市民政党ポデモスを生んだスペインの社会的・政治的背景

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作成者 : 廣田 裕之( m iguel@ ineval.org )

Ver 2.0 公表日 :2016 年 9 月 28 日

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もくじスペインの地理的・言語的多様性スペイン現代史 : ポデモスが生まれた背景5 月 15 日運動 : ポデモスを生む土壌づくりポデモスの活動・主な政治家

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スペインの地域的・言語的多様性17 州 50 県(カナリア諸島はアフリカ大陸沖)とセウタ、

メリリャの 2 自治市(アフリカ大陸上に存在)で構成カスティーリャ王国、アラゴン王国、ナバラ王国などが合

併してスペインが成立 > 国内の多様性国内に 4 つの公用語 :

・カスティーリャ語(いわゆるスペイン語、全国のみならず中南米諸国でも通用)・カタルーニャ語(カタルーニャ、バレアレス、バレンシアの 3 州、フランス語やイタリア語に似ている)・バスク語(バスク、ナバラの両州、周辺言語とは全然違う(日本人にとってのアイヌ語のようなもの))・ガリシア語(ガリシア州、ポルトガル語の方言)

地方分権が進む : 州議会や市議会も議会民主制で、州知事や市長は議員から選出される(日本のように、知事選や市長選と議員選挙が別々になっていない)

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スペインの地域的多様性

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スペインの言語的多様性

紫 : カスティーリャ語、橙 : カタルーニャ語、緑 : バスク語、紺 : ガリシア語

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スペイン語圏の広がり

赤 : スペイン語のみが公用語の国青 : スペイン語が公用語の 1 つの国・地域スペイン語はスペイン以外にも中南米 18 ヶ国 + プエル

トリコ、赤道ギニア(アフリカ)で公用語

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スペインの主な地域

マドリード州 : 首都があり、地理的にも国土のほぼ中心。ポデモスのパブロ・イグレシアス党首の出身地。

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スペインの主な地域カタルーニャ州(州都

バルセロナ) : 経済・社会運動・文化の先進地帯で、出版・文化活動では首都マドリード以上。伝統的に反中央意識・独立志向が強い。

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スペインの主な地域

バスク州(州都ビトリア) : 経済的先進地帯で、カタルーニャ同様反中央意識・独立志向が強い(画像はバスク州名物のピンチョスと呼ばれる料理)

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スペインの主な地域

アンダルシア州(州都セビリア) : イスラム支配が長く続き、アルハンブラ宮殿が所在、フラメンコの本場。オリーブ畑の大土地所有制が残り、後進地帯の代表格

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スペインの主な地域

ガリシア州(州都サンティアゴ・デ・コンポステラ) : 降水が多く、魚介類が豊富。小規模自作農が多く保守層も多いが、都市部では左派も強い。

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スペイン第 2 共和政(1931~1939)

1931 年に成立した第 2 共和政の下で、教育や男女同権などの面で進歩的改革を推進 > 地主・教会など保守層からの反発を生む

ポデモス支持層が注目する時代

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スペイン内戦 (1936~1939)

ピカソ( 1881~ 1973 )の代表作ゲルニカ( 1937 )スペイン保護領モロッコでフランコ将軍が反乱 > 政府軍

(共和国軍)との内戦に > 反乱軍が勝利

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フランコ政権( 1939~ 1975 )

極右政権で左派(共和国派)を弾圧(フランスや中南米への亡命者続出)、カスティーリャ語以外を禁止、カトリックを国教化

第 2次大戦後は工業化を促進、1960 年代よりビーチリゾートの開発にも着手

1960 年代よりバスク自由と独立( ETA )が活動開始、スペイン各地で爆破テロを繰り返す(~ 2011 )フランコ( 1892~ 1975 )

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カトリック教会とフランコ軍事政権の癒着

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民主化( 1975~)1975 年のフランコの死後、アルフォンソ 13世( 1931 年退位)の孫でフランコに後継者指名されていたフアン・カルロス 1世が国王に即位 > 1978 年公布の新憲法で民主化・地方分権化

共産党を含む政治活動を解禁、地方言語の公用語化経済発展・ EU加盟・インフラ整備(高速道路網・高速鉄道)

などを果たす一方で、国民党( PP )と社会労働党( PSOE )との二大政党制による腐敗が横行

国民党( PP ) : フランコ政権の重臣マヌエル・フラガが創設。基本的に教会や大企業、大地主など既得権益者の権益を擁護し、新自由主義的改革(公有財産の民営化)に最も積極的

社会労働党( PSOE ) : 1879 年にパブロ・イグレシアス・ポッセが創設(ポデモス党首の名前は彼にあやかってのもの)。フェリペ・ゴンサレス政権( 1982~ 1996 )時に大企業との密着や汚職が始まり、結党時の精神を失う > 一般市民からは PPSOE とヤジられる始末に

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21世紀のスペイン2002 年 : 欧州統一通貨ユーロへの移行 > 不動産バブル >

外国人労働者を大量に受け入れ > バブル崩壊( 2007 年)。失業率が最大で 27% に達す

経営難に陥った銀行には大量に公的資金を投入して救済する一方、教育や医療などの予算は次々削減

ギリシャの経済危機 : ギリシャ国民の生存権の保証よりも債務返済を優先させる欧州中銀やドイツ政府の態度にスペインでも反発強まり、シリザへの支持が強まる

王室 : フアン・カルロス国王(当時)の娘婿イニャキ・ウルダンガリンが財団の公金横領疑惑で起訴、クリスティア王女も裁判に > 国王の退任( 2014 年)、息子フェリペ 6世が後継王として即位

一般市民から乖離した王室・ 2 大政党・財界・カトリック教会 >5 月 15 日運動に

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フアン・カルロス国王の象狩り

当時WWF (世界自然保護基金)スペイン名誉会長だった国王が、 2012 年にアフリカのボツワナまで愛人とゾウ狩りに出かけて世論から叩かれる

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国王退任表明の日の市民の反応

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中南米からの影響旧植民地で同じスペイン語圏(ブラジルはポルトガル語だ

が似ている)の中南米とスペインは伝統的に交流が盛ん中南米で 2000 年代に左翼政権が数多く成立 : スペインで

もその取り組みが話題になるエクアドル : 先住民ケチュア族の伝統的な概念をスペイン

語に訳したブエン・ビビール(環境と調和しつつ需要を満たすライフスタイル)がスペイン知識人にも受け入れられる

ウルグアイ : ムヒカ大統領の清貧さにスペイン人も感銘アルゼンチン : 同国の軍政時代( 1976~1983 )に人権侵害を起こした人を起訴し有罪判決を下す(スペインでは未だにフランコ政権時代の人たちが裁かれていない)

キューバ : 経済的に苦しい中、国民の健康を最優先している同国の医療制度への関心

ブラジル : 2001 年にポルトアレグレで市民運営型の世界社会フォーラムを初開催、その後世界に広まる

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5 月 15 日運動( Movimiento 15-M )

王室・政界・財界・カトリック教会といったスペイン社会の支配体制への抗議、より直接民主主義的な社会の構築を訴え、 2011 年 5 月 15 日に開始 (その後米国ウォール街に飛び火)

スペインでは通常キンセ・エメ( 15-M )と呼ばれる

スペイン主要都市のメイン広場をデモ参加者が占拠、選挙制度や経済、教育や年金問題などについて市民集会で幅広く討議

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5 月 15 日運動

「スペイン革命 : おれたちは社会制度の敵ではない、社会制度のほうがおれたちの敵なのだ」

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5 月 15 日運動

「銀行家や権力の座にある政治家、みんな出て行け」

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ポデモスの結成・党勢拡大2014 年 1 月にマドリードの若手左派知識人を中心に結成。党

首パブロ・イグレシアス( 1978 年生)はマドリード・コンプルテンセ大学の政治学の教員だったが、以前からマスコミで注目される存在

2014 年 5 月の欧州議会選挙で 5 議席を獲得し、一躍注目が集まる

2015 年 5 月の統一地方選では、市民プラットフォーム政党の側面支援という形で参加。マドリードとバルセロナというスペインの 2 大都市の両市長が市民系になり、全国規模で人気に獲得

2015 年 12 月の総選挙(定数 350 議席)で 69 議席を獲得し、第 3 極としての地位を確保

2016 年 6 月のやり直し総選挙 : 統一左翼と統一会派を結成するものの勢力は伸びず( 71 議席)

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ポデモスの特徴大企業からの献金ではな

く市民の募金やボランティア活動で運営

各地に支持者サークルを作り、そこで 5 月 15 日運動のようにさまざまな政治問題を討議

ネット上の左派系メディアや Facebook などを活用して幅広い人たちにメッセージを伝達

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他の主要政党との違い政党名・立場 ロゴ 説明 日本で

例えると

国民党(PP)

伝統的右翼

フランコ政権時代の重鎮が創設し、既得権益層(大地主、大企業、

カトリック教会など)の利益代表

自民党右派

社会労働党(PSOE)社民勢力

当初は労働者階級の政党だったが、今では大企業におもねるように 民進党

シウダダノス(C’s)新右翼

国民党の腐敗を嫌う保守層が支持基盤で、新自由主義的 維新

ポデモス市民社会主導

5 月 15 日運動で政治に覚醒した高学歴貧困層の若者など

市民社会を基盤とした政党SEALDs

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年代別支持率

2016 年 1 月の世論調査の結果を年代別にまとめたもの

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4 大政党の州別得票率

2015 年 12 月の総選挙における各党の得票率

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ポデモスの支持層の特徴年代 : 45歳未満の支持が高い一方、中高年層からの支持はイマイチ

学歴 : 大卒以上の高学歴層ほどポデモスの支持率が高い傾向の一方、低学歴層はそれほど取り込めていない

都市 /農村 : マドリードやバルセロナなど大都市で支持率が高く、農村では少ない

地域 : 都市部を擁するマドリードとバルセロナに加え、バスク州やガリシア州で強い(バレンシア州では既存の地域政党コンプロミスと統一会派を結成)一方、保守的な風土の強いカスティーリャ・イ・レオン州やアンダルシア州などでは弱い(アンダルシア州では社会労働党の支持が今でも強い)

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党首パブロ・イグレシアス1978 年生まれPSOE の創設者パブロ・

イグレシアス・ポッセ( 1850~1925 )にちなんで命名

マドリード・コンプルテンセ大学の政治学の若手教員だったが、以前より討論番組に数多く出演して人気を獲得

2014 年の欧州議会選での当選により政治家としての活動を開始

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パブロ・エチェニケ1978 年生まれアルゼンチン出身でスペ

インに帰化した物理学者。アラゴン州の州都サラゴサ市在住

イグレシアスよりも市民参加を重んじる傾向にあり、人気は高い

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テレサ・ロドリゲス1981 年生まれスペインでも失業率が最

も高いアンダルシア州カディス県出身

学生時代から、出身地ロタ市にある米軍基地に反対する運動の活動家として有名になり、その後高校の国語教師となる

欧州議員に加えアンダルシア州議員

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マヌエラ・カルメナ1944 年生まれ人権派判事として活躍後

年金生活を送っていたが、市民プラットフォーム系の候補として統一地方選に臨み見事マドリード市長に

就任後は欠食児童や貧困層問題などに重点的に取り組んでおり、マドリードのみならず全国的に人気

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アダ・コラウ 1974 年生まれ住宅ローンが払えずに自宅を強制収用される人の権利を守る運動家からバルセロナ市長に

市長就任後、銀行による強制収用を停止、観光客が多過ぎて市民生活に悪影響が出ている現状を打破すべくホテル業を規制

本人はそれほどカタルーニャ独立派ではなく、市民の意見が直接反映される政治制度づくりに熱心で、全国的に人気