは�以下の5点①「実際の観客の視点」が欠如� 多様な来館者向けの対応②「説明型・一方向型の展示」からの脱却�③多様な展示技術の積極的な導入�スライド番号 15④動線をわかりやすくする *単線化ではない!�⑤解説をわかりやすく、読みやすくする�スライド番号 182)展示内容を構築するうえで留意した点� (歴史系博物館として)①「展示は現代の視点に立脚し、� 民衆生活史を基調とする」�②「一国史」にしない �国際的視点の重視(列島を孤立させない)�スライド番号 22海外での武士展示スライド番号 24③ジェンダー的視点での展示批判を行い、�少数民族の視点を組み込む�スライド番号 26④環境史を組み込む� (自然と人間の相互関係の歴史)� 技術史� (道具の陳列終わらない 技術史は展示が難しい)�⑤歴史と真摯に向き合う�3)展示の時期区分の考え方について � 通史展示とテーマ展示との関係などについて★なお、総合展示は、一度構築すると� 更新が難しい 予算の問題!!スライド番号 31スライド番号 32 第1展示室 第1展示室第2展示室�(中世)第3展示室�(近世)第4展示室�(民俗)第5展示室�(近代)第6展示室�(現代) くらしの�植物苑3 多様な観客への対応について1)�車いす利用者や障がい者が展示を楽しむために�スライド番号 432)�小・中学生が展示を楽しむためにスライド番号 453)外国人集客についての工夫スライド番号 47スライド番号 48HANEDA×REKIHAKU� Think Japan.�日本の魅力を、考える。スライド番号 50ご静聴ありがとうございました。�� 歴博の屏風桜