改正法“総ざらい”講座民法 東京法曹会 平成17年度 第1回実務研究会...

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民法 東京法曹会 平成17年度 第1回実務研究会 (57期A班 研究発表) あなたは大丈夫!? 改正法“総ざらい”講座 平成17年9月22日(木)午後6時30分~ 【レジュメ目次】 Ⅰ 民法系 ・ 民 (弁護士 江花 史郎) p.・ 債権譲渡特例法 (弁護士 江花 史郎) p.11 ・ 執 (弁護士 國塚 道和) p.17 ・ 担 (弁護士 國塚 道和) p.23 ・ 不 動 産 登 記 法 (弁護士 赤松 平太) p.26 Ⅱ 手続法系 (弁護士 軽部 龍太郎) p.32 (弁護士 軽部 龍太郎) p.37 (弁護士 軽部 龍太郎) p.41 行政事件訴訟法 (弁護士 石塚 智教) p.45 (弁護士 石塚 智教) p.54 (弁護士 石塚 智教) p.57 1

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民法

東京法曹会 平成17年度 第1回実務研究会

(57期A班 研究発表)

~ あなたは大丈夫!? ~

改正法“総ざらい”講座

平成17年9月22日(木)午後6時30分~

【レジュメ目次】

Ⅰ 民法系

・ 民 法 (弁護士 江花 史郎) p.1

・ 債権譲渡特例法 (弁護士 江花 史郎) p.11

・ 執 行 法 (弁護士 國塚 道和) p.17

・ 担 保 法 (弁護士 國塚 道和) p.23

・ 不 動 産 登 記 法 (弁護士 赤松 平太) p.26

Ⅱ 手続法系

・ 民 事 訴 訟 法 (弁護士 軽部 龍太郎) p.32

・ 人 事 訴 訟 法 (弁護士 軽部 龍太郎) p.37

・ 労 働 審 判 法 (弁護士 軽部 龍太郎) p.41

・ 行政事件訴訟法 (弁護士 石塚 智教) p.45

・ 仲 裁 法 (弁護士 石塚 智教) p.54

・ A D R 法 (弁護士 石塚 智教) p.57

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民法

Ⅲ 経済法系

・ 証 券 取 引 法 (弁護士 川畑 和彦) p.59

・ 独 占 禁 止 法 (弁護士 神村 大輔) p.71

・ 下 請 法 (弁護士 神村 大輔) p.81

・ 労 働 法 (弁護士 伊藤 花恵) p.89

民法

(平成 17 年4月1日施行)

担当:弁護士 江花 史郎

第1 改正内容

1 保証制度に関する改正

2 現代語化に関する改正

第2 保証制度に関する改正

1 改正の趣旨

保証人が過大な責任を負いがちな保証契約(特に包括根保証)について、その内容を適

正化する。

旧法でも、保証人の責任について合理的な範囲に軽減する判例があったが、今回の改正

もこの様な考え方が基礎になっている(もちろん、本改正によっても、それまでの判例理

論の適用が排斥されるわけではない)。

ex. 判昭和39・12・18(著しい事情変更があった場合に保証人の解約権を認め

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民法

たもの)

東京高判昭和60・10・15(信義則に基づいて合理的な範囲に保証人の責任を

制限したもの)

2 改正点

(1) すべての保証契約の書面化

(2) 貸金等根保証契約における極度額の定め(個人保証人の場合)

(3) 貸金等根保証契約における元金確定期日の定め(個人保証人の場合)

(4) 貸金等根保証契約における元本確定事由の定め(個人保証人の場合)

(5) 貸金等根保証契約の法人根保証人の主債務者に対する求償権についての個人保証

3 保証契約の書面化

(保証人の責任等)〈2項3項は新設〉

第446条 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行する責任を負

う。

2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。

3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚

によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報

処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その保証契約は、書面によっ

てされたものとみなして、前項の規定を適用する。

(1) すべての保証契約について、書面(電磁的記録による場合も含む)でしなければその効

力を生じないものとした(446条2項)。

(2) 実務上、保証契約締結の際に契約書を作成しないことはほとんどなかったが、悪質な高

利金融業者などが「口頭による保証契約の成立」を主張することがあった。そこで、保証

契約を要式行為とした。

(3) 強行法規である。

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民法

(4) 経過措置

施行前に書面によらずしてなされた保証契約は有効なものとして扱われる(附則2条、

3条)。

4 貸金等根保証契約における極度額の定め

(貸金等保証契約の保証人の責任等)〈新設〉

第465条の2 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保

証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けること

によって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人で

あるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、

主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びそ

の保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額

を限度として、その履行をする責任を負う。

2 貸金等根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。

3 第446条第2項及び第3項の規定は、貸金等根保証契約における第1項に規定する

極度額の定めについて準用する。

(1) 個人が保証人となる貸金等根保証契約は、主債務の元本、利息及び損害賠償等のすべて

を含むものとして極度額が書面をもって定められなければ、その効力を生じないものとし

た。

(2) 貸金等根保証契約(465条の2第1項)の意義

① 主債務が一定の範囲に属する不特定の債務であること

② 貸金等債務が含まれること

・ 根保証契約の主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれている場合には、その根保証

契約の全体について、本規律が適用されることになる。

③ 保証人が個人であること

(3) 極度額

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民法

① 極度額で限定される債務は、ア主債務の元本・イ主債務に関する利息、遅延損害金、

損害賠償その他主債務に従属するすべてのもの・ウその保証債務について約定された違約

金又は損害賠償の額の全部である(465条の2第1項)。

② 書面により定める必要がある(465条の2第3項)

(4) 強行法規である。

(5) 経過措置

施行前に締結された保証契約には適用されず、その有効性は影響を受けない(附則2条、

4条)。

5 貸金等根保証契約の元本確定期日

(貸金等根保証契約の元本確定期日)〈新設〉

第465条の3 貸金等根保証契約において主たる債務の元本の確定すべき期日(以下「元本

確定期日」という。)の定めがある場合において、その元本確定期日がその貸金等根保証

契約の締結の日から5年を経過する日より後の日と定められているときは、その元本確定

期日の定めは、その効力を生じない。

2 貸金等根保証契約において元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確

定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)には、その元本確定期日は、その貸金

等根保証契約の締結の日から3年を経過する日とする。

3 貸金等根保証契約における元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確

定期日がその変更をした日から5年を経過する日より後の日となるときは、その元本確定

期日の変更は、その効力を生じない。ただし、元本確定期日の前2箇月以内に元本確定期

日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から5年以

内の日となるときは、この限りでない。

4 第446条第2項及び第3項の規定は、貸金等根保証契約における元本確定期日の定

め及びその変更(その貸金等根保証契約の締結の日から3年以内の日を元本確定期日とす

る旨の定め及び元本確定期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。)に

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民法

ついて準用する。

(1) 合意により元本確定期日を定める場合(第1項)

個人が保証人となる貸金等根保証契約における主債務の元本確定期日を定める場合は、

その元本確定期日が貸金等根保証契約締結日から5年以内でなければならず、その期間が

同契約締結日から3年を超える場合は書面でしなければならない(465条の3第1項、

4項)。

5年を超える場合は、その効力を生じない(同条1項)。もっとも、3項にもとづいて、

元本確定期日を延長することはできる。

(2) 元本確定期日の定めがない場合(第2項)

個人が保証人となる貸金等根保証契約において元本確定期日を定めなかった場合には、

その元本確定期日は、同契約締結日から3年を経過する日となる(465条の3第2項)。

5年を超える元本確定期日を定めた場合は、無効となり、「定めがない場合」として、

3年を経過する日が元本確定期日となる。

(3) 元本確定期日の変更(第3項)

・元本確定期日を変更する場合、原則として、変更した日から5年以内の日でなければ

ならない(465条の3第3項)。これを超えたときは、その定めは無効となる(5年

の範囲でも有効とならない)。

・元本確定期日前2ヶ月以内に変更する場合は、例外として、変更後の元本確定期日が

変更前の元本確定期日から5年以内となる場合は、有効となる(465条の3第3項但

書)。

∵ 元本確定期日の変更をして保証関係を継続しようとするときには、当初の元本確定

期日と同一の日付をもって新たな元本確定期日を定めることができた方が、当事者

双方にとって便宜であるから。

・変更は、原則として書面によらなければならない(465条の3第4項)。

・自動延長特約は無効である。 ∵ 同条の趣旨に反するから

(4) 強行法規である。

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民法

(5) 経過措置

① 元本確定期日の定めがある場合

ア 極度額の定めがない場合

民法改正法施行日より3年経過後の日を元本確定期日と定めている場合は、その元

本確定期日は、同施行日から3年を経過した日(平成20年4月1日)となる(附則4

条2項1号)。

民法改正法施行日より3年以内の日を元本確定期日と定めている場合は、その元本

確定期日の定めに影響はない。

イ 極度額の定めがある場合

民法改正法施行日より5年経過後の日を元本確定期日と定めている場合は、その元

本確定期日は、同施行日から5年を経過した日(平成22年4月1日)となる(附則4

条2項2号)。

民法改正法施行日より5年以内の日を元本確定期日と定めている場合は、その元本

確定期日に影響がない。

② 元本確定期日の定めがない場合

極度額の定めの有無にかかわらず、民法改正法施行日の日から起算して3年を経過す

る日(平成20年4月1日)が元本確定期日となる(附則4条3項)。

③ 元本確定期日の変更

民法改正法施行後に、保証期間を短くする旨の合意は有効であるが、延長する旨の合

意は無効となる(附則4条4項)。

6 貸金等根保証契約の元本確定事由

(貸金等根保証契約の元本の確定事由)〈新設〉

第465条の4 次に掲げる場合には、貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、確定

する。

一 債権者が、主たる債務者又は保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権に

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民法

ついての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし、強制執行又は担保権の実

行の手続の開始があったときに限る。

二 主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。

三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。

(1) 趣旨

著しい事情変更の場合に、元本を確定させて、保証人の保護を図る。

(2) 強制執行等の申立(第1号)

・「債権者」は、当該貸金等保証契約の当事者である債権者に限られる。

ex. 滞納処分による差押えの場合は、元本は確定しない。

・譲渡担保、仮登記担保等の裁判所の手続によらない非典型担保は「強制執行」に含ま

れないと解すべき。 ∵「手続の開始」を要件としている。

・「実行を申し立てたとき」とは?

→ 申立書が裁判所又は執行官に受理されたとき。

(3) 主債務者又は保証人が破産手続開始決定を受けたとき(第2号)

・申立人が誰であるかを問わない。

・その他の法的倒産手続き(民事再生、会社更生等)は、元本確定事由にあたらない。

(4) 主債務者又は保証人の死亡(第3号)

・失踪宣告の場合も含む。

(5) 片面的強行法規である。

約定で元本確定事由を定めることは許される(有効である)。

(6) 経過措置

民法改正法施行前に締結された貸金等根保証契約であって、すでに同法施行前に465

条の4各号の元本確定事由が生じており、同法施行時に未だ元本が確定していないものは、

同法施行時(平成17年4月1日)に、元本が確定する(附則4条5項)。民法改正施行

後に元本確定事由が生じた場合は、同条の規定によって確定する(附則2条)。

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民法

7 法人根保証人の求償権についての個人保証

(保証人が法人である貸金等債務の根保証契約の求償権)〈新設〉

第465条の5 保証人が法人である根保証契約であってその主たる債務の範囲に貸金等債務

が含まれるものにおいて、第465条の2第1項に規定する極度額の定めがないとき、元

本確定期日の定めがないとき、又は元本確定期日の定め若しくはその変更が第465条の

3第1項若しくは第3項の規定を適用するとすればその効力を生じないものであるとき

は、その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約(保証人

が法人であるものを除く。)は、その効力を生じない。

(1) 適用場面

AがBに対して継続的に金銭を貸し渡している場合に、C(法人)がBのAに対する貸

金債務を主債務として、Aとの間で根保証契約をした場合、Cがその保証債務を履行する

ことによって、Bに対する求償権を取得する。この求償権について、個人であるDが保証

する場合を想定している(銀行融資について保証協会や保証会社が銀行に対して保証し、

保証協会等の主債務者に対する求償権について主債務者の役員や家族に連帯保証させる

契約形態等は少なくない)。

(2) 要件

①主債務の範囲に貸金等債務が含まれる根保証契約であること

②当該根保証契約の保証人が法人であること

③当該保証契約に極度額の定め又は元本確定期日の定めがないこと等

④求償権の保証人が法人でないこと

(3) 効果

CD間の求償権保証契約が無効となる。ただし、AC間の法人根保証契約は有効である。

(4) 強行法規である。

(5) 経過措置

① 民法改正法施行前に締結された求償権保証契約には、民法465条の5は適用されな

い(契約が無効となることはない)(附則4条6項)。

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民法

② 貸金等法人根保証契約に元本確定期日の定めがある場合

ア 極度額の定めがない場合

民法改正法施行日より3年経過後の日を元本確定期日と定めている場合は、同施行

日から3年を経過する日(平成20年4月1日)に当該根保証契約の主債務者が負担す

べきこととなる額を限度として、施行前求償権保証契約の保証人は保証責任を負う(附

則4条7項1号)。3年以内の日を元本確定期日と定めている場合は、その定めに従っ

て、元本が確定する。

イ 極度額の定めがある場合

民法改正法施行日より5年経過後の日を元本確定期日と定めている場合は、同施行

日から5年を経過する日(平成22年4月1日)に当該根保証契約の主債務者が負担す

べきこととなる額を限度として、施行前求償権保証契約の保証人は保証責任を負う(附

則4条7項2号)。5年以内の日を元本確定期日と定めている場合は、その定めに従っ

て、元本が確定する。

③ 貸金等法人根保証契約に元本確定期日の定めがない場合

ア 極度額の定めがない場合

民法改正法施行日から起算して3年を経過する日(平成20年4月1日)に当該根

保証契約の主債務者が負担すべきこととなる額を限度として、施行前求償権保証契約の

保証人は保証責任を負う(附則4条8項)。

イ 極度額の定めがある場合

民法改正法施行日から起算して5年を経過する日(平成22年4月1日)に当該根

保証契約の主債務者が負担すべきこととなる額を限度として、施行前求償権保証契約の

保証人は保証責任を負う(附則4条8項)。

第3 現代語化に関する改正

1 趣旨

民法を、分かりやすく、現代社会に適合したものとする。

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民法

2 内容

(1) 用語の言い換え

ex. 「欠缺」→「不存在」(101条1項等)

「木戸銭」→「入場料」(174条4号)

(2) 判例・学説による改正点

ex. 192条「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、

善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を

取得する」

478条「債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をしたものが善意で

あり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。」

709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害

した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

(3) 実効性を喪失している条文の削除等

ex. 公吏保証金の先取特権に関する規定(旧法311条4号・320条)の削除

【参考文献】

・「改正民法の解説」 吉田徹ら編 商事法務

・「新しい保証制度と動産・債権譲渡登記制度」 荒木新五著 日本法令

・「民法の一部を改正する法律の概要」

NBL800号133頁 同801号32頁 同802号23頁 同803号38

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債権譲渡特例法

債権譲渡特例法

(平成17年10月3日施行)

担当:弁護士 江花 史郎

第1 改正内容

1 動産譲渡登記制度の創設

2 債権譲渡登記制度の改正

第2 動産譲渡登記制度の創設

1 改正の趣旨

近時、動産担保(特に集合動産譲渡担保)が広く利用されているが、動産の譲渡を第三

者に公示する制度が不十分であったため、明確な公示方法を利用できるようにした。

(動産の譲渡の対抗要件の特例等)〈新設〉

第3条 法人が動産(当該動産につき貨物引換証、預証券及び質入証券、倉荷証券又は船荷証

券が作成されているものを除く。以下同じ)を譲渡した場合において、当該動産の譲渡につき

動産譲渡担保ファイルに譲渡の登記がなされたときは、当該動産について、民法第178条の

引渡しがあったものとみなす。

2 動産譲渡登記の対象

(1) 主体

・譲渡人は法人に限定される(1条)。

・譲受人は限定されない。

(2) 客体

ア 登記の対象とすることができない動産

・貨物引換証等(3条1項括弧内)

・他の制度により登記又は登録された動産 ex. 自動車

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債権譲渡特例法

イ 登記の対象となる動産

・民法上の動産(民法85条、86条2項)

(3) 特定方法

ex. 集合物動産の場合

種類 電気設備器具類の在庫商品

保管場所の所在地 ○○県○○市○丁目○番地 家屋番号○○

3 動産譲渡登記の効力(3条1項)

(1) 登記の効力

・対抗要件としての効力

(2) 登記優先ルールの不採用

・登記の対抗要件としての効力は、民法178条の「引渡し」としての効力と同等で

ある。

ex. 先行譲渡が占有改定による譲渡担保設定で、後の譲渡が登記による譲渡担保設

定である場合、先行譲渡が優先する。

(3) 即時取得との関係

・動産譲渡登記を設定しただけでは、即時取得の「占有」にあたらない。

・先行の動産譲渡について動産譲渡登記がある場合でも、後の動産譲渡について、即

時取得が成立しうる(動産譲渡があったとしても、有過失の推定が働くわけではない)。

4 動産譲渡登記の存続期間

(1) 動産登記の存続期間は、原則として10年を超えることができない(7条2項6号、同

条3項)。

(2) 「10年を超えて存続期間を定めるべき特別の事由があるとき」は、10年を超える登

記の存続期間を定めることができる(同条但書)。

(3) 存続期間のみなし延長

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債権譲渡特例法

ア 再譲渡について登記がなされた場合(7条4項)

イ 再譲渡について引渡しがなされた場合(7条5項)

5 代理人占有下にある動産の譲渡

第3条 〈新設〉

2 代理人によって占有されている動産の譲渡につき前項に規定する登記(以下「動産譲渡

登記」という。)がされ、その譲受人として登記されている者が当該代理人に対して当該動

産の引渡しを請求した場合において、当該代理人が本人に対して当該請求につき異議があれ

ば相当の期間内にこれを述べるべき旨を遅滞なく催告し、本人がその期間内に異議を述べな

かったときは、当該代理人は、その譲受人として登記されている者に当該動産を引き渡し、

それによって本人に損害が生じたときであっても、その賠償の責任を負わない。

(1) 代理人によって占有されている動産について、動産登記上の譲受人が代理人に対して当

該動産の引渡しを求めた場合には、代理人は、遅滞なく、本人(譲渡人)に対して、当該

請求について異議を述べるべき旨を催告し、その期間内に本人が異議を述べなかったとき

は、その譲受人に当該動産を引き渡しても、本人に対する損害賠償の責めを負わないもの

とした(3条2項)。

(2) 趣旨

譲渡が競合した場合の譲受人の保護

6 動産譲渡登記の方法とその開示

(1) 動産譲渡登記ファイルの備え付け

指定法務局等(東京法務局(中野出張所)に指定される予定)に、磁気ディスクをもっ

て調製する動産譲渡登記ファイルを備え付ける(7条1項)。

(2) 登記事項概要ファイルの備え付け

譲渡人の本店所在地法務局等に、磁気ディスクをもって調製する動産譲渡登記事項概要

ファイルを備え付ける(12条1項)。

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債権譲渡特例法

(3) 動産譲渡登記の申請は、譲渡人と譲受人が共同して行う(7条2項)。

(4) 登記情報の開示(11条)

ア 登記事項概要証明書等の交付請求(11条1項)

誰でもできる。

イ 登記事項証明書の交付請求(11条2項)

利害関係人等の一部の者(同項列挙者)のみできる。

7 経過措置

新特例法の規定は、施行前に生じた事項にも適用される(附則2条)。ただし、改正前特

例法の規定により生じた効力は妨げられない(同条但書)。同法施行前にした動産譲渡に

ついても、同法施行後に登記をすることが可能である(施行前の引渡し時を対抗要件具備

時とすることができる)。

第3 債権譲渡登記制度の改正

1 主な改正点

(1) 法人がする債務者の特定していない将来債権の譲渡も債権譲渡登記の対象とすること

ができるものとされた(将来債権の譲渡について、譲渡に係る債権の債務者を必要的登記

事項から外した(第8条2項4号参照))。

(2) 債務者不特定の債権を含む債権譲渡登記の存続期間は10年を超えることができない

ものとされた(8条3項2号)。

(3) 譲渡に係る債権の総額は、既に発生した債権のみを譲渡する場合に限り、登記事項とす

るものとされた(8条2項3号)。

(4) 法人登記簿への記録を廃止し、ファイルの創設、開示等について、動産譲渡登記と同様

の整備をした(12条、13条)。

2 債務者不特定の将来債権の譲渡の登記

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債権譲渡特例法

旧法第5条 債権譲渡登記は、・・・次に掲げる事項を記録することによって行う。

(中略)

六 譲渡に係る債権の債務者その他の譲渡に係る債権を特定するために必要な事項で法

務省令で定めるもの

↓〈変更〉

新法第8条2項

四 譲渡に係る債権を特定するために必要な事項で法務省令で定めるもの

(1) 趣旨

債権流動化促進の観点から、債務者の特定しない将来債権についても、これを譲渡して

企業の資金調達に役立てるべき事情があることから、これも登記の対象に含めることにし

た。

(2) 債務者不特定の将来債権の種類

ex. クレジット業者が将来の顧客に対して有することとなるクレジット債権

不動産賃貸業者が所有不動産の賃貸に係る賃料債権

(3) 債務者不特定の将来債権の特定方法

①債権発生の原因となる契約ないし取引の種類②債権発生の原因となる契約ないし取引

に係る商品や不動産等の目的物③債務者となるべきものの範囲④債権の発生時期 etc..

ex. 不動産賃貸業者の将来の賃料債権の場合

債権の種別 :不動産賃料債権

債権発生原因 :○○県○○市○番地所在の○○マンションの各部屋の賃貸借契約

に基づく賃料債権

債権発生年月日:平成○○年○月○日から平成○○年○月○日まで

3 債権譲渡登記の存続期間

(1) 原則50年(8条3項1号)

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債権譲渡特例法

(2) 債務者が特定しない債権が含まれている場合は原則10年(同項2号)

4 譲渡債権総額の記載

(1) 現在債権のみを譲渡する場合は、債権の総額を記載する必要がある(8条2項3号)。

(2) 譲渡債権に将来債権を含む場合は、債権の総額を記載する必要がない(8条2項3号括

弧内)。 ∵ 将来債権については、「債権の総額」は見積とならざるを得ず、利害関係人

を混乱させるおそれがあるから(従前は、「債権の総額」の定義についても見解の対立が

あった)。

5 法人登記への記録の廃止と登記事項概要ファイルの創設

(1) 改正前特例法においては、債権譲渡登記等がされた場合にその登記事項の一部を譲渡人

又は質権設定者の法人登記簿に記載又は記録することとされていたが、譲渡人の信用不安

を招くおそれがあることから、この制度を廃止した。

(2) 法人登記への記録の代わりに、登記概要ファイルを創設し、これに登記事項の一部を記

載することとした(12条1項)。

(3) 登記の方法と開示手続については、動産譲渡登記とほぼ同じ。

6 経過措置

新特例法の規定は、施行前に生じた事項にも適用される(附則2条)。ただし、改正前特

例法の規定により生じた効力は妨げられない(同条但書)。

【参考文献】

・「一問一答動産・債権譲渡特例法」 植垣勝裕編著 商事法務

・「新しい保証制度と動産・債権譲渡登記制度」 荒木新五著 日本法令

・「「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部を改正する法律」の概説」

NBL802号10頁 同803号29頁 同804号54頁

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民事執行法

民事執行法

(平成 16 年改正 平成 17 年4月1日施行)

担当:弁護士 國塚 道和

第1 平成15年改正

1 民事執行法上の保全処分の強化

改正理由→執行妨害対策の一層の強化、ことに競売不動産を利用してその収益をもって

債権回収を図る執行妨害の対策

改正後→①保全処分の発令要件の緩和(民事執行法55条、187条1項)

不動産の価格減少行為(「著しい」は必要なし)のみで発令可

*運用上は、改正以前から「著しい」価格減少行為は要求されていなかった

ので、少なくとも東京地裁においては従前と変わりないとのこと

②相手方を特定しないでする保全処分(民執法55条の2)

③占有移転禁止の保全処分への当事者恒定効の付与(民事執行法83条の2)

売却のため(民執法55条1項3号)、買受人のため(民執法77条1項)及

び担保不動産競売開始決定前の(民執法187条1項)それぞれなされた占

有移転禁止保全処分と、その後になされる引渡命令(民執法83条)との関

係で当事者恒定効を与えた。

2 競売不動産の内覧(民執法64条の2)

改正前→いわゆる3点セットの閲覧のみ

改正後→売却促進のため内覧制度創設。

*執行官に解錠などの権限がないため占有者の協力が不可欠。

3 財産開示(民執法196条以下)

改正前→執行可能な債務者の財産を探索することが困難であった。

改正後→執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権者等申立により債務者に財産開

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民事執行法

示義務を負わし、期日に出頭しなかったり、虚偽の陳述をした場合、過料の

制裁に処せられる

(1) 申立について

①管轄 債務者の普通裁判籍の所在地。専属管轄(民執法196条)

②申立人 執行力ある債務名義を有する金銭債権の債権者

*執行証書、支払督促及び仮執行宣言付判決を有する者は申立人でないこと

に注意

③申立理由 「金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明」(民執法197条1項2

号)

*具体例:居住地の不動産登記簿謄本、調査結果報告書

④申立費用 2000円の貼用印紙

(2) 財産開示期日

①事前準備 裁判所は実施決定確定後期日前までに債務者に対し、財産目録を提出させ

る。

②債務者不出頭の場合 原則、債権者の意見により事件終了。但し、再度期日指定すれ

ば債務者が出頭する見込みがある場合は手続続行

*東京地裁では、3割程度の割合の不出頭があるとのこと

③質問権 申立債権者は、執行裁判所の許可を得て債務者に質問できるが、根拠のない

探索的な質問や債務者を困惑させる質問は許可されない。

*期日前の「質問事項書」の提出

4 動産競売(民執法190条)

改正前→担保権の実行としての競売は動産の提出か占有者の承諾が必要であったため、

動産の先取特権などの実行が困難であった。

改正後→執行裁判所の動産競売の許可決定書を提出する方法での動産競売が可能となっ

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民事執行法

た。

*執行対象の動産が種類物の場合に申立段階から対象動産の特定が重要となる

5 不動産の明渡執行の実効性の確保

(1) 相手方を特定しない占有移転禁止仮処分・承継執行文付与(民事保全法25条の2、

民執法27条3項2号)

*発令段階の主張立証の問題

①現地調査報告書②ライフラインの名義調査(?)③住民票・法人登記簿謄本④執

行官作成の現況調査報告書(民執法の場合)

*執行段階の問題

執行前には「占有者不特定」であっても、執行終了までに、占有者の名称を特定す

る必要があり、それができない場合は執行不能となる。

→現場での認定方法 ①占有者の陳述②郵便物③ライフラインの宛名

(2) 明渡の催告(民執法168条の2)

改正前→実務の運用上はなされてきたが、法的根拠がなかった。

改正後→明渡催告に当事者恒定効を付与し実効性確保

(3) 目的外動産の売却(民執法168条5項、民執規則154条の2)

改正前→一旦債権者が貸倉庫等で保管して、明渡断行日以後に債権者が引き取るしか

なく、搬出費用や倉庫保管費用の負担があった。

改正後→債務者に引き渡すことができないときは、明渡催告日に明渡断行期日を当該

動産の売却期日と定めた上、断行期日に売却できることとした。

*残存動産が大量にある場合 ×

債務者の引き取りの可能性が無いとは言えない場合 ×

債務者の目的外動産に対する所有権を即時に失わせるので慎重な運用。

6 養育費等の履行確保(民執法151条の2)

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民事執行法

改正前→定期金債権について期限が到来した部分しか執行ができず(民執法30条1項)、

少額かつ生計の維持に不可欠な養育費等の履行確保ができなかった。

改正後→養育費等の債権の特殊性から、定期金債権について期限到来前の場合も債権執

行が開始できるものとした。

*但し、差押えの対象は継続的給付に係る債権(ex 給料、賞与、退職金、賃料

債権)に限られる。

7 差押え禁止財産(民執法151条の2)

改正前→養育費等が請求債権であっても給料等を差し押さえる場合は4分の3は差押え

禁止債権となっており、養育費等の生計の維持に必要不可欠な履行確保がなさ

れなかった。

改正後→養育費等が請求債権である場合に例外的に、給料等の差押え禁止となるのは2

分の1か66万円のうち、どちらか低い金額。

*請求債権の種類によって差押えができる金額が異なってくるので、第三債務

者としては、供託する機会が増えることが予想される。

8 間接強制の適用範囲の拡張(民執法173条)

改正前→直接執行や代替執行ができない場合のみ補充的になされた執行方法。

改正後→権利実現の実効性を図るため直接執行や代替執行ができる場合にも間接強制が

可能となった。

*債務者に資力がある場合に有効

第2 平成16年改正

1 低売却価額制度の見直し等(民執法60条、61条、63条)

改正前→ 低売却価額を定め原則としてこの価額以下では売却できなかった。

改正後→① 低売却価額に代わって、不動産売却の額の基準となるべき価額を、「売却基

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民事執行法

準価額」とした(民執法60条1項)。

②売却基準価額から20%控除した額を「買受可能価額」とし、その価額以上

での買受けの申し出が必要となった(民執法60条3項)

③超過売却・無剰余の判断基準は買受可能価額を用いる(民執法61条、63

条)。

④買受け申し出の際の保証金の額は、「売却基準価額の10分の2(民執規則3

9条1項)

2 少額訴訟債権執行制度の創設(民執法167条の2~同条の14)

改正前→通常訴訟と同様少額訴訟判決の債務名義があっても、執行裁判所は地方裁判所

であった。

改正後→少額訴訟判決等の債務名義があり、金銭債権に対する強制執行の場合(債権執

行の場合)は、簡易裁判所の書記官に対しても申し立てることができる。

ただし、転付命令や配当手続はすることができない。

3 養育費等にかかる金銭債権についての間接強制(民執法167条の15及び16)

改正前→平成15年の改正により、間接強制の執行方法としての補充性が否定されたも

のの、依然として金銭の支払い債務については、悪質な貸金業者等による濫用

の恐れを考慮して間接強制はできなかった。

改正後→養育費等の債権(民執法151条の2第1項記載の債権)の特殊性を考慮して、

これら債権を実現するために、間接強制の申立ができるようになった。

【参考文献】

・「ケースでわかる 新担保・執行法制」 古賀政治・志賀剛一 他著 きんざい

・「改正担保・執行法の実務」 谷口園恵・菅野雅之 他著 きんざい

・「新民事執行実務 №3」 日本執行官連盟編集 民事法研究会

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民事執行法

・「民事法大改正レビュー 担保権・債権の実相キーワード20講」

季刊事業再生と債権管理109号6頁

・「改正民事執行法・規則と東京地方裁判所民事執行センターの運用イメージ 小池一利 著」

NBL783号8頁以下

・「東京地方裁判所における平成15年改正担保・執行法の運用状況 三輪和雄 著」

民事訴訟雑誌51号52頁以下

・「民事関係手続改善のための民事訴訟法等の一部を改正する法律の概要について」

NBL804号52頁、同805号15頁

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担保法制

担保法制

(平成 17 年4月1日施行)

担当:弁護士 國塚 道和

第1 平成15年改正

1 雇用関係の先取特権(民法308条)

改正前→担保される債権の範囲が「 後の6ヶ月間の給与」

改正後→・労働債権保護の要請より担保される債権の範囲が期間に限定ないとされた。

2 抵当権消滅請求(民法379条以下)

改正前→抵当権実行前の滌除権者への通知義務及び滌除制度

改正後→・通知が執行妨害の要因となっていること及び滌除制度が抵当権者に負担とな

っていることから、抵当権の効力を強化した。

・実行前の通知義務を廃止し、名称を「抵当権消滅請求」とした

・増加競売手続が廃止され、抵当権者は消滅請求に対抗するには通常の競売申

立をすれば足りるようになった。

3 一括競売(民法389条)

改正前→抵当権設定者が建物を築造した場合に限り、一括競売可。

改正後→更地の第三取得者が建物を築造した場合も競売できるようにした。

*但し、抵当権設定時に建物が存在していた場合は一括競売できないことは従

前と同様

4 担保不動産収益執行(民法371条、民事執行法180条以下)

改正前→強制競売の場合のみあり

改正後→制度新設。不動産の収益から債権を回収する方法。

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担保法制

(1) 具体的活用例~物上代位との比較

①賃借人が誰か 明確→物上代位 不明確→収益執行

②賃借人の数 少ない→物上代位 多い→収益執行

③管理の状態 良→物上代位 不良→収益執行

④申立費用 安い→物上代位 高い→収益執行

⑤共益費の取り立て 不可→物上代位 可→収益執行

(2) 手続の運用の実際

①事前準備 「物件情報シート」への記載

②予納金等申立費用 東京地裁では予納金は100万円を下ることはないようである。

その他貼用印紙(4000円)、登記の登録免許税が必要

③管理人の選任 ・占有状況の把握が困難か→執行官が適任

・管理につき法的整理が必要か→弁護士が適任

④管理人の職務 日常業務、新たな賃貸借契約の締結

*従前の賃借人が退去した場合の敷金返還の問題

5 賃貸借に対する抵当権の効力(民法395条)

改正前→短期賃貸借制度のみ。

改正後→・短期賃貸借制度が執行妨害目的で濫用されていたこと、賃借人の受ける保護

の有無及び内容が賃貸借期間満了の時期と差押えの時期との先後等偶然に左

右されていたこと

・改正法施行前に締結された契約及び施行後に更新された短期賃貸借は従前通

り。

・施行後締結され(契約期間にかかわりなし)、かつ建物(土地はない)の賃貸

借の場合、6ヶ月間の明渡猶予。

(1) 短期賃貸借制度との併存

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担保法制

*改正法施行前の賃貸借でも、「長期間」の建物賃貸借は、新法適用

(2) 明渡猶予制度の特徴

①敷金返還義務無し→正常な賃貸借契約が著しく阻害される恐れあり。

②第2項の適用→賃料催告の内容証明郵便で立証。その後占有者を審尋する。

(3) 明渡猶予の不適用の場合

①執行妨害目的の場合

②信義則上否認すべき賃貸借 ex 法人が所有者、その代表者が賃借人

Cf 債権回収目的、滞納処分の差押えに遅れる賃貸借、仮差押えに遅れる賃貸借

【参考文献】

・「ケースでわかる 新担保・執行法制」 古賀政治・志賀剛一 他著 きんざい

・「改正担保・執行法の実務」 谷口園恵・菅野雅之 他著 きんざい

・「新民事執行実務 №3」 日本執行官連盟編集 民事法研究会

・「民事法大改正レビュー 担保権・債権の実相キーワード20講」

季刊事業再生と債権管理109号6頁

・「改正民事執行法・規則と東京地方裁判所民事執行センターの運用イメージ 小池一利 著」

NBL783号8頁以下

・「東京地方裁判所における平成15年改正担保・執行法の運用状況 三輪和雄 著」

民事訴訟雑誌51号52頁以下

・「民事関係手続改善のための民事訴訟法等の一部を改正する法律の概要について

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不動産登記法

不動産登記法 (平成 17 年3月7日施行)

担当:弁護士 赤松 平太

第1 主要な改正点

1 書面申請(18 条2項)と併存して、オンラインによる申請を導入(同条1項)

2 権利に関する登記につき、出頭主義を廃止

3 登記済証に変わる本人確認方法として「登記識別情報」制度を導入(21 条、22 条)

4 保証書制度の廃止、新たな事前通知制度・資格者代理人による本人確認の導入(23 条)

5 「登記原因証明情報」の必要的提供(61 条)※中間省略登記ができないことに

6 コンピュータ登記簿を前提とする制度へ転換(2条9号、12 条)

7 地図等を電磁的記録に記録することができる制度へ(14 条6項)

8 法文の全てを現代語化

第2 用語の解説(※新法に関連するものはゴシック体)

1「登記権利者」:登記原因につき当該登記により利益を受ける者(ex.売買における買主)

2「登記義務者」:登記原因につき当該登記により不利益を受ける者(ex.売買における売主)

3「登記済証」:登記したこと(登記済み)を証する法務局発行の書面(本改正により廃止へ)

4「権利証」:登記済証のうち所有権移転についての登記済証の呼称

5「保証書」:登記義務者に人違いがないことを成年者2人によって保証した書面

※旧法下で、登記済証が紛失・滅失等により添付できない場合に、登記済証の代用として

利用されていたもの。本改正で全面廃止 ~ 事前通知制度・資格者代理人による本人確

認情報の提供制度へ。

6「登記原因証書」:登記の原因となる法律行為等(①登記の目的 ②登記原因及びその日付 ③

登記事項の全て)の記載のある証書

※登記申請時に提出し、法務局にて「登記済証」の判が押され、上記3の登記済証となっ

て申請人へ還付された。

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不動産登記法

Ex.売買:売渡証書、売買契約書 抵当権設定:抵当権設定契約書

7「申請書副本」:登記原因証書を添付しない場合、又はできない場合(例:錯誤による抹消、

真正名義の回復、時効取得等)に、登記済証の素材とするために添付していた書類(申請

書の写し)

8「登記原因証明情報」:登記原因が存することを証する情報

※形式的には従来の登記原因証書とほぼ同様の情報を記載した書類。本改正で、登記申請

の際には当該情報の提供が必須となった。

9「登記識別情報」:オンライン指定庁において、登記完了後に権利者に通知される 12 桁の

英数字(パスワード)

※登記義務者の本人確認方法として、従来の登記済証の交付に代わる制度として新設。

10「オンライン指定庁」:法務大臣が指定するオンライン申請対応が可能とされた法務局・支

局・出張所

※平成 17 年9月 22 日現在で指定を受けている法務局・支局・出張所(18 庁)。

(平成 17 年3月 22 日~)さいたま地方法務局上尾出張所

(同年7月 25 日~)長崎地方法務局佐世保支局

(同年8月 25 日~)札幌法務局西出張所 青森地方法務局八戸支局 福島地方法務局 静岡地

方法務局熱海出張所 名古屋法務局 津地方法務局四日市支局 奈良地方法務局家葛城支

局 鳥取地方法務局 高松法務局丸亀支局 徳島地方法務局 松山地方法務局西条支局

福岡法務局柳川支局 佐賀地方法務局

(同年9月 12 日~)横浜地方法務局栄出張所

(同年9月 20 日~)東京法務局中野出張所 広島法務局祇園出張所

この他、同年9月 26 日から大阪法務局と大阪法務局北大阪支局が指定を受ける予定。

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不動産登記法

第3 平成 17 年 3 月 7 日(施行日)から実施されている制度

1 登記済証制度 経過措置として存続

オンライン化の指定(オンライン指定)がされるまでの未指定登記所では、従来の登記

済証制度が経過措置として適用される(付則3条)。

→申請登記完了後、従来どおり書面で登記済証が交付される(第2「用語の解説」3参

照)

2 出頭主義(旧法 26 条1項2項)の全面廃止

オンライン指定の有無にかかわらず、郵送申請が可能。

※ただし、申請のみ郵送可能で、登記完了後の登記済証受領には出頭の必要。

3 保証書制度の廃止と「新たな事前通知制度」又は「資格者による本人確認制度」

新法施行と同時に保証書制度は廃止され、登記済証が提出できない場合の処理として、

①新たな事前通知制度と②資格者による本人確認制度が新設された(第1の5参照)

①原則方式(新たな事前通知制度 23 条1項)

~ 登記申請後、登記所が登記義務者に対し、本人限定受取郵便等(法人の場合は書留郵

便が原則)で登記義務者(売主等)に通知を発送し、通知を受けて本人が登記の申請

が真実であることを申し出ることによって登記がされる。なお、所有権に関する登記

申請の場合で、申請がされた日以前3ヶ月以内に登記名義人個人の住所変更の登記が

されているときは、上記通知のほか、登記上の前住所に宛てて同様の通知がなされる

(同条2項 なりすまし防止のため)

②特別方式(「特則としての資格代理人による本人確認制度」の導入)

~ 当該登記の申請代理人(弁護士又は司法書士)自ら、申請人が申請権限を有した登記

名義人本人であるか否かを、「本人との面談」「写真付身分証明1通(写真なしの身分

証明の場合は異なるもの2通)」をもとに確認し、その本人確認の情報を法務局へ提出

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不動産登記法

する制度(23 条4項1号)。

※事前通知制度と異なり申請日当日の決済が可能。

③別の特則(「公証人による人証」方法)

~ 代理人への委任状に申請人本人が署名押印したものであることを公証人が認証した

場合に認められる制度(23 条4項2号 申請者本人が海外にいる場合や遠方にいる場

合に利用)。

4 登記原因証明情報の必要的提供と閲覧制度

従来の登記原因証書とは異なる概念であり、性質上登記原因証書不存在(相続・時効取

得など)の登記原因を含めた全ての物件変動の登記について、登記原因証明情報を必要的

に提供することになった(61 条)。

第 61 条(登記原因証明情報の提供)

権利に関する登記を申請する場合には、申請人は、法定に別段の定めがある場合を除き、そ

の申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならない。

本改正による実務的な変更点は以下のとおり。

①中間省略登記が事実上できなくなった

→ 登記原因証明情報には、権利変動の過程と態様を正確に反映しなければならないため。

②登記原因証明情報と当事者の印(不動産登記法令 16 条1項)

→ 原則:登記権利者及び義務者による作成、署名押印が必要だが、義務者による作成、

署名押印の差入文書でも可能。

③登記原因証明閲覧制度

→ 利害関係人は、登記原因証明情報を閲覧することが可能(121 条2項)。

登記名義人からの委任状があれば、代理人からの閲覧調査も可能。

④申請書副本制度の廃止

→ 登記原因証書を申請書副本で代替する制度は廃止される。

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不動産登記法

ただし、未指定庁では、登記済証の素材として申請書の写しを利用しても良いため、

当面は登記原因証明情報に加えて、従来の申請書副本を提出する(付則3条)。

5 不動産番号の導入

不動産を特定するための番号(不動産識別事項)が登記事項とされる。

~ 全ての物件ごとに不動産を特定するための番号が表題部の記載事項となる(27 条4

号、不動産登記令6条)。

6 原本還付制度の廃止

本改正による実務的な変更点は以下のとおり。

①印鑑証明原本の変換が不可となった

②当該申請のためのみに作成された委任状の原本還付は不可になった

③当該申請のためのみに作成されたその他の書類原本還付は不可になった

なお、その他の原本還付は、登記完了時に統一された。

第4 オンライン指定庁になってから実施される制度

1 登記済証制度の廃止と「登記識別情報」制度

①形式 ~ 数字とアルファベットの組み合わせ(12 桁) ex.57T-OKY-OHO-SO1

②単位 ~ 不動産ごと、登記事項ごと、かつ登記名義人ごとに個別に発行される。

原則として、登記名義人のみに通知される。

③提供方法 ~ オンライン申請の場合には、識別情報を暗号化して、書面申請の場合には、

封筒に入れるなどして第三者の盗み見等を防止する対策が取られる。

④通知方法 ~ オンライン申請のときは暗号化されたデータを利用する方法により通知が

され、書面申請のときは本人確認をした上で窓口において目隠しシール(再

貼付ができないもの)を貼り、登記官の証明印が付された書面が交付される。

代理人がこれを受領するには、特別の委任が必要となる。

なお、登記識別情報の再通知制度はなく、この場合には事前通知制度又は

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不動産登記法

資格代理人による本人確認情報の提供制度を用いることになる。

⑤失効制度 ~ 登記識別情報の管理困難性を考慮して設けられた制度。

(識別情報の失念、記録媒体の紛失、盗み見等のリスク回避のために利用)

⑥不発行制度 ~ 申請時から登記識別情報の通知を希望しない旨の申し出を行った新登記

名義人に対しては、登記識別情報の通知を行わないという制度(21 条ただ

し書き)。cf.登記済証の不発行制度

→この場合には、事前通知制度又は資格代理人による本人確認情報の提供

制度を用いることになる。

⑦有効証明制度 ~ 自己の保有している登記識別情報が有効なものか、又は対象物件につ

いての登記識別情報かなどを確認するための制度。

2 登記完了通知制度

登記識別情報又は登記済証発行の有無にかかわらず、登記完了した旨を通知することに

なった。

①書面申請の場合 ~ 書面で登記完了通知が発行される。

②オンライン申請の場合 ~ 法務省オンライン申請システムを経由してダウンロードする。

以上

【参考文献】

「一問一答 新不動産登記法」 法務省民事局参事官 清水響 著 商事法務

「新不動産登記法の概要 ~ 何がどう変わる?」 日本司法書士会連合会

「新不動産登記法Q&A」 法務省民事局HP http://www.moj.go.jp/MINJI/minji76.html

「オンラインによる央軌事項証明書の送付請求(不動産登記関係)について」

法務省民事局HP http://www.moj.go.jp/MINJI/minji73.html

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民事訴訟法

民事訴訟法

(平成17年4月1日 終改正施行)

担当:弁護士 軽部 龍太郎

第1 平成13年改正

(平成13年12月1日施行)

主な改正点

文書提出義務の拡張

公務員が保管・所持する文書につき、公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい

支障を生ずるおそれがある文書を除いて、文書提出義務があるものとした(220

条4号ロ)。

上記の判断については、裁判所が行うものとし、いわゆるインカメラ手続を定めた

(223条3項乃至5項)。

第2 平成15年改正

(平成16年4月1日施行)

主な改正点 背景=裁判迅速化法

訴え提起前の証拠収集手続の創設

計画審理制度の創設

専門委員制度の創設

特許事件管轄の専属化

簡易裁判所の機能の充実

1 訴えの提起前における証拠収集の処分等(132条の2乃至9)

※ 訴訟継続後速やかに審理計画を定め、争点整理を行うことを可能とするため、当事者

が事前に証拠・情報を収集できる制度を設けた。

(1) 提訴の「予告通知」

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民事訴訟法

訴えを提起しようとする者が、訴えの被告となるべき者に対し、訴えの提起を予告

する、書面による通知をいう。

証拠収集等の手続を利用するための前提要件となる(手続濫用の防止)。

「請求の要旨」及び「紛争の要点」の記載が必要。

予告通知をした日から4ヶ月以内に限り、証拠収集等の手続を利用可能。

被通知者も、書面による回答を行えば、手続の利用が可能。

(2) 訴え提起前の当事者照会

訴えが提起された場合の主張・立証を準備するために必要であることが明らかな事

項について、相当な期間を定めて書面で回答するよう求めることをいう。

照会を拒絶しても制裁はないが、提訴後、裁判所が、照会を拒絶した事由を求釈明

し、弁論の全趣旨の判断で考慮する余地はあり得る(か?)。

(3) 訴え提起前の証拠収集の処分

要件は厳格(手続乱用の防止)

① 立証に必要であることが明らか

② 自ら収集することが困難

③ 収集に要する時間・負担その他の点で不相当でない

種類=文書送付嘱託、調査嘱託、専門家による意見陳述の嘱託、執行官による現況

調査

裁判費用は常に申立人負担(証拠保全との違い)

2 計画審理(147条の2及び3)

事件が複雑であることその他の事情により適正かつ迅速な審理を行うため必要があ

ると認められるとき、当事者双方と協議し、その結果を踏まえて審理の計画を定め

なければならない。

以下の事項を定めるが、その他の事項を定めることも可能。

① 争点及び証拠の整理を行う期間

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民事訴訟法

② 証人及び当事者本人の尋問を行う期間

③ 口頭弁論の終結及び判決の言い渡しの予定時期。

特定の事項について攻撃防御方法の提出期間を定めることもできる(156条の2)。

その場合、期間経過後に提出した当該攻撃防御方法は、却下される場合がある(1

57条の2)。

実務上、必要的計画審理の対象として予定されているものは、以下のとおり。

① 大規模訴訟(268条以下)

② 類型別審理対象事件(証券取引、商品先物取引、土地境界画定、遺留分減殺、

名誉毀損、火災保険金等)

③ 専門部・集中部の対象となる事件(行政、労働、知財、商事、医療等)

④ すでに審理に長期間を費やしている事件

⑤ 当事者が必要的計画審理を合意した事件

従来行われてきた「準計画審理」は、法定の計画審理と並立し、その有用性が失わ

れるものではないと考えられている(常に2~3期日先の予定、争点整理の終了時

期の予定、準備書面や書証の提出時期の予定等)。

3 専門委員(92条の2乃至7)

裁判所調査官(裁判所法57条)は常勤の職員として数が限られている。鑑定人は

意見陳述の方法が証拠調べの規定によるとされ、機動性に欠ける。

そこで、建築訴訟等を付調停として専門家調停委員を活用する方法が編み出された。

また、専門家を交えての「説明会」を行うなどしていた。これらをふまえて、本制

度を創設。

以下の各場面で、書面または口頭により、専門的な知見に基づく説明を行う。

① 争点・証拠の整理及び進行協議

② 証拠調べ

③ 和解勧試

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民事訴訟法

専門委員の関与は、「専門的な知見に基づく説明を聴く」ことを目的とするもので、

それ自体が証拠とはならない。

専門委員の指定は、当事者の意見を聴いたうえで裁判所が行う。除斥・忌避の制度

あり。

4 特許事件管轄の専属化(6条)

(旧)競合管轄(東日本は東京地裁にも、西日本は大阪地裁にも、提訴可能)

→(新)専属管轄(東京地裁&大阪地裁に専属化)

控訴審は東京地裁に専属化。

ただし、専門技術的要素を含まない場合などは、移送の余地有り(20条2項)。

5 簡易裁判所の機能の充実

(1) 事物管轄の拡大(裁判所法33条1項1号)

(旧)90万円→(新)140万円

(2) 少額訴訟の訴額上限引き上げ(368条1項1号)

(旧)30万円→(新)60万円

(3) 和解に代わる決定(275条の2)

簡易裁判所が、金銭支払請求訴訟について、支払期限の猶予、分割払、またはそれ

とあわせて訴え提起後の遅延損害金の支払義務免除の定めをして、金銭の支払を命

じる決定をいう。

被告が原告の主張を争わず、何らの防御方法も提出しないこと等が要件。

分割払の期間は5年以内、期限の利益喪失の定めが必須。

決定告知から2週間以内に異議申し立てが可能であり(実質的理由は不要)、内容の

いかんを問わず、決定は効力を失う。裁判所は改めて判決を行う。

→民事調停の17条決定に類似

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民事訴訟法

第3 平成16年改正

(平成17年4月1日施行)

主な改正点 背景=電子政府構想(e-Japan 構想)

各種手続のオンライン化

督促手続のオンライン化(397条以下)

その他順次手続のオンライン化を図るが、具体的な整備は 高裁規則に委ねられる

(132条の10)

以 上

【参考文献】

・「Q&A 平成15年改正民事訴訟法の要点」 小林秀之編著 新日本法規

・「Q&A平成16年改正民事訴訟法/民事執行法の要点」 小林秀之編著 新日本法規

・「計画審理の運用について」 東京地方裁判所プラクティス委員会編著 判例タイムズ社

・「民事訴訟法/(新)人事訴訟法/担保・執行法改正のポイント」 日本弁護士連合会

・「特集 民訴法改正・人訴法制定」

自由と正義2003年7月号46頁

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人事訴訟法

人事訴訟法

(平成16年4月施行)

担当:弁護士 軽部 龍太郎

第1 概要

主な改正点

「人事訴訟手続法」から「人事訴訟法」への名称変更

条文の平仮名化

人事訴訟の地裁から家裁への移管

「事実の調査」制度の拡充

参与員制度の拡充

尋問公開停止措置の導入

和解、請求の放棄・認諾の部分的導入

履行確保制度の拡充

第2 各改正点の詳細

1 人事訴訟の地裁から家裁への移管

(1) 「人事訴訟」の定義

・ 旧法には規定が無く、新法2条で初めて規定された。

・ 婚姻無効・取消し、離婚、離婚取消し、婚姻関係の存否確認、嫡出否認、認知、認

知無効・取消し、父を定める訴え、実親子関係存否確認、養子縁組無効・取消し、

離縁、離縁取消し、養親子関係の存否の確認

(2) 人事訴訟に関連する損害賠償請求事件

・ 「人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害」の賠償請求訴訟につ

いては、人事訴訟と併合されることを要件として、家裁の事物管轄を認めた(17

条)。

・ 当初から併合提起することも、人事訴訟の継続する家裁に追加的に提起することも

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人事訴訟法

可。

・ 損害賠償が先行して地裁に提起され、その後に人事訴訟が家裁に提起された場合、

地裁への申立によって、家裁への移送と併合が認められる(8条)。

(3) 保全命令事件

・ 人事訴訟又は関連損害賠償請求を本案とする保全命令事件も家庭裁判所に提起可

(30条)。

(4) 移管されない訴訟

・ 損害賠償請求以外の請求

(配偶者間の固有の動産の引渡請求、貸金の返還請求等)

・ 遺産分割の前提問題や関連紛争

(遺産範囲確認、遺言の有効性、遺留分減殺請求、遺産果実の分配等)

(5) 土地管轄

・ 身分関係の当事者が普通裁判籍を有する地

→要は、原告・被告のどちらの住所地でもよいので、大半が原告の住所地で提起さ

れている。しかし、東京家裁では事情によって移送(7条)を行う例もある。

・ 原則として専属管轄であるが、調停(合意管轄有り)が継続していた場合は自庁処

理も可能。

2 附帯処分等に関する「事実の調査」(32条乃至35条)

・ 離婚請求認容等の場合における子の監護者の指定、子の監護に関する処分(面接交

渉・養育費等)、財産分与に関する処分(以上が「附帯処分」)及び親権者の指定に

関し、裁判所は「事実の調査」を行うことができる。

・ 「事実の調査」は厳格な証拠調べ手続によらない資料収集手続であり、家事審判で

行われている(家事審判規則7条)

・ 「事実の調査」は家裁調査官に委ねることも可能。

・ 他方当事者の審問期日立会権等の手続保障がある。

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人事訴訟法

・ あくまでも附帯処分等のための事実調査であり、離婚原因の判断に直接使用するこ

とはできないが、当事者が記録を謄写し、書証として提出すれば、事実上使用可能

である。

3 参与員制度(9条乃至11条)

・ 「審理又は和解の試みに立ち会わせ」て、「意見を聴くことができる」。

・ 家事審判の制度を人事訴訟に拡張したもの(家事審判法3条1項)。

・ 参与員は、前置された調停の調停委員以外を指定するように意を用いなければなら

ない(規則6条)。

4 当事者尋問等の公開停止措置(22条)

・ 憲法82条2項の反映であり、手続法の中で定められた初の例とされるが、要件は

厳格。

5 和解、請求の放棄・認諾(37条、44条)

・ 原則として、人事訴訟における訴訟上の和解、請求の放棄・認諾を否定(19条2

項)。

・ 例外として、離婚・離縁の訴えについて認める。

※従前は、地裁から家裁の調停に付する方法、協議離婚の届出をする旨の合意を

成立させる和解による方法がとられてきた。しかし、協議離婚の届け出がなさ

れない、不受理届を出すといった例があったり、高裁から家裁の調停に付する

のは迂遠である等の指摘があった。

・ 但し、附帯処分、親権者の指定が必要となる場合には、請求の認諾はできない。

6 履行確保制度(38条乃至40条)

・ 家事審判における履行勧告、履行命令等、金銭寄託の制度(家事審判法15条の5

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人事訴訟法

乃至7、25条の2)を人事訴訟に拡張。

・ 附帯処分等により定められた義務の履行に関して行われる。

・ なお、家事審判法上の履行勧告は年間1万件前後の利用がある一方、履行命令は数

十件の申立しかなく、発令されるのは10件前後である。これは、履行命令に反し

た場合の過料の制裁が行われず、権利者は 終的には強制執行により履行を確保し

ていることによる。

以 上

【参考文献】

・「新人事訴訟法 要点解説とQ&A」 石田敏明編著 新日本法規

・「人事訴訟法概説」野田愛子・安倍嘉人監修 日本加除出版

・「民事訴訟法/(新)人事訴訟法/担保・執行法改正のポイント」 日本弁護士連合会

・「特集 民訴法改正・人訴法制定」

自由と正義2003年7月号46頁

・「特集 新人事訴訟法」

自由と正義2004年8月号14頁

・「新しい人事訴訟法と家庭裁判所実務」

ジュリスト1259号(臨時増刊)

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労働審判法

労働審判法

(平成18年4月施行予定)

担当:弁護士 軽部 龍太郎

第1 概要

※個別労使紛争の急増

↓紛争解決システムが必要に

・個別労働紛争解決促進法(平成13年)=行政上の紛争解決システム整備

・ 労働審判法 (平成18年)=司法上の紛争解決システム整備

制度の概略

個別労使紛争に関する審判制度

審判官1名(裁判官)+審判員2名の合議体

原則3回以内の期日で審理集結

審判に対する異議申し立てにより訴訟に移行

⇒簡易迅速かつ専門的知識を持つ者の関与する裁判手続の誕生

※他の手続と比較した上での手続選択が肝要

第2 制度の詳細

1 労働審判の対象(1条)

・ 対象=個別労働関係民事紛争

・ 定義「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業

主との間に生じた民事に関する紛争」

・ 集団的労使紛争は対象外

・ 請負や業務委託等の形式で就労しているが実質的には労働契約関係があると主張す

る場合は、対象となる。

・ ハラスメントは、個人を相手方とする場合は対象外。使用者の責任を追及する場合

には対象となる。

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労働審判法

2 管轄(2条)

① 相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所

② 現に就業若しくは 後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判

③ 当事者が合意で定める地方裁判所

※ただし、当面は本庁のみで受け付けることを予定。

3 代理人(4条)

・ 原則 商法上の支配人等のほかは、弁護士のみ

・ 例外 裁判所が許可する者

4 裁判体(7条乃至13条)

・ 労働審判官(裁判官)1名+労働審判員(民間人)2名で労働審判委員会を形成。

・ 労働審判員は「労働関係に関する専門的な知識経験を有する者」で68歳未満の者

の中から、 高裁が任命する。非常勤公務員扱い。また「中立かつ公正な立場」で

職務を行わなければならない。

※「労働関係に関する専門的な知識経験を有する者」とは、労働者または使用者の立

場で実際に個別労働紛争の処理等に携わった経験がある者を想定している。具体

的には労組の執行委員や労働相談担当者、企業の人事労務経験者等であり、弁護

士、司法書士、社労士、研究者等は該当しないと考えられている。

・ 決議は過半数の意見による。

5 手続の進行

(1) 第1回期日前

・ 申立の日より40日以内で第1回期日を指定(規則13条)

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労働審判法

※第1回期日前の準備を重視して長めになっている。

・ 出頭義務有り(過料の制裁)

・ 答弁書の提出期限(規則14条、16条)

(2) 各期日の典型的なイメージ

・ 第1回期日 争点・証拠整理及び可能な証拠(書証)の取り調べ 1時間程度

~期日間隔は数週間から1ヶ月程度~

・ 第2回期日 本格的な証拠調べ(人証等) 2時間程度

~期日間隔は短め~

・ 第3回期日 調停・審判 1時間以上

※原則3回以内で審理終結(15条2項)

(3) 証拠調べ等

・職権で「事実の調査」をし、申立てによりまたは職権で必要と認める証拠調べをする

ことができる。証拠調べについては民事訴訟の例による(17条)

6 手続の終結

・ 審判の内容は「当事者間の権利関係を確認し、金銭の支払、物の引渡しその他の財産

上の給付を命」ずるほか、「紛争を解決するために相当と認める事項を定めることがで

きる」(20条2項)。後者の解釈については議論有り。

・ 2週間以内に異議申立が可能。異議申立があると、審判は失効し、訴えの提起が擬制

される(21条、22条)。

・ 事件の複雑さ等のために手続が終了する場合も、訴えの提起が擬制される(24条)。

第3 他の紛争解決制度との比較・選択

1 行政上のあっせん制度

・ 個別労使紛争の増加に伴い、平成13年に個別労働紛争解決促進法が成立し、各公的

機関によるあっせん制度が整備され、または法的に位置づけられた。

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労働審判法

・ も多く利用されている機関が、都道府県労働局の紛争解決委員会によるあっせんで

ある。2004年度に6,014件を受理し、相手方が応じなかった件まで含めても、

約45%で合意が成立。あっせん委員3名が指名されるが、実際は1名で行う。受理

後1ヶ月以内の処理、期日は1回で行うことが原則とされる。

・ そのほか、もともと集団的労使紛争の解決機関であった都道府県労働委員会における

あっせん(2004年度で344件)、自治体の「労働情報センター」等のいわゆる労

政主管事務所によるあっせんがある。

・ もっとも、使用者側にしてみれば、労働基準監督署の上部機関であったり(都道府県

労働局)、集団的労使紛争における労働者・労組の事実上の救済機関であったり(労働

委員会)して、なかなか持ち込みにくいという意見もある。

2 選択の基準

・ さほど高い解決水準を望まず、早期に、費用をかけずに解決したい場合は、各公的機

関のあっせんが便利。

・ 権利義務関係を踏まえた適正な水準で、ある程度早期に解決したい場合は労働審判制

を利用。

・ 当事者間の対立が鋭く、審判に対する異議が出されることが明らかであれば、当初か

ら本訴を提起。

・ 複雑な事案として、24条1項による手続終了が見込まれるものについても、当初か

ら本訴を提起。

・ そのほか、民事調停、少額訴訟、仮処分等も依然利用可能。

以 上

【参考文献】

・「労働審判制度」 鴨田哲郎ほか共著 日本法令

・「新・雇用社会の法[補訂版]」 菅野和夫 有斐閣

・「特集 労働審判法制定」

ジュリスト1275号6頁

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行政事件訴訟法

行政事件訴訟法

(平成17年4月1日施行)

担当:弁護士 石塚 智教

第1 改正の概要

1 救済範囲の拡大

・取消訴訟の原告適格の拡大(9条2項)

・義務付け訴訟の法定(3条6項、37条の2、3)

・差止め訴訟の法定(3条7項、37条の4)

・確認訴訟を当事者訴訟の一類型として明示(4条)

2 審理の充実・促進

・資料、記録の提出要求制度(23条の2)

3 行政訴訟をより利用しやすく、分かりやすくするための仕組み

・抗告訴訟の被告適格の簡明化(11条)

・抗告訴訟の管轄裁判所の拡大(12条)

・出訴期間の延長(14条)

・出訴期間等の情報提供(教示)制度の新設(46条)

4 本案判決前における仮の救済制度の整備

・執行停止の要件の緩和(25条2、3項)

・仮の義務付け、仮の差止めの制度の新設(37条の5)

第2 行政事件訴訟における改正法の位置付け(改正点の項目はゴシック体)

1 行政事件訴訟の類型(2条)

(1) 主観訴訟

①抗告訴訟=「行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟」(3条1項)

→ハードルを低くして使いやすくするとともに、国民に分かりやすいものとするこ

とが改正の主眼(後述2以下)

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行政事件訴訟法

②当事者訴訟(4条)

公法上の法律関係に関する確認訴訟が明示された(同条後段)。

=行政の行為のうち行政処分と性質決定できないもの(通達、行政指導等)を契

機とする行政主体と国民の権利義務関係の争いについて、確認の利益が認めら

れる場合に裁判的救済を可能とする制度。

(判 例) 判平成17年9月14日(在外日本人選挙権制限違憲判決)

(問題点)

・「処分」の概念につき解釈論が分かれる場合における抗告訴訟と公法上の確認訴

訟の並行提起可能性。

・確認の対象は当該行為の効力の有無の確認か、原告の権利義務の確認なのか。

(2) 客観訴訟

民衆訴訟、機関訴訟

2 抗告訴訟の諸類型(3条)

(1) 取消訴訟(3条2、3項)

=行政庁の処分・裁決の取消しを求める訴え。

→国民の側から違法な処分・裁決の取消しを求めるための手段として重要。その仕組み

について重要な改正がされた(後述3以下)。

(2) 無効等確認訴訟(3条4項)

(3) 不作為の違法確認訴訟(3条5項)

不作為に関しては、義務付け訴訟が新たに法定された。

(4) 義務付けの訴え(3条6項)と差止めの訴え(3条7項)(新設)

=行政庁が一定の処分をすべきこと、又は、すべきでないことを命じることを求める訴

え。

→今回の法改正で新たに法定された。取消訴訟中心主義を修正・緩和。

①義務付け訴訟

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行政事件訴訟法

ア 訴訟の類型(3条6項)

ⅰ) 申請権を前提とせず、行政庁が一定の処分をすべきことを義務付ける

(非申請型、1号)

(例)違法な高層マンションにより日照等を侵害されている周辺住民が、

建築主に対してマンションの違法部分の是正命令を出すように行政

庁に求める場合。

ⅱ) 行政庁に対して申請した者が原告となって、行政庁が一定の処分をすべき

ことを義務付ける(申請型、2号)

(例)年金の給付を求める申請をして申請が拒否された場合、または申請

に対する応答がない場合に、申請者から一定の処分の義務付けを求め

る場合。

イ ⅰ)非申請型について(3条6項1号)

(要 件)37条の2

・「重大な損害を生ずるおそれ」かつ「他に適当な方法がないとき」

・原告適格=「法律上の利益を有する者」(3項)

・本案勝訴要件=裁判所が、行政庁の裁量がなくなると判断する、法令

上一定の処分をすべきことが固まる場合(5項)

・処分内容の特定性=「一定の処分」(→幅のある概念)

ウ ⅱ)申請型について(3条6項2号)

(改正前)申請に対する拒否処分→取消訴訟、取消判決。改めて処分。

申請に対する不作為→不作為の違法確認訴訟で勝訴しても、なんらか

の応答する義務が課されるのみ。

→いずれにせよ、原告の望む解決がなされるとは限らなかった。

(意 義)義務付けの訴えにより、裁判所の命令による具体的な給付を得ること

ができる。

(要 件)37条の3

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行政事件訴訟法

・不作為型=申請につき相当の期間内に応答がないこと(1項1号)

(→不作為の違法確認の訴えの併合提起、3項1号)

・拒否処分型=申請拒否処分が取消されるべきもの、無効、不存在であ

ること(1項2号)

(→取消または無効等確認の訴えの併合提起、3項2号)

・原告適格=「法令に基づく申請又は審査請求をした者」(2項)

・本案勝訴要件=①「請求に理由があると認められること」、②当該行

政庁が当該行政処分を「すべきであること」が根拠法令上「明

らか」と認められるか、「しないこと」が裁量権の逸脱・濫用

と認められること(5項)

エ 問題点

・義務付け判決の効力について、新しい規定はない。

・履行確保についても、特別の規定が手当てされてはいない。

②差止訴訟

例)行政の規制監督権限に基づく制裁処分が公表されると名誉や信用に重大な損害

を生ずるおそれがある場合に、その処分の差止めを求める場合。

(要件)37条の4

・「重大な損害を生ずるおそれ」(積極的要件)かつ「他に適当な方法」がな

いとき(消極的要件)(1項)。

・原告適格=「法律上の利益を有する者」(3項)

・本案勝訴要件=当該行政庁が当該行政処分を「すべきでないこと」が根拠

法令上「明らか」と認められるか、「すること」が裁量権の

逸脱・濫用と認められること(5項)。

・処分・裁決の特定性=「一定の処分又は裁決」の解釈(←処分・裁決は未

だ行われていないので処分・裁決の特定が問題となりうる)

③仮の救済制度(37条の5)

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行政事件訴訟法

仮の義務付け、仮の差止めの制度の新設。

(意 義)義務付け訴訟、差止め訴訟の法定にあわせて新設した。

(要 件)・償うことのできない損害を避けるため緊急の必要あるとき

・本案について理由があるとみえるとき

・公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときはすることができな

い(消極的要件)

(手続き)・基本的に執行停止申立てと同様(同4項)。

・判決の拘束力の規定(33条1項)が準用されている(同4項)。

3 取消訴訟の仕組み

(1) 訴訟要件

今回の改正で、訴訟要件のハードルを低くし、国民に利用しやすいものとした。

主な訴訟要件=処分性、原告適格、狭義の訴えの利益、被告適格、管轄裁判所、不

服申立前置、出訴期間

① 原告適格

(改正前)「法律上の利益を有する者」

←行政処分の直接の相手方(名宛人)以外の第三者が、当該処分の取消し

を求める場合に「法律上の利益」を有するのか問題が生じていた。旧法

の運用上、取消訴訟の原告適格の狭小な解釈により、取消訴訟を提起し

た原告が裁判所に門前払いされることが多かった。

*「法律上保護された利益説」と「法律上保護に値する利益説」の対立。

(判例) 法律上保護された利益説によりつつ、近年は、その判断をやや緩

和する傾向を示すことで、原告適格を判断してきた(主婦連ジュー

ス訴訟判決、長沼ナイキ基地訴訟判決、伊達火力発電所訴訟判決、

新潟空港訴訟判決、高速増殖炉もんじゅ訴訟判決等)。

(改正後)「法律上の利益を有する者」(9条 1 項)

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行政事件訴訟法

法律上の利益の有無の判断(9条2項、新設)

=当該処分・裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、

法令の趣旨・目的(①)や処分において考慮されるべき利益の内容・

性質(②)を考慮すべき。①の考慮に当たり、目的を共通する関係法

令の趣旨・目的も参酌する。②の考慮に当たり、処分・裁決が違法に

なされた場合に害されることとなる利益の内容・性質、侵害の態様・

程度をも勘案する。

(意 義) 従来の「法律上保護された利益説」と「法律上保護に値する利益説」

の対立を解消してはいない。

しかし、解釈指針を明示することで、従来における「法律上の利益」の

解釈が柔軟となる(→実質的に当事者適格の範囲を拡大するものと思われ

る)。

(裁 判)小田急高架訴訟における 高裁の判断が注目される。

~高裁では原告適格が否定されたが、 高裁では今年の10月26日に大

法廷で弁論が開かれる。

(残された課題)環境保護団体などによる団体訴訟が整備されていない。

② 被告適格

(改正前)処分または裁決を行った行政庁

←事案の類型によっては、処分庁の判別について行政組織法上の細密な解

釈が必要であった。

(改正後)処分または裁決をした行政庁が所属する行政主体(国または公共団体)(1

1条1項)

・改正法でも、訴状には処分庁・裁決庁の特定は必要(11条4項)。た

だし、被告である国・公共団体に処分庁・裁決庁の特定をさせている(1

1条5項)。

(意 義)・被告行政庁の特定という原告の負担を軽減する趣旨。

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行政事件訴訟法

・当事者訴訟、民事訴訟などと被告適格が揃えられた。

(準 用)・取消訴訟以外の抗告訴訟(38条1項)。

・行政処分を争う民衆訴訟、機関訴訟(43条1、2項)。

③ 管轄裁判所

(改正前)行政庁の所在地を管轄する裁判所

(改正後)被告の所在地と処分庁・裁決庁の所在地を管轄する両方の裁判所

(12条1項)

←被告適格が、行政庁から国・公共団体へと変更されたことに対応

・国(または国に準じる性格の公共団体)を被告とする抗告訴訟では、原

告の所在地を管轄する高等裁判所所在地の地方裁判所でもよい(12条

4項)。

(準 用)・取消訴訟以外の抗告訴訟(38条1項)

・行政処分を争う民衆訴訟、機関訴訟(43条1、2項)

④ 出訴期間

(改正前)処分・裁決のあったことを知った日から3か月。不変期間。初日算入さ

れる場合があった。

(改正後)処分・裁決のあったことを知った日から6か月(14条1項本文)。不変

期間の定めは廃止され、「正当な理由」があれば期間の延長は可能である(但

書)。初日不算入で統一された。ただし、客観的出訴期間は1年間である(2

項)。

⑤ 教示制度(新設)

行政庁は、取消訴訟を提起することができる処分・裁決をする場合に、当該処分・

裁決の相手方に対して、被告とすべき者、出訴期間、審査請求前置につき書面で教

示する必要がある(46条1項)。

(意 義)処分の相手方に必要な情報を提供することで、取消訴訟をより利用しや

すくする制度。

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行政事件訴訟法

(問題点)行政庁が教示義務を果たさない場合や、教示を誤った場合等について、

救済をはかる特別な仕組みは用意されていない。

→出訴期間延長の「正当な理由」には考慮されると考えられる。

(比 較)行政不服審査法上の教示義務(同法57、58条)とは異なる。

(2) 審理

資料・記録の提出要求制度(23条の2)の新設。

裁判所が、釈明処分として、行政庁に対し、処分または裁決の理由を明らかにす

る資料の提出を求めること、審査請求における事件の記録の提出を求めること、が

できる制度。

(意 義)・行政訴訟の早期の段階で争点整理することで、審理の充実・促進が図ら

れる。

・行政の説明責任の司法過程への投影。

→機能的には、原告・被告間の武器対当に資する。

(問題点)・行政庁に資料、記録提出の法的義務が課せられるわけではない。

→ただし、行政庁が提出を拒んだ場合、証拠調べ段階で文書提出命令

が出される可能性がある。

(準 用)・無効等確認の訴え(38条3項)

・形式的当事者訴訟(41条1項)

・争点訴訟(45条4項))。

(3) 判決

訴え却下、請求棄却、請求認容、事情判決

(4) 仮の救済制度

執行停止の要件の緩和(25条)

執行不停止の原則(25条1項)のもと、民事保全法の適用を排除する(44条)

代わりに、執行停止制度が法定されている(25条)。

(改正前)「回復の困難な損害」を避けるため緊急の必要があるとき

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行政事件訴訟法

(改正後)「重大な損害」を避けるため緊急の必要があるとき(25条2項)。

「重大な損害」の解釈について、損害の回復の困難の程度を考慮し、損害

の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案する(同3項)。

(意 義)個別の事案の性質に応じたバランスの良い解決が可能となる

(準 用)・無効等確認訴訟(38条3項)

・行政処分を争う民衆訴訟、機関訴訟(43条1、2項)。

【参考文献】

・「解説 改正行政事件訴訟法」 橋本博之著 弘文堂

・「改正行政事件訴訟法」 宇賀克也著 青林書院

・「Q&A改正行政事件訴訟法」 松永邦男、小林久起編著 ぎょうせい

・「実務解説行政事件訴訟法」 日本弁護士連合会行政訴訟センター編 青林書院

・「行政事件訴訟法の改正 岡葉子著」 LIBRA2004年11月号 東京弁護士会

・「特集2-行政訴訟法改革」 自由と正義55号 日本弁護士連合会

・「行政事件訴訟法改正特集」 ジュリスト1277号15頁以下

・「行政事件訴訟法改正がめざすもの」 ジュリスト1281号71頁以下

・「特集―行政訴訟制度改革を生かす」 法律のひろば2004年10月号

・「特集―改正行政事件訴訟法」 法律時報954号

・「行政事件訴訟法の改正について 小林久起著」 判タ1149号4頁

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仲裁法

仲裁法

(平成16年3月1日施行)

担当:弁護士 石塚 智教

第1 はじめに

1 法制定の経緯

仲裁=当事者自治に基づいて、当事者が第三者の判断に従って紛争を解決する制度。

ADRの代表的制度。

1985年 国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)が国際商事仲裁模範法制

定(→諸外国において仲裁法の整備が進んだ)

2003年 模範法に沿った内容で仲裁法制定

2 旧法について

旧法=「公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律」第8編

(旧法の難点)

・国際仲裁に対する対応が不十分(国際仲裁の原則との不整合)。

・紛争解決機能に問題(裁判所による仲裁判断の取消が広く認められた、仲裁判断の執

行には執行判決が必要)。

3 基本方針

・仲裁法の国際標準化

~国際商事仲裁において日本が仲裁地に選択されやすくなった。

ただし、模範法は、直接には国際商事仲裁を対象とするが、新法は、国際商事・

国内商事、商事仲裁・非商事仲裁を問わず適用される。

・当事者自治の 大限の尊重

~それぞれの紛争に合わせた仲裁手続き

・裁判所の補充的関与とその方式の簡易化(決定手続き)

~簡易迅速な処理、紛争解決機能

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仲裁法

第2 仲裁法の概要

1 仲裁制度

・仲裁合意=既に生じた民事上の紛争又は将来において生ずる一定の法律関係に関する民

事上の紛争の全部又は一部の解決を1人又は2人以上の仲裁人に委ね、か

つ、その判断に服する旨の合意(2条1項)

・仲裁適格=当事者が和解をすることができる民事上の紛争(13条1項)

・仲裁合意の方式=書面性を要求(13条2項)

・仲裁合意の効果=訴訟の制限(被告の申立により、原則として、訴え却下となる(14

条1項))

【当事者自治の原則】仲裁手続きおよび仲裁判断の当事者自治

仲裁手続き(26条1項)、準拠すべき法(36条1項)、仲裁人

の数(16条1項)、仲裁人の選任手続き(17条1項)、仲裁人

の忌避の手続き(19条1項)、仲裁地(28条)、仲裁手続きで

使用する言語(30条1項)、審理の方法(32条2項)

【当事者自治の補完】・当事者間で仲裁に関する事項の合意に達しないとき等一定の場合

に裁判所が手続きに関与。

・仲裁判断には確定判決と同一の効力(45条1項)

・仲裁判断の取消し及び承認・執行の制度(44~46条)

・決定手続きによる簡易迅速な判断

2 国内法の特則

情報力、交渉力の格差を考慮した暫定的措置。

(1) 消費者と事業者との間における仲裁合意

当分の間、将来において生じる民事上の紛争を対象とする仲裁合意を、原則としてい

つでも無理由解除できる(附則3条2項)。

(2) 個別労働関係紛争を対象とする仲裁合意

当分の間、将来において生ずる個別労働関係紛争を対象とするものは無効である(附

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仲裁法

則4条)。

【参考文献】

・「仲裁法 近藤昌昭 著」 ジュリスト1253号84頁以下

・「仲裁法の概要 近藤昌昭、片岡智美 著」 NBL769号40頁以下

・「仲裁関係事件手続規則の概説 花村良一 著」 NBL776号64頁以下

・「仲裁法コンメンタール」 近藤昌昭 他著 ㈱商事法務

・「新仲裁法の理論と実務」 ジュリスト1263号~

・「Q&A 新仲裁法解説」 出井直樹、宮岡孝之著 三省堂

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ADR法

裁判外紛争解決手続きの利用の促進に関する法律

(ADR法)

(平成19年5月31日までに施行予定)

担当:弁護士 石塚 智教

第1 法制定の趣旨

1 裁判外紛争解決手続きとは

裁判外紛争解決手続きとは、ADR(Alternative Dispute Resolution=代替的紛争解

決手段)とも呼ばれ、仲裁、調停、斡旋などの裁判によらない紛争解決方法を広く指す。

2 法制定の趣旨

民間事業者の行う ADR は、現在、十分に機能していない。

→機能を充実させるとともに選択の目安となる十分な情報を提供し、ADR の利用促進

を図る。

3 法制定の意義

認証制度の導入によって、

① 国民に紛争解決手続きの選択の目安を提供する。

② 弁護士ではない専門家を、調停人・斡旋人としてより一層活用する。

③ 時効中断等の法的効果を付与し、民間紛争解決手続きでの和解交渉に専念でき

る環境を整える。

第2 新法の概要

1 認証制度の導入(5~24条)

(意 義)・主務大臣(法務大臣)において、民間紛争解決手続きの業務を行う者が当該

業務を行うについてその適格性を確保するために必要な法定の要件を具備し

ているかどうかについて審査し、これを具備している場合に行う、その旨の

認定判断又はその表示。

=一定の要件に適合することを確保、確認する制度(業務の適正性を確保)

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ADR法

(効 果)・認証業務である旨を独占して表示できる。

・弁護士以外の各種分野の専門家が手続きを実施することができる。

・法的効果の対象となる(後述2以下)。

(問題点)・国の関与がこれまでより強まる。

・格付けにつながり、民間紛争解決手続きの自主性・多様性が疎外される。

→(対応)認証を受けるかどうかは、民間紛争解決手続きの業務を行う者の自

主的な判断に委ねられる。

2 法的効果

(1) 時効の中断(25条)

依頼によって認証紛争解決手続きが実施されたが、合意成立の見込みがないとして、

手続実施者がこれを終了したとき、当事者が手続き終了の通知を受けた日から1か月以

内に当該手続きの目的である請求について訴え提起したときは、当該手続きの請求のと

きに訴えの提起があったものとみなす。

(2) 訴訟手続きの中止(26条)

要件を満たせば、受訴裁判所は、4月以内の期間を定めて訴訟手続きを中止する旨の

決定をすることができる。

(要件)①訴訟の係属、②当該紛争について、当事者間に認証紛争解決手続きが実施さ

れているか、または当該紛争の当事者間に認証紛争解決手続きによってその解

決を図る旨の合意があること、③当該当事者の共同の申立あること。

3 調停前置に関する特則(27条)

調停前置事件(離婚協議等)において、ADRにおいて紛争の解決を試みた場合におい

て、調停の前置が不要となる場合を認めた。

【参考文献】

・「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」 ジュリスト1285号26頁以下

・「ADR法概説とQ&A」 内堀宏達著 ㈱商事法務

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証券取引法

証券取引法

担当:弁護士 川畑 和彦

第1 平成12年改正

1 成立・施行

平成12年5月31日公布

2 主要な改正点

(1) 証券取引所の株式会社化(平成12年12月1日施行)

★証券取引所の組織について従来の会員制に加え,株式会社によることを可能とする証

券取引法の改正(85条)

趣旨:これまで証券取引所は会員制で運営されてきたが,近時,証券取引所は IT 革命

に対応するため,莫大な意思金調達を図る必要があり,また,証券取引所の業務に関

しての意思決定を迅速化する必要などから,株式会社化することが可能となった。

以降,大阪,東京,名古屋証券取引所が株式会社に組織変更された。

(2) 開示制度の電子化(平成13年6月1日から平成16年6月1日まで段階的に施行)

★有価証券報告書等の開示書類の電子化(EDINET)=証券取引法に基づく開示書類の提

出が,紙媒体ではなく,インターネットを利用したオンラインにて可能となった

趣旨:急速に進む情報手段の電子化に伴い,企業情報も電子化し,これにより投資者等

の企業情報へのアクセスが容易に迅速にできるようにし,証券市場の活性化・効率化

に寄与しようとするもの(27条の30)。

(3) その他

平成11年7月に行われた行政組織の大幅な改革(中央省庁等改革関連法)による,

金融行政機構の変革に伴い,証取法も改正された。さらに,すでに行われた証取法改正

に基づき,インサイダー取引における重要事実を子会社に及ぼすための政省令が改正

第2 平成13年改正

1 成立

平成13年11月12日公布

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証券取引法

2 主な改正点

(1) 金庫株の解禁等の商法改正に伴う相場操縦・インサイダー取引,ディスクロージャー

関係規定の改正

★自己株式取得に関する証取法上の規制の強化

趣旨:自己株式取得,保有を認めるいわゆる金庫株の解禁立法に伴い,自己株式の売

買が幅広く行われるようになった。そのため,自己株式取引において,相場操縦

が行われないように自己株式の取得・処分に際して一定の要件を定め,また,自

己株式の取得や処分にあたって,その決定をインサイダー取引規制の重要事実と

すること,および従来の自己株券買付状況報告書の3ヵ月ごとの提出期限を1カ

月にすることの改正を行った(24条の6)。

(2) その他

株式制度の見直し,株主総会のIT化等に係わる「商法等の一部を改正する法律の

施行に伴う関係法律の整備に関する法律」が成立し(平成13年11月21日成立,

平成14年4月1日施行),これにより証取法も関係個所について改正された。

第3 平成14年改正

1 成立

平成14年6月5日成立(同月12日公布)・原則として平成15年1月6日施行

2 主要改正点

証券取引清算機関の設立(156条の2~156条の22)

市場において約定が成立してから決済が行われるまでの一連の流れは、大きく、売買、

清算、決済の三段階に区分することができる。このうち、市場で成立した売買につき,

債務引き受けを行い,又,決済数量確定のための計算など決済を行うために必要な

処理を行う機関を清算機関と呼ぶ。本改正で,証券取引清算機関の設立・運営につい

ての規定が設定された。

改正後,株式会社日本証券クリアリング機構が設立され,証券取引所市場における有

価証券の売買に係る清算業務を行っている

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証券取引法

第4 平成15年改正(平成15年法律第54号)

1 成立

平成15年5月23日成立(同月30日公布)

一部を除き,平成16年4月1日から施行

2 主要改正点

(1) 証券仲介業制度の導入(66条の2~66条の24)

これまで有価証券の販売は証券会社等一定の者しかできなかったが,有価証券の販

売経路を拡充して,投資者が多様な方法で有価証券の取得がでるようにし,証券市場

の活性化を図るため,証券仲介業制度(いわゆる証券代理店制度)を導入した。これ

により,内閣総理大臣の登録を受ければ,証券会社等から委託を受けて,個人や一般

事業者が,有価証券の売買の媒介や募集の取扱等の証券仲介行為を営めることとなっ

た。

(2) 証券取引所持株会社の認可(106条の10~106条の31)

証券取引所について国際競争力の強化と取引の流動性を高めるために,株式会社形

態の証券取引所の議決権につき5%を超えた取得・保有の一律禁止(旧法103条)

を改め,更に,取引所の持株会社形態等による提携を可能とする制度整備がなされた。

過半数の議決権の取得・保有を原則として禁止する一方,証券取引所の主要株主(原

則20%以上の議決権保有者)につき不適格者を排除するための認可制を導入(1

03条~103条の3)

その上で,証券取引所の経営管理に専念するものとして設立等につき当局の認可受

けた証券取引所持株会社につき,議決権過半数保有禁止の例外とする(103条1

項ただし書き)→証券取引所の持株制度が可能となる

(3) その他

その他,証券会社と株式会社証券取引所の主要株主,協同組織金融機関による有価

証券の売買等を書面取次ぎによることの解禁,外国証券取引所による国内への端末設

置の認可について規定を設けた。

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証券取引法

第5 平成16年改正(平成16年法律97号)

1 成立

平成16年6月2日成立(同月9日公布)

2 主要改正点

(1) 組合型ファンドへの投資家保護範囲の拡大(2条2項3号・4号)~H16.12.1 施行

改正ファンド法が平成16年4月1日より施行され,同法に基づく投資事業組合の業

務執行組合員がその投資資金運用の一任を受ける形態の公募型投資商品が多く販売さ

れるようになってきたことから,これらの商品の適正円滑な発行流通を確保して投資

者保護を図る必要性が高まり,この種の商品の取引対象となった権利を証取法上の有

価証券として規制を行うこととなった。

→投資事業有限責任組合契約に基づく権利,同契約に類似する組合契約に基づく権利

等が有価証券とみなされることとなった。

①証取法上の開示規制の適用:有責組合契約の出資持分の勧誘が「募集」に該当す

ると,有価証券届出書・目論見書などの提出義務が生じ,有価証券報告書等の継

続的開示も必要となる。

②発行者以外の第三者等が組合にかかる契約の媒介等を行う場合には,当該第三者

は証券業登録を行うことが必要となる。

(2) 銀行等による証券仲介業務の解禁(65条2項)

平成15年改正により,証券仲介業制度が導入され,個人や一般事業会社が証券仲

介行為を営めることとなったが,銀行等の金融機関については,銀行業と証券業の間

の利益相反防止や企業に対する過度の影響力排除等の観点から,証券業を営むことが

原則禁止とされている(証取法65条)ことに鑑み,その対象からは除かれていた。

しかし,銀行等が証券仲介業を営むことは,顧客の利便性の向上,投資家層の裾野

の拡大,証券会社の店舗が少ない地域におけるアクセスの改善といった政策としての

意義があることから,弊害防止措置を講じた上で,銀行等にも証券仲介業務を解禁し

た。

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証券取引法

これにより,銀行は,株券,社債券を含め,すべての有価証券を取扱うことが,売

買の媒介・募集の取扱いの範囲で可能となった(65条2項)。

上記弊害防止策としては,金銭を貸し付けることを条件として有価証券の売買の受

託等をする行為の禁止(44条3号)等が定められた(65条の2)。

(3) 市場監視機能・体制の強化

(ア) 課徴金制度の導入(平成17年4月1日から施行)

① 趣旨

証券取引において違法行為がなされた場合であっても,刑事罰は謙抑性が求

められるため,刑事罰を科すに至らない程度の違法行為が,結果として放置

されることとなり,刑事罰が必ずしも不法行為を抑制する有効な手段となっ

ていなかった。そこで,証券取引法令の実効性を確保し,違反行為を抑止す

るために,刑事罰とは別に行政上の措置として,課徴金制度を設けた。

① 対象とする違法行為

a) 不公正取引(インサイダー取引,相場操縦,風説の流布等)

b) 有価証券届出書の虚偽記載(新規発行の届出時)

② 金額水準(172条~175条)

違反者の不当な経済的利得を基準として法定

→インサイダー取引等については,「重要事実公表後の株式等の価額」から「重

要事実公表前に購入した株式等の価額」を控除する方法等により算出

③ 没収追徴との調整(185条の7,185条の8)

不公正取引について,没収・追徴の刑事裁判があった場合,課徴金額から没

収・追徴額を控除する。

④ 課徴金賦課手続き(178条~185条の17)

証券取引等監視委員会で調査・勧告する。内閣総理大臣(金融庁長官に委任)

が課徴金納付命令を発出するが,適正手続きの観点から,金融庁に置かれた

審判官(原則3名)が審判手続きを原則公開して行う。

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証券取引法

(イ) 民事責任規定の見直し

① 趣旨

証券取引法においても,損害賠償請求に関する規定が置かれているが,損

害の立証が困難などの問題点があった。

そこで,かかる問題を克服し,違反行為により被害を被った個人自らが違

反行為者に対し,責任を追求し損害を容易にするため,ディスクロージャー

書類に関する民事責任規定の見直しが行われた。

② 具体的規定

b) 損害額の算定方法を規定(21条の2)

虚偽記載等の公表日前後の平均価額の差額を一定の範囲内で損害額

と推定

c) 有価証券報告書等の虚偽記載等により損害を受けた場合に虚偽記載

等のあるディスクロージャー書類を提出した当該有価証券の発行者

は,発行市場において有価証券を取得した投資者だけでなく,流通

市場において有価証券を取得した投資者に対しても民事責任を負う

ものとした(無過失責任;21条の2,21条の3)。

d) 募集・売出に応じて証券を取得した者の損害賠償請求について消滅

時効期間の延長が行われた(20条)

(ウ)証券取引等監視委員会の検査範囲の拡大(194条の6)

市場監視体制強化の一環として,証券取引等監視委員会の検査権限を拡大し,①

証券会社等の財務・内部管理体制の検査,②投資信託委託業者・投資顧問業者等

に対する検査について,金融庁長官が委員会にその検査権限を委任することがで

きるとした。(①②については,本来,金融庁検査局が担当)

(4) ディスクロージャーの合理化

(ア) 目論見書制度の見直し

① 目論見書の区分(15条)

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証券取引法

目論見書を,すべての投資者に交付することを義務づける目論見書(交付目

論見書)と,投資者からの請求があった場合に,直ちに交付することを義務

づける目論見書(請求目論見書)に区分することとした

② 目論見書の記載内容(13条2項)

目論見書の記載内容は,有価証券届出書に記載すべき事項及び特記事項であ

るが,その有価証券届出書の記載事項を,a) 投資者の投資判断にきわめて重

要な影響を及ぼす情報,b)投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす情報,c)

公衆縦覧部分,に分け,交付目論見書については,a)の情報を,請求目論見

書については,b)の情報を記載することとした。

(イ) 公開買付制度の見直し(27条の2)

① 公開買付制度の対象の見直し

社債を発行したことのみにより継続開示義務を負う会社の発行する株式に

まで公開買付規制を及ぼす必要はないものと考えられることから,公開買付

制度の対象となる有価証券の発行者の範囲を見直した(27条の2第1項)。

具体的には,次に掲げる株券等に該当する者の発行者の株券等が対象となる

a) 上場株券等

b) 店頭登録株券等

c) その募集又は売出について有価証券届出書を提出した株券等

d) 外形基準(過去5事業年度末のいずれかの株主数が500名以上)に

該当する会社が発行者である株券等

② 公開買付制度における公告方法についての見直し

株主または投資者への情報の周知を確保しつつ,公告に要するコストを削

減し,また,機動的な手続きを可能とする観点から,公告方法が拡充(27

条の3第1項)。「日刊新聞紙による方法」に加え,「インターネット等を利

用した電子広告の方法」が可能となった。

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証券取引法

(5) 市場間競争の制度的枠組みの整備

(ア) 良執行義務(43条の2)

証券会社が顧客に対して有する委任契約上の善管注意義務の一内容として,顧

客にとって も有利な条件で売買を執行するよう合理的な注意を尽くす義務が

含まれると解されている( 良執行義務)。

かかる義務を一歩進め,証券会社は,有価証券の売買等,外国市場証券先物

取引及び有価証券店頭デリバティブ取引に関する顧客の注文について, 良の取

引の条件で執行するための方針及び方法を定め,公表するとともに,方針等に従

い,注文を執行することとした。

証券会社は,この 良執行方針等に従って,有価証券取引に関する注文を執

行しなければならない。また,顧客から上場有価証券,店頭売買有価証券の売買,

その他政令で定めるものについて注文を受けようとするときは,予め顧客に内閣

府令で定めるところによって,注文を受けた取引についての 良執行方針等を記

載した書面を交付しなければならない。

(イ)グリーンシート(取扱有価証券)への不公正取引ルール適用

グリーンシート制度とは,未公開企業に資金を円滑に供給するために,日本証

券業協会が平成9年7月に設けた制度であり,特定の非上場証券について,証券

会社が所定の書類を同協会に届け出て,グリーンシート銘柄及びその取扱会員と

して指定を受けた上,当該銘柄につき気配を提示し,投資勧誘を伴う売買取引を

行う制度である。

これまで証券業協会による自主規制に任されていたが,利用増加等により,本

制度の重要性が増してきたため,グリーンシートを「取扱有価証券」と定義し,

契約締結前の取引の概要等に関する書面交付義務を課した(40条1項 1 号)。

また,証券業協会に対する売買の報告義務(79条の2),証券業協会による価

格等の報告(79条の4),インサイダー取引規制関連規定の対象(163条~

167条)とすることとした。

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証券取引法

第6 平成17年改正(平成17年法律第76号)

1 成立

平成17年6月22日成立・同月29日公布

多くは平成17年12月1日施行(TOB については公布日から10日を経過した日)

2 主要改正点

(1) 公開買付規制の適用範囲の見直し

公開買付制度(TOB)の対象は,取引所有価証券市場外における買付等とされており,

他方で,証券取引所の立会外取引は,取引所有価証券市場における取引であることか

ら,従来,基本的に公開買付規制の適用対象とはされていなかった。

しかしながら,立会外取引は,その使い方によっては取引所有価証券市場外の相対

取引と類似した形態をとることが可能であるため,これを放置すれば,株主に平等に

売却の機会を与えることを目的とする公開買付規制の形骸化を招くおそれがあると考

えられたことから,立会外取引のうち相対取引と類似した一定の取引(ToSTNet-1)に

ついて,公開買付規制の適用対象とした。金融庁告示により,現在行われている立会

外取引がすべて公開買付規制の適用対象に指定された(法27条の2第1項,平成1

7年7月8日金融庁告示第53号)。

(2) 上場会社の親会社に対する情報開示の義務づけ(24条の7)

(ア) 趣旨

上場会社に親会社が存する場合,当該親会社の株主,役員,財務の状況等は,

当該上場会社のコーポレート・ガバナンスの状況に大きな影響を及ぼしうると考

えられることから,子会社たる上場会社の投資者は,その上場会社自身の情報に

加え,親会社の情報をも考慮しつつ,投資判断を行うものと考えられる。

他方,従来の制度では,その親会社との間の人的,取引関係等に関する一定の

情報が子会社(上場会社)の有価証券報告書等において開示されるものの,当該

親会社自身に関する情報の開示は,限定されていた。

そこで,上場会社の親会社が有価証券報告書提出会社でない場合,その親会社

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証券取引法

自身に関する情報の開示を義務づけることとした。

(イ) 改正の概要

① 親会社の範囲

上場会社の議決権の過半数を直接又は間接に保有する会社

② 開示させる内容(親会社等状況報告書)

a) 株式の所有者別状況及び大株主の状況

b) 役員の状況

c) 商法に基づく貸借対照表,損益計算書営業報告書,付属明細書等

③ 提出の時期

親会社等の事業年度終了後3ヶ月以内に内閣総理大臣に提出

④ 公衆縦覧

親会社等状況報告書及びその訂正報告書は,提出された日から5年を経過す

る日までの間,提出子会社の有価証券報告書の公衆縦覧場と同じ場所で公衆

縦覧に供される。

(3) 外国会社等の英文による継続開示

(ア) 趣旨

我が国証券市場に上場している外国会社等は,毎年,日本語で作成した有価証

券報告書を提出しなければならなかった。→そのためか,例えば東京証券取引所

に上場していた外国会社数は,平成3年の125社から平成16年には30社に

まで減少していた。

我が国証券市場の国際競争力を高めるため,投資判断に必要な情報の開示を確

保しつつ,上場にかかるコスト負担を軽減する必要であると考え,その手段とし

て,外国会社等の英文開示を認めることにした。

(イ) 改正の概要

① 外国会社報告書(英語)等の提出

有価証券報告書を提出しなければならない外国会社等は,公益又は投資者

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証券取引法

保護に欠けることがないものとして一定の要件を満たす場合,有価証券報告

書又は半期報告書の提出に代えて,当該外国会社等の本国とうにおいて開示

されている有価証券報告書又は半期報告書に類する書類であって英語で記載

されたもの(外国会社報告書・外国会社半期報告書)を提出することができ

る(24条8項,24条の5)。

② 補足書類

外国会社等が外国会社報告書等を提出する場合は,投資者保護を図るととも

に,投資者の利便性を高める観点から,以下の「補足書類」を添付しなけれ

ばならない(24条9項,24条の5)

a) 日本語による要約

b) 日本語による補足情報

有価証券報告書とうに記載すべき事項で,外国会社報告書等に記載され

ていない事項

c) 日本語による対照表

有価証券報告書等に記載すべき事項が外国会社報告書等のどの項目に記

載されているかが記載

(4) 継続開示義務違反にかかる課徴金制度の導入(172条の2)

(ア) 趣旨

平成16年改正で課徴金制度が導入されたが,さらに,継続開示義務違反にかか

る課徴金制度も導入された。

(イ) 改正の概要

① 有価証券報告書等の虚偽記載にかかる課徴金

② 半期・臨時報告書等の虚偽記載にかかる課徴金

③ 同一の記載対象事業年度にかかる二以上の継続開示書類に関する調整・罰金

との調整

(ウ) 審判手続きについては,これまでの課徴金制度の手続きと同様

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証券取引法

【参考文献】

「証券取引法読本(第6版)」 河本一郎・大武泰南著 有斐閣

「ハンドブック証券取引法(第4版)」 堀口亘著 勁草書房

「 新証券取引法(新訂第4版)」 堀口亘著 商事法務

「法務担当者のための証券取引法(第2版)」松井秀樹著 商事法務

「平成16年証券取引法改正のすべて」 高橋康文編著 第一法規出版

「平成15年の証券取引法等の改正」 証券取引法研究会編 商事法務

「証券取引法の一部改正の概要-平成17年改正法律第76号の解説」谷口義幸 著

商事法務 No1739号 59頁~77頁

「証券取引法等の一部改正の概要-平成16年法律第97号の解説」田原泰雅 他著

商事法務 No1703号 4頁~13頁

「証券取引法等の一部改正の概要」一松旬

商事法務 No1666号 12頁~19頁

金融庁HP内の法律改正情報; http://www.fsa.go.jp

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独占禁止法

独占禁止法 (平成18年1月施行予定)

担当: 弁護士 神村 大輔

第1 平成12年改正

1. 自然独占事業(鉄道、電気、ガスなど)に固有の行為に対する独禁法適用規定の削除(旧

21条の削除)

← これらの事業にも参入規制を緩和することが望ましいという国民経済的観点

2. 差止請求制度の新設(24条)

← 事後手段(損害賠償請求)のみではなく事前手段を創設することによる被害者救

済手段の一層の充実

• 差止請求訴訟の濫用防止のために担保提供命令の制度あり(83条の2)

• 差止訴訟が提起された場合の規定整備(裁判所と公正取引委員会との関係規定(8

3条の3)、裁判管轄と裁量移送(84条の2、87条の2))

• 事後救済手段である損害賠償制度の対象も拡大(当事者として「事業者団体(8条

1項)」を追加し、行為として「不当な取引制限または不公正な取引方法に該当する

国際的協定または国際的契約」を追加)(25条)

第2 平成14年改正

1. 一般集中規制に関する改正

(1) 事業支配力の過度集中規制の改正(持株会社の禁止規定の改正)(9条)

ア 改正前:「持株会社」による過度集中を規制

イ 改正後:持株会社に限らず「会社」による過度集中を規制

[改正理由] 9条はもともと(戦後の)占領法規としての性格が強く、財閥復活を阻

止する、すなわち持株会社の設立を禁止していたが、資本の自由化・経

済のグローバル化に対応すべく企業組織(グループ)の再編成のニーズ

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独占禁止法

が経済界において高まった。バブル経済崩壊後は経済構造の改革の必要

性が一層強く認識され、平成9年に事業支配力を過度に集中することに

はならない持株会社の設立が解禁された。その後の経済実体の変化をふ

まえて事業支配の過度集中の弊害は持株会社に限られないことが認識さ

れ、規制の対象を「持株会社」に限定せず、「会社」としたものである。

(2) 大規模会社の株式保有総額制限の廃止(9条の2の削除)

ア 改正前:9条の2は、資本の額が350億円以上又は純資産の額が1400億円

以上の会社(持株会社や金融会社は除く)が自己の資本の額あるいは純資産の額

のいずれか多い額を超えて他の会社の株式を取得・保有することを禁止

イ 改正理由

A. 9条の2導入(昭和52年改正)の背景:高度成長期において総合商社が巨

大な企業集団を形成していき、オイルショック時において総合商社による買

占め・売り惜しみにより狂乱物価が生み出された → 総合商社を念頭にお

いた規定

B. 今回の廃止の背景:総合商社の相対的な経済力の(大幅な)低下、経済情勢

の変化・時価会計導入等による一般的な株式保有解消の動きの進展 → 9

条の対象を「会社」とすることで対応可能

(3) 金融会社による議決権保有制限の対象範囲の縮減(11条)

ア 改正前:「金融会社(銀行・保険会社・証券会社等)」による議決権保有を制限

イ 改正後:対象を銀行(議決権の5%まで)と保険会社(10%まで)に限定し、

金融会社間の議決権保有を対象からはずした

[改正理由] 11条の規制趣旨は、豊富な資金を有し、融資を通じて他の会社に

大きな影響を及ぼし得る金融会社が一般事業会社と結びつくことによる競争上の

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独占禁止法

問題の発生を防止することにある。 → 規制対象を豊富な資金力があって融資

を行う会社--銀行、保険会社 - に限定 / 一般事業会社との結びつきのみ

に対象範囲を縮減(金融会社間の議決権保有をはずす)

• 例外規定(11条1項ただし書各号)の整備

• 株式保有報告書の提出義務について改正後11条の対象から外れた金融会社も

対象に含める(10条2項)

2. 手続規定等に関する改正

(1) 在外者へ書類送達規定の整備

ア 改正前:在外者への書類の送達できず(旧69条の2 - 民訴法108条(外

国における送達)の準用なし)

イ 改正後:民訴法108条の準用(69条の3)、公示送達の導入(69条の4)

[改正理由] 経済のグローバル化にともなう在外者への書類送達の必要性

(2) 既往の違反行為に対する措置規定の対象行為の追加

違反行為がなくなった後でも公正取引委員会が措置を命ずることができる対象行為

として、不当な取引制限・不公正な取引方法を内容とする国際的協定・契約(6条

違反行為)、事業者団体による不当な取引制限・不公正な取引方法を内容とする国際

的協定・契約(8条1項2号違反行為)および事業者団体による事業者数の制限(8

条1項3号違反行為)が追加された(7条2項、8条の2第2項、48条2項およ

び54条2項)

(3) 法人等に対する罰金の上限額の引上げ

私的独占、不当な取引制限等の違反行為に係る法人等に対する罰金を1億円から5億

円に引上げ(95条1項1号、2項1号)

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独占禁止法

第3 平成17 年改正

1. 課徴金制度の改正

(1) 改正理由→談合など独禁法違反事件が減らず、禁止の実行性が上がっていないと

の認識の広まり - 経済のグローバル化、国際競争力強化の意識から観点から

見た国内経済構造の非効率性 → 執行力・抑止力強化の必要性

(2) 改正後

ア 課徴金算定率の引上げ

算定比率を2倍程度引上げ(7条の2)

業種 規模 改正前 改正後

製造業等 大企業

中小企業

6%

3%

10%

4%

小売業 大企業

中小企業

2%

1%

3%

1.2%

卸売業 大企業

中小企業

1%

1%

2%

1%

• 引上げられた算定率の水準決定の背景

公正取引委員会による過去の違反行為のデータに基づく不当利得の推計が平

均 16.5%程度、約9割の事件が8%以上であった → 低8%は必要 →

3割程度増で 10%と設定

• 中小企業の算定率が大企業の半分程度なのは?

企業の価格交渉力がその企業規模に左右され、カルテルによる経済的利得も

企業の価格交渉力に応じて変化するなどの理由から、中小企業の利得水準が

低いことを踏まえた措置(課徴金のインパクトが(大企業よりも)中小企業

のほうが大きいのでその点も考慮されている)

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独占禁止法

イ 早期脱退の場合の軽減および繰り返しの場合の加算

A. 早期脱退の場合の軽減

• 内容:公正取引委員会が調査を開始する日(立入検査などの処分が 初

に行われた日)の1ヶ月前の日までに違反行為を止めていた事業者には、

2割軽減した算定率が適用される(ただし、繰り返し違反をしておらず、

違反行為の実行行為が2年未満であることが必要)(7条の2第5項)

• 改正理由: 違反行為の早期解決を図り、違反行為を早くやめるインセ

ンティブを与えるため

B. 繰り返しの場合の加算

• 内容:公正取引委員会が調査を開始する日からさかのぼって10年以内

に課徴金納付命令を受けたことがある事業者には、5割加算した算定率

が適用される(7条の2第6項)

• 改正理由: 違反を繰り返す事業者に対しては通常の課徴金水準では違

反行為の防止を十分に図れないと考えられ、繰り返し違反行為を行う事

業者は通常の算定率よりも高い不正な利益を得ているものと想定される

ため

• 実際に課徴金の納付命令を受けていなくても、過去10年以内に課徴金

減免制度や罰金との調整で課徴金納付命令を取消された場合(いずれも

後述)等であっても繰り返し事業者として加算の対象になる。

C. 課徴金の性格に対する議論

• 従来、(違反行為による)不当利得の剥奪とされてきた課徴金の性格が、

軽減・加算措置を新設したことで不当利得の剥奪という性格が変わった

のではないか?

→ 「不当利得相当額以上の金銭を徴収する仕組みとすることで行政上

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独占禁止法

の制裁としての機能をより強めたものではあるが、その法的性格は、違

反行為を防止するために行政庁が違反事業者等に対して金銭的不利益を

課すをいうもの(行政上の措置)であり、この点は今回の改正後も変わ

りない。」(衆議院本会議における細田博之官房長官答弁)

ウ 罰金との調整

同一の事業者に対して課徴金と罰金刑が併科される場合において、課徴金の額か

ら1/2に相当する金額を控除する(7条の2第14項)

2. 課徴金減免制度の導入

A. 制度趣旨:違反事件の早期発見・早期解消と違反行為解明に資する情報提供

による事件処理の容易化

• 課徴金減免制度は司法取引ではないか?

→ 法定の要件に該当すれば非裁量的に減免措置がとられるので、取引

的要素はなく、司法取引ではない

B. 調査開始前の減免:公正取引委員会の調査開始前に公正取引委員会に対して

違反行為にかかる事実の報告・資料の提出を行った事業者の課徴金減免(7

条の2第7項、8項)

1番目の申請者 課徴金を免除

2番目の申請者 課徴金を50%免除

3番目の申請者 課徴金を30%免除

C. 調査開始後の減免:調査開始前の申請者が3社に達していない場合、減免を

受ける事業者が3社に達するまでは、調査開始後一定期間(公正取引委員会

規則の原案では15日)までに、単独で、申請をした者には課徴金を30%

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独占禁止法

減免する(7条の2第9項)

D. 減免の権利剥奪事由:①申請者の報告・提出資料に虚偽の内容が含まれてい

た場合(7条の2第12項1号)、②当該事業者が求められた報告・資料の提

供をせず、あるいは虚偽の報告・資料の提供を行った場合(7条の2第12

項2号)、③当該事業者が他の事業者に対し違反行使をすることを強要し、ま

たは他の事業者が違反行為を止めることを妨害していた場合(7条の2第1

2項3号)

E. 刑事告発との関係:課徴金免除が適用されても、独禁法違反の刑事責任につ

いては検察官が起訴猶予とする保証はない。しかし、1番目の報告者に対し

ては公正取引委員会は刑事告発しない方針を明らかにする予定である旨表明

しており、検察官も「専属的告発権限を有する(73条)公正取引委員会が

あえて告発を行わなかったという事実を十分に考慮することになると考えら

れ、減免制度は有効に機能すると考え」られている(衆議院経済産業委員会

での答弁)。

3. 犯則調査権限の導入等

(1) 犯則調査権限の導入

内容:犯則事件(89条~91条の罪にかかる事件)を調査するために必要がある

ときには、公正取引委員会の職員は、裁判所の許可状を得て、臨検、捜索または差

押ができることとなり(102条)、告発を行った場合、領置物件や差押物件があ

るときには、目録とともに引き継ぐ(116条1項)など、検察庁への証拠引継ぎ

を行えることとした(これまでは行政調査権限のみで、命令違反に対する罰則を担

保とする間接的強制権限のみであった)。

(2) 刑事事件にかかる二審制の廃止

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独占禁止法

ア 改正前:これまでは一審は東京高裁の専属管轄(旧85条3号)

イ 改正後:一審は地方裁判所の管轄(84条の3、4)

(3) 罰則規定の見直し

ア 確定排除措置命令違反罪の罰則

確定した排除措置命令に違反した場合の罰金を300万円から3億円に引き

上げた(95条1項2号、2項2号)

イ 行政調査にかかる罰則の引き上げ

公正取引委員会の各種の調査権限に対する妨害等の行為に対する罰則を6月

以下の懲役又は20万円以下の罰金から、1年以下の懲役又は300万円以

下の罰金に引き上げた(94条)

4. 審判手続等の見直し

(1) 排除措置命令の手続等の整備

違反行為がなくなってから排除措置を命ずることができる期間を1年から3年に

伸長(7条2項)

(2) 勧告制度の廃止

ア 改正前:違反行為を認定した公正取引委員会は排除措置を講じるように勧告を

まず行い、それに応じない場合には職権で審判開始決定を行っていた

イ 改正後:勧告制度を廃止し、あらかじめ(対象となる事業者に)意見を述べ、

証拠を提出する機会を与えた上で(49条3項)、排除措置命令を出すことと

し、事業者に不服があるときには排除措置命令書の送達があった日から60日

以内に審判の請求(49条6項)をすれば、公正取引委員会は原則として遅滞

なく審判手続きを開始しなければならなくなった(52条3項)。

ウ 排除措置命令は出された時点で効力が発生し、事業者には処分に従う義務が生

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独占禁止法

じるが、審判請求があった場合において公正取引委員会が必要と認める場合や

被審人が担保を供託した場合には執行が停止されることとなった(70条の6

第1項)

(3) 課徴金納付命令に関する改正

ア 改正前:審判手続が開始された場合には、審判手続が終了した後でなければ課

徴金納付を命ずることができなかった(旧48条の2第1項)

イ 改正後:排除措置命令と同時に課徴金納付命令が命じられるようになり(旧4

8条の2第1項の削除)、審判手続に入っても効力を失わない(旧49条3項

の削除)。審決後に課徴金を支払う場合には、延滞金( 大7.25%/年)が

加算されることとなった(70条の9第3項)

(4) 審決の性格の変更

ア 改正前:審判手続は、公正取引委員会が行政処分たる審決を行うための事前手

続であった

イ 改正後:すでに行われた行政処分(排除措置命令等)を再審理するための事後

手続となった

5. 価格の同調的引き上げに対する報告徴収規定の廃止

1年間の供給額の合計が600億円を超える業界で、上位3社の供給量が70%を超え

る場合に、上位2社を含む上位5社が3ヶ月以内に同一または近似の額・率の価格引き

上げを行った場合に公正取引委員会が価格引き上げの理由の報告を求めることができる

とされていたが(旧18条の2)、経済情勢の変化を受けてこの報告制度は廃止されるこ

ととなった(この制度は、昭和40年代以降の物価高受けた規定であり、時代は変わっ

た)

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独占禁止法

6. 施行時期:平成18年1月予定(同調的価格引き上げに対する報告徴収規定の廃止は平

成17年5月から施行済み)

【参考文献】

• 「知らなかったでは済まない改正独禁法」 諏訪園貞明著 東洋経済新報社

• 「独占禁止法の解説 五訂版」 谷原修身著 一橋出版

• 「独占禁止法改正(案)の概要」 公正取引委員会

• 「平成17年6月30日付け『独占禁止法改正法の施行に伴い整備する公正取引委員

会規則の原案の公表について』」 公正取引委員会

• 「改正独占禁止法の解説」 諏訪園貞明著 商事法務1733号4頁

• 「独占禁止法改正についての現状と見通し」 村上政博著 NBL787号31頁

• 「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の概要につ

いて」 田辺治著 NBL810号34号

• 「平成17年独禁法改正と残された課題」 村上政博著 NBL810号63頁

• 「座談会 改正独占禁止法をめぐって」 公正取引657号2頁

• 「改正独占禁止法の概要について」 松本博明・堀江美早子著 公正取引657号1

8頁

• 「平成17年独占禁止法改正の意義と展望」 川濱昇著 公正取引657号26頁

• 「日弁連から見た改正独占禁止法」 大西聡著 公正取引657号38頁

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下請法

下請法 (平成16年4月1日施行)

担当:弁護士 神村 大輔

第1 (参考までに)これまでの主な改正経緯等

1. 昭和31年施行

2. 昭和37年改正

下請代金支払期日について60日以内に定めなければならないという規定新設(2

条の2) 3条の発注書面の記載事項に下請代金の支払時期を追加(3条) 親事業者の遵守事項として、支払遅延、買いたたき、購入強制、報復措置の禁止、

を追加(4条) 親事業者の支払遅延に対する遅延利息支払の規定新設 (4条の2)

3. 昭和38年改正

資本金基準に、5,000万円基準を追加(2条)

4. 昭和40年改正

トンネル会社規制の追加(2条) 親事業者の遵守事項として、早期決済の禁止、割引困難な手形の交付の禁止、を追

加(4条) 遅延利息支払の勧告新設(7条) 公取が「勧告することができる」から「勧告するものとする」に改正(7条) 勧告に従った場合の独禁法との関係明確化(8条) 3条(書面不交付等)に係る罰則規定追加(10条)

5. 昭和48年改正

資本金基準の5,000万円を1億円に引き上げ(2条)

6. 平成11年改正

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下請法

資本金基準の1億円を3億円に引き上げ(2条)

7. 平成12年改正

発注書面の交付および取引記録の保存の方法として電磁的方法を認める(3条およ

び5条)

第2 平成15年改正

1. 対象となる下請取引の追加

(1) 改正理由→産業構造の変化=サービス経済化

(2) 改正後

ア 情報成果物の作成に係る下請取引(「情報成果物作成委託」)の追加

情報成果物作成委託の3類型(2条3項)

事業者が業として行う提供の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一

部を他の事業者に委託すること

事業者が業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又

は一部を他の事業者に委託すること

事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果

物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいう。

事業者、一般消費者等

親事業者

下請事業者

(類型1)

提供

納入委託

発注元(事業者、官公庁等)

親事業者(元請)

下請事業者

(類型2)

納入

納入委託

親事業者

下請事業者

(類型3)

納入委託

作成請負自社で業として作成している自家使用の情報成果物

下請法の対象取引

「情報成果物」とは?

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下請法

プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができる

ように組み合わされたものをいう。)(2条6項1号) - (例)ゲームソフト、

顧客管理システム

映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの(2条

6項2号) - (例)テレビ CM、アニメ

文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合によ

り構成されるもの(2条6項3号)- (例)設計図、雑誌広告

前三3に掲げるもののほか、これらに類するもので政令で定めるもの (2条6

項4号)

イ 役務の提供に係る下請取引(「役務提供委託」)の追加

「役務提供取引」 - 事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全

部又は一部を他の事業者に委託すること(2条4項)

(例)貨物運送業者が請け負った運送の一部を他の運送業者に

委託する場合、ビルメンテナンス業者が、ビル清掃を清

掃業者に委託する場合

事業者、官公庁、一般消費者 等

親事業者(元請)

下請事業者

提供

委託

委託

下請法の対象取引

ウ 金型の製造に係る下請取引の追加

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下請法

2条1項に定義する「製造委託」の目的物として「これらの製造に用いる金型」が追

加された。

改正理由:

改正前は、親事業者が「金型製造を自ら業として製造している場合」には、金型製造

の製造委託も下請法の対象となったが、親事業者が金型製造を自ら行っていない場合

は対象外であった

→ 産業構造の変化(多品種少量生産)による金型の重要性と下請会社にとっては転

用可能性がない一方で親事業者にとっては金型(の図面)の移転可能性の容易さとい

う金型の特性

→ 親事業者の販売目的それ自体ではない場合を含めた金型取引全般を下請法の対象

とする必要性の高まり(金型の設計図の流出などの問題もあり、商工会議所等の関心

が高かった)

2. 親事業者と下請事業者を画する資本金基準の追加

(1) 改正前:

親事業者の資本金3億円超 → 下請事業者は資本金3億円以下

親事業者の資本金1千万円超3億円以下 → 下請事業者は資本金1千万円以下

(2) 改正後:情報成果物作成・役務提供委託についての基準を追加

親事業者の資本金5千万円超 → 下請事業者は資本金5千万円以下

親事業者の資本金1千万円超5千万円以下 → 下請事業者は資本金1千万円以下

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下請法

※中小企業基本法におけるサービス業に属する中小企業を定義する資本金基準を参

考(同法2条3号)

資本金3億円超 資本金3億円以下

資本金1千万円超3億円以下 資本金1千万円以下

物品の製造・修理委託及び政令で定める情報成果物作成・役務提供委託

下請事業者親事業者

資本金5千万円超 資本金5千万円以下

資本金1千万円超5千万円以下 資本金1千万円以下

情報成果物作成・役務提供委託情報成果物作成・役務提供委託(政令で定めるものを除く)

下請事業者親事業者

3. 3条書面の交付時期に関する規定の整備

(1) 改正前:製造委託等の発注をした親事業者は「直ちに」書面を交付

(2) 改正後:必要記載事項のうちその内容が定められていないことにつき正当な理由

があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者

は当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者

に交付しなければならない旨の規定を追加(3条1項但書)

改正理由:ソフトウェアやテレビ番組などの情報成果物の作成委託などにおいて

は、発注時に委託内容等が確定しないことがあるため

ポイント

ア 発注時に確定していない事項があっても、確定できない理由を書いた上

で書面の交付は必要(役務提供委託取引における発注書面不交付率は4

8.7%(平成16年度における運用状況))

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下請法

イ 内容が定められていないことについての「正当な理由」とは?

ことが

いて製作物の具体的内容が確定してい

ア作成委託において 終ユーザーが求める仕様が確定

を示

ウ 当 書面に記載されていない事項については、その内容が確定した後に

4. 親事業者の遵守事項の追加

下請取引の拡張に伴う追加

ア 業者に対し、自己の指定する役務の利用を強制すること(4条1項6号)

取引の性質上、委託した時点では具体的記載事項の内容を定める

できないと客観的に認められる理由(決定できるのに決定しない場合や、

具体的金額は決定していなくとも代金の算定方法を記載することが可能

である場合などは「正当な理由」があるとはいえない。)

正当な理由があると認められる例

広告制作物の作成委託にお

ない場合

ソフトウェ

しておらず、正確な委託内容を決定することができない場合

製造委託において、親事業者はその基本性能等の概要仕様のみ

して委託し、下請事業者の持つ技術により詳細設計を行って具体的

仕様を決定していく場合

は、直ちに当該事項を記載した補充書面を交付する必要があり、当初書

面と補充書面との関連性が明らかになるようにする必要がある(注文番

号を同じくするなど)

(1) 改正理由→対象となる

(2) 改正後

下請事

← これまでは物の購入強制の禁止だけであったので、役務の利用強制も追加

金銭、労務等の経済上の利益を提供させることによって、下請事業者を不当に

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下請法

害すること(4条2項3号)

下請事業者の給付を受領した後ウ に給付をやり直させることと等によって、下請

5. 違反行為に対する措置の強化

に対して行う勧告につき、原状回復にとどまっており、

(2) こと」を勧告できることとなり(例え

6. 罰金の上限額の引上げ

付義務(3条)違反および書類の作成・保存義務等(5条)違

(2)

7. 施行期日

4月1日

8. 運用状況(違反状況)

果物作成委託および役務提供委託取引(以下「役務委託等」と

事業者の利益を不当に害すること(4条2項 4 号)

(1) 改正前: 違反親事業者

勧告に従わなかったときのみ勧告を公表

改正後: 「その他必要な措置をとるべき

ば、再発防止措置など)(7条1項および2項)、公表についても勧告に従った場

合でも必要に応じて公表できることとなった(「勧告に従わなかったときは、その

旨を公表する」(旧7条4項)が削除された)

(1) 改正前: 書面交

反に係る罪並びに検査忌避等(9条)に係る罪の罰金の上限が3万円であった

改正後:罰金の上限を50万円に引上げた(10条、11条)

平成16年

平成16年度における情報成

いう。)における違反状況であるが、特徴として発注書面不交付率(3条違反)が36.4%と

高い(製造委託では21.2%)。実体規定違反としては、支払遅延の割合が高い(73.5%

(製造委託では42.6%))[公正取引委員会「平成16年度における下請法の運用状況及

び企業間取引の公正化へ取組」より]

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下請法

【参考文献】

取引の手引き - 下請法のはやわかりガイド -」 公正取引委員会事務総

• 「 推進講習会テキスト」 公正取引委員会・中小

• 「座談会・下請法改正の意義と課題」 公正取引634号2頁

5頁

8頁

775

• 「 金支払遅延等防止法 Q&A(全3回)」 高橋省三著 NBL778号6頁、

• 「 び企業間取引の公正化へ取組」 公正取

• 「下請

局編 財団 法人公正取引協会

平成16年11月 下請取引適正化

企業庁

• 「下請法の改正について」 高橋省三著 公正取引634号2

• 「下請法改正の意義と残された課題」 鈴木満著 公正取引634号3

• 「改正下請法にかかる規則および運用基準の改正について」 高橋省三著 NBL

号21頁

改正下請代

NBL779号26頁、NBL780号41頁

平成16年度における下請法の運用状況及

引委員会

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労働基準法

労働基準法 (施行日:平成16年1月1日)

担当:弁護士 伊藤 花恵

第1 主要な改正点

1 有期労働契約に関する改正(14条)

2 裁量労働制に関する改正(38条の3、38条の4)

3 解雇権濫用法理に関する改正(18条の2)

第2 有期労働契約に関する改正

1 有期労働契約の期間の延長(14条)

改正前:有期労働契約の期限は1年間

専門的労働者及び満60歳以上の労働者との間において締結される労働契約の

期限は3年間

改正後:有期雇用契約の期間の上限を3年間

専門的労働者及び満60歳以上の労働者との間において締結される労働契約の

期限は5年間

・専門的労働者とは

自らの労働条件を決めるにあたり、交渉上、劣位に立つことのない労働者であって、

当該専門的な知識・技術及び経験を必要とする業務に従事している者

例:博士課程修了者、公認会計士・医師・弁護士等の有資格者、特許発明の発明者等

2 改正背景

有期契約の労働者の多くが契約の更新を繰り返すことにより一定期間継続して雇

用されているという現状(3年程度継続するケースが多い)。また、企業において、専

門的技能を有する者を1年よりも長い一定期間確保したいという要請。

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労働基準法

3 暫定措置(労働基準法附則137条・労働基準法の一部を改正する法律附則3条)

有期労働契約を締結した労働者は、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以

後においては、いつでも退職することが可能。

←労働者の退職の自由に配慮した措置。

第3 裁量労働制に関する改正

1 裁量労働制の定義

労働者を対象となる業務に就かせた場合、実際の労働時間数にかかわらず、労使であ

らかじめ定めた時間働いたものとみなす制度(みなし労働時間制)

(1)専門業務型裁量労働制

業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量に委ねる必

要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的

な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務(同法38条の3第

1項1号)

対象業務:デザイナー、システムエンジニア、証券アナリスト、公認会計士、弁護

士、建築士、不動産鑑定士等

(2) 企画業務型裁量労働制

事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当

該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に

委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用

者が具体的な指示をしないこととする業務(同法38条の4第1項1号)

対象業務:経営に関する計画を策定する業務、社内組織を編成する業務、人 事制

度を策定する業務、社員の教育・研修計画を策定する業務等

対象とならない業務:経営に関する会議の庶務等の業務、人事記録の作成及び保管、

給与の計算及び支払、各種保険の加入及び脱退、採用・研修

の実施等の業務

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労働基準法

2 改正内容

(1) 専門業務型裁量労働制における必要的協定事項の追加(38条の3)

改正前: ①対象となる業務の特定、②対象業務に従事する労働者の労働時間とし

て算定される時間の明示及び③当該対象業務に従事する労働者に対し

使用者が具体的な指示をしないことのみ規定

改正後: 上記3要件に、④労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の

健康及び福祉を確保するための措置及び⑤対象業務に従事する

労働者からの苦情の処理に関する措置を講じることの要件を追

・改正の趣旨

労働時間の配分等の決定が労働者の裁量に委ねられることを起因とする事実上の長

時間労働がもたらされる危険性が高く、これを防止するための法律上の配慮が必要で

あったため。

(2) 企画業務型裁量労働制の導入、運用手続の簡素化(38条の4)

改正前:制度導入に際し、労使委員会全員の賛成が必要、労使委員会の設置に係る行

政官庁に対する届出必要等、要件が厳格。

改正後:企画業務型裁量労働制の導入についての決議は、労使委員会の委員の5分の

4以上の多数で可能、使委員会の設置に係る行政官庁に対する届出不要等

要件の緩和。(労働基準法38条の4第2項2号)

・改正の趣旨

従来、企画業務型裁量労働制を導入する要件が厳格すぎたため、多様な働き方の選択

肢の一つとして有効に機能するよう、その導入、運用等に係る手続が簡素化。但し、

企画業務型においても、長時間労働がもたらされる危険性が高く、これを防止するた

め、労働者の健康及び福祉を確保する措置及び労働者の苦情の処理に関する措置を講

じる必要があることは同様。

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労働基準法

第4 解雇に関する改正

1 解雇権濫用法理の明文化(18条の2)

第18条の2 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認め

られない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

(1) 解雇権濫用法理の根拠となる 高裁判例

① 日本食塩製造事件( 判昭和50年4月25日民集29巻4号456頁ご参照)

(事案の概要)

被告会社と労働組合との間に、ユニオン・ショップ条項を含む労働協約が締結され

ていたが、原告は、労働組合から、規約には定めのない離籍という処分を受けたとこ

ろ、被告会社は、ユニオン・ショップ条項に基づき、原告を解雇した。

これに対し、原告は、解雇を無効であると主張して、被告会社に対して雇用契約の

存在確認の請求を行った。

(判旨の概要)

労働組合に対する義務の履行として使用者が行う解雇は、ユニオン・ショップ協定

によって使用者に解雇義務が発生している場合に限り、客観的な合理的な理由があり、

社会通念上相当なものとして是認することができるのであり、除名が無効な場合には、

使用者には解雇義務は生じず、当該解雇につき客観的に合理的な理由を欠き、社会的

に相当なものとして是認することはできず、解雇権の濫用として無効である。

② 高知放送事件( 判昭和52年1月31日判決、労働判例268号17頁ご参照)

(事案の概要)

放送事業を営む被告会社のアナウンサーであった原告は、担当する10分間の

ラジオニュースについて、2週間に2回の寝過ごしによる放送事故を起こした。

このため、被告会社は、原告を解雇した。これに対し、原告は、解雇権の濫用で

あるとして、被告会社の従業員としての地位確認の請求を行った。

(判旨の概要)

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労働基準法

普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、

当該具体的な事情の下において、解雇に処することが著しく不合理であり、社会

通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示

は解雇権の濫用として無効となるというべきである。

諸々の事情を考慮すると、原告に対し、解雇をもって臨むことは、いささか過

酷にすぎ、合理性を欠き、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはで

きないと考えられる余地があり、本件解雇の意思表示を解雇権の濫用として無効

とした原審は(高松高判昭和48年12月19日判決)の判断は正当と認められ

る。

(2)平成15年改正後の運用

高裁において確立していた解雇権濫用法理が明文化されただけであり、解釈・運

用等は、従前とは変わらない。

・ 立証責任

使用者側に情報が集中しているとの理由から、使用者側が解雇権濫用には該当しない

ことの立証責任を負う。

・「社会通念上相当であると認められない場合」とは

普通解雇:労働者側に認められた解雇事由を基礎づける事実と比して、解雇とい

う結果が労働者にとって酷に過ぎる場合

懲戒解雇:行為態様のほか、同行為に至った原因・動機・状況およびその結果を

考慮すると共に、行為者のその前後における態度・処分歴・当該行為が

他の社員に与えた影響等諸般の事情を総合的に考慮する。

←「懲戒」という名前が付されることにより、再就職の重大な障害にな

る不利益を伴うため、より厳格に判断をする必要がある。

(3)具体的に解雇が認められる基準

① 労働能力・適格性が欠如している場合

・平均的な水準に達していないこと

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労働基準法

・企業経営や運営に現に支障・損害が生じ、または生じるおそれがあり、企業か

ら排除しなければならない程度に至っていること

・是正のための不十分な転を忠告し、成績改善のための教育・指導等を実施した

にもかかわらず、改善の見込みがないこと

② 整理解雇の場合(東京高判昭和54年10月29日判決)

・客観的に高度な経営上の必要性があること

・希望退職の募集など、解雇回避努力を尽くしていること

・整理解雇を行う客観的かつ合理的な基準を設定し、公正に適用すること

・人員整理の必要性やその時期・規模方法について十分に説明すること

③ 懲戒解雇の場合

・諸般の事情を考慮して、懲戒解雇に処することがやむをえないといえること

・本人に弁明の機会を与えること

・類似事例がある場合には、そのときの処分が懲戒解雇であること

2 解雇理由の明示(22条2項)

改正前:退職者は、退職日以降、退職した理由について証明書の交付を求めることが

可能。

改正後:解雇予告がなされた日以降退職日の間においても、証明書の交付を請求する

ことができるようになる。

・ 改正の趣旨

解雇予告の段階で使用者が解雇理由を告げることにより、解雇を巡る紛争を未然に防

止するため。

・ 使用者が退職者の請求に応じない場合の措置

30万円以下の罰金が科せられる(同法120条1号)

3 就業規則への「解雇の事由」の記載

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労働基準法

改正後:就業規則への「解雇の事由」の記載を義務化

・ 改正の趣旨

労使当事者間において、解雇についての事前の予測性を確保することにより、実

際の解雇が行われる場面での解雇の事由、理由に関する紛争の減少に資する。

【参考文献】

・「Q&A 改正労働法解説」 夏住要一郎編 株式会社三星堂

・「改正労働法制の意義と課題・改正労働基準法の概要」

厚生労働省労働基準局総務課著 季刊労働法203号2頁

・「注解法律学全集44 労働基準法Ⅰ」 青木宗也・片岡・編 青林書院

・「注解法律学全集45 労働基準法Ⅱ」 青木宗也・片岡・編 青林書院

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