3.JICAプロジェクトの事例研究...17...

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3.JICA プロジェクトの事例研究 3-1 事例研究の視点 事例分析は、開発調査のパイロット・プロジェクトも含め、マイクロファイナンスが実際に行 われたプロジェクトを対象とする。本研究が現地調査を行わずプロジェクト資料を主な情報源と していること、プロジェクトによっては実施過程で変更を加えて状況が改善された場合もあるこ となどから、成功例・失敗例と二分して論ずることはできない。ただし、以下の二つの視点があ ることを念頭に置いて、事例分析を行う必要がある。 (1)プロジェクト目標にどれだけ貢献したか JICA プロジェクトでのマイクロファイナンスは、さまざまなニーズから導入されている(次 節参照)。現在のJICAの事業実施スキームを前提とするならば、各プロジェクトの目標達成のた めに、マイクロファイナンスが本当に有効なツールなのか、ほかに選択肢はないのかを検討して おくべきだろう。 いっぽうで、プロジェクト目標の設定そのものについても再検討する必要があることもある。 つまり、地域開発のプロジェクトの場合、本来ならば金融制度として位置づけなければならない のに、あくまでもプロジェクト期間内の投入の方法としかマイクロファイナンスを位置づけてい ないことがある。これでは、たとえプロジェクトにとっては成功であっても、地域の金融システ ムを乱しかねない。 (2)マイクロファイナンスとしてのパフォーマンス マイクロファイナンスのパフォーマンスを評価する一般的な指標は、返済率、利用者数、財務 的自立発展性などである。 返済率は、融資プログラムの最も基本的な指標である。いかなるプロジェクト目標のためのマ イクロファイナンスであっても、「融資」と「贈与」の混同を防いで活動を成立させるためには、 返済率を確保する設計でなければならず、これを軽視してはプロジェクト全体の成果の持続性を 損ねることになる。この点については、世銀などの金融機関のみならず、援助機関、マイクロフ ァイナンス実施機関においてすでに確立されたコンセンサスである。金融制度確立を目標として いない JICA プロジェクトであっても、これを軽視することは、当該国の金融制度に悪影響を及 ぼし、他の援助機関からの批判は免れないだろう。 利用者数は、規模(より多くの利用者)や深さ(より貧しい層がどれだけ利用できたか)など に加え、効率性(スタッフ一人当たりの利用者)やサービスの持続性(リピーターの割合)を測 る材料にもなる。 財務的自立発展性とは、運営コスト(スタッフ給与・事務所経費等)を金利収入でカバーでき ているか、さらには外部資金に依存せずに活動を持続できるか(預金を動員しているか、資金調 達コストをカバーできる収益体制か)といった指標で、長期的な制度作りを念頭に置いたもので

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3.JICA プロジェクトの事例研究

3- 1 事例研究の視点

事例分析は、開発調査のパイロット・プロジェクトも含め、マイクロファイナンスが実際に行

われたプロジェクトを対象とする。本研究が現地調査を行わずプロジェクト資料を主な情報源と

していること、プロジェクトによっては実施過程で変更を加えて状況が改善された場合もあるこ

となどから、成功例・失敗例と二分して論ずることはできない。ただし、以下の二つの視点があ

ることを念頭に置いて、事例分析を行う必要がある。

(1)プロジェクト目標にどれだけ貢献したか

JICA プロジェクトでのマイクロファイナンスは、さまざまなニーズから導入されている(次

節参照)。現在の JICA の事業実施スキームを前提とするならば、各プロジェクトの目標達成のた

めに、マイクロファイナンスが本当に有効なツールなのか、ほかに選択肢はないのかを検討して

おくべきだろう。

いっぽうで、プロジェクト目標の設定そのものについても再検討する必要があることもある。

つまり、地域開発のプロジェクトの場合、本来ならば金融制度として位置づけなければならない

のに、あくまでもプロジェクト期間内の投入の方法としかマイクロファイナンスを位置づけてい

ないことがある。これでは、たとえプロジェクトにとっては成功であっても、地域の金融システ

ムを乱しかねない。

(2)マイクロファイナンスとしてのパフォーマンス

マイクロファイナンスのパフォーマンスを評価する一般的な指標は、返済率、利用者数、財務

的自立発展性などである。

返済率は、融資プログラムの最も基本的な指標である。いかなるプロジェクト目標のためのマ

イクロファイナンスであっても、「融資」と「贈与」の混同を防いで活動を成立させるためには、

返済率を確保する設計でなければならず、これを軽視してはプロジェクト全体の成果の持続性を

損ねることになる。この点については、世銀などの金融機関のみならず、援助機関、マイクロフ

ァイナンス実施機関においてすでに確立されたコンセンサスである。金融制度確立を目標として

いない JICA プロジェクトであっても、これを軽視することは、当該国の金融制度に悪影響を及

ぼし、他の援助機関からの批判は免れないだろう。

利用者数は、規模(より多くの利用者)や深さ(より貧しい層がどれだけ利用できたか)など

に加え、効率性(スタッフ一人当たりの利用者)やサービスの持続性(リピーターの割合)を測

る材料にもなる。

財務的自立発展性とは、運営コスト(スタッフ給与・事務所経費等)を金利収入でカバーでき

ているか、さらには外部資金に依存せずに活動を持続できるか(預金を動員しているか、資金調

達コストをカバーできる収益体制か)といった指標で、長期的な制度作りを念頭に置いたもので

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ある。

当研究においても、返済率・利用者数・プロジェクト終了後の持続可能性をマイクロファイナ

ンスの成果の指標とする。どの程度の利用者数や返済率で「成功」と考えるかはプロジェクト目

標によって異なってくるものの、プロジェクトの報告書を読む限り、これらの指標が概ね「うま

くいっているかどうか」というパフォーマンスの判断基準とされている。

財務的自立発展性については、JICA プロジェクトでは金融制度作りが主目的ではないので評

価することはできない。しかし、いかなるプロジェクトにおいても「自立発展性」は成果を測る

重要な指標なので、実施したマイクロファイナンスが何らかの形で継続していく可能性がなけれ

ばならない。

事例分析においては、まず第 2 節で各事例の概要を整理したあと、第 3 節で(1)の視点で議

論をするための土台として、各事例におけるマイクロファイナンスの位置づけを分類する。次い

で第 4 - 5 節で(2)の視点に立って、マイクロファイナンスの実施方法に関する教訓を抽出す

る。第 6 節で主要セクターである農業信用の二つの事例について、社会経済状況条件や実施方法

などをより詳細に比較検討する。第 7 節では、(1)の視点に戻って議論し、第 8 節では両方の視

点から得られた教訓をまとめる。

3 - 2 事例概要 28

事例分析の対象とするプロジェクトは以下のとおり。

28 各事例の概要については添付資料を参照のこと。29 開発調査に関しては、マスタープランの目標。

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表 3- 1 分析対象事例

案件名(期間)

タンザニア国コースト州貧困農家小規模園芸開発計画実証調査

(1999.10 - 2004.3 )

プロジェクト目標 29

園芸開発を通じて地域農民の所得を向上し、貧困軽減を図る

対象

4 村の小規模農民

貸付・返済内容/方法

種子、肥料、農薬、農具等の貸付、現金返済/農民グループの連帯保証

資金管理者

県政府

受益者数

143 人

返済率

県主体: 52%農民組合: 100 %

貸付金利

8 %

ガーナ国灌漑小規模農業振興計画

(2002.8 - 2004.7 )

灌漑地区のモデル営農体系の確立

灌漑稲作農家

賃耕代、肥料、農薬の貸付、現金返済/農民組合が返済責任

二つの農民組合の付属機関として農民銀行設立

二つの農民組合

(計 225農家)

2 組合合わせて55-82%

年 39 %

ボリビア国小規模農家向け優良種子普及計画

(2000.8 - 2005.7 )

小規模農家に対する優良種子の普及

種子生産農家、小規模稲作農家

優良種子貸付・現金返済

NGO、協同組合等 6 団体

N.A. 平均76% 焼畑農家:年20%機械化農家:50%

ザンビア国ルサカ市プライマリー・ヘルス・ケアプロジェクト

(フェーズⅠ: 1997.3 -2002.3 フェーズⅡ: 2002.7- 2007.6 )

コミュニティに根ざした自立的プライマリーヘルスケア運営システムの改善

低体重児の母親

フェーズⅠ:共同農園で作付けした大豆をヘルスセンターで販売フェーズⅡ:とうもろこし製粉機を機材供与

NGO(AMDA)、住民組織

N.A. N.A. N.A.

フィリピン国家族計画・母子保健プロジェクト(フェーズⅠ: 1992 - 1997.3 フェーズⅡ: 1997.4 - 2002)

コミュニティに根ざした自立的プライマリーヘルスケア運営システム

地域住民 プロジェクトで供与した薬をヘルスポストで販売、売上金を薬仕入れにあてる

住民組織によるヘルスポスト

N.A. N.A. N.A.

フィリピン国セブ州地方活性化計画

(1999.3 - 2004 )

地 方 行 政 と 住民・ NGO との共同による地方開発メカニズムの構築

肉牛飼育事業の対象 5村 7 住民組織の零細農民・零細漁民

肉牛(母牛)貸付・出産後に子牛か母牛返済

町事務所・住民組織

55頭供与、2003 年 8月時点で37 頭の子牛が誕生

N.A. N.A.

ヨルダン・ハシェミット王国家族計画・ WID プロジェクト(フェーズⅠ:1997.7 - 2000.6 フェーズⅡ: 2000.7 - 2003.6 )

家族計画の実行率増加

女性 山羊、養蜂設備を研修受講生に貸与

NGO傘下の地域開発センター、地域ローン委員会

フェーズⅡ166 人

事業ごとに異なる

(表3-3参照)

事業ごとに異なる

マレーシア国サバ州農村女性地位向上計画実証調査

(2002.1 - 2004.)

農村女性の起業活動強化と支援体制強化を通じた、農村の生計向上および生活改善、農村女性の地位向上

サバ州 MF機 関 ( Y UM)地方事務所(23 支店中主要 6支店)

貸付資金は供与せず。地方事務所のコンピュータ導入による効率化を支援

YUM 会員数は12,821 世帯

(州の貧困世帯の約 10 %)

N.A. 年 15 %

マリ国セグー地方南部砂漠化防止計画調査(2000.3 -2003.7 )

大目標:持続的農牧林業を基礎とした安定農村社会の実現中目標の一つ:住民の事業運営能力の向上

パイロット・プロジェクトに選定された11村の住民

村民の預金、各種事業負担金を原資とし、現金で融資・返済現金貸付・返済

村落の開発委員会が選定した MF担当者

908 件(2002 年12 月末)5ヵ月で2.5倍に増加

(女性54%)

11 村平均 99 %

N.A.

ザンビア共和国ルサカ市未計画居住区住環境改善計画調査(1999.3 - 2001.7 )

社会サービス基盤整備

パイロット・プロジェクトに選定された 1 地区の低所得女性

5 人グループのリーダーが返済責任

NGO(AMDA)

96 人 1 回目54 %、2 回目66 %

10 %

融資額の5%を保険基金へ

(出所)各プロジェクト資料(参考文献リスト参照)。

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3 - 3 JICA プロジェクトにおけるマイクロファイナンスの位置づけ

各プロジェクトにおけるマイクロファイナンスの位置づけは以下の 3 種類の考え方に分類でき

る。すなわち、(1)農業プロジェクト等に必要な資機材の投入を円滑化するための手段、(2)

WID や保健プロジェクト等において女性のエンパワメントや組織化を行うための手段、(3)地

域開発に必要なコンポーネントとして金融制度確立をめざしているものである。もちろん、資金

供給と組織化と両方を目標に掲げているプロジェクトもあり、厳密な分類にこだわる必要はない。

ここでは、プロジェクト目標にとってマイクロファイナンスがどう位置づけられているかを検討

することにより、どのようなニーズがあるのかを明らかにする。

(1)農業プロジェクト等に必要な資機材投入の円滑化手段として行っているもの

・ タンザニア国コースト州貧困農家小規模園芸開発計画実証調査

・ ガーナ灌漑小規模農業振興計画

・ ボリビア国小規模農家向け優良種子普及計画

・ タンザニア水産業振興マスタープラン調査(提言のみのため表に記載せず)

・ タイ王国農村活性化のための人的資源開発計画調査(提言のみ)

近年の JICA プロジェクトでは、「住民参加型開発」を掲げ、受益者や行政の能力強化、事業を

継続できる体制の構築を基本方針としているものが増えている。農業案件でも同様で、マイクロ

ファイナンスは「住民参加」や「持続性」の要件を満たすコンポーネントとして魅力的である。

しかしながら、農業案件の立案者・実施者のマイクロファイナンス導入の主目的は、農業イン

プット投入の円滑化である場合が多い。タンザニア国コースト州貧困農家小規模園芸開発計画実

証調査のプロジェクト目標は「園芸開発を通じた地域農民の所得向上」で、ガーナ灌漑小規模農

業振興計画のプロジェクト目標は「灌漑地区のモデル営農体系の確立」である。農業生産増大の

ためには適期適作が必要なので、これを可能にするために資機材(種子、肥料、農薬、農具等)

に限定して貸付を行い、その受け皿として、既存組織の活用ではなく借り手グループを組織する

というもので、小農向け農業融資において国際農業開発基金(International Fund for Agricultural

Development )IFAD などが採用してきた方法に近い。

ボリビア国小規模農家向け優良種子普及計画は、優良種子の「普及」を目的としており、同じ

借り手に対する恒常的な貸付をめざす上記の方法とは異なる。

タンザニア水産業振興マスタープラン調査も、漁民の資金不足を解消し、漁船・漁具等の資機

材購入を支援するためマイクロファイナンスの活用を提言している。ただし、アクションプラン

での位置づけは、漁民グループ・組合を育成・強化する活動の一部である。単なる融資ではなく

グループによる貯蓄・貸付活動としたり、漁具・機材の低利貸付を「漁民組織化のインセンティ

ブ」とするなど、上述の農業融資よりも組織化を重視している。このほかの漁業・漁村振興に関

する開発調査でも、漁具購入等の資金需要が存在することから、漁民組織運営と融資制度の構築

とが提言されている。

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タイ王国農村活性化のための人的資源開発計画調査は、農村にはクレジットへのアクセスがす

でに存在することを指摘したうえで、農村コミュニティビジネス育成の支援策として、技術支援

とともに回転資金への低利資金援助を提言している。

いずれにせよ、農業や漁業など各セクターにおいて、技術協力のみでは限界があるとの認識に

立ち、資金需要に対応するために回転資金制度を採用している。このような発想は、ごく自然の

流れであるし、今後も技術協力プロジェクトに回転資金を取り入れる動きは増加するだろう。し

かし、その際には過去の農業融資の失敗経験から学ぶ姿勢が肝要である。

(2)組織化やエンパワメントを行うための手段として行われているもの

・ ザンビア国ルサカ市プライマリー・ヘルス・ケアプロジェクト

・ フィリピン国家族計画・母子保健プロジェクト

・ ボリビア国ベニ県地域保健医療システム強化計画調査(実証調査)

・ フィリピン国セブ州地方活性化計画

・ ヨルダン・ハシェミット王国家族計画・ WID プロジェクト

・ マレーシア国サバ州農村女性地位向上計画実証調査

地域に根ざした自立的発展モデルの育成や女性のエンパワメントを重視したプロジェクトにお

いても、マイクロファイナンスが取り入れられている。回転資金制度を活用して住民の組織化を

図ったり、住民の人気が高いマイクロファイナンスをプロジェクトのエントリーポイントとして

活用したりするもので、プロジェクト目標達成のための資金投入手段とは異なる。JICA の回転

資金制度の先駆けとなったのが先述の保健プロジェクトであり、マイクロファイナンスといえば

組織化のツールという考え方の JICA 専門家も多いと思われる。

ザンビア国ルサカ市プライマリー・ヘルス・ケアプロジェクトは、コミュニティに根ざした自

立的 PHC 運営システムの改善を目標としている。地域住民の栄養改善のため、住民が管理する

ヘルスセンターに大豆基金を設け、大豆粉を購入しやすい価格で販売し、その収益をヘルスセン

ターの運営に役立てるものである。大豆は共同農園で栽培されるため、所得創出活動の一環でも

ある。

フィリピン国家族計画・母子保健プロジェクトも、住民主体の回転資金システムによる薬局を

採用している。統合母子保健、リプロダクティブ・ヘルス推進、住民組織活動支援の三つのコン

ポーネントで構成され、共同薬局経営は住民組織活動のなかの 1 事業である。

ボリビア国ベニ県地域保健医療システム強化計画調査でも地域保健医療システムの強化のマス

タープラン策定にあたり、医薬品調達のための回転資金の導入が試みられた。(情報不足のため、

事例分析の対象とはせず。)

フィリピン国セブ州地方活性化計画のプロジェクト目標は、地方行政と住民・ NGO との協働

による地方開発メカニズムの構築である。パイロット開発事業の一環として、住民と自治体とが

回転資金で、肉牛・役牛の飼育事業を行う。ただし、先行した優良品種導入の技術協力コンポー

ネントを活用し、(1)の農業技術普及目的も混在しているため、農業技術の専門家とチーフアド

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バイザーとでは評価が異なっている。

ヨルダン国家族計画 WID プロジェクトは、家族計画の実行率増加をプロジェクト目標とし、

家族計画・リプロダクティブヘルスサービスの強化、地域住民への啓蒙活動、女性の収入創出活

動という三つコンポーネントを統合したアプローチをとる。収入活動は、参加した女性が経済

的・社会的にエンパワーされ家庭内での地位が向上し、ひいては家族計画の向上につながるとの

想定で採用されている。女性の収入創出活動を支援するのが、マイクロファイナンス(クレジッ

ト)である。

マレーシア国サバ州農村女性地位向上計画は、農村女性の起業活動強化と支援体制強化を通じ

て農村の生計向上および生活改善をめざすマスタープラン作成を行うものである。実証調査での

10 のパイロット・プロジェクトの一つとして、既存のマイクロファイナンス機関の事業拡大・

効率化のためのコンピュータ導入などの支援を行う。

以上のように、受益者自身による資金管理を通じて住民組織の強化を図るために回転資金を導

入するもの、医療品などの持続的供給をめざして回転資金を導入するもの、受益者の経済活動を

通じてエンパワメントをめざすものなどがあり、実施されたプロジェクトのなかでの位置づけの

違いによって、マイクロファイナンスの評価も異なる。

たとえば、「融資を得た女性が小規模な事業を行って自信をつけ、家族内での地位も向上した」

という成果は、女性のエンパワメントを目的とするプロジェクトとしては成功かもしれない。だ

が、プロジェクト終了とともにマイクロファイナンスも終了してしまったり、融資の返済率が低

かったりでは、マイクロファイナンスとしては成功といえない。たとえ金融制度支援が主目的で

ないプロジェクトであっても、マイクロファイナンスの持続性を軽視すべきではない。

(3)地域開発に必要なコンポーネントとして金融制度確立をめざしているもの

・ マリ国セグー地方南部砂漠化防止計画調査

・ ザンビア共和国ルサカ市未計画居住区住環境改善計画調査

・ バングラデシュ国洪水適応型生計向上計画調査(提言のみ)

総合的な地域開発をめざすプロジェクトのなかには、金融制度を必要な一要素として取り入れ

る動きも出てきている。外部からの資金投入の受け皿ではなく、住民自身による持続的な管理・

運営を行うことをめざすものである。

マリ国セグー地方南部砂漠化防止計画調査のマスタープランは、「持続的農牧林業を基礎とし

た安定農村社会の実現」を大目標とする。中目標の一つに住民の事業運営能力の向上があり、そ

の下位目標に住民の組織化と農村開発資金需要の充足が含まれ、具体的な事業プログラムの一つ

として小規模金融システム設立が取り入れられた。また、貨幣による貯蓄へのアクセスを身近で

可能にし、家畜を貯蓄とする慣習を変更することで、過放牧を避けることも目的としている。

資金需要の充足や組織化は、(1)(2)のプロジェクトでもマイクロファイナンス採用の理由だ

が、金融制度の構築を明確に掲げている点が異なる。今後増加するであろう地域開発プロジェク

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トの参考になると思われる。バングラデシュの事例は、マリの事例ほど明確に金融制度構築を提

言しているわけではないが、災害に備えた貯蓄活動など金融制度としてマイクロファイナンスを

捉えている。

ザンビア国ルサカ市未計画居住区環境改善計画調査は、「マイクロファイナンスは貧困層の所

得創出活動に必要なセーフティネット手段である」とし、都市社会基盤整備の一環としてパイロ

ット・プロジェクトで実施した。都市部の地域開発プロジェクトの新しい試みかもしれないが、

マリの事例のような制度作りの視点は欠落している。

以上のように、JICA のプロジェクトにおいては、マイクロファイナンスをさまざまな目的で

採用している。今後もこうした取り組みは増加していくだろうと思われる。その際に重要なのは、

プロジェクトのなかでマイクロファイナンスの位置づけを明確化すること、その位置づけに応じ

て設計・実施すること、過去の同様の取り組みからの教訓を反映することである。

3 - 4 実施体制別に見るパフォーマンス

マイクロファイナンスの返済率や持続性には、融資業務実施主体の組織的特質や借り手との関

係、すなわち誰がどのような責任で融資・回収に関わるか、という実施体制上の設計が重要な鍵

となる。また、融資の返済を確保するための設計として、貸付の内容や条件がニーズに合致して

いること、返済方法が融資対象事業のサイクルに合致していること、借り手が返済すること(し

ないことで)でメリット(デメリット)を受けるメカニズムが組み込まれていることが必要であ

る。

1 章で述べたとおり、マイクロファイナンスの実施主体(資金管理者)には、①マイクロファ

イナンス特化金融機関(銀行型、信用組合型)、②農村・住民組織のなかに組み込まれたマイク

ロファイナンス機関(農村開発の一環、村銀行、農協・漁協の金融部門)、③低所得層や女性だ

けをターゲットとした所得向上プログラムの一環としての融資プログラム(政府機関や NGO が

実施)、④既存の銀行や在来金融(講組織など)とのリンクなどがある。

一般的に言って、③の実施主体の場合、低い返済率にとどまる場合が少なくない。理由として、

もともと社会的目標に重点があって返済率をさほど重視しないこと、融資担当者が持続的にコミ

ットするインセンティブが弱いことなどが挙げられる。

融資業務には、借り手の審査や融資利用状況のモニタリング、返済回収を伴うが、これらの職

務を効果的・効率的に完遂するインセンティブがなければならない。たとえば、融資実績や返済

率が良好ならば賞与や昇進の機会が得られるといった制度は経済的インセンティブとなる。いっ

ぽうで、返済率が悪くても失職や罰則といった心配がなく、担当者自身の利害に何ら影響の及ば

ない体制では、返済率は低くなりがちである。

JICA の事例のパフォーマンスを実施主体別に比較すると表 3 - 2 のようになる。社会的目標

をミッションとする組織や政府機関が実施するプログラムの返済状況が芳しくない一方で、住民

組織主体であるマリの信用金庫の返済率の高さが目を引く。むろん、この他のさまざまな要因、

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すなわち市場や経済条件、社会状況、借り手の経験なども返済率に影響するが、かなりの部分を

実施体制(実施主体の組織的性質や実施方法のデザイン)で説明できる。

3 - 5 各事例の特徴と問題点 

3 - 5- 1 ヨルダン・ハシェミット王国家族計画・WIDプロジェクト

<特徴>

当事例は、マイクロクレジットを JICA の技術協力プロジェクトのなかに取り入れて実施した

初の試みであり、その可能性を開いたものである。詳細な報告がなされており、得られる教訓は

多い。

フェーズⅠでは、山羊飼育、養蜂、温室栽培、ミシン縫製、パン製造、プラスチック回収・リ

サイクルの 7 事業を実施した。フェーズⅡでは、対象地域の特性、女性が運営・返済できる事業

規模を勘案し、山羊の飼育と養蜂の 2 事業とした。実施方法は各事業によって異なる。事前研修

を実施するもの(養蜂、ミシン縫製)と実施しないもの(山羊など)があり、貸付する機材につ

いても、プロジェクトでの一括購入(養蜂)と受益者の選択によるもの(フェーズⅡの山羊)が

ある。

表 3- 2 融資実施主体別にみるパフォーマンス

事例 実施主体 返済率 持続性

社会的目標をミッションとする組織が実施主体となる事例③に該当

政府機関が実施主体となる事例 ③農村・住民組織の一部に組み込まれたMF 機関 ②

住民組織や NGO による物品の回転資金管理②

ヨルダン

マレーシアザンビア住環境タンザニア

ガーナ

マリ

フィリピンボリビア

ザンビア PHC

王室系 NGO フェーズⅠ:事業ごとにばらつきはあるが、60 %以下フェーズⅡ: 70 - 80 %

将来の展開に疑問

州政府機関 N.A. 将来の展開に疑問NGO 54 - 66 % M/P に盛り込まれず県農村金融課 52 % 農民組織に資金管理を移す

ことで状況改善農民銀行 52 - 82 % 危機を乗り切り明るい兆し

パイロット・プロジェクト住民組織による小規模金庫協会

99 % 終了後も継続、住民の評価高い

住民組織(牛) N.A. モニタリングが不十分NGO(優良種子) 76 % 種子の質管理・返済のイン

センティブの確保が課題ヘルスセンター

(大豆)N.A. フェーズⅡへ

(出所)各プロジェクト資料(参考文献リスト参照)。

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<実施体制>

ヨルダン人間開発基金(Jordanian Hashemite Fund for Human Development : JOHUD)という

王室系 NGO がプロジェクトの実施主体である。全国に 50 以上の地域開発センターを有し、社

会開発やジェンダーの分野で国家レベルで活動している。公的機関である雇用開発ファンドや国

際機関やドナーからの資金を得て、社会開発プログラムの一環として小規模貸付を実施してきた

ため、マイクロファイナンス専門機関としての財務的自立性はめざしていない。

マイクロクレジットの運営を担うのは、プロジェクトによって設立された地域ローン委員会で

ある。地域開発センター支部長や職員、女性協会代表者、地域リーダー等で構成され、融資申請

の受付、受益者の第一次審査、第一次合格者の本部申請手続き、返済金の帳簿管理、資金管理、

収入創出活動のフォーローアップなどを行う。こうした業務に関して、フェーズⅡから、研修・

OJT が実施された。

図 3- 1 ヨルダンの事例:実施体制

プロジェクトチーム

中央レベル 保健省 ヨルダン人間開発基金 上級人口審議会

プロジェクト 地域支援委員会

対象地域

母子保健センター 地域開発センター

地域開発普及員 地域ローン委員会 ファシリテーター

家庭訪問 ローンプログラム ワークショップ 医療 従事者研修

学校・大学・女性協会・イスラミックセンター

(出所)JICA(2003.2)『ヨルダン・ハシミテ王国家族計画・ WID プロジェクトフェーズⅡ終了時評価報告書』p.61

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<実績と問題点>

各事業の実績と問題点を以下の表にまとめた。

表 3- 3 ヨルダンの事例:実績詳細

受益者数 返済状況 特徴・問題点

養蜂フェーズⅠフェーズⅡ山羊飼育フェーズⅠ

フェーズⅡ

ミシン縫製

温室栽培

パン製造

プラスチック回収・リサイクル

13 人

30 人56 人S 地区: 20 人M 地区・ H 地区:36 人

70 人70 - 100 人スチームアイロン:2 人

ミシン: 17 人

6 人

4 人

S 地区地域開発センター

全員が返済完了

70 - 80 %S 地区:返済率 60 % 

飼育・返済良好 7 人、売却・返済継続 1 人、転居先不明 1 人、飼育継続・返済遅延 10 人

M 地区・ H 地区:飼育・返済良好 2 人、売却 10 人、所在不明(遊牧民)10数人飼育継続 6 - 7 人

70 - 80 %

スチームアイロン: 50 %

ミシン: 80 %

43 %

契約段階

N.A.

融資希望者を対象に養蜂技術研修、終了後に融資契約

個体の品質ごとに価格の異なる山羊を同じ値段で一括購入して、受益者に配布した。受益者は、自らの判定で購入を行えなかったため「悪い山羊や値段の高い山羊を買わされた」と感じている。

プロジェクトがローン返済免除するという噂が流布した。

受益者選定が性急だった。

保証人の給与天引きか、センターへの毎月直接返済方式。

返済が良好であれば飼料の無料配布の量を増やすという改善策は奏効せず。山羊は個人で選定できるように改善された。

当初、30 人の雇用機会を与える企業形態の縫製センターを想定して工業用ミシン等の機材を購入。途中で個人向けローンに変更したため、ミシン価格が高く、希望者が集まらず。縫製技術を実施したり、ミシン価格を下げたりすることで、受益者を集めた。採算性に不安がもたれ、当初希望者が集まらず。受益者選定が性急だった。栽培開始に間に合わないタイミングで返済猶予期間のない融資契約を結んだため、返済が半年あまり滞った。計画では、研修の場を兼ねた工房を想定。その後、近隣に全自動パン製造機の店が開店し、競合が難しい状況になり、また販路の確保や機械の維持に困難が伴うことが判明。規模を縮小し、JOHUDが空き店舗と賃貸契約・機材調達したあとに、受益者の募集開始。NGO と住民との協力によるコミュニティ・ベースのプロジェクト。活動の運営費を融資。

(出所)『ヨルダン・ハシミテ王国家族計画・ WID プロジェクト 第一フェーズ(1997.7 - 2000.6)収入創出活動 まとめと今後の展望(JICA 内部資料)』。

Page 11: 3.JICAプロジェクトの事例研究...17 ある。当研究においても、返済率・利用者数・プロジェクト終了後の持続可能性をマイクロファイナ

26

上表から明らかなように、事業ごとにバラツキはあるものの、フェーズⅠの返済率は芳しくな

い。プロジェクトを現実に実施していく過程でやむを得なかった要因としては、以下の点が挙げ

られる。

・ プロジェクト計画時に想定していたのは、収入創出活動のための技術支援であって、貸付

は想定していなかった。

・ プロジェクトの途中でカウンターパートからの強い要望を受けて、JICA 本部が供与機材に

よるローン形式の収入創出活動の実施を認めた。

・ 機材調達の時間的制約を受けて機材選定や受益者選定が拙速になった。

・ 当初、所得創出活動の専門家の投入がされず、計画・実施上の問題点の軌道修正が遅れた。

これらに加え、実施体制に起因する問題点は以下のとおり。

・ ヨルダンでは、近年になって財務自立性を重視する USAID の支援が入るまで、マイクロフ

ァイナンスは社会的目標を達成する手段として利用され、返済率が芳しくなかった。実施

主体である JOHUD も「王室系」の NGO であり、融資返済免除の噂が流れたりして、王室

からのギフトと受け取られやすい。プロジェクトが形成した地域ローン委員会も、フェー

ズⅠでは、チャリティと勘違いして融資返済の見込みがないような層(遊牧民など)を選

定してしまった。

・ JOHUD は、ドナーの支援による融資事業を担当する部門「小規模ビジネスセンター」を設

置しているが、ドナーごとにスキームを構築し、独自のスキームは形成せず、経験も体系

的に蓄積してこなかった。当プロジェクトの各種事業についても計画・実施の能力は十分

ではなく、選定した事業には実施困難なものも含まれた。また、当プロジェクトの現場を

取り仕切るカウンターパートも配置されなかった。

・ フェーズⅡでは、短期専門家を投入し組織運営のスタンダード作りがなされ、地域ローン

委員会の能力強化も行われた。しかし、JOHUD は、プロジェクトの所得創出活動担当者を

設置せず、また組織として今度どのようにマイクロファイナンスを展開していくのか依然

として明確化していないため、マイクロファイナンス・プログラムの持続性については終

了時評価でも疑問が投げかけられている。

3 - 5- 2 マレーシア国サバ州農村女性地位向上計画実証調査

<特徴>

開発調査のパイロット・プロジェクトとして、サバ州政府が貧困削減政策の一環として設立し

たマイクロファイナンス機関 YUM の効率化支援を行った。プロジェクトとして融資を行うので

はなく、既存のマイクロファイナンス機関の能力強化支援を通じて間接的に、農村女性のマイク

ロファイナンス利用改善をめざした点が注目に値する。

<実施体制>

YUM 地方事務所(23 支店中主要 6 支店)に、物品供給事業でコンピュータや関連機器、ソフ

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27

トウェアを供与した。支店スタッフに対する技術研修、ローンスーパーバイザー(男性)に対す

るジェンダー参加型啓発セミナー、農村女性リーダーへの啓発セミナーなどを実施した。資金管

理や運営にまでは踏み込んでいない。

図 3- 2 マレーシアの事例:実施体制

YUM 資金

予算計画 進捗報告

技術移転

資金 監督・指導

意見提供 指導

指導

監督・指導

支援機関強化 タスクフォース・チーム

システム・コンサルタント

YUM本部担当部署スタッフ

YUM地方事務所スタッフ

JICA調査団員

(出所)JICA(2002)『マレーシア国サバ州農村女性地位向上計画 インテリム・レポート 和文要約』

<問題点>

マレーシアでは、連邦政府系のマイクロファイナンス機関(AIM)が実績を上げている。良好

な返済率を維持しているのは、グラミン銀行方式を厳密に模倣して返済を確保するメカニズムを

機能させていること、貧困ターゲティングを厳格に行っていることなど、融資返済率の確保と社

会的ミッションとの双方を組織目標として掲げ、職員にも周知されているからである。政府から

の資金支援に依存していて財務自立性は低いものの、政府の長期的なコミットメント(財政面、

政策面)が確保されているため、活動の持続・拡大が期待できる。

サバ州でも AIM が拡大する一方(4 年間で 10 支店 3 出張所、YUM の会員数の 13,821 世帯に

対し AIM の会員数 7,273 人)、YUM は資金不足で支店閉鎖を余儀なくされている。こうした状

況で、州政府の財政的コミットメントが不十分で、かつ独立採算をめざすわけでもない YUM を、

いわば「小手先で」の支援することが、パイロット・プロジェクトの目標である「マイクロファ

イナンスの効果拡大」にどれだけの効果をもたらすのか疑問である。

3 - 5- 3 ザンビア国ルサカ市未計画居住区住環境改善計画調査

<特徴>

開発調査のパイロット・プロジェクトとして、都市の貧困層を対象にマイクロファイナンス

(クレジット)を実施した。機材ではなく現金貸付であり、5 人組の連帯保証制を採用しており、

いわゆる一般的なマイクロクレジットのイメージに最も近い事例である。ただし、返済率は低く

てマスタープランには組み込まれず、失敗例といえよう。

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28

<実施体制>

ルサカ市でのプライマリーヘルスケア(Primary Health Care : PHC)活動の実績がある日本の

NGO であるアジア医師連絡協議会(Association of Medical Doctors of Asia : AMDA)の現地組織

が実施機関となり、グループ形成、ローン貸付、運営、モニタリング、評価を担当した。この際、

ルサカ市および住民開発評議会や住民組織が融資プロセスに参画することが条件とされた。

すでに多くのマイクロファイナンス活動が行われている地域において、他の組織と重複しない

パイロット地区で 2 フェーズに分けて実施した。

住民開発評議会とサブコミッティを通じて希望者を集め選考する。選定基準と適格性は、地区

内の女性であること、職業経験、収入(低所得過程)、居住履歴、年齢、経歴(犯罪履歴・借金

がない)などである。2 グループに分けられた住民(46 人、50 人)はそれぞれ、リーダー、秘

書、出納係を選出し、グループでの運営を担当させる。職業・資金運営のトレーニングが終了す

ると、すべてのメンバーが融資適格者となり貸付が行われる。

図 3- 3 ザンビア国ルサカ市住環境事例:実施体制

住民開発評議会

サブコミッティ(協会)

メンバー選考、承認、 モニタリング

ガイダンス、調整、 モニタリング

調整

フェーズⅠ フェーズⅡ

調整

受益者 グループ

5人組

5人組

5人組

5人組

NGO(運営管理主体)

原資供与

技術支援、 助言、研修、 モニタリング、 評価

ルサカ市 援助機関

(出所)JICA(2001.7)『ザンビア共和国ルサカ市未計画居住区住環境改善計画調査 最終報告書 要約版』p.6-11 を和訳・加筆。

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<実績と問題点>

返済率は、フェーズⅠが 54 %、フェーズⅡが 70 %であり、「持続的な結果を示さなかった」

ため、マスタープランの優先プロジェクトには入れられなかった。

この事例は、実施主体のマイクロファイナンスに関する理解の浅さや見通しの甘さに起因する

設計上の欠陥が如実に現れたプロジェクトである。以下の問題点が挙げられる。

・ 住民のオーナーシップの欠如:住民参加をうたい、表 3 - 4 のように役割分担を明文化し

ているものの、住民の関与は形式的でオーナーシップとは無縁な便宜的集団として組織さ

れている。借り手グループの集まりである二つの大きなグループは、独立した権限を持っ

ている(あるいは将来持ちうる)わけではなく、役職を決めていても、それは単なる世話

係にしかなり得ない。返済された資金を住民自身が管理して自分たちの利益のために使え

るような仕組みがなければ、オーナーシップは育たない。

・ 形ばかりのグループ連帯保証制:そもそもグループ連帯保証制とは、先に融資を受けたメ

ンバーが返済しなければ他のメンバーが次の融資を受けられないといった規則を設定する

ことで、相互監視や返済強制のメカニズムが機能する。しかし、当プロジェクトでは融資

が一斉に実施され、グループの責任は形式ばかりである。そのうえ継続的な融資プログラ

ムの見通しがないので、外部から投入された資金については、全員が返済しないほうが得、

という判断も働いて不思議ではない。

・ 一律の融資金額:報告書には、「フェーズⅠでは借り手の融資金額に差があることで不平が

表 3- 4 ザンビア国ルサカ市住環境事例:ステイクホルダーの役割と責任

援助

機関

NGOルサカ

住民

組織

住民

開発

評議会

受益者

グループ

◎ ◎ ○

◎ ◎

◎ ◎ ◎ ◎

◎ ○ ○ ○ ◎

◎ ◎ ○ ○ ◎

◎ ○ ○ ◎

◎ ◎ ◎ ◎

◎ ○ ○ ◎

◎ ○ ◎ ○ ◎

◎ ◎ ○ ○ ◎ ○

◎ ◎ ○ ○ ◎ ○

Plan

Do

See

状況分析

融資対象・資格基準設定

審査・グループ形成

計画ミーティング

地域行動計画ワークショップ

研修

融資支払い

返済

コンサルテーション

モニタリング

評価

◎主責任者グループ、○副責任者グループ

(出典)JICA(2001.7)『ザンビア共和国ルサカ市未計画居住区住環境改善計画調査 最終報告書 Appendix(英文)』p.A-1-99 を和訳。

Page 15: 3.JICAプロジェクトの事例研究...17 ある。当研究においても、返済率・利用者数・プロジェクト終了後の持続可能性をマイクロファイナ

30

出たので、フェーズⅡでは不公平感からの摩擦を防ぐため融資金額を一律にした」との記

載がある。融資金額は、対象事業のニーズに応じて決定されるのが当然であり、公平性を

図るために一律の融資額にするという設定自体がチャリティのイメージを招く。

・ マイクロファイナンスの位置づけの不明確さ:最終報告書を読む限り、「ほかでもやってい

て住民からの要望もあるから試行した」としか思えない。短期的視点での関与しか想定し

ていないため、外部資金を外部の NGO が不適切な設計で、投入してしまったという状況

である。このような形での支援は、「クレジットは借りたら返さなくてもよい」という意識

を増幅させ、地域の金融市場を歪めてしまう可能性があり、その地域の将来的発展にはマ

イナスにとなりうる。

3 - 5- 4 タンザニア国コースト州貧困農家小規模園芸開発計画実証調査

<特徴>

開発調査のパイロット・プロジェクトとして、小規模農家に対して農業用資機材貸付(インプ

ット・クレジット)を行った。グラミン銀行方式を実施して成功している NGO のアドバイスや

帳票システムのトレーニングなどを受けて行われたが、計画段階での設計に問題を内包し、

52 %という低い返済率だった。いっぽうで、当事業とは別の事業(ポンプ)を実施した地域で

行った貸付が高い返済率を達成し、これらの経験を教訓としてマスタープランの修正に反映した。

今後の農村開発関連のプロジェクトの参考になるだろう。

<実施体制>

当初、県庁内に新たに農業金融課を設け、住民組織からの要請に応じて資機材調達作業を行う

体制をとった(図 3 - 4)。最終的には農民組合が資機材の管理を行うことを想定していたが

(図 3 - 5)、時間的制約を考慮して、プロジェクト目標は、「県が農業用資機材貸付の円滑な運

営を担っていける」に設定された。金融業務経験のない職員に対して研修を行うものの、農業金

融課を金融機関として独立させることは想定していない。

修正後のマスタープログラムでは、農村金融課は監督や支援のみの関与で、農民主体のコミュ

ニティ事業管理委員会が資金管理を行う設計に変更された(図 3 - 6)。

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31

図 3- 4 タンザニアの事例:実施体制 パイロット・プロジェクト(第 2段階)30

県知事室

グループ リーダー会議

農民 グループ

申請

アドバイザー

助言

申請

承認

機材供与

県知事

監督

県農業畜産開発課

県農業金融課職員 県普及員

村落普及員

回転

資金

技術指導

(出所)JICA(2004.3)『タンザニア国コースト州貧困農家小規模園芸開発計画実証調査 最終報告書』p.B-6 を和訳・加筆。

図 3- 5 タンザニアの事例:実施体制 パイロット・プロジェクト(第 3段階)

県知事室

アドバイザー

申請

貸付

県知事

村協同 組合

県協同組合

回転 基金

県農業畜産開発課

県普及員

村落普及員 技術指導

(出所)JICA(2004.3)『タンザニア国コースト州貧困農家小規模園芸開発計画実証調査 最終報告書』p.B-7 を和訳・加筆。

30 第 1 段階では、信用スキームを設定して JICA の支援により、資機材の供与を行う。返済金を回転資金として、さらに資機材供与を行うのが、第 2 段階。

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32

<実施方法>

・ 貸付希望者は、要請前に 5 人グループを形成する。借り手の資産は普及員が査定する。

・ クレジットは資材(種子、肥料、農薬、その他)の形で供給される。

・ 返済は農業投入物が配布されてから 4 ヵ月目に始まり、2 週間ごとの賦払いにより行われ

る。支払い期間は 2 ヵ月で、配布から 6 ヵ月で 1 サイクルが完了する。

・ 返済期日までに返済を終えたグループは次の貸付に参加でき、借入の優先権を得る。

・ グループ構成員は相互に保証し、その財産は保証の一部となる。もし、グループ構成員が

返済期限までに返済できなかった場合は、他の構成員が責任を持つ。もし、グループとし

て返済期日までに返済できなかった場合は、そのグループはその後の貸付が受けられない。

その場合でも、返済金は返済しなければならない。ただし、不可抗力の災害等により完済

できない場合は、次回の貸付機会を与えられる。完済できなかった分については、次回の

返済時に完済する。完済計画は状況に応じて作成する。

・ 本人に返済する意思があるものの、家庭状況等(病気等)が原因で完済できない場合は、

返済額を減ずる方策を施し、返済させる。その代わり、そのグループは次から貸付は受け

られない。

・ 悪意の滞納者の場合は、グループの仲間から強制的に返済させる。そのグループは次から

貸付は受けられない。

図 3- 6 タンザニアの事例:実施体制 修正マスタープラン(第 1段階)31

村落農業普及員

援助機関 コーディネーション委員会

アドバイザーチーム

支援

投入財

県知事室

農民組合の 銀行口座

(回転資金)

資金 利用

コミュニティ

事業管理委員会

県農業金融課

職員 支援

支援

返済 投入財 申請 ガイダンス

農民 (借り手)

農民 (借り手)

農民 (借り手)

支援 助言

助言 県農業畜産開発課

技術指導

(出所)JICA(2004.3)『タンザニア国コースト州貧困農家小規模園芸開発計画実証調査 最終報告書』p.B-45 を和訳・加筆。

31 第 2 段階では、農民自身によるモニタリングが加わる。

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33

<実績と問題点>

実証調査の実績は返済率 52 %である。開始早々、旱魃、洪水、虫害、作物価格の暴落などに

見舞われ、地域によっては 20 %台の返済率を示すところさえあった。そのような要因が影響し

たことは事実であるが、グループによっては意図的不履行があることも判明した 32。返済率を少

しでも上げようと、郡事務所への告発なども行ったが、あまり効果はなかった。

実施体制に関わる問題として、県政府を運営主体としたことが挙げられる。これは次のような

二つの問題を生みやすい。

(1)発展途上国の公務員の場合、その身分が不安定であり、業績・評価が昇進や給与に結びつ

かない(すなわち、経済的インセンティブが働かない)ために、長期的に職員がどこまで

密着して業務をするのかは疑問となる。この事例でも、そのようなことから、自然災害を

隠れ蓑とした返済不履行が見抜けないなど、県職員によるコミットメントが中途半端にな

ったと思われる。

(2)借り手が政府による返済期日の延期または借金の棒引きを期待し、融資はギフトになると

いう、返済に対する甘さが醸成された。

なお、この点は後半で農民組織に権限を移転することへと変更された。

また、当事例も連帯保証制度を機能させるメカニズムが十分に組み込まれていなかった。一般

に、貧困層に無担保で融資を行うための代替担保として採られる手段が貯蓄または連帯保証制度

である。当プロジェクトでは、連帯保証制度が採られた 33。しかし、単にグループが返済しなけ

れば次回の貸付が受け付けられないということに過ぎず、あとはグループ内部の掟作りに任され

ていた。この段階では、長老やグループリーダーの接触した時点での感触(信頼できそうだとい

うような)に大きく頼っていたきらいがある。先述のとおり、グラミン銀行では最初の 2 名が返

済しなければ、次の 2 名が融資を受けられないというような、自分の返済不履行が誰にどのよう

に影響を及ぼすか(誰の返済が不履行であるために、自分が借りられなくなるか)が目に見える

形になっているが、当事例では各グループはそのような明確な縛りがきくものとして作られてい

ない。これは全員が一度に投入財を得る(融資を受ける)という方式によって生じている。つま

り、貧困打開のためのデモンストレーションファーム作りを短期に行うということ(これがプロ

ジェクトのメインであった)に、金融制度という長期的に持続させるべき制度の導入を無理やり

付随させようとしたところに問題がある。

32 あるグループリーダーは不作による返済遅滞を返上しようと、グループの共同耕作によって返済する努力をしており、必ずしも意図的返済不履行が蔓延していたとは言えない。しかし、度重なる旱魃などのために意図的不履行組を職員が見分けられなかったり、返済意欲の喪失につながった可能性がある。

33 現地 NGO の助言と対象農民の同意を得て、担保としての貯蓄も導入された。しかし、規定したのが貸付を実行する 1 ヵ月前で、徴収を開始したのが生産投入財を配布したあとになった。したがって、実行が徹底されなかったという経緯があった。

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34

このほかの問題点としては、以下の点が挙げられている。

・ 水不足により、適切な栽培ができなかった。

・ 市場価格の暴落により、適切な収入を得られなかった。

・ 大き過ぎる融資限度額:農民の年収などを考慮し、災害等で不作になっても返済できる範

囲に限定すべきであった。

しかし、水不足や価格暴落などは、当然覚悟しておくべき問題であるので、プロジェクト設計

の段階で対応策を組み込んでおくべきであろう 34。

また、融資限度額の反省については、若干疑問である。融資額は採算可能な耕作地規模を基準

にして決定されていたのであれば、現金所得はほとんどなく、外部リスクが高い地域では、確実

に返済可能な額は限りなく小さくなってしまう可能性がある。つまり、ある程度の現金所得の保

持者や資産保有者しか融資できない、ということになり、農業技術指導による貧困削減というプ

ロジェクト設定と矛盾してしまうのである。

外部リスクの高さは農業にはつきものであり、灌漑なども十分確立されていないなかで、イン

プット・クレジットをプロジェクトの初期段階から導入するという設定自体も再検討の対象とな

ろう。

<組織作りの重要性>

なお、本事業には含まれていなかった他県の村のポンプ事業グループメンバーに対して、小額

の融資(8 千円/グループ)をしたところ返済率が 100 %となっており、各種の記録等も丁寧に

とられている。このグループは以前独自に農民組合内部で小額の融資を行って完済した経験を持

っていることと、この組合が本実証調査の対象組合のなかでも他の模範となる組合であったこと

が幸いしていると思われる。

3 - 5- 5 ガーナ灌漑小規模農業振興計画

<特徴>

タンザニアの事例と同様、農業インプットのクレジットだが、農民組織の一部に組み込まれた

MF 機関の事例である。実施体制以外の条件も比較すると興味深い(3 - 6 を参照のこと)。

34 たとえば、市場動向について技術支援側が十分情報を提供し、また農民自身が情報を得て反応できるようにしておくことが必要だろう。しかし、新活動・新作物導入時にはさまざまなリスクについて準備不足であるのはやむを得ない。したがって、小さな作付け規模でも各農民にリスクに耐えられる余力が期待できない場合は、緩衝資金の確立が有効な対策となる。プロジェクト費用による借り入れ地での協同農場で生産し、その労賃をストックするか、農民グループとして協同生産の収益をプールして、一回程度の不作でも次回の生産が可能な十分な緩衝資金を蓄積してから、農民グループを主体にして個別農民への貸付を始めるというようなことが考えられる。緩衝資金の構築と、それ自体が農民自身の労力によるものであることがポイントである。

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35

<実施体制>

二つの農民組合の付属機関として設立された農民銀行が実施主体である。農民組合の代表や灌

漑公社(カウンターパート)・専門家等で構成される理事会が運営責任を負い、執行部(書記・

出納係各 1 名)が日常業務を行う。農民銀行からの貸付は組合を対象とし、組合が個人農家への

貸付・返済の責任を負う。回転資金制度を採用し、個人農家からの返済が活動存続の鍵となる。

融資の恩恵を受ける農民組合が運営の責任も担うしくみが返済回収のインセンティブとなってい

ること、農民組合は作付けから共同出荷に至るまで個人農家と関わりを持つため、モニタリン

グ・返済回収が行いやすいこと(不履行の場合は収穫物の差し押さえも可能)、二つの組合が経

理のクロスチェックに働き経理の透明性が確保されること、などのメリットがある。

<実績と問題点>

ガーナでは、政府や援助機関からの農業融資は「返済しなくてもよい贈与」と理解され、失敗

例が少なくない。しかし、当プロジェクトでは上記のような返済を確保する制度作りや農民組合

の幹部の教育に努めたこと、制度導入で年 2 回の耕作が可能になったこと、崩壊の危機を乗り越

えて制度を維持するメリットが理解されたこともあり、期限内の回収率は 80 %、残りも遅れて

回収されている。市中金利の貸付による利子収入、資材の割引購入と貸付単価の差益もあって、

資金量はわずかだが増加している。

なお、農業信用については、実施体制やデザインのみならず、地理的条件などさまざまな要因

が返済率にも影響を与える。この点については、次節で検討する。

3 - 5- 6 マリ国セグー地方南部砂漠化防止計画調査

<特徴>

地域総合開発計画のパイロット・プロジェクトとして、「金庫」を機材供与し、住民による事

業費負担分や貯蓄を貸付の原資にして、住民のオーナーシップを高め、持続的な制度作りに成功

した。今後の地域開発プロジェクトにおけるマイクロファイナンス・コンポーネントの有益なモ

デルとなるだろう。

<実施体制>

パイロット・プロジェクトで組織化された村落開発のための委員会(テロワール管理委員会 35)

がマイクロファイナンス担当者(3 名)を選任して管理する。11 村で小規模金庫協会を設立し、

大蔵省との協定を締結、農業開発銀行に協会名で口座を開設する。プロジェクトとしては資金提

供を行わず、金庫の配布(購入費の 20 %は村が負担)とシステム設立のための技術指導のみを

35 テロワール:あるコミュニティが所有し、利用している農地や草地などの空間領域で、コミュニティの所有とその利用権が、地域の他のコミュニティによって「認知されているもの」を意味する。テロワール管理手法は、一連の住民自治意識の醸成過程を通して、住民にコミュニティが利用している土地資源管理に関する責任を住民に全面的に持たせ、テロワールの自然、生活環境を長期的に改善し、地域的な開発活力を高揚させようというものである。(JICA(2003.7)『マリ国セグー地方南部砂漠化防止計画調査(マスタープラン編)』)。

Page 21: 3.JICAプロジェクトの事例研究...17 ある。当研究においても、返済率・利用者数・プロジェクト終了後の持続可能性をマイクロファイナ

36

図3-7マリの事例:実施体制

・小規模金融システムの仕組図

プロ

ジェ

クト

務所

種事

業(

井戸

、製

粉所

肥料

配布

、鍛

冶屋

機材

等)

小規模金融の原資

村落

開発

委員

住民(

個人

、グル

ープ

村落

開発

委員

住民

(個

人、

グル

ープ

住民(

個人

、グル

ープ

) 収

入を

生ま

ない

活動

の実

(例

:識

字教

育、

井戸

の管

理)

収入

を生

む活

動の

実施

例:

小規

模家

畜の

肥育

、小

商い

技術

支援

技術

支援

労働

提供

資金

援助

(30

-10

0%)

定期

預金

に対

する

利子

支払

い(

利率

10%

/年)

済金

融資

(最

大利

率27

%/年

利子

を使

った

資金

援助

負担

金、

使用

各種

事業

の住

民負

担金

分(0-

70%

を定

期と

して

預金

会費

、定

期預

融資

金の

活用

(出

所)

JICA(

2003

.7)『

マリ

国セ

グー

地方

南部

砂漠

化防

止計

画調

査・

主報

告書

(実

証調

査編

)』p.51

Page 22: 3.JICAプロジェクトの事例研究...17 ある。当研究においても、返済率・利用者数・プロジェクト終了後の持続可能性をマイクロファイナ

37

行う。マイクロファイナンス以外の各種事業(井戸、製粉所等)に関しても村が労働提供と負担

金徴収(0 - 70 %)を行うので、この負担金をテロワール委員会名義で定期預金とする。個人

やグループに対して行う融資の原資は、各種事業負担金と、住民(個人、グループ)の会費・定

期預金である 36。連帯保証制はとらず物的担保をとり、主に農器具、自転車等を担保とする。返

済期間は平均 6 ヵ月である。

融資の金利収入は、村落の収入を生まない開発活動(識字教育など)の資金援助にあてられる。

(図 3 - 7)

<実績と問題点>

当プロジェクトは、現地連絡員を村に住まわせ時間をかけて住民との信頼関係構築に努めたこ

と、既存の伝統的組織と摩擦が起こらぬよう配慮しつつ住民による自主的な村落開発委員会設立

を働きかけたこと、外部からの支援は最小限にとどめ住民の自助努力(費用や労力の一部負担)

を原則としたことなどが住民のオーナーシップを高めている。マイクロファイナンスに関しても、

住民からの負担金や預金を融資の原資としており、返済しなければ住民自身の不利益となる。し

かも利子が村落の事業支援にも使われて住民に還元されるので、返済のインセンティブは高く、

返済率は平均 99 %で、融資利用者も急速に拡大し、プロジェクト終了後も問題は生じていない。

プロジェクトを実施した調査団は、マリには村落において、村八分に近い制度があるなど罪に

対しては非常に罰が厳しい慣習があり、他の国でみられるような持ち逃げなどのシステムの破壊

が起こらなかったと、つまり「マリの社会条件があるから成功した」と分析している。たしかに

マリでは、ほかにもマイクロファイナンスの成功例があり、社会的特徴が成功の要因になってい

るのかもしれない。ただし、上述のような十分な組織作りと返済を確保するメカニズムを築いた

点は、どの国で実施するプロジェクトであっても参考になるし、実践に値するだろう。

3 - 5- 7 フィリピン国セブ州地方活性化計画

<特徴>

住民組織による回転資金運営(肉牛飼育事業、配布・返済とも現物で行う)である。次のボリ

ビア事例とも、物品回転型(返済も同じ物品で行う)である。金銭は介在しないので、マイクロ

ファイナンスとして考える必要はない。ただし、目標に対して効果的な方法なのかどうかは、検

討すべきである。

<実施体制と問題点>

町自治体(農業事務所)とプロジェクト・スタッフが選定した住民組織とともに、第一受益者

選定基準や配布家畜配布スキームを決定し、住民組織が配布・運営管理・モニタリングを行う。

地方行政の強化や住民組織の能力向上をうたっているものの、既存の優良な組織を選定して配布

36 各種事業負担金が初期の融資の原資確保を容易にしたが、一部の村であらかじめ定められた金利とは別に勝手に融資している例が判明したため、住民負担金はすべてテロワール管理委員会名義で金庫の定期預金とすることとした。

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38

を行ったあとは、町事務所が住民組織の運営やモニタリングについて積極的に関与しているわけ

ではない。

また、配布された牛が妊娠・出産し、子牛が成長するまでに時間がかかり、第二、第三の受益

者まで牛が行き渡るのに非常に長いサイクルとなるので、関係者でも時間の流れを承知している

者は少ない。住民が管理する回転資金は、受益者が返済すれば再度利用可能な点が返済のイニシ

アチブとなるが、これほど長いサイクルでは第一受益者の良心と住民間の相互信頼に頼ることに

なり、一度限りの無料配布と変わらない状況になりかねない。

また、優良品種の普及と住民組織の活性化との目標が混在しているため、優良品種の管理は十

分とはいえない。あるインドネシアの牛銀行の例では、管理センターを設けて、予防接種などの

品質管理を徹底させ、利用者にとって当たり外れがないようなシステムを設けている。それに比

べると、当事例は、「住民による管理」の名のもと、牛の受精など品質管理の重要な点について

プロジェクトの関与が不十分である。保険加入の義務づけなどはされているが、万が一、牛が死

亡した際、保険金を使ってどのように処理するのかも明確にはされていない。

このように物品による回転資金は、普及なのか組織化なのか目標をはっきりさせないと、どち

らも中途半端になる危険性が高い。

3 - 5- 8 ボリビア国小規模農家向け優良種子普及計画

<特徴>

小規模農家に対する優良種子の普及のために回転資金を取り入れている。住民組織ではなく、

NGO や農業協同組合が回転資金の管理を行う。普及を明確な目的と掲げているため、NGO によ

る啓蒙活動とセットで行われる。

<実施体制と問題点>

プロジェクトが選定した優良種子の原種を NGO や生産者組合に供与し、NGO が採種農家に

販売・貸付して生産させ、これを NGO が一般農家に貸付する。以後は NGO と農家との間で貸

付と回収がなされて、それが回転されていくことによって優良種子の普及を図るものである。

採種農家の設備の貧弱さに起因する収穫後処理の問題を解決するため、草の根無償資金協力に

よる援助で種子センターを建設している。稲技術の専門家が現地 NGO と協力しつつ、品質管理

に努めている。採種農家も制度に組み込んでいるので、一度限りの贈与よりは持続的展開が望め、

より多くの農家を裨益することが期待できる。採種農家、一般農家とも経済的メリットがあれば

参加するだろう。ただし、一般農家は貧困地域での自給農民なので、返済のための現金収入が得

られなければ、返済は難しい。天候の影響もあって、76 %程度の返済率だとのことだが、農業

分野では天候の影響を受けるのは当然である。

ある程度展開して資金が尽きたところで終了するといった程度にしか持続性は期待できない

が、そもそもの普及目標は達成されるし、金融市場に影響を及ぼすわけでもないので、特に問題

はないと考えられる。

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39

3 - 5- 9 ザンビア国ルサカ市プライマリー・ヘルス・ケアプロジェクト

<特徴>

保健管理局やヘルスセンターの職員や住民組織のメンバーのキャパシティ・ビルディングを重

視したプロジェクトである。プロジェクトで養成された栄養普及員が大豆普及のための「大豆回

転資金」を創設した。

<実施体制>

プロジェクトの国内支援組織に国内 NGO である AMDA が関与し、プロジェクト実施のため

に設立された AMDA ザンビアを現地での活動実施機関として連携した。JICA のプロジェクト外

になるが、AMDA ザンビアが一般住民を対象に共同菜園活動の指導にあたった。ここで育てた

大豆を子供の成長に関する活動(Growth Monitoring Programme Plus、GMP+)37 で活用するため、

ヘルスセンターに大豆基金を設けた。大豆の栽培は、住民の収入創出活動の一環でもある。

<実績と問題点>

プロジェクト自体は PHC プロジェクトの成功例とされるが、大豆基金については、栄養普及

員が私的に流用するなどの問題が見られた。実施方法の情報が限られているので推測に過ぎない

が、複数の手で管理するなど透明性を高める仕組み作りが必要だと思われる。

また、終了時評価において、「住民組織のモチベーションを維持するよう、彼らに対するイン

センティブおよび活動資金創出のため、ルサカ地区保険管理局およびヘルスセンターによる収入

図 3- 8 ボリビアの事例:回転資金の流れ

原種

供与

現地NGO

保証種子

保証種子

一般農家

供与

プロジェクトDISAPA

初年度

2年度

3年度

資金

熱帯農業研究 センター

採種農家

(出所)JICA(2003.6.)『ボリビア小規模農家向け優良種子普及プロジェクトにおける活動目標とこれまでの進捗度および実施システムのキーポイント(JICA 内部資料)』。

37 従来ヘルスセンターで行っていた活動(子供の体重測定、栄養指導、予防接種、ビタミン A 投与)を、パイロット地区内で住民組織(コミュニティ・ヘルス・ワーカーおよび栄養普及員)によって実施する。

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創出活動が重要である」との評価がなされている。こうした背景から、フェーズⅡではトウモロ

コシ製粉機が機材供与されたと考えられる。

JICA の担当職員は、「コミュニティヘルスワーカーはボランティアながら金銭以外のインセン

ティブが与えられているが、プロジェクト終了後に外部からの資金が途絶えたあとに活動を継続

するとは言い切れない、したがって PHC 活動を支える独自の収入創出活動が必要」との見解を

示している 38。この持続性に関する懸念は、住民組織での継続を想定したプロジェクト一般に共

通する問題である。保健活動といえども、さまざまな有形無形のコストを伴うのであり、地域住

民、とりわけリーダーやコミュニティ・ワーカーたちのボランティア的貢献をある程度前提にし

つつも、基本的には、発生する経費や不測の事態を想定した運営体制を確立する必要がある。意

思決定のあり方や監査・監督、運営経費の調達、在庫管理といったことが不明であるならば、住

民運営組織といえども持続し得ない。この運営経費の調達手段は、必ずしも PHC からの収入で

ある必要はない 39。村落自治組織が確立されている場合にはその予算から捻出ということもある

だろうし、利用者からのサービスに対する費用の徴収、利用者組合による会費の調達でもよい。

利用者の現金収入の現状、機会費用の高さなど前提条件の検討が不可欠である。

3 - 5- 10 フィリピン国家族計画・母子保健プロジェクト(フェーズ I ・ II)

<特徴>

当事例もマイクロファイナンスではなく、住民組織活動支援プロジェクトの一環としての村落

共同薬局の事例である。

<実施体制>

技術協力プロジェクトだが、日本 ODA の他のスキーム(無償資金協力・青年海外協力隊・開

発福祉支援事業・草の根無償資金協力)を積極的に採用しただけでなく、日本 NGO(AMDA ・

ジョイセフ(Japanese Organization for International Cooperation in Family Planning : JOICFP))

やローカル NGO(Luznet :母子保健分野関連の 13 の NGO からなる連合体)と連携を取った。

回転資金式薬局経営の支援に関しては、開発福祉支援事業・無償資金協力を活用し、現地

NGO の SMBK(Samahang Manggawang Binhing Kalusugan :タガログ語で「健康の種共同体」)

と協力した。

<実績と問題点>

1994 年 6 月より SMBK の協力により、タラック州で村落協同薬局の導入が開始した。これに

対し、プロジェクトでは人材育成・モニタリングのための資金を支援し、6 市町村 10 ヵ所のパ

イロット村落協同薬局が設立された。1997 年からは他の州へ支援を拡大した。

38 JICA 国際協力総合研修所(2002)『ソーシャル・キャピタルと国際協力 事例分析編』39 薬局運営のような PHC 直結の活動以外でも、独自の収入創出活動を導入することがありうるが、そのために提供

される機会費用の低さなど、前提条件の検討が不可欠である。年に数回のイベント型募金は、単発のプロジェクトには向いているが、恒常的なプログラムには不向きである。

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タラック州では 2001 年 10 月の調査によると、1992 年から調査時点までに設立された村落協

同薬局は全部で 76 件、当時運営されているものは 45 件であった。平均経営期間は約 3 年間。一

番新しい薬局で 3 ヵ月、最長で 5 年間運営されていた。

情報が限られているので、詳細な分析はできないが、設立された薬局のうち調査時点まで持続

していたものが 60 %以下であることから、持続的な制度の確立に成功したとはいえない。ザン

ビアの PHC で指摘されたのと同様の課題を抱えているのではないだろうか。

3 - 6 農業信用の事例比較:タンザニアとガーナの事例の教訓

農業や漁業など各セクターにおいて、プロジェクトの持続性を考えて、技術協力プロジェクト

に回転資金を取り入れる動きは今後も増加すると思われる。それゆえ、農業融資のあり方につい

て、失敗から教訓を得ることが重要である。ここでは、農業融資を行った二つの事例の比較検討

によってそれを掘り下げたい。

タンザニアの事例は、農業投入財融資に限定されていたとはいえ、帳票類や通帳の発行まで伴

表 3- 5 タンザニアとガーナの事例比較

タンザニア フェーズⅠ ガーナ

実施主体

借り手

借り手の農業経験

借り手属性

農業リスク

組織化

保証・担保

ローンサイズ貯蓄融資の開始回収方法初期の農民の意識

県農業金融課

農民組合傘下の 5 人グループ

カシューナッツ農家。畑作農業経験は少ない農村、農外所得がある者わずか

1m 弱の浅井戸しかなく旱魃に弱いグループごとのルール作成

(農民組合は各地域の農民事業統括組織であり事務所も不在)無担保・連帯保証未返済なら次回の融資が受けられない平均 60 ドル融資後に開始グループメンバー全員一斉農民組合

「借りたものは返す」という意識が弱い

農民銀行(既存の 2 組合から切り離して新たに設立)カウンターパートと JICA はその理事会に参入日常業務は農民組合から選ばれた職員(農民 5 名、専従、カウンターパート 2、農民が議長)既存組合員女性グループもすでに米・野菜の換金農業経験あり

都市近郊農村、公務員経験者など多様な職歴、農外所得もあり既存灌漑事業の整備改善あり

農民組合の自立と強化(共同作業による事務所建設、灌漑補修作業の日当の一部を資金に組み込み、マネジメント指導など)農民組合・組合の連帯保証未返済の場合、貸付土地を没収して、他の組合に転貸

平均 19 ドル融資前に農民組合への出費のみほぼ同時期小額の報酬を伴う灌漑ブロックリーダー

「借りたものは返す」という意識が弱い

(注)タンザニア・ガーナのいずれの「農民組合」も組織的性格は組合的であるが「協同組合」として正規に確立されていたわけではない。鈴木・増見(2002)では、ガーナの農民組合は単に「農民組織」と表現されている。

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い、農村においてマイクロファイナンス手法による金融制度の確立を試みた数少ない事例である。

しかし、初期の段階では返済率が著しく低かった。他方、ガーナでは同じく農業融資でありなが

ら、返済率に違いが生じている。この要因はどこにあるのだろうか。

表を見ると、タンザニアの場合、金額や借り手が置かれた経済環境という点で、マイクロファ

イナンスの導入に不適な条件がある。しかし、「借りたものは返すという意識が弱い」という、

在来の農民意識を克服できるかどうかは、共通した課題である。両者の違いを決定づけているの

は、やはり実施主体の違いである。

ガーナの事例は、組合に所属する農民自身を幹部とした農民銀行に基本的な権限を移している。

いっぽうのタンザニアの事例では、県金融課という、独立した金融機関となり得ない行政組織が

前面に出てしまった。これは、借り手グループを監督すべき農民組合の育成にとって逆作用とな

ってしまった。これが以下の問題に影響を与えている。

(1)オーナーシップ

タンザニアでは、農民組合にしっかりした役割が与えられない構造となっているため、グルー

プの借り入れに対する責任意識は、組合リーダーによって大きな違いが生じてしまった。

ガーナでは、グループ連帯に依存することなく、ブロックリーダーに若干の経済的インセンテ

ィブを与えて回収責任を持たせるといった実践的な方法がとられた。このような方法がとられ、

またこれが効力を持ったのは、農民組合自体の強化にまず力を入れたこと、そして農民銀行が農

民自身が責任を負う性質の金融機関だからある。

(2)返済強制

農業インプットの性質上、同じ時期に一度に貸し付けてしまうことから、連帯保証制が効きに

くくなる。しかし、ガーナの事例では、返済がされない場合、単に次の融資が受けられないだけ

でなく、資機材の調達や出荷等を担う農民組合が介在するため、収穫物の差し押さえや土地転貸

なども可能で、返済不履行に対する措置をとりやすい。

(3)農業リスクの軽減手段

タンザニアはガーナに比較してしっかりとした灌漑がなく、旱魃などの農業リスクが高い。に

もかかわらず、それに対する緩衝システムや資金の確立なしに、いきなり融資が行われたため、

直後の旱魃で直ちに影響を受けている。

他方、ガーナの事例では、保証人として出荷も行う組合組織が存在している。この場合、組合

を通した販売金から直接回収することが可能であるため、作付け一期分程度の遅れは柔軟に対応

できるというメリットがある。

以上の比較から、農業信用の場合、マイクロファイナンスの手法が条件としてミスマッチとな

ることは少なくないなかで、核となる組合をしっかり組織し、問題に自主的に対処しうる組織と

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して自立を促すことはきわめて重要であることが、改めて認識された 40。

さらに、これらの具体的事例からだけではなく、農業融資についての過去の教訓に学んでおく

必要があるだろう。マイクロファイナンスが国際機関や研究者から評価された背景の一つに、既

存の農業金融が抱えていた問題への批判があった。すなわち、それまでの政府系農業振興目的の

低利融資は「政府からのギフト」として受け止められて返済率が低いケースが多かった。いっぽ

うでマイクロファイナンスの代表例として評価されたグラミン銀行を例にとると、連帯保証制に

加え、市場金利を課したこと、天候変動などのリスクが大きく収益が出るまでに時間のかかる米

作等よりも、比較的短期に収益を上げられる家畜家禽や野菜栽培に多くの融資を行ったこと、農

業以外の零細事業を融資対象としたことなどが返済率の高さに寄与したと考えられている。

また、農業銀行改革の成功例とされるインドネシアの Bank Rakyat Indonesia(BRI)やタイの

Bank for Agriculture and Agricultural Cooperatives(BAAC)も、経済成長で多様化する農村のニ

ーズに対応して貸付を多様化させたことが、収益性の向上につながったとされる。したがって、

マイクロファイナンスを成功させるためには、天候リスクの高い農業のみに貸付対象を限定すべ

きではないという考え方が一般的なのである。

しかしいっぽうで、農漁村開発や農林水産業振興などの課題は依然として存在するし、外部か

らの技術や資金投入がなければ解決できない場合もある。こうした課題に取り組むにあたっては、

旧来の農業クレジットの失敗を繰り返さないためにも、これまでのマイクロファイナンスの実践

から得られた教訓(返済率を高めるメカニズムなど)を取り込む努力が必要だろう。

同時に、金融制度の持続性のみに焦点を当てたマイクロファイナンスの発想から離れて、どの

ような取り組みが課題解決により効果的なのかを検討することも重要である。マイクロファイナ

ンスの条件がそろっていないところにあえてそれを最初から持ち込むことは避けるべきであり、

初期の段階ではその条件作りを考えるべきだ。農民の借り入れ・返済能力、新しい農業への適合

性、リーダーの適性といったことを農民自身が内部審査する力を育成していくことが、融資の受

け皿化には不可欠であるが、そのためには何らかの形での共同作業を行って、組織の能力を育成

する必要がある。農業振興を軸にした農村開発を行うのであれば、農協のような販売組織兼リス

クプール組織がいずれ必要となり、そのような組織作りを射程距離に置きながら、デモンストレ

ーションファームや共同農場から始めて、その収益を回転資金としていく、というような方法が

望ましい。

40 なお、タンザニアとガーナの借り手の間には、前者にムスリムが多いのに対して後者は圧倒的にクリスチャンであるという違いがある。これはどのように影響しているのかを分析しうる前提的知識をもちあわせないので、ここでは触れていない。

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3 - 7 プロジェクト目標にどれだけ貢献したか

(1)農業生産増大

ガーナの事例では、年 2 回の耕作が定着し、農業インプットの適期適量の導入にマイクロファ

イナンスは貢献したと言えよう。

タンザニアでも、第 1 回貸付を受けた農民の半数が、参加により得た恩恵として仲間の間で協

同意識が芽生えたことを挙げている。これは、インプット・クレジットという枠ではなく、組合

の一員として、他項目のコミュニティ施設の建設に関わったことに起因している。貸付を受けた

農民のほぼ半数が、参加により得た恩恵として野菜栽培技術を習得することができたことを挙げ

ている。このなかで、毎週開かれる定例会議に出席することにより、新しい技術が習得できたと

言う者もいたとのことである。

(2)エンパワメントのプロジェクト目標

ヨルダンの事例では、終了時評価によれば、プロジェクト目標である家族計画の普及と収入創

出活動にはよい相関が見られる。女性の意志が強くなり、自分の健康に気を遣うようになり、避

妊について夫と話し合うことができるようになった。「家族を拡大するより、事業を拡大したい」

という声がよく聞かれる。

家族計画普及に関する統合的アプローチには、収入創出活動以外にも教育などの方法もある。

しかし、アラブ社会での地域へのエントリーポイントの重要性を認識し、収入創出を取り入れた

ところ大変効果があり、男性の関心も高まり地域の受け入れ体制強化につながった。女性のエン

パワメントの観点からは、「融資返済が芳しくない女性も細々と事業を継続することによって自

尊心が芽生え、夫との関係まで改善しているケース」まで見られる。「エントリーポイント」と

してのマイクロファイナンスが、地域の条件に適合して功を奏したと言えよう。

ただし、当プロジェクトでは、フェーズⅠの途中から、カウンターパート側の要望で収入創出

活動を取り入れ、しかも JICA の機材供与の枠組みをやりくりして初めて実施したので事業の遅

れが見られた。業務完了報告で言及されているように、エントリーポイントであるならば、他の

事業に先駆けて実施することが肝要である。

(3)地域の金融制度作り

マリの事例の、家畜から現金での貯金習慣の変化は、砂漠化防止というプロジェクト目標にも

貢献する。地域住民のニーズに応えた持続的な金融制度は、JICA の現在のスキームを使っても

可能だということを証明した。

3 - 8 事例分析のまとめ

これまでの事例分析から以下の結論が導き出された。

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(1)プロジェクト目標への貢献

JICA のさまざまなプロジェクト目標に対しても、マイクロファイナンスは貢献できる可能性

がある。しかし、目標や条件に合わせた導入のタイミングや実施方法で行うことが肝要である。

(2)持続的な金融制度作りの可能性

制度的制約からこれまであまり実施されてこなかった、地域開発の一環としての持続的な金融

制度作りは、実施可能である。特に、大量の原資を投入せず、地域の社会的条件に合わせて地元

に密着した形での組織作りを行う方法は、技術協力を組織ミッションとする JICA に適している。

ただし、この場合も外部から関与する者は、マイクロファイナンスのみならず、地域全体の金融

制度のあり方についても十分な理解を持っていることが必要である。

(3)実施主体の選定と支援の重要性

プロジェクトの一部として、マイクロファイナンスを実施する場合には、実施主体の能力や今

後の展開方針が、プロジェクトの持続性に決定的な影響を及ぼす。特に金融機関となり得ない政

府機関を実施主体とすることは、これまでの経験からも JICA の事例からも、好ましくないこと

は明らかである。選定対象から除外するのが妥当である。また、社会的ミッションを掲げる

NGO なども、持続的な金融制度作りや効率的なマイクロファイナンスの実施には適していない。

JICA に適しているのは、農民組合や住民組織などがオーナーシップを持つ地域密着型の組織

支援であろう。プロジェクトに資金の投入が必要であっても、他の融資機関と協力し、JICA は

資金を主体的に活用できる住民の能力育成に徹するという方法も考えられる。

(4)技術研修との組み合わせ

収入創出活動への技術研修も、ターゲットグループの底上げには役割を果たす。ヨルダンの事

例が示すように、技術研修を行った養蜂や縫製事業は成果を上げた。課題として、かかる費用に

対して受益者数が少ないこと、成果も研修受講者に限定されること、研修内容は市場ニーズに合

ったものでなければならず、この選定は公的機関が必ずしも得意としないことが挙げられる。よ

り少ない費用でより多くの層に達することをめざすのか、限られた範囲のターゲットグループの

底上げを図るのか、プロジェクト目標に応じて、明確化しておく必要がある。

(5)機材供与の問題点

機材供与については、さまざまな問題が伴う。ヨルダンの場合、山羊の貸付を行ったが、品質

にばらつきがあり、利用者の不公平感を生んだ。そもそも、現金で融資を得て、自らが選んで購

入すれば、このような問題は発生しない。

また、研修修了者へのパッケージ型の機材供与も、利用者の主体的な裁量による企業家精神の

発揮を妨げる可能性もある。さらに、品質管理の責任をどこまで誰が持つのかといった点で、現

金貸付に比べて実施が困難である。

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(6)マイクロファイナンス専門家の欠如

これまでの限られた JICA のマイクロファイナンス支援事例ではあるが、プロジェクト関係者

の理解不足から失敗した例があることは否めない。マイクロファイナンスは、単に 5 人組を作っ

て貸付を行えばうまくいくほど簡単なものではない。支援する側に、実施主体を選定する能力、

返済を確保する設計を見抜く能力などが必要である。

また、マイクロファイナンスをプロジェクトのコンポーネントに入れることが本当に適切なの

かも判断しなければならない。タンザニアの事例では、マイクロファイナンスのパイロット事業

ではなく、別のポンプ事業などを通じて組織作りをしたうえで行った貸付がうまくいった。つま

り、マイクロファイナンスを始める土壌が整っていないところで開始して返済率が低くなってし

まったのである。

ヨルダンの事例では、プロジェクトのエントリーポイントという位置づけだったのに開始が遅

れたため、効果は限定的だった。適切な時期に専門家の投入や助言が得られていれば、よりいっ

そうの成果を上げられたかもしれない。

(7)PDMとの関係

各事例の PDM の成果指標には、マイクロファイナンスの返済率が記載されておらず、せいぜ

い利用率が記載されているだけである。最初に述べたように、返済率はマイクロファイナンスを

支援する機関にとって、最低限意識すべき目標である。

また、PDM には、現実的に達成可能かつ具体的な目標・成果指標が記載されている。しかし、

これだけでは目標達成のために必要な投入にとらわれてしまい、地域全体の長期的な発展像の視

点が欠落してしまう。従来型の技術協力の発想では見落としがちな、住民の能力育成(ソーシャ

ル・キャピタルの育成)や金融市場の育成までを考慮したプロジェクト作りの方法を模索する時

期が来ているのではないかと思われる。