Ⅲ NIS 諸国全体の投資環境 ビジネス環境ランキング...33 Ⅲ NIS...

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33 Ⅲ NIS 諸国全体の投資環境 1. ビジネス環境ランキング NIS 諸国の投資環境は国によって大きく差がある。世界銀行のビジネス環境ランキング(2015 年) でその投資環境をみてみるとロシアは全 189 カ国中 62 位であり(BRICs 4 ヵ国の中ではトップ)、カ ザフスタンは 77 位にとどまっている。ウクライナ、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタンは下位 に属する。 グルジア、アルメニアは NIS 諸国の中では小国であるがビジネス環境は比較的よく、特にグルジアは 15 位と日本(29 位)よりも投資のしやすい国である。 ロシアやウクライナ、カザフスタンは特に面積も広大であり、実際の投資検討時には国単位での投資 環境に加え地域別での特性も考慮が必要である。 表 3-1 NIS 諸国のビジネス環境ランキング 順位 順位 1 グルジア 15 7 ウクライナ 96 2 アルメニア 45 8 キルギス 102 3 ベラルーシ 57 9 ウズベキスタン 141 4 ロシア 62 10 タジキスタン 166 5 カザフスタン 77 11 トルクメニスタン 6 アゼルバイジャン 80 (参考)日本 29 出所:世銀 Doing Business 2015” (1)税率 NIS 諸国の税率を比較すると、トータルの税率ではタジキスタンが 80%強と最大だが、次いで農業 国ウクライナが 52.9%、ロシアは 48.9%、カザフスタンは 28.6%となっており、いずれも労働者関連 税の比率が高い点が特徴となっている。日本にとっては、基本的には自国の税水準(51.3%)を下回る 国々が投資対象国となる。 図 3-1 NIS 諸国の税率比較 出所:Paying Taxes 2015” (Pwc) を基に作成

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Ⅲ NIS 諸国全体の投資環境

1. ビジネス環境ランキング

NIS 諸国の投資環境は国によって大きく差がある。世界銀行のビジネス環境ランキング(2015 年)

でその投資環境をみてみるとロシアは全 189 カ国中 62 位であり(BRICs 4 ヵ国の中ではトップ)、カ

ザフスタンは 77 位にとどまっている。ウクライナ、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタンは下位

に属する。

グルジア、アルメニアは NIS 諸国の中では小国であるがビジネス環境は比較的よく、特にグルジアは

15 位と日本(29 位)よりも投資のしやすい国である。

ロシアやウクライナ、カザフスタンは特に面積も広大であり、実際の投資検討時には国単位での投資

環境に加え地域別での特性も考慮が必要である。

表 3-1 NIS 諸国のビジネス環境ランキング

国 順位 国 順位

1 グルジア 15 位 7 ウクライナ 96 位

2 アルメニア 45 位 8 キルギス 102 位

3 ベラルーシ 57 位 9 ウズベキスタン 141 位

4 ロシア 62 位 10 タジキスタン 166 位

5 カザフスタン 77 位 11 トルクメニスタン -

6 アゼルバイジャン 80 位 (参考)日本 29 位

出所:世銀 “Doing Business 2015”

(1)税率

NIS 諸国の税率を比較すると、トータルの税率ではタジキスタンが 80%強と最大だが、次いで農業

国ウクライナが 52.9%、ロシアは 48.9%、カザフスタンは 28.6%となっており、いずれも労働者関連

税の比率が高い点が特徴となっている。日本にとっては、基本的には自国の税水準(51.3%)を下回る

国々が投資対象国となる。

図 3-1 NIS 諸国の税率比較

出所:“Paying Taxes 2015” (Pwc) を基に作成

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(2)外国直接投資の動向

外資系企業による実際の投資実績である FDI(Foreign Direct Investment) の動向をみると、1992 年

以降 2000 年代初頭まではほとんど投資がなされていない。その後ロシアについては急速な投資フロー

の流入が続いているが、これは主に資源バブルの影響によるエネルギー関連投資が中心と思われる。カ

ザフスタン、ウクライナについても 2008 年頃までは 1,000 万米ドル台の投資がみられていたが、2013

年頃には小康状態に入っている。

図 3-2 FDI Inflow

出所:UNCTAD を基に作成

2.NIS 諸国全体の貿易動向

NIS の貿易動向は、ロシアが輸出 5,233 億米ドル、輸入 3,430 億米ドルと規模で圧倒し、その他諸国

は輸出入とも 1,000 億米ドル未満である。ロシア、カザフスタンはともに輸出主導で輸入を大幅に上回

る一方、ウクライナは輸入超である。足許では貿易規模が鈍化する傾向がみられるものの、趨勢的には

拡大基調にある。

図 3-3 輸出金額

出所:UNCTAD を基に作成

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出所:UNCTAD を基に作成

図 3-4 輸入金額

3.農業セクターの動向

(1)農業投資環境

NIS の農業人口規模は、ロシア、ウズベキスタン、ウクライナの順に多い。2000 年以降の 10 年間で

は、ウズベキスタン、アゼルバイジャン、タジキスタン、トルクメニスタンの農業人口が増加する一方、

ロシア、ウクライナなどは減少している。

ロシア、ウクライナ、カザフスタンといった主要な農業国において担い手が減少していることについ

ては、機械化など効率化推進の影響も考えられるものの、産業人口が減少しているという点で大きな発

展がみられていないものと推察される。

図 3-5 NIS 諸国の農業人口

174

472

636

543

627

610

972

1,321

3,295

2,624

7,648

148

354

434

510

705

773

1,085

1,192

2,412

2,705

6,251

0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000

Armenia

Georgia

Belarus

Kyrgyzstan

Turkmenistan

Tajikistan

Azerbaijan

Kazakhstan

Ukraine

Uzbekistan

RussianFederation

(Thousands)

Agri Population

2010

2000

*FAO /The State of Food and Agriculture 2012 よりHIT作成

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農業生産物を生み出す基盤となる農業固定資本をみると、最も規模の大きいロシアやウクライナは過

去 10 年間で減少傾向であるが、カザフスタン、ウズベキスタンなど資本財の増加により農業基盤を拡

大している国もある。

図 3-6 NIS 諸国に対する農業投資額

なお、ODA(Official Development Assistance)による農業投資は、かつてはキルギス、アゼルバイ

ジャンへの支援が盛んであったが 2000 年以降の 10 年間で大きく減少し、2010 年現在ではタジキスタ

ン、グルジアへの支援が目立っている。

図 3-7 ODA による農業投資額

2.7

6.1

6.3

5.7

12.4

16.8

16.5

23.5

43.1

64.5

185.7

2.9

5.4

6.2

6.3

13.0

14.3

18.6

26.0

46.0

56.6

161.6

0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200

Armenia

Georgia

Kyrgyzstan

Tajikistan

Azerbaijan

Belarus

Turkmenistan

Uzbekistan

Kazakhstan

Ukraine

Russian Federation

(B USD)

Agri Capital Stock

2007

2000

*FAO /The State of Food and Agriculture 2012 よりHIT作成

0

3

60

0

15

75

21

22

1

2

3

3

5

6

9

22

26

0 10 20 30 40 50 60 70 80

Turkmenistan

Kazakhstan

Azerbaijan

Ukraine

Uzbekistan

Armenia

Kyrgyzstan

Georgia

Tajikistan

(M USD)

ODA to Agriculture

2010

2000

*FAO /The State of Food and Agriculture 2012 よりHIT作成

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(2)農業貿易動向

1)輸出動向

農業輸出の面では、NIS 諸国の中ではウクライナとロシアが中心である。とうもろこしについては、

ウクライナが 2011 年で 781 万トンと世界でも米国、ブラジル、アルゼンチンに次ぐ規模を有しており、

年により変動はあるものの、おおむね増加基調を維持している。

出所:FAOSTAT を基に作成 図 3-8 NIS 諸国におけるとうもろこしの輸出量

また、大豆の輸出についてもウクライナが NIS の中で突出しているが、世界規模でみると数量はブラ

ジル、米国などと比べ小規模である。

出所:FAOSTAT を基に作成

図 3-9 NIS 諸国における大豆の輸出量

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2)輸入動向

輸入面では、とうもろこしと大豆では対照的である。すなわち、とうもろこしは 1995 年以降ほとん

ど大きな輸入規模がなく NIS の域内あるいは国内で自給しているとみられる一方、大豆については特に

ロシアが輸入に依存している。

出所:FAOSTAT を基に作成

図 3-10 NIS 諸国におけるとうもろこしの輸入量

出所:FAOSTAT を基に作成

図 3-11 NIS 諸国における大豆の輸入量

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(3)生産動向

生産については、とうもろこし、大豆ともウクライナおよびロシアが伸びており、特にウクライナで

の生産量増加は際立っている。ただしこれは 2013 年までの実績であり、2014 年 2 月以降顕在化したウ

クライナ危機およびその後のロシア経済制裁などによる影響が生じる前の数値である。

出所:FAOSTAT を基に作成

図 3-12 とうもろこしの生産量

出所:FAOSTAT を基に作成

図 3-13 大豆の生産量

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(4)需要動向

今後の世界的な需要見込みを供給とのバランスでみると、とうもろこし、大豆とも 13/14,14/15 年時

点ではやや生産(供給)が過剰気味ではあるものの、15/16 年以降は需給バランスのとれた形で増加ト

レンドを形成する。また需給シェアの構成国は、とうもろこしについては米国、中国、ブラジル、EU

が、大豆については中国、米国、ブラジル、アルゼンチンがそれぞれ上位である。とうもろこしは供給

が需要を上回り、大豆は逆に需要が供給を上回る。NIS の中ではウクライナがとうもろこしの供給量で

2,200 万トン(2012/2013 実績)でやや目立つものの、世界全体の中では約 2.2%程度のシェアにとどま

る。

出所:IGC: Five-year global supply and demand projections Dec. 2014 を基に作成

図 3-14 とうもろこしの需給予測

出所:IGC: Five-year global supply and demand projections Dec. 2014 を基に作成、2012/2013 実績ベース

図 3-15 とうもろこしの需給予測

983 980 954

976 993 1,008

1,025

939 961 965

982 999 1,015 1,031

0

200

400

600

800

1000

1200

13/14 14/15 15/16 16/17 17/18 18/19 19/20

(M Tons) Production

Consumption

USA, 263.0 USA, 302.4

China, 200.1

China, 267.1

Brazil, 50.5

Brazil, 80.4

EU, 67.3

EU, 74.4

Argentina, 5.6

Argentina, 23.2

Ukraine, 8.2

Ukraine, 22.0

South Africa,

10.3

South Africa, 15.2

Japan, 14.5

Japan, 15.0

Others, 243.3

Others, 194.6

0

200

400

600

800

1,000

Demand Supply

(M tons) Others

Japan

South

Africa

Ukraine

Argentina

EU

Brazil

China

USA

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出所:IGC: Five-year global supply and demand projections Dec. 2014 を基に作成

図 3-16 大豆の需給予測

出所:IGC: Five-year global supply and demand projections Dec. 2014 を基に作成、2012/2013 実績ベース

図 3-17 大豆の需給シェア

284

307301 306 311

317 321

283297 302

308 313 318324

0

100

200

300

400

13/14 14/15 15/16 16/17 17/18 18/19 19/20

(M Tons) 大豆の需給予測Production

Consumption

*IGC: Five-year global supply and demand projections Dec. 2014 よりHIT作成

China, 89.5 China, 77.0

USA, 88.4

USA, 48.5

Brazil, 82.4

Brazil, 37.5

Argentina, 51.2

Argentina, 39.9

India, 15.3

India, 14.6

EU, 14.0

EU, 13.5

Paraguay, 9.4

Paraguay, 3.6

Canada, 5.5

Canada, 2.0

Japan, 3.2

Japan, 3.0

Others, -66.6

Others, 26.7

(100)

0

100

200

300

400

Demand Supply

(M tons) 大豆の需給シェアOthers

Ukraine

Japan

Canada

Paraguay

EU

India

Argentina

Brazil

USA

China

*IGC: Five-year global supply and demand projections Dec. 2014 よりHIT作成、2012/2013実績ベース

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(5)価格動向

とうもろこし、大豆、小麦の作物価格は 2005 年頃から上昇ペースが上がり、リーマンショック後に

一時落ち込むもその後持ち直している。ただし 2011 年以降は大豆が大きく価格上昇する一方、小麦は

ほぼ横ばい、とうもろこしは価格下落に転じており、それぞれ対照的な価格動向となっている。価格決

定にはさまざまな要因が影響していると考えられるが、需給動向をある程度反映しているとみられる。

出所:UNCTAD を基に作成

図 3-18 作物価格

国別動向を比較するため、参考として 1 トン当たりの生産価格をみると、とうもろこし、大豆ともに

カザフスタン、ロシア、ウクライナの順に価格が高くなっている。カザフスタンについては、内陸国で

あるという地理的条件から、農業資本・資材の調達や輸送にかかるコストが相対的に高いことも一因で

あると思われる。

出所: Fasosat を基に作成

図 3-19 とうもろこしの価格

Kazakhstan, 30

Russian Federation, 8

Ukraine, 2

0

5

10

15

20

25

30

35

Jan-10 Jul-10 Jan-11 Jul-11 Jan-12 Jul-12

(Thousand USD/tonne) とうもろこしの価格

Kazakhstan

Russian Federation

Ukraine

*FaostatよりHIT作成、2010/01-2012/12, 生産価格

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出所: Fasosat を基に作成

図 3-20 大豆の価格

なお、とうもろこし、大豆、小麦 3 品目の価格動向を 2015 年 2 月上旬までみると、2013 年頃から大

豆は上昇、とうもろこし・小麦は下落し、価格の乖離が拡がっている。しかし 2014 年初頭以降は水準

こそ異なるものの、3 品目ともおおむね同じような価格動向をみせている。

とうもろこし・大豆価格下落の背景には、需給要因に加え世界的な米国の QE3(量的金融緩和第 3

弾)の終了に伴う商品市場からのマネー引き上げの影響もあると考えられる。しかし、ウクライナ情勢

が悪化し始めた 2014 年 2 月以降は、3 品目間の相関が高まっている。さらに 2014 年後半以降は、原油

安により農業機械の燃料や化学肥料などのコスト低下圧力が生じ、生産価格の下押し要因となっている

ものとみられる。

2015 年内とされる米国の利上げを控える中、大豆については需要の強さがある程度価格下支え要因

となるものと考えられるが、特にとうもろこし、小麦についてはグローバルな投機動向の影響を受ける

可能性がある。

図 3-21 とうもろこし・大豆・小麦の価格動向

Kazakhstan, 61.4

Russian Federation, 13.4

Ukraine, 3.6

0

10

20

30

40

50

60

70

Jan-10 Jul-10 Jan-11 Jul-11 Jan-12 Jul-12

(Thousand USD/tonne) 大豆の価格

Kazakhstan

Russian Federation

Ukraine

*FaostatよりHIT作成、2010/01-2012/12, 生産価格

出所:Bloomberg, 15.2.12 時点、過去 3 年、相対指数

大豆

とうもろこし

小麦

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(6)小麦の生産・流通動向

1)生産動向

NIS の中ではロシア、ウクライナ、カザフスタンが小麦の主要生産国であるが、年によって生産量の

幅は大きく、特に近年は 3 カ国の相関も高い。

出所: FAOSTAT を基に作成

図 3-22 小麦の生産量

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2)流通動向

ロシア、ウクライナ、カザフスタンからの農産物の輸出先をみると、ロシアからはエジプトやトルコ

など中近東方面が多く、コーカサス 3 国への輸出もある。またウクライナからはスペイン向けが最も多

く3、NIS 圏への輸出は上位にはない。一方、カザフスタンからは同じ中央アジアの 4 カ国や隣接する

ロシア向けの輸出が目立つ。これはカザフスタンが内陸国のため、輸送に日数・コストを要することが

一因であると考えられる。

出所:Grain markets in Kazakhstan, the Russian Federation and Ukraine0(APK-Inform08/09)を基に作成

図 3-23 小麦の輸出先(ロシア)

出所:Grain markets in Kazakhstan, the Russian Federation and Ukraine0(APK-Inform08/09)を基に作成

図 3-24 小麦の輸出先(ウクライナ)

3 『平成 22 年度世界の食料需給の中長期的な見通しに関する研究 研究報告書』(農林水産政策研究所)第 5 章にて南

欧諸国においては 2001 年以降、旧ソ連諸国からの小麦輸入を開始、輸送条件および需要の相違からスペインはウクライ

ナ産小麦を輸入している旨の記載あり。イタリア、ギリシャはロシア産を主に輸入している。

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出所:Grain markets in Kazakhstan, the Russian Federation and Ukraine0(APK-Inform08/09)を基に作成

図 3-25 小麦の輸出先(カザフスタン)

出所:Agri Dossier of the Russian Federation, APK Inform.

図 3-26 黒海・地中海沿岸の穀物輸出ターミナル

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4.輸出規制

ロシア、ウクライナ、カザフスタンの 3 カ国とも過去に何らかの輸出規制(Export Control)を実施

しており、輸出数量や価格に影響を与えうる不確定要因となっている。しかし、実際には規制実施の効

果は限定的であるという見方もされており、世界的な食糧安全保障や自由貿易促進の観点からは今後の

柔軟な対応が期待される。なお、輸出規制によって大きな効果はないというのが IAMO の結論である。

表 3-2 過去に実施された輸出規制の実施事例

カザフスタン ロシア ウクライナ

輸出規制 •輸出禁止(2008) •輸出税課税(2007-08)

•輸出禁止(2010-11)

•輸出割当制度(2006-08)

•輸出割当制度(2010-11)

•輸出税課税(2011)

•覚書(2011)

出所:Price damping and price insulating effects of wheat export restrictions in Kazakhstan, Russia, and

Ukraine(IAMO, 2014)

出所:Price damping and price insulating effects of wheat export restrictions in Kazakhstan, Russia, and

Ukraine(IAMO, 2014)

図 2-27 輸出規制による価格への影響(小麦)

また、2014 年にはカザフスタン、ロシアで穀物を対象とした政策的対応が発動されている。カザフ

スタンについては通貨テンゲの切り下げを受けた措置であり、ロシアについてはウクライナ情勢による

欧米の経済制裁に対する動きと思われる。

表 2-3 穀物に関する政策対応

国名 作物名 時期 政策 内容

カザフスタン 小麦 2014 年

2 月

政府調達 50 万 9,000 トンの穀物が、国内市場向け

に固定価格(3 万/t KZT で 2~8 月の間販

売される。国内通貨の切り下げを受けたパ

ンの価格を安定させるため。

ロシア とうもろこし・

小麦

2014 年

9 月

輸入税率 モルドバ・EU 間の協議における同意を受

け、モルドバ産農産物の一部に関税を適用

出所:”Food Outlook 2014” May, Oct (FAO)