可視化は社会を変えるか?@ナレッジサロン

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ナレッジキャピタル木曜サロン 2012.7.19 可視化社会を変えるか? 株式会社ズームス 保田充彦

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ナレッジキャピタル木曜サロン 2012.7.19

可視化は社会を変えるか?株式会社ズームス 保田充彦

ハリー・ベックによるロンドン地下鉄路線図 (1933)

Harry Beck以前の路線図は、「地形図」上に路線を描画したものだった。

1889 1905 1908

1914 1919 1924

今、世の中で、おこっていること。

「密室(クローズド)」から「公開(オープン)」へ

科学技術と社会のかい離

一般市民にとって、科学技術は「ブラックボックス化」している。科学者・技術者側から見れば、研究開発の意義が国民に理解されていない。

「ソーシャル・ネットワーク」、「民主化」

「ニューヨークタイムズ日曜版一部に掲載されている情報量は、ルネサンス時代に一人の人間が一生かけて出会う情報量より多い。」(R.S.ワーマン「情報選択の時代」)

Googleが把握しているURLリンクの数は1兆個を越えた。(Google公式ブログ 2008/7/25)

2006年に作成もしくは複製されたデジタル情報量は、161エクサ( 1億6100万テラ)バイト。 これは、これまでに書かれた書籍の情報量合計の約300万倍にあたる。(米IDC調査)

2007年から2011年の5年弱でデジタルデータの量は約10倍に増大した(米IBM)

2011年に生成されるデータは1.8ゼタ(10の21乗、ペタの100万倍)バイト。これは、米国の全国民が1日3回ツイートして、2万6976年続けるのと同等。(米IDC/米EMC)

YouTubeには毎分48時間分の動画が投稿され、一日30億ビューの視聴がある。(YouTube公式ブログ May, 2011)

Twitterには1日2億件の「つぶやき」が寄せられている。(2011/6/30)

全世界のFacebookのユーザ数が8億人を突破(2011/9/22)

2010年から2020年までの10年間で、データ量は50倍、ファイル数は75倍、必要なサーバー台数は現在の10倍になる。(米IDC/米EMC)

私たちは、データの「洪水」の中にいる。

公開 Open共有 Share革新 Innovation

可視化

可視化

   ことが

できるように

する。

見る

理解する見る =

情報の「理解」ビジネス

コミュニケーション産業の中には、情報を広めるためになすべきビジネスは三種類しか存在しない。情報の伝達、保存、そして理解、この三つである。

事実上まだ未開拓の分野が、第三の分野、すなわち「理解」ビジネスである。理解とは、データと知識を結ぶ架け橋であり、これこそが情報の本来の目的である。理解に関心を持っている人はいるが、まだ、それを専門にしているビジネスはほとんど存在しない。

私たちには、情報をアクセス可能にし理解可能とする専門の理解ビジネスが必要である。ますます生活を左右するようになったデータを解釈する新しい方法や、そのデータを使用可能、理解可能にし、情報に変えるような新しいモデルが必要である。

R.S.ワーマン「情報選択の時代」(1989)

情報の検索から「情報の理解」の時代へ可視化はその有力なツール

キトラ古墳「天文図」 (7世紀末~8世紀初)

可視化の歴史...

スコットランドのエンジニア、政治経済学者。それまでは表でしか示されなかった数値データを、折れ線グラフ、棒グラフ、パイチャート、バーグラフの4種類のグラフで始めて表現した(1786年)。

グラフの発明: William Playfair, 1759 ‒ 1823

ナイチンゲールは統計学者

フローレンス・ナイチンゲールFlorence Nightingale, 1820 -1910

1854年クリミア戦争に従軍し、兵士の死亡の主原因が伝染病であることを訴えるため、独自のカラーチャートを考案し政府に訴えた。ナイチンゲールは、一流の看護師・看護教育者であるとともに、優れた統計学者であり、情報可視化のパイオニアの一人と言える。

“Choloera Map” by John Snow (1854)

1854年英国SOHOで発生したコレラを調査・研究した医師John Snowは、その結果を一枚の「地図」で示した。SOHOの地図上にコレラによる死亡者を図示したのである。当時のロンドンは非常に臭かったため、「臭い」つまり、空気感染説が優勢だった(「ミアズマ」)。しかし、スノウが作成した地図から、死亡者の分布の中心に井戸があることがわかり、コレラは水を介して伝染することが発見された。このしばらく後、コレラの大量発生はなくなり、Snowは疫病学の父の一人と言われる。

ジョン・スノウの「コレラ地図」(1854)

ナイジェル・ホームズ(Nigel Holmes)元タイムマガジンのグラフィック・ディレクター。1994年に独立、”Explanation Graphics”を創業。アップル社、スミソニアン博物館など、様々なクライアントの情報を視覚化している。現在はニューヨークタイムズ紙のイラストなどで活躍。インフォグラフィクスの開拓者と言える。

インフォグラフィクスの実用化 Nigel Holmes/Time誌

可視化を、見てみる。 

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情報公開の可視化 Oakland Crimespotting

オークランド市内で発生した犯罪を一目で把握できるサイト。犯罪の発生日、種類、場所でスクリーニングできるインターフェースをもつ。住民の「知る権利」を具現化することを目的としている。Stemen Designがデザインを担当。http://oakland.crimespotting.org/

GOOD Magazine(米)

思想信条に関係なく、クリエイティブ、持続可能、生産的、シェア等をキーワードにした「代替モデル」を支援、展開するサイト。購読料を選ぶことができる上に、購読料は購読者が選んだ非営利団体へ寄付されるというユニークなシステムで運営している雑誌。Information Graphicsが多く使われている。

GOOD Sheet @ Starbucks

“Great Conversations at Starbucks”(スターバックスで素敵な会話を)キャンペーンの一環として、店内で無料配布された。GOOD Magazineのインフォグラフィクスをペーパーナプキンに印刷したもので、二酸化炭素排出、教育、移民、経済、ヘルスケア、ガソリン価格など、客の会話や行動につながるような身近なテーマを扱っている。

GOOD Sheet @ Starbucks

“Great Conversations at Starbucks”(スターバックスで素敵な会話を)キャンペーンの一環として、店内で無料配布された。GOOD Magazineのインフォグラフィクスをペーパーナプキンに印刷したもので、二酸化炭素排出、教育、移民、経済、ヘルスケア、ガソリン価格など、客の会話や行動につながるような身近なテーマを扱っている。

“Financial Times, Graphic World” @ Grand Central St., N.Y.

ファイナンシャル・タイムズと、インフォグラフィック・ジャーナリスト、デビッド・マカンディスの共同プロジェクト。ニューヨーク、グランドセントラル駅構内に、インタラクティブ映像を投影した。映像のテーマは、グローバル・エコノミーや景気後退、お金の話、など、ファイナンスに関するインフォグラフィック映像になっている。

”Financial Times, Graphic World” @ Grand Central St. (2012)

ファイナンシャル・タイムズと、インフォグラフィック・ジャーナリスト、デビッド・マカンディスの共同プロジェクト。ニューヨーク、グランドセントラル駅構内に、インタラクティブ映像を投影した。映像のテーマは、グローバル・エコノミーや景気後退、お金の話、など、ファイナンスに関するインフォグラフィック映像になっている。

マネジメントの可視化 ~GM社の問題追跡可視化システム

「例えば、変速機のケースが耐久試験で壊れたとする。その問題は、文書化されると同時に、LEGOボード上にブロックとして置かれる。ブロックの色は車の部位を、ブロックの大きさは問題の重大さに対応し、それぞれのブロックには、ID番号と問題発生の日付が書かれる。ボード上のブロックの位置で、原因究明から解決策までの進行状況を把握する。

IKEAの秘密~「グルーエン転移」

ロンドン大学で建築計量学を研究するアラン・ベン教授は、IKEA店内の顧客の動きをシミュレーションで可視化した。その結果、意図的に顧客を混乱させるレイアウトによって、顧客の「長い行列」ができることがわかったと言う。ペン教授曰く、「店内の難解さは顧客の自律性を失わせ、服従させる。じらされた後には満足がやってくる。」つまり、店内で混乱した顧客は、砂漠で道に迷った旅人。苦労の末、眼前に現れた商品は、砂漠の中で見つけたオアシス。思わず手が出てしまう、と言うわけだ。この効果は「グルーエン転移」として知られていたもの。

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「解剖学は、絵でしか、伝えることができない。」 ~ 養老孟司

科学と可視化のカンケイ:解剖学の教科書

BioVisions at Harvard University  “inner space” http://multimedia.mcb.harvard.edu/

Research in the biological sciences often depends on the development of new ways of visualizing important processes and molecules. Indeed, the very act of observing and recording data lies at the foundation of all the natural sciences. The same holds true for the teaching and communication of scientific ideas; to see is to begin to understand. The continuing quest for new and more powerful ways to communicate ideas in biology is the focus of BioVisions at Harvard University. BioVisions is based on a collaborative community of Harvard scientists, teaching faculty, students, and multimedia professionals. It is directed by Dr. Robert A. Lue, who founded BioVisions with generous and continuing support from the Howard Hughes Medical Institute and Harvard University.

生命科学の視覚化 “BioVisions” (Harvard大学+ Xvivo社)

甲羅を持ち、手足を引っ込めることができるカメ。人間や他の動物とはかなり違った体の構造を持つ、ユニークな生き物です。この秘密、実は、進化の過程で肩甲骨(けんこうこつ)が肋骨(ろっこつ)の内側に移動する「逆転現象」によるもの。甲羅は肋骨同士の隙間を埋めるように骨が融合したものなのです。制作:2011年8月製作・著作:理化学研究所発生再生科学総合研究センター・形態進化研究グループ展示:ナレッジキャピタルトライアル2011

カメの発生/進化過程のコンピュータ・グラフィクス

シミュレーション計算の可視化

SPEEDI (緊急時迅速放射能影響予測システム)

「原子力発電所などから大量の放射性物質が放出されたり、そのおそれがあるという緊急事態に、周辺環境における放射性物質の大気中濃度および被ばく線量など環境への影響を、放出源情報、気象条件および地形データを基に迅速に予測するシステム。結果は、ネットワークを介して文部科学省、経済産業省、原子力安全委員会、関係道府県およびオフサイトセンターに迅速に提供され、防災対策を講じるための重要な情報として活用されます。」~SPEEDI HP より

“Debris from Japan Tsunami Travels Across the Pacific”

3.11の大震災で発生したがれきの多くが海に流れ、海流に乗って太平洋を漂流している。その様子をアメリカ海洋大気庁(NOAA)が、コンピュータ・シミュレーションと人工衛星による観測を組み合わせて予想している。がれきは単なる廃棄物として迷惑なだけでなく、トドやアザラシが口にすると生命の危険もあると言う。またサンゴ礁や船のスクリューにもダメージを与える恐れがある。そして今回は、放射能に汚染されたがれきも含まれる。震災がれきは、地球の広い範囲に長期間にわたって影響を与える大きな問題だと言うことが実感できる可視化映像。

“Britain from Above”の制作スタッフによる、アメリカの可視化をテーマにした番組が、”America Revealed”。食品、交通、電力、ものづくり等、アメリカの今を様々な視点から切り取るドキュメンタリー番組に挿入されるデータの可視化映像は有益で美しい、インフォグラフィクスになっている。http://www.pbs.org/america-revealed/

社会情報の視覚化 “America Revealed” PBS

“America Revealed” by PBS (2012)

Vislab OSAKA「ビジュアリゼーション・ラボラトリー大阪」@うめ北・ナレッジキャピタルトライアル

21世紀の我々の生活にとって、非常に重要な科学技術を身近なものにするために、スーパーコンピュータ、超高速ネットワーク、インタラクションなど様々な技術とデザインやアートの出会いが必要です.ナレッジキャピタルである北ヤードを契機にVisualizationをキーワードとして様々な人の輪を作っていこうというグループがVislab OSAKAです。

Movie

GE/Fathom “Curing” (2012)

立体映像によるデータ可視化:”Virtual Museum”

3Dゲームエンジンを使った、体験型可視化アプリケーション。ユーザーは、ゲームコントローラーを使って、仮想の美術館の中を「歩き」ながら、立体物や映像などのコンテンツを楽しむことができる。体感型インフォグラフィクスのサンプルとして、世界地図上に立体棒グラフを表示するコーナーを設けた。

公開 Open共有 Share革新 Innovation

社会データの可視化

オバマ大統領の”Open Government Initiative”施策の一環として、世界中の「公共データの民主化」を目指す活動。様々なデータの公開と、それらを利用したアプリケーション開発・配布を支援している。”Open Government”の流れに乗り、サイト公開から3年で30カ国にネットワークが広がっている。2009年5月開設。(米国版は、現在新規活動停止か?サイトは公開継続されている。)

Data.gov

ソーシャルネットワークの可視化

“Locals and Tourists”(地元民と旅行者)

Flickrに投稿された写真データから観光マップを作る試み。 その街の写真を1ヶ月以上にわたって撮影している人は地元民(青色)、1ヶ月位内は旅行者(赤色)と推定。地元民しか知らない「隠れた観光スポット」を可視化している。

速報!! つぶや★king

ロンドン・オリンピックでどの競技が盛り上がっているかをリアルタイムで可視化するサイト。Twitter上の投稿をキーワードで収集、競技ごとに分類、大きさや位置で盛り上がり度を示す。トップ10競技は、Tweetの詳細も表示される。 提供は、Yahoo!Japan。

可視化の新しい流れ

Grassroots Mapping by M.I.T.

インターバル撮影できるデジカメを取り付けた風船付きの凧をあげて、しばらく後に回収すると言う方法で撮影された画像を「つなぎ合わせ」ツールを使って高解像度画像に変換すると言う、市民参加プロジェクト。得られた空撮データは、NASAやNOAA(アメリカ海洋大気圏局)の人工衛星画像よりも解像度が高いと言う。ペルーで土地権利問題に携わったことが開発のきっかけ。その後、メキシコ湾の石油流出事故で活躍した。

街のムードを可視化する Fuehlometer ("Feel-o-meter")「感情計」

Julius von Bismarckらによる2008年のプロジェクト。ドイツ、Lindau島湖畔に設置されたデジタルカメラで、人々の顔を撮影する。そのデータはサーバーへ送られ、うれしい・悲しい・どちらでもないと言った表情が解析、合計される。その結果にもとづいて、湖畔の灯台の頂上にとりつけられた「ニコニコマーク」の顔が変わる。このようなしくみで「街の表情」を可視化した。

「比較エンジン」“FindtheBest”の試み

• 「バイアスのない、データ指向の比較("Unbiased, Data-driven Comparison")」を標榜する、データ比較に特化したビジネスを展開するスタートアップ企業。見た目にわかりやすい比較だけでなく、信頼性を重視する、硬派のデータ比較サイトを展開している。

• 信頼できる比較結果を担保するため、FindTheBestが使うデータは、公共機関、一次情報(製造者など)、専門家情報に限っている。専門家は"Expert Bologger"として同サイトに認定された人に限定。権威や利権といったバイアスを極力排除する姿勢をつらぬいている。

10年後、もっとも魅力的な仕事は?

2009年、当時Googleチーフ・エコノミストだった ハル・ヴァリアン氏は、「今から10年後、もっとも魅力的な仕事は?」と言う問いに、こう答えた。

「それは、データ・サイエンティスト、です。」

ベン・フライ(Processingの開発者)は、データ・サイエンティストとは、次のような技術を持った人だと述べている。

コンピュータ・サイエンス

数学、統計学、データ・マイニング

グラフィック・デザイン

情報可視化、ヒューマン=コンピュータ・インタラクション

対象分野の専門知識

Fathom Information Design 社 (Ben Fry)

Processingの開発者、Ben Fry 氏が立ち上げた、情報理解ビジネスを展開するベンチャー企業。会社紹介には、「Fathom Information Design社は、インフォメーション・グラフィクス、インタラクティブ・ツール、ソフトウェア、ウェブ、モバイル端末を使って、顧客が複雑なデータを理解し表現する事を支援します。」とある。

まとめ(あるいは、希望)

これからは、情報「理解」ビジネスが重要になる

データはたくさんある。でも把握できていない。

情報「理解」ツールとして「可視化」に期待

可視化の可能性

あらゆる分野、様々なアプローチ

データ・サイエンティストは魅力的な仕事になる

可視化が社会を変える...と言うより、情報「理解」を進めるには、可視化は必須

「異分野融合の可視化」「専門深化の可視化」の2つの方向で拡大

公開 Open共有 Share革新 Innovation

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可視化 Visualization

ブログ「サイエンスメディアな日々・インフォグラフィクスな日々」

“yasuda0404”で検索してください。

科学技術振興機構「サイエンスニュース」

科学技術振興機構「サイエンスニュース」 2011~

サイエンスニュースは、独立行政法人科学技術振興機構による科学技術の映像ニュース。科学技術と社会をつなぐ様々な話題を約5分間の映像にまとめ、毎週配信しています。ズームスは2011年から制作メンバーとして参加し、テーマのリサーチから取材、編集を担当しています。(2011年度30本制作。2012年度は20本制作予定)

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さいごに

All life is an Experiment. The more experiments you make the better. - Ralph Waldo Emerson

人生はすべて実験である。実験するほど人生はよくなる。 - ラフル・ワルド・エマーソン