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第5 5.1  5.2  5.3  5.4  5.5 アンペール 5.6  アンペール

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第5章 静磁場

5.1 磁石と磁場

5.2 磁気双極子と磁化

5.3 磁束密度

5.4 電流と磁場

5.5 アンペールの法則

5.6 磁化電流とアンペールの法則

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5.1 磁石と磁場

鉄を引き付ける棒磁石にはN極とS極があるが,

電気双極子と対比させて,

大きさの等しい正負の電荷に対応する

正負の磁荷というものを仮想的に導入し,

それらがわずかに隔たり対峙する磁気双極子を導入しよう.

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真空中の磁荷間には電荷間のクーロンの法則と同様の力が

働くことが実験的にわかっている.

位置r, r′にそれぞれ磁荷qm, q′mがあるとき次のようになる.

F =qmq′m4πµ0

r − r′

|r − r′|3

定数µ0をµ0 = 4π × 10−7と定めることで

磁気量の単位が定まる.この単位をウェーバ (Wb)といい,

1Wb = 1J/A が成り立つ.定数µ0を真空の透磁率という.

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電荷間のクーロン力よりも電場を基本とみなす立場で

磁気的な力より基本的な磁場 Hを導入する.

ϵ0 → µ0

q → qm

E → H

の対応から,磁荷間に働く力を磁場を用いて書き直す.

F = qmH, H =q′m

4πµ0

r − r′

|r − r′|3

ここで,Hは位置r′の点に磁荷q′mがあるときの

位置rにおける磁場を表す.

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磁場の大きさの単位:N/Wb = N · A/J = A/m

教科書213頁 付録3の表で電磁気の諸量の単位を

m, kg, s,Aの組み合わせで表してある.(MKSA単位系)

丸暗記する必要はないが,導出方法を確認しておくこと.

定期試験の出題範囲に加える.

磁力線:電気力線の対応物

磁位:磁荷による磁場の場合は電位の対応物として導入できる.

   電流による磁場の場合は一義的に定まらない.(後述)

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5.2 磁気双極子と磁化

磁荷±qmが微小距離 lだけ隔たり対峙する磁気双極子の

磁気双極子モーメントmの大きさはm = |m| = qml

この磁気双極子が原点にあるとき,位置rでの磁位

Vm(r) =m · r

4πµ0r3

磁気双極子モーメントの大きさの単位:Wb · m磁場は以下の通り.

H(r) = −gradVm(r) =1

4πµ0r3

3r(m · r)r2

− m

磁場中の磁気双極子が持つ位置エネルギー:U = −m · H

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物質の磁気的性質に着目するとき,この物質を磁性体という.

誘電分極

誘電体に電場Eを作用 → 内部に電気双極子piが誘起

電気分極(分極ベクトル)P

単位体積中の電気双極子モーメントの和P =∑

i pi

磁気分極

磁性体に磁場Hを作用 → 内部に磁気双極子miが誘起

磁化

単位体積中の磁気双極子モーメントの和M =∑

i mi

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電気感受率χe (> 0)は電気分極Pと電場Eの比例関係を与える.

P = χeϵ0E

電束密度Dとの関係:D = ϵ0E + P

磁気感受率(磁化率)χmは

磁化Mと磁場Hの比例関係を与える.

M = χmµ0H

磁束密度Bの導入:B = µ0H + M

常磁性体:χm > 0の物質.アルミニウム,マンガン,硫酸銅.

反磁性体:χm < 0の物質.ビスマス.

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強磁性体:

鉄,コバルト,ニッケルのように外部磁場がなくても磁化が生じ

ているような物質.この磁化を自発磁化という.

磁場と磁化が線形関係になく,ヒステリシスを呈する.

磁化の生じていない強磁性体に磁場を加え,その強度を上げて

いくとある磁場の強度で飽和に達する.その後,強度を弱めて

磁場を0にしても,磁化が残る.これを残留磁化という.磁化

を0にするためには,保磁力という逆向きの磁場を加えなけれ

ばならない.

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5.3 磁束密度

B = µ0H + M = µ0H + χmµ0H = µ0(1 + χm)H

透磁率:µ = µ0(1 + χm)

比透磁率:km = 1 + χm =µ

µ0B = µH

電束密度についてのガウスの法則の磁束密度の場合の対応物

(マクスウェル方程式の中のひとつ)∫S

B · dS = 0, divB = 0

磁荷が存在しないことに注意.

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磁場に対する境界条件

二種類の磁性体が境界面で接するとき

境界面の法線成分については,電束密度と同様に,

B1n = B2n

境界面の接線成分については,磁位が定義できる場合に,

H1t = H2t

磁位が定義できない場合は後述.

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5.4 電流と磁場

電流が磁場から受ける力

磁場中の導線に電流Iを流す.

導線は電流と磁場の両方に垂直な力を受ける.

導線上の長さdsの微小部分に働く力:F

大きさdsで電流と同じ向きを持つベクトル:ds

磁束密度Bとdsのなす角:θ

F = I ds × B

F = |F| = IB sin θ ds

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磁束密度の次元

[F ] = [I][B][ds]

[B] =[F ]

[I][ds]=

kg · m · s−2

A · m= kg · s−2 · A−1

教科書の付録3を参照のこと.電磁気の諸量の単位を

m, kg, s,Aの組み合わせで表してある.(MKSA単位系)

このように基本法則から表の導出ができる.

この導出を定期試験の出題範囲に加える.

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ローレンツ力:磁場中を運動する荷電粒子に働く力

電荷Qと電流Iの関係式:I =dQ

dt時間dtの間に移動した電荷の総量がdQ

点電荷qが時間dtに速度vでds(= v dt)だけ移動するときの

電流:I

q = I dt → qv = I v dt = I ds → qv = I ds

F = I ds × B → F = qv × B

磁場のほかに電場がある場合 F = q(E + v × B)

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サイクロトロン運動:定磁場中の荷電粒子の螺旋運動

z方向を向く一様な磁束密度:B = (0,0, B)

q v × B = q (vyBz − vzBy, vzBx − vxBz, vxBy − vyBx)

= qB (vy,−vx,0)

= m (vx, vy, vz)

mvx = qBvy = −(qB)2

mvx → vx = −ω2

c vx (ωc =qB

m)

z軸方向には等速直線運動を行う.

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単振動の運動方程式の解

vx = −ω2c vx

vx = a sin(ωct) + b cos(ωct)

vy =m

qBvx =

m

qBωc(a cos(ωct) − b sin(ωct))

= a cos(ωct) − b sin(ωct)

初期条件:t = 0でのvx, vyの値vx(0), vy(0)を用いて

a, bを書き直すと

vx(t) = vy(0) sin(ωct) + vx(0) cos(ωct)

vy(t) = vy(0) cos(ωct) − vx(0) sin(ωct)

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vx(t) = vy(0) sin(ωct) + vx(0) cos(ωct)

vy(t) = vy(0) cos(ωct) − vx(0) sin(ωct)

時間について積分する.

x(t) = −vy(0)

ωccos(ωct) +

vx(0)

ωcsin(ωct) + c

y(t) =vy(0)

ωcsin(ωct) +

vx(0)

ωccos(ωct) + d

初期条件:t = 0でのx, yの値x(0), y(0)を用いて

c, dを書き直すと

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x(t) =vy(0)

ωc[1 − cos(ωct)] +

vx(0)

ωcsin(ωct) + x(0)

y(t) =vy(0)

ωcsin(ωct) +

vx(0)

ωc[cos(ωct) − 1] + y(0)

x(t) − x(0) −vy(0)

ωc=

vx(0)

ωcsin(ωct) −

vy(0)

ωccos(ωct)

y(t) − y(0) +vx(0)

ωc=

vy(0)

ωcsin(ωct) +

vx(0)

ωccos(ωct)

A sin(ωct − ϕ) = A sin(ωct) cosϕ − A cos(ωct) sinϕ

A cos(ωct − ϕ) = A cos(ωct) cosϕ + A sin(ωct) sinϕ

A =√

v2x(0) + v2

y(0)/ωc, ϕ = arctan [vy(0)/vx(0)]

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x(t) − x(0) −vy(0)

ωc= A sin(ωct − ϕ)

y(t) − y(0) +vx(0)

ωc= A cos(ωct − ϕ)

A =√

v2x(0) + v2

y(0)/ωc, ϕ = arctan [vy(0)/vx(0)]

両辺を自乗して足し合わせて時刻tを消去し,軌道を求める.x(t) − x(0) −vy(0)

ωc

2+y(t) − y(0) +

vx(0)

ωc

2 =v2x(0) + v2

y(0)

ω2c

円軌道,角振動数ωcの単振動:サイクロトロン運動

上の角振動数:サイクロトロン角振動数

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電流の作る磁場

教科書の図5.12の点P(位置r)に磁荷qmがあるとき

導線上の位置r′には磁場H =qm(r′ − r)

4πµ0|r′ − r|3が生じる.

真空中では磁束密度はB = µ0H =qm(r′ − r)

4π|r′ − r|3となる.

導線上の位置r′にあるdsに働く力は

F = I ds × B = I ds ×qm(r′ − r)

4π|r′ − r|3これを磁荷qmがdsに及ぼす力(作用)とみなせば,

反作用としてdsが磁荷qmに

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F = qmI ds × (r − r′)

4π|r − r′|3という力を及ぼす.

(Newtonの運動の第3法則,作用反作用の法則)

これを,電流によって生じる磁場dHの中におかれた磁荷qmに

及ぼされる磁気的なクーロン力qm dHとみなすと次式を得る.

dH =I ds × (r − r′)

4π|r − r′|3, dH =

I ds sin θ

4π|r − r′|2

これをビオ・サバールの法則という.(dsとr − r′のなす角:θ)

導線全体からの寄与は上式を積分すればよい.

考える空間内に磁性体がある場合は教科書5.6節で扱う.

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直線電流の作る磁場

無限に長い直線の導体に電流Iが流れている.この直線から

距離rだけ離れた位置での磁場の大きさHを求める.

直線はz軸上にあるものとする.教科書の図5.13のように

z座標がzであるようなxy平面上に

z軸を中心とする半径rの円Cを考える.

円C上の各点の磁場の方向はその点での円Cの接線方向となる.

dH =I dz

4π(r2 + z2)sin θ =

I dz

4π(r2 + z2)

r

(r2 + z2)1/2

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dH =I r dz

4π(r2 + z2)3/2

H =Ir

∫ ∞−∞

dz

(r2 + z2)3/2=

I

2π r

[H] = m−1 · A

H · 2π r =∮C

H ds = I

これは次節で現れるアンペールの法則の具体例である.

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小さな長方形回路の作る磁場

導出は割愛するが,教科書の図5.15の微小矩形回路を流れる

電流Iによる磁場Hは次のようになる.

(面積∆Sの矩形がxy平面上にあり,その中心が原点と一致)

H(x, y, z) =I

∆S

r3

3xz

r2,3yz

r2,3z2

r2− 1

, r =√

x2 + y2 + z2

これを磁気双極子m = (0,0, m)による磁場(教科書の式(5.13))

H(x, y, z) =m

4πµ0r3

3xz

r2,3yz

r2,3z2

r2− 1

と比較すると m = µ0I∆S

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5.5 アンペールの法則

電流と磁気モーメント

矩形の外向き単位法線ベクトルをnとすると m = µ0I∆S n

微小閉回路によって生じる磁場は,上の対応により,

磁気双極子によって生じる磁場と等価となる.

この磁気双極子によって生じる位置rでの磁位 

∆Vm =m · r

4πµ0r3=

I

∆S cos θ

r2=

I

4πΩP

ΩPは位置rで微小矩形を見込む立体角

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単位磁荷が磁場中で点Aから点Bまで移動するとき

磁気的なクーロン力がなす仕事

∫ B

AH · ds = Vm(A) − Vm(B) =

I

4π(ΩA − ΩB)

教科書の図5.20(a)のように微小閉回路を貫かないような

閉曲線Cに沿った磁場の線積分は0となる.

∮C

H · ds = 0

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アンペールの法則

教科書の図5.20(b)のように微小閉回路を

その外向き法線方向に貫くような閉曲線Cに沿った

磁場の線積分を考えよう.

点Aを閉回路の僅かに表側,点Bを僅かに裏側にとると

ΩA = 2π, ΩB = −2πとなるから∮C

H·ds =∫ B

AH·ds =

I

4π(ΩA−ΩB) =

I

4π(2π−(−2π)) = I

閉曲線Cが閉回路を逆向きに貫くと ∮C

H · ds = −I

閉曲線Cが閉回路を貫かなければ ∮C

H · ds = 0

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5.6 磁化電流とアンペールの法則

前節では微小閉曲線を流れる電流を

磁気双極子モーメントに置き換え,

アンペールの法則を導出したが,

逆に,磁性体中の磁気双極子モーメントを

電流に置き換えることもできる.

この立場で電流と磁性体が共存する場合を扱おう.

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教科書の図5.27のように磁性体を貫く閉曲線Cを考え,

その閉曲線Cを電流Iが貫通するものとする.

磁性体内の閉曲線に沿って,断面積∆S,

高さ∆sの微小円筒を考える.

この部分の磁性体の磁化をMとし,

これと閉曲線(円筒の軸)のなす角をθとする.

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磁化Mは単位体積あたりの磁気双極子モーメントmだから,

その大きさは m = M cos θ∆S∆sとなる.

一方,囲む面積が∆Sとなる微小閉曲線を流れる電流∆Imは

大きさが m = µ0∆Im∆Sの磁気双極子モーメントと

等価だから ∆Im =M cos θ

µ0=

M · ∆s

µ0 を得る.ここで,

∆sは大きさ∆sで閉曲線と同じ向きを持つベクトルである.

これを閉曲線全体で積分すると Im =∮C

M · dsµ0

となるが,

磁性体外では磁化は0だから,これは磁性体の磁化を電流で置

き換えたものに等しい.これを磁化電流という.

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閉曲線Cを貫通する電流が作る磁場はアンペールの法則により∮C

H · ds = I これに磁化電流を加えると

I + Im =∮C(H +

M

µ0) · ds = I  従って,磁束密度について

µ0(I + Im) =∮C(µ0H + M) · ds =

∮C

B · ds

が成り立つが,磁性体があろうがなかろうが,磁場については

∮C

H · ds = I

が成り立つ.

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このように磁束密度についてのアンペールの法則では,

真電流と磁化電流の両者が現れ,

磁場についてのアンペールの法則では,真電流のみが現れる.

誘電体のガウスの法則の場合と比較せよ.

∮C

H · ds = I ⇔∫S

D · dS = q∮C

B · ds = µ0(I + Im) ⇔ ϵ0

∫S

E · dS = q + q′

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第6章 時間変化する電磁場

6.1 電磁誘導とファラデーの法則

6.2 相互誘導と自己誘導

6.3 交流回路 I(LR回路)

6.4 交流回路 II(LCR回路)

6.5 磁場のエネルギー

6.6 マクスウェル・アンペールの法則

※ 電磁誘導・交流・変位電流

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6.1 電磁誘導とファラデーの法則

電磁誘導:磁石をコイルに近づけたり遠ざけたりすると,コイル

中に電流が誘起される現象(1831年にファラデーが発見)

※ 電気容量の単位(F, Farad),「ろうそくの科学」の著者,

電気分解についての「ファラデーの法則」

磁束:教科書の図6.3のような閉曲線Cを縁とする任意の曲面S

に対する磁束密度 Bの表面積分 Φ =∫sB · dS 

(単位 Wb, ウェーバ)

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誘導起電力とローレンツ力

教科書の図6.2のような状況下で導線ABが速度vで移動する

と,導線中の荷電粒子にはローレンツ力が働き,荷電粒子は移

動し電流が流れる.この電流を生じさせる起電力を誘導起電力

という.

閉曲線ABEDを貫く磁束が増大するとき,正の電荷はAからB

に移動し,電流は時計周りに流れる.この電流によって生じる磁

場は磁束密度Bとは逆向きであることがわかる.

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ファラデーの法則

教科書の図6.2の閉曲線ABEDA(これをCで表す)や図6.3

の閉曲線Cに沿った線積分で誘導起電力V を定義する.

V =∮C

E · ds

ファラデーの法則は誘導起電力と磁束の時間変化を次のように

与える.V = −dΦ

dt 従って,

∮C

E · ds = −dΦ

dt= −

d

dt

∫S

B · dS

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交流発電機の原理

教科書の図6.4のようにPQを軸として,長方形回路が角速度ω

で回転するとき,長方形回路を貫く磁束はΦ = SB cosωt

(長方形の面積:S,t = 0で長方形の面は磁束密度と直交)

誘導起電力:V = −dΦ

dt= −

d

dtSB cosωt = SBω sinωt

磁束の性質

閉曲線Cを縁とする曲面Sを貫く磁束は,曲面Sの選び方に依

存せず,閉曲線Cのみに依存する.これは磁場についてのガウ

スの法則を用いて説明できる.(詳細は教科書を見よ.)

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6.2 相互誘導と自己誘導

相互誘導:教科書の図6.6のように二つのコイルC1とC2を固

定し,前者に時間的に変化する電流I1が流れるとき,電磁誘導

によりコイルC2に誘導起電力が生じる現象.

C2を貫く磁束をΦ2とすると,Φ2 = M21I1が成り立つ.

M21をC1からC2への相互インダクタンスという.

C2を流れる電流I2によって生じるC1を貫く磁束をΦ1とする

と,Φ1 = M12I2となり,M12 = M21が成り立つ.

これを相反定理という.

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自己誘導:コイル内の電流変化によりそれ自身の内部に誘導起電

力が生じる現象

C1を流れる電流I1がC1自身を貫く磁束はL1I1で与えられる.

この比例定数L1を自己インダクタンス,あるいは単に,

インダクタンスという.

インダクタンスの単位:ヘンリー (H)

 ※ MKSA単位系でどのように表されるか?

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変圧機の原理

教科書の図6.9のように矩形の鉄心に

巻き数N1の一次コイルと巻き数N2の二次コイルを巻きつける.

それぞれのコイルの両端の電圧をV1, V2とする.

一次コイルの両端に交流電圧を加えると

コイルひと巻きを貫く磁束はΦ = Φ0 cosωtのように変化す

る.各コイルを貫く磁束はそれぞれの巻き数倍になるから,

V1 = −N1dΦ

dt= N1Φ0ω sinωt

V2 = −N2dΦ

dt= N2Φ0ω sinωt

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これより,V2

V1=

N2

N1となり,電圧の比は巻き数の比に等しい.

これを利用して,電圧の値を変えるのが変圧器の原理である.

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線形振動を扱うための数学的準備 

線形微分方程式  

関数yとその導関数y′ =dy

dx, y′′ =

d2y

dx2についての1次方

程式

y′′ + P (x)y′ + Q(x)y = R(x)

を2階線形微分方程式という.

R(x) = 0: 同次微分方程式

R(x) = 0: 非同次微分方程式 

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自由課題  以下の定理を証明せよ.

1. u1(x)とu2(x)が微分方程式y′′+P (x)y′+Q(x)y = 0

の解ならば,y = c1u1(x) + c2u2(x)もその解である.

(c1, c2は任意定数).

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2. 2階線形同次微分方程式y′′ + P (x)y′ + Q(x)y = 0の

解u1(x)とu2(x)が1次独立ならば,y = c1u1(x) +

c2u2(x)はその一般解である.(c1, c2は任意定数).

3. 2階線形非同次微分方程式y′′+P (x)y′+Q(x)y = R(x)

の1つの特殊解をY0(x), 対応する同次微分方程式y′′ +

P (x)y′ + Q(x)y = 0の一般解をu(x, c1, c2)とすれば

y = u(x, c1, c2) + Y0(x)

はy′′ + P (x)y′ + Q(x)y = R(x)の一般解である.

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4. X0(x)とY0(x)がそれぞれ線形微分方程式

y′′+P (x)y′+Q(x)y = R(x), y′′+P (x)y′+Q(x)y = S(x)

の解であれば,X0(x)+ Y0(x)は以下の線形微分方程式

の解である.

y′′ + P (x)y′ + Q(x)y = R(x) + S(x)

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線形微分方程式の解法  

n階線形非同次微分方程式

y(n)+P1(x)y(n−1)+· · ·+Pn−1(x)y

′+Pn(x)y = R(x)

の一般解の求め方

1. 非同次方程式の1つの特殊解Y0(x)を求める.

2. 同次方程式の一般解u(x, c1, c2, · · · , cn)を求める.

3. y = u(x, c1, c2, · · · , cn)+Y0(x)が求める一般解である.

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微分演算子    D ≡d

dxf(t), g(t): 文字tの多項式

f(D), g(D): 微分演算子

自由課題  微分演算子について以下の定理を示せ.

1. f(D)g(D) = g(D)f(D)

2. f(D)eαx = f(α)eαx

3. f(D)[eαxF (x)] = eαxf(D + α)F (x)

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定数係数線形微分方程式  

y(n) + a1y(n−1) + · · · + an−1y′ + any = R(x)

で左辺の係数a1, · · · , anがすべて定数であるとき

これを定数係数線形微分方程式という.微分演算子

f(D) = Dn + a1Dn−1 + · · · + an−1D + an

を導入すると,上記の微分方程式は

f(D)y = R(x)

と表すことができる.

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定数係数線形同次微分方程式の解法  

(D − α)ny = 0の一般解は

y = (c1 + c2x + · · · + cnxn−1)eαx

(D2 + aD + b)ny = 0 (a2 − 4b < 0)の一般解は

y = (b1 + b2x + · · · + bnxn−1)eλx cosµx

+ (c1 + c2x + · · · + cnxn−1)eλx sinµx

ただし,λ± iµは2次方程式t2+at+ b = 0の2根である.

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自由課題 このことを示せ.

ヒント 前出の定理f(D)[eαxF (x)] = eαxf(D+α)F (x)

を用いて,(D − α)ny = eαxDn[e−αxy]と変形せよ.

後半では,オイラーの公式 eiµx = cosµx + i sinµxを用

いよ. 

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定数係数線形同次微分方程式の一般解  

微分演算子f(D) = Dn + a1Dn−1 + · · · + an−1D + an

に対して

代数方程式f(t) = tn + a1tn−1 + · · · + an−1t + anを

特性方程式という.

微分方程式Dl(D−α)m(D2+aD+ b)ny = 0の一般解は

y = a1 + a2x + · · · + alxl−1 + (b1 + b2x + · · · + bmxm−1)eαx

+ (c1 + c2x + · · · + cnxn−1)eλx cosµx

+ (d1 + d2x + · · · + dnxn−1)eλx sinµx

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である.ここで,λ± iµは2次方程式t2 + at + b = 0の2

根である.

任意の実数係数の代数方程式は tl∏i,j

(t − αi)m(t2 + ajt +

bj)n の形に因数分解できることに注意せよ.

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2階定数係数線形同次微分方程式の一般解  

微分方程式 y′′ + ay′ + by = 0 の一般解は

特性方程式 t2 + at + b = 0 の根が

1. 実根α, β (α = β)の場合 y = c1eαx + c2eβx

2. 実根α(重根)の場合 y = (c1 + c2x)eαx

3. 虚根λ ± iµの場合 y = eλx(c1 cosµx + c2 sinµx)

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定数係数線形非同次微分方程式の特殊解  f(D)y = R(x)

1. R(x) = keαxの場合 

f(α) = 0ならばy =k

f(α)eαx

f(α) = 0の場合,f(D) = (D −α)pg(α) (g(α) = 0)

とすれば

y = Axpeαxの形の解がある.

2. R(x)が多項式の場合 

f(D) = Dn + a1Dn−1 + · · · + an−mDmならば

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y = xm(A0xl + A1xl−1 + · · · + Al−1x + Al)の形の

解を持つ.

3. R(x) = k sin(ax + b)またはk cos(ax + b)の場合 

f(t) = 0の根がt = iaであれば,

y = A sin(ax + b) + B cos(ax + b)の形の解がある.

f(t) = 0の根がt = ia (m重根)であれば,

y = xm[A sin(ax + b) + B cos(ax + b)]の形の解が

ある.

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2階定数係数線形同次微分方程式の一般解  

微分方程式 y′′ + ay′ + by = 0 の一般解は

特性方程式 t2 + at + b = 0 の根が

1. 実根α, β (α = β)の場合 y = c1eαx + c2eβx

2. 実根α(重根)の場合 y = (c1 + c2x)eαx

3. 虚根λ ± iµの場合 y = eλx(c1 cosµx + c2 sinµx)

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時定数(LR直列+直流電源)

教科書の図6.11の回路において

電池の起電力:V コイルの誘導起電力:−LdI

dt抵抗による電圧降下:RI

V − LdI

dt= RI →

dI

dt+

R

LI =

V

L

同次微分方程式 dI

dt+

R

LI = 0 の解

I(t) = A exp(−t/τ), τ = L/R (時定数)

A: 積分定数(初期条件を与えると定まる)

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非同次微分方程式の解を求めるために,恒等式

D[eαtF (t)] = eαt(D + α)F (t) を利用しよう.(D = ddt)

e−αtD[eαtF (t)] = (D + α)F (t)

(D + α)−1e−αtD[eαtF (t)] = F (t)

G(t) = e−αtD[eαtF (t)]とおくと

F (t) = e−αtD−1[eαtG(t)] = e−αt∫ t

0eαt′G(t′) dt′

(D + α)−1G(t) = e−αt∫ t

0eαt′G(t′) dt′ これを用いて

(D + α)x(t) = G(t) を満たす一つの解(特殊解)は

次のようになる.

x(t) = e−αt∫ t

0eαt′G(t′) dt′

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[(D + α)I(t) = V/Lの解] =

 [同次方程式(D + α)I(t) = 0の一般解] +

 [非同次方程式(D + α)I(t) = V/Lの特殊解] 

 = A exp(−αt) + e−αt∫ t

0eαt′V/L dt′

I(t) = A exp(−αt) +V

Lα= A exp(−

R

Lt) +

V

R

初期条件 I(0) = 0 を満たすためには A = −V

R

I(t) =V

R

(1 − exp(−

R

Lt)

)

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6.3 交流回路 I (LR回路)

先の回路で直流電源を交流電源に置き換えよう.

電流Iの満たす方程式は次のようになる.

V0 cosωt − LdI

dt= RI →

dI

dt+

R

LI =

V0

Lcosωt

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I(t) = A exp(−αt) + e−αt∫ t

0eαt′V0

Lcosωt′ dt′

= A exp(−αt) +V0

Le−αtα eα t cos (ω t) + ω eα t sin (ω t) − α

α2 + ω2

= (A −V0

L)

α

α2 + ω2exp(−αt)

+V0

L

α cos (ω t) + ω sin (ω t)

α2 + ω2

ここで,定数Aは初期条件I(0)を与えれば定まるが,

十分時間が経った後の解に着目すると,第1項は無視できる.

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交流電源 V (t) = V0 cosωt に対して

I(t) =V0

L

α cos (ω t) + ω sin (ω t)

α2 + ω2

=V0

L√

α2 + ω2

α√α2 + ω2

cosωt+ω√

α2 + ω2sinωt

=

V0

L√

α2 + ω2

(cosωt cosϕ + sinωt sinϕ

)

=V0

L√

α2 + ω2cos(ωt − ϕ) = I0 cos(ωt − ϕ)

インピーダンス:Z = V0/I0 = L√

α2 + ω2 =√

R2 + (Lω)2

位相の遅れ:ϕ, 力率:cosϕ = R/√

R2 + (Lω)2

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複素数表示

定数係数線形微分方程式の非同次項が三角関数の場合は

求める関数をいったん複素関数に拡張した上で特殊解を求め,

最後にその実部をとるという解法がある.

過渡状態に関心がなければ,この解法で十分である.つまり,

この解法では非同次方程式の特殊解のみを求めることになる.

具体例として先ほど扱ったLR回路を取り上げる.

オイラーの公式 (eiθ = cos θ + i sin θ)を用いて

LdI

dt+ RI = V0 cosωt をL

dI

dt+ RI = V0eiωt と書き換え

Iも複素数とみなす.

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I = Ieiω tとおいて,時間に依らない複素振幅 Iを導入する.

LdI

dt+ RI = (R + iω L)Ieiω t = V0eiωt

(R + iω L)I = V0

Z = R + iω Lをこの回路の複素インピーダンスという.

交流回路ではコイルも抵抗のように働き,抵抗Rに対応する量

として iω Lを考える.LR直列回路では抵抗の直列接続の合成

則と同様に複素インピーダンスの合成則が成り立つ.コイルと

抵抗を並列に接続する場合も,抵抗の並列接続の合成則と同様

の複素インピーダンスの合成則が成り立つ.

(教科書pp.141-142の例題6と例題7を参照のこと)

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Z = R + iω L = Zeiϕ = Z(cosϕ + i sinϕ) とおくと

(Z = |Z|)

Z =√

R2 + (ωL)2(R√

R2 + (ωL)2+ i

ωL√R2 + (ωL)2

) より

インピーダンスがZ =√

R2 + (ωL)2,

cosϕ =R√

R2 + (ωL)2, sinϕ =

ωL√R2 + (ωL)2

,

tanϕ =ωL

Rとなることがわかる.

これが複素インピーダンスの実部と虚部の比になっていること

に注意せよ.これは任意の交流回路で成り立つ.

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複素電流振幅は複素インピーダンスを用いて

I =V0

Z=

V0

Ze−iϕ とかける.

複素電流はI = Ieiωt =V0

Ze−iϕeiωt =

V0

Zei(ωt−ϕ) となり,

その実部から,求める電流の時間変化V0

Zcos(ωt − ϕ) を得る.

ϕは電圧から見た電流の位相の遅れを表していることがわかる.

交流回路を流れる電流の時間変動を

複素数表示を用いて求める手順

 回路に応じて複素インピーダンスを合成

 合成インピーダンスの絶対値(インピーダンス)と

  位相(位相の遅れ)を求める

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6.4 交流回路 II (LCR回路)

コイル(自己インダクタンスL)

コンデンサ(電気容量C)

電気抵抗(抵抗値R)

が直列に接続されている交流回路では

力学で現れる減衰振動と同様の振動が現れる.

このような振動現象は2003年度後期の

質点系と振動の力学で扱う予定なのでここでは割愛する.

コンデンサの複素インピーダンスが1

iωCとなることに注意せよ.

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6.5 磁場のエネルギー

教科書p.87の4.5「電場のエネルギー」の節で

平行平板コンデンサーの電場のエネルギー密度が

ue =ϵE2

2=

E · D2

となり,これが一般の場合にも成り立つことを指摘したが,

ソレノイドの磁場のエネルギー密度が

um =B2

2µ=

H · B2

となり,これもまた一般の場合に成り立つ.各自で確かめよ.

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6.6 マクスウェル・アンペールの法則

定常電流の場合に成立するアンペールの法則

∮C

H · ds = I

を時間変動する電磁場に拡張すると矛盾が生じる.

教科書p.150の図6.22のようなコンデンサに直流電源を繋ぎ,

充電がなされる過渡現象を考えよう.

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同一の閉曲線Cを縁とする二つの曲面S1とS2を考える.

前者は導線を貫き,後者は貫かない.

それぞれにアンペールの法則を適用すると

∮C

H · ds = I,∮C

H · ds = 0

となり, 同一の閉曲線Cを考えているにもかかわらず矛盾する

結果を得る.そこで,コンデンサの極板間の電束密度Dを

電流Iを用いて表すことを考えよう.

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極板間の電場は教科書p.57にある通り,E =σ

ϵ=

Q

Sϵとなる.

但し,Qは極板の面積で,ϵは極板間の誘電率である.

従って,D = ϵE =Q

S.

両辺を時間で微分して∂D

∂t=

1

S

∂Q

∂t=

I

S.

これよりS∂D

∂t= I. 左辺は電荷の移動による電流ではないが,

この量が電流と同じ次元を持ち,

導線を流れる電流と同じ値を持つことを意味する.

この量を変位電流という.

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この変位電流の表式S∂D

∂t= Iは電束密度の次元を

MKSA単位系で表す際に役立つ.[D] =[I]

[S][t]より

[D] = m−2 · kg0 · s1 · A1 となることがわかる.

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マクスウェルはアンペールの法則を時間に依存する電磁場の場

合に拡張するために,アンペールの法則の右辺に現れる電流を

真の電流と変位電流の和に改めた.

これをマクスウェル・アンペールの法則という.

前述の導線を貫く閉曲面S1では,真の電流がIで変位電流は0,

導線を貫かない閉曲面S2では,真の電流が0で変位電流がIと

なり,矛盾が解消する.

マクスウェル・アンペールの法則は電流密度jを用いて∮C

H · ds =∫S(j +

∂D

∂t) · dS と表せる.

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ストークスの定理 ∮C

H · ds =∫SrotH · dS を用いると

微分形の表式

rotH −∂D

∂t= j

を得る.これで電磁場の基本法則(マクスウェルの方程式)が

すべて出揃ったことになる.