疲労破壊 ´壊強度学6...6 破壊強度学 疲労破壊...

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破壊強度学 疲労破壊 破壊強度学 疲労破壊 1

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破壊強度学

疲労破壊

破壊強度学 疲労破壊1

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疲労 (fatigue)

破壊強度学 疲労破壊2

材料の疲労(fatigue)とは:

材料が力学的な負荷を繰り返し受けた場合に材料強度が低下する現象

主に金属でみられるが、樹脂、ガラス、セラミックスなど多様な材料で観察される

材料の機械的強度(1回だけの負荷で破壊するときの応力)より小さい応力を繰り返し負荷されると、巨視的には何も起こらないが微視的には塑性変形が生じ、それが蓄積される

これによってき裂が進展する現象が疲労き裂進展であり、それによる破壊が疲労破壊である

繰り返し荷重

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金属材料の疲労

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疲労破壊は

① 特定すべり帯での塑性変形の繰り返しによる微視き裂の発生・成長

② 巨視的な力学条件依存のき裂伝播

を経て最終的な破壊に至る

①は特定すべり帯への塑性変形集中によって起こる

②ではき裂先端部の塑性変形によるき裂先端形状の鋭化・鈍化が起こる(ストライエーションと呼ばれる波状構造が形成される)

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疲労強度測定:繰返し応力負荷

破壊強度学 疲労破壊4

破断までの繰返し数と密接に関係があるのは応力の振幅である。

これらの関係を図にしたものがS-N線図と呼ばれる(平均応力や最大応力/最小応力比をパラメータとする)。ある一定の応力振幅以下になると疲労は起こらないとされる(疲労限度)。

疲労強度の評価には、図のような一定振幅の正弦波状の繰返し応力を負荷し、破断までの繰返し数Nを測定する。

繰返し速度は10~100Hz程度が通常用いられ、平均応力𝜎𝑚あるいは最小応力と最大応力の応力比𝑅 = 𝜎𝑚𝑖𝑛/𝜎𝑚𝑎𝑥を一定に保つ。

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S-N曲線

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𝜎𝑚やRをパラメータとして、応力振幅𝜎𝑎とNの関係を表示する(Nは対数表示)。これがS-N曲線と呼ばれ、疲労特性の基本を表すものである。

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S-N曲線

破壊強度学 疲労破壊6

典型的なS-N曲線は図のようになる。鉄鋼材料では、負の傾きを持つ直線部分と水平な部分からなる2直線に近い形となる。炭素鋼では106~107程度のNで明瞭な折れ曲がりを見せ、それ以上の繰返し数では破断しなくなり無限の繰返し数に耐える(とされる)。この時の振幅が疲労限度(fatigue limit)あるいは耐久限(度)と呼ばれる。

一方、銅、アルミニウムをはじめ多くの金属材料では明確な疲労限度を持たない。現実に試験することができる繰返し数の限界は109程度であるが、そこでもなおS-N関係は水平とならない。

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不可逆変形とヒステリシス

破壊強度学 疲労破壊7

疲労破壊が起こるのは、非可逆な過程、すなわち不可逆的な微視的塑性変形が生じているからである。応力-ひずみの履歴を描くと、図のようなヒステリシスループとなる。Δ𝜀𝑝(塑性ひずみ幅)に相当する非弾

性ひずみが繰り返されている。Δ𝜀𝑝は疲労

の進展とともに変化する。

たとえばS35C炭素鋼の場合、初期には応力繰返しとともに塑性ひずみ幅が増加(軟化する)するが、ある程度繰返し数が経過するとほぼ定常値に達する。破断直前に塑性ひずみ幅は急増する。ただしこのような挙動は材料によって異なる。

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不可逆変形とヒステリシス

破壊強度学 疲労破壊8

但し、塑性ひずみ幅のすべてが非可逆的な塑性変形に起因するものではない。内部摩擦機構による擬弾性的な挙動、転位の往復運動など、疲労亀裂進展に直接関係のないものも含んでいる。応力レベルが低くなると、このような疲労に関連しない非可逆成分の割合が増える。

疲労限度以下の応力条件においても、測定可能な塑性ひずみ幅が存在する。つまり、疲労限度と言うのは「非可逆的現象が生じない」のではなく、「非可逆的な現象が生じても最終的な破壊には至らない」限界の応力である。

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Manson-Coffin則

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繰返し応力幅が大きくなれば塑性ひずみ幅も大きくなる。それにしたがって疲労寿命は短くなる。

破断繰返し数が105程度以下の疲労を「低繰返し数疲労」(low-cycle

fatigue)、それ以上のものを「高繰返し数疲労」(high-cycle fatigue)

と区別する。

low-cycle fatigueでは、疲労寿命Nは塑性ひずみ幅の関数としてManson-Coffin則と呼ばれる次式が良く成り立つ。

Δ𝜀𝑝𝑁𝛼 = 𝐶1

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疲労過程における微視的構造変化

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疲労の進行に伴って生じる材料内の構造変化について、光学顕微鏡ないし電子顕微鏡により得られる典型的な観察結果を述べる。

特別な表面硬化処理を施さない平滑試験片を疲労試験にかけ、その表面を光学顕微鏡観察すると、寿命のごく初期(高サイクル疲労の場合、繰返し数数千回程度)で、特定の結晶粒にすべり線が見られ、繰返し数の増加と共にその数が増え一体となり、すべり帯(slip band)へと発達する。疲労亀裂は、このようなすべり帯中あるいはすべり帯が結晶粒に接する粒界に発生する。

右図は疲労試験により生じたスズ合金中のすべり帯と粒界き裂である。

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疲労過程における微視的構造変化

破壊強度学 疲労破壊11

すべり帯間には、すべりのほとんど認められない広い領域が存在する。また、すべり帯の発生しない多数の結晶粒が存在する。

これは繰返し負荷によりすべりが特定の

領域へ集中して起こるからであり、このようなすべり領域の局所化が疲労による微視的構造変化の特徴である。

なお疲労亀裂は表面層中に発生するが、これは内部に比べて表面近傍の方が塑性変形抵抗が小さいためである。

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固執すべり帯 (PSB)

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応力繰返しにより、試験片表面にはすべり帯が形成され、そのうちのいくつかは次第に鮮明に観察されるようになってくる。この時点で電解研磨により表面の凹凸を除去すると大多数のすべり線やすべり帯は見えなくなるが、いくつかの発達したすべり帯は除去されない。このようなすべり帯のことを固執すべり帯(persistent slip band; PSB)と呼ぶ。

さらにPSBが見えなくなる程度の電解研磨を施しても、その後応力繰返しを継続すると、同じ場所にすべり帯が現れる。これがPSBの言葉の由来である。つまり、疲労亀裂発生につながるPSBは、試験片表面に生じた凹凸によってもたらされるのではなく、繰返し応力により内部組織に変化・損傷が起き、その結果として起こっている現象であることが示唆される。

なおPSB中に突き出し(extrusion)・入り込み(intrusion)と呼ばれる凸部・凹部が現れる。こうした凹凸も、試験片表面に応力集中効果をもたらす一因となる。

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疲労破壊の3ステージ

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PSBから微視き裂への遷移は連続的であるため、亀裂の発生段階を明確にすることは難しい。すべり面に沿う微視き裂が徐々に成長し、ある程度の大きさになると結晶学的すべり面依存性が薄れ、力学条件依存型のき裂成長に移行する。

疲労亀裂の発生・成長・破断に至る過程は3段階に大別される: すべり面に沿って亀裂が発生・成長する第I段

階 繰返し最大主応力方向に垂直に成長し破面に

波状構造(ストライエーション)を形成する第II段階

最終的な延性またはへき開型の不安定破壊に至る第III段階

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PSBと転位組織

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PSB内およびその周辺には、疲労に伴う特徴的な転位組織の構造が形成され、透過電子顕微鏡(TEM)

により観察される。

右図は銅試験片について観察された転位組織を示す。

転位:結晶格子のずれ。

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PSBと転位組織

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PSBには梯状組織(ladder structure)と呼ばれる構造(主すべり面上に存在する刃状転位の壁)が形成され、その周囲には脈状組織(vein structure)と呼ばれる転位の束(刃状転位の多重極子構造)がみられる。これらは応力繰返しによって形成される一種の自己組織化現象である。

同じfcc金属でも組成が変わると観察される転位組織は異なることが指摘されているが、一般に、各材料の特有の機構により繰返し塑性変形の集中が起こり、その中でごくわずかずつの非可逆的な過程が蓄積され、徐々に亀裂発生・伝播・破壊に至るというのが基本的な疲労プロセスである。

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疲労亀裂の伝播:第II段階

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亀裂発生および第I段階の疲労亀裂伝播は微視組織因子支配型の現象であるが、それに対し多結晶体の第II段階でみられる疲労亀裂伝播は、通常、力学因子支配型の現象である。

一般に、伝播径路は局部の結晶粒方位や微細な転位組織などの影響を受けず、亀裂先端近傍の負荷の力学条件と材料の力学的性質で決定される。

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ストライエーション

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この段階の疲労亀裂伝播は、破面に現れるストライエーション(striation)と呼ばれる波状構造に特徴づけられる。

破面上に観察される縞は、応力繰返しの1サイクルごとに生じた亀裂伝播の後を示している。すなわち、縞の間隔が繰返し応力1サイクル当たりの亀裂伝播速度に対応する。

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ストライエーションの形成機構

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ストライエーションの形成機構として、Lairdのモデルが知られている。応力の1サイクルに対応して、塑性変形による亀裂先端の鈍化・再鋭化が起こり、その際に生じた非可逆的な塑性変形が亀裂伝播を支配している。逆に言えば、この過程で生じる塑性変形が完全に可逆的であれば、亀裂の成長は起こらない。

何が非可逆的塑性変形の原因であるかは明確ではないが、大気中の酸素や水蒸気による新生面の酸化や吸着などが原因の一つと考えられている。

実際、高真空中や不活性ガス雰囲気中ではストライエーションが現れにくいことが知られている。

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ストライエーションの形成機構

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このようなモデルで考えると、外見上は脆性的な現象に見える疲労破壊も、亀裂先端近傍における亀裂成長機構に着目すれば、極めて延性的な大塑性ひずみを伴ったプロセスであることがわかる。

亀裂の成長を支配する主な因子は亀裂先端開口変位(CTOD)であることが理解できる。

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疲労亀裂進展の支配則

破壊強度学 疲労破壊20

亀裂先端の力学状態は、小規模降伏条件では応力拡大係数 K で、大規模降伏あるいは全断面降伏状態の場合はJ 積分によって表されるのであった。

疲労の場合には、現象を支配する第一因子は状態量の最大値ではなくその変動範囲となる。即ち、応力拡大係数であれば𝛥𝐾 ≡ 𝐾𝑚𝑎𝑥 − 𝐾𝑚𝑖𝑛 (応力拡大係数範囲)、J 積分であれば 𝛥𝐽 (J 積分範囲)を用いて考える。このような考え方は、1960年代にParis, Erdoganによって示された。

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Paris則

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Paris, Erdoganはアルミニウム合金に対する疲労亀裂伝播試験結果を検討し、広い速度範囲にわたって亀裂伝播速度𝑑𝑎/𝑑𝑁が𝛥𝐾と両対数線図上で一直線上に乗ることを示した。すなわち、C, mを材料定数として

𝑑 𝑎 𝑑 𝑁 = 𝐶 𝛥𝐾 𝑚

という関係が成り立つ。これをParis則と呼ぶ。

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Paris則

破壊強度学 疲労破壊22

𝑑 𝑎 𝑑 𝑁 = 𝐶 𝛥𝐾 𝑚

その後、応力拡大係数範囲に上限と下限があることが明らかとなった。

上限𝐾𝑓𝑐は不安定破壊の発生であ

り、材料の破壊靱性によって定まる(疲労破壊靱性と呼ばれる)。

下限𝐾𝑡ℎは、それ以下では疲労亀裂が進展しなくなる限界、すなわち疲労限界であり、下限界応力拡大係数範囲と呼ばれる。

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Paris則

破壊強度学 疲労破壊23

一般に、疲労亀裂伝播の上限を定める破壊靱性値は、静的負荷に対する破壊靱性値とは異なる値をとる。

これは破壊に至るまでの負荷履歴や負荷速度が異なると破壊靱性が異なるためである。

応力比を𝑅 = 𝜎𝑚𝑖𝑛/𝜎𝑚𝑎𝑥とすれば、

Δ𝐾𝑓𝑐 = 𝐾𝑓𝑐(1 − 𝑅)

で与えられる。

なおCおよび𝐾𝑡ℎは一般にRの関数となる。

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J積分範囲

破壊強度学 疲労破壊24

これまでの議論から容易に想像できるように、小規模降伏条件の範囲を超えると𝛥𝐾は有効でなくなり、𝛥𝐾の代わりに𝛥𝐽を用いることが考えられる。

𝛥𝐽の使用は1970年代にDowling, Begleyによって提案された。理論的には、亀裂の成長や除荷の含まれるプロセスに対する記述に𝛥𝐽を用いることは問題があるが、様々な研究によりその有効性が実証されている。

なお、Δ𝐽 = Δ𝐾2/𝐸として、小規模降伏・大規模降伏を含めΔ𝐽で整理すれば、𝑑𝑎/𝑑𝑁が一価関数的によく表される。

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疲労亀裂の開閉口

破壊強度学 疲労破壊25

これまでは、亀裂は引張り負荷のもとで開口し、圧縮負荷のもとでは閉口すると考えて𝛥𝐾の適用を考えてきた。

しかし実際の疲労亀裂伝播においては、一般にこの過程が正しくないことがElberによって指摘された。

Elberはアルミニウム合金版の疲労試験を実施し、亀裂の開口応力𝜎𝑜𝑝を、負荷の最

大応力および最小応力を用いて

𝑈 =𝜎𝑚𝑖𝑛 − 𝜎𝑜𝑝𝜎𝑚𝑎𝑥 − 𝜎𝑚𝑖𝑛

=Δ𝜎𝑒𝑓𝑓

Δ𝜎

のように表現した。このU のことを亀裂開口比(effective stress range ratio)と呼ぶ。

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疲労亀裂の開閉口

破壊強度学 疲労破壊26

Elberの行った実験では𝛥𝐾の大きさにかかわらずU=0.5+0.4Rなる関係が得られた。例えば1サイクル中に圧縮負荷になることのない片振り応力応力(R=0)でも、𝜎𝑚𝑎𝑥

の半分以下の応力では亀裂先端は閉じていることになる。

亀裂開閉口が負荷の引張り圧縮と合致していないのであるから、𝛥𝐾を負荷から形式的に計算するのではなく、真の開閉口挙動に基づいて亀裂が真に開口している応力範囲に対して決定すべきである。

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有効応力拡大係数範囲

破壊強度学 疲労破壊27

この 𝛥𝐾相当量は有効応力拡大係数範囲(effective stress intensity range)𝛥𝐾𝑒𝑓𝑓と呼

ばれ、

𝛥𝐾𝑒𝑓𝑓 = 𝑈𝛥𝜎 𝜋𝑎𝐹 = 𝑈𝛥𝐾

(Fは形状修正係数)のようにあらわされる。

亀裂開閉口挙動を誘起するする要因としては、亀裂先端近傍の塑性域形成、亀裂面に生成された酸化物、破面の凹凸、腐食生成物などが考えられている。

𝑑𝑎/𝑑𝑁 − Δ𝐾関係をプロットすると、R によって異なる曲線となるが、𝑑𝑎/𝑑𝑁 − Δ𝐾𝑒𝑓𝑓関係は

Rによらず一本の曲線に乗ることが確認されている。つまり𝛥𝐾𝑒𝑓𝑓で整理することの有効性が

示されているわけである。

Benedetti, Smart Materials and Structures 22 (2013)

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疲労限度

破壊強度学 疲労破壊28

疲労限度とは、疲労損傷の原因となる非可逆変形が起こらなくなる限界応力ではなく、起こっても最終破壊に至らない限界応力である。疲労限度は炭素鋼で顕著に観察される。

すなわち、外力の繰返しによって繰返し塑性変形、すべり帯などの機構が作動しても、それらによって誘起される加工硬化、時効、組織変化などによる材料の抵抗増加や、粒界のような障害により疲労過程の進行が阻止されることがある。

また、塑性、粗さ、酸化物などによりき裂開閉口応力が上昇したり、き裂成長によって亀裂先端近傍の負荷の状態が低下したりすることで、亀裂の成長が停止することもある。

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マイナー則

破壊強度学 疲労破壊29

一方、疲労限度以上の応力で変動応力試験を実施すると、ばらつきはあるものの、線形累積損傷則

Σ𝑛

𝑁= 1

がほぼ成り立つ。これはマイナー則(Miner’s rule)とも呼ばれる。

しかしながら、疲労限度以下の応力繰返しの途中に、たとえば数十回に1回、ごく少数回の過大応力を加えると、疲労限度が消失することも確認されている。

つまり、少数回の過大応力の負荷により、固着転位が雰囲気から解放され、あるいは可動転位が増殖されて、疲労限度以下の応力でも疲労が進行するようになるためと考えられる。

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疲労限度線図

破壊強度学 疲労破壊30

S-N曲線では平均応力の影響を読み取ることができない。実際の機械構造物の応力波形は平均応力がゼロでない場合も多くあり、そのような状況での疲労強度を評価するために平均応力の影響を考慮した疲労限度線図(耐久限度線図ともいう)が用いられる。

降伏限界:図中の三角の青い線は降伏限界であり、縦軸と横軸の正側に交わるポイントsYは引張り側の降伏応力、-sYは圧縮側の降伏応力を示す。これらの点を結んだ三角のエリア内であれば材料が降伏しない。

疲労破壊しない領域:降伏限度内で疲労限度線以下、つまり図中の網掛けのエリアに評価する応力値がプロットされれば、塑性変形や疲労破壊が起こらないと評価することができる。部材の強度を評価する場合には、まずこのエリアに入るかどうかを確認することが重要。

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疲労限度線図

破壊強度学 疲労破壊31

一般に、引張の平均応力が加わると疲労限度は低下する。すなわち疲労限度線図は右下がりの曲線となる。いくつかの予測式が提案されている。

Goodman線図

B

mwa

s

sss 1

σw : 両振り引張圧縮疲労限度σa : 応力振幅(疲労限度)

σm : 平均応力σB : 引張強さσY : 降伏応力σT : 真破断応力

Gerber線図

Soderberg線図

sa-sT線図

2

1B

mwa

s

sss

Y

mwa

s

sss 1

T

mwa

s

sss 1