B 757 FBW改 修機によるB777イ ンフライト・シミュレーション …
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B 757 FBW改 修 機 に よ るB777イ ン フ ライ ト ・シ ミュ レー シ ョン飛行(岩 瀬 健 祐) 27
- 特 集 -
B 757 FBW改 修 機 に よ るB777イ ン フ ラ イ ト ・シ ミュ レー シ ョ ン飛 行*1
岩 瀬 健 祐*2
Key Words:Control Law,Fly By Wire.Handling Qualities,In Flight Simulation
1.は じ め に
B 777のFBW(Fly By Wire)コ ン トロール ・シス
テム の有効 性確 認 の た め に,ボ ー イ ング で は,B757
の副操縦 士側 の み をFBW操 縦系 に改修 し,世 界中 か
ら評 価 パ イ ロ ッ トの参 加 を得 て,FBW Validation
Flightを 実 施 した(末 尾 に実 施 日,参 加 パ イロ ッ ト数
等 を示 す).そ の評 価飛 行 に参 加 したの で,パ イ ロ ッ
トの視 点で その概 要 を報 告 す る.
2.イ ンフラ イ ト ・シ ミュ レー シ ョンの
パ イ ロッ トか ら見 た意 義
近 年航空機 の 開発段 階で シ ミュ レーターが 重要 な役
割 を担 ってい る ことは,良 く知 られ てお り,多 くのエ
アライ ン ・パ イ ロッ トも参加 して,コ メ ン トを求 め ら
れて きた.今 回 の実機 を改 修 した,イ ンフライ ト ・シ
ミュ レーシ ョンに参加 して,改 めて その意義 を考 えて
みた.一 口で い えば,実 飛 行環境 下 での評価 が出来 る
とい う ことにな るが,細 か くみ る と次 の様 に ま とめ る
ことが 出来 る.(1)~(5)は メ リッ ト,(6)~(7)は
限界 で あろ う
(1)操 縦席 での実 際の加 速度(垂 直 ・水平)の 体 感
や,機 体 の動 きの な か で,シ ス テム の評 価 が
著 者 紹 介
岩瀬 健祐
昭和12年 生.広 島県 出身.昭 和
36年 運輸 省航 空大 学校 卒業.同 年
日本航 空株式会社入社.現 在,DG
10型 機 々長.技 術 総 本 部々長.日
本航空機操縦士協会副会長.宇 宙 開
発事業団有人サ ポー ト委 員会専門委 員,SAE,SETP
各会員.SAES-7委 員会委員,IATA Human Fac-
tors Task Force委 員.航 空身体検査証明審査会委 員
等 々
で きる.
(2)実 飛行環 境(気 象 ・管制 ・空港施 設等)の もと
での,個 々の課 目 と総 合 的 な飛 行全 体 の評 価
が可能 で ある.
(3)特 に,着 陸 の ため の引 き起 こ し操作 と地 面効
果の影 響が,Control Lawと の関連 で実 際 的
に評価 で きる.
(4)機 体 サ イズ や速 度 領域 の 同 じよ うな機 体 の評
価 に達 してい る.
(5)臨 場感 が あ るなか での評価 となる(シ ミュ レー
ター では事故 にな らな い安 心感).
(6)改 修 され た 限 られた シス テム の評価 しか で き
ない.
(7)遭 遇 した気 象条件 下で のみの評価 となる.
3.B777の 特 徴
B777の 操縦 室 の計 器配列(第1図)は,6つ のCRT
計器 がLCD(Liquid Chrystal Display)計 器 に変わ っ
た以 外 は,基 本 的 に は,B747-400と 同 じで,操 縦 輪
とラダー ・ベ ダルに人間工 学的工夫 が加 え られ て お り,
操縦操 作 は在 来機 よ り易 し くなって いる.操 縦 系統 の
最大 の特徴 は,FBW(Fly By Wire)の 採用 で あ り,
A320の 反 省 か ら,縦 の制 御則 として,C*u((A320
はC*)を 導入 し,パ イ ロ ッ トに縦 の静 安定 の フ ィー
ド・バ ック を与 え るよう工 夫 されて い る.
4.FBWとC*u Control Lawの
パ イ ロ ッ ト的理 解
在 来機 では,パ イ ロ ッ トが セ ンサー となって,機 体
の レスポ ンス を フィー ド ・バ ックしなが ら,操 縦 輪 に
よ り舵面 の変位 を制御 してい る(第2図 参照).
パ イ ロ ッ トは,操 舵 のCueと し て,高 速 域 で は垂
直加 速度,低 速域 で は ピッチ ・レー トを使 ってい る と
考 え られ る.
B777で はA320で 採 用 され て い るC*と い う制 御
則 で は,Trim Speedか ら機速 がずれ た時 の縦 の静安
定 の フィー ド ・バ ッ クが ない とい う反省 か ら,垂 直加
*1平 成5年11月11日,第31回 飛 行 機 シ ン ポ ジ ウ ム に て 発
表 上平 成6年6月17日 原稿 受 理 Simulated Flight for
B・777byB・757FBW Modified Airplane
*2日 本航 空(株)技 術 総 本 部
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28 日本航空宇宙学会誌 第42巻 第491号(1994年12月)
第1図 B777操 縦室の計器配列
第2図 舵面の変位制御による操縦
第3図 新 しい制御 則による操縦
速 度(Nz)と ピ ッ チ ・レ ー ト(q),に 加 え て,さ ら に
Trim Reference Speedと 速 度 差 に よ るパ ラ メ ター を
加 味 したC*uと い う新 し い 制 御 則 を採 用 した.パ イ
ロ ッ トは,こ のC*uを コ ン トロ ー ル す る コ ン ピ ュ ー
タ を 介 して 操 縦 す る こ とに な る(第3図 参 照).
C*u=C*+Kυ ・△V=Nz+K1・q+Kυ ・△V
(∵C*=N2+K1・q)
C*は,パ イ ロ ツ トが操縦 席 で感 じる垂 直加 速 度 と
い える.大 型機 で は,重 心位 置 と操縦 席 との物理 的距
離 が大 き く,機 体の ピッチ変化 によ り発生 す る垂 直加
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第4図 B757FBW改 修の概 要
第5図 B757FBW改 修 の概要(操 縦室)
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30 日本航空宇宙学会誌 第42巻 第491号(1994年12月)
速 度 は 無 視 で き な い ほ ど大 きい
5.B 757FBW改 修 機 の 概 要
ボ ー イ ン グ で は,エ ア ラ イ ン に 引 き 渡 す ま え の
B757の 機 体(NB143)を 特 別 に改 修 して ,FBW及 び
そ の 他 の 改 修 機 能 の 評 価 に使 用 した.以 下 に そ の 概 要
を 示 す(第4,5図 参 照).
さ ら に 次 の 様 な,補 償 機 能 お よび 防 護 機 能 が 付 加 さ
れ て い た.
(1)Turn Compensation:Lift Compensationで
あ り.旋 回 時 機 首 上 げ 操 作 な し で,必 要
な ピ ッ チ 角 を維 持 す る.例 え ば,水 平 旋
回 で は,高 度 を 維 持 す る.バ ン ク30° ま
で は,Full Compensationさ れ る.
(2)Flare Compensation:在 来 機 と同様 の操 縦 感
覚 を あ た え る た め,地 面 効 果 に よ る頭 下
げ モ ー メ ン トを模 擬 し た コ マ ン ド・シ グ ナ
ル を出 す
(3)Stall Protection:1.3Vs以 下 で のTrim Ref-
erence SpeedのSetは 出 来 な い 1.3Vs
以 下 で は,15lbs/10ktsの 操 舵 力 を 要 す
さ ら に,塩(Stick Shaker Speed)以 下
で は さ ら に操 舵 力 は 増 加 す る様 に プ ロ グ
ラ ム さ れ て い る.
(4)Wheel to Rudder Cross-tie:空 中 で170kts
以 下 の 時,操 縦 輪 に よ り方 向 舵 を 最 大
±8°コ ン トロール す る.
(5)TAC(Thrust Asymmetry Compensation):
エ ンジ ン故 障時 等 の 非対 称 推 力 時,自 動
的 に方 向舵 が とられ,Automatic Rud-
der Trimが 追随 す る.
(6)Gust Suppression:突 風 や揺 れ に よ り生 じた
垂 直 尾 翼両 側 の △Pを 感 知 し,ヨ ー イ ン
グ を打 ち消す よ うに方 向舵 を 自動 的 に動
かす
6.評 価飛行(イ ンフライ ト・シ ミュ レー シ ョン)
とパ イ ロッ ト ・コメ ン ト
1992年9月10,シ ア トルの ボー イ ング・フィール ド
に朝6時 に集合 した.ボ ー イ ング のCapt上2名(内1
名 は評 価 に 参 加),UALとJALか ら1名 ず つ 参 加
し,約1時 間の ブ リー フ ィング を受 けた.そ の後,飛
行機 に搭 乗 し地 上で の シス テム の評 価 試験 を終 わ り,
8時30分 ボー イ ング ・フ ィール ドを出発 しモーゼ ス ・
レー クへ と向か う 評価 パ イロ ッ トは右席 で,ほ ぼ予
定 され たプ ロフ ァイル通 りの課 目を実施 し,終 了後機
内で コメ ン トを求 め られ た.3人 全員 の評価 飛行 が終
わ って午 後1時 に帰着,さ らにデ ブ リー フ ィングを実
施 した.以 下 に飛 行 特性 等 に関 す る筆 者 のパ イ ロ ッ
ト ・コメ ン トを紹介 す る.
第6図 フライ トのプロフ ァイル
(730)
B 757 FBW改 修 機 に よるB777イ ンフ ラ イ ト ・シ ミュ レー シ ョン飛行(岩 瀬 健 祐) 31
第7図 昇 降舵操 舵力vs速 度
フ ラ イ トの プ ロ フ ァ イ ル を 第6図 に示 す
(1)Take off/Climb
・引 き起 し操 作 時 の 操 舵 力 は ,軽 か っ た(記 録 装
置 で は,20~30lbsで 在 来 機 と 同 じ で あ っ
た).
・Stab .TrimがOut of Green BandのMistrim
で も引 き起 し は 容 易 で あ っ た.
・Initial Climbで のEngine Out時 に ,速 度 を 切
り易 くな る の で,素 早 く 目標 の ピ ッ チ 角 ま で,
機 首 を下 げ て や る必 要 が あ る.
・Flap Retraction中 の ピ ッ チ 変 化 も 小 さ く
Trimも 容 易 で あ った.
・Pitch Control ,Speed Control共 に容 易 で あ っ
た.
(2)Cruise
・推 力 増 減 に よ る ピ ッ チ 変 化 は ス ム ー ズ で ,速
度 ・高 度 の 維 持 と も に楽 で あ っ た.
・ス ピー ド ・ブ レ ー キ の 出 し入 れ 時 の ピ ッ チ 変 化
も小 さ く結 果 的 にg変 化 も少 な い
(3)Turn
・Bank30° ま で の 旋 回 で は ,昇 降 舵 に バ ッ ク ・プ
レ ッ シ ャ ー を か け る 必 要 は な く,通 常 の 旋 回 は
非 常 に易 し い
・Bank45° の 旋 回 で は ,バ ッ ク ・プ レ ッ シ ャ ー は
必 要 だ が.非 常 に軽 く易 し い
(4)Stall
・着 陸 形 態 で のComplete Stallを 実 施 し た .1.3
Vsま で は機 首 上 げ ト リ ム が と れ,そ れ 以 下 の
速 度 で のElevator Force(Fe)は,第7図 の よ
うにVss以 下 で 急 激 に 増 加 す る.
・在 来 機 と同 じ感 覚 で 失 速 の 訓 練 が 出 来 る .
・最 大75lbsのPull Forceが 必 要 で あ っ た .
(5)Descent and Approach
・B767と 同 じ感 覚 で 飛 べ た.
・Flap Down時 の ピ ッ チ 変 化 も少 な く,速 度 や
ピ ッ チ の コ ン トロ ー ル共 易 しか っ た.
(6)Landing
・Flare Compensationに よ る 機 首 下 げ の 傾 向
は,安 定 した 気 流 の 中 で は,は っ き り と認 知 で
き た.そ れ を 意 識 し す ぎ る とOver Flareと な
り,Floatingし 易 い
・Flare Compensationが 不 作 動 の と き のFlare
は軽 い が,結 果 的 に は,Offに され た 事 に 気 づ
か ず に 着 陸 し た 時 が,Best Landingで あ っ
た.
(7)そ の 他
・Wheel to Rudder Cross-tieは ,Yaw Damper
と 同 じ くRudderに フ ィ ー ド ・バ ッ ク が な く,
パ イ ロ ッ トは 直 接 感 知 出 来 な い
・Gust Suppressionの 効 果 は 判 定 出 来 な か っ
た.
(8)総 合 所 見
・在 来 機 と同 じ感 覚 で 操 縦 で き た .
・操 縦 は ,B767よ り も容 易 で あ る との 感 じ を受
け た.
・B777の 操 縦 系 統 が ,FBWで あ る こ と を意 識
す る必 要 は な い
・Control Lawお よ び 各 種Protectionに つ い て
は,良 く理 解 し て お く必 要 が あ る.
・故 障 モ ー ドの 訓 練 の 必 要 性 に つ い て は ,充 分 な
検 討 を要 す
・TACは ,充 分 な シ ス テ ム の 信 頼 性 が 得 ら れ れ
ば,安 全 性 に大 い に寄 与 す る と思 わ れ る.
世 界 中 か ら,計27名 の パ イ ロ ッ トが'6日 間 で11
回 の 評 価 飛 行 に 参 加 した.以 下 に実 施 日 と参 加 エ ア ラ
イ ン名 等 を参 考 迄 に示 す
Date Airline/Agency/Organization(Num-
ber of Pilots)
Aug.24'92(am)British Airways(2)
(pm)Japan Airlines(1),Emirates(1)
Aug.25'92(am)United Airlines(2)
(pm)FAA(1),Boeing Flt.Crew Trn.(1)
Aug.26'92(am)JAA(1),Boeing Flt,Crew Trn.(1)
(pm)American Airlines(1)
Sept.8'92(am)JAA/RLD(1),FAA(1),Boeing Flt.
Test(1)
(pm)Cathay Pacific Airways(1),Boeing
Flt,Crew Trn.(2)
Sept.9'92(am)ALPA(1),Boeing Flt.Test(1),
IFALPA(1)
(pm)All Nippon Airways(2),Delta Air-
lines(1)
Sept.10'92(am)Japan Airlines(1),United Airlines
(1),Boeing Flt,Test(1)
(731)