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活動報告書一覧へ戻る 建設コンサルタントの役割に関する研究 平成7年3月 土木学会 建設コンサルタント委員会

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建設コンサルタントの役割に関する研究

平成7年3月

土木学会 建設コンサルタント委員会

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目  次

1 「建設コンサルタントの業務領域」について

1.1 業務領域問題の本質・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  1

1.2 建設コンサルタントの基本的な姿勢・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  1

1.3 解決すべき課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  2

 付) 詳細設計における役割分担・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  3

2 発注者支援方式(CM)の諸問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  4

2.1 公共工事における発注者支援(CM)の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  4

2.2 発注者支援(CM)業務の問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  6

2.3 日本型CMのあり方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  8

3 設計VE ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12

3.1 設計VEの定義と活用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12

3.2 設計VEのメリット ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

3.3 設計VEの課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14

3.4 設計VEr の資格と要件 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15

4 建設コンサルタントの役割を果たす上での諸問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16

4.1 建設コンサルタントの役割の履行 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16

4.2 質の向上に向けた JV 制度への期待 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17

  

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はじめに

平成 4 年 11 月に発足した第 4 小委員会は、建設コンサルタントの中長期ビジョン「ATI 構想」が

策定されて丸 3 年経ち、そこに掲げられている将来像をどのように実現したらよいのか、誰もが暗

中模索の状態であった。建設コンサルタントの建設事業執行における役割など周知が進まず、いか

にして建設コンサルタントという職業に「技術的」「経済的」「社会的」な魅力を取り込むかから議

論をスタートさせた。

建設コンサルタントがある程度公に知られるようになったのは、上場企業が増えたことも大きい

が、1996 年(平成 8 年)1 月に発表された「公共工事の品質に関する委員会報告書」において、建

設コンサルタントが「設計者」と言う表現で、発注者、施工者と同等に扱われたことであろう。そ

の前年の 5 月には、「公共土木設計業務等標準委託契約約款」が策定され、発注者と受注者との関

係で、権利・義務・責任面でかなり明確な規定がなされた。とりわけ、建設コンサルタントの人格

を認めた瑕疵賠償責任の厳しさと著作者人格権の規定は、自立意識および自己責任意識の醸成に極

めて大きな影響を与えることとなった。

この期間は、多様な建設生産システムが研究され、試行された時期であったため、建設コンサル

タントの果たすべき役割を調査研究の主題とする当委員会では、テーマがめまぐるしく変った期で

もあった。

このような観点から、第 4 小委員会は、できるだけ第三者的な立場に立って、日本に新たな建設

生産システムを導入することのメリット、デメリット、適した分野、プロジェクト形成の要件など

を扱ってきた。それらを、ここでは、プロポーザル方式の実態と問題点、発注者支援(CM)方式、

設計 VE、そしてその他の問題に集約してまとめた。なお、DB については第 4 期の活動成果に報告

されているので、参照頂きたい。

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1.『建設コンサルタントの業務領域』について

1.1 業務領域問題の本質

平成6年1月に「公共事業の入札・契約制度の改善に関する行動計画」が閣議了解され、平成6

年度より工事だけでなく、コンサルティング業務にも新しい入札・契約制度が導入されることとな

った。

今回の改訂では、「透明性」「客観性」「競争性」という公共事業に対する基本的な要素を高める

仕組みを、より強化しようという基本方針が設定されている。これまでの慣習で業務を遂行するこ

とが、第三者から見て不自然に感じられるのは、今後は許されない。

今回の改革の柱は、業者の選定方式の改善にあるが、一方では不正行為の防止、中でも建設コン

サルタント業務における「再委託の禁止」も重点項目の一つとなっている。特に設計段階における

建設コンサルタントと建設業者・製造業者(以下、ゼネコン・メーカーと呼ぶ)との不明瞭な関係

が、関係各位の間での論議の的になっている。建設コンサルタントは、あくまでも中立・独立性を

堅持し、建設事業を効率よく質高く推進していく使命を帯びており、業務領域を明確にし、その適

正な執行を担保するシステムを構築することが緊急の課題である。

設計業務は、建設事業の進捗に応じて、内容が具体的となり、一般的には次図に示すように、多

段階の設計行為を通じて完成に向かう。再委託の問題が指摘されるのは、このうちの「特殊施工設

計(仮称)」部分であり、図中の注記のように、建設コンサルタントとメーカー、ゼネコンとで曖

昧な領域が形成されていると言われている。

コンサルタント 曖昧な領域 メーカー、ゼネコン

概略設計 基本設計積算のための

詳細設計

施工のための

詳細設計施工

場合によっては、部分的にメーカー、ゼネコンからの情報が必要なこともある。

部分的にメーカー、ゼネコンからの情報が必要となる。

特殊施工設計を含む詳細設計の場合、”コンサルタントの詳細設計は、施工に使えない。”との表

現が使われることがある。この特殊施工設計を含む詳細設計は、コンサルタントでないと構造物全

体の設計はできないが、特殊施工部分は、メーカー、ゼネコンの情報がないと設計できない部分で

ある。昨今の建設事業の複雑化、高度化、建設工事の技術革新などが進むと、施工を含む設計業務

も、単に土木技術だけでなく、建築、機械・電気等多面に渡る技術が必要となっており、それが問

題を一層複雑にしている。

1.2 建設コンサルタントの基本的な姿勢

今回の調査および討議を通じて得られた「建設コンサルタントの基本的な姿勢」をまとめるとつ

ぎの通りとなる。

建造物は総合的な観点から評価して、合理的(経済面、施工面、構造面、環境面、景観面など)

となるように設計しなくてはならない。すなわち、総合的な能力を発揮し、計画段階から施工段階

まで一貫した設計思想を保持して詳細設計は行われるべきである。ただし、この段階での詳細設計

図は、本体の諸元が明確となり、施工可能な水準にあれば良く、構造詳細図や施工詳細図などはな

くても構わない。このようにすることにより、設計工期の短縮、チェックの充実による信頼性の向

上などトータルな意味で、早期工事発注や早期運営など建設事業全体の合理化につながる。

また、設計業務の積算の段階で施工計画を組み込み、施工管理経験の豊富な技術者を適正に業務

に編入できれば、建設コンサルタントは所定の目的を達成し得る施工計画を提示できる。

特殊施工設計

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建設事業の一部をコーディネートする立場にある建設コンサルタントは、建造物を最終的な形に

するための設計技術を保有していることで、より高度な計画を立案できる。すなわち、建設コンサ

ルタントはものをつくる技術を持っていることで、「どこのメーカーの製品を使用するのが当該事

業にとって最適か」について、正当な発言と望ましい結論へと導くことができる。

一般的には施工を考えない詳細設計は有り得ない。また、詳細設計と施工計画を切り離すことは、

施工業者に発注するに際して適正な価格を積算できないこと、詳細設計において単純なミスの増大

とか技術力の低下などを招き、将来的に『設計・施工の分離』の原則が犯される危惧が生まれる。

したがって、施工設計は基本的には設計の一部であり、建設コンサルタントはバランス感覚と取捨

選択の能力を発揮する立場となる。ただし、新技術の開発を伴う特殊なプロジェクトについては、

開発体制を別につくる必要はある。

建設コンサルタントの行う施工設計とゼネコン・メーカーの行うそれを、つぎのとおり定義して

みる。

□建設コンサルタントが行う施工設計

建設コンサルタントの施工設計は、施工業者が未決定の段階で行うものであり、施工費の積

算ができ、通常の施工業者であれば工事を行うことができる設計をいう。

□施工業者が行う施工設計

建設コンサルタントが実施した施工設計を基本に、工事を受注した建設業者が自社保有の資

機材と施工ノウハウを駆使して実際に施工できる水準で行う設計をいう。

ゼネコンやメーカーが新しい工法や材料を考えだした時には、カタログを積極的に入手する

などの方法で、建設コンサルタントは情報や知識を蓄える努力をしなくてはいけない。このよ

うに行動することは、建設コンサルタントの責務と考えられる。

1.3 解決すべき課題

建設コンサルタントの業務領域、とりわけ施工に最も近い詳細設計を国民をはじめ多くの関係者

の合意を得る形で執行するためには、長期的な方向を行政が示し、そこに到達するための短期的、

長期的な対応の方策を、行政と建設コンサルタントが一体となって努力する姿を、一刻も早く築く

必要がある。

今後、建設コンサルタントの登録時だけでなく、受注時における技術保証も必要となるかもしれ

ない。コンサルタントの選定システムのほか、専門家の育成、資格の新設、登録制度の強化などが

必要となろう。このような能力を備えるためには、現在実施している施工管理業務の有効な活用や

ゼネコンからのスカウトなどにより、有能な経験者を増やす施策を意識的に展開する必要がある。

つぎには、信頼のおける技術者を適正に配置できるようにしなくてはならない。技術士、RCC

M、一級土木施工管理技士などの資格保有者を積算に適宜盛り込む方策がまず考えられる。国の建

設省直轄の業務から、能力のある建設コンサルタントに発注するシステムをつくって貰えれば、地

方自治体にも徐々に浸透し、より健全な建設事業の執行体制が整うと考える。

また、上級技術者を積極的に活用できる積算体系を築き、異なる文化を持つ外国企業にも理解で

きる論理性をもち、企業努力を健全に続け得る歩掛りに改善するという視点が重要となる。

以上を満たす方向として、例えばつぎのような事項について、入札・契約制度改訂の基本方針に

沿った形で、枠組みを再検討することも一つの進め方である。

□資格審査基準の設定

施工設計業務の技術的なレベルに応じた資格基準を設定し、併せて施工管理技士などの活用

方策を探る。

□再委託の内容の明確化と手続きの改善

・再委託の内容の明確化

技術部門毎に、再委託の許可を必要とする業務、許可を必要としない業務を明確にする。

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・再委託の手続きの改善

再委託を要請する時期と手続き(業務内容、再委託先、金額、担当技術者)を明確にする。

□監視と違反した場合の処置

適正な執行についての監視と、違反した場合の処置について、発注機関および建設コンサル

タント業団体が行う処置の内容を明確にする。

□その他の方策

・選定段階における業務実施可能性、実施体制のチェック機構の整備

・建設コンサルタントの中立・独立性を確保するためのチェック体制の強化

付)詳細設計における役割分担

■建設コンサルタントが詳細設計を行うべきであるとする理由

◆詳細設計は、構造物としての機能性と耐久性、完成諸元、調和性の吟味など詰めと確認を行う段

階であり、そこまでに至った計画背景を含めた総合力と学術レベルを熟知した高度な能力を有す

る建設コンサルタントが担当すべきである。

◆最良案の選定にあたって、使用材料、架設工法などを総合的に評価したうえで客観性と公平性を

確保すべきである。それには、自社の施工技術や得意技術に拘束されない立場にある建設コンサ

ルタントが対応すべきである。

◆工事施行に必要な予定価格を発注者は積算しておく必要がある。公共工事の特性から、事業費や

適正工期の算定は、公平かつ客観的な立場にある建設コンサルタントにしか遂行の権利がない。

◆厳しい制約条件下では従来にない斬新な施工技術を考案する場合が頻繁に起こる。このようなケ

ースでは、特許や著作権に拘らず、自由な発想ができて、設計・施工理論に詳しい建設コンサル

タントが対応すべきである。

◆新素材や新配合などの新しい材料の適用性は、巨大構造物では特に重要な設計要因となる。この

分野については、メーカーや供給業者が詳しいが、複合的な材料で構築する構造物の中でバラン

スのとれた強度設計を行うには、どの材料にも精通した建設コンサルタントがチェックすべきで

ある。

◆建設業やメーカーに自分達の施工する部分を計画・設計させる場合、発注者によるチェックが不

可欠であるが、発注者の照査能力が喪失している場合には、建設コンサルタントが担当せざるを

えない。

■建設事業の合理的な執行からみて建設業やメーカーの能力も活かした方が良い領域

◆本体設計においては機能性と耐久性の確保が最優先されるべきであり、総合技術力を有する建設

コンサルタントが対応すべきであるが、特に施工技術に関しては、建設業が詳しいため、工事入

札時に彼らの照査に委ねるのが確実な方法である。

◆附属設備の計画においては、構造物特有の検討も必要となる。メーカーは、部分的な深い知識を

有するため、その特性については、ヒアリングを通じて資料提供を依頼するのがよい。

◆鋼材市場は今後、輸入材の使用が促進されると予想され、材質仕様の公平性の確保には、建設コ

ンサルタントを活用すべきである。ただし、鋼材の詳細な知識は建設コンサルタントには不足す

るため、メーカーにヒアリングする必要がある。

◆工費の算定において、特殊な附属設備ではメーカーに見積りを依頼しないと正確な単価を把握で

きない。発注者としては、正確な市場価格を把握する必要があり、第三者を介するのが最も公正

性を確保する道である。

◆基本寸法・諸元や主要断面(鋼材量も含む)、標準施工法は建設コンサルタントが立案し、工事発

注用の特記仕様とすべきである。入札プロポーザルにVE設計を含め、建設コンサルタントのチ

ェックを通して、提案工法を採用すれば、より経済的とすることができる。

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2.発注者支援方式(CM)の諸問題

2.1 公共工事における発注者支援(CM)の現状

2.1.1 発注者責任

米国では、公共事業の執行にあたって、発注者自らが調査・計画、設計・積算、入札・契約、監

督・検査を行うのが基本であるが、執行体制が不十分な組織、事業量の波が激しい組織、大規模な

プロジェクトを抱える組織などでは、外部の専門家を活用するコンストラクション・マネジメント

(CM)が活用されている。

日本でも、地方公共団体等を中心に、積算、工事管理等に建設コンサルタントや建設技術センタ

ー等を発注者支援業務に活用している。また、国直轄の公共事業においても積算や監督などの支援

業務に公益法人を含めた民間を活用している。

発注者責任とは建設省「公共工事の品質確保等のための行動指針・中間報告」では①公正さを確

保すること、②良質なモノを提供すること、③低廉な価格で提供することと定義している。したが

って、発注者が建設する施設に関して専門技術を有した要員を十分に確保して計画から竣工までを

マネージする能力を有することが責任の履行条件である。

この責任を履行する上で、人、技術、体制などの面で不十分な組織では、複雑・高度、大規模、

突発的などキャパシティーを越える状況が出現した場合には、発注者支援方式を採用することが、

有効であり、また必然の姿となる。

2.1.2 CM 的業務の実態

わが国においては、発注者の補助としての「監督員補助業務」といった名称で CM に近い業務を

正式契約に基づいて実施する場合から、設計説明、設計変更の一部といった曖昧な形で監理までさ

せられているアフターサービスまで、さまざまな形で CM 的な作業をしているのが現状である。

以下に、こうした CM 的な作業の実態、問題点のいくつかを示す。

[事例 1]○○ダム(直轄)のグラウチング工事監理

概要:請負工事の場合、設計図に基づいて施工する構造物を監督員が監督し、出来形を検査して完

成する。ダム工事もほとんどの工種は、こうした形で工事が進められるが、基礎処理グラウ

チングについては、当初発注時には、施工範囲、改良目標が示されるだけで、施工者の独自

の判断で工事を進めていくことはできない。また出来高は、材料の使用量と、労務の拘束時

間によって清算する方式であり、施工順序、注入方法、実施要領等全てが、監督員の承認事

項となっており、外部からの監督補助員に負わざるを得ない。

作業内容:パソコンを使った施工管理システムを現地に設置して常駐し、監督職員を補助する業務

で、日常の作業内容は以下の通りである。

      ①システムのメンテナンスおよび日々提出される注入実績の整理・登録。

      ②施工仕様、実施要領の作成、更新。

      ③実績図作成、出来形集計。

      ④追加の要否判定、発注者への提案。

      ⑤作業状況巡視、監理。

      ⑥工程調整等の所内会議参加

問題点:実態は、監督員と同等かそれ以上の監督行為をおこなっているが、権限がないため、現場

での速やかな判断・対応ができず、工事遅延を来す原因となり、工事請負者とのパワーバ

ランスも良くない。

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[事例 2]地方都市の道路(道路、橋梁、擁壁)実施設計

作業内容:IHE から施工業者に対して「不明点はコンサルタントに聞け」と言われていることが多

く、本件の場合、問い合わせ、トラブル等の相談を受け、想定地質との違いに伴う設計

変更(杭打ち等)の対応を行った。また会計検査対応(事前説明、資料作成、検査会場

近くで待機)も合わせて実施した。

問題点:間接的にアフターサービスを強要されたケースであり、責任の所在が不明である。

[事例 3]○○市地下鉄工事

概要:過去 15 年に渡る施工管理の実態を踏まえ、この市では「地下鉄工事施工要領」が定められ

た。その業務範囲は、つぎの通りである。

     ①駆体の施工に関する一切の測量の管理計測

     ②床付けから駆体完成までに至る工種の施工・品質・出来形・工程

     ③前記①、②に係る工事の安全管理

     ④前記①、②に係る施工者から提出された書類等の照査および検討

     ⑤その他の設計図書の示す範囲(山岳トンネル、シールド等)

問題点:業務範囲はかなり限定的にみえるが、安全管理等に関して責任の所在が不明確である。

 

[事例 4]○○市道路整備に伴う橋梁設計業務

概要:特記仕様書では、河川の設計条件は河川管理者である建設省との間で決定済みとなっていた。

しかし実際は、設計業務開始後に協議が必要になった。

作業内容:設計段階では、着手直後、建設省との協議に同行、また協議用の資料の作成も実施した。

施工段階では、建設省の受託工事となり、建設省内部の仮設審査用の書類の作成、説明

対応をおこなった。

問題点:工事発注者(建設省)から、工事内容の変更に伴う設計変更等の依頼が市当局を経由せず

直接設計者にあったため、市担当部局との関係がスムーズにいかず、支障を来した。また、

設計担当の発注者が経験不足のため工事発注者からの要望・指示事項の理解ができず、対

応が遅れ勝ちになった。さらに、施工管理体制が不十分であったため、施工業者との設計

内容の確認等を 4 者(建設省、建設協会、設計者、施工業者)で再三実施することとなっ

た。

 

[事例 5]○○町下水処理場

概要:処理場の施工は町村レベルでは、一般に 3 年程度を要する。

        詳細設計 施 工 施工管理

    1 年目 ①土・建・建築設備設計 -     -

    2 年目 ②機・電設計 ①の工事 ①の施工監理

    3 年目 ③処理場周辺設計 ②の工事 ②の施工監理

4 年目   - ③の工事 ③の施工監理

作業内容:施工工種に応じて専門の技術者が施工管理を担当するが、担当外の工種との取り合いが

日常的に起こり、結局設計開始から工事完了まで、同じ担当者が関わることとなる。処

理場ごとにチームを形成し、完成までそのチームで対応するのが最も効率が良く、3 年

程度の施工監理業務となることが一般である。具体的な作業項目は以下のとおりである。

       ①処理場、ポンプ場、シールド工事の積算業務

       ②処理場、ポンプ場、管渠の施工監理

       ③工事発注計画

       ④会計検査対応

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[事例 6]○○土地区画整理組合の橋梁、造園の計画・設計

概要:発注者の組織は、理事長 1、事務局長 1、事務員 2(非技術系)であり、発注者技術者が一人

もいない。

作業内容:河川協議は公式に申請者の代理人として協議に参加、設計変更の受付け、処理等の実施、

竣工時の立会い、提出書類の作成整備をおこなった。

問題点:設計のアフタケアとしての位置づけであり、責任が曖昧であった。

2.2 発注者支援(CM)業務の問題点

2.2.1 現行支援業務の問題点

わが国では、現在まだ CM 的な業務は定着しておらず、発注者によって単なる無償のサービスを

設計に付随して期待するものから、ある程度の基準を設けて監督補助を業務として発注するものま

でマチマチである。今後発注者側において施工監理を行う IHE の絶対数が不足することは明らかで

あり、それを補完する CM 的業務を正しい方向に導き、定着させる必要がある。

そのためには、国際会における最低限のルールづくりと従来の慣行の払拭がベースとなる。

① 業務範囲と責任の明確化

発注支援(CM)の業務範囲を明確にし、監督権限を有する事項、発注者に報告し、決済、

判断を仰ぐ事項を定める。

② 施工監理要領の作成

発注支援(CM)の業務範囲について、具体的に監理要領を定め、施工者とのトラブルが起

きないようにする。

③ CM 技術者のための資格要件の整理

現在は、技術員または、技師C程度の技術者が CM にあたっている(一部では、土木施工

監理技士を必要資格としている)が、責任と業務の重要性に照らして、発注者支援者(CMr)

の資格要件を整理する。例えば TECRIS 等の DB で人材情報を検索できるようにすることによ

り、CM を適正に執行できる環境をつくる。施工経験が豊富な施工技術者への CM 技術者とし

ての活躍の場を提供する必要もある。

④ 歩掛りの標準化

現在は、直接人件費+経費の構成であるが、CM ツール、企業ぐるみでの支援に要する費用

を含めた経費を適正に積算する。

⑤ 補助事業での施工管理の充実

発注者に技術者が不足している場合には、品質確保のため施工管理を委託する制度を確立

し、補助事業での施工管理条件を明記する。

⑥施工管理ツールの作成

一定の精度を確保し、効率的な施工管理を行うため、標準的な施工管理ツールを開発し、

建設 CALS/EC を活用して運用する。この施工管理ツールを利用することで、会計検査が簡易

となる助成策を作成する。

⑦その他

“CM より DB のほうが全体的なメリットが大きい”とか“CM には設計者より建設業が担

当する方が適切である”といった根拠を質す。

2.2.2 新建設生産システムとの関係

技術者の要員数および体制が不十分な地方公共団体では発注者の責任を果たせなく、また最近の

事業量の削減と建設工事コストの縮減の中で、建設コンサルタント、施工業いずれも原価の管理が

厳しくなり、地方公共団体においてこれまで民間のサービスで賄われていた領域が「空洞化」する

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傾向にある。結果として、発注者の責任履行能力は低下し、状況はさらに悪化する可能性がある。

したがって、上述の 3 つの要素を満たす上で、現実を直視するとつぎのような傾向が指摘できる。

①公正さを確保すること

・多様な建設生産システムが導入されると、情報の入手が容易となり、談合が増え、競争が上流

工程に移る。このことが、建設業と建設コンサルタントとの癒着を起こしやすくする方向に作

用する。

・責任意識に乏しい自治体では、安易な歩切りが行われ易い。このことが、受託者の経営を厳し

くし、コンサルタントと施工業者との癒着など、新たな抜け道が形成される危険がある。

②良質なものを提供すること

・コンサルタントは長期構想や事業プログラムの策定などで、自治体業務をサービス的に支援し

ているが、必然的にこの面での機能が低下する。

・他のコンサルタントが行った成果の照査など、チェック・支援機能が弱まる。

・他の関連事業者との協議、上部機関への説明用資料作成、会計検査への立ち会い説明および会

計検査用資料の作成など発注者支援機能は低下する。

・建設業の財政難から、地方自治体で問題視されている上受けが不十分となり、手抜きなどによ

る質の低下が起こる。

③低廉な価格で提供すること

・高度な施工法や新技術を業務途中で適用する場合、仮に施工業者の過大な積算があっても、発

注者側はそれを指摘できず、高コスト化を招くこともある。

・ 安易な詳細設計付き施工を採用するケースが増え、上記の現象を助長する。

・ 重層的な下請け構造もあって、発注者は正確にコストをつかみきれない。そのため、建設工事

コストの縮減効果を適正に把握することができない。

2.2.3 発注者責任の履行の方向

発注者が責任を果たすためには、発注者はマネジメント能力と審査眼を磨き、コンサルタントや

公益法人を活用する(能力を買う)ことで、発注者責任を果たす仕組みを構築することが大切であ

る。中でも、コンサルタントが事業の執行を支援する場合には以下の視点が重要となる。

①VE の適正な実施のため、CMr は不可欠である。

  設計 VE や入札時 VE、契約後 VE が試行された。その結果、設計の審査環境(審査方法、審

査メンバー、評価等)が大きく変化してきた。本当にコスト縮減となったのか、どの程度縮減

されたのかを第三者が検討・評価する必要がある。さらに、その設計が正しく施工されている

か否かも第三者がチェックする必要がある、これらが確保され、初めて公正、透明性が確保さ

れる。

②公共工事の品質を確保するために、CMr の導入が急務である。

  地方公共団体においても技術力のあるものが設計、施工を審査しなければならない。すなわ

ち、技術者の資格審査が必要になってきた。地方公共団体では、一般的な公共工事を施工する

ための技術者は限られている。他方、直轄事業においては、特殊技術者は少ない。

③本来的 CM 会社や発注者の現業部門の民活化への対応

  ニュージーランドでの行革を見ると、企画政策部門以外は、民営化されている。日本では、

現業部門の外局化が検討されている。もし、外局化がなされた場合、CM を定義しておかなけ

れば、施工監理は十分機能しないであろう。同時に外局だけで実施することは不可能であるこ

とから、3 セク、民間への委託へと拡大することが考えられる。この場合の民間とは、施工業

ではなく、中立性、独立性のある技術力のある機関である。

④善意の品質管理に頼ることができない。検査体制の充実

  建設コスト縮減が実施され、低廉な施設造りが最優先となった。設計額の低減にもつながり、

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それは利益を圧迫することになる。すなわち、低廉であればあるほど、品質の確保への善意的

な余裕をなくし、必然的に施工面で品質が落ちる可能性が大きくなる。このリスクを小さくす

る意味で、検査等の充実が必要であり、それらを合理的・効率的に行うためにも、CM の制度

化が早急に必要である。

  一方で、バブル崩壊後、施工業の施工に強い設計部門と建設コンサルタントとの人材交流が

起きている。ある意味では、棲み分けが始まっている。これが、中立性、独立性を損なわない

で発展し、国民の利益になるようにするためには、早めの制度化が必要である。

⑤建設産業構造の変化の受け皿

  建設コスト縮減で、建設コンサルタント以上に経営規模の大きい施工業での人材余剰が今後

発生する。施工の技術を活かし、建設産業全体を活性化させると同時に、中立・独立性を確保

する意味で CM の制度化が急がれる。

2.3 日本型 CM のあり方

わが国の公共事業は、国による積算や監督業務の補助として公益法人を含めた民間を活用してい

るほか、地方公共団体等において、各都道府県に設置された建設技術センターや建設コンサルタン

ト等による発注者支援など、CM と類似した発注者支援方式はすでに取り入れられている。しかし、

技術者の体制が脆弱な地方公共団体は数多く、支援体制は十分とは言いがたい。

2.3.1 日本で CM 方式が適する業務

(1)外部委託の範囲

これまで発注者が管理している業務のうち、外部委託することが望ましい領域をつぎのように整

理する。

① 施工を管理監督する IHE の人材不足を補うため、簡易な部分を外部に委託する。

② 特殊な分野における管理をおこなう IHE がいないため、その分野で外部委託する。

③ 工事のピークに合わせて IHE を雇っておくことが不経済であることから、ピーク時の人材不

足を補うため外部に委託する。

④ 継続的な業務がなく、専門の IHE を育成できないため外部に委託する。

CM に適した事業としては、特殊な工事とか、IHE が不足している地方自治体や第 3 セクターの

事業に適しているが、特に生産年齢人口の減少が 21 世紀に入って著しくなることから、直轄、補

助を問わず全ての工事において CM を導入していくことが求められる。

米国では、ロスアンゼルス地震以後は、道路工事費の 1%が検査費に充てられるという。ドイツ

では、コンクリートの材料混合から鉄筋構築に至るまで、現場で立ち会い、チェックを行うシステ

ムとなっている。日本では、阪神・淡路大震災後の点検において、手抜き施工が問題となった。こ

のように、工事の品質確保のため、検査の充実も検討しなければならない。この検査を独立し、別

途の仕組みで実施することは工事のシステムを複雑にすることと、建設コストを増大させることと

なる。これを避けるため、全ての工事において、CMr にその責任の一端を担わせることを検討して

いく必要がある。

(2)業務分野と適用可能性

① 河川関係:築堤、護岸、用・排水樋門、用・排水機場、調整池(遊水地)、頭首工、床止め等

② 海岸関係:高潮堤(防潮堤)、防潮水門、離岸堤、突堤、養浜(人口リーフ)等

③ 道路関係:各種道路(含む歩道)、土工、造園(含む公園)、橋梁(鋼、RC、PC、SRC、PRC

等)構造物とそれに付帯する構造物

④ その他構造物:各種基礎構造物、各種仮設・架設構造、地盤処理、地下構造物等

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ただし、特殊機械の開発と一体となった特殊工法、ドーム建設などは現時点では困難である。

(3)事業執行プロセスと適用可能性

①企画段階----------------資金計画、運用面は困難。それ以外はある程度可能

②調査段階----------------ほとんどの部分で可能

③計画段階----------------ほとんどの部分で可能

④設計段階---------------予備・概略・詳細・設計変更、積算、施工・工程計画等は問題なく可能

⑤積算段階----------------ほとんど問題なく可能

⑥発注段階(入札・契約)--困難(入札、契約に不慣れなため)

⑦施工段階(工事監理)----ほとんど問題なく可能

⑧検査段階(完成検査)----ほとんど問題なく可能

⑨運用段階(供用)--------困難(運用面でのノウハウが無い)

⑩維持・管理段階----------ほとんど可能

ただし、建設機械の保守・修繕、特殊(新)施工法および各種法規等については、現時点では難

しい。

2.3.2 CMr に必要な要件

(1)能力要件

資格は、一定水準の能力、技術力、応用力等だけでなく、多くの難しい問題に果敢に挑戦して克

服する能力があることを客観的に証明するもので、事前品質保証の性格を有する。

特に、建設コンサルタントが関与する社会基盤整備では、土木技術に加え、情報、経済・経営、

環境など様々な技術、学問が必要である。このような総合的な能力を備えることが、エンドユーザ

ーである国民に、安価で品質の高いサービスを提供する保証となる。この観点で、CMr としての能

力要件を整理するとつぎのとおりとなる。

①信頼を築くうえでは、「技術力」、「人間性」、そして企業の「バックアップ力」が重要である。

② 「技術力」は基本的には、「問題解決力」「調整力」「評価・決断力」などの総合力である。

③技術力の中で不可欠な「問題解決力」は、環境影響、社会影響を含めた「構造技術」と「施

工技術」の応用能力からなる。

④個々の専門技術については、情報通信技術の発展で、企業内技術者の支援を得やすい。

⑤「人間性」は「倫理観」と「責任能力」からなり、「使命感」が強くなくては育たない。

なお、現行では企業が技術者の従事経歴を保証しているが、それを客観的、公平に経験と能力を

評価する仕組みに変え、誰もが活用できるように技術者を登録する必要がある。TECRIS で、個々

の技術者の経歴等が正確に把握でき、さらに今後の活用が容易になるように内容を充実させる必要

もある。CM 型業務を適正に執行するためのチームが備えるべき要件としてつぎのものがある。

① 委任型(権限と責任)で契約を結ぶためには、「技術士」資格を持ち、現場経験を有するもの

が CMr となる。CMr に必要な資格は、経験年数と公的ライセンスが考えられる。例えば、大

学卒 15 年以上の経験を有する技術士または一級土木施工管理技士などの定めが必要である。

②大規模なプロジェクトチームは、「構造」「土質および基礎」「施工」「積算」「情報」「経営工

学」の技術士を有する者で構成する。

③信頼性を保証する基準として中小企業診断士のような立場の資格が必要となる。

保証事業会社など第三者による評価も有効である。

(2)現行資格との整合

CMr は、設計と施工の両方の技術力が求められる。さらに施工現場での実務経験も必要である。

そのため、設計と施工管理の基本的な考え方を修得し、OJT として過去 5 年間程度における施工現

場経験(施工もしくは、施工管理の経験)を加味した資格が必要となる。具体的な資格としては、

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現在の技術士試験にある区分(施工計画)が最も適している。その補助的な資格として、建設コン

サルタンツ協会が資格認定している RCCM も対象となるが、認定の透明性、公平性を立証しなく

てはならない。

① 技術士は、受験要件を実務経験 7 年以上としているが、建設部門では、一部の科目を除き 7

年で合格することは稀である。また、実務的な能力を保証する資格ではない。

② 技術士は、調査、設計、照査には適するが、施工管理には必ずしも適しない。

③ RCCM は、限定業務の管理責任者あるいは照査技術者に限定される。

④ 土木施工管理技師は、施工知識を問うものである。

⑤ 現行のギャップを埋めるために、各種団体が、個別に資格認定を行う傾向があるが、一貫性、

統一性、重複といった面で、コンサルタントの負担が多く、問題もある。

⑥ 建築設備関係で試験が始まったファシリティ・マネジャーも参考にする必要がある。

(3)提案

可能であれば、科学技術庁が所管している技術士試験の分野を基本とし、この資格試験を科学技

術庁から建設省等建設事業関連官庁へ移管し、その取得をさらに建設産業全体に促すことが最も近

道である。建設コンサルタンツ協会が実施している RCCM も同時に所管し、そのレベルにより 1

級建設技術士、2 級建設技術士と統一することで、契約書等にある技術士、RCCM の資格者を同一

制度で運用できるようにする。

CMr に関しては、現場の経験が重要であることから、TECRIS もしくは、CORINS において、施

工管理の経歴を把握できるようにシステムを改築する必要がある。また、施工経験豊富な行政官が

民間に転じた場合や施工業関係者等の施工経験を正確に把握するためには、CM を含む建設事業者

登録制度をつくることも方策の 1 つである。

TECRIS を改善し、管理技術者の評価ウエートを高めて公表することが、技術者へのインセンテ

ィブと発注者の評価力の向上を促す。

① 照査技士は、設計を審査し、瑕疵の有無を判定する。社内外を問わない。

② 技術士は[施工科目]のうち、選択科目が施工計画、施工管理のもの。

③ 新施工管理技士は、施工計画、積算、工程管理、安全管理、環境対策、等の施工管理実務の

能力を有するものとし、表現、文書作成能力を併せ持つことを条件として、新たに制度化する。

この場合、公共事業を司る三省共同で実施することが必須である。

仮に、事業の執行段階に応じた資格を設定するとすれば、つぎのとおりとなる。

①調査………… 技術士、(RCCM)

②設計………… 技術士、(RCCM)

③照査…………(技術士)、RCCM、照査技士 1)

④ 施工管理………… 技術士[施工科目]2)、新施工管理技士 3)

2.3.3 日本型 CM 方式の普及に向けて

(1)民間の責任範囲

これからの公共事業は国民の賛同を得ずして推進できない。そのため、公共事業に携わった技術

者(発注者も受注者も)は、それ相応の責任を負うこととなる。例えば、設計や調査等の成果品に、

発注者の技術者(監督員)と受注者の担当技術者の氏名を明記し、その責任を明確にすることも必

要ではなかろうか。

① 契約書内で責任および瑕疵に対する規定があれば、それに従うことが CM での民間の業務領

域となる。必要であれば、予算管理等も業務領域とする。

② 民間が責任を果たす前提は、資格と必要技術の明記である。資格は単なる経歴だけではなく、

一部公団で実施されている施工管理技術員資格が有効である。

③ CM 業務においても無限瑕疵責任が適用される可能性があり、保険が必要である。

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保険により、発注者に加えて第三者による技術評価が行われることで、CM を導入して完成した

構造物の質の向上が期待できる。

(2)補助事業との関連

地方自治体が実施する補助事業では、IHE による施工管理もしくは、公的な資格を保有する CMr

による施工管理を義務付ける。地方自治体に技術的な有資格者がいなければ、短期の雇用を行う。

こうすれば、有資格者に余裕のある自治体からの派遣など人材の有効活用が図られる。民間の有資

格者を期間限定で公務員として雇用する。中・小都市の財政事情が厳しいため、単費でなく補助事

業に適用する。

(3)契約問題

①CM で委託する業務内容が限定される場合は、総価で契約することが前提となる。しかし、技

術難易度が高く、業務量を特定できない場合には、コスト+保険料+諸経費で算定する方式が

考えられる。

②発注者の業務を代行することから、契約方式は委任型で組み立てる。

③ 中・小都市の IHE が少ない発注者を代行する業務では、詳細設計に続いて同一設計者を中心

に行うため随意契約方式が望ましい。

④ 委託額は積上げ(技術者のランク単価×人工+諸経費+技術料+直接経費)とし、業務完了

時に人工の増減により積算が行えるようにする。

⑤ CM の場合は、発注者と独立した立場(組織)で業務を実施するため、契約業務の品質、工程

等に対しては受託者が責任を負うが、行政上の責任は発注者が負うべきものと考える。

⑥ 公共工事の発注者支援内容によって、契約方法を細分するか全て共通にするかを検討する必

要がある。(企画段階、調査・計画・設計段階、工事発注段階、工事管理段階、維持管理段階)

(4)教育機関の充実

現在の土木系のカリキュラムでは、CMr に必要な専門知識を身につける環境に無いだけでなく、

建設コンサルタントに必要な専門知識を総合的に修得できる環境にもない。例えば、構造力学を学

んでいるが、設計論を学んでいないなどが典型である。計画論、調査論も同様である。さらに施工

や施工管理に関しては、現場実務にすべてを負っており、現在の教育機関で学ぶことは難しい。PM

や CM を経済・インフラに関する経営管理能力を含めて、建設コンサルタントの資格を論ずると同

時に、教育環境を改善する必要がある。

改善にあたっては、一定期間、建設コンサルタントとして現場経験を積んだ者が、再度、建設コ

ンサルタントとして必要な知識等を総合的に短期間に修得する仕組みを早急に検討すべきである。

すなわち、現在の教育カリキュラムを見直す必要がある。

そのため、新たな教育機関や施設を造るのではなく、夏休み等教育施設が開いている期間にその

施設を活用すること、その教育にあたっては、大学関係者や経験豊富な建設産業関係者がその任に

つくことが経験の継承という観点で合理的である。大学機関がそれを証明することによる公平性確

保も検討する必要があろう。

(5)CM の試行

下記のことを試行に組み入れて、日本型の CM を普及させる必要がある。

①DB(設計・施工総合技術評価方式)における監理

②海外企業参加プロジェクトに対する入札補助、助言、監理、調整

③公募型プロポーザル方式で試行する。

④欧米先進国に遅れている能力に対しては、企業が全面的に支援する体制を築く。

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3.設計 VE

3.1 設計 VE の定義と活用

3.1.1 設計 VE の定義

VE(バリュー・エンジニアリング)方式とは、「目的物の機能を低下させずにコストを低減する、

または同等のコストで機能を向上させるための技術」である。建設省では、これを、「技術提案を

受け付ける方式(VE 方式)」として、平成 9 年度において、いくつかの方式を検討し試行的に実施

している。

「欧米の公共工事建設システム」から抜粋すると、この VE の歴史は第 2 次世界大戦にさかのぼ

る。すなわち、戦時中、主要資材の不足のため、従来どおりの設計や施工方法および材料を用いる

ことができなくなり、やむを得ず代替案、代理の材料を用いたところ、多くのケースでより安い価

格で良い製品ができたことから、VE という概念が生まれてきたと言われている。

特にジェネラル・エレクトリック(GE)社が組織的に VE の手法を開発し、活用して大きな成果

を納めたため、VE は他の会社や政府機関においても急速に取り入れられていった。まず、1962 年

に軍需品調達規則(Armed Services Procurement Regulations)で VE の活用が義務づけられた。これ

によって、米国の連邦政府の中で建設工事を担当する最大の組織である陸軍工兵隊と海軍ヤードお

よびドック局の工事契約で VE が使われるようになった。

国防省の試算によれば、VE を導入したことによって同省で全予算の 1~3%に相当する経費が節

減できたと言われている。

さらに、1960 年代、1970 年代に入って開拓局、NASA、交通省など他の連邦政府機関が次々と

VE を採用していった。1988 年に、行政予算管理局が VE に関する通達を出した結果、VE の活用が

さらに活発になった。

・建設省では、建設工事におけるVEは、実施する段階に応じて、設計VE、入札時VEおよび契約

後VEに分類している。

・このうち設計VEに関しては、建設省は4種類の方法を提案し、平成9年度より直轄事業において

試行的に導入し始めた。

3.1.2 設計VEの活用

(1)基本設計着手時VE

採用する構造形式、使用する材料等により構造物の基本設計が大幅に異なると予想される場合に、

基本設計着手時に VE 検討組織を設置し、同組織において求める機能を明確にしたうえで、多方面

から比較検討を行い、併せて基本設計を行う。

異業種の専門家を VE 検討組織に加えることにより、多面的な VE 検討が期待できる。

V E基本設計 詳細設計

(2)基本設計着手後 VE

基本設計に着手した後、概略の検討が進められた段階で、VE 検討組織を設置し、代替案を検討

のうえ VE 提案をとりまとめる。VE 提案を受けて発注者が必要と認める場合は、再設計を行う。

基本設計1基本設計2

(再設計等)

VE

詳細設計

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(3)詳細設計着手時 VE

詳細設計時に検討する工法、付帯設備等が設計の内容に大きな影響を与える場合に、詳細設計着

手時に VE 検討組織を設置し、VE 検討組織において比較検討と詳細設計を併せて行なう。

必要に応じ施工方法等の提案を公募により幅広く提案を受け付けることにより、建設業者間、設

備業者間等の技術競争を導入することができる。

(4)詳細設計時 VE

詳細設計がある程度進められた段階で、VE 検討組織を設置し、施工方法等の代替案を検討のう

え VE 提案をとりまとめる。VE 提案を受けて発注者が必要と認める場合は、再設計等を行う。施

工方法等を検討するにあたって必要な場合は、公募による提案の可能性も検討の対象とする。

基本設計 詳細設計1 詳細設計2(再設計等)

VE

3.2 設計 VE のメリット

VE の魅力は、慣習的な解決方法から一旦離れ、改めてその機能-手段の関係を見直すというリ

エンジニアリング的な発想にある。これが機能することのメリットはつぎのとおりである。

<設計VEのメリット>

□これまで慣行的に行ってきた設計の概念を変えることが可能。

□構築物に必要とされる機能という観点から、設計を見直す機会となり、設計プロセスが整流化

することで、コストの縮減と一定品質の確保に効果がある。

□建設コンサルタントが果たさなくてはならないサービス水準の指標とそれを含めた施設提案

を常套化し、設計という行為の水準を高める。

□環境費用を内部化するライフサイクルコストの概念が広まりつつある中で、それを加速するこ

とと、狭い国土における環境費用を国民や地域住民に理解してもらう絶好の機会であり、住

民参加型の公共事業の進展を早める可能性が高い。

□時間軸でも空間軸でもかなり細切れ的に発注している現実が改められ、プロジェクトによって

は、一貫型で発注しないことには VE の評価ができないこともあり、合理的な発注に近づく。

□VE を含めた計画・設計の浸透により、発注者側と設計者側の共同意識が高まり、プロポーザ

ル方式でのコンサルタント選定が加速する。

□発注者は VE 成果の蓄積により、非 VE 業務においてもより高度な品質を規定する発注条件を

検討することができる。

等である。

基本設計VE

詳細設計

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3.3 設計 VE の課題

わが国の入札・契約方式あるいは、生産方式において、VE に関しては議論と試行が始まったば

かりで、これらに関するルールは整備できていない。現在、発注者と設計者(建設コンサルタント)

との関係は、

・ 発注者は、良い技術、良い提案による良い成果の価値を評価する入札・契約制度を導入し、技

術競争と成果に対価(フィー)で報いる。

・ 設計者(建設コンサルタント)は、良い技術による良い成果を提出する。

ことを前提として、一定の条件下である意味で VE の検討を行なった設計を実施している。この

状況を踏まえ、技術提案を受け付ける方式(VE 方式)として、設計 VE が試行されている。そこ

で、建設コンサルタントの観点から、設計 VE を導入するうえでの決定事項を拾い上げるとつぎの

とおりである。

□現行の会計法に抵触しない方策

□設計業者の選定と契約方法(評価者、評価時期、契約時期)

□成果品に対する審査、評価の担当者

□評価に対する対価(フィー)の決定法

□VE 方式に対応できる設計者の数

□ライフサイクルコストの評価者

□B/C の算定方法の一般化と精度の向上

□VE を検討する組織の透明性の確保

また、設計 VE を導入するうえでの課題として、つぎの事項が考えられる。

-情報の公開

建設コンサルタント業務は情報がすべてであり、計画・設計の前工程に相当する測量・地質関

連情報の自由な入手、最新の工法技術、特許技術などのほか施工法の得失に関する情報で、企業

努力、個人努力の範囲以外は公表すべきである。また、小規模な建設コンサルタントに対する便

宜を高め、建設コンサルタント全体の設計の質を高めるためにも不可欠である。

-利用者視点の保有

委託者と受託者との上下関係をなくし、一体となって利用者に目を向けることで共通認識に立

つ。利用者本位で物事を考え、設計基準、積算要領そのものを VE し、建設事業執行の全体に手

を入れる必要がある。

-価値の認識

既に企業内に広まっているレビュー制度との関連が明らかでなく、単に「コスト縮減」だけを

目的とすることのない運用をするためには、発注者、受注者いずれにおいても水準の高い視点と

技術力が要求される。特に、創造価値と問題解決価値に対する評価視点が備わらないと優秀な建

設コンサルタントをつぶすことも起こりうる。これは、プロポーザル評価とか TECRIS の運用を

高度化するよりもはるかに難しい、レベルの高いチャレンジ対象である。

-計画とVE

計画段階における成果の質を評価することは、計画そのものであり、単に VE チームを設置す

るだけでは権威づけしにくい。また、設計 VE の実績が増え、建設 CALS の進展により、誰もが

情報を再利用できるようになると、発注単位の見直しをもとに、設計 VE は建設コンサルタント

発注の要件となる。

-設計の質と価格のトレードオフ

プロポーザル方式において、「技術提案」と「見積り」との関係で、「提案の内容」と「価格」

にトレードオフ関係が生じた時、着手以前に誰がトータル価値を評価するか。また、機能要件を

明確にするために発注者は、これまでとは比較にならない負荷が掛かる。このことからも、VE

は、プロポーザル方式にしか適用できないと思われる。ただし、入札時 VE は技術提案総合評価

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方式に吸収され、契約後 VE は消滅する可能性が高い。コンサルタントの場合には、ライフサイ

クルを考えた V=F(機能)/C で、コスト低下と機能向上の両方を追求しないと VE につながらな

い。

-VE支援システム

VE を適切かつ効率的に行なえるよう、支援するシステムとして建設 CALS/EC、CM 制度が必

要であろう。

3.4 設計 VEr の資格と要件

真の顧客である国民のニーズに応えるため、建設費が縮減し、良い技術で良い成果を提供する

ためには、次の 4 つが不可欠であろう。

・公正・公平な中立の立場の堅持

・信頼できる技術と応用能力の保持

・研究・開発、技術者の指導と育成

・瑕庇に対する責任能力

この前提を踏まえ、設計 VEr の要件と資格を整理すると以下の通りである

-設計VErの要件

・VEチームのメンバーは、設計チームを上回る技術水準にあらねばならない。

・ライフサイクルコスト(LCC)の判断力に加え、国民、地域住民を参画させた合意形成もでき

なくてはならない。

・建設コンサルタントは、常に全体最適の視点で判断を加えなくてはならない。同一の設計で

あっても、施工条件によって品質が左右されることがある土木構造物にあって、機能が同一で

あるという保証を与える仕組みが必要である。

-設計VEr資格

わが国には VE 協会があるが、その制度の活用状況や建設分野での活用可能性については、

まだ十分把握されていない。また、外国の VE 制度についても、建設分野での活用状況に関し

ては、十分調査されていない。さらに技術者資格相互認証が国際的に議論されている。このよ

うな状況で VEr の資格を論じることは難しいが、以下にその方向性を整理した。

・技術士の「構造」「環境」「施工」「積算」「情報」のスペシャリストで VE チームを形成する。

・資格としては、設計チームが納得することが重要で、「各部門の技術士」+「博士」あるい

は「土木学会フェロー会員」などとなろう。

・設計を機能に分解することの先駆者である機械系の VE の専門家を含める。

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4.建設コンサルタントの役割を果たす上での諸問題

4.1 建設コンサルタントの役割の履行

平成 8 年 1 月の「公共工事の品質に関する委員会報告」および平成 10 年 2 月の「公共工事の品

質確保等のための行動指針」において、発注者・設計者・施工者の役割分担が明記され、設計者=

建設コンサルタントの立場がより鮮明に位置付けされた。

設計者である建設コンサルタントは、発注者と施工者の中間に位置し、「トータル的にみて、良

いものを安く提供する」ためには、計画・設計の質そのものが高くなくてはならない。

すなわち、「発注者」のニーズに的確に応えると同時に分かり易く、「施工者」にとって安心して

確実に施工できる成果品を提出しなくてはならない。そのため、技術的に一定の水準を満たしてい

ることが前提であり、このことが建設コンサルタントの役割の拡大につながる第一歩である。

また、建設コンサルタントは、公共工事の企画・計画・設計段階を始めとして維持  管理段階

まで広範囲に渡って活動しており、これら各段階における品質の良否が公共工事の効果・効率性を

大きく左右することから、建設コンサルタントは常に技術力を高め、計画や設計の質を高める努力

を永続しなければならない。

4.1.1 現状の課題

①仕様にない作業を実施した場合の責任の明確化

 自然を相手にする公共工事においては、発注段階においてパーフェクトな条件を提示するこ

とは困難であり、設計条件が変わることは多々ある。契約上、この設計条件の変更に伴う業務

変更のあり方が不明瞭である。

②事前に仕様が定まらない業務

 発注段階では細部の検討事項・設計内容が定まらず、業務遂行の過程において具体的かつ、

詳細な検討事項・設計内容の必要性が明らかとなる場合がある。この様な事前に仕様が定まら

ない業務は、契約上の責任体制が不明確のため、成果品の良否が問われる。

③契約外作業の対応と責任

 他の関連事業者や上部機関との協議およびそのための協議資料の作成、IHE が少ない地方自治

体等における会計検査への立ち会い説明および会計検査用資料の作成など、契約外作業を要請

され設計者が対応する場合がある。このことにより、発注者と設計者の不明瞭な関係(癒着)

が生じることとなる。

④施工技術を知らない建設コンサルタントは、詳細設計ができない

現場ノウハウのない建設コンサルタントや施工技術を収集/分析/評価できない建設コン

サルタントが設計を受託すると、安易な再委託を誘導し、設計者と施工者とに不明瞭な関係が

生じる危険性がある。

⑤施工時の設計変更への無償対応と責任

 施工者からのクレームに対する設計変更の妥当性検討等は、建設コンサルタントが行ってい

る。本来、建設コンサルタントが照査を確実に実施した成果品であれば、施工時における設計

変更は発注者の役割であり、設計変更に対する検討等を元設計者である建設コンサルタントに

無償で実施させることは、発注者-設計者-施工者の役割分担を不明瞭にさせる。

4.1.2 対応策

①仕様にない作業を実施した場合の責任の明確化

 一般に、軽微な設計条件の変更には応じているが、軽微であるか否かの判断は協議を行い決

定すべきである。本来的は仕様にない作業を委託させる場合は、契約変更を行い、業務量に見

合った対価を支払うべきである。すなわち、発注者の責任と設計者の責務を明確にしないと、

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この延長上に瑕疵問題が生じる可能性が高くなる。

②事前に仕様が定まらない業務

 技術提案型(プロポーザル)方式、設計変更の柔軟な対応によって具体の仕様および責任体

制を明確にする。

③契約外作業の対応と責任

契約外作業は、上記①と同様であり、契約変更を行い、業務量に見合った対価を支払うべきで

ある。

④施工技術の修得と詳細設計への反映

業務の内容に応じて施工経験者を配置している。また、技術を収集/分析/評価することは、

建設コンサルタントの得意分野である。

詳細設計は、構造物としての機能性と耐久性、完成諸元、部材/材料の調和性の吟味など詰め

を行う段階であり、そこまで至った計画背景を含めた総合力と学術レベルを熟知した建設コン

サルタント技術者が担当する必要がある。また、設計の質を向上させるうえで、設計 VE を導

入することは有効である。

⑤施工時の設計変更への無償対応と責任

 施工時の設計変更には、多種多様な要因がある。発注者-設計者-施工者の役割が不明確な

ために設計変更となる原因としては、施工管理業務が定着していない場合が多い。そのため、

設計変更の妥当性を確認する業務(CM)を導入することが望まれる。

上記は実態を踏まえて役割分担上の課題と対応策をまとめたものであり、微視的な羅列に陥りや

すいため、抽象的にはなるが包括的に考えてみることとする。

単に入札契約制度の改革によるだけでなく、価値観が多様化し、技術革新が進行し 21 世紀を間

近に控えて問題が表面化している時代にあっては、既成の構造をリストラし、プロセスをリデザイ

ンする動きは必然である。

これまでの、ともすれば部分最適の域にとどまりがちな議論を、全体最適の視点で軌道修正する

ことであり、公然のことのように思われていた「われわれの業界は特殊である」という認識を払拭

することでもある。

「顧客は国民」とか「TQM」といった他産業では当然の概念が品質委員会の報告書で唱われたこ

とにそれが表れている。「コスト」「品質」「公正さ」という公共工事の要件を満たしにくくしてい

るのは、P⇒D⇒C⇒A という管理のサイクルを多くの関係者で回す仕組みなっていることにある。

公共工事の関係者間において、P、D、C、A の境界領域の情報、ノウハウ、ツールなどを共有でき

てはじめてサイクルは回る。すなわち、このサイクルが上手く回るように仕組みを形成することが、

役割分担のあり方という包括的なテーマを解決する糸口になると考える。

4.2 質の向上に向けた JV 制度への期待

建設コンサルタント JV は、単独で実施した場合以上の成果が期待できる時に活用する制度であ

り、期待される効果としては、

①専業に特化した建設コンサルタントの参入機会の増大

②競争機会の公平化

③発注単位の大型化の促進

④計画・設計の最適化、VE 手法の定着

⑤技術力の向上、技術移転

  などが挙げられる。

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4.2.1 JV 対応業務

建設コンサルタントの JV 制度の可能性と課題について、その概要を列記するとつぎの通りで

ある。

①技術的な質の観点から、業務内容が非常に高度で多岐にわたり、単独で一定の技術レベルを

確保することが難しく、高等な専門知識・多分野の技術者集団を必要とするプロジェクト

②大規模で量的な観点から、単独では時間的(工程上)に困難であり、数社による生産が効率

的となるプロジェクト

4.2.2 JV の可能性

① 技術的な要求、経済的な要求、自由競争の原則から顧客(国民)にとって有益な執行方式で

あれば基本的に社会に受け入れられる。

② 発注者から見ると、発注者責任を確実かつ高度に果たせるものであれば JV 制度を制約する

ものはない。

③ 一時的にはプライム企業とサブ企業の問題は起こるが、自然に落ち着くと考える。

④ プライム企業の傘下にサブコンサルタントとして入る場合を除き、変更等の手続き、ノウハ

ウの流出、著作権の所在などの問題があり、対等な関係の JV が難しい。

4.2.3 JV 導入における検討課題

①工期延期などによりアサイン期間が延びた場合に生ずる調整の責任

②業務を通じて発生した著作権、あらかじめ保有していた著作権保護の扱い

③業務を遂行する場が分散することによる連携体制の保持

④JV 企業が協力して成し遂げた業務部分の瑕疵責任

⑤守秘義務など倫理を犯した場合の共同責任あるいは責任の所在

⑥契約の遡及効果を適用する場合の JV 企業同士の責任分担

⑦メンバーの交替など輻輳型業務処理形態下で発生する問題の解決ルール

⑧提案に対するリピートオーダー(随意契約的な要素)時のメンバー設定と契約方式

⑨建設業における経営事項審査による格付けに似た縛りの必要性

⑩コンサルティング・サービス業務における完工実績の必要性

⑪管理技術者あるいは主任技術者の有資格者の配置上の制約

⑫JV 企業による受注独占、受注配分の道具とならない歯止策の確保

上記のような解決しなければならない課題は多いが、真に自由競争の原則から国民にとって有益

であれば積極的に導入すべき制度であると考える。

また、一般競争入札あるいはプロポーザル方式において、建設コンサルタント JV を実施するこ

とにより各企業が有する高度で得意な技術を結集でき、設計費等を縮減でき、国民に安くて品質の

良いものを提供することができる。さらに、海外企業との JV により海外企業の自由な参入の可能

性が大きくなると同時に、前述と同様に設計費の縮減が図られるものと考えられる。

第 5 期の終盤を迎えて、建設生産システムの方向性が定まり、情報化や国際化の流れも目に見え

る形となったことで、「ATI 構想」に掲げられた技術を競う環境が整ったと理解している。

これまでの委員会活動で必ずしも扱ったテーマではないが、当小委員会がこれまで議論してきた

こと、そして第 5 期の終盤にあって、かなり明確となってきた動きから、建設コンサルタントを取

り巻くこれからの環境を整理するとつぎのようになる。

①入札契約制度の改革に続く行財政改革が、公共事業の品質確保と低コスト化を目標に、枠組み

を大きく変えようとしている。「発注者責任」、「VE 方式の契約」、「DB(デザイン・ビルド)」、

「BOT/PFI」などがそれである。この動きの中で、建設コンサルタントは自らの領域を自分で定

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義しなければならなくなる。

②建設産業のグローバル化の問題は、外国企業の日本の公共工事への参加だけでなく、国際分業

や国際的な情報伝達規範等のグローバル化に直面する。シームレス化やコラボレーション化に

伴う業務執行体制の変化、情報リテラシーの習得、すなわち現行の仕組みの中での効率化が一

層求められるようになる。

③「発注者の良きパートナー」から「アイデアを売るサービス業」への変革が始まる。設計分野

では、いかに効率的にサービスを提供するか、VE をいかに適切に実施するかの競争が課題とな

ろう。また、施工監理分野では、豊富な設計と施工監理の経験を活かして固有の技術を磨き、

建設 CALS/EC などを活用していかに効率的にサービスを提供するかが課題となる。

④これからの公共事業にはアカウンタビリテーが必須で、建設 CALS/EC 等の進展により、事業評

価や住民参加が容易に実施可能となる。また、NGO や NPO を含めて、学識経験者などがコンサ

ルティングサービスへ進出するようになる。

⑤事業評価システムには透明性が求められる。効果のない事業は不要不急のものと位置づけられ、

地域バランスを政策で決定することが起きる。政治と公共事業の新たな関係が生まれる。

⑥公共事業に求められる技術の専門化、広範化、深化、高度化は、単独の建設コンサルタントで

対応することを難しくする。建設 CALS/EC の一部である技術者情報を完備すれば、建設コンサ

ルタントの JV を形成することが可能となり、現状では難しい JV やアソシエーションが可能と

なる。

⑦TECRIS 等でコンサルタント個人の技術力の評価が適切になされ、全国の多くの顧客に公開され

ると、これまでとは異なり、技術者個人の移動や独立が活発化する可能性が高まる。コンサル

タントの業務成績の公表が市場価格の概念の形成と人材流動を促すであろう。また、技術競争

を原則とするプロポーザル方式が増加すると、「サービス」と「アイデア」を競争の原点として

世界のコンサルタントと競争することになろう。

⑧ CM、DB、JV、CALS/EC、ISO 等は、欧米からの移入であるが、それらの功罪や影響等を吟味

しないと、わが国の建設産業が急速に力を失うことも起こる。建設コンサルタントは、発注者

と施工者の狭間に位置していることを認識し、問題を明確にして、建設コンサルタントが自ら

提言することを強く要請される。

以上を要約すると、技術革新や国際化の波は、これまで以上に急速に進展する。このような環境

の中で、つぎの姿が実現したとき建設コンサルタントは自立したと言えるのであろう。

・建設コンサルタントの業務領域と責任(役割)を自分で定義する。

・世界のコンサルタントとの競争に真っ正面から立ち向かう。

・ 「良きパートナー」、「エージェント」から脱皮し、「建設」をとった「コンサルタント」とい

 う認識が広まる。

・多くのコンサルタントがプロジェクトマネージャーを務めている。

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これからの環境

第 5 期の終盤を迎えて、建設生産システムの方向性が定まり、情報化や国際化の流れも目に見え

る形となったことで、「ATI 構想」に掲げられた技術を競う環境が整ったと理解している。

これまでの委員会活動で必ずしも扱ったテーマではないが、当小委員会がこれまで議論してきた

こと、そして第 5 期の終盤にあって、かなり明確となってきた動きから、建設コンサルタントを取

り巻くこれからの環境を整理するとつぎのようになる。

①入札契約制度の改革に続く行財政改革が、公共事業の品質確保と低コスト化を目標に、枠組み

を大きく変えようとしている。「発注者責任」、「VE 方式の契約」、「DB(デザイン・ビルド)」、

「BOT/PFI」などがそれである。この動きの中で、建設コンサルタントは自らの領域を自分で定

義しなければならなくなる。

②建設産業のグローバル化の問題は、外国企業の日本の公共工事への参加だけでなく、国際分業

や国際的な情報伝達規範等のグローバル化に直面する。シームレス化やコラボレーション化に

伴う業務執行体制の変化、情報リテラシーの習得、すなわち現行の仕組みの中での効率化が一

層求められるようになる。

③「発注者の良きパートナー」から「アイデアを売るサービス業」への変革が始まる。設計分野

では、いかに効率的にサービスを提供するか、VE をいかに適切に実施するかの競争が課題とな

ろう。また、施工監理分野では、豊富な設計と施工監理の経験を活かして固有の技術を磨き、

建設 CALS/EC などを活用していかに効率的にサービスを提供するかが課題となる。

④これからの公共事業にはアカウンタビリテーが必須で、建設 CALS/EC 等の進展により、事業評

価や住民参加が容易に実施可能となる。また、NGO や NPO を含めて、学識経験者などがコンサ

ルティングサービスへ進出するようになる。

⑤事業評価システムには透明性が求められる。効果のない事業は不要不急のものと位置づけられ、

地域バランスを政策で決定することが起きる。政治と公共事業の新たな関係が生まれる。

⑥公共事業に求められる技術の専門化、広範化、深化、高度化は、単独の建設コンサルタントで

対応することを難しくする。建設 CALS/EC の一部である技術者情報を完備すれば、建設コンサ

ルタントの JV を形成することが可能となり、現状では難しい JV やアソシエーションが可能と

なる。

⑦TECRIS 等でコンサルタント個人の技術力の評価が適切になされ、全国の多くの顧客に公開され

ると、これまでとは異なり、技術者個人の移動や独立が活発化する可能性が高まる。コンサル

タントの業務成績の公表が市場価格の概念の形成と人材流動を促すであろう。また、技術競争

を原則とするプロポーザル方式が増加すると、「サービス」と「アイデア」を競争の原点として

世界のコンサルタントと競争することになろう。

⑧ CM、DB、JV、CALS/EC、ISO 等は、欧米からの移入であるが、それらの功罪や影響等を吟味

しないと、わが国の建設産業が急速に力を失うことも起こる。建設コンサルタントは、発注者

と施工者の狭間に位置していることを認識し、問題を明確にして、建設コンサルタントが自ら

提言することを強く要請される。

以上を要約すると、技術革新や国際化の波は、これまで以上に急速に進展する。このような環境

の中で、つぎの姿が実現したとき建設コンサルタントは自立したと言えるのであろう。

・建設コンサルタントの業務領域と責任(役割)を自分で定義する。

・世界のコンサルタントとの競争に真っ正面から立ち向かう。

・「良きパートナー」、「エージェント」から脱皮し、「建設」をとった「コンサルタント」という

認識が広まる。

・多くのコンサルタントがプロジェクトマネージャーを務めている。

上述の姿は、あくまで仮説の域を出ないものであるが、これから 21 世紀に向けての数年間は、建

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設コンサルタントにとって想像のできない世界が待ち受けているかもしれない。

その世界は、これまで建設コンサルタントが待ち望んでいた実力の世界ではあるが、競争する相

手が、激変する可能性がある。

これからは、欧米のコンサルタントと競争してきた経験がほとんどない伝統的な建設コンサルタ

ントではなく、現代的な対応力を有する挑戦意欲の高い若手コンサルタントの活躍する場が広がる

可能性が高い。