特 集 図2 作業(縦軸)と工程(横軸) 良い現場には 良い流れが …€¦ ·...

良い現場には良い流れがある 4 27 39 12 17 調1 1 業種を問わず人材難・人手不足の状況が深刻である昨今、 顧客にとっての付加価値を限られた人員で高めていくには、 現場改善による労働生産性の向上が不可欠です。そのような 中、当センター事業「福井ものづくり改善インストラクター スクール(以下、スクール事業)」「同インストラクター派遣 事業(以下、派遣事業)」により、これまでの4年間で多く の県内企業が現場改善を図り、成果を上げています。スクー ル事業・派遣事業の統括責任者である窪 くぼ まさあき 明氏にスクール 事業の産みの親である東京大学大学院の藤 ふじもと 本隆 たかひろ 宏教授が唱え られている理論『良い流れが良い現場をつくる』を福井県内 の企業がどのように活用されているかを伺いました。 良い現場には 良い流れがある 1 良い現場には良い流れがある 3 【受講生事例①】ジャパンポリマーク㈱ 5 【受講生事例②】㈱日本エー・エム・シー 6 【派遣事例①】㈱北川 7 【派遣事例②】㈱山内スプリング製作所 8 【派遣事例③】山甚撚糸㈱ 9 インストラクターの紹介 10 令和2年度 福井ものづくり改善インストラクター スクール・派遣事業のご案内 11 今月の注目企業  13 Start a New Project 株式会社ぼんた ◦株式会社 PANTES365 Japan 14 こんにちは。FOIPです。 15 グッドデザインシンキング 16 総合相談 17 「IT」教えて先生! 18 新スポット巡礼 20 インフォメーション他 Contents モノと設計情報の流れの図 作業(縦軸)と工程(横軸) 記述 サイクル時間 転写時間 非転写時間 良品率 可動率 記述 サイクル時間 転写時間 非転写時間 良品率 可動率 記述 サイクル時間 転写時間 非転写時間 良品率 可動率 記述 サイクル時間 転写時間 非転写時間 良品率 可動率 作業者 設備 作業者 設備 作業 設計 設備 設計 作業 設計 設備 設計 設計情報が作業者・生産設備に ストックされている 設計情報の流れ モノの流れ 作業者は設計情報である作業手順書・作業標準書・技術指示書を頭に入れて作業することで、材料が付加価値をつけて 工程順に製品になっていく。また、生産設備も入力された加工条件に基づいて加工することで材料が付加価値をつけて 工程順に製品になっていく。 設計情報 作業を要素作業に分解 要素作業毎に ムリ・ムダ・ムラを除いて楽に 早く正確に安く できる方法を考える 動作改善 作業者 の動き 正味 作業 付随作業 正味 作業 手待ち 中間製品の積み替え 意味のない運搬 持ち替え 運搬の2度手間 作業者 の動き 正味作業時間比率の改善策 ■多品種少量生産又は一品物生産における管理情報の課題 ⒈ 見積もり時の作業工数が保存されていない ⒉ 実績工数が把握されていない ⒊ 従って見積もり工数と実績工数の差の検証がなされていない ⒋ 生産工程において品番毎の進捗情報が入力されていない ⒌ 従って品番毎の進捗がリアルタイムに照会できない 設計図面が電子データで保存されておらず、加工履歴も保存されていないので類似品が流れる場合の参考にできない 材料の発注、受け入れがハンドで処理されている為、材料の予定納期、入荷日を関係者が照会できない ■管理情報がシステム的に全て繋がって良い流れになると ⒈ 一品物生産に於ける見積もり原価精度が上がる ⒉ 品番毎の進捗状況がリアルタイムに照会できることにより、納期遵守率の向上を図ることが出来る ⒊ 見積もり工数と実績工数を把握できることで一品物の原価管理精度が向上する 材料の納期がリアルタイムに照会できることにより、生産小日程計画を柔軟に変更することが可能となる ⒌ 関係者全員の労働生産性が向上する 製 造 得意先 FAX、メールなど 材料見積 材料見積 工数見積 生産計画 所要量計画 日程計画 売 上 作業指示 見 積 受 注 材料発注 発 注 モノと管理情報の流れが一致していない(場合が多い) 関係者が材料の 入荷納期入荷日 を照会できない 仕 入 納品書 図面 図面 納品・ 請求書 生産実績工数を 把握していない 図面 指示書 図面 指示書 図面 指示書 図面 指示書 図面 指示書 工程1 工程2 工程3 工程4 製品 見積工数が 利用されない 管理情報の流れ モノの流れ 仕入先 新しい“ものづくり”とは 出典:KMRC 幸田ものづくり研究センター 生産要素 工場の生産現場だけに閉じたプロセスとして見るのではなく、 企画・研究開発・購買・生産・販売・協力会社・顧客を巻き込んだ開かれたプロセスと見る 従って、モノをつくることでは無く、顧客にとって価値のある 設計情報 (付加価値)を「モノ(媒体)につくりこむ」ことである 付加価値(設計情報)を顧客に届ける一連の活動 企画 ~ 研究開発 ~ 購買 ~ 生産 ~ 販売 ~ 協力会社 ~ 顧客 :狭義のものづくり現場 (原材料・労働力・機械など) 生産 有用な財 変換プロセス 有形 (product) 無形 (service) 新しい“ものづくり”の概念 出典:東京大学ものづくり人材育成スクール資料 出典:東京大学ものづくり人材育成スクール資料 図2 図3 図4 図1 多品種少量生産又は一品物生産における モノと管理情報の流れ図 くぼ まさあき 福井ものづくり改善インストラクター スクール事業、派遣事業 統括責任者 2015年7月から福井ものづくり改善インストラクタースクール の立上げ業務に従事、東京大学ものづくりインストラクター 養成スクール第11期修了生。 1 2 vol.41 vol.41

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Page 1: 特 集 図2 作業(縦軸)と工程(横軸) 良い現場には 良い流れが …€¦ · 特 集 良い現場には良い流れがる い事例が多いのも事実です。分で転写の効率が極めて悪や設備設計・加工条件が不十照)。しかしながら作業設計トックされています(図2参者や生産設備に設計情報がス実態

特 集 良い現場には良い流れがある

間の割合が非常に少ないのが

実態です。生産工程では作業

者や生産設備に設計情報がス

トックされています(図2参

照)。しかしながら作業設計

や設備設計・加工条件が不十

分で転写の効率が極めて悪

い事例が多いのも事実です。

転写の効率を改善するに

は(図3)の取り組みが必要

であると考えます。つまり、

ムダを無くして設計情報の

『良い流れ』を作る取り組み

が必要だということです。ま

た、その改善を指導するのが

ものづくりインストラクター

の仕事です。

管理情報のよい流れとは

受注や発注等の管理情報の

流れが阻害されているため

に、全社の業務効率が悪い企

業が多い実態もあります(図

4参照)。ものづくりインス

トラクターが企業ごとに現状

分析し、流れ改善の考え方を

示し、具体的な改善提案をし

ています。

流れを作る『ものづくり技

術』は特定の産業や現場を超

えて地域全体で共有できる汎

用的な管理知識の体系です。

福井県の企業の現場を見れば

優れたものづくり技術が十分

に共有された状態になって

いないことも多くあります。

従って、福井県は良い「流

れ」作りを指導できる改善の

専門家が必要ではないかと考

えます。当スクール事業はイ

ンストラクターを養成するカ

リキュラムとなっておりま

す。過去4年間で、スクール

事業においては知識をオープ

ン化し、他の企業、他の業種

でも現場管理・現場改善の指

導ができる人材を数多く育成

しています。これまでに現役

修了生27社・39名、OB修了

生12名を輩出しました。現役

修了生は自社で現場改善を主

導し、OB修了生はインスト

ラクターとして派遣事業で17

社の流れ改善を提案していま

す。結果として福井県の多く

の企業で付加価値の流れが格

段に良くなり、良い現場が確

保される可能性が高まってい

るのは確かです。

参考文献 

藤本隆宏・柴田孝(2013)

『ものづくり成長戦略』光文社新書

モノや管理情報の流れが

良い現場を持つ企業が

福井県の更なる発展を

後押しする

良い「現場」とは、顧客に

向かう付加価値の流れが良

く、その流れを制御する組織

を有する現場のことを指しま

す。ここでの良い「流れ」と

は、正確で、よどみがなく、

効率的で、柔軟な流れのこと

を指します。言い換えれば①

品質、②リードタイム、③生

産性、④フレキシビリティー

が良い流れを判定する基準と

なります。これらを実現する

為には、多能工のチームワー

クによって、顧客へと向かう

良い設計の良い流れを繰り返

しもたらす組織を作り、強い

調整力を特徴とする組織を作

ることが必要です。労働力不

足の中で中小企業がさらに成

長するには、企業内で多能工

を増やし、企業間でサプライ

チェーンを発達させ、企業内

外でチームワークが発達する

ことが必須となります。当セ

ンターではスクール事業や派

遣事業を通して福井県内の中

小企業に「良い流れ作り」の

支援をしています。

良い流れをつくる

ものづくり技術とは

藤本教授が唱える「もの

づくり」とは、良

い設計情報(付加

価値)を良い流れ

によって主材料に

転写し顧客に届け

ることを指します

(図1参照)。更に

は強い固有技術を

良い流れでつなぎ

合わせるのが『も

のづくり技術』で

す。

正味作業時間

とは設

計情報を本

当に転写している

(真のものづくりを行ってい

る)時間を「正味作業時間」

といいます。福井県の中小企

業では、1日に占めるその時

業種を問わず人材難・人手不足の状況が深刻である昨今、顧客にとっての付加価値を限られた人員で高めていくには、現場改善による労働生産性の向上が不可欠です。そのような中、当センター事業「福井ものづくり改善インストラクタースクール(以下、スクール事業)」「同インストラクター派遣事業(以下、派遣事業)」により、これまでの4年間で多くの県内企業が現場改善を図り、成果を上げています。スクール事業・派遣事業の統括責任者である窪

くぼ田た正まさあき明氏にスクール

事業の産みの親である東京大学大学院の藤ふじもと本隆

たかひろ宏教授が唱え

られている理論『良い流れが良い現場をつくる』を福井県内の企業がどのように活用されているかを伺いました。

良い現場には良い流れがある

特 集

1 良い現場には良い流れがある3 【受講生事例①】ジャパンポリマーク㈱5 【受講生事例②】㈱日本エー・エム・シー6 【派遣事例①】㈱北川7 【派遣事例②】㈱山内スプリング製作所8 【派遣事例③】山甚撚糸㈱9 インストラクターの紹介10 令和2年度福井ものづくり改善インストラクタースクール・派遣事業のご案内

11 今月の注目企業 13 StartaNewProject ◦株式会社ぼんた ◦株式会社 PANTES365 Japan14 こんにちは。FOIPです。15 グッドデザインシンキング16 総合相談17「IT」教えて先生!18 新スポット巡礼20 インフォメーション他

Contents

モノと設計情報の流れの図 作業(縦軸)と工程(横軸)

作業分析の流れ

記述サイクル時間転写時間非転写時間良品率可動率

記述サイクル時間転写時間非転写時間良品率可動率

記述サイクル時間転写時間非転写時間良品率可動率

記述サイクル時間転写時間非転写時間良品率可動率

作業者 設備作業者 設備

作業設計

設備設計

作業設計

設備設計

設計情報が作業者・生産設備にストックされている

設計情報の流れモノの流れ

作業者は設計情報である作業手順書・作業標準書・技術指示書を頭に入れて作業することで、材料が付加価値をつけて工程順に製品になっていく。また、生産設備も入力された加工条件に基づいて加工することで材料が付加価値をつけて工程順に製品になっていく。

設計情報

労働生産性の向上

●作業を要素作業に分解●要素作業毎に●ムリ・ムダ・ムラを除いて楽に

早く正確に安くできる方法を考える

動作改善作

ダ付随作業

作業者の動き

正味作業

付随作業

正味作業

●手待ち ●中間製品の積み替え ●意味のない運搬 ●持ち替え ●運搬の2度手間

作業者の動き

正味作業時間比率の改善策

■多品種少量生産又は一品物生産における管理情報の課題⒈ 見積もり時の作業工数が保存されていない⒉ 実績工数が把握されていない⒊ 従って見積もり工数と実績工数の差の検証がなされていない⒋ 生産工程において品番毎の進捗情報が入力されていない⒌ 従って品番毎の進捗がリアルタイムに照会できない⒍ 設計図面が電子データで保存されておらず、加工履歴も保存されていないので類似品が流れる場合の参考にできない⒎ 材料の発注、受け入れがハンドで処理されている為、材料の予定納期、入荷日を関係者が照会できない

■管理情報がシステム的に全て繋がって良い流れになると⒈ 一品物生産に於ける見積もり原価精度が上がる⒉ 品番毎の進捗状況がリアルタイムに照会できることにより、納期遵守率の向上を図ることが出来る⒊ 見積もり工数と実績工数を把握できることで一品物の原価管理精度が向上する⒋ 材料の納期がリアルタイムに照会できることにより、生産小日程計画を柔軟に変更することが可能となる⒌ 関係者全員の労働生産性が向上する

製 造

得意先FAX、メールなど材料見積

材料見積

工数見積

生産計画

所要量計画 日程計画 売 上

作業指示

見 積

受 注

材料発注

発 注

モノと管理情報の流れが一致していない(場合が多い)

関係者が材料の入荷納期入荷日を照会できない

仕 入納品書

図面

図面

納品・請求書

生産実績工数を把握していない

図面指示書

図面指示書

図面指示書

図面指示書

図面指示書

工程1 工程2 工程3 工程4製品

見積工数が利用されない

管理情報の流れモノの流れ

仕入先

新しい“ものづくり”とは新しい“ものづくり”の概念

出典:KMRC 幸田ものづくり研究センター

生産要素

工場の生産現場だけに閉じたプロセスとして見るのではなく、企画・研究開発・購買・生産・販売・協力会社・顧客を巻き込んだ開かれたプロセスと見る

従って、モノをつくることでは無く、顧客にとって価値のある設計情報(付加価値)を「モノ(媒体)につくりこむ」ことである

付加価値(設計情報)を顧客に届ける一連の活動

企画 ~ 研究開発 ~ 購買 ~ 生産 ~ 販売 ~ 協力会社 ~ 顧客

購 買

販 売

:狭義のものづくり現場

(原材料・労働力・機械など)

生産 有用な財

変換プロセス 有形(product)無形(service)

製品開発

研究開発

新しい“ものづくり”の概念

出典:東京大学ものづくり人材育成スクール資料

出典:東京大学ものづくり人材育成スクール資料

図2

図3

図4

図1

多品種少量生産又は一品物生産におけるモノと管理情報の流れ図

窪くぼ

田た

正まさあき

明氏福井ものづくり改善インストラクター スクール事業、派遣事業統括責任者

2015年7月から福井ものづくり改善インストラクタースクールの立上げ業務に従事、東京大学ものづくりインストラクター養成スクール第11期修了生。

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