A Consideration to Make Use of Sports Test Record...

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兵庫教育大学学校教育学研究, 2017, 30, pp.127-131 127 スポーツテス の記録を走り 幅跳びの学習に生かすための一考察 - 長座体前屈 と 50m 走、 立ち幅跳びの相関をふまえた走り 幅跳びの日標記録の作成一 A Consideration to M ake Use of Sports Test Record for Learning of Long Jump : Creation of Running Long Bending, 50 m Running, Standing Wide * ITO Syuro Jump Running Targets from Long Seat Front Jumping Records 森 田 啓 之** MORITA Hiroyuki 近年、 運動をする児童 ・ 生徒と しない児童 ・ 生従の2極化が進み、 学校の体育の授業以外では 「ほと んど」 「全く」 運 動しない児童 ・ 生徒が多 く いるこ とが明らかにされている。 現在の子どもたちには、 より限られた場所 ・ 時間で効率よ 「運動」 ・ 「生活活動」 を行う こ とが求められており、 その点で柔軟性を高める運動は他の運動より場所や時間を選ばず手 軽に行えるという利点がある。 本研究では、 小 ・ 中学校のスポーツテスト の記録において長座体前屈の記録と立ち幅跳び の記録の相関関係について検討 ・ 考察を行っ た。 その結果、 長座体前屈と立ち幅跳びの記録には、 小学生では男女と も 0.4以上、 中学生では男女と も0.67以上という 相関係数がみられた。 そこ で、 長座体前屈の記録がどの程度あれば、 立ち幅 跳びでどの程度の記録が得られるのかについて推測値を得て、 さ らにそこから、 実際の授業でも使える、 走り幅跳びの目 標値 を算出 ( ノ モ グラ ムの作成) することができた。 キーワード : 長座体前屈 , 立ち幅跳び, 走り幅跳び, スポーツテスト , ノモグラム 1. 目的 近年、 児童 ・ 生徒の生活環境や生活習慣の変化によ り、 児童 ・ 生徒の運動習慣に変化が生 じ、 運動をする児童 ・ 生徒と しない児童 ・ 生徒の 2 極化が進んでおり、 学校の 体育の授業以外では 「ほと ん ど」 ・ 「全 く」 運動しない児 ・ 生徒が多 くいることが明らかにされている ( 文部科 学省 : 『平成25年度 全国 ・ 運動能力、 運動習慣等調査 報告書』 ) 。 そこで現在の子どもたちには、 より限られた 場所 ・ 時間で効率よ く 安全に 「運動」 ・ 「生活活動」 を行 う ことが求められており、 その点で柔軟性を高める運動 は他の運動より 場所や時間を選ばず安全かつ手軽に行え るという利点がある。 著者らは以前に、 『児童期の長座体前屈と反復横跳び、 50m 走の関係について』 において、 身体の柔軟性と反 復横跳びおよび50m 走のパフ ォーマ ンスに相関関係が あることを明らかにした ( 伊藤 ・ 森田, 2015) 。 その中 で、児童がより明確な目標をもって運動できるように、 どの程度の柔軟性があればどの程度の記録 (50m ) が期待できるのかノモグラムを作成した。 本研究は、 前回の研究を路まえた一連の流れに位置づ いている ( 1 .) 。 「長座体前屈」 と 「立ち幅跳び」 記録の相関関係について考察をおこ ない、 「長座体前屈」 の記録から類推される 「立ち幅跳び」 の記録と、 前研究 で得られた 「長座体前屈」 50m 走」 の関係式 を基 , 「長座体前屈」 の記録から期待できる 「走り幅跳び」 の記録を得られるノモグラムを作成することを目的とし た。 これを授業等で用いるこ とで、 児童 ・ 生徒がより明 確な目標をもって、 効果的に体力を伸ばすよう にできる ことをねらいとしている c 2. 方法 本研究では、 ・ 中学校等のスポーツテス トのデータ を活用する。 スポーツテストでは、 次のよう な項目が計 測されており、 小学 5 年生 (10-11歳児 童) ・ 中学 2 (13-14歳生徒) では、 全国の悉皆調査 と な っ てい る。 そ し て、 その結果は毎年文部科学省 ( 現在はスポーツ庁) から 「全国体力 ・ 運動能力、 運動習慣等調査報告書」 して纏められている。 ポーツテス で測定するのは、 ①長座体前屈 ・ ②反 復横跳び ・ ③50m ・ ④立ち幅跳び ・ ⑤上体おこ し・ 20m シャトルラン ( 中学校では20m シャトルランか 持久走の選択) ・ ⑦ ソ フ ト ボール投げ ( 中学校ではハ ン ド ボール投げ) ・ ⑧握力の 8 項日である。 これらの項日 によ り児童の運動能力 ・ 運動習慣が経年的に調査 さ れて いる。 本研究では、 より下半身の柔軟性 ( 建や筋) の影 響が記録と して現れやすい ①長座体前屈の記録と、 ④ 立ち幅跳びの相関関係について明らかにする。 そして、 長座体前屈の記録から立ち幅跳びの推測値を見出し、 前 の研 究 で 明 ら か に し た 50m 走の記録と合わせて、 走り幅跳びの目標値を算出する。 なお、 近年、 「月建コ ンプライ アンス」 という観点から 運動のパフ ォーマ ンスを指摘する研究が行なわれている c 月建コ ンプライ ア ンスが高い方が、 垂直跳びや短距離走の 記録が良い、 とするものである ( 福永, 2010) 。 本研究 におい ては、 主に、 「月建」 や 「筋」 の柔軟性を測ってい る 「長座体前屈」 と その他の運動項目 と の関係に着目 し * 堺市立向丘小学校 * * 兵庫教育大学大学院教科教育実践開発専攻生活 ・ 健康 ・ 情報系 教育 コ ース 准教授 平成296 26 日受理

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兵庫教育大学学校教育学研究, 2017, 第30巻, pp.127-131 127

ス ポーツ テス ト の記録 を走り 幅跳 びの学習に生かすための一考察- 長座体前屈 と50m 走、 立ち幅跳びの相関をふまえ た走り 幅跳びの日標記録の作成一

A Consideration to M ake Use of Sports Test Record for Learning of Long Jump : Creation of Running Long Bending, 50 m Running, Standing Wide

伊 藤 秀 郎* ITO Syuro

Jump Running

Targets from Long Seat Front Jumping Records

森 田 啓 之** MORITA Hiroyuki

近年、 運動 をす る児童 ・ 生徒と し ない児童 ・ 生従の2極化が進み、 学校の体育の授業以外では 「ほと ん ど」 ・ 「全 く 」 運

動 し ない児童 ・ 生徒が多 く い る こ と が明 らかに さ れてい る。 現在の子 ども たちには、 よ り 限ら れた場所 ・ 時間で効率 よ く

「運動」 ・ 「生活活動」 を行 う こ と が求めら れてお り 、 その点で柔軟性 を高める運動は他の運動よ り 場所や時間 を選ばず手

軽に行え る と いう 利点があ る。 本研究では、 小 ・ 中学校のス ポーツ テス ト の記録において長座体前屈の記録 と 立 ち幅跳び

の記録の相関関係について検討 ・ 考察 を行 っ た。 その結果、 長座体前屈 と 立 ち幅跳 びの記録には、 小学生では男女 と も

0.4以上、 中学生では男女 と も0.67以上 と いう 相関係数がみら れた。 そこ で、 長座体前屈の記録が どの程度あれば、 立 ち幅

跳 びで どの程度の記録が得 ら れるのかについて推測値 を得て、 さ ら にそこ か ら、 実際の授業で も使え る、 走り 幅跳びの目

標値 を算出 ( ノ モ グラ ムの作成) す るこ と がで き た。

キーワ ー ド : 長座体前屈 , 立 ち幅跳 び, 走り 幅跳び, スポーツ テ ス ト , ノ モ グラ ム

1 . 目的近年、 児童 ・ 生徒の生活環境や生活習慣の変化によ り 、

児童 ・ 生徒の運動習慣に変化が生 じ、 運動 をする児童 ・

生徒 と し ない児童 ・ 生徒の 2 極化が進んでおり 、 学校の

体育の授業以外では 「ほと んど」 ・ 「全 く 」 運動 し ない児

童 ・ 生徒が多 く い るこ と が明 ら かに さ れてい る (文部科

学省 : 『平成25年度 全国 ・ 運動能力、 運動習慣等調査

報告書』) 。 そこ で現在の子 ども たちには、 よ り 限ら れた

場所 ・ 時間で効率よ く 安全に 「運動」 ・ 「生活活動」 を行

う こ と が求めら れてお り 、 その点で柔軟性 を高める運動

は他の運動よ り 場所や時間 を選ばず安全かつ手軽に行え

る と い う 利点があ る。

著者らは以前に、 『児童期の長座体前屈 と 反復横跳び、

50m 走の関係につい て』 に おい て、 身体の柔軟性 と 反

復横跳 びお よ び50m 走のパ フ ォ ーマ ンス に相関関係が

あ るこ と を明 ら かに し た (伊藤 ・ 森田, 2015) 。 その中

で、 児童がよ り 明確な目標 を も っ て運動で き る よ う に、

どの程度の柔軟性があ れば どの程度の記録 (50m 走 ) が期待で き るのかノ モ グラ ムを作成 し た。

本研究は、 前回の研究 を路まえ た一連の流れに位置づ

いてい る (図 1 .) 。 「長座体前屈」 と 「立ち幅跳び」 の

記録の相関関係について考察 をおこ ない、 「長座体前屈」

の記録から類推 さ れる 「立ち幅跳び」 の記録と 、 前研究

で得 ら れた 「長座体前屈」 と 「50m 走」 の関係式 を基

に, 「長座体前屈」 の記録から期待で き る 「走り 幅跳び」

の記録 を得 ら れる ノ モ グラ ムを作成す る こ と を目的 と し

た。 こ れを授業等で用い る こ と で、 児童 ・ 生徒がよ り 明

確な目標 を も っ て、 効果的に体力 を伸ばす よ う にで き る

こ と を ねら い と し てい る c

2 . 方法本研究では、 小 ・ 中学校等のス ポーツ テ ス ト のデー タ

を活用す る。 ス ポーツ テス ト では、 次のよ う な項目が計

測 さ れており 、 小学 5 年生 (10-11歳児童) ・ 中学 2 年生 (13-14歳生徒) では、 全国の悉皆調査 と な っ てい る。

そ し て、 その結果は毎年文部科学省 (現在はスポーツ庁) から 「全国体力 ・ 運動能力、 運動習慣等調査報告書」 と

し て纏め ら れてい る。

ス ポーツ テス ト で測定す るのは、 ①長座体前屈 ・ ②反

復横跳 び ・ ③50m 走 ・ ④立 ち幅跳 び ・ ⑤上体お こ し ・

⑥20m シ ャ ト ルラ ン (中学校では20m シ ャ ト ルラ ンか

持久走の選択) ・ ⑦ ソ フ ト ボール投げ (中学校ではハ ン

ド ボール投げ) ・ ⑧握力の 8 項日 である。 こ れらの項日

によ り児童の運動能力 ・ 運動習慣が経年的に調査 さ れて

いる。 本研究では、 よ り 下半身の柔軟性 ( 建や筋) の影

響が記録と し て現れやすい ①長座体前屈の記録と 、 ④

立ち幅跳びの相関関係について明 らかにす る。 そ し て、

長座体前屈の記録から立ち幅跳びの推測値 を見出 し、 前

の研究で明 ら かに し た ③50m 走の記録 と 合 わせて、

走り 幅跳びの目標値 を算出する。

なお、 近年、 「月建コ ン プ ラ イ ア ンス」 と い う 観点か ら

運動のパ フ ォ ーマ ンス を指摘す る研究が行 なわれてい る c

月建コ ン プラ イ ア ンスが高い方が、 垂直跳 びや短距離走の

記録が良い、 と す る も のであ る (福永, 2010) 。 本研究

におい ては、 主に、 「月建」 や 「筋」 の柔軟性 を測 っ てい

る 「長座体前屈」 と その他の運動項目 と の関係に着目 し

* 堺市立向丘小学校 * * 兵庫教育大学大学院教科教育実践開発専攻生活 ・ 健康 ・ 情報系教育 コ ース 准教授 平成29年 6 月26 日受理

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てい るが、 本研究では、 児童 ・ 生徒一人ひ

や 「筋」 の状態 を超音波画像診断な どはで

学校教育学研究, 2017, 第30巻

と り の

き ない

簡便かつ大規模に調査 さ れている 「長座体前屈」

「月建」

ので、

の測定

結果 を使用 し てい る。 も っ と も、 その測定結果が 「月建 コ

ン プ ラ イ ア ン ス」 を直 ち に反映 し て い る も の で は な い

(長座体前屈 では主にハムス ト リ ングと腰部の柔軟性 を

みてい る ) 。

・ 検討 1長座体前屈 と 立ち幅跳びの記録に相関関係が見 ら れる

のか どう かについ て検討 を行 っ た。 調査 1 では、 一つの

学校につい て、 調査 2 では、 よ り 正確な データ を得 る

めに、 全国のデー タ を用い て相関関係の検討 を行 つ

0 調査1大阪府下の A

男女別 に、 ス ポ

記録から散布図

線 を追加 し、 R る こ と で、 相関

市 a小学校の児童 ( 6 年生) にっ

ーツ テス ト の長座体前屈 と立ち幅跳

(、

、のび

を作成 し た。 さ ら にその散布図に近似直

2値 を求め、 ピ ア ソ ンの相関係 数 を求 め

関係を検討 し た。

O 調査 2 調査 1 では、 A 市の 1 校から得 ら れたデー タ で、 長座

体前屈 と その他の運動項目に相関関係 を調査 し たが、 よ

り一層、 研究の妥当性を増すために、 全国の小学 5 年生 ・

中学 2 年生を対象にし た、 文部科学省 : 「平成26年度

全国体力 ・ 運動能力、 運動習慣等調査報告書」 の都道府

県別平均 データから、 調査 1 と同 じ手法によ り 散布図 を

作成、 R 2値 を求め、 相関係数を求めた c

・検討 2さ ら に、 児童が目標設定を しやすいよ う 、 検討 1 で得 ら

れた結果に基づ き、 長座体前屈の記録から立ち幅跳びの

推測値を推測 し、 前回の研究で示 さ れた長座体前屈 と50 m 走の相関関係か ら 、 走 り 幅跳 びの日 標値 を算出す る

ための ノ モ グラ ムを作成す る こ と を試み

3 .

・ 結果

検言

O 調査

1

1

長座体前屈 と 反復横跳 び、

た 0

長座体前屈 と 50m 走の記

録の関連について男女別に調査 し た散布図 を以下に示す

スポーツテス ト

(長座体前屈 ・ 反復横跳び ・ 50m 走 ・ 立ち幅跳び ・ 上体おこ し

・ 20m シャ トルラ ン ・ ソ フ ト ボール投げ ・ 握力)

r - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - ,, l

図 1 , スポーツ テ ス ト を活用 し て目標値 を設定する研究の流れ

l l

l l

l l

l l

l l

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l l

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l l

l l

l l

l l

l l

l l

1

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(0-

) (

-

) (-m

J)) (

-)

スポーツ テ ス ト の記録 を走 り 幅跳 びの学習に生かす ための一考察

(図 2 .~ 図 3 .) 。 こ れらの結果は、 大阪府下の A 市 a小

学校 6 年生 (男子 : n = 60、 女子 : n = 56) のものであ

る (H27年 6 月測定)。

250 cm

200 cm

150 cm

100 cm

50 cm

0 cm0 om

立ち幅とび (6年男子) n=60

◆◆

y = 0.5727x + 150.03R2 = 0 0417

20 cm 40 cm 60 orr

◆ 立ち幅とび

線形 (立ち幅とび)

r = 0.2042

(長座体前屈)

図 2 . a 小学校 小学 6 年男子 長座体前屈と 立 ち幅跳

びの記録の散布図と相関 ( n = 60)

図 2 . の結果から、 6 年生男子児童では、 長座体前屈

の記録と立ち幅跳びの記録では、 相関係数は r = 0.2042 であ っ た (無相関検定では有意ではなかっ た) 。

m

m

m

m

m

m

m

m

m

m

m

mo

0

C

C

C

0

C

C

0

0

C

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

00

8

6

4

2

0

8

6

4

22

1

1

1

1

-

立ち幅とび (6年女子) n=56

y = 0.5385x + 133.64R2 = 0 0327

20 om 40 om 60 om

◆ 立ち幅とび- 線形 (立ち幅とび)

r = 0.1808

(長座体前屈)

図 3 . a 小学校 小学 6 年女子 長座体前屈と 立 ち幅跳

びの記録の散布図と 相関 ( n = 56)

図 3 . の結果から、 6 年生女子児童では、 長座体前屈

の記録と立ち幅跳びの記録では、 相関係数は r = 0.1808 であ っ た (無相関検定では有意ではなかっ た) 。

O調査2 調査 1 は小規模な調査である ため、 よ り 一層、 研究の

妥当性を増すために、 文部科学省 : 「平成26年度 全国

体力 ・ 運動能力、 運動習慣等調査報告書」 の都道府県別

160

158

156

154

152

150

148

146 30 31

立ち幅跳び (小学5年男子 )H26

y = 1 .053x + 117.4R = 0.2076

・ ・ ・ ・

32

33

r = 0.4556 34 35

(長座体前屈) 36

(cm)

図 4 . 小学 5 年男子 長座体前屈と立 ち幅跳びの記録の

散布図と 相関

(文部科学省 : 『平成26年度全国体力 ・ 運動能力、 運動習慣等調査』 よ り作成)

(imJ))

(-

、-_ / (u1o)

(-

) (u1o)

(-

)

129

平均 データ から、 調査1 と同 じ手法によ り 散布図 を作成、

R 2値 を求め、 相関係数 を求めた。 以下にその結果 を示

す (図 4 .~ 図 7 .) 。 なお、 こ のデータは、 先に も述べた

と おり 、 全国の小学 5 年生 (10-11歳児童 男子 : n = 550,573 ・ 女子 : n= 526,222) と中学2 年生 (13-14歳

男子 : n= 513,440 ・ 女子 : n= 486,975) の悉皆調査であ

る。 大規模な調査であれば、 生ま れ月の影響 も受けに く

いものと判断し た (小学 5 年男女 : 図 4 .、 図 5 .、 中学

2 年男女 : 図 6 .、 図 7 .)。

小学 5 年生では、 相関係数が男女共 に0.4以上、 中学

・4, 2

5

5

1

1

150

148

146

144

142

140 34

立ち幅跳び (小学5年女子)H26

y = 1.3597x + 94.766 R2 = 0 2872

35

36

・ ・・

37 38 39

r = 0.5359 (長座体前屈) 40

(cm) 図 5 . 小学 5 年女子 長座体前屈と立 ち幅跳びの記録の

散布図と 相関

(文部科学省 : 『平成26年度全国体力 ・ 運動能力、 運動習慣等

調査』 よ り作成)

204

202

200

198

196

194

192

190

188

186 39

立ち幅跳び ( 中学男子) H26

y = 1.422x + 133.2 R2 = 05235 ・

40 41 42

r 43 44

0.7235 45 46 47

(長座体前屈) 48

(cm)

図 6 . 中学 2 年男子 長座体前屈と立 ち幅跳びの記録の

散布図と相関

(文部科学省 : 『平成26年度全国体力 ・ 運動能力、 運動習慣等

調査』 より作成)

176

174

172

170

168

166

164

162

16C

158 41

立ち幅跳び ( 中学女子) H26

42 43

44 45

r = 0.7034 46 47 48

(長座体前屈) 49

(cm) 図 7 . 中学 2 年女子 長座体前屈と立 ち幅跳びの記録の

散布図と 相関

(文部科学省 : 『平成26年度全国体力 ・ 運動能力、 運動習慣等

調査』 よ り作成)

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130 学校教育学研究, 2017, 第30巻

生では0.7以上 と い う 高い値 にな っ てい る。 調査 1 よ り

も相関係数が大き く 、 長座体前屈 と立ち幅跳びの記録に

は、 相関関係があ る と 考え ら れる。

中学生の相関係数が高い値である こ と から、 平成25年

度の 『全国 ・ 運動能力、 運動習慣等調査報告書』 を基に

同様の調査 を行 っ た と こ ろ、 小学男子 r = 0.4329、 小学

女子r= 0.5047、 中学男子r= 0.6844、 中学女子r= 0.6779、

と いう 同様の傾向 を示す結果を得た。 小学生よ り も中学

生の方が高い相関係数を示 し てお り 、 原因ははっ き り し

ないが、 成長期には様々な身体の特性や 「 コ ツ」 のよ、つ

な因子が相俟つて記録を伸ばし ているこ と が推察 さ れる。

・ 検討 2 検討 1 の調査 2 で長座体前屈 と立ち幅跳びの記録の間

に相関関係がみら れたので、 前回の研究で示 さ れた, 長

座体前屈 と50m 走の間の相関関係 と併せて、 長座体前

屈の記録から 、 走り 幅跳びの目標値 を算出す る こ と がで

き た。 考察4-2. に詳 し く 記述する。

4 . 考察4-1 . 長座体前屈と立ち幅跳びの記録の相関関係について

図 1 .~ 図 2 . (調査 1 ) の調査結果はデータが少な く 、

長座体前屈の記録も立ち幅跳びの記録も、 良い記録を持

つ数名の児童の結果に大き く 結果が左右 さ れてい るこ と

が考え ら れる。 なお、 人数が少 ない デー タ では、 児童の

年齢 (生まれ月) の影響 も受けやすい ものと考え ら れる。

しか し、 調査 1 に対 し て、 調査 2 で行 っ た、 全国の小

学5年生 (男子 : n = 550,573 ・ 女子 : 526,222) , 中学2 年生 (男子 : n= 513,440 ・ 女子 : n= 486,975) では, はっ

き り と し た相関関係が表れてい る (小学生 r> 0.4、 中学

生 r> 0.67 :こ れ ら の

平成25年度の結果を加味)。

こ と から、 長座体前屈 と立ち幅跳びの記録に

相関関係が認めら れる と いえ る。 なお、 小学生よ り も中

学生の方が高い相関係数 を示 し てい る原因ははっ き り せ

ず、 成長期におけ る運動生理学や 「 コ ツ (技能ポイ ン ト )」の修得 と い っ た観点からの考察が必要である と 思われる。

運動生理学の面から言えば、

①児童期お よ び生徒期には各種運動器官が統合 さ れ、

運動に適 し た体はよ り 一層、 運動に適 し た体に深化

し てい く 。

②筋が柔ら かい と 、 そ う で ない場合に比べ、 体 を動か

す時に弾力性が有利に働 く 。 また、 同 じ動き をする

時のエ ネルギー消費が少な く て済むこ と で、 効率よ

く 他の必要 な部分 にエ ネ ルギー を尸由け ら れる。 こ の

こ と は、 体が大き く な るほ ど顕著に現れる。

③長座体前屈 と立ち幅跳びの記録が、 相関関係だけで

な く 因果関係で も あ る と すれば、 柔軟性は、 他の運

動能力の獲得に大き く 影響 し てい る と考え ら れる。

その最適期が中学生 く ら いで あ る と 思われる。

と い っ た仮説が成 り 立つ。

4-2. 長座体前屈の記録 から推測 さ れる走 り 幅跳びの目

標値について

さ ら に、 児童が目標設定 を しやすい よ う 、 3 . の検討

1 で得 ら れた結果に基づ き、 前回の研究で示 さ れた, 長

座体前屈 と50m 走の間の相関 と 併せて、 長座体前屈の

記録から立ち幅跳びの推測値 を求め、 走り 幅跳びの日標

値 を算出 し、 走り 幅跳びの目標値 を算出する ための、 簡

便 な ノ モ グラ ムを作成す る こ と を試みた。 目標を持 っ て

運動するこ とで よ り 一層の運動の効果を期待で き るため

であ る。 こ こ では実際に学校の授業な どで日標値と し て

と ら え る事がで き るこ と を意識 し てい る。 児童 ・ 生徒 を

取 り 巻 く 環境は個人によ っ て異な り 、 ト レ ーニ ン グ方法

も様々であるが、 仮に長座体前屈で 「 こ れく らい」 の記

録 を示 し てい る な ら ば、 立 ち幅跳びで、 「 こ れ く ら い」

の記録を日標にで き る と明示す るこ と を意識 し てい る。

長座体前屈の記録と 、 立ち幅跳びの記録は相関関係であ

り 、 因果関係ではないが、 意識性の原則から、 数値目標

にあ る根拠あ る目安 を設け る こ と には意味があ る と 考え

てい る。 ま た、 本研究では、 柔軟性 と 他の運動種日の関

係か ら考察 を進めてい る ため、 筋力 の影響は考え ら れて

い ない点には注意が必要であ る。

まず、 小学 5 年生につい ては以下のよ う に考え る こ と

がで き る。

・ 小学 5 年生男子 ( 高学年)

図 4 . よ り , A= (長座体前屈の記録) , B= (立ち幅跳

びの推測値) と する と、 B= 1.053 X A十117.4………①

と こ ろで, 平成26年度の研究(伊藤 ・ 森田, 2015) より

c = (50m 走の推測値) と する と 、 C= -0.039 XA十10.7 ………………………………………………………②

であ る。

さ て , 一般に

(走り幅跳びの目標値) = { (立ち幅跳びの記録) X1 5} - { (50m 走の記録) X25} 十280 …………………………③

と いわれる。

よ っ て , ③式 に , ①式およ び②式 を代入す る と ,D= (走 り 幅跳びの目標値 ) と し て、 D= (B X 1 5) - (C X25) 十280………………………………………………④

と な る。

よ っ て , ④式 を ま と める と ,D (走り幅跳びの日標値) = { (1.053XA十117.4) X15}- { ( -0.039 XA十10.7) X25} 十280= (1.58XA十176.1) - ( 0.975 XA十267.5) 十280 = 1.58 XA十176.1 十0.975 XA-267.5十280 = (1.58十0.975) XA十176.1 267.5十280= 2.555 X A (長座体前屈の記録) 十188.6 ……………⑤

と な る。

平成27年度, 小学校 5 年生男子の長座体前屈の全国平

均は32.87cm であるので , ⑤式に代入する と ,2.555X32.87十188.6= 272.58 (cm) となる。平成27年度, 小学校 5 年生男子の50m 走の全国平均

は9.38秒, 立ち幅跳びの平均は151.71cm であるので, ④式 に ダイ レ ク ト に代入す る と ,151.71 X15 9.38 X25 十280= 273.065 (cm)

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と な

筋力の

り ,

ス ポーツ テ ス ト の記録 を走 り 幅跳 びの学習に生かす ための一考察

かな り 妥当性のあ る数値日標と な る。 但 し , 影響 を考慮 し ていないこ と に注意が必要であ る c

同様に、 図 5 .よ り 導 く と、

小学 5 年生女子 (走 り幅跳びの目標値)= 3.09X (長座体前屈の記録) 十142.149

と こ ろで、 平成27年度、 中学 2 年生の50m の記録は、

男子 (50m走の記録) = -0.0355 x (長座体前屈の記録) 十9.551 (R2= 0.4974, r= 0.7053)女子 (50m走の記録) = 0.0408 x (長座体前屈の記録) 十10.709 (R2= 0.3654, r= 0.6045) で あ る。 よ っ て

中学 2 年生男子 (走 り幅跳びの目標値)= 3.0205X (長座体前屈の記録) 十241.025

・ 中学 2 年生女子 (走り幅跳びの目標値)= 3.0938X (長座体前屈の記録) 十169.01

と 考え る こ と がで き る。

こ れら上記の算出式 ( ノ モ グラ ム) によ り 、 児童 ・ 生

徒にと っ ての日安がで き たと 考え る。 こ のよ う に他の運

動 と 関連のあ る目標 をは っ き り さ せる こ と で、 場所や時

にあま り と ら われず、 比較的取 り 組みやすい ス ト レ ツ

な どの柔軟運動に も一層、 意識性の原則 を取り 入れ

運動が可能にな る と考え ら れる。

5 . ま と め

本研究では、 児童 ・ 生徒の長座体前屈の記録と 、

立ち

幅跳びの記録に相関関係がある こ と が示 さ れた。 特に、

理由は明 ら かにで き なかっ た も のの、 小学生よ り も中学

生において相関係数が高 く 、 r> 0.67 と な るこ と が分かっ

た。 も ち ろ ん、 本研究で明 ら かにな っ たのは相関関係で

あり 、 因果関係ではない。 しか し、 長座体前屈で測 ら れ

る柔軟性は児童 ・ 生徒の運動パ フ ォ ーマ ンス に何 ら かの

影響 をおよぼ し てい る可能性は大き い と 考え ら れる。

さ ら に、 長座体前屈の記録から立ち幅跳び ・ 走り 幅跳

びのノ モ グラ ムを授業等で も生かせる よ う に作成 し たこ

と によ り 、 児童 ・ 生徒 を対象 と し た目標値 を明 ら かにす

る こ と がで き た。 こ のこ と によ り 、 効果的で限ら れた場

所で も 安全 に行え る、 ス ト レ ッ チ な どの柔軟運動 に も、

よ り 一層意識性の原則 を取り 入れた運動が可能にな り 、

様々な運動の目標設定が しやす く な る (心がけやす く な

る ) も のと 考え ら れる。

< 引用文献

藤田育郎

・ 参考文献>, 池田延行. 体育授業におけ る

の手法に関する研究一小学校高学年の走り

対象と

2011. 樋口

ツ ・

樋口

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目標設定

高跳びを

第11号, 国士舘大学体育 ・ ス ポーツ科学学会,

満 , 福永哲夫. 放送大学大学院教材

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健康科学. 2010年 2 月20日, 第 2 刷. pp52-58.満 , 福永哲夫. 放送大学大学院教材 ス ポー

健康科学. 2010年 2 月20日, 第2 刷. pp51-52. 藤秀郎 , 森田啓之. 児童期の長座体前屈 と反復横

跳 び、

目標 を

校教育

50m 走の関係 につい て 一 児童がよ

131

り 明確な

も っ て運動でき る よ う に . 兵庫教育大学学

学研究 , 第28巻, 101-106.文部科学省, 平成25年度

2015, 兵庫教育大学 ,

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PP

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幅跳びの指導法に関する事例的研究一 めあて図の作

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