Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1...

26
- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100㎢(日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁) 首都:ウランバートル(人口139万6,288人、2016年モンゴル国家統計庁) 民族:モンゴル人(全体の95%)及びカザフ人等 言語:モンゴル語(国家公用語)、カザフ語 宗教:チベット仏教等 政体:共和制(大統領制と議院内閣制の併用) 議会:国家大会議(一院制、定員76名・任期4年) 名目GDP:111億6千万米ドル(2016年世界銀行) 一人当たり名目GDP:3,856.8米ドル(2016年モンゴル国家統計庁、世界銀行アト ラス・メソッド) 在留邦人数:539人(外務省海外在留邦人数調査統計:平成29年要約版) 1.内政 1992 年の民主化後に実施された7回の国家大会議総選挙の結果、毎回政権交代が行われ てきている。2016 年6月末の総選挙では、野党であった人民党が 76 議席中 65 議席を獲得 し圧倒的勝利をおさめ、第一党となった。首相には、大蔵大臣等を歴任したエルデネバト 議員が任命され、「プロフェッショナル内閣」を目指すエルデネバト内閣が発足した。なお、 総選挙直前の同年4月に選挙制度が改正され、中選挙区・比例代表並立制から小選挙区制 に変更された。 また、1993 年以降、公選制の大統領(国家元首、任期4年)が選出されている。大統領 は国民統合の象徴であり、行政権は有さないものの、立法府に対する拒否権を有する等、 比較的強い権限を有する。2017年6月の第7回大統領選挙では、史上初の決選投票の結果、 野党・民主党推薦のバトトルガ候補が勝利し、同年7月 10 日に大統領に就任した。 法律上、大統領は政党を離脱するものの、野党民主党推薦による大統領と与党人民党政 府との間で実質的には政党の「ねじれ構造」が生じた。 大統領選挙での敗北を受け、与党人民党内において政権への責任追及の機運が高まり、 同年8月 23 日に人民党議員 30 名が首相解任案を国家大会議に提出、9月7日に可決され、 内閣は総辞職した。同年 10 月4日、国家大会議はフレルスフ副首相代行(人民党)を新首 相に指名し、同月 20 日、フレルスフ内閣が発足した。

Transcript of Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1...

Page 1: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 26 -

Ⅲ モンゴル国における調査

第1 モンゴル国の概況

(基本データ)

面積:156万4,100㎢(日本の約4倍)

人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

首都:ウランバートル(人口139万6,288人、2016年モンゴル国家統計庁)

民族:モンゴル人(全体の95%)及びカザフ人等

言語:モンゴル語(国家公用語)、カザフ語

宗教:チベット仏教等

政体:共和制(大統領制と議院内閣制の併用)

議会:国家大会議(一院制、定員76名・任期4年)

名目GDP:111億6千万米ドル(2016年世界銀行)

一人当たり名目GDP:3,856.8米ドル(2016年モンゴル国家統計庁、世界銀行アト

ラス・メソッド)

在留邦人数:539人(外務省海外在留邦人数調査統計:平成29年要約版)

1.内政

1992年の民主化後に実施された7回の国家大会議総選挙の結果、毎回政権交代が行われ

てきている。2016年6月末の総選挙では、野党であった人民党が76議席中65議席を獲得

し圧倒的勝利をおさめ、第一党となった。首相には、大蔵大臣等を歴任したエルデネバト

議員が任命され、「プロフェッショナル内閣」を目指すエルデネバト内閣が発足した。なお、

総選挙直前の同年4月に選挙制度が改正され、中選挙区・比例代表並立制から小選挙区制

に変更された。

また、1993年以降、公選制の大統領(国家元首、任期4年)が選出されている。大統領

は国民統合の象徴であり、行政権は有さないものの、立法府に対する拒否権を有する等、

比較的強い権限を有する。2017年6月の第7回大統領選挙では、史上初の決選投票の結果、

野党・民主党推薦のバトトルガ候補が勝利し、同年7月10日に大統領に就任した。

法律上、大統領は政党を離脱するものの、野党民主党推薦による大統領と与党人民党政

府との間で実質的には政党の「ねじれ構造」が生じた。

大統領選挙での敗北を受け、与党人民党内において政権への責任追及の機運が高まり、

同年8月23日に人民党議員30名が首相解任案を国家大会議に提出、9月7日に可決され、

内閣は総辞職した。同年10月4日、国家大会議はフレルスフ副首相代行(人民党)を新首

相に指名し、同月20日、フレルスフ内閣が発足した。

Page 2: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 27 -

2.外交

中国・ロシアとのみ国境を接している地政学的条件から、両隣国どちらにも偏らないバ

ランスの取れた態度を保持する一方で、「第三の隣国」という概念を掲げ、日本、米国、欧

州、中東諸国等との関係強化を目指している。また、上記バランス外交との関係から、地

域や多国間の取組にも積極的に参画する方針を打ち出している。

最近は、モンゴルの鉱物資源が世界的な注目を集める中にあって、ロシアのモンゴルへ

の再接近、中国による対モンゴル支援の積極化が見られる。経済関係においては、モンゴ

ルの輸出入、投資ともに中国に過度に依存しており、石油製品はそのほとんどをロシアに

頼っているといった状況にある。

3.経済

民主化以降、我が国を始めとする各国や国際機関の指導、助言及び支援により市場経済

化に向けた構造改革を推進し、1994年に初めてプラス成長に転じた。その後も順調に経済

が発展してきたが、世界的な金融経済危機の影響から2009年にマイナス成長となった。そ

の後、鉱物資源の国際相場の回復が内需の拡大を後押し、2010年の経済成長率は6.4%、

2011年には17.3%とV字回復し、2012年 12.4%、2013年 11.7%と高い経済成長が続いた。

しかし、資源ナショナリズムを背景とする制限的な対モンゴル投資政策や法律の制定によ

り、対モンゴル外国投資が激減したほか、中国の景気減速や世界的資源安の影響により主

要産業の鉱業が不振となり、2015年の経済成長率は2.3%、2016年は1%まで落ち込んだ。

こうした厳しい状況を踏まえ、モンゴル政府は、2017年2月、国際通貨基金(IMF)

との間で拡大信用供与措置(EFF)の受入れに合意し、これに基づく経済財政の立て直

しが課題となっている。IMFの支援パッケージは、増税、歳出減、銀行改革等を条件に、

3年間、総額約55億ドルの支援を行うもので、このうち我が国は最大8.5億ドルの支援を

行うこととなっている。

直近の2017年上半期では、石炭市況の好転もあり景気は上向きの兆しとなっている。

4.日・モンゴル関係

我が国はモンゴルと1972年に外交関係を樹立し、2017年に外交関係樹立45周年を迎え

た。我が国は1990年にモンゴルが民主化・市場経済化への移行を始めてから現在に至るま

で一貫してモンゴルの最大援助供与国であり、二国間関係は幅広い分野で着実に発展して

いる。2010年からは両国関係を新たな次元に高める「戦略的パートナーシップ」を推進し、

地域・国際場裡における協力も含め、様々な取組を強化している。2016年 6月には日・モ

ンゴル経済連携協定(EPA)が発効した。要人往来は活発であり、安倍総理は2016年7

月に日本の現職総理大臣として初めてとなる3度目のモンゴル訪問を行っている。

我が国からの輸出は約 304 億円(中古自動車、建設・鉱山用機械等)、輸入は約 19 億

円(主に鉱物資源(石炭・ほたる石等))(2016 年)。我が国からの投資は 2013 年9月

Page 3: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 28 -

までの総額2億693万米ドルで、これは対モンゴル投資国中11位である。駐在事務所開設

の日系企業は37社、現地法人化した日系企業は326社である(2016年 10月1日現在)。

(出所)外務省資料等より作成

第2 我が国のODA実績

1.概要

モンゴルに対する我が国の経済協力は、1977年に両国間で締結された「経済協力協定」

に基づく「ゴビ・カシミヤ工場建設」に係る無償資金協力から始まった。同国の民主化及

び市場経済体制への移行後、1991年度に初めて円借款を供与するなど、我が国は二国間援

助を本格的に開始し、火力発電所の改修、初等・中等学校の建設、水道施設の整備、道路

建設、防災・衛生車両の供与など、経済社会インフラの整備や人材育成を通じ、同国の発

展に大きく寄与してきた。

2.対モンゴル経済協力の意義

中国とロシアに挟まれたモンゴルが、我が国の支援により、我が国と基本的価値を共有

する民主主義国家としてさらに成長し発展することは、北東アジア地域の平和と安定に資

するとともに、我が国の安全保障及び経済的繁栄にとっても重要である。また、同国は石

炭、銅、ウラン、レアメタル、レアアース等の豊富な地下資源にも恵まれており、我が国

にとって資源やエネルギーの安定的確保の観点からも重要となっている。

3.対モンゴル援助の基本方針・重点分野

鉱物資源の輸出に大きく依存するモンゴルにおいては、産業の多角化と持続可能な経済

成長を達成するための安定したマクロ経済運営が課題である。さらに、首都ウランバート

ルの都市問題や都市部と地方部との地域格差が深刻化していることから、我が国は、経済

成長の恩恵を貧困層まで十分波及させるとともに、持続可能な経済成長と均衡のとれた成

長に向けたモンゴル政府の取組を支援することとしている。

2012 年5月策定の「対モンゴル国国別援助方針」では、「持続可能な経済成長を通じた

貧困削減への自助努力を支援」することを援助の基本方針とし、我が国として、以下の3

分野を重点分野として、支援を行っていくこととしている。

(1)鉱物資源の持続可能な開発とガバナンスの強化

鉱物資源開発・加工・利用に関する計画策定、行政能力や透明性の向上による財

政管理、ガバナンスの向上・定着、人材育成

(2)全ての人々が恩恵を受ける成長の実現に向けた支援

産業構造の多角化を見据えた中小・零細企業を中心とする雇用創出、農牧民の収

入機会の確保及び生計向上、基礎的社会サービス強化など

貧困層の生活水準の改善に向けた取組を支援

Page 4: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 29 -

(3)ウランバートル都市機能強化

都市計画管理に関する能力向上、我が国の知見及び技術を活用したインフラ整備

4.対モンゴル経済協力の実績

我が国の対モンゴルODA実績(単位:億円)

年度 円借款 無償資金協力 技術協力

2011 15.50 50.09 24.47(17.66)

2012 - 34.04 23.62(17.03)

2013 117.36 31.85 24.17(18.21)

2014 - 23.94 25.92(19.35)

2015 368.50 84.68 24.05

累計 1,259.44 1,163.70 497.28(427.43)

(注)円借款及び無償資金協力は、交換公文ベース、技術協力は予算年度の経費実績ベース。2011

~2014年度の技術協力においては日本全体の技術協力の実績であり、2015年度は集計中のた

め、JICA実績のみ。( )内はJICAが実施している技術協力の実績及び累計。

(参考)諸外国の対モンゴル経済協力実績(支出総額ベース、単位:百万ドル)

年 1位 2位 3位 4位 5位

2010 日本 71.00 米国 45.55 韓国 39.27 ドイツ 31.42 スイス 11.33

2011 日本 104.06 米国 57.64 ドイツ 37.71 韓国 32.73 スイス 15.20

2012 日本 131.43 米国 112.82 ドイツ 46.43 韓国 34.41 スイス 20.11

2013 日本 182.16 米国 88.09 ドイツ 36.32 韓国 30.37 スイス 19.95

2014 日本 119.73 韓国 33.31 ドイツ 28.79 韓国 21.89 オーストラリア 13.85

出典:OECD/DAC

(出所)外務省資料等より作成

Page 5: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 30 -

第3 調査の概要

1.モンゴル科学技術大学(有償資金協力)

(1)事業の概要

モンゴルでは高等教育機関の学部課程を卒業した学生のうち、理学系約5%、工学系約

16.3%と理系の教育・研究体制が脆弱で、産業界の求める人材を輩出できていない。高等

教育機関の教員で博士号を取得している割合も24%(日本はほぼ100%)にとどまる等、

教員の能力強化や教育・研究環境の改善が課題となっている。

本事業は、工学系高等教育機関(モンゴル国立大・モンゴル科学技術大)の機能強化及

び日本への留学を通じ、工学系産業人材の育成を図ることを目的としている。主な対象は、

機械工学、土木・建築、電気・電子などである。

①学部教育の質向上を目指した本邦大学(10 校)とのツイニング・プログラム(80 名

×4期)、②教員の教育・研究能力強化を目指した日本への留学(博士 60 名、修士 100

名、ノンディグリー320 名)・共同研究、③即戦力育成を目指した日本の高等専門学校へ

の留学(40名×5期)を実施中である。

・案件名:工学系高等教育支援事業(円借款75.35億円)

・実施期間:2014年3月~(実施中)

(2)視察の概要

派遣団は、9月15日、モンゴル科学技術

大学を訪問し、ツイニング・プログラムに

より 2018 年4月から本邦大学への2年間

の留学を目指す大学3年生 63 名のいる教

室にて、教育・文化・科学・スポーツ省か

ら説明を聴取し、学生らと懇談した。

教育・文化・科学・スポーツ省からは、

本プログラムによる留学はこの期が第1期

生であること、1期80名だが脱落者もおり

現在63名となっていること、留学中の授業

料・生活費・渡航費が奨学金ローンとして

貸与され、留学後はモンゴルでの5年間の勤務を条件に奨学金の返済が免除されること等

の説明があった。

学生からは、派遣団が自分たちやモンゴルの将来に期待すること、2年間の留学後も日

本で進学することの可否について質問があった。派遣団からは、日本での勤務希望、モン

ゴルでの勤務後に政治家になる希望、1日の勉強時間、他の外国語の学習状況等を尋ねる

とともに、学生を激励した。

(写真)63名の日本留学予定者とともに

Page 6: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 31 -

2.モンゴル日本人材開発センター(技術協力)

(1)事業の概要

モンゴルと日本両国間の理解を促進し、モンゴルの市場経済化を支援するため、無償資

金協力でモンゴル国立大学内にセンター施設を建設し、2002年に開所。2016年4月に来館

者数累計200万人を達成した(モンゴルの人口は300万人)。

①ビジネス人材育成、②日本語教育、③相互理解促進の3つを活動の柱として、技術協

力を4期にわたり実施(日本語教育については、2012年1月から国際交流基金に移管)。

「日本的経営」の考え方をベースとした中小企業経営者等の人材育成を実施。ビジネス

コース修了生は延べ16,000名以上(約460社)に上り、所属先企業の業務拡大や収益向上

に貢献するなど、中小企業育成を通じた産業多角化と雇用創出に寄与。2015年4月からは、

両国間のビジネス交流にも着手している。

・案件名:モンゴル日本人材開発センタービジネス人材育成・交流拠点機能強化プロジェ

クト

・実施期間:2015年4月~2020年4月(実施中)

(2)視察の概要

派遣団は、9月15日、モンゴル日本人材開発センターを訪問し、所長及びJICA専門

家から説明を聴取した後、センター内を視察した。

<質疑応答>

(Q)日本とのビジネス交流の対象は、当センターのビジネスコースを修了した企業に限

定しているとのことだが、限定する必要はあるのか。

(A)ビジネス交流で大切なことは、信頼できるところを紹介することである。モンゴル

では一発でもうけようとする企業家が多いので、このコースを通じ、日本企業と同じ

ルールのもとで長く付き合える企業家の育成に努めている。社会主義経済から移行し

てわずか27年だが、当センターの15年間の人材育成で、やっとビジネスの仕方が分

かる人材が増えている。

(Q)日本からモンゴルへの投資の状況はどうか。

(A)モンゴルへの直接投資が多い国は中国と韓国で、日本からはほとんどない。その理

由は、人口が少なく市場が小さいこと、日本からの輸送費が高いこと、東南アジアに

比べ設立費用が高いことである。また、政府の政策が不安定なこと、情報がないこと、

モンゴル側に契約を守ろうとする意識が弱いこと、企業の規模が小さく量、質、時間

どおりの運送など日本企業の要求に応えられる企業が少ないことが挙げられる。当セ

ンターとしては、日本企業の要求に応えられるよう、信頼できるモンゴル企業を紹介

することで、日本企業のモンゴル進出を支援したいと考えている。

(Q)モンゴルの人材のプラス面は何か。

(A)モンゴルには日本に留学し、日本語を分かる人が多い。日本で勉強してきた人を使

Page 7: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 32 -

う投資、会社を作っていただければと思う。リスクがないと分かってから始める日本

人と異なり、モンゴル人は、信頼できるとなれば、直接、すぐ始める意識がある。

(Q)モンゴルの中小企業の課題は何か。

(A)一番の問題は、従業員の採用・育成である。長く働ける環境ができておらず、育成

できた時点で辞める者が多いため、事業の質、生産性が上がらない。また、銀行ロー

ンの金利が高く、資金調達がネックになっている。

3.ツーステップローン融資先企業ジュルウル社(有償資金協力)

(1)事業の概要

モンゴル経済は鉱物資源セクターへの依存度が高い構造となっており、産業多角化が課

題となっている。銀行の融資先も鉱業等の特定分野及び大企業に集中している。高い融資

金利(平均20%)、短い融資期間、高い担保要求率、銀行の審査能力不足等により、非鉱

業分野に従事する中小企業への融資は著しく不足している。

本事業では「成長へのファイナンス」として、計79.81億円をモンゴル政府に貸与し(金

利 0.65-0.75%/年)、モンゴル政府(同3%)、市中銀行(同8~9%)の二段階を経

て、過去11年で700件ほどの中小企業事業に融資。全21県で融資案件を展開し、10,000

人以上の雇用創出につながっている。融資先としては、農牧業、食品加工業、建設資材関

係、観光業等を含むサービス業、アパレル業界が多くを占め、輸入代替・輸出促進に貢献

している。

・案件名:中小企業・環境保全ツーステップローン事業(Ⅰ)(Ⅱ)(円借款計79.81億

円)

・実施期間:2006年3月~(実施中)

(2)視察の概要

派遣団は、9月15日、ツーステップローンを

活用している洋菓子店ジュルウルを訪問し、総

務部長(創業者)及びツーステップローン・プ

ロジェクトオフィスから説明を聴取した。

<説明概要>

当社は1998年に設立され、ケーキやパンを製

造・販売する会社で、従業員数468名、店舗数12、店舗内支店7となっている。2012年か

らツーステップローンの融資を2回受けて店舗や工場の新設・改良等を行ってきた。ツー

ステップローンの利点は、期間が長く、金利が低いこと、手続がスムーズに行われること

で、モンゴルによくあるコネの世界ではなく、案件の中身を重視して審査されるので安心

して利用できる。当社では、モンゴル伝統の縦文字を入れた包装、国際基準による衛生管

理などを採り入れている。融資の成果で2017年の売上げは2013年と比べ4倍に増加し、

(写真)洋菓子店ジュルウルの店内

Page 8: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 33 -

国内のトップ100社にも入った。

<質疑応答>

(Q)ツーステップローンがないととても市中銀行から借入れできなかったのか。

(A)そうである。すぐに利益が出るビジネスではなく、小さな家族会社だったので、モ

ンゴルの現状では、ツーステップローンがなければ銀行から借りることはできなかっ

た。

(Q)洗練された店舗や包装、衛生管理意識の高さなどは、どこから来るのか。

(A)理由は1つではないが、1回目の融資で成功した後も研修や日本への視察に参加し

たことで、もっとできることがあるという自信につながったことが大きい。

4.新ウランバートル国際空港(建設事業:有償資金協力、人材育成等:技術協力)

(1)事業の概要

現空港(ウランバートル市(以下「UB市」という。)南方約10km)は山に囲まれた地

理的制約を抱え、風向きなどの気象条件によって離着陸が制限されることから遅延・欠航

が多く、信頼性・安全性向上が課題となっている。本事業は、急増する航空需要に対応す

るべく、地理的制約を受けない場所(UB市南方約50km)に年間200万人の旅客を受入れ

できる新国際空港を建設することで、首都空港としての信頼性・安全性の改善及び利便性

の向上を図ることを目的としている。

施工は三菱商事・千代田化工のJV、コンサルティングサービスは梓設計・オリエンタ

ルコンサルタンツのJVが担当。本邦技術活用条件(STEP)適用(タイド案件)。

2008 年3月に交換公文締結、モンゴル側にて 2018 年中の供用開始を目指し準備中であ

る。なお、円借款での建設事業に加え、新空港運営に係る人材育成を中心とした技術協力

を実施中である。日本企業連合が運営事業権獲得に向け交渉中である。

①案件名:新ウランバートル国際空港建設事業(円借款計656.57億円、うち本体借款288.07

億円・追加借款368.50億円)

実施期間:2008年5月~(実施中)

概要:(1)滑走路・給油設備・管制塔・旅客ターミナル等の建設、(2)その他維持管理機

材の導入(追加借款対象)、(3)コンサルティングサービス(詳細設計、施工管理)

②案件名:新ウランバートル国際空港の人材育成及び運営・維持管理能力向上プロジェク

ト(技術協力)

実施期間:2015年1月~2018年7月(実施中)

概要:新空港の運営・維持管理に不可欠な6分野(組織計画、滑走路等維持管理、給油

システム運営・維持管理、料金設定・テナント運営、顧客満足度向上活動、新空

港への移転)及び航空管制における各基本計画の策定、それらを核とした分野毎

の運営・維持管理体制整備を支援

Page 9: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 34 -

(2)視察の概要

派遣団は、9月16日、新空港建設現場を訪問し、道路・運輸開発省及びモンゴル民間航

空庁から説明を聴取した後、現場を視察した。

<説明概要>

国土が広く人口の少ない内陸国モンゴルにとり、航空分野は優先度の高い分野で、新空

港建設はモンゴルの社会経済の発展に重要な貢献を及ぼす歴史的な事業である。

(建設事業)

現空港のウィンドカバレッジ(発着可能と想定される風向・風速の発生確率)は平均約

86%(最低月で約73%)程度にとどまり、それを(ICAO国際基準の)95%以上へと引

き上げるため新空港を建設することとした。新空港建設計画は1993年から準備が始まり、

2008年に日本政府からODA採択の通知があり、現在、建設事業はほぼ終了している。本

体借款(288.07億円)よりも追加借款(368.5億円)のほうが大きい。他に、モンゴル政

府負担で、UB市と結ぶ全長32kmの高速道路(進捗率60%)、空港管理ビル、空港整備ビ

ル、貨物ターミナルビル、変電所、UB市と結ぶ光ケーブル等を整備中である。

(供用準備)

現空港と比較して、新空港では航空機の進入経路が2つに増え、滑走路も 3,100m×45m

から3,600m×45mに拡張される。旅客ターミナルビルの床面積は21,900㎡から37,000㎡

に拡張される。空港運営に向けては、JICAの技術協力で日本の航空分野の専門家が派

遣され、モンゴル側からも日本での研修に参加するなどして学んでいる。供用開始に向け

た2015年から2018年までのアクションプランの達成率は56%である。2018年7月までに

供用準備を終了し、テスト期間を経て、同年11月に開港できるよう尽力している。

<質疑応答>

(Q)新空港開港後、現空港はどう使うのか。

(A)飛行訓練用に使う。

(Q)他の国際空港と比べユニークな点は何か。

(A)①何もない平地に作られ、他国で見られ

ない草原を見られること、②どんな人でも

迷わないターミナルの設計、③太陽の日差

しが入るグリーン空港開発が特徴である。

(Q)新空港にはUB市と結ぶ高速道路が建設

されるとのことだが、新空港周辺に工業団

地やショッピングセンターを作る等の計画はあるか。

(A)新空港周辺には、政府と国家大会議でこれから10万人規模の衛星都市を開発するこ

ととされ、道路・運輸開発省、建設・都市開発省、UB市が都市計画を作る段階に入

っている。衛星都市をつくる際、インフラ面では、例えば暖房については、新空港の

暖房設備の出力は42万メガワットなので、十分活用できると思う。

(写真)滑走路にて、旅客ターミナルビルを背に

Page 10: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 35 -

(Q)追加借款が必要となった原因は何か。

(A)経済成長に伴うインフレ率の上昇と、デザイン変更、追加工事の発生が原因である。

2013年の安倍総理のモンゴル訪問時に追加借款について話し、2015年に追加借款がな

された。

(Q)建設事業はタイド案件だが、利点、欠点等、どう受け止めているか。

(A)この案件には3つの条件があり、日本のコンサルティング会社を使うこと、日本の

建設会社を使うこと、30%の資機材を本邦調達することとされている。以上による欠

点は、限定された市場から調達することによりコストが上昇することである。また、

円・ドル・トグロクの為替変動も影響している。

5.モンゴル国立外傷整形外科病院(草の根無償資金協力)

(1)事業の概要

国立外傷整形外科病院(1960年設立)は、外科治療を専門に治療する全国で唯一の病院

で、病床420床、年間入院患者数約12,000人、年間外科手術件数約6,000件、外来対応(救

急対応も含む)は年間約70,000件であり、モンゴル全土から患者が搬送され、初期診断及

び専門的外科治療を実施している。

医療機材の不足により患者に十分な治療が行えない状況にあり、医療機材を整備する必

要があったところ、日本外交協会と協力して日本の高品質な中古医療用器材を手配し、同

機材の整備費及び輸送費を草の根無償資金協力にて支援した。具体的には、手術台や診察

台、病床用ベッド、点滴台、リハビリのためのトレッドミル等を供与した。

・案件名:国立外傷整形外科病院中古医療用器材整備計画(960万円)

・実施期間:2016年3月~2016年5月(終了)

(2)視察の概要

派遣団は、9月16日、国立外傷整形外科病院

を訪問し、院長から説明を聴取した後、院内で

供与機材を視察した。

<説明概要>

開院以来、たくさんの協力をいただいてきた

が、とりわけ昨年は、病床用ベッド74台、担架

14 台、手術台2台、点滴台 25 台、リハビリ用

トレッドミル1台等、計141台の中古医療機材

が日本から無償で提供・搬送・整備され、使い勝手が良く大変感謝している。担架の整備

により搬送用担架の空き待ちが改善し、トレッドミルによりリハビリの質が向上するなど、

患者へのサービス向上に非常に役立っている。

(写真)供与された中古のベッド

Page 11: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 36 -

<質疑応答>

(Q)モンゴル側の要望に基づいて日本が支援を行っているとの理解でよいか。

(A)不足している機材のリストを大使館に提出し、審査を受けて了承されたものが日本

から支援されている。以前、日本人の子供がモンゴル滞在中にけがをした際、600km

を車で往復し対応したことがあり、その両親が当院の機材不足を耳にし、今回の支援

につながった。

(Q)草の根支援で提供された機材の修理で苦労されたことはないか。

(A)精密機械でなく、自分たちで修理可能なものもあるので、特段困ったことはない。

6.日本モンゴル教育病院建設計画(建設計画:無償資金協力、運営管理等:技術協力)

(1)事業の概要

国全体の基礎保健指標は改善してきているものの、依然として地域格差が大きく、地方

の一次及び二次医療サービスの向上が課題となっている。しかしながら、モンゴルでは、

医師の臨床実習がUB市内の複数の三次医療施設に分散するなど、卒後研修体制は整って

いない。

本事業は、モンゴル全体の95%の保健人材を輩出する、唯一の医療系国立大学であるモ

ンゴル国立医科大学に、附属病院として教育病院を建設(大学附属病院はモンゴル初)、

医師等の卒後研修の拠点とすると同時に、市内の医療サービスの質向上を図ることを目的

としている。

①案件名:日本モンゴル教育病院建設計画(無償資金協力79.85億円)

実施期間:2014年 12月~2019年 11月(実施中)。2016年3月着工、2018年夏完工予

定。

概要:(1)施設:外来及び教育施設棟、入院棟(104床)。機材:CT、MRI、血管造

影装置、診断・治療機材等。(2)コンサルティングサービス(詳細設計、施工調達

管理、機材保守契約管理)

施工:関東建設工業(施設)、丸紅プロテックス(機材)

コンサルティングサービス:共同企業体 山下設計・梓設計・シー・ディー・シー・イ

ンターナショナル

②案件名:日本モンゴル教育病院運営管理及び医療サービス提供の体制確立プロジェクト

(技術協力)

実施期間:2017 年3月~2022 年3月(実施中)。開院前後に実施し、技術水準・質と

もに高い医療サービスを提供するための体制確立を支援する。

概要:(1)適切な病院運営管理支援、(2)患者中心の医療導入、(3)先端医療サービスの

導入、(4)高度な救急医療の体制整備

担当:徳島大学・愛媛大学・システム科学コンサルタンツ(現 コーエイリサーチ&コ

ンサルティング)

Page 12: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 37 -

(2)調査の概要

派遣団は、9月17日、モンゴル国立医科大学

を訪問し、医療教育部門担当副学長等から事業

概要の説明を聴取した後、同副学長、梓設計、

関東建設工業等の案内で日本モンゴル教育病院

建設現場を視察した。

<医科大学における質疑応答>

(派遣団)病院建設の施工業者は日本企業であ

るが、選んだ理由、評価等を伺いたい。

(副学長)モンゴル国内の企業は、施工管理、設計等で最新の技術と経験が豊富でない。

日本の支援で建てられるものであり、日本式マネジメントの導入も期待しているので、

経験豊富な日本の施工業者にお願いしたいとの強い希望があった。この事業を通じ、

モンゴル側は日本から学ぶべき点がたくさんあった。

<建設現場における梓設計の説明概要>

建設作業員の男女比は6:4で、日本より女性比率が高い。モンゴル人は、こちらが

教えると飲み込みが早いが、自分の経験で仕事をする傾向があるので、日本ではODA

についていろいろ議論があると思うが、箱物の強度だけでなく、人材育成、作業員への

指導を特にしている。

<建設現場事務所における質疑応答>

(派遣団)関東建設工業が応札した理由と、受注できた要因は何か。

(関東建設工業)以前も他物件をモンゴルで行った実績があった。受注できた一番の要因

は価格だと思う。大手は管理費(本社管理費等)が高く、中小の当社に競争力があっ

たものと思う。

(派遣団)安全管理について、モンゴルの業者の意識はどうか。法律による規制はあるか。

(梓設計)まだ安全管理の意識は低く、指導しながらやっている。検査はある。機材はほ

とんどが中国、ロシア製の年代物で、日本では使ってはいけないようなクレーンなど

も使われている。

7.日本伝統治療(柔道整復術)指導者育成・普及プロジェクト(草の根技術協力事業(パ

ートナー型))

(1)事業の概要

モンゴル国地方において骨折・脱臼等の外傷を受けた住民は、集落の最小単位となるバ

グにある家族病院(バグ病院)において初期治療を受けることが多い。しかしながら、バ

グ病院では医療インフラ未整備の状態が多く、またバグ医師自身専門的外傷初期治療の知

識・技術に乏しく、結果として変形や機能障害を残してしまう住民が多い。手術や医療機

器を用いずに骨折・脱臼等の外傷を治す日本の伝統的な治療法である「柔道整復術」は、

(写真)日本モンゴル教育病院建設現場にて

Page 13: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 38 -

モンゴルにとって必要な技術である。

本事業は、柔道整復術について、モンゴル国内における指導・普及がモンゴル人のみに

より可能になることを目標として、2011 年から 2016 年まで実施された。(「日本伝統治

療(柔道整復術)普及事業」(日本NGO連携無償資金協力:2006-2009 年)(草の根技

術協力事業(支援型)(2009-2011 年))の後継案件。)講義・実技指導を担える5名の

指導者を正式認定し、地方講習会を運営する8名の普及員を育成するなど、モンゴル全土

への普及展開を継続的に行っていく体制を整えた。(実施団体:公益社団法人日本柔道整

復師会)

本事業の成果を踏まえ、2016年9月から、モンゴル国立医科大学に柔道整復術を教える

新コース(伝統医療セラピー科)が開設されている。

(2)調査の概要

派遣団は、9月17日、モンゴル国立医科大学を訪問し、看護学部理学療法科の担当講師

(本事業で育成された5名の指導者の1名)から説明を聴取した。

<説明概要>

全国21県を5年かけて回り実施されてきた本事業の主な活動は、医療従事者に対する講

習会で、国立医科大学の基礎講習会に約700名、各地域での講習会に約1,200名が参加し

た。また、多くの要望を受けて教科書を作り、医療従事者や学生に活用されている。本事

業が特に地方で成果を上げてきたことを背景として、昨年当大学に伝統医療セラピー科が

できており、卒業生が出れば、継続的に柔道整復術を普及でき、外傷で困っている人々を

助けられるのではないかと考えている。治療の成果の例として、5歳の男児の落馬による

両腕前腕骨折、47歳女性の下腿骨骨折が、手術することなくきれいに治るなど、各地域で

柔道整復術が多くの人々を助けている。

<質疑応答>

(Q)日本では医師と柔道整復師の立場は全く異なり、柔道整復師はレントゲンが撮れな

い等の違いがあるが、伝統医療セラピー科の出身者は医師と同じ立場になるのか。

(A)日本と同様に医師の指示の下で活動することになっているが、レントゲンは撮れる。

(Q)骨折を徒手整復で治せれば、医療費が削減でき、患者の負担も減らせるが、日本で

は臨床整形医師から厳しい意見がある。モンゴルでは医接連携で良い形がとれている

のか。

(A)モンゴルでは8~9割は手術をしていたが、最近は、できるだけ治せるものは伝統

医療で治していこうという考え方になっている。

Page 14: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 39 -

8.ゲル地区(技術協力)

(1)事業の概要

1992年制定の憲法で居住・移転の自由が定められて以降、地方からUB市への人口流入

が進み、1998 年に約 65 万人であったUB市の人口は約 140 万人に急増している。地方か

らの移住者が市街地の外側に移動式住居(ゲル)やバラックを建てることにより、都市基

盤施設が整備されていない「ゲル地区」が無秩序に拡大し、同市の人口の6割はゲル地区

に居住していると推定されている。

こうした状況に鑑み、UB市と建設・都市開発省が行う都市計画・都市開発分野の取組

対し、JICAは3次にわたる技術協力を実施している。

①UB市都市計画マスタープラン・都市開発プログラム策定調査(2007-2009年)

②都市開発実施能力向上プロジェクト(2010-2013年)

③UB市マスタープラン計画・実施能力改善プロジェクト(2014-2018年予定)

(2)視察の概要

派遣団は、9月17日、ゲル地区を訪問し、ゲル地区再開発事業(アパート化事業)の視

察及びゲル地区を見渡す丘の上から視察を行い、建設・都市開発省、UB市等から説明を

聴取した。

<説明概要>

ゲル地区は、市の面積の7割近くを占め、北部・丘陵部に集中している。JICAから

提案されたゲル地区の再開発のスキームは、「区画整理事業」、「アパート化事業」、「老

朽化アパート建替事業」から成る。2015年に成立した都市再開発法により、占有する土地

が再開発の対象となった者は、①自分の占有する土地とそこに建つアパート内の同じ面積

の部屋との交換、②他の土地との等価交換、③占有権の売却の選択肢がある。ゲル地区の

アパート化は徐々に進んでおり、現在市内24か所でアパートを建設中である。市街地に近

い地区はアパートを建て、市街地から離れた丘陵部では区画整理し戸建て住宅を建てる計

画である。

<質疑応答>

(Q)アパートへ移住するために勝手に住み着く者が出る懸念はないか。

(A)2017年1月、UB市長が定住可能な地区を定め、それを越えて住んだ者には権利を

与えないこととなった。

Page 15: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 40 -

9.ウランバートル市大気汚染対策能力強化プロジェクト(技術協力)

(1)事業の概要

UB市では、近年増加している車両からの排ガスのほか、火力発電所からの排煙、急増

するゲル地区住民が冬場の暖房・調理用に石炭などを燃やした煙が発生。盆地となってい

る市上空に滞留するため、深刻な大気汚染が発生し、市民への健康被害が懸念されている。

大気環境サイクル(大気汚染源の分析→対策・戦略の検討→対策・戦略の評価→対策の

実施)の実現を目指し、2010年から2期にわたり技術協力を実施。2018年春から3期目を

開始予定である。

これまでの支援により、大気環境モニタリングに係る技術移転、対策実施案の策定にお

ける測定データの活用、市民への情報提供・教育等において効果を発現している。

(2)視察の概要

派遣団は、9月18日、UB市役所を訪問し、大気汚染対策局長等から説明を聴取した。

<庁舎1階ロビーに掲示された大気汚染モニタリング・パネルの説明概要>

このパネルは、プロジェクトの2期目で供与

されたもので、市内道路脇、郊外のゲル地区、

市内中央6区内等に設置された 11 の大気環境

自動測定局から送信される大気汚染物質に関す

るデータをグラフ等で可視化しLEDパネルに

示したものである。市民への情報提供と大気汚

染・健康被害防止に向けた市民への啓発・教育

を目的として、市役所本館を始め、市内の小中

学校35か所、大気汚染対策関連局、自然環境・

観光省等に設置されている。大気汚染濃度は冬

(写真)再開発地区。ここにいた住民の9割は

後方のアパートに移転した。

(写真)大気汚染モニタリング・パネル

(写真)見渡す限り広がるゲル地区

Page 16: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 41 -

期に高くなり、特に市北西部のゲル地区の大気汚染濃度が最も高い。

<局長等の説明概要>

市の大気汚染の主な発生源は、市郊外のゲル地区でたかれる生の石炭の排煙が8割、中

古輸入自動車・移動発生源からの排ガスが1割、市内の3つの大きな火力発電所(第2、

第3、第4)からの排煙が約6%と推定されている。毎年約4万人が地方からUB市に流

入してゲル地区に居住し、国の人口の約半数の140万人がUB市に集中し、大気汚染が進

行している。モンゴル政府は大気汚染対策として、世界銀行の協力でゲル地区のストーブ

の改良等に取り組んでいる。市では、JICAの協力による当プロジェクトで、1期目で

大気汚染の実態把握から始め、2期目で職員の分析能力強化に取り組んできた。今後実施

が決まっている3期目では、大気汚染対策実施能力の強化を図る予定である。

<質疑応答>

(Q)人口流入を止める方向での議論はないのか。

(A)2017年1月に市長令が出され、①UB市への原則移住禁止(2018年 1月 1日まで)、

②住宅地区を画定し、同地区外の新規住宅建設を禁止、③市内を4ゾーンに分け、最

も大気汚染がひどく市内への影響が大きい地区では石炭ストーブを禁止する等暖房設

備の使用条件を設定することとされている。

(Q)大気汚染による健康被害にはどのようなものがあるか。

(A)WHO等の調査により、呼吸器疾患が冬期は夏季の5~10倍に増えることが明らか

になっている。他の疾患のリスクについても今後明らかになってくると思う。

(Q)大気汚染対策には交通政策やエネルギー政策などの取組も必要と思うがどうか。

(A)そのとおりであり、首相直轄で全省庁・関係機関から成る「国家大気汚染低減委員

会」を設置し、2017 年から 2021 年までの計画を策定している。主なものとしては、

今年は固定発生源である地区暖房ボイラー施設(Heat Only Boiler:HOB。市内約

200か所に設置)を廃止して中央暖房系統に接続する施策が積極的に実施されている。

今後、大きな発生源としてのゲル地区対策として、電力ヒーターの普及も考えられて

おり、関係機関が協力して実施していくことになる。

(Q)石炭ストーブが禁止されるゾーンでの代替エネルギー源の手当はなされているか。

(A)当該ゾーンではHOBの煙突をなくし、石炭をたかず、電気ヒーターを導入するよ

う規制している。市内の民間企業に対しては、収入を得ているという面から、石炭を

燃やす施設を持たないよう規制しているほか、環境に優しい先端技術の導入を義務付

けている。モンゴルのビジネス環境・経済は現在厳しいので、新規に投資させること

よりも、稼ぎに対して規制を徹底することを主に行っている。500 人ほどの監査官に

よる温水ボイラーの排ガス測定・改善命令等も実施している。解決方法としては、可

能な限りHOBを廃止して中央暖房系統に接続することを奨励している。

Page 17: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 42 -

10.国立がんセンター(ボランティア派遣)

(1)事業の概要

国立がんセンターは、がんの研究、医療従事者の研修、医療サービスの提供を目的とし、

1961年に設立された国内で唯一のがん専門病院。

2011 年に青年海外協力隊員(看護師)の派遣を開始し、現在、2017 年3月から2年間

派遣されている看護師が、①質の高い看護サービス提供を目指し、日本式の看護について

同僚の看護師に紹介・指導、②患者に対する看護ケアについて、同僚看護師や患者家族に

指導、③看護記録の作成法の普及活動を実施している。

(2)視察の概要

派遣団は、9月18日、国立がんセンターを訪問し、所長及び青年海外協力隊員から説明

を聴取した後、センター内を視察した。

<所長の説明概要>

病床数は 230 床。患者の半数は地方からで、年間外来患者数は 10 万人以上、年間入院

患者数は1万人以上である。がん患者数は増加傾向にあり、肝臓がんが最も多い。社会主

義時代の注射針の使い回しが一番の原因である。日本では、食道がん、前立腺がんなど加

齢によるものが多いのに対し、モンゴルのがんの原因は明確で、予防できるがんが6割を

占めている。全国的な肝臓がん撲滅キャンペーンで早期発見・早期治療に努めている。

2011年以来継続的に派遣いただいている青年海外協力隊の看護師により、それまで医師

の指示で注射を打つ等だけだった看護師の仕事が、患者の容態をよく知り、医師に伝え、

医師と一緒に患者を治療する存在へと変わった。長年培われた意識を変えるのは時間がか

かるので、継続的な支援は有り難い。

<青年海外協力隊員(看護師)の説明概要>

日本式看護の紹介、特に問題解決思考型看

護記録の定着に向けた普及活動等を要請され、

活動している。「安全対策」、「感染予防」、「褥

瘡(床ずれ)予防」、「看護記録」の4委員会

を立ち上げ、勉強会の実施等活発に活動して

いるのが当センターの強みだが、前日の看護

記録が十分生かされていないこと、注射に関

する仕事が多く患者と接する時間が十分でな

いこと等が課題である。今後、患者中心の看

護も伝え、他の隊員とも協力しながら広くモ

ンゴル国民の健康増進にも貢献したい。

(写真)青年海外協力隊員から看護記録の説明を

受ける

Page 18: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 43 -

11.第4火力発電所(有償資金協力)

(1)事業の概要

モンゴルでは、老朽化している自国発電設備では需要を賄えず、不足分をロシアからの

電力輸入に依存。モンゴル最大の発電容量(全国の過半を占める)を持つ第4火力発電所

に対し、民主化直後の 92 年から無償資金協力及び有償資金協力による発電設備の改善事

業、専門家・ボランティア派遣を実施している。発電効率の改善により、温室効果ガスや

大気汚染の原因ともなる排気ガス低減への寄与も期待されている。

・案件名:ウランバートル第4火力発電所効率化事業(円借款42.01億円)

・実施期間:2013年 11月~2018年末工事終了予定(実施中)

・概要:①タービン調速機・制御システムの更新、②煤吹機(スーツブロア。ボイラーな

どに付着する煤やダストを除去する装置)の設置、③微粉炭機ローラの更新、④コンサ

ルティングサービス(詳細設計、施工監理等)

(2)視察の概要

派遣団は、9月18日、第4火力発電所を訪問し、副所長、主任技師及びコンサルティン

グサービスを担当する電源開発(J-POWER)から説明を聴取した後、現場を視察し

た。

<説明概要>

当発電所は 1983 年に運転開始し、現在の発電容量は 700MW、100%国営企業である。

モンゴル中央地域の電力の68%とUB市の集中暖房用温水の60%を供給している。旧ソ連

の技術で建設され、民主化後は日本の援助を受けており、今回の案件が完了すると、6あ

る全てのタービンとボイラーが全自動化される。作業員は現場で必要な研修を受けながら

作業に当たっている。

<質疑応答>

(Q)この案件が完了すると、日本の火力発電所と同程度のものになるのか。

(A)モンゴルは安価な自国産の石炭を使うので、日本のように効率を上げることよりも、

発電所の安定的運営を目指しているといった違いはあるが、今回の支援事業で設備が

最新化されるので、日本の発電所と同等の信頼性になる。

(Q)集中暖房用温水の配管がかなり古い印象を受けるが、モンゴルには発電の効率化と

同時に、熱供給の効率化というような考えはあるか。

(A)我々は電力の生産者側であり、発電の際に出る熱と温水を消費者まで届けるのは、

別の国営企業である熱供給公社の管轄である。ともにエネルギー省の所管であり、政

策的なことは同省の管轄となっている。当発電所からは80度の温水を市内にある熱供

給公社のサブステーションに供給し、同公社がそれを約100度に温め直して各家庭等

に供給している。

Page 19: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 44 -

12.太陽橋(無償資金協力)

UB市では急速な車社会への移行が進行

し、市内の道路交通事情が悪化している。特

に、市内を東西に分断するモンゴル鉄道をま

たぐ2つの橋は老朽化し、効率的な道路交通

網の構築に大きな支障となっていた。本事業

で、鉄道をまたぐ新たな高架橋を建設するこ

とにより、同市内の車両交通が改善され、物

流の輸送力強化・安定化・効率化に寄与して

いる。この橋は、日出ずる国・日本にちなみ

「太陽橋」と命名された。

・案件名:ウランバートル市高架橋建設計画(無償資金協力37.52億円)

・実施期間:2009年5月~2012年 10月

(写真)太陽橋と記念碑

Page 20: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 45 -

第4 意見交換の概要

1.ガラムジャブ国家大会議自然環境・食糧・農牧業常任委員会委員長

派遣団は、9月16日、国家大会議のガラ

ムジャブ自然環境・食糧・農牧業常任委員

長を訪問し、同席したニャムバータル国家

大会議議員とともに意見交換を行った。そ

の概要は以下のとおりである。

(ガラムジャブ委員長)今年モンゴルと日

本は外交関係樹立 45 周年を迎えた。

我々は日本を「第三の隣国」として最

も信頼している。また、モンゴル国民

は日本国民に日頃から感謝している。

(派遣団)今年は是非私達もモンゴルを訪問したいと思っていた。今後のODAがより良

いものとなるよう貴国の様々な状況を伺いたい。

(ニャムバータル議員)市場経済化後の苦しい時期に手をさしのべてくれたのが日本であ

り、日本からのODAは全般的に有効であった。特に教育分野の支援に感謝している。

市場経済化後、ロシアの支援が途絶え、40万人都市として計画されたウランバートル

市の人口も130万人まで膨れあがる中、学校建設を始め教育、農牧業、都市開発分野

等のプロジェクトが実施され、モンゴル国民に大きな助けとなった。市場経済化後に

安定したエネルギー供給が困難になった時期も日本のODAに助けられた。また、先

日、北朝鮮がミサイルを発射して日本国民を驚かせたが、我々モンゴルの政治家は非

常に残念であると考えている。北東アジアにおける安全保障に関する様々な協議をウ

ランバートル市内で開催することになれば、我々は協力を惜しまない。

(委員長)私が所属する人民党が2016年に政権を引き受けた当時の経済状況は大変悪化し、

大きな財政赤字も抱えていた。貴国には我が国への8億5千万ドルの低利融資を御決

断頂き、感謝申し上げる。現在政府はIMF指導下で経済の立て直しに取組中だが、

経済成長率は6%にまで改善しており、適切な政策の実施に加えて、日本政府とIM

Fの支援の成果と確信している。目下の課題はウランバートル市の暖房、上下水等の

インフラ整備が人口増加に追いついていないことである。下水処理施設の改善プロジ

ェクトを是非実現させてほしい。下水処理場周辺の悪臭はひどく、未処理の排水が河

川に流入するなど、市民生活を脅かしている状況にある。これまでも支援がなされて

いるが、成果が上がっていない。3年前JICAが中央下水処理場の課題を調査し、

増設の提言を受けたが、現在は新施設を作らないといけないまでに状況は悪化してい

る。昨年視察した横浜市のコンパクトで合理的な技術による下水処理施設をモンゴル

(写真)ガラムジャブ委員長との意見交換

Page 21: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 46 -

に適した形で導入できればと思うので、支援願いたい。また、丈夫で長く使えるコン

クリート製の道路建設、農牧業分野における人材育成等についても協力願いたい。

(派遣団)我々がモンゴル入りした9月15日に北朝鮮がミサイルを発射し、日本領空上空

を越える事態が発生した。北朝鮮には、是非、国連安保理決議を遵守し、対話の前に

ルールを守ってほしい。特に核とミサイルだけでなく、北朝鮮は日本人を拉致してい

る。このような問題解決に向けた貴国からの働きかけをお願いしたい。

(派遣団)下水処理施設プロジェクトに着手したにもかかわらず、実行できていない理由

は何か。

(委員長)モンゴルは社会的、経済的に移行中で、様々な問題を乗り越えなければならな

い。最大の問題は、公務や役職に就いている者の倫理感、責任感のなさだと思う。ま

た、政党が成熟しておらず、政策の継続性が維持できない。無責任な態度が蔓延して

おり、例えば、中国製の安物のポンプを高く買ったことにし、使い物にならずに放置

したり、品質の悪い下水管を購入し、1年以内に破裂するといった悪循環にはまって

いる。我々は与党でありながら、国を良くしたいとの強い思いから首相解任決議案を

提出し、9日前に内閣を総辞職させた。今後、新首相が決まることになる。

(派遣団)下水道についての横浜市のお話があったが、静岡県浜松市では下水処理施設の

運営をコンセッションで民間委託した。民間の力の活用は日本にとっても重要である。

先程、下水処理施設プロジェクトが進まない理由に政治の不安定さを挙げられたが、

こういう所に平等な民間の知見などを入れる事が大切と思う。ODAは要請主義であ

る。まずは貴国での努力と対応に期待したい。

2.ボルガントヤー大蔵副大臣との意見交換

派遣団は、9月18日、ボルガントヤー大蔵副

大臣を訪問し、意見交換を行った。その概要は

以下のとおりである。

(副大臣)現在、モンゴルの政局は困難な時期

に差し掛かっている。昨年発足した内閣が

総辞職し、また、現在モンゴル政府はIM

Fその他の機関の支援を受けており、日本

からも最大8.5億ドルの支援をいただくこ

ととなっている。今年の経済成長率は当初2%と予想したが、本年上半期は 5.3%と

なった。IMFプログラムの実施のもと、他ドナー国・機関からの支援及び鉱物資源

の価格上昇が主な要因と見ているが、日本政府の支援のお陰と感謝している。

(派遣団)東日本大震災での多大なる支援に感謝申し上げる。日本のODAに対する評価、

特に国税庁の徴税機能強化プログラムに対する評価、その他何か御意見があればお聞

かせ願う。

(写真)ボルガントヤー大蔵副大臣との意見交換

Page 22: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 47 -

(副大臣)IMFプログラムの一環で日本からは最大の支援をいただいており、この財政

支援は社会経済問題、モンゴルの投資環境の整備等の財政支出に使おうとしている。

また、財政支援を受けるに当たっては、ポリシーマトリクスを策定し、関連する法整

備を行っているほか、モンゴルの課題の設定にJICAの支援をいただいている。国

税庁における徴税事業は第2フェーズが2017年1月から開始したが、元々この事業は

2013年から第1フェーズが開始し、国税庁職員の能力強化、透明性向上の為のセミナ

ーを行ってきた。特にウランバートル市での取組に事業協力をしており、ウランバー

トル市徴税職員の能力は中級レベルと評価している。第2フェーズでは新たに46名の

国税庁監査官の能力を国際スタンダードの最高レベルに引き上げるべく参加させてい

る。ウランバートル市2区において、税の徴収に関する監査機能についても取り組ん

でいる。我々は、この事業により徴税金額が増加し、関連法整備にも具体的効果があ

ったとみている。2016年1月から付加価値税の徴収に関する能力強化を行い、個人レ

ベルの税収も増収する効果が現れた。特に、税の関連機関における課題については、

いかに効率的に監査を行い、税収を上げるかにつき、明示的に効果が現れてきた。ま

た、2018年1月からIMFプログラムの一環で、酒税も増税する予定だが、その後し

っかり監査・管理を行うことが課題である。酒類の密売には脱税を阻止する対策を学

ばなければならず、その意味でも我々はこのプログラムを評価している。秋口には各

種税法の改正法案を上程し、審議する予定である。また、2017年までに二重課税防止

の租税条約締結を目指しており、その意味でもこのプログラムは役立つ。

(派遣団)昨年、日・モンゴルEPAが発行したところ、両国の企業間交流の更なる活性

化に期待する。そこで重要なことは、モンゴルで日本企業が安心して活動できること

である。モンゴル国内の民間企業の会計監査制度をしっかりしてほしい。それが充実

すれば、税収も上がり、モンゴルも発展すると思う。今回、ウランバートルの活力あ

る街並みを見ることができた一方、大気汚染、下水道整備、道路整備など課題もある

と感じた。

(副大臣)モンゴルは人口が非常に若い。人口の39%を19歳未満が占め、35歳以下の人

口が全人口の60%である。だが、その若者の多くがウランバートルのような都市に住

むことを望み、大気汚染、インフラ整備等の問題が生じている。この問題を解決する

ため、ADB、JICAなどの協力により、インフラに関する協力事業を度々実施し、

取り組んでいるが、多大な資金の支出を伴う。日本は高い技術力を持った国なので、

大気汚染や交通渋滞などの問題解決に資する技術を学ぶことが今の目標である。

(派遣団)問題解決には両国がそれぞれ努力をすることと思う。モンゴル国の皆さんと足

並みをそろえて努力したいと思うので、よろしく願う。

3.モンゴル日本友好議員連盟との意見交換

派遣団は、9月18日、モンゴル日本議員連盟所属のルンデージャンツァン議員(元国家

大会議議長)、エンフアムガラン議員(議連副会長)、ビレグト議員、オンダルマー議員及

Page 23: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 48 -

びオヨーンダリ議員(元外務副大臣)と意見交換を行った。その概要は以下のとおりであ

る。

(モンゴル側議員)最大のドナー国であ

る日本のこれまでのODA及び今回

の最大8.5億ドルの財政支援に感謝

する。日本からの直接投資について

も更なる御支援を賜りたい。

(派遣団)東日本大震災に際しては多大

な支援をいただき感謝する。昨年日

本モンゴルEPAが締結されたが、

更に両国の関係が活発化することを

期待する。

(派遣団)皆様には、北朝鮮に対し、拉致、核、ミサイル問題に関し、国連安保理決議の

履行を強く求めていただきたい。

(モンゴル側議員)モンゴルには韓国と北朝鮮双方の大使館がある。朝鮮半島問題の解決

については、できるだけ北朝鮮の体制を民主化させることが必要である。その意味で、

全ての課題の解決に対話を行うこと、そのための六者会議が必要と考える。我が国の

提案で2017年6月にウランバートル対話が行われ、日本、韓国、中国、北朝鮮の代表

団が意見交換を行った。核ミサイル問題に特化せず、全分野の課題につき対談した。

(派遣団)貴国の努力に敬意を表するが、大変情勢が緊迫している。我々が北京経由でウ

ランバートル入りする日に、北海道上空を北のミサイルが通過した。その前には6回

目の水爆と言われる核実験が行われた。何と言っても我々は100人近いとも言われる

日本人が北朝鮮に拉致された事実がある。対話のために、まずはミサイル、核実験を

停止してほしい。そのための国連安保理決議を受け入れるという意思表示を北朝鮮に

してもらうべく、貴国の努力を引き続きお願いしたい。

(モンゴル側議員)モンゴルは北朝鮮から年間約300人の労働者を受け入れているが、背

景には、モンゴルの民主化以降の変化を北朝鮮の労働者に見せ、北朝鮮が内部から徐々

に変わる可能性を狙いとしている。朝鮮半島のあらゆる問題の解決に向け、あらゆる

レベルであらゆるツールを使って認識してもらいたいと考えている。

(派遣団)北朝鮮ときちっと対話をしたいと日本政府、我々超党派の国会議員団も思って

いるが、そのための条件整備として、必要やむを得ざる形での圧力と言う形の経済制

裁を行わなければならない状況にある。まずはロシア、中国、米国も賛成した国連安

保理の決議の遵守は、対話のための最低限の条件である。伝統的に非常に友好的なモ

ンゴルの皆様が北朝鮮に言っていただければ大きな影響力を及ぼすものと思う。

(派遣団)新内閣はどうなりそうか。

(モンゴル側議員)首相は与党人民党の中から指名されるだろう。今後、モンゴルの内政、

国会の安定性を保つため、憲法改正が必要と考えている。1990年にモンゴルが民主化

(写真)モンゴル日本友好議員連盟所属議員とともに

Page 24: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 49 -

されてから16の内閣が交代し、一内閣の平均寿命は1年7か月しかなかった。現行憲

法下では大統領府、国会、内閣の権力が交わる事態も発生しており、何とかしないと

いけない。

(派遣団)憲法改正手続はどのようなものか。

(モンゴル側議員)改正に当たっては規律も厳しく、多くの段階を経る必要があるが、昨

年から議論が活発化している。基本的に5つの改正を考えている。一番大きな改正は

権力の分配で、日本の憲法も参考にする。その他、国会における監査・調査における

調整、国会の安定性の確保、判事の任用年齢等裁判所の運営の変更、地方行政単位の

規定方法の変更である。改正手続には7つの段階があり、現在4段階目で国民の意見

を聴いている。この後、国会で議論することになる。

(派遣団)憲法改正について詳しく伺ったのは、国会の安定性や裁判について触れられて

いるからである。ウランバートル市の下水道が中々改修できないことの理由は、政治

の不安定性にあると感じている。政治の安定性と継続性のないところには、我々もな

かなか援助が難しいのが現状である。EPAなど経済面に明るい兆しはあるが、まだ

まだ日本企業がモンゴルで活動するには改善点があると思う。裁判制度の問題や会計

制度の問題もあると思う。

(派遣団)モンゴルの中小企業が日本の中小企業と同じ会計制度を導入すると、交流が深

まると思う。8年前にNGOでモンゴルへの日本の会計制度の導入を働きかけ始めた

が、現在帳簿整備は任意である。税理士が帳簿をチェックする制度を作ると日本の中

小企業は非常に取引がしやすくなるし、モンゴル政府が徴税する仕組みが出来、国の

利益になるだろう。また、議会の仕組みを変え、不正をなくす仕組みを作ることは必

要だが、どんな仕組みを作っても、我々国会議員が奉仕の心にならないと国は変わら

ない。

(モンゴル側議員)モンゴルの投資環境は他国より競争力がある。また昨年仲裁制度に係

る法案が可決され、モンゴルのあらゆる問題を仲裁制度で極力解決できるようになっ

た。モンゴルでは農牧業を始めとする中小企業が8割を占める。そのため会計制度を

より簡単に、わかりやすくすることが肝要である。中小企業が一番直面している課題

は資金繰りで、ツーステップローンの増額を政府に要望している。汚職についても指

摘があったが、国でも民間でもオープンに物事を見られるようになれば良い。特に国

営企業が問題である。

(モンゴル側議員)日本の中小企業は100年以上の歴史があるが、モンゴルは民主化され

てまだ27年である。日本では中学・高校で財政規律について教えているか。

(派遣団)小中高それぞれの発達段階に応じて簡単に教えてはいる。これからもっと教え

ていかないといけないと思う。

(モンゴル側議員)日本とモンゴルのビジネス協力の発展を願っている。要望だが、モン

ゴル企業とのビジネスの契約に、仲裁で問題を解決するとの記述があれば、モンゴル

の裁判所を飛ばして直接国際仲裁裁判所に持ち込めるので、日本側は国際基準で問題

を解決できる。

Page 25: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 50 -

(派遣団)腹を割って話すことができた。今後ともよろしく願う。

(モンゴル側議員)当議連は国会の中でも有力な議連である。我々は2020年より前にでき

る限り公的環境、裁判制度、財政規律等を整えるつもりである。憲法改正に伴い法整

備もなされるだろう。問題はたくさんあるが、徐々に解決する所存である。今後とも

よろしく願う。

4.帰国研修員同窓会長等との意見交換

JICAはモンゴルから年間200名以上の

研修員を受け入れており、その数は延べ

4,000 名以上である。モンゴルでは、帰国研

修員同窓会がフォローアップ・セミナー(教

育、保健医療、環境、農牧業、税務、ビジネ

ス等の分野別)を行い、日本での研修の成果

を全国各地に普及している。

派遣団は、9月 16 日、帰国研修員同窓会

のオヨーンバータル会長(元副首相、前国家

大会議議員、人民革命党副党首)を始め、事

務局長・役員・会員ら計6名と懇談し、フォローアップ・セミナーなどの活動状況につい

て説明を受けたほか、司法・税務分野等における協力の成果、中小企業の発展に資する研

修の必要性等について意見交換を行った。

5.青年海外協力隊員等との意見交換

派遣団は、9月17日、モンゴル各地で活動す

る青年海外協力隊及びシニア海外ボランティア

計7名(職種:体育、小学校教育、日本語教育、

障害児支援、理学療法士、看護師、経営管理)

と懇談し、それぞれの活動状況や課題等につき

意見交換を行った。

6.モンゴル日本人商工会役員との意見交換

派遣団は、9月 17 日、モンゴル日本人商工会役員(三菱東京UFJ銀行、三井住友銀

行、住友商事、伊藤忠商事、双日、三菱商事)と懇談した。

なお、商工会側の挨拶において、

・IMFの管理下に置かれたモンゴルに対し、日本政府から今後3年間で最大8.5億ドル

の財政支援型円借款が行われることに伴い、その間日本からモンゴルへプロジェクト型

(写真)帰国研修員同窓会長等との意見交換

(写真)青年海外協力隊員等とともに

Page 26: Ⅲ モンゴル国における調査- 26 - Ⅲ モンゴル国における調査 第1 モンゴル国の概況 (基本データ) 面積:156万4,100 (日本の約4倍) 人口:311万9,935人(2016年モンゴル国家統計庁)

- 51 -

円借款が行われなくなると聞いており、

これまで日本側が実現可能性を調査して

きた案件を他国が扱うこととなる懸念が

ある旨

・信頼して取引できるモンゴル企業はまだ

少なく、モンゴル企業から日本への輸出

を増進するためには引き続き技術支援が

必要である旨

の指摘があった。

7.新モンゴル学園訪問

派遣団は、9月18日、新モンゴル学園を

訪問した。同学園は、ガルバドラフ理事長

が日本留学後の 2000 年にウランバートル

市内に創設し、国際水準の教育を目標に、

日本語教育・日本式の教育を取り入れた小

中高一貫の私立学校である。新モンゴル高

校からは、2017 年の参議院 70 周年記念論

文に10名の応募があり、うち1名が優秀賞

を受賞している。派遣団は、理事長、校長

及び応募者と面会し、馬頭琴の演奏で歓迎

を受けた後、将来の抱負等について懇談し

た。

(写真)参議院70周年記念論文応募者とともに

(写真)モンゴル日本人商工会役員とともに