3.ライフサイクルマネジメントの検討・課題...3.ライフサイクルマネジメントの検討・課題...

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3.ライフサイクルマネジメントの検討・課題 3.1 劣化予測式の違いが道路橋群のLCC算定および年度コスト平準化に与える影響 3.1.1 はじめに 限られた予算,人員の下で社会基盤構造物を適切に維持管理するために,アセットマネジメント の概念が注目されている.アセットマネジメントシステムを構成するステップには,LCC 算定や 年度コスト平準化があるが,それらを行う際にはまず劣化予測を行わねばならない. 劣化予測手法には,劣化のメカニズムに基づく物理・化学モデル式 1) ,実構造物の測定データの 統計処理による式 2) ,簡易な既定形の式の当てはめ 36) ,などの方法がある.これらのうち,構造 物に対する維持管理のシナリオについて専門家および一般市民の両者へのアカウンタビリティを適 切に果たす必要性を考慮すると,劣化のメカニズムに基づく物理・化学モデル式を用いることが理 想であると考える.しかし,構造物の種々の劣化機構(例えば,コンクリート構造物の塩害など) ごとの劣化過程のモデル式は全過程にわたっては必ずしも明らかになっていないのも実情である. そこで,技術的・経済的に取り掛かりやすいという意味で実用的な手法として,健全度(15 5 段階などで表現)の経時変化に簡易な既定形の式を当てはめる方法が検討されている.この手 法を用いるにあたっては,図 3.1.1 に示すような座標系において,塩害劣化を想定したと思われる 上に凸な 2 次曲線を用いる例が多い 36) .しかし,実際には塩害以外に様々な劣化機構が存在して おり,劣化曲線の形状を変えて 2 次曲線以外の劣化曲線についても検討する必要があると考える. これらの劣化予測に基づいて LCC が算出され,その総額が構造物群の管理者にとって妥当な値 (最小値)でも,年度によってコストの変動が激しい場合がある.このとき平準化の操作を行うこ とで,年度コストのばらつきを抑え,より無理のない予算計画を策定することができる. 劣化予測手法を変化させた場合,LCC および年度コスト平準化操作に影響を与えることが予想 されるが,その影響がどの程度のものなのかは未だ分かっていない. よって,本研究では劣化予測手法の違いが LCC および年度コスト平準化に与える影響について 検討することとした.劣化予測手法としては,先述の健全度の経時変化に簡易な既定形の式を当て はめる方法を採用した.そのうえで,劣化予測手 法に違いを出すために,物理・化学モデル式を念 頭に既定形の式の形や耐久年をパラメータとして 変化させた.これらに基づいて,LCC 算定と年 度コスト平準化操作を行い,これらに対するパラ メータの影響について検討した. 3.1.2 研究概要 (1) 検討要因 LCC 算出の検討要因を表 3.1.1 に示す. 劣化曲線とする既定形の式の形として,既往 の研究で用いられている 2 次式に加え,1 式(耐久年を同一とした場合に初期の劣化速 度が速くなる)および 0.5 次式(他の式にお いて耐久年を迎えた時点で健全度が 3 とした (年) 1 2 3 4 5 0 20 40 60 80 1次曲線 2次曲線-耐久年標準 2次曲線-耐久年0.82次曲線-耐久年1.20.5次曲線 図 3.1.1 劣化曲線形状の例 表 3.1.1 LCC 算出における検討要因 劣化曲線形状 3 2次式,1次式,0.5次式 耐久年 3 基準および,その1.2倍,0.8倍 対策シナリオ 3 使い捨て型,対症療法型,危機管理型 検討要因 本研究での条件 備考 条件数

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Page 1: 3.ライフサイクルマネジメントの検討・課題...3.ライフサイクルマネジメントの検討・課題 3.1 劣化予測式の違いが道路橋群のLCC算定および年度コスト平準化に与える影響

3.ライフサイクルマネジメントの検討・課題

3.1 劣化予測式の違いが道路橋群のLCC算定および年度コスト平準化に与える影響

3.1.1 はじめに

限られた予算,人員の下で社会基盤構造物を適切に維持管理するために,アセットマネジメント

の概念が注目されている.アセットマネジメントシステムを構成するステップには,LCC 算定や

年度コスト平準化があるが,それらを行う際にはまず劣化予測を行わねばならない.

劣化予測手法には,劣化のメカニズムに基づく物理・化学モデル式 1),実構造物の測定データの

統計処理による式 2),簡易な既定形の式の当てはめ 3~6),などの方法がある.これらのうち,構造

物に対する維持管理のシナリオについて専門家および一般市民の両者へのアカウンタビリティを適

切に果たす必要性を考慮すると,劣化のメカニズムに基づく物理・化学モデル式を用いることが理

想であると考える.しかし,構造物の種々の劣化機構(例えば,コンクリート構造物の塩害など)

ごとの劣化過程のモデル式は全過程にわたっては必ずしも明らかになっていないのも実情である.

そこで,技術的・経済的に取り掛かりやすいという意味で実用的な手法として,健全度(1~5

の 5 段階などで表現)の経時変化に簡易な既定形の式を当てはめる方法が検討されている.この手

法を用いるにあたっては,図 3.1.1に示すような座標系において,塩害劣化を想定したと思われる

上に凸な 2 次曲線を用いる例が多い 3~6).しかし,実際には塩害以外に様々な劣化機構が存在して

おり,劣化曲線の形状を変えて 2 次曲線以外の劣化曲線についても検討する必要があると考える.

これらの劣化予測に基づいて LCC が算出され,その総額が構造物群の管理者にとって妥当な値

(最小値)でも,年度によってコストの変動が激しい場合がある.このとき平準化の操作を行うこ

とで,年度コストのばらつきを抑え,より無理のない予算計画を策定することができる.

劣化予測手法を変化させた場合,LCC および年度コスト平準化操作に影響を与えることが予想

されるが,その影響がどの程度のものなのかは未だ分かっていない.

よって,本研究では劣化予測手法の違いが LCC および年度コスト平準化に与える影響について

検討することとした.劣化予測手法としては,先述の健全度の経時変化に簡易な既定形の式を当て

はめる方法を採用した.そのうえで,劣化予測手

法に違いを出すために,物理・化学モデル式を念

頭に既定形の式の形や耐久年をパラメータとして

変化させた.これらに基づいて,LCC 算定と年

度コスト平準化操作を行い,これらに対するパラ

メータの影響について検討した.

3.1.2 研究概要

(1) 検討要因

LCC 算出の検討要因を表 3.1.1 に示す.

劣化曲線とする既定形の式の形として,既往

の研究で用いられている 2 次式に加え,1 次

式(耐久年を同一とした場合に初期の劣化速

度が速くなる)および 0.5 次式(他の式にお

いて耐久年を迎えた時点で健全度が 3 とした

(年)1

2

3

4

5

0 20 40 60 80

健全度

1次曲線

2次曲線-耐久年標準

2次曲線-耐久年0.8倍

2次曲線-耐久年1.2倍

0.5次曲線

図 3.1.1 劣化曲線形状の例

表 3.1.1 LCC 算出における検討要因

劣化曲線形状 3 2次式,1次式,0.5次式

耐久年 3 基準および,その1.2倍,0.8倍

対策シナリオ 3 使い捨て型,対症療法型,危機管理型

検討要因本研究での条件

備考条件数

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式であり,最も緩やかな劣化速度となるように設定)を用いた.耐久年を 40 年とした場合のこれ

らの劣化曲線の例を図 3.1.1に示す.2 次式は塩害による劣化,1 次式は疲労による劣化,0.5 次式

は中性化による劣化を想定した式である.

ここで耐久年(対策前または対策後)とは,それぞれ建設時の健全度=5 または対策後の健全度

(表 3.1.2参照)から,損傷が著しく交通の安全確保の支障となる恐れがあると判断される健全度

=1 まで健全度が低下する期間のことである.基準の耐久年は既往の研究を参考にして部材種類や

対策工法ごとに与えた.今回,感度分析を行うために,基準の耐久年を一律に 0.8,1.2 倍にそれぞ

れ変化させた値も設定した.

どのタイミングにどのような対策を行うかを決定する対策シナリオについては,対象とする道

路橋群で一律に,基本的に維持管理を行わない使い捨て型,事後保全的な対症療法型,予防保全的

な危機管理型の 3 種類とした.

以上の 27 パターンに対して,LCC を算出した.

(2) LCC 算出方法

既往の研究 4)で用いられた仮想のコンクリート製,鋼製の道路橋群(18 橋 43 径間)を対象とし,

部材は主桁,床版,支承に限定した.LCC 算定期間は 100 年間とし,この期間にかかる維持管理

コストを LCC として算出した.また,LCC 算定期間開始時点において,いくつかの部材がある程

度劣化した状況と想定しているので,全ての部材が健全度=5 から始まるわけではない.対策シナ

リオと工事単価の一例をそれぞれ表 3.1.2,表 3.1.3に示す.

例えば,基準の耐久年を用いた場合に対策シナリオを対症療法型とするとき,健全度が 2 を下回

る前の年に「断面修復+表面被覆」を適用し,それにより「対策後健全度」=4 まで回復する.対

策後の耐久年は対策工法に応じて設定し,この場合は 10 年として,同じ劣化曲線形状を適用する.

表 3.1.2 対策シナリオの例(コンクリート橋主桁・床版)

対策後 対策後 対策後

健全度 健全度 健全度

電気防食 40 年(基準)

3 + 48 年(1.2倍)

表面被覆 32 年(0.8倍)

断面修復 10 年(基準) 断面修復 10 年(基準)

2 + 12 年(1.2倍) + 12 年(1.2倍)

表面被覆 8 年(0.8倍) 表面被覆 8 年(0.8倍)

100 年(基準) 100 年(基準) 100 年(基準)

1 120 年(1.2倍) 120 年(1.2倍) 120 年(1.2倍)

(床版・支承込) 80 年(0.8倍) (床版・支承込) 80 年(0.8倍) (床版・支承込) 80 年(0.8倍)

4

架替え5

架替え5

架替え5

対策なし 4

対策なし

対策なし 対策なし 4

対策なし 対策なし

健全度

使い捨て型 対症療法型

4,5

危機管理型

対策工法 対策後耐久年 対策工法 対策後耐久年 対策工法 対策後耐久年

表 3.1.3 単価設定の例

(コンクリート橋主桁・床版)

表 3.1.4 橋梁群の LCC 算出結果に対する

選定指標と基準

単位 単価(千円)

断面修復 m2 87

表面被覆 〃 13

電気防食 〃 120

更新(架替え) 〃 1000

対策工法単価設定

指標と基準 備考

欠陥径間率

2%未満

大対策費比

3.0未満

LCC算定期間を通じて も費用の高い対策工事(1径間・1部材当り)の金額をLCC年平均額で除した値

―LCC 小

2

3

径間内での平均健全度をLCC算定期間内を通じて平均した値が2未満の径間の数の割合

1

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(3) LCC 選定指標と基準

劣化曲線形状,耐久年,対策シナリオをそれぞれ変化させたことで,全 27 種のパターンを得た.

しかし,この中には,橋梁群の健全度を適切に維持することができていないものなど,実際の予算

策定の場面で棄却されるようなパターンも含まれるので,年度コスト平準化操作を行うべきパター

ンの選定を行うこととした.

本研究では,健全度と経済性をともに評価することのできるよう,表 3.1.4に示す 3 つの指標お

よび基準をもって年度コスト平準化操作を行うべき対策シナリオの選定を行った.

基準 1 は欠陥径間率 2%未満とした.これは健全度の低い径間の数が 0 ではないもののわずかで

ある状況を意図したものであり,今回の 43 径間中に 1 径間も存在しない条件を設定した.なお,

「欠陥径間」は「径間の健全率」が 0.25 未満の径間と定義したものであり,その数の割合を欠陥

径間率とした.ここに,「径間の健全率」は,「部材の健全率」に「部材の重み係数」(主桁:10,

床版:8,支承:6 と設定)を乗じて加重平均したものである.また「部材の健全率」は,各径間

の各部材(主桁,床版または支承)に対して 1,2,3,4 または 5 の離散値で評価した健全度ラン

クをそれぞれ 0.00,0.25,0.50,0.75,1.00 と換算したうえで,直線補完により得られる連続値で

ある.

基準 2 に関しては,1 径間 1 部材を対象とする対策工事であるにもかかわらず,橋梁群全体の

LCC 年平均額に比して極めて大きな費用を要しているものがあれば,これにより平準化が大きく

阻害されると考えられる.よって,根拠は必ずしも明確ではないものの,比較的小さな値の場合に

棄却しない基準とともに設定した.

具体的な選定手順としては,劣化曲線形状および耐久年を変化させた 9 種類のパターンにおいて,

基準 1,2 を満たし,かつ,その中で LCC 最小を示した対策シナリオのパターン(基準 3 を満たし

たもの)を,年度コスト平準化を行うべきパターンに選択した.

(4) 年度コスト平準化の操作方法

図 3.1.2 に示すように,予算額(LCC 年平均額に等しいとする)に対し「山」を崩し「谷」を

埋めるという考え方のもと,対策の「前倒し」「先送り」を行い,年度コスト平準化を行った.

(i) 「前倒し」「先送り」可能な期間

図 3.1.3 に示すような劣化曲線に基づいた階段状の「管理曲線」を設定し,同一段にある期間

(健全度ランク維持期間)内で「前倒し」「先送り」を行うことにした.管理曲線は,健全度の中

間値において,ランクが変化するものとする.つまり,例えば健全度が 2.5~1.5 だと予測される期

間内なら,健全度が 2 の時に実施される対策を前倒し,先送りしてもよいとした.

すなわち,簡略化のため,平準化操作を行うことで健全度ランクが遷移することはなく,それに

伴う対策工法の変化も考慮しないことにした.

(ii) 優先的に前倒しする対策の順位

表 3.1.5に示す方針のもと,対策シナリオごとに表 3.1.6のように設定した.表 3.1.5について,

部材種類に関しては,主要部材の対策を優先的に前倒しした.健全度に関しては,低いものほど緊

急度が高いと考えられるため,健全度が低いものを優先した.今回考慮した劣化機構に対しては,

コンクリート橋は鋼橋に比べ単価の高い対策が多いので優先した.

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表 3.1.6の朱書き箇所は,初期の健全度ラ

ンクが低い場合に発生する対策を示している.

年度コスト平準化操作は,以上のルールに基

づいて手作業で行った.ただし,健全度ラン

ク維持期間中のどの年度に対策工事を「前倒

し」「先送り」するかという複数の選択肢か

ら,年度コスト平準化操作実施者が先を見通

しつつ,どう選択するかによって,さながら

将棋のようにそれ以降の状況が大きく変化す

ることもあり,手順は必ずしも一意的に定ま

らなかった.よって,高い平準化達成度を目

指して,3 手進めては 2 手戻すというような

試行錯誤を繰り返した.年度コスト平準化操

作の終了条件として,どのような手を指して

も,次に述べる平準化達成度の評価指標「平

準化指標」の変動値が 0.01 を上回らないと

きとし,結果が作為的にならぬよう配慮した.

(5) 平準化達成度の評価指標 4),6)

各年度コストが予算額を超過しても大幅に

下回っても,事業の連続性の観点から望まし

くない.また,同じく,突発的な大コストも許容することはできない.

前者の考え方に基づき,予算額に対して平準化後の各年度コストがどの程度ばらついているかを

評価する指標として,「平準化指数」(標準偏差に相当)ならびに「平準化指標」(変動係数に相

当)を設定した.

また,後者の考え方に基づいたものとして,LCC 算定期間内で最大となった年度コストを予算

額で除した指標(以下,「最大年度コスト比」)を用いた.

これら 3 つの指標は値が小さいほど,より平準化がなされていることを示し,各々以下のような

式で表される.

対策費

(

全橋梁

)

年数

予算額

谷 谷谷

山 山

図 3.1.2 平準化イメージ 3) 図 3.1.3 健全度ランク維持期間

表 3.1.5 年度コスト平準化操作における

対策時期前倒しの優先順位(方針) 部材種類

健全度橋梁の種類

対策費優先順位

高 鋼橋

コンクリート橋

主桁

床版

支承

表 3.1.6 年度コスト平準化操作における

優先順位の例(危機管理型) 優先 対策時

順位 健全度

1 コンクリート橋 主桁 架替え 1

2 鋼橋 主桁 架替え 1

3 コンクリート橋 主桁 断面修復断面修復+表面被覆

2

4 鋼橋 主桁 塗装塗替 C塗装系 2

5 コンクリート橋 主桁 電気防食電気防食+表面被覆

3

6 コンクリート橋 床版 断面修復断面修復+表面被覆

2

7 鋼橋 床版 床版打替合成床版+床版防水

2

8 コンクリート橋 床版 電気防食電気防食+表面被覆

3

9 鋼橋 床版 接着工法繊維シート接着+床版防水

3

10 ― 支承 支承取替 ゴム支承 1.5

11 ― 支承 塗装塗替 C塗装系 2

橋種 部材 対策工法

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表 3.1.7 LCC 算出結果

曲線形状 耐久年(倍率) 対策シナリオ (%) 判定 判定 (百万円) 判定1 使い捨て 18.0 × 10.2 × 144.7 ― ×2 対症療法 0.6 ○ 2.04 ○ 101.5 ○ ◎3 危機管理 0.0 ○ 1.46 ○ 200.7 × × ○4 使い捨て 16.9 × 12.50 × 26.0 ― ×5 対症療法 0.8 ○ 3.12 × 66.4 ― ×6 危機管理 0.0 ○ 2.09 ○ 142.4 ○ ◎ ○7 使い捨て 16.0 × 7.12 × 9.2 ― ×8 対症療法 0.6 ○ 3.89 × 41.1 ― ×9 危機管理 0.0 ○ 2.69 ○ 112.1 ○ ◎ ○10 使い捨て 11.4 × 5.43 × 353.9 ― ×11 対症療法 0.0 ○ 0.73 ○ 442.4 × ×12 危機管理 0.0 ○ 0.94 ○ 344.2 ○ ◎ ○13 使い捨て 4.3 × 8.40 × 228.5 ― ×14 対症療法 0.0 ○ 0.59 ○ 349.0 × ×15 危機管理 0.0 ○ 1.11 ○ 263.5 ○ ◎ ○16 使い捨て 2.4 × 8.43 × 227.7 ― ×17 対症療法 0.0 ○ 0.79 ○ 261.0 × ×18 危機管理 0.0 ○ 1.44 ○ 205.9 ○ ◎ ○19 使い捨て 3.4 × 4.98 × 385.6 ― ×20 対症療法 0.0 ○ 0.86 ○ 377.7 × ×21 危機管理 0.0 ○ 1.47 ○ 221.1 ○ ◎ ○22 使い捨て 1.4 ○ 8.38 × 229.1 ― ×23 対症療法 0.0 ○ 0.73 ○ 284.4 × ×24 危機管理 0.0 ○ 1.68 ○ 181.0 ○ ◎ ○25 使い捨て 0.2 ○ 8.42 × 227.9 ― ×26 対症療法 0.0 ○ 1.38 ○ 235.8 × ×27 危機管理 0.0 ○ 2.15 ○ 151.0 ○ ◎ ○

(注)判定    ○:該当 ×:該当しない   ―:判定対象外 (注)総合評価 ◎:採用 ×:不採用

№ 大対策費比 LCC年平均額ライフサイクルコスト選定指標

劣化曲線欠陥径間率

2次

0.8

1

1.2

総合評価今回

実施したパターン

1次

0.8

0.5次式

0.8

1

1.2

1

1.2

0

50

100

150

200

250

300

350

3 6 9 12 15 18 21 24 27

パターンNo

LCC年平均

額(百万円

図 3.1.4 LCC 年平均額(危機管理型)

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(ⅰ) 平準化指数

( ) nia ∑σ=σ 2 (1)

aσ :平準化指数(百万円),n :対象年数, iσ :i 年の対策費-BA,BA:年平均予算額

(ⅱ) 平準化指標

( ) BABAab +σ=σ (2)

bσ :平準化指標

(ⅲ) 最大年度コスト比

BAR maxσ= (3) R:最大年度コスト比, maxσ :最大の年度対策費

3.1.3 結果および考察

(1) LCC 算出結果

LCC を算出した結果を,表 3.1.7 に示す.また,危機管理型のパターンについて LCC 年平均額

を図 3.1.4に示す.

LCC に着目すると,穏やかな劣化を想定した 0.5 次式において低く,比較的劣化の早い 1 次式の

場合に高くなっていることが読み取れる.また,耐久年が長いほど LCC は低くなることが分かる.

総合評価とは,3.1.2(3)で述べた手順による評価である.各劣化曲線形状,各耐久年において危

機管理型を用いた場合に「採用」となっている場合がほとんどとなった.よって,危機管理型は健

全度と経済性を両立できる対策シナリオだと考えられる.

年度コスト平準化操作を行うパターンとして,表 3.1.7 の総合評価欄において◎印の付いた 9 種

類が選定される.しかし,同一の対策シナリオ(危機管理型)での比較のため,今回は 9 種類のパ

ターン(No.3,6,9,12,15,18,21,24,27)に対して,1 回ずつ手作業で年度コスト平準化操

作を行った.このときの「1 回ずつ」とは,1 手 1 手試行錯誤しつつ,そのパターンにおける初手

から最終手までの一連の操作を行ったことを意味する.

(2) 平準化結果

年度コストの推移の一例を図 3.1.5(a),(b),(c)に示す.(b)は(a)を平準化したもの,(c)は別

の劣化曲線形状,耐久年の場合において平準化したものを示す.初期破綻の傾向が図 3.1.5(b)に

見られ,初期段階の年度対策費が予算額を大きく上回っている.初期破綻とは,点検において低い

健全度にあると診断された部材に対し,LCC 算定期間初期で対策が集中的に必要となることから,

対策費が一時的に増加する現象である.

初期破綻が生じた原因としては,耐久年を小さくしたことで点検年からの劣化が早まったことが

考えられる.また,次数が高い場合には,健全度ランクが低くなってからの年数が短いという特徴

がある.点検時に低い健全度ランクに位置づけられると,対策が必要になるまでの猶予が数年と短

いため,初期破綻を起こしやすくなることが考えられる.図 3.1.5(b),(c)を比較すると,劣化曲

線形状の次数が低いほど,耐久年が大きいほど,初期破綻が起こりにくくなる傾向にあることがわ

かる.

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0200400600800

1000

2009 2019 2029 2039 2049 2059 2069 2079 2089 2099 年

百万円 紫線:年平均予算額

橙系:主桁

緑系:床版

青系:支承

の1径間・1

部材ごとの

対策費

0200400600800

1000

2009 2019 2029 2039 2049 2059 2069 2079 2089 2099 年

百万円

橙系:主桁

緑系:床版

青系:支承

の1径間・1

部材ごとの

対策費

「初期破綻」「谷」

紫線:年平均予算額

0200400600800

1000

2009 2019 2029 2039 2049 2059 2069 2079 2089 2099 年

百万円

大規模橋梁の部材

紫線:年平均予算額

橙系:主桁

緑系:床版

青系:支承

の1径間・1

部材ごとの

対策費

図 3.1.5 部材ごと年度コスト推移グラフの一例

劣化曲線形状および耐久年と平準化指数との関係を図 3.1.6 に,平準化指標との関係を図 3.1.7

に,最大年度コスト比との関係を図 3.1.8に示す.

(ⅰ) 平準化指数(図 3.1.6)

異なる次数間で比較すると 1 次式を用いた場合に平準化が進んだことがわかる.この理由として,

1 次式を用いた場合には,他の場合に比べて(初期の)劣化速度が速いことが挙げられる.このた

め,頻繁に対策を行う必要があり,図 3.1.5(b)に示すような「谷」が狭まり,密になったと考え

られる.

また,穏やかな劣化を想定した 0.5 次式において,あまり平準化が進んでいないこともわかる.

この原因として,図 3.1.5(c)に示すような,1 径間 1 部材当りのコストが大きい大規模橋梁と

LCC との関係が挙げられる.0.5 次式の場合,穏やかな劣化を想定していることから,対策を頻繁

に行う必要がなく,LCC に基づき設定した予算額が低くなる.しかし,大規模橋梁に対するコス

トは,劣化曲線形状とは関係なく一定であるので,低く抑えられた予算額を(相対的に)大きく超

過してしまう.これにより,平準化が進まなかったものと考えられる.

耐久年と平準化指数との関係をこのグラフから見出すのは難しいが,耐久年は劣化曲線形状より

も平準化指数に与える影響が小さいことが考えられる.

(a)平準化前(2次式-耐久年 0.8 倍-危機管理型)

(b)平準化後(2次式-耐久年 0.8 倍-危機管理型)

(c)平準化後(0.5 次式-耐久年 1.2 倍-危機管理型)

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0

20

40

60

80

100

120

140

0.5次式 1次式 2次式劣化曲線形状

平準

化指

耐久年0.8倍 耐久年標準 耐久年1.2倍(百万円)

11.11.21.31.41.51.61.71.8

0.5次式 1次式 2次式劣化曲線形状

平準化

指標

耐久年0.8倍 耐久年標準 耐久年1.2倍

図 3.1.6 劣化曲線形状および

耐久年と平準化指数との関係

図 3.1.7 劣化曲線形状および

耐久年と平準化指標との関係

(ⅱ) 平準化指標(図 3.1.7)

異なる次数間では,平準化指数と同様の,む

しろ平準化指数よりも差が強調された結果とな

った.これは 1 次式において,LCC 年平均額

である予算額が大きくなったことから(表

3.1.7 参照),平準化指標の分母が大きくなり,

より指標の値が小さくなったことによると考え

られる.

同じ次数では,耐久年が小さいほど平準化指

標が小さく,より平準化される傾向を読み取る

ことができ,平準化指数では得られなかった情報を得ることができた.耐久年が小さいほどより平

準化された原因としては,先に述べた,対策を頻繁に行う必要から密になることが考えられる.

(ⅲ) 最大年度コスト比(図 3.1.8)

異なる次数間で比較すると,2 次式において最大年度コスト比が大きくなっている.これは,

3.1.3(2)の初めに述べたように,2 次式に初期破綻を起こす傾向があったため,LCC 算定期間の初

期に対策工事が集中したと考えることできる.また,0.5 次式においても最大比率が大きくなった

原因としては,LCC 年平均額が低く抑えられたために,図 3.1.5(c)のように大規模橋梁への対策

費が突出したことが考えられる.これらの問題を抱えることのなかった 1 次式においては,最大年

度コスト比が最も小さくなったものと思われる.

同じ次数で比較すると,耐久年が短くなるほど最大年度コスト比が小さくなるものの,2 次式-

耐久年 0.8 倍の場合のみ結果が逆転してしまったと捉えることができる.これは,耐久年が短くな

ることにより,対策が頻繁に行われ,図 3.1.5(b)に示すような「谷」が狭まって密になったこと

から,深い「谷」や高い「山」が存在しにくくなったと説明することができる.2 次式-耐久年 0.8

倍の場合は,劣化曲線形状と耐久年の組合せにより,LCC 算定期間初期に対策工事が集中してし

まったと考えられる.

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

0.5次式 1次式 2次式

劣化曲線形状

大年度コスト比

耐久年0.8倍 耐久年標準 耐久年1.2倍

図 3.1.8 劣化曲線形状および耐久年と

最大年度コスト比との関係

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3.1.4 まとめ

①劣化曲線形状の次数が低いほど,耐久年が大きいほど,初期破綻が起こりにくくなる.

②劣化曲線形状が 1 次式の場合や,耐久年が短い場合に,年度コストのばらつきを小さくできた.

つまり平準化がより進んだ.

③穏やかな劣化を想定した 0.5 次式の場合に,より平準化されるというわけではない.この原因

としては,大規模橋梁(径間)の存在が考えられる.

【参考文献】

1) 高橋稔明,酒井通孝,関博,松島学:塩害環境下における RC 構造物の LCC 算定と補修工

法選択システムの開発,コンクリート工学論文集,第 16 巻第 3 号,pp.21-29,2005.9.

2) 保田敬一,安野貴人:橋梁における劣化予測手法の違いが評価に及ぼす影響,第 6 回構造物

の安全性・信頼性に関する国内シンポジウム(JCOSSAR2007)論文集,pp.57-64,2007.6.

3) 国土交通省 国土技術政策総合研究所:国土技術政策総合研究所プロジェクト研究報告 第

4 号 住宅・社会資本の管理運営技術の開発,2006.

4) (社)建設コンサルタンツ協会近畿支部 アセットマネジメント研究委員会:アセットマネジ

メントの普及を目指して,2007.

5) 久後雅治,平川淳,鎌谷太郎,服部篤史,坂野昌弘:小規模な既設橋梁群を対象とした簡便

な LCC 算定法の提案,鋼構造年次論文報告集,Vol.16,pp.681-688,2008.11.

6) 保田敬一,中西卓也,藤井友行,服部篤史,坂野昌弘:小規模な既設橋梁群における年度コ

スト平準化に関する検討,鋼構造年次論文報告集,pp.689-696,Vol.16,2008.11.

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3.2 平準化手法の違いが橋梁群の維持管理コスト平準化に与える影響

3.2.1 はじめに

維持管理コスト平準化操作については,現在様々な手法が提案されているが,他の手法との比較

なしに用いられていることがほとんどである.用いる手法によって得られる結果が異なる傾向を示

す可能性が考えられる.よって,本研究では,平準化手法の違いが橋梁群の維持管理コスト平準化

に与える影響について検討を行った.

3.2.2 研究概要

(1) 対象橋梁群および劣化予測,対策シナリオ

コンクリート製,鋼製道路橋で構成される仮想既設橋梁群(30 橋 50 径間)を対象とし,部材を

主桁,床版,支承に限定した.

今回用いる劣化予測手法としては,健全度の経時変化に簡易な既定形の式を当てはめる方法を採

用した.これは,実構造物に対する診断(点検,劣化予測,評価・判定)において目視や打音法程

度のごく簡易な方法が広く用いられ,離散的な健全度を把握するに留まっている実情と,今回対象

とする橋梁群が小規模で,かつ過去の点検データの蓄積がなく,遷移確率を用いた予測が困難であ

ることをあわせて考慮したものである.

劣化曲線の式の形としては,図 3.2.1 に示すような,既往の研究で用いられている「上に凸な 2

次式」を用いた.耐久年については,既往の研究 1)で示された点検データの回帰分析の結果を用い

た.どの健全度でどの対策を行うかを決定する対策シナリオについては,表 3.2.1に示す使い捨て

型,対症療法型,危機管理型のうち予防保全的な危機管理型に統一した.

図 3.2.1 劣化曲線設定の例

表 3.2.1 対策シナリオの考え方

対策シナリオ 考え方

使い捨て型 安全上の問題が深刻化する段階まで,基本的に維持管理を行わない.

部材交換や橋梁の架替えを行うため,一時的に大きな費用が発生する.

対症療法型 使用上の問題が発生した時点でそのつど対策を行う事後保全型.

危機管理型 損傷の小さい段階で効果の大きい長寿命化工法で対策しておき,

後の発生費用を抑える予防保全型

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(2) 維持管理コスト算出方法

今回の対象部材においては,補修により得られる便益(車両通行費用など)がほぼ一定であると

仮定した.よって,本研究では対象期間(100 年間)にかかる補修費用のみを維持管理コストとし

て算出した.また,予算に対するコストの年度ごとのばらつきの評価を目的とするため,社会的割

引率は用いていない.

(3) 平準化手法

維持管理コスト平準化操作方法に関する検討要因を表 3.2.2に示す.操作方法について,以下に

述べる.

a) 山くずし方式 1)

平準化前の予算計画に対し,対策の前倒し・先送りによって,山を崩し,谷を埋めるという考え

方のもと,手作業で維持管理コスト平準化操作を行った.山くずし方式のイメージを図 3.2.2に示

す.対策は前倒しを基本としたうえで,優先順位は表 3.2.3に示す方針に準じた.左にある項目ほ

ど影響力が強い.

表 3.2.2 平準化操作手法に関する検討要因

No. 操作方法 前倒し/先送り 予算制約

b1 山くずし方式 前倒し 5年&先送り 2年

g1 前倒し 3年

g2

一定

(維持管理コスト年平均額)

g3

遺伝的アルゴリズム方式 前倒し 5年&先送り 2年

数年ごと変動

p1 予防保全率方(x=25%)

p2 予防保全率方(x=50%) -

一定

(維持管理コスト年平均額)

対策費

(

全橋梁

)

年数

予算額

谷 谷谷

山 山

図 3.2.2 山くずし方式における平準化のイメージ

表 3.2.3 山くずし方式における対策時期優先順位(方針)1)

部材 健全度 橋種 対策費 優先順位

主桁 低 コンクリート橋 大 高

床版 中 ↕ ↕ ↕

支承 高 鋼 橋 小 低

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b) 遺伝的アルゴリズム(GA)方式

平準化前の予算計画に対し,1橋梁・1径間・1部材・1対策ごとの前倒し・先送りの年数を図 3.2.3

のように遺伝子型にコード化して準最適解の探索を行った.文献 2)を参考に設定条件を表 3.2.4の

ように定めた.

c) 予防保全率方式 3)

平準化前の予算計画に対し架替えなど先送りの許されない対策に対して予算を配分しつつ,予防

保全的補修に充てる予算の割合を「予防保全率」として定め,平準化操作を行った.

図 3.2.3 GA 方式におけるコーディングルール

表 3.2.4 GA の設定条件

項目 内容 パラメータ

コード バイナリ(0/1)表現,Gray Code -

遺伝子長 - 1248ビット

交叉 2点交叉 交叉率 0.6

突然変異 0,1を反転 変異率 1/1248

淘汰方式 エリート保存とトーナメント選択 保存率 0.1

親の選択 ランダム -

個体数 - 100

世代数 - 2000

※ -:該当なし

図 3.2.4 予防保全率方式におけるランクに基づく予算配分の優先順位付け 3)

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d) 修繕効率方式 4)

LCC 最小となる条件で補修対策を行うとき

の費用を Cとし,補修対策を 1年前倒し,先送

りする際に増加する LCC の増分 D とした際の

D/C を修繕効率と定義して評価する方式である

(図 3.2.5参照).修繕効率の小さい部材,つま

りを前倒し,先送りしても LCCが大きく増加し

ない部材から順に前倒し,先送りする.この方

式は今回の検討では用いていない.

以上の維持管理コスト平準化手法の比較を表

3.2.5に示す.

表 3.2.5 維持管理コスト平準化手法の比較

維持管理コスト平準化操作方法

比較項目 山くずし方式 GA方式 予防保全率方式 修繕効率方式

アプローチ ・決定論的 ・確率論的 ・決定論的 ・決定論的

・社会的優先度 優先順位なし ・社会的優先度 ・修繕効率 優先順位の

決定指標 ・B/C ・B/C

・前倒し・先送り可能

期間

・前倒し・先送り可能

期間

・前倒し・先送り可能

期間

・前倒し・先送り可能

期間

・予算制約額設定 ・予算制約額設定 ・予算制約額設定 ・予算制約額設定

・個体数 ・予防保全率

・交叉確率

・コーディングルール

パラメータ

など多数

(4) 平準化結果の評価指標

各年度のコストが予算制約額を超過しても大幅に下回っても,事業の継続性から好ましくない.

この考え方に基づくと,予算額に対して平準化後の各年度コストがどの程度ばらついているかを評

価する指標として,「平準化指数」(標準偏差に相当)ならびに「平準化指標」(変動係数に相当)が

考えられる.これらの指標は値が小さいほど,より平準化がなされていることを示し,各々以下の

ような式で表される.

(ⅰ)平準化指数 ( ) nia ∑= 2σσ (百万円) (1)

n:対象年数, iσ :i年の対策費-BA,BA:年平均予算額

(ⅱ)平準化指標 ( ) BABAab += σσ (2)

図 3.2.5 修繕効率の求め方 4)

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ここではこれらのうち,変動係数に相当する「平準化指標」を用いた.この値が小さく,1.0に近

いほどばらつきが小さい.

また,橋梁群全体の健全性に与える影響も評価するため「平均健全率」を設定した.この値が大

きいほど健全性が高い.なお「平均健全率」は「橋梁群全体の健全率」のことであり,「径間の健全

率」に径間の面積(=支間長×有効幅員)を乗じて加重平均したものである.ここに「径間の健全

率」は,「部材の健全率」に「部材の重み係数」(主桁:10,床版:8,支承:6と設定)を乗じて加

重平均したものである.また「部材の健全率」は,各径間の各部材(主桁,床版または支承)に対

して 1,2,3,4または 5の離散値で評価した健全度ランクを,それぞれ 0.00,0.25,0.50,0.75,

1.00と換算したうえで,直線補間により得られる連続値である.

図 3.2.6 平準化手法と平準化指標の関係

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 2110

平均健全率(%)

(年)

GA方式前&先

GA方式前のみ

GA方式前&先予算変動

予防保全率方式50%

予防保全率方式25%

山くずし方式

平準化前

図 3.2.7 平準化手法と平均健全率の関係

100

120

140

160

180

200

平準化前(b1)

山くずし方式前&先予算一定

(g1)GA方式前のみ予算一定

(g2)GA方式前&先予算一定

(g3)GA方式前&先予算変動

(p1)予防保全率方式25%予算一定

(p2)予防保全率方式50%予算一定

平準化指標(%)

330

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3.2.3 結果および考察

平準化手法と平準化指標との関係を図3.2.6に,平均健全率との関係を図3.2.7に示す.

図 3.2.6 より,いずれの手法を用いても平準化前よりばらつきが抑えられていること,図 3.2.7

より,年を経るごとに平均健全率の上下の波が穏やかになることが読み取れる.いずれも平準化操

作を行うことによって,対策時期が分散された結果であると捉えることができる.

操作方法について,GA 方式は他手法と同程度までばらつきを抑えており,山くずし方式と同等

の健全性を有している.予防保全率方式の場合に健全性が高いのは,予防保全的補修のための予算

がほぼ常に確保されていることによる.前倒し/先送りについては,併用した場合に前倒しのみの時

よりばらつきが小さく,健全性も悪化していない.健全性については,前倒し期間を 5年に延長し

たことによって,先送りで低下した分を打ち消した可能性が考えられる.予算制約については,制

約額を数年ごとに変動させることによって,ばらつきが大きく抑えられており,健全性の低下も見

られない.

3.2.4 結 論

①遺伝的アルゴリズム(GA)方式を用いると,山くずし方式や予防保全率方式と同程度までばら

つきを抑えることができた.一方,健全性は山くずし方式と同程度であった.予防保全率方式

は健全性が高いが,予防保全的補修のための予算がほぼ常に確保しているためと考えられる.

②前倒し/先送りの組合せでは,前倒しのみより,ばらつきが抑えられ,健全性の低下も見られ

なかった.

③予算制約額を数年ごとに変動することで,ばらつきが抑えられ,健全性の低下も見られなかっ

た.

【参考文献】

1) (社)建設コンサルタンツ協会近畿支部アセットマネジメント研究委員会:アセットマネジメン

トの普及を目指して,2007.7.

2) 伊庭斉志:遺伝的アルゴリズム,医学出版,2002.5.

3) 国土交通省 国土技術政策総合研究所:国土技術政策総合研究所プロジェクト研究報告 第

4号 住宅・社会資本の管理運営技術の開発,2006.1.

4) 坂井康人,荒川貴之,井上裕司,小林潔司:阪神高速道路橋梁マネジメントシステムの開発,

土木情報利用技術論文集 17,pp.63-70,2008.

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3.3 LCC算定・コスト平準化における課題

本章では,ライフサイクルマネジメントにおけるソフトウェア側面(LCC 算定,年度コスト平準

化)に関する検討を示したが,これらの検討のなかでいくつかの課題が抽出された.ここでは,本

章の検討において抽出された課題とともに,ライフサイクルマネジメントの検討において一般的に

問われることの多い課題について整理する.

表3.3.1 ライフサイクルマネジメントにおける課題の整理

分 類 課題・問題点

LCC 算定

(※)

・計算の簡略化と LCC の精度と妥当性検証

・社会的割引率の取扱い

・点検結果や新技術の LCC 算定(劣化予測)への反映

年度コスト平準化

・「前倒し」,「先送り」年数の設定

・平準化手法の選択

・大型施設の存在と「初期破綻」の問題

・平準化の目標達成度

(※):本章における LCC とは,既設構造物群を対象とした維持管理コストのみに着目しており,

初期建設費,リスク,社会的損失等については取り扱っていない.

3.3.1 LCC算定における課題

(1) 計算の簡略化とLCCの精度と妥当性検証

LCC を算定する上では様々な計算パラメータが考えられる.表 3.3.2に橋梁構造物におけるパラ

メータの一例を示す.

表3.3.2 LCC算定における計算パラメータ(橋梁構造物)の例

パラメータ 具体例

地域特性(環境条件) 海岸部,山間部,平野部等

社会的重要度 1 次緊急路,2 次緊急路,指定なし等

橋種 鋼橋,コンクリート橋等

材料 鋼,コンクリート,ゴム等

対象部材 主桁,床版,支承,舗装,下部工等

劣化予測手法 理論式,点検結果の統計分析,遷移確率等

劣化曲線 耐久年,形状(1 次式,2 次式)等

対策工法 塗装塗替え,断面修復,床版打替え,支承取替え等

対策シナリオ 使い捨て型,対症療法型,危機管理型等

LCC 算定は将来予測を行うことであるため,算定した LCC の精度やその妥当性の検証が,常に

問題とされることになる.LCC の精度を高めるためには,これらの計算パラメータを可能な限り多

く取り入れ,各項目(例えば劣化予測モデルや対策工法の単価等)の設定値の妥当性をパラメータ

分析等の方法により検証し,より信頼性の高い予測を目指すことが不可欠であることは言うまでも

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ない(本章ではその一つとして,3.1 節にて劣化予測モデルを対象とした検討を行った.他に劣化

予測モデルの妥当性検証を行った例として,国総研の調査研究 1)がある).

しかし,計算パラメータを一つ増やすだけで計算量は乗法的に増大し,アウトプットは必然的に

膨大で複雑なものとなる.LCC 算定に基づく予測は,個々の橋梁の対策選定に用いるものではなく,

群全体を対象としているため,全体の LCC に影響の大きいパラメータに関しては精度を上げ,影響

の小さいものは適切に簡略化することで,システム全体をコンパクトで内容の解りやすいものとす

ることが,アカウンタビリティの向上という観点から重要である.

(2) 社会的割引率の取扱い

LCC を算定する上で,社会的割引率を考慮するか否かということがよく問われる.本章における

検討では,既設構造物群の維持管理コストのみに着目しているため社会的割引率は無視しており,

構造系の土木技術者が昨今取り扱うようになった LCC においては一般に考慮されていないことが

多い.一方で,費用便益分析等の会計分野では,割引率を考慮するのが当然であり,社会資本(土

木構造物)の予算を他の分野(福祉,医療,etc.)と同じ土俵で考えるうえでは,やはり割引率を考

慮すべきであるという指摘である.社会的割引率を考慮するか否かについては,現在でも見解が分

かれている.

社会的割引率を考慮する場合,日本では国交省の技術指針に示される 4%を用いることが原則と

なる.これは,現在の 100 円は,来年は 104 円分の価値があるという考え方であり,ごく単純に考

えた場合,18 年後に生じるコストは現在時点で考えるときは半分で計上できるということになる

(1.0418≒2).つまり,コストの大きな対策を後に回すシナリオほど有利になり,割引率を考慮する

ことにより,国の方策である長寿命化と逆のシナリオ(使い捨て型)が選択されやすくなるため,

地方自治体の取組む長寿命化修繕計画の大半では割引率を用いていないとも推測される 2).

(3) 点検結果や新技術のLCC算定(劣化予測)への反映

LCC 算定や年度コスト平準化を経て,長寿命化修繕計画等に基づきマネジメントシステムが運用

段階に入った後に,将来的には点検結果が蓄積され,点検結果を LCC 算定(劣化予測)へ再度フィ

ードバックさせることになる.また,より低コストで耐久年の長い新たな補修・補強工法が開発さ

れ,LCC へ反映させることも考えられる.

蓄積された点検結果に基づく劣化予測の修正については,管理者ごとに独自の方法が提案されて

いるが,点検結果の回帰分析により劣化曲線(直線)を修正する方法が大半のようである 3).新技

術の劣化予測モデル構築については新たな将来予測が必要となるが,データの蓄積がない後発の技

術であるため,実証実験や試験施工等による検証がある程度必要であり,LCC への反映には多少の

タイムラグが生じる.いずれにしても,運用の途中段階で LCC は修正され,当初の将来予測が結局

は合わないという根本的な問題に直面する.

先にも述べたとおり,維持管理に対する合理形成に用いる将来予測である LCC は,高い信頼性が

求められる一方で,LCC 算定や年度コスト平準化などを行う意義は,維持管理サイクルのどこが問

題点となっているのかを定量的に抽出することであるといえる.図 3.3.1に LCC 算出時に定量的に

把握できる問題点の一例を示す.これらのソフトウェア技術によりまずは全体方針を定め,運用の

中で重点的に対策すべき問題点を明らかにし,必要となるハードウェア技術の開発に生かすという

サイクルを構築することが(結果の正確さを議論するよりも)重要である.

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また,そのようなサイクルを効果的に実現するためには,点検データや補修・補強による効果等

に関するデータを,適切に蓄積・活用していくことが管理者には求められている.

図 3.3.1 LCC 算定時に定量的に把握できる問題点

3.3.2 年度コスト平準化における課題

(1) 「前倒し」「先送り」年数の設定

年度対策費の平準化は,対策を前倒し,あるいは先送りすることにより行う.この前倒し・先送

りがどの程度の年数まで許容されるのかということに関して一般的なルールは存在しておらず,平

準化を行うに際してその都度設定することが必要となる.特に対策時期を先送りする場合には健全

度が低下し,想定した対策工法とは異なる工法を適用することで対策費が増大する可能性がある点

に注意を要する(図 3.3.2に先送りにより対策費が増加した例を示す).

図 3.3.2 先送りによる対策費が増加した例

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本報告書では,3.1 節において,健全度や対策工法が変化しない範囲で前倒し・先送りを行う方

法を示している.この方法に基づくことで平準化の計算を簡略化することが可能である.

(2) 平準化手法の選択

平準化手法には数種類の方法が存在する.本研究 3.2 節においては,3 種類の平準化手法(山く

ずし方式,GA 方式,予防保全率方式)を取り上げて平準化を実施し,その結果を比較した.平準

化を実施するにあたって,どの手法に基づいて行うかは,これらの特質を理解した上で,適切な手

法を選択する必要がある.

例えば山くずし方式は,考え方が比較的シンプルで内容が理解しやすいが,一方で,平準化操作

に労力を要する手計算的な(技術者の勘や経験に基づく)部分が多くあるのが実情で,結果に若干

の差が生じる可能性がある.これに対し GA 方式は,遺伝的アルゴリズムに基づき平準化操作の大

部分を自動計算化することにより,山くずし方式の課題であった計算労力と再現性の問題に一つの

解決策を示した.しかし一方で,一般的にはまだなじみの薄い概念を用いていることと,計算がブ

ラックボックス化したことで,ライフサイクルマネジメントで重視されるべき,「説明できるもの」

という点では難点がある.

(3) 大型施設の存在と「初期破綻」の問題

平準化を阻むものとして,大型施設が存在する場合と,初期破綻が生じる場合があげられる(本

章では橋梁群を対象として取り扱ったため「長大橋」としているが,橋梁以外を対象とする場合に

は「大型施設」と読み替える).

前者は具体的に,対象とする構造物群の中に突出して規模の大きい大型施設がある場合に,その

大型施設の補修年度の対策費が突出しすぎて平準化が困難となることである.また後者は,平均健

全度の低い既設構造物群を対象とする場合に,供用期間の初期に対策が集中し,一定の前倒し・先

送りの範囲内では十分に平準化ができない事態(=「初期破綻」)が生じることである.

これらは,年平均予算額(=LCC の総額を供用年数で割った平均)を用いる場合にはほぼ避けら

れない問題であり,この場合の年度予算の設定方法として,以下のような対策が考えられる.

①供用期間初期への特別予算配分

②期間変動予算の採用

①は初期破綻期間(例えば図 3.1.4(c)の例では 初の 7 年間)に対して,年平均予算額+αの特別

予算を手当てする方法である.また②は,周期的に生じる対策費が多く必要な時期に予算を重点的

に配分させる方法で,3.2 節の平準化ケース(g3)はこの方法により予算設定を行っている(図 3.3.3

に期間変動予算のイメージを示す).

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図3.3.3 期間変動予算のイメージ4)

しかし,このような予算設定は,財政基盤の弱い管理者ではほとんどの場合認められないと考え

られる.つまり,対策を先送りする他になく,実情としては以下のような対応が必要と考えられる.

<a> 対策の複数年化

<b> 維持管理水準を下げた管理

<c> 対象施設の維持管理取りやめ,使用目的の変更

<a>の方法は,例えば橋梁群で長大橋(径間)の規模が著しく突出している場合に,その径間に

限って LCC 算定の 小構成要素をさらに細分化し,補修を複数年に分割するような特別措置である.

但し複数年化することで,足場等の仮設に非効率(組払しが何度も生じる,存置期間が増大するな

ど)が生じることや,(1)で述べた先送りによる健全度低下をいかに考慮するかが課題となる(図

3.3.4に複数年に予算分割した例を示す).

図3.3.4 複数年に予算分割した例

<b>は,致命的でないレベルまで維持管理水準(図 3.2.7 に示す平均健全率)が下がることを許

容し,維持管理コストの低減を図る方法である.許容レベルでの維持管理に必要となるコストを試

算により把握し,予算担当者や市民に対して定量的に提示することが重要である(図 3.3.5に維持

0

100

200

300

400

500

600

700

2007

2012

2017

2022

2027

2032

2037

2042

2047

2052

2057

2062

2067

2072

2077

2082

2087

2092

2097

2102

百万

凡例 赤系:主桁、緑系:床版、

青系:支承

総LCC(100年間) 16 ,862 百万円

年平均 168.62 百万円

凡例 赤系:主桁,緑系:床版,青系:支承

凡例 赤系:主桁,緑系:床版,青系:支承

平準化指標:29(百万円)

平準化指数:1.462

平準化指標:22(百万円)

平準化指数:1.392

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管理水準を下げたイメージを示す).

図3.3.5 維持管理水準を下げたイメージ

<c>は,施設の維持管理自体を放棄してしまう方法であるが,近年市町村等の自治体では実際に

見られる方法でもある.橋梁の例では,代替ルートがある重要度の低い橋梁を通行禁止にしたり,

道路橋を車両通行止めにして歩行者専用道として使用する例がみられる.つまり,維持管理だけで

なく解体撤去にもコストは生じるため,例えるならば橋梁の延命治療を止めて自然死の道を選ぶ方

法ともいえる.

(4) 平準化の目標達成度

実際の平準化操作においては,完全に平準化が達成されることはありえないため,ある程度まで

平準化された時点で終了することとなる.平準化の目標達成度は,平準化指数,平準化指標, 大

年度コスト比,あるいはそれらの変化率などにより設定する方法が考えられる.しかし,これらの

どの指標を用いて,どこまで小さくした場合にコスト平準化が達成されたと判断するのか,一般的

なルールが存在していないという問題がある.

3.1 節の検討では,ばらつきそのものを表す平準化指数と,年平均予算額を基準にとる平準化指

標や 大年度コスト比では,大小関係が一致しない場合があることを示しており,用いる指標によ

って平準化達成度が逆転するため,これらを適切に選択し,組み合わせて用いることが必要である.

どの程度までのばらつきや突発的な大コストが許容できるかは,道路管理者の財政力により左右

されるのが実情である.財政基盤の弱い管理者では変動に対する余裕が少ないので,より完全な平

準化に近づけることが求められるが,このような管理者の多くは中小自治体で構造物群の規模が小

さく,大規模な管理者に比較してもともと平準化が困難である.つまり,財政基盤が弱く規模の小

さい管理者ほど平準化のハードルが高く,大半は一定予算内ではやりくりできないと考えられる.

(3)の<a>~<c>でも示したように,管理者の実情に合わせた対策が必要となる.

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【参考文献】

1) 国土交通省 国土技術政策総合研究所:国土技術政策総合研究所資料 第 523 号 道路橋の

計画的管理に関する調査研究―橋梁マネジメントシステム(BMS)―,2009.3.

2) 古田均,保田敬一,川谷充郎,竹林幹雄:これだけは知っておきたい社会資本アセットマネ

ジメント,森北出版,pp.71-72,2010.07.

3) (社)建設コンサルタンツ協会近畿支部 アセットマネジメント研究委員会:アセットマネジメ

ントの普及を目指して,2007.

4) 保田敬一,中西卓也,藤井友行,服部篤史,坂野昌弘:小規模な既設橋梁群における年度コ

スト平準化に関する検討,鋼構造年次論文報告集,pp.689-696,Vol.16,2008.11.