臨床疫学研究からみた不適切かもしれない向精神薬使用

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臨床疫学研究からみた 不適切かもしれない 向精神薬使⽤ 奥村泰之 ⼀般財団法⼈ 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構 研究部 主任研究員 第8回⽇本不安症学会 2016/2/7 (⽇) 10:30~12:00 千葉⼤学医学部第1講義室

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臨床疫学研究からみた不適切かもしれない向精神薬使⽤

奥村泰之⼀般財団法⼈ 医療経済研究・社会保険福祉協会

医療経済研究機構 研究部 主任研究員

第8回⽇本不安症学会2016/2/7 (⽇) 10:30~12:00

千葉⼤学医学部第1講義室

Page 2: 臨床疫学研究からみた不適切かもしれない向精神薬使用

マスメディア,薬漬け

3NHK: クローズアップ現代 (http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3213_all.html)朝⽇新聞: 2015年5⽉25⽇朝刊

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「適切な」向精神薬の使⽤の推進

4厚⽣労働省 (http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000102476.pdf)

「不適切」な向精神薬使⽤が蔓延︖

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研究者,不適切かもしれない向精神薬使⽤

Predictive Validity of the Beers and Screening Tool of Older Persons' Potentially Inappropriate Prescriptions (STOPP) Criteria to Detect Adverse Drug Events, Hospitalizations, and Emergency Department Visits in the United States

Trends and interaction of polypharmacy and potentially inappropriate prescribing in primary care over 15 years in Ireland: a repeated cross-sectional study.

Potentially inappropriate medication use at ambulatory care visits by elderly patients covered by National Health Insurance in Korea.

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薬剤使⽤の実態

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対象薬剤を定義

適切性の基準を設定

基準超えの程度を同定

対応策の有効性

基準越え対応策の検討

不適切かもしれない向精神薬使⽤のエビデンス

Page 6: 臨床疫学研究からみた不適切かもしれない向精神薬使用

発表の構成,4つの留意事項向精神薬使⽤のエビデンスの読み⽅

①「向精神薬の成分」を確認②「薬剤使⽤の適切性」の設定過程を確認③「薬剤使⽤の実態」の研究法を確認④「対応策の有効性」の研究疑問等の履歴を確認

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Page 7: 臨床疫学研究からみた不適切かもしれない向精神薬使用

向精神薬,中枢神経系に作⽤する薬剤の総称

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向精神薬抗精神病薬

抗うつ薬

気分安定薬

抗不安薬

睡眠薬

抗てんかん薬

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向精神薬,多様な分類法・異なる成分

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⽇本標準分類 ⿇薬及び向精神薬取締法 ATC分類

Page 9: 臨床疫学研究からみた不適切かもしれない向精神薬使用

⽇本標準分類,中枢神経⽤薬≠向精神薬11 中枢神経⽤薬111 全⾝⿇酔剤112 催眠鎮静剤,抗不安剤113 抗てんかん剤114 解熱鎮痛消炎剤115 興奮剤、覚醒剤116 抗パーキンソン剤117 精神神経⽤剤118 総合感冒剤119 その他の中枢神経系⽤薬

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催眠鎮静剤,39剤=多種同効薬

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催眠鎮静剤 (112)

ベンゾジアゼピン受容体作動薬...29剤

バルビツール酸系睡眠薬...6剤

⾮バルビツール酸系睡眠薬...4剤

etizolam (デパス)は含まれない

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公的調査で活⽤

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調剤医療費の動向調査

薬事⼯業⽣産動態統計調査

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薬剤使⽤の実態

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対象薬剤を定義

適切性の基準を設定

基準超えの程度を同定

対応策の有効性

基準越え対応策の検討

不適切かもしれない向精神薬使⽤のエビデンス

Page 13: 臨床疫学研究からみた不適切かもしれない向精神薬使用

発表の構成,4つの留意事項向精神薬使⽤のエビデンスの読み⽅

①「向精神薬の成分」を確認②「薬剤使⽤の適切性」の設定過程を確認③「薬剤使⽤の実態」の研究法を確認④「対応策の有効性」の研究疑問等の履歴を確認

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Page 14: 臨床疫学研究からみた不適切かもしれない向精神薬使用

系統的レビュー

薬剤使⽤の適切性の設定法

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薬剤使⽤の研究疑問を定式化

重要なアウトカムの選択

アウトカムごとに,エビデンスの統合・質の評価

診療ガイドライン全体的な

エビデンスの質の評価

推奨の⽅向性と推奨度の設定

相原守夫. 診療ガイドラインのためのGRADEシステム. 凸版メディア株式会社, 2015.Guyatt G et al: J Clin Epidemiol. 2011 Apr;64(4):383-94.

XXを使⽤すべきでないエビデンスの質: ⾮常に低〜⾼

推奨度: 弱〜強

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⽇本⽼年医学会,⾮BZ系薬使⽤の適切性

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すべての⾼齢者において,⾮BZ系を漫然と⻑期投与せず,

減量中⽌を検討することエビデンスの質: 中

推奨度: 強

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適切性の設定過程

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系統的レビュー2005~2013年の和⽂・英⽂

アウトカム︓︖

デザイン︓RCT︖

研究数︓︖

⽔上勝義: ⾼齢者のうつ、不眠、認知症の薬物療法に関する研究. 平成25年度 総括・分担研究報告書 ⾼齢者の薬物治療の安全性に関する研究 2014: 57-60.

GRADEではない︕

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薬剤使⽤の実態

不適切かもしれない向精神薬使⽤のエビデンス

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対象薬剤を定義

適切性の基準を設定

基準超えの程度を同定

対応策の有効性

基準越え対応策の検討

Page 18: 臨床疫学研究からみた不適切かもしれない向精神薬使用

発表の構成,4つの留意事項向精神薬使⽤のエビデンスの読み⽅

①「向精神薬の成分」を確認②「薬剤使⽤の適切性」の設定過程を確認③「薬剤使⽤の実態」の研究法を確認④「対応策の有効性」の研究疑問等の履歴を確認

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⾼齢者に対するBzRAsの使⽤実態

①セッティング 2012年10⽉~2013年9⽉被⽤者保険のレセプト情報と被保険者情報

②分⺟の定義 65~74歳の健康保険組合の加⼊者17,863名

③分⼦の定義 1年間に33剤の経⼝のベンゾジアゼピン受容体作動薬が1度以上処⽅

④処⽅割合 19%

20Okumura, Y, Shimizu, S, Matsumoto, T: Drug Alcohol Depend 2016; 158: 118-25.

頓⽤が含まれ⻑期使⽤ではない︕

適切性の基準⾼齢者にBzRAsを⻑期使⽤すべきでない

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統合失調症に対する抗精神病薬の使⽤実態

①セッティング 2011年10⽉診療分における⼊院のレセプト情報

②分⺟の定義 ⼊院精神療法の算定のある統合失調症⼊院患者7,391名

③分⼦の定義 1か⽉間に32剤の抗精神病薬が3剤以上処⽅

④処⽅割合 42%

21奥村泰之, 野⽥寿恵, 伊藤弘⼈: 臨床精神薬理 2013; 16: 1201-15.

適切性の基準統合失調症に抗精神病薬を多剤処⽅すべきでない

多剤処⽅の定義は倹約的︕

Page 21: 臨床疫学研究からみた不適切かもしれない向精神薬使用

薬剤使⽤の実態

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対象薬剤を定義

適切性の基準を設定

基準超えの程度を同定

対応策の有効性

基準越え対応策の検討

不適切かもしれない向精神薬使⽤のエビデンス

Page 22: 臨床疫学研究からみた不適切かもしれない向精神薬使用

発表の構成,4つの留意事項向精神薬使⽤のエビデンスの読み⽅

①「向精神薬の成分」を確認②「薬剤使⽤の適切性」の設定過程を確認③「薬剤使⽤の実態」の研究法を確認④「対応策の有効性」の研究疑問等の履歴を確認

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Page 23: 臨床疫学研究からみた不適切かもしれない向精神薬使用

⾼齢者に対するBZ系薬の休薬法

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P : 調剤薬局を利⽤する⾼齢者におけるベンゾジアゼピン系薬剤の⻑期使⽤者

I : 教育的介⼊

C : 通常診療

O : ベンゾジアゼピンの休薬率

T : 介⼊6か⽉時点

27% vs. 5%リスク差: 22%

Tannenbaum, C, Martin, P, Tamblyn, R et al: JAMA Intern Med 2014; 174: 890-8.

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研究疑問や例数設計の履歴を把握

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臨床試験登録 研究計画書 論⽂

3つの情報源に齟齬がない

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統合失調症に対する抗精神病薬の減薬法

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P : 統合失調症における抗精神病薬の多剤使⽤者

I : 減薬プログラム

C : 通常診療

O : 精神症状と⽣活の質

T : 介⼊終了12週時点

主要評価項⽬に差が認められない(⾮劣性試験)

Yamanouchi, Y, Sukegawa, T, Inagaki, A et al: Int J Neuropsychopharmacol 2015; 18.

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研究疑問や例数設計の履歴を把握

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臨床試験登録 研究計画書 論⽂報告書

4つの情報源に齟齬がある︕︕

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失敗した臨床試験の粉飾法 (spin)

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Before⾮劣性を⽰す症例数が

得られなかった必要症例数: 400例

研究疑問①⾮劣性精神症状が悪化しないか

研究疑問②優越性⽣活の質が改善するか

After⾮劣性が⽰された

必要症例数: 142例

研究疑問①⾮劣性精神症状が悪化しないか

研究疑問②⾮劣性⽣活の質が悪化しないか

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Take Home Messages向精神薬使⽤のエビデンスの読み⽅

①「向精神薬の成分」を確認②「薬剤使⽤の適切性」の設定過程を確認③「薬剤使⽤の実態」の研究法を確認④「対応策の有効性」の研究疑問等の履歴を確認

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