第 章 2 外国旅行の動向 フィリピン ·...

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7 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2018(アジア新興5市場編) 第  章 2 外国旅行の動向 外国旅行の現状と展望 2-1 1. 外国旅行 フィリピン人の外国旅行需要は増加しているもの の、フィリピン政府が 2010 年以降、フィリピン人の 外国旅行者数を公表していないために、正確な外国 旅行者数は不明である。しかし、旅行先(受入国・ 地域)の統計から、フィリピン人入国者数が増加し ている状況を掴むことができる。 東アジア・東南アジア各国・地域(未発表の中 国を除く)の 2017 年 11 月時点の入国統計によると、 2016年のフィリピン人入国者数は、シンガポール (69.1 万人)、香港(67.6 万人)、韓国(55.7 万人)、日 本(34.8 万人)、インドネシア(29.9 万人)、台湾(17.3 万人)、ベトナム(11.1 万人)、カンボジア(10.8 万人) となり、いずれの国・地域も 2016 年には過去最高を 記録した。 なお、フィリピン人が東アジア・東南アジアを訪 問する際、日本、中国、韓国では査証が必要(ただ し韓国の済州島のみを訪問する場合は査証免除)で あるが、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の 間では相互に査証が免除されている。 東アジア・東南アジア以外のフィリピン人の訪問 状況を、世界観光機関(UNWTO)の 2015 年統計で 見ると、米国(23.9万人)、クウェート(21.4万人)、 バーレーン(20.6万人)、サウジアラビア(13.4万人) が上位渡航先となっている。 上述のいずれの数値にも海外出稼ぎ労働者 (Overseas Filipino Workers:OFWs)が含まれてお り、特に、香港、シンガポール、中東諸国は出稼ぎ 労働者が多い国・地域として知られている。 フィリピンでは貧富の差が著しく、外国旅行は 富裕層や企業勤めで収入が安定している層に限られ る。近年の経済成長を背景に、経済的にゆとりのあ る人々の間では、家族旅行や若者旅行の旅行先とし て、外国旅行が注目を集めている。 2. 訪日旅行 ■査証代理申請制度と査証緩和 フィリピンの訪日旅行市場を語る上で必要不可欠 なのが、査証申請の制度である。 査証の申請時には、在フィリピン日本国大使館が認 定した「査証代理申請機関(Accredited Agencies)」 *1 を通じて行う必要がある。この査証代理申請機関に 査証申請を依頼できる「取次機関」も存在している。 フィリピン旅行会社協会(Philippine Travel Agencies Association:PTAA) 加 盟 社 か 国 際 航 空 運 送 協 会 (IATA)のフィリピン支部(Philippine IATA Agents Association:PIATA)加盟社となっていることが「取 次機関」としての認定条件である。PIATA 加盟社は 2013 年 6 月に「取次機関」の認定を受け、訪日旅行申 し込みの窓口が拡大した。 日本政府は、日・ASEAN 友好協力 40 周年を契機 として、2013年7月1日から、フィリピン国内に居 住するフィリピン国民(一般旅券所持者)に対する 短期滞在数次査証の発給を開始した。これに加え、 円安と航空座席供給量の増加に伴う航空券の低価格 化が訪日旅行の急増を牽引した。 2014 年 6 月には数次査証の有効期限や滞在期間に ついて追加で緩和措置が取られた。同年11月には、 在フィリピン日本国大使館が指定するフィリピン旅 行会社(以下「指定旅行会社」) *2 のパッケージツ アーを利用して訪日するフィリピン国民の一次査証 (一回のみ有効の査証)の発給申請を、簡易な手続 きで行うことができる制度の運用が始まった。これ により、従来査証申請者本人が用意する必要があっ た書類の一部(渡航費用支弁能力を立証する書類な ど)の提出を省略することが可能となった。ただし、 指定旅行会社制度の導入後も査証代理申請の制度に は変更がなく、指定旅行会社であっても査証代理申 請機関でない旅行会社は、査証代理申請機関に申請 を依頼する必要がある。 *1:査証代理申請機関は、在フィリピン日本国大使館のウェブサ イトで公開されている。 http://www.ph.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000253.html *2:指定旅行会社のリストは、以下のウェブサイトに掲載されて いる。 http://www.ph.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000256.html

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第  章2 外国旅行の動向

外国旅行の現状と展望2-1

1. 外国旅行フィリピン人の外国旅行需要は増加しているもの

の、フィリピン政府が2010年以降、フィリピン人の外国旅行者数を公表していないために、正確な外国旅行者数は不明である。しかし、旅行先(受入国・地域)の統計から、フィリピン人入国者数が増加している状況を掴むことができる。

東アジア・東南アジア各国・地域(未発表の中国を除く)の2017年11月時点の入国統計によると、2016年のフィリピン人入国者数は、シンガポール

(69.1万人)、香港(67.6万人)、韓国(55.7万人)、日本(34.8万人)、インドネシア(29.9万人)、台湾(17.3万人)、ベトナム(11.1万人)、カンボジア(10.8万人)となり、いずれの国・地域も2016年には過去最高を記録した。

なお、フィリピン人が東アジア・東南アジアを訪問する際、日本、中国、韓国では査証が必要(ただし韓国の済州島のみを訪問する場合は査証免除)であるが、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の間では相互に査証が免除されている。

東アジア・東南アジア以外のフィリピン人の訪問状況を、世界観光機関(UNWTO)の2015年統計で見ると、米国(23.9万人)、クウェート(21.4万人)、バーレーン(20.6万人)、サウジアラビア(13.4万人)が上位渡航先となっている。

上述のいずれの数値にも海外出稼ぎ労働者(Overseas Filipino Workers:OFWs)が含まれており、特に、香港、シンガポール、中東諸国は出稼ぎ労働者が多い国・地域として知られている。

フィリピンでは貧富の差が著しく、外国旅行は富裕層や企業勤めで収入が安定している層に限られる。近年の経済成長を背景に、経済的にゆとりのある人々の間では、家族旅行や若者旅行の旅行先として、外国旅行が注目を集めている。

2. 訪日旅行■査証代理申請制度と査証緩和

フィリピンの訪日旅行市場を語る上で必要不可欠なのが、査証申請の制度である。

査証の申請時には、在フィリピン日本国大使館が認定した「査証代理申請機関(Accredited Agencies)」*1

を通じて行う必要がある。この査証代理申請機関に査証申請を依頼できる「取次機関」も存在している。フィリピン旅行会社協会(Philippine Travel Agencies Association:PTAA)加盟社か国際航空運送協会

(IATA)のフィリピン支部(Philippine IATA Agents Association:PIATA)加盟社となっていることが「取次機関」としての認定条件である。PIATA加盟社は2013年6月に「取次機関」の認定を受け、訪日旅行申し込みの窓口が拡大した。

日本政府は、日・ASEAN友好協力40周年を契機として、2013年7月1日から、フィリピン国内に居住するフィリピン国民(一般旅券所持者)に対する短期滞在数次査証の発給を開始した。これに加え、円安と航空座席供給量の増加に伴う航空券の低価格化が訪日旅行の急増を牽引した。

2014年6月には数次査証の有効期限や滞在期間について追加で緩和措置が取られた。同年11月には、在フィリピン日本国大使館が指定するフィリピン旅行会社(以下「指定旅行会社」)*2のパッケージツアーを利用して訪日するフィリピン国民の一次査証

(一回のみ有効の査証)の発給申請を、簡易な手続きで行うことができる制度の運用が始まった。これにより、従来査証申請者本人が用意する必要があった書類の一部(渡航費用支弁能力を立証する書類など)の提出を省略することが可能となった。ただし、指定旅行会社制度の導入後も査証代理申請の制度には変更がなく、指定旅行会社であっても査証代理申請機関でない旅行会社は、査証代理申請機関に申請を依頼する必要がある。

*1:査証代理申請機関は、在フィリピン日本国大使館のウェブサイトで公開されている。

http://www.ph.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000253.html*2:指定旅行会社のリストは、以下のウェブサイトに掲載されて

いる。 http://www.ph.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000256.html

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■現状訪日フィリピン人数は、2004年には15万4,588人

と、当時の過去最高を記録したが、訪日目的の内訳を見ると、「観光」の割合は25%に過ぎず、53%が興行目的を中心とする「その他」に分類されていた。その後、2005年に出入国管理および難民認定法の改正が行われた結果、「その他」客が2004年の9万7,372人から2010年には1万9,914人に減少し、訪日フィリピン人総数は半減した。しかし、前述の査証緩和措置や航空路線の拡大などの追い風を受け、2014年には訪日フィリピン人数(18万4,204人)が10年ぶりに過去最高を更新し、2015年(26万8,361人)、2016年(34万7,861人)と大幅に増え続けた。観光客の割合は2011年当時5割に満たなかったが、2014年には7割以上に上昇し、2016年には8割を超えた。訪日旅行市場が観光客による増加で成長していることが分かる。

訪日旅行需要の拡大に伴い、訪日旅行商品を取り扱う旅行会社も増加の一途を辿っている。旅行会社間の競争は激化し、数年前まではゴールデンルートを巡るパッケージツアーがほとんどであったが、中部、北海道、九州を訪れるツアーも登場している。また、個人旅行が多いという市場ニーズの特徴を反映し、「ランド・パッケージ」(往復の空港リムジンバスチケット、宿泊、ツアーをセットにしたもの)や「フリー&イージー型」(航空券と宿泊、または宿泊と空港からのアクセスをセットにしたもの)などの商品が販売されている。

■今後の展望東南アジアで二番目に多い1億人を超える人口、

日本への飛行時間が4時間から4時間半と比較的短いという地理的好条件、好調な経済の継続といった状況を踏まえると、今後もフィリピンの訪日旅行市場は持続的な成長が見込まれる。そのような中、下記のような変化が今後市場に表れてくるものと予想される。

〇個人旅行者の更なる増加観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、

訪日フィリピン人の9割以上が個人旅行者となっている。今後訪日旅行に対する需要がますます高まることが予想される中、個人旅行者のニーズへの適切な対応が市場拡大の鍵を握る。実際には家族単位での旅行ニーズが高いことから、テーマパークなど家族で楽しめる場所を含むモデルルートの提案や、公共交通機関の利用法に関する丁寧な情報発信が求め

られる。旅行会社に対しては、交通機関の周遊パスや複数の観光施設が割引料金で利用できるパスなど、個人旅行者のニーズに対応した旅行商品の拡充を働きかけることが必要となる。

〇リピーター需要への対応2013年に発給が開始された数次査証を契機に、「日

本を何度も訪れたい」という需要が高まっている。その一方で、東京、大阪、京都、北海道といった人気観光地以外に関する認知度は低い。観光庁「宿泊旅行統計調査」の結果を見ても、訪日フィリピン人の宿泊先は関東・関西に大きく偏っている。リピーターのニーズに応えるためには、直行便が就航している東京、名古屋、大阪、福岡を起点としたリピーター向けのモデルルートの開発や、情報発信の強化、ツアー商品の開発が課題となる。

〇インターネット経由の予約の増加訪日フィリピン人の旅行手配の手段は旅行会社経

由が主流ではあるものの、個人旅行者が多いことから、今後eコマース(電子商取引)市場やクレジットカードの普及率の拡大、インターネット環境の改善などが進むことで、価格も内容も自由に選択できるインターネット経由での予約が増加していくことが見込まれる。現在、オンライン旅行会社の中では、アゴダやブッキングドットコムを利用する人が多い。宿泊手配ではエアビーアンドビーの利用者が増えている。

〇訪日旅行商品の多様化・質の向上フィリピンで販売されている訪日旅行商品は、

「ゴールデンルート」、「定番の観光魅力」に大きく偏っている。旅行会社が収益を拡大するためには、訪日旅行商品の内容を多様化し、質を向上させ、消費者にとって魅力的なものとする必要がある。具体的には、リピーターをターゲットに、ゴールデンルート以外を旅行先とした商品の拡充や、「ショッピング」、「グルメ」など、フィリピン人が特に関心を持つ事項を旅程に盛り込んだテーマ性のある商品の開発などが求められる。

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第2章 外国旅行の動向

外国旅行の旅行形態別特色2-2

1. パッケージツアー①外国旅行全般

パッケージツアーで人気があるのは、「フリー&イージー型」(航空券と宿泊のセット、またはランドアレンジメントと言う、宿泊と空港からの交通がセットになった商品の総称のこと)という形態のものである。これらの商品は行き先を問わず、価格も廉価である。食事や観光、ガイドなどがセットになったパッケージツアーは高額であるが、初めて訪れる国・地域や自分たちだけでは回ることができないような旅行地に行く場合、利用される傾向にある。

特筆すべきは、巡礼ツアーの存在である。キリスト教徒が多いフィリピンでは、キリスト教遺産を巡るツアーが他のパッケージツアーよりも高額で販売されており、熱心な信者に人気がある。このツアーは「ホーリーランド・ツアー」と呼ばれ、専門的に取り扱う旅行会社も存在している。消費者向けの旅行フェアで多くの会社が「ホーリーランド・ツアー」商品を販売している。

航空券が含まれるパッケージツアーの相場は、中国・韓国方面が3泊4日で5万円~ 8万円、ヨーロッパでは、英国が6泊7日で25万円、スペインが8泊9日で33万円となっている。また、ホーリーランド・ツアーの相場は、イスラエル・ヨルダン・エジプトが15泊16日で38万円となっている。

旅行内容では、テーマパークを含むものの人気が高い。香港旅行ではディズニーランド商品が、「2泊3日、ランドアレンジメントのみ」で2万円~ 3万円である。シンガポール旅行ではユニバーサル・スタジオとナイトサファリの商品が、「3泊4日、ランドアレンジメントのみ」で4万円~ 6万円である。

②訪日旅行訪日旅行商品は、「フリー&イージー型」と航空

券やツアーを含む団体旅行向けの「オールインクルーシブ型」が販売されている。「フリー&イージー型」は3泊4日、航空券を含むもので10万円、ランドアレンジメントのみで4万円が相場である。一方、

「オールインクルーシブ型」は、ゴールデンルートを7泊8日で巡るもので25万円~ 30万円が相場である。他のアジアへの同様の商品と比べると、訪日旅行商品は概して高額である。

自然(桜、富士山)、歴史・文化、日本食などの人気が高い一方、米国文化の影響から、日本にある米国系のテーマパーク(東京ディズニーリゾートR、

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン™)が大変人気である。ゴールデンルートの定番観光地を巡るツアーが圧倒的に多いが、リピーター需要の高まりを反映して、北海道、中部、九州などの新しい旅行地への商品も登場している。また、キリスト教遺産を巡る巡礼ツアーが高額で販売されていることも特徴として挙げられる。

2. 個人旅行①外国旅行全般

フィリピン人は全般的に家族・友人との旅行を好み、巡礼ツアーなどの特殊な旅行内容を除き、歩き回る行程を好まない傾向にある。上記の「フリー&イージー型」商品の行程は、実質上は個人旅行のような行程であるが、一定の計画に沿って旅行することになる。なお、バックパッカーのように自由気ままに動き回る旅行は、一部の学生を除いて、フィリピンでは一般的でない。

②訪日旅行観光庁の「訪日外国人消費動向調査2016年」に

よると、観光目的の訪日フィリピン人の旅行形態は、83.9%が個別手配、8.9%が個人旅行パッケージ、7.2%が団体ツアー参加となっている。性別では女性が59.7%、年代別では男女とも20代から40代が多かった。また、訪日フィリピン人全体の訪日目的で、

「親族・知人訪問」を挙げた人は17%を占めた。これは、調査対象20市場の中で最も高い比率である。因みに、日本には2016年12月末時点で24万人以上のフィリピン人が在住している。

フィリピン航空やセブパシフィック航空は期間限定割引航空券の広告活動を頻繁に実施している。新聞やウェブサイトに広告を掲載し、通常は500米ドル以上する日本行きの往復航空券を300米ドル台から販売している。顧客はこのような機会にまず航空券を購入し、その後宿泊などを個別に手配する傾向がある。なお、航空会社は同様の広告活動を旅行フェアのブースでも行っている。

個人旅行であっても査証申請は代理機関を通じて行う必要があるため、個人旅行者は必ず旅行会社を利用するわけであるが、個人旅行パッケージ、すなわち「フリー&イージー型」商品の利用が1割にも満たない状況を踏まえると、顧客確保のためには、個人旅行者向けの商品力の強化が旅行会社にとって課題となっている。

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3. インセンティブ旅行①外国旅行全般

好調な経済を背景に、マニラ首都圏を中心にインセンティブ旅行の需要が高まりつつある。生命保険、製薬、コールセンター、メーカーの販売員などを対象に、ASEAN諸国だけでなく、日本を訪れるインセンティブ旅行も増えてきている。現在のところ、欧米で主流のインセンティブハウスの取り扱いではなく、観光旅行を取り扱っている旅行会社がインセンティブ旅行を取り扱っていることが多い。人数は10人~ 50人程度で、複数のグループに分かれることもある。

②訪日旅行訪日旅行の需要拡大により、インセンティブ旅行

の目的地として日本が選ばれることが増えている。報奨の対象となるため、インセンティブ旅行地は魅力的な国・地域でなくてはならない。訪日査証の緩和措置により、以前よりも旅行しやすくなったというイメージがプラスに作用し、訪日インセンティブ旅行の需要増に繋がっている。

訪日インセンティブ旅行を行う業種は製薬、保険、金融などで、目的は報奨旅行(セールスインセンティブ)が一般的である。フィリピン特有の潜在層としては、コールセンターの従業員が挙げられる。公用語が英語であることから、コールセンター事業などの外部委託(BPO:Business Process Outsourcing)産業を含むサービス業がフィリピンで大きく成長している。今後、BPO産業がインセンティブ旅行市場の成長を牽引すると予想される。また、フィリピンへは日系企業も多く進出しており、従業員を対象とした訪日インセンティブ旅行の需要も見込まれる。

現在の訪日インセンティブ旅行の目的地は東京や大阪が多く、規模は30人~ 50人ほどで催行されている(複数班で編成されることもある)。日本の各自治体やコンベンションビューローが提供しているインセンティブ旅行向けのサービスは、まだあまり知られていないため、今後の市場拡大を図るのに、この制度の周知が必要不可欠である。

観光関連政策2-3

1. 外国旅行関連規制

現在、外国旅行に対する規制はない。

2. 旅行業法

フィリピンで旅行会社業務を営むためには、証券取引委員会(Securities and Exchange Committee)に 株 式 会 社 設 立 登 記 を 行 う か、 貿 易 産 業 省

(Department of Trade and Industry)に個人事業主としての届け出を行った後、営業所が所在する市の役所への旅行業登録および税務署への登録が必要である。任意ではあるが、国際航空券の発券をする場合、IATA(国際運送協会)への登録が必要である。なお、観光省からの認定やPTAA(フィリピン旅行会社協会)への入会を行うことにより、フィリピンの旅行業界で信用度の高い旅行会社としてみなされるようになる。

日本の競合旅行地2-4

フィリピン人の外国旅行に関しては、以下の国・地域が日本の競合相手である。

1. 中国①概況

◦北京などでは中国の歴史文化と美しい風景を、上海などの近代都市ではショッピングをそれぞれ楽しむことができる。2015年には約100万人のフィリピン人が中国に入国しており、フィリピンからの渡航先の首位を占めている。

②主な観光魅力◦万里の長城、シルクロードなどの歴史遺産◦美しい自然風景◦上海、北京などでの食事やショッピング

③観光インフラ◦マニラ⇔北京線は、フィリピン航空、中国国際

航空、格安航空会社(LCC)のセブパシフィック航空が直行便を運航している。

◦マニラ⇔上海(浦東)線は、フィリピン航空、中国東方航空、セブパシフィック航空、エアアジア・フィリピンが直行便を運航している。

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第2章 外国旅行の動向

◦マニラ⇔広州線は、フィリピン航空、中国南方航空、セブパシフィック航空、エアアジア・フィリピンが直行便を運航している。

◦その他、マニラ⇔アモイ線、マニラ⇔泉州線、セブ⇔上海(浦東)線、セブ⇔成都線、セブ⇔アモイ線がある。

④マイナス要素◦査証の取得が必要◦言語障壁

⑤政府観光局の有無◦フィリピン国内には中国国家旅遊局の事務所がな

い。

2. 香港①概況

◦フィリピン人にとって査証なしで訪問できる人気の先進都市。マニラから航空便で約2時間半という近さも大きな魅力である。ティズニーランドやショッピングなどが好まれている。

②主な観光魅力◦ディズニーランド、オーシャンパークなどの

テーマパーク◦ショッピングモール

③観光インフラ◦マニラ⇔香港線は、フィリピン航空、キャセイ

パシフィック航空、キャセイドラゴン、セブパシフィック航空、エアアジア・フィリピンが直行便を運航している。

◦クラーク⇔香港線は、キャセイパシフィック航空、キャセイドラゴン、セブパシフィック航空が直行便を運航している。

◦セブ⇔香港線は、フィリピン航空、キャセイパシフィック航空、キャセイドラゴン、セブパシフィック航空が直行便を運航している。

◦イロイロ⇔香港線は、セブパシフィック航空が直行便を運航している。

◦地下鉄やフェリーなど、市内交通が便利。観光バス路線も多く、整っている。

④マイナス要素◦特になし

⑤政府観光局の有無◦民間企業がレップとして業務を受託している。

3. シンガポール①概況

◦シンガポールは、フィリピン人にとって査証なしで訪問できる人気の先進国。マニラから飛行機で約3時間半。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)好きのフィリピン人にとって、被写体となる観光地が多い。

②主な観光魅力◦ユニバーサル・スタジオ、ナイトサファリなど

のテーマパーク◦カジノ◦フィリピン人富裕層好みのブランド店舗◦イベントや国際展示会

③観光インフラ◦マニラ⇔シンガポール線は、フィリピン航空、

シンガポール航空、スクート・タイガーエア、ジェットスター・アジア、セブパシフィック航空が直行便を運航している。

◦セブ⇔シンガポール線は、フィリピン航空、シンガポール航空、セブパシフィック航空、スクート・タイガーエア、シルクエアー、エアアジア・フィリピンが直行便を運航している。

◦その他、クラーク⇔シンガポール線、カリボ⇔シンガポール線、イロイロ⇔シンガポール線、ダバオ⇔シンガポール線がある。

④マイナス要素◦物価が比較的高い。

⑤政府観光局の有無◦マニラに事務所を設置している。

4. 韓国①概況

◦四季折々の魅力と、食べ歩きや美容・コスメなどを楽しめる。フィリピンでは韓流ドラマやK-popが人気であり、憧れの旅行地の一つとなっている。日本に比べて旅行費用が安価であることも強みとなっている。

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②主な観光魅力◦ショッピングや食べ歩き◦K-popや韓流ドラマなどのロケ地◦済州島(査証が不要)

③観光インフラ◦マニラ⇔ソウル(仁川)線は、フィリピン航空、

大韓航空、アシアナ航空、セブパシフィック航空、エアアジア・フィリピン、チェジュ航空が直行便を運航している。

◦マニラ⇔釜山線は、フィリピン航空、アシアナ航空が直行便を運航している。

◦クラーク⇔ソウル(仁川)線は、大韓航空、アシアナ航空、フィリピン航空、ジンエアーが直行便を運航している。

◦クラーク⇔釜山線は、大韓航空、ジンエアーが直行便を運航している。

◦カリボ⇔ソウル(仁川)線は、フィリピン航空、セブパシフィック航空、エアアジア・フィリピンが直行便を運航している。

◦カリボ⇔釜山線は、フィリピン航空、エアアジア・フィリピンが直行便を運航している。

◦セブ⇔ソウル(仁川)線は、フィリピン航空、大韓航空、アシアナ航空、セブパシフィック航空、エアアジア・フィリピン、ジンエアーが直行便を運航している。

◦セブ⇔釜山線は、大韓航空、アシアナ航空、エアプサン、ジンエアーが直行便を運航している。

◦その他、タグビララン⇔ソウル(仁川)線、セブ⇔大邱線がある。

④マイナス要素◦北朝鮮との政治的緊張状態

⑤政府観光局の有無◦マニラに事務所を設置している。

訪日旅行の価格競争力2-5

現在、訪日旅行商品は、①フリー&イージー型、②オールインクルーシブ型の2種類に大別される。

フリー&イージー型は訪日旅行の主力商品となっており、東京・大阪を中心に3泊4日程度で500米ドル未満(航空券は含まれない)の商品が登場している。多くのフィリピン人は、旅行博や航空会社のキャ

ンペーンなどで格安航空券を取得した後に、それに合わせて旅程を決める傾向にあるため、フリー&イージー型の人気が高い。空港からの交通をオプションで提供したり、査証の申請代行料をツアー料金に含めたりするなど、さらに低価格化が進行している。

オールインクルーシブ型には、航空券、ホテル、食事などが全て含まれている。旅行日程は一般的に4日間~ 10日間が多く、価格は10万円~ 30万円程度である。

2015年時点で、マニラ市民の平均年収が42.5万フィリピンペソ(約8,500米ドル、約94万円)であるため、パッケージツアーの場合、訪日旅行の価格は、平均的なフィリピン人の1カ月~ 4カ月分の給料とほぼ同じという高額商品になる。そのため、現在訪日しているフィリピン人は、月収5万フィリピンペソ(約12万円)以上の会社役員、外国企業従業員、自営業などの富裕層および中間層が多い。

訪日フィリピン人は、東京や大阪などの都市部やゴールデンルートを旅行する人が多いが、最近では、

「北海道ラベンダー巡り5泊6日」(2,078米ドル)、「九州主要都市5泊6日(福岡、長崎、平戸、九十九島、ハウステンボス、湯布院、別府)」(2,398米ドル)と、高額ではあるが新しいルートも企画されている。

2014年の査証緩和措置により数次査証が取りやすくなったため、今後はゴールデンルート以外の地方都市を訪れるリピーターが増え、訪日旅行商品の種類もさらに広がっていくことが期待される。

■フィリピン発外国ツアー価格比較表

旅行地 旅行日数

値段(米ドル)

値段(万円)

★ Lavender Fields in Hokkaido(旭川、美瑛、富良野、札幌、小樽)※往復航空券含む。

6 2,078 23.2

★ ゴールデンルート(東京、東京ディズニーリゾートR、富士山、箱根、河口湖、京都、大阪、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン™)※往復航空券含む。

6 2,205 24.6

★ 東京、苗場、軽井沢ツアー(苗場での果物狩り、越後湯沢での酒の味見、軽井沢プリンスショッピングプラザ、東京ディズニーリゾートR)※往復航空券含む。

5 1,928 21.5

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第2章 外国旅行の動向

★ Scenic JAPAN(横浜(みなとみらい地区、新横浜ラーメン博物館)、静岡(御殿場プレミアム・アウトレットなど)、山梨(富士急ハイランド、忍野しのびの里など)、東京(浅草着物体験など))※往復航空券含む。

5 1,688 18.8

★ 大阪、京都、高山、名古屋ツアー(大阪、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン™、京都、高山、名古屋、レゴランド)※往復航空券含む。

7 2,178 24.3

★ Definitely Kyushu( 福 岡、長崎、平戸、九十九島、ハウステンボス、湯布院、別府)※往復航空券含む。

6 2,398 26.8

Experience Beijing China(天安門、万里の長城、3日目フリー)※往復航空券除く。

4 210 2.3

香港ディズニーランド3泊4日※往復航空券除く。

4 333 3.7

Exceptional Korea(ソウル、京畿道、南怡島、抱川市、一山)※往復航空券含む。

5 1,488 16.6

Bangkok Free & Easy※往復航空券除く。

3 64 ~ 0.7 ~

米国(ニューヨーク4泊5日)※往復航空券除く。

5 560 6.3

★は訪日ツアー1米ドル=111.9円で算出(2017年7月時点)。

評価の高い日本の旅行地2-6

フィリピンは熱帯性気候に属し、四季の変化に乏しい。そのため、桜や紅葉、雪景色のような四季折々の自然などを訪日旅行の魅力として挙げる人が多い。季節の魅力を味わいに、ホーリーウィークの連休や学校休暇などを利用して日本を旅行するが、3月~ 5月、10月、12月が特に訪日旅行需要が高まる時期である。

日本国内の旅行先としては、東京・大阪などの大都市および富士山などのゴールデンルートが主流であったが、最近ではフィリピン人にとって憧れの雪を見るために北海道も人気となっている。リピーターの増加や、LCCの就航により座席供給数が増えている中部空港を基点に中部地方を周る旅行も徐々に増えてきている。ASEAN唯一のキリスト教国ということもあり、日本のキリスト教遺産を巡る巡礼ツアーも造成されており、長崎県を中心に需要がある。九州の場合は、マニラ→福岡間が4時間弱とい

う近さと、東京よりも地上手配の経費を抑えられるということも魅力となっている。

ラーメンをはじめとしてフィリピンでは日本食が人気であり、本場の日本食を体験したいという人が多い。また、アニメなどのポップカルチャー、東京ディズニーリゾートRやユニバーサル・スタジオ・ジャパン™などのテーマパークが、若者や家族連れを中心に人気が高い。

人気のある日本の旅行地は次のとおりである。

1. 東京◦浅草、新宿、渋谷、お台場などの定番観光スポッ

ト◦東京都庁の無料展望台◦東京スカイツリー◦サブカルチャーの体験(渋谷、原宿、秋葉原の

アニメやファッション)

2. 千葉・神奈川◦東京ディズニーリゾートR◦新横浜ラーメン博物館◦箱根◦鎌倉

3. 静岡・山梨◦富士山◦御殿場プレミアム・アウトレット

4. 大阪◦大阪城公園◦お好み焼き、たこ焼きなどの大阪グルメ◦海遊館および天保山マーケットプレイス◦心斎橋周辺でのショッピング◦通天閣◦ユニバーサル・スタジオ・ジャパン™

5. 京都◦古都の街並み◦歴史や伝統文化を感じさせる金閣寺や伏見稲荷

大社

6. 北海道◦札幌(時計台、テレビ塔、雪祭り、サッポロビー

ル園)◦函館の夜景◦富良野のラベンダー

Page 8: 第 章 2 外国旅行の動向 フィリピン · 国を除く)の2017年11月時点の入国統計によると、 2016年のフィリピン人入国者数は、シンガポール

14 JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2018(アジア新興5市場編)

◦白い恋人やロイズ(ROYCE’)などフィリピンで人気の菓子

7. その他の地域◦日光◦飛騨・高山◦白川郷◦姫路城◦広島平和記念公園、厳島神社◦長崎のキリスト教関連遺産

注:中町教会はフィリピン人で初の聖人になったサン・ロレンソ・ルイスが保護聖人の一人となっている。

◦相撲観戦

訪日旅行の有望な旅行者層2-7

フィリピンの人口は1億人を超えており、経済成長も顕著であることから、今後も富裕層、中間層を取り込むことで安定的な成長が見込める市場である。

■主要都市の富裕層および中間所得層〇属性

◦マニラ首都圏、中央ルソン、セブ都市圏在住◦30歳代~ 40歳代の企業経営者や、30歳代~ 50

歳代の会社役員、建築家、銀行家、医者、弁護士などの職種およびその家族

◦平均月収5万フィリピンペソ(約12万円)以上の富裕層および中間層

〇旅行形態◦個人旅行が中心で、「フリー&イージー型」の

廉価な旅行商品を購入する人が多い。訪日旅行の初心者は大都市に滞在する傾向が強く、リピーターはゴールデンルート以外の地方を訪れる人が増えている。富裕層は高額なパッケージツアーにも参加する。

〇訴求ポイント◦ショッピング需要が高いため、ショッピング施

設の情報(免税情報も付記)◦日本の独特な自然景観(富士山、桜、紅葉)お

よび建築、その写真撮影に適した場所(特にSNSにかける時間と情熱が大きいため、写真映えする場所は非常に人気)

◦「オールインクルーシブ型」のツアー参加者向

けに、訪問する観光地での英語による詳しい文化・歴史などの説明

◦Wi-Fi設備◦英語メニューのある日本食レストラン◦キリスト教遺産およびミサ情報

〇選定の背景◦免税制度の改正により、元々高いフィリピン人

旅行者の消費意欲がより刺激される状況にある。◦「フリー&イージー型」商品の人気と数次査証

の緩和措置により、今後、数次査証保有者がショッピングや日本食を楽しむ目的で複数回訪日すると考えられる。

◦「オールインクルーシブ型」の商品は富裕層を中心に購入されており、参加者は知的好奇心が強く、日本の歴史や文化に関心を抱いている。

◦フィリピンでは、ラーメンをはじめとして日本食は非常に高い人気を誇っているため、本場の日本食を食べたいという欲求が叶えられる。また、富裕層などはブランド牛などにも関心を抱いている。

〇費用、日数など◦「フリー&イージー型」3泊4日で500米ドル以

下、「オールインクルーシブ型」1週間で1,500米ドル以上

◦4月~ 5月のイースター、学校休暇の期間、12月のクリスマス休暇を利用して外国旅行をする人が多い。訪日旅行は桜や雪の時期と合致しており、旅行需要が高まる。

〇効果的な宣伝方法◦旅行会社との共同広告(継続的な支援が歓迎さ

れる。)◦旅行フェアでのPR◦SNS(フェイスブック、インスタグラム)◦タレントやブロガーなどの情報発信力の強い人

を起用した宣伝

訪日旅行の買い物品目2-8

観光庁の「訪日外国人消費者動向調査(2016)」によると、フィリピン人は日本滞在中に衣類・鞄・靴、化粧品・香水、菓子類およびその他の食品を買う人が多い。

2012年のユニクロのフィリピン進出によって、ユ

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フィリピン

15

ベトナム

マレーシア

インド

インドネシア

JNTO訪日旅行誘致ハンドブック 2018(アジア新興5市場編)

第2章 外国旅行の動向

ニクロの衣類などの質が良く、価格も安価であるというイメージが広まっている。ユニクロに加えて、フィリピンではまだ展開されていないGUなども、フィリピン人旅行者が日本で必ず訪れたい場所という声が聞かれる。スポーツブランドのスニーカーは、フィリピンで買うよりも日本で買う方が安いということで購入する人が多い。

日本で化粧品・香水を購入する人も多く、訪日時にディスカウントストアやドラッグストアで大量買いする姿が見られる。男性でも美容に関心が高い人も多いため、男女を問わずディスカウントストアとドラッグストアの人気は高い。

フィリピンは家族・親戚を大事にするキリスト教国であるため、家族や親戚への土産として日本の菓子は非常に人気が高い。ディスカウントストアでは明治のミルクチョコレートを大量買いする姿が多く見られる。大衆的な菓子以外にも、フィリピンの高級ショッピングモールではチョコレート菓子で有名なロイズ(ROYCE’)が日本の2倍~ 3倍の値段で販売されているため、日本を訪れた際には必ずロイズを買いたいという人もいる。

日本の食に対する嗜好2-9

フィリピン人にとって、食事の際になくてはならないのがご飯である。フィリピンにあるファーストフードのハンバーガーチェーンでは、ハンバーガーやフライドチキンなどのメニューの他に、ご飯が付いたセットメニューが販売されている。日本ではコース料理や鍋料理の場合、ご飯は最後に出されることが多いが、フィリピン人は食習慣上、まず初めにご飯を欲しがる。

近年、日本食の飲食店のフィリピン進出が進んでいる。中でも人気なのは、豚骨系を中心としたラーメンと豚カツである。濃い味付けのものや肉を好むフィリピン人の嗜好に完全に合致する食べ物として、各地のショッピングモールに日本の有名店が相次いで出店しており、多くの客を集めている。価格はラーメンが1杯1,000円程度、豚カツが1,500円~2,000円程度である。フィリピンの物価水準からすると高額であるが、特に週末の昼食時や夕食時となると行列が絶えないほどである。その他では、天ぷら、たこ焼きなどの店もあり、賑わっている。

フィリピン人の食習慣を語る際に欠かせないのがミリエンダである。これは朝食と昼食の間および昼食と夕食の間にとる間食である。ミリエンダには軽

食や菓子を食べるが、日本の菓子類は大変好まれる。日本の定食は肉、魚、野菜が比較的バランス良く

使われているが、フィリピン人にとっては物足りないと感じる場合もある。好きなものを好きな量だけ食べることができるバイキング形式の方が好まれることが多い。

接遇に関する注意点2-10

フィリピンでは英語が公用語の一つであり、フィリピン人は英語でのコミュニケーションが可能である。英語表記の整備や英語が話せるスタッフの配置など、英語圏の旅行者に対する受け入れ体制が整っていれば、他に特別な準備は必要ない。

フィリピン人の9割強はキリスト教徒であり、訪日フィリピン人の大半もキリスト教徒であると考えられるが、食事の際の宗教的制約は基本的にない。

宿泊については、家族旅行が多いため、なるべく4人以上の家族が同じ部屋に泊まりたいという希望が強い。日本の宿泊施設では家族旅行のニーズを満たす仕様の部屋、例えば4人以上が宿泊できる広さの部屋やコネクティング・ルーム(隣り合わせの部屋が室内のドアでつながるようになっている仕様の部屋)を持つ施設はあまりないが、隣り合わせの部屋を手配するなど、家族が快適に宿泊できる配慮をする必要がある。

フィリピン人には熱いお湯に浸かるという入浴文化がないため、一部の冒険的な若年層の旅行者などを除き、一般的に温泉はあまり好まれない。また、人前で裸になる習慣がないため、大浴場の使用も好まれない。

前述のとおりキリスト教徒が多いため、旅行中に教会を訪れたいという希望が少なからずある。英語でミサを行っている教会の情報提供などを行うと喜ばれる。