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1 電気学会技術者教育委員会パワーエレクトロニクス教育 WG 第3回パワエレ・セミナー電動機駆動の基礎:その22014 3 13 ()13001700 於:青山学院大学相模原キャンパス L L-402 教室 主な内容 1. はじめに:本セミナーの概要と位置づけ。 2. 空間ベクトルを用いた電動機の基本式: αβ座標および dq 座標での永久磁石同期電動機の基本式を空間ベクト ルを用いて表現する場合の考え方とメリットについて説明。 3. インバータの制御遅れを考慮した電流制御三相電圧形 PWM インバータにより電動機の三相入力電流を制御する場 合には、インバータの制御遅れを考慮することが重要です。この制御遅れ を考慮して安定な電流制御を実現するための基本的考え方を説明。サンプ ル値制御系として取扱いや、αβ座標と dq 座標での考え方の違い、非干渉 制御の考え方、ゲインの設計手法などについて説明。 4. 回転位置および回転角速度の計算法: エンコーダの ABZ 信号からを回転位置を決める手法、回転位置情報から 回転角速度を演算する手法について説明。 5. トルク制御および速度制御: 機械系の運動方程式をもとに、速度制御系の構成とゲインの設計手法に ついて説明。誘導電動機についてはベクトル制御の基本的考え方を、永久 磁石同期電動機については突極性を利用する場合の電流制御パターンにつ いても説明。 6. インバータの電圧制御誤差やパラメータ誤差への対応: 三相電圧形インバータの PWM 制御によりベクトル制御や位置/速度セ ンサレス制御を行う場合には、デッドタイムやデバイスのオン電圧による 電圧制御誤差が問題となる。その基本的考え方や補償法について説明。電 動機のパラメータ誤差の影響や対策についても説明。 7. アンケート: 基礎知識(これまでの学習内容)の状況、セミナーの内容やレベル、説 明方法について、今後開催を希望するテーマなど

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1

電気学会技術者教育委員会パワーエレクトロニクス教育 WG

第3回パワエレ・セミナー「電動機駆動の基礎:その2」

2014 年 3 月 13 日(木)13:00~17:00

於:青山学院大学相模原キャンパス L 棟 L-402 教室

主な内容

1. はじめに:本セミナーの概要と位置づけ。

2. 空間ベクトルを用いた電動機の基本式: αβ座標および dq 座標での永久磁石同期電動機の基本式を空間ベクト

ルを用いて表現する場合の考え方とメリットについて説明。 3. インバータの制御遅れを考慮した電流制御:

三相電圧形 PWM インバータにより電動機の三相入力電流を制御する場合には、インバータの制御遅れを考慮することが重要です。この制御遅れを考慮して安定な電流制御を実現するための基本的考え方を説明。サンプル値制御系として取扱いや、αβ座標と dq 座標での考え方の違い、非干渉制御の考え方、ゲインの設計手法などについて説明。

4. 回転位置および回転角速度の計算法: エンコーダの ABZ 信号からを回転位置を決める手法、回転位置情報から

回転角速度を演算する手法について説明。

5. トルク制御および速度制御: 機械系の運動方程式をもとに、速度制御系の構成とゲインの設計手法に

ついて説明。誘導電動機についてはベクトル制御の基本的考え方を、永久磁石同期電動機については突極性を利用する場合の電流制御パターンについても説明。

6. インバータの電圧制御誤差やパラメータ誤差への対応: 三相電圧形インバータの PWM 制御によりベクトル制御や位置/速度セ

ンサレス制御を行う場合には、デッドタイムやデバイスのオン電圧による電圧制御誤差が問題となる。その基本的考え方や補償法について説明。電動機のパラメータ誤差の影響や対策についても説明。

7. アンケート: 基礎知識(これまでの学習内容)の状況、セミナーの内容やレベル、説

明方法について、今後開催を希望するテーマなど

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1. はじめに

前回のセミナー「電動機駆動の基礎:その1」の主な内容 1)空間ベクトルと三相/dq 変換 2)三相電流波形と高調波 3)電動機モデルの導出 4)三相電圧形インバータ 5)三相電圧形インバータの PWM 制御

今回のセミナーはその復習(インバータおよびPWM制御を除く)

と制御関係の解説を中心に進める。

永久磁石同期電動機の可変速駆動システムの構成

○主なハードウェア

電動機(ABZ エンコーダ付)

インバータ(電流センサおよび直流電圧センサ付)

○制御はワンチップマイコン(高性能、低価格)

(多機能:ABZ エンコーダ入力、AD コンバータ、PWM 機能)

速度制御(PI制御)

 電流制御(P制御+非干渉制御)

dqi dqi

dqv

dq/三相 変換

コモンモード電圧加算

 三相PWM三角波比較

三相電圧形  PWM インバータ

 永久磁石同期電動機

  ABZエンコーダ

電圧(Ed)電流(iu,iw) 検出

回転角度  演算

回転速度  演算

三相/dq 変換

 変調率(mu,mv,mw)  演算

m

dq

dq

dq ABZパルス

ゲート信号

三相電流

直流電圧

三相電圧指令

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○基本的には電流制御など、全ての機能を制御プログラムで実現。

○プログラミングのためには原理を確実に理解しておく必要あり。

○制御系の設計には定量的な検討が不可欠。

○このセミナーでは基本的な考え方、具体的な計算方法を解説、

「制御系設計の基礎」⇒ 数式が多くなるがご容赦を

空間ベクトルと三相/dq 変換(復習)

空間ベクトルとは

○基本式(三相/αβ変換)

空間ベクトルの定義

w

j

v

j

u ieiei 3

4

3

2

32

i

三相3線式では 0 wvu iii ( 00 i )であり、零相分を除いて、

ii , だけを考え、複素数で表示可能

jj eii ii

sinjcosj e

基本波のみを考える場合は、極座標表示は振幅と位相に対応。

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uvw, αβの座標軸の関係

注1:複素数1、 3

2j

e 、 3

4j

e は各相の固定子巻線(正弦波分布を仮定)に正

の電流を流した場合にギャップの起磁力(回転子から固定子に向かう方

向を正とする)が 大となる方向を表すもので、三相交流で良く使われ

るフェザーとは異なる。

注2:例えば、三相電流のフェザー II u 、 3

2j

v IeI

、 3

4j

w IeI

は正弦波

波形の実効値と位相を複素数で表したものであり、それぞれ、

tIiu cos2 、 32cos2 tIiv 、 34cos2 tIiw

に対応するものである。

注3:交流フェザーは角周波数 が一定の正弦波のみ考えるのに対し、空間ベ

クトルでの三相電圧・電流は瞬時値(高調波を含む任意の波形)を考え

る。ただし、三相電流あるいは三相電圧の合計は零とする。

u,  a

v

w

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注4:三相電流あるいは三相電圧にコモンモード成分が含まれていても、

01 3

4

3

2

jjee であることから、空間ベクトルには反映されない。

○空間ベクトル(複素数)の内積

複素数を、単位ベクトルとして1およびjを持つベクトルと考え、内積(演

算子を●で表す)を計算する。

基本

cos

j,j jj

xybdac

yedcxeba

yx

yx

大切な関係式

zyzxzyx

21

11

111

3

4j

3

4j

3

2j

3

2j

3

4j

3

4j

3

2j

3

2j

eeee

eeee

これらの関係を用いると

ii

i

Re3

21

3

2

2

3

2

1

3

21

3

21 3

4

3

2

u

uwvuw

j

v

j

u

i

iiiiieiei

同様に

3

4j

3

2j

3

2j

Re3

2,Re

3

2

3

2eieei wv iii

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○電圧・電流とも同じ変換式に従う。

w

j

v

j

u ieiei 3

4

3

2

3

2

i

w

j

v

j

u vevev 3

4

3

2

3

2

v

○三相の瞬時電力は電圧ベクトルと電流ベクトルの内積

wwvvuu

vuwwuwvvwvuu

wvuwvu

iviviv

iiiviiiviiiv

ieieivevev

tp

21

21

21

21

21

21

32

3

2 3

4j

3

2j

3

4j

3

2j

iv

注5:αβ変換の係数 32 は絶対変換(変換の前後で電力が変化しない)と

なるように選んだ結果である。即ち、電圧と電流が同じ変換式に従い、

三相全体の電力が電圧ベクトルと電流ベクトルの内積で簡単に計算で

きるように選んだ結果である。

注6:三相電流を次式で与えると、

3/4cos2,3/2cos2,cos2 tIitIitIi wvu

対応する空間ベクトルは tIe

j3i となる。即ち、空間ベクトル

の大きさは線電流の実効値の 3となる。電圧の場合は線間電圧実効値。

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同期回転座標(dq 座標)とは

回転磁界に同期して回転する dq 座標(同期回転座標)から見ると、基本波

の電圧・電流の空間ベクトルが静止(直流)して見えるため解析が簡単となる。

○基本式(αβ/dq 変換)

dqt

dqt

tdq

tdq

ee

ee

vvii

vvii

jj

jj

,

,

ただし、α軸に対する d 軸の角度を t とする。一例として

Ie

Ie

tdq

t

3

3

j

j

ii

i

3/4cos2Re3

2

3/2cos2Re3

2

,cos2Re3

2

3/4j

3/2j

tIei

tIei

tIi

w

v

u

i

i

i

dq 軸、αβ軸、三相の関係 dq 軸およびαβ軸から見た空間ベクトルの成分

a

d

q

u,  a

v

w

d

q

t

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注1:回転する vi , にte jを乗ずると静止した dqdq vi , に変換され、逆に、

静止した dqdq vi , にte jを乗ずると回転する vi , に変換されると考え

ると忘れない。

注2:座標軸の動きとその座標から見えるベクトルの動きは逆になることに注

意。同じ空間ベクトルであっても、回転している dq 座標から見ると静

止したベクトル dqdq vi , となり、静止したαβ座標から見ると回転するベ

クトル vi , となる。

注3:同様に、u 相軸の方向に比べ、v 相軸の方向は 32 だけ空間位相が進ん

でおり、w 相軸の方向は 34 だけ空間位相が進んでいるが、回転する

空間ベクトル i を各軸から見た正弦波電流波形を比較すると、 ui に比

べ、vi は 32 だけ位相が遅れており、wi は 34 だけ位相が遅れている。

注4:複素数を用いて空間ベクトルを表現すると、回転座標変換を簡単に表現

することができる。行列を用いると分かりにくい。逆行列も単なる除算

となる。

i

i

tt

tt

i

iiei

q

dtjdq cossin

sincos

q

ddq

tj

i

i

tt

tt

i

iiei

cossin

sincos

tt

tt

tt

tte

etj

tj

cossin

sincos

cossin

sincos11

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2.電動機の基本式

永久磁石同期電動機の基本式

○三相を1つの式で表現( 0 wvu iii とする)

eiiv

eiiv

pLr

Mlpr

eiipMiMlpriv

eiipMiMlpriv

eiipMiMlpriv

wvuwww

vuwvvv

uwvuuu

2

3

2

1

2

1

2

1

ただし、 MlLt

p23

,dd

注5:相間の相互誘導により、各相の有効インダクタンスM は 2/3 倍されてL

にあらわれる。

○dq 軸での電圧・電流方程式

dqdqdqdq

dqtt

dqtt

dqtt

dq

dqt

dqt

dqt

dqt

Lpr

eeLepeere

eLepere

Lpr

eiiv

eiiv

eiiv

eiiv

j

jjjjjj

jjjj

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結果としては、 j, ppdq とすればよい。

また、永久磁石による磁束を m とすると、 mdq je である。

○突極形(IPM など)の場合は dq 軸でインダクタンスが異なることを考慮。

mqqdddqdq iLiLpr jjj iv

dq 軸の成分に分解すると

mqqddqq

qqdddd

mqqddqdqd

iLpiLriv

iLiLpriv

iLiLpiirvv

jjjjj

○参考 突極形の場合のαβ軸での電圧電流方程式は複雑な関係式となる。 dq 軸での関係式をαβ軸での関係式に変換してみる。

eii

iv

ttq

td

tt

eeLeLp

ere

jjj

jj

ImjRej

iieLL

iiLL

pr

eiieiieL

p

iieiieL

pere

tqdqd

tttq

ttdtt

j2

j2

jj2

j

jj2

j

2j

jjj

jjjj

eiv

e

iv

ieLLLL

p

ieLLLL

pr

tqdqd

tqdqd

j22

22

2j

2jeiv

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実部および虚部をとり、α軸とβ軸での関係に直すと、

titipLL

piLL

eriv

titipLL

piLL

eriv

qdqd

qdqd

2cos2sin22

2sin2cos22

行列の形に変形すると

i

i

tt

ttp

LL

i

ip

LL

e

e

i

ir

v

v

qdqd

2cos2sin

2sin2cos

210

01

2

10

01

以上の結果より、突極形(IPM など)の場合は dq 軸で考えるのが適切。

誘導電動機の基本式

○静止座標(αβ軸)では次式が成り立つ。

_

_1

22

11_1

jp

pp

0 mmm

m

Lrr

Lr

i

iv

○同期回転座標(dq 軸)の関係に変換すると(形式的に添え字のαβを dq に、

また、微分演算子 p を(p+jω)に置き換えればよい)

m

dq

mm

mdq

Lrr

Lr

i

iv _1

22

11_1

jp

jpjp

0

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この関係式を等価回路で表わすと、次のようになる。

過渡時にも適用できる誘導電動機の等価回路

ただし、 2T は二次側の回路の時定数であり、2

2

22 r

Lr

LT m

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3.インバータの制御遅れを考慮した電流制御

注1:インバータは PWM により電圧を制御するが、通常、1制御周期 T(三

角波比較方式のキャリア周波数 fc=1/T)の間の平均電圧を考える。こ

この電圧はαβ軸での値であり、dq 軸で考える場合には注意が必要。 注2:PWM の制御電圧は制御周期毎に更新されるが、電流制御などの演算の

ため、必然的に1制御周期の遅れ(電流検出タイミングに対し、制御電 圧更新のタイミング)が生じる。

制御周期での平均電圧の計算の一例

表面永久磁石同期電動機で逆起電力に高調波が含まれる場合、基本波電流の

みを流すために必要な電圧は次式に従って算出される。ただし、永久磁石によ

る鎖交磁束は基本波成分の中心に対し対称であると仮定した。

ttttt eeed

dere

d

dt

7j7

5j5

j1

j1

j1 tt

iiv

制御周期内(kT≦t≦(k+1)T)での平均電圧を算出し、制御周期の中点のタ

イミング(t=(k+1/2)T)での電圧と定義すると、

Tk

kTttt

kTkT

TkTk

Tk

kTt

Tk

kTtttTk

kT

tTk

kTt

Tk

kTTk

eeeT

eer

eT

eeeT

deT

re

T

dtT

17j7

5j5

j1

j_1

1j1_1

1j1

17j7

5j5

j1

1 j1

1j1

1

2/1_

12

1t

t1

iii

ii

vv

なお、抵抗による電圧降下は平均電流によるもので近似した。

更に計算を進め、整理すると次式を得る。

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TkTkTk

TkkTTkkTTk

TkkTTkkTTk

Tk

eT

T

eT

T

eT

T

eTT

r

eT

TT

T

v

2/17j7

2/15j5

2/1j1

2/1j_11_1_11_1

2/1j_11_1_11_1

2/1_

2

72

7sin

7j

2

52

5sin

5j

2

2sin

j

2sin

2j

2cos

2

2

2sin

2j

2cos

iiii

iiii

ここで、次の関係式に注意する。

32

42

53

42

100.4,5002.02

!5

1

!3

11!5

1

!3

1sin

,!4

1

!2

11cos

xf

f

f

fTx

xxx

xxx

x

xxxx

c

c

即ち、基本波周波数の 大値に対して 50 倍のキャリア周波数を設定すれば、

222

22

102.312/7

2/7sin,106.11

2/5

2/5sin,1007.01

2/

2/sin

,100.62/sin,102.012/cos

T

T

T

T

T

T

TT

と計算できる。また、抵抗による電圧降下は小さいことから、次のような dq

軸の関係式に書き換えることができる。

TkTkTk

TkkTTkTkkTTkkTTk

Tk

eee

ereT

v

2/17j7

2/15j5

2/1j1

2/1j_11_12/1j_11_1_11_1

2/1_

7j5jj

22j

iiiiii

即ち、

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15

TkTk

kTTkkTTkkTTk

TkTkTkdq

ee

rT

e

2/16j7

2/16j51

_11_1_11_1_11_1

2/1j2/1_2/1_

7j5jj

22j

iiiiii

vv

となり、dq 軸での次の関係式を差分化したものと一致する。

tttdq eeer

d

dt 6j

76j

5j

111 7j5jjjt

iiv

なお、基本波周波数が高く、キャリア周波数を 50 倍程度に選べない場合は、

高調波電圧に対して補正係数をかける必要がある。

電流制御の考え方

○dq 座標での突極形永久磁石同期電動機の基本式は、

mqdqqdddq iiriLiLd

d jjjjt

v

○モータパラメータ、速度、電流の正確な情報が得られれば、電流に関する

フィードバックは比例制御とする。

結果として、制御の基本式は(P 制御+非干渉制御)

ただし、パラメータ誤差、インバータ電圧制御誤差を考慮し、定常偏差低減

のために積分制御を付加する場合が多い。

○比例制御の場合、電圧指令値は次式で与える。

qqddqqddmqdqqdd

qqddqqdd

mqdqqdddq

iLiLiLiLkiiriLiL

iLiLiLiLk

iiriLiL

jjjjjj

jjj

jjjj

v

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電圧制御誤差がないとし、2つの式の差分を取ることにより、

qqddqqdd iLiLkiLiLk

d

djj

t

従って、ラプラス変換して伝達関数を考えると

ks

k

siLsiL

siLsiL

s

s

qqdd

qqdd

)(j)(

)(j)(

)(

)(

○連続系として考えると k を大きく選べば応答速度が上げられることになる。

○パラメータ誤差や電圧制御誤差がある場合に、電流の定常偏差を零とするた

めには、積分補償を不可する必要がある。簡単のため電圧誤差のみを考えた

場合、次式が成り立つ。

)()()()( sss

kksss i

pdq λλvλ

ただし、

)(j)()(

),(j)()(),(j)()(

svsvs

siLsiLssiLsiLs

qddq

qqddqqdd

v

λλ

この場合の応答は次式のように計算され、電流の定常偏差は零となる。

)()()( 22 sksks

ss

ksks

ksks dq

ipip

ip vλλ

また、積分補償の項を計算すると、次式が得られ、その 終値は電圧誤差に

等しくなる。

)()()()(22

sksks

ks

ksks

skss

s

kdq

ip

i

ip

ii vλλλ

PI 制御の場合のゲイン設計については第4節を参照。

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○PWM インバータを用いる場合は制御遅れの検討が不可欠。

○サンプル値制御系として検討

サンプル値系はz変換で解析

定義 nTiizizI nTn

nnT

,)(

0

z変換の例

21

1

1

00

21

1

0

10

10

11

1

1)(,)(

1

1)(,)(

1

1)(,1)(

ze

zTe

zead

d

znTezead

d

ze

zTeznTezIteti

zezezIeti

zzzIti

aT

aT

aT

n

nanT

n

nanT

aT

aT

n

nanTat

aTn

nanTat

n

n

○z変換による電流制御系の解析(インダクタンスのみを負荷とした場合)

基本式のサンプル値系としての表現

電流制御の制御遅れ(1サンプリング周期)を考慮すると

TnTnTn

TnnTTn

iikv

viiT

L

)1()1(2/1

2/1)1(

2つの式を組み合わせると

TnTnnTTn iikiiT

L)1()1()1(

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18

z変換した関係式では、1サンプルリング周期の遅れが1z を乗ずることに相

当するため、

21

2

221

/1

/

zLkTz

zLkT

zI

zI

zIzzIzkzIzzIT

L

具体的な計算例(ステップ応答) 11

1

zzI

1) 4/1/ LkT の場合

nn

n

nn

znzzz

zz

znzzz

zzzz

z

zzz

zzI

5.0115.025.000

1

5.0111

1

5.01

1

1

1

2

4

1

1

21

1

25.01

25.0

321

1

1121

121121

2

121

2

2) 3/1/ LkT の場合

111111

2

121

2

121

2

11

1

1

1

331

1

)3/1(1

)3/1(

zzzzzz

z

zzz

z

zzz

zzI

B

a

A

a

A

aa

ただし

35.0j5.13,35.0j5.13 6/j6/j ee aa

Page 19: 第3回パワエレ・セミナー「電動機駆動の基礎:そ …...1 電気学会技術者教育委員会パワーエレクトロニクス教育WG 第3回パワエレ・セミナー「電動機駆動の基礎:その2」

19

111

1,3j,3j

1

12

aa

BAaaa

aA

従って

02/2/

0

0

1

0

1

0

1

111

111

6sin

3

3

6cos

3

11

11

2

3j11

2

11

/35.0j5.0

/35.0j5.0

1

1

/1

35.0j5.0

/1

35.0j5.0

1/1

/

/1

/

n

nnn

n

nnnnn

n

n

n

nn

n

znn

z

zz

z

zzz

zzzzI

aaaa

a

a

aa

B

a

aA

a

aA

具体的に計算すると

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20

27

280

3

31

3

11

118

1

18

11

2

1

3

3

2

3

3

11

9

8

18

3

18

11

2

3

3

3

2

1

3

11

3

2

3

11

3

30

3

11

3

1

6

3

6

11

2

3

3

3

2

1

3

11

02

1

3

13

2

3

3

11

0

336

2/52/55

224

2/32/33

2

2/12/1

0

T

T

T

T

T

T

i

i

i

i

i

i

i

3) 2/1/ LkT の時

111111

2

11

1

zzzzzz

zzI

B

a

A

a

A

aa

j12j12

4/j

4/j

ee

aa

j1j,1

2

1

2

j

1jj

1

11

1

jj,j2j

2j

j2j

2

1

1

4/3j4/j

24/j2

a

A

a

Aaa

B

Aaaa

aA

ee

e

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21

02/2/

0

0

1

0

1

0

1

111

111

4sin

2

1

4cos

2

11

11j

111

/j1/j1

1

1

/1

j1

/1

j1

1/1

/

/1

/

n

nnn

n

nnnnn

n

n

n

n

n

n

znn

z

zzz

zzz

zzzzI

aaaa

aa

aa

B

a

aA

a

aA

8

91

2

10

2

11

4

5

2

2

2

1

2

2

2

11

4

50

2

11

2

11

12

2

2

1

2

2

2

11

21

21

1

02

2

2

1

2

2

2

11

0

4sin

2

1

4cos

2

11

336

2/52/55

224

2/32/33

2

2/12/1

0

02/2/

T

T

T

T

T

T

n

nnn

i

i

i

i

i

i

i

znn

zI

以上の結果をもとに、ステップ応答をグラフに示すと

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22

○制御遅れに対する対策をしない場合、

比例ゲインは(L/T)の1/3程度が適切。

○制御遅れに対する対策

現在の電圧を用いて、次式に従って電流を予測する。

TnTnnT vL

Tii )2/1()1(

電圧の制御式を変更

TnTnTnTn v

L

Tiikv )2/1()1(12/1

この時、次式のように考えることができる。

1

2

121

)1()1(

)/1(1

/

)(

)(

)()()()(

zLkT

zLkT

zI

zI

zIzzIzkzIzzIT

L

iikiiT

LnTTnnTTn

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16

i*(nT)

k=L/4T

k=L/3T

k=L/2T

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23

1) 1/ LkT の場合

zIzzIzzI

zI 22

2) aLkT 1/ の場合

1

2

1

1

)(

)(

az

za

zI

zI

112

11

21

1

1

11

1

1

11

1

zaz

az

zaz

zazI

zzI

23122

212112

112

11

2

111

11

1

1

11

1

1

1

zazaaz

zzazazaz

zaz

az

zaz

zazI

○計算に使用するインダクタンスが実際の値とずれている場合。

TnnTTn viiT

L2/1)1(

TnTnTnTn v

L

Tiikv )2/1()1()1(2/1 ˆ

ただし、L は実際値、 Lは計算に用いた値

この時、次のように考えることができる。

TnTnTnTn iikvL

kTv )1()1()2/1(2/1 ˆ

z変換して考えると、

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24

)()(ˆ1

)()(

11

11

zIzIkzzVzL

kT

zVzzIzzIT

L

代入して整理すると、

21

2

2211

ˆ/1/1)ˆ/1(1

/

)(

)(

)()(1ˆ1

zLLkTzLkT

zLkT

zI

zI

zIzL

TkzIz

L

Tkzz

L

kT

LLa

za

za

zLL

LzL

zI

zI

L

kT

/ˆ1

1

1

/ˆ11

)(

)(

22

22

2

2

544432221

41211

4121321

122

1

122

22

1

111100

1

11

1

1

1

1

1

1

1

11

1

zazazazaz

azazz

azazzzz

zza

z

zza

zazI

zzI

以上の結果より、インダクタンスの誤差をパラメータにステップ応答を図示

すると、

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25

○インダクタンスの値を正確に合わせる必要があるが、制御遅れを考慮した電

流制御を行うと、2サンプル周期で指令値に一致させることができる。

永久磁石同期電動機における電流制御(制御遅れを考慮)のまとめ

1)現在( Tnt )1( )の検出電流値と電圧指令値および非干渉制御成分より、

次のタイミング( nTt )での電流を予測。指令電圧がリミットされた場合は

リミットされた値を使用。

TnqTnqTnqnTq

TndTndTndnTd

evL

Tii

evL

Tii

)2/1_()2/1_()1_(_

)2/1_()2/1_()1_(_

ただし、

mnTdTnddnTqTnqTnq

nTqTnqqnTdTndTnd

iiLiire

iiLiire

2/2/

2/2/

_)1_(_)1_(2/1_

_)1_(_)1_(2/1_

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

電流

時間 T間隔

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26

2)次のタイミング( Tnt )2/1( )での抵抗の電圧降下および逆起電力を

予測

mTndnTddTnqnTqTnq

TnqnTqqTndnTdTnd

iiLiire

iiLiire

2/2/

2/2/

)1_(_)1_(_2/1_

)1_(_)1_(_2/1_

ここで、

TnqTnqTndTnd iiii )1_()1_()1_()1_( , と近似。

3)次のタイミング( Tnt 2/1 )での電圧指令値を計算

TnqnTqnTqTnq

TndnTdnTdTnd

eiiT

Lv

eiiT

Lv

2/1___2/1_

2/1___2/1_

4)

TnqTnddq vv 2/1_2/1_ jv を三相電圧に変換、ただし、現在( Tnt )1( )

の回転角度に比べ、基本波の位相を T5.1 だけ進めておく必要あり。

その他の注意点 ○実際には PWM のデッドタイムによる電圧制御誤差の補償が必要 ○磁気飽和によるインダクタンスの変化がある場合には制御ゲインの変更が

必要。 ○モータパラメータを出来るだけ正確に把握。誤差が大きい場合には電流制御

に積分も付加することも必要。

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27

4.位置および速度の計算法

ロータリーエンコーダ(ABZ、インクレメンタル)

○ロータリーエンコーダとは: 回転するディスクにスリットを設け、光信号を検出して、回転状況を把握。 インクレメンタル:基準の位置の信号(Z)と単位回転角毎に発生する信号

(A、B)を出力、A、B 信号に位相差を設けることにより、 回転方向を判断。

アブソリュート:回転角度に応じて必要なビット数の角度情報を出力。

○ABZ 信号と回転位置の関係

A

0 1 2‐1 3 4 5 6 7 8 9‐2‐3‐4‐5‐6n=

B

Z

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28

○A 信号、B 信号のいずれかが変化したら位置信号nを変更する。

一回転当たりのパルス数を p とすると、 122 pnp

pn 2 ( )と pn 2 ( )は同じ位置

AB 信号の1周期を4分割していることから、一回転を 4pに分割

○nを直接決められる場合

1Z で 01AB の場合は 0n

1Z で 11AB の場合は 1n

○nを増減する条件( 0Z )

前の状態 今の状態 nの増減

AB=00 AB=10 n=n+1 AB=10 AB=11

AB=11 AB=01 AB=01 AB=00 AB=00 AB=01

n=n-1 AB=01 AB=11 AB=11 AB=10 AB=10 AB=00

○ pn 2 の時は pn 2 に、 12 pn の時 12 pn に変更。

○角度 p

n2

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29

回転角度θから角速度ωを求める方法

○基本式

角度 t t0 d

角度推定値 t t0 dˆˆ

推定誤差 ˆe

角速度演算式 tIp tkk 0 dˆˆˆ

○ブロック線図

○伝達関数

bsassab

ksks

ksk

s

ksks

ksk

IP

IP

IP

IP

2

2

2

1

ˆˆ

ただし

IPP

I kabkabbak

k 2

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30

○a,b の設計

ba

aa

baabbaab

21

1)1(

具体的数値例

a b b/a ab=a+b 2 2 1 4

1.5 3 2 4.5 1.2 6 5 7.2 1.1 11 10 12.1 1.05 21 20 22.05

○加速時の推定誤差(a=b=2)

ttett

ssss

sss

tt

2

2222

2

)(ˆ)(

244

441)(ˆ)(

)(

誤差の 大値を求めると

2

102)(ˆ)( 22 tteett

dt

d tt

735.0242

)(ˆ)( 11max

Pkeett

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31

○加速時の推定誤差(1<a<b)

tbta eeab

tt

bsasabbsas

sabsbas

absbass

tt

)(ˆ)(

11

1)(ˆ)(

)(

222

2

誤差の 大値を求めると

ab

b

tatabtbta

tbta

a

be

a

bebeae

ebeaab

ttdt

d

1

0)(ˆ)(

b

abee

b

aeee tatatatbta

8.06

2.1

)(ˆ)(

8.4

1

2.1

61

1

1

max

PP

ab

a

b

P

ab

b

ab

b

ab

b

kkb

ak

baab

a

b

b

ab

abtt

○加速時( t )の推定誤差は 大で Pk

8.0[rad/s] 程度

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32

○加速時の角度推定の定常誤差(参考)

Iee

tbtae

Is

kab

eabb

eabaab

ttt

kabs

bsabbasabasab

sbsassabsbas

ssabsbas

absbass

t

2

2

20

2

322

2

322

2

2

)(,0)0(

111)(ˆ)()(

ˆ

111111

1)(ˆ)(

2

1

lim

○加速時( 2

2

1t )の角度推定値の定常誤差は

Ik

[rad]

○具体的な数値例

48404001.122421.1220,11,1.1

)50(314

2

abkbakba

Hz

IP

rad065.0ˆlim0

ss

rad/s04.1)(ˆ)( max   tt

注意)制御周期 T(周波数 Fs)のプログラムに組み込む場合

sPP FabkTk *2.01

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33

○エンコーダの分解能によるリプル成分

1 回転 1000 パルスのエンコーダの場合、

の 分 解 能 deg09.0rad/s00157.04000/2 、 従 っ て 、

rad/s35.0Pk のリプルが角速度推定値に重畳する。

○速度推定の伝達関数を考慮した速度制御系の構成

ブロック線図 A:速度推定の伝達関数を指令値側にも挿入

ブロック線図 B(A と等価):速度制御劣化を防止

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34

‐2

‐1.5

‐1

‐0.5

0

0.5

1

1.5

2

‐50

0

50

100

150

200

250

300

350

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3t[s]

角速

度[rad/s]

速度

推定

誤差

[rad/s]角速度

速度誤差

加減速時の速度推定誤差

‐0.1

‐0.08

‐0.06

‐0.04

‐0.02

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

加減速時の角度推定誤差

角度

推定

誤差

[rad]

角速

度[rad/s]

t [s]

角速度

角度推定誤差

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35

5.トルク制御および速度制御

機械系の取り扱い

○機械系の運動方程式

LMdt

dJ

J :系全体の慣性モーメント

L :負荷トルク(機械系の損失も含む)

○慣性モーメントの考え方

機械系では慣性モーメントの値が重要。

電動機により駆動される機械系全体について、運動エネルギーE と慣性モー

メント J (モータ軸換算、電気系換算)の間には次の関係がある。

2

2

1 JE

一例として、電気自動車を考え、 減速機の減速比をk 、車両重量(含む乗員)をM [㎏]、

減速機から見て モータ側にある慣性モーメントの合計を 1J [kg・m2] (モータ軸換算)、 車輪側にある慣性モーメントの合計を 2J [kg・m2] (車軸換算)、 タイヤの半径をr [m]、 車のスピードをv [m/s]とすると、

運動エネルギーの合計は

222

2

12

22

12 1

2

1/

2

1

2

1

2

1

MrJ

kJkJJMvE

従って、 22

2

11

MrJk

JJ

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36

○円柱の中心軸周りの慣性モーメント

内径 r1、外径 r2、重さ M の中空の円柱(均質な材料で出来ている)の中心

軸周りの慣性モーメント J を考える。

中心からの距離の二乗平均が次のように計算できる。

2

2/

2

2 21

22

21

22

41

42

2

2

2

1

2

1 rr

rr

rr

rdr

rdrrr r

r

r

rmean

従って

2

21

222 rr

MrMJ mean

○回転部分の外形や質量から慣性モーメントを推測できる。

○速度制御のためにも出来るだけ正確な機械系全体の慣性モーメントが必要。

r1

r2

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37

速度制御の考え方

○機械系の運動方程式

LMLM dt

dJ

dt

dJ

○慣性モーメントや負荷トルクが不明な場合には PI 補償

tIPM dtkk 0

ただし、1)速度指令値はステップ的に変更しない。 その変化率を制限する。

2)誤差積分をリミット、リセットするのなどの対策

○慣性モーメントが把握できる場合には、次式のような制御も可能。

PLM k

tJ ˆ

d

d

ただし、 L は負荷トルク推定値

○負荷トルクの推定(外乱オブザーバ)

tL

LM

dtkk

tJ

021 ˆˆˆ

ˆˆd

d

実システムの関係 LMtJ

d

d と組み合わせると、

Lt dtkk

tJ 021 ˆˆˆ

d

d

ラプラス変換して考えると

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38

)()()(ˆ)(ˆ

)(/

1)()(ˆ

212

2121

21

skskJs

kskss

sk

ks

sskkJs

ss

LL

L

この伝達関数より、負荷トルク推定値はステップ及びランプ入力に対して、定

常偏差は零となる。負荷変化が遅い場合には 2k =0 とすることも可能。トルク

の制御精度、速度の検出精度が十分であれば、1k 、 2k を大きく選ぶことも可能。

ゲインの設計法の詳細については、前節の検討結果を利用できる。

突極形永久磁石同期電動機の 大トルク制御

○空間ベクトルを用いて、突極形同期電動機の入力電力を計算してみる。

qddqmqqddqd

qmqqddqdqqddd

qqdddqdq

iiLLiLiLpiir

iiLpiLriiiLiLpri

ivivtp

2222

2

1

2

1

iviv

第1項は銅損、第2項は磁気エネルギーの変化、第3項が出力 従って、極対数を1とすると、モータの発生トルクは

qddqqmM iiLLi

○電流の大きさ dqii が同じ条件で、トルクを 大とする qd ii , の関係は

ラグランジュの未定乗数法を用いて求めることができる。

22, qdqddqqmqd iikiiLLiiiL

02,

dqdqqdd

kiiLLiiLi

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39

02,

qddqmqdq

kiiLLiiLi

未定係数k を消去すると、

022 qdqddqdm iLLiLLi

整理すると

mdq

mmqmd

mqmd

iLLawhereiiaaii

aiiaii

222

222

このパターンに沿って電流を制御すると、同じ電流でも大きなトルクを発生

できる。ただし、電流ベクトルの大きさ ii dq の制限値を mi とする。

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40

電圧および電流の制限を考慮した運転パターンの切り替え

○ 大トルク曲線と電流制限の円(振幅を1とする)の交点を求める。

122 mqmd iiii 222 aiiaii mqmd

従って、

2

20122

1

22

222

aaiiiiaii

aiiaii

mdmdmd

mdmd

221

221

22

11

22

222

222

aaaii

aaaaaiiii

mq

mdmq

以上の結果より、dq 軸電流の制御範囲は次式で与えられる。

2

21

2

21

02

2

2222

2

aaa

i

iaaa

i

iaa

m

q

m

d

電流制御ではこれらの関係式を満足するよう、電流指令値を制限する必要がある。

例えば、 12

mdq

m

iLLa

の場合を考えると、下記の制御範囲となる。

2

3

2

3,0

2

31

m

q

m

d

i

i

i

i

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41

○インバータの電圧制限と qd ii , の関係(抵抗の影響が無視できる場合)

インバータが出力できる六角形の内接円の中に電圧ベクトルの定常値が存

在する条件は次式となる。ただし、抵抗の影響は無視できるものとする。

2

2222

2

d

mddqqqdE

iLiLvv

なお、インバータの直流電圧を dE とする。この式を di , qi の関係式として

考え、両辺を 2md iL で除して、以下のように整理する。

2222

md

m

m

d

md

m

m

d

m

q

d

q

iL

E

iLi

i

i

i

L

L

この結果より、md

m

m

d

d

q

iLb

E

L

Lh

2

0 とおくと、

20

22

b

i

ihb

i

i

m

q

m

d

この式は楕円を表し、楕円の中心は 0,/,/ biiii mqmd 、長半径(横軸)

は /0b 、短半径(縦軸)は // 0hb となり、径は角速度に反比例する。

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42

なお、パラメータa とbの間には次の関係がある。

121/2

1

2

h

b

iLLLiLLa

md

m

dqmdq

m

具体例とし、突極比が 5.1 dq LLh の場合には ba となる。

以上、電圧制限の条件下では、 md ii / を次式のように制御する必要がある。

220

m

q

m

d

i

ihbb

i

i

さて、この曲線が原点 0,0/,/ mqmd iiii を通るのは、 0 の時である。

また、 1 の時、この曲線が次式で与えられる mqmd iiii 00 , を通るもの

とする。

2

21,

2

2 220

20

aaa

i

iaa

i

i

m

q

m

d

これらの値が決定されると、次式により 1 を求めることができる。

020

2

0

1

20

2

1

00

m

q

m

dm

q

m

d

i

ih

i

ib

b

i

ihbb

i

i

○トルク 大曲線と電圧制限曲線の交点について

01 の場合には、トルク 大曲線と電圧制限曲線が交差する。その

交点は次のように求めることができる。

2つの曲線 2

0

22

b

i

ihb

i

i

m

q

m

d

、 2

22

ai

ia

i

i

m

q

m

d

mq ii / を消去すると、

2022

2

2

2

baha

i

ihb

i

i

m

d

m

d

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43

整理すると、 0121 22

02

2

2

b

i

iahb

i

ih

m

d

m

d

ここで、 ahb 12 の関係を用いて、bを消去すると、

1122221222 2222 haahhaahahahb

従って、

01211121 22

022

2

ah

i

iha

i

ih

m

d

m

d

これを満足する di の値を _di とすると、

2

20

22222_

1

11141111

h

hhhaha

i

i

m

d

この時の、 qi を _qi とすると、 大トルク曲線上にあることより、

2

2__2

2_

2_ aa

i

i

i

ia

i

ia

i

i

m

d

m

q

m

q

m

d

のように _qi を求めることができる。

○電圧制限曲線と電流制限の円との交点

1 の場合には、電圧制限曲線と電流制限の円の交点により 大トルクが制

限される。この場合の交点は以下のように求めることができる。

2つの曲線 2

0

22

b

i

ihb

i

i

m

q

m

d

、 122

m

q

m

d

i

i

i

i

mq ii / を消去すると、 22

0

2

2

2

hbi

ihb

i

i

m

d

m

d

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44

整理すると、 0121 22

02

2

2

bh

i

ib

i

ih

m

d

m

d

これを満足する di の値を max_di とすると、

1

112

220

222max_

h

bhhbb

i

i

m

d

この時の qi を max_qi とすると、電流制限の円の上にあることより、

2max_max_

2max_

2max_ 11

m

d

m

q

m

q

m

d

i

i

i

i

i

i

i

i

のように max_qi を求めることができる。

○制御プログラムの構成

以上の結果をまとめると、次のような計算手順となる。

準備ステップ1:

モータ定数およびインバータの条件より 0,,, bah を求めておく。

md

m

m

d

d

q

iLb

E

L

Lh

2

0 122

h

b

iLLa

mdq

m

準備ステップ2:電流制限曲線と 大トルク曲線の交点を求めておく。

2

21,

2

2 220

20

aaa

i

iaa

i

i

m

q

m

d

準備ステップ3:電圧制限が問題となる角速度 1 を求めておく。

020

20

1//

mqmd ihiiib

b

制御では、角速度によりとトルク指令により制御パターンを切り替える。

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45

ケース1: 1 の場合

大トルク曲線にそって制御。

22mqmd iiaaii

ただし、q 軸電流指令の大きさを制限する。

2

21

2

21 2222

aaa

i

iaaa

m

q

ケース2: 01 の場合、

角速度により次式により、 _qi をもとめる。

2

20

22222_

1

11141111

h

hhhaha

i

i

m

d

2

2__ aa

i

i

i

i

m

d

m

q

_qi < qi < _qi の時は 大トルク曲線にそって、 max_qi >

qi > _qi または

max_qi < qi < _qi の時は電圧制限曲線にそって運転。

ケース3: max0 の場合は電圧制限曲線にそって運転。

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46

誘導電動機のベクトル制御

三相誘導電動機の基本式は

m

dq

mm

mdq

Lrr

Lr

i

iv _1

22

11_1

jp

jpjp

0

一行目より

mmdqdq Lr iiv jpjp _111_1

二行目を整理すると

mdqmmmmm rLL iiii _12jjp

ここで、入力電力を計算する。変形の途中で、上の関係式を用いる。

mmmmdq

mdqmmdqdq

mmmmdqmdqmdq

mmmdqdq

mdqmmmmdq

mmmdqdq

mmmmdqdqdq

mmdqdqdqdqdq

L

rLdt

d

dt

dr

Lr

Lr

rL

Lr

Lr

Lr

iii

iiiii

iiiiiii

iiii

iiiii

iiii

iiiiii

iiiivi

j

2

1

2

1

j

jpjp

j

jpjp

jpjp

jpjp

_1

2

_1222

_11

2

_11

_1_12_1

_111_1

_12_1

_111_1

_1_111_1

_1_111_1_1_1

銅損、磁気エネルギーの変化分を除くと、トルクは次式で与えられる。

mmmdqmmmmdqm

m LL iiiiii jj1

_1_1

ベクトル制御では、励磁電流を基準として(d 軸に合わせて)、一次電流を次

式のように制御する。

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47

iidd

r

Lm

mdq j

t1

'2

_1

i

なお、上式では、励磁電流を変化させる場合に二次側に流れ込む電流成分を

一次側から供給するための項も考慮してある。ただし、この項は d 軸成分のみ

であるため、次式で与えられるトルクには関係しない。

iiL mmm

一方、基本式の2行目より一次電流を算出すると次式が得られる。

mmm

mm

dq ir

Li

dd

r

L

22

_1 jt

1i

先の結果と比較すると、

mm

msmmm

i

i

L

ri

r

Li 2

2

以上の結果より、誘導電動機のベクトル制御の流れは

1) 励磁電流 mi を設定する。

2) トルク指令 m より、トルク電流 i を計算する。 )/( mmm iLi

3) すべり角周波数を計算する。mm

s i

i

L

r 2

4) 検出速度とすべり角周波数より、一次角周波数計算する。 sm

5) 一次電流指令値を計算する。 iidd

r

Lm

mdq j

t1

2_1

i

6) 同期回転座標上で、一次電流制御を行う。

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48

6.インバータの電圧制御誤差やパラメータ誤差への対応

デッドタイムによる電圧制御誤差の考え方(前回の復習)

○各相で上下の IGBT が同時にオンしないよう、通常、オン信号の立ち上がり を少し遅らせる。この時間をデッドタイム tdeadと呼ぶ。

○デッドタイムの間は上下いずれの IGBT もオフとなるため、見かけ上、出力 電圧は不定となる。実際には負荷インダクタンスのために出力電流が瞬時に 零となることはなく、IGBT に逆並列に接続されているダイオードを通して 直流電源に還流することになる。

○スイッチング時の相電流瞬時値が正の場合 上側の IGBT から下側の IGBT への切り替え:

相電流を流している上の IGBT をターンオフすると自動的に下のダイオ ードがオンとなり、出力電圧が Ed/2 から-Ed/2 に切り替わるため、デッ ドタイムの影響は生じない。

下側の IGBT から上側の IGBT への切り替え: 下の IGBT には電流は流れておらず、逆並列のダイオードを通して電流が 流れているため、下の IGBT をオフとしても出力電圧は-Ed/2 のままであ り、上の IGBT をターンオンして初めて出力電圧が Ed/2 に切り替わる。 この結果、キャリア周期Tでの平均出力電圧はEd*(tdead/T)だけ低下する。

○スイッチング時の相電流瞬時値が負の場合 上側の IGBT から下側の IGBT への切り替え:

上の IGBT には電流は流れておらず、逆並列のダイオードを通して電流が 流れているため、上の IGBT をターンオフしても出力電圧は Ed/2 のまま であり、下の IGBT をターンオンして初めて-Ed/2 に切り替わる。 この結果、キャリア周期Tでの平均出力電圧はEd*(tdead/T)だけ増加する。

下側の IGBT から上側の IGBT への切り替え: 相電流を流している下の IGBT をターンオフすると自動的に上のダイオ ードがオンとなり、出力電圧が Ed/2 から-Ed/2 に切り替わるため、デッ ドタイムの影響は生じない。

○スイッチング時の相電流瞬時値が零の場合 デッドタイム期間では前の出力電圧が維持されるため、出力したい電圧と は極性がことなるが、2つの切り替えでの平均電圧の誤差がキャンセし、

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49

キャリア周期での平均出力電圧誤差は零となる。

○以上のことを総合すると 1)デッドタイムによる電圧制御誤差はスイッチング時の電流値に依存する。

特に、電流が小さい領域で大ききく変化する。 2)IGBT やダイオードのオン電圧も電圧制御誤差の原因となる。 3)相電圧の制御誤差(指令値電圧-実際の平均出力電圧)は、下図の

ようにスイッチング時の相電流瞬時値により定まる。

○実験による補償パターンの決定

永久磁石同期電動機の2つの相(例えば u相と v相)のみに直流電流を流す

ため、d軸方向を u 相軸より w 相軸側に 30 度だけずらし、PI 補償で電流制御

を構成し,d 軸電流のみを流して、電流指令値の大きさを出来るだけゆっくりと

変化させる。

dd riv と di の関係を、 dduu rivriv 3/2 と du ii 3/2 の関係に変

更することにより、各相の補償パターンを求めることができる。

‐5

‐4

‐3

‐2

‐1

0

1

2

3

4

5

‐1 ‐0.5 0 0.5 1

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50

パラメータのオンライン同定の考え方

電流制御の所で述べたように、電流制御を PI 補償により行うと、電流誤差

の積分項は、電圧制御誤差の値に収束する。ただし、二次の Low-pass フィル

タが等価的に挿入される問題点がある。ここでは、オブザーバを用いたパラメ

ータ同定を永久磁石同期電動機に適用することを考える。なお、簡単のため、

位置および速度はセンサにより十分な精度で検出できているものとする。

突極形永久磁石同期電動機の基本式は

mqqdddqdq iLiLpr jjj iv

また、オブザーバを次のように設計する。

qqqdddmqqdddqdq iiLiiLiLiLpr ˆˆˆˆjˆjˆˆjˆˆjˆˆ iv た

だし、 dqdL i, などは実際の値、 dqdL i,ˆ などは推定値を表す。

電圧制御誤差が無視できるとして、2つの式の差分をとると、

qqqdddmm

qqqqdddddqdq

iiLiiL

iLiLiLiLprr

ˆˆjˆˆjˆj

ˆˆjˆˆjˆˆ0

ii

この式を変形すると、

qqq

qqdd

d

dd

mm

mmdq

dqdqqqqddd

iLppL

LLiLp

pL

LL

pr

pr

rr

rp

iiLiiL

00

00

00

00

jj1ˆ

j1ˆ

j1ˆ1ˆ

ˆˆ1ˆˆjˆˆ

i

ii

ただし、 0000 ,,, qdm LLr はそれぞれのパラメータの基準値を表す。

さて、上の式の左辺はオブザーバで推定した電流および検出電流から算出可

能であり、この値は、右辺が示すように色々なパラメータに誤差があると複雑

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に変化する。上式を整理すると、次の形に変形できる。

ただし、

qqLdddLd

mdqr

dqdqqqqddddq

iLpp

iLpp

pr

p

rp

iiLiiL

00

00

jj1

,j1

j1

,1

ˆˆ1ˆˆjˆˆ

ff

fif

iiλ

次のようなパラメータのオンライン同定を考える。

dqLqqqdqLqqq

dqLddddqLddd

dqmmdqmm

dqrdqr

kLdtLddtkLL

kLdtLddtkLL

kdtddtk

krdtrddtkrr

λfλf

λfλf

λfλf

λfλf

00

00

00

00

/ˆˆ

/ˆˆ

/ˆˆ

/ˆˆ

一方、次式のようなポテンシャル関数を考える。

2

0

2

0

2

0

2

0

ˆˆˆˆ

q

qq

d

dd

m

mm

L

LL

L

LL

rrr

U

この時間変化を求めると、

2

0000

00000000

2

ˆˆˆˆ2

t

ˆ1ˆ2

t

ˆ1ˆ2

t

ˆ1ˆ2

t

ˆ1ˆ2

t

dq

dqLqq

qqLd

d

dd

m

mmr

q

qq

qqd

dd

ddm

mm

mm

k

L

LL

L

LL

r

rrk

d

Ld

LL

LL

d

Ld

LL

LL

d

d

d

rd

rr

rr

d

dU

λ

λffff

この結果は、提案したパラメータ同定を行うと、パラメータ誤差の二乗和を表

すポテンシャル関数は単調減少となることを示す。

Lqq

qqLd

d

dd

m

mmrdq L

LL

L

LL

r

rrffffλ

0000

ˆˆˆˆ

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