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mono Audio Technica ●[オーディオテクニカ] SINCE 1962~ Vol.67 カートリッジの基本構造はカンチレバーという スタイラス(針)の付いた繊細な部品が レコードの溝をトレースして、その振動を 電気信号に変えるというもの。 マグネットを動かして発電する方式がMM型、 コイルを動かして発電する方式がMC型。 共に同社製の多くの名器があった。 Photo / Tomoaki Tsuruda(WPP) Audio Technica Text / Teruhiko Doi (WPP) 113 112

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Audio Technica●[オーディオテクニカ]SINCE 1962~

Vol.67

人間の聴覚は鼓膜で空気の振動を

感知することで得られる感覚だ。

人の声だろうが、楽器だろうが、

そしてオーディオ製品だろうが、

人の耳に〝聴こえる〞ということは、

空気の振動である。

真空状態では音は聞こえない。

デジタル処理による電気信号が

いかに発達しようとも、

最終的に人の耳に届くのは

アナログの音なのである。

その昔、オーディオは入口の

カートリッジも、出口のスピーカーも

アナログであった。

レコード盤をアナログディスクと

呼ぶのは、その刻まれた溝を

正確にトレースするカートリッジ

などの存在があったから。

いまでは入口はデジタルに

取って代わられたが、

それでもアナログの味のある音を

愛する音楽ファンは意外に多い。

そんなアナログの時代に、

音の入り口を徹底的に磨き上げた

メーカーがあった。

ヘッドフォンやマイクを筆頭に

さまざまなオーディオアクセサリーを

いまも世に送り出しているメーカー

『オーディオテクニカ』である。

この東京都町田市に本拠を構える

進取の気性に富んだメーカーは

創業以来、多くの新規分野を

開拓し続けてきた

愛すべきブランドなのだ。

カートリッジの基本構造はカンチレバーというスタイラス(針)の付いた繊細な部品がレコードの溝をトレースして、その振動を電気信号に変えるというもの。マグネットを動かして発電する方式がMM型、コイルを動かして発電する方式がMC型。共に同社製の多くの名器があった。

Photo / Tomoaki Tsuruda(WPP)Audio Technica

Text / Teruhiko Doi(WPP)

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monoオーディオテクニカのカートリッジで有名なのはデュアルマグネット方式のVM型カートリッジ。これはMM型の一種であるが、通常のMM型に比べて出力電圧が5mV~10mVと高くV字型にマグネットを配した同社のオリジナルとして知られる。

軽やかな装着感と美しい再生音を

実現した高級機。

ブラックチェリー無垢削り出しの

ハウジングと、高音質設計の

大口径ドライバーの組み合わせは

素晴らしい完成度である。

いつまでも音楽を聴いていたくなる

名品と呼ぶにふさわしい製品だ。

いかにデジタル化が進んでも、

最終的に人間の耳が感知する音は

アナログだ。オーディオテクニカの

ヘッドフォンが高い評価を得ているのは

〝人の耳にやさしい音〞作りを

長年にわたって追及してきたから。

密閉型のダイナミックヘッドフォン

「ATH-

W1000X」は

最高の装着感を得るために開発された3D方式のウィングサポート。バッフルやフレームはマグネシウム合金の一体成型で、極限までの軽量化が図られている。長時間でも疲れない。

ブラックチェリーは硬くて密度の高い木材。ピアノやコンサートホールの内装材などに使用される、まさに音楽のための材料。音質重視のφ6.3㎜金メッキプラグ採用。

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アナログ時代があったからデジタル時代の今がある

 

昭和29年くらいから43年く

らいまでの間に日本という国

が経験した高度経済成長は、

敗戦からの奇跡的な復興と、

いまや世界に冠たる存在とな

った日本製品を生み出しただ

けではない。この時期に産み

出された、あるいは醸成され

たさまざまな芸術や生活文化

は、いまの日本を代表するク

ールジャパンのコンテンツの

元となったものが多い。豊か

になった国民生活は、豊かな

文化を生み出す。音楽鑑賞と

オーディオというインドアの

趣味は、音楽関連のアーティ

ストや楽器演奏者、楽器製造

メーカーが輩出するきっかけ

にもなった。もちろん、再生

装置としてのオーディオ機器

を製造するメーカーも同様で

あった。ほとんどの大手電機

メーカーは自社ブランドの中

にオーディオブランドを立ち

上げ、アンプやスピーカーと

いったコンポーネントに特化

したオーディオ専業メーカー

も多数存在した。本稿の主役

である『オーディオテクニカ』

も、そんな高度経済成長真っ

只中の1962年に創業した

ブランドだ。

 

昭和26年(1951年)、福

井県から上京した松下英雄は、

叔父の紹介でブリヂストン美

術館勤務という職を得た。蓄

音機やオーディオが好きだっ

た松下はブリヂストン社の二

代目である石橋幹一郎に知己

を得て、美術館内でLPコン

サートを始めるようになる。

美術館内で音楽を聴くという

この斬新な試みは予想以上に

好評を博し、やがて石橋家に

縁のある指揮者の渡邊暁雄や

作曲家の團伊玖磨らからもこ

の催しを応援され、結局彼は

10年にわたって同美術館で勤

務を続けた。

 

1962年、42歳になった

松下は美術館での職を辞した。

そして起業したのが『オーデ

ィオテクニカ』の始まりだ。創

立して間もなく、オーディオ

テクニカは「AT-

1」という

カートリッジを製作する。棒

状マグネットのMM型であっ

た。だが、意に反して売れ行

きはさっぱり伸びなかったと

いう。やがてオーディオ評論

家の瀬川冬樹、江川三郎とい

った日本のオーディオ評論史

の草分けともいえる人々に認

められ、当時人気のあった雑

誌「レコード藝術」の別冊〝ス

テレオのすべて〞(昭和37年6

月発刊)で紹介してもらって

から、徐々に売り上げを伸ば

していった。同時期、大手レ

コードメーカーのコロムビア

は再生装置も作っており、そ

こから松下のところに100

個の注文が舞い込んだ。だが、

大手ブランドが求める製品へ

の規格は非常に厳しく、注文

から1か月過ぎても納品はで

きなかったという。だがこの

経験は松下の会社にとって非

常に意味のある出来事だった。

モノ作りの技術向上に役立っ

たからである。現在、世界で

認められる日本製品の素晴ら

しさは、クオリティの高さに

あると言っても過言ではない。

高度経済成長期に松下たちが

経験したような艱難辛苦が、

現在の評価の礎となっている

のである。その後、彼らが作

るカートリッジの品質の高さ

が知られるようになり、国内

音響メーカー各社にステレ

オ・カートリッジの納入を開

始した。

 

オーディオテクニカのカー

トリッジはAT-

1からスタ

ートし、やがてAT-

3という

高い評価を得たヒット商品を

生み出す。創業の翌年には高

級MM型カートリッジAT-

5やトーンアームのAT-

1

001を発売。アナログ・オ

ーディオ時代における〝音の

入り口〞には欠かせないブラ

ンドへと成長していく。19

67年には特許の関係で国内

販売だけに限られていたMM

型カートリッジを、世界に向

けて発信できるVM型に変更。

このV字型のデュアルマグネ

ット方式はオーディオテクニ

カ独自の特許であり、その最

初のモデル「AT-

35X」は名

器として知られる存在となっ

た。

 

以降、同社は世界の音響メ

ーカーへの納品、新しいマイ

クやヘッドフォンといった新

しいオーディオ機器への開発

や参入を果たした。1982

年のCD発売から始まったデ

ジタル化の波に飲まれて一時

は事業が低迷した時期もあっ

たが、ヘッドフォンやマイク、

パソコン用スピーカーといっ

た分野で質のいい製品を作り

続けてデジタルオーディオ全

盛の時代のいまでも、存在感

のあるブランドであり続けて

いる。アナログ時代に認めら

れたクオリティの高さは、い

まのモノ作りにも確かに息づ

いているのだ。

インナーイヤーといえども同社製ヘッドフォンのドライバーは非常に質が高い。手軽に楽しめる価格、サイズ、カラーリングが楽しいATH-CKL203。オープン価格。

最新モデルのインナーイヤー型ヘッドフォンATH-J100。カラフルな色遣いでファッションとのコーディネートが楽しい。オープン価格

AT- 1の後に開発されたAT- 3は同社最初のヒット商品。その音質の良さが評論家やマニアの間で高く評価された。オーディオテクニカの名を広めた製品ともいえる。

家庭用の握り寿司製造器「にぎりっこ」。まだ回転寿司が世に広まる前の製品で、進取の気性に富んだ同社の魅力的な部分といえる製品。1984年発売。「オーテック」というブランド名で発表された。

飛騨高山産のミズメ桜無垢材をハウジングに採用した逸品ATH-W10VTG。1996年の小誌でも紹介され、同年のオブザイヤー・デザイン賞を獲得した。

創業者松下英雄の出身地である福井県にある「テクニカフクイ」の工場内風景。カートリッジはすべて福井産だ。

資本金100万円でスタートした同社は、事業拡大や設備投資と共に増資を繰り返し、1973年には資本金は1億円となった。

完全な機械化ではなく、職人的な手作業が求められる製造ライン。カートリッジは手巻きのコイルなどが当たり前の時代もあった。

創業当時は東京都新宿区に本社事務所と工房を構えたオーディオテクニカ。その新宿で生まれた最初の製品が「AT-1」(写真左)。「発売当初は一個も売れなかった」と後年、松下英雄は語っているが、有名オーディオ評論家たちの後押しがあって徐々にその良さが知られるようになった。

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→ATH-CKS77Xもう重低音から離れられないというファン続出。切削アルミボディ採用の高音質。価格9180円

ATH-ESW9イヤースーツシリーズ。こちらはアフリカンパドック(無垢材)をハウジングに使用。価格3万8880円。

オーディオテクニカ製品についてのお問い合わせは問オーディオテクニカ0120-773-417

https://www.audio-technica.co.jp/

ATH-W3000ANV現在は生産終了。北海道産のアサダ桜をハウジングに採用した50周年記念モデル。

ATH-IM04クアッド・バランスド・アーマチュア型インナーイヤーモニターヘッドフォン。精巧な音響設計で高評価。オープン価格。

ATH-CKR10独自開発のDUAL PHASE PUSH-PULL DRIVERSを採用して広帯域再生が可能。インナーイヤーとは思えない高音質。価格4万3200円

ATH-W1000Xその繊細な音作りで、ピアノの音がため息が出るほど美しいと評価された逸品。価格7万3440円

←ATH-A2000X同社の技術の結晶で作り上げたアートモニターヘッドフォン。チタン製ハウジング採用。価格8万1000円

現代表取締役社長の松下和雄。

ATH-ES88イヤースーツシリーズと銘打ったアルミ製の軽快なオーバーヘッド型ヘッドフォン。折り畳み構造なのでバッグに入れて持ち歩くのに便利。価格2万1600円。

→ATH-AD2000Xオープンエアータイプの最高峰の名に恥じない至高のサウンド。音場の広さを実感できるダイナミックな音が凄い。価格8万4240円。

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