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学科共通科目(2013年度) 第8回 正義を考える その1 リベラリズムの立場(1) 功利主義的リベラリズム

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学科共通科目(2013年度)

第8回 正義を考える

その1 リベラリズムの立場(1)

功利主義的リベラリズム

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第8回から第15回の予定

・第8回(6/7):正義を考える その1:リベラリズ ムの立場(1)―功利主義的リベラリズム

・第9回(6/14):正義を考える その2:リベラリズムの立場(2)―義務論的リベラリズム

・第10回(6/21):正義を考える その3:リベラリズムの立場(3)―ロールズのリベラリズム

・第11回(6/28):正義を考える その4:リバタリアニズムの立場

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• 第12回(7/5):正義を考える その5:コミュニタリアニズムの立場

• 第13回(7/12) 正義を考える その6:リベラル・コミュニタリアン論争

• 第14回(7/19) 正義を考える その7:正義をめぐる思想のまとめ

• 第15回(7/26) 講義全体に関するディスカッション

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はじめに

正義を考える3つの立場(詳しくは5つ)

1 リベラリズム(功利主義的リベラリズム、義務論的

リベラリズム、ロールズのリベラリズム)

2 リバタリアニズム

3 コミュニタリアニズム

リベラリズムは近現代社会の基本となっている思想。しかし、より広い意味でのリベラリズムの中には、リバタリアニズムも含まれる。

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※パワーポイントと配付資料に関する注意事項

• パワーポイント資料は主に要点を記す。

• より詳しい説明は配付資料を見てください。

• 引用文献等の頁数は配付資料で確認してください。

• 配付資料を読み直して復習してください。

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正しさ(正義)とは何か

• 正義(justice, Gerechtigkeit)とは、おおまかに言えば「人間の行為や制度の正・不正の評価基準」のことである。それは倫理的な正しさや政治的なものの正しさを含む。

• 「正しさ」(rightness)と「善さ」(goodness)の区別。哲学や神学あるいは日常的な言語使用において、「正しい」(right)と「善い」(good)という言葉は、しばしば相互に交換可能なものとして使われる。

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1. 正義を考える その1:リベラリズムの立場(1)-功利主義的リベラリズム

リベラリズムの特徴

(1)個人主義:社会集団に対して個人の道徳的優位を主張する。

(2)平等主義:すべての人々に同じ道徳的地位を付与する。

(3)普遍主義:人類の道徳的一体性を主張し、固有の歴史的結社や文化形式には副次的重要性しか与えない。

(4)改革主義:すべての社会制度や政治的仕組みの修正可能性と改善可能性とを主張する。

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• リベラリズムに属する思想家として、ベンサムやJ.S.ミル、カントそして現代におけるロールズを取り上げる。

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1.1功利主義的リベラリズム

• 功利性は幸福を増大させるから、幸福を増大させるかどうかという観点で、行為や制度の正しさ(正義)が判定される。その際、「正しさ」と「善さ」はベンサムやミルでは同義なものとして論じられている。例えば、「正邪〔善悪と訳している場合がある〕」(right and wrong)という言葉づかいが、ベンサムやミルではなされている。

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(1)ベンサムの功利主義

• 行為の正しさは功利性の原理によって判定される。

• 功利性の原理に適合している行為については、それはしなければならない行為である、または少なくとも、してはならない行為ではない。

• そのような行為をすることは正しいこと(right)

である、少なくとも悪いことではない。

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功利性の原理

• その利益が問題になっている人々の幸福を、増大させるようにみえるか、それとも減少させるようにみえるかの傾向によって、言い換えれば、その幸福を促進するようにみえるか、それともその幸福に対立するようにみえるかによって、すべての行為を是認し、または否認する原理。

• その際の行為は、一個人のすべての行為だけではなく、政府のすべての政策をも含む。

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功利性とは何か

• 功利性とは、ある対象の性質であって、それによってその対象が、その利益が考慮されている当事者に、利益、便宜、快楽、善または幸福(これらはすべて同じことになる)を生み出し、または危害、苦痛、害悪または不幸が起こることを防止する傾向をもつものを意味する。ここでいう幸福とは、当事者が社会全体である場合には、社会の幸福のことであり、特定の個人である場合は、その個人の幸福のことである。

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正邪〔善悪〕の判定

• 正邪〔善悪〕の判定は苦痛と快楽に委ねられる。

• 快楽は幸福と考えられ、幸福の最大化は功利性の原理と考えられる。

• 功利性の原理は「最大幸福原理」(greatest

happiness principle)とも言われる。

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最大幸福原理

• その利益(interest)が問題となっているすべての人々の最大幸福を、人間の行為の、すなわちあらゆる状況のもとにおける人間の行為と、特殊な場合には、政府の権力を行使する一人または一組の官吏の行為の、唯一正しく、適切で、普遍的に望ましい目的であると主張する原理。

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社会の利益

• 社会は個人の集合であり、社会の利益は個々人の利益の総計である。社会は、いわばその成員を構成すると考えられる個々人から構成される、擬制的な団体である。

• 社会の利益は、社会を構成している個々の成員の利益の総計である。

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• あることが、ある個人の快楽の総計を増大させる傾向をもつ場合、またはその個人の苦痛の総計を減少させる傾向をもつ場合には、その個人の利益を促進する、またはその利益に役立つ(for)と言われる。

• ある行為が社会の幸福を増大させる傾向が、それを減少させる傾向よりも大きい場合には、その行為は(社会全体について)功利性の原理に、短く言えば、功利性に適合していると言うことができる。

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(2)ミルの功利主義

• ベンサムから受け継いだ功利主義を、個人の権利と調和させる試み。

• リベラリズムの源泉として重要

• ミルのリベラリズムとして重要なのは「他者危害の原則」として知られている原則と人間の自由の規定である。

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他者危害の原則

• 強制と統制という形での個人に対する社会の取り扱いを絶対的に支配する資格のある、一つの非常に単純な原理は、人類が個人的にまたは集団的に、誰かの行動の自由に正当に干渉しうる唯一の目的は「自己防衛」だということである。

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• 文明社会の成員に対し、彼の意志に反して、正当に権力を行使しうる唯一の目的は、「他者に対する危害の防止」(to prevent harm to

others)である。

• 人間の行為の中で、社会に従わなければならない部分は、他人に関係する部分だけである。自分自身にだけ関係する行為においては、彼の独立は、当然、絶対的である。彼自身に対しては、彼自身の身体と精神に対しては、個人は主権者である。

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人間の基本的権利としての自由権

人間の自由に固有の領域

1)意識という内面の領域

良心の自由、思想と感情の自由、意見と感情の絶対的自由、意見を表明し出版する自由

2)嗜好の自由、職業の自由

われわれ自身の性格に合った生活のプランをたてる自由、われわれのすることが仲間たち彼らに害を与えないかぎりは、彼らから妨害されることなく、その結果は自分で引き受けて、自分のしたいことをするという自由

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3) 個々人のあいだの団結の自由

他人への害を含まなければ、いかなる目的のために結合してもよいという「結合の自由」

これらの自由が、全体として尊重されていない社会は、自由ではない。これらの自由が、絶対的かつ無条件に存在しない社会はどんな社会も、完全に自由だとはいえない。

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正邪の判定基準としての功利または幸福

• 功利を基礎とする正義が、いっさいの道徳の主要部分であり、比較を絶したもっとも神聖で拘束力の強い部分である。

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社会的功利としての正義

• 功利または「最大幸福の原理」に従えば、行為は、幸福を増す程度に比例して正しく、幸福の逆を生む程度に比例して誤っている。幸福とは快楽を、そして不幸とは苦痛を、そして快楽の喪失を意味する。

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ミルの功利主義の問題点

• 略 資料を見てください。

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1.2功利主義の問題点

• 功利主義的リベラリズムは、個人の利益(幸福)よりも集団や社会の利益(幸福)を優先することになりやすい。

• 功利主義のもっとも目につく弱みは、それが個人の権利を尊重しないことである。満足の総和だけを気にするため、功利主義は個々の人を踏みつけてしまう場合がある。

• 功利主義の論点を徹底すると、品位や敬意といったわれわれが基本的規範と考えるものを侵害するような人間の扱い方を認めることになりかねない。

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幸福の計算

• 功利主義は道徳の科学を提供しようとする。

• その科学の土台は幸福を計測し、合計し、計算することである。この科学は人の好みを計る際、それを評価することはしない。それは、すべての人の好みを平等に計算する。

• 好みを合計するためには、それを単一の尺度で計る必要がある。ベンサムの効用という概念はこうした一つの共通通貨を提供する。

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費用便益分析

• すべての価値を一つの価値の共通通貨でとらえること 費用便益分析における、功利主義の論理の応用

• 費用便益分析とは、あらゆるコストと利益を貨幣価値に換算し、それらを比較することによって複雑な社会的選択に合理性と厳密さを持ち込もうとするものである。

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1.3道徳的ジレンマ

• 極端な場合を考えたとき、功利主義では反倫理的なことが生じることになる。これらは功利主義の考え方では正当化可能である。

• あなたはこれらの例をどう考えるのか?

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A 暴走する路面電車

• あなたは路面電車の運転士で、時速60マイル(約96キロメートル)で疾走している。前方を見ると、5人の作業員が線路上にいる。電車を止めようとするが、ブレーキがきかない。ふと、右側へとそれる待避線が目に入る。そこには1人の作業員だけがいる。路面電車を待避線に向ければ、1人の作業員は死ぬが、5人は助けられる。どうすべきか。5人の命を救うために1人を犠牲にすることは正しいか。

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暴走する路面電車の別ヴァージョン

• あなたは運転手ではなく傍観者で、線路を見下ろす橋の上に立っている。線路上を路面電車が走ってくる。前方には作業員が5人いる。ここでも、ブレーキはきかない。路面電車はまさに5人をはねる寸前だ。そのとき隣にとても太った男がいるのに気づく。あなたはその男を橋から突き落とし、疾走してくる路面電車の行く手を阻むことができる。

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B 難破者の生き残り

• 船が嵐の中で沈没し、4人の船乗りが救命ボートで脱出した。しかし、持っている食糧が尽き、4人のうちの1人が衰弱して死にかけていた。そこで3人はこの1人を殺して食べ、命をつないだ。やがて3人の生存者は救助された。

• 飛行機事故等の似た事例。

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C フォード・ピント事件

• 1970年代、フォード社のピントはアメリカでもっとも売れているサブコンパクトカーであった。ところが不幸なことに、そのガソリンタンクは追突された場合に、爆発しやすかった。

• この欠陥による火災事故で500人以上が命を失い、多くの人がひどい火傷を負った。

• 事故の被害者の一人がフォード社を設計不良で訴えた。

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フォード社の対応

• フォードの技術者たちはガソリンタンクに起因する危険に気づいていた。

• 1台当たり11ドルのコストをかけてガソリンタンクの安全性を高める部品をつけても、その便益(命を救いケガを防止すること)は費用に見合わないと結論した。

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費用便益分析

• 安全性を高めたガソリンタンクによって得られる便益の計算

• タンクを改良しなければ180人が死亡し、180人が火傷を負う。

• 失われる命と生じる火傷をそれぞれ金額に換算

命は20万ドル、火傷は6万7000ドル

• この金額に焼失するピントの数と価格を加え、安全性を改善する総便益は4950万ドル

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• 1250万台のピントに1台当たり11ドルの部品をつければ、1億3750万ドルのコストがかかる。

• フォードの結論:ガソリンタンクを改良する費用は、車両の安全性を向上する便益に見合わない。