ブランハメラ・カタラーリス(Branhamella catarrhalis)...

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昭和63年2月20日 97 ブ ラ ンハ メ ラ ・カ タ ラ ー リス(Branhamella catarrhalis) よる各種呼吸器感染症 ― 病 態 と起 炎 性 に 関 す る臨 床 的 解 析 ― 長 崎大 学 熱 帯 医学 研 究所 内科 (昭和62年7月3日 受 付) (昭和62年7月29日 受 理) Key words: Branhamella catarrhalis, Respiratory tract infection, Polymicrobial infection, β-lactamase. Inflammatory cells in sputum 当 科 に お い て 過 去10年 間(1976~1985年)に 経験 され た プ ランハ メ ラ ・カ タ ラー リス(Branhamella catarrhalis)性 呼 吸 器 感 染 症 は186症 例,239感 染 エ ピ ソー ドで あ る.そ の症例を対象にブランハメラによ る各 種 呼 吸 器 感 染 症 に つ い て,各 疾 患 毎 の 臨 床 的 特 性 と本 菌 の 呼 吸 器 疾 患 起 炎 性 に 関 す る検 討 を 行 な っ た.急 性 気 管 支 炎 の24症 例 で 基 礎 疾 患 合 併 率 は75%で この 中 で 易感 染 に結 び つ く基礎 疾 患 は11症 例 (45.8%)に み と め ら れ,21症 例(87.5%)は 単 独 菌 感 染 症 で あ った.肺 炎 の13症 例(14感 染エピソー で の み 全 例 に 基 礎 疾 患 が み とめ られ,11感 染 エ ピ ソ ー ド(78.6%)が 複 数 菌 感 染 症 で あ つ た.肺 炎は注 射 ペ ニ シ リン 剤 が 無 効 で 死 亡 した1症 例 が 含 まれ て い る.慢 性 下 気 道 感 染 症201感 染 エ ピ ソ ー ドで は ブ ラ ン ハ メ ラ単 独 菌 感 染 が116感 染 エ ピ ソ ー ド(57.7%)で,複 数 菌 感 染 で は イ ン フル エ ン ザ 菌 との 組 み 合 わ せ が 多 か っ た.ブ ラ ン ハ メ ラ の 起 炎 性 に 関 す る検 討 で は,高 熱(≧38℃)群(n=5)でWBC数 平 均 値 が9,560.0/mm3,CRP平 均 値5.2+で あ った の に対 し,発 熱 無 し(<37℃)群(n=14)で のW 均 値 は7,300.0/mm3,CRP平 均 値1.6+で あ っ た.約3年 間 に 亘 る 同一 症 例 で の 急 性 増 悪 時 の 菌 数,炎 マ ー カ ー と し て の 血 液 生 化 学 検 査 お よ び 喀 痰 中 炎 症 細 胞 数 の 追 跡 か ら,ブ ラ ン ハ メ ラ は イ ン フ ル エ ンザ 菌 と同様 化学 療法 に よ く一 致 して菌 数,炎 症 マー カーお よび喀痰 中細胞 数が 変動 して お り,こ れらの成 績 は ブ ラ ン ハ メ ラの 起 炎 性 を裏 付 け る 根 拠 とい え よ う. 1. 緒 ブ ラ ン ハ メ ラ・カ タ ラ ー リスBranhamella catar- rhalis(以 下 ブ ラ ンハ メ ラ)は 呼 吸器 感 染 症 を 中 心 に最近 の5年 間 に お け る症 例 数 の 急 激 な 増 加 と β-lactamase産 生に基づ く耐性菌の増加が注 目さ れ て い るグ ラ ム陰 性 球 菌 で あ る1). 私共はこれまでの呼吸器感染症の症例の積み重 ね か ら,ブ ランハメラに関 しては免疫不全を来す 易 感 染 宿 主 を 基 礎 に 肺 炎 な どを 起 こすcomprom- ized host infectionの 起炎菌 としての一面 礎 疾 患 を持 た な い急 性 気 管 支 炎 や 通 常 の慢 性 下 気 道感染症の急性増悪の起炎菌 として,イ ン フル エ ンザ菌や肺炎球菌 と肩を並べるまでに増加 して来 た 今 日的 な病 原 細 菌 と して の も う一 つ の重 要 な 面 が あ る こ とを す で に 明 らか に し て き た2).ブ ラン ハ メ ラ を 単 にcompromized host infec 原菌とす る考えには本菌が所謂 口腔内常在細菌叢 の 中 の非 病 原 性 ナ イ セ リア属 か ら分 け られ た も の で あ る とい う歴 史 的 背 景 が あ る.し か るに 今 日で は小児の喀痰や膿性鼻汁,基 礎疾患のない成人の 急 性 気 管 支 炎 の喀 痰 な ど か ら も 日常 的 に ブ ラ ン ハ 別 刷 請 求先:(〒852)長 崎 市坂 本 町12-4 長崎大学熱帯医学研究所内科 永武

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昭和63年2月20日 97

ブ ラ ンハ メ ラ ・カ タ ラー リス(Branhamella catarrhalis)に

よる各 種 呼 吸器 感染 症

― 病 態 と起 炎 性 に関 す る臨 床 的解 析 ―

長崎大学熱帯医学研究所 内科

永 武 毅

(昭和62年7月3日 受付)

(昭和62年7月29日 受理)

Key words: Branhamella catarrhalis, Respiratory tract infection, Polymicrobial infection,

β-lactamase. Inflammatory cells in sputum

要 旨

当科 にお いて過去10年 間(1976~1985年)に 経験 され た プ ランハ メ ラ ・カ タ ラー リス(Branhamella

catarrhalis)性 呼吸器 感染 症 は186症 例,239感 染 エ ピ ソー ドで あ る.そ の症 例 を対象 に ブ ランハ メ ラに よ

る各種 呼 吸器感 染症 につ いて,各 疾患 毎 の臨床 的特 性 と本菌 の 呼吸器 疾患 起炎 性 に関す る検討 を行 な っ

た.急 性気 管 支 炎 の24症 例 で 基 礎 疾 患 合 併 率 は75%で この 中 で 易感 染 に結 び つ く基礎 疾 患 は11症 例

(45.8%)に み とめ られ,21症 例(87.5%)は 単 独菌 感染 症 であ った.肺 炎 の13症 例(14感 染 エ ピ ソー ド)

で のみ全 例 に基礎 疾患 がみ とめ られ,11感 染 エ ピ ソー ド(78.6%)が 複数 菌感 染症 で あつた.肺 炎 は注

射 ペ ニシ リン剤 が無効 で死 亡 した1症 例 が含 まれ て い る.慢 性下 気道 感染 症201感 染 エ ピソー ドでは ブ ラ

ンハ メ ラ単独 菌感 染 が116感 染 エ ピ ソー ド(57.7%)で,複 数菌感 染 では イ ン フル エ ンザ菌 との組 み合 わ

せ が多 か った.ブ ランハ メ ラの起炎 性 に関す る検 討 では,高 熱(≧38℃)群(n=5)でWBC数 平均 値

が9,560.0/mm3,CRP平 均 値5.2+で あ った の に対 し,発 熱 無 し(<37℃)群(n=14)で のWBC数 平

均値 は7,300.0/mm3,CRP平 均値1.6+で あ った.約3年 間 に亘 る 同一 症例 で の急性 増悪 時 の菌数,炎 症

マ ーカ ー としての血液 生化 学検 査 お よび喀痰 中炎 症細胞 数 の追 跡 か ら,ブ ラ ンハ メラは イ ンフル エ ンザ

菌 と同様 化学 療法 に よ く一 致 して菌 数,炎 症 マー カーお よび喀痰 中細胞 数が 変動 して お り,こ れ らの成

績 は ブ ランハ メ ラの 起炎 性 を裏 付 け る根拠 とい え よ う.

1. 緒 言

ブランハメラ・カタラー リスBranhamella catar-

rhalis(以 下 ブランハメラ)は 呼吸器感染症を中心

に最近 の5年 間におけ る症例数の急激な増加 と

β-lactamase産 生に基づ く耐性菌の増加が注 目さ

れているグラム陰性球菌である1).

私共はこれまでの呼吸器感染症の症例の積み重

ねから,ブ ランハメラに関 しては免疫不全を来す

易感染宿主を基礎に肺炎などを起 こすcomprom-

ized host infectionの 起炎菌 としての一面 と,基

礎疾患を持たない急性気管支炎や通常の慢性下気

道感染症の急性増悪の起炎菌 として,イ ンフルエ

ンザ菌や肺炎球菌 と肩を並べるまでに増加 して来

た今 日的な病原細菌 としての もう一つの重要な面

があることをすでに明らかにしてきた2).ブ ラン

ハ メラを単にcompromized host infectionの 病

原菌とす る考えには本菌が所謂 口腔内常在細菌叢

の中の非病原性ナイセ リア属から分けられたもの

であるとい う歴史的背景がある.し かるに今 日で

は小児の喀痰や膿性鼻汁,基 礎疾患のない成人の

急性気管支炎の喀痰などからも日常的にブランハ

別刷請求先:(〒852)長 崎市坂本町12-4

長崎大学熱帯医学研究所内科

永武 毅

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98 感染症学雑誌 第62巻 第2号

メラがほとんど純培養状,あ るいはインフルエン

ザ菌などの他の病原細菌 と共に炎症細胞の増加や

明確な食菌像を伴 って認め られ ることが多 くなっ

てきている.こ れ らのことは最早 ブランハメラが

平素無害菌 と言 うのではな く通常 の病原細菌 と

なっていることを明示す るものである.1980年 以

後,私 共の施設で呼吸器感染症の起炎一菌分布の中

でのブランハメラの増加は急激で,イ ンフルエン

ザ菌に次いで肺炎球菌や緑膿菌 と肩を並べるまで

になった.1976年 から1985年 までの10年 間に当科

で集積 されたブランハ メラ性呼吸器感染症 は186

症例,239感 染エピソー ドである.そ こで これ らの

本菌による各種呼吸器感染症についてそれぞれの

疾患毎の病態の特徴を明らかにし,さ らに本菌の

起炎性に関 しても臨床的検討を行なったので報告

する.

2. 対象 と方法

対象は1976年 から1985年 までの10年 間に長崎大

学熱帯医学研究所内科(熱 研内科)お よび関連3

施設においてブランハメラ性呼吸器感染症 と診断

された186症 例,239感 染エピソー ドである.呼 吸

器感染症 の診断名 としては肺炎(肺 化膿症 を含

む),急 性気管支炎,慢 性気管支炎,び まん性汎細

気管支炎(慢 性気管支・細気管支炎),気 管支拡張

症,気 管支喘息+感 染,慢 性肺気腫+感 染,そ の

他に分類した.各 症例毎に疾患背景,化 学療法の

前後での臨床症状,細 菌学的検討,血 液生化学的

炎症マーカー,喀 痰中炎症細胞診などの変動を検

討した.疾 患背景では特に免疫力の低下に結びつ

く基礎疾患の有無や意識状態などの全身状態につ

いて精細に調査 した.血 液生化学的炎症マーカー

としては白血球(WBC)数,CRP,赤 沈などを主

たるもの とした.患 者喀痰は炎症細胞診により好

中球やマクロファージなど炎症細胞数の定量的算

定,定 量培養による菌数の算定を行なつた.ブ ラ

ンハメラの起炎菌決定はすでに私共が定めたブラ

ンハメラ性呼吸器感染症の診断基準9)に従 った.

また今回の検討ではブランハメラ単独の呼吸器感

染症 とインフルエンザ菌など他菌種 との複数菌に

よる呼吸器感染症を一括 してブランハメラ性呼吸

器感染症 としたが,両 者での疾患特性などで差異

がみ られ るかど うかについて も注 目して検討 し

た.

3. 成 績

1) ブランハメラによる各種呼吸器感染症の疾

患特性

ブランハメラ性呼吸器感染症と診断された疾患

内訳では肺炎13症 例 ・14感染エピソー ド,急 性気

管支炎24症 例,慢 性気管支炎87症 例・115感染エ ピ

ソー ド,び まん性汎細気管支炎12症 例 ・18感染エ

ピソー ド,気 管支拡張症28症 例 ・39感染エピソー

ド,気 管支喘息+感 染7症 例・10感染エピソー ド,

慢 性肺気腫+感 染15症 例 ・19感染 エ ピソー ドで

あった.急 性気管支炎で基礎疾患に気管支喘息を

有するとした症例は気管支喘息治療経過中にみら

れた急性感染症で単発例であ り,慢 性に感染によ

Table 1 Respiratory infections caused by Branhamella catarrhalis from 1976 to 1985

(): No.of episodes during indicated year

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る急性増悪を繰 り返 している気管支喘息症例を気

管支喘息+感 染 として区別 した.各 種感染症毎の

症例数,感 染エピソー ド数の年次推移をTable 1

に示 したが1980年 以後の症例数の急増が明らかで'

ある.以 下に各種呼吸器感染症毎の成績を示す.

(1) 急性気管支炎:24症 例の臨床成績のまとめ

をTable 2に 示 した.男 性11症 例,女 性13症 例

で,年 齢は16~89歳 に分布 し平均年齢は55.3歳 で

あった.基 礎疾患は18症 例(75%)に 認め られた

がその中で特に易感染に結びつ くものとしては悪

性腫瘍(肺 癌5,肝 癌1,胃 癌1,脊 髄腫瘍1)

とステ ロイ ド投与下のSLE2症 例 および脳血管

障害1症 例の計11症 例(45.8%)で あった.基 礎

疾患無 しも6症 例あ り,こ の うちの4症 例ではか

ぜ症候群が先行 していた.ブ ランハメラは喀痰定

量培養法で1症 例が106/ml台 であった他はすべ

て107/ml以 上 であ り,単 独菌 感染症 が21症 例

(87.5%)を 占め複数菌感染症は3症 例(12.5%)

にす ぎなかった.治 療 としては抗生剤が投与され

たのは18症 例で,抗 炎症剤や去痰剤のみが投与さ

れて治癒した4症 例 と転院による治療剤不明の2

症例があった.抗 炎症剤や去痰剤のみ投与の4症

Table 2 Branhamella Catarrhalis Acute Bronchitis (1981-1985)

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100 感染症学雑誌 第62巻 第2号

例(No.8,11,15,21)は いず れ も軽 症 で1~2

週 間 の上 記 薬 剤 投 与 で 咳 嗽,喀 痰 が 消 失 し寛 解 し

た.抗 生 剤 投 与 の 症 例 は いず れ も発 熱(37℃ 以上),

咳 嗽,膿 性 喀 痰 の増 加 が 確 認 さ れ て お り,こ の う

ち の11症 例 につ い て は 初 診 時 の喀 痰 グ ラム染 色 所

見 か ら起 炎 菌 と して ブ ラ ンハ メ ラが 推 定 さ れ て い

た も の で あ る.抗 生 剤 の 有 効 率 は経 口ペ ニ シ リン

剤 が9症 例 中6症 例(66.7%)有 効,経 口セ フ ェ

ム剤1症 例 無 効,注 射 ペ ニ シ リン剤3症 例 有 効,

第3世 代 セ フ ェム剤3症 例 有 効,β-lactamase阻

害 剤 とペ ニ シ リン の経 口合 剤1症 例 有 効,ニ ュ ー

キ ノ ロン剤2症 例 有 効 の 成 績 で あ った.経 口お よ

び 注 射 の ペ ニ シ リン剤 が 有 効 で あ った 症 例 の ほ と

ん どは1981~1982年 に使 用 され た もの で あ る.

(2) 肺 炎:13症 例,14感 染 エ ピ ソー ドの ま とめ

をTable3に 示 した.年 齢は51~82歳 に分布 し,

平均年齢は69.6歳 である.全 例基礎疾患を有 して

お り,脳 血管障害が7症 例で最 も多 くこの うち4

症例は入院中のいわゆる寝た きり患者での院内肺

炎であった.同 一症例 で2回 の感染エ ピソー ド

(No.9,10)が みられたのもこの院内肺炎である.

他の基礎疾患 としては悪性腫瘍2症 例,糖 尿病2

症例,気 管支拡張症2症 例,手 術後1症 例などで

あった.起 炎菌 としては喀痰定量培養で単独で純

培養状に107/ml以 上の本菌を検出 した2症 例 と

血液培養で本菌を証明した1症 例以外は11症 例す

べ て2菌 以上が107/ml以 上の菌数で検 出された

複数菌感染であった.複 数菌の組み合わせではイ

ンフルエンザ菌 との組み合わせが最 も多 く5症 例

であ り,そ の他黄色ブ ドウ球菌や緑膿菌の組み合

Table 3 Branhamella Catarrhalis Pneumonia (1980•`1985)

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わせが各2症 例,肺 炎球菌,肺 炎桿菌,大 腸菌,

セラチアの各々との組み合わせが各 々1症 例に認

め られた.肺 炎のすべてに抗生剤が投与されてお

り,無 効 例 は cephapirin (CEPR), piperacillin

(PIPC), cefoperazone (CPZ), lincomycin

(LCM)が 用いられた4症 例であった.こ のうち症

例No.2は 糖尿病に合併 した肺化膿症の診断にて

約3週 間に及ぶLCMの 投与例であ り,臨 床効果

は無効でブランハメラが持続感染 したものであっ

たが,糖 尿病のコン トロール と第3世 代セフェム

剤への治療剤の変更により治癒せしめ得た.ま た

症例No.7は 脳血管障害後の軽い片麻痺の患者に

おける本菌による院内肺炎でPIPCが 投与された

が無効で,治 療開始5日 目に死亡 した.本 例はそ

の後 β-lactamase産 生 の ブ ランハ メ ラ肺炎 で

あったことが判明した.ブ ランハメラ肺炎では複

数菌感染が多かったこともあ り,治 療抗生剤とし

て有効であったのは広域 でβ-lactamaseに 安定

の第3世 代セフェム剤やア ミノグリコシ ド剤との

併用な どであった.

(3) 慢性下気道感染症:私 共が最初に経=験した

ブランハメラ感染症は慢性気管支炎の急性増悪症

例であった.以 来1976~1985年 の10年 間における

ブランハメラ感染症の急激な増加はこれらの慢性

下気道感染症を中心に認められた.

i) 慢性気管支炎:87症 例,115感 染エピソー ド

は慢性下気道感染症中最 も多 く,年 齢は19~95歳

に分布 し,平 均年齢は68.2歳 で単独菌感染が65感

染エ ピソー ド(56.5%)に 認められた.複 数菌感

染は50感染エピソー ド(43.5%)で インフルエン

ザ菌 との2菌 感染が23エ ピソー ド,イ ンフルエン

ザ菌 と肺炎球菌 との3菌 感染14エ ピソー ド,肺 炎

球菌 との2菌 感染9エ ピソー ドなどが主た るもの

であった.合 併症に関する検討ではブランハメラ

単独菌感染群での基礎疾患合併率は47.7%で,多

いものか ら気管支喘息5症 例,慢 性肺気腫5症 例,

悪性腫瘍4症 例,糖 尿病4症 例などである.一 方,

複数菌感染群での基礎疾患合併率は43.5%で あ

り,多 いものから悪性腫瘍5症 例,慢 性肺気腫4

症例,脳 血管障害3症 例などが主た るもので単独

菌感染 と複数菌感染症での基礎疾患合併症に大 き

な差異はみられなかった.

ii) びまん性汎細気管支炎:12症 例,18感 染

エピ ソー ドで年齢 は43~84歳 に分布 し平均年

齢は69.2歳 で,単 独菌感染 は10感 染 エピソー ド

(55.6%)で あった.複 数菌感染ではインフルエン

ザ菌 との2菌 感染が4エ ピソー ドと最 も多 く,次

いで肺炎球菌 との2菌 感染2エ ピソー ド,緑 膿菌

との2菌 感染1エ ピソー ド,イ ンフルエンザ菌と

肺炎球菌との3菌 感染1エ ピソー ドであった.基

礎疾患合併症は6症 例(50%)に みられ,慢 性関

節 リウマチ3症 例,慢 性副鼻腔炎2症 例,胃 癌1

症例であった.

iii) 気管支拡張症:28症 例,39感 染エピソー ド

で年齢は22~84歳 に分布 し平均年齢は58.3歳 であ

り,単 独菌感染が22感 染エピソー ド(56.4%)で

あった.複 数菌感染の中ではインフルエンザ菌 と

の2菌 感染が7エ ピソー ドと最も多かったが,緑

膿菌との2菌 感染が6エ ピソー ドにみられたのが

特徴的であった.他 には肺炎球菌 との2菌 感染が

2エ ピソー ド,イ ンフルエンザ菌 と肺炎球菌 との

3菌 感染1エ ピソー ドがみとめ られた.基 礎疾患

合併症は13症例(46.4%)に み られ,慢 性副鼻腔

炎7症 例,肺 癌2症 例,大 腿骨骨頭骨折2症 例な

どが主たるものであった.

iv) その他の慢性下気道感染症:慢 性肺気腫の

本菌感染による急性増悪 は15症 例,19感 染エ ピ

ソー ドで,単 独菌感染は12エ ピソー ド(63.2%),

複数菌感染7エ ピソー ドはインフルエンザ菌や肺

炎球菌 との組み合わせが主なものであった.気 管

支喘息の本菌感染による急性増悪は7症 例,10感

染エ ピソー ドであ り,単 独菌感染7エ ピソー ド

(70%),肺 炎球 菌 との2菌 感 染3エ ピ ソー ド

(30%)と なっていた.

以上の慢性下気道感染症201感 染 エピソー ドで

の各疾患毎の単独菌,複 数菌の内訳をTable4に

示した.慢 性下気道感染症全体でみた単独菌感染

は116エ ピソー ド(55.0%),複 数菌感染の組み合

わせ もほとんどインフルエソザ菌,肺 炎球菌や緑

膿菌などの主要呼吸器病原菌 との間でみられた も

のであった.今 回の検討でブランハメラ単独菌感

染 と複数菌感染での疾患特性に差異があるとの結

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102 感染症学雑誌 第62巻 第2号

Table 4 Chronic Respiratory Tract Infections with B. catarrhalis (1976-1985)

C.B.: Chronic bronchitis, D.P.B. : Diffuse panbronchiolitis (Chronic brochobrochiolitis)

B.E.: Brochiectasis, C.P.E.: Chronic pulmonary emphysema, B.A.: Brocial asthma

果は得 られず,特 に重篤な基礎疾患を背景 とした

場合に複数菌感染が多い傾向が うかがえたにすぎ

なかった.慢 性下気道感染症の急性増悪時の化学

療法については検体 として喀痰が容易に得 られる

こと,喀 痰のグラム染色や過去の感染歴からの起

炎菌推定が可能であることなどから薬剤の選択 も

容易であ り,か つ早期の化学療法効果の判定が可

能である.本 菌による慢性下気道感染症に対 して

経 口剤 としてはerythromycin(EM)な どのマク

ロライ ド剤,β-lactamase阻 害剤 とペニシリンの

合剤(augmentim),ニ ューキノロン剤(NFLX,

OFLX,ENXな ど),注 射剤 として はβ-lacta-

mase阻 害剤 とβ-lactam注 射剤 の 合剤(BRL

28500, SBT/ABPC, SBT/CPZな ど),第3世 代

セ フェム剤,セ ファマイシン系抗生剤,ア ミノグ

リコシ ド剤,テ トラサイク リン系抗生剤,な どで

の実際の臨床的有用性はきわめて高いものであっ

た.

2) ブランハ メラの呼吸器感染症起炎性 に関す

る検討

(1) 血液生化学的検査成績からみた炎症反応

1985年1月 ~12月 の1年 間に検査 された慢性下

気道感染症28症 例の急性増悪時のWBC数 および

CRP値 について発熱 との関係をTable5お よび

Fig.1に 示した.38℃ 以上の高熱群(n=5)で の

WBC数 の平均値は9,560.0/mm3で,CRP平 均値

5.2+と 強い炎症反応を示 し,臨床的にも中等度以

Table 5 Biologic characteristics of patients with

B. catarrhalis respiratory tract infection, accord-

ing to body temperature

B.T.: body temperature (axillary)

n: number of patients in the group for whom that

characteristic was determined

上の重症度で,1症 例は肺炎であった.37℃ 以上

38℃以下の発熱群(n=9)に おけるWBC数 平均

値は8,988.9mm3,CRP平 均値2.9+で 臨床的には

ほとんどが中等症であった.一 方,37℃ 以下の発

熱無し群(n=14)で のWBC数 平均値 は7,300.0/

mm3,CRP平 均値は1.6+と なってお り前2者 に

比べて有意(p<0.01)に 低値であ った.個 々の症

例について発熱の有無で両群を比較す ると,発 熱

有 り群の全症例でWBC数 は7,000/mm3以 上で,

CRPも 陽性であったのに対し,発 熱無 しの症例で

はWBC数6,000/mm3以 下が5症 例,CRP陰 性例

も3症 例にみ とめられた.発 熱が無 くかつ炎症反

応がみ られなかった症例 は臨床的にも軽度の咳嗽

や膿性喀痰の増加がみとめられたにすぎない軽症

例であった.

(2) 喀痰炎症細胞診からみた起炎性

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昭和63年2月20日 103

Fig. 1 Biologic characteristics of patients with B. catarrhalis respiratory tract

infection

axillary

temPerature

Fig. 2 Inflammatory cells count and bacterial pathogens count isolated from

sputum of the one patient with diffuse panbronchiolitis from 1979 to 1981

Quantitative sputum culture

呼吸器感染症の起炎菌決定法における喀痰炎症

細胞診の意義については松本 ら11)も繰 り返 し強調

している.特 にブランハメラ性呼吸器感染症の診

断における有用性は高 く,私 共はすでに新鮮喀出

痰での炎症細胞数を定量的に評価 し,菌 数の変動

と対比 してかつ他菌種 とも比較 した成績を報告12)

した.今 回は同一症例で3年 間にわた り急性増悪

時の喀痰中の炎症細胞数 と起炎菌菌数を定量的に

追跡 した成績をFig.2に 示した.65歳,男 のびま

ん性汎細気管支炎症例であ り,イ ンフルエンザ菌

感染で12ポ イン ト,ブ ランハメラで11ポ イン ト,

セラチアで3ポ イン ト,緑 膿菌 とXanthomonas

maltophiliaで 各1ポ イン トの計28回 の急性増悪

時の喀痰での炎症細胞数 と菌数を測定 した.最 も

測定ポイン トの多いインフルエンザ菌 とブラソバ

メラでの成績でみると菌数の増加に比例 して炎症

細胞数の増加が認められる.

(3) ブランハメラ性呼吸器感染症の代表的症例

にみる炎症反応

66歳,男 のびまん性汎細気管支炎症例(Fig.2

と同一症例)で2ヵ 月間の繰 り返 し感染経過中の

血液生化学的炎症反応 と喀痰中炎症細胞数の変動

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104 感染症学雑誌 第62巻 第2号

Fig. 3 H. T. 66y/o Male Diffuse panbronchiolitis (D.P.B.)

をFig.3に 示 した.経 過 中 ブ ラ ンハ メ ラに よ る急

性 増 悪 が3回,イ ン フ ル エ ンザ 菌 に よ る急 性 増 悪

が1回 み られ,各 々の 急 性 増 悪 の 時 期 に一 致 し て

WBC数,CRP,赤 沈 な どの炎 症 マ ー カ ー お よ び喀

痰 中 炎 症 細 胞 数 が 増 加 し,化 学 療 法 に よ る起 炎 菌

の消 失 と共 に 改 善 した.

4. 考 察

1970年 にCatlin3)は グ ラ ム陰 性 球 菌 を 病 原 性 ナ

イ セ リア(淋 菌,髄 膜 炎 菌)と 非 病 原 性 ナ イセ リ

ア の ナ イ セ リア属 お よ び ブ ラ ソバ メ ラ属 に 分 類 す

る こ とを 提 唱 した.1974年 のBergey's Manual of

Determinative Bacteriologyの 第8版4)に よ る と

ナ イ セ リア 科(family Neisseriaceae)は ナ イ セ リ

ア属(genus Neisseria)と ブ ラ ン ハ メ ラ属(genus

Branhamellaお よび モ ラ ク セ ラ属(genus Morax-

ella)と ア シ ネ トバ ク タ ー属(genus Acinetobac-

ter)の4属 に 分 類 さ れ て い る.こ の 中 で ブ ラ ンハ

メ ラ属(B.catarrhalis, B.ovisとB.caviae)と

モ ラ ク セ ラ属 は 核 酸 の 相 同 性(homology)か ら

非 常 に 近 い 関 係 に あ る こ とが 知 られ,こ の2属 と

ナ イ セ リア属 や ア シ ネ トノミク タ ー属 との 間 に は 相

同 性 が な い か ま た は 非 常 に 少 な い こ とが 明 らか と

な った.こ れ ら の 検 討 か ら1984年 版 のBergey's

Manual of Systematic Bacteriologyのvol.1で

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昭和63年2月20日 105

はブランハ メラをモラクセラ属のsubgenusに 含

むもの としてお り,genus Moraxellaの うち桿菌

状のものをsubgenus Moraxella,球 菌状のものを

subgenus Branhamellaと し,そ れぞれの略号も

M・(M), M・(B)と 表現することになっている.

しかし,こ の細菌分類学上の変革 とは別にブラン

ハメラ属,特 にB.catarrhalisは 近年急速 に病原

細菌 として注目されるようになった為 に臨床的に

はM(B)・catarrhalisと して略号が用いられるこ

とはなく,今 日もなおB.catarrhalisと 表現され

ているのが実状である.B.catarrhalisの 呼吸器感

染症の起炎菌名 としての最初の登場 は1976年 の

McNeelyら5)の 小児の悪性腫瘍患者での肺 炎症

例であったが,そ の後1970年 代後半には明 らかな

免疫不全に合併 したブランハメラ感染症がいくつ

か報告6)~8)された.し かるに1980年 を境 として私

共の施設での症例数の増加 と期を一にしてほぼ全

世界的 ともいえる本菌感染症増加が今 日まで報

告9)~15)されている.最 近における本菌感染症の症

例報告の特徴は必ず しも免疫不全を背景とするも

のばか りではな く,急 性気管支炎2),慢 性下気道

感染症2),慢性副鼻腔炎16),さ らには小児の急性中

耳炎17)など通常の感染症 としての報告が増加 し,

また同時にβ-lactamase産 生に基づ く耐性菌増

加の報告1)が認められ ることである.ブ ランバ メ

ラ性呼吸器感染症増加 の要因 としてはβ-lacta-

mase産 生菌の急激 な増 加が最 も大 きい もの と

考えられている.し か もそれが1980年 以後に急増

した理 由は今 日明確 ではないが,一 つには第3

世 代 セ フェム剤 な どに代 表 され る多 くの β-

lactam剤 の連続的開発 と広範な使用が考 えられ

かつ頻回に抗生剤の投与を必要 とする宿主の増加

も重要 な要因と考えられ よう.さ らにはブランハ

メラの新たな病原性の獲得が推測され,私 共も今

日追求中であるが未だ証明されていない.当 科に

おいて1980年 以前には年間1~2症 例にす ぎな

かった本菌感染症が今 日では 日常化 してお り,時

として当教室の細菌検査室に持ち込まれる医学部

学生や医局員の子供達の急性気管支炎の膿性喀痰

あるいは急性副鼻腔炎の膿性鼻汁などからもグラ

ム陰性双球菌が純培養状に明確な炎症反応 を伴 っ

て検出されることが多 くなった.ブ ランハメラは

先述 した様にいわゆる非病原性ナイセ リア属の中

に長い間入れ られてお り,口 腔内常在細菌叢の一

つ としてナイセ リア ・カタラー リス(Neisseria

catarrhalis)の 名前でよく知 られていたものであ

る.然 るにブランバメラの口腔内常在性について

は今 日非病原性ナイセ リア群に比べても高いもの

ではなく,他 の代表的呼吸器病原細菌であるイン

フルエンザ菌や肺炎球菌 と同程度かむ しろ低率で

あることが私共や他の研究者の報告18)19)から明 ら

かである.こ の点からも私共はブランハメラを平

素無害菌としていわゆるopportunistic infection

の起炎菌としてのみとらえるのではなく,通 常の

呼吸器病原菌 として新たに認識すべ きものと考え

ている.

今回の臨床的検討からブランハメラによる各種

呼吸器感染症 の病態が よ り詳細 に明 らか となっ

た.急 性気管支炎の場合外来患者が多 く(54.2%),

いわゆるcommunity acquierd infectionと して

みとめ られ,ほ とんど(80%以 上)が 単独菌感染

症であった ことは興味深い.急 性気管支炎で ブラ

ンハメラ感染が明らかにあ りなが ら,抗 菌性薬物

の投与の必要な く自然治癒 した4例 が経験された

が,こ の事象はインフルエンザ菌,肺 炎球菌の同

様の感染でも認められることがあり本菌 に特有の

現象ではない.一 方,肺 炎ではhospital acquierd

infectionが 中心で特に脳血管障害後な どでの嚥

下性肺炎としてみられることが多 く,か つそのほ

とんどが複数菌感染症であった.肺 炎の場合,適

切な化学療法がなされなければ死亡例 もみられた

ことは本症の重要性の一而を物語 るものであろ

う.し かし肺炎像それ自体で現段階では中等症以

下の例が多いことは事実である.慢 性下気道感染

症に関 しては当科で10年 間に201感 染エ ピソー ド

の多数例が集積 されてお り,最 近における症例数

の急増 もこの慢性下気道感染症,中 でも慢性気管

支炎の急性増悪症例の増加を大きく反映 したもの

であった.慢 性下気道感染症では複数菌感染症が

全体の42.3%を 占めてお り,イ ンフルエンザ菌,

肺炎球菌や緑膿菌 との2菌 あるいは3菌 の組み合

わせが主なものである.こ れらの複数菌の組み合

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106 感染症学雑誌 第62巻 第2号

わせについては臨床的には化学療法剤の選択上の

注意が必要 となる.ブ ランハメラ性呼吸器感染症

の臨床的検討か ら教室の力富 らは本菌感染症が冬

期 に多 く,夏 期に少ないことを指摘 した.こ の冬

期にブランハメラ感染症が多い理由の一つ として

力富 らは冬期 には夏期に比べて患者咽頭上皮細胞

へのブランハメラの付着性が有意に高 くなってい

ることを証明してお り,さ らにβ-lactamase産 生

菌の方が非産生菌よ りも付着率が高 くなることを

報告している.ブ ランハメラの病原性を解明する一つの手掛か りとして注 目され る結果であ り

,今

後の発展が期待される.ブ ランハメラの呼吸器疾

患起炎性については私共がすでに報告20)した よう

に化学療法の前後での喀痰中の細菌数 と炎症細胞

数は連動 してお り,慢 性下気道感染症の急性増悪

時の喀痰中炎症細胞数で比較 した各菌種問の炎症

の強さはインフルエンザ菌≧ブランバメラ>緑 膿

菌の順であった.今 回の同一症例での3年 間に亘

る繰 り返 し感染からみた喀痰中炎症細胞数の起炎

菌毎の比較で もインフルエンザ菌 ≧ブランハ メ

ラ>緑 膿菌,セ ラチアの順に炎症反応が強いとの

結果が得 られた.一 方,血 液生化学的炎症マーカー

からみた ブランハメラ性呼吸器感染症の全身炎症

反応の強さは38℃ 以上の高熱群(n=5)でWBC

数の平均が9,560.0/mm3,CRP値 の平均が5.2+

であ り,発 熱無し群(n=14)で のWBC数 の平均

が7,300/mm3,CRP値 平均1.6+で あった.こ の

ことはブランハメラ性呼吸器感染症において全身

炎症反応の一つの指標 としてのWBC数 やCRP

値などの血液生化学的炎症マーカーが発熱などの

病態をよく反映することを示してお り,本 菌の有

す る呼吸器病原性は明らかである.

おわ りに

ブランハメラによる感染症は呼吸器,耳 鼻科領

域を中心に急増がみ られる.本 菌の病原細菌 とし

ての歴史もまだ浅いこともあ り,呼 吸器感染症に

おける疾患毎の病態に就ての検討は今回の報告が

初めてである.ブ ランハメラが今 日では通常の呼

吸器病原菌であるとの認識は起炎菌決定に喀痰炎

症細胞診を併用 している施設では極めて当た り前

のこととなっている.今 後 ブランハメラの薬剤耐

性 化 の 方 向性 と病 原 性 獲 得 の メ カ ニ ズ ム に関 す る

研 究 が さ らに 必 要 とな ろ う.

謝辞:稿 を終わるに臨み,御 指導,御 校閲を賜わった松

本慶蔵教授並 びに御協力いただいた教室の諸先生に深謝 い

たします.

文 献

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ランハ メ ラ感 染 症-呼 吸 器感 染症 にお け る β-

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Respiratory Infections Caused by Branhamella catarrhalis:

Clinical Analysis Concerning Its Pathogenicity

Tsuyoshi NAGATAKE

Department of Internal Medicine, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University

A rapid annual increase of respiratory infections with Branhamella catarrhalis and ƒÀ-lactamase

producing strains have been noted in our clinic. During the last decade, we have experienced 186 cases

(239 episodes) of respiratory infections: 13 pneumonia (14 episodes), 24 acute bronchitis, 87 chronic

bronchitis (115), 12 chronic bronchobronchiolitis (18), 28 bronchiectases (39), 15 choronic pulmonary

emphysema with infection (19) and 7 bronchial asthma with infection (10).

All of the patients with pneumonia caused by this organism had a underlying disease and in 11

(78.6%) of the 14 episodes B. catarrhalis was isolated as one of the polymicrobial agents coexistent with

other organisms. One patient with pneumonia died and a few patients failed to be treat successfully

with ƒÀ-lactams. Acute bronchitis developed in 6 previously healthy young, and 87.5% of the patients

yielded a pure culture of B. catarrhalis in the sputum.

B. catarrhalis was isolated as the only bacterial pathogen in the sputum from 116 (57.7%) of the

201 patients with chronic lower respiratory tract infection and in combination with H. influenzae, S.

pneumoniae or others in 85 (42.3%) of the 201. Twenty-four patients of B. catarrhalis infection isolated

from the sputum as a single pathogen were assessed clinically and bacteriologically during January

through December of 1985. Haematological and biochemical studies were performed with respect to

axillary temperature, total circulatory WBC counts and serum C-reactive protein.

Mean WBC counts and serum C-reactive protein of 5 patients with acute purulent exercebation of

chronic bronchitis with fever (•†38•Ž) were obtained 9560.0/mm3 and 5.2+. Patients without fever

were less likely to have WBC counts and serum C-reactive protein than were patients with fever.

Disappearance or decrease in number of the inflammatory cells (polymorphonuclear leukocytes)

and the cocci of B. catarrhalis from purulent sputum coincided with clinical and laboratory

improvement.

These results have clearly showed the importance of B. catarrhalis as the common pathogen for

respiratory diseases.