中小企業政策へのBSCの適用 - chubu-univ...中小企業政策へのBSCの適用 ―...

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1.はじめに わが国の中小企業政策には,中小企業の経営を支援するさまざまな施策や事業が 準備されている。しかし,こうした施策や事業が真に成果をあげているのか,その 成果測定 は十分 とはいえない。たとえば,中小企業者 の共同化・ 協業化 を推進 する 高度化事業 で,多額 の不良債権 が発生 した事実 は記憶 に新 しい 1) 。こうした問題 も, 施策 や事業 に対 する成果測定 が適正 に行 われていなかったことが要因 のひとつと考 える。しかも,中小企業政策の中でその中心的な役割を終えたとも考えられる高度 化事業が,いまだ中小企業者を支援する事業として存在し,実際に活用している地 方公共団体(以下「自治体」という)もあるのである。 一方,長期間にわたるわが国経済の停滞と厳しい財政状況を背景に,自治体の活 動 に関 する住民 の関心 が高 まっている。近年,多 くの自治体 において行政活動 の業 績を測定・ 評価 して予算編成 や内部管理 に活用 するとともに,その評価結果 を住民 に対して公開しようとする行政評価システムの導入が進められてきた 2) 。また,平 成19年10月に総務省より「公会計の整備推進について」(総務省,2007)という自治 財務局長通知が出され,すべての自治体に対して貸借対照表や行政コスト計算書等 の財務諸表 の作成 を求 めると同時 に,決算 の結果 を自治体 の行財政運営 のための情 報 として活用 することを求 めている 3) 自治体の活動 に対 する住民 の関心 の高 まりを背景 とした,自治体 の公会計 への活 山 北 晴 雄 Haruo YAMAKITA The Application of the Balanced Scorecard for the Small and Medium‐ Sized Enterprise Policy A Case of a Business Innovation Program 中小企業政策へのBSCの適用 高度化事業を事例として ― 173 ― 産業経済研究所紀要 第 24 号 2 014 年3月 論   文

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1.はじめに

わが国の中小企業政策には,中小企業の経営を支援するさまざまな施策や事業が準備されている。しかし,こうした施策や事業が真に成果をあげているのか,その成果測定は十分とはいえない。たとえば,中小企業者の共同化・協業化を推進する高度化事業で,多額の不良債権が発生した事実は記憶に新しい1)。こうした問題も,施策や事業に対する成果測定が適正に行われていなかったことが要因のひとつと考える。しかも,中小企業政策の中でその中心的な役割を終えたとも考えられる高度化事業が,いまだ中小企業者を支援する事業として存在し,実際に活用している地方公共団体(以下「自治体」という)もあるのである。

一方,長期間にわたるわが国経済の停滞と厳しい財政状況を背景に,自治体の活動に関する住民の関心が高まっている。近年,多くの自治体において行政活動の業績を測定・評価して予算編成や内部管理に活用するとともに,その評価結果を住民に対して公開しようとする行政評価システムの導入が進められてきた2)。また,平成19年10月に総務省より「公会計の整備推進について」(総務省,2007)という自治財務局長通知が出され,すべての自治体に対して貸借対照表や行政コスト計算書等の財務諸表の作成を求めると同時に,決算の結果を自治体の行財政運営のための情報として活用することを求めている3)。

自治体の活動に対する住民の関心の高まりを背景とした,自治体の公会計への活

山 北 晴 雄

Haruo YAMAKITA

The Application of the Balanced Scorecard for the Small and Medium‐

Sized Enterprise Policy

― A Case of a Business Innovation Program ―

中小企業政策へのBSCの適用

― 高度化事業を事例として ―

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産業経済研究所紀要 第 24 号 2 014 年3月 論   文

発な取り組みにともない,わが国の管理会計研究の中でも自治体の管理会計問題を扱うケースも増加してきた。特に,管理会計手法の一つであるバランス・スコアカード(Balanced Scorecard:以下「BSC」という)は,自治体改革のツールの一つとして導入され,研究の対象となってきた4)。また,具体的な政策に対するBSCの適用可能性を考察した研究として,高橋(2010,2011,2013)の一連の研究がある。本論文では産業クラスター計画に対する管理会計的手法による成果測定について焦点をあて,産業クラスター計画全体のビジョンと戦略の遂行および業績測定のためのBSCの可能性について論じている。

本稿では,中小企業基本法(以下「基本法」という)の抜本的な見直しの中でその位置づけが大きく変化した高度化事業を取りあげる5)。高度化事業では国や自治体,高度化事業を推進する組合,組合を構成する組合員が一体となって事業を進めるため,事業の理念や目的が事業を推進する組織全体に共有されていなければならない。また,組合を構成する個々の組合員の業績向上とともに,組合としての共同事業の成果をあげることが求められ,その評価の視点として非財務的な要素や長期的な視点も必要となる。こうした点から高度化事業の遂行および成果測定にとってBSCは強力なツールになり得るものと考えられる。そこで本稿では,中小企業政策の中で歴史的にその位置づけが大きく変化してきた高度化事業に対するBSCの適用可能性を探る。

本稿の構成は以下のとおりである。まず次節において高度化事業をめぐる問題点と課題を整理する。そして第3節では高度化事業に対する成果測定について,自治体サイドおよび組合サイド両面からのBSC適用の可能性について,高度化事業の戦略的目標と業績評価指標をあげて考察する。最後に,高度化事業へのBSC適用の課題を述べる。

2.高度化事業をめぐる問題点と課題

2. 1 高度化事業の概要高度化事業は,中小企業者が共同して経営基盤の強化を図るために組合などを設

立して工場団地・卸団地やショッピングセンターなどを建設する事業や,第三セクターや商工会などが地域の中小企業者を支援する事業に対して,資金およびアドバイスの両面から中小企業基盤整備機構(以下「機構」という)と各都道府県が一体となって支援する制度である。

高度化事業の中では,中小企業者が市街地に散在する工場や店舗などを集団で移転し,公害問題などのない適地に工場団地や卸団地を建設する集団化事業,商店街

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を街ぐるみで改造して街全体の活性化を図る集団区域整備事業などが代表的な貸付対象事業としてあげられる。これらの事業は,単に中小企業者の経営基盤の強化を図るだけではなく,都市過密対策や地域振興に貢献するという狙いも合わせ有している。

高度化事業は組合などが行う集団化・共同化などの事業や第三セクターなどが行う中小企業者を支援する事業など政策性の高いものを内容としているため,事業の要件は法令などに詳細に規定されている。特に,政策目的を達成するために貸付条件は長期・低利となっており,貸付金利は借入時点の市中金利より低くなるよう毎年見直しを行うこととされる。また,貸付期間は 20年以内で都道府県が適当と認める期間と定められている。

高度化資金の貸付方式にはA方式とB方式がある。A方式は1つの都道府県内での事業であり,B方式は2つ以上の都道府県にまたがる広域の事業に対する貸付方式である。なお,高度化事業に対する貸付のほとんどはA方式によっている実態から6),本稿ではA方式の事業を前提として考察する。A方式による高度化事業に対する貸付の仕組みは図1のとおりである。

図1 A方式による高度化事業に対する貸付の仕組み

出所:会計検査院(2006),p.5

高度化資金の貸付手続き(A方式)は概ね,①都道府県の事前助言,②組合等の都道府県への診断申込,③都道府県による診断助言,④組合等による都道府県への借入申請,⑤都道府県と機構の協議による貸付決定,⑥組合等による都道府県への資金交付請求,⑦都道府県と組合等との間での金銭消費貸借契約の締結,⑧都道府県による貸付金交付,⑨都道府県による事業費支払状況の検査,という手順で進められる。また,都道府県または機構は貸付後における事業の実施状況について,経営状況調査の実施および運営診断・事後助言を行ってその実態を把握している。

都道府県による診断助言の中でも貸付可否決定の根拠となる計画診断では,基本調査と現場診断が実施される。基本調査では,高度化資金貸付の対象となる個別企業の実態把握,集団化等に係る長期経営計画および組合等の共同事業計画などを検

国 財政融資資金等

機  構

一般会計

特別会計

中小企業者等出資 借入れ 償還

貸付け 貸付け

償還 償還

繰入れ 繰出し

都道府県

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討する。そして,現場診断では基本調査に基づき,組合等や個別企業の事業計画や資金計画などに関する現場診断を実施し,各計画の問題点やその原因を究明して当該計画を適切ならしめるために投資規模の縮小なども含めてアドバイスを行っていく。

計画診断終了後には建設診断,運営診断および事後助言が引き続き行われる。それぞれの診断後には都道府県より改善勧告事項が示されるが,その改善勧告事項をできる限り推進させるため,都道府県職員や外部診断員を組織して経営支援が行われる。さらに,貸付終了後の組合や組合員の経営に関しても都道府県による経営支援が継続され,同時に債権の回収を図りながら債権管理が行われる。

2. 2 高度化事業成立の背景とその位置づけの変化戦後のわが国の経済復興と高度経済成長の中で,中小企業と大企業の生産性や賃

金格差などからいわゆる二重構造論が提起された。1957年の経済白書では,中小企業は二重構造の底辺を形成し,低生産性と低賃金の悪循環に陥っている問題ある存在としての指摘がなされている(経済企画庁,1957,pp.35-39)。こうした指摘を受け,中小企業の規模の過小と企業数の過多を解消し,中小企業全体の底上げを図ることにより中規模企業を育成するとの問題意識のもと,中小企業に対してさまざまな施策が講じられた。そして,こうした施策を体系化し中小企業政策の基本的な方向を示す指針として 1963年に制定されたのが基本法であった。

基本法制定当時において中小企業の低生産性の原因は,設備の老朽化と劣弱な取引力にあると認識された。このため,基本法では政策目標の実現に向けた施策の柱の一つとして,中小企業の物的生産性の向上を図る中小企業構造の高度化を掲げたのである。中小企業構造の高度化は,企業規模の拡大をして規模の経済の効果を得ることによって,中小企業の物的生産性の向上を図ろうとするものである。具体的には中小企業の設備の近代化や事業の共同化,協業化等による企業規模の適正化による施策を推進した。この具体的な事業として登場したのが高度化事業であり,中小企業構造の高度化を実現するために一定の役割を果たしてきた。

しかし,その後わが国が急速な経済成長を遂げる中で経済的,社会的環境も大きく変化した。消費者も個性と多様性を重んじる価値観に基づく消費スタイルに移行し,同時に産業構造も労働集約的産業から資本集約的産業,知識集約的産業へと変化していった。こうした環境変化の中で中小企業に対するニーズも大きく変化し,中小企業の過小過多性の問題意識のもと高度化事業が展開された基本法制定当時の状況とはまったく異なる環境が生まれてきたのである。

こうした環境変化を踏まえて,高度化事業の問題点として清成(2009,pp.108-112)では次の点をあげる。第1に大量生産大量販売の時代が去った後,単なる新鋭

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機械の導入や規模の拡大よりもマーケティング能力や製品開発能力が重要であり,大規模な設備投資は近代化倒産の原因になりかねない,と指摘する。第2には高度化事業が目指した共同化や協業化によって資本量は拡大するが,マネジメント能力やマーケティング能力をはじめとする人的経営資源は共同化や協業化によっては蓄積されない,と指摘する。事実,高度化事業を活用して過大な規模の工場団地やショッピングセンターを建設して返済不能に陥った事例や,人的資源の不足から組合等の運営の失敗を招いた事例も多くみられるのである。

その後,中小企業政策は基本法の全面改正により大きく転換した。1963年に制定された基本法(以下「旧基本法」という)では,中小企業を低生産性と低賃金に代表される問題ある企業群と捉え,中小企業と大企業との生産性格差の是正を目的にして施策を展開していった。それに対し 1999年に改正された基本法(以下「新基本法」という)では,中小企業を新産業創出や就業機会増加の担い手として位置づけ,経済の革新を中小企業の育成によって進めていこうと考えて新たな施策が講じられるようになったのである。施策の内容について,旧基本法のもとでは中小企業構造の高度化を施策体系の中核に位置付け,設備の近代化や共同化・協業化など集団化による規模の利益の追求の支援を図ってきた。これに対し,新基本法のもとでは経営革新や創業の促進,企業間連携の促進,新技術開発支援など新たな施策が展開されている。

本稿で事例として取りあげた高度化事業は,まさに旧基本法の中核として位置づけられた事業であるが,新基本法のもとでも継続して実施されている事業でもある。基本法の改正は,中小企業政策を二重構造の是正から経営革新や創業の促進へと大きく移行させた。それに呼応して旧基本法の大きな柱として機能してきた高度化事業もその位置づけが大きく変化している。もちろん求められる中小企業政策は各自治体によって異なるため,高度化事業のスキームが有効に機能する都道府県もあるであろう。そのため,各都道府県がその地域で操業する中小企業者の経営環境や実態に合わせて選択適用していくことが求められているのである。

2. 3 高度化事業に対する国の認識と高度化事業の民営化への見解2010年に閣議決定された「独立行政法人の事務・ 事業の見直しの基本方針」(以

下「基本方針」という)の中で,高度化事業については「事業規模の見直し」と「貸付資金の回収強化」の2点があげられ,いずれも平成22年(2010年)度から実施されている。第1の「事業規模の見直し」の具体的内容として「平成22年(2010年)4月の事業仕分け結果(事業規模の縮減)を踏まえ,「連鎖化事業」や「経営改革事業」など,政策意義が低下した事業については廃止するとともに,事業メニューの見直しにより重点化し,事業規模の見直しを図る」として,継続と廃止の対象とする高度化事業

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の選別が示されている。第2の「貸付資金の回収強化」についての具体的な内容は「貸付資金の回収を強化する」との記述のみである(内閣府,2010,p.104)。

この基本方針に対し,経済産業省から「基本方針に関するフォローアップ結果」として現在まで 2011年9月時点と 2012年7月時点の2回にわたってその具体的な見直し状況が報告されている。まず 2011年9月時点について確認する。「事業規模の見直し」については,「高度化事業に係る各事業の要件等について省令で定められているが,「連鎖化事業」・「経営改革事業」の廃止を決定し,当該省令から「連鎖化事業」・

「経営改革事業」の要件等を削除する改正を作業中。なお,東日本大震災後,各県から高度化事業のニーズ,要望が寄せられてきており,今後の復旧,復興状況を勘案し,中小企業者への適時適切な高度化事業を実施できるよう,検討していく」と,基本方針に沿った方向での見直しが進められている(経済産業省,2011)。

一方,「貸付資金の回収の強化」については,「条件変更先及び正常償還先に対する経営状況把握を実施し条件変更の可能性のある貸付先を重点支援先とし,都道府県と協力して経営改善計画の策定支援及び当該計画の的確な実施に係る支援を実施(外部専門家の派遣を含む)。その他経営改善計画の策定に係る「経営改善計画の策定の手引き」を作成し,都道府県を経由し,中小企業者に配付。また,配付だけに留まらず,都道府県担当者に対し,会議において当該手引きの解説を行い,貸付資金の回収の最大化に努めている」として,貸付先を償還能力によって区分するとともに経営改善に向けた事後助言の強化を謳っている(同上,2011)。

次に,2012年7月時点におけるフォローアップ結果の確認を行う。「事業規模の見直し」については,「「連鎖化事業」・「経営改革事業」を廃止(平成22年(2010年)以降新規受付なし,平成23年(2011年)11月省令改正)。なお,東日本大震災復興支援への対応として特例的な貸付事業を整備し,高度化事業スキームを有効に活用。また,被災地域の高度化貸付先調査を行い貸付先への支援を実施」として被災地域に向けた高度化事業の展開を示している。なお,「貸付金の回収の強化」については,2011年9月時点のフォローアップ結果とまったく同様の文言である(経済産業省,2012)。

事業仕分けの俎上に上った高度化事業について,独立行政法人改革に関する分科会での質問事項への回答(2011年10月30日)の中からも,機構における高度化事業の位置づけを確認していきたい。まず,「高度化事業を民営化できないか」という質問に対する回答である。回答では高度化事業の特色として「支援のポイントは,さまざまな課題に対応して事業の確実性を高めるため,「時間」と「手間」をかけて,経営改善活動に関する支援などを行いつつ,事業計画を丹念に作り込む点にある」と指摘する。そして高度化資金の貸付について「資金提供は,その支援の一部分に過ぎない」ものであり,「民間金融ではカバーしきれないリスクの高い事業も対象」としている。したがって,「高度化事業は,(中略)地域の実現すべき公益的価値の高い事

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業を,診断助言と組み合わせて無利子・超低利かつ長期の資金供給を行うものであり,専ら金融貸付を業務とする金融機関では対応が困難」として高度化事業を民営化できない理由を示している(内閣府,2011)。

また,「高度化事業を日本政策金融公庫に移管できないか」という質問に対し,次のように回答する。すなわち,「高度化事業はリスクの高い事業も対象としていることから貸付時のみならず,運営段階においても継続的な支援を行っており」,「これらの支援については,案件の状況等に応じて,高度化部門以外の機構の支援ツール(大学校,ハンズオン等)も組み合わせて対応するなど,事業のシナジー効果を持って実施していることから,金融事業の身を専門に行っている機関では実施できない」と述べる(同上,2011)。

さらに,「これらの支援を実施するためには,高度化部門のみならず,各部門で現場経験や専門的なノウハウを蓄積した中小企業診断士等が診断助言,審査を担当しており,事業のノウハウや事業を担う人材の育成は,金融事業のみを専門とする機関には難しい」として,高度化事業の実施には都道府県および機構が有する能力の必要性を指摘している(同上,2011)。

このように高度化事業について事業規模の見直しや貸付金の回収強化を図ることは認める一方,高度化事業の民営化や金融機関への移管は困難と結論付けている。また,事業規模の見直しも「連鎖化事業」や「経営改革事業」など政策意義が低下した事業については言及しているものの,基本法の改正に伴う高度化事業の役割や位置づけの変化には言及していない。

3.高度化事業の課題とBSC適用の可能性

3. 1 高度化事業に対する成果測定の課題上述した考察から,今後,都道府県が高度化事業を実施するにあたっては,次の点

に留意して事業を進めていかなければならない。第1に民営化できない理由を十分に認識した運営組織や運営方法を再構築すること,第2に基本法の改正を踏まえた高度化事業の運営であることである。

第1の点については,前節で考察したように高度化事業の特徴として次のような点があげられた。①民間金融ではカバーしきれないリスクの高い事業も対象としているため,今後も都道府県や機構主導で進められるべき事業であること,②資金の提供よりも中小企業のさまざまな課題に対して時間と手間をかけて経営改善活動に関する支援などを行いつつ事業計画を丹念に作り込むこと,③高度化資金の貸付時のみならず,運営段階においても継続的な支援を行っていくこと,④貸付後の支援

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についても案件の状況等に応じて,高度化部門以外の機構の支援ツール(大学校,ハンズオン等)も組み合わせて対応するなど事業のシナジー効果を持って実施していくこと,⑤支援を実施するためには高度化部門のみならず,各部門で現場経験や専門的なノウハウを蓄積した中小企業診断士等の診断助言,審査が必要であること,⑥事業のノウハウや事業を担う人材は都道府県および機構が有する能力が必要であること,などである。

高度化事業にBSCを適用して成果測定を行うためには,こうした点を考慮した戦略的目標と業績評価指標の設定が必要となる。すなわち,リスクの高い事業に対する貸付審査能力,経営改善活動を支援し事業計画を立案する能力,機構の支援ツールを活用して適切な支援を行う都道府県職員や組合の能力,適切な人材を高度化事業の運営段階で継続的に投入しうる組織体制,都道府県における事業ノウハウの蓄積や人材養成の継続的実施などについて,その成果を測定して改善につなげていかなければならない。

第2の点については,共同化や協業化による規模の利益の追求によって単にコストダウンを図るのではなく,組合員同士が連携してマーケティング能力や製品開発能力の向上を図り,同時に人的経営資源を蓄積していくことが求められる。つまり,高度化事業を活用しつつ,新たな経営革新や新規事業の開拓,企業間連携の促進などを進めていかなければならない。そのためには,個々の組合員を束ねて高度化事業の理念や目的を実現していく,組合組織の再構築と運営方法の検討が必要となる。

高度化事業は中小企業者が共同して経営基盤の強化を図ることを目的にしている。集団化した協同組合や協業組合では,結成時から高度化事業についての理念や目的が共有されていなければならない。したがって,こうした理念や目的の共有が常に図られているのかに関する評価が必要となる。そして,共同事業によるコストダウン,企業間連携によるマーケティング能力や製品開発能力の向上,経営革新,人的資源の蓄積などについても,その成果の測定が必要となる。さらに,組合や組合員が結果として業績を向上させ,高度化関連の借入金を返済期限内に償還し,組合および組合員である中小企業者の経営基盤が強化されていくことも当然のこととして重要な成果指標となる。

こうした点を考慮して,次に都道府県や組合が高度化事業を実施していくために必要な戦略的目標と業績評価指標についてBSCの 4つの視点から検討していく。

3. 2 都道府県のBSC高度化事業(A方式)において,都道府県は組合や組合員に対する事前助言に始ま

り計画診断,建設診断,運営診断と,工場団地等の建設計画段階から人的支援を行いながら事業を進めていく。都道府県や機構の職員だけではなく,中小企業診断士や

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税理士,弁護士など外部の専門家への依頼も行われるが,A方式の高度化事業の実施主体はあくまでも都道府県である。これまでも高度化資金の巨額の不良債権問題についてその都道府県側の審査の甘さが指摘されてきたが,行政サービスの質はサービスを提供する人材の能力やその能力発揮のために実施組織が行う支援体制などに大きく依存している。そこで,都道府県の事業担当者が診断助言業務や債権管理業務を実施するための戦略的目標と業績評価指標を,BSCの4つの視点から整理すると表1のようになる。

表 1 都道府県のBSC

財務の視点からは,戦略的目標の第1に施策の利用率の向上があげられ,その業績評価指標としては執行率(貸付決定額/貸付計画額)が必要となる。ただし,この貸付計画額および貸付決定額の検討にあたっては,中小企業政策の理念や目的の変化を反映した高度化事業としての金額でなければならない。すなわち,その高度化

視点 戦略的目標 業績評価指標

財 務① 施策の利用率の向上② 債権回収率の向上

・ 執行率(貸付決定額/貸付計画額)・ 組合からの高度化資金回収率(各年度回収率

および累積回収率)

利 用 者

① 組合の業績向上

② 組合員の業績向上

・ 組合の業績(連携事業や共同事業の収支など)の伸び率

・ 組合員の組合に対する満足度・ 組合員の業績の伸び率・ 組合員のうち経営改善した事業所の割合・ 組合員の債務償還年数の短縮割合

業務プロセス

① 事前助言手続きの有効性や効率性の向上

② 各診断助言の有効性や効率性の向上

・ 高度化事業の理念と目的に沿った貸付対象選定と選定のための相談内容,相談期間

・ 計画診断,建設診断,運営診断の所要期間・ 事後助言回数および時間・ 中間検査回数および時間・ 完了検査時間

学 習

① 職員としての能力向上

② 外部専門家の組織化と有効活用

・ 貸付審査能力の維持,向上のための研修時間・ 経営支援能力(事前助言,計画診断,建設診断,

運営診断,事後助言)向上のための研修時間・ 経営支援ツール開発件数・ 新たな支援メニューの開発件数・ 債権管理・回収のための研修時間・ 高度化事業を依頼する外部専門家の組織化度・ 高度化事業の理解のための研修時間

出所:筆者作成

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事業を実施することによって,実施する組合および組合員にどのような新たな付加価値が生まれるのかについての十分な検討が求められる。

高度化事業が貸付金事業である限り,第2の戦略的目標として債権回収率の向上があげられ,業績評価指標としては高度化資金回収率が必要となる。高度化資金の巨額の不良債権化が大きな問題となったが,その主な要因として貸付額の決定プロセスに潜むさまざまな問題点が指摘された。債権の回収にあたっては個々の組合員への継続的な経営支援も必要となる。高度化事業を民営化しないのならば,専門職の経営指導員を育成して活用するなど,民営化しない理由を十分に認識した都道府県の運営組織や運営方法を再構築していかなければならない。

利用者の視点からの戦略的目標としては,組合と組合員の業績向上があげられる。まず組合に対する業績評価指標として連携事業や共同事業の業績の伸び率や組合員の組合に対する満足度が必要となる。従来のように,共同受注や共同購入などによるコストダウンを求めるだけではなく,組合員の連携による新製品の開発や新規顧客の開拓の実現により組合員の満足度を高めていかなければならない。また,組合員に対する業績評価指標としては,組合員の業績の伸び率や組合員の債務償還年数の短縮割合などがあげられる。

業務プロセスの視点についての戦略的目標として,第1に事前助言手続きの有効性や効率性の向上があげられる。この事前助言手続きにおいて,特に新基本法の考え方を十分に理解して取り組まなくてはならない。したがって,業績評価指標としては貸付対象先が高度化事業の理念と目的に沿った対象先となっているのか,相談を受けたときに高度化事業の理念と目的を明確にしておかなければならない。ここでは効率性よりも有効性に重点を置いた業績評価が重要と考える。

第2の戦略的目標としては各診断助言の有効性や効率性の向上があげられる。業績評価指標としては,計画診断・建設診断・運営診断などの所要期間,事後助言回数および時間,中間検査回数および時間,完了検査時間などがあげられる。先の事前助言手続きに十分時間をかけて計画を立案しておけば,高度化事業の各診断助言はむしろ効率性に重点をおいた業績評価が必要と考える。中小企業を取り巻く環境変化は激しいため,時間がかかれば計画の見直しの必要性も当然増加することになるからである。

最後に学習の視点からの戦略的目標の第1にあげなければならないのは職員としての能力向上である。ここで留意しなければならないのは,基本法の改正により高度化事業の実施体制が都道府県の職員が直接担当する体制から都道府県の指定機関へと外部化した点である。第2章で検討したように,高度化事業の実施には都道府県および機構が有する能力の必要性を指摘しながら,外部化した支援体制が十分機能していないものと考えられる。高度化事業の実施件数が大幅に減少した今日,こうした事業に人的資源を多く配分するゆとりは現在の都道府県にはない。

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しかし,高度化事業を存続させ実施するのならば,当然,担当職員の能力向上が求められる。そこで,貸付審査能力の維持・向上のための研修時間,経営支援能力向上のための研修時間,債権管理・回収のための研修時間などが業績評価指標となる。また,都道府県の限られた人的資源の中で高度化事業の成果を上げていくための第2の戦略的目標として,外部専門家の組織化と有効活用があげられる。実はこの点が最も見直しを要する点である。

たとえば,新基本法のもとで実施されている「地域中小企業応援ファンド」事業がある(機構,2007)。本事業は国および自治体が資金を拠出してファンドを造成し,その運用益を活用して事業者等への助成事業を実施する。その際に,事業者である中小企業者への支援とともに,事業者を支援する支援団体等への支援,すなわち地域支援団体への助成や販路開拓支援団体への助成も合わせて行われている。一方,高度化事業については,外部専門家の組織化や事業者を支援する団体への支援の形が不明確である。

中小企業者のさまざまな課題に対して時間と手間をかけて経営改善活動に関する支援をしたり,高度化資金の貸付時のみならず運営段階においても継続的な支援を行っていくためには,継続的に支援を行う組織が必要である。高度化部門以外の機構の支援ツール(大学校,ハンズオン等)をどのように都道府県に活用させるのか,高度化事業を担う人材をどのように養成するのか,高度化事業に関する専門的ノウハウをどのように蓄積してくのか,こうした視点を業績評価指標として準備しなければならない。具体的には外部専門家の組織化度や高度化事業の理解のための研修時間などが必要となる。

3. 3 組合のBSC高度化資金の貸付を受けて,実際に高度化事業を実施するのは組合とその組合に

帰属する組合員である。高度化事業の目的として中小企業者の経営基盤の強化を図ることはもちろんであるが,同時に騒音や公害等の規制や住工混在問題の解決手段としての一面もある。また,組合運営や組合員間の取引,共同事業などを推進するリーダーが必ずしも存在するとは限らない。その結果,共同化や協業化がマーケティング能力や製品開発能力の向上に結びつかず,人的資源の蓄積にもつながらないといった問題点の指摘を受けることになるのである。さらに,高度化事業を活用した新たな経営革新や企業間連携の促進,新技術開発支援を進めていくことも求められる。

今後,高度化事業が抱えるこうした課題を解決していくためには,強力なリーダーシップのもと組合員を統率していく組合運営のあり方が問われている。高度化事業は中小企業者が共同して経営基盤の強化を図ることを目的にしている。したがって,高度化事業にかかるサービスを受ける組合や組合員などが,結果として業績を向上

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させ高度化関連の借入金を返済期限内に償還し,組合および組合員である中小企業者の経営基盤が強化されていくことも当然成果指標となる。そのため,組合の事業担当者が診断助言業務や債権管理業務を推進していくための戦略的目標と業績評価指標をBSCの4つの視点から整理すると表2のようになる。

表 2 組合のBSC視点 戦略的目標 業績評価指標

財 務

① 投資採算予測の精度向上

② 組合としての業績向上

③ 都道府県へ の債務の計画的返済

④ 事務管理の合理化

・ 投資利益率・ 自己資金調達割合・ 計画償還年数・ 他の組合や企業との連携事業収支(研究開発

事業,販路開拓事業など)・ 共同事業収支(受電事業,購買事業,施設事業,

警備事業,教育研修事業,福利厚生事業,宣伝事業など)

・ 事業外収支・ 賦課金収入・ 組合員別高度化資金返済率(各年度返済率お

よび累積返済率)・ 直接人件費比率(直接人件費/人件費)

組 合 員

① 組合員の貢献度向上② 組合員の収益性や満

足度の向上③ 組合員情報の収集

・ 組合員の担当役割目標の達成度・ 組合員の業績の伸び率・ 組合員の債務償還年数の短縮割合・ DBに入力された組合員意見の件数

業務プロセス

① 高度化事業の目的に応じた組合員選定の有効性

② 事業計画作成手続きの効率化

③ 診断助言の効率化

・ 組合員選定のための支援期間・ 事前助言の期間

・ 組合員の事業計画書の作成期間・ 診断助言の回答の作成時間・ 都道府県や機構との相談時間,相談回数

学 習

① 組合としての能力向上

② 外部専門家の有効活用とハンズオン支援組織の組織化支援

・ 組合員に対する経営支援のための研修時間・債権管理・回収のための研修時間・高度化事業の理解のための研修時間・ 中小企業診断士,税理士,弁護士等との日頃

の相談時間

出所:筆者作成

山 北 晴 雄

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財務の視点からは第1に投資採算予測の精度向上が戦略的目標としてあげられ,業績評価指標として投資利益率,自己資金調達割合,計画償還年数などが必要となる。高度化資金の不良債権問題の最大の要因は過大投資である。組合員は中小企業であるため経営基盤が脆弱な企業も多く,景気動向や為替の影響など外部環境の変化を受けやすい。その結果,計画時点で償還期間にわたる利益計画や償還計画は非常に確度の低いものにならざるを得ない。一方で投資規模の削減は事業そのものを無に帰してしまう可能性もあるが,こうしたリスクがあるからこそ民営化せずに,都道府県や機構主導で実施しているのである。組合員に対しても本事業推進の持つ危険性の側面に十分な理解を促して,今後の経営のあり方を組合自らが示していかなければならない。

第2の戦略的目標としては組合としての業績向上があげられ,業績評価指標として連携事業収支,共同事業収支,事業外収支,賦課金収入などが必要となる。これからの高度化事業を実施する組合には,従来の公害規制対策や住工混在問題を解決する手段,共同収支事業の拡大としての役割を超えて,連携事業の拡大やイノベーション発現の苗床としての役割が求められる。

第3の戦略的目標として都道府県への債務の計画的返済があげられ,組合員別高度化資金返済率が業績評価指標となる。実務的には借り入れた高度化資金の計画的な返済ができるよう,組合としての指導が求められる。同時に第4の戦略的目標として事務管理の合理化があげられ,直接人件費比率(直接人件費/人件費)などが業績評価指標となる。

組合員の視点からは第1に組合員の貢献度向上が戦略的目標としてあげられ,業績評価指標として組合員の担当役割目標の達成度が考えられる。組合には,経営革新を求めそれを実行する意欲ある組合員の獲得と育成が求められている。こうした組合員が組合に対してどのような貢献をしているのかについて,継続的に客観的な業績評価指標で測定することが必要になる。また,組合の利用者としての第2の戦略的目標として組合員の収益性や満足度の向上があげられ,業績評価指標として組合員の業績の伸び率,組合員の債務償還年数の短縮割合などがあげられる。こうした組合員の経営状況を継続的に把握しておくために第3の戦略的目標として,組合員情報の収集があげられ,業績評価指標として組合員のデータベースに入力された組合員意見の件数などが考えられる。

業務プロセスの視点からは第1に高度化事業の目的に応じた組合員選定の有効性が戦略的目標としてあげられ,業績評価指標として組合員選定のための支援期間,事前指導の期間などが考えられる。組合の活動の成否を決定づけるのは,組合員を統率するリーダーの存在と組合員の志の高さである。

第2の戦略的目標として事業計画作成手続きの効率化があげられ,業績評価指標として組合員の事業計画書の作成期間が考えられる。事業計画は組合としての全体

中小企業政策への BSC の適用

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計画と組合員の企業計画に分かれるが,それぞれの計画が有機的に連動して作成されて初めて両者の計画が意味のあるものになる。したがって専門家の意見も十分に取り入れながら,効率的に作成されなければならない。さらに,事業計画およびその計画にしたがって進められる高度化事業に対して行われる都道府県や機構の診断助言について,第3の戦略的目標として各診断助言の効率化があげられる。そして,業績評価指標として診断助言の回答の作成時間とともに,都道府県や機構との有機的連携を図るために都道府県や機構との相談時間,相談回数などが考えられる。

学習の視点からは,第1に組合としての能力向上が戦略的目標としてあげられ,業績評価指標として,組合員に対する経営支援のための研修時間,債権管理・回収のための研修時間などが考えられる。経営基盤の脆弱な中小企業者が長期間にわたる返済が必要な設備投資を行うため,借入金の確実な償還と高度化事業の目的という,時には相矛盾しかねない目的を両立して判断をしていかなければならない。したがって都道府県や機構の担当者と同様に組合員とは異なる視点からの指摘も必要となる。

第2の戦略的目標としては外部専門家の有効活用とハンズオン支援組織の組織化支援があげられ,業績評価指標として高度化事業の理解のための研修時間,中小企業診断士や税理士などとの日頃の相談時間などがあげられる。

4.高度化事業へのBSC適用の課題

わが国の自治体において,管理会計的な取り組みに対する関心はいまだ低いのが現状である。しかし,自治体の財務諸表が整備され,その情報としての活用が求められている今日,政策の計画段階および執行段階での管理会計的手法の活用はその重要性を増している。本稿では,中小企業政策の高度化事業を事例に,BSCの枠組みを活用して事業計画立案と成果測定のあり方を検討し,提示してきた。高度化事業を実行する都道府県や機構の行政サービスは資金支援,人的支援および物的支援を総合して提供されている。したがって,事業計画を策定しこれらの成果を測定するためには,財務指標だけでなく非財務指標をも取り込んだBSCによる評価をすることで事業について一定の評価を行いうるとともに,事業の改善の糸口を見出すことが可能となる。

BSCの作成にあたっては都道府県のBSCだけではなく事業を実際に実行する組合のBSCの作成が必要となるが,両社は連動した形で作成され,運用されなければならない。その際,高度化事業の問題点として指摘されてきたマーケティング能力の向上や研究開発力の向上への対応が求められる。都道府県においては高度化事業の参加企業を選定する際には,高度化事業の目的を踏まえた構成にすることが必要である。

山 北 晴 雄

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また,組合員を牽引して成果をあげていくための組合のリーダーシップも欠かせない。これら計画段階での人選が事業成果を大きく左右するからである。さらに,こうした都道府県や組合の事業執行を担う実行組織の再構築が不可欠である。都道府県職員が直接関与する体制が転換した以上,外部支援人材の組織化,それらの人材をどのように育成していくかが今後の検討課題となる。

同時に,支援内容と業績変化の関係把握,資金面・人的面・施設などをどのように組み合わせることがサービスを受けた事業者のアウトカムを高めるのかなど,戦略的目標に対する重要成功要因の整理や業績評価指標の精緻化についても今後の研究課題である。

1) 『朝日新聞』2012年1月31日朝刊「中小企業高度化資金100億円損失」。『共同通信』2007年

7月19日「2,345億円が不良債権化 都道府県の中小企業融資」。共同通信社の調査によれ

ば,非公表および一部非公表の4道県を除く全国の都府県で不良債権が発生していた。なお,

高度化資金の不良債権化問題については山北(2013)を参照されたい。

2) 総務省の「地方公共団体における行政評価の取組状況等に関する調査結果」(総務省,2014)

によれば,2013年10月1日現在で行政評価を導入済みの団体は都道府県100%,政令指定都

市95 .0%,中核市97 .6%,特例市100%,市区82 .8%,町村34 .9%である。

3) 総務省の「地方公共団体の平成23年度決算に係る財務書類の作成状況等(調査日:平成25

年3月31日)」(総務省,2013)によれば,平成23年度決算に係る財務書類の作成団体(作成

済又は作成中の団体の合計)は,全団体の 95 .6%にあたる 1,711団体であり,都道府県及び

指定都市においては全団体,指定都市を除く市区町村においては 1,644団体(95.5%)となっ

ている。このうち連結財務書類4表までの作成団体は,全団体の 67 .9%にあたる 1,214団

体であり,都道府県においては 43団体(91 .5%),指定都市においては全団体,指定都市を

除く市区町村においては 1,151団体(66 .8%)となっている。

4) 石原(2004)では,福岡市,札幌市,名古屋市,神戸市,八尾市などの事例から,自治体の経

営改革にBSCを活用する可能性について検討した結果,BSCが自治体の経営改革に不

可欠なツールであることを解明している。

5) 本稿の高度化事業に関する記述は,筆者が 1986年から 1990年および 2000年から 2012年

に実施した,東京都における高度化事業の診断助言実務に基づいている。

6) 会計検査院(2006)によればB方式により貸し付けられたものの貸付残高に占める割合は,

平成17年度現在7.3%に過ぎない(会計検査院,2006,p.4)。

中小企業政策への BSC の適用

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参考文献

石原俊彦編著(2004)『自治体バランス・スコアカード』東洋経済新報社。

会計検査院(2006)『会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書』「独立行政法人中小企業

基盤整備機構(旧・中小企業総合事業団)の実施する高度化事業に関する会計検査の結果に

ついて」。

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黒瀬直宏(2006)『中小企業政策』日本経済評論社。

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について,http://www.meti.go.jp/intro/koueki_houjin/a_index_04_02 .html,2014年2月

18日参照。

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について,http://www.meti.go.jp/intro/koueki_houjin/a_index_04_02 .html,2014年2月

18日参照。

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pdf/120117_01 .pdf,2014年2月18日参照。

総務省(2013)「地方公共団体の平成23年度決算に係る財務書類の作成状況等」,http://www.

soumu.go.jp/main_content/000233584 .pdf,2014年2月18日参照。

総務省(2014)「地方公共団体における行政評価の取組状況等に関する調査結果(平成25年10

月 1日現在)」『総務省報道資料(平成26年 3月25日)』http://www.soumu.go.jp/menu_

news/s-news/83106_5 .html,2014年3月27日参照。

高橋賢(2010)「産業クラスターの管理と会計 ― メゾ管理会計の構想― 」『横浜経営研究』第31

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内閣府(2010)「独立行政法人の事務・ 事業の見直しの基本方針 」,http://www.gyoukaku.

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関係)」,http://www.cao.jp/sasshin/doku-bunka/kaiji/2011/kinyu_1/06 .pdf,2012年11

山 北 晴 雄

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月30日参照。

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中小企業政策への BSC の適用

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