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Adhesion Mechanism of Iron(III) hydroxide to Construction Materials Hatanaka, M. (Kitami Institute of Technology), Ishigaki, Y., Mikami, N. (Nittoc Construction co., ltd), Kawaguchi, T., Nakamura, D., Kawajiri, S., Yamashita, S. (Kitami Institute of Technology), Tanaka, Y. and Suzuki, K. (Mitsui Chemicals Industrial Products, ltd) 土木資材に対する水酸化鉄の付着メカニズム に関する検討 北見工業大学 大学院 学生会員 ○畑中将志 日特建設株式会社 正会員 石垣幸整,三上 北見工業大学 工学 正会員 川口貴之,中村大 北見工業大学 工学 正会員 川尻峻三,山下聡 三井化学産資株式会社 非会員 田中夫,鈴木和成 1.はじめに のり面保護を目として施工された補強土の崩壊事例に お い て(写真 1),補強土背面に設置された面状の裏面排水材 に赤褐色のゲル状物質が付着し,分に目詰まりが生じて いることが確認された(写真 21) .このことが崩壊の直接 な要因になったかどうかは定かでないが,地すべり対策用の 水抜きボーリング施設や暗管といった各種土木資材でも 同様な付着や閉塞が確認されており,この物質は一般に水 化鉄 (III) と呼ばれる沈殿物だと報告されている 2) ~ 7) .そこ で,崩壊箇所周辺で採取した湧水について簡易な水質調査 を行ったところ,常に元な環境下にあり,二価の鉄イオ ンが多く含有していることが分かった 1) .ま た , 写真 3 は現 地から採取したゲル状物質の走査型電子顕微鏡(SEM) 写真で あるが,鉄化細菌による生成物とみられる物質が確認され 2), 3), 4), 8) この種の鉄細菌は微好気性で土中(地下水中)に普に 存在しており,二価の鉄イオンを三価の鉄イオンに化させ ることで増殖する 8) ~ 13) .また,三価の鉄イオンは鉄細菌が 分する粘性物質中の水や素と反応して水化鉄となり, 粘性物質の粘性によってコロイドを形成・接合することで体 積を増やし,スライム化することが報告されている 3), 4) .こ のことから,上述の目詰まりは湧水が大気に触れて急激に 化な環境下になったことで生成されたスライム(以下,水 化鉄スライムと呼ぶ)によるものと考えられるが,本調査 地以外でもこのような水化鉄スライムが土中排水材など の様々な土木資材に対して付着し,将来に目詰まり等で地 盤工学上の諸問題を引き起こす可能性は否定できないと思 われる. 以上のことから,本研究では面状の排水材に対する水化鉄スライムの付着量やそれに伴う性能低下につ いて,上記の施工環境も加味した検証を行った.また,水化鉄スライムの付着が材質によってどの程度変 化するのかについても検討した.さらに,鉄化細菌による目詰まり抑制を目に開された抗菌性を有す る暗パイプの付着低効果についても検証した上で,水化鉄スライムの付着メカニズムやその対処に ついて検討した. 写真 1 対象とした補強土の崩壊 1) 写真 2 ゲル状物質の目詰まり 1) 写真 3 ゲル状物質の SEM 写真 1) 地盤工学会 北海道支部 技術報告集 55 平成2 7 1 室蘭 245

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Adhesion Mechanism of Iron(III) hydroxide to Construction Materials

Hatanaka, M. (Kitami Institute of Technology), Ishigaki, Y., Mikami, N. (Nittoc Construction co., ltd), Kawaguchi, T., Nakamura, D., Kawajiri, S., Yamashita, S. (Kitami Institute of Technology), Tanaka, Y. and Suzuki, K. (Mitsui Chemicals Industrial Products, ltd)

土木資材に対する水酸化鉄の付着メカニズム

に関する検討

北見工業大学 大学院 学生会員 ○畑中将志

日特建設株式会社 正会員 石垣幸整,三上登

北見工業大学 工学部 正会員 川口貴之,中村大

北見工業大学 工学部 正会員 川尻峻三,山下聡

三井化学産資株式会社 非会員 田中泰夫,鈴木和成

1.はじめに

のり面保護を目的として施工された補強土の崩壊事例に

おいて(写真 1),補強土背面に設置された面状の裏面排水材

に赤褐色のゲル状物質が付着し,部分的に目詰まりが生じて

いることが確認された(写真 2)1).このことが崩壊の直接的

な要因になったかどうかは定かでないが,地すべり対策用の

水抜きボーリング施設や暗渠管といった各種土木資材でも

同様な付着や閉塞が確認されており,この物質は一般に水酸

化鉄 (III) と呼ばれる沈殿物だと報告されている 2) ~ 7).そこ

で,崩壊箇所周辺で採取した湧水について簡易的な水質調査

を行ったところ,常に還元的な環境下にあり,二価の鉄イオ

ンが多く含有していることが分かった 1) .また,写真 3 は現

地から採取したゲル状物質の走査型電子顕微鏡(SEM)写真で

あるが,鉄酸化細菌による生成物とみられる物質が確認され

た 2), 3), 4), 8).

この種の鉄細菌は微好気性で土中(地下水中)に普遍的に

存在しており,二価の鉄イオンを三価の鉄イオンに酸化させ

ることで増殖する 8) ~ 13).また,三価の鉄イオンは鉄細菌が

分泌する粘性物質中の水や酸素と反応して水酸化鉄となり,

粘性物質の粘性によってコロイドを形成・接合することで体

積を増やし,スライム化することが報告されている 3), 4).こ

のことから,上述の目詰まりは湧水が大気に触れて急激に酸

化的な環境下になったことで生成されたスライム(以下,水

酸化鉄スライムと呼ぶ)によるものと考えられるが,本調査

地以外でもこのような水酸化鉄スライムが土中排水材など

の様々な土木資材に対して付着し,将来的に目詰まり等で地

盤工学上の諸問題を引き起こす可能性は否定できないと思

われる.

以上のことから,本研究では面状の排水材に対する水酸化鉄スライムの付着量やそれに伴う性能低下につ

いて,上記の施工環境も加味した検証を行った.また,水酸化鉄スライムの付着が材質によってどの程度変

化するのかについても検討した.さらに,鉄酸化細菌による目詰まり抑制を目的に開発された抗菌性を有す

る暗渠パイプの付着低減効果についても検証した上で,水酸化鉄スライムの付着メカニズムやその対処法に

ついて検討した.

写真 1 対象とした補強土の崩壊 1)

写真 2 ゲル状物質の目詰まり 1)

写真 3 ゲル状物質の SEM 写真 1)

地盤工学会 北海道支部 技術報告集 第 5 5 号

平成 2 7年 1 月 於 室 蘭 市

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2.水酸化鉄スライムの付着能力

2.1 面状排水材の目詰まり評価

写真 4 は水酸化鉄スライムによって排水材の性能がど

の程度低下するのかを調べるために作製した試験装置で

あり,調査地周辺に設置されている排水パイプから集水し

た湧水を補強土内で実際に使用されたものと同質の排水

材から作成した試験片に流すようになっている.ただし,

チューブから放出された湧水が試験片全体に触れるよう,

透明樹脂板上を 5cm 程度流れた上で試験片に流入するよ

うになっている.写真 5 は設置した試験片の詳細であり,

変水位試験によって排水材の垂直透水性能と面内通水性

能を評価できるよう設置方法を変えた 2 種類の試験片を

用意した.

図 1 は設置期間に伴って試験片に付着した水酸化鉄ス

ライムの質量を示したものであり,乾燥質量で評価した付

着量は設置期間とともにいずれも増加していることが分

かる.また,図 2 は設置期間に伴う性能の低下を示してお

り,垂直透水性能はわずか 40 日で性能が 10 万分の 1 に

もなっていることが分かる.これは図 1 に示した付着量

推移の違いからも推察されるように,ジャケット部 14) が

比較的細孔なメッシュ状であるために比較的早い段階で

全面が閉塞し,その上にも連続的に厚く堆積したことによ

ると考えられ,付着量やそれによって生じる性能低下には

形状も大きく影響することが分かる.なお,その他の試験

方法や結果の詳細については参考文献 1), 15), 16) を参考し

て頂きたい.

写真 6 はより施工環境に近い状況での付着を再現する

ことを目的に作製した試験装置の詳細とその設置状況を

示したものである.試験片の上に補強土厚と同じ 20cmの

砂質土を設置し,集水した湧水は主に試験片の下方を流れ

る仕組みとなっている.また,湧水の水面は流入量を適宜

調節することで概ね排水材内になるようにした.砂質土上

写真 4 目詰まり試験装置 1) 写真 5 設置した試験片の詳細 1)

0 10 20 30 40 500

5

10

15

20

25

付着

量 (

g)

設置期間 (day)

: 面内通水: 垂直透水

(流出分も考慮)

図 1 設置期間と付着した水酸化鉄スライム

の質量との関係 1)

図 2 垂直透水・面内通水性能試験のまとめ 1) (a):垂直透水,b):面内通水

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面は常時大気解放されているものの,雨水の侵入を防ぐ

目的で透明樹脂板を設置している.なお,本試験では図 2

で大きな性能低下が見られた垂直透水性能のみについて

検討した.

図 3 は回収した試験片に付着していた水酸化鉄スライ

ムの乾燥質量であり,垂直透水性能を把握するための試

験時に流出した分を加味した結果も示している.また,

図 4 は垂直透水性能の変化を示したものである.なお,

それぞれ比較のために図 1,図 2 に示した試験結果も示

している.本試験は写真 4 に示した試験環境に比べて湧

水が大気と触れる時間が短く,上部に砂層があるために

酸素供給も少ないと考えられる.しかし,図 1 や図 2 に

示した試験と比べて明らかに量や速度は小さいものの,

このような環境下でも試験片に対する水酸化鉄スライム

の付着は進行し,垂直透水性能も確実に低下している.

写真 7 は試験終了後の試験片であるが,水酸化鉄スライ

ムの付着や目詰まりが進行している様子が確認できる.

2.2 材質による付着能力の違い

写真 8 は先述の排水材と同質の小さな試験片に撥水,

抗菌,防錆,保護などを目的とした各種スプレーを塗布

し,調査地周辺に設置されている排水パイプから放出さ

れる湧水が流れるように設置した試験の様子を示したも

のである.いずれの試験片にも水酸化鉄スライムは付着

したが,ステンレス被膜による防錆・耐水などを目的と

したスプレーで塗布された試験片が他に比べると幾分付

着が軽減されるように見えた.そこで,スプレーを塗布

した試験片を新たに作製して垂直透水性能の評価を試み

たが,特に性能低下の軽減は認められなかった 1).

写真 6 施工環境を模擬した試験片および設置状況

流入

排水材(1cm厚)

20cm

4cm

放出

砂質土

水位の目安

0 40 80 120 160 200 2400

5

10

15

20

25付

着量

(g)

設置期間 (day)

(流出分も考慮)

: 現地を模擬した試験片

: 垂直透水(図1)

図 3 設置期間と付着した水酸化鉄スライム

の質量との関係

0 40 80 120 160 200 240

10−4

10−2

100

垂直

透水

性能

ψ 20

(s−

1 )

最大値

平均値

最小値

:垂直透水(図2):現地を模擬した試験片

設置期間(day)

図 4 垂直透水性能試験結果のまとめ

写真 7 垂直透水性能試験後の試験片

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写真 9 は市販されている 3 種類の樹脂板(塩化ビニル,

アクリル,PET)と 3 種類の金属板(アルミニウム,銅,ス

テンレス)を 4cm角に加工した試験片(厚さ 1mm)を平滑

なガラス板に設置し,可能な限り均等に湧水を流した試験

の様子を示したものである.なお,各試験片はそれぞれ 2 枚

用意し,表面の平滑性によって付着力に違いがあるかどう

かを確認するために片方は鑢で表面を粗くしている.しか

し,回収した試験片を超音波洗浄器に供したが,いずれも数

秒でスライムが剥離したため,有意な差は確認できなかっ

た.

ここで,銅板には抗菌作用があり,多少なりとも鉄細菌の

増殖は生じにくいと考えられるが,設置したガラス板も含

めて水酸化鉄スライムが全面的に付着しており,有意な差

はないことが分かる.また,写真 8 に示した銀イオンや銅イ

オンによる除菌・抗菌スプレーを塗布した試験片でも付着

の軽減は確認できない.付着の様子をインターバル撮影し

た映像を詳細に観察したところ,ガラス板上に付着した水

酸化鉄スライムが徐々に伸展して他と同様に銅板にも付着

していることが確認され,たとえ表面上で鉄酸化細菌の増

殖を抑えても,周辺から伸展してきたスライムの付着や,す

でにスライム化したものの付着までは軽減できないことが

伺えた.

3.抗菌剤の有効性

写真 10 は帯状シートの外側に中空螺旋の 2 重構造を持つ市販のポリエチレン製暗渠パイプであり,片方

には鉄酸化細菌の繁殖を抑えることを目的として銀系無機抗菌剤が配合されている(以下,無抗菌剤パイプ

と有抗菌剤パイプ)17).図 5 は JIS Z 2801:「抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果」に準拠して実施し

写真 8 各種スプレー処理による付着試験 1) 写真 9 樹脂・金属系の各種薄板に対する付着試験 1)

写真 10 本研究で使用した暗渠排水パイプ

図 5 鉄酸化細菌に対する抗菌効果試験

103

104

105

106

無抗菌剤パイプ 有抗菌剤パイプ

菌 

数 

(個 /

cm

2 )

4.1×105

2.0×103

248

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た鉄酸化細菌(Thiobacillus ferrooxidans)に対する抗

菌効果の評価試験結果である.抗菌加工製品の残菌

数が抗菌剤無加工製品と比較して 1/100 以下に減少

しており,鉄酸化細菌に対して抗菌効果を有するこ

とが確認されている 17).なお,同規格に従って黄色

ブドウ球菌と大腸菌に対する抗菌効果についても確

認している.

写真 11 は上記のパイプ片を調査地点から採取した湧水中に静置させた試験の様子と 60 日後の試験片(自

然乾燥後)を示したものである.試験片を浸水させたビーカーは 2 組ずつ用意し,暗室内と日光があたる屋

内に静置した.写真 11 中に示すように,試験片への付着量がそれほど多くないこともあり,抗菌剤の有無に

よる明確な違いは確認できないが,いずれも主として試験片上面にのみに付着していることが分かる.また,

付着は日光が当たる環境に設置した方が明らかに多い.これらのことから,試験片への付着物は試験片上方

の湧水中で生成された水酸化鉄スライムが沈殿・付着したものだと考えられ,この方法によってパイプ片の

表面(あるいは周辺)で鉄酸化細菌による水酸化鉄スライムの生成や付着を抑制しているかどうかを検証す

るのは困難だと判断した.また,この結果から日光が当たることで水酸化鉄スライムの反応・生成が活発に

なることが伺えた.

そこで,写真 12 に示すように地表面に水酸化鉄スライムが点在する調査地近傍の無対策斜面に対して先

述した 2 種類の暗渠パイプ(長さ 1m)を設置した.なお,斜面表層が軟弱で細粒分が多いことも考慮し,不

織布を巻いたパイプを内側に入れた塩ビ管を斜面に打ち込み,塩ビ管のみを引き抜くことで設置した.斜面

への挿入長は約 80cmとし,両パイプは 20cm程度の間隔で設置した.

表 1 はこれらのパイプについて実施した計測結果をまとめたものである.近傍に設置したにも関わらず,

両パイプから流出する水量や性質には違いが見られ,有抗菌剤パイプからの流出量は無抗菌剤パイプのおよ

そ 5 倍,流出した水に含まれる鉄イオン濃度も 4 倍程度であり,有抗菌剤パイプの方が水酸化鉄スライムが

付着しやすい環境になっていた.なお,パイプから流出する単位時間当たりの水量は極めて小さいため,い

写真 11 浸水試験の様子と静置 60 日後の試験片

写真 12 暗渠パイプの設置位置と設置後の様子

表 1 両暗渠パイプに実施した計測結果

有抗菌剤パイプ 無抗菌剤パイプ

4.6 1.2

0.0024 0.00042

40.4 52.0

鉄イオン濃度 (mg/L)

流量 (m3/hr)

付着量 (g)

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ずれも付着した水酸化鉄スライムを流出させるほどの勢い

はない.

写真 13 は設置から 2 ヶ月半後にパイプ内部を撮影した写

真であり,奥に存在する水酸化鉄スライムは無抗菌剤パイ

プの方が多いように見受けられた.そこで,設置から 4 ヶ月

半後にパイプを回収し,写真 14 に示すように半割して付着

状況や付着量について比較した.なお,表 1 中に示した付着

量はそれぞれのパイプ全面に付着した水酸化鉄スライムを

ブラシで丁寧に取り出して乾燥させた質量であるが,奥側

の 20cm については両パイプ内部に土砂の流入が確認され

たため,425µm ふるい通過分のみを計量した.付着量は無抗菌剤パイプの方が多いが,有抗菌剤パイプにも

ある程度の付着量が認められる.ただし,これはパイプ周面の不織布から伸展してパイプの外側に付着した

ものと,奥側から流れ込んでパイプ内側底部に付着したものが大半だと見受けられた(写真 14 参照).

写真 14 より,両パイプの付着状況には明確な違いがあり,無抗菌剤パイプの内面にはほぼ均等に水酸化鉄

スライムが付着しているが,有抗菌剤パイプの内面上側にはほとんど付着していないことが分かる.さらに,

有抗菌剤パイプの方が明らかに付着しやすい環境にあったことを考えると,有抗菌剤パイプには明らかに水

酸化鉄スライムの付着を抑制する効果があると判断した.

4.付着メカニズムと対策法に関する検討

以上の結果から,材質等を変化させても周囲からの伸展や,すでにスライム化したものが流れてきて付着

することまでを全て防ぐのは困難であるが,抗菌性を有する材料を用いれば付着を抑制させることはできる

と分かった.図 6 は水酸化鉄スライムによる閉塞抑制を目的として排水ボーリング管末端に設置された延長

パイプの概略図である.管内が外気と遮断されて酸素濃度が低い状態を保てる点で効果が期待できるが,こ

の方式では地下水中の溶存酸素で水酸化鉄スライムの生成・付着が行われるために効果が低いとする報告も

ある 3).そこで本研究の成果を踏まえると,この方式に加えてパイプに抗菌性を持たせること,さらに孔口

からある程度の深さまでは非ストレーナー加工として酸素濃度が低い深部からのみ集水することを併用すれ

ば,従来に比べて目詰まりまでに要する時間を大幅に遅らせることができ,洗浄等の維持管理にかかる労力

やコストを削減できるのではないかと考えられる.

一方,本調査地点のように補強土背面に面状排水材が設置されている場合には,抗菌性を持たせることや

可能な範囲でメッシュ径や内部空間を大きいものを選定することで目詰まりに要する時間を遅らせることは

できると考えられる.しかし,目詰まりの確認や洗浄・交換が困難であることから,面状排水材の排水性能

写真 13 2 ヶ月半後のパイプ内部 写真 14 パイプ回収後の付着状況

図 6 付着抑制のための延長パイプ概略図

(丸山ら 3))

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を長期的に維持することは難しいことも予想される.そのため,水酸化鉄スライムを生成するような湧水を

補強土背面にある排水材には可能な限り流さぬよう,補強土内に抗菌性の水抜きパイプを追加したり,場合

によっては格子枠工やふとんかご工などの排水性が高く,維持管理が容易な工法を部分的(のり尻等)に施

工するなどの方法で補強土自体の排水性能を高める対応が必要だと思われる.このように,各種土木工事に

おいて水酸化鉄スライムの発生が懸念される場合には,上述したような付着の特性を十分に踏まえた上で対

処法を検討することが重要だと考えられる.

5.まとめ

本研究から得られた知見を以下にまとめる.

・水酸化鉄スライムの目詰まりによって面状排水材の垂直透水・面内通水性能はともに大きく低下するが,

特に垂直透水性能の低下が著しいことが確認された.

・施工環境に近い覆土下においても水酸化鉄スライムは面状排水材に付着し,目詰まりは進行することが確

認された.

・材質を変えても周辺から伸展してきたスライムの付着や,すでにスライム化したものの付着までは軽減で

きないことが伺えた.

・無対策斜面に対して抗菌剤が配合された暗渠排水パイプを設置した試験から,このパイプには明らかに水

酸化鉄スライムの付着を抑制する効果があることが分かった.

・水酸化鉄スライムの発生が懸念される場合には,本研究で得られたような水酸化鉄スライムの性質や付着

特性を十分に踏まえた上で対処法を検討することが重要だと考えられる.

参考文献

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9) 上村一雄,金尾忠芳:生物材料インデックス:研究室の片隅で生き物への愛を語る 鉄酸化細菌:その多

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11) 萩原純二,高崎新一:地下水中の第 1 鉄封鎖による鉄析出障害対策,地下水・土壌汚染とその防止対策

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13) 細川土佐男,神野健二,岩満公正:飽和-不飽和領域における二価鉄の酸化沈殿を考慮した鉛直一次元輸

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16) 社団法人地盤工学会:地盤材料試験の方法と解説-二分冊の 2-,「ジオテキスタイル及びその関連製品の

面内方向通水性能試験方法」,pp.1041-1047,2009.

17) 三井化学産資株式会社:圃場用ネオドレーンパイプ技術資料 2012年度版 .

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