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広島県医師会速報(第2061号) (13)2009年(平成21年)10月5日 昭和26年8月27日 第3種郵便物承認 標記学術総会が平成21年9月12日から13日の2日間の日程で、コスモスとススキが美 しい北の大地・札幌市で開催された。会場のシェラトンホテル札幌は、会期中全客室を含む 敷地内禁煙が実施され、快適な無煙環境での学会開催となった。まさに、本学術総会のメイ ンテーマである「受動喫煙ゼロを目指して」にふさわしい学会場である。 昨年の第3回本学術総会は、広島市で碓井静照広島県医師会長が会長を務め開催されてい る。今回は、全国に先駆け平成12年に病院の敷地内全面禁煙を実施した札幌社会保険総合病 院の秦温信院長を会長に開催された。 特別講演としては、海外よりの招請講演で、シドニー大学公衆衛生学教授のサイモン・チャ ンプマン氏の「今日のタバコ規制においてもっとなすべき事は何か、そして力を入れずとも よい事は何か?」とアジア太平洋タバコ対策会議会長のハーリー・スタントン氏の「アジア・ 太平洋地区におけるタバコ対策の25年:何が変わったのか?」の2題が、そして、わが国初 の受動喫煙防止条例を制定した松沢成文神奈川県知事等によるシンポジウム「ストップ!ザ・ 受動喫煙」と市民公開講座「タバコをやめて元気で長生き!今からでも遅くない」、禁煙治 療セミナー、日本禁煙学会認定専門指導者・認定指導者試験などが行われた。全国より会員 を含め関係者約640名が参加し、一般演題は、日赤広島看護大学の川根博司氏、中電病院の 藤本真理子氏と徳重朋子氏をはじめ過去最高の120題の発表があった。 県医師会からは、禁煙推進委員会の川根博司委員長をはじめ、勝部睦子委員、楠部滋委員、 津谷隆史委員、そして担当の松村誠常任理事と島筒志郎常任理事、総務課より向井課長と答 島課員が出席した。なお、川根委員長は一般演題:健診Ⅱの座長を、松村常任理事は一般演 題(ポスター):禁煙外来Ⅰの座長を務めた。 次回の第5回学術総会は、来年9月の愛媛県松山市で開催予定である。 以下、概要につき報告する。 第4回日本禁煙学会学術総会開催 第4回日本禁煙学会学術総会開 第4回日本禁煙学会学術総会開~受動喫煙ゼロを目指して ~受動喫煙ゼロを目指して

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広島県医師会速報(第2061号)(13)2009年(平成21年)10月5日 昭和26年8月27日 第3種郵便物承認

 標記学術総会が平成21年9月12日松から13日掌の2日間の日程で、コスモスとススキが美しい北の大地・札幌市で開催された。会場のシェラトンホテル札幌は、会期中全客室を含む敷地内禁煙が実施され、快適な無煙環境での学会開催となった。まさに、本学術総会のメインテーマである「受動喫煙ゼロを目指して」にふさわしい学会場である。 昨年の第3回本学術総会は、広島市で碓井静照広島県医師会長が会長を務め開催されている。今回は、全国に先駆け平成12年に病院の敷地内全面禁煙を実施した札幌社会保険総合病院の秦温信院長を会長に開催された。 特別講演としては、海外よりの招請講演で、シドニー大学公衆衛生学教授のサイモン・チャンプマン氏の「今日のタバコ規制においてもっとなすべき事は何か、そして力を入れずともよい事は何か?」とアジア太平洋タバコ対策会議会長のハーリー・スタントン氏の「アジア・太平洋地区におけるタバコ対策の25年:何が変わったのか?」の2題が、そして、わが国初の受動喫煙防止条例を制定した松沢成文神奈川県知事等によるシンポジウム「ストップ!ザ・受動喫煙」と市民公開講座「タバコをやめて元気で長生き!今からでも遅くない」、禁煙治療セミナー、日本禁煙学会認定専門指導者・認定指導者試験などが行われた。全国より会員を含め関係者約640名が参加し、一般演題は、日赤広島看護大学の川根博司氏、中電病院の藤本真理子氏と徳重朋子氏をはじめ過去最高の120題の発表があった。 県医師会からは、禁煙推進委員会の川根博司委員長をはじめ、勝部睦子委員、楠部滋委員、津谷隆史委員、そして担当の松村誠常任理事と島筒志郎常任理事、総務課より向井課長と答島課員が出席した。なお、川根委員長は一般演題:健診Ⅱの座長を、松村常任理事は一般演題(ポスター):禁煙外来Ⅰの座長を務めた。 次回の第5回学術総会は、来年9月の愛媛県松山市で開催予定である。以下、概要につき報告する。

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広島県医師会速報(第2061号)昭和26年8月27日 第3種郵便物承認 2009年(平成21年)10月5日(14)

理事長講理事長講演演FCTCの現状と日本禁煙学会の進むべき道

 NPO法人日本禁煙学会理事長作 田   学

 たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(Framework Convention on Tobacco Control:以下、FCTC)は、2003年5月21日に世界保健機関第56回総会で採択され、実行へ向けて世界各国でさまざまな取組が進められている。 各国は、受動喫煙の防止(FCTC第8条)やタバコによる健康被害の教育(FCTC第12条)、タバコ需要を減らすための値上げ(FCTC第6条)、タバコ産業をタバコ規制会議に参加させない(FCTC第5条第3項)、タバコ産業からの資金援助・CSR活動の縮小(FCTC第13条)など、条約履行のための取組を行っている。 例えば、トルコでは、職場だけでなくレストランやバーが全面的に禁煙となっていたり、インドでは2003年から公共の場では誰もタバコを吸ってはならない、という法律が定められ職場やレストランなどでは禁煙が当たり前となっていたり、タバコの値段も、日本円に換算すると6,000円となるくらいの値上げを実施している。また、世界一タバコ消費の多い中国でもFCTCに違反してしまう、という理由で2010年に上海で行われる国際博覧会では、タバコ産業からの資金を拒絶している。 このように、各国で条約履行への取組が行われている中、日本は締約国であるにもかかわらず、ガイドラインには強制力がないとしてFCTC遵守への取り組みが遅れている。その要因としては、JTの存在やタバコ農家とタバコ流通業界などの利権、そしてそれを擁護する国会議員など、さまざまなものが挙げられる。しかし、そのような状況にも変化が見られる。昨年には神奈川県で初めての受動喫煙防止条例が成立した。この条例は、職場の禁煙や飲食店の完全禁煙など、まだ達成されていない部分もたくさんあるが、罰則を設けている点など評価することも多く、日本がタバコ被害の無い国になる第一歩となった。また、今年政権をとった民主党もタバコ事業法の廃止をマニフェストで謳っている。注視していきたい。 日本禁煙学会は、3G(Global Science, Gaiatsu, Grass roots movement) を行っていき、政府への働きかけをこれからも行い、タバコの

害にむしばまれている人たちの救済をし、いろいろな人たちに禁煙教育を行い、受動喫煙に悩まされている人たちに温かい救いの手をさしのべていく。

学会長講学会長講演演北海道におけるタバコ・コントロール

 第4回日本禁煙学会学術総会会長秦   温 信

 北海道は、沖縄県に次いで肺がん死亡率が高いことでも知られている。それは、長年喫煙率日本一であることが原因の一つとして考えられる。そういった状況の中、禁煙活動の必要性を感じていたところ「非喫煙者を守る会」が全国初の非喫煙団体として1977年発足し、更に「北海道・分煙社会を目指す会」が1998年に発足し活発に活動している。また、「北海道禁煙週間」は1984年以来26年間も着実に活動が続けられており、日本禁煙推進医師歯科医師連盟北海道支部も1997年以来北海道医師会等の各界の諸団体との連携で、有機的に活動を続けている。そして、2004年には、第13回日本禁煙推進医師歯科医師連盟学術総会を当札幌の地で開催をした歴史がある。 日本禁煙学会北海道支部は、北海道医師会と日本禁煙推進医師歯科医師連盟北海道支部と連携し、毎年共同事業として「北海道禁煙指導研修会」と「北海道禁煙フォーラム」を行っている。 私が院長を勤める札幌社会保険総合病院は、2000年1月1日より全国に先駆け敷地内全面禁煙を実施しており、禁煙活動の先頭に立っている。当院では敷地内禁煙の実施後、禁煙指導パトロール隊を編成し、毎日3回巡回し、ポイ捨て吸殻の収拾や喫煙者に対しての禁煙指導を行っている。更に、看護科長による禁煙相談も行っており、禁煙に対する苦情や相談に応じている。また、当院勤務の全ての医師により行われている禁煙外来は、保険診療で禁煙治療を実施の2006年以降増加の一途を辿っている。入院患者の喫煙者に対しては、入院予約のオリエンテーション時から禁煙についての相談と支援を行い、退院後も外来で支援を行っている。その結果、該当者の約40%が禁煙を継続している。2006年3月よりは、当院での乗客待ちタクシーを禁煙車のみとしたところ2008年7月からは、札幌市全市のタクシーが禁煙化されるに至った。 本学術総会を機に、学会場であるシェラトン

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広島県医師会速報(第2061号)(15)2009年(平成21年)10月5日 昭和26年8月27日 第3種郵便物承認

ホテル札幌を会期中ではあるが敷地内禁煙を実施することができた。今後、タバコ・コントロールの取り組みが諸外国に比べ大きく遅れているわが国において、受動喫煙防止を含めた禁煙推進活動が一層の進展をすることを望むものである。

報 告報 告 ⅠⅠ医療漫画にみられる喫煙描写場面についての検討

日本赤十字広島看護大学川 根 博 司渡 辺 さゆり竹 下 直 子

 〔目的〕未成年者の喫煙行動に影響を与えるものとして、映画やテレビの喫煙シーンのほか、漫画の喫煙シーンもあげられている。今回、みやこ禁煙学会(内容は広島県医師会速報第1969号掲載)において発表した以降に、図書館で受け入れた医療漫画の喫煙描写場面の描かれ方について、前回と同様な調査を行った。 〔対象と方法〕前回の報告以降に図書館で受け入れた医療漫画の単行本である、「Dr.コトー診療所」(第20~22巻)、「新ブラックジャックによろしく」(第1~5巻)、「Ns’あおい」(第12~24巻)を対象にした(図1)。対象漫画の全頁

にわたって喫煙描写場面を抽出し、調査票に掲載した。調査項目はいわゆる4W1H(いつ、どこで、誰が、何を、どのように)である。喫煙描写場面は喫煙場面(喫煙行為そのもの)、喫煙関連場面(灰皿、タバコの箱などの描写)、反喫煙場面(禁煙の意思表示・示唆、禁煙マークなど)に分類した。喫煙描写場面の回数(割合)を求めるとともに、喫煙場面については、喫煙場面(漫画のコマ)が1頁に占める割合(頁数換算)で表してみた。 〔結果〕いずれの漫画においても主人公の喫煙

場面はみられなかった。それぞれ陰喫煙場面、隠喫煙描写場面、韻反喫煙場面の描写回数(割合)を図2に示した。割合をみてみると、「Dr.コトー診療所」:陰3.0%、隠3.0%、韻6.1%、「新ブラックジャックによろしく」:陰7.9%、隠21.1%、韻7.9%、「Ns’あおい」:陰3.4%、隠3.4%、韻0.9%であった。喫煙場面の大きさも加味した喫煙場面数(頁換算)は前回の結果と一緒に図3に示した。漫画に出てくるタバコは紙巻タバコであり、実在の銘柄が使われていることもあった。「新ブラックジャックによろしく」「Ns’あおい」では医療従事者の喫煙姿も描かれていた。反喫煙場面では、禁煙マーク、他人の喫煙を注意するなどであった。 〔考察〕前回の調査では、図4のように、喫煙場面は「Dr.コトー診療所」3.8%、「ブラック

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広島県医師会速報(第2061号)昭和26年8月27日 第3種郵便物承認 2009年(平成21年)10月5日(16)

ジャックによろしく」20.5%、「Ns’あおい」30.7%であった。今回の結果をみると、後二者において喫煙場面が少なくなっており、特に「Ns’あおい」で著明に減少していた。このことは図3の喫煙場面の大きさ(量)の比較からもわかる。喫煙関連場面も病院など医療機関(建物)内ではみられなくなった。反喫煙場面は増えたといえるかもしれないが、タバコの健康問題がもっと描かれてもよいように思う。喫煙を巡っては医療の場はもちろん、社会環境も大きく変化してきている。今回の医療漫画の調査で以前よりも喫煙場面が減ったことは、漫画家の意識改革について評価できるであろう。

報 告報 告 ⅡⅡ日本赤十字広島看護大学教授

 川 根 博 司 札幌社会保険総合病院健診センター:岩田佳代氏らは「健診センターにおける禁煙指導について―健診結果から見た喫煙の影響―」について発表した。禁煙者における肥満・メタボリックシンドローム該当者の割合は禁煙3~5年目が多くなり、禁煙後の体重管理の必要性が示唆された。平成20年度より特定健診・特定保健指導が行われるようになったが、運動・食生活の改善・禁煙を三本柱とする生活習慣病の一次予防の重要性を示した。 西東京警察病院内科:野村眞智子氏らは「企業検診からみた職種による喫煙率の違いについて;製造業、民間教育機関および警察関係との比較」と題する報告を行った。平成18年度から平成20年度まで、検診対象者全員の問診表をもとに、各職種における喫煙率の推移を3年間追跡調査している。喫煙率が民間教育機関では毎年低下しているのに対して、製造業は平成19年度には低下したものの、平成20年度は変わらず、警察関係においては3年間著変がなかった。また、警察関係で男性が99%以上を占めているのに喫煙率が33.3~39.2%であり、一般国民の男性喫煙率よりも低いとの発表であった。筆者は男性の警察関係者(警察官・刑事など)の喫煙率が高いような印象を持っていたが、考えを改めないといけないのかもしれない。しかし、女性の割合が少ないとはいえ、喫煙率の調査をする場合にはやはり男女を分けて考察すべきであろう。 福岡大学医学部心臓・血管内科学:光武良晃氏らは「喫煙者・非喫煙者における左室駆出率に対するメタボリック症候群の与える影響」に

ついて発表した。近年、広く普及してきたマルチスライスCT(MDCT)により、冠動脈の狭窄度の評価、冠動脈石灰化の定量化、左室機能の評価を行うことが可能になった。演者らは喫煙やメタボリック症候群が、MDCTを用いて評価した冠動脈疾患や左室機能に及ぼす影響について検討し、喫煙やメタボリック症候群が冠動脈疾患を増加させるばかりでなく、冠動脈疾患とは独立して左室機能の低下に寄与することが示唆された。 社会医療法人敬愛会ちばなクリニック:清水隆裕氏らは「特定健診1年目の経験―喫煙に着目したまとめ―」を報告した。ある程度予想されたことではあるが、特に女性喫煙者において、喫煙以外のリスク因子を持たない事例が多く、特定健診を機械的に行っただけでは喫煙のリスクを過小評価してしまう可能性が大きい。演者らの指摘するように、全喫煙者に対して振り分けられた保健指導の階層によらず、喫煙に関するコメントを明示して、積極的に禁煙外来を受診するよう促すことが大切であろう。

シンポジウムシンポジウム 「ストップ!ザ・受動喫煙「ストップ!ザ・受動喫煙」」

 全国初の受動喫煙防止条例を制定した松沢成文神奈川県知事が「受動喫煙防止条例が目指すもの」と題して講演、「神奈川県では、受動喫煙から県民の健康を守るために、不特定または多数の人が出入りすることがで

きる公共施設の新たなルールとして神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例を平成21年3月に制定し、平成22年4月から実施する。今、世界の潮流は、屋内の公共の場の受動喫煙防止対策を国が積極的に講ずることであり、日本を含む160カ国以上が批准しているFCTC(タバ

松沢 成文神奈川県知事

一般演題:健診Ⅱ 座長の川根博司禁煙推進委員会委員長

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広島県医師会速報(第2061号)(17)2009年(平成21年)10月5日 昭和26年8月27日 第3種郵便物承認

コ規制枠組み条約)でも求められている。しかし、わが国では健康増進法で受動喫煙防止の努力義務を課すに留まり、対策が大きく遅れている。それは、霞が関の縦割り行政とタバコ産業・タバコ農家・流通業界等の利権、そしてそれを擁護する国会議員というトライアングルが大きな障壁となっているからである。そこで、先進県である神奈川県では、受動喫煙防止への取り組みを大きな社会変革の取り組みとして、同時に県民をそして国民全体の意識改革をめざすための国民運動として進め、スモークフリーの社会を実現してゆくこととした。この条例制定にあたっては、知事選二期目のマニフェストの第一に挙げ選挙戦に臨んだ。そして当選後は、自民党・公明党等の野党が4分の3を占める県議会で議論に議論を重ね、タウンミーティングにも自ら出向き多くの県民と話し合った。その上で議会との妥協により、公共的施設を2種類に区分せざるを得なかったが、何とか成立にこぎつけた。すなわち学校、病院、官公庁施設等の第一種施設は禁煙に、飲食店や宿泊施設などの第二種施設は禁煙か分煙を選択することを義務付けた。しかし、風俗店と床面積100釈以下の飲食店、700釈以下の宿泊施設は努力義務にせざるを得なかったが、罰則規定については抑止力の観点より譲らなかった。今後は、多くの同志と手を携え、健康で空気がきれいな国・スモークフリーの社会を実現したい」と熱く語り、満場の拍手を得た。 次いで、国立がんセンター研究所の望月有美子氏は、「受動喫煙対策―世界の潮流―」と題して講演、「スモークフリーであるのは世界人口の5%であるが、法規制による禁煙を支持しているのは70~80%である。喫煙所を設けない完全禁煙を全国的に実施している国は、2004年に禁煙法を制定し職場を含む公共の場所を完全禁煙化したアイルランドをはじめ、ノルウェー、ニュージーランド、ウルグアイ、英国、トルコなどであり、イタリア、フランス、シンガポール、ドイツなどは喫煙所などの例外規定を設けている。タバコに関しては、安全濃度も安全閾値もない。わが国が世界の潮流に追いつけるか否かは、行政のみならず市民社会の監視評価と政策提言能力にかかっている」と述べた。 禁煙席ネットの宮本順伯氏は、「受動喫煙防止法の賢い立ち上げ方:海外に学ぶもの」と題し、「国民を受動喫煙の被害から守るためには、法的規制が必要である。先進国では、公共的閉鎖空間の全面禁煙は、いまや当たり前のことで

ある。受動喫煙防止法の目的は、施設で働く従業員と施設を利用する人々の双方を守ることであり、単に利用客の安全のみを確保した分煙は採用してはならない。神奈川県でも問題となった、飲食店、居酒屋、職場等の全面禁煙化であるが、居酒屋と女性と子どもが多く行くファストフードレストランを一緒に規制するのではなく、まずファストフードレストランを完全禁煙し、居酒屋は放置して数年後に完全禁煙する方がいい。全面禁煙を先行と遅行に分けるのである。行政としては分煙を法的に認定することより、規制しないで放置することの方が格段と優れた対応である。なぜなら、規制レベルをいつでも100%に転換できるからである。社会が成熟すれば、それぞれの業界は全面禁煙を受け入れるようになる」と講演した。 弁護士の黒木俊郎氏は、「受動喫煙被害者の法的救済」と題し、「受動喫煙被害者事件の最初の勝訴判決では、江戸川区役所の公務員の提訴があり、2004年東京地裁が慰謝料5万円の判決を出した。2006年の岡本事件(黒木氏が担当)では、簡裁の調停で80万円の賠償金を獲得できた。この成功の陰には健康増進法があった。そして、2009年の滝川事件では、700万円の和解金を得ることができ、事実上の全面勝訴であった。これを機に、全国の企業は、全面禁煙が最も安上がりであり、かつ訴訟リスクがない最善の策であると共通認識すれば、職場の禁煙は自動的に実現できる」と述べた。 そのほか、札幌市保健所の請井繁樹氏は、「札幌市における受動喫煙防止の取り組みについて」を、札幌学院大学の北田雅子氏は、「ホスピタリティビジネスにおける喫煙対策を考える―日本国内のホテル・旅館の喫煙対策の現状から―」を講演し、学会場のシェラトンホテル札幌支配人のリチャード・スタ氏は「空気を分けあう」と題し「当ホテルは60%の客室が禁煙室であり、ほとんどのレストランも禁煙である。宿泊客にも社員にもクリーン・新鮮・健康的といった快適な空気を提供することを約束している。今後もさらに禁煙を推進する。タバコに火をつけるのではなく、笑顔を輝かせよう!」と述べた。

おわりおわりにに 今回の第4回日本禁煙学会学術総会はシェラトンホテル札幌で開催されたが、ホテル側の協力で学会期間中前日を含めて3日間は全館禁煙となっていた。会長の秦 温信先生(札幌社会

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保険総合病院院長)のご尽力はもちろんだが、やはり外資系ホテルは海外の禁煙事情に詳しいということだろうか。禁煙先進国オーストラリアから来日されたチャップマン先生(シドニー大学公衆衛生学教授)とスタントン先生(アジア太平洋タバコ対策会議会長)に、日本でもやればできるということを示すことができたのはご同慶の至りである。雑誌 Tobacco Control の編集長であったチャップマン教授とはかつて手紙(電子メールがない時代の話!?)のやり取

りをしたことがあるものの、今回初めてお目にかかった。私のレターが同誌に2度ほど掲載されたが、よく覚えておられて嬉しかった。

 第5回日本禁煙学会学術総会は、来年9月19日・20日に松山で開催される予定である。札幌のように遠くないので、広島県医師会員の皆様もぜひ参加されて、最近の喫煙/禁煙事情を見聞きされることをお勧めしたい。

第4回日本禁煙学会学術総会大会宣言

 わが国は、命と健康を守るタバコ対策を大きく推進できる時代に入りました。タクシー禁煙化、画期的な神奈川県「公共的施設における受動喫煙防止条例」の成立、職場の受動喫煙被害の司法的救済など多面的な運動が進められてきたことに加え、先月末の総選挙の結果、たばこ事業法の廃止・見直しと受動喫煙防止法の制定を推進する立場の勢力が多数派となったからです。 NPO法人日本禁煙学会は、第4回学術総会開催にあたり、この好機を生かし、以下の要望実現の先頭に立つことを宣言いたします。

1.一刻も早く、受動喫煙防止法を制定する必要があります。職場とサービス産業施設で多くの市民が受動喫煙被害に苦しんでいます。イギリス・フランス・イタリア・インド・トルコ、タイ、シンガポール、台湾・アメリカ・カナダ・オーストラリアなど世界の約80ヶ国・地域が法律であるいは条例で官民職場とサービス産業を完全禁煙としようとしています。

2.一刻も早く、国民の命と健康を守るタバコ対策を実行する障害となっている「たばこ事業法」を廃止する必要があります。これと並行して、タバコ税の大幅値上げ・タバコの販売促進活動の禁止・こどもや若者への防煙対策の充実・画像による有害警告の表示・禁煙治療に対する保険給付の一層の充実など、「タバコ規制枠組み条約」がわが国に課した条約上の義務を誠実に実行する立法および行政措置の断行が必要です。

 以上の対策を迅速円滑に実行するため、立法、行政、医学医療専門団体、市民団体を含む喫煙対策推進のための協議体の設置を求めます。

2009年9月13日

NPO法人日本禁煙学会 理事長  作 田   学第4回日本禁煙学会学術総会 会長  秦   温 信

左:川根博司先生、右:サイモン・チャップマン先生 一般演題:禁煙外来Ⅰ 座長の松村誠広島県医師会常任理事