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* 本稿の初出は、東京都立大学法学会雑誌第39巻第1号兼子仁先生退職記念号(1998年)。本文及び注記で文献を引用する際には、以下の略称を用いた。今村・入門 今村成和『行政法入門(第六版)』有斐閣 (1995年)塩野・行政法Ⅰ 塩野宏『行政法I(第二版』有斐閣 (1994年)兼子・法学 兼子仁『行政法学』岩波書店 (1997年)兼子・総論 兼子仁『行政法総論』筑摩書房 (1983年)兼子・三区分 兼子仁「現代行政法における行政行為の三区分」同編著『西ドイツの行政行為論』成文堂 (1987 )(論文初出は1976年)小早川・講義Ⅱ 小早川光郎『行政法講義上Ⅱ』弘文堂(1994年)芝池・総論 芝池義一『行政法総論講義(第 2 版)』有斐閣(1994年)芝池・申請届出 芝池義一「『行政手続法』における申請・届出に関する一考察」法学論叢139巻6号1頁(1996年)下山・基礎 下山瑛二『現代行政法学の基礎』日本評論社 (1983年)高橋・手続法 高橋滋『行政手続法』ぎょうせい (1996年)田中・行政法 田中二郎『新版行政法上巻(全訂第二版)』弘文堂1974年 (初版は1954年)逐条研究 小早川光郎編『ジュリスト増刊 行政手続法逐条研究』有斐閣 (1996年)藤田・総論 藤田宙靖『第三版行政法I(総論)』青林書院(1993年)藤田・分類学 藤田宙靖「行政行為の分類学」同『行政法学の思考形式』木鐸社(1988年)(論文初出は1977年)美濃部・行政法 美濃部達吉『日本行政法 上』有斐閣 (1936年・1986復刻版を使用)

行政処分の区分について* 石崎誠也はじめにはじめにはじめにはじめに①本稿は、行政処分 (行政行為) の分類方法について、筆者の現時点で考えるところを整理しておこうとするものである。「行政処分」の定義をすることも重要な作業であるが、本稿では、さしあたり、行政手続法及び行政事件訴訟法で用いられている行政庁の「処分」として通常理解されているものを念頭に置いている。しかし、行政処分の区分を行う場合には、対象となる行為が行政処分たりうるかどうかが問題となることも当然に生じるので、その場合には、行政処分の概念規定にも関

連した議論をする場合がある。ところで、取消訴訟の対象となる行政処分は継続的性質を持つ権力的事実行為を含むが、本稿で対象とするのは、このような権力的事実行為を除くもの、すなわち法的行為 (法規範を形成・変更・廃止する行為) である。それは、大体において講学上の「行政行為」概念に合致するが、本稿では、後に述べるように行政手続法や行政訴訟制度との関係も論じることになるので「行政処分」という用語を使用する。但し、先行する業績を参照する場合には、直接原文を引用する場合以外であっても、その研究者の用法に従い「行政行為」

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1 遠藤博也『実定行政法』有斐閣(1989年)98頁や塩野・行政法I・101頁は行政行為論からは対象外とする方向である。2 芝池・申請届出3頁は、この分類では職権による利益処分が抜けおちると指摘する。3 兼子・三区分 291頁、兼子・総論 89頁。4 美濃部・行政法 204 頁。なお、同書は準法律行為的行政行為に、上記の四種類の他に「賞罰行為」をあげている。田中・行政法 116 頁。最近の教科書でも、この分類法に依拠するものは少なくない。例えば、市原昌三郎『行政法講義』法学書院(初版は 1988 年・改訂版は 1994 年)。手島孝・安藤高行・中川義郎『基本行政法学』法律文化社(1995 年)113 頁以下や、原田尚彦『行政法要論(全訂第三版)』学陽書房(1994 年)142 頁は、伝統的分類方法に疑問があることを指摘した上で、この分類を紹介している。

という用語を用いる。また、「法律行為的」「準法律行為的 」と形容とする場合も、従来の用法にならい「行政行為」と記すことがある。なお取消訴訟の対象である行政処分の分類を考えようとするので、手続法的効果を持つ処分も対象から排除しないこととした1。②いうまでもなく、行政処分は様々な観点から分類しうる。行政処分手続に関する一般法である行政手続法が制定されている現在では、申請に対する行為と不利益処分という分類も重要な分類であろう 2。また、よく知られているように兼子教授は、利益的・不利益的・二重効果的行政処分の三区分を重視されている 3。しかし、行政処分(行政行為)の分類では、系統的分類と呼ばれる行政処分の効果の法的性質に着目した分類がもっとも重視されてきた。本稿も、この系統的分類と呼ばれるものを検討の対象にしようとするものである。1111、、、、法律行為的行政行為法律行為的行政行為法律行為的行政行為法律行為的行政行為とととと準法律行為的準法律行為的準法律行為的準法律行為的行政行為行政行為行政行為行政行為についてについてについてについて

この系統的分類によれば、行政行為は法律行為的行政行為と準法律行為的行政行為に分けられ、さらに、前者は命令的行政行為と形成的行政行為に、後者は確認、公証、通知、受理に分けられる。法律行為的行政行為と準法律行為的行政行為との区別の基準は、私法上の法律行為と準法律行為の分類に倣い、行政行為を行政庁の意思表示ととらえたうえで、それが効果意思を有するものか、それともそれが判断・認識・観念の表示にとどまり、効果意思を有するものでないものかというところに求められた 4。しかし、周知の通り、この準法律行為的行政行為という概念を用いることを、近年の行政法学は疑問視している。体系書・教科書でいえば、藤田・総論、兼子・総論、兼子・法学、塩野・行政法Ⅰなどである (文献の略称については前頁注を参照されたい) 。また今村成和『行政法入門』も第四版(1990年) より、準法律行為的行政行為の概念を放棄している。その批判の主要なポイントは、1)私法上の法律行為における効果意思と、法治主義原則により議会立法の授権にもとづいて具体的な決定を行う行政庁

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5 藤田・分類学 114 頁。兼子・総論 163 頁。大貫裕之「『行政行為の分類学』覚書」東北学院大学論集 40号(1992年)155頁。塩野・行政法 I97頁以下は、確認行為については法律関係等の確定という内容を持った行為(確定行為)として行政行為の内容的分類のひとつとし、通知と受理(それに具体的法効果が与えられているとき)は命令的行為あるいは形成的行為に含ましめることが可能であり、公証についてはその行政処分性に疑問を呈されて、準法律行為的行政行為というカテゴリーを維持することを疑問視している。地方、室井力編『現代有民法入門(1)(第四版)』法律文化社(1995 年)121 頁(浜川清執筆)は、行政庁の権限の広狭という点において、準法律行為的行政行為の概念は一定の有用性を持つとしている。6 美濃部・行政法 205頁・210頁。

行政処分の区分について 3の機関意思を同質視することはできないこと、2)準法律行為的行政行為であっても裁量の余地のあるものがあり、附款の可否についても、裁量性との関係でとらえる方が適切であること、3)そもそも両者の区分は、次元の違うものであって、準法律行為的行政行為といわれるものであっても、その効果の面からみれば、命令的行為または形成的行為に分類することが可能であること、等である 5。本稿においても、これらの研究に学び、法律行為的行政行為と準法律行為的行政行為という区分は採用しないこととする。なるほど、相手方国民にどのような法律上の効果が生じるかを視点に分類しようとするのであれば、効果意思の有無ではなく、行政処分が相手方国民にどのような効果をもたらすかで分類すればよいと考えるからである。2222 、、、、命令的行政処分命令的行政処分命令的行政処分命令的行政処分とととと形成的行政処分形成的行政処分形成的行政処分形成的行政処分((((特特特特にににに許可許可許可許可のののの位置位置位置位置づけについてづけについてづけについてづけについて))))法律行為的行政行為 (行政処分) の分類においては、命令的行政処分と形成的行政処分の区分がなされており、これは、準法律行為的行政行為の区分

概念を否定する論者においても、ほぼ一致している。両者の違いは、一般には、国民の自由に対する制限であるのか(命令的処分)、国民の法的行為能力や権利を左右するものであるのか(形成的処分)にあるとされているが、その内容は必ずしも一致しているわけではない。特に許可の位置づけをめぐって見解の相違がある。①周知のように、伝統的な行政行為分類論では、許可を命令的処分に位置づけていた。ここでは両者(命令的行政行為と形成的行政行為)の区別の基準は、国民の自然の自由に対する規制(若しくはその解除)を目的とするものなのか、それとも国民に法律上の資格或いは権利を付与するものかに求められてきた。美濃部博士は、「命令的行(verpflichtendママAkte)は人の天然の自由を制限して或る事を爲し又は爲さざることを命じ又は其の命ぜられた義務を免除することを内容とする法律行爲的行政行爲である。」として、それには1)下命、2)許可・免除及びその拒絶があるとする 6。それに対し、「形成的行爲 (konstituitive Akte, Gestaltungsakte)は、……人の自然には有しない法律上のカの形成に關する効果を

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7 田中・行政法 121 頁。但し、従来の行政法学において、常に、命令的行政行為と形成的行政行為の二大区分及び下命と許可の前者への配置がなされてきたわけではない。例えば、渡邊宗太郎『新版日本國行政法要論(上巻)』有斐閣(1963 年)247 頁以下は、行政処分(法律行為的行政行為に該当する)を形成処分と拒否処分に分かち、形成処分をさらに創設処分・廃棄処分・変更処分・廃棄創設処分に区分し、創設処分をさらに設権行為 (特許)、下命、許可に分けている。園部敏『行政法論』法律文化社(1957 年)39 頁以下もほぼ同様である。8 藤田・総論 173頁。9 兼子・総論 165頁・166頁。なお兼子・法学 143頁以下では、「許可」制・「認可」制・「特許」制の区別はあるが、それらを命令的処分と形成的処分に大別するという分類は明確には述べられていない。しかし、認可と特許については形成的効果を有すると説明している。

行政処分の区分について 4其の内容とする行爲である。自然の自由と法律上のカとの差異は、前者は國の法律を待たず天然に依つて與えられた人間の自然の能力に依って當然に爲し得る所であるのに對し、後者は法律に依って始めて與へらるる力であることに在る。」として、設権行為、変改行為、剥権行為とに分けている。また、田中二郎博士も、命令的行為を「人民に特定の義務を命じ又はこれを免ずる行為をいう。下命(禁止)、許可、免除に分たれる。いずれも人民の自然の自由の制限又はその解除に関する行為であり、権利の発生・変更・消滅を目的とする形成比行為と区別される。」と説明している 7。一方、「自然の自由」という観念を用いずに、「行政行為が相手方たる私人の権利・義務にどのようなかかわり方をするか、という見地から」命令的行為と形成的行為を区別すべきであるとして、命令的行為を「私人が(事実として)ある行動をすることしないこと自体を規制する行政行為」、形成的行為を「私人が行う行動の法的効果に関わる規制を行う行政行為」と概念規定する見解もある 8。しかし、許可が命令的行為に含まれること自体は、伝

統的な区分論と同じである。兼子教授は、「命令的処分(命令的行政行為)は、……国民の自由権にもとづく行動に対して行政法的義務づけをしその違反を行政強制ないし刑事処罰するという規制方式である。」とし、「形成的処分(認可や特許)は、国民の法的行為能力や権利を左右する、より社会介入的な規制形態である。としており、ほぼ同様の立場に立っていると思われる 9。②以上のように、許可を命令的処分とし特許を形成的処分とする見解に対して、厳しい批判も出されていた。例えば、下山教授は、命令的行為と形成的行為を「自然の自由」と「天然に有しない或る法律上の力」の観念で区分しようとしたことにつき、「今日の憲法は、権利としての基本的人権を根幹に据えている。したがって、基本的人権規定においては、自然人はすべて本来的に権利を有することになる。そこでは『天然に有しない或る法律上の力』を与えるという表現が、少なくとも基本的人権をもつ自然人の行為に関しては調和しえなくなっている。」

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10 下山・基礎 76頁。11 下山・基礎 79~ 88頁。12 今村成和「公企業及び公企業の特許」『現代の行政と行政法の理論』有斐閣(1972 年)65頁(論文初出は 1966年)、藤田・総論 184頁、兼子・法学 145頁、小早川・講義Ⅱ 170頁。

と述べ 10、許可を認可あるいは特許と区別する合理性について、次のような疑問を提出する。第一に、認可も許可と同様に一般的禁止の解除であり、いずれも自由権の回復であって、両者間に本質的な差異はないこと。第二に、形成的行為と命令的行為を峻別する見解にたてば、いわゆる「認許」を合理的に説明できないこと。第三に、「許可」と「特許」との差異についても、それが国家の「公企業独占権」という観念に結びついたものであって、「特許」の概念を「このような歴史性の付着している……『国家の企業独占権』という概念から説明することは妥当ではない」ということ。かくして、「命令的行為と形成的行為を自然の自由の有無と新たな権利の創設という二つの要素から区分する方法を、基本的人権を保有する国民に対する規制という観点から捉え直す必要性に迫られていることを前提にすれば、『許可』も『特許』も内容的には相対的な相違にすぎぬことは明らかであろう。」と結論づけられる 11。いうまでもなく、許可と特許の概念に関しては、「公企業の特許」の概念をめぐって盛んに研究された経緯があり、基本的に「公企業の特許」を国家の営業独占権から基礎づけようとする見解は克服され、いずれも「営業の自由」に対する規制であるが、特許企業はその公益性や利用者保護の必要性から介入的性格の強い行為であると同時

に営業の独占性が認められるものと理解されている 12。しかし、だからといって、許可と特許を命令的行為と形成的行為に分けることが否定されたわけではない。むしろ、特許の法的効果(その積極的な介入的性格と営業独占性の付与)から形成的行為に含める見解が維持されている。③ところが、近年は、命令的行為を下命・禁止に限定し、許可を形成的行為に含めて説明する行政法教科書も登場している。例えば、塩野教授は、命令的行為を「端的に私人に対し、作為、不作為を命ずるものである。それは、自然の自由にかかる命令であることもあるし、免許企業の企業活動に対する命令でもよい。」とし、下命と禁止を命令的行為とする一方で、形成的行為とは「私人に対し、法的地位を設定するものである」とする。ここでは伝統的な見解と異なり、許可も形成的行為に含められている。また、申請拒否は消極的形成行為であり、法的地位を消滅させる行為も形成的行為である。教授がこのような分類を採用される理由は、「許可」といわゆる「公企業の特許」について、両者の違いは相対的であって、「一方を命令的行為、他方を形成的行為として質的に異なった領域に妥当するものとすることは困難」であるということにあり、むしろ、分類方法としては、「私人の自由領域と国家から付与される権利の区別を前提と

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13 塩野・行政法 I99頁、100頁。14 宮田三郎『行政法総論』信山社(1997年)226頁。15 兼子・総論 170頁は、専売事業の特許、特許企業の特許、公益法人等の認可、受給権の設定など八類型をあげている。

行政処分の区分について 6しない」機能的見地からの分類を徹底させるべきであるということにある 13。行政行為をその規律の基本的内容に従って区分すべきであるとする宮田教授も同様の分類をする 14。④さて、許可の位置づけを検討するにあたり、それぞれの概念を一般的見解に従って、次のように定義しておく。許可とは、国民の行動の自由に対する一般的禁止を申請にもとづいて個別に解除する処分である。それは、国民の私法上の法律関係には原則として影響を及ぼさず、許可の名宛人に対し第三者との関係で当該権利の排他的独占性を与えるものではない。認可とは国民の法律行為を有効ならしむる補充行為である。特許とは、名宛人に対し、一般的禁止の解除を超える権利や法的資格を付与し、あるいは継続的・包括的な法関係(権利義務関係)を形成する処分である。許可と同じように行動の自由を回復させるものであっても、それが第三者に対する関係で(強弱の差はあれ)排他性・独占性をもたらすものであれば、特許処分に含めることにする。この意味での特許はたしかに包括的な概念であり、さらにそれはいくつかの類型に細分類することができよう 15。以上のように規定するならば、許可、認可、あるいは特許に、その法的効果において相対的な差があることは否定できない。しかし、許可を命令的処分

とし、認可や特許を形成的処分とすることが妥当かという点になると、疑問を禁じ得ない。第一に、許可も国民にとって自由権を回復・確定させるものであり、その地位が権利として保護されるべきことに疑問の余地はない。また、許可の撤回・取消も認可や特許の撤回・取消と同様に剥権処分であって、一方を命令的処分の一類型、他方を形成的処分の一類型と区分することも説得的とはいえない。なお、行政法手続法上はいずれであっても必要的聴聞に該当する不利益処分である。第二に、命令的処分であるか形成的処分であるかは、行政処分を規律する法理の差に必ずしも直結しているとはいえない。たしかに、許可の方が、傾向的に、その裁量の余地が狭いということはあるとしても、許可は自由の回復であるから覊束行為であり、特許は権利の付与であるから裁量行為であると一律に論じることもできない。許可であっても、裁量余地が存在しうるし、その広狭は個別の法律の適切な解釈に

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16 権利移転を伴わない農地転用許可はここでいう許可に該当するが、1998 年改正前は、法律上許可基準は全く規定されていなかった。そのため農地転用基準が最重要の裁量行使基準となっているが、これには要件裁量に関する基準も効果裁量に関する基準も含まれる。警察許可の例としてあげられる外国人の在留許可について最高裁昭和 53 年 10 月 4 日判決(民集15巻 4号 928頁)は高度の裁量性を認めている。

17 例えば、道路法は、道路の占用許可について、要件該当の場合に許可できるとするもの(33 条)と、要件該当の場合には許可を与えなげればならないとするもの(37 条)を分けて規定している。18 拙稿「利益的行政行為の概念について」法政理論 16巻 2号(1984年)261頁。

よって決せられることが少なくない 16。逆に、特許と言われるものでも、法律の規定の仕方は様々であって裁量の幅にも差異がある 17。第三に、下山教授の指摘するように、許可も認可も、またいわゆる公益性の高い企業活動に対する規制(特許)にしても、国民の行動の自由や企業活動に対する規制であって、それをいかなる法的手法で実現しようとするものであるかの相対的な差である。規制目的によっていかなるサンクションをとるかという問題であり、無許可の行為に対して罰則と法律行為の無効のいずれをとるのかあるいは両者を課すのかという相対的な差である。以上を鑑みれば、許可と認可・特許を命令的処分と形成的処分にまず大別するよりは、これらを国民の権利や法的地位を設定ないし確定する処分(広義の設権処分=利益的処分)として大分類し、その中の下位区分として、許可・認可・特許を位置づけた方がよいのではないかと思われる。その際、免除もこの広義の設権処分の中に含めてよいと思われる。なお、ドイツの行政行為分類論も、許可と設権行為の差が相対的であることを意識するようになって、それらを利益的処分という概念

で包括するようになってきたという経緯がある 18。また、もし、命令的処分と形成的処分という大区分を維持するのであれば、この広義の設権処分を形成処分に含めることが適切であろう。そうすると、形成的処分は広義の設権処分、拒否処分、剥権処分に分けられることになる。変更処分については、それが基本的に相手方にとって利益的なものであれば、上述の広義の設権行為のひとつとして位置づけられるし(この場合には、申請に基づく場合が少なくないであろう)、また、それがもっぱら職権により相手方の権利・利益を減殺するものであるならば、剥権行為に準じるものと位置づけられよう。例えば、朝日訴訟で問題となったような生活保護の不利益的変更行為は、部分的な剥権行為である。もし新たな負担を課すものであれば命令的行為の一種である。このように形成的処分を規定すると、命令的処分は、下命及び禁止によって構成されるものとなる。すなわち、これらは名宛人に対して作為あるいは不作為義務を課す不利益的処分である。

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19 美濃部・行政法 209頁、212頁。20 今村・入門 93頁。なお、同書第五版(1992年)93頁参照。21 塩野・行政法 I99頁。22 兼子・法学 111頁。併せて、兼子教授は、届出受理制にあっては、不受理処分だけが行政処分であると指摘している。

行政処分の区分について 83333 、、、、拒否処分拒否処分拒否処分拒否処分についてについてについてについて美濃部博士にあっては、許可・免除の拒絶は、「拒否又は消極的行政行爲」として命令的行政行為の一つに数えられ、設権行為の拒絶は形成的行政行為の中の消極的行政行為として位置づけられている。その点では、その体系性は一貫している 19。今村教授は、拒否処分について二つに分けているように思われる。すなわち、教授のいう手続的行為の一つとしての拒否行為は、いわゆる却下に該当するもので、形式要件を欠くために実体審査をしないものである。他方、形式要件を満たすが実体審査の結果申請を拒否するものは、それと区別している。後者の場合は、それぞれ申請された行政行為の性質に応じて分類されることになろう 20。 塩野教授は、そもそも、許可も形成的行為に分類されているので、申請の拒否処分は、消極的形成行為として、問題なく形成的行為のひとつに位置づく 21。兼子教授は、拒否処分について、行政処分の手続法理体系において、“不受理”処分(形式的「拒否」処分)と実体審査の後になされる申請拒否処分を分けて検討している。そして、教授は、受理について、「“受理”は実体審査への移行を決める行政内部措置であるのに対し、“不受理”は申請者国民に対する形式的『拒否』処分に他ならな

い。」とされている 22。利益的な行政処分にかかる申請の拒否が行政処分であることは問題がない。申請者は、それを取消訴訟で争いうる。また、上述のように、許可と特許その他を、命令的処分と形成的処分に区分せず、形成的処分の一つである「広義の設権処分」の中の種別であるとするならば、実質的拒否処分を命令的処分と形成的処分に分ける必要はない。いわば、形成的処分の中の「広義の設権処分」や剥権処分とならぶ一区分として位置づけてよい。なお、拒否処分の中に、「形式的拒否処分」と「実質的拒否処分」の二つがある。前者は、申請が形式的要件を欠くために実質審査に進むことを拒否する処分で、後者は、実質審理の結果、利益的処分の実体的要件の欠知を理由にあるいは行為裁量権行使の結果、処分を拒否する処分である。この区分は、前者における補正要求義務や拒否処分取消訴訟の争点にかかわる区分となる。この場合、形式的拒否処分を形成的処分に分類することには疑問もあろうが、それは後に触れる。4444 、、、、確認確認確認確認、、、、公証公証公証公証、、、、受理受理受理受理、、、、通知通知通知通知についてについてについてについてこれらは、従来、準法律行為的行政行為として分類されてきたものである。しかし、上述のように、準法律行為的

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23 今村・入門 75頁、86頁。24 兼子・法学 146頁(注 155)・145頁。25 塩野・行政法 I100頁・101頁。なお、「行政過程の情報化」に伴う「オンラインネットワークを経由して行政過程がなされる場合における行政手続法制との係わりという点を考慮すれば、法律行為の概念よりも、公証、通知、受理といった準法律行為的行政行為の諸概念の方が……有用性において優れている」と論じるものに多賀谷一照「通知・受理・公証」千葉大学法学論集 9巻 3号(1995年)1頁以下。26 例えば、地代家賃統制令 14条による家賃台帳搭載行為につき最高裁昭和 39年 1月 24日判決(民集 18巻 1号 113頁)。

行政処分の区分について 9行政行為の概念を否定する学説が有力になってきている。それらの基調は、確認処分等はそれぞれの効果に従って、命令的処分又は形成的処分に該当するものと考えるべきであるとしている。しかし、公証や受理等の行為については、やはり論者で見解が分かれている。①今村教授は、確認行為については、その内容に従って、命令的行為または形成的行為のいずれかに分類できるとし、残りの四者については、手続的性質の行為として分類している。今村教授は、確認行為について、それが「禁止解除の効力を持つものであるときには、『許可』の一種として命令的行為に含めるとすればよい」としつつも、その他に形成的行為としての「確認」という分類もつくられている。すなわち、「他の原因によってすでに発生または成立している権利または法的地位を、行政庁の判断によって確認するという行為であり、確認したところは、真実に合致したものとしての通用力を有するものとされている」と述べる 23。他方、「公証」「予告」「受理」及び「拒否」の四種については、「手続的行為」という区分を設定して、そこに分類している。

兼子教授は、確認的処分であっても、それが権利関係を形成する形成的行政処分であれば、特許に含まれるとし、「いわゆる“法律行為的”行政処分の場合にもその効果は、実体法的にはあくまでも根拠法律に基づくもので、いわゆる“準法律行為的”処分も変わりなく、その法律効果の如何で行政処分種別を解釈すべきものである。」と述べ、また、「“申請受理処分”制のうちに戸籍届受理のように私法的効力の発生要件である認可制の一種を成すものが含まれ、そのほかにも、住民基本台帳転入届のように公証力を生ずる『公証』処分制も存在している」としている 24。それに対し、塩野教授は、命令的行為、形成的行為と並んで「確定行為」という分類を設定し、いわゆる確認行為をここに分類している。また、公証と受理の処分性を否定している 25。②公証処分にあっては、その処分性が否定されているものもあるが 26、当該行為が個別具体的に法的資格や権利を確定する効果を持つ場合には、当該行為の行政処分性を認めてよいように思

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27 今村・入門 89頁、宮田・前掲書 231頁。28 選挙人名簿の登載は住民基本台帳を基礎に職権によって作成されるが、投票権に直接かかわるものであり(公職選挙法 43条)、搭載行為の処分性は肯定されよう。なお、登録に関し不服がある者の異議の申出に対する市町村選挙管理委員会の決定は明らかに行政処分とされている(公選法 24 条・25 条)。なお、福井地裁平成 6 年 10 月 5 日判決(判例時報 1535 号77頁)参照。

29 芝池・申請届出、逐条研究 78頁以下、高橋・手続法 405頁等参照。30 宇賀克也『行政手続法の解説(改訂版)』学陽書房(1994年)41頁以下。31 谷口知平『戸籍法(第三版)』有斐閣 (1973年)187頁。32 総務庁行政管理局編『逐条解説行政手続法』18 頁。もっとも、戸籍事件に関しては戸籍法に家事審判法が適用され、行政不服審査法の適用は排除されている。行政訴訟が排除されるかについては見解が分かれているが、通説は排除されるとしているようである。澤田省三『ピックアップ判例親族・戸籍法』テイハン(1996年)151頁。33 高橋・手続法 128頁。34 「届出受理」という表現は兼子・総論 164頁。兼子・法学 146頁では「申請受理処分」と称している。

われる 27。それらの多くは申請あるいは届出に基づいて行われるものである28。これらを形成的処分に含めるのは躊躇するところであるが、相手方に対する効果としては、権利ないし法的資格を証明ないし確定するものとして広義の設権処分に含めてよいように思われる。③受理は一般には行政処分ではない。また、行政手続法が「受理」の概念を採用していないので、「受理」という概念を認めるかどうかは、今日の行政法学の重要な論点である 29。ここで問題となるのは届出制の場合の「受理」行為であって、届出に一定の法的効果を与えている場合である。このうち、届出について行政庁が形式または内容の審査を行い、戸籍記載その他の法的効果を発生させる行為(戸籍法では受理と表現)をとることの予定されているものについては、宇賀教授のいわれ

るように申請に対する処分として処分性を認めることができる 30。例えば、婚姻届はその受付を拒否できず、その後の調査で受理決定すれば受付のときに遡って婚姻が成立するとされている31。戸籍事件に関する市町村長の処分について、戸籍法はそれを行政処分としたうえで行政手続法二章三章の適用を排除している 32(117条の5)。なお、宇賀教授は、行政手続法の解釈として、婚姻届について「許可」の一種であるという見解をだしているが、許可を一般的禁止の解除と定義する限り、婚姻届受理を許可とするのはやはり問題で33、行政手続法上は申請に基づく処分のひとつと持えておげばよく、行政処分の分類論としては、例えば「届出受理」というような別の分類とした方がよいと思われる 34。またそれが一定の法的地位や法的資格等を発生させるのであれば、申請に基づく広義の設権処分(利益的処分)の一つであろう。但し、

行政処分の区分について 10

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35 芝池・申請届出 22頁。36 逐条研究 81 頁以下。処分性を肯定することに懐疑的な立場をとるものに室井カ・芝池義一・浜川清編『コンメンタール行政法 I 行政手続法・行政不服審査法』日本評論社(1997年)245 頁(高橋正徳執筆)。他方、高橋滋教授は処分性を肯定する見解である。高橋・手続法 403頁以下。37 兼子・総論 167頁。

行政処分の区分について 11芝池教授は、婚姻届を申請に対する処分とみることに批判的である 35。なお、届出だけで法的効果が発生し行政機関の返答行為が予定されていない場合には、届出を行政処分というのは困難であろう。しかし、このような届出制にあっては、形式要件が不備であるという行政機関の認識の表明(不受理という対応をすることが考えられる)の性格をめぐって見解が分かれている。塩野教授や小早川教授は不受理概念を認めず、 訴訟も届出の存否を争点とする公法上の当事者訴訟を提起しているのに対し、兼子教授はこれを「争訟上の不受理処分」として処分性が認められるとする 36。④他方、通知(予告)は、一般に職権によって行われ、その後の行政代執行や滞納処分の前提となるものであり、不利益処分の一つである。それは、手続法的効力をもつものであって実体的義務を形成するものではないが、後続処分を避けるためには、法律ないし先行する行政処分によって形成された義務の履行をせざるをえないという心理的効果を相手方に与える。その意味では、命令的行為(下命)に準じた効果として扱うことができる 37。

5555 、、、、行政処分行政処分行政処分行政処分のののの四分類四分類四分類四分類のののの試試試試みみみみ①以上を整理し、行政処分の相手方に対する効果で分類すると、次のように区分される。Ⅰ 命令的処分(1)下命・禁止(2)通知Ⅱ 形成的処分(1)広義の設権処分(利益的処分)1 許可2 免除3 認可4 特許5 公証・証明処分6 届出受理(2)拒否処分1 形式的拒否処分2 実質的拒否処分(3)剥権処分1 利益的処分の職権取消・撤回2 職権による不利益的変更処分②さて、このように区分すると、果たして命令的処分と形成的処分を区分概念を用いる必要があるだろうかという疑問が生じる。なぜなら、命令的処分も新たな義務を課すことがあり、それ

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38 塩野・行政法Ⅰ 99頁。

行政処分の区分について 12を形成的性質と称することも論理的には不可能ではないからである。すなわち、命令的処分といわれるものの中にも、いわゆる自然の自由に対する制限的効果を持つものだけでなく、新たな義務を課すものも存在するであろうと考えられるからである。例えば特許企業に対する特許に伴う附款としての義務ではなく、個別の処分として何らかの命令的処分がなされるとすれば、それは、自然の自由に対する制限という枠を超えているように思われる。「形成」の概念規定にもよるが、命令的処分による義務の賦課は、権利義務関係の変更という点では、一種の形成的効果を持つものと考えられる。塩野教授は、命令的行為の中に「自然の自由にかかる命令であることもあるし、免許企業の企業活動に対する命令でもよい。」と述べられているが、このようなことを念頭においていたのではないかと推察する 38。また、形成的処分という概念の下に「公証・証明処分」や「届出受理」等を含めると、たしかに概念として発散する危険があるが、形成的という概念を外して(つまりある程度の発散を認めて)、あらためてこれらを広義の設権処分に繰り込めば論理的には落ちついてくる。③以上を踏まえれば、行政処分を次の四区分に分類することが分かりやすいのではないかと考える(処分の効果が相手方にとって利益的なものであるのか不利益的なものであるのかに即して、並べ替えを行った)。すなわち、

Ⅰ 広義の設権処分(利益的処分)1 許可2 免除3 認可4 特許さらに特許は、競争制限的営業許可、公企業特許、漁業権付与などの権利設定処分、公務員の任命などの継続的・包括的な法律関係を付与する処分、給付権を付与する処分、公共施設の利用権の設定等に分かれる。これらのものを特許というひとつの概念に包括することには問題もあろうが、自由権の制限にとどまらず、新たな権利義務関係を形成する点では共通性があるので、さしあたってはこ の 概 念 を 使 用 し た。次々と下層ディレクトリ(下層区分)を作成するようであるが、この方がよい鳥瞰を与えると考える。5 公証・証明処分6 届出受理II 拒否処分1 形式的拒否処分2 実質的拒否処分III 命令的処分(義務賦課処分)1 下命・禁止2 通知

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39 橋本宏子『福祉行政と法』尚学社(1995 年)131 頁、兼子仁「行政手続条例による申請処分手続の拡大策」判例地方自治 130 号(1995 年)116 頁など。議論の状況等については高橋・手続法 128 頁(注 8)参照。なお、各自治体でも保育園の入所申請に関する条例等で申請手続を実際に行っている(筆者は新潟県新発田市立保育園設置及び管理に関する条例を参照した)。40 兼子・三区分 294頁。

行政処分の区分について 13IV 剥権処分1 利益処分の職権取消・撤回2 職権による不利益的変更処分④このように分類すると、これは行政手続法の処分の分類にある程度相応したものといえる。すなわち、Ⅰ(利益的処分)とⅡ(拒否処分)は、基本的に「申請に対する処分」である。職権による利益的処分も存在するが、それは例外的である。さらに、法律上は職権主義で規定されていても、現実の運営においては申請がなされているものもあり、その場合には、申請権の手続的保障が重要である 39。拒否処分は、それ自身は不利益処分であり、取消訴訟の対象となるものであるが、申請に対する処分であって、他の不利益処分と手続的には性格を異にする。義務づけ訴訟制度が整備されるならば、取消訴訟ではなく義務づけ訴訟で争うべきものである。すなわち、手続的には利益的処分に関する手続のコロラリーで議論されるべきものである。行政手続法上も、申請拒否処分に関しては「申請に対する処分」に関する章で扱われ、不利益処分からは定義上除外されている。他方、Ⅲ(命令的処分)とⅣ(剥権処分)は、行政手続法上の「不利益処分」にあたる。特に、Ⅳの1(利益処

分の取消・撤回) は必要的聴聞処分である。また、これらの不利益処分は基本的に職権により開始される処分である。利益的処分の場合と同様に、申し出を待って行われる不利益処分も存在するが、それらは例外的なものであろう。なお、利害関係の対立する複数の相手方を名宛人とする処分もある。これは、二重効果処分性の最も顕著なものである。たとえば、土地収用裁決は、一方の名宛人(起業者)にとっては利益処分のひとつである設権処分であり、他方の名宛人(土地所有者)にとっては剥権処分である。労働委員会による救済命令は、一方にとっては設権処分、他方にとっては命令的処分ということになる。準司法的性格を持つ手続による行政処分は、一般に複数の相手方を持ち、かかる二重効果性を有するであろう。⑤この分類は、兼子教授がつとに強調されてきた行政処分の三区分(利益・不利益・二重効果)の利益的処分と不利益的処分の分類にも対応できるように思われる。上記のIとⅡが利益的処分に関する行政処分であり、ⅢとⅣが不利益処分である。また、教授は、これらは手続法的見地からの区分としつつも、これらは大まかな実体的効果に相応すると述べていた 40。上記のよう

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41 今村・入門 84頁以下。

行政処分の区分について 14に利益的処分に含まれるものを形成的処分と命令的処分のいずれかに分けることをせずに、広義の設権処分の中の下位分類とするならば、教授の提起した三区分と接合させつつ、さらに行政処分の効果の性質に即した行政処分の分類が可能になるようにも思われる。⑥勿論、筆者自身、十分に整理しきれていないところがある。たとえば、上記の分類では、実体的効果を持つ行政処分と手続的効果を持つ行政処分が混在していることである。Ⅲの1(下命・禁止)は実体的効果を持つが、2(通知)は新たな義務を課すものではなく、後行の執行行為の手続的要件である(勿論、それが義務履行を迫る効果を持つものであることは否定できないが)。だとすると、かかる分類の立脚点は一体何であるのか、視点に一貫性があるのかという疑問がだされよう。本稿の考えは、まず行政処分を名宛人に対する効果の性質に即して、まずそれが、広義の設権処分であるのか、命令的処分であるのか等に大別し、さらにそれがいかなる性質の効果であるかを、内部区分として見ようとすることにある。その段階で、実体的効果を持つものと手続的効果を持つもの(あらたな実体的効果を創設・変更・廃止するものではないが、その形成にかかる手続的段階を変化させるもの)を区分するという立場をとった。なお、上述のように手続的性質を持つものを実体法的観点からの行政行為の分類から外す見解もあるが(注(1)参照)、手続的効果にとどまるものといえども行政手

続法あるいは取消訴訟の対象としての行政処分性を有するものは存在するのであり、これらを視野において分類策を検討すべきではないかと考えた。また、上述のように特許の概念が包括的にすぎないかという疑問は払拭しきれない。その際、今村教授が「形式的設権行為」として公務員任命、給付決定、公の施設の利用に関する処分等をあげ、本来的には契約的性格のものとして別個にグルーピングしておられるのが、参考になる 41。さらにいわゆる変更処分についても考察すべき点が残る。変更処分の例として、公務員の降格処分や配置転換処分等があげられるが、これらはあえて変更処分と呼ばずとも公務員関係を前提とした独立の行政処分(仮に行政処分性が肯定されるとして)として考察できるであろうし、そのうえで上記のいずれかに位置づけることになろうが、例えば公務員である大学教員について、任期のない教員から任期付の教員にすることやその逆の場合(これは公務員関係を維持しつつも、その基本を変更する変更処分である)の位置づけは不分明である。あるいは、情報公開法制における情報開示決定は申請に基づく利益的処分であることはたしかであるが、筆者が包括的に使用している「特許」概念に含めるべきか、それとも他の類型を考えるべきかは、まだ検討しなければならない。根本的には、行政行為を何らかのグループに分類することに、いかほどの意義があるのかも問われなければならない。分類あるいは体系化はある目的

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42 渡邊・前掲書(注 7)251頁。

行政処分の区分について 15をもって行われるものであるので、唯一の分類法があるわけでもない。ただ、行政処分という行為形式は多様な分野にまたがって使われており、かつ、非常に多種であるので、その効果の性質に即してなんらかの類型化を考えることもまた行政処分を理解する上での助けとなるのではないかと考える。6666 、、、、二重効果的行政処分二重効果的行政処分二重効果的行政処分二重効果的行政処分についてについてについてについて①上記の区分は、結局において、利益的行政処分と不利益的行政処分という大きな分類ともつながった。それによって、兼子教授のつとに提唱される利益・不利益・二重効果という三区分との関連性もつけられるようになると思われる。二重効果的処分かどうかは、反対利害関係者が存在するかどうかに着目した概念である。すなわち、行政処分の相手方にとって利益的処分であっても、処分の相手方以外に権利あるいは法的利益を害される者がいれば、それは二重効果的処分であるし、それとは逆に、相手方にとって不利益的な行政処分であっても、それが相手方以外の者に権利を付与しあるいは法的利益を保護するものであれば、それも二重効果的処分である。すなわち、相手方にとっては、利益的行政処分か不利益的行政処分であり、その限りでは、その行政処分は上記区分のいずれかに一定の位置を占めるはずである。従って、利益・不利益・二重効果の三区分は、一次元的(直線的)な分類というよりは、二

次元的(平面的)に配列する方が理解しやすいように思われる。本稿がこれまで述べてきたところは、処分相手方に対する効果の内容による行政処分の分類であったが、それと平行して、当該行政処分が複数の者に反対の法的効果を及ぼすかどうかに着目して、二重効果的行政処分という概念を設定することの意味について、最後に触れておきたい。②二重効果的処分という概念がドイツにおいても日本においても重視されてくるようになるのは、行政処分に対する相手方以外の第三者の出訴資格ないし原告適格が認められるようになってからである。勿論、それ以前の段階でも二重効果性を有するものがなかったわけではない。土地収用裁決はその典型的なもので、反対利害関係者を名宛人としており、従来からも「廃棄創設処分」と称されることもあった 42。もっとも、反対利害関係者がともに名宛人であり、それぞれに対する行政処分の効果や、手続参加資格や出訴資格が明確である以上、敢えて「二重効果的行政行為」という概念を設定する必要性に乏しかったのであろう。しかし、原告適格論の拡大に伴って、行政処分の相手方以外の第三者の原告適格性が承認されるに伴い、このような第三者の法的利益に影響を及ぼす行政処分の法的性質を考察する必要性が意識され、二重効果的行政処分または第三者効を有する行政処分という概念が構成されてきたと考えられる。さらに、第三者の法的利益の承認が、出訴

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43 拙稿「ドイツにおける建設許可手続への隣人参加」法政理論 30巻 1号(1997年)138頁及び「ドイツにおける建設許可手続への隣人参加に関する実務について」法政理論 30 巻 3号(1998年)106頁参照。44 例えば、Finkelnburg/Ortloff, Öffentliches Baurecht, Bd.I ,S.209. 拙稿前掲論文(法政理論 30巻 1号)123頁。なお、Alexy, Das Gebot der Rücksichtnahme im baurechtlichen

Nachbarschutz, DÖV 1984,953.

45 芝池・総論 135 頁。また、同「行政決定と第三者利益の考慮」法学論叢 132 巻 1・2・3号(1992年)87頁以下。

行政処分の区分について 16資格だけでなく事前手続参加資格に及ぶと、第三者の法的地位がなお一層鮮明になってくる。例えば、ドイツ建設許可手続において、隣接地の所有者は当然に手続参加権を有するし、さらに建設許可は手続に参加した隣人には正式に送達されなければならないとされるようにである。このような、手続参加資格・行政処分の通知ないし送達の必要性は、当該行政処分の二重効果性を手続上も明白なものとしている 43。つまり、第三者の手続参加資格が整備されてくるに従って、第三者というより当該行政処分の手続当事者としての地位が鮮明になって行くであろうと考えられるのである。もっとも、現時点では名宛人ではない第三者にようやく原告適格性の認められる処分から、反対利害関係者が処分の相手方となっている処分にいたるまで、その手続的地位の強弱に差があることを認めなければならない。③ある行政処分が二重効果的処分であるかどうかは、相手方以外の反対利害関係者の存否によってきまる。その際、土地収用裁決のように、両当事者が処分の名宛人であるものもある。さらに当該行政処分の根拠法規が第三者保護的性格を持つ場合には、それは定型的

に二重効果的処分であるといえる(たまたま現実の不利益を受ける第三者がいないためにそれが顕在化しない場合もあろう)。また、当該行政処分の根拠法規が一般には第三者保護法規とはいえないとしても、当該行政処分の結果、第三者の法的保護に値する利益が害される場合には、当該行政処分の二重効果性が肯定されると思われる(ドイツ行政法学でいわれる「部分的第三者効を持つ行政処分」がこれにあたると推測する 44)。最後のものはたしかに状況依存的であるけれども、処分の相手方以外に当該行政処分に関する法的利益を有する者がいる行政処分を「二重効果的行政処分」として、当該行政処分にかかる行政法論理を考察することは有意義であると考える。それに対し、「二重効果的行政処分」という概念を設定することに懐疑的な見解も少なくない。例えば芝池教授は、二重効果的行政処分の範囲が不明確であると同時に、二重効果的行政処分であるかどうかは具体的利益状況に依存しているので行政処分の類型の問題ではないとされる 45。芝池教授の批判は、あるひとつの行政処分が、反対利害関係者の有無によって、単純な利益的処分となったり、二重効果的処分となったりするので、例えば、建築

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行政処分の区分について 17確認が場合によっては単純利益的処分であり、場合によっては二重効果的処分となるので、このような状況依存的な区分概念は、区分概念として不適切であるというものである。また、第三者利益の考慮は、二重効果的処分だけに限定されないという指摘もされる。④二重効果という概念は、必ずしも行政処分だけにかかわるものではないが、筆者は、二重効果的行政処分という場合には、それを「ひとつの行政処分でありながら、ある者に利益的効果を与え、同時に他のある者に不利益的効果を与える行政処分」と定義し、その利益的効果・不利益的効果は法的保護に値する利益であるかどうかを基準とすることでよいと考える。(これまでは、例えば取消訴訟あるいは事前手続など各制度に即して考えると述べていたが、法的保護に値する利益を基準にしてよいと考える。勿論、法的保護に値する利益とは何かの解明は必要である。)二重効果的行政処分は、第一に、本来ならば、事前手続に参加すべき反対利害関係者が存在する行政処分の類型である。現行行政手続法は利害関係第三者の参加権を完全に保障するものではないが、解釈論的にあるいは立法論的に、法的保護利益が影響される者の参加請求権を基礎づける議論は不可能ではない。それは必要的参加制度として構成される可能性もあるが、参加の可否を行政庁が裁量的に決定するしくみとしても存在しえよう。後者の場合であっても手続参加申請権の保障とそれに対する裁量権行使を統制する法論理を検討することは可能である。その他、介入請求権の問題を含めて、ある行政処分に関して法的に保護されるべ

き利益を有する利害関係者が存在するような処分を二重効果的行政処分として、当該利害関係者がどのような手続上の権利を有するのかを考察することは、概念設定として有効な方法ではなかろうか。また、行政手続法及び個別法律では反対利害関係者の手続上の地位が不分明であるときに、彼らの手続参加権をこの区分から演繹的に基礎づける可能性も否定できない。第二に、行政訴訟制度を考察するにあたっても、出訴資格を持つあるいは必要的参加者であるような反対利害関係者の存在する存政処分の存在は、いくつかの検討課題を提出している。例えば、事前手続制度とリンクするが、名宛人以外の者に法的保護の必要な程度で不利益を与える処分を行おうとする場合、第三者への通知あるいは公示の制度が考えられてよい。開発許可等では、第三者が原告適格を有するにもかかわらず、処分の存否、処分日時、処分庁(特に委任がなされていたときに問題となる)が不明であることが少なくなく、このことが結果的に行政訴訟による救済を妨げることになりかねない。筆者が調査した宮崎県の保安林内開墾作業許可処分取消訴訟では、知事の許可権限が産業振興局長に委任されていたものであるが、処分権者が誰であったのかは、訴訟の審理の過程ではじめて分かったという経緯がある(原告は当初県知事を被告とし、被告側代理人もそれで応訴していたという事情があり、被告の変更が認められた

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46 本事件の第一審判決は、当該許可処分に対する周辺住民の原告適格を肯定した。宮崎地裁平成 6年 5月 30日判決(判例タイムス 875号 102頁)。47 例えば、Kopp,VwGO,10.Aufl.,C.H.Beck,1994,S.962ff.; Ule/Laubinger, Verwaltungs-

verfahrensrecht, 4.Aufl.,Carl Heymanns Verlag,1995,S.685ff.; 但し、法律規定にかかわらず「第三者効を持つ行政行為」という表現が適切であるという論者もいる。例えば、M.Schmidt-Preuß, Kollidierende Privatinteressen im Verwaltungsrecht, Duncker&

Humblot,1992, S.13ffなど。48 新潟空港事件最高裁平成元年 2月 17日判決(判例時報 1306号 5頁)参照。

ものである 46)。また我が国の取消訴訟制度は執行不停止原則を採用しているので、現時点では問題が顕在化していないが、行政訴訟上の仮の救済制度が拡充すれば、利益的行政処分に対する第三者訴訟は、それに特有の問題として相手方の権利保護との調整制度を必要とすることが予想される。そのような場合には、反対利害関係者が出訴する可能性のあるものに特別の規律を予定することもありうるであろう。周知のように、ドイツ行政裁判所法は、自動的停止効制度にかかる80条で「二重効果的行政行為」を法律上の概念として規定し、80a条で、二重効果的行政行為に関する停止効制度の特別の手続規定を設けるに至っている 47。第三に、反対利害関係者の利益考慮の問題について若干述べておきたい。芝池教授のいわれるように、二重効果的処分でなくとも処分の相手方以外の考慮が求められる処分は少なくないであろう。しかし、二重効果的行政処分という場合に問題となるのは、当該利害関係者がその利益を主張できる手続を保障するかどうかということであり、当該利益を全くあるいは不十分にしか考慮しなかった違法を主張できるかという問題にかかわっているということ

である。原告適格を有するということはそういう問題であり、利害関係者の権利として手続参加権(あるいは手続参加請求権)を認めるということは、そういう問題であろうと考える。当該行政処分が第三者保護規定であれば、当該利益を考慮しない処分は違法となりうる(むしろ最高裁判決は第三者の利益を考慮する必要があるかどうかを第三者保護規定の判断基準としているように思われる)48。私見では、処分根拠規定が第三者保護規定でないとしても、当該処分の結果法的保護に値する利益を害される者は原告適格を持つと考えるが、その場合には、処分にあたって当該不利益を考慮する必要があったのかは本案の問題として審理されるべきものと考えている。⑤このように、利害関係者が自己の利益が考慮されるべきことを主張することが処分手続及び訴訟手続において認められるべきとする行政処分のグループを設定することは、彼らの手続法上及び訴訟法上の地位を解明するためのひとつの区分概念として有効性を持つのではないかと考える。

行政処分の区分について 18

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【付記】(2007年 11月 18日)本論文は、東京都立大学法学会誌に掲載された拙稿をほぼそのまま再掲したものである(但し、誤記等を訂正したほか一部表現を修正している)。なお、三点ほどつけ加えたいと思う。(1)公用収用処分についてこの論文では、公用収用処分の位置づけが明確ではないが、本文でも書いているとおり、被収用者にとっては剥権処分であり、起業者(収用者)にとっては設権処分といえる。公用換地処分も従前の土地所有権を(一部であれ)剥奪するものであるので、剥権処分というべきである。しかし、許可取消等とは性格を異にするので、剥権処分の中に公用収用処分等という分類を設けなければならない。なお、以下は、筆者が作成した新潟法科大学院講義用レジュメの一部である。法的効果法的効果法的効果法的効果にににに基基基基づくづくづくづく4444区分区分区分区分(通説の分類法とは異なっているが、私はこの分類法が行政処分を概観しやすいと思っている。)①①①①設権処分設権処分設権処分設権処分(国民や住民に権利を付与する処分)a.許可(禁止されていた自由を回復する処分)自動車運転免許付与、営業許可、建築確認などb.免除(法律上の義務を免れさせる処分)納税免除や猶予など、国立学校の授業料の減免c.特許(新たな法律上の権利や資格を付与したり、新しい包括的な権利義務関係を形成する処分。発明の特許とは異なる概念である。)漁業権の設定、法人の設立認可、公務員任命行為など。生活保護の給付決定のように受給権を発生あるいは確定する処分もここにいれておく。d.認可(国民相互の法律行為を有効なものとする行為。補充行為ともいう。)農地売買の許可、公共料金変更の認可などe.確認(法律関係や事実関係を確認・証明する行為)車庫証明、印鑑証明、選挙の当選人決定など②②②②拒否処分拒否処分拒否処分拒否処分(許認可の申請や給付の申請を拒否する処分)この中には、申請が形式要件を欠くために実体審査をしないで申請を拒否する処分(俗に言う不受理)と、実体審査をして申請を拒否する処分がある。③③③③命令的処分命令的処分命令的処分命令的処分 (国民に作為義務・不作為義務を課す処分)a.下命(国民や住民に作為義務-何かをなす義務-や受忍義務を課すもの)違法建築物の除却命令、改善命令、課税処分などb.禁止(国民や住民に不作為義務-しない義務-を課すもの)建築物の使用禁止、営業停止など

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c.通知(行政代執行など強制措置権の発動要件となるもの)滞納処分の督促、行政代執行の戒告など④④④④剥権処分剥権処分剥権処分剥権処分(国民や住民の権利を剥奪し、あるいは制限する処分)a.全面的な剥権処分(権利や資格等を消滅させる処分)生活保護廃止決定、公務員免職処分、運転免許取消処分など※既存の行政処分を職権取消や撤回も行政処分である。b.部分的な剥権処分(権利の一部を剥奪したり、法的地位を低下させる処分)生活保護の不利益変更、公務員の降格・減給処分などc.公用収用処分、公用換地処分、公用権利変換処分などこれらは、土地所有権を剥奪したり、他の土地と強制的に交換したり、他の権利(地上権→賃借権)などに強制的に変換したりする処分である。※これらの処分は、土地所有者にしてみれば剥権処分であるが、起業者側にしてみれば特許(土地所有権を得る)である。一種の二重効果処分(利害対立する複数の当事者を有する処分)である。(2)二重効果的行政処分を二次元的(平面的)に配列するということについて図示すると次のようになる。(単純効果処分) 二重効果的処分1 2 3処分相手方以外の権 処分の相手方以外の者の 処分の相手方以外の者の権利・利益を害しない 法律上の利益を害する処 利を制限し、又は義務を課処分 分。但し、権利を制限 す効果を有する処分し、義務を課す効果は有しない。利益的処分 1-1 2-1 3-1拒否処分 1-2 2-2 3-2命令的処分 1-3 2-3 3-3剥権処分 1-4 2-4 3-4これらは、1-1から3-4までを一列に並べることも可能であるが、このようなマトリックス表示にした方が分かりやすいと考える。1は生活保護に関する決定などが典型的な例であるが、第三者の権利利益に影響しない許可(運転免許付与など)もある。なお二重効果性は処分相手方に対し反対利害関係者がいるかどうかの問題であるので、処分相手方と利害を共通にする他の当事者がいるかどうかはここでは問題としていない。2が一般に二重効果的行政処分として議論されるものであり、原子炉等規制法による原子炉施設設置許可がその例である。これらの処分は、第三者(周辺住民等)の財産権や自由権を法的に制限したり、第三者に受忍義務を課すような法的効果を持つものではないが、

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行政処分の区分について 21最高裁判例の表現を借りれば、処分根拠法規が個々人の個別的利益として保護しようとしている利益を侵害し、又は必然的に侵害するおそれのある処分ということになる。法律上保護された状態を失わせる処分ともいえよう。これらの処分にあっては、多くの場合、第三者にそれが通知されることはない。しかし、その二重効果性が強く認識されると、通知制度が(さらには処分手続参加制度が)法定化されることとなろう。例えば、情報公開法による第三者への通知が思い浮かぶ。立法論的には行政手続法による第三者通知制度を整備することも考えられる。3の典型例は土地収用法の事業認定や収用裁決である。これらは、第三者にも通知されなければ第三者に対してその効果が生じないので通知が必要である。その意味では、第三者というより、反対利害関係に立つ処分相手方というべきである。しかし、都市計画事業認可(都市計画法 62 条・65 条・69 条)や空港設置許可(航空法 40 条・49 条)のように告示によって第三者に対する効果が発生する場合もある。ところで、判例実務は処分の相手方以外の者が提起する取消訴訟につき、2のグループと3のグループとで、いくつか異なった取り扱いをしている。その一つは、処分の相手方以外の原告適格に関するものであって、3に属するものにあっては、処分の法的効果として権利が制約され又は義務を付加されるものは処分の根拠法規の保護目的性を問わず原告適格が認められるが、2に属するものにあっては、処分根拠法規が原告が主張する利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨を有するかどうかによって、原告適格の有無が判断されるとしている。また、行訴法 10 条 1 項の違法主張制限についても、2に属するものにあっては原告の利益を個人的利益として保護する趣旨を有する法規に対する違反しか主張できないとする一方で、3に属するものにあってはかかる主張制限は及ばないとしている。(これらの解釈が明瞭にでているのは松本空港設置許可に関する東京地裁平成8.5.14 判決(判時 1576-27)であるが、原告適格に関しては環状 6 号線訴訟最高裁平成11.11.25 判決(判時 1698-66)判決及びそれを変更した小田急高架事業認可取消訴訟最高裁平成 17.12.7 判決(民集 59-10-2645)にも表れている。また実務家による解釈は、司法研修所編『改訂 行政事件訴訟の一般的問題に関する実務的研究』法曹会)但し、筆者は、2のグループと3のグループの差は相対的であって、2のグループに位置づけられるものであっても、その二重効果性が強く意識され、第三者の手続的権利が強めていく立法措置が個別法ないし一般法によって進められるならば、処分の相手方の地位に近づく状況も生まれると考える。情報公開法や行政機関保有個人情報保護法における第三者の意見書提出手続や当該第三者への処分通知制度はその例であろう。行訴法 10 条 1項の解釈にしても、2のグループと3のグループをことさらに分ける必要もないと考える(拙稿「第三者による取消訴訟と違法事由の主張制限(上・下)」判例評論 522 号 171 頁(2002年 8月)、同 523号 164頁(同年 9月)を参照いただけると有り難い)。(3)申請に対する処分と不利益処分の区分について行政手続法は申請に対する処分と不利益処分とを区分し、それぞれ異なる手続規定をおいている。さらに 2004 年の行政事件訴訟法改正によって明文化された義務付け訴訟は、申請型義務付け訴訟と非申請型義務付け訴訟を区別し、訴訟要件及び勝訴要件を規定している。なお、行政処分区分論と関連づけて議論されることはなかったが、改正前より取消

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行政処分の区分について 22判決の拘束力に関する規定は、申請に対する処分につき特別の規定をおいており(行訴法33条 2項・同 3項)、これを手がかりに不利益処分取消訴訟と申請拒否処分取消訴訟の既判力の範囲を別様に把握する見解も出されている(塩野宏『行政法Ⅱ(第四版)』有斐閣173頁以下)。このように、申請に対する処分と不利益処分の区分は、実定手続法(行政手続法及び行政事件訴訟)上の最重要区分となっており、この点は多くの論者の指摘するところである。筆者も同意見であるが、行政処分の効果による四区分は、この申請に対する処分と不利益処分の分類とも照応しているので、今日でも有効性を維持していると考える。なお、行訴法改正前は、(1)表の1-2、1-3、1-4及び2-1、3-1に対する取消訴訟または無効等確認訴訟が法定抗告訴訟であり行訴法上の主な検討対象であったが、義務付け訴訟・差止め訴訟が法定された今日にあっては、それぞれの類型に対する法定抗告訴訟が可能となった。上述のように、これらの法定抗告訴訟は申請に対する処分及び不利益処分の区分が基本的に対応している。もっとも、申請を予定していない職権による利益処分(少なくとも非申請型義務付け訴訟が可能)はこの二区分にはうまくおさまらないが、上記のマトリックスだと1-1に位置付く。本論文でも述べているように、1-1はさらに許可・認可・特許等に分かれるが、それぞれの下位区分の中に申請に対する利益処分と職権による利益処分の存在が認められる(但し、その多くが申請に対する処分であることも論文中で述べたとおりである。職権による利益処分の義務付けを求めた事例として、世田谷区住民票作成義務付け訴訟東京地裁平成 19.5.31 判決がある(本判決及び控訴審 判決 につ いては、 原告の作 成した web サイト http:// homepage3.nifty.

com/k_sugawara/ で閲覧可能である)。(謝辞)本論文をこの web サイトに再掲することにつき、首都大学東京法学会より承諾をいただきました(2007年 11月 15日)。同会並びに関係者に心よりお礼申し上げます。(更新)2007 年 11 月 26 日 付記の(2)の誤字を訂正したほか、(3)の一部を修正しました。