解析学演義 I - 京都大学解析学演義I N ={1,2,···},Z + ={0}∪N,Z =整数全体,Q =有理数全体,R =実数全体,C =複 素数全体 [1]
Abel体の解析的類数公式 - u-toyama.ac.jpiwao/SS2003/Bin/Reports/ss03rep...1...
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Abel体の解析的類数公式
木村巌(富山大学理学部)
目 次
1 円分体・Abel体 2
1.1 円分体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
1.2 Abel体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
2 Dirichlet指標 7
2.1 Dirichlet指標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
2.2 Galois群の指標としてのDirichlet指標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
3 Dirichletの L関数 9
3.1 定義と幾つかの基本的な性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
3.2 Bernoulli数、Bernoulli多項式、一般化 Bernoulli数 . . . . . . . . . . . . . 11
3.3 L関数の負の整数点での値 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
3.4 L関数の 1での値 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
4 解析的類数公式 14
4.1 Dedekind ζ 関数とその性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
4.2 Abel体の ζ 関数 = L関数の積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
4.3 解析的類数公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
4.4 p冪分体の類数と円単数の指数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
4.5 例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
概 要
本稿では、有限次 Abel体の解析的類数公式について解説する.
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1 円分体・Abel体
1.1 円分体
本稿では有理数体 Qの代数閉包 Qを複素数体 C内に一つ固定し、代数体は全てこの Q
の部分体として考える.代数体の Galois拡大K/kに対して、その Galois群を Gal(K/k)
と書く.
nを自然数として、ζnを 1の原始 n乗根とする.Q(ζn)を、有理数体に ζnを付加して得
られるQの拡大とすると、よく知られているように
• Q(ζn)/QはAbel拡大であり
• Z/nZの乗法群を (Z/nZ)×とすると、Galois拡大Q(ζn)/QのGalois群は、(Z/nZ)× 3a mod n 7→ σa = (ζn 7→ ζan) ∈ Gal(Q(ζn)/Q)により、(Z/nZ)×と同型である:
(Z/nZ)× 3 a mod n 7→ σa = (ζn 7→ ζan) ∈ Gal(Q(ζn)/Q). (1)
n, mが自然数で n|m, 即ち nがmを割りきるとき、明らかにQ(ζn) ⊂ Q(ζm)であるが、更に、制限写像
Gal(Q(ζm)/Q) 3 σa 7→ σa|Q(ζn) ∈ Gal(Q(ζn)/Q)
は、自然な全射
(Z/mZ)× 3 a mod m 7→ a mod n ∈ (Z/nZ)×
と可換になる.即ち、
Gal(Q(ζm)/Q) −−−−→ Gal(Q(ζn)/Q)∼=y ∼=
y(Z/mZ)× −−−−→ (Z/nZ)×
が可換図式(縦の矢印は同型).従って、上の行のGalois群については制限写像、下の行
の (Z/nZ)×については自然な全射により逆極限を取ると、次の位相群(左辺はKrull位相、
右辺は (Z/nZ)×に離散位相を与え、その位相空間としての逆極限を取る)としての同型を
得る:
Gal(Q(ζn; n ∈ N)/Q) ∼= lim←−n
(Z/nZ)×.
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これらはコンパクトな完全不連結 Hausdorff位相群である.以下簡単のため、
D := lim←−n
(Z/nZ)×
と置く.
Qの最大Abel拡大体をQabとすると、Kronecker-Weberの定理により
Qab = Q(ζn; n ∈ N).
従って上の同型は、
Gal(Qab/Q) ∼= D. (2)
1.2 Abel体
J : C 3 α 7→ J(α) ∈ Cを複素共役とする.Q(やその部分体)に制限したものも同じ記号 J で表す.
定義 1.1. K を代数体とする.K が次の二つを満たすとき、K は J 体であるという:
• K = J(K).
• 任意の埋め込み φ : K → Cに対して、J ◦ φ = φ ◦ J .
補題 1.2. 次が成立:
1. 代数体Kが J 体であるための必要十分条件は、Kが総実である、もしくは、Kは総
虚代数体で、総実な部分体K+上 2次拡大である.
2. K が J 体で、その部分体 kが J(k) = kを満たすならば、kも J 体.
3. {Ki}i∈I を J 体の任意の族とすると、それらのQでの合成体は再び J 体.
証明. (1)について:J 体Kの部分体 F を F = {x ∈ K| J(x) = x}とする.J2 = 1よりK/F は 2次拡大.x ∈ F なら、任意の φ : K → Cについて J(φ(x)) = φ(J(x)) = φ(x)だから、xは総実.よって、K = F ならKは総実代数体であり、K 6= F ならば、φ(K)は実ではないので、K は総虚、かつ総実代数体 F 上 2次である.
逆に、Kが総実ならば J体である事は明らか.Kが総虚で、総実部分体K+上 2次拡大な
らば、あるα ∈ KでK = K+(α), J(x+αy) = x−αy (x, y ∈ K+)で、α2 = −b ∈ K+とな
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るものが存在する.φ(J(x+αy)) = φ(x−αy) = φ(x)−φ(α)φ(y) = J(φ(x)+φ(α)φ(y)) =J(φ(x + αy))より、K は J 体である.
(2)、(3)は容易.
定義 1.3. 虚な J 体をCM体という.
注意 1.4. 補題 1.2の(3)で、全ての J 体の合成体KJ もまた J 体で、特にCM体である.
その最大実部分体K+J は、Q の最大実部分体でもある.
K/Qを Galois拡大(必ずしも有限次でない)とする.するとK = J(K)であり、J ∈Gal(K/Q). 定義から、K が J 体であるための必要十分条件は、J ∈ Gal(K/Q)の中心.よって、K/Q がAbel体なら、K は J 体.さらに、Qab ⊂ KJ .
以下この節を通して、以下の記号を使う:kを有限次 CM体、d = [k : Q], k+を kの最
大実部分体、[k : k+] = 2, [k+ : Q] = d/2, h = h(k), h+ = h(k+)をそれぞれ k, k+の類数、
E, E+を k, k+の単数群、R, R+を k, k+の単数基準、W を k内の 1の冪根のなす群、kの
unit index Q(k)を、
Q(k) := 2d2−1 R
+
R(3)
と定義する.
補題 1.6の証明に必要な、次の補題を先に述べる.
補題 1.5. L/Kを有限次代数体の拡大、h(K), h(L)をそれぞれK,Lの類数とする.K の
素点で、Lで完全分岐するものが存在すれば、h(K)|h(L).
証明. K̃, L̃をそれぞれK, Lの Hilbert類体(最大不分岐 Abel拡大体)とする.h(K) =
[K̃ : K], h(L) = [L̃ : L].
K̃/Kが不分岐Abel拡大ゆえ、K̃ ·L/Lもそうで、K̃ ·L ⊂ L̃. よって [K̃ ·L : L]|[L̃ : L] =h(L). K̃∩L ⊂ K̃ゆえ K̃∩L/Kは不分岐拡大だが、一方 K̃∩L ⊂ Lで、L/Kでは完全分岐する素点が存在するから、K̃∩L = K. よって、[K̃ ·L : L] = [K̃ : K̃∩L] = [K̃ : K] = h(K).よって、h(K)|h(L).
補題 1.6. 上の記号で、
1. h+|h, 即ち、ある自然数 h− = h−(k) ∈ Nが存在して、h = h−h+. h−(k)を CM体kの相対類数という.
2. Q(k) = [E : WE+] = 1, 2.
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証明. (1)について:補題 1.5を、k/k+について適用する.k+の実素点が kで完全分岐
するから、h+|h.(2)について:単数基準の定義を復習する.代数体 kについて、k(1), . . . , k(r1)を kの
実な共役体とする.また、k(r1+1), . . . , k(r1+r2)を虚な共役体とし、k(r1+r2+1), . . . , k(r1+2r2)
を、それらの複素共役で対応する体とする.α ∈ kについて、α(i) ∈ k(i)を i 番目の共役元として、
l(i)(α) =
log |α(i)| (i = 1, . . . , r1),2 log |α(i)| (i = r1 + 1, . . . , r = r1 + r2 − 1)
とする.Dirichlet の単数定理によって、E は階数 r の自由 Abel 群である.即ち、ある
ε1, . . . , εr ∈ Eによって、任意の ε ∈ Eは ε = ρεa11 . . . εarr と書ける(ρ ∈ W). このとき、
R = | det(l(i)(εj))i,j=1,...,r|
は ε1, . . . , εr ∈ E の取り方によらず定まる事が容易にわかり、これを kの単数基準というのだった.
さて(2)の証明に戻ると、まず E, E+ について、Dirichletの単数定理から、Abel群
としての階数がともに (d/2) − 1である事がわかる.実際、rankE = r2 − 1 = (d/2) −1, rankE+ = r1(k+) − 1 = (d/2) − 1. 従って指数 [E : E+] < ∞がわかる.α ∈ kについて、α(1), . . . , α(d)をαのQ上の共役で、上のように並べたものとする(よって α(i+(d/2)) =
α(i), i = 1, . . . , (d/2).準同型 f : E → Rrを、
f : E 3 ε 7→ (log |ε(1)|, . . . , log |ε(r)|) ∈ Rr
と定める.Minkowski単数の存在により Im (f) = f(E)は Rr 内の格子になる.また、後
述する補題 1.10から、ker f = W , 即ち、全ての共役の絶対値が 1であるような代数的整数
は 1の冪根であることが示される.
{f(ε1), . . . , f(εr)}を f(E)のZ上の基底とする(例えば {ε1, . . . , εr}を基本単数にとる).kが総虚だから、R = | det(2 log |ε(i)j |)i,j=1,...,r|. 一方、f(E+)は f(E) ⊂ Rrの部分格子で、{η1, . . . , ηr} を k+の基本単数とすると、R+ = | det(log |η(i)j |)i,j=1,...,r|. ker f = W ゆえ、f(E) ∼= E/W , f(E+) = E+W/W . よって、
[E : E+W ] = [f(E) : f(E+)] =| det(log |η(i)j |)|| det(log |ε(i)j |)|
=R+
2−rR= 2
d2−1 R
+
R= Q(k).
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次に [E : E+W ] = 1, 2を示す.ε ∈ Eについて、ε/ε ∈ Eを考える.(ε/ε)(i) = ε(i)/(ε)(i)である.φi : k 3 α 7→ α(i) ∈ Cとする.kが J 体だから、(ε)(i) = φiJ(ε) = Jφi(ε) = ε(i).よって全ての i = 1, . . . , dについて、|(ε/ε)(i)| = 1がいえる.補題 1.10から、ε/ε ∈ W .よって g : E 3 ε 7→ ε/ε ∈ W という準同型を得た.容易にわかるように、ker g = E+.従って g(E) = E/E+, g(W ) = E+W/E+. Q(k) = [E : WE+] = [g(E) : g(W )]である.
ζ ∈ W に対し、g(ζ) = ζ2である.よって g(W ) = W 2. −1 ∈ W よりW は偶数位数の巡回群なので、[W : W 2] = 2. よって、
W 2 = g(W ) ⊂ g(E) ⊂ W
となるが、Q(k) = [g(E) : g(W )]であり、一方 [W : W 2] = 1, 2なので、Q(k) = 1, 2を得
る.
注意 1.7. 補題 1.5から、n|mならば h(Q(ζn))|h(Q(ζm)), h+(Q(ζn))|h+(Q(ζm))が示される.また、n|mならば h−(Q(ζn))|h−(Q(ζm))がMasleyによって示されている.さらに、h(Q(ζn)) = 1となる nが完全に決定されている(H. Montgomery, K. Uchida,[Was]の
Chapter 11参照).
さらに一般に、CM体の包含関係 k ⊂ K があると、h−(k)|4h−(K)も知られている(虚Abel体の場合はK. Horie[1], 一般の CM体の場合 R. Okazaki[2]).
注意 1.8. 上の補題 1.6の証明の記号で、W = 〈ζ〉とすると、Q(k) = 2となる必要十分条件は、g(ε) = ε/ε = ζ となる ε が存在する事である事もわかった.
例 1.9. 円分体Q(ζn)については、Q(Q(ζn)) = 1となる必要十分条件は nが素数冪である
こと(そうでない場合はQ(Q(ζn)) = 2)が示される.例えば[木村], 定理 3.19.
補題 1.10. 有限次代数体 kの代数的整数 αが、全てのQ上の共役 α(i)の絶対値が 1とい
う性質を満たすなら、αは 1の冪根である:α ∈ W .
証明. Oで kの整数環を表す.整数底によって O = Zω1 + · · · + Zωd 3 α =∑
xjωj と書
くと(xj ∈ Z)、α(i) =∑
xjω(i)となる.A = (ω(i)j )とすると、
α(1)
...
α(d)
= A
x1...
xd
∈ M := A · Z
d ∩
z1...
zd
∈ C
d; |zi| = 1, (i = 1, . . . , d)
となる.M は離散集合かつコンパクト集合であるから、有限集合になる.αの任意の冪αm
にも同じ事がいえるから、あるmについて αm = 1, 即ち αは 1の冪根.
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2 Dirichlet指標
2.1 Dirichlet指標
自然数 nに対して、自然な全射D → (Z/nZ)×をϕnと書く.さらに、mも自然数で n|mとする.このとき、ϕn,m : (Z/mZ)× → (Z/nZ)×を自然な全射とする.D̂ := Homc(D,C×)とする(右辺はD から 0以外の複素数のなす乗法群 C×への連続準
同型の全体が、値の積によってなす群).D̂の元をDirichlet指標という.
補題 2.1. 任意のDirichlet指標 χ ∈ D̂について、ある自然数 nと (Z/nZ)×の指標 χ′が存在して、
χ = χ′ ◦ ϕn : D → (Z/nZ)× → C×.
証明. {kerϕn|n ∈ N}はDの単位元の基本近傍系をなす部分群の族である.χが連続なので、1 ∈ C×の十分小さい近傍N について、あるN 3 n ≥ 1が存在して χ(kerϕn) ⊂ N . しかし χ(kerϕn)は群だから、χ(kerϕn) = {1}でなければならない.従って χ′ : D/ kerϕn ∼=(Z/nZ)× → C×が導かれ、χ = χ′ ◦ ϕnである.
χ ∈ D̂に対して、上の補題で定まる nは一意ではない.n|mなら、χ = (χ′ ◦ϕn,m) ◦ϕm,χ′ ◦ ϕn,mは (Z/mZ)×の指標、である.しかし、χに対してある nを取れば、この nについては、χ = χ′ ◦ ϕn を満たす χ′ :
(Z/nZ)× → C×は一意に決る.このとき、χは「法 nで定義される」という.更に、
fχ := min{n ∈ N |χは法 nで定義される }
とおいて、fχを χの導手という.
n ∈ Nを固定すると、上に述べたように χ = χ′ ◦ ϕn なる χ′ : (Z/nZ)× → C×は一意に決る.よって、
D̂ ⊃ {χ ∈ D̂ : χは法 nで定義される } 3 χ 7→ χ′ ∈ Hom((Z/nZ)×,C×)
という同型が定まる.これによって、χ ∈ D̂と fχとに対して、
χ̃ : Z 3 a 7→ χ̃(a) ∈ C
を、gcd(a, fχ) = 1なら χ̃(a) = χ′(a mod fχ), gcd(a, fχ) 6= 1なら χ̃(a) = 0と定める.記号を濫用して、χ ∈ D̂について定まる χ̃も同じ文字 χで表す.Z上の関数として
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• χ(ab) = χ(a)χ(b), ∀a, b ∈ Z
• a ≡ b mod fχならば χ(a) = χ(b)
• (a, fχ) = 1ならば χ(a)は 1の羃根、(a, fχ) 6= 1 ならば χ(a) = 0, 特に |χ(a)| ≤ 1
• χが法 nで定義されており、(a, n) = 1ならば χ(a) = χ(a mod n)
が成り立つ.
例 2.2. D̂の単位元を χ0と書いて、principal Dirichlet指標という.χ0(a) = 1, (∀a ∈ D).また fχ0 = 1. χ0(a) = 1, (∀a ∈ Z).
例 2.3. χ ∈ D̂に対し、ψ = χ−1とすると、ψ : Z→ Cと考えたとき、ψ(a) = χ(a), (a ∈ Z)(右辺は複素共役).
注意 2.4. χ1, χ2 ∈ D̂ がどちらも法 nで定義されているなら、χ1χ2 ∈ D̂ もそうである.上記のように χ1χ2 : Z → Cと見たとき、(a, n) = 1ならば χ1χ2(a) = χ1(a)χ2(a)だが、(a, n) 6= 1ならば χ1χ2(a) 6= χ1(a)χ2(a)に注意せよ.例えば χ2 = χ−11 なら、χ1χ−11 = χ0だが、(a, n) 6= 1ならば χ1(a) = 0である.
定義 2.5. χ ∈ D̂が法 nで定義されている Dirichlet指標の時(即ち χ ∈ ̂(Z/nZ)×の時)、χ(−1) = χ(−1 mod n) = ±1である.χ(−1) = 1の時、χを偶指標といい、χ(−1) = 1の時奇指標という.χが偶指標か奇指標かに応じて、δχ = 0, 1と定める.
2.2 Galois群の指標としてのDirichlet指標
Gを位相群とし、χ : G → C×を連続な指標(連続な準同型)とする.像 Im χが可換だから、核 kerχは(位相群としての)交換子群 [G,G]を含む:[G,G] ⊂ kerχ. 従って χは、G の最大Abel商Gab = G/[G,G]を経由する:
Gχ−−−−→ Imχ ⊂ C×y
xGab = G/[G,G] −−−−→ G/ kerχ
上記を、Qの Galois群 GQ = Gal(Q/Q)に当てはめて考える.GQ の最大 Abel商は、Gal(Qab/Q)に等しい.従って、式(2)と併せると、次を得る:
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定理 2.6. ĜQ = Homc(GQ,C×) = D̂.
ψ ∈ ĜQの元に上記の同型で対応する D̂の元を χψ と書く事にする.同様に、χ ∈ D̂に対応する ĜQの元を ψχと書く.
k/QをAbel拡大とすると、Gal(k/Q) ∼= Gal(Qab/Q)/Gal(Qab/k)だから、̂Gal(k/Q) = {ψ ∈ ̂Gal(Qab/Q)|ψ|Gal(Qab/k) = 1} ⊂ ̂Gal(Qab/Q).
定義 2.7. χ ∈ D̂が Abel拡大 k/Qに付随するとは、ψ = ψχ ∈ ̂Gal(k/Q)となることをいう.
定義から、Abel拡大 k/Qに付随するDirichlet指標の全体X(k)は、 ̂Gal(k/Q)に同型で
ある.
X(k) ∼= ̂Gal(k/Q).[k : Q] = ]Gal(k/Q) < ∞なら ] ̂Gal(k/Q) = [k : Q] < ∞.
例 2.8. n ∈ Nについて、k = Q(ζn)の場合を考えると、Gal(Qab/Q) ∼= DからGal(k/Q) ∼=(Z/nZ)×. 従って、χ ∈ D̂が kに付随する↔ ψ = ψχ ∈ ̂Gal(k/Q) ↔ χ ∈ ̂(Z/nZ)× ↔fχ|n. 特にQ(ζn)/Qに付随する指標全体X(Q(ζn))は、 ̂(Z/nZ)×とみなせる.式(1)により、a mod n ∈ (Z/nZ)×について、χ(a mod n) = ψχ(σa)である.
例 2.9. n ∈ NについてQ(ζn)/Qを考える.Jを複素共役(をQ(ζn)に制限したもの)とすると、J ∈ Gal(Q(ζn)/Q). J(ζn) = ζn = ζ−1n だから、J = σ−1. よって ψ ∈ ̂Gal(Q(ζn)/Q)について、ψ(J) = χψ(−1) = (−1)δχ = ±1である.k/Qが有限次Abel体の場合も同様.
3 DirichletのL関数
3.1 定義と幾つかの基本的な性質
χをDirichlet指標とする.自然数M と s = σ + τ√−1 ∈ C, σ, τ ∈ Rについて、
∣∣∣∣∣M∑
n=1
χ(n)ns
∣∣∣∣∣ ≤M∑
n=1
|χ(n)|nσ
であり、先に見たように |χ(a)| ≤ 1なので、σ > 1において∞∑
n=1
χ(n)ns
は広義一様に絶対収束し、この範囲で正則関数となる.
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定義 3.1. χをDirichlet指標とする.s ∈ C, Re (s) > 1について
L(s, χ) =∞∑
n=1
χ(n)ns
を χに関するDirichlet L関数という.
χに関するDirichlet L関数について以下のような事実が成り立つ:
事実 3.2. Euler積L(s, χ) =∏
p(1−χ(p)p−s)−1, (Re (s) > 1)を持つ.従って特にRe (s) > 1において L(s, χ) 6= 0.
事実 3.3. L(s, χ)は全平面に有理型に解析接続され、さらに χ 6= χ0ならば全平面で正則.
事実 3.4. χ = χ0ならば、L(s, χ0) = ζ(s)はRiemann zeta関数であり、全平面で有理型、
s = 1がただ一つの極で、極の位数は 1, そこでの留数は 1.
事実 3.5. χ 6= χ0ならば、L(1, χ) 6= ∞. (系 4.7で見るように、L(1, χ) 6= 0).
事実 3.6. 次の関数等式を持つ.Γ(s)をガンマ関数、τ(χ) =∑f
a=1 χ(a) exp(2π√−1a/f),
(f = fχ)をGauss和とする.更に、χ(−1) = 1なら δ = 0, χ(−1) = −1なら δ = 1とする.このとき、
Λ(s, χ) = Γ(
s + δχ2
)L(s, χ)
とおくと、 (f
π
) s2
Λ(s, χ) = Wχ
(f
π
) 1−s2
Λ(1− s, χ), (4)
ただしWχ =τ(χ)√
fχ√−1δ .
命題 3.7. 上の記号で、|τ(χ)| = √fχ, |Wχ| = 1.
証明. 式(4)で、s → 1− s, χ → χと置き換えると、(
f
π
) 1−s2
Λ(1− s, χ) = Wχ(
f
π
) s2
Λ(s, χ) = WχWχ
(f
π
) 1−s2
Λ(1− s, χ).
よってWχWχ = 1. 従って τ(χ)τ(χ) = fχχ(−1).
τ(χ) =∑
a
χ(a) exp(2π√−1(−a)/f) = χ(−1)τ(χ) = χ(−1)τ(χ)
だから、τ(χ)τ(χ) = χ(−1)|τ(χ)|2. よって前半が示された.後半はこの結果とWχの定義から直ちに従う.
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3.2 Bernoulli数、Bernoulli多項式、一般化Bernoulli数
Dirichletの L関数の負の整数点での値を記述するために必要となる、一般化 Bernoulli
数とそれに関連した事実を述べる.
定義 3.8. nを非負整数として、n番目のBernoulli数Bnを次の冪級数の展開係数として
定める:t
exp(t)− 1 =∞∑
n=0
Bntn
n!∈ Q[[t]].
補題 3.9. n ≥ 1について、B2n+1 = 0.
証明.
∞∑
n=0
Bn(−t)n
n!=
−texp(−t)− 1 =
t exp(t)exp(t)− 1 =
t
exp(t)− 1 + t =∞∑
n=0
Bntn
n!+ t.
による.
定義 3.10. χを Dirichlet指標、f = fχをその導手、nを非負整数とする.χに関する n
番目の一般化Bernoulli数Bn,χを、次の冪級数の展開係数として定める:
f∑
a=1
χ(a)t exp(at)exp(ft)− 1 =
∞∑
n=0
Bn,χtn
n!∈ Q[[t]]. (5)
定義 3.11. 非負整数 nに対して、n番目のBernoulli多項式Bn(x)を、次の冪級数の展開
係数として定める:t exp(xt)exp(t)− 1 =
∞∑
n=0
Bn(x)tn
n!.
補題 3.12. 任意のn ≥ 0に対してBn(1−x) = (−1)nBn(x). またBn(x) =∑n
i=0 nCiBixn−i
(nCi は 2項係数).
証明. 始めの式は、
∑Bn
(1− x)tnn!
=t exp((1− x)t)
exp(t)− 1 =t exp(−xt)1− exp(−t) =
(−t) exp(−xt)exp(−t)− 1 =
∑B−x
(−t)nn!
による.次は、Bernolli多項式の母関数が t/(exp(t)−1) = ∑Bntn/n!とexp(xt) =∑
xntn/n!
の積である事から.
11
-
注意 3.13. Bernoulli数や一般化Bernoulli数の定義は、文献により微妙に異なるので注意
が必要である.上述の定義は、[Was], [木村] と同じ.χ = χ0のとき、∞∑
n=0
Bn,χ0tn
n!=
t exp(t)exp(t)− 1 =
t
exp(t)− 1 + t
なので、n 6= 1のときBn,χ0 = Bn. 一方B1,χ0 = 1/2, B1 = −1/2となる.また、χ 6= χ0ならば、B0,χ = 0である(
∑fa=1 χ(a) = 0だから).
Bnの母関数として t exp(t)/(exp(t)−1), Bn(x)の母関数として t exp((t+1)x)/(exp(t)−1)を取る流儀もあり、これだとBn,χ0 = Bn, (n ≥ 1)となる.
命題 3.14. χをDirichlet指標、F を f = fχの任意の倍数とすると、
Bn,χ = Fn−1F∑
a=1
χ(a)Bn( a
F
).
証明.∞∑
n=0
Fn−1F∑
a=1
χ(a)Bn( a
F
) tnn!
=F∑
a=1
χ(a)t exp( aF Ft)exp(Ft)− 1 .
g = F/fχ, a = b + cf として、
f∑
b=1
g−1∑
c=0
χ(b)t exp((b + cf)t)exp(fgt)− 1 =
f∑
b=1
χ(b)t exp(bt)
exp(ft)− 1 =∞∑
n=0
Bn,χtn
n!.
補題 3.15. χをDirichlet指標とする.χに対して、事実 3.6のように δを定めると、
Bn,χ = 0 if n 6≡ δ mod 2.
証明. 一般化 Bernoulli数の定義式(5)の左辺を F (t, χ) と書くと、容易にわかるように
F (−t, χ) = texp(ft)− 1
∑a
χ(a) exp((f − a)t).
δ = 0なら χ(−1) = 1だから
F (−t, χ) = texp(ft)− 1
∑a
χ(f − a) exp((f − a)t) = F (t, χ).
δ = 1なら χ(−1) = −1だから
F (−t, χ) = −texp(ft)− 1
∑a
χ(f − a) exp((f − a)t) = −F (t, χ).
12
-
3.3 L関数の負の整数点での値
定理 3.16. χをDirichlet指標とする.
L(1− n, χ) = −Bn,χn
(n ≥ 1).
証明. 証明は成書([木村, Lang, Narkiewicz, Was]など)に譲り、ここでは、特殊値と
して一般化 Bernoulli数があらわれる理由がわかるようなスケッチにとどめる.
f = fχを χの導手とする.a, b ∈ Zが a ≡ b (mod f)なら χ(a) = χ(b)であるから、
L(s, χ) =∑
n≥1
χ(n)ns
=f−1∑
a=0
χ(a)∑
n≡a (mod f)
1ns
=f−1∑
a=0
χ(a)∑
m≥1
1(mf + a)s
.
ここでHurwitz zeta関数 ζ(s;α), 0 ≤ α < 1を
ζ(s;α) =∑
m≥1
1(m + α)s
(0 ≤ α < 1)
と定義すると、容易にわかるように
L(s, χ) =1fs
f−1∑
a=0
χ(a)ζ(s;a
f).
ここで、関数H(s, α)を
H(s, α) =∫
Cε
zs−1exp(αz)
exp(z)− 1dz
と定義する.但し、積分路Cεは、0 < ε < 2π について、次のように定義される:δ > 0を
十分小さい実数とし、半直線 {(x,−δ)| −∞ < x ≤ −√ε2 − δ2}に左から右に向きをつけたもの、(−√ε2 − δ2,−δ)から (−√ε2 − δ2, δ)までの、原点中心、半径 ε の円周の優弧に反時計周りに向きをつけたもの、半直線 {(x, δ)| − ∞ < x ≤ −√ε2 − δ2}に右から左に向きをつけたもの、の合併が Cεである.すると、
ζ(s; α) = −Γ(1− s)2π√−1 H(s; α) (Re (s) > 1)
が成り立つことが示される.
よって ζ(1− n; a/f) = − Γ(n)2π√−1H(1− n; a/f)であるが、
12π√−1H(1−n;
a
f) =
12π√−1
∫
Cε
z−nexp( af z)
exp(z)− 1dz = z−n exp(
af z)
exp(z)− 1 の s = 0での留数.
13
-
ここで Bernoulli多項式の定義(定義 3.11)を思い出すと、
z−nexp( af z)
exp(z)− 1 = z−n−1 z exp(
af z)
exp(z)− 1 = z−n−1 ∑
m≥1Bm(
a
f)zm
m!
であるから、1
2π√−1H(1− n;
a
f) = Bn(
a
f)
1n!
が分かった.従って、
ζ(1− n; af
) = − 1n
Bn(a
f).
まとめると、
L(1− n, χ) = fn−1∑
a
χ(a)ζ(1− n; af
) =−fn−1
n
∑a
χ(a)Bn(a
n) = −Bn,χ
n.
最後の等式は、命題 3.14による.
3.4 L関数の 1での値
定理 3.17. χ 6= χ0をDirichlet指標、f = fχをその導手とする.
L(1, χ) = π√−1τ(χ)
fB1,χ = π
√−1τ(χ)f
1f
f∑
a=1
χ(a)a if χ(−1) = −1. (6)
L(1, χ) = −τ(χ)f
f∑
a=1
χ(a) log |1− ζaf | if χ(−1) = 1, χ 6= χ0. (7)
証明. やはり証明は成書に譲るが、χ(−1) = −1の場合は、関数等式(事実 3.6)と、L(0, χ)の値(定理 3.16の n = 1 の場合)とから導くことができることに注意しておく.
4 解析的類数公式
4.1 Dedekind ζ関数とその性質
kを有限次代数体、Okをその整数環とし、Ok ⊃ a を整イデアル、N(a) := [Ok : a]を aのノルムとする.
定義 4.1. 有限次代数体 kのDedekind zeta関数 ζk(s)を次で定義する(和は整イデアル全
体に渡る):
ζk(s) =∑a
1N(a)s
(Re (s) > 1).
14
-
事実 4.2. 次が成立(例えば[Weil], Chapter 7参照):
• Euler積 ζk(s) =∏
p(1−N(p)−s)−1, Re (s) > 1を持つ.積は kの全ての素イデアルに渡る.
• ζk(s)は全平面に有理型に解析接続される.s = 1が唯一の極で、極の位数は 1位.
• s = 1での留数は、次で与えられる:
Ress=1
ζk(s) =2r1(2π)r2h(k)R(k)
w(k)√|D(k)| .
ただし、r1は kの実素点の個数、r2は kの虚素点の個数(r1 + 2r2 = [k : Q])、h(k)
は kの類数、R(k)は kの単数基準、w(k)は k内の 1の冪根のなす群の位数、D(k)
は kの判別式.
• G1(s) = π−s/2Γ(s/2), G2(s) = (2π)−sΓ(s), Z(s) = G1(s)r1G2(s)r2ζk(s)とおくと、次の関数等式を満たす:
|D(k)| s2 Z(s) = |D(k)| 1−s2 Z(1− s).
4.2 Abel体の ζ関数 = L関数の積
Hilbertの分岐理論の必要な部分だけを述べる.K/kを有限次Abel拡大、pをkの素イデア
ルとする.Zを pのK/kについての分解群(PをKの素イデアルで pの上にあるものとした
とき、Z = {σ ∈ Gal(K/k)|Pσ = P})、TをpのK/kに関する惰性群(T = {σ ∈ Z| zσ ≡ zmod P, z ∈ OK}).G = Gal(K/k) ⊃ Z ⊃ T で、g = [G : Z], f = [Z : T ], e = ]T とすると、efg = ]G = [K : k]. pのK での分解の様子は、p = (P1 . . .Pg)e, Piは異なる素イデ
アルで、NK/k(Pi) = pf , (i = 1, . . . , g).
Z/T ∼= Gal((OK/P)/(Ok/p))は位数 f の巡回群であるから、Z/T = 〈σ〉と書ける.σをpの Frobenius自己同型という.これは mod T で定まる.
補題 4.3. ψ ∈ Ĝ = Hom(G,C×)に対し、
ψ(σT ) =∑
ρ∈σTψ(ρ) = ψ(σ)
∑
τ∈Tψ(τ)
とおく.このとき
ψ(σT ) =
eψ(σ) ψ|T = 1,0 ψ|T 6= 1.
15
-
証明. 明らか.
補題 4.4. 上記の記号で、不定元X について、
∏
ψ∈ bG(
1− 1eψ(σT )X
)= (1−Xf )g.
証明. ψ(σT )は ψ|Z にのみ依存して決まる.[G : Z] = gゆえ、ψ ∈ Ĝで ψ|Z ∈ Ẑ が等しくなるものが g個ある(](Ĝ/Z) = g).
∏ψ∈ bZ(1 − (1/e)ψ(σT )X) = 1 − Xf を示せばよい.ψ|T 6= 1なら ψ(σT ) = 0. よって
1− (1/e)ψ(σT )X = 1. ψ|T = 1なら ψ ∈ Ẑ/T . (1/e)ψ(σT ) = (1/e)eψ(σ) = ψ(σT ).Z/T は位数が f の巡回群だから、
∏ψ∈ bZ(1− (1/e)ψ(σT )X) = ∏ψ∈dZ/T (1−ψ(σT )X) =∏f
a=1(1− ζaf X) = (1−Xf ).
元の状況に戻って、上の議論を有限次 Abel拡大 k/Qに適用する.p = p ∈ Q, Pを pの上にある kの素イデアルとする.χ ∈ D̂を kに付随した Dirichlet指標、χに対応するGalois群の指標を ψ = ψχ ∈ ̂Gal(k/Q) ⊂ ̂Gal(Qab/Q)とする.
補題 4.5. 有限次 Abel拡大 k/Qにおいて、素数 pの分岐指数を eとする.上の記号の元
で、(1/e)ψ(σT ) = χ(p).
証明. Kronecker-Weber の定理から、n ∈ N で Q ⊂ k ⊂ Q(ζn) なるものが存在する.n = n′pa, gcd(n′, p) = 1, a ≥ 0とする.するとQ(ζn′)は pのQ(ζn)における惰性体になる事はよく知られている.よって k ∩ Q(ζn′)は pの kでの惰性体:T = Gal(k/k ∩Q(ζn′)).よって、
ψ|T = 1 ←→ ψ|Gal(k/k∩Q(ζn′ )) = 1. (8)
以下 ψ|T = 1が fχ|n′と同値である事を示す(χ = χψ).ψ ∈ ̂Gal(k/Q)は、ψ ∈ ̂Gal(Qab/Q)かつ ψ|Gal(Qab/k) = 1と同値.ここで、Gal(Qab/k ∩Q(ζn′)) = Gal(Qab/k) ·Gal(Qab/Q(ζn′))に注意する.式(8)は、ψ|Gal(Qab/k∩Q(ζn′ )) = 1と同値で、これは ψ|Gal(Qab/Q(ζn′ )) = 1と同値.更にこ
れは ψ ∈ ̂Gal(Q(ζn′)/Q)と同値で、従って χ = χψ ∈ ̂(Z/nZ)×と同値.これは最終的に、fχ|n′と同値である.さて補題の証明に戻る.まずψ|T 6= 1とする.この時、p|fχ, (χ = χψ)を示そう.上に述べた事から fχ - n′. 一方 ψ ∈ ̂Gal(k/Q) ⊂ ̂Gal(Q(ζn)/Q)より、χ = χψ ∈ ̂(Z/nZ)×. よって fχ|n = n′pa. 従って p|fχ.
16
-
よってDirichlet指標の定義から、χ(p) = 0. 一方ψ|T 6= 1から補題4.5により (1/e)ψ(σT ) =0 = χ(p).
次に ψ|T = 1 の場合.このとき fχ|n′. r ∈ Z を、gcd(r, n) = 1, r ≡ p mod n′ ととる.σr : ζn 7→ ζrn は Q(ζn) における p の Frobenius 自己同型.ψ ∈ ̂Gal(k/Q) ゆえ、ψ ∈ ̂Gal(Q(ζn)/Q). ψ(σ) = ψ(σr) = χ(r) = χ(p). よって、ψ|T = 1から、補題 4.5により(1/e)ψ(σT ) = ψ(σ) = χ(p).
定理 4.6. k/Qを有限次Abel拡大とすると、
ζk(s) =∏χ
L(s, χ).
ただし積は kに付随する全てのDirichlet指標を渡る.
証明. Re (s) > 1で証明すれば良い.この範囲で、ζk(s) =∏
p(1−N(p)−s)−1,∏
χ L(s, χ) =∏χ
∏p(1− χ(p)p−s)−1という表示をもつ.従って、素数 pを固定して、各 p毎に
∏
p|p(1−N(p−s)) =
∏χ
(1− χ(p)p−s)
が成り立つ事(ただし、左辺の積は、kの素イデアル pで、p の上にあるものすべてに渡
る)を示せば十分.
k/Q, 有理素数 pについて、e, f, g は上述の通り、分岐指数、分解次数、pの上にある
素イデアルの個数とする.従って p|pとなる素イデアルは g 個あり、N(p) = pf だから、∏
p|p(1−N(p−s)) = (1−p−fs)g. これは補題 4.4により∏
ψ∈ bG (1− 1eψ(σT )p−s)に等しい.さらにこれが補題 4.5により
∏χ(1− χ(p)p−s)即ち右辺に等しい(χ = χψ).
系 4.7. Dirichlet指標 χ ∈ D̂, χ 6= χ0について L(1, χ) 6= 0.
証明. k/Qを、χが付随する有限次 Abel拡大とする(例えば χが法 nで定義されている
なら、k = Q(ζn)とする).定理 4.6より
ζk(s) =∏
χ′L(s, χ′) = ζ(s)L(s, χ)
∏
χ′ 6=χ0,χL(s, χ).
ただしはじめの積は k/Qに付随する全てのDirichlet指標に渡る.ζk(s), ζ(s)は s = 1で 1
位の極を持ち、一方 L(s, χ′)は s = 1で有界である(事実 3.2).よって L(1, χ) 6= 0.
注意 4.8. 系 4.7の初等的な証明は知られていない.
17
-
定理 4.6の応用として、導手判別式定理(conductor-discriminant formula)を示す.
定理 4.9. k/Qを有限次Abel体とする.このとき
|D(k)| =∏
χ∈X(k)fχ,
∏
χ∈X(k)Wχ = 1.
証明. 関数 Y (s), s ∈ Cを、
Y (s) =|D(k)| s2 Z(s)
∏χ∈X(k)
(fπ
)−s2 Λ(s, χ)
とおく(事実 3.6, 事実 4.2参照).Dirichlet L関数とDedekind ζ 関数の関数等式から、
Y (s) =|D(k)| 1−s2 Z(1− s)
∏χ∈X(k) Wχ
(fπ
)− 1−s2 Λ(1− s, χ)
=|D(k)| 1−s2 Z(1− s)
∏χ∈X(k) Wχ
(fπ
)− 1−s2 Λ(1− s, χ)
=∏
χ∈X(k)WχY (1− s).
定理 4.6から
Y (s) =|D(k)| s2 G1(s)r1G2(s)r2
∏χ∈X(k)
(fπ
)− s2 Γ
(s+δχ
2
)
となる(G1(s), G2(s)については、事実 4.2参照).ここで、次が成立:
Γ(
s2
)r1 Γ(s)r2∏
χ∈X(k) Γ(
s+δχ2
) = 2r2s
(2√
π)r2.
これは、r1 = [k : Q], r2 = 0と r1 = 0, r2 = [k : Q]/2の 2 つの場合をそれぞれ確かめれば
良い.
まとめると、
Y (s) =
(|D(k)|∏χ∈X(k) fχ
) s2
(2√
π)r2 .
一方 Y (s) =∏
χ WχY (1− s)だったから、(|D(k)|∏
χ fχ
) s2
=∏χ
Wχ
(|D(k)|∏
χ fχ
) 1−s2
つまり
(|D(k)|∏
χ fχ
)s=
∏χ
Wχ
(|D(k)|∏
χ fχ
) 12
.
右辺が定数だから、これで定理の主張を得る.
18
-
4.3 解析的類数公式
定理 4.10. k/Qを有限次総実Abel体とする.このとき、
h(k) =1
R(k)
∏
χ 6=χ0
−1
2
fχ∑
a=1
χ(a) log |1− ζafχ | .
証明. 定理 4.6から ζk(s) = ζ(s)∏
χ6=χ0 L(s, χ)である.両辺の s = 1での留数を考えると、
事実 4.2と定理 3.17から、
2[k:Q]h(k)R(k)2√|D(k)| =
∏
χ 6=χ0
(−τ(χ)
fχ
∑a
χ(a) log |1− ζafχ |)
.
右辺で、τ(χ)/√
fχ = Wχ であり(k が総実ゆえどの指標も偶指標、δχ = 0)、また∏χ
√fχ =
√|D(k)|であることと、定理 4.9とあわせて、主張を得る.
定理 4.11. k/Qを有限次総虚Abel体とする.このとき、
h−(k) = w(k)Q(k)∏
χ∈X−(k)
(−1
2B1,χ
).
ただし、h−(k)は k の相対類数(補題 1.6)、w(k)は k 内の 1の冪根のなす群の位数で、
Q(k)は kの unit index.
証明. r1, r2をそれぞれ kの実、虚素点の個数とすると、d := [k : Q] = r1 + 2r2で、kが
総虚の仮定から r1 = 0. よって r2 = d/2. 定理 4.10と同じく、ζk(s) = ζ(s)∏
χ 6=χ0 L(s, χ)
の両辺の s = 1での留数を考えると、事実 4.2と定理 3.17から、
(2π)d2 h(k)R(k)
w(k)√|D(k)| =
∏
χ∈X(k),χ 6=χ0L(1, χ) =
∏
χ∈X+(k),χ6=χ0L(1, χ)
∏
χ∈X−(k)L(1, χ).
X+(k)についての積は、kの最大実部分体 k+に付随する指標に渡る積に他ならない.よっ
て定理 4.10から
(2π)d2 h(k)R(k)
w(k)√|D(k)| =
2[k+:Q]h(k+)R(k+)2√|D(k+)|
∏
χ∈X−(k)L(1, χ).
定理 3.17から、χ ∈ X−(k)について、L(1, χ) = π√−1(τ(χ)/fχ)B1,χ を代入して整理すると、 √
|D(k+)||D(k)|
h(k)h(k+)
=w(k)
2√−1
d2
R(k)R(k+)
∏
χ∈X−(k)
τ(χ)fχ
B1,χ.
19
-
導手判別式定理 4.9から、√|D(k+)||D(k)| =
∏
χ∈X−(k)fχ
12
,√−1
d2
∏
χ∈X−(k)
τ(χ)√fχ
= 1.
よって、補題 1.6の(1)より、h(k+)|h(k)と併せて、h(k)h(k+)
= h−(k) = w(k)2d2−1 R(k
+)R(k)
∏
χ∈X−(k)
(−1
2B1,χ
).
補題 1.6の(2)より、Q(k) = 2(d/2)−1(R(k+)/R(k))であった.
注意 4.12. kが p冪分体の最大実部分体の場合、h(k)が、単数群のある部分群の指数と等
しい事を後で見る(定理 4.16).kが p冪分体の場合、h−(k)は、群環 Z[Gal(k/Q)]のある
イデアルの指数と等しい事が示される(山本氏の講演参照).
注意 4.13. 虚Abel体の相対類数については、幾つかの行列式表示がしられている.例え
ば[Lang], Chapter 3-§7.
4.4 p冪分体の類数と円単数の指数
この節では、pを有理素数、n ∈ N, kを pn分体 k = Q(ζpn)とする.kの類数の+部分、言い替えると、k の最大実部分体 k+の類数 h+を、円単数群と呼ばれる、単数群の部分群
の指数として書き表す定理 4.16がこの節の目標である.
定義 4.14. ζ = ζpn を 1の原始 pn乗根、k = Q(ζ), E を kの単数群とし、その部分群 C
を、
C = E ∩ 〈{±ζ, 1− ζa| 1 ≤ a ≤ n− 1}〉
とする.C を kの円単数群という.
また、kの最大実部分体 k+の単数群をE+とし、その部分群 C+を、
C+ = E+ ∩ C
とする.やはり C+を k+の円単数群という.
補題 4.15. 1. k+の円単数は、−1と単数
ξa = ζ1−a2
1− ζa1− ζ , 1 < a <
12pn, (p, a) = 1
で生成される.
20
-
2. kの円単数は、ζ と k+の円単数とで生成される.
証明. ξaが k+の単数であること(ξa = ξa)は容易にわかる.
(b)から先に示す.まず、円単数の定義から、1− ζa, a 6≡ 0 (mod pn)なる元を考えれば良い.次に、
1−Xpk =∏
j
(1− ζjpm−kX)
という恒等式から、
1− ζbpk =pk−1∏
j=0
(1− ζb+jpm−k).
(p, b + jpm−k) = 1なので、1 − ζa, (p, a) = 1なる元が、−1, ξaで書けることを示せば良い.更に、1− ζa = −ζa(1− ζ−a)より、1 ≤ a < pn/2としてよい.さて、
ξ = ±ζd∏
1≤a< p22(a,p)=1
(1− ζa)ca
が k = Q(ζ)の単数と仮定する.(1− ζa)の生成するイデアルはすべての aについて等しいから、
∑a ca = 0. よって、
ξ = ±ζd∏(1− ζa
1− ζ)ca
= ±ζe∏
ξcaa ,
ただし e = d + (1/2)∑
ca(a− 1). すなわち、(b)が示された.次に、もし上の ξが k+の単数なら、ξaが実であることから、ζeも実でなければならな
い.すなわち ζe = ±1.
定理 4.16. k+の円単数群 C+は、単数群E+の中で指数有限であり、次を満たす:
h(k+) = h(Q(ζpn)+) = [C+ : E+].
証明. 補題 4.15の {ξa}の単数基準が 0でないことを示す.ζ = ζpm , σa ∈ Gal(k/Q)をσa(ζ) = ζaなる自己同型、Gal(k+/Q) = {σa | 1 ≤ a < pm/2, (a, p) = 1},
ξa =(ζ−
12 (1− ζ))σa
ζ−12 (1− ζ)
21
-
とおく.次の補題 4.17を、f(σ) = log |(ζ−1/2(1 − ζ))σ| = log |(1 − ζ)σ|に適用する(σ ∈Gal(k+/Q)).すると、
R({ξa}) := ±det(log |ξτa |)a,τ 6=1 = ±det(f(στ)− f(τ))σ,τ 6=1= ±
∏
χ 6=χ0χ∈ bG
∑
σ∈Gχ(σ) log |(1− ζ)σ| = ±
∏ ∑
1≤a
-
補題 4.18. kを代数体、Eをその単数群、W を 1の冪根のなす群、ε1, . . . , εrを、E/W の
中で乗法的に独立な元、それらが生成するE/W の部分群をAとする.同様に、η1, . . . , ηr
を E/W の中で乗法的に独立な元、それらが生成する E/W の部分群を B とする.もし
A ⊂ Bの指数 [B : A]が有限なら、
[B : A] =R(ε1, . . . , εr)R(η1, . . . , ηr)
.
証明. 補題 1.6の(2)の証明と同様.
注意 4.19. 定理 4.16は、k+のイデアル類群の位数と、E+/C+の位数が等しい事を述べて
いる.両者は群環Z[Gal(k+/Q)]上の加群だが、位数が等しいだけではなく、Z[Gal(k+/Q)]
加群としても同型だろうか?実はこれは成立しないことが比較的容易に示される.([Was]
の Theorem 8.2の後の Remark).
k+のイデアル類群、E+/C+の p部分に注目した場合、有名なVandiver予想「k+のイ
デアル類群の p部分は自明」が正しければ、両者の p部分は自明に一致する.
kが p分体の場合:k = Q(ζp), k+ = Q(ζp)+, k+のイデアル類群の p部分Aのχ(∈ X(k+))成分 εχAと、E+/C+のχ成分 εχ(C+/E+)の位数は等しい:|εχA| = |εχ(C+/E+)|.(εχ =(1/|G|) ∑σ∈G χ(σ)σ−1 ∈ Q[G], G = Gal(k/Q). [Was]の Theorem 15.7., 山本氏の講演参照).
注意 4.20. 定理 4.16の kが n分体の最大実部分体の場合や、一般の実Abel体の場合につ
いては、Sinnott[3]の結果がある.
4.5 例
Abel体 kの非自明で最も基本的な例が、2次体である.つまり、k = Q(√
D), Dは基
本判別式(i.e. 有理整数で、平方自由かつD ≡ 1 mod 4または、4|Dかつ (D/4) ≡ 2, 3mod 4).2次体 kに付随するDirichlet指標は、principal Dirichlet指標 χ0と、Legendre-
Kronecker記号 χD(·) = (D/·)である:X(k) = {χ0, χD}. χD(a) = ±1, 0である.また、導手判別式定理から、χDの導手と kの判別式Dの絶対値とが等しい事もわかる.
k = Q(√
D)が実 2次体の場合を考える.このとき、定理 4.10から、
h(k)R(k) = −12
D∑
a=1
χ(a) log |1− ζaD|.
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ε > 1を kの基本単数(単数群の生成元)とすると、R(k) = log |ε|であるから、
ε2h(k) =f∏
a=1
(1− ζaD)−χD(a).
さらに、D = pが素数判別式(p ≡ 1 mod 4, k = Q(√p))ならば、区間 (0, p/2)に平方剰余、平方非剰余が同数ある事と、1− ζap = 2 sin(πa/p)とから、
εh(k) =
∏b sin
πbp∏
c sinπcp
.
ただし bに関する積は、(0, p/2)内の法 pでの平方非剰余を、cに関する積は同じく平方剰
余を渡る.これらは、今の状況での定理 4.16と見る事が出来る.
kが虚 2次体 k = Q(√
D), D < 0の場合を考える.定理 4.11から(もしくは、ζk(s) =
ζ(s)L(s, χD) の両辺の s = 1での留数を直接見る事から)、
h(k) =(w(k)/2)|D|
|D|∑
a=1
χD(a)a = −w(k)2 B1,χD . (9)
(|χ(a)| ≤ 1だから、この式からh(k) < |D|が従う.しかし、実はより強く、log h(Q(√D)) =(1/2 + o(1)) log |D|, |D| → ∞である.[Narkiewicz]のChapter 8, Theorem 8.5の系 1.実 2次体 k については、h(k) <
√D(k)が成立する.ibid., Proposition 8.7).
次に、2つの 2次体の合成体である、bicyclic biquadratic fieldの例を考える.簡単の為、
p ≡ q ≡ 3 (mod 4)とし、k1 = Q(√−p), k2 = Q(√−q)とし、考える bicyclic biquadraticfieldをK = Q(
√−p,√−q)とする.K の最大実部分体は k3 = Q(√pq)である.k1, k2に対応する非自明なDirichlet指標は、それぞれ χp(·) = (−p/·), χq(·) = (−q/·). 解析的類数公式から
h−(K) = w(K)Q(K)14B1,χpB1,χq .
p, q ≥ 5なら、w(K) = 2である.またQ(K) = 2が[Hasse]から従う.虚 2次体の類数公式(9)と見比べて、p, q ≥ 5で次の等式が成立する:
h−(K) = h(k1)h(k2).
一方、−p ≡ q ≡ 1 (mod 4)とし、K = Q(√−p,√q), k = Q(√−pq)とすると、
h−(K) =12h(Q(
√−p))h(k)
であることが示される(Horie[1]の Example 2).
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参考文献
[Hasse] Helmut Hasse, Über die Klassenzahl abelscher Zahlkörper, first ed., Springer-
Verlag, Berlin, 1985, With an introduction to the reprint edition by Jacques
Martinet. MR 87j:11122a
[木村] 木村達雄、円分体の代数的類数公式、上智大学数学講究録 22.
[Lang] Lang, S., Cyclotomic Fields, I and II, combined second ed., GTM 121, Springer-
Verlag.
[Narkiewicz] Narkiewicz, W., Elementary and Analytic Theory of Algebraic Numbers,
Second. ed., Springer-Verlag.
[Was] Washington, L. C., Introduction to Cyclotomic Fields 2nd ed., GTM 83,
Springer-Verlag.
[Weil] Weil, A., Basic Number Theory, Die Grundlehren der Math. Wiss., vol. 144,
Springer-Verlag.
[1] Kuniaki Horie, On a ratio between relative class numbers, Math. Z. 211 (1992),
no. 3, 505–521. MR 94a:11171
[2] Ryotaro Okazaki, Inclusion of CM-fields and divisibility of relative class numbers,
Acta Arith. 92 (2000), no. 4, 319–338. MR 2001h:11138
[3] W. Sinnott, On the Stickelberger ideal and the circular units of an abelian field,
Invent. Math. 62 (1980/81), no. 2, 181–234. MR 82i:12004
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