388. 6,7,8,9,10,10- ヘキサクロロ -1,5,5a,6,9,9a ヘキサヒドロ...
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288.388.エンドスルファン
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388. 6,7,8,9,10,10-ヘキサクロロ -1,5,5a,6,9,9a-ヘキサヒドロ -6,9-メタノ
-2,4,3-ベンゾジオキサチエピン=3-オキシド
別 名:エンドスルファン、ベンゾエピン
PRTR 政令番号:1-388 (旧政令番号:1-291)
C A S 番 号:115-29-7
構 造 式:
・6,7,8,9,10,10-ヘキサクロロ-1,5,5a,6,9,9a-ヘキサヒドロ-6,9-メタノ-2,4,3-ベンゾジオキサチエピン=3-オ
キシドは、エンドスルファンとも呼ばれ、畑や果樹園で殺虫剤として使われていた農薬の有効成分(原
体)ですが、現在、農薬登録はされていません。
・2010 年度の PRTR データでは、エンドスルファンの環境中への排出はありませんでした。
■用途 6,7,8,9,10,10-ヘキサクロロ-1,5,5a,6,9,9a-ヘキサヒドロ-6,9-メタノ-2,4,3-ベンゾジオキサチエピ
ン=3-オキシド(以下「エンドスルファン」と表記します)は、常温では淡褐色の固体で、水に溶
けにくい物質です。エンドスルファンには α体と β体の異性体があり、PRTR 制度の対象となっ
ているのは異性体の混合体です。
エンドスルファンは、有機塩素系殺虫剤の有効成分(原体)として、畑や果樹園で使われてい
ましたが、2011 年 4 月に開催されたストックホルム条約(POPs 条約)の第 5 回条約締約国会議に
おいて、残留性有機物質であり、長距離を移動することによって重大な悪影響を及ぼすおそれが
あるとして、製造・使用等の禁止が決定されました。今後、条約の下で、国際的に協調して、そ
の製造・使用等を廃絶することになります。なお、わが国では 2010 年に農薬としての登録が失効
しています。
■排出・移動 2010 年度の PRTR データによれば、わが国ではエンドスルファンの環境中への排出はありませ
んでした。なお、廃棄物や下水道への事業所からの移動もありませんでした。
■環境中での動き 土壌へ排出されたエンドスルファンは、土壌粒子に適度に吸着し 1)、微生物によって 1)、硫酸エ
ンドスルファンやエンドスルファンジオールに分解されます 2)。実際の農地では、平均して 50 日
で半分の濃度になるとされています 1)。異性体によって土壌中での分解速度は異なり、β体のほ
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うがα体よりも分解に時間を要します 1)。分解物である硫酸エンドスルファンやエンドスルファ
ンジオールは、元の α体や β体より光分解を受けやすいとされています 2)。
土壌粒子の流出などによって、吸着したエンドスルファンが河川に入る可能性がありますが、
地下水まで移動することはないと考えられます 1)。水中では、中性と酸性条件下ではゆっくりと
加水分解され、アルカリ条件下では急速に分解されます 3)。河川水を使った実験では、二つの異
性体とも 4 週間で分解されたと報告されています 1)。
大気中に入った場合は、化学反応によって分解され、2 日で半分の濃度になると計算されてい
ます 3)。
■健康影響 毒 性 ラットにエンドスルファンを 2 年間、餌に混ぜて与えた実験では、雌雄ラットに体重の
減少、雌ラットに腎臓の肥大などが認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場
合の NOAEL(無毒性量)は、体重 1 kg 当たり 1 日 0.6 mg でした 4)。この実験結果に基づいて、
国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同残留農薬専門家会議(JMPR)はエンドス
ルファンの ADI(一日許容摂取量)を体重 1 kg 当たり 1 日 0.006 mg と算出しています 4)。
厚生労働省残留農薬安全性評価委員会では、エンドスルファンの ADI を体重 1 kg 当たり 1 日
0.0057 mg と算出しており 5)、これに基づいて水道水質管理目標値の指針値が設定されています 6)。
なお、労働安全衛生法による管理濃度、日本産業衛生学会による作業環境許容濃度は設定され
ていませんが、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)は 1 日 8 時間、週 40 時間の繰り返し労働にお
ける作業者の許容濃度を 0.1 mg/m3 と勧告しています。
体内への吸収と排出 人がエンドスルファンを体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水
によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、ほ乳類では、速やかに水溶性の物質になり、
胃腸へはほとんど吸収されないと考えられています 1)。ウサギの実験によると、6 時間から 10 日
で、血液中のエンドスルファンの濃度が半分になったと報告されています 1)。大部分のエンドス
ルファンは数日から数週間以内に体外へ排せつされると考えられています 1)。代謝物質である硫
酸エンドスルファンやエンドスルファンジオールなどは尿やふんに含まれて排せつされます 4) 。
影 響 厚生労働省が行っている「食品中の残留農薬の一日摂取量調査結果」によると、エンド
スルファンの平均 1 日摂取量は 0.00235~0.00346 mg と推計されています 7)。これは、体重 50 kg
換算の、わが国の ADI(体重 1 kg 当たり 1 日 0.0057 mg)の 0.82~1.21%に相当します。また、
水道水や河川などからは水道水質管理目標値を超える濃度のエンドスルファンは検出されておら
ず、食物や飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
■生態影響 エンドスルファンは、魚類に対する有害性からもPRTR制度の対象物質に選定されていますが、
現在のところ、わが国では水生生物に対する信頼できる PNEC(予測無影響濃度)は算定されて
いません。
なお、(独)農薬検査所(現(独)農林水産消費安全技術センター)ではエンドスルファンの魚
毒性を C 類に分類しています。
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性 状 淡褐色の固体 水に溶けにくい
生産量
(2010 年)
国内生産量:-
排出・移動量
(2010 年度
PRTR データ)
環境排出量:-トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) - 大気 - 事業所(届出外) - 公共用水域 - 非対象業種 - 土壌 -
移動体 - 埋立 - 家庭 - (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における
排出量:-トン
業種別構成比(上位 5 業種、%)
- -
- -
- -
- -
- -
事業所(届出)における
移動量:-トン
移動先の内訳(%) 廃棄物への移動 - 下水道への移動 -
業種別構成比(上位 5 業種、%) - - - - - - - - - -
PRTR 対象 選定理由
経口慢性毒性,作業環境許容濃度,生態毒性(魚類)
環境データ 水道水
・原水・浄水水質試験:水道水質管理目標値超過数;原水 0/858 地点,浄水 0/866 地点;
[2009 年度,日本水道協会]8) 9)
公共用水域
・要調査項目存在状況調査:検出数 0/30 地点(定量下限値 0.00005 mg/L);[2009 年
度,環境省]10)
・化学物質環境実態調査:検出数 0/39 検体(検出下限値 α体 0.000004~0.000025 mg/L,
β体 0.000014~0.00006 mg/L);[1982 年度,環境省]11)
地下水
・要調査項目存在状況調査:検出数 α体 0/82 地点, β体 0/82 地点(検出下限値 0.0001
mg/L);[2004 年度,環境省]12)
底質
・化学物質環境実態調査:検出数 0/39 検体(検出下限値 α体 0.0002~0.001 mg/kg,β体 0.0007~0.003 mg/kg);[1982 年度,環境省]11)
適用法令等 ・水道法:水道水質管理目標値 0.01 mg/L 以下(農薬類;エンドスルファン)
・食品衛生法:残留農薬基準 例えば,米(玄米)0.1 ppm,茶 30 ppm(α-エンドス
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ルファン及び β-エンドスルファンの和)
・農薬取締法:水質汚濁性農薬
注)排出・移動量の項目中、「-」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
■ 引用・参考文献 1)EXTOXNET「Endosulfan」
http://extoxnet.orst.edu/pips/endosulf.htm 2)欧州食品安全機関「Scientific Opinions:Opinion of the Scientific Panel on contaminants in the food chain
[CONTAM] related to Endosulfan as undesirable substance in animal feed」 http://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/234.htm
3)環境省「水生生物保全水質検討会報告:水生生物の保全に係る水質目標について」参考資料 http://www.env.go.jp/water/report/h14-03/10f.pdf
4)国際化学物質安全性計画「Monographs of toxicological evaluations: 1998 evaluations」 http://www.inchem.org/documents/jmpr/jmpmono/v098pr08.htm
5)厚生労働省「残留農薬安全性評価委員会議事要旨(平成 10 年 9 月 17 日開催)」 http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9809/s0917-1_13.html
6)厚生労働省厚生労働省「水道基準の見直しにおける検討概要・農薬個別票」No.69 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/dl/nouyaku.pdf
7)厚生労働省「平成 16 年度食品中の残留農薬の一日摂取量調査結果」 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu2/dl/081027-1a.pdf
8)(社)日本水道協会「水道水質データベース」平成 21 年度(2009 年)水質分布表・原水
http://www.jwwa.or.jp/mizu/pdf/2009-b-01gen-02avg.pdf 9)(社)日本水道協会「水道水質データベース」平成 21 年度(2009 年)水質分布表・浄水(給水栓水等)
http://www.jwwa.or.jp/mizu/pdf/2009-b-04Jyo-02avg.pdf 10)環境省「要調査項目存在状況調査結果(平成 21 年度)」
http://www.env.go.jp/water/chosa/h21.pdf 11)環境省「平成 22 年度(2010 年度版)化学物質と環境」(化学物質環境実態調査)化学物質環境調査結果
概要一覧表 http://www.env.go.jp/chemi/kurohon/2010/shosai/4_2.xls
12)環境省「要調査項目存在状況調査結果(平成 16 年度)」
http://www.env.go.jp/water/chosa/h16.pdf
■ 用途に関する参考文献 ・環境省「POPs 条約第 5 回締約国会議(COP5)の結果について」
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=13744