時系列分析 8 多変量時系列モデルの性質、推定法、...

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1 時系列分析 5 多変量時系列モデルの性質、推定法、 および予測 担当:長倉 大輔 (ながくらだいすけ)

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時系列分析 5

多変量時系列モデルの性質、推定法、および予測

担当:長倉大輔(ながくらだいすけ)

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多変量時系列モデルの性質、推定法、および予測

◼ 多変量時系列モデル

一変量時系列モデルがスカラー変数 ytについてのモデルだったのに対して、多変量時系列モデルは n×1 ベクトル変数

yt = (y1t, y2t, …., ynt)T

に対して、その時間を通じての確率的な挙動を記述するモデルである。ここで “ T ” は行列の転置を表す。

一変量モデルの拡張であり、概念的にはそこまで難しくないが、数学的には行列、ベクトルに関する知識が必要となってくる。

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多変量時系列モデルの性質、推定法、および予測

◼ 多変量時系列モデルの期待値

多変量時系列変数 ytの期待値は

E(yt) = [ E(y1t), E(y2t), …., E(ynt) ]T

と定義される。つまりそれぞれの成分の期待値のベクトルである。これは一変量の時と同様、一般的には時点 t

に依存するとする。

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多変量時系列モデルの性質、推定法、および予測

◼ 多変量時系列モデルの自己共分散行列

多変量時系列変数 ytの k 次自己共分散行列は

(i, j) 成分が cov ( yi,t , yj,t –k ) である n×n行列

(この場合対角成分は yi, tの k 次の自己共分散)。

である。つまりそれぞれベクトルの成分の共分散を並べたものである。

これは具体的には次のように表すことができる。

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◼ 多変量時系列モデルの自己共分散行列

多変量時系列変数 ytの k次自己共分散行列:

並び方に注意。これも一般的には時点 t に依存する。

k = 0 の時は ytの分散共分散行列となり対称行列となる ( k ≠ 0 の時には一般的には対称行列ではない)。

5

=

−−−

−−−

−−−

),cov(),cov(),cov(

),cov(),cov(),cov(

),cov(),cov(),cov(

),cov(

,,,2,,1,

,,2,2,2,1,2

,,1,2,1,1,1

ktntnkttnkttn

ktntkttktt

ktntkttktt

ktt

yyyyyy

yyyyyy

yyyyyy

yy

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◼ 多変量時系列モデルの自己共分散行列

また、多変量時系列変数 ytの自己共分散行列は

とも書ける(先ほどの表現はこれを実際に計算したものである)。ここで

μt = E(yt)

である。

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]))([(),cov( Tktktttktt E −−− −−= μyμyyy

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◼ 多変量(弱)定常過程

多変量時系列変数 ytの平均、自己共分散は、一変量時系列変数の場合と同様、一般的には時点 tに依存する。

これらが時点 tに依存しない時、yt は(弱)定常過程と言われる。

このような場合、今後はその期待値ベクトルと自己共分散行列を

μ = E(yt), Γk = cov(yt, yt–k)

という記号で表すとする。

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◼ 定常な多変量時系列の自己共分散行列の性質

定常な一変量時系列の自己共分散 γkは

γk = γ–k

という性質をもっていた。定常な多変量時系列の自己共分散行列は

という性質を持っている。

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Tkk −= ΓΓ

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例題1 (自己共分散行列の性質)

多変量の定常自己共分散行列に対して

が成り立つことを確認せよ。

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Tkk −= ΓΓ

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◼ 定常な多変量時系列の自己相関行列

一変量の定常自己相関 ρkは ρk = γk /γ0 と定義された。多変量の自己相関行列は

と定義される。ここで

である。10

=

=

−−−

−−−

−−−

),corr(),corr(),corr(

),corr(),corr(),corr(

),corr(),corr(),corr(

),corr(

,,,2,,1,

,,2,2,2,1,2

,,1,2,1,1,1

ktntnkttnkttn

ktntkttktt

ktntkttktt

kttk

yyyyyy

yyyyyy

yyyyyy

yyρ

)var()var(

),cov(),corr(

,,

,,

,,

ktjti

ktjti

ktjtiyy

yyyy

− =

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◼ 定常な多変量時系列の自己相関行列

対角行列 D を

と定義する。この時、自己相関行列は ρk = D–1/2 Γk D–1/2

と書くことができる。これより

が成り立つ事がわかる。

11

Tkk −= ρρ

=

)var(00

0)var(0

00)var(

2

1

nt

t

t

y

y

y

D

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◼ ベクトルホワイトノイズ

ベクトル εt = ( ε1t, ε2t, …, εnt )Tは

E(εt ) = 0,

を満たす時に(ベクトル)ホワイトノイズと呼ばれる。ここでΣは n×n正定値行列である。

これは一変量のホワイトノイズ εt ~ W.N. (σ2)を多変量に拡張したものである。

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=== −− 0

0,)(),cov( T

k

kE kttktt 0

Σεεεε

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◼ ベクトルホワイトノイズ

(ベクトル)ホワイトノイズは

(1) 弱定常過程である。(2) Σは一般的には(対称行列ではあるが)

対角行列ではない。つまり同時点間の共分散は0 ではない。

以後 εtが(ベクトル) ホワイトノイズである事を

εt ~ W.N. (Σ)

と表記する事にする。

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◼ VAR モデル

ARモデルの多変量版として Vector Autoregressive

(VAR)モデルがある。

p次のVARモデル(これはVAR(p)と書かれる)は次のように定義される。

ここでyt : n×1ベクトル、c : n×1ベクトル、Φi : n×n行列、εt: n×1ベクトル

である。

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)(W.N.~,11 ΣεεyΦyΦcy ttptptt ++++= −−

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◼ 2変量VAR モデル

2変量VAR(1)モデルは次のように書ける。

これはまた次のように 2 本の回帰式として書く事もできる。

15

.),(W.N.~

,

2221

2121

2

1

2

1

12

11

2221

1211

2

1

2

1

=

+

+

=

ΣΣt

t

t

t

t

t

t

t

y

y

c

c

y

y

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◼ 2変量VAR モデル

どちらの書き方もよく使われる。

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.),cov(

,)var(,)var(

2121

222

211

21222112122

11212111111

=

==

+++=

+++=

−−

−−

tt

tt

tttt

tttt

yycy

yycy

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◼ VAR モデルのラグオペレーターを用いた表現

VAR(p)モデルはラグオペレーターを用いて次のようにも表現される。

ここで Inは n次単位行列である。また ytが定常であればその期待値

μ = (In – Φ1 – …. – Φp)–1c

を用いて

と書くこともできる。

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,)( 1 ttp

pn LL εcyΦΦI +=−−−

,)()( 11 tptptt εμyΦμyΦμy +−++−=− −−

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例題2 (定常なVAR(p) モデルの期待値)

先ほどのVAR(p)モデルの期待値は

μ = (In – Φ1 – …. – Φp)–1c

である事を示せ。

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◼ ユールウォーカー方程式

VAR(p)モデルの自己共分散行列は、次のユールウォーカー方程式(のような関係)の行列版を満たす。

Γk = Φ1Γk –1 +…. + ΦpΓk –p

例えばVAR(1)の自己共分散行列は

Γk = Φ1Γk –1= Φ12Γk –2 = … =Φ1

kΓ0

となる。

(注意: 1変量の場合と異なり、自己相関行列は上記のような関係を満たさない。教科書p.78の自己相関の関係は上記の自己共分散の関係の誤り)。

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◼ VAR モデルの定常性

VAR(p)はパラメータが次の条件を満たす時に(弱)定常過程となる。

(VAR(p)の定常性の条件)

のz の全ての解の絶対値が 1 よりも大きい。ここで | A |

は行列 A の行列式を表す。

20

0|| 1 =−−− ppn zz ΦΦI

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◼ (例) 2変量VAR(1)の定常性の条件

例として2変量VAR(1)の定常性の条件がどうなるか見てみよう。次の2変量VAR(1)モデルを考える。

ここで yt = (y1t, y2t)T, である。

定常性の条件は

の z の全ての解の絶対値が 1 より大きいという事なのでこれを zについて解いてみる

21

).(N.W~,11 ΣεεyΦcy tttt ++= −

=

2221

12111

Φ

0|| 12 =− zΦI

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◼ (例) 2変量VAR(1) の定常性の条件

となる。この zの2つの解の絶対値が1より大きければ定常となる。

22

)(2

4)(

1)()(

))(()1)(1(

1

1

10

01||0

21122211

21122

22112211

22112

21122211

21122211

2221

1211

2221

121112

+−+=

++−−=

−−−−−=

−−

−−=

=−=

z

zz

zzzz

zz

zz

zz

zzzΦI

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例題3

先ほどの2変量VAR(1)において であるとすると定常条件はどのようになるか ?

例題4

先ほどの2 変量 VAR(1)において であるとすると定常条件はどのようになるか ?

23

021 =

01221 ==

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◼ VARモデルの推定

VARモデルの推定には最尤法と最小二乗法の2 つがある。まず最尤法について見て行こう。

◼ VARモデルの尤度関数

一変量モデルの時と同様に尤度関数を求めるが、今回は の結合密度関数を求めなければならない(転置を表す “T” と観測数を表す “T” の混同に注意。後者はイタリック)。

一変量の時と同様、結合密度関数を条件付き密度関数に分解する。

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TT1

T1

T ),...,,( yyy −TT

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◼ VARモデルの尤度関数

の同時密度関数は、同時密度関数の条件付き密度関数への分解を用いて、

と表すことができる。

25

),...,(),...,|(

),...,(),...,|(

),...,|(),...,|(

),...,(),...,|(

),...,|(),...,|(),...,,(

11

1

111

1211

111

1211111

yyyyy

yyyyy

yyyyyy

yyyyy

yyyyyyyyy

p

T

ptpttt

ppp

pTTTpTTT

ppp

TTTTTT

ff

ff

ff

ff

fff

=

=

=

+=−−

+

−−−−−−

+

−−−−

TT1

T1

T ),...,,( yyy −TT

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◼ VARモデルの尤度関数

よって対数尤度関数は

となる。ここで Ξは推定するパラメータを 1 つのベクトルにまとめたものである。

次に条件付き密度関数 f (yt | yt–1, …, yt–p) を求める。

26

),...,(log),...,|(log

),...,,(log)(

1

1

1

11

yyyyy

yyyΞ

p

T

pt

pttt

TT

ff

fL

+=

=

+=

−−

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◼ 多変量正規分布

f (yt | yt–1, …, yt–p) を求めるためには εt (n×1)に何らかの分布を仮定しなくてはならない。

通常は εtに多変量( n 変量)正規分布を仮定する。

一般に、期待値ベクトル μ、分散共分散行列 Ωの n 変量正規確率ベクトル x ~ N (μ, Ω) の密度関数は

によって与えられる。

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−−−= −−−

)()(2

1exp||)2()( 1T2

12 μxΩμxΩxn

f

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◼ 多変量正規分布

多変量正規分布に関して(1変量正規分布の時と同様)

以下の性質が成り立つ。

(1)定数(のベクトル)を足しても分布は正規分布のまま。つまり n×1 ベクトル xが x ~ N (μ, Ω)であればy = x + c (c: n×1 の定数ベクトル) の分布はy ~ N (μ + c, Ω) となる。

(2) 多変量正規確率変数の和はやはり多変量正規分布に従う。つまり (x と yは独立であり) x ~ N( μx, Ωx),

y ~ N(μy, Ωy) であれば z = x + yの分布はz ~ N (μx + μy, Ωx + Ωy) となる。

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◼ VARモデルの最尤推定

VARモデルの最尤推定の場合は通常 εt ~ N (0, Σ) を仮定する(平均ベクトル 0, 分散共分散行列 Σ) 。この時、 εt

の密度関数は

によって与えられる。

29

−= −−−

ttt

n

f εΣεΣε1T

2

1exp||)2()( 2

12

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◼ VARモデルの最尤推定

ytの yt –1, yt –2, …, yt–p という条件付き密度関数を求めよう。今、

yt = c + Φ1yt –1 + … + Φp yt – p + εt

において εt ~ N(0, Σ) であり、yt –1, yt –2, …, yt–p は定数扱いできるという事であるから ytの yt –1, yt –2, …, yt–p という条件付き分布は多変量正規分布

N( c + Φ1yt –1 + … + Φp yt – p , Σ)

となる。よってその密度関数は

30

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◼ VARモデルの最尤推定

によって与えられる。ここで

である。

31

−= −−−

−− ttpttt

n

f eΣeΣyyy1T

12

1exp||)2(),...,|( 2

12

ptpttt −− −−−−= yΦyΦcye 11

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◼ VARモデルの条件付き最尤推定

AR(p)モデルの時と同様に先ほどの対数尤度関数からlog f (yp, …, y1) を除いた条件付き対数尤度関数

をパラメーター c, Φ1,…, Φp, Σについて最大化する事によって推定する事を条件付き最尤推定法と呼ぶ。

条件付き推定は前述の正確な最尤推定と漸近的な性質は同じになる(つまり観測数が多ければどちらを使っても推定効率あまり変わらない)。

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= −−=T

t ptttC fL

1 1 ),...,|(log)( yyyΞ

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◼ VARモデルの最小二乗推定

係数 Φkの(i, j)成分を と表すと、VAR(p)モデルはn本の回帰式

より成り立つ。この 1 つ 1 つの式をOLSで推定する。

33

ntpti

n

i

pni

n

itininnt

tpti

n

i

pi

n

itiit

tpti

n

i

pi

n

itiit

yycy

yycy

yycy

++++=

++++=

++++=

−==

−==

−==

,1

)(

11,

)1(

2,1

)(21

1,)1(

222

1,1

)(11

1,)1(

111

)(kij

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多変量時系列モデルの性質、推定法、および予測

◼ (条件付き)最尤法と最小二乗法の関係

VARモデルの係数 Φkの条件付き最尤法による推定値と最少二乗法による推定値は同じになる (AR(p)モデルの時も同様の関係があった事を思いだそう)。

よってより簡便な最小二乗法による推定法がよく用いられる。

34

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多変量時系列モデルの性質、推定法、および予測

◼ VARモデルによる 1 期先予測

以下では誤差項 εtは独立であると仮定する。VAR(p)モデルによる予測はAR(p)モデルによる予測と考え方は同じである。 yt+1は

yt+1 = c + Φ1yt + Φ2yt–1 +… + Φpyt–p+1 + εt+1

であるので、情報集合 が与えられた時の yt+1の(最適)予測は

となる。ここで とする。

35

),...,,(Ω 11 yyy −= ttt

11211|1 )|(ˆ+−−++ ++++== ptptttttt E yΦyΦyΦcyy

T|1,|1,2|1,1|1 )ˆ...,ˆ,ˆ(ˆ ttntttttt yyy ++++ =y

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◼ VARモデルによる 1 期先予測のMSE

第 i番目の成分 yitの 1 期先予測 のMSEは

であるので Σの第 i番目の対角成分となる。

◼ VARモデルによる h期先予測

AR(p)モデルの時と同様、逐次予測で予測できる。ただしMSEの計算はAR(p)モデルの時と同様に難しい。

36

ttiy |1,ˆ

+

Σεεyyyy ==−− ++++++ )|(]|)ˆ)(ˆ[( T11

T|11|11 tttttttttt EE

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宿題 (提出する必要はありません)

VAR(1)モデル:

yt = c + Φ1yt–1 + εt, εt ~ i.i.d.N(0, Σ)

による、 のもとでの h期先最適予測は

で与えられ、またこの第 i番目の成分のMSEは

の第 i番目の対角成分で与えられる事を示せ。

37

TT1

T1

T ),...,,(Ω yyy −= ttt

thh

nntht yΦcΦIΦIy 111

1| )()(ˆ +−−= −+

1T1

11

T11

1

0

T11 )()( −−

=

+++= hhh

i

iiΦΣΦΣΦΦΣΦΣΦ

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多変量時系列モデルの性質、推定法、および予測

◼ (例)VARモデルによる予測

以下はVAR(1)モデル:

より T=70 のデータを発生させ、① y1t と y2tをプロットしたもの② t =15より y1t のh =1~55期先最適予測 をプロットしたもの(予測 1)

③ t =35より y1t のh =1~35期先最適予測 をプロットしたもの(予測 2)

である。38

=

+

+

=

12.0

2.01),(W.N.~

,8.01.0

1.08.0

1

1

2

1

2

1

12

11

2

1

ΣΣt

t

t

t

t

t

t

t

y

y

y

y

35|35,1ˆ

hy +

15|15,1ˆ

hy +

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y1t y2t

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y1t

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y1t