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25
Ⅱ-2 速効性消毒剤を用いた注入システムの開発
施設管理部 施設管理課
小峯純夫
名川 忠
安斎純雄
1.はじめに
下水の消毒には塩素系の次亜塩素酸ソーダが広く使用されており、その効果を発揮させ
るには15分以上の接触時間が必要なため(下水道施設設計・設計指針と解説)塩素接触
槽が設置されている。また、アンモニア性窒素や有機物等を多く含む場合、次亜塩素酸ソ
ーダの消毒力が著しく低下することが知られている。合流式下水道の雨天時放流水を消毒
するには十分な接触容量(時間)がとれない場合や、アンモニア性窒素、有機物を多く含
む水質を考慮した効果的な対応が必要となる。
そこで、①有機物、アンモニア性窒素および濁度等が高い水質に影響されない。②塩素
接触槽が設置されていない場合でも短時間(数分)で消毒効果を発揮する。③降雨時のみ
の緊急時使用となるため現場での長期保存が可能である。④消毒装置がコンパクトである。
この条件を満たす消毒方法として臭素系消毒剤ブロモ・クロロ・ジメチルヒダントイン(以下、BCDMH)を
選定し、ポンプ所雨天時放流水、処理場簡易処理水を対象とした消毒施設の実用化に向け
た注入制御システムの開発を行った。
2.調査概要
2.1 調査場所及び調査期間
・実験場所:東部第一管理事務所 業平橋ポンプ所
:中部管理事務所 芝浦処理場
・研究期間:平成11年7月~平成13年3月
2.2 雨天時越流水の消毒実験
(1)消毒剤について
(2)ポンプ所雨天時越流水及び処理場簡易放流水に対する消毒効果
(3)消毒剤注入率の制御指標
2.3 消毒剤の安全性調査
(1) 変異原性試験(umu試験)
(2) 急性毒性試験(マイクロトックス試験)
(3) 水棲生物への毒性試験
① ヒメダカによる急性毒性試験
② ミジンコ類による急性遊泳阻害試験
③ Selenastrum Capricornutum による藻類成長阻害試験
④ Tigriopus japonicus による急性遊泳阻害試験
(1)
26
(4) 副生成物質の生成調査
① 臭素酸イオンの生成量測定
② トリハロメタンの生成量測定
(5) 消毒剤の法規制
3.消毒実験
3.1 消毒剤BCDMHについて
化学名:1-Bromo-3-chloro-5,5-dimethylhydantoin(ブロモ・クロロジメチルヒダントイン)
略称 : BCDMH
分子式 : C5H6BrClN2O2
N NCl
CH3
CH3
O
O
Br
分子量 : 241.5
活性成分 : 93%以上
有効臭素 : 61%
有効塩素 : 27%
有効ハロゲン : 54%
式 (塩素換算値)
BCDMH は水に溶解し加水分解すると、モノクロロジメチルヒ
ヒダントイン(DMH)、次亜臭素酸(HOBr)および次亜塩素酸
た、生成した次亜塩素酸は臭素イオンの酸化にも関与
た次亜臭素酸が主に消毒に関与する。
N NCl
H3CCH3
O
OBr
+ H2ON N
H3CCH3
OH
(BCDMH) (MCDMH
+ H2ON N
Cl
H3CCH3
O
OH
(MCDMH)
N N
H3CCH3
OH
(DMH)
+ Br-HOCl HOB
BCDMH の特徴を以下に示した。
① 次亜塩素酸ソーダは、アンモニア性窒素が存在す
を生成し消毒力が 1/10 以下に低下する。また、p
素酸イオン(OCl-)の生成率が高くなり消毒効果は
解して次亜臭素酸を生成し、同様にブロモアミン(N-)を生成するが生成量は少なく、その消毒力は次亜
強い←←消 毒 力→→
HOCl ≒ HOBr ≒ NH2Br ≒ OBr-
② ブロモアミンは、クロラミンと比べて残留性がな
(2)
図1 BCDMH の構造
ダントイン(MCDMH)を経由して、ジメチル
(HOCl)を生成する((1)、(2)式)。ま
する((3)式)。加水分解して生成し
+ HOBr ……… (1)Cl
O
) (次亜臭素酸)
+ HOCl ……… (2)H
O
(次亜塩素酸)
+ Cl- ……… (3)r
ると速やかにクロラミン(NH2 Cl)H5.5~7.0 の領域を外れると次亜塩
さらに減少する。BCDMH も加水分
H2Br)及び次亜臭素酸イオン(OBr臭素酸に匹敵する。
弱い
≫ NH2Cl > OCl-
いため環境に対し低負荷である。
27
③ BCDMH の形状は、個体(タブレット)や粉体であり、使用現場で長期保管(6 ヶ月~1
年)しても品質(有効ハロゲン)低下が見られない。次亜塩素酸ソーダは、経時ととも
に有効塩素量が低減するため、雨天時のみに対応し消毒効果を発揮させるには、使用し
なくても定期的に更新する必要がある。
図2にポンプ所雨天時流入水を用いたビーカーテストによる比較試験結果を示した。
BGDMH はアンモニア性窒素に影響され難いため、次亜塩素酸ソーダより少ない注入量で
速効性と優れた消毒効果が見られる。
BCDMH
10
100
1000
10000
100000
1000000
0 200 400 600 800 1000
接 触 時 間 (秒 )
大腸
菌群
数(個
/m
l)
4mg/ l 6mg/l 8mg/l
NaOC l
10
100
1000
10000
100000
1000000
0 200 400 600 800 1000
接 触 時 間 (秒 )
大腸
菌群
数(個
/m
l)
4m g/ l 6mg/ l 8mg/ l
消毒効果
10
100
1000
10000
100000
1000000
0 2 4 6 8注入率(mg/l)
大腸
菌群
数(個
/m
l)
BCDMH(2分) BCDMH(7分)
NaOCl(2分) NaOCl(7分)
アンモニア性窒素と消毒効果(接触時間2分)原水大腸菌群数26,000個/ml
1
10
100
1000
10000
100000
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
アンモニア性窒素(mg/l)
大腸
菌減
数(個
/m
l)
BCDMH 1mg/l
NaOCl 1mg/l
図2ビーカ-テストによる比較試験結果
3.2 ポンプ所雨天時越流水の消毒効果の検証
3.2.1 消毒方法・消毒装置
業平橋ポンプ所における消毒処理フローと消毒実験装置を図 3~4 に示した。
雨水放流槽④から水中ポンプで汲み上げて、ストレーナーを通した放流水又は河川水を
消毒剤溶解水としてエジェクターに供給し、消毒剤供給機からエジェクターに供給された
消毒剤と混合する。さらに配管内で混合溶解させた消毒液を沈砂池入口②に送水し、フレ
キシブルホース(一池 2 本投入)により、水面下 30cm(晴天時水位)の位置から投入した。
消毒剤投入量(率)は消毒剤供給機で供給量を調整し、消毒液投入量は 1.2m3/分に固定
した。消毒液投入量を一定にするため各沈砂池入口配管に電磁流量計を設置した。
消毒剤の過注入防止措置として雨水放流槽に残ハロゲン計を設置した。
沈砂池→雨水ポンプ→雨水放流槽間の滞留時間及び流速による混合攪拌を利用して消毒
効果を発揮させた。
(3)
28
図4 薬剤供給装置 図3 ポンプ所消毒処理フロー
3.2.2 消毒実験結果
消毒剤投入の影響が無い流入ゲート、消毒剤投入以降の沈砂池出口及び雨水放流槽で大
腸菌群数を測定し、消毒効果の確認を行った。(消毒剤量はすべて有効塩素換算値 mg/l)
平成11年10月~13年3月までの20降雨日の消毒実験から得られた流入大腸菌群
数と消毒後の沈砂池出口大腸菌群数の
関係を図 5 に示した。
流入大腸菌群数が 105個/ml 以下に
対して 2~4mg/l、105~106個/ml で
は 2~7.5mg/ml のBCDMHを投入す
ることで沈砂池出口大腸菌群数を概ね
排水基準(3,000 個/ml)以下にするこ
とができた。この時の同箇所における
残留ハロゲンはほとんど検出されてい
ない。
消毒に要した沈砂池滞留時間は、雨
水ポンプ(400m3/分×4 台)の運転
状況に応じて 18 秒~6 分であった。
以上の結果から、BCDMH による消毒
方法は、アンモニア性窒素、有機汚濁
負荷の高いポンプ所雨天時流入に対し
て、過注入することなく短時間で消毒
効果を発揮することが判明した。
3.2.3 流入水質とBCDMH注入率
雨水ポンプ運転開始からの流入大腸菌群
雨水ポンプ運転開始 30 分間は濁度のば
大腸菌群数と濁度は低下する傾向が見られ
除去
率 70%
10
102
103
104
105
102 103 104 105 106
流入下水大腸菌群数(CFU/ml)
沈砂
池出
口大
腸菌
群数(C
FU
/m
l)
~2mg/l
2~4mg/l
4~7.5mg/l除
去率
97%
除去
率 99.7%
3×103
図5 腸
の関係
数と濁度
らつきが
る。
(4)
流入水大腸菌群数と沈砂池出口大
菌群数の関係
の変化を図 6 に示す。
大きいものの、運転時間の経過とともに
29
濁度と高い相関があるCOD、BOD、SS物質等は、消毒目的以外に有機物の酸化、
分解や還元性物質により消毒剤を消費することから、指標となる濁度が消毒効果に大きく
影響を与えると考える。そこで、流入
400
水の濁度範囲ごとに、流入水大腸菌群
数と消毒後の沈砂池出口大腸菌群数の
関係を求め(図 7)、そこから、大腸菌
群数を排水基準(3,000 個/ml)以下に
するのに必要BCDMH注入率を決定
し表1に示した。
~1mg/l
3~4mg/l
1~2mg/l
2~3mg/l
4~5 mg/l
5~7.5mg/l
流入下水大腸菌群数(CFU/ml)
沈砂
池出
口大
腸菌
群数
(CF
U/m
l)
濁度 ~25度
除去
率70%
105
10
102
103
104
102 103 104 105
除去
率97%
除去
率99.7%
106
濁度 25~50度
除去
率70%
除去
率97%
除去
率99.7%
濁度50~75度
流入下水大腸菌群数(CFU/ml)
沈砂
池出
口大
腸菌
群数
(CF
U/m
l)除
去率70
%
除去
率97%
除去
率99.7%
濁度 75度~
除去
率70%
除去
率97%
除去
率99.7%
3×103 3×103
3×103 3×103
105
10
102
103
104
102 103 104 105 106
沈砂
池出
口大
腸菌
群数
(CF
U/m
l)
105
10
102
103
104
沈砂
池出
口大
腸菌
群数
(CF
U/m
l)
105
10
102
103
104
流入下水大腸菌群数(CFU/ml)
102 103 104 105 106
流入下水大腸菌群数(CFU/ml)
102 103 104 105 106
10
100
1000
10000
100000
1000000
1 10 100 1000
雨水ポンプ稼動開始からの時間(分)
大腸
菌群
数(C
FU
/m
l)
0
100
200
300
濁度
(度)
大腸菌群数
濁度
102
103
104
105
106
10
図6 雨天時流入水の大腸菌群数と濁
度の関係
図7 濁度範囲ごとの流入水大腸菌群数と沈砂池出口大腸菌群数の関係
(5)
30
表1 濁度範囲ごとの大腸菌群数とBCDMH注入率の関係
大腸菌群数除去率(%) ~70 70.0~97.0 97.0~99.7
3,000 以下に消毒可能な大腸菌群数(個/ml) ~104 104~105 105~106
濁度(度)
~25 1~2
25~50 1~2 2~3 2~3
50~75 2~3 3~4 3~5
BCDMH 注入率
(mg/l)
75~ 4~5 5~7.5
3.3 処理場簡易処理水の消毒試験
芝浦処理場東系に消毒用パイロットプラントを設置して雨天時の簡易処理水について消
毒試験を行った。図 8 に第一沈殿池流出水の大腸菌群数を、図 9 に濁度の推移を示した。
ポンプ所雨天時流入水の大腸菌群数は、降雨状況が著しく変動しない場合、流域面積が
狭く流入幹線少ないため、雨水ポンプ運転開始から 2 時間程度で概ね排水基準値以下にな
る結果が得られている。一方、下水処理場は、流域面積が広く流入幹線も膨大であるため、
第一沈殿池流出水の大腸菌群数が排水基準以下に低下するのに6~8時間程度かかること
が本調査から明らかとなった。しかし、第一沈殿池流出水は、場内で流入水の水質がある
程度平準化され、さらに、沈殿処理されることからポンプ所雨天時流入水に比べて濁度が
1 0 3
1 0 4
1 0 5
1 0 6
1 0 7
- 4 - 2 0 2 4 6 8 1 0 1 2 1 4
越 流 開 始 か ら の 時 間 (H r s )
雨天
時初
沈越
流水
中大
腸(C
FU
/m
)
4 / 2 0
5 / 2 0
6 / 1 3
7 / 4
7 / 7 ,8
8 / 2 0
1 0 / 2 0 ,2 1
1 0 / 2 3
1 1 / 2 0 ,2 1
1 / 2 6
3 × 1 0 3
越 流 開 始
0
40
80
120
160
-4 -2 0 2 4 6 8 1 0 12 14
越 流 開 始 か ら の 時 間 ( H rs )
越流
水の
濁度
(度
)
越 流 開 始 4/20
5/20
6/13
7/4
7/7 ,8
8 /20
10/20 ,2 1
10/23
11/20 ,2 1
1/26
図8流出開始からの大腸菌群数の推移
(6)
31
低いことが特徴的であった。このことから、簡易処理水の消毒は、ポンプ所雨天時流入水
に比べて、消毒剤注入率が低いと推定した。
1
10
102
103
104
105
103 104 105 106
越流水中の大腸菌群数(CFU/ml)
消毒
後の
大腸
菌群
数(C
FU
/m
l)
3×103
6.4
6.34.1
6.9
2.5
4.2
4.83.4
2.7
2.02.1
2.3 3.4 3.70.98
3.2
1.6
3.7
4.42.4
1.5
1.3 1.8
3.52.92.3
3.2
1.5
3.81.4 4.1
3.53.8
5.1
3.6
4.0
NaClO
数字は、塩素換算値で表した薬品投入量(mg/l)
4/20 BCDMH 1分
5/20 BCDMH 5分
6/13 BCDMH 5分
7/ 4 BCDMH 5分
7/ 7 BCDMH 2分
7/ 7 NaClO 2分
10/20 BCDMH 2分
10/20 NaClO 2分
11/20 BCDMH 2分
11/20 NaClO 2分
2.1
3.41.8
2.3
2.01.6
5.13.14.7
図10 消毒前後の大腸菌群数の変化
図 10 に第一沈殿池流出水の消毒結果を示した。接触時間を 1~5 分で行った場合、大腸
菌群数 300,000 個/ml に対し、BCDMH を 3.6mg/l、50,000 個/ml では、2.6mg/l の注入率で
排水基準以下にすることができた。以上のことから、簡易処理水に対して BCDMH は、有効
な消毒剤であることが検証された。
3.4 消毒剤注入率の制御指標
大腸菌群数の測定には 20 時間程度を要するため、降雨状況等で大きく変動する流入水中
の大腸菌群数をリアルタイムで測定して消毒剤注入率を決定することは困難である。そこ
で、大腸菌群数を実測以外で、リアルタイムで大腸菌群数を推定する方法について検討し
た。
3.4.1 大腸菌群数と濁度を指標とした消毒剤注入率決定方法
本調査では、降雨量と流入水の濁度及び雨水ポンプ運転開始からの時間に着目した大腸
菌群数の推定方法を検討した。降雨量と流入水大腸菌群数の関係を雨水ポンプ運転開始か
らの時間帯で区分したものを図 11 に示した。
運転開始 30 分以内の場合、降雨強度 10mm/H までは、強度が大きくなると大腸菌群数が
増加し、降雨強度が 10mm/H 以上では、強度が大きくなると大腸菌群数が低下する傾向が認
められた。同様に、運転開始 30 分~2 時間では、採水時刻から 3 時間前までの積算降雨量
(3H 降雨量)が 25mm/3H までは、降雨量が大きくなると大腸菌群数が増加し、25mm/3H 以
上では、降雨量が大きくなると大腸菌群数が低下する傾向が認められた。
次に、雨水ポンプ運転時流入水の大腸菌群数と濁度の関係を図 12 に示した。高い相関は、
ないものの濁度が高いと大腸菌群数も多くなる傾向が認められた。
降雨量又は降雨強度と大腸菌群数、濁度と大腸菌群数に相関が認められたことから、雨
水ポンプ運転開始からの時間により場合分けして、濁度と降雨量又は降雨強度を独立変数
にとり、大腸菌群数を従属変数として回帰分析を行った。
(7)
32
雨水ポンプ運転開始 30 分以内では、大腸菌群数は 104~106個/ml の範囲にあり、濁度
と降雨強度の独立変数に対して大腸菌群数と決定係数(r2)0.57 以上の相関が得られた。
雨水ポンプ運転開始 30 分~2 時間では、大腸菌群数は、103~106個/ml の範囲にあり濁
度と 3H 降雨量を独立変数とした場合、大腸菌群数との間に決定係数(r2)0.43 以上の相
関が得られた。雨水ポンプ運転開始 2 時間以降の大腸菌群数は概ね 104個/ml 以下であっ
た。以上、降雨量又は降雨強度と濁度から推定した大腸菌群数を指標として、消毒剤注入
率決定フローを作成し図 13 に示した。
1000
10000
100000
1000000
0 10 20 30 40 50
降雨強度(mm/H)
大腸
菌群
数(C
FU
/m
l)
105
103
104
106
雨水ポンプ運転開始からの時間≦0.5H
1000
10000
100000
1000000
0 20 40 60 80 100
3H降雨量(mm/H)
大腸
菌群
数(C
FU
/m
l) 103
104
105
106
100
1000
10000
100000
1000000
0 100 200 300 400
濁度(度)
大腸
菌群
数(C
FU
/m
l)
102
103
104
105
106
図 12 濁度と大腸菌群数の関係
図 11 降雨量と大腸菌群数の関係
①大腸菌群数の推定 ②注入率の決定
雨水ポンプ運転開始からの時間
≦2H 2H<
回帰式からの推定 <104個 /ml
濁度
注入率の決定
流入水量
注入量の決定
大腸菌群数
図 13 注入量決定フロー
(8)
33
4.BCDMHの安全性調査と法規制
雨天時放流水等に BCDMH を投入した場合の環境及び水棲生物への影響について安全性調
査を行った。評価方法としては、次亜塩素酸ソーダとの比較により判断した。
また、BCDMH を消毒剤として使用した場合の法規制について検討した。
4.1 BCDMHの安全性調査
4.1.1 変異原性試験(umu試験)
生物のDNAに損傷を与え遺伝的変異を引き起こす物質を変異性物質という。化学物質
には、そのままの状態で変異原性を示すものと、体内に取り込まれ、肝臓の酵素によって
変異原性発現する二種類の物がある。また、変異原性試験には、エームズ試験とumu試
験があり、本調査では感度の高いumu試験で行い、結果を表 2 に示した。
S9(代謝活性酵素)を加えた場合(S9+)、生下水、生下水+BCDMH、生下水+次亜
塩素ともに、濃縮倍率 250 で変異原性が発現した。この結果から、生下水自体の毒性が強
いため、BCDMH の変異原性については、生下水と同等もしくは無いと判断した。
表2 変異原性試験結果判定値
生 下 水 生下水+BCDMH10mg/l 生下水+NaCl0 10mg/l 濃縮倍率
S9+ 判 定 S9+ 判 定 S9+ 判 定
BLANK 0 - 0 - 0 -
62.5 0.3 - 0.7 - 0.5 -
125 0.9 - 0.8 - 1.0 +
250 1.8 + 2.6 ++ 2.4 ++
500 3.2 ++ 3.9 ++ 4.0 ++
1000 6 +++ 5.9 +++ 7.4 +++
S9- 判 定 S9- 判 定 S9- 判 定
BLANK 0 - 0.1 - 0.2 -
62.5 0.3 - 0.5 - 0.5 -
125 1.5 + 1.5 + 0.9 -
500 0.6 - 1.1 + 1.2 +
1000 0 - 0 - 0 -
判定値=(A-B)/B
A=試料のβ-galactosidase 活性値 B=対象物質のβ-galactosidase 活性値
陰性(-) 1>(A-B)/B 陽性(+) 2>(A-B)/B>1
中陽性(++) 5>(A-B)/B≧2 強陽性(+++)(A-B)/B≧5
4.1.2 急性毒性試験(マイクロトックス試験)
マイクロトックス試験とは、海洋性発光細菌の吸収代謝による発光現象が、毒性物質の
作用により機能阻害を受け発光量が抑制されることを利用したものである。本試験では、
海洋性発光細菌の発光量が 50%減少するときの濃度(EC50)によって、急性毒性を調査し
た。表 3 に試験結果を示した。EC50 値が小さい程毒性が強いことから、BCDMH の毒性は次
亜塩素酸ソーダと同等もしくは弱いと判断できる。
(9)
34
表3 急性毒性試験結果
生下水+BCDMH10mg/l 生下水+NaClO 10mg/l
EC50(倍) 0.588 0.222
4.1.3 水棲生物に対する急性毒性試験
BCDMH を投入した場合、公共用水域の水棲生物に対する毒性を明らかにすることが必要
である。ヒメダカによる急性毒性試験、藻類成長阻害試験、ミジンコ遊泳阻害試験、を行
うことにより、水棲生物に対する影響が概ね把握できるため、上記試験を行った。LC50、
EC50 は数値が小さい程毒性が強いことを意味する。
表 4 に示した試験結果から、BCDMH と次亜塩素酸ソーダの毒性は、ほぼ同等であった。
表4 水棲生物に対する急性毒性試験結果
BCDMH 次亜塩素酸ソーダ
ヒメダカ LC50(24 時間) 0.42~0.69mg/l 0.29mg/l
Selenastrum capricornutum(藻類)EC50 0.045~0.059mg/l 0.026mg/l
ミジンコ遊泳阻害 EC50(24 時間) 0.24mg/ml 0.07mg/l
Tigriopus japonicus LC50(24 時間) 1.19mg/l 1.12mg/l
4.1.4 副生成物質の生成調査
BCDMH を消毒剤として投入した場合に生成される副生成物質に関する検討を行った。
(1) 臭素酸イオン(BrO3-)生成量測定
発ガン性の疑いがある臭素酸イオン(WHOガイドライン値 25μg/l)は、臭素イオン
(Br―)が存在する水を酸化することで容易に生成されることが知られている。本調査で
は、処理場簡易処理水に BCDMH を投入した場合の臭素酸イオンの生成量を測定した。表 5
に簡易処理水水質、表 6 に臭素酸イオンの測定結果を示した。
BCDMH を 5mg/l 及び 10mg/l 投入しても臭素酸イオンは検出されなかった(検出限界 1μ
g/l)。臭素イオン量は、投入した BCDMH から計算したものとほぼ等しかったことから、BCDMH
の加水分解により生成する次亜臭素酸は消毒作用、有機物等によって還元され臭素イオン
の状態で存在していると推定できる。
表5 簡易処理水水質
pH 電気伝導率
(mS/m)
SS
(mg/l)
濁度
(度)
COD
(mg/l)
アンモニア性窒素
(mg/l)
6.9 43 56 71 33 9.8
表6 臭素酸イオンの測定結果
試料名 Br03
-
(μg/l)
Br-
(mg/l)
Br-増加量
(mg/l)
Br-増加量(計算値) (mg/l)
①簡易処理水 <1 0.25 0.0
①+BCDMH5mg/l <1 1.7 1.45 1.58
①+BCDMH10mg/l <1 3.0 2.75 3.17
測定機器:イオンクロマトグラフィー (島津製作所製 LC-10A システム)
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(2)トリハロメタン生成量測定
次亜塩素酸や次亜臭素酸は、下水中の有機物と反応して発ガン性を有するトリハロメタ
ンを生成する。本調査では、簡易処理水に BCDMH を最大量 6mg/l、通常量 3mg/l を投入し
て 24 時間放置した試料についてトリハロメタン生成量の測定を行った。次亜塩素酸ソーダ
についても同様に測定した。
表 7 に簡易処理水水質、表 8 にトリハロメタンの生成量を示した。
測定結果では、次亜塩素酸ソーダよりも BCDMH の方がトリハロメタン生成量は多くなっ
た。BCDMH の主成分である次亜臭素酸によるブロモホルムの生成が多いことが原因である
が、水道水の水質基準値(日本)及びWHO基準値を下回っていた。
表7 簡易処理水水質
pH
電気導電率
(ms/m)
SS
(mg/l)
濁度
(度)
COD
(mg/l)
アンモニア性窒素
(mg/l)
7.3 82 48 36 43 15.1
表8 トリハロメタン生成量分析結果
トリハロメタン生成量(mg/l) 消毒剤
投入量
(mg/l)
簡易処理水
CHCl3 CHBrCl2 CHBr2Cl CHBr3 T-THM
6 原水 0.002 <0.001 0.003 0.019 0.025
6 2倍希釈 0.002 0.002 0.005 0.027 0.036
6 4倍希釈 <0.001 0.002 0.011 0.039 0.053
6 6倍希釈 <0.001 <0.001 0.005 0.030 0.037
BCDMH
3 8倍希釈 0.001 <0.001 0.002 0.009 0.013
6 原水 0.002 <0.001 <0.001 <0.001 0.005 NaClO
3 原水 0.001 <0.001 <0.001 <0.001 0.004
水道水の水質基準(日本) ≦0.06 ≦0.03 ≦0.1 ≦0.09 ≦0.1
WHO基準 ≦0.2 ≦0.06 ≦0.1 ≦0.1 (*)
(*)個々の測定値のガイドライン値に対する比を求め、それらの総和が1を越えないこと
4.2 BCDMHの法規制
BCDMH は、化審法の整理番号 5 類(有機複素環式低分子化合物)6327 として登録される
物質である。この BCDMH を消毒剤として使用した場合、BCDMH 自体及びその取り扱いに係
る法規制について調査した。
調査は、環境六法(中央法規出版株式会社発行 平成 12 年度)に記載された法令のうち
薬品に関する法令の記載事項に該当するか否かについて行った。結果としては、下記に記
載のいずれの法令にも該当しない結論に達した。
・消防法 ・有機溶剤中毒予防法
・毒物劇物取締法 ・鉛中毒予防法
・PRTR法 ・四アルキル鉛中毒予防法
・水質汚濁防止法 ・電離放射線障害予防規則
・大気汚染防止法 ・酸素欠乏症等防止規則
・労働安全衛生法 ・粉塵障害防止法 ・特定化学物質等障害予防法 ・化学物質管理指針 ・ ダイオキシン対策特別措置法
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5.まとめ 合流式下水道における雨天時越流水等の消毒を目的として「速効性消毒剤を用いた注入
システムの開発」を平成 11~12 年度に株式会社荏原製作所と共同研究を行った。 アンモニア性窒素、有機汚濁負荷の高い雨天時放流水を短時間で効果的に消毒するため
の方法として臭素系消毒剤 BCDMH を選定して実施した本共同研究の成果を以下にまとめた。 ① 業平橋ポンプ所における実規模消毒実験では、集中豪雨や台風等の約20降雨につい
て調査を実施し、BCDMH 投入量2~7 .5mg/l で大腸菌群数を概ね排水基準(3,000 個
mg/l)以下にできることを確認した。芝浦処理場実験プラント(反応槽 7.5m3)におけ
る簡易処理水でも同様の消毒効果が得られた。 ② 薬剤供給装置、制御装置等はコンパクト化し、ポンプ所等の設置スペースが少ない場
所においての消毒を可能とした。 ③ 薬剤注入制御は、流入水量に応じた注入率一定制御を基本とし、さらに、濁度と降雨
量から大腸菌群数を求めて薬剤率を決定する制御方法を開発した。 ④ BCDMH の安全性調査では、変異原性試験、急性毒性試験等が、次亜塩素酸ソーダと同
等の評価であった。また、発ガン性の疑いのある臭素酸イオンの生成は見られなかった。
トリハロメタンの生成量は、次亜塩素酸ソーダより若干、多い数値であったが、水道水
の水質基準(日本)及び WHO 基準以下であった。 以上、本共同研究で構築した、臭素系消毒剤 BCDMH を用いた消毒装置、制御システム等
の手法が、合流式下水道の雨天時放流水の消毒を可能とした。 さらに、現在、合流改善クイックプランの中で研究が行われている雨天時越流水の簡易
処理施設と一体化させることにより、少ない消毒剤量で、より効果的な消毒が期待できる。
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