757 (Page 100) · 2009. 4. 24. · Title: 757.... (Page 100) Created Date: 1/31/2009 12:41:41 AM
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宮城県医師会常任理事
佐 藤 和 宏
療養病床再編のゆくえ
はじめに
平成17年末に唐突に出された療養病床再編問題は,紆余曲折を経て介護療養病床は平成23年度末で
廃止,医療療養病床は22万床へ再編という事で一応の決着をみている。しかしまだ流動的な部分もあり
今後も眼を離せない。
介護保険担当としてこの問題に係わり,また地域で小規模入院施設を経営している立場としてこの問
題について考えてみたい。
何故療養病床は削減されなければならないのか?
厚労省は平成20年度から医療費適正化政策を開始したが,その2本柱は特定健診・特定保健指導によ
る糖尿病とその予備軍の減少および平均在院日数の減少である。その数値目標は,これらの施策で計8
兆円を削減し,2025年に56兆円(厚労省の推計値)の医療給付費を48兆円にするのが目的である。
平均在院日数短縮の標的にされたのが療養病床である。療養病床削減のために計画された作戦は以下
のごとくである。まず「患者特性調査」という療養病床に在院する患者さんの調査を医師に依頼。その
結果,いわゆる「社会的入院」をあぶりだし医療区分1というくくりにして,マスコミや学者先生を駆
使してキャンペーンを展開した。
厚生労働省の医療政策遂行方法
当時の全国紙には,殆ど同じ論調の記事が見られる。いわく「これでやっと真の医療が受けられる。
無駄な医療費が削られ,本当に必要な所に医療費が使われる」と。さらに学者先生は「療養病床削減は,
大英断である」と新聞に書いている。
しかしそもそも「患者特性調査」の使用が,いわゆる「目的外使用」であるとの疑念もあり,医療区
分1の半数は在宅復帰困難との調査結果もある。
そのような中で,目的達成のために強引に政策を進めるやり方は,今後の厚労省の施策で繰り返され
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宮医報 757,2009 Feb.
て良いのだろうか。福田前首相は「厚生労働行政に対する信頼の回
復」を掲げたが,このような政策遂行手法は無用な軋轢を生み,不
信感を生むだけだと考える。
療養病床削減計画
医療療養病床は,以下の式で削減することが決まった。医療区分
1は全廃,医療区分2の三分の一は廃止そして介護療養病床から移
行分を加え,各地域の特性を考慮して決めるという事である。この
式で計算すると宮城県は現在3,333床が1,882床へ削られる所であっ
たが,関係者のご努力により最終的に2,074床へ削減と決定した。それでも現在から1,259床の削減であ
る。そして各地域の合計は約22万床となり,これが現在の全国の目標値である。当初は15万床へ減と
も言われたが,事実上の失敗であるとも感じられる。
宮城県の療養病床事情
宮城県は療養病床経営が,全国一節度を持って行われている県である。人口10万人当たり療養病床数
は140.7と最も少なく,平均在院日数は95.5日と全国平均(171.4日)の約半分であり全国最少である。
当然医療費も最低レベルである。このように効率的な経営がなされていても,全国統一の物差しで削減
目標値が作られたとしたら,納得がいかない事である。最終的には約200床が上乗せされた。
療養病床を削減して何が困るのか?
結論から言えば行き場の無い患者さんが増え,急性期病院の患者さんが溢れ,地域医療が益々荒廃し
てしまう事である。厚労省は,現在の療養病床の代わりとした「介護療養型老人保健施設(転換型老健
施設)」を考えており,転換する場合には補助金も出しますし,新型老健では看取りもしますと言って
いるが,では何故現行の施設ではだめなのか説得性が無い。下手をすると患者急変時に看取りの為だけ
に急性期病院に転送という事になりかねない。また急性期病院から療養病床への移行も円滑にはいかな
くなるだろう。
医療区分1の人は在宅に帰れとも言っているが,自宅に帰れず施設にも入れない人が多数いる事は事
実であり,強制的に帰す事は不可能である。
おわりに:療養病床削減の行方
療養病床削減政策に対して,日医は以前から一貫して反対している。またそのためのTVコマーシャ
ルも作って放映している。厚労省関係者からも批判の声が上がり,この政策の実行は厳しくなっている。
更には政治情勢により,この計画自体が白紙撤回になる可能性もある。
地域医療を預かる我々は,療養病床に係わる患者さん,家族達の悲痛な声を良く知っている。医療費
削減政策の一環として計画されたこの政策に反対し,計画の遂行をやめさせるべきである。この政策に
振り回され,苦労して目標値を作成された現場の行政の方々には誠に気の毒ではあるが,お互いに立場
上仕方ない事である。私は療養病床削減には反対である。